説明

回転力発生装置

【課題】相巻線における巻線の接続状態を切り替えても、トルク波形の変動が生じない回転力発生装置を提供する。
【解決手段】トルクTと回転数Nを用いて相巻線の「直列接続→並列接続」または「並列接続→直列接続」の切替えを実施する際に、相巻線の通電状態が非通電のタイミングで切替えを実施するとともに、相巻線の電流波形を制御して切替え直前と直後のトルク波形を略同一波形に揃える。これにより、SRモータ1は、広い運転領域において高出力を得ることができるとともに、相巻線の通電中に巻線組の切替えが実施されることで生じるトルク変動を回避でき、さらに、巻線組の切替えが行われて巻線組のインダクタンスが変化することによるトルク波形の変動も回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「巻線の接続状態の切替えが可能な巻線組」よりなる「相巻線」を搭載する電動モータを用いた回転力発生装置に関し、特に巻線組の切替え技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータ(SRモータ等)の出力は、一般に「相巻線の巻数(コイルの巻回数)」に依存する。
具体的に、電動モータの出力は、「相巻線の巻数」が多い場合に、低回転域で大きな出力を発生するが、高回転域では出力が低下する。逆に、「相巻線の巻数」が少ない場合には、高回転域で大きな出力を発生するが、低回転域では出力が低下する。
【0003】
そこで、回転数に応じて「相巻線の巻数」を切り替えることで、低回転域と高回転域のそれぞれで大きな出力を得る技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1は、「巻線の接続状態の切替えが可能な巻線組」によって「相巻線」を設け、(i)低回転域の時に「巻数が多くなるように巻線組」を切替え、(ii)高回転域の時に「巻数が少なくなるように巻線組」を切替える技術である。
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、巻線組の切替えの実施タイミングで巻線組のインダクタンスが急変するため、切替えの実施タイミングでトルク波形が急変する不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3702713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、巻線組の切替えを行っても、電動モータのトルク波形に変動が生じない回転力発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔請求項1の手段〕
請求項1の回転力発生装置は、制御回路に設けた通電制御指令部によって相巻線の電流波形を制御することによって、巻線組の切替え直前と直後のトルク波形を同一波形(出力の増減やスイッチのデューティ比の増減に伴う僅かな波形の増減を含む)に揃える。
これにより、巻線組の切替えが行われて巻線組のインダクタンスが変化しても、電動モータのトルク波形の変動を防ぐことができる。
【0008】
〔請求項2の手段〕
請求項2の通電制御指令部は、巻線組の切替え直前と直後の巻線印加電圧平均値を、切替え直前と直後の巻数比に制御する。
これにより、巻線組の切替えによってインダクタンスが変化しても、巻線組の切替え直前と直後のトルク波形を略同一波形に揃えることができる。
【0009】
〔請求項3の手段〕
請求項3の制御回路は、第1切替指令部、第2切替指令部、切替実行回路によって、相巻線の通電状態が非通電のタイミングで巻線組の切替えを実施する。
これにより、相巻線の通電中に巻線組の切替えが実施されることで生じるトルク変動を回避することができる。
【0010】
〔請求項4の手段〕
請求項4の第1切替指令部は、「電動モータのトルク」と「電動モータの回転数」を用いて巻線組の切替状態を決定する。
これにより、低回転域から高回転域の広い運転領域において電動モータから高出力を得ることができる。
【0011】
〔請求項5の手段〕
請求項5の第2切替指令部は、「第1切替指令部の決定状態」と「現在の巻線組の切替状態」と「相巻線の電流値」の3条件を用いて切替実行回路に切替指令を与える。
これにより、相巻線の通電中に巻線組の切替えが実施されることで生じるトルク変動を回避することができる。
【0012】
〔請求項6の手段〕
請求項6の通電制御指令部は、巻線組の切替えに応じて制御パラメータの切替えを行う。
これにより、巻線組の切替えによってインダクタンスが変化しても、巻線組の切替え直前と直後のトルク波形を略同一に揃えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)SRモータの概略図、(b)各相巻線の駆動回路図である(実施例1)。
【図2】制御回路の概略ブロック図である(実施例1)。
【図3】(a)第1切替指令部の作動説明に用いる回転数に対する出力トルクを示すグラフ、(b)第1切替指令部の作動説明に用いる3条件と切替指令の有無の関係を示す図表である(実施例1)。
【図4】巻線組の切替制御の一例を示すフローチャートである(実施例1)。
【図5】作動説明のためのタイムチャートである(実施例1)。
【図6】制御回路の概略ブロック図である(実施例2)。
【図7】(a)SRモータの概略図、(b)各相巻線の駆動回路図である(実施例3)。
【図8】(a)SRモータの概略図、(b)各相巻線の駆動回路図である(実施例4)。
【図9】(a)ステッピングモータの概略図、(b)相巻線の駆動回路図である(変形例)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して[発明を実施するための形態]を説明する。
回転力発生装置は、「巻線の接続状態の切替えが可能な巻線組」よりなる「相巻線」を搭載するSRモータ1(電動モータの一例)と、このSRモータ1の運転状態に応じて巻線組の切替えを行う制御回路2とを具備する。
【0015】
制御回路2は、
(a)SRモータ1の運転状態(回転数NやトルクT等)に基づいて巻線組の接続状態(切替状態)を決定する第1切替指令部3と、
(b)この第1切替指令部3が巻線組の切替えを決定した場合、相巻線の通電状態が非通電のタイミングで巻線組の切替指示を発生する第2切替指令部4と、
(c)この第2切替指令部4の切替指令に基づいて巻線組の切替えを実行する切替実行回路5と、
(d)相巻線の電流波形を制御する通電制御指令部6と、
(e)この通電制御指令部6の指示に基づいて相巻線の通電制御を実行する通電制御実行回路7と、
を具備する。
【0016】
そして、通電制御指令部6は、巻線組の切替えが実行される際、巻線組の切替え直前と直後のトルク波形が同一波形(出力の増減やスイッチのデューティ比の増減に伴う僅かな波形の増減を含む)となるように、相巻線の電流波形を制御する。
これにより、SRモータ1の作動中に、巻線組の切替えが実行されても、SRモータ1のトルク波形の変動を防ぐことができる。
【実施例】
【0017】
以下において本発明の具体的な一例(実施例)を、図面を参照して説明する。以下の実施例は具体的な一例を示すものであって、本発明が実施例に限定されないことはいうまでもない。
なお、以下の実施例において、上記「発明を実施するための形態」と同一符号は同一機能物を示すものである。
【0018】
[実施例1]
図1〜図5を参照して実施例1を説明する。
この実施例は、電動モータの一例としてSRモータ1(スイッチド・リラクタンス・モータ)を用い、このSRモータ1を制御回路2により通電制御するものである。なお、SRモータ1の用途は限定されるものではないが、具体的な一例としてこの実施例では、電気自動車やハイブリッド車両など、車両走行用(車両駆動用)として車両に搭載されるものである。
【0019】
(SRモータ1の説明)
SRモータ1は、複数の相巻線を有するステータコア11と、このステータコア11に対して回転自在に支持されたロータコア12とを備える。
相巻線の相数は限定されるものではないが、この実施例では具体的な一例として、A相巻線、B相巻線、C相巻線の3相を用いる例を示す。
【0020】
図1(a)に基づいてSRモータ1の具体例を説明する。
この実施例のステータコア11は、機械角360度の間に等間隔で配置された12個のステータティース(ステータ突極)13の他に、各ステータティース13を磁気的に結合するバックヨーク14を備える。
【0021】
具体的に、この実施例1のSRモータ1は、ステータコア11の内側にロータコア12が配置されるインナーロータタイプである。
このため、実施例1のステータコア11は、モータハウジング内(具体的には筒状を呈するヨーク内)に固定配置される円環状のバックヨーク14と、このバックヨーク14から内径方向に突出する12個のステータティース13とを備える。
さらに具体的に説明すると、ステータコア11は、表面に絶縁膜が形成された電磁鋼板(軟鉄板、 珪素鋼板、アモルファス金属板等)を多数積層したものである。
【0022】
この実施例のロータコア12は、機械角360度の間に等間隔で配置された8個のロータティース(ロータ突極)15と、ロータ軸(出力軸)に結合するリングコア16とを備える。
具体的に、この実施例1のSRモータ1は、上述したようにインナーロータタイプである。このため、実施例1のロータコア12は、モータハウジングに対して軸受を介して回転自在に支持されたロータ軸の周囲に固定されるリングコア16と、このリングコア16から外径方向に突出する8個のロータティース15とを備える。
さらに具体的に説明すると、ロータコア12は、上述したステータコア11と同様、表面に絶縁膜が形成された電磁鋼板(軟鉄板、 珪素鋼板、アモルファス金属板等)を多数積層したものである。
【0023】
ここで、ステータコア11の軸芯とロータコア12の軸芯は同軸に配置されるものであり、ロータコア12が回転する際に、ステータティース13とロータティース15は非接触で、且つステータティース13とロータティース15が対向する状態においてステータティース13とロータティース15の間にクリアランスが形成されるものである。
【0024】
(SRモータ1における相巻線の説明)
この実施例のSRモータ1は、各ステータティース13を切替えて励磁する手段として、上述したように、A相巻線、B相巻線、C相巻線を搭載する。
A相巻線は、独立した第1A巻線1Aと第2A巻線2Aよりなる。この第1A巻線1Aと第2A巻線2Aは接続状態の切替えが可能なA巻線組を構成する。
B相巻線は、独立した第1B巻線1Bと第2B巻線2Bよりなる。この第1B巻線1Bと第2B巻線2Bは接続状態の切替えが可能なB巻線組を構成する。
C相巻線は、独立した第1C巻線1Cと第2C巻線2Cよりなる。この第1C巻線1Cと第2C巻線2Cは接続状態の切替えが可能なC巻線組を構成する。
【0025】
なお、図1(a)では、理解補助のために、A相巻線(第1A巻線1A、第2A巻線2A)のみを図示し、B相巻線(第1B巻線1B、第2B巻線2B)およびC相巻線(第1C巻線1C、第2C巻線2C)を省略している。
また、以下では、相巻線の制御の説明において、A相巻線の制御例を説明し、B相巻線およびC相巻線の制御例の説明を省略する箇所も存在するが、B相巻線およびC相巻線もA相巻線と同様に制御されるものである。
【0026】
第1A巻線1Aは、180度対向する2つのステータティース13に巻回されるものであり、第1A巻線1Aが通電された際に、第1A巻線1Aが巻回された2つのステータティース13を異なる磁極に励磁する。
第2A巻線2Aは、第1A巻線1Aが励磁するステータティース13に対して回転方向に90度異なる位置において180度対向する2つのステータティース13に巻回されるものであり、第2A巻線2Aが通電された際に、第2A巻線2Aが巻回された2つのステータティース13を異なる磁極に励磁する。
【0027】
ここで、図1(a)における第1A巻線1Aおよび第2A巻線2Aと、図1(b)における第1A巻線1Aおよび第2A巻線2Aとの関連性を明確にするために、第1A巻線1Aのコイル端を符合A1、A1’で示し、第2A巻線2Aのコイル端を符合A2、A2’で示す。
【0028】
なお、図1(a)では図示しないが、B相巻線を成す「第1、第2B巻線1B、2B」とC相巻線を成す「第1、第2C巻線1C、2C」も、上述したA相巻線を成す「第1、第2A巻線1A、2A」と同様の構成を採用するものであり、
・B相巻線を成す「第1、第2B巻線1B、2B」が、A相巻線を成す「第1、第2A巻線1A、2A」が巻回されたステータティース13に対して、図1(a)においてそれぞれ反時計回りに60度回転した位置のステータティース13に設けられ、
・C相巻線を成す「第1、第2C巻線1C、2C」が、B相巻線を成す「第1、第2B巻線1B、2B」が巻回されたステータティース13に対して、図1(a)においてそれぞれ反時計回りに60度回転した位置のステータティース13に設けられる。
【0029】
(制御回路2の説明)
次に、上述したSRモータ1の通電制御を行う制御回路2を説明する。
制御回路2は、図2に示すように、
(a)SRモータ1の運転状態に基づいて接続状態(直列接続または並列接続)の決定を行う第1切替指令部3と、
(b)この第1切替指令部3が巻線組の切替えを決定した場合、A相巻線、B相巻線、C相巻線が非通電のタイミングで切替指示(直列→並列の切替え指示、または並列→直列の切替え指示)を発生する第2切替指令部4と、
(c)この第2切替指令部4の切替指令に基づいてA相巻線、B相巻線、C相巻線の切替え(直列→並列の切替え、または並列→直列の切替え)を実行する切替実行回路5と、
(d)各相巻線(A相巻線、B相巻線、C相巻線)の電流波形を制御する通電制御指令部6と、
(e)この通電制御指令部6が出力する制御信号(デューティ比信号α)に基づいて各相巻線(A相巻線、B相巻線、C相巻線)に駆動電力Vを付与する通電制御実行回路7と、を具備する。
【0030】
(第1切替指令部3の説明)
第1切替指令部3は、
・SRモータ1の「トルクT」と、
・SRモータ1の「回転数N」と、
の2条件を用いて各巻線組(A巻線組、B巻線組、C巻線組)の切替状態を、「直列接続または並列接続」の一方に決定するものである。
なお、第1切替指令部3は、「トルクT」を用いずに、SRモータ1の「回転数N」に基づいて各巻線組(A巻線組、B巻線組、C巻線組)の切替状態を、「直列接続または並列接続」の一方に決定しても良い。
【0031】
具体的に、この実施例1の第1切替指令部3は、制御回路2に搭載される制御プログラムである。
制御回路2の制御プログラムは、SRモータ1の制御ルーチンに侵入すると(図4のスタート参照)、
・ECUがSRモータ1に求める「要求トルクT」と、
・回転センサ(SRモータ1の回転数Nを検出するセンサ)によって検出されるSRモータ1の「回転数N」と、
を読み込む(図4のステップS1参照)。
【0032】
次に、第1切替指令部3は、図3(a)に示す関係性(直列接続における「トルクT」と「回転数N」の関係性、並列接続における「トルクT」と「回転数N」の関係性)に基づき、「要求トルクT]と「回転数N」から接続状態(直列接続または並列接続の一方)を決定する(図4のステップS2参照)。
この決定は、制御回路2のメモリに搭載したマップ、あるいは計算式等を用いるものである。
【0033】
(i)第1切替指令部3が接続状態を「直列接続から並列接続」に切り替える決定をした場合の具体例を図5のタイミングT1に示し、
(ii)逆に、第1切替指令部3が接続状態を「並列接続から直列接続」に切り替える決定をした場合の具体例を図5のタイミングT2に示す。
【0034】
(第2切替指令部4の説明)
第2切替指令部4は、制御回路2に搭載される制御プログラムであり、
図3(b)に示すように、
(α)第1切替指令部3の決定状態(直列接続または並列接続)と、
(β)現在の巻線組の切替状態(直列接続または並列接続)と、
(γ)相巻線の電流値Iと、
の3条件に基づいて切替実行回路5に切替指示を与えるものである。
【0035】
上記(α)を説明する。
第2切替指令部4の制御プログラムは、上述した第1切替指令部3(図4のステップS2参照)が決定した接続状態が「直列接続」であるか「並列接続」であるかの判定を行う(図4のステップS3参照)。
【0036】
上記(β)を説明する。
第2切替指令部4の制御プログラムは、第1切替指令部3が決定した接続状態が「直列接続」であると判定した場合(図4のステップS3の判定結果がYESの場合)、現在の接続状態が、第1切替指令部3が決定した接続状態(即ち、直列接続)であるか否かの判定を行う(図4のステップS4参照)。
そして、現在の接続状態が、第1切替指令部3が決定した接続状態(即ち、直列接続)の場合は、切替実行回路5に切替指示を与えず、現在の接続状態(即ち、直列接続)を維持する(図4のステップS5参照)。
【0037】
上記とは逆に、第1切替指令部3が決定した接続状態が「並列接続」であると判定した場合(図4のステップS3の判定結果がNOの場合)、現在の接続状態が、第1切替指令部3が決定した接続状態(即ち、並列接続)であるか否かの判定を行う(図4のステップS6参照)。
そして、現在の接続状態が、第1切替指令部3が決定した接続状態(即ち、並列接続)の場合は、切替実行回路5に切替指示を与えず、現在の接続状態(即ち、並列接続)を維持する(図4のステップS7参照)。
【0038】
上記(γ)を説明する。
第2切替指令部4の制御プログラムは、現在の接続状態が、第1切替指令部3が決定した直列接続とは異なる場合(図4のステップS4の判定結果がNOの場合)、電流センサ(各相巻線毎の電流値Iを検出するセンサ)によって検出される切替対象の相巻線の電流値Iが0(ゼロ)であるか否かの判断を行う(図4のステップS8参照)。
切替対象の相巻線に電流が流れている場合は、切替実行回路5に切替指示を与えず、現在の接続状態(即ち、直列接続)を維持する(図4のステップS5参照)。
そして、切替対象の相巻線が非通電になると(図5のタイミングT3参照)、切替実行回路5に「並列接続→直列接続」に切り替える切替指示を与える(図4のステップS9参照)。
【0039】
上記とは逆に、現在の接続状態が、第1切替指令部3が決定した並列接続とは異なる場合(図4のステップS6の判定結果がNOの場合)、電流センサによって検出される切替対象の相巻線の電流値Iが0(ゼロ)であるか否かの判断を行う(図4のステップS10参照)。
切替対象の相巻線に電流が流れている場合は、切替実行回路5に切替指示を与えず、現在の接続状態(即ち、並列接続)を維持する(図4のステップS7参照)。
そして、切替対象の相巻線が非通電になると(図5のタイミングT4参照)、切替実行回路5に「直列接続→並列接続」に切り替える切替指示を与える(図4のステップS11参照)。
【0040】
(切替実行回路5の説明)
切替実行回路5は、複数のスイッチを用いて「第1A巻線1Aと第2A巻線2A」、「第1B巻線1Bと第2B巻線2B」、「第1C巻線1Cと第2C巻線2C」のそれぞれを、直列接続または並列接続の一方に切り替える切替回路である。
【0041】
この切替実行回路5の具体例を、図1(b)を参照して説明する。
A相巻線(第1A巻線1A、第2A巻線2A)の通電回路には、
・第1A巻線1Aをバイパスして電気を流す第1A巻線短絡スイッチSWpa1が設けられ、
・第2A巻線2Aをバイパスして電気を流す第2A巻線短絡スイッチSWpa2が設けられ、
・第1A巻線1Aのコイル端A1’と第2A巻線2Aのコイル端A2の断続を行うA切替スイッチSWsaが設けられている。
【0042】
この3つのスイッチ(第1A巻線短絡スイッチSWpa1、第2A巻線短絡スイッチSWpa2、A切替スイッチSWsa)は、上述した第2切替指令部4の切替指示により切り替えられるものである。即ち、第2切替指令部4の切替指示によって、「第1A巻線1Aと第2A巻線2A」を「直列接続または並列接続」の一方に切り替えるものである。
【0043】
具体的に「直列接続および並列接続」の切替えは、下記の表1に示すように、
(i)A切替スイッチSWsaをONし、第1A巻線短絡スイッチSWpa1と第2A巻線短絡スイッチSWpa2をOFFすることで(図5のタイミングT3未満の区間、およびタイミングT4以上の区間を参照)、第1A巻線1Aと第2A巻線2Aを直列に接続し、
(ii)A切替スイッチSWsaをOFFし、第1A巻線短絡スイッチSWpa1と第2A巻線短絡スイッチSWpa2をONすることで(図5のタイミングT3〜T4の区間を参照)、第1A巻線1Aと第2A巻線2Aを並列に接続するものである。
【0044】
【表1】

【0045】
上記と同様に、B相巻線(第1B巻線1B、第2B巻線2B)の通電回路には、
・第1B巻線1Bをバイパスして電気を流す第1B巻線短絡スイッチSWpb1が設けられ、
・第2B巻線2Bをバイパスして電気を流す第2B巻線短絡スイッチSWpb2が設けられ、
・第1B巻線1Bと第2B巻線2Bの断続を行うB切替スイッチSWsbが設けられている。
【0046】
そして、この3つのスイッチ(第1B巻線短絡スイッチSWpb1、第2B巻線短絡スイッチSWpb2、B切替スイッチSWsb)は、上述した第2切替指令部4の切替指示により切り替えられるものである。即ち、第2切替指令部4の切替指示によって、「第1B巻線1Bと第2B巻線2B」を「直列接続または並列接続」の一方に切り替えるものである。
【0047】
同様に、C相巻線(第1C巻線1C、第2C巻線2C)の通電回路には、
・第1C巻線1Cをバイパスして電気を流す第1C巻線短絡スイッチSWpc1が設けられ、
・第2C巻線2Cをバイパスして電気を流す第2C巻線短絡スイッチSWpc2が設けられ、
・第1C巻線1Cと第2C巻線2Cの断続を行うC切替スイッチSWscが設けられている。
【0048】
そして、この3つのスイッチ(第1C巻線短絡スイッチSWpc1、第2C巻線短絡スイッチSWpc2、C切替スイッチSWsc)は、上述した第2切替指令部4の切替指示により切り替えられるものである。即ち、第2切替指令部4の切替指示によって、「第1C巻線1Cと第2C巻線2C」を「直列接続または並列接続」の一方に切り替えるものである。
【0049】
(通電制御実行回路7の説明)
通電制御実行回路7は、複数のスイッチと複数のダイオードを用いてA相巻線、B相巻線、C相巻線に電流を流す回路である。
【0050】
この通電制御実行回路7の具体例を、図1(b)を参照して説明する。
通電制御実行回路7は、
・A相巻線(第1A巻線短絡スイッチSWpa1、第2A巻線短絡スイッチSWpa2、A切替スイッチSWsaを含む)にバッテリ電圧を印加するA相巻線用スイッチ手段SWap、SWanと、
・B相巻線(第1B巻線短絡スイッチSWpb1、第2B巻線短絡スイッチSWpb2、B切替スイッチSWsbを含む)にバッテリ電圧を印加するB相巻線用スイッチ手段SWbp、SWbnと、
・C相巻線(第1C巻線短絡スイッチSWpc1、第2C巻線短絡スイッチSWpc2、C切替スイッチSWscを含む)にバッテリ電圧を印加するC相巻線用スイッチ手段SWcp、SWcnと、
・A相巻線に誘導電流を流すダイオードDa1、Da2と、
・B相巻線に誘導電流を流すダイオードDb1、Db2と、
・C相巻線に誘導電流を流すダイオードDc1、Dc2と、
を備えて構成される。
【0051】
そして、各相巻線用スイッチ手段SWap、SWan、SWbp、SWbn、SWcp、SWcnは、通電制御指令部6から与えられるデューティ比信号αにより「高速でON−OFF」を繰り返して各相巻線(A相巻線、B相巻線、C相巻線)にバッテリBATから駆動電力Vを供給する。
【0052】
(通電制御指令部6の説明)
通電制御指令部6は、ECUから与えられる要求トルクTに基づいて各相巻線(A相巻線、B相巻線、C相巻線)の供給電流値(具体的にはデューティ比)を算出し、算出したデューティ比と、回転センサによって検出されるSRモータ1の「回転数N」および「回転角度θ」に基づいて通電制御実行回路7(各相巻線用スイッチ手段SWap、SWan、SWbp、SWbn、SWcp、SWcn)を制御する。
【0053】
また、通電制御指令部6は、巻線組の切替え直前と直後のトルク波形が同一波形(出力の増減やスイッチのデューティ比の増減に伴う僅かな波形の増減を含む)となるように、相巻線の電流波形を制御する。
【0054】
この具体例を図5を参照して説明する。
巻線組を「直列接続→並列接続」に切り替える際は、切り替える直前のトルク波形を図5の波形X1とすると、巻線組を「直列接続→並列接続」に切り替えた直後のトルク波形が「波形X1と略同じ波形X1’」となるように、通電制御指令部6が通電制御実行回路7(具体的には、各相巻線用スイッチ手段SWap、SWan、SWbp、SWbn、SWcp、SWcn)をデューティ比で制御するものである。
【0055】
同様に、巻線組を「並列接続→直列接続」に切り替える際は、切り替える直前のトルク波形を図5の波形X2とすると、巻線組を「並列接続→直列接続」に切り替えた直後のトルク波形が「波形X2と略同じ波形X2’」となるように、通電制御指令部6が通電制御実行回路7(具体的には、各相巻線用スイッチ手段SWap、SWan、SWbp、SWbn、SWcp、SWcn)をデューティ比で制御するものである。
【0056】
さらに、この通電制御指令部6を具体的に説明する。
この実施例の通電制御指令部6は、巻線組の切替状態(直列接続または並列接続)に応じてデューティ比の制御パラメータの切替えを行って、巻線組の切替え直前と直後の巻線印加電圧平均値を、切替え直前と直後の巻数比に制御することで、巻線組の切替え直前と直後のトルク波形を略同一波形に揃えるものである。
【0057】
この具体例を図4、図5を参照して説明する。
通電制御指令部6は、巻線組を「直列接続→並列接続」に切り替える際、巻線組の制御パラメータを「直列接続→並列接続」に切り替える(図4のステップS13参照)。
この時の具体例は、巻線組を「直列接続→並列接続」に切り替える直前におけるA相巻線用スイッチ手段SWap、SWanのデューティ比波形が図5の波形Y1の場合、巻線組を「直列接続→並列接続」に切り替えた直後のデューティ比波形を図5の波形Y1’に切り替える。
【0058】
これにより、巻線組を「直列接続→並列接続」に切り替える直前における巻線印加電圧平均値が図5の波形Z1の場合、「直列接続→並列接続」に切り替えた直後の巻線印加電圧平均値を巻数比である1/2倍となる波形Z1’にして、巻線組の「切替え直前のトルク波形X1」と「切替え直後のトルク波形X1’」を略同一波形に揃えるものである。
【0059】
逆に、通電制御指令部6は、巻線組を「並列接続→直列接続」に切り替える際、巻線組の制御パラメータを「並列接続→直列接続」に切り替える(図4のステップS12参照)。
この時の具体例は、巻線組を「並列接続→直列接続」に切り替える直前におけるA相巻線用スイッチ手段SWap、SWanのデューティ比波形が図5の波形Y2の場合、巻線組を「並列接続→直列接続」に切り替えた直後のデューティ比波形を図5の波形Y2’に切り替える。
【0060】
これにより、巻線組を「並列接続→直列接続」に切り替える直前における巻線印加電圧平均値が図5の波形Z2の場合、「並列接続→直列接続」に切り替えた直後の巻線印加電圧平均値を巻数比である2倍となる波形Z2’にして、巻線組の「切替え直前のトルク波形X2」と「切替え直後のトルク波形X2’」を略同一波形に揃えるものである。
【0061】
(実施例1の効果)
この実施例の回転力発生装置は、上述したように、
(i)SRモータ1の「トルクT」とSRモータ1の「回転数N」を用いて各相巻線における巻線組の切替え(「直列接続→並列接続」、「並列接続→直列接続」)を実施するとともに、
(ii)相巻線の通電状態が非通電のタイミングで巻線組の切替え(「直列接続→並列接続」、「並列接続→直列接続」)を実施し、
(iii)さらに、相巻線の電流波形を制御することで、巻線組の切替え直前と直後のトルク波形を略同一波形に揃えるものである。
【0062】
これにより、
(i)低回転域から高回転域の広い運転領域においてSRモータ1から高出力を得ることができるとともに、
(ii)相巻線の通電中に巻線組の切替えが実施されることで生じるトルク変動を回避でき、
(iii)さらに、巻線組の切替えが行われて巻線組のインダクタンスが変化することによるトルク変動を回避することができる。
【0063】
[実施例2]
図6を参照して実施例2を説明する。なお、以下の各実施例において上記実施例1と同一符号は、同一機能物を示すものである。
上記の実施例1の第1切替指令部3では、図2に示したように、ECUがSRモータ1に求める「要求トルクT」とSRモータ1の「回転数N」を用いてSRモータ1の最適な切替状態(直列接続または並列接続)を決定する例を示した。
【0064】
これに対し、この実施例2の制御回路2は、SRモータ1に供給される「電流値I」と、SRモータ1の「回転角度θ(または回転数N)」からSRモータ1の「出力トルクT」を推定するトルク推定部17を設けたものであり、第1切替指令部3は、推定された「出力トルクT」とSRモータ1の「回転数N」を用いてSRモータ1の最適な切替状態(直列接続または並列接続)を決定するものである。
このように設けても、上記実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0065】
[実施例3]
図7を参照して実施例3を説明する。
この実施例は、同一の相巻線(例えば、A相巻線)において組を成す巻線(例えば、第1A巻線1Aと第2A巻線2A)を、同一のステータティース13に巻回するものである。
【0066】
具体的に、図7では、A相巻線における第1A巻線1Aと第2A巻線2Aを、同一のステータティース13に設けるものである。なお、図7では図示しないが、B相巻線における第1B巻線1Bと第2B巻線2Bが同一のステータティース13に設けられ、C相巻線における第1C巻線1Cと第2C巻線2Cも同一のステータティース13に設けられるものである。
このように設けても、上記実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0067】
[実施例4]
図8を参照して実施例4を説明する。
上記の各実施例では、巻線組の切替例として、巻線の接続状態を「直列接続または並列接続」の一方に切り替える例を示した。
これに対し、この実施例は、巻線の一部を切り離し可能に設けて、巻線の接続状態を「直列接続または単接続(巻線組の一方の巻線のみを通電する接続状態)」の一方に切替え可能に設けるものである。
【0068】
具体的に、この実施例の切替実行回路5は、図8(b)に示すように、
(i)A相巻線(第1A巻線1A、第2A巻線2A)の通電回路に、第2A巻線2Aを切り離す第1A切替スイッチSWsa1を設けるとともに、第2A巻線2Aをバイパスして電気を流す第2A切替スイッチSWsa2を設け、
(ii)B相巻線(第1B巻線1B、第2B巻線2B)の通電回路に、第2B巻線2Bを切り離す第1B切替スイッチSWsb1を設けるとともに、第2B巻線2Bをバイパスして電気を流す第2B切替スイッチSWsb2を設け、
(iii)C相巻線(第1C巻線1C、第2C巻線2C)の通電回路に、第2C巻線2Cを切り離す第1C切替スイッチSWsc1を設けるとともに、第2C巻線2Cをバイパスして電気を流す第2C切替スイッチSWsc2を設けたものである。
【0069】
そして、第1切替指令部3は、SRモータ1の「トルクT」とSRモータ1の「回転数N」に基づいて、各巻線組を「直列接続」または「単接続」の一方に切り替える決定を行う。
【0070】
また、第2切替指令部4は、
(i)上記実施例1において「並列接続→直列接続」に切り替えるタイミングで、この実施例の切替実行回路5(第1A切替スイッチSWsa1、第2A切替スイッチSWsa2、第1B切替スイッチSWsb1、第2B切替スイッチSWsb2、第1C切替スイッチSWsc1、第2C切替スイッチSWsc2)の切替え制御を行って「単接続→直列接続」を達成させ、
(ii)上記実施例1において「直列接続→並列接続」に切り替えるタイミングで、この実施例の切替実行回路5(第1A切替スイッチSWsa1、第2A切替スイッチSWsa2、第1B切替スイッチSWsb1、第2B切替スイッチSWsb2、第1C切替スイッチSWsc1、第2C切替スイッチSWsc2)の切替え制御を行って「直列接続→単接続」を達成させる。
このように設けても、上記実施例1と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
上記の実施例では、車両駆動用の回転力発生装置に本発明を適用する例を示したが、車両駆動用に限定されるものではなく、電気自動車等に搭載される空調装置の冷媒圧縮機(コンプレッサ)を駆動する回転力発生装置など、車両に搭載されて回転力を発生させる他の回転力発生装置に本発明を適用しても良い。
もちろん、本発明は車両用に限定されるものではなく、産業用機器、家庭用機器などに搭載される種々の回転力発生装置に本発明を適用しても良い。
【0072】
上記の実施例では、インナーロータタイプの電動モータ(実施例ではSRモータ1)に本発明を適用する例を示したが、アウターロータタイプの電動モータや、ステータコア11の軸方向にロータコア12が配置されるタイプの電動モータに本発明を適用しても良い。
【0073】
上記実施例において開示した具体的な数値(相巻線の相数、ステータティース13の数、ロータティース15の数等)は、実施例説明のための具体的な一例であって、適宜変更可能なものである。
上記の実施例では、電動モータの一例としてSRモータ1に本発明を適用する例を示したが、限定されるものではなく、図9に示すステッピングモータ1’に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0074】
1 SRモータ(電動モータ)
1’ ステッピングモータ(電動モータ)
2 制御回路
3 第1切替指令部
4 第2切替指令部
5 切替実行回路
6 通電制御指令部
1A 第1A巻線
2A 第2A巻線
1B 第1B巻線
2B 第2B巻線
1C 第1C巻線
2C 第2C巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線の接続状態の切替えが可能な巻線組よりなる相巻線を搭載する電動モータ(1)と、
運転状態に応じて前記巻線組の切替えを行う制御回路(2)と、
を具備する回転力発生装置において、
前記制御回路(2)は、前記巻線組の切替え直前と直後のトルク波形が略同一波形となるように、前記相巻線の電流波形を制御する通電制御指令部(6)を備えることを特徴とする回転力発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転力発生装置において、
前記通電制御指令部(6)は、前記巻線組の切替え直前と直後の巻線印加電圧平均値を、切替え直前と直後の巻数比に制御することを特徴とする回転力発生装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の回転力発生装置において、
前記制御回路(2)は、
(a)運転状態に基づいて前記巻線組の切替状態を決定する第1切替指令部(3)と、
(b)この第1切替指令部(3)が前記巻線組の切替えを決定した場合、前記相巻線の通電状態が非通電のタイミングで前記巻線組の切替指示を発生する第2切替指令部(4)と、
(c)この第2切替指令部(4)の切替指令に基づいて前記巻線組の切替えを実行する切替実行回路(5)と、
を備えることを特徴とする回転力発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載の回転力発生装置において、
前記第1切替指令部(3)は、
前記電動モータ(1)のトルク(T)と、
前記電動モータ(1)の単位時間当たりの回転数(N)と、
を用いて前記巻線組の切替状態を決定することを特徴とする回転力発生装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の回転力発生装置において、
前記第2切替指令部(4)は、
前記第1切替指令部(3)の決定状態と、
現在の前記巻線組の切替状態と、
前記相巻線の電流値(I)と、
を用いて切替指示を発生することを特徴とする回転力発生装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の回転力発生装置において、
前記通電制御指令部(6)は、前記巻線組の切替えに応じて制御パラメータの切替えを行うことを特徴とする回転力発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−115901(P2013−115901A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259192(P2011−259192)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】