説明

回転工具および塗膜除去方法

【課題】過度の切込みによる下地の損傷を有効に防止しながら、効率良く、容易に作業を進め得るようにする。
【解決手段】回転工具は、施工面Sに対向する対向面もつ回転体10を有し、この回転体10を回転駆動しながら施工面Sに押付けることにより、回転体10に設けられる刃部で施工面Sの表面部分を除去するように構成される。刃部としては、砥粒を担持した砥石部20が回転体10の前記対向面に設けられるとともに、硬質の焼結体からなり、かつ回転体の径方向外向きに刃先が向く複数の切刃25が当該回転体10の外周に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面の表面、あるいは建築物、船舶、橋梁等における壁や床の表面を施工して当該表面に付着した塗料や接着剤等を除去するための回転工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種構造物の床面や壁面等の表面の加工、例えば床面等に付着した塗膜(塗料や接着剤)等を除去するための回転工具として、施工面に対向する面(対向面という)に、多量の砥粒を金属バインダで焼結してなる砥石を配置し、当該砥石を含む回転工具全体を高速回転させながら前記砥石を施工面に接触させることにより、施工面を研削するようにした回転工具が一般に知られている。
【0003】
最近では、前記砥石に代えて、前記対向面に硬質の焼結体からなる切刃を配置したものが知られており、例えば特許文献1には、焼結体からなる切刃を回転体の対向面の他に、外周にも並べて配置したものが提案されている。
【特許文献1】特開2004−130414号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような回転工具を比較した場合、回転体の対向面に砥石を配置した回転工具では、塗膜の種類等によっては研削屑による目詰まりを起こし易く、効率的に作業を進めることが難しい場合がある。
【0005】
これに対して焼結体からなる切刃を備えた回転工具によると、切刃で塗膜を掻き取る(切削する)ため目詰りの問題がなく、効率的に作業を進めることができる。特に、特許文献1のような回転工具によると、外周に備えた切刃により塗膜をその側面(すなわち厚み方向と直交する方向側)から掻き取ることができるため、厚みのある塗膜等でもその除去作業を効率的に進めることが可能となる。
【0006】
しかしながら、焼結体からなる切刃を備えた回転工具では、切刃が硬質の焼結体から構成されていて切れ味が鋭いため、対向面に配置された切刃により施工面に深く切り込んでしまい、施工面の下地表面に切削痕を残す場合がある。そのため、対向面に砥石を備えた回転工具に比べて下地表面を傷つけ易く、作業が難しいという問題がある。なお、下地表面に切削痕が残った場合には、切削痕を無くすために下地表面を再度研削し直して、下地表面を平らにするという二度手間の作業が必要となる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、塗膜等の除去作業において、過度の切込みによる下地の損傷を有効に防止しながら、効率良く、かつ容易に作業を進め得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の回転工具は、施工面に対向する対向面もつ回転体を備え、前記対向面に直交する方向の軸回りに前記回転体を回転駆動しながら、前記回転体に設けられる刃部で当該施工面の表面部分を除去する回転工具において、前記刃部として、砥粒を担持した砥石部が回転体の前記対向面に設けられるとともに、硬質の焼結体からなり、かつ回転体の径方向外側に刃先が向く複数の切刃が回転体の外周にその周方向に並んだ状態で設けられているものである(請求項1)。
【0009】
この回転工具によると、施工面に対向する対向面には、硬質の焼結体から構成される切刃に比べて切れ味が鈍い、砥粒を担持させた砥石部が設けられているため、施工面に回転体を押付けて塗膜を研削、除去するようにしても、施工面(下地)に対して刃部が深く食い込むことが防止される。そして、回転体の外周には、硬質の焼結体から構成された切れ味の鋭い切刃が設けられているので、回転体を施工面に沿って移動させることにより、塗膜をその厚み方向と直交する方向から鋭く掻き取ることができる。
【0010】
そのため、このような回転工具を用いた塗膜除去方法としては、前記回転体を回転駆動しながら前記対向面を施工面に押付けて塗膜の一部を前記砥石部で研削し、これにより当該塗膜に段差部分を形成した後、回転体を施工面に沿って移動させながら塗膜の前記段差部分をその厚み方向と直交する方向から前記切刃により切削することにより前記塗膜を除去するのが好適である(請求項9)。
【0011】
この方法によると、回転体を塗膜に押付けて塗膜に段差部分を形成する段階では、塗膜を掘り下げながらも砥石部を用いるため下地に対する過度の切込みが防止される。そしてその後は、回転体外周の切刃により塗膜がその厚み方向と直交する方向から鋭く掻き取られることにより塗膜が効率的に除去されることとなる。なお、この段階では、砥石部による塗膜除去作業への寄与度は低いため、砥石部に目詰り等が生じている場合でも作業への影響は殆どなく、円滑に塗膜の除去作業が進行することとなる。
【0012】
なお、上記のような回転工具のより具体的な構成としては、回転体の施工面側の端面に、その外周縁に沿って他の部分よりも回転軸方向に突出する突出部分が設けられ、この突出部分に前記砥石部が設けられるとともに、この突出部分の側面に前記切刃が設けられているのが好適である(請求項2)。
【0013】
この構成によると砥石部を用いた施工面の研削の際に、突出部分の内側に研削屑(切粉)が逃げ込むため、砥石部と施工面との間からの研削屑の排出性が向上し、砥石部の目詰まりを抑制することが可能となる。また、砥石部と切刃とが極接近した配置となり、砥石部を用いた塗膜の研削作業から切刃を用いた塗膜の切削作業への移行の際に斑なく塗膜を除去することが可能となる。
【0014】
この場合、前記突出部分の外周縁に、周方向に所定の間隔で並ぶ複数の切欠部が形成され、これら切欠部の間の部分からなる凸部の先端に前記切刃が設けられているのが好適である(請求項3)。
【0015】
このような構成によると、砥石部と施工面との間からの研削屑(切粉)の排出性、特に回転体の外側への排出性が向上し、砥石部の目詰まりを抑制することが可能となる。
【0016】
また、上記のような回転工具において、前記切刃は、例えば超硬合金やセラミックス、サーメット等から構成されるものでもよいが、多結晶ダイヤモンド焼結体(PCD)または多結晶立方晶窒化ホウ素焼結体(PCBN)であるのが好適である(請求項4)。
【0017】
このような硬質の結晶体を用いることにより、特に切削仕事量の多い外周の切刃の損傷等を回避して、長い工具寿命を享受することが可能となる。
【0018】
また、砥石部の砥粒としては、ダイヤモンド砥粒又は立方晶窒化ホウ素(CBN)砥粒が好適である(請求項5)。
【0019】
このような砥粒を担持した砥石部によると、砥石部についても砥粒の摩耗等を抑えて、長い工具寿命を享受することが可能となる。
【0020】
ここで、砥石部は、砥粒を金属バインダにより結合した砥石そのものを回転体の母材に組込んだもの、あるいは回転体の母材に対して砥粒を電着したものでもよいが、回転体の母材に対して砥粒をろう付けしたものが好適である(請求項6)。
【0021】
砥粒をろう付けたものによると、砥石そのものを回転体に組込む場合や、砥粒を回転体の母材に電着する場合に比べて砥粒の保持強度が高く、長い工具寿命を享受することが可能となる。
【0022】
なお、上記のような回転工具において、前記回転体は、前記刃部をもつ工具本体と、駆動軸への取付部をもち、かつ前記工具本体に対して回転軸方向に積層した状態で結合される基台と、ゴムまたは樹脂から構成され、前記回転軸周りに並べられた状態で前記工具本体と基台との間に介装される複数の弾性部材とから構成されているのが好適である(請求項7)。
【0023】
このような構成とすると、弾性部材による振動、衝撃吸収作用により、作業者に対する振動や衝撃の伝達が緩和され、作業者の負担が軽減される。特に、複数の弾性部材が回転軸周りに設けられているため、基台と工具本体との間の回転方向の捻れが防止されて、基台側から工具本体側への回転駆動力の伝達が適切に行われる。また、回転軸方向のみならず回転方向についても高い振動、衝撃吸収作用が発揮されることとなる。
【0024】
この場合、より具体的な構成としては、例えば、工具本体および基台の互いの対向面に、互いに対向する複数の凹部が周方向に配列され、柱状の前記弾性部材がその両端を工具本体および基台の各凹部に嵌入された状態で前記工具本体と基台との間に介装されているのが好適である(請求項8)。
【0025】
この構成によると、工具本体と基台とが弾性部材を介して周方向に係合する(すなわち各弾性部材がせん断荷重を受けながら回転駆動力を基台側から工具本体側へ伝達する)こととなる。そのため、基台又は工具本体と弾性部材とのずれ(滑り)が防止されて基台側から工具本体側への回転駆動力の伝達がより確実に行われる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の回転工具によると、施工面に対向する対向面には、硬質の焼結体から構成された切刃に比べて切れ味が鈍い、砥粒を担持させた砥石部が設けられているため、施工面に回転体を押付けて塗膜等を研削、除去するようにしても、施工面(下地)に対して刃部が深く食い込むことが防止される。そして、回転体の外周には、硬質の焼結体から構成された切れ味の鋭い切刃が設けられているので、回転体を施工面に沿って移動させることにより、塗膜等をその厚み方向と直交する方向から鋭く掻き取ることができる。従って、塗膜等の除去作業において、過度の切込みによる下地の損傷を有効に防止しながら、効率良く、かつ容易に作業を進めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0028】
なお、この実施の形態では、施工面Sの表面に塗布された塗膜を除去加工する場合について説明するが、本発明の加工対象はこれに限らず、施工面に付着した接着材や樹脂製シート、樹脂製タイルといったその他の「塗膜」、あるいは他の材質で構成された施工面を除去加工する場合にも広く適用が可能である。
【0029】
図1〜図4は本発明に係る回転工具を概略的に示している。これらの図に示すように、回転工具は円盤状の回転体10を有している。回転体10は、中心にボス部15を有するS45C等の金属からなる基板(本発明に係る基台に相当する)11と、この基板11に積層された状態で組付けられる同じくS45C等の金属からなる工具本体12と、これら基板11と工具本体12との間に介装される後記弾性部材14等とから構成されている。なお、工具本体12は、図2に示すように、実際には下側の外輪部13とその上側(図2で上側)の部分(後記組付孔17を具備する部分)とから構成される。
【0030】
基板11の前記ボス部15には、駆動軸取付け用のねじ孔15aが螺設されており、このねじ孔15aに図外の駆動源の駆動軸が螺合、挿入されることにより、この駆動軸と一体に回転工具全体が中心軸O(図2参照)回りに旋回駆動されるようになっている。
【0031】
図2に示すように、基板11のうち工具本体12に対向する面(図2では下面)には、その中心に、前記中心軸O方向に延びるねじ軸16aを先端に備えたボス部16が突設されるとともに、このボス部16を中心として、工具本体12側に開口する断面円形の複数の凹部11aが周方向に等間隔で設けられている。一方、工具本体12には、その中心に前記ボス部16を挿入する組付孔17が設けられている。また、工具本体12のうち基板11に対応する面(図2では上面)には、組付孔17を中心としてその周囲に前記凹部11aと同形状、同数の凹部12aが前記凹部11aに対応する配列で設けられている。
【0032】
そして、前記凹部11a,12aが互いに対向するように基板11と工具本体12とが向かい合わせとされ、両凹部11a,12aに対してゴム又は樹脂からなる円柱形の弾性部材14の両端がそれぞれ嵌め込まれるとともに、基板11の前記ボス部16が工具本体12の組付孔17に挿入されている。そしてこの状態で、前記ねじ軸16aに対して工具本体12の反対側からワッシャー18が装着され、さらにその外側からナット19が螺合装着されることにより基板11が前記ワッシャー18により工具本体12に対して抜け止めされ、基板11と工具本体12との間に弾性部材14を介装した状態でこれらが前記中心軸O方向に一体に積層、結合されている。
【0033】
なお、弾性部材14の軸方向寸法(中心軸O方向の寸法)は、凹部11aと凹部12aとの深さを加算した寸法よりも若干長く設定されており、これによって基板11と工具本体12とが弾性部材14を介して弾性的に結合されている。また、ワッシャー18は、図2に示すように、前記ボス部16の端面とナット19との間に挟まれた状態で固定されるが、この状態でのワッシャー18と基板11端面との間隔は、基板11に対する工具本体12の中心軸O方向の変位を一定ストロークだけ許容するように設定されている。すなわち、施工面Sに対して工具本体12を押付けると、弾性部材14の弾発力に抗して工具本体12が基板11に対して適度に押し戻され、これによって工具本体12が施工面Sに対して弾性的に押し付けられるようになっている。
【0034】
前記工具本体12のうち施工面S側の端面(すなわち外輪部13の端面)には、図2,図3に示すようにその外周縁に沿って他の部分よりも回転軸方向に突出する環状の突出部分13bが設けられている。この突出部分13bの底面は、図2に示すような施工面Sに対して平行な状態で対向する面(以下、単に「対向面」と称する)とされ、この対向面には、刃部として砥石部20が設けられている(図1中、点描で示す領域)。この砥石部20は、前記突出部分13bの母材に対して砥粒、例えばダイヤモンド砥粒やCBN砥粒がろう付けで固着されることにより構成されている。
【0035】
また、工具本体12のうち外輪部13の外周面(突出部分13bの側面を含む)には、さらに前記砥石部20とは別の刃部として、径方向外向きに刃先が向く複数の切刃25が周方向に等間隔で配設されている。
【0036】
各切刃25は硬質の焼結体からなり、当実施形態では、硬度に優れた多結晶ダイヤモンド焼結体(PCD)、またはそれに次ぐ硬度をもつ多結晶立方晶窒化ホウ素焼結体(PCBN)からなり、当該焼結体が工具本体12の母材に対してろう付けで固着されることにより設けられている。より具体的には、中心軸Oの方向に細長い例えば断面正四角の柱状に形成された焼結体が、その一側面が回転体10の半径方向と直交するように工具本体12の外周に固着されることにより、この焼結体の中心軸O方向に延びるエッジ部分により刃先(逃げ角、すくい角は略0°)が構成された上記切刃25が設けられている。
【0037】
なお、工具本体12のうち外輪部13の外周縁(突出部分13bの外周縁を含む)には、図1に示すようにV字型の切込部13aが周方向に等間隔で複数形成されている。そして、これら切込部13aの間の部分からなる凸部が周方向に並んでおり、これら凸部分に対し一つ置きにその先端部分に前記切刃25が設けられている。
【0038】
次に、この回転工具の使用要領(本発明に係る塗膜除去方法)並びに作用を説明する。
【0039】
まず、この回転工具を駆動機に装着する。例えば、図5(a)にその一部を示すようなハンディタイプの駆動機30に回転工具を装着する。この駆動機30は、その先端部分に駆動軸31が突出するとともに、この駆動軸31を高速で回転駆動するモータ等が駆動機本体に内蔵されている。なお、駆動軸31の周囲には、回転工具をその裏側(施工面Sと反対の側)から覆う工具カバーが設けられるが、同図では便宜上省略している。
【0040】
駆動機30への回転工具の装着は、前記駆動軸31の先端に形成される雄ねじ部分を回転工具の前記ねじ孔15aに螺合挿入し、これにより回転工具を駆動軸先端に連結、固定することにより行う。
【0041】
そして、前記駆動軸31および回転工具を一体に高速回転させ(前記対向面に対して直交する軸回りに回転工具を回転させ)、駆動機30の所定の把持部分を把持し、同図に示すように回転体10(工具本体12)の対向面、すなわち砥石部20を施工面Sに押し当てる。この際、同図中に白抜き矢印で示すように施工面Sに対して工具本体12を真っ直ぐに押付けて塗膜S1を研削し(必要な場合には、押付け場所を変えながらこの作業を数回繰り返す)、これにより塗膜S1の一部を下地S2まで掘り下げる。
【0042】
ここで、砥石部20は、工具本体12に砥粒がろう付けされた構成であり、硬質の焼結体から構成される前記切刃25に比べるとその切れ味が鈍く、そのため、施工面Sに回転体を強く押付けて塗膜S1を研削、除去するようにしても、下地S2に対して深く食い込むことがない。
【0043】
こうして塗膜S1の一部を除去することにより、図5(b)に示すように塗膜S1に段差部分Lが形成されたら、施工面Sに対する回転体10の押付け力を弱めた状態で当該施工面S(すなわち下地S2)に沿って走査する。これにより高速回転する外輪部13の切刃25によって塗膜S1をその側面、つまり厚み方向と直交する方向から掻き取っていく。
【0044】
ここで、切刃25は、上記のように硬質の焼結体からなり切れ味が鋭いため、回転工具を高速回転させながら施工面Sに沿って走査するに伴い塗膜S1がスムーズに掻き取られることとなる。この段階では、砥石部20は殆ど塗膜S1の除去作業へ寄与しないため、施工面S1の掘り下げの際に砥石部20に目詰り等が生じている場合でも作業への影響は殆どなく、円滑に塗膜S1の除去作業が進行することとなる。
【0045】
なお、作業中は、砥石部20による塗膜S1の研削や切刃25による塗膜S1の切削に伴い振動や衝撃が回転体10に作用するが、上記の通り、基板11と工具本体12との間に弾性部材14が介装されている結果、この弾性部材14により当該振動や衝撃が好適に吸収される。これにより駆動機30側への振動等の伝達が緩和されることとなる。
【0046】
このように上記の回転工具を使った塗膜S1の除去作業によると、回転体10を施工面Sに押付けて塗膜S1を掘り下げながらも下地S2への食い込みを有効に防止することができる。そして、この掘り下げにより塗膜S1の一部を除去した後は、回転工具を施工面Sに押し当てて、当該施工面S(下地S2)を走査することにより、硬質焼結体からなる切れ味の鋭い切刃25により塗膜S1を効率的に掻き取りながら作業を進めることができ
る。
【0047】
従って、上記のような塗膜S1の部分的な掘り下げ、および施工面S(下地S2)に沿った走査を連続して行うことにより、施工面Sに対する過度の切込みによる下地S2の損傷を有効に防止しながら、効率的に、かつ容易に塗膜等を除去することができる。
【0048】
また、作業中は、上記の通り、弾性部材14により駆動機30側への切削振動や衝撃の伝達が緩和されるため、当該振動等による作業者の負担が効果的に軽減される。従って、疲労感を低減して塗膜S1の除去作業をより楽に進めることができる。
【0049】
なお、以上説明した回転工具は、本発明に係る回転工具の好ましい実施形態の一例であって、その具体的な構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0050】
例えば、実施形態の回転工具では、回転体10(工具本体12)の施工面S側の端面に他の部分よりも中心軸O方向に突出する環状の突出部分13bを設け、ここに砥石部20を設けているが、例えばこのような突出部分13bを設けることなく工具本体12の施工面S側の端面全体をフラットに形成し、ここに砥石部20を設けるようにしてもよい。但し、上記実施形態のように突出部分13bを設けて工具本体12の端面中心部分に凹部を形成した実施形態の構成によると、砥石部20による施工面Sの研削時に、切屑(切粉)がこの凹部に入り込むことによる排屑効果が期待できるため、砥石部20の目詰まり等を抑制する上で有効である。
【0051】
また、工具本体12(外輪部13)に対して周方向に並ぶ複数の切込部13aを設けているが、これらの切込部13aを省略するようにしてもよい。但し、切込部13aを設けた場合にも、砥石部20による施工面Sの研削時の排屑効果、特に回転体10の外側への排屑効果が期待できるため、砥石部20の目詰まり等を抑制する上では切込部13aを設けておくのが好適である。なお、砥石部20による研削時の排屑効果を高める構成として、例えば砥石部20を周方向に分割して設けることにより、各砥石部20の間の部分に回転体10の径方向に延びる隙間部分や溝部分を形成するようにしてもよい。このような構成によっても排屑効果を高めることが期待できる。
【0052】
また、実施形態では、切刃25の逃げ角およびすくい角を略0°としたものを示したが、勿論、逃げ角等を大きく設定した図6に示すような切刃25を設けることもできる。この場合、逃げ角αやすくい角βの具体的な値は、切刃25を構成する具体的な焼結体の材質等に応じて適宜設定すればよいが、例えば多結晶ダイヤモンド焼結体(PCD)からなる切刃25の場合には、逃げ角α、すくい角βともに20°程度とするのが切刃25の切れ味や耐久性を高める上で好適である。
【0053】
また、実施形態では、砥粒を工具本体12の母材にろう付けすることにより回転体10の前記対向面に砥石部20を設けているが、砥石部20は、例えば工具本体12の母材に砥粒を電着したもの、砥粒を金属バインダで固めた砥石を工具本体12に組込んだもの、あるいは溶射により設けたものであってもよい。但し、砥粒をろう付けたものによると、砥粒を回転体の母材に電着するもの等に比べて砥粒の保持強度が高い。そのため、長い工具寿命を享受する上では、実施形態のように工具本体12に砥粒をろう付けしたものが好適である。なお、砥粒もダイヤモンド砥粒やCBN砥粒以外に、例えば炭化ケイ素砥粒等を用いることもできる。
【0054】
また、実施形態では、回転体10を構成する基板11と工具本体12との間に弾性部材14を介装し、これにより振動や衝撃の吸収を図って作業負担を緩和するようにしているが、この弾性部材14を省略して構成の簡略化、低廉化を図るようにしてもよい。
【0055】
また、弾性部材14を設ける場合でも、実施形態のように凹部11a,12aに弾性部材14を嵌め込んだ状態で基板11と工具本体12との間に該弾性部材14を介装する構成に限られるものではなく、例えば板状に形成した複数の弾性部材14を周方向に並べて基板11と工具本体12との間に挟み込む構成であってよい。但し、複数の弾性部材14を周方向に並べ、それぞれ凹部11a,12aに嵌め込んだ状態で基板11と工具本体12との間に介装する上記実施形態の構成によると、回転体10の回転駆動時に弾性部材14を介して基板11と工具本体12とが周方向に互いに係合するため、換言すれば各弾性部材がせん断荷重を受けながら回転駆動力を基板11側から工具本体12側へ伝達することとなるため、基板11又は工具本体12と弾性部材14との間で滑り(ズレ)が生じることがなく、基板11側から工具本体12側への回転駆動力の伝達が適切に行われる。また、回転方向の振動や衝撃の吸収も効果的に行われることとなる。従って、このような効果を得る上では、上記実施形態のような構成で弾性部材14を設けるのが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る回転工具を示す底面図(施工面に対向する側から見た図)である。
【図2】回転工具を示す図1のA−A断面図である。
【図3】回転工具を示す斜視図(駆動軸への取付け面側から見た図)である。
【図4】回転工具を示す斜視図(施工面に対向する面側から見た図)である。
【図5】回転工具の使用要領(本発明に係る塗膜除去方法)を説明する模式図である((a)は、回転工具を施工面に押付けて砥石部により塗膜を研削している状況、(b)は切刃により塗膜をその厚み方向と直交する方向から掻き取っている状況を示す)。
【図6】本発明に係る他の回転工具を示す底面図(施工面に対向する側から見た図)である。
【符号の説明】
【0057】
10 回転体
11 基板
12 工具本体
13 外輪部
13a 切込部
13b 突出部分
14 弾性部材
20 砥石部
25 切刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工面に対向する対向面をもつ回転体を備え、前記対向面に直交する方向の軸回りに前記回転体を回転駆動しながら、前記回転体に設けられる刃部で当該施工面の表面部分を除去する回転工具において、
前記刃部として、砥粒を担持した砥石部が回転体の前記対向面に設けられるとともに、硬質の焼結体からなり、かつ回転体の径方向外側に刃先が向く複数の切刃が回転体の外周にその周方向に並んだ状態で設けられていることを特徴とする回転工具。
【請求項2】
請求項1に記載の回転工具において、
前記回転体の施工面側の端面に、その外周縁に沿って他の部分よりも回転軸方向に突出する突出部分が設けられ、この突出部分に前記砥石部が設けられるとともに、この突出部分の側面に前記切刃が設けられていることを特徴とする回転工具。
【請求項3】
請求項2に記載の回転工具において、
前記突出部分の外周縁に、周方向に所定の間隔で並ぶ複数の切欠部が形成され、これら切欠部の間の部分からなる凸部の先端に前記切刃が設けられていることを特徴とする回転工具。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の回転工具において、
前記切刃が、多結晶ダイヤモンド焼結体または多結晶立方晶窒化ホウ素焼結体で構成されていることを特徴とする回転工具。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の回転工具において、
前記砥石部の砥粒としてダイヤモンド砥粒または立方晶窒化ホウ素砥粒が担持されていることを特徴とする回転工具。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の回転工具において、
前記砥石部は、前記回転体の対向面に対して砥粒がろう付されることにより構成されていることを特徴とする回転工具。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の回転工具において、
前記回転体は、前記刃部をもつ工具本体と、駆動軸への取付部をもち、かつ前記工具本体に対して回転軸方向に積層した状態で結合される基台と、ゴムまたは樹脂から構成され、前記回転軸周りに並べられた状態で前記工具本体と基台との間に介装される複数の弾性部材とから構成されていることを特徴とする回転工具。
【請求項8】
請求項7に記載の回転工具において、
前記工具本体および基台の互いの対向面に、互いに対向する複数の凹部が周方向に配列され、柱状の前記弾性部材がその両端を工具本体および基台の各凹部に嵌入された状態で前記工具本体と基台との間に介装されていることを特徴とする回転工具。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載の回転工具を使った塗膜の除去方法であって、
前記回転体を回転駆動しながら前記対向面を施工面に押付けて塗膜の一部を前記砥石部で研削し、これにより当該塗膜に段差部分を形成した後、回転体を施工面に沿って移動させながら塗膜の前記段差部分をその厚み方向と直交する方向から前記切刃により切削することにより前記塗膜を除去することを特徴とする塗膜除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−90517(P2007−90517A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240405(P2006−240405)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(390011785)三和研磨工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】