説明

噛み合いクラッチシステムの制御装置

【課題】噛み合い歯として矩形歯を用いた噛み合いクラッチにおいて、噛み合い歯同士を正確に噛み合わせ、一対の係合要素を正確に係合させる。
【解決手段】軸線方向と交わる方向へ相対回転可能に構成され、各々の対向面に、前記軸線回りに周状に配列し且つ対向面が平坦な複数の矩形状の噛み合い歯が形成されてなる一対の係合要素を備えた噛み合いクラッチを備えた噛み合いクラッチシステムを制御する装置(100)は、一対の係合要素の差回転速度を検出する検出手段と、一対の係合要素が噛み合い歯同士が対向面で接触した接触状態にあるか否かを判定する判定手段と、一対の係合要素が接触状態にあると判定され、検出された差回転速度が所定値未満である場合に、差回転速度を増加させる第1の制御手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電磁ドグクラッチ装置等の噛み合いクラッチシステムを制御する、噛み合いクラッチシステムの制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された電気自動車の変速駆動装置によれば、出力軸クラッチと第1又は第2クラッチとが択一的に接続してモータ出力を選択的に変速する構成によって、伝達効率が良く、構造が簡素で安価な電磁式クラッチを電気自動車に適用することができるとされる。また、当該文献には、双方のクラッチに速度差を持たせることにより、歯先が接触した角型突起形状のクラッチ歯が歯一つ分ずれ、これらが正常に噛み合うとの記載がある。
【0003】
また、特許文献2には、電動機の軸線を中心として円周方向に形成された第1の係合部材と、円周方向に配置された第2の係合部材と、第1の係合部材と第2の係合部材とを係合・解放させるアクチュエータとを有する駆動装置が開示されている。この駆動装置は更に、第1の係合部材と第2の係合部材とを係合させる場合に、第1の係合部材を電動機で回転させることにより、第1の係合部材と第2の係合部材との円周方向における位相を調整する位相調整手段を備える。また、当該文献には、位相調整によりこれらが噛合しない場合には、位相の再調整を実行する点も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−196128号公報
【特許文献2】特開2008−114848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えばドグクラッチ等の噛み合いクラッチの噛み合い歯の形状として、矩形歯やチャンファ歯等各種の形状が提案されている。特に、矩形歯には、他の形状と較べてクラッチ係合時のストローク量が小さくて済む、或いは耐久性も良好である等の利点がある。
【0006】
一方、噛み合いクラッチにおいて、位相制御により一対の係合要素相互間で噛み合い歯の位相同期を図ることは不可能ではないが、対向方向へのストローク開始以前に、一方の係合要素の凸部及び凹部を他方の係合要素の凹部及び凸部に正確に対向させることは一般的に容易ではない。従って、この種の噛み合いクラッチでは、一対の係合要素相互間の距離を縮める傍らでこれらに微小な差回転を持たせる場合が多い。或いは、一対の係合要素が接触した後にこれらに微小な差回転を持たせる場合が多い。
【0007】
このような構成とすれば、一対の係合要素の噛み合い歯同士が対向方向において接触した後に、この差回転により両者を正常な噛み合い位置に誘導することができ、一対の係合要素を迅速に係合させることが出来る。これは、上述のように上記特許文献1にも開示されるところである。
【0008】
ところが、噛み合い歯として矩形歯が用いられる場合、噛み合い歯が接触した状態において両者の平坦面同士が接触しているため、対向方向(即ち、ストローク方向)への押圧力に応じた相応の摩擦力が発生する。この摩擦力によっては、噛み合い歯同士の差回転速度が減少し、噛み合い歯同士が噛み合っていないにもかかわらず両者の差回転速度がゼロとなることがある。噛み合いクラッチのこのような状態を、以下、適宜「誤ロック状態」等と表現する。
【0009】
このような矩形歯を用いた際の問題点は、上記特許文献に記載されたものを含む従来の装置において何ら考慮されておらず、これらの装置では、噛み合いクラッチが上述した誤ロック状態に陥る可能性を排除することが出来ない。
【0010】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、噛み合い歯として矩形歯を用いた噛み合いクラッチを有する噛み合いクラッチシステムにおいて、噛み合い歯同士を正確に噛み合わせ、一対の係合要素を正確に係合させることが可能な噛み合いクラッチシステムの制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明に係る噛み合いクラッチシステムの制御装置は、軸線方向と交わる方向へ相対回転可能に構成され、各々の対向面に、前記軸線回りに周状に配列し且つ対向面が平坦な複数の矩形状の噛み合い歯が形成されてなる一対の係合要素を備えた噛み合いクラッチと、前記一対の係合要素の少なくとも一方に対し前記相対回転を促す第1の駆動力を付与可能な第1の駆動力付与手段と、前記一対の係合要素の少なくとも一方に対し前記軸線方向の位置変化を促す第2の駆動力を付与可能な第2の駆動力付与手段とを備え、前記一対の係合要素が接近するように前記第2の駆動力が付与される過程で前記一対の係合要素が前記各々に形成された噛み合い歯同士が前記平坦な対向面において接触してなる接触状態にある場合において前記第1の駆動力により前記一対の係合要素に差回転が与えられることによって、前記噛み合いクラッチを前記一対の係合要素が前記各々に形成された噛み合い歯同士が噛み合う係合状態へ移行させる噛み合いクラッチシステムを制御する、噛み合いクラッチシステムの制御装置であって、前記差回転に係る差回転速度を検出する検出手段と、前記一対の係合要素が前記接触状態にあるか否かを判定する判定手段と、前記一対の係合要素が前記接触状態にあると判定され、且つ、前記検出された差回転速度が所定値未満である場合に、前記差回転速度が増加するように前記第1の駆動力付与手段を制御する第1の制御手段とを具備することを特徴とする(請求項1)。
【0012】
本発明によれば、各々が、その対向面において軸線回りに周状に形成された複数の噛み合い歯を有する一対の係合要素の係合時に、第1の駆動力付与手段により第1の駆動力が付与され、第2の駆動力付与手段により第2の駆動力が付与される。
【0013】
この第1の駆動力は、一対の係合要素の相対回転を促す駆動力であって、一対の係合要素の係合時において差回転を生じさせる駆動力である。この差回転の回転速度である差回転速度は、検出手段により検出される。尚、第1の駆動力は、両者に差回転を生じさせ得る限りにおいて、一対の係合要素のいずれか一方に与えられてもよいし、双方に与えられてもよい。
【0014】
尚、一対の係合要素を構成する一方の係合要素の回転速度と、他方の係合要素の回転速度とは、一方の係合要素が固定要素に連結されている場合は元より、一対の係合要素の双方が回転要素に連結されている場合であっても係合プロセス開始以前において大きく異なっている場合が多い。従って、厳密には、非ロック状態において、一対の係合要素には恒常的な差回転が生じているとも言えるのであるが、第1の駆動力の作用により定義される差回転とは、このような、通常用途において自然と生じる差回転とは異なるものである。
【0015】
即ち、本発明に係る差回転とは、好適には、一旦回転同期が図られた後に改めて与えられる、或いは、このような回転同期制御は経ないにしても、両者の相対回転速度を低下させるべく何某かの収束制御が適用された後に得られる、係合プロセス用に適合された回転を意味する。この差回転速度は、一対の係合要素の係合を正確に完了させる目的に、係合完了時の物理衝撃による快適性の低下を防止する目的が加わる場合には、好適な一形態として、例えば、毎分数〜数十回転程度の微小な速度範囲で設定され得る。
【0016】
一方、第2の駆動力は、一対の係合要素の軸線方向(即ち、対向方向)への位置変化を促す駆動力であって、一対の係合要素の軸線方向の相対距離を、少なくとも、両者が十分に離れた非ロック状態に相当する値から両者が正常に係合したロック状態に相当する位置まで変化させ得る駆動力である。尚、第2の駆動力は、係る趣旨に沿う限りにおいて、一対の係合要素のいずれか一方に与えられてもよいし、双方に与えられてもよい。
【0017】
第1の駆動力の付与を開始するタイミング及び第2の駆動力の付与を開始するタイミング或いは両者の時間軸上の相対的位置関係は多義的であり、一方が他方に先んじてもよいし、略同時であってもよい。例えば、第1の駆動力により一対の係合要素を回転同期状態に移行させた後、第2の駆動力の付与を開始し、一対の係合要素が回転同期状態で接触した後に第1の駆動力により差回転を生じさせる構成であってもよい。或いは、第1の駆動力により一対の係合要素を回転同期状態に移行させた後、更に第1の駆動力により一対の係合要素に差回転を生じさせ、それと略同時に又は相前後して第2の駆動力の付与を開始する構成であってもよい。
【0018】
本発明によれば、判定手段により一対の係合要素が接触状態にあるとの判定がなされ、且つ検出手段により検出された差回転速度が所定値未満である場合に、第1の制御手段により一対の係合要素の差回転速度が増加させられる。
【0019】
一対の係合要素が接触状態にあり且つ両者の差回転速度が所定値未満である場合、この所定値を適切に設定すれば(好適には、ゼロ又はその近傍値に設定すれば)、一対の係合要素における各噛み合い歯が、正常に噛み合う以前において、その平坦な対向面(頂面と表現してもよい)同士が接触した状態で擬似的にロックした状態にあること(即ち、噛み合いクラッチが誤ロック状態にあること)を正確に判定することが出来る。
【0020】
従って、このような場合について差回転を上昇させることによって、この種の擬似的なロック状態を解消し、噛み合いクラッチを誤ロック状態から脱出せしめ、もって噛み合いクラッチを的確に係合状態に移行させることが出来るのである。
【0021】
尚、第1の駆動力により惹起される差回転により相対回転する過程において第2の駆動力により軸線方向に押し込まれることによって、一方の係合要素における相互いに隣接する噛み合い歯間に形成された凹部に他方の係合要素における噛み合い歯(即ち、言うなれば凸部)が噛み合う点を考慮すれば、この差回転の増加に係る増加幅には、予め実験的に、経験的に又は理論的に上限値が設けられてもよい。この上限値は、先に述べた毎分数〜数十回転程度の速度範囲で定義されてもよい。
【0022】
尚、「所定値未満」とされるように、差回転速度を上昇させるべき旨の判定は、一対の係合要素が未だ軸線周りに相対回転している状況においてなされてもよい。この場合、好適には、噛み合い歯の接触距離の残量と差回転速度とに鑑みて、差回転速度を上昇させる旨の措置を施すか否かの判断や、差回転速度の上昇幅の決定を行ってもよい。
【0023】
尚、本発明に係る噛み合いクラッチ及び噛み合いクラッチシステムの用途は多様である。例えば、本発明に係る噛み合いクラッチは、車両における各種動力伝達に用いられてもよい。この場合の動力伝達とは、例えば、内燃機関や電動機又は電動発電機等の各種動力源と、車軸に直接的に又は間接的に連結された出力軸との間の動力伝達であってもよい。或いは、この種の動力源と、この種の動力源の回転速度領域を変速比に応じて変化させ得る各種有段変速装置の変速段との間の動力伝達であってもよい。或いは、この種の動力源と、固定回転要素との間の動力伝達(即ち、動力源の回転がロックされることを意味する)であってもよい。
【0024】
また、本発明に係る噛み合いクラッチ或いは噛み合いクラッチシステムが、内燃機関と電動機又は電動発電機とを有するハイブリッド車両等に適用される場合、本発明に係る第1の駆動力付与手段とは、これら電動機又は電動発電機であってもよい。
【0025】
本発明に係る噛み合いクラッチシステムの制御装置の一の態様では、前記第1の制御手段は、前記一対の係合要素が前記接触状態にあり、且つ、前記検出された差回転速度がゼロ相当値である場合に、前記差回転速度を増加させる(請求項2)。
【0026】
この態様によれば、噛み合いクラッチが誤ロック状態に陥った旨が確定したことをもって差回転速度の増加が図られるため、第1の駆動力を効率的に作用させることができ、効率的である。
【0027】
本発明に係る噛み合いクラッチシステムの制御装置の他の態様では、前記一対の係合要素が前記接触状態にあり、且つ、前記検出された差回転速度が所定値未満である場合に、前記接触状態が維持される範囲で前記第2の駆動力が減少するように前記第2の駆動力付与手段を制御する第2の制御手段を更に具備する(請求項3)。
【0028】
この態様によれば、第2の駆動力を減少させることによって、一対の係合要素に形成された噛み合い歯の対向面(即ち、接触面)に作用する押圧力が減少するため、係る対向面間に作用する物理的な摩擦力を低減することが出来る。従って、一対の係合要素の差回転速度が増加し易くなり、誤ロック状態を迅速に解消することが出来る。
【0029】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車両におけるハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】図2のハイブリッド駆動装置におけるロック機構の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図4】図2のロック機構の係合プロセスを説明する概念図である。
【図5】図4のロック機構における誤ロック状態の概念図である。
【図6】図1のハイブリッド車両においてECUにより実行される誤ロック防止制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0032】
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0033】
図1において、ハイブリッド車両10は、ECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12及びハイブリッド駆動装置20を備えた車両である。
【0034】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備え、ハイブリッド車両10の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「検出手段」、「判定手段」、「第1の制御手段」及び「第2の制御手段」の一例である。
【0035】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給可能に構成された不図示のインバータを含み、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0036】
バッテリ12は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な蓄電手段である。
【0037】
ハイブリッド駆動装置20は、ハイブリッド車両10のパワートレインである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置20の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置20の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0038】
図2において、ハイブリッド駆動装置20は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、ロック機構400及び減速機構500を備える。
【0039】
エンジン200は、ハイブリッド車両10の主たる動力源として機能する公知の各種態様を有する内燃機関である。エンジン200は、動力出力軸としてのクランク軸(不図示)を備えており、このクランク軸は、ハイブリッド駆動装置20の入力軸21に連結されている。
【0040】
モータジェネレータMG1は、本発明に係る「第1の駆動力付与手段」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有していてもよいし、他の構成を有していてもよい。
【0041】
動力分割機構300は、遊星歯車機構であり、中心部に設けられたサンギアS1と、サンギアS1の外周に同心円状に設けられたリングギアR1と、サンギアS1とリングギアR1との間に配置されてサンギアS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギアP1と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するプラネタリキャリアC1とを備える。
【0042】
サンギアS1は、モータジェネレータMG1のロータRTに連結された中空のMG1出力軸22(即ち、本発明に係る「軸線」の一例である)に結合されており、その回転速度はMG1の回転速度たるMG1回転速度Nmg1と等価である。
【0043】
リングギアR1は、ハイブリッド駆動装置20の動力出力軸たる駆動軸24及び減速機構500を介してモータジェネレータMG2の不図示のロータに結合されており、その回転速度はMG2の回転速度たるMG2回転速度Nmg2と等価である。また、プラネタリキャリアC1は、入力軸21に結合されており、その回転速度はエンジン200の機関回転速度NEと等価である。
【0044】
駆動軸24は、ハイブリッド車両10の駆動輪たる右前輪FR及び左前輪FLを夫々駆動するドライブシャフトSFR及びSFLと、デファレンシャル等各種減速ギアを含む減速装置としての減速機構500を介して連結されている。従って、モータジェネレータMG2から駆動軸24に出力されるモータトルクTmは、減速機構500を介して各ドライブシャフトへと伝達され、同様に各ドライブシャフトを介して伝達される各駆動輪からの駆動力は、減速機構500及び駆動軸24を介してモータジェネレータMG2に入力される。即ち、MG2回転速度Nmg2は、ハイブリッド車両10の車速Vと一義的な関係にある。
【0045】
動力分割機構300は、係る構成の下で、エンジン200が発する動力を、プラネタリキャリアC1とピニオンギアP1とによってサンギアS1及びリングギアR1に所定の比率(各ギア相互間のギア比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能となっている。
【0046】
ハイブリッド駆動装置20は、モータジェネレータMG1の回転量を検出可能に構成された回転センサである第1レゾルバ23と、モータジェネレータMG2の回転量を検出可能に構成された回転センサである第2レゾルバ25とを備える。これら各レゾルバは、ECU100と電気的に接続されており、検出された回転量は、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。尚、ECU100は、検出された回転量を時間微分処理することにより、各モータジェネレータの回転速度(即ち、Nmg1及びNmg2)を算出することが出来る。
【0047】
ロック機構400は、駆動側クラッチプレート410、固定側クラッチプレート420及びアクチュエータ430を備えたドグクラッチ機構である。駆動側クラッチプレート410及び固定側クラッチプレート420は、本発明に係る「一対の係合要素」の一例であり、また本発明に係る「噛み合いクラッチ」の一例である。また、アクチュエータ430は、本発明に係る「第2の駆動力付与手段」の一例である。
【0048】
駆動側クラッチプレート410は、MG1出力軸22に連結された係合部材である。駆動側クラッチプレート410は、図示破線で示される軸線方向と交わる平面において略リング状の対向面を有する。尚、対向面とは、固定側クラッチプレート420と対向する面を意味する。駆動側クラッチプレート410の当該対向面における外周部分には、周方向に配列した複数の噛み合い歯412x(x=1,2,・・・)が形成されている。尚、駆動側クラッチプレート410の詳細については後述する。
【0049】
固定側クラッチプレート420は、ハイブリッド駆動装置20のケースCSに固定された係合部材である。固定側クラッチプレート420は、図示破線で示される軸線方向と交わる平面において略リング状の対向面を有する。即ち、上述した駆動側クラッチプレート410の対向面は、この固定側クラッチプレート420の対向面と軸線方向に対向配置されている。固定側クラッチプレート420の当該対向面における外周部分には、周方向に配列した複数の噛み合い歯422x(x=1,2,・・・)が形成されている。尚、固定側クラッチプレート420の詳細については後述する。
【0050】
アクチュエータ430は、駆動側クラッチプレート410の軸線方向位置Xを変化させることが可能な、公知の電磁駆動型アクチュエータである。
【0051】
具体的には、アクチュエータ430は、駆動側クラッチプレート410の外周に非磁性リングを介して固定された不図示の可動部と、この可動部の外周に配設された不図示の駆動部とを備える。この可動部には永久磁石が固定されており、また駆動部にはヨークと、当該ヨーク内部に固定された励磁コイルとその励磁回路が備わっている。この励磁回路は、ECU100と電気的に接続されており、励磁回路を介して励磁コイルに供給される励磁電流の値は、ECU100により可変となっている。
【0052】
このような構成の下、アクチュエータ430は、励磁コイルに励磁電流が供給された際に軸線方向に、本発明に係る「第2の駆動力」の一例としての電磁力F2を生じさせることが出来る。この電磁力F2は、可動部に固定された永久磁石に作用するため、電磁力F2が発生すると、駆動側クラッチプレート410は軸線方向に移動する。即ち、駆動側クラッチプレート410の軸線方向位置Xを変化させることが出来る。尚、励磁電流の符号を反転させることにより、駆動側クラッチプレート410の軸線方向における移動方向を反転させることも出来る。
【0053】
尚、このようなアクチュエータの構成は、一例であり、駆動側クラッチプレート410の軸線方向位置Xを変化させることが可能である限りにおいて、アクチュエータは如何なる構成を有していてもよい。例えば、アクチュエータ430に相当するアクチュエータとして、公知の油圧駆動型アクチュエータが備わっていてもよい。
【0054】
次に、図3を参照し、ロック機構400の詳細について説明する。ここに、図3は、ロック機構400の構成を概念的に表わしてなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0055】
図3において、駆動側クラッチプレート410は、プレート部411、噛み合い歯412x(図ではx=1,2,3)及び上述した可動部としての可動部413を備える。
【0056】
プレート部411は、駆動側クラッチプレート410の基台をなすリング状部材である。
【0057】
噛み合い歯412xは、図示する断面及び軸線方向と交わる断面において断面視矩形状をなす噛み合い用の歯であり、プレート部411の軸線方向に交わるリング状平面において、その外周部に周状に等間隔に配列している。尚、図では、煩雑化を防ぐ目的から、噛み合い歯412xの厚さ(図示軸線方向と直交する上下方向の長さ)が全て等しく表わされているが、噛み合い歯が周状に配列することに鑑みれば、本来、図示する断面におけるこれらの厚さは異なっている。
【0058】
可動部413は、内周部がMG1出力軸23とスプライン結合しており、軸線方向への移動が可能な構成となっている。
【0059】
一方、固定側クラッチプレート420は、プレート部421及び噛み合い歯422x(図ではx=1,2,3)を備える。
【0060】
プレート部421は、駆動側クラッチプレート410と同様、固定側クラッチプレート420の基台をなすリング状部材である。このプレート部421は、固定回転要素としてのケースCSに固定されているので、固定側クラッチプレート420は常にその回転速度がゼロである。
【0061】
噛み合い歯422xは、駆動側クラッチプレート410と同様、断面視矩形状をなす噛み合い用の歯であり、プレート部421の軸線方向に交わるリング状平面において、その外周部に周状に等間隔に配列している。尚、図では、煩雑化を防ぐ目的から、噛み合い歯422xの厚さ(図示軸線方向と直交する上下方向の長さ)が全て等しく表わされているが、噛み合い歯が周状に配列することに鑑みれば、本来、図示する断面におけるこれらの厚さは異なっている。
【0062】
一対の係合部材である駆動側クラッチプレート410と固定側クラッチプレート420とが図示する位置関係にある場合、ロック機構400は非ロック状態にある。非ロック状態では、図示するように、駆動側クラッチプレート410における噛み合い歯412xの対向面(頂面)と、固定側クラッチプレート420における噛み合い歯422xの対向面(頂面)との軸線方向距離はDである。
【0063】
<実施形態の動作>
次に、図4を参照し、ロック機構400における係合プロセスについて説明する。ここに、図4は、ロック機構400の係合プロセスの概念図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0064】
図4において、図4(a)は、非ロック状態において係合プロセスが開始された時点のロック機構400の状態を表す。
【0065】
即ち、ロック機構400を係合させるにあたっては、駆動側クラッチプレート410に対し、軸線周りに回転する方向(以下、適宜「回転方向」と表記する)にMG1トルクTmg1に相当する回転駆動力F1(即ち、本発明に係る「第1の駆動力」の一例)が付与される。また、それと相前後して、上述した電磁力F2(第2の駆動力)が付与される。即ち、駆動側クラッチプレート410は、固定要素である固定側クラッチプレート420との間に差回転を生じた状態で、固定側クラッチプレート420の方向へ接近する。
【0066】
尚、固定側クラッチプレート420と駆動側クラッチプレート410との間に差回転を生じさせる具体的プロセスは限定されない。例えば、両者は一旦相対回転速度がゼロ(本実施形態で言えば、実回転速度もゼロである)とされた後に、駆動側クラッチプレート410に回転駆動力F1が与えられることによって差回転を生じてもよい。或いは、ある目標とする差回転速度に収束するように回転駆動力F1が制御された結果として係る差回転速度に相当する差回転を生じてもよい。
【0067】
このように固定側クラッチプレート420に対し相対的に回転しつつ接近する過程において、両者の噛み合い歯は、高い確率でその対向面において接触する。一方、そのような接触状態においても基本的に両者の間には差回転が生じているから、差回転により噛み合い歯同士の位置関係が変化する過程において、固定側クラッチプレート420における相互に隣接する噛み合い歯の間に形成された凹部に、駆動側クラッチプレート410における噛み合い歯412xが挿入される。この状態が図4(b)に示される。図4(b)に示された状態では、駆動側クラッチプレート420は固定側クラッチプレートと係合した係合状態となる。即ち、駆動側クラッチプレート420のロックが完了する。
【0068】
尚、ハイブリッド駆動装置20におけるロック機構400の効能については、公知であり、また本発明との相関も薄いので、ここでは割愛する。簡略的には、ロック機構400により駆動側クラッチプレート410、ひいてはモータジェネレータMG1の回転がロックされた状態では、動力分割機構300の構成上、エンジン200の動作点が車速と一義的な関係を有する所謂直結モードが実現される。直結モードでは、MG1トルクTmg1によりエンジントルクTeの反力を負担する必要はなくなるため(ロック機構が反力要素となる)、MG1を非稼働停止状態とすることができ、動力循環と称される非効率な電気パスの発生を阻止することが出来る。即ち、本実施形態におけるロック機構400は、このような動力循環が生じ得るハイブリッド車両10の運転条件において適宜非ロック状態からロック状態へとその動作状態が切り替えられる。
【0069】
次に、図5を参照し、ロック機構400の誤ロック状態について説明する。ここに、図5は、理ロック機構400における誤ロック状態の概念図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0070】
図5において、係合プロセス中の一状態として、固定側クラッチプレート420の噛み合い歯422xと駆動側クラッチプレート410の噛み合い歯412xとが、その対向面の全域において接触している状態が例示される。
【0071】
ここで、図示破線枠に示す接触領域においては、電磁駆動力F2に対応する押圧力と対向面の摩擦係数μとの積である摩擦力Ffが作用する。この摩擦力Ffが、回転駆動力F1に対応して対向面に生じる駆動力よりも大きいと、ロック機構400は、図示する状態で停止してしまう。即ち、ロック機構400は、正常でない位置において擬似的にロックした誤ロック状態となる。ECU100は、係る誤ロック状態の発生を防止するために、誤ロック防止制御処理を実行可能に構成される。誤ロック防止制御処理は、ロック機構400の係合要求時において実行される処理である。
【0072】
次に、図6を参照し、誤ロック防止制御処理について説明する。ここに、図6は、誤ロック防止制御処理のフローチャートである。
【0073】
図6において、ECU100は、差回転同期制御を実行する(ステップS101)。差回転同期制御とは、第1に、固定側クラッチプレート420と駆動側クラッチプレート410との回転同期を行い(即ち、この場合は特に、回転速度ゼロでの同期)、第2に、この回転同期状態において回転駆動力F1により駆動側クラッチプレート410を固定側クラッチプレート420に対して相対回転させる制御である。
【0074】
ここで、差回転に係る差回転速度は、係合時の物理衝撃を緩和する目的から、概ね毎分数〜十数回転程度の微小な回転速度に設定される。
【0075】
次に、ECU100は、ストローク制御を実行する(ステップS102)。ストローク制御は、上述したように電磁駆動力F2を発生させ、駆動側クラッチプレート410を固定側クラッチプレート420の方向へ近付ける制御である。尚、ECU100は、電磁駆動力F2の値と、駆動側クラッチプレート410の単位時間当たりのストローク量(ストローク速度)とを対応付けるマップを保持しており、係るマップを参照することにより、駆動側クラッチプレート410と固定側クラッチプレート420との軸線方向距離(駆動側クラッチプレー御410の軸線方向移動距離)を推定することが可能である。
【0076】
ストローク制御が開始されると、ECU100は、駆動側クラッチプレート410と固定側クラッチプレート420との差回転速度がゼロであるか否かを判定する(ステップS103)。差回転速度がゼロでなければ(ステップS103:NO)、ステップS103で処理を待機する。尚、差回転速度とは、固定側クラッチプレート420が固定要素であることに鑑みれば、駆動側クラッチプレート410の回転速度と等価である。即ち、第1レゾルバ23の出力値を参照することによりECU100は容易に差回転速度を把握することが出来る。
【0077】
一方、差回転速度がゼロである場合(ステップS103:YES)、ECU100は、駆動側クラッチプレート410及び固定側クラッチプレート420の噛み合い歯同士が、対向面で接触しているか否かを判定する(ステップS104)。ステップS104に係る判定処理は、駆動側クラッチプレート410の軸線方向移動距離に基づいて行うことが出来る。ステップS103が「YES」側に分岐した場合とは、本発明に係る「差回転速度が所定値未満である場合」の一例である。
【0078】
尚、本発明に係る「差回転速度が所定値未満である場合」とは、駆動側クラッチプレート410と固定側クラッチプレート420との差回転速度がゼロである場合に限定されず、実質的にゼロであるとみなし得る程度の低速である場合等も含まれる。この低速は、例えば係合要求時の正常プロセスとして与えられる差回転速度が上記のように毎分数〜十数回転程度である場合には、それ未満の範囲で定められ得る。
【0079】
噛み合い歯同士が対向面で接触していない場合(ステップS104:NO)、ECU100は、ロック機構400が正常にロック状態に移行したものとして誤ロック防止制御処理を終了する。
【0080】
一方、噛み合い歯同士が対向面で接触している場合(ステップS104:YES)、ECU100は、ロック機構400が誤ロック状態にある、或いは、誤ロック状態が発生し易い状況にあるものとして、差回転速度及び押圧力を補正する(ステップS105)。
【0081】
具体的に、ECU100は、回転駆動力F1を増大させることにより差回転速度を増加させる。但し、この差回転速度の増速は、先に述べた微小な回転速度範囲で行われる。
【0082】
一方、ECU100は、このような差回転速度の増速と併せて電磁駆動力F2を低減することにより駆動側クラッチプレート410における噛み合い歯の対向面に作用する押圧力を減少させる。その結果、当該対向面に作用する摩擦力Ffが減少するため、上述した差回転速度の増加と併せ、クラッチプレート同士の相対回転が促され、ロック機構400を速やかに正常なロック状態に移行させることが出来る。
【0083】
尚、このように押圧力を低減させれば、より好適に差回転を促すことが可能であるが、固定側クラッチプレート420と駆動側クラッチプレート410との差回転は、差回転速度の増加制御のみでも好適に増加させることが出来る。
【0084】
尚、本実施形態では、ロック機構400が誤ロック状態へ移行したことをもってステップS105が実行されたが、ECU100は、例えば、対向面の接触距離と、対向面に作用する摩擦力と、駆動側クラッチプレート410のイナーシャと、回転駆動力F1とに基づいて、ロック機構400がこのような誤ロック状態へ移行するよりも前に差回転速度を増速する等して、或いは更に押圧力を低下させる等して、ロック機構400の誤ロック状態への移行を能動的に防止してもよい。
【0085】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う噛み合いクラッチシステムの制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、ドグクラッチ等の噛み合いクラッチの駆動制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
10…ハイブリッド車両、20…ハイブリッド車両、21…入力軸、22…MG1出力軸、23…第1レゾルバ、24…出力軸、25…第2レゾルバ、100…ECU、200…エンジン、300…動力分割機構、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ、400…ロック機構、410…駆動側クラッチプレート、420…固定側クラッチプレート、430…アクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向と交わる方向へ相対回転可能に構成され、各々の対向面に、前記軸線回りに周状に配列し且つ対向面が平坦な複数の矩形状の噛み合い歯が形成されてなる一対の係合要素を備えた噛み合いクラッチと、
前記一対の係合要素の少なくとも一方に対し前記相対回転を促す第1の駆動力を付与可能な第1の駆動力付与手段と、
前記一対の係合要素の少なくとも一方に対し前記軸線方向の位置変化を促す第2の駆動力を付与可能な第2の駆動力付与手段と
を備え、前記一対の係合要素が接近するように前記第2の駆動力が付与される過程で前記一対の係合要素が前記各々に形成された噛み合い歯同士が前記平坦な対向面において接触してなる接触状態にある場合において前記第1の駆動力により前記一対の係合要素に差回転が与えられることによって、前記噛み合いクラッチを前記一対の係合要素が前記各々に形成された噛み合い歯同士が噛み合う係合状態へ移行させる噛み合いクラッチシステムを制御する、噛み合いクラッチシステムの制御装置であって、
前記差回転に係る差回転速度を検出する検出手段と、
前記一対の係合要素が前記接触状態にあるか否かを判定する判定手段と、
前記一対の係合要素が前記接触状態にあると判定され、且つ、前記検出された差回転速度が所定値未満である場合に、前記差回転速度が増加するように前記第1の駆動力付与手段を制御する第1の制御手段と
を具備することを特徴とする噛み合いクラッチシステムの制御装置。
【請求項2】
前記第1の制御手段は、前記一対の係合要素が前記接触状態にあり、且つ、前記検出された差回転速度がゼロ相当値である場合に、前記差回転速度を増加させる
ことを特徴とする請求項1に記載の噛み合いクラッチシステムの制御装置。
【請求項3】
前記一対の係合要素が前記接触状態にあり、且つ、前記検出された差回転速度が所定値未満である場合に、前記接触状態が維持される範囲で前記第2の駆動力が減少するように前記第2の駆動力付与手段を制御する第2の制御手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の噛み合いクラッチシステムの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−95255(P2013−95255A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239496(P2011−239496)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】