説明

周波数安定化回路、周波数安定化デバイス、アンテナ装置及び通信端末機器

【課題】放射素子や筺体の形状、近接部品の配置状況などに影響されることなく、高周波信号の周波数特性を安定化させることのできる周波数安定化回路、周波数安定化デバイス、アンテナ装置及び通信端末機器並びに挿入損失の小さなインピーダンス変換素子を得る。
【解決手段】第1及び第2放射素子11,21と、該放射素子11,21のそれぞれに接続された給電回路30と、給電回路30と第1放射素子11との間に設けられた周波数安定化回路35と、を備えたアンテナ装置。周波数安定化回路35は、給電回路30に接続された一次側直列回路36と、該一次側直列回路36と電界又は磁界を介して結合する二次側直列回路37とを含む。第1及び第2インダクタンス素子L1,L2は直列接続され、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4は直列接続されている。第1及び第3インダクタンス素子L1,L3が互いに結合し、第2及び第4インダクタンス素子L2,L4が互いに結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数安定化回路、周波数安定化デバイス、アンテナ装置及び通信端末機器並びにインピーダンス変換素子、特に、携帯電話などの通信端末機器に搭載されるアンテナ装置、該アンテナ装置に組み込まれる周波数安定化回路、周波数安定化デバイス、及び、該アンテナ装置を備えた通信端末機器並びにインピーダンス変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信端末に搭載されるアンテナ装置として、特許文献1,2,3に記載されているように、端末筺体の内部に配置した金属体(プリント配線基板のグランド板など)を放射素子として利用する筺体ダイポールアンテナが提案されている。この種の筺体ダイポールアンテナでは、折りたたみ式やスライド式の携帯通信端末における二つの筺体グランド板(本体部筺体のグランド板と蓋体部筺体のグランド板)に差動給電することでダイポールアンテナと同等の性能を得ることができる。また、筺体に設けたグランド板を放射素子として利用しているため、別途専用の放射素子を設ける必要がなく、携帯通信端末の小型化を図ることができる。
【0003】
しかしながら、前記筺体ダイポールアンテナでは、放射素子として用いているグランド板の形状や筺体の形状さらには近接する金属体(近接配置されている電子部品やヒンジ部品など)の配置状況などに応じてグランド板のインピーダンスが変化してしまう。それゆえ、高周波信号のエネルギーロスをできる限り小さくするために、機種ごとにインピーダンスマッチング回路を設計する必要があった。また、折りたたみ式やスライド式の携帯通信端末では、本体部筺体と蓋体部筺体の位置関係(例えば、折りたたみ式では蓋体部を閉じた状態と開いた状態)に応じてグランド板やインピーダンスマッチング回路のインピーダンスが変化してしまう。それゆえ、インピーダンスをコントロールするために制御回路などが必要になることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−172919号公報
【特許文献2】特開2005−6096号公報
【特許文献3】特開2008−118359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、放射素子や筺体の形状、近接部品の配置状況などに影響されることなく、高周波信号の周波数を安定化させることのできる周波数安定化回路、周波数安定化デバイス、アンテナ装置及び通信端末機器を提供することにある。本発明の他の目的は、挿入損失の小さなインピーダンス変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の形態である周波数安定化回路は、
第1リアクタンス素子及び該第1リアクタンス素子に直列接続された第2リアクタンス素子を含み、給電回路に接続される一次側直列回路と、
第1リアクタンス素子と結合する第3リアクタンス素子及び該第3リアクタンス素子に直列接続されて第2リアクタンス素子と結合する第4リアクタンス素子を含み、放射素子に接続される二次側直列回路と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の形態であるアンテナ装置は、
周波数安定化回路と放射素子とを備え、
前記周波数安定化回路は、
第1リアクタンス素子及び該第1リアクタンス素子に直列接続された第2リアクタンス素子を含み、給電回路に接続される一次側直列回路と、
第1リアクタンス素子と結合する第3リアクタンス素子及び該第3リアクタンス素子に直列接続されて第2リアクタンス素子と結合する第4リアクタンス素子を含む二次側直列回路と、を備え、
前記放射素子は二次側直列回路に接続されていること、
を特徴とする。
【0008】
本発明の第3の形態である通信端末機器は、
周波数安定化回路と給電回路と放射素子とを備え、
前記周波数安定化回路は、
第1リアクタンス素子及び該第1リアクタンス素子に直列接続された第2リアクタンス素子を含む一次側直列回路と、
第1リアクタンス素子と結合する第3リアクタンス素子及び該第3リアクタンス素子に直列接続されて第2リアクタンス素子と結合する第4リアクタンス素子を含む二次側直列回路と、を備え、
前記給電回路は一次側直列回路に接続され、
前記放射素子は二次側直列回路に接続されていること、
を特徴とする。
【0009】
本発明の第4の形態である周波数安定化デバイスは、
複数の誘電体層又は磁性体層を積層してなる積層体と、
前記積層体に設けられ、第1リアクタンス素子及び該第1リアクタンス素子に直列接続された第2リアクタンス素子を含み、給電回路に接続される一次側直列回路と、
前記積層体に設けられ、前記第1リアクタンス素子と結合する第3リアクタンス素子、及び、前記第3リアクタンス素子に直列接続されて前記第2リアクタンス素子と結合する第4リアクタンス素子を含み、放射素子に接続される二次側直列回路と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
前記周波数安定化回路及び前記周波数安定化デバイスでは、一次側直列回路と二次側直列回路とが電磁界結合や磁界結合など主に磁束を利用して高い結合度をもって結合されており、一次側直列回路によって給電回路側とのインピーダンスマッチングが図られ、二次側直列回路によって放射素子側とのインピーダンスマッチングが図られ、送信/受信信号の周波数が安定化する。しかも、高周波信号のエネルギー伝達効率が良好であり、放射素子や筺体の形状、近接部品の配置状況などに影響されることなく、高周波信号の周波数が安定化する。
【0011】
前記周波数安定化デバイスでは、第1リアクタンス素子と第3リアクタンス素子とを積層体の同じ層に設け、第2リアクタンス素子と第4リアクタンス素子とを積層体の同じ層に設けることにより、積層体(周波数安定化デバイス)の厚みが薄くなる。さらに、互いに結合する第1リアクタンス素子と第3リアクタンス素子及び第2リアクタンス素子と第4リアクタンス素子を、それぞれ同一工程で形成できるため、積層ずれなどに起因する結合度のばらつきが抑制され、信頼性が向上する。
【0012】
本発明の第5の形態であるインピーダンス変換素子は、
第1コイル素子及び該第1コイル素子に直列接続された第2コイル素子を含んで構成された一次側直列回路と、
前記第1コイル素子と結合する第3コイル素子及び該第3コイル素子に直列接続された第4コイル素子を含んで構成された二次側直列回路と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
前記インピーダンス変換素子にあっては、一次側直列回路と二次側直列回路とが電磁界結合や磁界結合など主に磁束を利用して高い結合度をもって結合されているため、挿入損失が小さくなる。また、コイル素子の結合(特に閉磁路結合)を利用しているため、一次側から二次側への任意のインピーダンス変換を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、放射素子や筺体の形状、近接部品の配置状況などに影響されることなく、高周波信号の周波数を安定化させることができる。また、挿入損失の小さなインピーダンス変換素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】アンテナ装置を備えた携帯通信端末を模式的に示す説明図であり、(A)は第1例、(B)は第2例を示す。
【図2】第1実施例であるアンテナ装置を示し、(A)は等価回路図、(B)は動作原理図、(C)はフィルタとしての視点から描いた回路図である。
【図3】(A)〜(D)はそれぞれ第1実施例であるアンテナ装置の通過特性を示すグラフである。
【図4】積層体として構成された周波数安定化回路を示し、(A)は表面側の斜視図、(B)は裏面側の斜視図である。
【図5】積層体として構成された周波数安定化回路の第1例を分解して示す斜視図である。
【図6】図5に示す周波数安定化回路の動作原理を示す説明図である。
【図7】積層体として構成された周波数安定化回路の第2例を分解して示す斜視図である。
【図8】第2実施例であるアンテナ装置を示す等価回路図である。
【図9】積層体として構成された周波数安定化回路の第3例を分解して示す斜視図である。
【図10】積層体として構成された周波数安定化回路の第4例を分解して示す斜視図である。
【図11】第3実施例であるアンテナ装置を示す等価回路図である。
【図12】第4実施例であるアンテナ装置を示す等価回路図である。
【図13】第5実施例であるアンテナ装置を示す等価回路図である。
【図14】第6実施例であるアンテナ装置を示す等価回路図である。
【図15】第6実施例であるアンテナ装置の応用例を示す等価回路図である。
【図16】周波数安定化デバイスの第1例を示し、(A)は表面側の斜視図、(B)は裏面側の斜視図である。
【図17】周波数安定化デバイスの第1例を分解して示す斜視図である。
【図18】周波数安定化デバイスの第1例の動作原理を示す説明図である。
【図19】周波数安定化デバイスの第2例を分解して示す斜視図である。
【図20】周波数安定化デバイスの第3例を分解して示す斜視図である。
【図21】(A)は第7実施例であるアンテナ装置を示す等価回路図、(B)はその変形例を示す等価回路図である。
【図22】周波数安定化デバイスの第4例を分解して示す斜視図である。
【図23】第8実施例であるアンテナ装置を示す等価回路図である。
【図24】周波数安定化デバイスの第5例を分解して示す斜視図である。
【図25】第9実施例であるアンテナ装置を示す等価回路図である。
【図26】周波数安定化デバイスの第6例を分解して示す斜視図である。
【図27】周波数安定化デバイスの第6例の動作原理を示す説明図である。
【図28】第10実施例であるインピーダンス変換素子を示し、(A)は等価回路図、(B)は動作原理図である。
【図29】第10実施例であるインピーダンス変換素子の積層構造の概略斜視図である。
【図30】図29に示した積層構造での動作原理図である。
【図31】積層体として構成された第10実施例であるインピーダンス変換素子を示し、(A)は表面側の斜視図、(B)は裏面側の斜視図である。
【図32】第10実施例であるインピーダンス変換素子の積層構造を分解して示す斜視図である。
【図33】第11実施例であるインピーダンス変換素子を示す等価回路図である。
【図34】第11実施例であるインピーダンス変換素子の積層構造を分解して示す斜視図である。
【図35】第12実施例であるインピーダンス変換素子の積層構造を分解して示す斜視図である。
【図36】第12実施例であるインピーダンス変換素子の動作原理図である。
【図37】第13実施例であるインピーダンス変換素子の積層構造を分解して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る周波数安定化回路、アンテナ装置及び通信端末機器並びにインピーダンス変換素子の実施例について、添付図面を参照して説明する。なお、各図面において、同じ部材、部分には共通する符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(携帯通信端末、図1参照)
第1例である携帯通信端末1を図1(A)に示し、第2例である携帯通信端末2を図1(B)に示す。これらは、携帯電話・移動体端末向けの1セグメント部分受信サービス(通称:ワンセグ)の高周波信号の受信用(470〜770MHz)の端末である。
【0018】
図1(A)に示すように、携帯通信端末1は、蓋体部である第1筺体10と本体部である第2筺体20とを備え、第1筺体10は第2筺体20に対して折りたたみ式あるいはスライド式で連結されている。第1筺体10にはグランド板としても機能する第1放射素子11が設けられ、第2筺体20にはグランド板としても機能する第2放射素子21が設けられている。第1及び第2放射素子11,21は金属箔などの薄膜あるいは導電性ペーストなどの厚膜からなる導電体膜で形成されている。この第1及び第2放射素子11,21は給電回路30から差動給電することでダイポールアンテナとほぼ同等の性能を得ている。給電回路30はRF回路やBase Band回路のような信号処理回路を有している。
【0019】
図1(B)に示すように、携帯通信端末2は、第1放射素子11をアンテナ単体として設けたものである。第1放射素子11はチップアンテナ、板金アンテナ、コイルアンテナなど各種アンテナ素子を用いることができる。また、このアンテナ素子としては、例えば、筺体10の内周面や外周面に沿って設けられた線状導体を利用してもよい。第2放射素子21は第2筺体20のグランド板としても機能するものであり、第1放射素子11と同様に各種のアンテナを用いてもよい。ちなみに、携帯通信端末2は、折りたたみ式やスライド式ではない、ストレート構造の端末である。なお、第2放射素子21は、必ずしも放射体として十分に機能するものでなくてもよく、第1放射素子11がいわゆるモノポールアンテナのように振る舞うものであってもよい。
【0020】
給電回路30は一端が第2放射素子21に接続され、他端が周波数安定化回路35を介して第1放射素子11に接続されている。また、第1及び第2放射素子11,21は接続線33によって互いに接続されている。この接続線33は第1及び第2筺体10,20のそれぞれに搭載されている電子部品(図示省略)の接続線として機能するもので、高周波信号に対してはインダクタンス素子として振る舞うがアンテナの性能に直接的に作用するものではない。
【0021】
周波数安定化回路35は、給電回路30と第1放射素子11との間に設けられ、第1及び第2放射素子11,21から送信される高周波信号、あるいは、第1及び第2放射素子11,21にて受信する高周波信号の周波数特性を安定化させる。それゆえ、第1放射素子11や第2放射素子21の形状、第1筺体10や第2筺体20の形状、近接部品の配置状況などに影響されることなく、高周波信号の周波数特性が安定化する。特に、折りたたみ式やスライド式の携帯通信端末にあっては、蓋体部である第1筺体10の本体部である第2筺体20に対する開閉状態に応じて、第1及び第2放射素子11,21のインピーダンスが変化しやすいが、周波数安定化回路35を設けることによって高周波信号の周波数特性を安定化させることができる。即ち、アンテナの設計に関して重要事項である、中心周波数の設定・通過帯域幅の設定・インピーダンスマッチングの設定などの周波数特性の調整機能をこの周波数安定化回路35が担うことが可能になり、アンテナ素子そのものは、主に、指向性や利得を考慮するだけでよいため、アンテナの設計が容易になる。以下に、周波数安定化回路35の詳細について第1〜第6実施例として説明する。
【0022】
(第1実施例、図2〜図8参照)
第1実施例であるアンテナ装置に用いられている周波数安定化回路(スタビライザー回路とも称する)35は、図2(A)に示すように、給電回路30に接続された一次側リアクタンス回路と、該一次側リアクタンス回路と電界又は磁界を介して結合する二次側リアクタンス回路とで構成されている。一次側リアクタンス回路は、第1リアクタンス素子及び該第1リアクタンス素子に直列接続された第2リアクタンス素子を含む一次側直列回路36にて構成されている。二次側リアクタンス回路は、第1リアクタンス素子と結合する第3リアクタンス素子及び該第3リアクタンス素子に直列接続されて第2リアクタンス素子と結合する第4リアクタンス素子を含む二次側直列回路37にて構成されている。具体的には、第1リアクタンス素子は第1インダクタンス素子L1で構成されており、第2リアクタンス素子は第2インダクタンス素子L2で構成されており、第3リアクタンス素子は第3インダクタンス素子L3で構成されており、第4リアクタンス素子は第4インダクタンス素子L4で構成されている。
【0023】
一次側直列回路36の一方端(第1インダクタンス素子L1の一端)は給電回路30に接続され、二次側直列回路37の一方端(第3インダクタンス素子L3の一端)は第1放射素子11に接続されている。一次側直列回路36の他方端(第2インダクタンス素子L2の他端)及び二次側直列回路37の他方端(第4インダクタンス素子L4の他端)は、第2放射素子21に接続されている。
【0024】
図2(B)に示すように、第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とは互いに同相で磁界結合及び電界結合しており、同じく、第3インダクタンス素子L3と第4インダクタンス素子L4とは互いに同相で磁界結合及び電界結合している。つまり、第1及び第2インダクタンス素子L1,L2によって閉磁路が形成され、これらのインダクタンス素子L1,L2は主に電磁界を介して結合し、磁界結合によって流れる電流と電界結合によって流れる電流の方向が一致するようにパターン配線している。また、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4によって閉磁路が形成され、これらのインダクタンス素子L3,L4は主に電磁界を介して結合し、磁界結合によって流れる電流と電界結合によって流れる電流の方向が一致するようにパターン配線している。また、第1インダクタンス素子L1と第3インダクタンス素子L3とは互いに逆相で結合し、磁界結合によって流れる電流と電界結合によって流れる電流の方向が一致するようにパターン配線しており、同様に、第2インダクタンス素子L2と第4インダクタンス素子L4とは互いに逆相で結合し、磁界結合によって流れる電流と電界結合によって流れる電流の方向が一致するようにパターン配線している。つまり、第1及び第3インダクタンス素子L1,L3並びに第2及び第4インダクタンス素子L2,L4は、それぞれ閉磁路を形成し、これらの閉磁路どうしが、つまり、一次側直列回路36と二次側直列回路37とが主に電磁界を介して結合し、電界結合と磁界結合が同じ方向に電流を流すので、磁界のみの結合又は電界のみの結合に比べて強い電磁界結合を得ている。なお、「電磁界を介して結合」とは、電界を介しての結合、磁界を介しての結合、又は電界・磁界の両者を介しての結合を意味する。
【0025】
以上の構成からなる周波数安定化回路35において、給電回路30から一次側直列回路36に流れ込んだ高周波信号電流は、第1インダクタンス素子L1に導かれるとともに、各インダクタンス素子がコイルパターンで形成されている場合、誘導磁界を介して二次電流として第3インダクタンス素子L3に導かれる。また、第2インダクタンス素子L2に導かれた高周波信号電流は誘導磁界を介して二次電流として第4インダクタンス素子L4に導かれる。その結果、高周波信号電流は図2(B)に矢印で示す方向に流れることになる。
【0026】
つまり、一次側直列回路36では、第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とが直列かつ同相で接続されているため、第1インダクタンス素子L1及び第2インダクタンス素子L2に電流が流れると、各インダクタンス素子L1,L2間に閉磁路が形成される。同様に、二次側直列回路37においても、第3インダクタンス素子L3と第4インダクタンス素子L4とが直列かつ同相で接続されているため、第3インダクタンス素子L3及び第4インダクタンス素子L4に、一次側直列回路36で生じた閉磁路によって誘導電流が流れると、各インダクタンス素子L3,L4間に閉磁路が形成される。
【0027】
そして、第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とは前述のように閉磁路を形成するようになり、同相で結合しているので、一次側直列回路36のトータルのインダクタンス値は、第1インダクタンス素子L1のインダクタンス値と第2インダクタンス素子L2のインダクタンス値を単純に足したインダクタンス値よりも小さく見えるようになる。一方、第1インダクタンス素子L1と第3インダクタンス素子L3とは、相互インダクタンスを介して結合しており、この相互インダクタンス値は第1インダクタンス素子L1のインダクタンス値と第3インダクタンス素子L3のインダクタンス値とを足したインダクタンス値になる。第2インダクタンス素子L2と第4インダクタンス素子L4との関係も同様である。
【0028】
即ち、一次側直列回路36と二次側直列回路37との間に形成される相互インダクタンス値の総和は、一次側直列回路36又は二次側直列回路37のインダクタンス値に対して相対的に大きく見えるため、一次側直列回路36と二次側直列回路37との結合度が見掛け上高くなる。つまり、一次側直列回路36及び二次側直列回路37における磁界は閉磁路をそれぞれ形成するので、直列回路36の全体のインダクタンス値(=L1+L2−ML1L2)及び直列回路37の全体のインダクタンス値(=L3+L4−ML3L4)を生じ、二次側直列回路37には一次側直列回路36にて生じた磁界を打ち消す方向の電流(例えば変位電流と同じ)と同じ方向の電流が流れる。よって、一次側直列回路36と二次側直列回路37それぞれにおける電力が漏洩することがほとんどないうえに、直列回路36と直列回路37の全体の相互インダクタンス値(=ML1L3+ML2L4)は、直列回路36の全体のインダクタンス値(=L1+L2−ML1L2)及び直列回路37の全体のインダクタンス値(=L3+L4−ML3L4)に対して大きくなるので、一次側直列回路36と二次側直列回路37の結合度が高くなる。これにより、一次側直列回路36と二次側直列回路37の結合度は、0.7以上、さらには、1.0以上(特に周波数によっては結合度2.0)と高い結合度を得ることができる。
【0029】
前記周波数安定化回路35では、主に、一次側直列回路36にて給電回路30側とのインピーダンスマッチングが図られ、二次側直列回路37にて第1放射素子11側とのインピーダンスマッチングが図られるため、即ち、一次側直列回路36のインピーダンスと二次側直列回路37のインピーダンスをそれぞれ独立して設計できるようになるため、インピーダンスの整合が容易である。
【0030】
図2(B)に示した等価回路をフィルタとしての視点で描くと図2(C)のようになる。キャパシタンス素子C1は第1及び第2インダクタンス素子L1,L2で形成される線間容量であり、キャパシタンス素子C2は第3及び第4インダクタンス素子L3,L4で形成される線間容量である。また、キャパシタンス素子C3は一次側直列回路36と二次側直列回路37で形成される線間容量(寄生容量)である。即ち、一次側直列回路36にてLC並列共振回路R1が形成され、二次側直列回路37にてLC並列共振回路R2が形成されることになる。
【0031】
そして、LC並列共振回路R1における共振周波数をF1、LC並列共振回路R2における共振周波数をF2とすると、F1=F2の場合で給電回路30からの高周波信号は図3(A)に示す通過特性を示す。第1及び第2インダクタンス素子L1,L2、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4をそれぞれ逆相で結合させることにより、L1+L2及びL3+L4が小さくなるので、それぞれのインダクタンス素子L1〜L4のインダクタンス値を大きくしても共振周波数が下がらないのでL1〜L4を大きくすることができる。それゆえ、広帯域な通過特性を得ることができる。そして、第1放射素子11からの高周波信号は、図3(B)に示すように、曲線Aで示す広帯域な通過特性が得られる。このメカニズムは必ずしも明らかではないが、LC並列共振回路R1,R2が結合しているので、縮退が解けるためと思われ、ΔFは共振回路R1,R2の結合度によって決まる。即ち、結合度に比例して広帯域化が可能である。
【0032】
一方、F1≠F2の場合で給電回路30からの高周波信号は図3(C)に示す通過特性を示す。第1放射素子11からの高周波信号は、図3(D)に示すように、曲線Bで示す広帯域な通過特性が得られる。これもLC並列共振回路R1,R2が結合しているので、縮退が解けるためと思われる。共振回路R1,R2の結合度が大きければブロードで広帯域の通過特性となる。
【0033】
このように、周波数安定化回路35自身が持つ共振特性を利用してインピーダンス整合などの周波数特性を決めているので、周波数のずれが生じにくい。また、広帯域な通過特性を得ることで、多少インピーダンスが変化しても、通過帯域を確保することができる。即ち、放射素子のサイズや形状、さらには放射素子の環境によらずに、送受信される高周波信号の周波数特性を安定化させることができる。また、周波数安定化回路35は閉磁路で形成されているのでシールドパターンが共振回路の上下部にあってもよい。これによりさらに外部環境による特性変化が小さくなる。
【0034】
前記周波数安定化回路35は、図4に示すチップ型の積層体40として構成することができる。この積層体40は誘電体又は磁性体からなる複数の基材層を積層したもので、その裏面には給電回路30に接続される給電端子41、第2放射素子21に接続されるグランド端子42、第1放射素子11に接続されるアンテナ端子43が設けられている。裏面には、それ以外に、実装のために用いられるNC端子44も設けられている。なお、積層体40の表面に、必要に応じてインピーダンス整合用のチップ型インダクタやチップ型コンデンサを搭載してもよい。このように構成する場合、搭載したインダクタやコンデンサを変更するだけで、様々な入出力インピーダンスに対応できる。また、積層体40内に電極パターンでインダクタンス素子やコンデンサ素子を形成してもよい。
【0035】
ここで、前記積層体40に内蔵された周波数安定化回路35の第1例を図5を参照して説明する。この第1例は、最上層の基材層51aに導体61が形成され、2層目の基材層51bに第1及び第2インダクタンス素子L1,L2となる導体62が形成され、3層目の基材層51cに第1及び第2インダクタンス素子L1,L2となる二つの導体63,64が形成されている。4層目の基材層51dに第3及び第4インダクタンス素子L3,L4となる二つの導体65,66が形成され、5層目の基材層51eに第3及び第4インダクタンス素子L3,L4となる導体67が形成されている。さらに、6層目の基材層51fにグランド導体68が形成され、7層目の基材層51gの裏面に給電端子41、グランド端子42、アンテナ端子43が形成されている。なお、最上層の基材層51a上には図示しない無地の基材層が積層される。
【0036】
導体61〜68としては、銀や銅などの導電性材料を主成分として形成することができる。基材層51a〜51gとしては、誘電体であればガラスセラミック材料、エポキシ系樹脂材料などを用いることができ、磁性体であればフェライトセラミック材料やフェライトを含有する樹脂材料などを用いることができる。基材層用の材料としては、特に、UHF帯用の周波数安定化回路を形成する場合、誘電体材料を用いることが好ましく、HF帯用の周波数安定化回路を形成する場合、磁性体材料を用いることが好ましい。
【0037】
前記基材層51a〜51gを積層することで、それぞれの導体61〜68及び端子41,42,43は層間接続導体(ビアホール導体)を介して接続され、図2(A)に示す等価回路を形成する。
【0038】
即ち、給電端子41は、ビアホール導体45a、導体61及びビアホール導体45bを介して、コイルパターン63の一端に接続され、コイルパターン63の他端は、ビアホール導体45cを介してコイルパターン62aの一端に接続されている。また、コイルパターン62aの他端はコイルパターン62bの一端に接続されており、コイルパターン62bの他端は、ビアホール導体45dを介してコイルパターン64の一端に接続されている。コイルパターン64の他端は、ビアホール導体45eを介してグランド導体68に接続され、グランド導体68はビアホール導体45fを介してグランド端子42に接続されている。つまり、コイルパターン63及びコイルパターン62aにて第1コイルパターン、つまりインダクタンス素子L1が構成されており、コイルパターン62b及びコイルパターン64にて第2コイルパターン、つまりインダクタンス素子L2が構成されている。
【0039】
また、アンテナ端子43は、ビアホール導体45gを介してコイルパターン65の一端に接続され、コイルパターン65の他端は、ビアホール導体45hを介してコイルパターン67aの一端に接続されている。また、コイルパターン67aの他端はコイルパターン67bの一端に接続されており、コイルパターン67bの他端は、ビアホール導体45iを介してコイルパターン66の一端に接続されている。コイルパターン66の他端は、ビアホール導体45jを介してグランド導体68に接続され、グランド導体68はビアホール導体45fを介してグランド端子42に接続されている。つまり、コイルパターン65及びコイルパターン67aにて第3コイルパターン、つまりインダクタンス素子L3が構成されており、コイルパターン67b及びコイルパターン66にて第4コイルパターン、つまりインダクタンス素子L4が構成されている。
【0040】
そして、図5に示すように、第1及び第2コイルパターンは、第1コイルパターンの巻回軸と第2コイルパターンの巻回軸とが平行になるように隣接配置されており、第3及び第4コイルパターンは、第3コイルパターンの巻回軸と第4コイルパターンの巻回軸とが平行になるように隣接配置されている。さらに、第1及び第3コイルパターンは、第1コイルパターンの巻回軸と第3コイルパターンの巻回軸とがほぼ同一直線になるように配置されており、第2及び第4コイルパターンは、第2コイルパターンの巻回軸と第4コイルパターンの巻回軸とがほぼ同一直線上になるように配置されている。
【0041】
なお、各コイルパターンは1ターンのループ状導体にて構成されているが、複数ターンのループ状導体にて構成されていてもよい。また、第1及び第3コイルパターンは、各コイルパターンの巻回軸が厳密に同一直線になるように配置されている必要はなく、平面視したときに、第1及び第3コイルパターンのコイル開口が互いに重なるように、つまり、各コイルパターンに共通の磁束が通過するように、巻回されていればよい。同様に、第2及び第4コイルパターンは、各コイルパターンの巻回軸が厳密に同一直線になるように配置されている必要はなく、平面視したときに、第2及び第4コイルパターンのコイル開口が互いに重なるように、つまり、各コイルパターンに共通の磁束が通過するように、巻回されていればよい。
【0042】
以上のごとく、インダクタンス素子L1〜L4を誘電体や磁性体からなる積層体40に内蔵すること、特に、一次側直列回路36と二次側直列回路37との結合部となる領域を積層体40の内部に設けることによって、周波数安定化回路35を構成する素子の素子値、さらには一次側直列回路36と二次側直列回路37との結合度が、積層体40に隣接して配置される他の電子素子からの影響を受けにくくなる。その結果、周波数特性の一層の安定化を図ることができる。
【0043】
ところで、前記積層体40を搭載するプリント配線基板(図示せず)には各種の配線が設けられており、これらの配線と周波数安定化回路35とが干渉するおそれがある。本実施例のように、積層体40の底部にグランド導体68を導体61〜67によって形成されるコイルパターンの開口を覆うように設けることにより、コイルパターンにて生じる磁界がプリント配線基板上の各種配線からの磁界に影響されにくくなる。換言すれば、インダクタンス素子L1〜L4のL値にばらつきが生じにくくなる。
【0044】
第1例である周波数安定化回路35では、図6に示すように、給電端子41から入力された高周波信号電流は、矢印a,bに示すように流れ、第1インダクタンス素子L1(導体62,63)に矢印c,dで示すように導かれ、さらに、第2インダクタンス素子L2(導体62,64)に矢印e,fで示すように導かれる。一次電流(矢印c,d)にて生じる磁界Cによって、第3インダクタンス素子L3(導体65,67)に矢印g,hに示すように高周波信号電流が励起され、誘導電流(二次電流)が流れる。同様に、一次電流(矢印e,f)にて生じる磁界Cによって、第4インダクタンス素子L4(導体66,67)に矢印i,jに示すように高周波信号電流が励起され、誘導電流(二次電流)が流れる。その結果、アンテナ端子43には矢印kで示す高周波信号電流が流れ、グランド端子42には矢印lで示す高周波信号電流が流れる。なお、給電端子41に流れる電流(矢印a)が逆向きであれば、他の電流も逆向きに流れる。また、第1インダクタンス素子L1のコイルパターン63と第3インダクタンスL3のコイルパターン65が対向しているので電界結合が発生し、この電界結合によって流れる電流(変位電流)は、誘導電流と同じ方向に流れ、磁界結合と電界結合とで結合度を高めている。同様に、第2インダクタンス素子L2のコイルパターン64と第4インダクタンス素子L4のコイルパターン66でも磁界結合と電界結合が生じている。
【0045】
一次側直列回路36では、第1及び第2インダクタンス素子L1,L2が互いに同相で結合し、二次側直列回路37では、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4が互いに同相で結合し、それぞれ閉磁路を形成している。そのため、第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2との間、並びに、第3インダクタンス素子L3と第4インダクタンス素子L4との間のエネルギーの損失を小さくすることができる。なお、第1及び第2インダクタンス素子L1,L2のインダクタンス値、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4のインダクタンス値を実質的に同じ素子値にすると、閉磁路の漏れ磁界が少なくなり、エネルギーの損失をより小さくすることができる。また、グランド導体68を介して、第3インダクタンス素子L3及び第4インダクタンス素子L4が電界結合するので、この電界結合により流れる変位電流が素子L3,L4間の結合度を強めている。同様に、素子L1,L2間に電界結合を発生させることで素子L1,L2間の結合度を強めることができる。
【0046】
また、一次側直列回路36における一次電流によって励起される磁界Cと、二次側直列回路37における二次電流によって励起される磁界Dは、誘導電流によって互いの磁界を打ち消すように生じている。誘導電流を用いることによってエネルギーの損失が小さくなり、第1及び第3インダクタンス素子L1,L3並びに第2及び第4インダクタンス素子L2,L4は、高い結合度で結合する。即ち、一次側直列回路36と二次側直列回路37とは高い結合度にて結合する。
【0047】
なお、周波数安定化回路35のインダクタンス値は、二つの放射素子11,21を結ぶ接続線33のインダクタンス値よりも小さいことが好ましい。なぜなら、周波数特性に関する接続線33のインダクタンス値の影響を小さくすることができるからである。第1及び第2インダクタンス素子L1,L2、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4を同相で結合させることにより、周波数安定化回路35のインダクタンス値を小さくすることができる。
【0048】
以上のように本実施例によれば、一次側直列回路36と二次側直列回路37は、閉磁路と閉磁路との間の結合(電磁界結合)を利用しているため、一次側直列回路36にて給電回路30側とのインピーダンスマッチングを図り、二次側直列回路37にて第1放射素子11側とのインピーダンスマッチングを図ることにより、一次側と二次側とで独立してインピーダンスを整合させることができる。しかも、高周波信号エネルギーの伝達効率が向上するため、放射素子11,21や筺体10,20の形状、開閉状態などに大きく影響されることなく、広い帯域で、高周波信号の周波数特性を安定化させることができる。
【0049】
次に、周波数安定化回路35の第2例を図7を参照して説明する。この第2例は、前記第1例と基本的には同じ構成であり、第1例とは、基材層51aを省略して導体61を基材層51b上に形成した点と、グランド導体68を省略し、基材層51hに接続用導体69を形成した点が異なっている。本第2例では、グランド導体68を省略しているため、この積層体40を搭載するプリント配線基板にグランド導体68に相当するシールド用の導体を設けることが好ましい。
【0050】
(第2実施例、図8〜図10参照)
第2実施例であるアンテナ装置を図8に示す。ここで用いられている周波数安定化回路35は前述した一次側直列回路36と二次側直列回路37に加えて、いま一つの二次側直列回路38(二次側リアクタンス回路)を設けたものである。二次側直列回路38を構成する第5インダクタンス素子L5と第6インダクタンス素子L6とは互いに同相で結合している。第5インダクタンス素子L5は第1インダクタンス素子L1と逆相で結合しており、第6インダクタンス素子L6は第2インダクタンス素子L2と逆相で結合している。第5インダクタンス素子L5の一端は第1放射素子11に接続され、第6インダクタンス素子L6の一端は第2放射素子21に接続されている。
【0051】
この周波数安定化回路35を積層体40として構成した第3例を図9を参照して説明する。この第3例は、前記第1例で示した積層体40の上に、さらに二次側直列回路38の第5及び第6インダクタンス素子L5,L6となる導体71,72,73を形成した基材層51i,51jを積層したものである。即ち、前述した第1〜第4のリアクタンス素子と同様、第5及び第6リアクタンス素子をそれぞれ第5及び第6インダクタンス素子L5,L6で構成し、これらの第5及び第6インダクタンス素子L5,L6をコイルパターンにて形成し、かつ、第5及び第6インダクタンス素子L5,L6を構成するコイルパターンを、これらのインダクタンス素子L5,L6に生じる磁界が閉磁路を形成するように巻回している。
【0052】
本第2実施例及び積層体40の第3例の動作は前記第1実施例及び前記第1例と基本的には同様である。本第2実施例においては、一次側直列回路36を二つの二次側直列回路37,38で挟み込むことによって、一次側直列回路36から二次側直列回路37,38への高周波信号のエネルギー伝達ロスが少なくなる。
【0053】
次に、周波数安定化回路35を積層体40として構成した第4例を図10を参照して説明する。この第4例は、前記第3例の積層体40の上に、さらにグランド導体74を設けた基材層51kを積層したものである。グランド導体74は底部に設けたグランド導体68と同様に、導体71,72,73によって形成されるコイルの開口を覆う面積を有している。それゆえ、本第4例では、グランド導体74を設けることによって、コイルによって形成される磁界が積層体40の直上に配置される各種配線からの磁界に影響されにくくなる。このように、第1及び第3インダクタンス素子L1,L3、第2及び第4インダクタンス素子L2,L4がそれぞれ同相で結合しても、一次側直列回路36と二次側直列回路37を結合させることができる。
【0054】
(第3実施例、図11参照)
第3実施例であるアンテナ装置を図11に示す。ここで用いられている周波数安定化回路35は基本的には前記第1実施例と同様の構成を備えている。異なるのは、第1インダクタンス素子L1と第3インダクタンス素子L3とが互いに同相で結合しており、第2インダクタンス素子L2と第4インダクタンス素子L4とが互いに同相で結合している点である。即ち、第1及び第3インダクタンス素子L1,L3は主に磁界を介して結合し、第2及び第4インダクタンス素子L2,L4は主に磁界を介して結合している。本第3実施例の作用効果は第1実施例と基本的に同様である。
【0055】
各インダクタンス素子L1〜L4を構成するコイルパターンをこのように巻回することで、インダクタンス素子L1とインダクタンス素子L2との間で形成される閉磁路(第1閉磁路)、インダクタンス素子L3とインダクタンス素子L4との間で形成される閉磁路(第2閉磁路)、これら第1閉磁路及び第2閉磁路にて形成される閉磁路(第3閉磁路)が形成されるため、各インダクタンス素子L1〜L4における高周波信号の損失を最小限に抑えることができる。
【0056】
(第4実施例、図12参照)
第4実施例であるアンテナ装置を図12に示す。ここで用いられている周波数安定化回路35は第1実施例と同様であり、その作用効果は第1実施例と同様である。第1実施例と異なるのは、周波数安定化回路35と第2放射素子21との間にキャパシタンス素子C4を配置した点である。キャパシタンス素子C4は直流成分、低周波成分をカットするためのバイアスカット用として機能し、ESD対策素子としても機能する。
【0057】
(第5実施例、図13参照)
第5実施例であるアンテナ装置を図13に示す。このアンテナ装置は、GSM方式やCDMA方式に対応可能なマルチバンド対応型移動体無線通信システム(800MHz帯、900MHz帯、1800MHz帯、1900MHz帯)に用いられるアンテナ装置である。ここで用いられている周波数安定化回路35は、一次側直列回路36と二次側直列回路37との間にキャパシタンス素子C5を挿入したもので、他の構成は第1実施例と同様であり、その作用効果は第1実施例と基本的に同様である。そして、放射素子として分岐モノポール型アンテナ11a,11bを設けている。そして、放射素子として分岐モノポール型アンテナ11a,11bを設けている。なお、キャパシタンス素子C5は、ハイバンド側(1800MHz帯、1900MHz帯)の信号を、主として一次側直列回路36と二次側直列回路37を介さずに分岐モノポール型アンテナ11a,11bから給電回路30(またはその逆)に通すための結合コンデンサとして機能する。一次側直列回路36及び二次側直列回路37で形成されるインピーダンス比がハイバンド側(1800MHz帯、1900MHz帯)とローバンド側(800MHz帯、900MHz帯)のいずれにおいても整合していれば、必ずしもキャパシタンス素子C5を設ける必要はない。
【0058】
このアンテナ装置は、移動体通信端末のメインアンテナとして使用可能である。この分岐モノポール型アンテナ11a,11bでは、アンテナ11aが主にハイバンド側(1800〜2400MHz帯)のアンテナ放射素子として、アンテナ11bが主にローバンド側(800〜900MHz帯)のアンテナ放射素子として機能する。ここで、分岐モノポール型アンテナ11a,11bは、それぞれの対応周波数帯でアンテナとして共振している必要はない。なぜなら、周波数安定化回路35が、アンテナ11a,11bのもつ特性インピーダンスをRF回路のインピーダンスにマッチングさせているからである。例えば、周波数安定化回路35は、800〜900MHz帯で、アンテナ11bのもつ特性インピーダンスをRF回路のインピーダンス(通常は50Ω)にマッチングさせている。これにより、アンテナ11bからRF回路の信号を送信し、または、アンテナ11bでRF回路への信号を受信することができる。
【0059】
なお、このように、大きく離れた複数の周波数帯でのインピーダンスマッチングを図る場合には、複数の周波数安定化回路35を並列に配置するなどして、それぞれの周波数帯でインピーダンスマッチングを図ることもできる。また、一次側直列回路36に対して複数の二次側直列回路37を結合させて、複数の二次側直列回路37を用いてそれぞれの周波数帯でインピーダンスマッチングを図ることもできる。
【0060】
(第6実施例、図14及び図15参照)
第6実施例であるアンテナ装置に用いられている周波数安定化回路35は、図14(A)に示すように、給電回路30に接続された一次側リアクタンス回路と、該一次側リアクタンス回路と電界又は磁界を介して結合する二次側リアクタンス回路とで構成されている。一次側リアクタンス回路は、第1リアクタンス素子及び該第1リアクタンス素子に直列接続された第2リアクタンス素子を含む一次側直列回路36にて構成されている。二次側リアクタンス回路は、第1リアクタンス素子と結合する第3リアクタンス素子及び該第3リアクタンス素子に直列接続されて第2リアクタンス素子と結合する第4リアクタンス素子を含む二次側直列回路37にて構成されている。具体的には、第1リアクタンス素子は第1インダクタンス素子L1で構成されており、第2リアクタンス素子は第2インダクタンス素子L2で構成されており、第3リアクタンス素子は第3インダクタンス素子L3で構成されており、第4リアクタンス素子は第4インダクタンス素子L4で構成されている。
【0061】
一次側直列回路36の一方端(第1インダクタンス素子L1の一端)は給電回路30に接続され、二次側直列回路37の一方端(第3インダクタンス素子L3の一端)は第1放射素子11に接続されている。一次側直列回路36の他方端(第2インダクタンス素子L2の他端)及び二次側直列回路37の他方端(第4インダクタンス素子L4の他端)は、第2放射素子21に接続されている。
【0062】
図14(B)に示すように、第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とは互いに逆相で結合しており、同じく、第3インダクタンス素子L3と第4インダクタンス素子L4とは互いに逆相で結合している。また、第1インダクタンス素子L1と第3インダクタンス素子L3とは互いに逆相で結合しており、同様に、第2インダクタンス素子L2と第4インダクタンス素子L4とは互いに逆相で結合している。
【0063】
以上の構成からなる周波数安定化回路35において、給電回路30から一次側直列回路36に流れ込んだ高周波信号電流は、第1インダクタンス素子L1に導かれるとともに、各インダクタンス素子がコイルパターンで形成されている場合、誘導磁界を介して二次電流として第3インダクタンス素子L3に導かれる。また、第2インダクタンス素子L2に導かれた高周波信号電流は誘導磁界を介して二次電流として第4インダクタンス素子L4に導かれる。その結果、高周波信号電流は図14(B)に矢印で示す方向に流れることになる。
【0064】
本第6実施例の構成では、第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2は互いに磁界を強め合うように働くとともに、第3インダクタンス素子L3と第4インダクタンス素子L4も互いに磁界を強め合うように働いており、一次側直列回路36と二次側直列回路37との間の磁界は閉磁路を形成する。
【0065】
そこで、特に、図15に示すように、一次側直列回路36を、インダクタンス素子L3とインダクタンス素子L4との直列回路を含む第1の二次側直列回路37と、インダクタンス素子L5とインダクタンス素子L6との直列回路を含む第2の二次側直列回路38とで挟み込むことによって、二次側直列回路37,38から一次側直列回路36への高周波信号のエネルギー伝達ロスを少なくすることができる。なお、本応用例の構造は、図8に示したアンテナ装置と、インダクタンス素子L2,L4,L6の巻回方向も変更している。
【0066】
(周波数安定化デバイスの第1例、図16〜図18参照)
周波数安定化デバイス135は、図16に示すチップ型の積層体140として構成することができる。この積層体140は誘電体又は磁性体からなる複数の基材層を積層したもので、その裏面には給電回路30に接続される給電端子141、第2放射体21に接続されるグランド端子142、第1放射体11に接続されるアンテナ端子143が設けられている。裏面には、それ以外に、実装のために用いられるNC端子144も設けられている。なお、積層体140の表面に、必要に応じてインピーダンス整合用のインダクタンスやコンデンサを搭載してもよい。また、積層体140内に電極パターンでインダクタンスやコンデンサを形成してもよい。
【0067】
ここで、前記積層体140に内蔵された周波数安定化デバイス135の第1例を図17を参照して説明する。この第1例は、1層目の基材層151aに前記各種端子141,142,143,144が形成され、2層目の基材層151bに第1及び第3インダクタンス素子L1,L3となる導体161,163が形成され、3層目の基材層151cに第2及び第4インダクタンス素子L2,L4となる導体162,164が形成されている。
【0068】
導体161〜164としては、銀や銅などの導電性材料を主成分とするペーストのスクリーン印刷や、金属箔をエッチングするなどして形成することができる。基材層151a〜151cとしては、誘電体であればガラスセラミック材料、エポキシ系樹脂材料などを用いることができ、磁性体であればフェライトセラミック材料やフェライトを含有する樹脂材料などを用いることができる。
【0069】
前記基材層151a〜151cを積層することで、それぞれの導体161〜164及び端子141,142,143は層間接続導体(ビアホール導体)を介して接続され、前述した図14(A)に示す等価回路を形成する。即ち、給電端子141はビアホール導体165aを介して導体161(第1インダクタンス素子L1)の一端に接続され、導体161の他端はビアホール導体165bを介して導体162(第2インダクタンス素子L2)の一端に接続される。導体162の他端はビアホール導体165cを介してグランド端子142に接続され、分岐した導体164(第4インダクタンス素子L4)の他端はビアホール導体165dを介して導体163(第3インダクタンス素子L3)の一端に接続される。導体163の他端はビアホール導体165eを介してアンテナ端子143に接続される。
【0070】
以上のごとく、インダクタンス素子L1〜L4を誘電体や磁性体からなる積層体140に内蔵すること、特に、一次側直列回路36と二次側直列回路37との結合部となる領域を積層体140の内部に設けることによって、周波数安定化デバイス135が積層体140に隣接して配置される他の電子素子からの影響を受けにくくなる。その結果、周波数特性の一層の安定化を図ることができる。
【0071】
また、第1リアクタンス素子L1と第3リアクタンス素子L3とを積層体140の同じ層(基材層151b)に設け、第2リアクタンス素子L2と第4リアクタンス素子L4とを積層体140の同じ層(基材層151c)に設けることにより、積層体140(周波数安定化デバイス135)の厚みが薄くなる。さらに、互いに結合する第1リアクタンス素子L1と第3リアクタンス素子L3及び第2リアクタンス素子L2と第4リアクタンス素子L4を、それぞれ同一工程(例えば、導電性ペーストの塗布)で形成できるため、積層ずれなどに起因する結合度のばらつきが抑制され、信頼性が向上する。
【0072】
第1例である周波数安定化デバイス135では、図18に示すように、給電端子141から入力された高周波信号電流は、第1及び第2インダクタンス素子L2(導体161,162)に矢印aで示すように流れる。この一次電流(矢印a)にて生じる磁界によって、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4(導体163,164)に矢印bに示す高周波信号電流が励起され、誘導電流(二次電流)が流れる。一方、第1及び第2インダクタンス素子L1,L2(導体161,162)に流れる電流が矢印aとは逆方向であると、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4(導体163,164)には矢印bとは逆方向の電流が流れる。
【0073】
一次側直列回路36では、第1及び第2インダクタンス素子L1,L2が互いに逆相で結合し、二次側直列回路37では、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4が互いに逆相で結合し、それぞれ閉磁路を形成している。そのため、エネルギーの損失を小さくすることができる。なお、第1及び第2インダクタンス素子L1,L2のインダクタンス値、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4のインダクタンス値を実質的に同じにすると、閉磁路の漏れ磁界が少なくなり、エネルギーの損失をより小さくすることができる。
【0074】
また、一次側直列回路36における一次電流によって励起される磁界と、二次側直列回路37における二次電流によって励起される磁界は、誘導電流によって互いの磁界を打ち消すように生じている。誘導電流を用いることによってエネルギーの損失が小さくなり、第1及び第3インダクタンス素子L1,L3並びに第2及び第4インダクタンス素子L2,L4は、高い結合度で結合する。即ち、一次側直列回路36と二次側直列回路37とは高い結合度にて結合する。
【0075】
なお、周波数安定化デバイス135のインダクタンス値は、接続線33のインダクタンス値よりも小さいことが好ましい。なぜなら、接続線33のインダクタンス値の影響を小さくすることができるからである。第1及び第2インダクタンス素子L1,L2、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4を逆相で結合させることにより、周波数安定化デバイス135のインダクタンス値を小さくすることができる。
【0076】
以上のように本第1例によれば、一次側直列回路36と二次側直列回路37は、電磁界(閉磁路)を利用して結合されているため、一次側直列回路36にて給電回路30側とのインピーダンスマッチングを図り、二次側直列回路37にて第1放射体11側とのインピーダンスマッチングを図ることにより、一次側と二次側とで独立してインピーダンスを整合させることができる。しかも、高周波信号エネルギーの伝達効率が向上するため、放射体11,21や筺体10,20の形状、開閉状態などに大きく影響されることなく、広い帯域で、高周波信号の周波数特性を安定化させることができる。また、第1リアクタンス素子L1と第3リアクタンス素子L3とを同じ層に設け、第2リアクタンス素子L2と第4リアクタンス素子L4とを同じ層に設けることにより、積層体40の厚みが薄くなり、積層ずれなどに起因する結合度のばらつきが抑制され、信頼性が向上する。
【0077】
(周波数安定化デバイスの第2例、図19参照)
次に、周波数安定化デバイスの第2例を図19を参照して説明する。1層目の基材層171aに前記各種端子141,142,143,144が形成され、第2層目の基材層171bに導体172a,172bが形成されている。3層目の基材層171cに第1及び第3インダクタンス素子L1,L3となる導体173,175が2ターンずつ形成され、4層目の基材層171dに第2及び第4インダクタンス素子L2,L4となる導体174,176が2ターンずつ形成されている。
【0078】
前記基材層171a〜171dを積層することで、それぞれの導体173〜176及び端子141,142,143は層間接続導体(ビアホール導体)を介して接続され、前述した図14(A)に示す等価回路を形成する。即ち、給電端子141はビアホール導体177aを介して導体173(第1インダクタンス素子L1)の一端に接続され、導体173の他端はビアホール導体177bを介して導体174(第2インダクタンス素子L2)の一端に接続される。導体174の他端はビアホール導体177c、導体172a及びビアホール導体177dを介してグランド端子142に接続され、導体172aの他端はビアホール導体177eを介して導体176(第4インダクタンス素子L4)の一端に接続され、導体176の他端はビアホール導体177fを介して導体175(第3インダクタンス素子L3)の一端に接続される。導体175の他端はビアホール導体177g、導体172b及びビアホール導体177hを介してアンテナ端子143に接続される。
【0079】
第2例である周波数安定化デバイスにおいても、前記第1例と同様の作用効果を奏する。一次電流(矢印a)と二次電流(矢印b)との関係は図19に示すとおりである。特に、第2例では、インダクタンス素子L1〜L4を形成する導体173〜176を2ターンずつ巻回しており、コイルの巻回数を多くするとインダクタンス値を大きくすることができる。勿論、3ターン以上であってもよく、あるいは、各コイルを複数層にわたって巻回してもよい。
【0080】
(周波数安定化デバイスの第3例、図20参照)
次に、周波数安定化デバイスの第3例を図20を参照して説明する。この第3例は前記第1例として示した積層体140の基材層151a,151b間に、グランド導体166を設けた基材層151dを積層するとともに、基材層151cの下にグランド導体167を設けた基材層151eを積層したものである。
【0081】
即ち、給電端子141はビアホール導体165a、基材層151dに設けた導体168及びビアホール導体165fを介して導体161(第1インダクタンス素子L1)の一端に接続され、導体161の他端はビアホール導体165bを介して導体162(第2インダクタンス素子L2)の一端に接続される。導体162の他端はビアホール導体165cを介してグランド導体166の一端部に接続され、グランド導体166の他端部はビアホール導体165hを介してグランド端子142に接続される。また、導体162の他端はビアホール導体165gを介してグランド導体167に接続される。導体162から分岐した導体164(第4インダクタンス素子L4)の他端はビアホール導体165dを介して導体163(第3インダクタンス素子L3)の一端に接続される。導体163の他端はビアホール導体165eを介してアンテナ端子143に接続される。
【0082】
第3例である周波数安定化デバイスにおいても、前記第1例と同様の作用効果を奏する。特に、第3例では、積層体140の上部と底部にグランド導体166,167を導体161〜164によって形成されるコイルの開口を覆うように設けることにより、コイルにて生じる磁界がプリント配線基板上の各種配線からの磁界に影響されにくくなる。換言すれば、インダクタンス素子L1〜L4のL値にばらつきが生じにくくなる。
【0083】
(第7実施例、図21及び図22参照)
第7実施例であるアンテナ装置を図21(A)に示す。ここで用いられている周波数安定化回路135は、基本的には図2(A)に示した周波数安定化回路35と同様の構成からなり、さらに、一次側直列回路36と二次側直列回路37との間(第1インダクタンス素子L1の一端と第3インダクタンス素子L3の一端との間)にキャパシタンス素子C11が接続され、第3インダクタンス素子L3及び第4インダクタンス素子L4と並列にキャパシタンス素子C12が接続されている。
【0084】
また、図21(B)に示すように、前記キャパシタンス素子C11,C12に加えて、第1インダクタンス素子L1及び第2インダクタンス素子L2と並列にキャパシタンス素子C13を接続してもよい。
【0085】
図21(A)に示す周波数安定化デバイス135(第4例)は図22に示す積層体140として構成されている。この積層体140において、導体161,163(インダクタンス素子L1,L3)を設けた基材層151b及び導体162,164(インダクタンス素子L2,L4)を設けた基材層151cは、図17に示したものと同様である。基材層151a,151bの間に、基材層151f、151g、151hが積層されている。基材層151fには容量電極181が形成され、基材層151gには容量電極182と導体183とが形成され、基材層151hにはグランド導体184が形成されている。
【0086】
基材層151a〜151hを積層することで、容量電極181,182間にキャパシタンス素子C11が形成され、容量電極182とグランド導体184との間にキャパシタンス素子C12が形成される。より詳しくは、給電端子141はビアホール導体165jを介して容量電極181に接続され、さらに、ビアホール導体165iを介して導体183の一端に接続される。導体183の他端はビアホール導体165fを介して導体161(第1インダクタンス素子L1)の一端に接続され、導体161の他端はビアホール導体165bを介して導体162(第2インダクタンス素子L2)の一端に接続される。導体162の他端はビアホール導体165cを介してグランド導体184の一端部に接続され、グランド導体184の他端部はビアホール導体165kを介してグランド端子142に接続される。
【0087】
また、導体162から分岐した導体164(第4インダクタンス素子L4)の他端はビアホール導体165dを介して導体163(第3インダクタンス素子L3)の一端に接続される。導体163の他端はビアホール導体165eを介してアンテナ端子143に接続される。ビアホール導体165eは基材層151gで容量電極182と接続される。
【0088】
この周波数安定化デバイス135の第4例においては、キャパシタンス素子C11の容量値によって一次側直列回路36と二次側直列回路37の結合度を調整することができる。また、キャパシタンス素子C12の容量値によって二次側直列回路37の共振周波数を調整することができる。図21(B)に示した変形例においては、キャパシタンス素子C13の容量値によって一次側直列回路36の共振周波数を調整することができる。
【0089】
(第8実施例、図23及び図24参照)
第8実施例であるアンテナ装置を図23に示す。ここで用いられている周波数安定化回路は前述した一次側直列回路36と二次側直列回路37に加えて、いま一つの一次側直列回路38(一次側リアクタンス回路)を設けたものである。一次側直列回路38を構成する第5インダクタンス素子L5と第6インダクタンス素子L6とは互いに逆相で結合している。第5インダクタンス素子L5は第1インダクタンス素子L1と逆相で結合しており、第6インダクタンス素子L6は第2インダクタンス素子L2と逆相で結合している。第3インダクタンス素子L3の一端は第1放射体11に接続され、第4インダクタンス素子L4の一端は第2放射体21に接続されている。
【0090】
この周波数安定化デバイス135(第5例)を図24を参照して説明する。この第5例は、1層目の基材層181aに前記各種端子141,142,143,144が形成され、2層目の基材層181bに導体197,198,199が形成されている。3層目の基材層181cに第1、第3及び第5インダクタンス素子L1,L3,L5となる導体191,193,195が形成され、4層目の基材層181dに第2、第4及び第6インダクタンス素子L2,L4,L6となる導体192,194,196が形成されている。導体193は導体191,195によって挟まれ、導体194は導体192,196によって挟まれている。
【0091】
前記基材層181a〜181dを積層することで、それぞれの導体197〜199,191〜196及び端子141,142,143は層間接続導体(ビアホール導体)を介して接続され、図23に示す等価回路を形成する。即ち、給電端子141はビアホール導体201aを介して導体197の中間部に接続され、導体197の一端はビアホール導体201bを介して導体191(第1インダクタンス素子L1)の一端に接続され、導体191の他端はビアホール導体201cを介して導体192(第2インダクタンス素子L2)の一端に接続される。導体192の他端はビアホール導体201dを介してグランド端子142に接続される。ビアホール導体201dは基材層181bで導体198の一端に接続され、導体198の他端はビアホール導体201eを介して導体196(第6インダクタンス素子L6)の一端に接続される。導体196の他端はビアホール導体201fを介した導体195(第5インダクタンス素子L5)の一端に接続され、導体195の他端はビアホール導体201gを介して導体197の他端に接続される。即ち、第5インダクタンスL5の他端はビアホール導体201g、導体197及びビアホール導体201aを介して給電端子141に接続される。
【0092】
一方、グランド端子142に接続されている前記導体198はビアホール導体201hを介して導体194(第4インダクタンス素子L4)の一端に接続され、導体194の他端はビアホール導体201iを介して導体193(第3インダクタンス素子L3)の一端に接続される。導体193の他端はビアホール導体201jを介して導体199の一端に接続され、導体199の他端はビアホール導体201kを介してアンテナ端子143に接続される。
【0093】
本第8実施例及び積層体140の第5例の動作は前記第1実施例及び前記第1例と基本的には同様である。本第8施例においては、二次側直列回路37を二つの一次側直列回路36,38で挟み込むことによって、回路36と回路37,38の結合度を上げることができ、高周波信号のエネルギー伝達ロスが少なくなる。
【0094】
なお、一次側直列回路を二つの二次側直列回路で挟み込む構造であっても構わない。
【0095】
(第9施例、図25〜図27参照)
第9実施例であるアンテナ装置を図25に示す。ここで用いられている周波数安定化デバイス135は基本的には前記第1実施例と同様の構成を備えている。異なるのは、第1インダクタンス素子L1と第3インダクタンス素子L3とが互いに同相で結合しており、第2インダクタンス素子L2と第4インダクタンス素子L4とが互いに同相で結合している点である。即ち、第1及び第3インダクタンス素子L1,L3は主に磁界を介して結合し、第2及び第4インダクタンス素子L2,L4は主に磁界を介して結合している。本第9実施例の作用効果は第1実施例と基本的に同様である。
【0096】
周波数安定化デバイス135の第6例を図26に示す。この第6例は図17に示した第1例と基本的には同じ構造を有し、導体161(第1インダクタンス素子L1)及び導体162(第2インダクタンス素子L2)が、導体163(第3インダクタンス素子L3)及び導体164(第4インダクタンス素子L4)の内側に配置されている点で異なっている。また、この配置に応じて、基材層151a上では給電端子141とアンテナ端子142との配置が入れ換わっている。
【0097】
第6例である周波数安定化デバイス135では、図27に矢印aで示すように高周波信号電流(一次電流)が流れ、矢印bで示すように誘導電流(二次電流)が流れる。この点は、図18で説明したとおりである。
【0098】
(第10実施例、図28〜図32参照)
第10実施例であるインピーダンス変換素子235は、図28(A)に示すように、端子P1,P2に接続された一次側直列回路236と、該一次側直列回路236と電界又は磁界を介して結合する二次側直列回路237とで構成されている。一次側直列回路236は、第1コイル素子L11及び該第1コイル素子L11に直列接続された第2コイル素子L12を含んでいる。二次側直列回路237は、第1コイル素子L11と結合する第3コイル素子L13及び該第3コイル素子L13に直列接続されて第2コイル素子L12と結合する第4コイル素子L14を含んでいる。
【0099】
一次側直列回路236の一方端(第1コイル素子L11の一端)は端子P1に接続され、二次側直列回路237の一方端(第3コイル素子L13の一端)は端子P3に接続されている。一次側直列回路236の他方端(第2コイル素子L12の他端)は端子P2に接続され、二次側直列回路237の他方端(第4コイル素子L14の他端)は端子P4に接続されている。
【0100】
図28(B)に示すように、第1コイル素子L11と第2コイル素子L12とは互いに逆相で結合しており、同じく、第3コイル素子L13と第4コイル素子L14とは互いに逆相で結合している。また、第1コイル素子L11と第3コイル素子L13とは互いに逆相で結合しており、同様に、第2コイル素子L12と第4コイル素子L14とは互いに逆相で結合している。
【0101】
以上の構成からなるインピーダンス変換素子235において、端子P1から一次側直列回路236に流れ込んだ高周波信号電流は、第1コイル素子L11に導かれるとともに、各コイル素子がコイルパターンで形成されている場合、誘導磁界を介して二次電流として第3コイル素子L13に導かれる。また、第2コイル素子L12に導かれた高周波信号電流は誘導磁界を介して二次電流として第4コイル素子L14に導かれる。その結果、高周波信号電流は図28(B)に矢印で示す方向に流れることになる。
【0102】
本第10実施例の構成では、第1コイル素子L11と第2コイル素子L12は互いに磁界を弱め合うように働くとともに、第3コイル素子L13と第4コイル素子L14も互いに磁界を弱め合うように働いており、一次側直列回路236と二次側直列回路237との間の磁界は閉磁路を形成する。また、第1コイル素子L11と第3コイル素子L13間の電界結合により流れる電流と、第1コイル素子L11と第3コイル素子L13間の磁界結合により流れる電流が同じ方向に流れるように電磁界結合が発生する。第2コイル素子L12と第4コイル素子L14間も同様に、電界結合により流れる電流と、磁界結合により流れる電流が同じ方向に流れるように電磁界結合が発生する。さらに、第1コイル素子L11と第2コイル素子L12は図示しない電極パターンを介して図示する電流の方向と同じ方向に電流が流れるように容量結合している。第3コイル素子L13と第4コイル素子L14も同様に図示しない電極パターンを介して図示する電流の方向と同じ方向に電流が流れるように容量結合している。
【0103】
ここで、前記インピーダンス変換素子235における各コイル素子L1〜L4の具体的な構成について説明する。図29はコイル素子L1〜L4の模式的な構成を示し、図32はより具体的な構成を示す。まず、図31及び図32を参照して具体的な構成を説明する。
【0104】
インピーダンス変換素子235は、図31に示すチップ型の積層体240として構成することができる。この積層体240は誘電体又は磁性体からなる複数の基材層を積層したもので、その裏面には端子P1〜P4、実装のために用いられるNC端子P5も設けられている。
【0105】
ここで、前記積層体240に内蔵されたインピーダンス変換素子235の具体例を図29及び図32を参照して説明する。この具体例は、図5に示した積層構造と基本的には同様であり、図5と同じ符号を付している。即ち、最上層の基材層51aに導体61が形成され、2層目の基材層51bに第1及び第2コイル素子L11,L12となる導体62が形成され、3層目の基材層51cに第1及び第2コイル素子L11,L12となる二つの導体63,64が形成されている。4層目の基材層51dに第3及び第4コイル素子L13,L14となる二つの導体65,66が形成され、5層目の基材層51eに第3及び第4コイル素子L13,L14となる導体67が形成されている。さらに、6層目の基材層51fに導体68が形成され、7層目の基材層51gの裏面に端子P1〜P4が形成されている。なお、最上層の基材層51a上には図示しない無地の基材層が積層される。
【0106】
前記基材層51a〜51gを積層することで、それぞれの導体61〜68及び端子P1〜P4は層間接続導体(ビアホール導体)を介して接続され、図28(A)に示す等価回路を形成する。
【0107】
即ち、端子P1は、ビアホール導体45a、導体61及びビアホール導体45bを介して、コイルパターン63の一端に接続され、コイルパターン63の他端は、ビアホール導体45cを介してコイルパターン62aの一端に接続されている。また、コイルパターン62aの他端はコイルパターン62bの一端に接続されており、コイルパターン62bの他端は、ビアホール導体45dを介してコイルパターン64の一端に接続されている。コイルパターン64の他端は、ビアホール導体45eを介して導体68に接続され、導体68はビアホール導体45fを介して端子P2に接続されている。つまり、コイルパターン63及びコイルパターン62aにて第1コイルパターン、つまりコイル素子L11が構成されており、コイルパターン62b及びコイルパターン64にて第2コイルパターン、つまりコイル素子L12が構成されている。
【0108】
また、端子P3は、ビアホール導体45gを介してコイルパターン65の一端に接続され、コイルパターン65の他端は、ビアホール導体45hを介してコイルパターン67aの一端に接続されている。また、コイルパターン67aの他端はコイルパターン67bの一端に接続されており、コイルパターン67bの他端は、ビアホール導体45iを介してコイルパターン66の一端に接続されている。コイルパターン66の他端は、ビアホール導体45jを介して端子P4に接続されている。つまり、コイルパターン65及びコイルパターン67aにて第3コイルパターン、つまりコイル素子L13が構成されており、コイルパターン67b及びコイルパターン66にて第4コイルパターン、つまりコイル素子L14が構成されている。
【0109】
そして、図29及び図32に示すように、第1及び第2コイルパターンは、第1コイルパターンの巻回軸と第2コイルパターンの巻回軸とが平行になるように隣接配置されており、第3及び第4コイルパターンは、第3コイルパターンの巻回軸と第4コイルパターンの巻回軸とが平行になるように隣接配置されている。さらに、第1及び第3コイルパターンは、第1コイルパターンの巻回軸と第3コイルパターンの巻回軸とがほぼ同一直線になるように配置されており、第2及び第4コイルパターンは、第2コイルパターンの巻回軸と第4コイルパターンの巻回軸とがほぼ同一直線上になるように配置されている。
【0110】
なお、各コイルパターンは1ターンのループ状導体にて構成されているが、複数ターンのループ状導体にて構成されていてもよい。また、第1及び第3コイルパターンは、各コイルパターンの巻回軸が厳密に同一直線になるように配置されている必要はなく、平面視したときに、第1及び第3コイルパターンのコイル開口が互いに重なるように、つまり、各コイルパターンに共通の磁束が通過するように、巻回されていればよい。同様に、第2及び第4コイルパターンは、各コイルパターンの巻回軸が厳密に同一直線になるように配置されている必要はなく、平面視したときに、第2及び第4コイルパターンのコイル開口が互いに重なるように、つまり、各コイルパターンに共通の磁束が通過するように、巻回されていればよい。
【0111】
以上のごとく、コイル素子L11〜L14を誘電体や磁性体からなる積層体240に内蔵すること、特に、一次側直列回路236と二次側直列回路237との結合部となる領域を積層体240の内部に設けることによって、インピーダンス変換素子235を構成する素子の素子値、さらには一次側直列回路236と二次側直列回路237との結合度が、積層体240に隣接して配置される他の電子素子からの影響を受けにくくなる。
【0112】
第10実施例であるインピーダンス変換素子235では、図30に示すように、端子P1から入力された高周波電流は、矢印aに示すように流れ、第1コイル素子L11(導体62,63)に矢印c,dで示すように導かれ、さらに、第2コイル素子L12(導体62,64)に矢印e,fで示すように導かれ、端子P2から矢印lで示すように流れる。一次電流(矢印c,d)にて生じる磁界Cによって、第3コイル素子L13(導体65,67)に矢印g,hに示すように高周波電流が励起され、誘導電流(二次電流)が流れる。同様に、一次電流(矢印e,f)にて生じる磁界Cによって、第4コイル素子L14(導体66,67)に矢印i,jに示すように高周波電流が励起され、誘導電流(二次電流)が流れる。その結果、端子P3には矢印kで示す高周波電流が流れ、端子P4には矢印mで示す高周波電流が流れる。なお、端子P1に流れる電流(矢印a)が逆向きであれば、他の電流も逆向きに流れる。また、第1コイル素子L11と第3コイル素子L13間の電界結合により流れる変位電流が誘導電流と同じ方向に流れる。さらに、第2コイル素子L12と第4コイル素子L14も同様にそれぞれの電界結合により流れる変位電流が誘導電流と同じ方向に流れる。さらに、第1コイル素子L11と第2コイル素子L12は図示しない電極パターンを介して容量結合し、一次電流(矢印d,e)と同じ方向に電流が流れる。第3コイル素子L13と第4コイル素子L14も同様に図示しない電極パターンを介して容量結合し、二次電流(矢印h,i)と同じ方向に電流が流れる。
【0113】
一次側直列回路236では、第1及び第2コイル素子L11,L12が互いに逆相で結合し、二次側直列回路237では、第3及び第4インダクタンス素子L3,L4が互いに逆相で結合し、それぞれ閉磁路を形成している。そのため、第1コイル素子L11と第2コイル素子L12との間、並びに、第3コイル素子L13と第4コイル素子L14との間のインピーダンス変換に伴うエネルギーの損失を小さくすることができる。なお、第1及び第2コイル素子L11,L12のインダクタンス値、第3及び第4コイル素子L13,L14のインダクタンス値を実質的に同じ素子値にすると、閉磁路の漏れ磁界が少なくなり、エネルギーの損失をより小さくすることができる。
【0114】
また、一次側直列回路236における一次電流によって励起される磁界Cと、二次側直列回路237における二次電流によって励起される磁界Dは、誘導電流によって互いの磁界を打ち消すように生じている。誘導電流を用いることによってエネルギーの損失が小さくなり、第1及び第3コイル素子L11,L13並びに第2及び第4コイル素子L12,L14は、高い結合度で結合する。即ち、一次側直列回路236と二次側直列回路237とは高い結合度にて結合する。
【0115】
(第11実施例、図33及び図34参照)
第11実施例であるインピーダンス変換素子235を図33に示す。このインピーダンス変換素子235は前述した一次側直列回路236と二次側直列回路237に加えて、いま一つの二次側直列回路238を設けたものである。二次側直列回路238を構成する第5コイル素子L15と第6コイル素子L16とは互いに逆相で結合している。第5コイル素子L15は第1コイル素子L11と逆相で結合しており、第6コイル素子L16は第2コイル素子L12と逆相で結合している。第5コイル素子L15の一端は端子P3に接続され、第6コイル素子L16の一端は端子P4に接続されている。
【0116】
このインピーダンス変換素子235を積層体240として構成した具体例を図34を参照して説明する。この具体例は、前記図32で示した積層体240の上に、さらに二次側直列回路238の第5及び第6コイル素子L15,L16となる導体71,72,73を形成した基材層51i,51jを積層したものである。即ち、前述した第1〜第4コイル素子L11〜L14と同様、第5及び第6コイル素子L15,L16をコイルパターンにて形成し、かつ、第5及び第6コイル素子L15,L16を構成するコイルパターンを、これらのコイル素子L15,L16に生じる磁界が閉磁路を形成するように巻回している。
【0117】
本第11実施例の動作は前記第10実施例と基本的には同様である。本第11実施例においては、一次側直列回路236を二つの二次側直列回路237,238で挟み込むことによって、一次側直列回路236から二次側直列回路237,38への高周波電流のエネルギー伝達ロスが少なくなる。
【0118】
(第12実施例、図35及び図36参照)
第12実施例であるインピーダンス変換素子235は、図35に示すチップ型の積層体240として構成されている。この積層体240は誘電体又は磁性体からなる複数の基材層を積層したもので、図17に示した積層体140と基本的には同様の構成であり、図17と同じ符号を付している。即ち、1層目の基材層151aに端子P1〜P4が形成され、2層目の基材層151bに第1及び第3コイル素子L11,L13となる導体161,163が形成され、3層目の基材層151cに第2及び第4コイル素子L12,L14となる導体162,164が形成されている。
【0119】
導体161〜164としては、銀や銅などの導電性材料を主成分とするペーストのスクリーン印刷や、金属箔をエッチングするなどして形成することができる。基材層151a〜151cとしては、誘電体であればガラスセラミック材料、エポキシ系樹脂材料などを用いることができ、磁性体であればフェライトセラミック材料やフェライトを含有する樹脂材料などを用いることができる。
【0120】
前記基材層151a〜151cを積層することで、それぞれの導体161〜164及び端子P1〜P4は層間接続導体(ビアホール導体)を介して接続され、前述した図28(A)に示す等価回路を形成する。即ち、端子P1はビアホール導体165aを介して導体161(第1コイル素子L11)の一端に接続され、導体161の他端はビアホール導体165bを介して導体162(第2コイル素子L12)の一端に接続される。導体162の他端はビアホール導体165cを介して端子P2に接続される。導体163(第3コイル素子L3)の一端はビアホール導体165eを介して端子P3に接続され、導体163の他端はビアホール導体165dを介して導体164(第4コイル素子L14)の一端に接続され、導体164の他端はビアホール導体165fを介して端子P4に接続される。
【0121】
本第12実施例にあっては、第1コイル素子L11と第3コイル素子L13とを積層体240の同じ層(基材層151b)に設け、第2コイル素子L12と第4コイル素子L14とを積層体240の同じ層(基材層151c)に設けることにより、積層体240の厚みが薄くなる。さらに、互いに結合する第1コイル素子L11と第3コイル素子L13及び第2コイル素子L12と第4コイル素子L14を、それぞれ同一工程(例えば、導電性ペーストの塗布)で形成できるため、積層ずれなどに起因する結合度のばらつきが抑制され、信頼性が向上する。
【0122】
このインピーダンス変換素子235では、図36に示すように、端子P1から入力された高周波電流は、第1及び第2コイル素子L11,L12(導体161,162)に矢印aで示すように流れる。この一次電流(矢印a)にて生じる磁界によって、第3及び第4コイル素子L13,L14(導体163,164)に矢印bに示す高周波電流が励起され、誘導電流(二次電流)が流れる。一方、第1及び第2コイル素子L11,L12(導体161,162)に流れる電流が矢印aとは逆方向であると、第3及び第4コイル素子L13,L14(導体163,164)には矢印bとは逆方向の電流が流れる。
【0123】
一次側直列回路236では、第1及び第2コイル素子子L11,L12が互いに逆相で結合し、二次側直列回路237では、第3及び第4コイル素子L13,L14が互いに逆相で結合し、それぞれ閉磁路を形成している。そのため、エネルギーの損失を小さくすることができる。なお、第1及び第2コイル素子L11,L12のインダクタンス値、第3及び第4コイル素子L13,L14のインダクタンス値を実質的に同じにすると、閉磁路の漏れ磁界が少なくなり、エネルギーの損失をより小さくすることができる。
【0124】
また、一次側直列回路236における一次電流によって励起される磁界と、二次側直列回路237における二次電流によって励起される磁界は、誘導電流によって互いの磁界を打ち消すように生じている。誘導電流を用いることによってエネルギーの損失が小さくなり、第1及び第3コイル素子L11,L13並びに第2及び第4コイル素子L12,L14は、高い結合度で結合する。即ち、一次側直列回路236と二次側直列回路237とは高い結合度にて結合する。
【0125】
(第13実施例、図37参照)
第13実施例であるインピーダンス変換素子235は、図37に示すように、積層体240内において、第1コイル素子L11と第2コイル素子L12とを同一平面上に近接配置し、第3コイル素子L13と第4コイル素子L14とを同一平面上に近接配置し、それぞれのコイル素子L11〜L14を3ターンずつ巻回したものである。また、第1コイル素子L1の巻回軸と第3コイル素子L13の巻回軸とがほぼ同一直線上に配置され、第2コイル素子L12の巻回軸と第4コイル素子L14の巻回軸とがほぼ同一直線上に配置されている。
【0126】
本第13実施例の等価回路は図28(A)に示した第10実施例と同様であり、その作用効果も第10実施例と同様である。特に、第13実施例ではコイル素子L11〜L14のターン数を増加させることにより、結合値が向上する。
【0127】
(他の実施例)
なお、本発明に係る周波数安定化回路、周波数安定化デバイス、アンテナ装置及び通信端末機器並びにインピーダンス変換素子は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0128】
例えば、本発明はワンセグ用やマルチバンド対応の移動体無線通信システム用だけではなく、BluetoothやW−LANのような近距離無線システム(2.4GHz帯)、GPSシステム(1.5GHz帯)など、各種の通信システムに利用できる。
【0129】
また、周波数安定化回路や周波数安定化デバイスの形態は、チップ型の積層体として構成する以外に、ストリップ線路など他の素子と一体化されたモジュールや、放射素子を設けたプリント配線基板に搭載あるいは内蔵したモジュールとして構成することもできる。また、周波数安定化回路や周波数安定化デバイスは、一次側直列回路と二次側直列回路とをワンセット設ける以外に、複数セットを組み合わせて多段化してもよい。第2実施例で示したように一次側直列回路を二次側直列回路で挟んだ構造をワンセットとして多段化してもよい。多段化することで、高周波信号のエネルギー伝達ロスを少なくでき、リターンロスの減衰が急峻になる。また、一次側直列回路や二次側直列回路におけるコイル素子(リアクタンス素子)の素子数は3以上でもよい。
【0130】
給電方式としては、第1放射素子及び第2放射素子をそれぞれ放射素子とみなした場合は平衡給電型であり、第1放射素子を放射素子、第2放射素子をグランドとみなした場合は不平衡給電型である。
【0131】
また、前記インピーダンス変換素子は、昇圧・降圧回路、変流・分流回路、平衡−不平衡変換回路などに使用することができる。前記インピーダンス変換素子においては、一次側直列回路のインダクタンス値と二次側直列回路のインダクタンス値を適宜設定すること(例えば、コイル素子におけるループパターンの巻き数)によって、インピーダンスの変換比を任意に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
以上のように、本発明は、周波数安定化回路、周波数安定化デバイス、アンテナ装置及び通信端末機器並びにインピーダンス変換素子に有用であり、特に、高周波信号の周波数を安定化させるあるいは入力損失が小さい点で優れている。
【符号の説明】
【0133】
1,2…携帯通信端末
10…第1筺体
11…第1放射素子
11a,11b…分岐モノポール型アンテナ
20…第2筺体
21…第2放射素子
30…給電回路
35…周波数安定化回路
36…一次側直列回路
37,38…二次側直列回路
40…積層体
135…周波数安定化デバイス
140…積層体
235…インピーダンス変換素子
L1〜L6…インダクタンス素子
L11〜L16…コイル素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1リアクタンス素子及び該第1リアクタンス素子に直列接続された第2リアクタンス素子を含み、給電回路に接続される一次側直列回路と、
前記第1リアクタンス素子と結合する第3リアクタンス素子及び該第3リアクタンス素子に直列接続されて前記第2リアクタンス素子と結合する第4リアクタンス素子を含み、放射素子に接続される二次側直列回路と、
を備えたことを特徴とする周波数安定化回路。
【請求項2】
前記第1リアクタンス素子と前記第2リアクタンス素子とは互いに同相で結合しており、前記第3リアクタンス素子と前記第4リアクタンス素子とは互いに同相で結合していること、を特徴とする請求項1に記載の周波数安定化回路。
【請求項3】
前記第1リアクタンス素子と前記第3リアクタンス素子とは互いに逆相で結合しており、前記第2リアクタンス素子と前記第4リアクタンス素子とは互いに逆相で結合していること、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の周波数安定化回路。
【請求項4】
前記第1リアクタンス素子と前記第3リアクタンス素子とは互いに同相で結合しており、前記第2リアクタンス素子と前記第4リアクタンス素子とは互いに同相で結合していること、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の周波数安定化回路。
【請求項5】
前記第2リアクタンス素子及び前記第4リアクタンス素子はグランドに接続されること、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の周波数安定化回路。
【請求項6】
前記第1、第2、第3及び第4リアクタンス素子はそれぞれ第1、第2、第3及び第4インダクタンス素子であること、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の周波数安定化回路。
【請求項7】
前記第1、第2、第3及び第4インダクタンス素子は、ループ状導体を含む第1、第2、第3及び第4コイルパターンにてそれぞれ形成されていること、を特徴とする請求項6に記載の周波数安定化回路。
【請求項8】
前記第1及び第2コイルパターンは、これらのコイルパターンに生じる磁界が閉磁路を形成するように巻回されており、前記第3及び第4コイルパターンも、これらのコイルパターンに生じる磁界が閉磁路を形成するように巻回されていること、を特徴とする請求項7に記載の周波数安定化回路。
【請求項9】
前記第1及び第2コイルパターンは、前記第1コイルパターンの巻回軸と前記第2コイルパターンの巻回軸とが平行になるように隣接配置されており、前記第3及び第4コイルパターンは、前記第3コイルパターンの巻回軸と前記第4コイルパターンの巻回軸とが平行になるように隣接配置されており、前記第1及び第3コイルパターンは、前記第1コイルパターンの巻回軸と前記第3コイルパターンの巻回軸とがほぼ同一直線になるように配置されており、前記第2及び第4コイルパターンは、前記第2コイルパターンの巻回軸と前記第4コイルパターンの巻回軸とがほぼ同一直線になるように配置されていること、を特徴とする請求項7又は請求項8に記載の周波数安定化回路。
【請求項10】
前記素体は誘電体又は磁性体からなる複数の基材層を積層してなる積層体にて構成され、前記一次側直列回路と前記二次側直列回路との結合領域が前記積層体の内部に設けられていること、を特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の周波数安定化回路。
【請求項11】
前記第1リアクタンス素子と結合する第5リアクタンス素子及び該第5リアクタンス素子に直列接続されて前記第2リアクタンス素子と結合する第6リアクタンス素子を含み、前記放射素子に接続されるいま一つの二次側直列回路をさらに備えたこと、を特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の周波数安定化回路。
【請求項12】
前記第5及び第6リアクタンス素子はそれぞれ第5及び第6インダクタンス素子であり、前記第5及び第6インダクタンス素子はループ状導体を含む第5及び第6コイルパターンにてそれぞれ形成されていて、前記第5及び第6コイルパターンは、これらのコイルパターンに生じる磁界が閉磁路を形成するように巻回されていること、を特徴とする請求項11に記載の周波数安定化回路。
【請求項13】
周波数安定化回路と放射素子とを備え、
前記周波数安定化回路は、
第1リアクタンス素子及び該第1リアクタンス素子に直列接続された第2リアクタンス素子を含み、給電回路に接続される一次側直列回路と、
前記第1リアクタンス素子と結合する第3リアクタンス素子及び該第3リアクタンス素子に直列接続されて前記第2リアクタンス素子と結合する第4リアクタンス素子を含む二次側直列回路と、を備え、
前記放射素子は前記二次側直列回路に接続されていること、
を特徴とするアンテナ装置。
【請求項14】
周波数安定化回路と給電回路と放射素子とを備え、
前記周波数安定化回路は、
第1リアクタンス素子及び該第1リアクタンス素子に直列接続された第2リアクタンス素子を含む一次側直列回路と、
前記第1リアクタンス素子と結合する第3リアクタンス素子及び該第3リアクタンス素子に直列接続されて前記第2リアクタンス素子と結合する第4リアクタンス素子を含む二次側直列回路と、を備え、
前記給電回路は前記一次側直列回路に接続され、
前記放射素子は前記二次側直列回路に接続されていること、
を特徴とする通信端末機器。
【請求項15】
複数の誘電体層又は磁性体層を積層してなる積層体と、
前記積層体に設けられ、第1リアクタンス素子及び該第1リアクタンス素子に直列接続された第2リアクタンス素子を含み、給電回路に接続される一次側直列回路と、
前記積層体に設けられ、前記該第1リアクタンス素子と結合する第3リアクタンス素子、及び、前記第3リアクタンス素子に直列接続されて前記第2リアクタンス素子と結合する第4リアクタンス素子を含み、放射素子に接続される二次側直列回路と、
を備えたことを特徴とする周波数安定化デバイス。
【請求項16】
前記第3リアクタンス素子は前記第1リアクタンス素子と同じ層に設けられ、第4リアクタンス素子は前記第2リアクタンス素子と同じ層に設けられていること、を特徴とする請求項15に記載の周波数安定化デバイス。
【請求項17】
前記第1、第2、第3及び第4リアクタンス素子はそれぞれ第1、第2、第3及び第4インダクタンス素子であり、
前記第1、第2、第3及び第4インダクタンス素子は、ループ状導体を含む第1、第2、第3及び第4コイルパターンにてそれぞれ形成されており、
前記第1及び第2コイルパターンは、前記第1コイルパターンの巻回軸と前記第2コイルパターンの巻回軸とが平行になるように隣接配置されており、
前記第3及び第4コイルパターンは、前記第3コイルパターンの巻回軸と前記第4コイルパターンの巻回軸とが平行になるように隣接配置されており、
前記第1及び第3コイルパターンは、前記第1コイルパターンの巻回軸と前記第3コイルパターンの巻回軸とがほぼ同一直線になるように配置されており、
前記第2及び第4コイルパターンは、前記第2コイルパターンの巻回軸と前記第4コイルパターンの巻回軸とがほぼ同一直線になるように配置されていること、
を特徴とする請求項15に記載の周波数安定化デバイス。
【請求項18】
第1コイル素子及び該第1コイル素子に直列接続された第2コイル素子を含んで構成された一次側直列回路と、
前記第1コイル素子と結合する第3コイル素子及び該第3コイル素子に直列接続されて前記第2コイル素子と結合する第4コイル素子を含んで構成された二次側直列回路と、
を備えたことを特徴とするインピーダンス変換素子。
【請求項19】
前記第1コイル素子の巻回軸と前記第3コイル素子の巻回軸とがほぼ同一直線上に配置され、前記第2コイル素子の巻回軸と前記第4コイル素子の巻回軸とがほぼ同一直線上に配置されていること、を特徴とする請求項18に記載のインピーダンス変換素子。
【請求項20】
前記第1、第2、第3及び第4コイル素子は、それぞれ、コイルパターンを積層してなるものであること、を特徴とする請求項18又は請求項19に記載のインピーダンス変換素子。
【請求項21】
前記第1、第2、第3及び第4コイル素子は、ループ状導体を複数ターン巻回してなるものであること、を特徴とする請求項18又は請求項19に記載のインピーダンス変換素子。
【請求項22】
前記第1コイル素子と逆相で磁気結合している第5コイル素子及び該第5コイル素子に直列接続されて該第5コイル素子と逆相で磁気結合し、かつ、前記第2コイル素子と逆相で磁気結合している第6コイル素子を含み、前記第1コイル素子が前記第3コイル素子と前記第5コイル素子とで挟み込まれており、前記第2コイル素子が前記第4コイル素子と前記第6コイル素子とで挟み込まれていること、を特徴とする請求項18ないし請求項21のいずれかに記載のインピーダンス変換素子。
【請求項23】
前記第1コイル素子と前記第2コイル素子とは同一平面上に近接配置されており、前記第3コイル素子と前記第4コイル素子とは同一平面上に近接配置されていること、を特徴とする請求項18ないし請求項22のいずれかに記載のインピーダンス変換素子。
【請求項24】
前記第1コイル素子と前記第2コイル素子とは異なる平面上に配置されており、前記第3コイル素子と前記第4コイル素子とは異なる平面上に配置されており、前記第1コイル素子と前記第3コイル素子とが同一平面上に配置されており、前記第2コイル素子と前記第4コイル素子とが同一平面上に配置されていること、を特徴とする請求項18ないし請求項22のいずれかに記載のインピーダンス変換素子。
【請求項25】
前記第1、第2、第3及び第4コイル素子は誘電体又は磁性体からなる積層体に一体的に形成されていること、を特徴とする請求項18ないし請求項24のいずれかに記載のインピーダンス変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2011−244422(P2011−244422A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8354(P2011−8354)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【特許番号】特許第4752979号(P4752979)
【特許公報発行日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
2.Bluetooth
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】