説明

可逆性熱ゲル化水性組成物

本発明は、従来の可逆性熱ゲル化水性組成物に、揺変性を増大させる物質、好ましくは糖アルコール、乳糖、カルメロースもしくはその薬学的に許容される塩、もしくはシクロデキストリンの少なくともいずれか一種、を添加してなる可逆性熱ゲル化水性組成物である。この組成物は、室温保存が可能であり、携帯に便利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、揺変性の大きい可逆性熱ゲル化水性組成物に関するものである。
【背景技術】
特許第2729859号公報には、メチルセルロースを用いた体温でゲル化する可逆性熱ゲル化水性医薬組成物が開示されている。この組成物は、投与前は液体で投与しやすく、かつ、投与後体温でゲル化し粘性が上昇するので投与部位における薬物の滞留性が向上し、薬物のバイオアベイラビリティ(BA)が向上するという利点を持つ。現在、この特徴を活かした点眼剤が実用化されている。
また、特開2003−095924には、この可逆性熱ゲル化水性医薬組成物を人工涙液として使用することが記載されている。この可逆性熱ゲル化水性医薬組成物は、従来の人工涙液に比較して、涙液量を増大させ、且つ、涙液油層を保護することができ、人工涙液として非常に有効であるとされている。
これらの特許文献に開示されている可逆性熱ゲル化水性医薬組成物は、通常、低温(例えば、1〜10℃)で保存することが想定されている。これは、特に夏季において、可逆性熱ゲル化水性医薬組成物を室温に保存した場合、組成物が室内の熱で徐々にゲル化し、投与前は液体で投与しやすいと言う特徴が失われるためである。
人工涙液の場合、一日に数回点眼することが一般的であるため、通常は人工涙液を持ち歩いて使用している。しかしながら、上記したように、可逆性熱ゲル化水性医薬組成物は低温で保存する必要があるため、持ち歩くことは不適である。このように可逆性熱ゲル化水性医薬組成物を人工涙液として活用することは、薬効面からは非常に有効であるが、貯法の面に難点があるため、いまだ実用化に至っていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、室温でゲル化して固まり、投与が困難になってしまうという従来の可逆性熱ゲル化水性組成物の問題を解消し、室温で持ち歩くことができる可逆性熱ゲル化水性組成物を提供することである。
本発明は、可逆性熱ゲル化水性組成物に揺変性を増大させる物質を添加することにより上記課題が達成しうるという知見に基づいて完成されたものであり、以下に示す可逆性熱ゲル化水性組成物を提供するものである。
1.メチルセルロースと揺変性を増大させる物質を含有する可逆性熱ゲル化水性組成物。
2.揺変性を増大させる物質が、糖アルコール、乳糖、カルメロースもしくはその薬学的に許容される塩、およびシクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも一種である上記1記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
3.糖アルコールが、マンニトール、キシリトールもしくはソルビトールである上記2記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
4.シクロデキストリンが、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、もしくはγ−シクロデキストリンである上記2記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
5.ポリエチレングリコール、アミノ酸もしくはその薬学的に許容される塩、およびオキシ酸もしくはその薬学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む上記1〜4のいずれか1項記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
6.オキシ酸が、クエン酸もしくはその薬学的に許容される塩である上記5記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
7.薬物を含む上記1〜6のいずれか1項記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
8.薬物が、抗真菌剤、抗生物質、抗アレルギー薬、抗炎症剤、緑内障治療薬、ビタミン薬、免疫抑制薬、糖尿病用薬、アミノ酸、角膜保護剤、角膜上皮障害治療薬、合成抗菌剤、抗悪性腫瘍剤、および抗ウイルス剤からなる群から選ばれる少なくとも一種である上記7記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
9.薬物が、アムホテリシンB、フルコナゾール、硝酸ミコナゾール、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム、カルベニシリンナトリウム、硫酸ゲンタマイシン、エリスロマイシン、アジスロマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、アシタザノラスト、塩酸レボカバスチン、フマル酸ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、リン酸ベタメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、ジクロフェナクナトリウム、プラノプロフェン、インドメタシン、ブロムフェナックナトリウム、メロキシカム、ロルノキシカム、マレイン酸チモロール、塩酸ブナゾシン、ラタノプロスト、ニプチジロール、塩酸カルテオロール、イソプロピルウノプロストン、塩酸ドルゾラミド、フラビンアデニンジヌクレオチド、リン酸ピリドキサール、シアノコバラミン、シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸、アミノグアニジン、エパルレスタット、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、塩酸シプロフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、トシル酸パズフロキサシン、ガチフロキサシン、塩酸モキシフロキサシン、マイトマイシンC、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、アシクロビル、ガンシクロビル、シドフォビル、ソリブジン、およびトリフルオロチミジンからなる群から選ばれる少なくとも一種である上記7記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
10.注射剤、経口剤、点耳剤、点鼻剤、点眼剤または塗布剤の形態にある上記7〜9のいずれか1項記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
11.点眼剤の形態にある上記10記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
12.人工涙液である上記1〜11のいずれか1項記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
揺変性とは、チキソトロピー性ともいわれ、異常粘性の一種である。単にかき混ぜたり振り混ぜたりすることによってゲルが流動性のゾルに代わり、これを放置しておくと再びゲルに戻る性質である。本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は熱によりゲル化するが、ゲル化しても揺変性を有するため、軽く振り混ぜることでゲルの流動性が高くなり、容易に生体に投与することが可能になる。生体に投与された本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物はその体温で再び容易にゲル化する。
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物の揺変性を増大させる物質としては、糖アルコール、乳糖、カルメロースもしくはその薬学的に許容される塩、もしくはシクロデキストリンが挙げられる。本発明の揺変性を増大させる物質の添加量は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、通常0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%である。
糖アルコールとしては、好ましくはマンニトール、キシリトールもしくはソルビトールが挙げられる。シクロデキストリンとしては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが挙げられる。カルメロースの薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
本発明に使用する揺変性を増大させる物質として、特に好ましいものは、D−マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、乳糖である。これらの物質は可逆性熱ゲル化水性組成物の揺変性を増大するだけでなく、熱ゲル化水性組成物のゲル化温度を低下させる作用も併せ持っている。
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は、冷所(例えば、15℃以下)では液体であり、哺乳類の体温でゲル化することが所望されることから、そのゲル化温度は好ましくは約20℃〜約40℃、さらに好ましくは24〜37℃である。
本発明に用いられるメチルセルロース(以下、MCと略称する)の粘度は特に制限は無いが、そのw/v%水溶液の20℃における粘度が好ましくは3〜12000ミリパスカル・秒の範囲のものが望ましい。この範囲のものであればいずれのMCでも単独または混合して使用することができる。メトキシル基の含有率は水に対する溶解性の観点から好ましくは26〜33%の範囲である。さらにMCはその水溶液の粘度により区別され、例えば、市販品の品種には表示粘度4、15、25、100、400、1500、8000(数字は2w/v%水溶液の20℃粘度のミリパスカル・秒)のものがあり、容易に入手可能である。好ましくは表示粘度4〜400のMCが、取り扱いやすいため好ましい。MCの概要、規格、用途、使用量及び商品名などについては医薬品添加物事典(日本医薬品添加物恊会編集、薬事日報社発行)に詳細に記載されている。
本発明の組成物におけるMCの使用濃度範囲は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、好ましくは0.2〜7w/v%、さらに好ましくは1〜4w/v%である。MCの濃度が7w/v%以下の場合、組成物の粘度が取り扱いやすい範囲にあるので好ましく、また、MCの濃度が0.2w/v%以上の場合、体温でゲル化しやすいので好ましい。
本発明の組成物においてゲル化助剤としで用いられるポリエチレングリコール(以下、PEGと略称する)は、PEG−200、−300、−600、−1000、−1540、−2000、−4000、−6000、−20000、−50000、−500000、−2000000及び−4000000の商品名で和光純薬工業(株)より、またマクロゴール−200、−300、−400、−600、−1000、−1540、−4000、−6000、−20000の商品名で日本油脂(株)より販売されている。本発明の組成物においてゲル化助剤として用いられるPEGの重量平均分子量も特に制限はないが、好ましくは300〜50000、さらに好ましくは1000〜6000である。重量平均分子量が300以上の場合には体温による液体−ゲル相転移を起こしやすく、重量平均分子量が50000以下の場合には液体状態での粘度が高くなりすぎないため好ましい。また、2種以上のPEGを混合して重量平均分子量を上記の至適範囲内に調整することも可能である。PEGの概要、規格、用途、使用量及び商品名などについては医薬品添加物事典(日本医薬品添加物協会編集、薬事日報社発行)に詳細に記載されている。
本発明の組成物においてゲル化助剤として用いられるPEGの含有量は、好ましくは通常0.1〜13w/v%、さらに好ましくは.1〜9w/v%である。
本発明の組成物には、他のゲル化助剤として、オキシ酸またはその薬学的に許容し得る塩を含有させることが好ましい。オキシ酸としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸などを例示できる。また、オキシ酸の薬学的に許容し得る塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などを例示できる。本発明の組成物中、オキシ酸またはその薬学的に許容し得る塩の含有量は、通常0.01〜7w/v%、好ましくは0.05〜4w/v%である。
本発明の組成物には、ゲル化助剤としてアミノ酸またはその薬学的に許容し得る塩を含有させることが好ましい。本発明に用いられるアミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、セリン、プロリン、メチオニンなどを例示できる。また、薬学的に許容し得る塩としては、塩酸塩、硫酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを例示できる。本発明の組成物中、アミノ酸またはその薬学的に許容し得る塩の含有量は、通常0.01〜7w/v%、好ましくは0.05〜4w/v%である。
従って、本発明の好ましい実施態様は、0.1〜10w/v%の揺変性を増大させる物質、0.2〜7w/v%のMC、0.1〜13w/v%のPEG及び0.01〜7w/v%のオキシ酸もしくはアミノ酸からなる可逆性熱ゲル化水性組成物である。
本発明の他の好ましい実施態様は、0.1〜5w/v%の揺変性を増大させる物質、0.2〜7w/v%のMC、0.1〜13w/v%のPEG及び0.05〜4w/v%のオキシ酸もしくはアミノ酸からなる可逆性熱ゲル化水性組成物である。
本発明のさらに他の好ましい実施態様は、0.1〜5w/v%の揺変性を増大させる物質、1.0〜4.0w/v%のMC、1〜9.0w/v%のPEG及び0.05〜4w/v%のオキシ酸もしくはアミノ酸からなる可逆性熱ゲル化水性組成物である。
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物には薬物を含有させることができる。このような薬物としては、例えば、アムホテリシンB、フルコナゾール、硝酸ミコナゾールなどの抗真菌剤、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム、カルベニシリンナトリウム、硫酸ゲンタマイシン、エリスロマイシン、アジスロマイシン、トブラマイシン、カナマイシンなどの抗生物質、アシタザノラスト、塩酸レボカバスチン、フマル酸ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラストなどの抗アレルギー薬、リン酸ベタメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、ジクロフェナクナトリウ厶、プラノプロフェン、インドメタシン、ブロムフェナックナトリウム、メロキシカム、ロルノキシカムなどの抗炎症剤、マレイン酸チモロール、塩酸ブナゾシン、ラタノプロスト、ニプチジロール、塩酸カルテオロール、イソプロピルウノプロストン、塩酸ドルゾラミドなどの緑内障治療薬、フラビンアデニンジヌクレオチド、リン酸ピリドキサール、シアノコバラミンなどのビタミン薬、シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸などの免疫抑制薬、アミノグアニジン、エパルレスタットなどの糖尿病用薬、アミノエチルスルホン酸、アミノ酸、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどの角膜保護剤、ヒアルロン酸ナトリウムなどの角膜上皮障害治療薬、塩酸シプロフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、トシル酸パズフロキサシン、ガチフロキサシン、塩酸モキシフロキサシンなどの合成抗菌剤、マイトマイシンC、5−フルオロウラシル、アドリアマイシンなどの抗悪性腫瘍剤、アシクロビル、ガンシクロビル、シドフォビル、ソリブジン、トリフルオロチミジンなどの抗ウイルス剤、などを挙げることができる。これら薬物の配合量は期待される薬効が得られる濃度であれば特に制限はない。
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は、通常pH4〜10に調整され、特にpH6〜8で調整されることが好ましい。本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物のpHを調整するために、通常添加される種々のpH調整剤が使用される。酸類としては、例えば、アスコルビン酸、塩酸、グルコン酸、酢酸、乳酸、ホウ酸、リン酸、硫酸、クエン酸などが挙げられる。塩基類としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。その他のpH調整剤としては、グリシン、ヒスチジン、イプシロンアミノカプロン酸などのアミノ酸類なども挙げることができる。
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製するにあたって、薬学的に許容し得る等張化剤、可溶化剤、保存剤及び防腐剤などを必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物に添加することができる。等張化剤としては、ブドウ糖等の糖類、プロピレングリコール、グリセリン、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどが挙げられる。可溶化剤としては、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。保存剤としては塩化ベンザルコニウ厶、塩化ベンゼトニウム及びグルコン酸クロルヘキシジンなどの逆性石鹸類、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、パラヒドロキシ安息香酸ブチル等のパラベン類、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール及びベンジルアルコールなどのアルコール類、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸及びソルビン酸カリウムなどの有機酸及びその塩類が使用できる。また、その他の添加剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールもしくはポリアクリル酸ナトリウ厶等の増粘剤、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)及びそれらの薬学的に許容される塩、トコフエロール及びその誘導体、亜硫酸ナトリウムなどの安定化剤が挙げられる。
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物の製法を例示する。MCとPEGを70□以上の熱水に分散させ、氷冷する。ここに、揺変性を増大させる物質、オキシ酸もしくはアミノ酸、薬物、添加剤などを添加溶解し、良く混合する。pHを調整し、滅菌精製水でメスアップし本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製する。調製した本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物をメンブランフィルターによるろ過滅菌後、ガラス製アンプルなどの容器に充填する。
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は、大きな揺変性を有するため、室温でゲル化しても軽く振るだけで液状化し、容易に投与することができる。そのため、従来の可逆性熱ゲル化水性組成物では冷所保存が必須であったが、本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は室温保存が可能なため、常に携帯することができるという利点がある。
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は、その特性を生かして、人工涙液として、また、注射剤、経口剤、点耳剤、点鼻剤、点眼剤、塗布剤などの形態で使用することができる。
以下実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
メチルセルロース(信越化学工業(株)製、メトローズ(登録商標)SM−4)およびポリエチレングリコール(マクロゴール4000、日本油脂(株)製)を所定量混合し、ここに85□に加熱した滅菌精製水を添加し、攪拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、攪拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認し、クエン酸ナトリウム、及び本発明の揺変性を増大させる物質(D−マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、乳糖、カルメロースナトリウム、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン)を所定量徐々に添加し、溶解後均一に混合した。さらに、1NのNaOHもしくは1NのHClでpHを7.0に調整後、滅菌精製水で所定の容量(100mL)にし、本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製した。
また、比較例として、揺変性を増大させる物質を添加しない比較用可逆性熱ゲル化水性組成物を同様な方法で調製した。
〔試験例〕
実施例で調製した可逆性熱ゲル化水性組成物のゲル化温度と揺変性を評価した。
・ゲル化温度
株式会社トキメック社製B型粘度計のBLアダプターに、調製した可逆性熱ゲル化水性組成物25mLを注入し、この容器ごと10分間氷冷した。アダプターをB型粘度計にセットし、所定の温度に調整した水槽にBLアダプター部分を浸し、そのまま3分間保持した。その後、B型粘度計の同期電動機スイッチをONにし(ローター回転開始)、2分後の指示値(粘度 単位ミリパスカル・秒(mPa・s))を読み取った。この指示値をその温度の粘度とした。20℃から2℃ごとの粘度を40℃まで測定した。粘度が0.3mPa・s以上増加した温度の前の測定温度をゲル化温度とした。
・揺変性
調製した可逆性熱ゲル化水性組成物5mLを市販のプラスチック製点眼ビン(内径17mm、高さ35mm)に充填した。これを40℃で4時間保持し、可逆性熱ゲル化水性組成物をゲル化させた。そして、直ちに、点眼ビンをゆっくりと7回反転攪拌した。このとき、ゲルが崩れて点眼ビンから可逆性熱ゲル化水性組成物が容易に排出できる場合を揺変性が「有り」とした。一方、反転攪拌後にゲルが崩れない、もしくは、ゲルが崩れても点眼ビンから可逆性熱ゲル化水性組成物が容易に排出されない場合を揺変性が「無し」とした。
表−1に、調製した可逆性熱ゲル化水性組成物の処方と、そのゲル化温度、及び、揺変性を示した。

本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は何れの処方でも体温付近でゲル化し、揺変性を有することが示された。一方、揺変性を増大する物質を添加していない比較例の製剤は、体温付近でゲル化するが、反転攪拌しても硬いゲルを固持し、揺変性を有さないことが示された。
さらに、揺変性を増大させる物質としてD−マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、乳糖を添加した場合は、可逆性熱ゲル化水性組成物のゲル化温度も低下し、より体温でゲル化し易くなることが示された。
【実施例2】
メチルセルロース(SM−4)及びポリエチレングリコール(マクロゴール4000)を所定量混合し、ここに85℃に加熱した滅菌精製水を添加し、攪拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、攪拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認し、クエン酸ナトリウム、グリシン、D−マンニトール、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、及び塩化ベンザルコニウムを所定量徐々に添加し、溶解後均一に混合した。さらに、1NのHClでpHを7.4に調整後、滅菌精製水で所定の容量(100mL)にし、本明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製した。
表−2に調製した可逆性熱ゲル化水性組成物の処方と、そのゲル化温度、及び、揺変性を示した。

【実施例3】
メチルセルロース(SM−4)と本発明の揺変性を増大させる物質としてD−マンニトールを所定量混合し、ここに85℃に加熱した滅菌精製水を添加し、攪拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、攪拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認し、処方によっては、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムもしくはグルタミン酸ナトリウムを所定量徐々に添加し、溶解後均一に混合した。さらに、1NのNaOHもしくは1NのHClでpHを7.4に調整後、滅菌精製水で所定の容量(100mL)にし、本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製した。
また、比較例として、D−マンニトール(揺変性を促進させる物質)を添加しない比較用可逆性熱ゲル化水性組成物を同様な方法でそれぞれ調製した。
そして、調製した可逆性熱ゲル化水性組成物のゲル化温度と揺変性を評価した。
表−3に調製した可逆性熱ゲル化水性組成物の処方とゲル化温度、及び、揺変性を示した。

本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は何れの処方でも体温付近でゲル化し、揺変性を有することが示された。一方、揺変性を増大させる物質を添加していない比較製剤は、体温付近でゲル化するが、反転攪拌しても硬いゲルを固持し、揺変性を有さないことが示された。
実施例4(注射剤)
11gのメチルセルロース(SM−4)、20gのポリエチレングリコール(マクロゴール4000)および15gのD−マンニトールを混合し、ここに85℃に加熱した800mLの滅菌精製水を添加し、攪拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、攪拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認し、20gのクエン酸ナトリウムおよび1gのレボフロキサシンを徐々に添加し、溶解後均一に混合した。さらに、1NのHClでpHを7.4に調整後、滅菌精製水で1000mLにし、本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製した。
これをメンブレンフィルターでろ過し、5mLのガラス製アンプルに充填、溶封して注射剤とした。
実施例5(点鼻剤)
14gのメチルセルロース(SM−4)、20gのポリエチレングリコール(マクロゴール4000)および15gのD−マンニトールを混合し、ここに85℃に加熱した800mLの滅菌精製水を添加し、攪拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、攪拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認し、20gのクエン酸ナトリウムおよび3.0gのレボフロキサシンを徐々に添加し、溶解後均一に混合した。さらに、1NのHClでpHを7.4に調整後、滅菌精製水で1000mLにし、本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製した。
これをメンブレンフィルターでろ過し、プラスチック製点鼻用容器に充填して点鼻剤とした。
実施例6(点耳剤)
実施例5で得られた本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物をメンブレンフィルターでろ過し、プラスチック製点耳用容器に充填して点耳剤とした。
実施例7(塗布剤)
実施例5で得られた本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物をメンブレンフィルターでろ過し、プラスチック容器に充填して塗布剤とした。
実施例8(経口剤)
実施例4で得られた本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物をメンブレンフィルターでろ過し、ガラス容器に充填して経口剤とした。
実施例9(点眼剤)
実施例5で得られた本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物をメンブレンフィルターでろ過し、5mLのプラスチック製点眼容器に充填して点眼剤とした。
実施例10(人工涙液)
10gのメチルセルロース(SM−4)、20gのポリエチレングリコール(マクロゴール4000)および15gのD−マンニトールを混合し、ここに85℃に加熱した800mLの滅菌精製水を添加し、攪拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、攪拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認し、20gのクエン酸ナトリウムおよび5gのアミノエチルスルホン酸を徐々に添加し、溶解後均一に混合した。さらに、1NのHClでpHを7.4に調整後、滅菌精製水で1000mLにし、本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製した。
これをメンブレンフィルターでろ過し、5mLのプラスチック製点眼容器に充填して人工涙液とした。
実施例11(人工涙液)
13gのメチルセルロース(SM−4)、20gのポリエチレングリコール(マクロゴール4000)および10gのD−マンニトールを混合し、ここに85℃に加熱した800mLの滅菌精製水を添加し、攪拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、攪拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認し、20gのクエン酸ナトリウムおよび2gのNaClを徐々に添加し、溶解後均一に混合した。さらに、1NのHC1でpHを7.4に調整後、滅菌精製水で1000mLにし、本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製した。
これをメンブレンフィルターでろ過し、5mLのプラスチック製点眼容器に充填して人工涙液とした。
実施例12(人工涙液)
11gのメチルセルロース(SM−4)、20gのポリエチレングリコール(マクロゴール4000)および15gのD−マンニトールを混合し、ここに85℃に加熱した800mLの滅菌精製水を添加し、攪拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、攪拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認し、22gのクエン酸ナトリウムを徐々に添加し、溶解後均一に混合した。さらに、1NのHClでpHを7.4に調整後、滅菌精製水で1000mLにし、本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製した。
これをメンブレンフィルターでろ過し、5mLのプラスチック製点眼容器に充填して人工涙液とした。
【産業上の利用可能性】
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は、揺変性が大きいため、室温でゲル化しても、揺り動かすことにより簡単に流動化するため、室温で携帯可能であり、その特性を生かして、人工涙液として、また、注射剤、経口剤、点耳剤、点鼻剤、点眼剤、塗布剤などの形態で使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルセルロースと揺変性を増大させる物質を含有する可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項2】
揺変性を増大させる物質が、糖アルコール、乳糖、カルメロースもしくはその薬学的に許容される塩、およびシクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項3】
糖アルコールが、マンニトール、キシリトールもしくはソルビトールである請求項2記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項4】
シクロデキストリンが、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、もしくはγ−シクロデキストリンである請求項2記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項5】
ポリエチレングリコール、アミノ酸もしくはその薬学的に許容される塩、およびオキシ酸もしくはその薬学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1〜4のいずれか1項記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項6】
オキシ酸が、クエン酸もしくはその薬学的に許容される塩である請求項5記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項7】
薬物を含む請求項1〜6のいずれか1項記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項8】
薬物が、抗真菌剤、抗生物質、抗アレルギー薬、抗炎症剤、緑内障治療薬、ビタミン薬、免疫抑制薬、糖尿病用薬、アミノ酸、角膜保護剤、角膜上皮障害治療薬、合成抗菌剤、抗悪性腫瘍剤、および抗ウイルス剤からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項7記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項9】
薬物が、アムホテリシンB、フルコナゾール、硝酸ミコナゾール、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム、カルベニシリンナトリウム、硫酸ゲンタマイシン、エリスロマイシン、アジスロマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、アシタザノラスト、塩酸レボカバスチン、フマル酸ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、リン酸ベタメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、ジクロフェナクナトリウム、プラノプロフェン、インドメタシン、ブロムフェナックナトリウム、メロキシカム、ロルノキシカム、マレイン酸チモロール、塩酸ブナゾシン、ラタノプロスト、ニプチジロール、塩酸カルテオロール、イソプロピルウノプロストン、塩酸ドルゾラミド、フラビンアデニンジヌクレオチド、リン酸ピリドキサール、シアノコバラミン、シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸、アミノグアニジン、エパルレスタット、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、塩酸シプロフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、トシル酸パズフロキサシン、ガチフロキサシン、塩酸モキシフロキサシン、マイトマイシンC、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、アシクロビル、ガンシクロビル、シドフォビル、ソリブジン、およびトリフルオロチミジンからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項7記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項10】
注射剤、経口剤、点耳剤、点鼻剤、点眼剤または塗布剤の形態にある請求項7〜9のいずれか1項記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項11】
点眼剤の形態にある請求項10記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項12】
人工涙液である請求項1〜11のいずれか1項記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。

【国際公開番号】WO2005/042026
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515218(P2005−515218)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016500
【国際出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000100492)わかもと製薬株式会社 (22)
【Fターム(参考)】