説明

合成樹脂製ブローボトル及びその成形方法

【課題】環状三量体の低減を図る特別な処方を施すことなしに良好な品質をもったブローボトルとその製造方法を提案する。
【解決手段】加熱処理を挟む二回の二軸延伸ブロー成形によって得られた合成樹脂製ブローボトルであって、該ブローボトルは、環状三量体の含有量が0.40重量%以上、材料そのものがもつ固有粘度が0.70〜0.90dl/gになる合成樹脂材料若しくはプリフォームの成形体からなり、かつ、ブロー成形終了後におけるボトルの少なくとも胴体部分が1.38g/cm以上の密度を有するもので構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製ブローボトル及びその成形方法に関するものであり、該ブローボトルの成形過程で発生するのが避けられなかった環状三量体(オリゴマーの一種)の付着に起因した品質低下を効果的に回避しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
酒類や飲料、醤油の如き調味液を入れるボトルは、ガラス製のボトルに比較して取り扱いが容易であり効率的な製造が実現できることから近年、二軸延伸ブロー成形によって製造された合成樹脂製のブローボトルが多用されている。
【0003】
ところで、この種のブローボトル、とくにポリエチレンテレフタレート樹脂からなるブローボトル(PETボトル)にあっては、ブロー成形過程で樹脂材料の中に含まれる環状三量体(CT)がプリフォーム、成形体の外表面に析出し、これが金型の表面に付着してしまうのが避けられない状況にあった。
【0004】
ここに、環状三量体の金型表面への付着は、該金型の平滑性を損なわせ、それがそのまま成形体に転写される結果、ボトルの表面が荒れてしまい透明性を確保するのが困難(成形本数が増すほど白濁する(HAZE値が大きくなる))となる不具合があった。このため、従来は、製造ラインを停止して金型の清掃を頻繁に行わなければならず(生産性の低下)、樹脂中に含まれる環状三量体の生成を抑制する特殊な重合触媒を使用したり、その他の環状三量体の低減処理を施した材料を使用したり、あるいは、プリフォームの成形時に環状三量体の増加を抑制する処方を加えた材料を用いる試みがなされているところ(例えば、特許文献1参照)、従来の対処法では使用材料が限定されてしまい経済的にも大きな制約を受けることになっていた(コスト上昇が避けられない)。
【特許文献1】特開2006−348166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、環状三量体の低減を図った特殊な材料を使用せずとも品質の高いブローボトルを効率的に製造し得る新規な技術を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、加熱処理を挟む二回の二軸延伸ブロー成形によって得られた合成樹脂製ブローボトルであって、
該ブローボトルは、環状三量体の含有量が0.40重量%以上、材料そのものがもつ固有粘度が0.70〜0.90dl/gになる合成樹脂材料若しくはプリフォームの成形体からなり、かつ、ブロー成形終了後におけるボトルの少なくとも胴体部分が1.38g/cm以上の密度を有することを特徴とする合成樹脂製ブローボトルであり、上記合成樹脂としてはポリエチレンテレフタレート樹脂を用いる。ここに含有量とは、樹脂材料中にもともと含まれているものの他、プリフォームの成形時やブロー成形時の熱によって生成されるものを含むものとする。
【0007】
また、本発明は、押出し成形又は射出成形することにより形成されたプリフォームを用い、加熱処理を挟む二回の二軸延伸ブロー成形を施すことにより合成樹脂製ブローボトルを成形するに当たり、
環状三量体の含有量が0.40重量%以上で、材料そのものがもつ固有粘度が0.70〜0.90dl/gの合成樹脂材料若しくはプリフォームを用いることを特徴とする合成樹脂製ブローボトルの成形方法である。
【0008】
ブロー成形に使用する合成樹脂材料あるいはプリフォームとしては、環状三量体の含有量が0.40重量%以上のものを用いるが、好ましくは0.40〜0.60重量%のものや、0.60重量%以上のものを使用してもボトルの白濁を抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0009】
環状三量体の低減を図った特別な合成樹脂材料、プリフォームを用いずとも該環状三量体のボトル表面への付着による影響が小さくなり経済的な制約を受けることがなく(合成樹脂材料の選択の幅が拡大される)、製造コストの低減が可能となる。
【0010】
製造ラインを停止してブロー金型を清掃するための回数が減るので効率的な製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
熱処理を挟む二回の二軸延伸ブロー成形は、プリフォームの延伸加工を行いながらエアーを吹き込む一次ブロー成形と最終形状に仕上げる二次ブロー成形を行うダブルブロー成形であり、一次ブロー成形と二次ブロー成形の間には加熱処理工程(一次ブロー成形により得られた成形体について加熱収縮させて残留応力の緩和を図る処理)が組み入れられる。ダブルブロー成形の一次ブロー成形において、一次ブロー成形品の外表面に析出した環状三量体は一次ブロー金型の内表面に付着する。この時、金型の内表面から一次ブロー成形品への環状三量体の逆移行は少なくなっている。また、前記一次ブロー成形はシングルブロー成形に比較して延伸倍率が高い状態のブロー成形を行った後、加熱収縮された中間成形品が二次ブロー成形されるため、一次ブロー金型の内表面の状態(表面粗さ)が最終成形品(二次ブロー成形品)にほとんど影響しない。また、二次ブロー成形においては一次ブロー成形の時点で金型に中間成形体の表面に析出した環状三量体が既に移行しているためその付着量は非常に少なくなり、結果としてブローボトルの透明性が阻害されにくくなる。
【0012】
本発明において、環状三量体の含有量が0.40重量%以上になる合成樹脂材料あるいはプリフォームを用いるが、その理由は、環状三量体の含有量が0.40重量%以上のものは特殊な処理を施すことなしに得ることができるものであって、比較的安価だからである。環状三量体の含有量が0.40〜0.60重量%、0.60重量%以上のものを用いることが可能であり、この場合には材料の選択の幅がより一層広がる。
【0013】
合成樹脂材料そのものがもつ固有粘度は、0.70〜0.90dl/gとしたが、その理由は、ボトルとしての物性が確保でき、商業的に利用可能な範囲となるからであり、ここに固有粘度はASTM−D2857-1970に準拠する方法によって測定した値とする。
【0014】
また、ブロー成形終了後におけるボトルの少なくとも胴体部分(口部及び底部を除いた部分)については1.380g/cm以上の密度(JIS K7112D法/密度勾配管法に準拠)を有することとしたが、胴体部分の密度を1.380g/cm以上とすることにより、高温の内容物を充填することができる品質の安定したボトルの成形が可能となる。
【0015】
ダブルブロー成形は以下の条件にしたがって実施するのが好ましい。
一次ブロー成形工程:
プリフォームの加熱温度:100〜120℃
延伸倍率(面積倍率):5〜10倍
金型温度:140〜230℃
加熱処理工程:
加熱処理温度:200〜260℃(一次ブロー金型の温度より10〜60℃高い温度であって、この加熱処理により二次ブロー金型と同程度かわずかに小さい大きさに一次ブロー成形品を収縮させ、残留応力を除去する)
二次ブロー成形工程:
金型温度:90〜150℃(内容物の充填温度より数度以上高い温度)
延伸倍率:ほとんど伸延しない
【0016】
なお、上記の形成条件は、ダブルブロー成形を実施する際の好適範囲であり、内容物の充填温度、容器の容量やデザイン等により上記の範囲を外れる場合もあり、上記の成形条件に限定されることはない。
【0017】
実施例
環状三量体の含有量が0.50重量%で固有粘度が0.82dl/gになるポリエチレンテレフタレート樹脂(A樹脂)と環状三量体の含有量が0.35重量%で固有粘度が0.76dl/gになるポリエチレンテレフタレート樹脂(B樹脂)をそれぞれ用いてプリフォームを成形したのち、下記の条件にしたがってダブルブロー成形、シングルブロー成形を行い、内容物の充填容量が500mlになるブローボトルをそれぞれ製造し、ブローボトルの胴部中央におけるHAZE(ヘーズ)値(透明度合いを表す値であり、JIS K7105に準拠する)が10%に達するまでの成形本数について調査した。ここに、シングルブロー成形とは、延伸可能な温度に加熱したプリフォームを所定温度に設定された金型内に保持し、延伸ロッドと圧縮エアーにより延伸させて、最終製品(ボトル)に成形する方法をいう。
【0018】
ダブルブロー成形の条件
一次ブロー成形工程:金型温度165℃
加熱処理工程:加熱処理温度200℃
二次ブロー成形高低:金型温度100℃
シングルブロー成形の条件
ブロー成形工程:金型温度100℃
【0019】
その結果、A樹脂を用いた場合、シングルブロー成形に比べダブルブロー成形では18.3倍の本数のボトルが成形可能であり、これにより、金型の清掃回数を大幅に減少させることができた。
【0020】
一方、B樹脂を用いた場合、シングルブロー成形に比べダブルブロー成形では7.9倍の本数のボトルが成形可能であった。
【0021】
上記のA樹脂については、環状三量体の変化状況(変化量)を調べたところ、プリフォームの段階における環状三量体の量は樹脂材料の1.2倍程度まで増加したが、一次ブロー成形品、加熱収縮品、二次ブロー成形品(製品)の何れにおいても環状三量体の量がプリフォームの段階と同じ1.2倍程度のまま推移しその値に大きな変化はみられないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
環状三量体の低減を図る特別な処方を施すことなしに品質の良好なブローボトルが提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理を挟む二回の二軸延伸ブロー成形によって得られた合成樹脂製ブローボトルであって、
該ブローボトルは、環状三量体の含有量が0.40重量%以上、材料そのものがもつ固有粘度が0.70〜0.90dl/gになる合成樹脂材料若しくはプリフォームの成形体からなり、かつ、ブロー成形終了後におけるボトルの少なくとも胴体部分が1.38g/cm以上の密度を有することを特徴とする合成樹脂製ブローボトル。
【請求項2】
前記合成樹脂がポリエチレンテレフタレート樹脂である、請求項1記載の合成樹脂製ブローボトル。
【請求項3】
押出し成形又は射出成形することにより形成されたプリフォームを用い、加熱処理を挟む二回の二軸延伸ブロー成形を施すことにより合成樹脂製ブローボトルを成形するに当たり、
環状三量体の含有量が0.40重量%以上で、材料そのものがもつ固有粘度が0.70〜0.90dl/gの合成樹脂材料若しくはプリフォームを用いることを特徴とする合成樹脂製ブローボトルの成形方法。

【公開番号】特開2010−36357(P2010−36357A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198433(P2008−198433)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】