説明

回路基板とその作製方法

【課題】 高密度化が可能な回路基板を提供する。
【解決手段】 回路基板3の構成は、銅基板10の表面には微粒子ビーム堆積法にて形成された酸化アルミニウム基板11が配置され、その表面にあるパターンを描く導電性配線12が配置され、その上に同じく微粒子ビーム堆積法で形成された酸化アルミニウム層13、14が配置される。この層間にも導電性配線12が通っている。酸化アルミニウム基板11上にはまたICチップ16が高温半田17を介して設置されており、導電性配線12とワイヤーボンディング18によって接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICチップなどの電子部品を搭載したり、配線が形成される絶縁性セラミックスからなる回路基板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回路基板は、特開2000−86368号公報、特開2000−127123号公報、特開2000−269392号公報或いは特開2000−353769号公報に開示されるように、セラミックス基板に放熱用の金属製のヒートシンクを接合したものが使用されている。セラミックス基板は通常グリーンシートやドクターブレード法によってシート状に形成されたセラミックス素地を焼成して得られる。
【0003】
配線を必要とする場合は、上記公報に開示されるように、あらかじめグリーンシート上にペースト塗布などにより導電性物質を配置した後、グリーンシートを積層して圧縮成形し、これを還元雰囲気で焼成するなどして得ている。
【0004】
また、セラミックス基板とヒートシンクの接合は、銅系ロウ材を使って銅板と接合する活性金属法や、銅と酸素の共晶点を利用して直接銅と接合する直接接合法(DBC法)などが多く用いられている。
【0005】
セラミックス基板の材料としては、絶縁性に優れ、強度が強く、熱伝導率にも優れ、湿度や温度変化に対して劣化の少ない酸化アルミニウムや、さらに熱伝導率に優れるという理由から窒化アルミニウムあるいは窒化ケイ素などが通常使用されている。その厚さは数百μm以上が一般的である。
【0006】
ヒートシンクには、前述した銅が熱伝導率に優れ、安価であり、よく使用されているほか、熱伝導性には銅に譲るものの、軟質であるなどの理由でアルミニウムも使用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した方法は、まずセラミックス基板を作製するために1000℃以上の高温を必要とし、配線を配置する場合は、還元性雰囲気の環境を与えなければならない。
【0008】
また、セラミックス基板とヒートシンクを接合する場合も、活性金属法では780℃以上、直接接合法では1050℃以上と、高温環境を必要とし、このような高温のため、熱膨張の差で接合部に大きな応力が発生し、基板が割れたり、残留応力による基板の反りが発生するなどの不具合が生じる。また接合部の熱伝導率が低い場合もあり、これが冷却効果を劣化させる原因ともなる。また多くの加熱工程は、エネルギー消費量の問題のほか、煩雑さもあり、コスト高の要因となっている。
【0009】
またPVDやCVDなどで金属板の表面にセラミックス層を形成することも可能であるが、高温プロセスを必要とするだけでなく、厚い膜厚のセラミックス層を作製するのが困難である。また溶射法であれば膜厚を厚くできるが高温プロセスが必要になる。
【0010】
更に最近では、金属やセラミックス等の超微粒子をガス攪拌にてエアロゾル化し、微小なノズルを通して加速せしめ、基材表面に超微粒子の圧粉体層を形成させ、これを加熱して焼成させることにより被膜を形成するというガスデポジション法(加集誠一郎:金属 1989年1月号)や、微粒子を帯電させ電場勾配を用いて加速せしめ、この後はガスデポジション法と同様の基本原理で被膜形成を行う静電微粒子コーティング法(井川 他:昭和52年度精密機械学会秋季大会学術講演会前刷)も知られているが、何れも加熱プロセスを伴うため、前記したように基板の割れや反りを発生しやすい。
【0011】
また、上記のガスデポジション法あるいは静電微粒子コーティング法を改良した先行技術として、特開平8−81774号公報、特開平10−202171号公報、特開平11−21677号公報、特開平11−330577号公報或いは特開2000−212766号公報に開示されるものが知られている。
しかしながら、これらの先行技術には回路基板への適用が示唆されておらず、且つ回路基板として要求される密着性、絶縁性を有し且つ所定の厚さのものを得ることはできない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の知見に基づいてなされた。
即ち、延展性を持たない脆性材料(セラミックス)に機械的衝撃力を付加すると、結晶子同士の界面などの劈開面に沿って結晶格子のずれを生じたり、あるいは破砕される。そして、これらの現象が起こると、ずれ面や破面には、もともと内部に存在し別の原子と結合していた原子が剥き出しの状態となった新生面が形成される。この新生面の原子一層の部分は、もともと安定した原子結合状態から外力により強制的に不安定な表面状態に晒され、表面エネルギーが高い状態となる。この活性面が隣接した脆性材料表面や同じく隣接した脆性材料の新生面あるいは基板表面と接合して安定状態に移行する。外部からの連続した機械的衝撃力の付加は、この現象を継続的に発生させ、微粒子の変形、破砕などの繰り返しにより接合の進展、緻密化が行われ、脆性材料構造物が形成される。
【0013】
そして、更に上記機械的衝撃を搬送ガスにて脆性材料を基材に衝突させるようにした本発明の一態様を微粒子ビーム堆積法あるいはエアロゾルデポジション法と称する。
この微粒子ビーム堆積法は、ガスデポジション法より発展してきた手法であり、金属などの基材上に脆性材料の多結晶構造物をダイレクトに形成させる方法である。この手法は、脆性材料の微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを搬送し、高速で基材表面に噴射して衝突させ、微粒子を破砕・変形せしめ、基板との界面にアンカー層を形成して接合させるとともに、破砕した断片粒子同士を接合させることにより、基材との密着性が良好で強度の大きい構造物を得ることができる。
【0014】
上記の知見から発展した本発明に係る回路基板は、ヒートシンクとして作用する金属材料にセラミックス基板(層)を接着剤を用いることなく直接接合して構成される。
また、本発明に係る他の回路基板は、金属材料にセラミックス基板が接着剤を用いることなく直接接合され、このセラミックス基板に導電性配線が直接形成された構成とした。
【0015】
本発明にあっては、前記セラミックス基板が、多結晶の脆性材料からなり、結晶同士の界面にはガラス層からなる粒界層が実質的に存在せず、前記セラミックス基板と前記金属材料との界面は、前記セラミックス基板が前記金属材料に食い込むアンカー部となっている。
【0016】
前記セラミックス基板の厚さは1〜1000μmが回路基板として適当であり、また緻密度は95%以上であることが好ましく、更に前記セラミックス基板の材質としては酸化アルミニウムを主成分とするものが考えられる。熱伝導特性に優れる絶縁性材質である窒化アルミニウム、窒化硼素、窒化珪素、酸化ベリリウム、あるいは酸化珪素などを主成分とするものを用いることも考えられる。
すなわち、本願では厚さ1μmレベルの薄膜品が焼成せずに作製でき、そのために回路基板をより小型化することが可能となった。また、1000μmレベルの緻密な厚膜も作製可能となり、大面積の回路設計をも可能とした。
【0017】
また、本発明に係る回路基板の製造方法は、脆性材料微粒子を金属材料表面および/または導電性配線に高速で衝突させて、この衝突によって前記脆性材料微粒子を変形または破砕し、この変形または破砕にて生じた活性な新生面を介して微粒子同士を再結合せしめることで、前記金属材料表面および/または前記導電性配線に前記脆性材料微粒子が食い込むアンカー部を形成させ、このアンカー部の上に脆性材料からなるセラミックス層を形成するようにした。
【0018】
剥離強度に優れ、且つ必要な厚さのセラミックス基板を得るには、脆性材料微粒子はあらかじめ内部歪が印加されていることが好ましい。微粒子に歪を与える粉砕処理は、微粒子にかかる粉砕のための衝撃を大きく与えることのできる粉砕手段を用いるのが好ましい。微粒子に比較的一様に大きな歪を付与することができるからである。このような粉砕手段としては、セラミックスの粉砕処理によく用いられるボールミルに比べて大きな重力加速度を与えることの出来る振動ミルやアトライタ、遊星ミルを用いるのが好ましく、とりわけボールミルに比べて格段に大きな重力加速度を与えることの出来る遊星ミルを用いることが最も好ましい。微粒子の状態に着目すれば、クラックは内部歪をキャンセルするものであるので、最も好ましいのは、クラックが生じる直前まで内部歪が高まっている微粒子ということになる。
【0019】
また、本発明方法の特徴の1つは、セラミックス層の形成を室温環境下で行うことであり、脆性材料微粒子を高速で衝突させる手段が、脆性材料微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、高速で前記金属材料および/または導電性配線に向けて噴射することである。
【0020】
ここで、本発明を理解する上で重要となる語句の解釈を以下に行う。
(多結晶)
本件では結晶子が接合・集積してなる構造体を指す。結晶子は実質的にそれひとつで結晶を構成しその径は通常5nm以上である。ただし、微粒子が破砕されずに脆性材料構造物中に取り込まれるなどの場合がまれに生じるが、実質的には多結晶である。
(界面)
本件では結晶子同士の境界を構成する領域を指す。
(粒界層)
界面あるいは焼結体でいう粒界に位置するある厚み(通常数nm〜数μm)を持つ層で、通常結晶粒内の結晶構造とは異なるアモルファス構造をとり、また場合によっては不純物の偏析を伴う。
(アンカー部)
本件の場合には、基材と脆性材料構造物の界面に形成された凹凸を指し、特に、予め基材に凹凸を形成させるのではなく、脆性材料構造物形成時に、元の基材の表面精度を変化させて形成される凹凸のことを指す。
(内部歪)
原料微粒子に含まれる格子歪のことで、X線回折測定におけるHall法を用いて算出される値であり、微粒子を十分にアニールした標準物質を基準として、そのずれを百分率表示する。
【発明の効果】
【0021】
以上に説明したように本発明によれば、回路基板を高温プロセスを使用しないで作製できるため、低コスト、低消費エネルギーであり、材質の熱膨張率の差を気にする必要がない。
また、セラミックス基板と裏面側の金属材料とが直接接合しているので、熱伝導率の低い接着層による冷却効率の低下がない。
また、セラミックス基板を極力薄くできるので、冷却効率が向上し、スルーホール内面に導電性コーティングをする必要がない。
また、緻密質のセラミックス基板が得られるので、導電性配線をめっき処理やペースト塗布で施す場合に余剰の成分がポアに残留して短絡するなどの危険性がない。
更に導電性配線をセラミックス基板内(厚さ内)に極力納めることができ、配線の劣化やゴミによる短絡などの危険性がなく、回路の高密度化が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に実施の一態様としての回路基板1の断面図を示す。図2にこの実施の態様を達成するために使用する作製装置20(超微粒子ビーム堆積装置)の模式図を示す。回路基板1は、銅基板10および酸化アルミニウム基板11からなる。作製装置20は、窒素ガスボンベ201がガス搬送管202を介して、あらかじめミル解砕により歪みを印加した酸化アルミニウム微粒子を内蔵するエアロゾル発生器203に接続し、エアロゾル搬送管204を介して形成室205内に設置された、縦0.4mm横10mmの開口を持つノズル206に接続されている。ノズル206の先にはXYステージ207に設置された銅基板10が配置される。形成室205は真空ポンプ208に接続されている。銅基板10は表面が平面に加工されている。
【0023】
以上の構成の作製装置20による回路基板1の作製手順を次に述べる。窒素ガスボンベ201を開栓し、窒素ガスを搬送管202を通じてエアロゾル発生器203に導入させ、酸化アルミニウム微粒子を含むエアロゾルを発生させる。エアロゾルは搬送管204を通じてノズル206へと送られ、ノズル206の開口より高速で噴出される。このとき真空ポンプ208の作動により、形成室205内は数kPaの減圧環境下に置かれている。
【0024】
ノズル206の開口の先に配置された銅基板10に酸化アルミニウム微粒子が高速で衝突し、粒子はその運動エネルギーにより変形、破砕を起こして、一部は銅基板10に食い込みアンカー層を形成し、一部はアンカー層の上に破砕して形成された微細断片粒子同士がその新生面を介して接合し、これを繰り返して銅基板10上に緻密質の酸化アルミニウムの層を形成していく。銅基板10はXYステージ207により揺動されており、所望の面積に酸化アルミニウムの層は形成され、銅基板10上に都合30μmの酸化アルミニウム基板11を得た。これらのプロセスはすべて室温下で行われた。
【0025】
このようにして得られた回路基板1は、銅基板10と酸化アルミニウム基板11が強固に接着しており、室温で形成されているため、酸化アルミニウム基板の残留応力も少ない。形成後の表面はRa=0.18μm程度の表面荒さを保有しているが、この表面は研磨しても良いし、後工程での電極との密着性を考慮すれば、このまま用いることも好適である。
【0026】
また、絶縁破壊電圧値が100V/μm以上の酸化アルミニウム基板が30μm厚みで形成されているため、銅基板10をグランドとしても、3kV以上の耐電圧を有し、電流の漏れはなく、熱伝導特性も良好である。
【0027】
図3は回路基板1を用い、ICチップをはめ込んでパッケージ化した多層配線基板3の断面図である。図4は多層配線基板3のセラミックス基板部分の形成に用いた作製装置21の一部を示した模式図であり、作製装置20に準じているが、ノズル206に3次元構造形成装置40が設置され、プログラムコントローラ41につながっている。
【0028】
図5は3次元構造形成装置の斜視図であり、ノズルの開口の先に届く、可動式の、幅500μmのピンを多数並べた構造となっており、XYステージと同期しつつプログラム稼動する。
【0029】
多層配線基板3の構成は、銅基板10の表面に酸化アルミニウム基板11が配置され、その表面にあるパターンを描く導電性配線12が配置され、その上に酸化アルミニウム層13、14が配置される。この層間にも導電性配線12が通っている。すなわち導電性配線は3次元の立体配線構造をとっている。また酸化アルミニウム層13、14はスルーホール15が各所に設置されており、導電性配線12がここから覗いている。酸化アルミニウム基板11上にはまたICチップ16が高温半田17を介して設置されており、導電性配線12とワイヤーボンディング18によって接続されている。
【0030】
この多層配線基板3の作製方法を次に述べる。回路基板1に図には示さない真空蒸着装置によりアルミニウムの配線パターンを形成した後、作製装置21内のXYステージ207に設置する。実施例1と同様の操作で酸化アルミニウム層13を厚さ30μmで形成するが、形成中3次元構造物形成装置40のピンがプログラムによりエアロゾルの噴射(粉体ビーム)の一部をカットして、回路基板1まで届くのを阻止し、カット部分には酸化アルミニウム層を形成しないマスクの役割を果たす。従ってこれが約500μm×500μmの正方形状のスルーホールとなり、導電性配線12をむき出しのままの状態に保つ。また中央部はICチップを設置するためのキャビティ部分も3次元構造物形成装置40の働きにより、層が形成されない。なお、ピンに粉体ビームが当たる位置は、粉体ビームの直進方向に対し、45°の傾きを持っているため、ビームはここで直角にそろって進路変更をするため、反射するビームが、直進する粉体ビームを散乱させたり、回路基板1に悪影響を及ぼすことはない。
【0031】
酸化アルミニウム層14を形成後に作製装置21より取り出し、再びアルミニウムの導電性配線12を配線して作製装置21内に設置し、同様の操作を行って酸化アルミニウム層14を形成させる。このようにして作製した多層配線基板3にICチップ16を高温半田にて融着し、ワイヤーボンディング17で導電性配線12と導通させて、ICパッケージとする。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
図2とほぼ同様の作製装置を用いて真鍮基板上に酸化アルミニウムの構造物を10〜30μmの厚みで形成した。原料粉末として平均粒径0.6μm、純度99.8%の酸化アルミニウム微粒子を用い、搬送ガスとして超高純度窒素を使用し、流量を5L/minとした。形成した酸化アルミニウム構造物の基板との密着性を引き倒し法によって計測した結果843kgf/cmの値を得た。また島津製作所製微小硬度測定装置DUH−W201にてビッカース硬度を測定した結果1100〜1200Hvの硬度を得た。また酸化アルミニウム表面に電極を形成し、真鍮基板との間で直流の電圧を印加して絶縁破壊電圧値を測定した結果100V/μm以上の値を得た。
【0033】
(実施例2)
本発明者らは原料粉体に同じ粒径の脆性材料を用いた場合でも、形成される構造物の形成速度、達成膜厚に相違があり、これは微粒子の前処理、微粒子のキャラクタリゼーションに起因するとの結論を得た。その指標として前処理条件によって変化する内部歪があげられる。
そこで、内部歪と同一の形成時間で達成された構造物の膜厚の関係について実験した結果を図6に示す。実験は、純度99.8%の酸化アルミニウム微粒子に遊星ミルを用いて粉砕処理を行い、微粒子のキャラクタリゼーションを変化させた後、超微粒子ビーム堆積法によりアルミニウム基板上に構造物を形成した。微粒子の内部歪はX線回折により測定し、歪量は同微粒子に熱エージングを施して内部歪を除去したものを0%として基準にした。
また、図6中のポイントA,B,Cにおける微粒子のSEM写真(日立製インレンズSEM S−5000)を図7、図8及び図9に示す。
【0034】
図6から内部歪は、膜厚1μm以上にするには、0.01〜2.5%にするのが好ましく、さらに、安定した膜厚、製膜速度を得るには、0.1%〜2.0%の内部歪が好ましいことが分かる。クラックと内部歪との関係は、内部歪がない場合には図7に示すようにクラックは発生しないが、内部歪が一定値以上、本件の場合には2.0%以上となると完全にクラックが形成されてしまい、さらには脱落した断片が表面に付着して図9に示すような再凝集状態となってしまう。
【0035】
(実施例3)
実施例3として、本発明にて作製した酸化アルミニウム構造物基板と従来からICパッケージ等の絶縁用基材として用いられているアルミナ基板の熱伝導性の比較実験を行った。本発明にて純度99.8%、平均粒径0.6μmの酸化アルミニウム微粒子を用いて超微粒子ビーム堆積法により、厚み1mmのSUS304ステンレス基材上に約10μmの厚み、30mm角の大きさで酸化アルミニウム構造物を形成し、酸化アルミニウム構造物基板とした。比較のための従来絶縁用基材アルミナ基板としては、市販の1mm厚みのアルミナ基材(純度99%)を30mm角に切り出した試料を用いた。図10に、今回、熱伝導性を評価するのに用いた装置50を示す。
サーモ・ボニック製の14mm角のペルチェ素子51(熱電素子)に、直流電源52(KENWOOD製直流安定化電源:PS36-20)を配線して熱源とした。なお、ペルチェ素子51は、厚み12mmで大きさ50mm角のアルミブロックの固定用ジグ53上に、エポキシ系接着剤により接着層54を介して接着されている。測定したい絶縁性基材55は、固定用ジグ53に接着されたペルチェ素子51上に、熱の伝達を促す目的でシリコングリス56を塗布し、これに密着させてのち、固定用ジグ57にてビス58を用いて固定した。絶縁性基材55は酸化アルミニウム構造物基板あるいは従来アルミナ基板を用いるわけであるが、酸化アルミニウム構造物基板を用いる場合は、ペルチェ素子51に接する側に酸化アルミニウム構造物の形成部を接着する。熱伝導性の評価は、測定したい絶縁基材55の裏側に熱電対59を基板中心から約5mm離れた場所に当てて、通電開始前の基板温度と通電時間に伴う基板の温度を温度測定器60(アドバンテスト製 デジタルマルチメータ:TR6846)にて測定した。
図11に、電流を1.0Aと2.0A流した時の通電時間に伴う基板温度の変化量(:(各通電時の基板温度)−(通電前の基材温度))をプロットした。いずれの電流を流した時でも、本発明にて作製した絶縁基材の方が、従来の絶縁基材に対して、変化量が大きく、速く熱伝導することが明らかになった。このことより薄いセラミックス層と金属材料とが直接接合している本発明品は、熱伝導に優れることがわかった。
【0036】
(実施例4)
実施例4として、本発明にて作製した酸化アルミニウム構造物回路基板と従来からICパッケージ等の絶縁用基材として用いられているアルミナ基板の放熱特性の比較実験を行った。本発明にて純度99.99%、平均粒径0.1μmの酸化アルミニウム微粒子を用いて超微粒子ビーム堆積法により、アルミニウム合金製の30mm角の平面部を持つヒートシンクに、その平面部表面を覆うように約10μmの厚みにて酸化アルミニウム構造物を形成し、これを酸化アルミニウム構造物基板とした。図12に基板の放熱特性を評価するのに用いた装置70を示す。
サーモ・ボニック製の14mm角のペルチェ素子71(熱電素子)に、直流電源72(KENWOOD製直流安定化電源:PA18−6A)を配線して熱源とした。ペルチェ素子71は、冷温側を厚み12mmで大きさ50mm角のアルミブロックの固定用ジグ73上に、エポキシ系接着剤により接着層74を介して接着されている。酸化アルミニウム構造物基板75は、ペルチェ素子71上に、熱の伝達を促す目的でシリコングリス76を塗布し、ペルチェ素子71に接する側に酸化アルミニウム構造物の形成部を密着させて固定した。酸化アルミニウム構造物基板75の上部に空冷ファン77を設置した。またペルチェ素子71の表面に熱電対78を接着し、サーモメータ79に接続している。
【0037】
比較のための従来アルミナ基板としては、市販の1mm厚みのアルミナ基材(純度99%)を30mm角に切り出した試料を用いた。図13に基板の放熱特性を評価するのに用いた装置80を示す。図12とほぼ同様な仕様であるが、従来アルミナ基板81の固定は、ペルチェ素子71上に、熱の伝達を促す目的でシリコングリス82を塗布し、これに密着させて固定した。また従来アルミナ基板81の上部にシリコングリス83を介して図12で示したものと同等のヒートシンク84(酸化アルミニウム構造物は形成されていない)を密着させることとした。
【0038】
放熱特性の評価は、室温にて放熱ファン77を作動させた状態で2Aの電流をペルチェ素子71に通電し、直後から2分間までのペルチェ素子71の高温部表面の温度を計測することによる。
図14に、通電時間とペルチェ素子の表面温度の関係を示す。従来アルミナ基板に対して、酸化アルミニウム構造物基板ではその表面温度が低く抑えられており、従って基板を通しての熱の伝達が、より良好であることが確認され、基板としての放熱特性が優れるということがわかった。
【0039】
(実施例5)
次に構造物形成に伴って形成されたアンカー部について、図15に示す。表面を鏡面に仕上げた金属基板に、微粒子ビーム堆積法を用いて酸化アルミニウム膜を膜厚10μm程度で形成させた後、膜に引張り応力を与えて膜を基板より引き剥がしてアンカー部をむき出しにし、基板の表面粗さとアンカー部を日本真空技術株式会社製触針式表面形状測定器Dektak3030を用いて計測した。図15の上のプロファイルが真鍮基板の表面プロファイルであり、下がアンカー部のプロファイルである。図より微粒子の衝突によりアンカー部が形成されている様子がわかる。また同表面形状測定器によりこれらの表面粗さRaは、スイープ距離200μmにおいて、基板表面が7.7nm、アンカー部が73.8nmであった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る電子回路基板の縦断面図
【図2】本発明に係る電子回路基板の製造装置の一例を示す図
【図3】別実施形態に係る電子回路基板の縦断面図
【図4】別実施形態に係る電子回路基板の製造装置の一例を示す図
【図5】3次元構造形成装置の斜視図
【図6】脆性材料微粒子の内部歪と膜厚との関係を示すグラフ
【図7】図4のポイントAにおける微粒子のSEM写真
【図8】図4のポイントBにおける微粒子のSEM写真
【図9】図4のポイントCにおける微粒子のSEM写真
【図10】実施例3における熱伝導性評価装置の構成図
【図11】実施例3における熱伝導性評価結果の1例
【図12】実施例4における酸化アルミニウム構造物基板の放熱特性評価装置の構成図
【図13】実施例4における従来アルミナ基板の放熱特性評価装置の構成図
【図14】実施例4における放熱特性評価結果
【図15】実施例5におけるアンカー部の凹凸プロファイルを示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性のセラミックス基板の裏面側に冷却用の金属材料を設けた回路基板において、前記金属材料に前記セラミックス基板が接着剤を用いることなく直接接合され、このセラミックス基板に導電性配線が直接形成されていることを特徴とする回路基板。
【請求項2】
請求項1に記載の回路基板において、前記セラミックス基板が、多結晶の脆性材料からなり、結晶同士の界面にはガラス層からなる粒界層が実質的に存在せず、前記セラミックス基板と前記金属材料との界面は、前記セラミックス基板が前記金属材料に食い込むアンカー部となっていることを特徴とする回路基板。
【請求項3】
請求項1または請求2に記載の回路基板において、前記セラミックス基板の厚さが1〜1000μmであることを特徴とする回路基板。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の回路基板において、前記セラミックス基板の緻密度が95%以上であることを特徴とする回路基板。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の回路基板において、前記セラミックス基板の材質が酸化アルミニウムを主成分とすることを特徴とする回路基板。
【請求項6】
脆性材料微粒子を金属材料表面および/または導電性配線に高速で衝突させて、この衝突によって前記脆性材料微粒子を変形または破砕し、この変形または破砕にて生じた活性な新生面を介して微粒子同士を再結合せしめることで、前記金属材料表面および/または前記導電性配線に前記脆性材料微粒子が食い込むアンカー部を形成させ、このアンカー部の上に脆性材料からなるセラミックス層を形成することを特徴とする回路基板の形成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の回路基板の形成方法において、前記脆性材料微粒子はあらかじめ内部歪が印加されていることを特徴とする回路基板の形成方法。
【請求項8】
請求項6に記載の回路基板の形成方法において、前記セラミックス層の形成が室温環境下で行われることを特徴とする回路基板の形成方法。
【請求項9】
請求項6に記載の回路基板の形成法において、前記脆性材料微粒子を高速で衝突させる手段は、脆性材料微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、高速で前記金属材料および/または導電性配線に向けて噴射することとした回路基板の形成方法。
【請求項10】
請求項6乃至請求項9の何れかに記載の回路基板の形成方法において、前記脆性材料微粒子の主成分が酸化アルミニウムであることを特徴とする回路基板の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−49923(P2006−49923A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256934(P2005−256934)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【分割の表示】特願2002−88014(P2002−88014)の分割
【原出願日】平成14年3月27日(2002.3.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【出願人】(500320202)
【Fターム(参考)】