説明

回転動力伝達装置及び工作機械

【課題】主スピンドルの径を大きくすることなくより大きな動力を伝達することが可能であり、主スピンドルの回転数をより高く(回転速度をより大きく)することができる回転動力伝達装置、及び工作機械を提供する。
【解決手段】主スピンドル32と、補助スピンドル42と、駆動ローラ24Rが設けられたモータ24とを備え、並列に配置された主スピンドルと補助スピンドルにはベルトDBが掛け渡されており、主スピンドルのベルトが掛け渡されていない領域の一部は駆動ローラの円筒面が当接する主動力伝達領域32Aに設定され、補助スピンドルのベルトが掛け渡されていない領域の一部は駆動ローラの円筒面が当接する補助動力伝達領域42Aに設定され、主動力伝達領域と補助動力伝達領域は対向する位置に設定され、駆動ローラは、主動力伝達領域と補助動力伝達領域に挟まれるように配置され、主スピンドルと補助スピンドルを摩擦接触によって回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを用いて砥石等の対象物を回転させる回転動力伝達装置、及び当該回転動力伝達装置を砥石の回転動力の伝達機構に適用してワークを加工する工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、略円筒形状の砥石を回転させて、当該砥石の円筒面にて円筒状ワークや、カムシャフト等を研削する工作機械が知られている。
例えば図6(A)に示すような、真円部TEと非真円部HEを有するカムCが複数形成されたワークWを研削加工する場合、図6(B)に示すように、ワークWの回転軸(C軸)回りにワークWを回転させながら、回転軸(C軸)に直交する方向から研削対象のカムに対向させた砥石30を載置した砥石テーブルTTを進退移動させて(X軸方向に往復移動させて)研削加工している。
砥石30を回転駆動するにはモータ24を用いるが、モータ24は、砥石30の回転軸として設けられた主スピンドル132よりも径方向のサイズが大きい。従って、当該モータ24の回転軸と砥石30の回転軸とを同軸上に配置すると、モータ24がワークWの側に突出してワークWと干渉する可能性がある。
そこで、従来では、モータ24の回転軸と主スピンドル132とを同軸上に配置することなく、図6(B)に示すように、モータ24を主スピンドル132に対して並列に配置し、ベルトDBにてモータ24の回転動力を主スピンドル132に伝達するベルト駆動方式の回転動力伝達装置を用いている。
ベルト駆動方式を用いた回転動力伝達装置の例として、例えば特許文献1に記載されている従来技術では、被動軸の回転軸と平行な回転軸を有する押付けプーリと、被動軸のプーリとにベルトを掛け渡し、駆動円板における回転軸に直交する面と押付けプーリにてベルトを挟むように、駆動円板を押付けて、駆動円板の回転駆動力を、駆動円板の回転軸に直交する回転軸を有する被動軸に伝達している。
また、特許文献2に記載されている従来技術では、駆動プーリと従動プーリとにベルトを掛け渡し、ベルトの張力による駆動プーリ及び従動プーリにかかる軸荷重を低減させるために、各プーリにかかる軸荷重の反対方向に作用する荷重をかける荷重付与プーリを設けている。
【特許文献1】実開平1−75649号公報
【特許文献2】特開平5−1750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ベルト駆動方式による回転動力伝達装置では、伝達する動力を大きくする場合は、プーリ(主動プーリSP、従動プーリJP)とベルトDBとの間の面圧を大きくする必要があり、そのためにはベルトDBの張力を大きくする必要がある。この場合、図6(C)に示すように、従動プーリJP(すなわち、主スピンドル132)には、ベルトDBの張力Fbの合成力Fgが作用するため、主スピンドル132は相応の負荷容量(剛性)を有する必要がある。しかし、例えば凹R形状を有するワークWの研削等で砥石30を小径化する必要が生ずる場合、それに比して主スピンドル132も小径化する必要がある。伝達する駆動力をより大きく、そして主スピンドル132の径をより小径化していくと、主スピンドル132の負荷容量がベルトDBの張力による合成力Fgを下回り、動力伝達機構として成立しなくなる境界が存在する。
また、回転速度を高くすることで、動力伝達の効率を向上させることが可能であるが、ベルトDBの最高使用周速度の制限(上限)が存在している。
特許文献1に記載された従来技術を図6(B)に示す砥石装置TSに適用した場合、主スピンドル132の負荷容量を大きくすることができない。
また、特許文献2に記載された従来技術を図6(B)に示す砥石装置TSに適用した場合、主スピンドル132の負荷容量を大きくすることはできるが、ベルトDBの最高使用周速度の上限は変わらない。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、主スピンドルの径を大きくすることなくより大きな動力を伝達することが可能であり、主スピンドルの回転数をより高く(回転速度をより大きく)することができる回転動力伝達装置、及び工作機械を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項1に記載の回転動力伝達装置は、回転させる対象物である回転対象物の回転軸として回転可能に支持された略円筒形状の主スピンドルと、前記主スピンドルの回転軸と平行な回転軸を有して回転可能に支持されて前記主スピンドルに対して並列に配置された略円筒形状の補助スピンドルと、前記主スピンドルに回転動力を伝達する略円筒形状の駆動ローラが設けられたモータと、を備えている。
並列に配置された前記主スピンドルと前記補助スピンドルにはベルトが掛け渡されており、前記主スピンドルの円筒面における前記ベルトが掛け渡されていない領域の一部は前記駆動ローラの円筒面が当接する主動力伝達領域に設定され、前記補助スピンドルの円筒面における前記ベルトが掛け渡されていない領域の一部は前記駆動ローラの円筒面が当接する補助動力伝達領域に設定され、前記主動力伝達領域と前記補助動力伝達領域は対向する位置に設定されている。
そして、前記駆動ローラは、前記主動力伝達領域と前記補助動力伝達領域との双方に挟まれるように配置され、前記主スピンドルと前記補助スピンドルを摩擦接触によって回転させる。
【0005】
また、本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項2に記載の回転動力伝達装置は、請求項1に記載の回転動力伝達装置であって、前記補助スピンドルは1つであり、前記主動力伝達領域における径に対する前記補助動力伝達領域における径の比と、前記ベルトが掛けられている前記主スピンドルの領域である主反力軽減領域における径に対する前記ベルトが掛けられている前記補助スピンドルの領域である補助反力軽減領域における径の比と、が同じになるように設定されている。
【0006】
また、本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項3に記載の回転動力伝達装置は、請求項1に記載の回転動力伝達装置であって、前記補助スピンドルは2つであり、一方の前記補助スピンドルには前記補助動力伝達領域が設けられ、他方の前記補助スピンドルには前記ベルトが掛け渡される領域である補助反力軽減領域が設けられている。
【0007】
また、本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項4に記載の回転動力伝達装置は、請求項1または2に記載の回転動力伝達装置であって、前記補助スピンドルにおける前記ベルトが掛け渡される領域である補助反力軽減領域には、前記補助スピンドルの表面を伝ってくる潤滑油が前記ベルトに到達することを防止する潤滑油浸入防止手段が前記補助スピンドルの円周方向に沿って設けられている。
【0008】
また、本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項5に記載の回転動力伝達装置は、請求項4に記載の回転動力伝達装置であって、前記潤滑油浸入防止手段は、前記補助反力軽減領域の径を、前記補助動力伝達領域の径よりも大きく設定し、前記補助反力軽減領域における前記補助動力伝達領域の側の最外周部に、円周方向に沿うように設けられた環状の突出部である、または、前記補助動力伝達領域における前記補助反力軽減領域の側の外周部に、円周方向に沿うように設けられた環状のオイルシールまたはエアシールである。
【0009】
また、本発明の第6発明は、請求項6に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項6に記載の回転動力伝達装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の回転動力伝達装置であって、前記主スピンドルにおける前記ベルトが掛け渡される領域である主反力軽減領域には、前記主スピンドルの表面を伝ってくる潤滑油が前記ベルトに到達することを防止する潤滑油浸入防止手段が前記主スピンドルの円周方向に沿って設けられている。
【0010】
また、本発明の第7発明は、請求項7に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項7に記載の回転動力伝達装置は、請求項6に記載の回転動力伝達装置であって、前記潤滑油浸入防止手段は、前記主反力軽減領域の径を、前記主動力伝達領域の径よりも大きく設定し、前記主反力軽減領域における前記主動力伝達領域の側の最外周部に、円周方向に沿うように設けられた環状の突出部である、または、前記主動力伝達領域における前記主反力軽減領域の側の外周部に、円周方向に沿うように設けられた環状のオイルシールまたはエアシールである。
【0011】
また、本発明の第8発明は、請求項8に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項8に記載の回転動力伝達装置は、請求項1〜7のいずれかに記載の回転動力伝達装置であって、前記ベルトには、張力を調整可能な張力調整機構が設けられており、前記張力調整機構を調整することで、前記主スピンドルの前記主動力伝達領域に前記駆動ローラを押付ける押付け力を調整可能である。
【0012】
また、本発明の第9発明は、請求項9に記載されたとおりの工作機械である。
請求項9に記載の工作機械は、請求項1〜8のいずれかに記載の回転動力伝達装置を備えるとともに前記回転対象物として略円筒形状の砥石を備え、前記砥石を用いて、所定の回転軸回りに回転させるワークを研削する工作機械であって、前記ワークの回転軸に対して前記主スピンドルの回転軸が並列となるように、前記主スピンドルが配置されており、前記主スピンドルに対して、前記ワークと反対の側に前記モータと前記補助スピンドルとが配置されている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の回転動力伝達装置を用いれば、主スピンドルの回転動力は、当接している駆動ローラから伝達される。なお、主スピンドルと補助スピンドルは、共に駆動ローラで回転動力を伝達されているので、ベルトが主スピンドルまたは補助スピンドルを回転させるのでなく、主スピンドルと補助スピンドルとがベルトを回転させる。従って、ベルトは、回転動力を伝達しているのではなく、その張力によって主スピンドルと補助スピンドルとで駆動ローラを挟む方向の力を発生させるために用いられている。
このため、駆動ローラから主スピンドルへの押付け力(図3(B)中のFk)は、主スピンドルからの反力(図3(B)中のFs)と主スピンドルへのベルト張力(図3(B)中のFb)にて相殺される構成となる。これにより、駆動ローラからの押付け力Fkを大きくしても、ベルト張力Fbを大きくすることで相殺することが可能となり、主スピンドルの径を大きくして負荷容量(剛性)を大きくすることなく、駆動ローラからの押付け力Fkを大きくすることができる(図3(B)参照)。
また、ベルトは、回転している主スピンドルと、回転している補助スピンドルとに掛け渡されているだけであり、ベルトで主スピンドルまたは補助スピンドルに回転動力を伝達する場合に発生するすべりは発生しない。従って、ベルトの最高周速度の制限を受けることがないので、駆動ローラにて主スピンドルの回転速度をより大きくすることができ、回転動力の伝達をより高効率にすることができる。
【0014】
また、請求項2に記載の回転動力伝達装置によれば、駆動ローラによって回転動力が伝達される主スピンドル及び補助スピンドルのそれぞれの回転数と、ベルトが掛け渡されている個所における主スピンドル及び補助スピンドルのそれぞれの回転数とを、同じとすることができるので、ベルトのすべりを防止することができる。
【0015】
また、請求項3に記載の回転動力伝達装置によれば、主スピンドルの主動力伝達領域の径と主反力軽減領域の径、及び補助スピンドルの補助動力伝達領域の径と補助反力軽減領域の径のそれぞれを、どのような径に設定してもベルトのすべりが発生しないので、主スピンドルと補助スピンドルの径の設計自由度を増すことができる。
【0016】
また、請求項4に記載の回転動力伝達装置によれば、補助スピンドルにおけるベルトのすべりや、ベルトの劣化をより抑制することができる。
【0017】
また、請求項5に記載の回転動力伝達装置によれば、潤滑油浸入防止手段を適切に実現することが可能であり、補助スピンドルにおけるベルトのすべりや、ベルトの劣化を適切に抑制することができる。
【0018】
また、請求項6に記載の回転動力伝達装置によれば、主スピンドルにおけるベルトのすべりや、ベルトの劣化をより抑制することができる。
【0019】
また、請求項7に記載の回転動力伝達装置によれば、潤滑油浸入防止手段を適切に実現することが可能であり、主スピンドルにおけるベルトのすべりや、ベルトの劣化を適切に抑制することができる。
【0020】
また、請求項8に記載の回転動力伝達装置によれば、駆動ローラを主スピンドルに押付ける押付け力を、容易に調整することができる。
【0021】
また、請求項9に記載の工作機械によれば、主スピンドルの径を大きくすることなく駆動ローラから主スピンドルへの押付け力をより大きくすることができるとともに主スピンドルの回転数をより高く(回転速度をより大きく)して回転動力の伝達をより高効率にすることができる工作機械を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の回転動力伝達装置を、砥石30を備えた工作機械1(いわゆる研削盤)に適用した一実施の形態における概略外観図(平面図)を示している。また、図2は、図1に示す工作機械1をAA方向から見た側面図の例を示している。なお、図2では心押し装置21T等の記載を省略している。また図3(A)は、回転動力伝達装置である砥石テーブルTB2に載置されている各部材等と、ワークWとを抜き出した斜視図であり、図3(B)は回転動力伝達装置の平面図である。
なお、本実施の形態の説明では、X軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、Y軸は鉛直上方を示しており、X軸とZ軸は水平方向を示している。また、X軸は砥石30がワークWに切り込む方向を示しており、Z軸はワークWの回転軸方向を示している。
【0023】
●[工作機械1の概略構成(図1、図2)]
工作機械1は、ベース2と、主軸テーブルTB1と、砥石テーブルTB2とを備えている。
主軸テーブルTB1は、ベース2に設けられた主軸テーブル駆動モータ23(Z軸駆動装置)と送りネジ23B、及び主軸テーブルTB1に設けられたナット23Nにより、ベース2に対してZ軸方向に移動可能である。なお、Z軸は、ワークW(工作物に相当)の回転軸であるC軸(工作物回転軸に相当)に平行な軸であり、送りネジ23BがZ軸である。
主軸テーブルTB1の上には、心押し台21Tが固定され、主軸台21Dが、種々の長さのワークに対応可能とするように、心押し台21Tに近接または離間可能となるように、心押し台21Tに対向する位置に載置されている。主軸台21D及び心押し台21Tには、それぞれ支持部21C、21S(チャックまたはセンタ等)が設けられており、これら支持部21C、21Sの間にワークWが保持(支持)される。この支持部21C、21Sを結ぶ軸がC軸である。
そして、ワークWは、主軸台21Dに設けられた主軸モータ21により、支持部21C、21Sを結ぶC軸を中心として回転する。
なお、工作機械1は、ワークWの被加工部の外径を測定可能な定寸装置(測定手段)やワークWを仮置きする仮置台やクーラントノズル等を備えているが、これらについては説明及び図示を省略する。
【0024】
砥石テーブルTB2には、略円筒状の砥石30(加工手段)を備えている。砥石30は、例えば鉄製のコアの外周にCBNチップ砥石が貼り付けられて整形されており、砥石テーブルTB2に載置されたモータ24により、Z軸に平行な回転軸TZを中心に回転する。
また、砥石テーブルTB2は、ベース2に設けられた砥石テーブル駆動モータ22(X軸駆動装置であり、切込み手段)と送りネジ22B、及び砥石テーブルTB2に設けられたナット22Nにより、ベース2に対してX軸方向に移動可能である。なお、X軸は、前記C軸に直交する方向の軸であり、送りネジ22BがX軸である。
また、砥石テーブル駆動モータ22には砥石テーブルTB2のX軸方向の位置を検出する位置検出器22Eが設けられており、主軸テーブル駆動モータ23には主軸テーブルTB1のZ軸方向の位置を検出する位置検出器23Eが設けられており、主軸モータ21には、ワークWの回転角度または回転速度を検出する位置検出器21Eが設けられている。これらの位置検出器としては種々のものを用いることができるが、本実施の形態ではエンコーダを用いている。
【0025】
なお、各位置検出器からの信号を取り込むとともに各モータに駆動信号を出力する数値制御装置については記載を省略している。
数値制御装置(図示省略)は、ワークWの回転角度(あるいは回転速度)を検出する位置検出器21Eからの信号、砥石テーブルTB2のX軸方向の位置を検出する位置検出器22Eからの信号、主軸テーブルTB1のZ軸方向の位置を検出する位置検出器23Eからの信号、ワークWの外径を測定する定寸装置(図示省略)からの検出信号等と、加工データ及び加工プログラム等に基づいて、主軸モータ21、砥石テーブル駆動モータ22、主軸テーブル駆動モータ23、モータ24を制御する。
なお、図1の例では、モータ24には検出器を設けていないが、モータ24にも速度検出器等を設け、モータ24の回転速度をフィードバック制御することも可能である。
このように、ワークWの回転軸(C軸)に対して、主スピンドル32の回転軸TZが並列となるように主スピンドル32は配置されている。また、主スピンドル32の位置に対して、ワークWと反対の側にモータ24と補助スピンドル42とが配置されている。従って、ワークWに主スピンドル32(すなわち砥石30)を近接させても、モータ24及び補助スピンドル42は、ワークWと干渉しない位置に配置されている。
なお、砥石テーブルTB2に載置されているモータ24等で構成された回転動力伝達装置については、以下にて詳細を説明する。
【0026】
●[回転動力伝達装置の詳細構造(図3〜図5)]
次に図3を用いて、砥石テーブルTB2上に載置された回転動力伝達装置について説明する。図3(A)は、回転動力伝達装置である砥石テーブルTB2に載置されている各部材等と、ワークWとを抜き出した斜視図であり、図3(B)は砥石テーブルTB2に載置されている各部材等の平面図である。
図3(A)及び(B)に示すように、回転動力伝達装置40は、駆動ローラ24Rを回転駆動するモータ24と、駆動ローラ24Rからの回転動力が伝達される主スピンドル32及び補助スピンドル42と、主スピンドル32と補助スピンドル42とに掛け渡されたベルトDBにて構成されている。
本実施の形態にて説明する回転動力伝達装置40では、モータ24の回転動力を駆動ローラ24Rを介したトラクションドライブ方式で伝達し、ベルトDBでは回転動力の伝達を行わずに駆動ローラ24Rを主スピンドル32に押付ける押付け力を発生させる。
【0027】
略円筒形状の主スピンドル32は、回転させる対象物である回転対象物(この場合、略円筒形状の砥石30)の回転軸として砥石テーブルTB2に固定された砥石軸受34を用いて回転可能に支持されている。なお、主スピンドル32の回転軸TZは、ワークWの回転軸であるC軸と平行である。
また図3(B)に示すように、主スピンドル32の円筒面におけるベルトDBが掛け渡されていない領域の一部は、駆動ローラ24Rの円筒面を当接させて主スピンドル32に回転動力を伝達する主動力伝達領域32Aに設定されている。また、主スピンドル32の円筒面におけるベルトDBが掛けられている領域は主反力軽減領域32Bに設定されている。
【0028】
略円筒形状の補助スピンドル42は、砥石テーブルTB2に固定された補助スピンドル軸受44を用いて回転可能に支持されている。なお、補助スピンドル42の回転軸HZは主スピンドル32の回転軸TZと平行であり、主スピンドル32に対して補助スピンドル42は並列に配置されている。
また、図3(B)に示すように、補助スピンドル42の円筒面におけるベルトDBが掛け渡されていない領域の一部は、駆動ローラ24Rの円筒面を当接させて補助スピンドル42に回転動力を伝達する補助動力伝達領域42Aに設定されている。また、補助スピンドル42の円筒面におけるベルトDBが掛けられている領域は補助反力軽減領域42Bに設定されている。
【0029】
そして図3(B)に示すように、並列配置された主スピンドル32と補助スピンドル42において、主スピンドル32の主動力伝達領域32Aと補助スピンドル42の補助動力伝達領域42Aは、対向する位置に設定されている。また、主スピンドル32の主反力軽減領域32Bと補助スピンドル42の補助反力軽減領域42Bは、対向する位置に設定されている。
駆動ローラ24Rは、主動力伝達領域32Aと補助動力伝達領域42Aとの双方に挟まれるように配置され、主スピンドル32と補助スピンドル42とを摩擦接触によって回転させる。
当該構成にて駆動ローラ24Rからの回転動力を主スピンドル32に伝達する場合、より高い回転数とするためには、駆動ローラ24Rをより大きな押付け力で主スピンドル32に押付ける必要がある。しかし、駆動ローラ24Rからのより大きな押付け力に対応させるために主スピンドル32の径を大きくするのは好ましくない場合がある(砥石30の径が小さい場合)。
図3(B)に示すように、本実施の形態における回転動力伝達装置40では、駆動ローラ24Rから主スピンドル32への押付け力Fkを、主スピンドル反力Fsとベルト張力Fbにて相殺している。また、駆動ローラ24Rから補助スピンドル42への押付け力Fmを、補助スピンドル反力Fhとベルト張力Fcにて相殺している。
従って、主スピンドル32の径を大きくしなくても、ベルト張力Fbを大きくすれば、駆動ローラ24Rから主スピンドル32への押付け力Fkを大きくすることができる(同様に、補助スピンドル42の径を大きくしなくても、ベルト張力Fcを大きくすれば、駆動ローラ24Rから補助スピンドル42への押付け力Fkを大きくすることができる)。
これにより、ベルト張力を大きくすることで、主スピンドルの径を大きくすることなくより大きな動力を伝達することが可能となる。
【0030】
また、図3(A)及び(B)に示す回転動力伝達装置40では、主スピンドル32と補助スピンドル42は、どちらも駆動ローラ24Rから回転動力を伝達されているので、ベルトDBは動力伝達に用いられておらず、主スピンドル32と補助スピンドル42がベルトDBを回転させている。
そしてベルトDBは、主スピンドル32と補助スピンドル42とで駆動ローラ24Rを挟み込む方向の力(ベルト張力)を発生させる。ベルトDBは、駆動ローラ24Rから主スピンドル32への押付け力Fkを相殺する主スピンドル反力Fsとベルト張力Fbにおける、ベルト張力Fbを発生させ、駆動ローラ24Rから補助スピンドル42への押付け力Fmを相殺する補助スピンドル反力Fhとベルト張力Fcにおける、ベルト張力Fcを発生させる。
駆動ローラ24Rの押付け力Fk、Fmは、ベルトDBの張力に応じた大きさの力となり、ベルトDBの張力は、回転軸TZ、HZに平行な回転軸を有するテンションプーリ54B及びテンションプーリ54Bを回転可能に支持するテンションプーリ軸受54にて構成される張力調整機構によって、容易に調整することができる。
【0031】
次に、張力調整機構の例について説明する。
図4(A)〜(D)は、図3(B)においてBB方向から見た場合の、駆動ローラ24Rと主スピンドル32と補助スピンドル42とベルトDBとテンションプーリ54Bの位置の例を説明する図である(なお、図4(A)はテンションプーリ54Bを用いない例である)。
テンションプーリ54Bの配置位置は、図4(B)〜(D)の例に示すように、種々の配置が考えられ、テンションプーリ54Bの数、及び配置位置については特に限定しない。
なお、図4(A)〜(D)において、点Pは、駆動ローラ24Rの中心を示しており、ベルトDBにて、この中心Pに向かう方向に、主スピンドル32及び補助スピンドル42を引張ることが好ましい。
【0032】
次に図5(A)を用いて、主スピンドル32の主動力伝達領域32Aの径、主反力軽減領域32Bの径、及び補助スピンドル42の補助動力伝達領域42Aの径、補助反力軽減領域42Bの径について説明する。
図3(B)に示すように、1個の補助スピンドル42が、補助動力伝達領域42Aと補助反力軽減領域42Bを備えている場合、主動力伝達領域32Aの径R32Aに対する補助動力伝達領域42Aの径R42Aの比と、主反力軽減領域32Bの径R32Bに対する補助反力軽減領域42Bの径R42Bの比とが同じとなるように設定する(R42A/R32A=R42B/R32Bとなるように設定する)。これにより、駆動ローラ24Rによる主スピンドル32及び補助スピンドル42の回転と、ベルトDBの回転に差が生じなくなるので、ベルトDBのすべりを防止することができる。なお、R32B/R32A=R42B/R42Aとなるように各径の比を設定してもよい。
【0033】
また、図5(B)に示すように、図3(B)に示す状態から補助スピンドル42を、補助反力軽減領域42Bを有する補助スピンドル42と、補助動力伝達領域42Aを有する補助スピンドル42´の2個のスピンドルに分離してもよい(補助スピンドル42´は、軸受44´にて支持)。補助スピンドル42を2個に分離した場合、主動力伝達領域32Aの径、主反力軽減領域32Bの径、補助動力伝達領域42Aの径、補助反力軽減領域42Bの径の各々を任意の径に設定してもベルトDBのすべりが発生しないので、設計自由度を増すことができる。図5(B)に示す例では、ベルトDBを介して主スピンドル32から補助スピンドル42を回転させるが、補助スピンドル42はモーメントが小さいので、より高速に回転させてもベルトDBすべりは発生しにくい。
また、補助動力伝達領域42Aと補助反力軽減領域42Bとが同軸上になくてもよくなるので、補助動力伝達領域42Aと補助反力軽減領域42Bの配置(すなわち、補助スピンドル42と補助スピンドル42´の配置)の自由度を増すことができる。また、補助スピンドル42の位置を、主スピンドル32に近接または遠ざかる方向に微調整可能な構造とすることでベルトDBの張力を調整可能であり、この場合、テンションプーリ54Bを省略してもよい。
【0034】
次に図5(C)を用いて、ベルトDBのすべりや劣化を防止する更なる仕組みについて説明する。図5(C)は、主スピンドル32を回転軸TZを通る面で切断した断面図の例を示している。
駆動ローラ24Rが当接する主動力伝達領域32A(及び補助動力伝達領域42A)には、潤滑油(トラクションオイル等)を供給することが好ましい。しかし、この潤滑油がベルトDBに達するのは、ベルトDBのすべりや劣化を招く可能性があるので好ましくない。そこで、潤滑油がベルトDBに到達しないように、主反力軽減領域32B及び補助反力軽減領域42Bに、潤滑油浸入防止手段を設ける。
潤滑油浸入防止手段の例としては、図5(C)に示すように、主反力軽減領域32Bの径を、主動力伝達領域32Aの側の径よりも大きく設定し、主動力伝達領域32Aの側における主反力軽減領域32Bの最外周部に、円周方向に沿うように環状の突出部32Cを形成する。あるいは、主動力伝達領域32Aにおける主反力軽減領域32Bの側の外周部32Dに、円周方向に沿うように環状のオイルシールやエアシール等を設ける。
なお、補助スピンドル42も同様に、潤滑油浸入防止手段を設けることが好ましい。
【0035】
本実施の形態にて説明した回転動力伝達装置40を用いれば、小型の砥石30を用いて主スピンドル32の径が小さい場合であっても、従来よりも大きな回転動力を伝達することができる。また、ベルトDBのすべりを抑制しながら回転数をより高くすることができるので、より高能率な研削が可能となる。なお、回転動力は駆動ローラ24Rで伝達しており、ベルトDBで回転動力を伝達していないので、ベルトDBで微小なすべりが発生したとしても、特に問題はない。
なお、補助スピンドル42に新たな砥石(略円筒状の仕上げ砥石等)を設け、更に、砥石テーブルTB2を水平方向に旋回可能な旋回手段を設けることで、2個の砥石を選択的に用いることができる工作機械(研削盤)とすることもできる。
【0036】
本発明の回転動力伝達装置40は、本実施の形態で説明した外観、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
本実施の形態では、回転動力伝達装置40の回転対象物として砥石30を例にして説明したが、回転対象物は砥石30に限定されるものではなく、工作機械に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の回転動力伝達装置を、砥石を備えた工作機械1(いわゆる研削盤)に適用した一実施の形態における概略外観図(平面図)を説明する図である。
【図2】図1に示す工作機械1をAA方向から見た側面図の例を説明する図である。
【図3】回転動力伝達装置である砥石テーブルTB2に載置されている各部材等と、ワークWとを抜き出した斜視図、及び回転動力伝達装置の平面図である。
【図4】ベルトDBの張力を調整する例を説明する図である。
【図5】主動力伝達領域32Aと補助動力伝達領域42A、及び主反力軽減領域32Bと補助反力軽減領域42B、の各径の関係を説明する図、及び補助スピンドル42を2個に分離した図、及び潤滑油浸入防止手段の例を説明する図である。
【図6】従来の研削盤における回転動力伝達装置の例を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
1 工作機械
2 ベース
21 主軸モータ
21D 主軸台
21T 心押し台
22 砥石テーブル駆動モータ
23 主軸テーブル駆動モータ
22B、23B 送りネジ
24 モータ
24R 駆動ローラ
30 砥石
32 主スピンドル
32A 主動力伝達領域
32B 主反力軽減領域
32C 突出部(潤滑油浸入防止手段)
32D オイルシール、エアシール(潤滑油浸入防止手段)
34 砥石軸受
42 補助スピンドル
42A 補助動力伝達領域
42B 補助反力軽減領域
44 補助スピンドル軸受
54 テンションプーリ軸受
54B テンションプーリ
TB1 主軸テーブル
TB2 砥石テーブル
W ワーク



【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転させる対象物である回転対象物の回転軸として回転可能に支持された略円筒形状の主スピンドルと、
前記主スピンドルの回転軸と平行な回転軸を有して回転可能に支持されて前記主スピンドルに対して並列に配置された略円筒形状の補助スピンドルと、
前記主スピンドルに回転動力を伝達する略円筒形状の駆動ローラが設けられたモータと、を備え、
並列に配置された前記主スピンドルと前記補助スピンドルにはベルトが掛け渡されており、
前記主スピンドルの円筒面における前記ベルトが掛け渡されていない領域の一部は前記駆動ローラの円筒面が当接する主動力伝達領域に設定され、前記補助スピンドルの円筒面における前記ベルトが掛け渡されていない領域の一部は前記駆動ローラの円筒面が当接する補助動力伝達領域に設定され、前記主動力伝達領域と前記補助動力伝達領域は対向する位置に設定されており、
前記駆動ローラは、前記主動力伝達領域と前記補助動力伝達領域との双方に挟まれるように配置され、前記主スピンドルと前記補助スピンドルを摩擦接触によって回転させる、
回転動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転動力伝達装置であって、
前記補助スピンドルは1つであり、
前記主動力伝達領域における径に対する前記補助動力伝達領域における径の比と、前記ベルトが掛けられている前記主スピンドルの領域である主反力軽減領域における径に対する前記ベルトが掛けられている前記補助スピンドルの領域である補助反力軽減領域における径の比と、が同じになるように設定されている、
回転動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載の回転動力伝達装置であって、
前記補助スピンドルは2つであり、
一方の前記補助スピンドルには前記補助動力伝達領域が設けられ、
他方の前記補助スピンドルには前記ベルトが掛け渡される領域である補助反力軽減領域が設けられている、
回転動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の回転動力伝達装置であって、
前記補助スピンドルにおける前記ベルトが掛け渡される領域である補助反力軽減領域には、前記補助スピンドルの表面を伝ってくる潤滑油が前記ベルトに到達することを防止する潤滑油浸入防止手段が前記補助スピンドルの円周方向に沿って設けられている、
回転動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4に記載の回転動力伝達装置であって、
前記潤滑油浸入防止手段は、
前記補助反力軽減領域の径を、前記補助動力伝達領域の径よりも大きく設定し、前記補助反力軽減領域における前記補助動力伝達領域の側の最外周部に、円周方向に沿うように設けられた環状の突出部である、
または、前記補助動力伝達領域における前記補助反力軽減領域の側の外周部に、円周方向に沿うように設けられた環状のオイルシールまたはエアシールである、
回転動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の回転動力伝達装置であって、
前記主スピンドルにおける前記ベルトが掛け渡される領域である主反力軽減領域には、前記主スピンドルの表面を伝ってくる潤滑油が前記ベルトに到達することを防止する潤滑油浸入防止手段が前記主スピンドルの円周方向に沿って設けられている、
回転動力伝達装置。
【請求項7】
請求項6に記載の回転動力伝達装置であって、
前記潤滑油浸入防止手段は、
前記主反力軽減領域の径を、前記主動力伝達領域の径よりも大きく設定し、前記主反力軽減領域における前記主動力伝達領域の側の最外周部に、円周方向に沿うように設けられた環状の突出部である、
または、前記主動力伝達領域における前記主反力軽減領域の側の外周部に、円周方向に沿うように設けられた環状のオイルシールまたはエアシールである、
回転動力伝達装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の回転動力伝達装置であって、
前記ベルトには、張力を調整可能な張力調整機構が設けられており、
前記張力調整機構を調整することで、前記主スピンドルの前記主動力伝達領域に前記駆動ローラを押付ける押付け力を調整可能である、
回転動力伝達装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の回転動力伝達装置を備えるとともに前記回転対象物として略円筒形状の砥石を備え、前記砥石を用いて、所定の回転軸回りに回転させるワークを研削する工作機械であって、
前記ワークの回転軸に対して前記主スピンドルの回転軸が並列となるように、前記主スピンドルが配置されており、
前記主スピンドルに対して、前記ワークと反対の側に前記モータと前記補助スピンドルとが配置されている、
工作機械。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−31932(P2010−31932A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193362(P2008−193362)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】