説明

可燃性ガス検出装置及び可燃性ガス検出方法

【課題】被検出雰囲気の熱伝導率が当該被検出雰囲気内の湿度に基づき変動することを考慮して、可燃性ガスを精度よく検出するようにした可燃性ガス検出装置及び可燃性ガス検出方法を提供する。
【解決手段】両定温度制御回路230、240は、測定空間内に晒される両発熱抵抗体211、221を互いに異なる各一定温度に通電制御する。測温抵抗体390は上記測定空間内の環境温度を温度電圧として発生する。両演算増幅回路250、260は、両ブリッジ回路210、220からの両出力を両差動増幅電位差に増幅する。マイクロコンピュータ270は、上記両差動増幅電位差の比を電圧比として算出し、上記測定空間内の湿度、電圧比及び温度電圧の間の関係に基づき湿度を算出し、上記測定空間内の可燃性ガスの濃度、演算増幅回路260の差動増幅電位差、湿度及び温度電圧の間の関係に基づき被検出雰囲気内の可燃性ガスの濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出雰囲気内の可燃性ガスを検出する可燃性ガス検出装置及び可燃性ガス検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の可燃性ガスの検出装置においては、下記非特許文献1にて開示された燃料電池自動車用水素ガスセンサがある。この水素ガスセンサは、互いに異なる温度に制御される両サーミスタの各検出値の差分から湿度の影響度合いを求め、湿度成分を補正して水素ガスを検出するようになっている。
【非特許文献1】Masaaki Tada、他3名、「Hydrogen Sensor for Fuel Cell Vehicles(燃料電池自動車用水素ガスセンサ)」、SAE-2003-01-1137、p7-p8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記水素ガスセンサによる検出にあたり、被検出雰囲気中の水素ガスの濃度が同一の状態であっても当該被検出雰囲気中の湿度が変動すると、被検出雰囲気全体の熱伝導率が変動して上述の水素ガスの濃度を変動させてしまうという不具合を招く。
【0004】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するため、被検出雰囲気内の可燃性ガスの濃度が当該被検出雰囲気内の湿度に基づき変動することを考慮して、可燃性ガスを精度よく検出するようにした可燃性ガス検出装置及び可燃性ガス検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の解決にあたり、本発明に係る可燃性ガス検出装置は、請求項1の記載によれば、被検出雰囲気内に晒される複数の発熱抵抗体(211、221、330)を備える。
【0006】
当該可燃性ガス検出装置において、
複数の発熱抵抗体のうち少なくとも2つの発熱抵抗体(211、221、330)の各抵抗値を互いに異なる各一定温度に対応する各値に維持するように当該2つの発熱抵抗体を通電により制御する定温度制御手段(230、240)と、
上記被検出雰囲気内の環境温度(T)を検出する温度検出手段(390)と、
定温度制御手段による制御状態にて生ずる上記2つの発熱抵抗体の各端子電圧(VH、VL)の比を電圧比(RV)として決定する電圧比決定手段(421)と、
上記被検出雰囲気内の湿度(HUM)、上記電圧比及び上記環境温度の間の関係を表す湿度−電圧比−環境温度特性から上記電圧比及び上記環境温度に基づき上記湿度を決定する湿度決定手段(422、423、424)と、
上記被検出雰囲気内の可燃性ガスの濃度(D)、上記2つの発熱抵抗体のうち高温側発熱抵抗体(221)の端子電圧(VH)、上記湿度及び上記環境温度の間の関係を表す濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性から上記高温側発熱抵抗体の端子電圧、上記湿度及び上記環境温度に基づき上記可燃性ガスの濃度を算出する濃度算出手段(450、460、470、480)とを備えて、
この濃度算出手段の算出濃度に基づき上記可燃性ガスを検出するようにしたことを特徴とする。
【0007】
これによれば、上述のように通電により互いに異なる各一定温度に制御された状態にて生ずる2つの発熱抵抗体の各端子電圧の比が電圧比として決定され、被検出雰囲気内の湿度が、上記湿度−電圧比−環境温度特性から上記電圧比及び上記環境温度に基づき決定される。
【0008】
そして、上記被検出雰囲気内の上記可燃性ガスの濃度が上記濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性から上記高温側発熱抵抗体の端子電圧、上記湿度及び上記環境温度に基づき決定されて、この算出濃度に基づき可燃性ガスが検出される。
【0009】
これにより、上記被検出雰囲気の熱伝導率が当該被検出雰囲気内の湿度に応じて変動しても、この変動をなくするように処理して可燃性ガスを検出することとなる。
【0010】
ここで、上述のように、湿度−電圧比−環境温度特性に基づき湿度を決定した後に、この湿度を用いて、濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性に基づき可燃性ガスの濃度を決定するようにしたので、上述した可燃性ガスの検出精度を高く確保できる。
【0011】
また、本発明に係る可燃性ガス検出装置は、請求項2の記載によれば、
複数の凹部(311)を間隔をおいて裏面側から形成してなる半導体基板(310)と、この半導体基板の表面に形成される絶縁層(320)と、この絶縁層の表面に上記各凹部に対応して形成される複数の発熱抵抗体(211、221、330)と、これら発熱抵抗体を覆うように上記絶縁層の表面に形成される保護層(350、360)とを有して、被検出雰囲気内に配置される検出素子(300)を備える。
【0012】
当該可燃性ガス検出装置において、
複数の発熱抵抗体のうち少なくとも2つの発熱抵抗体(211、221、330)の各抵抗値を互いに異なる各一定温度に対応する各値に維持するように当該2つの発熱抵抗体を通電により制御する定温度制御手段(230、240)と、
上記被検出雰囲気内の環境温度(T)を検出する温度検出手段(390)と、
定温度制御手段による制御状態にて生ずる上記2つの発熱抵抗体の各端子電圧(VH、VL)の比を電圧比(RV)として決定する電圧比決定手段(421)と、
上記被検出雰囲気内の湿度(HUM)、上記電圧比及び上記環境温度の間の関係を表す湿度−電圧比−環境温度特性から上記電圧比及び上記環境温度に基づき上記湿度を決定する湿度決定手段(422、423、424)と、
上記被検出雰囲気内の可燃性ガスの濃度(D)、上記2つの発熱抵抗体のうち高温側発熱抵抗体(221)の端子電圧(VH)、上記湿度及び上記環境温度の間の関係を表す濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性から上記高温側発熱抵抗体の端子電圧、上記湿度及び上記環境温度に基づき上記可燃性ガスの濃度を算出する濃度算出手段(450、460、470、480)とを備えて、
この濃度算出手段の算出濃度に基づき上記可燃性ガスを検出するようにしたことを特徴とする。
【0013】
これによれば、請求項1に記載の発明とは異なり、上記構成の検出素子を有する可燃性ガス検出装置においても、当該請求項1に記載の発明と同様の作用効果を達成し得る。
【0014】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1または2に記載の可燃性ガス検出装置において、
上記可燃性ガスの濃度及び湿度が共に零であるときの上記2つの発熱抵抗体の各端子電圧の比である電圧比初期値(RV0)を従属変数とし上記環境温度を独立変数とする第1の関数特性と、
上記湿度を従属変数とし上記電圧比と上記電圧比初期値との差を表す電圧比差(ΔRV)を独立変数とする第2の関数特性とを
上記湿度−電圧比−環境温度特性として、記憶する記憶手段(270)を備え、
上記湿度決定手段は、
上記第1の関数特性から上記環境温度に基づき上記電圧比初期値を決定する電圧比初期値決定手段(422)と、
上記電圧比及び上記電圧比初期値に基づき上記電圧比差を算出する電圧比差算出手段(423)と、
上記第2の関数特性から上記電圧比差に基づき上記湿度を算出する湿度算出手段(424)とを有して、
当該湿度算出手段により算出された湿度を、湿度決定手段により決定された湿度とするようにしたことを特徴とする。
【0015】
このように、第1及び第2の関数特性を記憶手段に記憶しておき、上記環境温度を用いて上記第1の関数特性から上記電圧比初期値を決定し、このように決定した電圧比初期値及び上記電圧比に基づき上記電圧比差を算出し、この電圧比差を用いて上記第2の関数特性から上記湿度を算出し、この算出湿度を湿度決定手段により決定された湿度とするようにした。
【0016】
従って、電圧比初期値及び湿度が、各対応の関数特性を利用することで得られるので、最終的に得られる湿度の算出精度がより一層良好になる。その結果、請求項1または2に記載の発明の作用効果がより一層向上し得る。
【0017】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項3に記載の可燃性ガス検出装置において、
記憶手段は、さらに、
上記環境温度を独立変数とし、上記可燃性ガスの濃度及び湿度が共に零であるときの高温側発熱抵抗体の端子電圧である第1端子電圧値(VH0)を従属変数とする第3の関数特性と、
上記湿度を独立変数とし、上記第1端子電圧値を切片とし、かつ上記被検出雰囲気内の湿度が零であるときの高温側発熱抵抗体の端子電圧である第2端子電圧値(VH1)を従属変数とする第4の関数特性と、
上記環境温度を独立変数とし上記可燃性ガスに対するガス感度(G)を従属変数とする第5の関数特性とを
上記濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性として、記憶してなり、
濃度算出手段は、
上記第3の関数特性から上記環境温度に基づき上記第1端子電圧値を決定する第1端子電圧値決定手段(450)と、
上記第4の関数特性から上記湿度及び上記第1端子電圧値に基づき上記第2端子電圧値を決定する第2端子電圧値決定手段(460)と、
上記第5の関数特性から上記環境温度に基づき上記ガス感度を決定するガス感度決定手段(470)と、
高温側発熱抵抗体の上記端子電圧と上記第2端子電圧値との差を上記ガス感度で除算する除算手段(480)とを備えて、
この除算手段による除算結果を上記可燃性ガスの濃度とするようにしたことを特徴とする。
【0018】
このように、第3〜第5の関数特性をも上記記憶手段に記憶しておき、上記第3の関数特性から上記環境温度に基づき上記第1端子電圧値を決定し、上記第4の関数特性から上記湿度及び上記第1端子電圧値に基づき上記第2端子電圧値を決定し、上記第5の関数特性から上記環境温度に基づき上記ガス感度を決定し、かつ高温側発熱抵抗体の上記端子電圧と上記第2端子電圧値との差を上記ガス感度で除算して、この除算結果を上記可燃性ガスの濃度とするようにした。
【0019】
従って、第1端子電圧値、第2端子電圧値及びガス感度が上述の各対応の関数特性に基づき決定されるので、可燃性ガスの濃度がより一層精度よく得られる。その結果、請求項3に記載の発明の作用効果がより一層向上し得る。
【0020】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項1〜4のいずれか1つに記載の可燃性ガス検出装置において、
上記被検出雰囲気内の飽和水蒸気濃度と上記環境温度との間の関係を表す特性から上記環境温度に基づき上記飽和水蒸気濃度を決定する飽和水蒸気濃度決定手段(425)と、
湿度決定手段により決定された湿度が上記飽和水蒸気濃度以上のとき当該決定湿度を上記飽和水蒸気濃度に補正し、湿度決定手段により決定された湿度が零以下のときには当該決定湿度を零に補正する湿度補正手段(430、431、440、441)とを備えることを特徴とする。
【0021】
このように、湿度が、上述のように決定される飽和水蒸気濃度又は零に補正されるので、第4の関数特性から算出される第2端子電圧値に生ずる誤差が最小限に抑制され得る。その結果、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明と同様の作用効果が達成され得る。
【0022】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項1〜5のいずれか1つに記載の可燃ガス検出装置において、
上記環境温度が所定の温度以下のとき、湿度決定手段により決定された湿度を、上記可燃性ガスの濃度の検出精度の悪化を抑制し得るように予め選定した所定の値に補正する他の湿度補正手段を備えることを特徴とする。
【0023】
このように、湿度が、上述のように可燃性ガスの濃度の検出精度の悪化を抑制し得るように予め選定した所定の値に補正されるので、環境温度が上記所定の温度以下のときでも、可燃性ガスの濃度の検出精度の悪化を抑制しつつ、請求項1〜5のいずれか1つに記載の発明と同様の作用効果を達成し得る。
【0024】
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項1〜6のいずれか1つに記載の可燃性ガス検出装置において、上記2つの発熱抵抗体の制御温度の差は、50(℃)以上であることを特徴とする。
【0025】
これにより、湿度の決定精度をより一層良好にすることができ、その結果、請求項1〜6のいずれか1つに記載の発明の作用効果をより一層向上させ得る。
【0026】
また、本発明は、請求項8の記載によれば、請求項7に記載の可燃性ガス検出装置において、上記2つの発熱抵抗体の制御温度は、150(℃)以上500(℃)以下であることを特徴とする。
【0027】
これにより、上記2つの発熱抵抗体の温度が、大気圧の雰囲気における水の沸点を確実に上回る150(℃)以上の温度に制御され得るとともに、上記被検出雰囲気内の可燃性ガスの爆発温度を下回る500(℃)以下の温度に制御され得る。従って、上記被検出雰囲気が結露を含むような多湿環境においても当該ガス検出装置による検出を可能とし得る。
【0028】
また、本発明に係る可燃性ガス検出方法では、請求項9の記載によれば、
被検出雰囲気内に晒される複数の発熱抵抗体のうち少なくとも2つの発熱抵抗体(211、221、330)の各抵抗値を互いに異なる各一定温度に対応する各値に維持するように上記2つの発熱抵抗体を通電により制御し、
上記被検出雰囲気内の上記制御状態において生ずる上記2つの発熱抵抗体の各端子電圧(VH、VL)の比を電圧比(RV)として決定し、
上記被検出雰囲気内の湿度(HUM)、上記電圧比及び上記被検出雰囲気内の環境温度(T)の間の関係を表す湿度−電圧比−環境温度特性から上記電圧比及び上記環境温度に基づき上記湿度を決定し、
上記被検出雰囲気内の可燃性ガスの濃度(D)、上記2つの発熱抵抗体のうち高温側発熱抵抗体(221)の端子電圧(VH)、上記湿度及び上記環境温度の間の関係を表す濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性から高温側発熱抵抗体の上記端子電圧、上記湿度及び上記環境温度に基づき上記可燃性ガスの濃度を算出することで、当該可燃性ガスを検出する。
【0029】
これによれば、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を達成し得る可燃性ガス検出方法の提供が可能となる。
【0030】
また、本発明は、請求項10の記載によれば、請求項9に記載の可燃性ガスの検出方法において、
上記可燃性ガスの濃度及び湿度が共に零であるときの上記2つの発熱抵抗体の各端子電圧の比である電圧比初期値(RV0)を従属変数とし上記環境温度を独立変数とする第1の関数特性と、
上記湿度を従属変数とし上記電圧比と上記電圧比初期値との差を表す電圧比差(ΔRV)を独立変数とする第2の関数特性とを
上記湿度−電圧比−環境温度特性として、設定し、
かつ、上記環境温度を独立変数とし、上記可燃性ガスの濃度及び湿度が共に零であるときの高温側発熱抵抗体の端子電圧である第1端子電圧値(VH0)を従属変数とする第3の関数特性と、
上記湿度を独立変数とし、上記第1端子電圧値を切片とし、かつ上記被検出雰囲気内の湿度が零であるときの高温側発熱抵抗体の端子電圧である第2端子電圧値(VH1)を従属変数とする第4の関数特性と、
上記環境温度を独立変数とし上記可燃性ガスに対するガス感度(G)を従属変数とする第5の関数特性とを
上記濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性として、設定しておき、
上記第1〜第5の関数特性に基づき上記可燃性ガスの濃度を決定する。
【0031】
このように、第1及び第2の関数を上記湿度−電圧比−環境温度特性として設定し、第3〜第5の関数を上記濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性として設定しておき、上記第1〜第5の関数特性に基づき上記可燃性ガスの濃度を決定することで、請求項9に記載の発明の作用効果をより一層具体的に達成し得る可燃性ガス検出方法の提供が可能となる。
【0032】
また、本発明は、請求項11の記載によれば、請求項8または9に記載の可燃性ガスの検出方法において、
上記被検出雰囲気内の飽和水蒸気濃度と上記環境温度との間の関係を表す特性から上記環境温度に基づき上記飽和水蒸気濃度を決定し、上記湿度−電圧比−環境温度特性に基づき決定された湿度が上記飽和水蒸気濃度以上のとき上記決定湿度を上記飽和水蒸気濃度に補正し、上記湿度−電圧比−環境温度特性に基づき決定された湿度が零以下のときには当該決定湿度を零に補正することを特徴とする。
【0033】
これにより、請求項8または9に記載の発明の作用効果の達成にあたり、請求項5に記載の発明と同様の作用効果を達成し得る可燃性ガスの検出方法の提供が可能となる。
【0034】
また、本発明は、請求項12の記載によれば、請求項9〜11のいずれか1つに記載の可燃性ガス検出方法において、上記環境温度が所定の温度以下のときに、上記湿度−電圧比−環境温度特性に基づき決定された湿度を、上記可燃性ガスの濃度の検出精度の悪化を抑制し得るように予め選定した所定の値に設定するようにしたことを特徴とする。
【0035】
これにより、上記環境温度が上記所定の温度以下のときには、湿度を上記所定の値に設定することで、上記可燃性ガスの濃度の検出精度の悪化が抑制され得る。
【0036】
また、本発明は、請求項13の記載によれば、請求項10〜12のいずれか1つに記載の可燃性ガス検出方法において、
上記被検出雰囲気内の圧力を検出し、
上記圧力の変動の影響を受けないように定めた上記第1〜第5の関数特性の各係数と上記圧力との間の関係を表す特性から前記圧力に基づき上記各関数特性をその各係数において補正し、
この補正後の上記第1及び第2の関数特性に基づき上記湿度を決定し、
この決定湿度及び上記補正後の上記第3〜第5の関数特性に基づき上記可燃性ガスの濃度を決定するようにしたことを特徴とする。
【0037】
これにより、上記被検出雰囲気内に圧力の変動があっても、当該圧力の変動の影響を受けないような値に湿度が精度よく決定される。従って、このようにして決定された湿度及び上記補正後の上記第3〜第5の関数特性に基づき上記可燃性ガスの濃度を決定することで、可燃性ガスの濃度がより一層精度よく決定される。その結果、上述のように圧力変動があっても、請求項10〜12のいずれか1つに記載の発明の作用効果がより一層向上され得る。
【0038】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1及び図2は、本発明に係る可燃性ガス検出装置の第1実施形態を示しており、この可燃性ガス検出装置は、装置ユニット100(図1参照)と、制御回路200(図2参照)とにより構成されている。なお、当該可燃性ガス検出装置は、例えば、燃料電池システムにおいてその燃料電池から漏れて被検出雰囲気内に流れる水素ガスの濃度を検出するのに用いられる。
【0040】
装置ユニット100は、上記被検出雰囲気内に配設されるもので、この装置ユニット100は、図1にて示すごとく、ケーシング110、検出構造体120及びコネクタ130を備えている。ケーシング110は、ケーシング本体111及び蓋112を有しており、ケーシング本体111は、その開口部にて、蓋112でもって閉塞されている。ここで、ケーシング本体111は、ガス導入筒113を備えており、このガス導入筒113は、ケーシング本体111の底壁中央から外方へ円筒状に延出し、ガス導入口部114にて、外方に開口している。
【0041】
検出構造体120は、図1にて示すごとく、ケーシング本体111の内側からガス導入筒113内に同軸的に嵌装されている。当該検出構造体120は、図1及び図3にて示すごとく、円筒部材121を備えており、この円筒部材121は、その底壁側小径部122にて、図1にて示すごとく、ガス導入筒113の小径部内に同軸的に嵌装されている。なお、ガス導入筒113の小径部の内周面と円筒部材121の小径部122との間には、環状の空所が形成されている。
【0042】
当該円筒部材121は、その環状底壁123(図3参照)にて、ガス導入口部114(図1参照)にその内面側から着座しており、円筒部材121の環状底壁123は、その中空部にて、ガス導入口部114を通り外方に開口している。
【0043】
また、円筒部材121は、その基端側大径部124にて、ガス導入筒113の基端側に形成した大径穴部に環状空所を介し嵌装されており、当該円筒部材121の基端側大径部124から径方向に外方に延出する環状フランジ125は、図1にて示すごとく、Oリング115を介し、ケーシング本体111の底壁の内面上に複数のねじ(図示しない)の締着でもって固定されている。但し、Oリング115は、ケーシング本体111の底壁にその内面から形成した環状凹所116内に着座しており、当該Oリング115は、環状フランジ125とケーシング本体111の底壁との間に挟持されて、ケーシング本体111の内部をガス導入筒113の内部から気密的にシールしている。
【0044】
また、検出構造体120は、円筒部材121内に設けた浸水防止用撥水フィルタ126及び検出構造体120の外部への逸火防止用の2枚の金網127を備えている。撥水フィルタ126は、その外周部にて、円筒部材121の環状底壁123と環板状スペーサ128との間に挟持されており、この撥水フィルタ126は、ガス導入口部114及び環状底壁123の中空部から円筒部材121の内部への水滴の浸入や粉塵の侵入を防止する。
【0045】
2枚の金網127は、その外周部にて、環板状スペーサ128と円筒状スペーサ140の環状底壁141との間に挟持されており、これら金網127は、次のような役割を果たす。即ち、後述する発熱抵抗体330(図4参照)への通電に伴い当該発熱抵抗体に電流が流れてこの発熱抵抗体330の温度が水素ガスの下限爆発温度を上回ることで、水素ガスが、円筒部材121内、例えば円筒状スペーサ140内で発火した場合に、2枚の金網127は、円筒部材121の内部から外方への逸火を防止する。
【0046】
なお、スペーサ140は、円筒部材121の底壁側小径部122に同軸的に圧入により嵌装されて、その環状底壁141にて、2枚の金網127、環板状スペーサ128及び撥水フィルタ126を、円筒部材121の環状底壁123の内面上に固定している。
【0047】
コネクタ130は、ケーシング本体111の図1にて図示右側壁から一体的に延出されており、このコネクタ130は、その複数のコネクタピン131(図1では、一コネクタピンのみを示す)の内端部にて、ケーシング本体111の右側壁を通り、配線板150の配線パターン部(図示しない)に電気的に接続されている。なお、当該コネクタ130は、ケーシング本体111と別体で形成されていてもよい。
【0048】
当該装置ユニット100は、図1及び図3にて示すごとく、検出素子300、取り付け板170及び敷き板180を備えており、検出素子300は、取り付け板170及び敷き板180と共に、円筒部材121内に支持されている。
【0049】
取り付け板170は、図3にて示すごとく、その環状フランジ部171にて、円筒部材121の環状フランジ125の内周面に形成した環状凹所129内にて、Oリング172を介し気密的に嵌装固定されている。
【0050】
敷き板180は、熱伝導率の小さい材料でもって形成されており、この敷き板180は、取り付け板170の外面(スペーサ140側の面)の中央部に接着剤でもって接着されている。検出素子300は、敷き板180の外面(スペーサ140側の面)に接着剤で接着されて、スペーサ140内に露呈している。
【0051】
また、当該装置ユニット100は、図1及び図3にて示すごとく、複数本のピン状ターミナル181及びヒータ190を備えており、各ターミナル181は、取り付け板170に挿通されている(図1参照)。なお、図1及び図3では、便宜上、複数のターミナル181のうち2本のターミナルのみが示されている。
【0052】
ヒータ190は、図1及び図3にて示すごとく、円筒部材121の環状フランジ125に上方から装着されており、このヒータ190は、両ターミナル181(図3にて示す両ターミナル)を介する給電により、環状フランジ125、取り付け板170及び敷き板180を介し検出素子300を加熱する。
【0053】
これにより、円筒部材121の内部(以下、測定空間ともいう)が暖められて、検出素子300に付着する結露や不純物を乾燥消失させる。その結果、当該ガス検出装置(主として、装置ユニット100)は、結露し易い多湿環境においても、良好に作動し得る。なお、検出素子300は、後述する各電極膜370(図4参照)にて、複数本のターミナル181のうち図示しない各ターミナルの先端部にワイヤボンディングにより電気的に接続されている。
【0054】
配線板150は、図1にて示すごとく、ケーシング110内に設けられており、この配線板150は、その外周部にて、ケーシング本体111の開口端部に支持されている。なお、各ターミナル181は、その基端部にて、配線板150に嵌着されて、当該配線板150の上記配線パターン部に電気的に接続されている。
【0055】
制御回路200は、図1にて示すごとく、ケーシング110内にて配線板150の裏面(図1にて図示下側)に実装されており、この制御回路200は、当該配線板150の上記配線パターン部を介し、コネクタ130のコネクタピン131及び各ターミナル181に電気的に接続されている。
【0056】
次に、上述した検出素子300の構成につき図4及び図5を参照して説明する。検出素子300はマイクロマシニング技術を用いて製造されているもので、当該検出素子300は、図4にて示すごとく、シリコン製半導体基板310及び上下両側絶縁層320を備えている。
【0057】
上側絶縁層320は、半導体基板310の表面に形成されており、一方、下側絶縁層320は、半導体基板310の裏面に形成されている。なお、上側絶縁層320は、半導体基板310の表面に形成した酸化シリコン膜321と、この酸化シリコン膜321上に積層した窒化シリコン膜322でもって構成されている。また、下側絶縁層320は、半導体基板310の裏面に形成した酸化シリコン膜321と、この酸化シリコン膜321上に積層した窒化シリコン膜322でもって構成されている。
【0058】
ここで、半導体基板310には、図4にて図示左右両側凹部311が、上側絶縁層320の裏面側において、間隔をおいて形成されている。また、下側絶縁層320は、各凹部311に対応する部位にて、それぞれ除去されて、各凹部311の開口部として形成されている。
【0059】
これにより、上側絶縁層320は、その裏面のうち各凹部311に対する各対応裏面部にて、当該各凹部311の開口部を通して外方に露呈している。なお、半導体基板310は、各凹部311以外の部位にて基板部312を構成する。
【0060】
また、検出素子300は、図4及び図5にて示すごとく、左右両側発熱抵抗体330並びに左側、中央側及び右側の各配線膜340を備えている。左側発熱抵抗体330は、上側絶縁層320の表面のうち左側凹部311に対応する部位上に渦巻き状に形成されており、一方、右側発熱抵抗体330は、上側絶縁層320の表面のうち右側凹部311に対応する部位上に渦巻き状に形成されている。本第1実施形態において、両発熱抵抗体330は、後述する各配線膜340と共に、白金抵抗材料でもって形成されている。
【0061】
左側配線膜340は、図4にて示すごとく、上側絶縁層320の表面の左側部上において、半導体基板310の基板部312に対応して位置し、図5にて示すごとく、左側発熱抵抗体330の一端と一体となるように形成されている。
【0062】
中央側配線膜340は、上側絶縁層320の表面の中央部上にて、半導体基板310の基板部312に対応して位置し、左側発熱抵抗体330の他端及び右側発熱抵抗体330の一端と一体となるように形成されている。
【0063】
また、右側配線膜340は、上側絶縁層320の表面の右側部上にて、半導体基板310の基板部312に対応して位置し、右側発熱抵抗体330の他端と一体となるように形成されている。
【0064】
また、当該検出素子300は、図4及び図5にて示すごとく、内側保護層350及び外側保護層360並びに左側、中央側及び右側の各電極膜370を備えており、内側保護層350は、各配線膜340及び各発熱抵抗体330を覆うように、上側絶縁層320の表面上に形成されている。また、外側保護層360は、内側保護層350上に積層状に形成されている。
【0065】
ここで、内側保護層350及び外側保護層360には、左側、中央側及び右側の各コンタクトホール361が、内側保護層350及び外側保護層360のうち左側、中央側及び右側の各配線膜340に対応する各部位に形成されている。
【0066】
これにより、左側、中央側及び右側の各配線膜340は、その表面にて、左側、中央側及び右側の各コンタクトホール361を通り外方に露呈している。
【0067】
左側、中央側及び右側の各電極膜370は、左側、中央側及び右側の各コンタクトホール361を通して左側、中央側及び右側の各配線膜340上に形成されている。
【0068】
本第1実施形態では、検出素子300において、左側発熱抵抗体330、左側及び中央側の各配線膜340並びに左側及び中央側の各電極膜370が、主として、左側熱伝導式ガス検出部380を構成し、また、右側発熱抵抗体330、中央側及び右側の各配線膜340並びに中央側及び右側の各電極膜370が、主として、右側熱伝導式ガス検出部380を構成する(図5参照)。
【0069】
また、当該検出素子300は、左右両側発熱抵抗体330にて、内側保護層350及び外側保護層360を介し、円筒部材121(図1参照)の上記測定空間内に晒されており、左右両側発熱抵抗体330の各端子電圧は、上記測定空間内の水素ガスの濃度及び水分の量の変動に基づく熱伝導の変化に伴い、変動する。
【0070】
また、当該検出素子300は、図5にて示すごとく、測温抵抗体390を備えており、この測温抵抗体390は、白金(Pt)を含む測温抵抗材料でもって、図5にて図示上側において、上側絶縁層320と内側保護層350との間に薄膜抵抗体として形成されている。
【0071】
これにより、当該測温抵抗体390は、円筒部材121の上記測定空間内の温度(以下、環境温度Tともいう)を検出し、温度電圧VTを発生する。また、上述のように測温抵抗体390が検出素子300に設けられているので、当該測温抵抗体390を、検出素子300とは別途設けずに済む。従って、上記測定空間を小さくし得る。なお、測温抵抗体390の温度抵抗係数は両発熱抵抗体330の各温度抵抗係数とほぼ同一となっている。
【0072】
本第1実施形態において、測温抵抗体390の温度電圧VTと環境温度Tとの間の関係を調べたところ、図6にて例示するようなグラフが得られた。当該グラフによれば、温度電圧VTと環境温度Tとの間には、次の2次関数からなる式(1)で特定される関係(2次関数特性)が近似的に成立することが分かった。
【0073】
VT=VT(T)=A0・T2+B0・T+C0・・・・(1)
この式(1)によれば、上記被検出雰囲気内の温度である環境温度Tは、温度電圧VTでもって特定されることが分かる。なお、式(1)において、A0は正の係数であり、B0は負の係数であり、C0は、正の定数である。
【0074】
また、各電極膜391は、内側保護層350及び外側保護層360に形成した各コンタクトホール(図示しない)内にて測温抵抗体390の左右両端部上に形成されている。なお、この測温抵抗体390は、両電極膜391を介しターミナル(図示しない)を介し配線板150の上記配線パターン部に接続されている。
【0075】
次に、上述した制御回路200の構成について図2を参照して説明する。当該制御回路200は、両ブリッジ回路210、220を備えており、ブリッジ回路210は、ガス検出用発熱抵抗体211及び各固定抵抗212、213、214でもって、ホイートストーンブリッジ回路を形成するように構成されている。
【0076】
このブリッジ回路210において、ガス検出用発熱抵抗体211は、検出素子300の左側熱伝導式ガス検出部380の構成部材である左側発熱抵抗体330でもって構成されている。ここで、発熱抵抗体211は、その一端にて、接地されており、当該発熱抵抗体211の他端は、固定抵抗212、固定抵抗213及び固定抵抗214を介し接地されている。
【0077】
しかして、当該ブリッジ回路210は、発熱抵抗体211及び固定抵抗214の共通端子(一側電源端子)及び両固定抵抗212、213の共通端子(他側電源端子)の間に、定温度制御回路230から制御電圧を受けて作動する。
【0078】
そして、この作動のもと、当該ブリッジ回路210は、ガス検出用発熱抵抗体211の抵抗値の変化に基づき当該発熱抵抗体211及び固定抵抗212の共通端子(ブリッジ回路210の一側出力端子)と両固定抵抗213、214の共通端子(ブリッジ回路210の他側出力端子)との間に生ずる電位差(水素ガスの濃度を表す)を出力する。
【0079】
定温度制御回路230は、演算増幅回路250の出力(後述する)に応じて、ガス検出用発熱抵抗体211の抵抗値を一定温度(例えば、300(℃))に対応する値に維持するように、内蔵直流電源(図示しない)の出力電圧に基づき、ブリッジ回路210への上記制御電圧を形成する。なお、発熱抵抗体211(330)は、温度に対し正抵抗特性を有する。即ち、当該発熱抵抗体211(330)は、その抵抗値を、当該発熱抵抗体211(330)の温度の上昇(又は低下)に応じて増大(又は減少)させる。
【0080】
本第1実施形態において、ガス検出用発熱抵抗体211の制御温度を300(℃)に維持制御するようにしたのは、次のような根拠に基づく。
【0081】
上記被検出雰囲気内、ひいては円筒部材121の上記測定空間が結露を含むような多湿環境においても当該ガス検出装置による水素ガスの濃度の検出を可能とするためには、発熱抵抗体211の温度を、少なくとも、大気圧の雰囲気における水の沸点を確実に上回る150(℃)以上の温度に制御する必要がある。一方、発熱抵抗体211の温度を、上記被検出雰囲気内の水素ガスの爆発温度を上回らないように、500(℃)以下の温度に制御する必要がある。このため、発熱抵抗体211の制御温度を、上述のように、300(℃)とした。
【0082】
また、ブリッジ回路220は、図2にて示すごとく、ガス検出用発熱抵抗体221及び各固定抵抗222、223、224でもって、ホイートストーンブリッジ回路を形成するように構成されている。
【0083】
このブリッジ回路220において、ガス検出用発熱抵抗体221は、検出素子300の右側熱伝導式ガス検出部380の構成部材である右側発熱抵抗体330でもって構成されている。ここで、発熱抵抗体221は、その一端にて、接地されており、当該発熱抵抗体221の他端は、固定抵抗222、固定抵抗223及び固定抵抗224を介し接地されている。
【0084】
しかして、ブリッジ回路220は、発熱抵抗体221及び固定抵抗224の共通端子(一側電源端子)及び両固定抵抗222、223の共通端子(他側電源端子)の間に、定温度制御回路240から制御電圧を受けて作動する。
【0085】
そして、この作動のもと、当該ブリッジ回路220は、ガス検出用発熱抵抗体221の抵抗値の変化に基づき発熱抵抗体221及び固定抵抗222の共通端子(ブリッジ回路220の一側出力端子)と両固定抵抗223、224の共通端子(ブリッジ回路220の他側出力端子)との間に生ずる電位差(水素ガス濃度を表す)を出力する。
【0086】
定温度制御回路240は、演算増幅回路260の出力(後述する)に応じて、ガス検出用発熱抵抗体221の抵抗値を一定温度(例えば、400(℃))に対応する値に維持するように、内蔵直流電源(図示しない)の出力電圧に基づき、ブリッジ回路220への上記制御電圧を形成する。なお、発熱抵抗体221(330)は、温度に対する正抵抗特性を有する。即ち、発熱抵抗体221(330)は、その抵抗値を、当該発熱抵抗体221(330)の温度の上昇(又は低下)に応じて増大(又は減少)させる。
【0087】
本第1実施形態において、ガス検出用発熱抵抗体221の制御温度を400(℃)に維持制御するようにしたのは、当該発熱抵抗体221の制御温度を、上述の発熱抵抗体211の制御温度よりも高くする必要があり、かつ上述と同様の理由に基づき150(℃)以上で500(℃)以下の温度にする必要があるためである。なお、両定温度制御回路230、240の各制御電圧の出力は、電源スイッチ281のオンに同期して開始されるようになっている。
【0088】
また、発熱抵抗体221の制御温度を、発熱抵抗体211の制御温度よりも100(℃)高くしたのは次の根拠に基づく。即ち、体積湿度(後述する)の検出精度を高めるためには、検出素子300の両発熱抵抗体211、221の間の制御温度の差が大きいほどよい。具体的には、50(℃)以上であることが望ましい。
【0089】
このため、本第1実施形態では、発熱抵抗体221の制御温度を、上述のように、発熱抵抗体211の制御温度300(℃)よりも100(℃)だけ高くし、400(℃)とした。
【0090】
演算増幅回路250は、ブリッジ回路210の両出力端子間に生ずる電位差を差動増幅して差動増幅電位差を定温度制御回路230及びマイクロコンピュータ270に出力する。演算増幅回路260は、ブリッジ回路220の両出力端子間に生ずる電位差を差動増幅して差動増幅電位差を定温度制御回路240及びマイクロコンピュータ270に出力する。
【0091】
マイクロコンピュータ270は、直流電源280から電源スイッチ281を介し給電されて作動し、図7及び図8にて示すフローチャートに従いコンピュータプログラムを実行する。この実行中において、マイクロコンピュータ270は、測温抵抗体390の検出環境温度や両演算増幅回路250、260の各差動増幅電位差に基づき、水素ガスの濃度の算出に要する各種の処理を行う。なお、上記コンピュータプログラムは、マイクロコンピュータ270のROMに当該マイクロコンピュータにより読み出し可能に記憶されている。
【0092】
以上のように構成した本第1実施形態において、当該可燃性ガス検出装置の装置ユニット100が上記被検出雰囲気内に配置されているものとする。このような状態にて、上記被検出雰囲気内に漏洩する水素ガスが、装置ユニット100のガス導入筒113内にそのガス導入口部114から流入すると、当該水素ガスは、撥水フィルタ126及び2枚の金網127を通り円筒部材121内に流入し、然る後、検出素子300に到達する。
【0093】
このような状態において、電源スイッチ281がオンされ、マイクロコンピュータ270が直流電源280から給電されると、当該マイクロコンピュータ270は、図7及び図8のフローチャートに従い上記コンピュータプログラムの実行を開始する。この開始に伴い、図7のステップ400において、マイクロコンピュータ270に内蔵のソフトタイマーの起動処理がなされる。従って、当該ソフトタイマーがそのリセット起動により計時を開始する。
【0094】
すると、上記ソフトタイマーの計時時間が所定の待ち時間を経過するまで、ステップ410においてNOとの判定が繰り返される。なお、上記所定の待ち時間は、定温度制御回路230による制御のもと発熱抵抗体211の温度が上記一定温度(300(℃))になるとともに定温度制御回路240による制御のもと発熱抵抗体221が上記一定温度(400(℃))になるに要する時間に設定されている。
【0095】
また、電源スイッチ281のオンに同期して、両定温度制御回路230、240による各制御電圧の出力が開始される。これに伴い、定温度制御回路230がブリッジ回路210の両電源端子間に制御電圧を出力すると、当該ブリッジ回路210が当該制御電圧でもって通電される。そして、このブリッジ回路210の両出力端子間から出力される電位差が演算増幅回路250により増幅されて定温度制御回路230にフィードバックされる。
【0096】
従って、ステップ410におけるNOとの判定の繰り返し中において、発熱抵抗体211の抵抗値が上記一定温度(300(℃))に対応する値を維持するように、当該発熱抵抗体211が定温度制御回路230でもって通電により制御される。
【0097】
また、定温度制御回路240がブリッジ回路220の両電源端子間に制御電圧を出力すると、当該ブリッジ回路220が当該制御電圧でもって通電される。そして、このブリッジ回路220の両出力端子間から出力される電位差が演算増幅回路260により増幅されて定温度制御回路240にフィードバックされる。
【0098】
従って、ステップ410におけるNOとの判定の繰り返し中において、発熱抵抗体221の抵抗値が上記一定温度(400(℃))に対応する値を維持するように、当該発熱抵抗体221が定温度制御回路240でもって通電により制御される。
【0099】
然る後、上記ソフトタイマーの計時時間が上記所定の待ち時間を経過すると、ステップ410においてYESと判定され、次のステップ411において、測温抵抗体390からの温度電圧VTの入力処理がなされる。このため、当該温度電圧VTが測温抵抗体390からマイクロコンピュータ270に入力されてセットされる。
【0100】
ついで、ステップ412において、両演算増幅回路250、260の各差動増幅電位差の入力処理がなされる。これに伴い、両演算増幅回路250、260の各差動増幅電位差が、低温側差動増幅電位差VL及び高温側差動増幅電位差VHとしてマイクロコンピュータ270に入力されセットされる。
【0101】
上述のようにステップ412における処理が終了した後、次のステップ420において、温度電圧VTが所定の閾値電圧VTr以下か否かが判定される。本第1実施形態では、所定の閾値電圧VTrは、環境温度Tの基準値に対応する。
【0102】
現段階において、VT≦VTrが成立すれば、ステップ420において、YESと判定される。これに伴い、次のステップ421において、電圧比RVが、次の式(2)に基づき、演算増幅回路260からの差動増幅電位差VH及び演算増幅回路250からの増幅電位差VLに応じて算出される。
【0103】
RV=VH/VL ・・・(2)
ここで、電圧比RVとは、発熱抵抗体221の端子電圧の発熱抵抗体211の端子電圧に対する比をいう。本第1実施形態において、当該電圧比RVは、演算増幅回路260からの差動増幅電位差VHの演算増幅回路250からの差動増幅電位差VLに対する比(VH/VL)に相当する。
【0104】
上述のようにしてステップ421の処理が終了すると、ステップ422において、水素ガスの濃度D=0及び体積湿度HUM=0における電圧比RV=RV0の算出処理がなされる。
【0105】
ここで、水素ガスの濃度D=0及び体積湿度HUM=0のときの電圧比RVがRV0(以下、電圧比初期値RV0ともいう)であるが、D=0及びHUM=0のときの演算増幅回路260からの差動増幅電位差VHを第1差動増幅電位差VH0としたとき、
この電圧比初期値RV0は、当該第1差動増幅電位差VH0(本発明の第1端子電圧値に対応)の演算増幅回路250からの差動増幅電位差VL=VL0に対する比(VH0/VL0)でもって特定される。なお、差動増幅電位差VL0は、D=0及びHUM=0のときの値とする。また、本第1実施形態において、体積湿度HUMとは、上記被検出雰囲気内において環境温度がTであるときの単位体積あたりの水分量をいう。
【0106】
ここで、電圧比初期値RV0と上記被検出雰囲気内の環境温度T、即ち温度電圧VTとの間の関係について調べたところ、電圧比初期値RV0と温度電圧VTとの間の関係は、2次関数特性として、次の2次関数からなる式(3)でもって近似的に特定されることが分かった。
【0107】
RV0=RV0(VT)=A1・VT2+B1・VT+C1・・・・(3)
従って、電圧比初期値RV0は、(VH0/VL0)に依ることなく、上記式(3)から温度電圧VTに基づき得られることが分かる。なお、当該式(3)において、A1は正の係数、B1は負の係数及びC1は正の定数を表すものとする。また、上記式(3)は、マイクロコンピュータ270のROMに予め記憶されている。
【0108】
しかして、当該ステップ422の処理では、電圧比初期値RV0が、VH0/VL0を直接算出することなく、上記式(3)から温度電圧VTに基づき算出される。
【0109】
但し、上述した電圧比初期値RV0と温度電圧VTとの間の関係は、後述する図9及び図12の各グラフとは異なり、右下がりの下に凸な湾曲線状のグラフでもって特定される。従って、上記式(3)は、係数において、後述する両式(6)、(8)の係数とは異にし、当該両式(6)、(8)と相違する。
【0110】
然る後、ステップ423(図8参照)において、電圧比差ΔRVが、次の式(4)に基づき算出される。
【0111】
ΔRV=RV−RV0 ・・・・(4)
なお、式(4)は、マイクロコンピュータ270のROMに予め記憶されている。
【0112】
ついで、ステップ424において、体積湿度HUMが、次の2次関数からなる式(5)から電圧比差ΔRVに基づき算出される。なお、当該式(5)において、A2及びB2は、共に、正の係数であり、C2は定数(C2=0)とする。
【0113】
HUM=HUM(ΔRV)
=A2・ΔRV2+B2・ΔRV+C2・・・・(5)
ここで、当該式(5)の根拠は次の通りである。即ち、体積湿度HUMと電圧比差ΔRVとの間の関係を調べたところ、図10にて示すようなグラフが得られた。このグラフによれば、体積湿度HUMと電圧比差ΔRVとの間の関係は、2次関数特性として、上述の式(5)によって近似できることが分かった。なお、式(5)は、予め、マイクロコンピュータ270のROMに記憶されている。
【0114】
ステップ424における処理後、次のステップ425において、体積湿度HUMの最大値HUMmax(飽和水蒸気濃度に相当)の算出処理がなされる。この算出処理では、最大値HUMmaxが、最大値HUMmaxと環境温度Tとの間の関係を特定する4次関数式から環境温度Tに基づき算出される。当該2次関数式は、予め、マイクロコンピュータ270のROMに記憶されている。
【0115】
ついで、ステップ430において、体積湿度HUMが最大値HUMmaxよりも大きいか否かが判定される。このような判定は次の根拠に基づき行う。
【0116】
即ち、水素ガスの濃度D=0のときの高温側差動増幅電位差VHを第2差動増幅電位差VH1(本発明の第2端子電圧値に対応)としたとき、この第2差動増幅電位差VH1を、後述する3次関数からなる式(7)に基づき、上述の式(5)によって算出される体積湿度HUMを用いて算出すると、体積湿度HUMに依っては、誤差が第2差動増幅電位差VH1を増大させるように生ずる。このため、ステップ430を採用して、体積湿度HUMに依って、体積湿度HUMの補正の仕方を異ならしめるようにした。
【0117】
現段階において、式(5)で算出した体積湿度HUMが最大値HUMmaxよりも大きい場合には、ステップ430においてYESと判定され、次のステップ431において、体積湿度HUMが、最大値HUMmaxとなるように制限補正がなされる。
【0118】
一方、HUMがHUMmax以下である場合には、ステップ440において、HUM<0が成立するか否かが判定される。そして、HUM<0が成立すれば、ステップ440において、YESと判定されて、次のステップ441において、体積湿度が、HUM=0となるように制限補正される。
【0119】
上述のように、体積湿度HUMを最大値HUMmax又は零に制限補正することで、第2差動増幅電位差VH1を、後述する3次関数からなる式(7)に基づき、上述の式(5)によって算出される体積湿度HUMを用いて算出しても、当該第2差動増幅電位差VH1に生ずる誤差が最小限に抑制され得る。
【0120】
以上のようにしてステップ431での制限補正処理、ステップ441での制限補正処理或いはステップ440でのNOとの判定処理がなされると、被検出雰囲気中の水素ガスの濃度D及び体積湿度HUMが共に零であるときの高温側差動増幅電位差VHを第1差動増幅電位差VH0とし、A3及びB3を係数とし、C3を定数とすれば、第1差動増幅電位差VH0が、ステップ450において、次の2次関数からなる式(6)から温度電圧VTに基づき算出される。なお、係数A3は負であり、係数B3は正であり、定数C3は正である。
【0121】
VH0=VH0(VT)=A3・VT2+B3・VT+C3・・・・(6)
ここで、当該式(6)の根拠について説明する。上記被検出雰囲気中の水素ガスの濃度D及び体積湿度HUMがそれぞれ零であるとき、第1差動増幅電位差VH0と上記被検出雰囲気内の環境温度T、ひいては温度電圧VTとの間には、どのような関係が成立するかにつき調べたところ、図9にて示すようなグラフが得られた。
【0122】
このグラフによれば、第1差動増幅電位差VH0と温度電圧VTとの間の関係は、2次関数特性として、上述の式(6)でもって近似的に特定されることが分かった。なお、上述の式(6)は、マイクロコンピュータ270のROMに予め記憶されている。
【0123】
次のステップ460において、第2差動増幅電位差VH=VH1が、次の2次関数からなる式(7)から体積湿度HUMに基づき算出される。なお、式(7)において、A4は負の係数であり、B4は正の係数であり、C4は定数(C4=VH0)とする。
【0124】
VH1=VH1(HUM)
=A4・HUM2+B4・HUM+C4・・・(7)
ここで、当該式(7)の根拠について説明する。第2差動増幅電位差VH1と体積湿度HUMとの間の関係を調べたところ、図11にて示すグラフが得られた。このグラフによれば、第2差動増幅電位差VH1と体積湿度HUMとの間の関係は、2次関数特性として、上述の式(7)でもって近似されることが分かった。なお、式(6)に基づき算出した第1差動増幅電位差VH0は、式(7)及び図11から分かるように、温度電圧VT(環境温度T)に対するオフセット量を表す。
【0125】
ついで、ステップ470において、ガス感度Gが、次の2次関数からなる式(8)から温度電圧VTに基づき算出される。なお、当該式(8)において、A5は負の係数であり、B5は正の係数であり、C5は正の定数である。
【0126】
G=G(VT)=A5・VT2+B5・VT+C5・・・・(8)
ここで、式(8)の根拠について説明する。上記被検出雰囲気内の環境温度Tにおいて、当該被検出雰囲気内の水分が零(つまり、体積湿度HUM=0)でありかつ水素ガスの濃度Dが零であるときの高温側差動増幅電位差VHを上述のごとく第1差動増幅電位差VH0とし、上記被検出雰囲気内の水分が零(つまり、体積湿度HUM=0)でありかつ水素ガスの濃度Dが当該可燃性ガス検出装置でもって検出可能な最大値Dmax(vol%)であるときの高温側差動増幅電位差VHをVHmaxとすると、ガス感度G(mV/vol%)は、次の式(9)でもって表される。
【0127】
G=(VHmax−VH0)/Dmax ・・・・(9)
この式(9)を前提に、ガス感度Gと温度電圧VTとの間の関係を調べたところ、図12にて示すグラフが得られた。このグラフによれば、ガス感度Gと温度電圧VTとの間の関係は、2次関数特性として、上述の式(8)でもって近似的に特定されることが分かった。従って、ガス感度Gは、式(9)に依らなくても、上記式(8)から温度電圧VTに基づき得られることが分かる。
【0128】
但し、図12のグラフを図9のグラフと対比してみると、図12のグラフは、上に凸な湾曲線状となっているのに対し、図9のグラフは、図12のグラフとは異なり、僅かに上に凸な湾曲線状となっているにすぎず、どちらかといえば、ほぼ直線状である。従って、式(8)は、その係数において、式(6)の係数とは異なる。その結果、式(8)は、式(6)とは相違している。なお、当該式(8)は、マイクロコンピュータ270のROMに予め記憶されている。
【0129】
然る後、ステップ480において、水素ガスの濃度Dが、次の式(10)に基づき、ステップ412で入力された高温側差動増幅電位差VH、ステップ470で算出されたガス感度G及びステップ460で算出された第2差動増幅電位差VH1に応じて算出される。
【0130】
D=(VH−VH1)/G ・・・(10)
なお、式(10)は、水素ガスの濃度D=1(vol%)に対する高温側差動増幅電位差VHの変化量を表すことから、式(10)において水素ガスの濃度Dの単位は、(vol%H2)である。また、当該式(10)は、マイクロコンピュータ270のROMに予め記憶されている。
【0131】
以上説明したように、上記被検出雰囲気内の体積湿度を算出した上で、水素ガスの濃度を算出するようにしたので、温度電圧VT≦基準値VTrのとき、上記被検出雰囲気内に水分があっても、水素ガスの濃度が精度よく算出され得る。このことは、当該ガス検出装置が多湿環境下にあっても、精度よく水素ガスの濃度を算出し得ることを意味する。
【0132】
ちなみに、当該ガス検出装置の出力濃度が、上記被検出雰囲気内の温度を0(℃)として、水素ガスの濃度Dに対しどのように変化するかにつき調べたところ、図13にて示す両グラフ1、2が得られた。グラフ1は、体積湿度HUMが上述のように制限設定された場合において、当該ガス検出装置の出力濃度が水素ガスの濃度Dに対しどのように変化するかを示す。また、グラフ2は、体積湿度HUMが上述のように制限設定しない場合において、当該ガス検出装置の出力濃度が水素ガスの濃度Dに対しどのように変化するかを示す。
【0133】
これによれば、第2差動増幅電位差VH1を増大させる誤差が抑制されるために、上記出力濃度が減少することなく精度よく確保されることが分かる。
【0134】
一方、上述のようにコンピュータプログラムがステップ420に進んだとき、VT>VTrが成立すれば、ステップ420において、NOと判定される。これに伴い、次のステップ426において、上記被検出雰囲気内の水素ガスの濃度D=0のときの体積湿度HUMの算出処理がなされる。即ち、当該体積湿度HUMは、次の式(11)に基づき、温度電圧VT(>VTr)に応じて算出される。
【0135】
HUM=HUM(VT)・・・(11)
この式(11)の根拠は次の通りである。環境温度Tが低い場合、上記被検出雰囲気内に含有される絶対水分量自体が少ないため、上述の式(5)でもって算出される体積湿度HUMが、実際の体積湿度からずれる。このずれが、被検出ガスである水素ガスの濃度に対する検出精度に大きく影響し、その結果、水素ガスの濃度の検出精度が悪化することがある。
【0136】
そこで、上述のような体積湿度の算出誤差に起因する水素ガスの濃度の検出精度の悪化を抑制するために、測温抵抗体390の検出環境温度Tが低い場合、換言すれば、温度電圧VTが所定の閾値電圧VTrよりも高い場合には、体積湿度HUMは、上述の電圧比RVに依ることなく、上述の式(11)に基づき、温度電圧VTによって算出することとした。例えば、HUM(VT)は、上述した体積湿度の算出誤差に起因する水素ガスの濃度の検出精度の悪化を抑制し得るように予め選定した所定の体積湿度であってもよい。なお、式(11)は、マイクロコンピュータ270のROMに予め記憶されている。
【0137】
上述のようにしてステップ426の処理が終了すると、第2差動増幅電位差VH1が、ステップ460において、上述の式(7)に基づいて、ステップ426で算出した体積湿度HUMに応じて算出される。
【0138】
そして、ステップ470において、水素ガスの濃度Dが、式(10)に基づいて算出される。
【0139】
これにより、VT>VTrである場合、即ち環境温度Tが低い場合に、上記被検出雰囲気内の絶対水分量が少なくても、体積湿度HUMが、実際の体積湿度からずれることが少なく、水素ガスの濃度Dが、精度よく得られる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本第2実施形態は、次のような観点から提案されている。当該ガス検出装置を燃料電池システムの配管に適用する場合、当該配管の内部には、圧力変動が生ずる。この圧力変動は、上記第1実施形態にて述べた各式(3)、(5)、(7)及び(8)における各係数に影響を与える。従って、この影響を防止すれば、水素ガスの濃度はより一層精度よく得られる。
【0140】
以上のような観点から、具体的には、本第2実施形態においては、上記第1実施形態にて述べた装置ユニット100において、圧力センサ(図示しない)を付加的採用した構成となっており、この圧力センサは、上記第1実施形態にて述べた被検出雰囲気内の圧力を検出してマイクロコンピュータ270に入力するようになっている。
【0141】
また、各ステップ422、424、460及び470において、各式(3)、(5)、(7)及び(8)の各係数が、上記圧力の変動の影響を受けないように、上記圧力センサの検出圧力でもって補正され、このように補正された後の各式(3)、(5)、(7)及び(8)を用い、各ステップ422、424、460及び470における処理がなされる。なお、上記補正にあたり、各式(3)、(5)、(7)及び(8)の各係数と上記圧力センサの検出圧力との間の関係を表す特性がマイクロコンピュータ270のROMに予め記憶されている。
【0142】
これにより、上述のように圧力の変動があっても、当該圧力変動の影響を受けないような値に体積湿度HUMが精度よく算出される。従って、このようにして算出された体積湿度HUMに基づき式(7)から第2差動増幅電位差VH1を算出することで、水素ガスの濃度が式(10)からより一層精度よく算出される。その結果、上述のように圧力変動があっても、水素ガスの濃度の検出精度がより一層向上し得る。
【0143】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限ることなく、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)発熱抵抗体330及び配線膜340の形成材料としては、高温において化学的耐久性が高く、かつ温度抵抗係数が大きいことが望ましい。
(2)水素ガスに限らず、都市ガス等の可燃性ガスの濃度検出や当該ガスの漏洩検出に本発明を適用してもよい。
(3)体積湿度HUMに代えて、相対湿度を用いてもよい。
(4)測温抵抗体390は、薄膜抵抗体に限ることなく、サーミスタ等の温度検出可能な各種の抵抗体であってもよい。
(5)測温抵抗体390に代えて、検出素子300とは別体の測温抵抗体その他の温度センサを採用してもよい。この場合、当該温度センサは、検出素子300を配置した測定空間内に配置することが望ましい。
(6)発熱抵抗体211、221は、上記各実施形態とは異なり、当該発熱抵抗体の温度の上昇(或いは低下)に応じて減少(或いは増大)するように抵抗値を変化させる発熱抵抗体であってもよい。この場合、上記各実施形態にて述べた電圧比RVは、両発熱抵抗体211、221のうち抵抗値の大きい方を基準に算出するようにする。
(7)図7のステップ410における判定基準である所定の待ち時間は、例えば0.5(秒)であるが、これに限ることなく、適宜変更してもよく、要するに、両発熱抵抗体211、221をその定温度制御により上記各対応の一定温度に維持し得る時間であればよい。
(8)両発熱抵抗体211、221の各温度抵抗係数は、測温抵抗体390の温度抵抗係数とは、必ずしも同一でなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】本発明に係る可燃性ガス検出装置の第1実施形態における装置ユニットの断面図である。
【図2】上記第1実施形態における制御回路を示すブロック図である。
【図3】図1の検出構造体に対する検出素子の組み付け構造を示す断面図である。
【図4】図5にて4−4線に沿う検出素子の断面図である。
【図5】図3の検出素子の平面図である。
【図6】温度電圧と環境温度との間の関係を表すグラフである。
【図7】図2のマイクロコンピュータの作用を示すフローチャートの前段部である。
【図8】図2のマイクロコンピュータの作用を示すフローチャートの後段部である。
【図9】上記第1実施形態における第1差動増幅電位差VH0と温度電圧との関係を示すグラフである。
【図10】体積湿度と電圧比差との間の関係を示すグラフである。
【図11】第2差動増幅電位差VH1と体積湿度との関係を示すグラフである。
【図12】上記第1実施形態におけるガス感度と温度電圧との関係を示すグラフである。
【図13】出力濃度と水素ガスの濃度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0145】
211、221、330…発熱抵抗体、230、240…定温度制御回路、
250、260…演算増幅回路、270…マイクロコンピュータ、
280…直流電源、300…検出素子、310…半導体基板、311…凹部、
320…絶縁層、350…内側保護層、360…外側保護層、
390…測温抵抗体、D…水素ガスの濃度、ΔRV…電圧比差、
HUM…体積湿度、RV…電圧比、RV0…電圧比初期値、T…環境温度、
VH…高温側差動増幅電位差、VH0…第1差動増幅電位差、
VH1…第2差動増幅電位差、VL…低温側差動増幅電位差、VT…温度電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出雰囲気内に晒される複数の発熱抵抗体を備えてなる可燃性ガス検出装置において、
前記複数の発熱抵抗体のうち少なくとも2つの発熱抵抗体の各抵抗値を互いに異なる各一定温度に対応する各値に維持するように当該2つの発熱抵抗体を通電により制御する定温度制御手段と、
前記被検出雰囲気内の環境温度を検出する温度検出手段と、
前記定温度制御手段による制御状態にて生ずる前記2つの発熱抵抗体の各端子電圧の比を電圧比として決定する電圧比決定手段と、
前記被検出雰囲気内の湿度、前記電圧比及び前記環境温度の間の関係を表す湿度−電圧比−環境温度特性から前記電圧比及び前記環境温度に基づき前記湿度を決定する湿度決定手段と、
前記被検出雰囲気内の可燃性ガスの濃度、前記2つの発熱抵抗体のうち高温側発熱抵抗体の端子電圧、前記湿度及び前記環境温度の間の関係を表す濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性から前記高温側発熱抵抗体の端子電圧、前記湿度及び前記環境温度に基づき前記可燃性ガスの濃度を算出する濃度算出手段とを備えて、
この濃度算出手段の算出濃度に基づき前記可燃性ガスを検出するようにしたことを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項2】
複数の凹部を間隔をおいて裏面側から形成してなる半導体基板と、この半導体基板の表面に形成される絶縁層と、この絶縁層の表面に前記各凹部に対応して形成される複数の発熱抵抗体と、これら発熱抵抗体を覆うように前記絶縁層の表面に形成される保護層とを有して、被検出雰囲気内に配置される検出素子を備える可燃性ガス検出装置において、
前記複数の発熱抵抗体のうち少なくとも2つの発熱抵抗体の各抵抗値を互いに異なる各一定温度に対応する各値に維持するように当該2つの発熱抵抗体を通電により制御する定温度制御手段と、
前記被検出雰囲気内の環境温度を検出する温度検出手段と、
前記定温度制御手段による制御状態にて生ずる前記2つの発熱抵抗体の各端子電圧の比を電圧比として決定する電圧比決定手段と、
前記被検出雰囲気内の湿度、前記電圧比及び前記環境温度の間の関係を表す湿度−電圧比−環境温度特性から前記電圧比及び前記環境温度に基づき前記湿度を決定する湿度決定手段と、
前記被検出雰囲気内の可燃性ガスの濃度、前記2つの発熱抵抗体のうち高温側発熱抵抗体の端子電圧、前記湿度及び前記環境温度の間の関係を表す濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性から前記高温側発熱抵抗体の端子電圧、前記湿度及び前記環境温度に基づき前記可燃性ガスの濃度を算出する濃度算出手段とを備えて、
この濃度算出手段の算出濃度に基づき前記可燃性ガスを検出するようにしたことを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項3】
前記可燃性ガスの濃度及び湿度が共に零であるときの前記2つの発熱抵抗体の各端子電圧の比である電圧比初期値を従属変数とし前記環境温度を独立変数とする第1の関数特性と、
前記湿度を従属変数とし前記電圧比と前記電圧比初期値との差を表す電圧比差を独立変数とする第2の関数特性とを
前記湿度−電圧比−環境温度特性として、記憶する記憶手段を備え、
前記湿度決定手段は、
前記第1の関数特性から前記環境温度に基づき前記電圧比初期値を決定する電圧比初期値決定手段と、
前記電圧比及び前記電圧比初期値に基づき前記電圧比差を算出する電圧比差算出手段と、
前記第2の関数特性から前記電圧比差に基づき前記湿度を算出する湿度算出手段とを有して、
当該湿度算出手段により算出された湿度を、前記湿度決定手段により決定された湿度とするようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の可燃性ガス検出装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、さらに、
前記環境温度を独立変数とし、前記可燃性ガスの濃度及び湿度が共に零であるときの前記高温側発熱抵抗体の端子電圧である第1端子電圧値を従属変数とする第3の関数特性と、
前記湿度を独立変数とし、前記第1端子電圧値を切片とし、かつ前記被検出雰囲気内の湿度が零であるときの前記高温側発熱抵抗体の端子電圧である第2端子電圧値を従属変数とする第4の関数特性と、
前記環境温度を独立変数とし前記可燃性ガスに対するガス感度を従属変数とする第5の関数特性とを
前記濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性として、記憶してなり、
前記濃度算出手段は、
前記第3の関数特性から前記環境温度に基づき前記第1端子電圧値を決定する第1端子電圧値決定手段と、
前記第4の関数特性から前記湿度及び前記第1端子電圧値に基づき前記第2端子電圧値を決定する第2端子電圧値決定手段と、
前記第5の関数特性から前記環境温度に基づき前記ガス感度を決定するガス感度決定手段と、
前記高温側発熱抵抗体の前記端子電圧と前記第2端子電圧値との差を前記ガス感度で除算する除算手段とを備えて、
この除算手段による除算結果を前記可燃性ガスの濃度とするようにしたことを特徴とする請求項3に記載の可燃性ガス検出装置。
【請求項5】
前記被検出雰囲気内の飽和水蒸気濃度と前記環境温度との間の関係を表す特性から前記環境温度に基づき前記飽和水蒸気濃度を決定する飽和水蒸気濃度決定手段と、
前記湿度決定手段により決定された湿度が前記飽和水蒸気濃度以上のとき当該決定湿度を前記飽和水蒸気濃度に補正し、前記湿度決定手段により決定された湿度が零以下のときには当該決定湿度を零に補正する湿度補正手段とを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の可燃性ガス検出装置。
【請求項6】
前記環境温度が所定の温度以下のとき、前記湿度決定手段により決定された湿度を、前記可燃性ガスの濃度の検出精度の悪化を抑制し得るように予め選定した所定の値に補正する他の湿度補正手段を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の可燃ガス検出装置。
【請求項7】
前記2つの発熱抵抗体の制御温度の差は、50(℃)以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の可燃性ガス検出装置。
【請求項8】
前記2つの発熱抵抗体の制御温度は、150(℃)以上500(℃)以下であることを特徴とする請求項7に記載の可燃性ガス検出装置。
【請求項9】
被検出雰囲気内に晒される複数の発熱抵抗体のうち少なくとも2つの発熱抵抗体の各抵抗値を互いに異なる各一定温度に対応する各値に維持するように前記2つの発熱抵抗体を通電により制御し、
前記被検出雰囲気内の前記制御状態において生ずる前記2つの発熱抵抗体の各端子電圧の比を電圧比として決定し、
前記被検出雰囲気内の湿度、前記電圧比及び前記被検出雰囲気内の環境温度の間の関係を表す湿度−電圧比−環境温度特性から前記電圧比及び前記環境温度に基づき前記湿度を決定し、
前記被検出雰囲気内の可燃性ガスの濃度、前記2つの発熱抵抗体のうち高温側発熱抵抗体の端子電圧、前記湿度及び前記環境温度の間の関係を表す濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性から前記高温側発熱抵抗体の前記端子電圧、前記湿度及び前記環境温度に基づき前記可燃性ガスの濃度を算出することで、当該可燃性ガスを検出する可燃性ガス検出方法。
【請求項10】
前記可燃性ガスの濃度及び湿度が共に零であるときの前記2つの発熱抵抗体の各端子電圧の比である電圧比初期値を従属変数とし前記環境温度を独立変数とする第1の関数特性と、
前記湿度を従属変数とし前記電圧比と前記電圧比初期値との差を表す電圧比差を独立変数とする第2の関数特性とを
前記湿度−電圧比−環境温度特性として、設定し、
かつ、前記環境温度を独立変数とし、前記可燃性ガスの濃度及び湿度が共に零であるときの前記高温側発熱抵抗体の端子電圧である第1端子電圧値を従属変数とする第3の関数特性と、
前記湿度を独立変数とし、前記第1端子電圧値を切片とし、かつ前記被検出雰囲気内の湿度が零であるときの前記高温側発熱抵抗体の端子電圧である第2端子電圧値を従属変数とする第4の関数特性と、
前記環境温度を独立変数とし前記可燃性ガスに対するガス感度を従属変数とする第5の関数特性とを
前記濃度−端子電圧−湿度―環境温度特性として、設定しておき、
前記第1〜第5の関数特性に基づき前記可燃性ガスの濃度を決定するようにしたことを特徴とする請求項9に記載の可燃性ガスの検出方法。
【請求項11】
前記被検出雰囲気内の飽和水蒸気濃度と前記環境温度との間の関係を表す特性から前記環境温度に基づき前記飽和水蒸気濃度を決定し、前記湿度−電圧比−環境温度特性に基づき決定された湿度が前記飽和水蒸気濃度以上のとき前記決定湿度を前記飽和水蒸気濃度に補正し、前記湿度−電圧比−環境温度特性に基づき決定された湿度が零以下のときには当該決定湿度を零に補正することを特徴とする請求項8または9に記載の可燃性ガスの検出方法。
【請求項12】
前記環境温度が所定の温度以下のときに、前記湿度−電圧比−環境温度特性に基づき決定された湿度を、前記可燃性ガスの濃度の検出精度の悪化を抑制し得るように予め選定した所定の値に設定するようにしたことを特徴とする請求項9〜11のいずれか1つに記載の可燃性ガス検出方法。
【請求項13】
前記被検出雰囲気内の圧力を検出し、
前記圧力の変動の影響を受けないように定めた前記第1〜第5の関数特性の各係数と前記圧力との間の関係を表す特性から前記圧力に基づき前記各関数特性をその各係数において補正し、
この補正後の前記第1及び第2の関数特性に基づき前記湿度を決定し、
この決定湿度及び前記補正後の前記第3〜第5の関数特性に基づき前記可燃性ガスの濃度を決定するようにしたことを特徴とする請求項10〜12のいずれか1つに記載の可燃性ガス検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−248356(P2007−248356A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74461(P2006−74461)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】