説明

回転電機

【課題】体格を小型化すると共に、バックヨークの磁気抵抗を変化させることが可能な回転電機を提供する。
【解決手段】ステータ20は、バックヨーク21及びこのバックヨーク21から径内方向へ延びるティース22を有する。ティース22に巻回されるコイル30は、通電により回転磁界を励磁する。ステータ20に対して回転可能に設けられたロータ40は、永久磁石43を有する。移動体50は、バックヨーク21に設けられた収容穴24に収容され、バックヨーク21の周方向に対し交差する方向に拡がる空隙を形成可能である。駆動部は、移動体50を移動することで、ロータ40の高速回転時に空隙を大きくし、ロータ40の低速回転時に空隙を小さくする。これにより、移動体50は、ステータ20から外側へ大きく移動することなく、バックヨーク21の磁気抵抗を変えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コイルの巻回されたティースを有するステータと、そのステータの径内側に回転可能に設けられ周方向に異種の磁極が着磁された永久磁石を有するロータとを備えた回転電機が知られている。この回転電機を電動機として使用する場合、ステータの励磁する回転磁界の極と、ロータの有する永久磁石との吸引力および反発力によるマグネットトルクが生じる。
しかし、電動機は、ロータの高速回転時に、永久磁石からステータへ流れる磁束により生じる誘起電圧が、コイルに供給される電力の妨げとなる。
このため、電動機は、ロータの高速回転時に、「弱め界磁制御」によりコイルに電流を供給することで、永久磁石からステータへ流れる磁束を低減し、誘起電圧を抑制している。この「弱め界磁制御」に使用される電力により、電動機の効率(電動機の出力/コイルに供給される電力)が低下することが懸念される。
【0003】
特許文献1に記載の発電機は、ロータに対してステータの一部を軸方向に移動するガバナ機構を備えている。発電機は、ロータの高速回転時にガバナ機構によってステータの一部を移動することで、発電出力が過大となることを抑制している。
一方、特許文献2に記載の電動機は、ティースの内側に設けられた案内溝に移動体(特許文献2では「ステータコア移動部6b」)を収容している。電動機は、ロータの高速回転時に移動体を径外方向に移動し、ティースの内側に空隙を形成することで、ティースの磁気抵抗を大きくし、誘起電圧を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−107718号公報
【特許文献2】特開2004−166369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ハイブリッドカーの動力源として回転電機を用いる場合、エンジンルーム内に回転電機を搭載するスペースが限られている。このため、回転電機は、効率の向上と共に、その体格の小型化が望まれる。
特許文献1の発電機は、ステータの一部を軸方向に移動しているので、発電機の軸方向の体格が大きくなる。
また、特許文献1の発電機は、ステータの一部を軸方向に移動したとき、ステータと移動後のステータの一部とが径方向に重なる箇所に磁束が集中する。このため、鉄損が大きくなり、発電機の効率が低下するおそれがある。
【0006】
特許文献2の電動機は、ティースの内側の案内溝に移動体を収容しているので、ティースの幅が大きくなる。このため、電動機の体格が大きくなることが懸念される。
また、特許文献2の電動機は、移動体を径外方向へ移動したとき、移動体が抜け出した案内溝の外側に位置するティースに磁束が集中する。このため、鉄損が大きくなり、電動機の効率が低下するおそれがある。
さらに、電動機のコイルを分布巻にした場合、ティースの数が多くなり、その幅も狭くなる。この場合、特許文献2の電動機の構成では、ティースに案内溝を形成し、そこに移動体を収容することが困難になる。なお、特許文献2の図13に示されるように、ティース自体を移動すると、ロータとティースとが接触するおそれがある。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、体格を小型化すると共に、バックヨークの磁気抵抗を変化させることが可能な回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明によると、回転電機は、ハウジング、ステータ、コイル、ロータ、移動体および駆動部を備える。
ステータは、ハウジングの内壁に固定されたバックヨーク、および、このバックヨークから径内方向へ延びるティースを有する。ティースに巻回されるコイルは、通電により回転磁界を励磁する。
そのステータに対して回転可能に設けられるロータは、回転方向に異種の磁極が着磁された永久磁石を有する。
移動体は、バックヨークに設けられた収容穴に収容され、バックヨークの周方向に対し交差する方向に拡がる空隙を形成可能である。
駆動部は、移動体を移動することで、ロータの高速回転時に空隙を大きくし、ロータの低速回転時に空隙を小さくする。
【0008】
移動体は、バックヨークの収容穴に対応した大きさで形成される。このため、移動体がステータの外側へ大きく突出することが抑制される。したがって、回転電機の体格を小型化することができる。
また、回転電機は、バックヨークに少なくとも1個の移動体を備えていれば、効率を高めることが可能である。そのため、ティースの個数が多い分布巻においても、1ティースに1個の移動体を備えることなく、ステータの磁気抵抗を容易に変化させることができる。
さらに、回転電機は、ティースを移動することがないので、ロータとステータとが接触するおそれを回避することができる。
ロータの高速回転時、駆動部が移動体を移動し、空隙を大きくすると、バックヨークの磁気抵抗が大きくなる。このため、永久磁石からバックヨークを流れる磁束が低減することで、誘起電圧が抑制される。これにより、回転電機に弱め界磁制御を行う場合、その制御に用いる電流を低減することが可能になる。したがって、回転電機の効率を高めることができる。
ロータの低速回転時、駆動部が移動体を移動し、空隙を小さくすると、バックヨークの磁気抵抗が小さくなる。このため、永久磁石からバックヨークを流れる磁束が増加することで、最大トルクを増加することができる。
なお、移動体の移動により空隙を大きくするロータの高速回転時、または、移動体の移動により空隙を小さくする低速回転時とは、回転電機の構成および使用態様に基づき実験等により設定される。
【0009】
請求項2に係る発明によると、移動体は、バックヨークの径外側よりも径内側が小さい楔状である。
移動体は、ロータの低速回転時、バックヨークの収容穴の内壁と当接することで空隙を最小とする。一方、移動体は、ロータの高速回転時、バックヨークの径外方向へ移動することで、空隙をバックヨークの周方向へ大きくする。
移動体が収容穴の内壁と当接した状態から径外方向へ僅かに移動すると、バックヨークの周方向に対し交差する方向に拡がる空隙が形成される。移動体が径外方向へさらに移動すると、空隙がバックヨークの周方向へ大きくなる。これにより、移動体の少ない移動量で、バックヨークの磁気抵抗の増加量を大きくすることができる。したがって、回転電機の体格を小型化すると共に、高速回転時に永久磁石から流れる磁束を低減することができる。
【0010】
請求項3に係る発明によると、ハウジングは、バックヨークを固定する内壁と、移動体の外側に位置する箇所で内壁から径外方向へ凹みまたは穴が開き、移動体がバックヨークから径外方向へ移動することを可能にする逃がし部とを有する。
これにより、ハウジングの外郭を大きくすることなく、バックヨークを固定し、かつ、移動体をバックヨークに設けることが可能になる。
【0011】
請求項4に係る発明によると、移動体は、バックヨークの周方向に対して軸が交差して設けられた回転体であり、その軸に平行な平坦状または湾曲状の溝を有する。
移動体は、ロータの低速回転時、バックヨークの周方向に対して溝を略平行にすることでバックヨークの周方向に対し交差する方向に空隙を最小とする。一方、移動体は、ロータの高速回転時、バックヨークの周方向に対して溝が交差するように回転することで、バックヨークの周方向に対し交差する方向に空隙を大きくする。
移動体は、収容穴内で回転することで、バックヨークの周方向に対し交差する方向に空隙の大きさを変えることが可能である。このため、ステータの体格を変えることなく、バックヨークの磁気抵抗を増加または減少することができる。
【0012】
請求項5に係る発明によると、移動体の溝は、移動体の軸を含む平坦状に形成される。
これにより、移動体の回転により、バックヨークの周方向に対し交差する方向に空隙を大きく変化させることができる。
【0013】
請求項6に係る発明によると、移動体の溝は、移動体の径外方向の外壁から径内方向に凹み、移動体の外壁に所定角度範囲で湾曲状に形成される。
これにより、移動体の外壁に溝を容易に形成することができる。
【0014】
請求項7に係る発明によると、バックヨークは、移動体を挟んで周方向の一方と他方とが接続している。
これにより、ステータが分割されないので、ハウジングの内壁にバックヨークを容易に固定することができる。
【0015】
請求項8に係る発明によると、移動体または収容穴は、ティースから周方向に離れた位置で、バックヨークの径方向の一方の側から他方の側に亘り設けられる。
これにより、バックヨークの周方向に対し交差する方向に拡がる空隙を、バックヨークの径方向の一方の側から他方の側に亘り形成することが可能になる。このため、バックヨークに磁束が集中する箇所が形成されないので、鉄損が生じることが抑制される。したがって、回転電機の効率を高めることができる。
【0016】
請求項9に係る発明によると、移動体は、圧粉磁心または積層鋼板から形成される。
これにより、移動体を圧粉磁心から形成した場合、移動体の軸の向きに関わらず、移動体を流れる磁束による渦電流損失を低減することができる。
また、移動体を積層鋼板から形成した場合、移動体の軸をロータの軸と平行に向けて移動体を設けたとき、移動体を流れる磁束による渦電流損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態による回転電機の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による回転電機が用いられるハイブリッドカーの動力源の構成図である。
【図3】本発明の第1実施形態による回転電機の移動体の拡大図である。
【図4】本発明の第1実施形態による回転電機の駆動部の要部拡大図である。
【図5】本発明の第1実施形態による回転電機に流れる鎖交磁束の説明図である。
【図6】本発明の第1実施形態による回転電機の特性図である。
【図7】本発明の第2実施形態による回転電機の断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態による回転電機に流れる鎖交磁束の説明図である。
【図9】本発明の第3実施形態による回転電機の斜視図である。
【図10】本発明の第3実施形態による回転電機の移動体の拡大図である。
【図11】本発明の第3実施形態による回転電機に流れる鎖交磁束の説明図である。
【図12】本発明の第4実施形態による回転電機の断面図である。
【図13】本発明の第4実施形態による回転電機の移動体の拡大図である。
【図14】本発明の第4実施形態による回転電機に流れる鎖交磁束の説明図である。
【図15】本発明の第5実施形態による回転電機の断面図である。
【図16】本発明の第5実施形態による回転電機の移動体の拡大図である。
【図17】本発明の第5実施形態による回転電機の駆動部の要部拡大図である。
【図18】本発明の第5実施形態による回転電機に流れる鎖交磁束の説明図である。
【図19】本発明の第6実施形態による回転電機の断面図である。
【図20】本発明の第6実施形態による回転電機の移動体の拡大図である。
【図21】本発明の第6実施形態による回転電機に流れる鎖交磁束の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による回転電機を図1〜図6に示す。本実施形態の回転電機は、ハイブリッドカーの動力源として用いられるものである。図2に示すように、ハイブリッドカーは、その一例として、回転電機1のシャフトと、歯車機構2と、エンジン3のクランクシャフトとがほぼ同軸で設けられ、エンジンルーム内に搭載される。この場合、回転電機1は、軸方向の体格の小型化が望まれる。回転電機1の駆動力とエンジン3の駆動力とは、歯車機構2によって合成され、駆動輪へ出力される。
【0019】
図1に示すように、回転電機1は、ハウジング10、ステータ20、コイル30、ロータ40、移動体50および駆動部を備える。
ハウジング10は、非磁性材料または磁性材料から有底筒状に形成されている。ハウジング10は、径内方向の内壁11が略円筒状に形成される。ハウジング10は、移動体50の外側に位置する箇所に、内壁11から径外方向へ凹む逃がし部12を有している。なお、逃がし部12は、ハウジング10の径方向に穴を開けることで形成してもよい。
ステータ20は、磁性鋼板を積層して形成され、環状のバックヨーク21および複数のティース22を有する。バックヨーク21は、焼き嵌めなどによりハウジング10の内壁11に固定されている。バックヨーク21には、移動体50を収容する収容穴24が形成されている。収容穴24は、ティース22とティース22との周方向の中間に位置している。バックヨーク21は、収容穴24を挟んで周方向の一方と他方とが接続している。
ティース22は、バックヨーク21から径内方向へ延びている。ティース22とティース22との間に形成されるスロット23にコイル30が設けられる。コイル30は、ティース22に集中巻され、デルタ結線またはY結線されることで、U相、V相、W相を形成している。コイル30の各相に電流が供給されると、コイル30は回転磁界を励磁する。
【0020】
ロータ40は、シャフト41、ロータコア42および永久磁石43を有する。
シャフト41は、軸方向の両端が図示しない軸受によりハウジング10などに取り付けられている。このため、シャフト41は、ハウジング10に固定されたステータ20に対して回転可能に設けられる。
シャフト41の径外側にロータコア42が固定される。ロータコア42には、回転方向に異種の磁極が交互に着磁された永久磁石43が設けられている。
移動体50は、磁性体から成り、バックヨーク21の径外側よりも径内側が小さい楔状に形成されている。移動体50は、バックヨーク21の収容穴24に収容され、収容穴24から径外方向に移動可能である。
【0021】
図3に示すように、移動体50には、ステータ20の径方向に延びるガイド56が設けられている。このガイド56は、ハウジング10に設けられた図示しない溝に案内される。また、移動体50には、孔57が設けられる。図4に示すように、移動体50の孔57には、ラック64から延びるピン65が挿し込まれる。
回転電機1には、移動体50を移動する駆動部60が設けられる。駆動部60は、アクチュエータ61、内歯車62、ピニオンギヤ63およびラック64などから構成される。
モータまたは油圧ポンプなどから構成されたアクチュエータ61が駆動歯車66を回転すると、ステータ20の軸方向に環状に設けられた内歯車62が回転する。その内歯車62によってピニオンギヤ63が回転し、このピニオンギヤ63の回転によってラック64が径方向に移動する。このため、移動体50は径外方向または径内方向に移動する。
なお、ピニオンギヤ63およびラック64は、各移動体50にそれぞれ1個づつ設けられている。このため、アクチュエータ61の回転によって全ての移動体50が同時に移動する。
【0022】
次に、回転電機1の動作について図5を参照して説明する。
図5(A)に示すように、ロータ40の低速回転時、移動体50は、バックヨーク21の収容穴24の内壁に当接している。このとき、バックヨーク21に形成される空隙は最小、つまり、ほぼ0(mm)である。このため、実線Aに示すように、ロータ40の永久磁石43からティース22を経由してバックヨーク21を磁束が十分に流れる。
一方、図5(B)に示すように、ロータ40の高速回転時、移動体50は、バックヨーク21の収容穴24から径外方向へ移動する。このとき、収容穴24の内壁と移動体50との間には、バックヨーク21の周方向に対して交差する方向に拡がる空隙70が形成される。さらに、移動体50が径外方向へ移動すると、空隙70がバックヨーク21の周方向へ大きくなる。これにより、バックヨーク21の磁気抵抗が大きくなる。このため、破線Bに示すように、永久磁石43からバックヨーク21を流れる磁束が低減する。
【0023】
続いて回転電機1の特性を図6を参照して説明する。
図6(A)では、移動体50をバックヨーク21の収容穴24に収容した状態のN−T特性を実線αに示す。移動体50をバックヨーク21の収容穴24から径外方向へ移動した状態のN−T特性を破線βに示す。
回転数が0〜γのとき、実線αのトルクが大きい。これは、永久磁石43からティース22を経由してバックヨーク21を磁束が流れることで、コイル30の励磁する回転磁界の極と永久磁石43との吸引力および反発力によるマグネットトルクが大きくなるからである。
一方、回転数がγよりも高いとき破線βのほうが出力が大きい。これは移動体の移動により鎖交磁束が減少すると同時にインダクタンスも低下するためである。
【0024】
図6(A)の条件δ(回転数10000、トルクε)における回転電機1の効率を図6(B)に示す。
条件δのとき、移動体50を収容穴24に収容した状態(移動前)では、回転電機1の効率は92%よりも僅かに小さい値である。一方、条件δのとき、移動体50を径外方向へ移動した状態(移動後)では、回転電機1の効率は94%よりも僅かに小さい値である。したがって、条件δのとき、移動体50の移動により空隙70を大きくすると、回転電機1の効率が約2%向上する。これは、永久磁石43からバックヨーク21を流れる磁束が低減し誘起電圧が抑制されることで、弱め界磁に必要な電力、つまりトルクに寄与しない電力が低減したためである。これにより、回転電機1の電動機としての効率(電動機の出力/コイルに供給される電力)が向上する。なお、電動機の出力=回転数×トルク である。
【0025】
第1実施形態では、以下の作用効果を奏する。
(1)移動体50は、バックヨーク21の径方向の板厚の範囲内で楔状に形成される。そのため、移動体50は、少ない移動量で、バックヨーク21に空隙70を形成し、バックヨーク21の磁気抵抗を増加することができる。したがって、回転電機1の体格を小型化すると共に、高速回転時に永久磁石43から流れる磁束を低減することができる。
(2)バックヨーク21は、収容穴24を挟んで周方向の一方と他方とが接続している。これにより、ステータ20が分割されることがないので、ハウジング10の内壁11にステータ20を容易に固定することができる。
(3)回転電機1は、移動体50のみを動かすことで、バックヨーク21に空隙70を形成することが可能である。このため、ティース22を移動しないので、ロータ40とステータ20とが接触するおそれを回避することができる。
【0026】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図7および図8に示す。以下、複数の実施形態において上述した第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
第2実施形態では、バックヨーク21に形成される収容穴25が、ティース22から周方向に離れた位置で、バックヨーク21の径方向の一方の側から他方の側に亘り形成されている。バックヨーク21は、収容穴25によって周方向に分割されている。
移動体51は、バックヨーク21の径方向の一方の側から他方の側に亘って設けられ、バックヨーク21の収容穴25に収容されている。
【0027】
図8(A)に示すように、ロータ40の低速回転時、移動体51は、バックヨーク21の収容穴25の内壁に当接している。このとき、バックヨーク21に形成される空隙は最小である。このため、実線Aに示すように、永久磁石43からティース22を経由してバックヨーク21を磁束が流れる。
一方、図8(B)に示すように、ロータ40の高速回転時、移動体51は、バックヨーク21の収容穴25から径外方向へ移動する。このとき、収容穴25の内壁と移動体51との間には、バックヨーク21の径方向の一方の側から他方の側に亘り空隙70が形成される。これにより、バックヨーク21の磁気抵抗が大きくなる。このため、破線Bに示すように、永久磁石43からバックヨーク21を流れる磁束が低減する。
第2実施形態では、バックヨーク21が分割されているので、移動体51が径外方向に移動したとき、バックヨーク21に磁束が集中する箇所が形成されることなく、鉄損が生じることが抑制される。したがって、移動体51の少ない移動量でステータ20の磁気抵抗を大きく変化させ、回転電機の効率を高めることができる。
【0028】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態を図9〜図11に示す。なお、図9では、ハウジング10、コイル30およびロータ40などを省略して図示している。第3実施形態では、バックヨーク21に形成される収容穴26が、円筒状に形成されている。収容穴26の軸は、ロータ40の径方向に設けられている。
移動体52は、圧粉磁心から円柱状に形成され、収容穴26に収容されている。移動体52の軸は、ロータ40の径方向に設けられている。なお、収容穴26の軸と移動体52の軸とは略同軸であり、バックヨーク21の周方向に対して交差して設けられていればよい。移動体52は、移動体52の軸を中心として回転可能である。
移動体52は、移動体52の軸を含み、移動体52の軸に平行な平坦状の溝59を有している。
また、移動体52は、バックヨーク21の径外方向に突出する可動ギヤ67を有している。
駆動部60は、可動ギヤ67、アクチュエータ61および環状の歯車68などから構成される。
アクチュエータ61が駆動歯車66を回転すると、ステータ20の径外側に設けられた環状の歯車68が回転する。環状の歯車68によって可動ギヤ67が回転し、移動体52は収容穴26の内側で回転する。
なお、図9では、バックヨーク21に1個の移動体52を記載しているが、移動体52は、バックヨーク21の周方向に複数個設けることが可能である。
【0029】
図11(A)に示すように、ロータ40の低速回転時、移動体52は、平坦状の溝59がバックヨーク21の周方向に対し平行に位置する。このとき、バックヨーク21の周方向に対し交差する方向に形成される空隙70は最小である。このため、実線Aに示すように、永久磁石43からティース22を経由してバックヨーク21を磁束が十分に流れる。
一方、図11(B)に示すように、ロータ40の高速回転時、移動体52は、平坦状の溝59がバックヨーク21の周方向に対して交差するように回転する。このとき、空隙70が、バックヨーク21の周方向に対し交差する方向に大きくなる。これにより、バックヨーク21の磁気抵抗が大きくなる。このため、破線Bに示すように、永久磁石43からバックヨーク21を流れる磁束が低減する。
【0030】
第3実施形態では、以下の作用効果を奏する。
(1)移動体52が収容穴26の内側で回転することで、ステータ20の体格を変えることなく、バックヨーク21の磁気抵抗を増加または減少することができる。したがって、回転電機の体格を小型化すると共に、高速回転時に永久磁石43から流れる磁束を低減することができる。
(2)移動体52の有する溝59は、移動体52の軸を含み、移動体52の軸に平行な平坦状に形成されるので、移動体52の回転により、バックヨーク21の周方向に対し交差する方向、または、バックヨーク21の周方向に対し平行な方向に、空隙70を大きく変化させることができる。
(3)移動体52は、圧粉磁心から形成されているので、移動体52の軸が設けられる方向に関わらず、移動体52を流れる磁束による渦電流損失を低減することができる。
【0031】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態を図12〜図14に示す。なお、図12では、ハウジング10などを省略して図示している。第4実施形態では、収容穴27は、ティース22から周方向に離れた位置、すなわち、スロット23の径方向外側で、バックヨーク21の径方向の一方の側から他方の側に亘り形成されている。収容穴27は、その軸が、ロータ40の軸と平行に設けられている。バックヨーク21は、収容穴27によって周方向に分割されている。
移動体53は、電磁鋼板から円柱状に形成され、収容穴27に収容されている。電磁鋼板は、移動体53の軸方向に積層されている。移動体53の軸は、ロータ40の軸と平行に設けられている。移動体53は、バックヨーク21の径方向の一方の側から他方の側に亘り設けられている。移動体53は、移動体53の軸を中心として回転可能である。
移動体53は、移動体53の軸を含み、移動体53の軸に平行な平坦状の溝59を有している。
【0032】
図14(A)に示すように、ロータ40の低速回転時、移動体53は、平坦状の溝59がロータ40の径方向に対して垂直に位置する。つまり、平坦状の溝59は、バックヨーク21の周方向に略平行に位置する。このとき、バックヨーク21に形成される空隙70は最小である。このため、実線Aに示すように、永久磁石43からティース22を経由してバックヨーク21を磁束が十分に流れる。
一方、図14(B)に示すように、ロータ40の高速回転時、移動体53は、平坦状の溝59がバックヨーク21の周方向に対して交差するように回転する。このとき、空隙70が、バックヨーク21の周方向に対し交差する方向に大きくなる。これにより、バックヨーク21の磁気抵抗が大きくなる。このため、破線Bに示すように、永久磁石43からバックヨーク21を流れる磁束が低減する。
【0033】
第4実施形態では、平坦状の溝59がステータ20の径方向に対して平行になるとき、バックヨーク21に磁束が集中する箇所が形成されない。これにより、鉄損が生じることが抑制される。したがって、回転電機の効率を高めることができる。
また、移動体53は、積層鋼板から形成されているので、移動体53を流れる磁束による渦電流損失を低減することができる。
【0034】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態を図15〜図18に示す。第5実施形態では、ティース22の径外方向に位置するバックヨーク21に収容穴28が設けられている。バックヨーク21は、収容穴28を挟んで周方向に接続している。
移動体54は、積層鋼板から円柱状に形成され、収容穴28に収容されている。移動体54は、移動体54の軸を中心として回転可能である。
移動体54の溝59は、移動体54の径外方向の外壁から径内方向に凹み、移動体54の外壁に所定角度範囲で湾曲状に形成される。
【0035】
図17に示すように、駆動部60は、アクチュエータ61、駆動歯車66、内歯車62および可動ギヤ67などから構成される。
アクチュエータ61が駆動歯車66を回転すると、ステータ20の軸方向に設けられた環状の内歯車62が回転する。移動体54は、ステータ20の軸方向に延びる可動ギヤ67を有している。内歯車62によって可動ギヤ67が回転し、移動体54は収容穴28の内側で回転する。可動ギヤ67は、全ての移動体54に設けられているので、アクチュエータ61の回転によって全ての移動体54が同時に回転する。
【0036】
図18(A)に示すように、ロータ40の低速回転時、移動体54は、湾曲状の溝59がロータ40の径方向外側に位置する。つまり、湾曲状の溝59は、バックヨーク21の周方向に略平行に位置する。このとき、バックヨーク21に形成される空隙70は最小である。このため、実線Aに示すように、永久磁石43からティース22を経由してバックヨーク21を磁束が十分に流れる。
一方、図18(B)に示すように、ロータ40の高速回転時、移動体54は、湾曲状の溝59がバックヨーク21の周方向に対して交差するように回転する。このとき、空隙70が、バックヨーク21の周方向に対し交差する方向に大きくなる。これにより、バックヨーク21の磁気抵抗が大きくなる。このため、破線Bに示すように、永久磁石43からバックヨーク21を流れる磁束が低減する。
【0037】
第5実施形態では、以下の作用効果を奏する。
(1)移動体54は、径方向の外壁に溝59が形成される。したがって、移動体54に溝59を容易に形成することができる。
(2)移動体54が収容穴28の内側で回転することで、ステータ20の体格を変えることなく、バックヨーク21の磁気抵抗を増加または減少することができる。
(3)バックヨーク21は、収容穴28を挟んで周方向の一方と他方とが接続している。これにより、ステータ20が分割されることがないので、ハウジング10の内壁11にステータ20を容易に固定することができる。
(4)移動体54は、積層鋼板から形成されているので、移動体54を流れる磁束による渦電流損失を低減することができる。
【0038】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態を図19〜図21に示す。第6実施形態では、収容穴29は、ティース22から周方向に離れた位置、すなわち、スロット23の径方向外側で、バックヨーク21の径方向の一方の側から他方の側に亘り形成されている。バックヨーク21は、収容穴29によって周方向に分割されている。
移動体55は、電磁鋼板から円柱状に形成され、収容穴29に収容されている。電磁鋼板は、移動体55の軸方向に積層されている。移動体55は、バックヨーク21の径方向の一方の側から他方の側に亘り設けられている。移動体55は、移動体55の軸を中心として回転可能である。
移動体55の溝59は、移動体55の径外方向の外壁から径内方向に凹み、移動体55の外壁に所定角度範囲で湾曲状に形成される。
【0039】
図21(A)に示すように、ロータ40の低速回転時、移動体55は、湾曲状の溝59がロータ40の径外側に位置する。つまり、湾曲状の溝59は、バックヨーク21の周方向に略平行に位置する。このとき、バックヨーク21に形成される空隙70は最小である。このため、実線Aに示すように、永久磁石43からティース22を経由してバックヨーク21を磁束が十分に流れる。
一方、図21(B)に示すように、ロータ40の高速回転時、移動体55は、湾曲状の溝59がバックヨーク21の周方向に対して交差するように回転する。このとき、空隙70が、バックヨーク21の周方向に対し交差する方向に大きくなる。これにより、バックヨーク21の磁気抵抗が大きくなる。このため、破線Bに示すように、永久磁石43からバックヨーク21を流れる磁束が低減する。
【0040】
第6実施形態では、湾曲状の溝59がバックヨーク21の周方向に対して交差するように移動体55が回転したとき、バックヨーク21に磁束が集中する箇所が形成されない。これにより、鉄損が生じることが抑制される。したがって、回転電機の効率を高めることができる。
また、移動体55は、積層鋼板から形成されているので、移動体55を流れる磁束による渦電流損失を低減することができる。
【0041】
(他の実施形態)
上述した複数の実施形態では、ハイブリッドカーの動力源として用いられる回転電機について説明した。これに対し、他の実施形態では、回転電機は、種々の用途に用いられる電動機または発電機に適用することが可能である。
上述した複数の実施形態では、各スロットの径方向外側、または、各ティースの径方向外側に移動体を設けた。これに対し、他の実施形態では、回転電機1は、バックヨークに少なくとも1個の移動体を備えることで、効率を高めることが可能である。
上述した複数の実施形態では、コイルを集中巻とした。これに対し、他の実施形態では、コイルを分布巻とした場合においても、スロットまたはティースの個数に関わりなく、移動体をバックヨークに設けることで、ステータの磁気抵抗を容易に変化させることができる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、上述した複数の実施形態を組み合わせることに加え、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ・・・回転電機
10 ・・・ハウジング
20 ・・・ステータ
21 ・・・バックヨーク
22 ・・・ティース
24〜29・・・収容穴
30 ・・・コイル
40 ・・・ロータ
43 ・・・永久磁石
50〜55・・・移動体
58、59・・・溝
60 ・・・駆動部
70 ・・・空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングの内壁に固定されたバックヨーク、および、このバックヨークから径内方向へ延びるティースを有するステータと、
前記ティースに巻回され、通電により回転磁界を励磁するコイルと、
前記ステータに対して回転可能に設けられ、回転方向に異種の磁極が着磁された永久磁石を有するロータと、
前記バックヨークに形成された収容穴に収容され、前記バックヨークの周方向に対し交差する方向に拡がる空隙を形成可能な移動体と、
前記移動体を移動することで、前記ロータの高速回転時に前記空隙を大きくし、前記ロータの低速回転時に前記空隙を小さくする駆動部と、を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記移動体は、前記バックヨークの径外側よりも径内側が小さい楔状であり、
前記ロータの低速回転時、前記バックヨークの前記収容穴の内壁と当接することで前記空隙を最小とし、
前記ロータの高速回転時、前記バックヨークの径外方向へ移動することで、前記空隙をバックヨークの周方向へ大きくすることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記ハウジングは、
前記バックヨークを固定する前記内壁と、
前記移動体の外側に位置する箇所で前記内壁から径外方向へ凹みまたは穴が開き、前記移動体が前記バックヨークから径外方向へ移動することを可能にする逃がし部と、を有することを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記移動体は、前記バックヨークの周方向に対して軸が交差して設けられた回転体であり、その軸に平行な平坦または湾曲状の溝を有し、
前記ロータの低速回転時、前記バックヨークの周方向に対して前記溝を略平行にすることで前記バックヨークの周方向に対し交差する方向に前記空隙を最小とし、
前記ロータの高速回転時、前記バックヨークの周方向に対して前記溝が交差するように回転することで、前記バックヨークの周方向に対し交差する方向に前記空隙を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項5】
前記移動体の前記溝は、前記移動体の軸を含む平坦状に形成されることを特徴とする請求項4に記載の回転電機。
【請求項6】
前記移動体の前記溝は、前記移動体の径外方向の外壁から径内方向に凹み、前記移動体の外壁に所定角度範囲で湾曲状に形成されることを特徴とする請求項4に記載の回転電機。
【請求項7】
前記バックヨークは、前記移動体を挟んで周方向の一方と他方とが接続していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項8】
前記移動体または前記収容穴は、前記ティースから周方向に離れた位置で、前記バックヨークの径方向の一方の側から他方の側に亘り設けられることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項9】
前記移動体は、圧粉磁心または積層鋼板から形成されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−46519(P2013−46519A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183708(P2011−183708)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】