説明

回転電機

【課題】コストの増大を抑制しつつ、軸方向両側への冷媒の流出を抑制可能な凹部を設け、当該凹部からステータコア外周面に効率良く冷媒を供給可能な回転電機を実現する。
【解決手段】軸方向に沿って下方へ向かう側である軸第一方向側のステータコア10の端面に接するように設けられた堰部42を備え、円筒上方外周面部22と突条外周面部25とは、軸方向全域で軸方向に延びる境界部40を有し、ステータコア10の堰部42に接する端面である接触端面において、突条外周面部25の最上部25aが、円筒上方外周面部22の最上部22aと同じ高さ又はそれより下方に位置すると共に境界部40より上方に位置し、堰部42が、境界部40に形成されて軸方向に延びる凹部41の軸第一方向側端部を区画すると共に、接触端面における突条外周面部25の最上部25aより上方まで延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸心が水平方向に対して傾斜して配置されるステータコアを備え、ステータコアの外周面であるステータコア外周面が、ステータコアの軸心を基準とする円筒状の仮想基準面に軸方向全域で沿う形状の円筒状外周面部と、仮想基準面に対して軸方向全域で径方向外側に突出する形状の突条外周面部とを有する回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
ステータコア外周面が円筒状外周面部と突条外周面部とを有する回転電機の従来技術として、例えば下記の特許文献1に記載された技術がある。以下、この背景技術の欄の説明では、〔〕内に特許文献1における符号(必要に応じて、対応する部材の名称を含む)を引用して説明する。特許文献1に記載の構成では、ステータコア〔21〕の外周面に対して径方向外側に突出する形状の突条外周面部〔突条外周面42〕を利用して、冷媒を貯留する凹部〔冷媒貯留用凹部60〕を形成することで、当該文献の図3に示されているように、当該突条外周面部に対して周方向に沿って下方へ向かう側に位置するステータコア外周面に冷媒を供給することを可能としている。
【0003】
特許文献1の構成では、ステータコアの軸心が水平方向と平行に配置されるため、当該文献の図1に示されているように、突条外周面部の軸方向両側のそれぞれに堰として機能する部材〔封止部材50〕が設けられる。これにより、冷媒が凹部から軸方向外側に流出することを抑制して、ステータコア外周面に効率良く冷媒を供給することが可能となっている。しかしながら、特許文献1に記載の構成では、突条外周面部の軸方向両側のそれぞれに堰として機能する部材を設ける必要があるため、部品点数の増加によりコストが増大しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−233318号公報(図1、図3等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、コストの増大を抑制しつつ、軸方向両側への冷媒の流出を抑制可能な凹部を設け、当該凹部からステータコア外周面に効率良く冷媒を供給可能な回転電機の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、軸心が水平方向に対して傾斜して配置されるステータコアを備え、前記ステータコアの外周面であるステータコア外周面が、前記軸心を基準とする円筒状の仮想基準面に軸方向全域で沿う形状の円筒状外周面部と、前記仮想基準面に対して軸方向全域で径方向外側に突出する形状の突条外周面部とを有する回転電機の特徴構成は、前記ステータコアの軸方向に沿って下方へ向かう側である軸第一方向側の前記ステータコアの端面に接するように設けられた堰部を備え、前記円筒状外周面部は、前記突条外周面部に対して周方向に沿って上方へ向かう側に形成された円筒上方外周面部を有し、前記円筒上方外周面部と前記突条外周面部とは、軸方向全域で軸方向に延びる境界部を有し、前記ステータコアの前記堰部に接する端面である接触端面において、前記突条外周面部の最上部が、前記円筒上方外周面部の最上部と同じ高さ又はそれより下方に位置すると共に前記境界部より上方に位置し、前記堰部が、前記境界部に形成されて軸方向に延びる凹部の前記軸第一方向側端部を区画すると共に、前記接触端面における前記突条外周面部の最上部より上方まで延びている点にある。
【0007】
本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0008】
上記の特徴構成によれば、ステータコアの軸心が水平方向に対して傾斜して配置されることを有効に利用して、凹部の軸第一方向とは反対側の軸第二方向側に堰部を備えることなく、軸方向両側への冷媒の流出を抑制可能な凹部を形成することができる。すなわち、軸第一方向側においては、堰部により冷媒の凹部からの軸方向外側への流出を抑制し、軸第二方向側においては、軸第二方向へ向かうに従って上方へ向かうステータコア外周面の軸第二方向側部分により、冷媒の凹部からの軸方向外側への流出を抑制することができる。よって、凹部に対して軸方向の両側に堰部を備える場合に比べて部品点数を抑制してコストの増大を抑制しつつ、軸方向両側への冷媒の流出を抑制可能な凹部を形成することができる。また、接触端面における突条外周面部の最上部を超える分の冷媒を、堰部によりガイドして効率的にステータコア外周面に供給することができる。
【0009】
ここで、前記ステータコアを収容するケースを備え、前記ケースは、前記ステータコア外周面を覆う周壁部を有し、前記円筒状外周面部は、前記突条外周面部に対して周方向に沿って下方へ向かう側に形成された円筒下方外周面部を有し、前記周壁部の内周面は、前記円筒下方外周面部に軸方向全域で沿う形状の円筒状内周面部と、前記円筒状内周面部に対して径方向外側に膨出して前記突条外周面部を収容する形状の膨出内周面部とを有し、前記円筒状内周面部と前記円筒下方外周面部とが対向する円筒状隙間の離間距離が、前記膨出内周面部と前記突条外周面部とが対向する部分における離間距離よりも小さく設定されていると好適である。
【0010】
この構成によれば、突条外周面部を超えて当該突条外周面部に対して周方向に沿って下方へ向かう側に流れた冷媒に対して、円筒状隙間を、周方向に沿って下方へ向かう側に流れる冷媒の流量を規制する絞り部として機能させることができる。これにより、円筒下方外周面部に対して軸第一方向側に偏って冷媒が供給される場合であっても、円筒状隙間により流通が規制された冷媒を、軸第二方向側に位置する円筒状隙間の部分に供給することが可能となる。よって、ステータコアの軸心が水平方向に対して傾斜して配置される本発明においても、突条外周面部に対して周方向に沿って下方へ向かう側に位置するステータコア外周面に対して、軸方向の広い範囲に亘って冷媒を供給することが可能となる。
【0011】
上記のように、前記周壁部の内周面が、前記円筒状内周面部と前記膨出内周面部とを有する構成において、前記円筒状隙間より前記突条外周面部側における前記円筒下方外周面部と前記膨出内周面部とが対向する部分に、膨出対向空間が形成され、前記膨出対向空間は、軸方向全域にわたって前記円筒状隙間に連通するように形成されていると好適である。
【0012】
この構成によれば、円筒状隙間により流通が規制された冷媒を、円滑に、軸第二方向側に位置する円筒状隙間の部分にも供給することができ、軸方向の広い範囲に亘って冷媒を供給することが容易となる。
【0013】
上記の各構成の回転電機において、前記ステータコアを収容するケースを備え、前記突条外周面部は、前記ステータコアを前記ケースに固定するための締結部が設けられた固定用突条部の外周面により形成され、前記ケースは、前記ステータコアを固定した状態で前記固定用突条部の前記軸第一方向側の端面に当接する座面を備え、前記座面により、前記堰部が形成されていると好適である。
【0014】
この構成によれば、ケースに既存の構成を有効に利用して堰部を形成することができ、部品点数の増加を抑制することができるとともに、組み付け作業の簡素化も図ることができる。
【0015】
また、前記ステータコアを収容するケースを備え、前記ケースは、前記軸第一方向側が車両後方側となる向きで車両に搭載するための車載用取付部を備える構成とすると好適である。
【0016】
この構成によれば、回転電機が車載用の回転電機である場合に、凹部に貯留された冷媒を、車両の加速時に積極的に突条外周面部を超えさせてステータコアの冷却に用いることができる。これにより、回転電機が車両の駆動力源として用いられる場合に、当該回転電機の負荷が大きくなる加速中にステータコアの外周面を効率良く冷却することが可能となる。
【0017】
また、前記凹部に冷媒を供給する冷媒供給部が、前記堰部に対して前記軸第一方向とは反対側である軸第二方向側に配置されていると共に、前記軸第一方向側に向けて冷媒を吐出するように設けられている構成とすると好適である。
【0018】
この構成によれば、凹部に対する冷媒の供給効率を高めることができ、ステータコアの効率的な冷却が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る回転電機の一部断面斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る回転電機の一部の軸方向に沿う断面形状を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る回転電機の接触端面における軸方向に直交する断面形状を示す図である。
【図4】図3の一部拡大図である。
【図5】本発明の実施形態に係る回転電機の一部の一部断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る回転電機の実施形態について、図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係る回転電機1は、軸心Aが水平方向H(図2参照)に対して傾斜して配置されたステータコア10の外周面(ステータコア外周面20)に、冷媒(例えば油等の潤滑冷却液)を貯留可能な凹部41を備えていることに特徴を有している。以下、本実施形態に係る回転電機1について、詳細に説明する。
【0021】
以下の説明では、特に断らない限り、「軸方向L」、「径方向R」、及び「周方向C」は、ステータコア10(回転電機1)の軸心Aを基準として定義している。なお、各部材についての方向は、当該各部材が回転電機1に組み付けられた状態での方向を表す。また、各部材についての方向や位置に関する記載(例えば、「平行」や「直交」等)は、製造上の誤差に応じたずれを含む概念として用いている。このような製造上の誤差は、例えば、寸法や取付位置の公差の範囲内のずれにより生じる。
【0022】
また、以下の説明では、特に断らない限り、「上」及び「下」は、回転電機1の使用状態での鉛直方向V(図2参照)を基準として定義しており、「上」は図2における上方を表し、「下」は図2における下方を表す。すなわち、上下方向の位置は「高さ」と同義である。例えば、回転電機1が、ハイブリッド車両や電動車両等の車両に搭載される場合には、車両に搭載された状態が当該回転電機1の使用状態となる。
【0023】
1.回転電機の全体構成
回転電機1の全体構成について、図1〜図3を参照して説明する。回転電機1は、ステータ3と、ステータ3に対して回転自在に配置されるロータ2(図1においては省略)と、ステータ3及びロータ2を収容するケース30と、を備えている。本実施形態に係る回転電機1は回転界磁型でラジアル型の回転電機とされており、ロータ2は永久磁石や電磁石等を備えて構成されるとともに、ステータ3の径方向内側に配置される。
【0024】
ステータ3は、ステータコア10とコイルエンド部4とを備えている。ステータコア10は、軸心Aが水平方向Hに対して傾斜するように配置される。これにより、図2に示すように、軸方向Lも水平方向Hに対して傾斜した方向となる。以下では、軸方向Lに沿って下方へ向かう方向を「軸第一方向L1」とし、その反対方向を「軸第二方向L2」とする。軸心A(軸方向L)の水平方向Hに対する傾斜角は、例えば5度〜10度等とされる。
【0025】
ステータコア10は、円筒状のコア本体部17と、コア本体部17の外周面に対して径方向外側(径方向Rの外側)に突出形成された突条部12とを備えている。コア本体部17の外周面は、軸心Aを基準とする円筒状の仮想基準面100(図3参照)に軸方向全域(軸方向Lの全域)で沿う形状とされ、ステータコア外周面20の一部である円筒状外周面部21を形成している。また、突条部12の外周面は、仮想基準面100に対して軸方向全域で径方向外側に突出する形状とされ、ステータコア外周面20の一部である突条外周面部25を形成している。
【0026】
突条部12は、図1に示すように、ステータコア10の軸方向全域に形成されている。本実施形態では、突条部12は、軸方向Lに直交する断面の形状が軸方向全域にわたって同一となるように形成され、これにより、突条外周面部25は、軸方向全域にわたって一様に形成されている。そして、本実施形態では、複数(本例では3個)の突条部12が、コア本体部17の外周を均等に分割(本例では3分割)するように、周方向Cに沿って均等な間隔で配置されている。突条部12には、ステータコア10をケース30に固定するための挿通孔13が軸方向Lに貫通して設けられており、ステータコア10は、挿通孔13に挿入された締結ボルト15により、ケース30に対して固定(本例では締結固定)されている。本実施形態では、突条部12及び挿通孔13が、それぞれ本発明における「固定用突条部」及び「締結部」に相当する。
【0027】
ステータコア10の内周部には、図3に示すように、周方向Cに沿って所定間隔で複数のティース5が形成されており、周方向Cに隣接するティース5の間にスロット6が形成されている。そして、スロット6に巻装されたコイルにより、ステータコア10の軸方向Lの端部(本例では両端部)から突出するコイルエンド部4が形成されている。なお、図1においては、コイルエンド部4が占有する円筒状の空間を模式的に示している。
【0028】
本実施形態では、ステータコア10及びロータ2が備えるロータコアの双方は、円環板状の磁性体板(例えば鋼板等)を軸方向Lに複数積層してなる積層構造体とされている。そのため、図1及び図3に示すように、ステータコア外周面20には、積層状態にある磁性体板を溶接により接合するための溶接溝14が、ステータコア10の軸方向全域に形成されている。本明細書では、このような溶接溝14が形成されている部分を円筒状外周面部21に含め、ステータコア外周面20における突条外周面部25を除く部分は、円筒状外周面部21であるとする。
【0029】
ケース30は、ステータコア10を収容した状態でステータコア外周面20を覆う(本例では全周を覆う)周壁部31を有している。そして、ケース30は、ステータコア10を固定した状態で、当該ステータコア10(突条部12を含む)の軸第一方向L1側の端面に当接する座面35を備えている。座面35は、締結ボルト15の締結孔が設けられた座部の軸第二方向L2側を向く面により形成されている。そして、本実施形態では、この座面35により、ステータコア10の軸第一方向L1側の端面(接触端面11)に接するように設けられる堰部42が形成されている。堰部42についての詳細は後述する。
【0030】
本実施形態では、回転電機1は車両用の回転電機とされ、ケース30には、図1に示すように、軸第一方向L1側が車両後方B側(図2参照)となる向きで回転電機1を車両(図示せず)に搭載するための車載用取付部16が設けられている。なお、「軸第一方向L1側が車両後方B側となる」とは、鉛直方向視で軸第一方向L1と車両後方Bへ向かう方向とが互いに平行となる状態を指す。
【0031】
本実施形態では、車載用取付部16は、車両に固定される別の装置(図示せず、例えば、別の回転電機や変速装置等)に連結するための連結部とされている。具体的には、ケース30の軸第二方向L2側端部の外周部には、上記別の装置のケースに締結固定するための締結部(例えば、締結孔や挿通孔等)が設けられており、この外周部が車載用取付部16を構成している。
【0032】
2.ステータの冷却構造
次に、本発明の要部であるステータ3の冷却構造について説明する。図1及び図2に示すように、ケース30の内部には、ステータ3に冷媒を供給するための冷媒供給部50が備えられている。ステータコア外周面20には、この冷媒供給部50から供給される冷媒を貯留可能な軸方向Lに延びる凹部41が形成されており、この凹部41を備えることで、以下に説明するようにステータ3の適切な冷却が可能となっている。なお、図1〜図5においては、冷媒の流れを破線矢印で概念的に示すとともに、凹部41に貯留された冷媒の様子をハッチングにより概念的に示している。
【0033】
凹部41は、図1及び図4に示すように、突条外周面部25と、当該突条外周面部25に対して周方向Cに沿って上方へ向かう側(以下、「周方向上側」という。)に形成された円筒状外周面部21である円筒上方外周面部22と、の境界部40に形成されている。なお、ここで対象とする突条外周面部25は、図4に示すように、接触端面11において、突条外周面部25の最上部25aが、円筒上方外周面部22の最上部22aと同じ高さ又はそれより下方(本例では下方)に位置すると共に境界部40より上方に位置するという要件を満たすものである。
【0034】
ステータコア10は、少なくとも何れか1つの突条部12が、上記の要件を満たす突条外周面部25を備えた突条部12(以下、「対象突条部」という。)となるように、ケース30に対して固定される。本例では、図3及び図4に示すように、3つある突条部12の内の最も上側にある1つの突条部12のみが対象突条部となるように、ステータコア10の周方向Cにおける取付位置(取付位相)が設定されている。
【0035】
図4に示すように、この対象突条部は、仮想基準面100の最上部とは異なる周方向位置に配置され、円筒上方外周面部22は、仮想基準面100の最上部を含むように形成されている。これにより、接触端面11における円筒上方外周面部22の最上部22aは、接触端面11における仮想基準面100の最上部と等しくなる。以下では、突条外周面部25、円筒上方外周面部22、及び、突条外周面部25に対して周方向Cに沿って下方へ向かう側(以下、「周方向下側」という。)に形成された円筒状外周面部21である円筒下方外周面部23は、特に断らない限り、上記対象突条部についての(或いは上記対象突条部に対する)各部を指す。
【0036】
図3に示すように、周壁部31の内周面32は、円筒状外周面部21に軸方向全域で沿う形状(すなわち円筒状)の円筒状内周面部33と、円筒状内周面部33に対して径方向外側に膨出して突条部12の外周面(突条外周面部25)を収容する形状の膨出内周面部34とを有している。そして、ステータコア10は、すき間ばめにより内周面32(具体的には円筒状内周面部33)に対して微小な隙間をあけて内嵌した状態で固定されている。本例では、3つある突条部12のそれぞれに対応して合計3つの膨出内周面部34が形成されており、それ以外の部分は円筒状内周面部33とされている。そして、円筒状内周面部33と円筒状外周面部21とは、径方向Rに所定距離だけ互いに離間して配置されており、これにより、円筒状内周面部33と円筒状外周面部21とが対向する円筒状隙間70(図4参照)が周方向Cに沿って形成されている。
【0037】
上記対象突条部について詳しく見ると、図4に示すように、膨出内周面部34は、突条外周面部25に対して径方向外側に位置するとともに、当該突条外周面部25に対して周方向上側へ延び、周方向上側の端部が、接触端面11における円筒上方外周面部22の最上部22aを超える周方向位置に位置するように形成されている。そして、この膨出内周面部34を周方向Cの両側から挟むように、円筒上方外周面部22に軸方向全域で沿う形状の円筒状内周面部33と、円筒下方外周面部23に軸方向全域で沿う形状の円筒状内周面部33とが形成されている。
【0038】
図1及び図5に示すように、円筒上方外周面部22と突条外周面部25との境界部40は、ステータコア10の軸方向全域で軸方向Lに延びるように形成されている。これにより、当該境界部40に形成される凹部41も、ステータコア10の軸方向全域で軸方向Lに延びるように形成される。そして、この凹部41の軸第一方向L1側の端部(すなわち、凹部41の軸方向Lに沿って下方へ向かう側の端部)を区画する堰部42が、ステータコア10の接触端面11に接するように設けられている。
【0039】
上述したように、本実施形態では堰部42はケース30に設けられた座面35により形成されている。そして、この座面35は、図4に示すように、接触端面11における突条外周面部25の最上部25aより上方まで延びるように形成されている。これにより、凹部41の軸第一方向L1側の端部において、接触端面11における突条外周面部25の最上部25aより上方まで延びる堰部42が形成される。
【0040】
本実施形態では、更に、堰部42を形成する座面35は、突条外周面部25に対して周方向上側へ延び、周方向上側の端部35aが、接触端面11における円筒上方外周面部22の高さが接触端面11における突条外周面部25の最上部25aと等しくなる周方向位置に位置するように形成されている。更に、本実施形態では、座面35は、ステータコア外周面20と周壁部31の内周面32との径方向Rの間の全域に連続して形成されており、座面35が形成された周方向位置においては、膨出内周面部34とステータコア外周面20とにより形成される空間が、接触端面11において軸第一方向L1側から閉塞される。これにより、冷媒供給部50から凹部41に供給された冷媒は、堰部42によって堰き止められることで凹部41から軸第一方向L1側へ流出することが抑制され、結果、供給された冷媒を凹部41に効率的に捕集(貯留)することが可能となっている。
【0041】
図4に示すように、凹部41における冷媒の液面高さ(液面レベル)が、突条外周面部25の接触端面11における最上部25aと同一となった後は、新たに凹部41に供給される冷媒の量に応じた量の冷媒が、突条外周面部25の最上部25aを超えて突条外周面部25に対して周方向下側に溢れ出し、円筒下方外周面部23における軸第一方向L1側部分に供給される。なお、本実施形態では、堰部42を形成する座面35の周方向上側の端部35aの周方向位置が上記のように設定されているため、膨出内周面部34と円筒上方外周面部22との間に形成される空間は、座面35の周方向上側の端部35aに対して周方向上側においては軸第一方向L1側に開口した空間となっている。これにより、凹部41から溢れ出る冷媒の一部を、上記開口を介して軸第一方向L1側のコイルエンド部4に供給することも可能となっている。
【0042】
円筒下方外周面部23の軸第一方向L1側部分に供給された冷媒は、当該円筒下方外周面部23と円筒状内周面部33とが対向する円筒状隙間70に導入され、ステータコア外周面20に沿って周方向下側に流れる際に行われる冷媒とステータコア10との間の熱交換により、ステータコア10が冷却される。本実施形態では、このようなステータコア10の冷却を、軸第一方向L1側端部のみではなく軸方向Lの広い領域で実現すべく、以下のような構成を採用している。
【0043】
すなわち、図4に示すように、円筒状隙間70の離間距離である第一離間距離D1を、膨出内周面部34と突条外周面部25とが対向する部分における離間距離である第二離間距離D2よりも小さく設定している。これにより、円筒状隙間70は、周方向下側に流れる冷媒の単位時間当たりの流量を所定値(以下、「許容流量」という。)以下に制限する絞り部として機能する。なお、第一離間距離D1は、本例では、円筒下方外周面部23の外径と円筒状内周面部33の内径との差とされる。また、第二離間距離D2は、本例では、接触端面11における膨出内周面部34と突条外周面部25との最小離間距離とされる。
【0044】
更に、本実施形態では、堰部42を形成する座面35は、突条外周面部25に対して周方向下側へ延び、周方向下側の端部が、膨出内周面部34と円筒状内周面部33との境界部(円筒状隙間70の周方向上側の端部)と同じ周方向位置に位置するように形成されている。これにより、突条外周面部25の最上部25aを超えて円筒下方外周面部23に供給された冷媒が、円筒状隙間70に対して周方向上側において、接触端面11に対して軸第一方向L1側へ流出することが抑制される。
【0045】
以上のような構成を備えることで、突条外周面部25の最上部25aを超えて突条外周面部25に対して周方向下側に溢れ出す冷媒の量が上記許容流量を超える状態では、図5に示すように、許容流量を超える冷媒を軸第二方向L2側に位置する円筒状隙間70の部分に順次供給することが可能となっている。この結果、冷媒とステータコア10との間の熱交換が、軸第一方向L1側端部のみではなく軸方向Lの広い領域で実現される。
【0046】
なお、本実施形態では、突条外周面部25を超えて当該突条外周面部25に対して周方向下側に供給される冷媒量が、絞り部として機能する円筒状隙間70によって規制されるのを抑制し、また、許容流量を超える冷媒の軸第二方向L2側に位置する円筒状隙間70の部分への円滑な供給を確保すべく、円筒状隙間70より突条外周面部25側における円筒下方外周面部23と膨出内周面部34とが対向する部分に、軸方向Lに延びる膨出対向空間60を設けている。この膨出対向空間60は、図4に示すように、円筒下方外周面部23と膨出内周面部34との離間距離である第三離間距離D3が、軸方向全域で第一離間距離D1よりも大きく設定され、本例では、第三離間距離D3は第二離間距離D2よりも大きく設定されている。そして、膨出対向空間60は、軸方向全域にわたって円筒状隙間70に連通するように形成されている。なお、第三離間距離D3は、本例では、円筒下方外周面部23と膨出内周面部34との径方向Rに沿った離間距離とされる。
【0047】
ところで、本実施形態では、図1及び図2に示すように、冷媒供給部50は堰部42に対して軸第二方向L2側であって、本例では更に、ステータコア10の軸第二方向L2側端面よりも軸第二方向L2側に配置されている。また、冷媒供給部50は、ステータコア10の軸第二方向L2側端面の最上部よりも上方に配置されている。そして、冷媒供給部50は軸第一方向L1側に開口する吐出孔51を備え、当該吐出孔51から吐出された冷媒が、直接或いはケース30の内周面32やステータコア外周面20を伝って、凹部41に供給されるように構成されている。なお、冷媒供給部50には、例えば機械式ポンプや電動オイルポンプ等から冷媒が圧送される構成とすることができる。
【0048】
本実施形態では、吐出孔51を、接触端面11におけるステータコア外周面20(円筒状外周面部21)の最上部と同じ周方向Cの位置に備えるとともに、吐出孔51の開口方向を軸方向Lに平行な方向としている。これにより、吐出孔51から吐出された冷媒の一部を、図1、図3、図4に示すように、接触端面11におけるステータコア外周面20の最上部に対して周方向Cにおける対象突条部とは反対側の円筒状隙間70にも供給することができ、周方向Cにおける対象突条部とは反対側のステータコア外周面20を冷却することも可能となっている。また、膨出内周面部34と円筒上方外周面部22との間に形成される空間は、座面35の周方向上側の端部35aに対して周方向上側においては軸第一方向L1側に開口した空間となっているため、吐出孔51から吐出された冷媒の一部を軸第一方向L1側のコイルエンド部4に供給し、当該コイルエンド部4の冷却を行うことも可能となっている。
【0049】
なお、本発明においては、突条外周面部25の接触端面11における最上部25aと、接触端面11とは軸方向Lにおける反対側(すなわち、軸第二方向L2側)のステータコア10の端面における境界部40の高さとの間の上下方向(高さ方向)の位置関係は任意である。本実施形態では、前者が後者よりも上方に位置するように設定されているが、前者と後者とを同じ高さに設定したり、前者を後者よりも下方に位置するように設定しても好適である。
【0050】
3.その他の実施形態
最後に、本発明に係る回転電機の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0051】
(1)上記の実施形態では、接触端面11において、対象とする突条外周面部25の最上部25aが、円筒上方外周面部22の最上部22aより下方に位置する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、対象とする突条外周面部25の最上部25aが、円筒上方外周面部22の最上部22aと同じ高さに位置するように、ステータコア10がケース30に対して固定された構成とすることも可能である。
【0052】
(2)上記の実施形態では、座面35の周方向上側の端部35aが、接触端面11における円筒上方外周面部22の高さが接触端面11における突条外周面部25の最上部25aと等しくなる周方向位置(以下、「特定周方向位置」という。)に位置するように形成されている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、座面35の周方向上側の端部35aが、上記特定周方向位置よりも周方向上側に位置する構成とすることもできる。この場合、例えば、膨出内周面部34とステータコア外周面20とにより形成される空間が、接触端面11において軸第一方向L1側から周方向C及び径方向Rの全域で座面35により閉塞される構成とすることもできる。
【0053】
(3)上記の実施形態では、座面35の周方向下側の端部が、膨出内周面部34と円筒状内周面部33との境界部(円筒状隙間70の周方向上側の端部)と同じ周方向位置に位置するように形成されている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、座面35の周方向下側の端部が、円筒状隙間70の周方向上側の端部よりも周方向下側に位置する構成とすることもできる。
【0054】
(4)上記の実施形態では、座面35により堰部42が形成されている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、堰部42を形成するための専用の部材を用い、当該専用の部材が、ステータコア10の接触端面11に当接した状態でケース30に対して固定される構成とすることも可能である。この場合、堰部42を形成する部材が、締結ボルト15によりステータコア10と共にケース30に対して固定される構成としても良く、或いは、締結ボルト15とは別の固定機構によりケース30内に固定される構成としても良い。
【0055】
(5)上記の実施形態では、円筒状隙間70より突条外周面部25側における円筒下方外周面部23と膨出内周面部34とが対向する部分に、軸方向Lに延びる膨出対向空間60が設けられた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、円筒下方外周面部23の周方向上側端部と、膨出内周面部34の周方向下側端部とが同じ周方向位置に形成され、突条外周面部25と膨出内周面部34とが対向して形成される空間が、直接、円筒状隙間70に連通する構成とすることも可能である。
【0056】
(6)上記の実施形態では、冷媒供給部50が、ステータコア10の軸第二方向L2側端面よりも軸第二方向L2側に配置された構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、冷媒供給部50が、堰部42とステータコア10の軸第二方向L2側端面との軸方向Lにおける間に設けられた構成とすることも可能である。この場合、上記実施形態とは異なり、冷媒供給部50を、軸第一方向L1側ではなく、下方に向けて冷媒を吐出するように構成しても良い。
【0057】
(7)上記の実施形態では、ステータコア10及びロータ2が備えるロータコアの双方が、円環板状の磁性体板を軸方向Lに複数積層してなる積層構造体である構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、ステータコア10及びロータコアの少なくとも一方が、磁性材料の粉体である磁性粉体を加圧成形してなる圧粉材を主な構成要素として形成された構成とすることもできる。
【0058】
(8)上記の実施形態では、ケース30が、軸第一方向L1側が車両後方B側となる向きで回転電機1を車両に搭載するための車載用取付部16を備えた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、鉛直方向視で軸第一方向L1と車両後方Bへ向かう方向とが所定の交差角(例えば90度や180度等)で交差する向きで回転電機1を車両に搭載するための車載用取付部16が、ケース30に設けられた構成とすることもできる。また、ケース30が、車両以外の装置や機器に回転電機1を搭載するための取付部を備えた構成とすることもできる。
【0059】
(9)上記の実施形態では、回転電機1がラジアル型の回転電機とされた構成を例として説明したが、本発明をアキシャル型の回転電機に適用することも可能である。この場合、ロータがステータに対して軸方向に並べて配置される構成となる。また、上記の実施形態では、回転電機1が回転界磁型の回転電機とされた構成を例として説明したが、本発明を回転電機子型の回転電機に適用することも可能である。
【0060】
(10)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載されていない構成に関しては、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、軸心が水平方向に対して傾斜して配置されるステータコアを備え、ステータコアの外周面であるステータコア外周面が、ステータコアの軸心を基準とする円筒状の仮想基準面に軸方向全域で沿う形状の円筒状外周面部と、仮想基準面に対して軸方向全域で径方向外側に突出する形状の突条外周面部とを有する回転電機に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1:回転電機
10:ステータコア
11:接触端面
12:突条部(固定用突条部)
13:挿通孔(締結部)
20:ステータコア外周面
21:円筒状外周面部
22:円筒上方外周面部
22a:最上部
23:円筒下方外周面部
25:突条外周面部
25a:最上部
30:ケース
31:周壁部
32:内周面
33:円筒状内周面部
34:膨出内周面部
35:座面
40:境界部
41:凹部
42:堰部
50:冷媒供給部
60:膨出対向空間
70:円筒状隙間
100:仮想基準面
A:軸心
B:車両後方
C:周方向
D1:第一離間距離(離間距離)
D2:第二離間距離(離間距離)
D3:第三離間距離(離間距離)
H:水平方向
L:軸方向
L1:軸第一方向
L2:軸第二方向
R:径方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心が水平方向に対して傾斜して配置されるステータコアを備え、前記ステータコアの外周面であるステータコア外周面が、前記軸心を基準とする円筒状の仮想基準面に軸方向全域で沿う形状の円筒状外周面部と、前記仮想基準面に対して軸方向全域で径方向外側に突出する形状の突条外周面部とを有する回転電機であって、
前記ステータコアの軸方向に沿って下方へ向かう側である軸第一方向側の前記ステータコアの端面に接するように設けられた堰部を備え、
前記円筒状外周面部は、前記突条外周面部に対して周方向に沿って上方へ向かう側に形成された円筒上方外周面部を有し、
前記円筒上方外周面部と前記突条外周面部とは、軸方向全域で軸方向に延びる境界部を有し、
前記ステータコアの前記堰部に接する端面である接触端面において、前記突条外周面部の最上部が、前記円筒上方外周面部の最上部と同じ高さ又はそれより下方に位置すると共に前記境界部より上方に位置し、
前記堰部が、前記境界部に形成されて軸方向に延びる凹部の前記軸第一方向側端部を区画すると共に、前記接触端面における前記突条外周面部の最上部より上方まで延びている回転電機。
【請求項2】
前記ステータコアを収容するケースを備え、
前記ケースは、前記ステータコア外周面を覆う周壁部を有し、
前記円筒状外周面部は、前記突条外周面部に対して周方向に沿って下方へ向かう側に形成された円筒下方外周面部を有し、
前記周壁部の内周面は、前記円筒下方外周面部に軸方向全域で沿う形状の円筒状内周面部と、前記円筒状内周面部に対して径方向外側に膨出して前記突条外周面部を収容する形状の膨出内周面部とを有し、
前記円筒状内周面部と前記円筒下方外周面部とが対向する円筒状隙間の離間距離が、前記膨出内周面部と前記突条外周面部とが対向する部分における離間距離よりも小さく設定されている請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記円筒状隙間より前記突条外周面部側における前記円筒下方外周面部と前記膨出内周面部とが対向する部分に、膨出対向空間が形成され、
前記膨出対向空間は、軸方向全域にわたって前記円筒状隙間に連通するように形成されている請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記ステータコアを収容するケースを備え、
前記突条外周面部は、前記ステータコアを前記ケースに固定するための締結部が設けられた固定用突条部の外周面により形成され、
前記ケースは、前記ステータコアを固定した状態で前記固定用突条部の前記軸第一方向側の端面に当接する座面を備え、
前記座面により、前記堰部が形成されている請求項1から3のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項5】
前記ステータコアを収容するケースを備え、
前記ケースは、前記軸第一方向側が車両後方側となる向きで車両に搭載するための車載用取付部を備える請求項1から4のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項6】
前記凹部に冷媒を供給する冷媒供給部が、前記堰部に対して前記軸第一方向とは反対側である軸第二方向側に配置されていると共に、前記軸第一方向側に向けて冷媒を吐出するように設けられている請求項1から5のいずれか一項に記載の回転電機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−17334(P2013−17334A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149412(P2011−149412)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】