説明

回転電機

【課題】高電圧及び高出力であっても高い冷却性と絶縁品質を確保し得るようにした回転電機を提供する。
【解決手段】回転電機1は、回転子14と、固定子コア30及び固定子巻線40を有する固定子20と、固定子巻線40に液体冷媒を供給して冷却する冷却装置と、を備える。固定子巻線40は、U字形状の複数の導体セグメント50を接続して形成されている。導体セグメント50は、コイルエンド部において他の導体セグメント50と交差する斜行部55と、斜行部55の先端に位置する先端部とを有する。固定子巻線40の軸方向一端側には、異なる導体セグメント50の前記先端部同士を接合してなる複数の接合部56を有する。接合部56は、多重円環状に配列されて絶縁樹脂60により被覆されていると共に、径方向にのみ絶縁樹脂60で連結され、周方向には絶縁樹脂60間に空隙Sを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両に搭載されて電動機や発電機として使用される回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において電動機や発電機として使用される回転電機として、回転子と、この回転子と対向配置された固定子コア及びこの固定子コアに巻装された固定子巻線を備える固定子と、を有するものが知られている。そして、特許文献1及び2には、固定子巻線として、固定子コアのスロットに収容されるスロット収容部と、前記スロットから軸方向に露出し、周方向に延び出すコイルエンド部とを持つ複数の導体セグメントにより形成されたセグメント型のものが開示されている。また、特許文献1及び2には、発熱部である固定子を冷却ファンにより空気冷却することが開示されている。
【0003】
そして、特許文献1には、騒音を低減すると共に冷却性能を向上させるために、多重円環状に配列した溶接部に塗布する絶縁樹脂材を径方向にブリッジさせ、周方向に不均一にブリッジさせることが開示されている。これにより、通風抵抗が周方向に対して不均一となるため、冷却風の通風抵抗を下げることができ、周期的な騒音を抑えることができる。また、特許文献2には、振動や音の発生を抑えるために、円環状に配列した溶接部に塗布する絶縁樹脂材を円環状に連結させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−204151号公報
【特許文献2】特開2000−060051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高出力を求められるモータ(電動機)においては、上記特許文献1及び2に開示されているような空気冷却ではなく、液体冷媒を固定子巻線に直接滴下する冷却方式が採用されている。この冷却方式の場合、滴下した液体冷媒が固定子巻線の表面上を径方向に流れ、その液体冷媒が熱を奪うことによって冷却を行う。このとき重要となるのは、液体冷媒が径方向によどみなく流れることであるが、上記のように周方向に絶縁樹脂材がブリッジされている場合には、絶縁樹脂材により液体冷媒の流れが妨げられてしまうという問題がある。
【0006】
また、高電圧及び高出力の回転電機の場合には、固定子巻線の発熱が大きくなる。特に、固定子巻線のコイルエンド部において、斜行部と斜行部とが交差したコイル密集部の温度が高くなるため、この交差した部分に塗布された絶縁樹脂材に対して、大きな温度変化による巻線の変形が繰り返されると、これに耐えられずに破損や亀裂が発生する。そして、この絶縁樹脂材の破損や亀裂が進展してゆき、巻線内部の導体が露出してしまう可能性がある。
【0007】
さらに、絶縁樹脂材として熱硬化性の粉体樹脂を採用した場合には、その粉体樹脂を付着させる際に空気の巻き込みが発生してしまうため、付着樹脂の内部に空隙が形成され易い。そのため、それらの空隙が繋がって導体間を繋ぐような空隙が形成されてしまうと、コイル間の沿面距離が短くなる。この現象が電位差の高い異なる位相のコイル間で発生すると放電の発生が懸念される。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高電圧及び高出力であっても高い冷却性と絶縁品質を確保し得るようにした回転電機を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、回転子と、前記回転子と対向配置された固定子コア及び前記固定子コアに巻装された固定子巻線を有する固定子と、前記固定子巻線に液体冷媒を供給して冷却する冷却装置と、を備えた回転電機において、前記固定子巻線は、前記固定子コアのスロットに収容されるスロット収容部と、前記スロットから軸方向に露出し周方向に延び出すコイルエンド部とを持つ複数の導体セグメントにより形成され、前記導体セグメントは、ターン部と、前記コイルエンド部において他の導体セグメントと交差する斜行部と、前記斜行部の先端の先端部とを有し、前記コイルエンド部は、略同一の軸方向高さで且つ円環状に略等ピッチで離間して配置され、他の導体セグメントの前記先端部を接合した複数の接合部を有し、前記接合部は、多重円環状に配列されて絶縁樹脂により被覆されていると共に、径方向に対してのみ前記絶縁樹脂で連結され、周方向には前記絶縁樹脂間に空隙を有することを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明においては、固定子巻線を形成する導体セグメントの先端部同士が接合された接合部は、多重円環状に配列されて絶縁樹脂により被覆されていると共に、径方向に対してのみ絶縁樹脂で連結され、周方向には絶縁樹脂間に空隙を有する。そのため、固定子巻線に対して、冷却装置により液体冷媒が供給された際に、その液体冷媒は、接合部を径方向にのみ連結している絶縁樹脂に妨害されることなく、絶縁樹脂を伝って径方向によどみなく流動することができる。これにより、固定子巻線の表面上を径方向に流動する液体冷媒によって、固定子巻線を効率よく確実に冷却することができる。
【0011】
また、発熱の大きい、コイルエンド部の斜行部と斜行部とが交差したコイル密集部に、絶縁樹脂を介することなく液体冷媒を直接接触させるようにすることができるため、更に効率よく固定子巻線を冷却することができる。さらに、回転子の回転によって液体冷媒を放射方向に散布するようにすれば、接合部を径方向にのみ連結している絶縁樹脂を伝って液体冷媒が流動するため、固定子巻線のコイルエンド全域を満遍なく冷却することができる。
【0012】
そして、固定子巻線が多相の場合には、異相間(周方向)の電位差が最も高くなることから、周方向に隣接した接合部をそれぞれ被覆する絶縁樹脂同士の間に空隙を設けることによって、より高い絶縁性を確保することができる。これにより、安全性の向上を図ることができる。したがって、請求項1に記載の発明によれば、高電圧及び高出力の回転電機であっても高い冷却性と絶縁品質を確保することができる。
【0013】
なお、本発明において用いられる絶縁樹脂の材料としては、例えばエポキシ、ポリエステル、ウレタン、シリコーン等を挙げることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記接合部を径方向に連結する前記絶縁樹脂は、周方向両側の側面及び軸方向先端側の面の少なくとも一方の面が径方向において凹凸状に形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、液体冷媒と接触する絶縁樹脂の表面積が増大し、接合部を効率よく冷却することができるため、冷却効率を更に高めることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記回転子は、軸方向厚みが前記固定子コアの軸方向厚みよりも厚くされており、前記回転子の軸方向端部が前記固定子巻線のコイルエンド部と径方向に対向する位置に配置されていることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、回転子に供給乃至は到達した液体冷媒を、回転子の回転に伴って回転子から固定子巻線のコイルエンド部に効率よく散布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る固定子の全体斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る固定子の部分的な斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る固定子の部分的な斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係る固定子の部分的な側面図である。
【図6】本発明の実施形態における導体セグメントの接合部近傍の状態を示す部分断面図である。
【図7】本発明の実施形態において固定子コアのスロットに導体セグメントを挿入する状態を示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る固定子の全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る回転電機の実施形態について図面を参照して具体的に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図である。本実施形態の回転電機1は、車両用モータとして用いられるものであって、図1に示すように、略有底筒状の一対のハウジング部材10a、10bが開口部同士で接合されてなるハウジング10と、ハウジング10に軸受け11、12を介して回転自在に支承される回転軸13に固定された回転子14と、ハウジング10内の回転子14を包囲する位置でハウジング10に固定された固定子20と、を備えている。
【0021】
また、この回転電機1には、固定子20の固定子巻線40に冷却用の液体冷媒を供給する一対の管路15、16を備えた冷媒供給手段が設けられている。管路15、16は、ハウジング10の内部と外部を連通するようにして、ハウジング部材10a、10bにそれぞれ貫通した状態で取り付けられている。各管路15、16の先端部には、液体冷媒を吐出する吐出口15a、16aが設けられている。吐出口15a、16aは、ハウジング10内に収容された固定子20の固定子巻線40の第1及び第2コイルエンド群47、48の鉛直上方に開口している。
【0022】
なお、この回転電機1には、吐出口15a、16aから吐出した液体冷媒を回収し冷媒供給手段に戻して循環させる回収手段(図示せず)や、加熱された液体冷媒を冷却する冷却器(図示せず)等が循環経路の途中に設けられており、これらの機器により固定子巻線40(固定子20)を冷却する冷却装置が構成されている。また、液体冷媒として、本実施形態ではATFを用いているが、従来の回転電機において使用される公知の液体冷媒を用いてもよい。
【0023】
回転子14は、固定子20の内周側と向き合う外周側に、周方向に所定距離を隔てて配置された複数の永久磁石を有し、これら永久磁石により周方向に極性が交互に異なる複数の磁極が形成されている。回転子14の磁極の数は、回転電機1の仕様により異なるため限定されるものではない。本実施形態では、8極(N極:4、S極:4)の回転子が用いられている。
【0024】
次に、固定子20について図2〜図7を参照して説明する。図2は、本実施形態に係る固定子の全体斜視図である。図3は、本実施形態に係る固定子の部分的な斜視図である。図4は、本実施形態に係る固定子の部分的な斜視図である。図5は、本実施形態に係る固定子の部分的な側面図である。図6は、本実施形態における導体セグメントの接合部近傍の状態を示す部分断面図である。図7は、本実施形態において固定子コアのスロットに導体セグメントを挿入する状態を示す説明図である。
【0025】
固定子20は、図2に示すように、周方向に複数のスロット31を有する円環状の固定子コア30と、スロット31に挿入配置された複数の導体セグメント50の端部同士が固定子コア30の軸方向一方側で接続されて固定子コア30に巻装された3相の固定子巻線40と、を備えている。即ち、本実施形態の固定子巻線40は、略U字形状の複数の導体セグメント50を溶接により所定の状態に接続して固定子コア30に巻装されているセグメント型のものである。
【0026】
固定子コア30は、円環状の複数の電磁鋼板を固定子コア30の軸方向に積層して形成された一体型のものが採用されている。この固定子コア30は、円環状のバックコア部33と、バックコア部33から径方向内方へ突出し周方向に所定距離を隔てて配列された複数のティース34とからなり、隣り合うティース34の間にスロット31が形成されている。固定子コア30に形成されたスロット31の数は、回転子14の磁極数(8磁極)に対し、固定子巻線40の一相あたり2個の割合で形成されている。本実施形態では、8×3×2=48より、スロット数は48個とされている。
【0027】
固定子コア30のスロット31に巻装された固定子巻線40は、固定子コア30のスロット31に収容されるスロット収容部と、スロット31から軸方向に露出し周方向に延び出すコイルエンド部とを有する複数の導体セグメント50の端末部同士を互いに溶接で接合することにより形成されている。導体セグメント50は、図7に示すように、互いに平行な一対の直状部51、51と、一対の直状部51、51の一端を互いに連結するターン部52とからなるU字形状のものが採用されている。この導体セグメント50は、外周に絶縁被膜57(図6参照)が被覆された平角導体をU字形状に折り曲げることにより形成されている。導体セグメント50の両端末部には、絶縁被膜57が剥離されることによって導体露出部58が形成されている。
【0028】
ターン部52の中央部には、固定子コア30の端面30aに沿って延びる頭頂段部53が設けられており、頭頂段部53の両側には、固定子コア30の端面30aに対して所定の角度で傾斜した傾斜部54が設けられている。なお、図7には、同一相の隣接する2個のスロット31A、31Bに挿入配置される2個で一組の導体セグメント50A、50Bが示されている。また、符号24は、各導体セグメント50A、50Bとスロット31、31の内壁面との間を電気絶縁するインシュレータである。
【0029】
U字形状の導体セグメント50は、一対の直状部51、51が固定子コア30の所定の1磁極ピッチ離れた2個のスロット31、31内に軸方向一端側から挿入される。このようにして、全スロット31に対して導体セグメント50の所定数の直状部51が挿入配置される。本実施形態の場合、各スロット31内に合計10本の直状部51が径方向1列(10層)に積層配置される。
【0030】
その後、スロット31から軸方向他端側へ突出した一対の直状部51、51の開放端部(コイルエンド部)が、周方向反対側へ互いに遠ざかるように、固定子コア30の端面30aに対して所定の角度をもって斜めに斜行するように折り曲げられることにより、略半磁極ピッチ分の長さの斜行部55が形成される。この斜行部55が形成される際には、斜行部55の先端側に位置する導体露出部58を含む先端部が、固定子コア30の軸方向に延びるように折り曲げられる。
【0031】
これにより、1つのスロット31から時計回り方向に延出する5本の斜行部55の先端部と、時計回り方向に1磁極ピッチ離れた他のスロット31から反時計回り方向に延出する5本の斜行部55の先端部とが、径方向に交互に隣接して1列に並んだ状態にされている。即ち、1磁極ピッチ離れた2つのスロット31から周方向反対側へ互いに近づくように延出した斜行部55の合計10個の先端部が、径方向1列に並んだ状態にされている。本実施形態の場合、時計回り方向に延出する斜行部55の先端部は内周側から奇数番目に位置し、反時計回り方向に延出する斜行部55の先端部は内周側から偶数番目に位置している。なお、時計回り方向に延出する5本の斜行部55と、反時計回り方向に延出する5本の斜行部55は、交差した状態になっている。
【0032】
そして、径方向に隣接して並んだ所定の先端部の導体露出部58同士が、例えばアーク溶接等の公知の手法を採用して接合されている。即ち、固定子コア30の軸方向他端側には、所定の先端部の導体露出部58同士が接合されてなる複数の接合部56が形成される。この接合部56は、略同一の軸方向高さで且つ円環状に略等ピッチで離間して配置され、多重円環状に配列されている。本実施形態では、周方向に48個並んだ接合部56が5重円環状に配列されており、5個の接合部56が径方向1列に並んだ状態になっている。
【0033】
これにより、所定の二つの斜行部55の先端部(導体露出部58)同士が接続されることによって、所定のパターンで電気的に接続される。このようにして、所定の導体セグメント50が直列に接続されることによって、固定子コア30のスロット31に沿って周方向に渦巻き状に巻回された3本の相巻線(U相、V相、W相)を有する固定子巻線40が形成される。
【0034】
その後、接合部56は、図2〜図6に示すように、導体露出部58を完全に覆うようにして導体セグメント50の先端部(端末部)のみに固着された絶縁樹脂60により被覆される。即ち、絶縁樹脂60は、導体セグメント50の先端部(端末部)の導体露出部58全域と、導体露出部58に隣接する絶縁被膜57の端縁部のみとを被覆するように固着されている。よって、発熱の大きい、第2コイルエンド群48の斜行部55と斜行部55とが交差した部分(コイル密集部)には、絶縁被膜60が塗布されていない。
【0035】
この絶縁樹脂60は、径方向1列に並んだ5個の接合部56を一体に連結するように設けられている。一方、周方向に隣接する接合部56を被覆する絶縁樹脂60同士の間には、空隙Sが設けられている。これにより、固定子巻線40の接合部56側に供給された液体冷媒が、空隙Sを通って絶縁樹脂60の表面上を径方向に流動し易くなるようにされている。また、径方向1列に並んだ5個の接合部56を一体に連結する絶縁樹脂60は、内周側の側面と周方向両側の側面とがそれぞれ交わる2つの角部が湾曲面にされている。これによっても、供給された液体冷媒が、空隙Sを通って絶縁樹脂60の表面上を径方向に流動し易くなるようにされている。
【0036】
このように接合部56を径方向に連結する絶縁樹脂60は、図3及び図4に示すように、周方向両側の側面及び軸方向先端側の面の両方が径方向において凹凸状に形成されている。この場合、径方向に並んだ5個の接合部56のそれぞれの間の部位に凹部が形成されている。これにより、液体冷媒と接触する絶縁樹脂60の表面積を増大させて、液体冷媒による接合部56の冷却効率を高めるようにしている。この絶縁樹脂60は、例えばエポキシ、ポリエステル、ウレタン、シリコーン等から選択した液状樹脂材料を用いて、液状樹脂材料に導体セグメント50をディップすることにより形成されている。
【0037】
なお、本実施形態では、固定子巻線40の各相について、基本となるU字形状の導体セグメント50により、固定子コア30の周りを10周する巻線(コイル)が形成される。しかし、固定子巻線40の各相について、出力用引き出し線及び中性点用引き出し線を一体に有するセグメント、並びに1周目と2周目とを接続するターン部を有するセグメントは、基本となる導体セグメント50とは異なる異形セグメントで構成される。これら異形セグメントを用いて、固定子巻線40の各相の巻線端が星型結線により結線される。
【0038】
このように形成された固定子巻線40の軸方向一端側には、図2及び図5に示すように、固定子コア30の一端面から突出した導体セグメント50の複数のターン部52が固定子コア30の径方向に積層されてなる第1コイルエンド群47が形成されている。また、固定子巻線40の軸方向他端側には、固定子コア30の他端面から突出した導体セグメント50の複数の斜行部55及び接合部56が固定子コア30の径方向に積層されてなる第2コイルエンド群48が形成されている。
【0039】
なお、本実施形態では、回転子14は、軸方向厚みが固定子コア30の軸方向厚みよりも厚くされており、回転子14の軸方向両端部が、固定子巻線40の第1及び第2コイルエンド群47、48と径方向に対向する位置に配置されている。これにより、回転子14に到達した液体冷媒が、回転子14の回転に伴って回転子14から第1及び第2コイルエンド群47、48に効率よく散布されるようにされている。
【0040】
以上のように構成された本実施形態の回転電機1は、固定子20の固定子巻線40への通電により運転が開始されると、回転子14の回転に伴って回転軸13が回転し、回転軸13から他の機器に駆動力が供給される。また、これと同時に、冷媒供給手段により管路15、16の吐出口15a、16aから冷却用の液体冷媒が吐出される。吐出口15a、16aから吐出された液体冷媒は、固定子巻線40の第1及び第2コイルエンド群47、48の外周側に供給される。そして、供給された冷却媒体は、第1及び第2コイルエンド群47、48の表面上を伝って下方へ流動し回転子14に到達すると、回転している回転子14により液体冷媒が放射方向に散布される。これにより、液体冷媒が、回転子14から第1及び第2コイルエンド群47、48の周方向の全域に亘って満遍なく散布される。
【0041】
このとき、第2コイルエンド群48に散布された液体冷媒は、接合部56が径方向に対してのみ絶縁樹脂60で連結され、周方向に隣接する接合部56を被覆する絶縁樹脂60同士の間には、空隙Sが設けられていることから、絶縁樹脂60に妨害されることなく、絶縁樹脂60の表面を伝って径方向によどみなく流動する。これにより、第2コイルエンド群48の表面上を径方向に流動する液体冷媒によって、第2コイルエンド群48の全域が効率よく確実に冷却される。また、発熱の大きい、第2コイルエンド群48の斜行部55と斜行部55とが交差したコイル密集部には、絶縁樹脂60が設けられていないので、そのコイル密集部に液体冷媒が直接接触するため、更に効率よく第2コイルエンド群48が冷却される。
【0042】
また、本実施形態の固定子巻線40は3相巻線であり、異相間(周方向)の電位差が最も高くなることから、周方向に隣接した接合部56をそれぞれ被覆する絶縁樹脂60同士の間に空隙Sが設けられていることによって、より高い絶縁性が確保されている。これにより、安全性の向上が図られる。
【0043】
したがって、本実施形態の回転電機1によれば、固定子巻線40を形成する導体セグメント50の先端部同士が接合された接合部56は、多重円環状に配列されて絶縁樹脂60により被覆されていると共に、径方向に対してのみ絶縁樹脂60で連結され、周方向に隣接する接合部56を被覆する絶縁樹脂60同士の間には、空隙Sが設けられている。そのため、高電圧及び高出力の回転電機であっても高い冷却性と絶縁品質を確保することができる。
【0044】
また、本実施形態では、接合部56を径方向に連結する絶縁樹脂60は、周方向両側の側面及び軸方向先端側の面の両方が径方向において凹凸状に形成されている。そのため、液体冷媒と接触する絶縁樹脂60の表面積を増大させ、接合部56を効率よく冷却することができるため、冷却効率を更に高めることができる。
【0045】
また、本実施形態では、回転子14は、軸方向厚みが固定子コア30の軸方向厚みよりも厚くされており、回転子14の軸方向端部が固定子巻線40の第1及び第2コイルエンド群47、48と径方向に対向する位置に配置されている。そのため、第1及び第2コイルエンド群47、48に供給されて回転子14に到達した液体冷媒を、回転子14の回転に伴って回転子14から第1及び第2コイルエンド群47、48に効率よく散布することができる。
【0046】
〔他の実施形態〕
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0047】
例えば、上記の実施形態では、接合部56を径方向に連結する絶縁樹脂60は、周方向両側の側面及び軸方向先端側の面の両方が径方向において凹凸状に形成されていたが、周方向両側の側面及び軸方向先端側の面の何れか一方のみを凹凸状に形成するようにしてもよい。また、絶縁樹脂60の作り易さを考慮すれば、図8に示すように、周方向両側の側面及び軸方向先端側の面の両方とも凹凸状にしないようにしてもよい。但し、この場合には、絶縁樹脂60の表面積が増大しないので、接合部56の冷却効率を高めるという効果は期待できない。
【0048】
また、上記の実施形態では、絶縁樹脂部材60は、液状樹脂を採用していたが、これに代えて粉体樹脂を採用してもよい。粉体樹脂を採用した場合には、それら粉体樹脂を、導体セグメント50の所定の部位の表面に付着させて溶融させた後、硬化させることにより絶縁樹脂部材60を形成することができる。
【0049】
なお、上記の実施形態は、本発明に係る回転電機をモータ(電動機)に適用した例であるが、本発明は、車両に搭載される回転電機として、電動機あるいは発電機、さらには両者を選択的に使用しうる回転電機にも利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…回転電機、 10…ハウジング、 11、12…軸受け、 13…回転軸、 14…回転子、 20…固定子、 30…固定子コア、 31…スロット、 32…分割コア、 33…バックコア部、 34…ティース、 40…固定子巻線、 47…第1コイルエンド群、 48…第2コイルエンド群、 50…導体セグメント、 51…直状部、 52…ターン部、 53…頭頂段部 54…傾斜部、 55…斜行部、 56…接合部、 57…絶縁皮膜、 58…導体露出部、 60…絶縁樹脂、 S…空隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と、前記回転子と対向配置された固定子コア及び前記固定子コアに巻装された固定子巻線を有する固定子と、前記固定子巻線に液体冷媒を供給して冷却する冷却装置と、を備えた回転電機において、
前記固定子巻線は、前記固定子コアのスロットに収容されるスロット収容部と、前記スロットから軸方向に露出し周方向に延び出すコイルエンド部とを持つ複数の導体セグメントにより形成され、
前記導体セグメントは、ターン部と、前記コイルエンド部において他の導体セグメントと交差する斜行部と、前記斜行部の先端の先端部とを有し、
前記コイルエンド部は、略同一の軸方向高さで且つ円環状に略等ピッチで離間して配置され、他の導体セグメントの前記先端部を接合した複数の接合部を有し、
前記接合部は、多重円環状に配列されて絶縁樹脂により被覆されていると共に、径方向に対してのみ前記絶縁樹脂で連結され、周方向には前記絶縁樹脂間に空隙を有することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記接合部を径方向に連結する前記絶縁樹脂は、周方向両側の側面及び軸方向先端側の面の少なくとも一方の面が径方向において凹凸状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記回転子は、軸方向厚みが前記固定子コアの軸方向厚みよりも厚くされており、前記回転子の軸方向端部が前記固定子巻線のコイルエンド部と径方向に対向する位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−62963(P2013−62963A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200243(P2011−200243)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】