説明

回転角検出装置

【課題】部品点数の増大を抑制し、必要な精度を有する回転角検出装置を提供すること。
【解決手段】ハウジングに回転軸の回転に連動して軸方向に変位しつつ回転自在に支承される磁石ホルダと、磁石ホルダ端面に磁石ホルダ回転軸に対し径方向にオフセットして配置された磁石と、磁石ホルダ回転軸の軸心延長線上に磁石と対向して設置される磁気検出器と、磁気検出器の出力信号を処理して前記回転体の回転角を検出する回転角度演算部とを備える構成とすることで、磁石および磁気検出器がそれぞれひとつであっても、回転体の360度以下或いは360度超の回転角を検出することのできる簡単な構成で安価な回転角検出装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸の回転角、特に360度超の回転角を検出する回転角検出装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、360度超の回転角を検出可能な回転検出装置では、ギア等で回転速度を減速して多回転を検出する手法が用いられている。しかし、この手法では、角度精度が悪くなるという課題があった。
【0003】
この部分の改善の先行技術としては、特許文献1があり、これは、一対の部分円筒磁石が磁気検出素子を挟んで回転対称に配置され、ヨークが一対の部分円筒磁石の外周面部に接して磁気検出素子を囲んでおり、回転体の回転とともに部分円筒磁石がその軸心の周りを回転しつつ軸方向に変位し,360度を超える回転角度を検出するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−162741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1には、一対の部分円筒磁石と磁路を形成するヨークが必要となり、部品点数が多くなるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、部品点数の増大を抑制し、必要な精度を有する回転角検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、ハウジングに回転軸の回転に連動して軸方向に変位しつつ回転自在に支承される磁石ホルダと、磁石ホルダ端面に磁石ホルダ回転軸に対し径方向にオフセットして配置された磁石と、磁石ホルダ回転軸の軸心延長線上に磁石と対向して設置される磁気検出器と、磁気検出器の出力信号を処理して前記回転体の回転角を検出する回転角度演算部とを備える構成とすることで、磁石および磁気検出器をそれぞれひとつとした簡単な構成で、回転体の360度以下或いは360度超の回転角を検出することのできる安価な回転角検出装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁石の移動に伴う磁束密度の3方向の変位を直接検知できる磁気検出器を用いることで軸方向の変位も直接検知できるので、軸方向の変位が少なくても高精度の多回転角度検出が可能であることから角度検出精度が向上するとともに、ひとつの磁気検出器とひとつの略円筒形磁石を使用するだけなので、構造が簡単で部品点数が少なくて済み、製造コストを抑えられるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】回転角検出装置の斜視図を示す図である。
【図2】回転角検出装置の断面図を示す図である。
【図3】回転角検出装置の分解斜視図を示すものである。
【図4】磁気検出器の出力信号波形を示すものである。
【図5】磁気検出器出力信号の信号処理ブロック図を示すものである。
【図6】磁気検出器出力信号の信号処理フローチャートを示すものである。
【図7】回転角度演算部の出力波形を示すものである。
【図8】回転角検出装置の出力を示すものである。
【図9】本発明の理解の参考となるベクトル図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の回転角検出装置2を車両の操舵軸の操舵角の検出に適用した実施例を図1、図2および図3を参照して説明する。図1は回転角検出装置2の斜視図、図2は装置の断面図、図3は分解斜視図である。
【0011】
この回転角検出装置2は、その一部を図示する操舵軸をなす回転体1の回転を検出するための装置であって、ハウジング上部(カバー)3に回転体1の回転に連動して軸方向に変位しつつ回転軸1と軸並行を保って回転自在に支承される磁石ホルダ4と、磁石ホルダ4の端面に磁石ホルダ4の回転軸に対し径方向にオフセットして磁石6が配置され固定されている。
【0012】
一方、ハウジング下部(ベース)9は、ハウジング上部(カバー)3とその軸心を同一として、ハウジング上部(カバー)3と嵌合させて回転角検出装置2の筐体を構成するもので、ハウジング上部(カバー)3もしくはハウジング下部(ベース)9の一方かもしくは両方が、回転体1が回転自在に支持、固定されるステアリング本体の構成物に固定されている。このハウジング3,9は本実施例のハウジング上部(カバー)3とハウジング下部(ベース)9の形態に限定されず任意の分割形態であってよい。またハウジング3,9は異物混入を避けるとともに磁気検出器7への磁石6の磁界変化以外の外乱を除去する目的で磁性体の材料を用いるか、ハウジングの3,9の内外一面もしくは両面に公知の磁気シールド効果を有する処理を行うことが望ましい。
【0013】
ハウジング下部(ベース)9には磁気検出器7を搭載した基板8が、磁気検出器7の略中心部が磁石ホルダ回転軸の軸心延長線上に位置するように磁石6と対向して配置されている。
【0014】
磁気検出器7から出力される信号は図5に示す回転角度演算部10で、操舵軸の360度以下の、或いは360度超の回転角として演算処理される。回転角度演算部10は回転角検出装置2の内外いずれにあってもよく、マイクロプロセッサやロジック回路で構成される。
【0015】
回転体1の回転を磁石ホルダ4の回転に連動させるための機構は、平歯車や斜歯歯車のほか、両構成物の回転に滑りが生じないものであれば公知のどのような方式のものを用いても良い。ここでは回転体1と磁石ホルダ4のギア部5が同径である例を示している。また回転体1の回転に連動して磁石ホルダ4が軸方向に対し変位する機構については例えばボールねじ機構のように、固定されたハウジング3,9に対し、回転体1の回転角度に比例して軸方向に変位するものであればどのような公知技術を用いてもよい。
【0016】
また磁石6は略円筒形のNS2極構成のものが磁気検出器7に単極面が対向するように磁石ホルダ4に磁石ホルダ4の回転軸から半径方向にオフセットして設置される(図2参照)。なお磁気検出器7に対向して設置する磁石6の極性は、磁気検出器7が検出する極性に対応させてその対向NS極が選択使用される。この実施例では、後述する磁気検出器7の特性に合わせてその対向極をN極とする。
【0017】
磁気検出器7は、磁気検出器7に対向する磁石ホルダ4の径方向平面となるX軸、Y軸及び磁石ホルダの軸方向となるZ軸の3方向の磁束密度変化を直接検知することのできるホールICを使用する。この機能を有する磁気検出器の代表例としてはMelexis社の製品型番MLX90333がある。
【0018】
次に、この装置の動作を以下に説明する。
操舵軸である回転体1が回転すると回転角検出装置2内部にもうけられた回転体1と軸平行の磁石ホルダ4のギア部5によって磁石ホルダ4が回転する。その回転に連動して、ステアリング本体(図示せず)の構成物に固定されたハウジング3,9に対し磁石ホルダ4は予め設定された回転角度に対するピッチで軸方向に変位する。磁石6は磁気検出器7に対向しているのはN単極であるが磁石ホルダ4の軸心に対して径方向にオフセットして配置されているため、磁石ホルダ4の回転に伴い磁気検出器7上の磁束密度が周期性を持って変化する。また磁石ホルダ4はその回転に伴い磁気検出器7との距離が変位するように構成されており磁石ホルダ4の回転に伴い磁気検出器7と磁石6の軸方向距離も変わるため、磁気検出器7の位置では磁石6の軸方向の変位によっても磁束密度の変化が生じる。
【0019】
これら磁束密度の変化は磁気検出器7によって検知されるが、図4に示すとおり磁気検出器7からは,Melexis社の製品型番MLX90333について設計された内容に沿って磁石位置のベクトル成分のXZ平面,YZ平面の角度(α,β)が出力される(図9参照)。
【0020】
ここで、α、βは下記数式で示される
【数1】

【数2】

【0021】
数1及び数2に示す数式において、Vx,Vy,Vzは磁石の磁束密度をホール素子で電圧に変換し、その電圧値をデジタル値に変換した値を示し、kz,ktは補正係数を示している。
【0022】
これら(α,β)を元に、多回転の絶対角度を算出する。
【0023】
図5に示すとおり、これらの磁気検出器7の出力(α,β)は回転角度演算部10に入力され図6に示す演算処理を行う。
【0024】
次に図6のフローチャートの説明を示す。
回転体1が回転すると、それに伴い磁石ホルダ4が回転し、磁気検出器7から(α,β)が出力される(ステップ101)。
【0025】
ステップ101で出力された(α,β)は、回転角演算部10に入力される(ステップ102)。回転角度演算部10では、ステップ102で入力されたαとβの値から、α/βのアークタンジェント[arctan(α/β)もしくはATAN(α/β)]を計算することで絶対回転角度(360度以下の角度)を算出する(ステップ103)。
【0026】
また、COS(α)×COS(β)を計算することにより、軸方向の変位を算出する(ステップ104)。ステップ103で算出された絶対回転角度の演算結果とステップ104で算出された軸方向の変位の演算結果は図7に示すような波形で得られる。
【0027】
ステップ103で算出された絶対回転角度とステップ104で算出された軸方向変位の演算結果を利用し、さらに演算することで図8に示すように線形的な360℃超の多回転体の絶対回転角度情報を算出し、出力する(ステップ105)。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、回転角検出装置として各種の機械装置において利用することができ、特に、車両の操舵軸の操舵角検出装置として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 回転体
2 回転角検出装置
3 ハウジング上部(カバー)
4 センサホルダ
5 ギア部
6 磁石
7 磁気検出器
8 基板
9 ハウジング下部(ベース)
10 回転角度演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに回転体の回転に連動して軸方向に変位しつつ回転自在に支承される磁石ホルダと、前記磁石ホルダ端面に該磁石ホルダ回転軸に対し径方向にオフセットして配置された磁石と、前記磁石ホルダ回転軸の軸心延長線上に前記磁石と対向して設置される磁気検出器と、前記磁気検出器の出力信号を処理して前記回転体の回転角を検出する回転角度演算部と、を備え、
前期磁石および前記磁気検出器はそれぞれひとつであって、前記回転角度演算部は、前記磁気検出器の出力を演算して前記回転体の360度以下の回転角、或いは前記回転体の360度超の回転角を検出することを特徴とする回転角検出装置。
【請求項2】
前記磁気検出器は、該磁気検出器に対向する前記磁石ホルダの径方向平面となるX軸、Y軸及び前期磁石ホルダの軸方向となるZ軸の3方向の磁束密度変化を直接検知することのできるホールICであることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記磁石は、軸方向にNS2極に着磁された略円筒形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
前記磁石は、常にN極が前記磁気検出器に対向するように配置されたことを特徴とする請求項3に記載の回転角検出装置。
【請求項5】
前記磁石ホルダの回転に伴う軸方向の変位にボールねじ機構が使われていることを特徴とする請求項1乃至4に記載の回転角検出装置。
【請求項6】
前記ハウジングが、磁気シールドを具備することを特徴とする請求項1乃至5に記載の回転角検出装置。
【請求項7】
前記回転体は車両の操舵軸であることを特徴とする請求項1乃至6に記載の回転角検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−52985(P2011−52985A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199626(P2009−199626)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】