説明

回路モジュール

【課題】回路モジュールの絶縁樹脂の表面をシールド層で被覆したものにおいて、絶縁樹脂に浸入した水分を抜けやすくするとともに、回路部品やこれを用いた回路の特性変動を抑制すること。
【解決手段】回路モジュール1は、回路部品2が実装される基板3と、回路部品2を覆う絶縁樹脂4と、絶縁樹脂4の表面を被覆するシールド層5とを含む。シールド層5は、基板3に実装される回路部品2のうち、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品(例えば、コイル2F)の反基板実装側における絶縁樹脂4の厚さが200μm以下の部分には、少なくとも絶縁樹脂4が露出する開口部Hを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路部品を覆った絶縁樹脂の表面に導電材料のシールド層が形成された回路モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
回路モジュールは、複数の回路部品、例えば、受動素子や能動素子等を基板に実装して、ひとまとまりの機能を持った回路部品としたものである。例えば、特許文献1には、回路部品間を仕切り、絶縁樹脂層の一部にシールド層を設けた回路モジュールが開示されている。また、特許文献2には、回路が受光、発光の光電素子を含む場合の光の通路として、回路を覆う樹脂の上面に設けられた上板を被覆する金属層に、光を透過させるための窓を設けたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−157891号公報(0037、図16)
【特許文献2】特開平11−26651号公報(0009、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回路モジュールは、絶縁樹脂で基板に実装された回路部品を覆うが、回路モジュールの製造工程や保管環境によっては、絶縁樹脂に水分が浸入することがある。この水分は、回路モジュールを電子機器に実装する際のリフロー工程における加熱によって蒸発する。絶縁樹脂の表面にシールド層が形成された構造では、蒸発した水分の逃げ場がなくなり、絶縁樹脂の割れや回路モジュールを構成する部品を接合しているハンダの飛散が発生するおそれがある。
【0005】
一方、シールド層は導電性を有する。このため、回路モジュールを構成する回路部品には、インダクタンス成分やキャパシタンス成分を有するものや、このような回路部品を含む回路の近傍にシールド層が配置されると、回路部品や回路の特性が変動することがあり、回路モジュールの性能が低下するおそれがある。特許文献1や特許文献2には、これらの点について何ら言及はなく、リフロー時において回路モジュールの絶縁樹脂に浸入した水分を抜けやすくすること、及びシールド層に起因する回路部品や回路の特性変動を抑制することについては改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、回路モジュールの絶縁樹脂の表面をシールド層で被覆したものにおいて、絶縁樹脂に浸入した水分を抜けやすくするとともに、回路部品やこれを用いた回路の特性変動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る回路モジュールは、回路部品が実装される基板と、前記回路部品を覆う絶縁樹脂と、当該絶縁樹脂の表面を被覆し、かつ、前記基板に実装される回路部品のうち、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品の反基板実装側における前記絶縁樹脂の厚さが200μm以下の部分には、少なくとも前記絶縁樹脂が露出する開口部を有するシールド層と、を含むことを特徴とする。
【0008】
この回路モジュールは、回路部品を覆った絶縁樹脂の表面をシールド層で被覆するとともに、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品の反基板実装側における絶縁樹脂の厚さが200μm以下の部分のシールド層に開口部を設ける。この開口部によって、リフロー時に回路モジュールを加熱すると、絶縁樹脂中の水分が蒸発して開口部から孤立的に抜ける。また、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品と対向する部分のシールド層を取り除くことにより、前記回路部品や前記回路部品を用いた回路の特性変動を抑制し、回路モジュールの性能低下を抑制できる。このように、本発明は、回路モジュールの絶縁樹脂の表面をシールド層で被覆したものにおいて、絶縁樹脂に浸入した水分を抜けやすくするとともに、回路部品やこれを用いた回路の特性変動を抑制できる。
【0009】
本発明の望ましい態様としては、前記絶縁樹脂の表面、かつ前記開口部と前記シールド層との境界部に形成される隆起部を有し、前記開口部と隣接する前記シールド層の縁部が、前記隆起部に接していることが好ましい。この回路モジュールは、シールド層の縁部が隆起部に接している。このような構成により、シールド層が隆起部と接触している部分によって、シールド層と絶縁樹脂との間への水分の浸入経路が塞がれ、かつ、前記経路が長くなる。その結果、この回路モジュールは、シールド層と絶縁樹脂との間へ水分が浸入することを抑制できる。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記シールド層は、複数の導電材料の層で構成されており、最も外側に配置される導電材料の層の縁部が、前記隆起部に接していることが好ましい。この回路モジュールは、複数の導電材料の層で構成されるシールド層の縁部のうち、最も外側に配置される導電材料の層(最外層)の縁部が隆起部に接している。このような構成により、絶縁樹脂と最も外側に配置される導電材料の層との間に配置される導電材料の層(内層)は、最外層と隆起部とによって包み込まれ、かつ最外層の縁部と隆起部とが接触する部分によって内層への水分の浸入経路が塞がれる。その結果、この回路モジュールは、導電材料のシールド層の縁部から水分が浸入し、シールド層と絶縁樹脂との間へ水分が浸入することをさらに効果的に抑制できる。
【0011】
本発明の望ましい態様としては、前記隆起部は、前記シールド層の縁部から前記絶縁樹脂の表面に沿って遠ざかるにしたがって、前記シールド層の表面に向かって隆起する傾斜部を有し、最も外側に配置される導電材料の層の縁部が前記傾斜部に接することが好ましい。この傾斜部に最外層が接することにより、最外層と隆起部とが接触する部分の長さを大きくすることができる。その結果、導電層までの水分の浸入経路を長くすることができるので、より効果的にシールド層と絶縁樹脂との間へ水分が浸入することを抑制できる。
【0012】
本発明の望ましい態様としては、前記シールド層は、前記絶縁樹脂の表面を被覆する導電層と、当該導電層を被覆する防錆層とで構成され、当該防錆層が最も外側に配置される導電材料の層であることが好ましい。このように、最も外側に配置される導電材料の層を防錆層とするとともに、この防錆層で導電層を被覆することにより、導電層に腐食しやすい材料を用いた場合でも、導電層の腐食を抑制できる。
【0013】
本発明の望ましい態様としては、前記導電層は、前記絶縁樹脂の表面を被覆する第1導電層と、当該第1導電層の表面を被覆する第2導電層とで構成され、前記第1導電層の粒径は前記第2導電層の粒径よりも小さいことが好ましい。これによって、第1導電層の組織は緻密になるので、絶縁樹脂と第1導電層との密着性が強くなる。その結果、第1導電層の表面を第2導電層で被覆し、さらに第2導電層の表面を防錆層で被覆して形成されるシールド層全体としても、絶縁樹脂との密着強度が向上する。
【0014】
本発明の望ましい態様としては、前記第2導電層は、前記傾斜部に接していることが好ましい。これによって、第2導電層と隆起部との接触する部分の長さを大きくすることができるので、第1導電層までの水分の浸入経路を長くすることができる。その結果、第1導電層と絶縁層との間への水分の浸入をより効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、回路モジュールの絶縁樹脂の表面をシールド層で被覆したものにおいて、絶縁樹脂に浸入した水分を抜けやすくするとともに、回路部品やこれを用いた回路の特性変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本実施形態に係る回路部品を基板に実装した状態を示す模式図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る回路部品を基板に実装する過程の一部を示す斜視図である。
【図3】図3は、シールド層に開口部を設けない例を示す断面図である。
【図4】図4は、シールド層に開口部を設けた例を示す断面図である。
【図5】図5は、開口部と回路部品との大きさの関係を示す斜視図である。
【図6】図6は、図1のAで示す部分の拡大断面図である。
【図7】図7は、隆起部を説明するための断面図である。
【図8】図8は、防錆層がその下部に配置される導電材料の層の縁部を覆わない例を示す断面図である。
【図9】図9は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第1例を示すフローチャートである。
【図10−1】図10−1は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第1例を説明するための概念図である。
【図10−2】図10−2は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第1例を説明するための概念図である。
【図10−3】図10−3は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第1例を説明するための概念図である。
【図10−4】図10−4は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第1例を説明するための概念図である。
【図10−5】図10−5は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第1例を説明するための概念図である。
【図10−6】図10−6は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第1例を説明するための概念図である。
【図11】図11は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第2例を示すフローチャートである。
【図12−1】図12−1は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第2例を説明するための概念図である。
【図12−2】図12−2は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第2例を説明するための概念図である。
【図12−3】図12−3は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第2例を説明するための概念図である。
【図12−4】図12−4は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第2例を説明するための概念図である。
【図12−5】図12−5は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第2例を説明するための概念図である。
【図13】図13は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第3例を示すフローチャートである。
【図14−1】図14−1は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第3例を説明するための概念図である。
【図14−2】図14−2は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第3例を説明するための概念図である。
【図14−3】図14−3は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第3例を説明するための概念図である。
【図14−4】図14−4は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第3例を説明するための概念図である。
【図14−5】図14−5は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第3例を説明するための概念図である。
【図15】図15は、樹脂の水分の抜け性の評価方法を示す模式図である。
【図16】図16は、透湿度と樹脂の厚さとの関係を示す評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。また、下記の実施形態で開示された構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
図1は、本実施形態に係る回路モジュールの断面図である。図2は、本実施形態に係る回路モジュールの斜視図である。図1に示すように、回路モジュール1は、複数の回路部品2を基板3に実装して、ひとまとまりの機能を持つ回路部品としたものである。本実施形態において、回路モジュール1を構成する回路部品2としては、例えば、コイル2Fやコンデンサ2C、あるいは抵抗2R等の受動素子があるが、ダイオードやトランジスタ等の能動素子も回路部品2として基板3上や基板3内に実装されることがある。また、回路部品2は、これらに限定されるものではない。
【0019】
図1に示すように、回路モジュール1は、回路部品2が実装される基板3と、回路部品2を覆う絶縁樹脂4と、絶縁樹脂4の表面を被覆し、かつ、基板3に実装される回路部品2のうち、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品(例えば、コイル2F又はコンデンサ2C)の反基板実装側における絶縁樹脂4の厚さが200μm以下の部分には、少なくとも絶縁樹脂4が露出する開口部Hを有するシールド層5と、を含んで構成される。回路部品2の反基板実装側とは、回路部品2が基板3に実装(回路部品2の端子電極と基板3の端子電極とがハンダによって接合される状態)されたときに回路部品2の基板3と対向する側とは反対側である。なお、本実施形態において、回路モジュール1は、絶縁樹脂4の表面、かつシールド層5の縁部5Eの位置に形成される隆起部6を有するが、この隆起部6は、必ずしも設ける必要はない。隆起部6については後述する。
【0020】
図1に示すように、回路モジュール1は、基板3に実装された回路部品2が絶縁樹脂4で覆われる。なお、回路モジュール1は、回路部品2が実装される側の基板3の表面(部品実装面という)も同時に絶縁樹脂4で覆われる。このように、回路モジュール1は、絶縁樹脂4で複数の回路部品2及び部品実装面を覆うことで、基板3及び複数の回路部品2を一体化するとともに、強度を確保する。
【0021】
複数の回路部品2を覆った絶縁樹脂4の表面には、シールド層5が形成される。本実施形態において、シールド層5は導電材料(導電性を有する材料であり、本実施形態では金属)で構成されており、導電性を有する。本実施形態では、シールド層5は単数の導電材料で構成されてもよいし、複数の導電材料の層で構成されてもよい。複数の導電材料の層でシールド層5が構成される例は後述する。シールド層5は、絶縁樹脂4の表面を被覆することにより、絶縁樹脂4の内部に封入された回路部品2を回路モジュール1の外部からの高周波ノイズや電磁波等から遮蔽したり、回路部品2から放射される高周波ノイズ等を遮蔽したりする。このように、本実施形態において、シールド層5は、電磁気シールドとして機能する。本実施形態において、シールド層5は、絶縁樹脂4の表面全体を被覆している。しかし、シールド層5は、電磁気シールドとして必要な機能を発揮できるように絶縁樹脂4を被覆すればよく、必ずしも絶縁樹脂4の表面全体を被覆する必要はない。したがって、シールド層5は、絶縁樹脂4の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0022】
図1、図2に示すように、回路モジュール1は、シールド層5に開口部Hが形成されている。開口部Hは、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2と対向する部分、すなわち、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2の反基板実装側であって、その部分における絶縁樹脂4の厚さ(回路部品2と絶縁樹脂4の表面との距離)が200μm以下の部分に形成されている。インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2としては、例えば、コイル2F、あるいはコンデンサ2Cがある。本実施形態では、開口部Hは、コイル2Fと対向する部分に形成されている。開口部Hにシールド層5は存在せず、開口部Hからは絶縁樹脂4が露出している。そして、シールド層5の開口部Hとの境界部分が、シールド層5の縁部(エッジ部)5Eとなる。開口部Hは、シールド層5の縁部5Eで囲まれる部分となる。次に、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2と対向する部分に開口部Hを設ける理由を説明する。
【0023】
図3は、シールド層に開口部を設けない例を示す断面図であり、図4は、シールド層に開口部を設けた例を示す断面図である。図5は、開口部と回路部品との大きさの関係を示す斜視図である。回路モジュール1は、回路部品2を基板3に実装するときや回路モジュール1が保管されている期間や環境によって、絶縁樹脂4の内部に水分が浸入することがある。例えば、基板3が樹脂基板の場合は、基板3の表面から水分が浸入するが、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramic)を基板3に用いた場合は、絶縁樹脂4側から水分が浸入する。この問題は、特に、東南アジア等の高温多湿の地域で回路モジュール1が組み立てられたり、回路モジュール1を用いた電子機器が組み立てられたりする場合に顕著になる。
【0024】
回路モジュール1を電子機器に実装する際には、リフロー時に回路モジュール1が加熱されるので、このため、回路モジュール1を構成する絶縁樹脂4に水分が含まれていると、前記リフロー時の加熱により絶縁樹脂4の水分は蒸発して抜けようとする。しかし、シールド層5が絶縁樹脂4の表面を被覆しているために、蒸発した水分が絶縁樹脂4から抜けにくくなる結果、蒸発した水分によって絶縁樹脂4にクラックが発生したり、回路部品2を基板3に接合しているハンダが飛散したりする。これを回避するために、シールド層5に開口部Hを設けて、前記リフロー時の加熱によって蒸発した水分を、絶縁樹脂4から抜けやすくする。これによって、前記リフロー時における絶縁樹脂4のクラックやハンダの飛散を抑制して、回路モジュール1の品質を維持することにより、回路モジュール1の機能を十分に発揮させることができる。
【0025】
絶縁樹脂4に浸入した水分は、蒸発して抜けるため、上方、すなわち重力の作用方向とは反対側に開口部Hを設けることが好ましい。通常、基板3が重力の作用方向側(下方)に配置されるので、基板3に実装された回路部品2の反基板実装側に開口部Hを設けることにより、絶縁樹脂4に浸入した水分がリフロー時に抜けやすくなる。また、回路部品2と開口部Hに露出する絶縁樹脂4の表面との距離が200μmを超えると、絶縁樹脂4に浸入した水分は抜けにくくなる。このため、回路部品2と開口部Hに露出する絶縁樹脂4の表面との距離を200μm以下とすることによって、絶縁樹脂4に浸入した水分を抜けやすくすることができる。また、回路部品2と開口部Hに露出する絶縁樹脂4の表面との距離が200μmを超えている場合、前記距離が200μm以下になるまで開口部Hの絶縁樹脂4を除去することが好ましい。
【0026】
上述した、絶縁樹脂4から水分を抜く目的の他、回路モジュール1を構成する回路部品2の特性変動を抑制するために、特定の回路部品2(インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有するもの)の反基板実装側に開口部Hを設ける。次に、この理由を説明する。図3に示すように、インダクタンスを有する回路部品2(例えばコイル)と対向する部分にシールド層5が存在し、かつその距離tが小さくなると、シールド層5が回路部品2の磁束を遮ってしまう。その結果、回路部品2のインダクタンス(L値)が低下する結果、回路部品2の特性が変動してしまう。
【0027】
また、シールド層5と回路部品2との間で静電容量(キャパシタンス)を有し、コンデンサを形成してしまうことがある。例えば、LCフィルター回路を形成する回路部品2の近傍にシールド層5が存在する場合、回路部品2とシールド層5との間で静電容量を持ち、その部分がコンデンサとなる。その結果、LCフィルター回路にコンデンサが追加された状態になってしまいLCフィルターの特性が変動してしまう。さらに、マッチング回路を構成している回路部品2(キャパシタンスを有する回路部品であり、コンデンサ)の近傍にシールド層5が存在すると、そのような回路部品2とシールド層5との間に静電容量を持ち、コンデンサとなってしまうため、マッチングのずれが発生する場合がある。
【0028】
このように、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2と近接して導電性を有するシールド層5が設けられると、そのような回路部品2の電気的な特性が変化し、回路モジュール1の性能が低下することがある。このため、本実施形態においては、シールド層5のインダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2と対向する部分に開口部Hを設ける。
【0029】
特に、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2とシールド層5との距離tが200μm以下(0μmである場合も含む)である場合に、回路部品2やそのような回路部品2を用いた回路の特性変動は顕著になる。したがって、本実施形態では、図4に示すように、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2の反基板実装側における絶縁樹脂4の厚さが200μm以下(0μmである場合も含む)の部分において、シールド層5に開口部Hを形成する。これによって、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2のシールド層5による特性変動を最小限に抑えることができるので、回路モジュール1の性能低下を抑制できる。同時に、本実施形態では、回路モジュール1のリフロー時において、絶縁樹脂4から水分を効率的に抜くことができるので、絶縁樹脂4のクラックやハンダの飛散を抑制できる。
【0030】
なお、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2とシールド層5との距離tが200μよりも大きい場合、回路部品2の特性変動は無視できる程度に小さくなるので、このような場合には、シールド層5に開口部Hを設ける必要はない。しかしながら、絶縁樹脂4から水分を抜くという観点から、開口部Hを設けるとともにその部分の絶縁樹脂4を、回路部品2とシールド層5との距離tが200μm以下になるまで取り除くことが好ましい。
【0031】
また、回路部品2が複数基板3に実装されている場合、基板3からの高さが最も大きい回路部品2がインダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有するものである場合に、そのような回路部品2と対向する部分のシールド層5に開口部Hを設ける。開口部Hによって、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品2の特性変動が抑制できるので、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する、基板3からの高さが最も大きい回路部品2を覆う絶縁樹脂4の開口部Hにおける厚さを小さくすることができる。その結果、回路モジュール1の高さ(基板3の板面と垂直方向の寸法)を抑制することができるとともに、開口部Hにおいて回路部品2を覆う絶縁樹脂4の厚さを200μm以下にして、絶縁樹脂4から水分を抜けやすくすることができる。
【0032】
図5に示すように、開口部Hを回路部品2の開口部Hと対向する面(開口部対向面)2Pに投影した場合、開口部Hと開口部対向面2Pとは同一形状かつ同一寸法であることが好ましい。開口部Hが開口部対向面2Pよりも小さいと、回路部品2の特性変動を十分に抑制できないおそれがあり、開口部Hが開口部対向面2Pよりも大幅に大きいと、シールド層5による電磁気シールドの効果が低減するからである。実際には、開口部Hを開口部対向面2Pの位置に形成する際の製造誤差があるため、これを許容する必要がある。したがって、電磁気シールド効果の低減が許容できる範囲で、開口部対向面2Pよりも開口部Hの寸法を大きくすることが好ましい。
【0033】
図1、図2に示すように、回路モジュール1は、絶縁樹脂4の表面、かつシールド層5の縁部5Eの位置に、絶縁樹脂4の表面から突出する隆起部6を有する。そして、回路モジュール1は、複数の導電材料の層で構成されるシールド層5の縁部5Eのうち、最も外側に配置される導電材料の層の縁部が、隆起部6に接している。このような構成により、回路モジュール1は、シールド層5の縁部5E側において、シールド層5と絶縁樹脂4との隙間に浸入する水分を低減する。次に、シールド層5の構造、及びその縁部5Eと隆起部6とが接する構造を説明する。
【0034】
図6は、図1のAで示す部分の拡大断面図である。図7は、隆起部を説明するための断面図である。導電層5Dは、第1導電層5Aと、第1導電層5Aの表面を被覆する第2導電層5Bとで構成される。また、防錆層5Cは、第2導電層5Bの表面を被覆して、その縁部5CEが隆起部6に接する。導電層5D、すなわち、第1導電層5A及び第2導電層5Bは導電材料の層であり、本実施形態ではいずれもCuで構成される。また防錆層5Cは、導電材料の層であり、本実施形態ではNiで構成される。
【0035】
本実施形態において、シールド層5は電磁気シールドとして絶縁樹脂4を被覆するので、できる限り電気抵抗を低くすることが好ましい。また、回路モジュール1は、高さをできる限り小さくすることが求められているので、シールド層5の厚さは小さいことが好ましい。このため、導電層5Dに電気抵抗率の低いCuを用いて、導電層5Dの抵抗を低く維持するとともに、導電層5Dの厚さを小さくする。一方、Cuは耐食性に欠けるので、導電層5Dの表面、より具体的には第2導電層5Bの表面を防錆層5Cで被覆する。本実施形態では、防錆層5Cとして耐食性の高いNiを用いる。なお、導電層5Dを構成する導電材料はCuに限定されるものではなく、また、防錆層5Cを構成する導電材料はNiに限定されるものではないが、Cuは電気抵抗率が低く、かつ比較的低コストであり、また、Niは耐食性に優れ、かつ比較的低コストである点で好ましい。
【0036】
図6に示すように、防錆層5Cの縁部5CEは、隆起部6に接している。このような構造によって、導電層5D(より具体的には第2導電層5B)が防錆層5Cと隆起部6とによって包み込まれるので、耐食性の低いCuで形成された導電層5Dが防錆層5Cで確実に保護され、導電層5Dと水分との接触を回避できる。また、緻密な絶縁樹脂4の一部である隆起部6が防錆層5Cの縁部5CEと接触することで、導電層5Dへの水分の浸入経路が塞がれる。これらの作用により、絶縁樹脂4の表面を被覆するシールド層5の縁部5Eから水分が浸入することが抑制される。その結果、導電層5D(より具体的には第1導電層5A)と絶縁樹脂4との間に水分が浸入して導電層5Dが腐食することを回避できるので、導電層5Dが絶縁樹脂4の表面から剥離するおそれは極めて少なくなる。これによって、回路モジュール1の耐久性及び信頼性が向上する。
【0037】
隆起部6の高さ(絶縁樹脂4の表面からの突出量)は、第1導電層5Aの厚さよりも大きくすることが好ましい。これによって、第1導電層5Aの縁部を確実に隆起部6の位置に配置できるので、第1導電層5Aの表面に、例えば、電解めっきを用いて第2導電層5B及び防錆層5Cを形成する場合、確実に隆起部6の位置に両者を形成できる。その結果、防錆層5Cの縁部5CEと隆起部6とを確実に接触させて、第1導電層5Aと絶縁樹脂4との間への水分の浸入を抑制できる。ここで、本実施形態において、図6に示す第1導電層5Aの厚さt1は0.5μm〜1μm、第2導電層5Bの厚さt2は10μm程度、防錆層5Cの厚さt3は2μm〜3μmである。
【0038】
図7に示すように、隆起部6は、シールド層5の縁部5Eから絶縁樹脂4の表面に沿って遠ざかるにしたがって、シールド層5の表面、すなわち防錆層5Cの表面に向かって隆起する傾斜部6Sを有する。傾斜部6Sの傾斜面と絶縁樹脂4の表面とのなす角度をαとすると、防錆層5Cと傾斜部6Sとの接触長さL1は、T1/cosαとなる。ここで、T1は、傾斜部6Sが存在しない状態で防錆層5Cが絶縁樹脂4の表面と接触した場合の接触長さである。cosα<1なので、L1>T1となる。このように、隆起部6に傾斜部6Sを設けて防錆層5Cと接触させることにより、傾斜部6Sが存在しない状態で防錆層5Cと絶縁樹脂4との表面が接触する場合と比較して、防錆層5Cと絶縁樹脂4との接触長さを大きくできる。その結果、導電層5Dへの水分の浸入経路をより長くできるので、導電層5Dへの水分の浸入をより効果的に抑制できる。
【0039】
第1導電層5Aは、絶縁樹脂4の表面を被覆するので、第1導電層5Aと絶縁樹脂4との間に水分が浸入し、第1導電層5Aが腐食すると、シールド層5全体が絶縁樹脂4から剥離するおそれがある。したがって、シールド層5全体が絶縁樹脂4から剥離するおそれを低減するためには、第1導電層5Aと絶縁樹脂4との間に水分が浸入することを回避することがより重要である。図6に示すように、本実施形態では、防錆層5Cに加え、第2導電層5Bも隆起部6の傾斜部6Sに接するので、防錆層5Cの表面から第1導電層5Aまでの距離を長くできる。これによって、第1導電層5Aまでの水分の浸入経路をより長くできるので、第1導電層5Aと絶縁樹脂4との間に水分が浸入して第1導電層5Aが腐食し、シールド層5全体が絶縁樹脂4から剥離するおそれを極めて低減できる。その結果、回路モジュール1の耐久性及び信頼性がさらに向上する。
【0040】
また、本実施形態では、傾斜部6Sに第2導電層5Bが接しているので、第2導電層5Bと傾斜部6Sとの接触長さL2は、T2/cosαとなる。ここで、T2は、傾斜部6Sが存在しない状態で第2導電層5Bが絶縁樹脂4の表面と接触した場合の接触長さである。cosα<1なので、L2>T2となる。このように、防錆層5Cを傾斜部6Sに接触させることにより、傾斜部6Sが存在しない状態で防錆層5Cと絶縁樹脂4との表面が接触する場合と比較して、第2導電層5Bと絶縁樹脂4との接触長さを大きくできる。その結果、第1導電層5Aまでの水分の浸入経路をより長くできるので、第1導電層5Aへの水分の浸入をより効果的に抑制できる。
【0041】
防錆層5C及び第2導電層5Bは、傾斜部6S、すなわち、シールド層5の縁部5Eから絶縁樹脂4の表面に沿って遠ざかるにしたがって、隆起部6の高さが大きくなる部分に接する。シールド層5の縁部5Eから絶縁樹脂4の表面に沿って遠ざかるにしたがって隆起部6の高さが小さくなる部分に、防錆層5C及び第2導電層5Bが接するようにすると、シールド層5は隆起部6の頂部を跨ぐことになる。すると、隆起部6の高さの分だけ回路モジュール1の高さが増加する。また、隆起部6の頂部にシールド層5が形成されていると、回路モジュール1を取り扱う際に前記頂部のシールド層5が擦れやすくなり、その結果、シールド層5が剥離するおそれがある。したがって、防錆層5C及び第2導電層5Bは、シールド層5の縁部5Eから絶縁樹脂4の表面に沿って遠ざかるにしたがって、隆起部6の高さが大きくなる部分である傾斜部6Sに接するようにすることが好ましい。
【0042】
隆起部6の防錆層5Cが接する部分の表面は、できる限り滑らか、すなわち表面粗さを小さくすることが好ましい。これによって、防錆層5Cと隆起部6との密着性が向上するので、導電層5Dへの水分の浸入をより効果的に抑制できる。同様に、隆起部6の第2導電層5Bが接する部分は、できる限り滑らかに形成することが好ましい。これによって、第2導電層5Bと隆起部6との密着性が向上するので、第1導電層5Aへの水分の浸入をより効果的に抑制できる。一方、絶縁樹脂4は、第1導電層5Aが被覆する部分は粗く、すなわち、表面粗さを大きくすることが好ましい。このようにすれば、第1導電層5Aと絶縁樹脂4との接触面積が増加する結果、両者の密着強度が向上するので、シールド層5の剥離が抑制される。
【0043】
図8は、防錆層がその下部に配置される導電材料の層の縁部を覆わない例を示す断面図である。図8に示すシールド層105は、絶縁樹脂104の表面を被覆する第1導電層105Aと、第1導電層105Aを被覆する第2導電層105Bと、第2導電層105Bの表面を被覆する防錆層105Cとで構成され、防錆層105Cは、第2導電層105Bの縁部105BEを覆っていない。このような構成の場合、第1導電層105Aと絶縁樹脂104の表面との間や、第1導電層105Aと第2導電層105Bとの間から水分が浸入して第1導電層105Aや第2導電層105Bを腐食させるおそれがある。その結果、第1導電層105Aが絶縁樹脂104から剥離したり、第1導電層105Aと第2導電層105Bとが剥離したりするおそれがある。
【0044】
しかし、上述したように、本実施形態では、複数の導電材料の層で構成されるシールド層5の縁部5Eのうち、最も外側に配置される導電材料の層の縁部、すなわち、防錆層5Cの縁部5CEが隆起部6に接している。これによって、シールド層5を構成する導電層5Dが防錆層5Cと隆起部6とによって包み込まれ、かつ防錆層5Cの縁部5CEと隆起部6との接触する部分によって導電層5Dへの水分の浸入経路が塞がれるので、絶縁樹脂4の表面を被覆するシールド層5の縁部5Eから水分が浸入することが抑制される。その結果、導電層5Dを構成する第1導電層5Aと絶縁樹脂4との間や、第1導電層5Aと第2導電層5Bとの間に水分が浸入してこれらが腐食することを回避できるので、第1導電層5Aが絶縁樹脂4から剥離したり、第1導電層5Aと第2導電層5Bとが剥離したりするおそれはほとんどない。これによって、本実施形態の構成によれば、回路モジュール1の耐久性及び信頼性を上させることができる。
【0045】
上記例は、シールド層5が複数の導電材料の層で構成されている場合である。しかし、シールド層5が単一の導電材料の層で構成されている場合でも、シールド層5が隆起部6と接触している部分によって、シールド層5と絶縁樹脂4との間への水分の浸入経路が塞がれ、かつ、前記経路が長くなる。これによって、このようなシールド層5であっても、シールド層5と絶縁樹脂4との間へ水分が浸入することを抑制できる。次に、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法を説明する。次においては、回路モジュール1のシールド層5が、第1導電層5Aと第2導電層5Bと防錆層5Cとで構成される例を説明する。
【0046】
(第1例)
図9は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第1例を示すフローチャートである。図10−1〜図10−6は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第1例を説明するための概念図である。本実施形態に係る回路モジュールの製造方法を用いて、例えば、図1、図2に示す回路モジュール1を製造するにあたり、ステップST101において、まず、図10−1に示すように、基板3に回路部品2(コンデンサ2Cやコイル2Fや抵抗2R等)を実装する。これは、例えば、回路部品実装装置が回路部品2を基板3上に載置し、その後、回路部品2が載置された基板3をリフロー炉内で加熱する。これにより、回路部品2の端子と基板3の端子との間のハンダペーストを溶解させて、両者を接合する。
【0047】
次に、ステップST102へ進み、樹脂充填装置を用いて図10−2に示すように、絶縁樹脂4で基板3に実装された回路部品2を覆う。そして、ステップST103へ進み、図10−3に示すように絶縁樹脂4の表面に第1導電層5Aを形成する。本実施形態において、第1導電層5AはCuであり、無電解めっきによって形成される。なお、第1導電層5Aを形成する手法は無電解めっきに限定されるものではなく、例えば、スパッタリング、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法、イオンビームデポジション等のPVD(Physical Vapor Deposition:物理気相成長)を用いてもよい。
【0048】
第1導電層5Aが形成されたら、ステップST104へ進み、図10−4に示すように、絶縁樹脂4の表面に隆起部6及び開口部Hを形成する。例えば、第1導電層5Aの表面の一部を加熱することにより、第1導電層5Aの一部を開口部Hの輪郭形状に除去するとともに、絶縁樹脂4の表面から突出する隆起部6を絶縁樹脂4の表面に形成する。これによって、隆起部6は、開口部Hの輪郭形状に形成される。
【0049】
本実施形態では、第1導電層5Aの表面の一部を加熱する手段としてレーザーを用いる。そして、隆起部6を形成する部分にレーザーを照射し、第1導電層5Aの一部を除去しながら、レーザーの熱によって絶縁樹脂4を隆起させる。このような手法によれば、第1導電層5Aの一部を除去することにより、第1導電層5Aの縁部5AEが形成されるとともに、縁部5AEの位置に隆起部6を形成できる。すなわち、第1導電層5Aの縁部5AEと隆起部6とを同時に形成できるので、効率的に回路モジュール1を製造できる。
【0050】
レーザーにはYAGレーザーや炭酸ガスレーザー等を用いることができる。レーザー光の波長が長いと、金属の第1導電層5Aに覆われる絶縁樹脂4の熱負荷が大きくなり、絶縁樹脂4の変形が大きくなるおそれがある。YAGレーザーは、比較的波長が短いため(1.064μm)、絶縁樹脂4の熱負荷は過大にならない。その結果、YAGレーザーを用いると、金属(本実施形態ではCu)のみを除去し、適切な高さの隆起部6を形成することができるという利点がある。また、YAGレーザーは、コンパクトで低コストであるという利点もある。なお、隆起部6を形成する手法はレーザーに限定されるものではない。
【0051】
第1導電層5Aの縁部5AEで囲まれる部分が開口部Hとなるので、縁部5AEで囲まれる部分に残存する第1導電層5Aは、ブラストやエッチングによって除去される。これによって、絶縁樹脂4の表面、かつ第1導電層5Aの縁部5AEで囲まれる部分に開口部Hが形成される。開口部Hは、対向する位置に存在するコイル2Fとほぼ同一の寸法、形状で形成されることが好ましい。図10−4に示すように、第1例では、第2導電層5B及び防錆層5Cを形成したときに開口部Hがやや小さくなることを見込んで、第1例に係る回路モジュールの製造方法では、コイル2Fの外縁部2FEよりも第1導電層5Aの縁部5AEの方をやや外側に形成する。
【0052】
隆起部6及び開口部Hが形成されたら、ステップST105へ進み、図10−5に示すように、第1導電層5Aの表面に第2導電層5Bを形成する。第1例において、第2導電層5BはCuであり、例えば、電解めっきによって形成する。その後、ステップST106へ進み、図10−6に示すように、第2導電層5Bの表面に防錆層5Cを形成し、絶縁樹脂4の表面にシールド層5が形成される。第1例において、防錆層5CはNiであり、例えば、電解めっきによって形成される。電解めっきによれば、迅速に厚いめっき層を形成できるので好ましい。このように、第1例に係る回路モジュールの製造方法によって形成される第1金属層5A及び第2金属層5B及び第3金属層5Bは、いずれもめっきやPVD等の金属膜を成膜する手法によって形成される金属膜である(以下の例でも同様)。
【0053】
隆起部6に第2導電層5B及び防錆層5Cが接するので、防錆層5Cと隆起部6とが接する部分(シールド層境界)5CBは、第1導電層5Aの縁部5AEよりも開口部H側に形成される。第1例では、上述したように、ステップST104において、第1導電層5Aの縁部5AEをコイル2Fの外縁部2FEのやや外側に形成したので、シールド層境界5CBは、コイル2Fの外縁部2FEとほぼ同じ位置に形成される。これによって、シールド層5は、コイル2Fの特性変動を効果的に抑制しつつ、電磁気シールドの機能を発揮できる。
【0054】
第1例では、隆起部6及び開口部Hを形成し、その後、第2導電層5Bを形成した後に防錆層5Cを形成する。これによって、防錆層5Cの縁部5CEが隆起部6に接するとともに、防錆層5Cと隆起部6とで第2導電層5Bが包まれる。なお、隆起部6は、防錆層5Cを形成する前までに形成されていればよく、第2導電層5Bが形成された後に形成されてもよい。このような手順によって、図1、図2に示すような、シールド層5に開口部Hを有する回路モジュール1が製造される。
【0055】
(第2例)
図11は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第2例を示すフローチャートである。図12−1〜図12−5は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第2例を説明するための概念図である。第2例に係る回路モジュールの製造方法のステップST201、ステップST202は、第1例に係る回路モジュールの製造方法のステップST101、ステップST102と同様であるので、説明を省略する。
【0056】
ステップST202が終了したら、ステップST203へ進む。ステップST203において、図12−1に示すように絶縁樹脂4の表面に第1導電層5Aを形成する。第1例と同様に、第2例においても第1導電層5AはCuであり、無電解めっきによって形成される。第1導電層5Aが形成されたら、ステップST204へ進み、図12−2に示すように、シールド層5を形成しない部分、すなわち、開口部Hとなる部分に存在する第1導電層5Aを、例えば、ブラストやエッチング等によって除去する。開口部Hとなる部分と第1導電層5Aとの境界が縁部5AEとなる。上述したように、第2例に係る回路モジュールの製造方法でも、コイル2Fの外縁部2FEよりも第1導電層5Aの縁部5AEの方をやや外側に形成する。これは、第2導電層5B及び防錆層5Cを形成したときに開口部Hがやや小さくなることを見込んでいるためである。
【0057】
次に、ステップST205へ進み、図12−3に示すように、絶縁樹脂4の表面に隆起部6を形成する。例えば、溶融した樹脂を第1導電層5Aの縁部5AEに沿って滴下して隆起部6を形成してもよいし、縁部5AEに沿ってレーザーを照射し、その熱によって絶縁樹脂4を隆起させることによって隆起部6を形成してもよい。隆起部6が形成されたら、ステップST206へ進み、図12−4に示すように、第1導電層5Aの表面に第2導電層5Bを形成する。第1例と同様に、第2例においても第2導電層5BはCuであり、例えば、電解めっきによって形成される。
【0058】
その後、ステップST207へ進み、図12−5に示すように、第2導電層5Bの表面に防錆層5Cを形成し、絶縁樹脂4の表面にシールド層5が形成される。第2例においても、第1例と同様に防錆層5CはNiであり、例えば、電解めっきによって形成される。第2例では、隆起部6を形成した後に、第2導電層5Bを形成し、その後に第2導電層5Bの表面に防錆層5Cを形成する。これによって、防錆層5Cの縁部5CEが隆起部6に接するとともに、防錆層5Cと隆起部6とで第2導電層5Bが包まれる。このような手順によって、図1、図2に示す回路モジュール1が製造される。
【0059】
隆起部6に第2導電層5B及び防錆層5Cが接するので、シールド層境界5CBは、第1導電層5Aの縁部5AEよりも開口部H側に形成される。ステップST203においては、第1導電層5Aの縁部5AEを、コイル2Fの外縁部2FEのやや外側に形成した。これによって、シールド層境界5CBは、コイル2Fの外縁部2FEとほぼ同じ位置に形成される。その結果、シールド層5は、コイル2Fの特性変動を効果的に抑制しつつ、電磁気シールドの機能を発揮できる。
【0060】
(第3例)
図13は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第3例を示すフローチャートである。図14−1〜図14−5は、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法の第3例を説明するための概念図である。第3例に係る回路モジュールの製造方法のステップST301、ステップST302は、第1例に係る回路モジュールの製造方法のステップST101、ステップST102と同様であるので、説明を省略する。
【0061】
ステップST302が終了したら、ステップST303へ進む。ステップST303において、図14−1に示すように、絶縁樹脂4の表面に隆起部6を形成する。例えば、溶融した樹脂を絶縁樹脂4の所定領域へ滴下して隆起部6を形成してもよいし、絶縁樹脂4の表面の所定領域にレーザーを照射し、その熱によって絶縁樹脂4を隆起させることによって隆起部6を形成してもよい。
【0062】
隆起部6は、コイル2Fの外縁部2FEに沿って、かつ外縁部2FEと重なるように形成される。これは、第2導電層5B及び防錆層5Cは隆起部6に接するように形成されるので、シールド層5の境界とコイル2Fの外縁部2FEとを合わせるようにするためである。隆起部6が形成されたら、ステップST304へ進み、図14−2に示すように、例えば、レジスト7によって開口部形成部PHを被覆する。開口部形成部PHは、コイル2Fと対向する部分であり、この部分にはシールド層5を形成しない。
【0063】
次に、ステップST305へ進み、図14−3に示すように、絶縁樹脂4の表面に第1導電層5Aを形成する。第1例と同様に、第3例においても第1導電層5AはCuであり、無電解めっきによって形成される。第1導電層5Aが形成されたら、ステップST306へ進み、図14−4に示すように、開口部形成部PHを被覆していたレジスト7を除去した後、第1導電層5Aの表面に第2導電層5Bを形成する。第1例と同様に、第3例においても第2導電層5BはCuであり、例えば、電解めっきによって形成される。
【0064】
その後、ステップST307へ進み、図14−5に示すように、第2導電層5Bの表面に防錆層5Cを形成し、絶縁樹脂4の表面にシールド層5が形成される。第3例においても、第1例と同様に防錆層5CはNiであり、例えば、電解めっきによって形成される。第3例では、隆起部6を形成した後に、第1導電層5A及び第2導電層5Bを形成し、その後に第2導電層5Bの表面に防錆層5Cを形成する。これによって、防錆層5Cの縁部5CEが隆起部6に接するとともに、防錆層5Cと隆起部6とで第2導電層5Bが包まれる。このような手順によって、図1、図2に示す回路モジュール1が製造される。
【0065】
第2導電層5B及び防錆層5Cは隆起部6に接するので、防錆層5Cと隆起部6とが接する部分(シールド層境界)5CBは、第1導電層5Aの縁部5AEよりも開口部H側に形成される。これによって、シールド層境界5CBは、コイル2Fの外縁部2FEとほぼ同じ位置に形成されるので、シールド層5は、コイル2Fの特性変動を効果的に抑制しつつ、電磁気シールドの機能を発揮できる。
【0066】
本実施形態に係る回路モジュールの製造方法において、第1導電層5Aを無電解めっきで形成し、第2導電層5Bを電解めっきで形成すると、第1導電層5Aの組織の粒径は第2導電層5Bの組織の粒径よりも小さくなる。これによって、第1導電層5Aの組織は緻密になるので、絶縁樹脂4と第1導電層5Aとの密着性が強くなる。その結果、第1導電層5Aの表面を第2導電層5Bで被覆し、さらに第2導電層5Bの表面を防錆層5Cで被覆して形成されるシールド層5は、絶縁樹脂4との密着強度が向上するので好ましい。
【0067】
また、本実施形態に係る回路モジュールの製造方法において、第1導電層5Aを無電解めっきで形成することにより、比較的簡単な設備で絶縁樹脂4の表面に金属(具体的にはCu)の第1導電層5Aを形成できる。そして、第1導電層5Aがある程度形成されたら、めっき層の形成速度が速い電解めっきで第2導電層5Bを形成する。このように、無電解めっきと電解めっきとを使い分けることによって、絶縁樹脂4の表面に、比較的早く金属のシールド層5を形成することができる。
【0068】
上述した第1例〜第3例に係る回路モジュールの製造方法によって製造される回路モジュール1は、シールド層5を複数の導電材料の層で構成し、かつ絶縁樹脂4の表面に隆起部6を設けたものである。これに限定されず、回路モジュール1は、シールド層5を単一の導電材料の層で形成したり、導電材料の層に防錆層5Cを被覆して形成したり、隆起部6を設けないでシールド層5に開口部Hを設けたりしてもよい。例えば、隆起部6を設けない場合、上記第1例〜第3例において、隆起部6を形成する工程を省略すればよい。
【0069】
(樹脂の水分の抜け性の評価例)
図15は、樹脂の水分の抜け性の評価方法を示す模式図である。図16は、透湿度と樹脂の厚さとの関係を示す評価結果である。本実施形態で用いた絶縁樹脂4の水分の抜け性を評価した。樹脂の水分の抜け性とは、単位時間、単位厚さ当たりにおいて樹脂を透過する水分の質量であり、透湿度と等価である。単位はmg/mm・hである。
【0070】
樹脂の水分の抜け性の評価方法を説明する。樹脂の水分の抜け性は、樹脂の透湿度で評価する。図4に示すように、絶縁樹脂4の試験片4Eを用意する。試験片4Eは、異なる厚さのものを複数用意する。試験片4Eを底付き容器(容量は50cm、以下、保持容器という)10の開口部に載置し、試験片4Eと保持容器10との間に封止材12(例えば、ワックス)を充填する。これによって、試験片4Eを保持容器10に固定し、かつ両者の隙間を封止する。保持容器10内には、吸湿剤(本例では塩化カルシウム10g)11が保持されている。
【0071】
試験片4Eが取り付けられ、かつ内部に吸湿剤11を保持した保持容器10(以下、評価サンプルという)を、温度40℃、相対湿度90%から95%の環境の恒温恒湿槽内に配置する。すると、恒温恒湿槽内の水分が、試験片4Eを透過して保持容器10内の吸湿剤11に吸収されるので、吸湿剤11の質量が増加する。その結果、評価サンプル全体の質量も増加する。評価においては、配置開始から所定の経過時間毎に評価サンプルの質量を計測し、その結果から、単位時間(この例では1時間)内に試験片4Eを透過した水分質量(単位時間当たりの水分質量という)を算出する。そして、その結果を単位厚さ(この例では1mm)当たりの値(単位厚さ・時間当たりの水分質量という)に規格化して透湿度を求め、試験片4Eの厚さ毎に透湿度を比較する。単位時間当たりの水分質量を、単位厚さ・時間当たりの水分質量に規格化するためには、単位時間当たりの水分質量×(試験片4Eの厚さ/単位厚さ)の関係式を用いる。結果は、図16に示すようになった。
【0072】
図16の結果から、試験片4Eの厚さが小さくなるにしたがって、透湿度が大きくなり(水分が透過しやすくなる)、ある値を超えると、急激に透湿度が大きくなることが分かる。この結果から、同じ種類の樹脂であっても、水分透過量は単に樹脂の厚さを小さくした以上に大きくなることが分かる。例えば、樹脂の厚さが1.0mmのときにおける1時間当たりの水分透過量は、透過率が約2.3mg/mm・hであるため、約2.3mgとなる。また、樹脂の厚さが0.5mmのときにおける1時間当たりの水分透過量は、透過率が約3.5mg/mm・hであるため、約7.0mgとなる。このように、樹脂の厚さが1.0mmから0.5mmになると、水分透過量は3倍強になる。
【0073】
図16の結果から、絶縁樹脂4を用いた試験片4Eの厚さが0.2mm以下において、急激に透湿度が上昇することから、絶縁樹脂4は、樹脂の厚さが0.2mm、すなわち200μm以下で、水分を逃がす効果が急激に増加するといえる。したがって、上述した回路モジュール1において、回路部品2と開口部Hに露出する絶縁樹脂4の表面との距離を200μm以下とすることにより、絶縁樹脂4に浸入した水分を開口部Hから効果的に抜くことができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明に係る回路モジュールは、回路部品を覆った絶縁樹脂の表面にシールド層が形成される回路モジュールにおいて、絶縁樹脂の水分を抜きつつ、回路部品の特性変動を抑制することに有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 回路モジュール
2 回路部品
2C コンデンサ
2F コイル
2FE 外縁部
2P 開口部対向面
2R 抵抗
3 基板
4、104 絶縁樹脂
4E 試験片
5、105 シールド層
5CB シールド層境界
5AE、5CE、5E、105BE 縁部
5A、105A 第1導電層
5B、105B 第2導電層
5C、105C 防錆層
5D 導電層
6 隆起部
6S 傾斜部
7 レジスト
10 保持容器(底付き容器)
11 吸湿剤
12 封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路部品が実装される基板と、
前記回路部品を覆う絶縁樹脂と、
当該絶縁樹脂の表面を被覆し、かつ、前記基板に実装される回路部品のうち、インダクタンス成分又はキャパシタンス成分を有する回路部品の反基板実装側における前記絶縁樹脂の厚さが200μm以下の部分には、少なくとも前記絶縁樹脂が露出する開口部を有するシールド層と、
を含むことを特徴とする回路モジュール。
【請求項2】
前記絶縁樹脂の表面、かつ前記開口部と前記シールド層との境界部に形成される隆起部を有し、前記開口部と隣接する前記シールド層の縁部が、前記隆起部に接している請求項1に記載の回路モジュール。
【請求項3】
前記シールド層は、複数の導電材料の層で構成されており、最も外側に配置される導電材料の層の縁部が、前記隆起部に接している請求項2に記載の回路モジュール。
【請求項4】
前記隆起部は、前記シールド層の縁部から前記絶縁樹脂の表面に沿って遠ざかるにしたがって、前記シールド層の表面に向かって隆起する傾斜部を有し、最も外側に配置される導電材料の層の縁部が前記傾斜部に接する請求項2又は3に記載の回路モジュール。
【請求項5】
前記シールド層は、前記絶縁樹脂の表面を被覆する導電層と、当該導電層を被覆する防錆層とで構成され、当該防錆層が最も外側に配置される導電材料の層である請求項3又は4に記載の回路モジュール。
【請求項6】
前記導電層は、前記絶縁樹脂の表面を被覆する第1導電層と、当該第1導電層の表面を被覆する第2導電層とで構成され、前記第1導電層の粒径は前記第2導電層の粒径よりも小さい請求項5に記載の回路モジュール。
【請求項7】
前記第2導電層は、前記傾斜部に接している請求項6に記載の回路モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【図10−4】
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【図10−5】
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【図10−6】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図12−4】
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【図12−5】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【図14−4】
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【図14−5】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−155223(P2011−155223A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17265(P2010−17265)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】