説明

固定具

【課題】簡単な構成で、固定対象物を容易に固定することのできる固定具を提供すること。
【解決手段】固定具1は、固定対象物300に固定される固定部材2と、固定部材2を部材200に連結する連結部材3と、連結部材3を固定部材2に対して移動させるネジ4とを有し、連結部材3は、固定部材2に係合する一対の脚部31、32と、一対の脚部31、32の一端部同士を連結する連結部33と、連結部材3の外側へかつ固定部材2側へ向けて突出するツメ部34〜37とを有し、ネジ4は、固定部材2に形成された挿通孔21に回転自在に保持されるとともに、連結部33と螺合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の製造にあたって、各種部品(特に、AMフィルターや、AM/FMアンプ等の電装品)は、ネジによるネジ止めによって車体に固定される。通常、作業者は、このようなネジ止めの作業を、一方の手で部品を車体の所定位置に固定し、他方の手でドライバー等の工具によりネジを押し込みながら締め付けることにより行う。しかしながら、このような作業方法では、両手が塞がっているため手でネジを支えることが困難であり、その結果、作業途中でネジが抜け落ちてしまい、作業効率が悪化するという問題が生じる。
【0003】
特許文献1には、このような問題を解消するための固定クリップが開示されている。特許文献1の固定クリップは、例えば、自動車のボディの天井にハンドグリップを固定するのに用いられる。この固定クリップは、U字状に形成された部分とその基端に設けられ前記U字状の部分よりも拡径したストリップとを有するアンカー固定部分と、アンカー固定部分と別体として形成され、アンカー固定部の内側に設けられたプレートとを有している。
【0004】
このような固定クリップは、次のようにしてハンドグリップをボディに固定する。まず、ボディの天井に形成された穴にアンカー固定部分のU字状の部分を天井にストリップが当接するまで挿入する。次いで、ハンドグリップの保持プレートをストリップに埋設する。ストリップには、固定ネジを挿通する穴が形成されており、この穴を介して固定ネジが挿通され、さらにこの固定ネジをプレートに螺合する。次いで、固定ネジを回転させてプレートを保持プレートに接近させる。プレートは、保持プレート側へ変位する際中に、アンカー固定部分に設けられた拡開フラップを外側へ押し広げ、押し広げられた拡開フラップを天井の穴付近に圧接させることにより、保持プレートを天井に固定する。
【0005】
このような固定クリップによれば、固定したい部材を固定したい場所(部材)に簡単に固定することができる。しかしながら、特許文献1の固定クリップは、固定ネジと固定クリップの間に固定したい部材を介在させるため、組立途中で固定ネジを固定クリップに取り付ける必要がある。そのため、固定ネジをうまく取り付けることができなかったり、落してしまったりするおそれがあり、組立をスムーズに行うことができないという問題がある。また、構成が複雑となるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−504933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、簡単な構成で、固定対象物を容易に固定することのできる固定具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(10)の本発明により達成される。
(1) 部材に固定対象物を固定する固定具であって、
前記固定対象物に固定される固定部材と、
前記固定部材を前記部材に連結する連結部材と、
前記連結部材を前記固定部材に対して移動させるネジとを有し、
前記連結部材は、前記固定部材に係合する一対の脚部と、前記一対の脚部の一端部同士を連結する連結部と、前記連結部材の外側へかつ前記固定部材側へ向けて突出する少なくとも1つの突出部とを有し、
前記ネジは、前記固定部材に形成された挿通孔に回転自在に保持されるとともに、前記連結部と螺合し、
前記固定部材を前記部材の一方の面側に位置させるとともに、前記突出部を前記部材の他方の面側に位置させた状態で、前記ネジを回転させて前記挿通部材を前記支持部材側に変位させることにより、前記突起部を前記部材の他方の面に当接させ、前記支持部材と前記突出部とで前記部材を狭持することにより前記固定対象物を前記部材に固定することを特徴とする固定具。
【0009】
(2) 前記部材には前記連結部材が挿入される貫通孔が形成されており、
前記支持部材と前記突出部とで前記部材を狭持した状態では、前記突出部は、前記部材の前記他方の面の前記貫通孔の縁部に当接する上記(1)に記載の固定具。
【0010】
(3) 前記突出部は、前記連結部の両端部にそれぞれ一対設けられている上記(1)または(2)に記載の固定具。
【0011】
(4) 前記支持部材は、前記挿通孔を介して対向配置された一対の溝を有し、
前記一対の脚部は、前記一対の溝内にスライド可能に設けられている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の固定具。
【0012】
(5) 前記連結部は、前記支持部材と離間する方向に先細りした部分を有する上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の固定具。
【0013】
(6) 前記連結部は、前記ネジと螺合するネジ穴を有する螺合部と、各前記脚部と前記螺合部とを連結する一対の傾斜部とを有し、前記一対の傾斜部の離間距離が前記支持部材から前記螺合部に向けて漸減している上記(5)に記載の固定具。
【0014】
(7) 前記連結部材は、前記ネジと前記連結部の螺合が解除された状態で、前記一対の脚部の前記支持部材からの脱落を防止する脱落防止部を有している上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の固定具。
【0015】
(8) 前記連結部材は、1枚の板部材を屈曲または湾曲させることにより形成されている上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の固定具。
【0016】
(9) 前記固定部材に対する前記ネジの該ネジの軸の延在方向への変位を防止する変位防止手段を有している上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の固定具。
【0017】
(10) 前記変位防止手段は、前記ネジの軸の外周に固定された固定具を有し、前記固定具と前記ネジの頭とで前記支持部材を挟み込むよう構成されている上記(9)に記載の固定具。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる固定具によれば、前記固定対象物に固定される固定部材と、前記固定部材を前記部材に連結する連結部材と、前記連結部材を前記固定部材に対して移動させるネジとを有し、前記連結部材は、前記固定部材に係合する一対の脚部と、前記一対の脚部の一端部同士を連結する連結部と、前記連結部材の外側へかつ前記固定部材側へ向けて突出する少なくとも1つの突出部とを有し、前記ネジは、前記固定部材に形成された挿通孔に回転自在に保持されるとともに、前記連結部と螺合し、前記固定部材を前記部材の一方の面側に位置させるとともに、前記突出部を前記部材の他方の面側に位置させた状態で、前記ネジを回転させて前記挿通部材を前記支持部材側に変位させることにより、前記突起部を前記部材の他方の面に当接させ、前記支持部材と前記突出部とで前記部材を狭持することにより前記固定対象物を前記部材に固定するように構成されているため、固定具の構成が従来よりも簡単となり、さらに途中で部材を取り付ける等の作業が必要ないため、固定対象物を簡単かつスムーズに部材に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の固定具の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す固定具の断面図である。
【図3】図1に示す固定具の平面図(上面図)である。
【図4】図1に示す固定具の側面図である。
【図5】図1に示す固定具の部分断面平面図(下面図)である。
【図6】図1に示す固定具の使用方法を示す断面図である。
【図7】図1に示す固定具の使用方法を示す断面図である。
【図8】図1に示す固定対象物の変形例を示す図である。
【図9】図8に示す固定対象物を固定する方法を示す図である。
【図10】本発明の第2実施形態にかかる固定具の断面図である。
【図11】図10に示す固定具によって固定対象物を部材に固定した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の固定具の好適な実施形態を説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の固定具の第1実施形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明の固定具の第1実施形態を示す斜視図、図2は、図1に示す固定具の断面図、図3は、図1に示す固定具の平面図(上面図)、図4は、図1に示す固定具の側面図、図5は、図1に示す固定具の部分断面平面図(下面図)、図6および図7は、それぞれ、図1に示す固定具の使用方法を示す断面図、図8は、図1に示す固定対象物の変形例を示す図、図9は、図8に示す固定対象物を固定する方法を示す図である。なお、以下では、説明の便宜上、図1に示すように互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸およびZ軸とする。また、以下では、説明の便宜上、図1、図2、図4、図6、図7、図8および図9中の上側を「上」、下側を「下」とも言う。
【0022】
図1に示す固定具1は、貫通孔210が形成された板状の部材200の上面(一方の面)側に固定対象物300を固定するのに用いられる。
【0023】
なお、本実施形態では、貫通孔210の開口が、貫通孔Y軸方向を長手とする長方形状をなしているが、貫通孔210の開口の形状は特に限定されない。また、本実施形態では、固定対象物300に1つの固定具1を装着しているが、固定対象物300の大きさ、形状および重さ等によっては、固定対象物300に対して複数の固定具1をそれぞれ異なる場所に装着してもよい。
【0024】
固定対象物300は、特に限定されず、例えば、AM/FMチューナー、AM/FMアンプ、電源ユニット、モータ等の電子部品である。また、固定対象物300が固定される部材200も特に限定されず、例えば自動車の車体であってもよいし、建物の壁(内壁、外壁、天井、床等)であってもよい。
【0025】
本実施形態の固定対象物300は、前記電子部品の主要部等が納めされた筐体310と、筐体310を支持するベース320とを有している。筐体310およびベース320は、それぞれ、例えば、アルミニウム、銅等の金属材料や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド等の各種樹脂材料で構成されている。
【0026】
図1に示すように、固定具1は、固定対象物300に固定的に設けられた固定部材2と、固定部材2に係合するとともに固定部材2に対してZ軸方向に移動可能な連結部材3と、連結部材3を固定部材2に対してZ軸方向に変位させるネジ4と、ネジ4のZ軸方向の変位を防止する変位防止部材(変位防止手段)5とを有している。
【0027】
固定部材2は、固定対象物300のベース320と一体的に形成されている。本実施形態では、ベース320の一部が筐体310から突出しており、当該突出した部位が固定部材2を構成している。なお、固定部材2は、固定対象物300に固定することができれば、ベース320と別体で構成され、接着、溶着、螺合、嵌合等により固定対象物300に固定されていてもよい。
【0028】
固定部材2をベース320と別体として形成する場合、固定部材2の構成材料は、特に限定されず、例えば、アルミニウム、銅等の金属材料や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド等の各種樹脂材料などの比較的硬質な材料を用いることができる。
【0029】
図1に示すように、固定部材2は、薄い板状をなし、その主面(厚さ方向に対向する一対の面)がXY平面と平行に配置されている。また、図2に示すように、固定部材2には、挿通孔21が形成されている。挿通孔21は、ネジ4の軸を挿通する孔である。挿通孔21にネジ4を挿通することにより、固定部材2によってネジ4を保持する。
【0030】
図2に示すように、ネジ4は、固定部材2に保持された状態で固定部材2に螺合しておらず、固定部材2に対して回転(カラ回り)可能となっている。挿通孔21の形状および大きさは、上述の条件を満たせば特に限定されず、例えば、ネジ4の軸の最大外径(すなわち、ネジ山の頂における外径)よりも大きく、ネジ4の頭の外径よりも小さい円形とすることができる。
【0031】
また、図1および図2に示すように、固定部材2は、挿通孔21を介してY軸方向に対向配置された一対の切り欠き22、23を有している。一対の切り欠き22、23は、それぞれ、固定部材2の側面に開放するように形成されている。一対の切り欠き22、23は、それぞれ、平面視形状がX軸方向を長手とする長方形となっており、互いに同じ形状に揃えられている。
【0032】
このような固定部材2には、連結部材3がZ字方向に変位可能に係合している。連結部材3は、部材200に形成された貫通孔210に挿入される部位であり、固定部材2を部材200に連結する機能を有している。
【0033】
図1および図2に示すように、連結部材3は、一対の脚部31、32と、脚部31、32の上端に接続された一対の抜け落ち防止部(脱落防止部)38、39と、一対の脚部31、32の下端同士を連結する連結部33と、連結部33の両端部に設けられた4つのツメ部(突出部)34〜37とを有している。
【0034】
一対の脚部31、32は、固定部材2(挿通孔21)を介してY軸方向に対向配置されている。また、一対の脚部31、32は、それぞれ、Z軸方向に延在する薄い板状をなし、主面(厚さ方向に対向する一対の面)がXZ平面と平行に配置されている。脚部31、32のうち、脚部31は、固定部材2に形成された切り欠き22に挿入されており、脚部32は、切り欠き23に挿入されている。これら脚部31、32は、切り欠き22、23内で固定部材2に対してスライド可能となっている。
【0035】
図3に示すように、脚部31の幅(X軸方向の長さ)W1は、切り欠き22の幅(X軸方向の長さ)W2よりも若干短く設定されている。同様に、脚部32の幅W3は、切り欠き23の幅W4よりも若干短く設定されている。また、一対の脚部31、32の離間距離D1は、一対の切り欠き22、23の離間距離D2よりも大きく、固定部材2の幅(Y軸方向の長さ)D3よりも小さい。脚部31、32をこのように設計することにより、連結部材3の切り欠き22、23からの脱落が防止されるとともに、脚部31、32が固定部材2に過剰に当接するのが防止され、当該当接による摺動抵抗をより少なく抑えることができる。そのため、固定部材2に対して脚部31、32(すなわち、連結部材3)をスムーズにスライドさせることができる。
【0036】
また、一対の脚部31、32の離間距離D1は、貫通孔210の長さ(Y軸方向の長さ)よりも小さく設定されている。
【0037】
図2に示すように、連結部33は、各脚部31、32の下端部(連結部材3の挿入方向の先端部)同士を連結するように設けられている。連結部33は、連結部材3の先端(貫通孔210への挿入方向の先端)に位置する螺合部331と、螺合部331と脚部31とを連結する傾斜部332と、螺合部331と脚部32とを連結する傾斜部333とで構成されている。
【0038】
螺合部331は、薄い板状をなし、その主面(厚さ方向に対向する一対の面)がXY平面と平行に配置されている。また、螺合部331のY軸方向の長さは、脚部31、32の離間距離D1よりも小さい。また、XY平面視において、螺合部331は、一対の脚部31、32の間に位置している。
【0039】
螺合部331の平面視形状は、部材200に形成された貫通孔210を通過(貫通)することができれば特に限定されず、本実施形態では、長辺および短辺がそれぞれ貫通孔210の長辺および短辺よりも短く、Y軸方向に延在する略長方形をなしている。
【0040】
また、図2に示すように、螺合部331の中央部には、例えばバーリング加工によって、他の部分より肉厚なネジ穴331aが形成されている。ネジ穴331aの内壁には、ネジ4と螺合するネジ溝が形成されている。
【0041】
ネジ4は、ネジ穴331aと螺合しており、ネジ4を一方に回転させると螺合部331が固定部材2に接近するように連結部材3が変位し、他方に回転させると螺合部331が固定部材2から離間するように連結部材3が変位する。
【0042】
傾斜部332は、薄い板状をなし、その主面(厚さ方向に対向する一対の面)がXY平面およびXZ平面に対してそれぞれ傾斜するように配置されている。同様に、傾斜部333も、薄い板状をなし、その主面がXY平面およびXZ平面に対して傾斜するように配置されている。
【0043】
一対の傾斜部332、333の離間距離D4は、螺合部331側から脚部31、32側に向けて漸減している。すなわち、連結部33は、連結部材3の先端側を先細りさせるテーパ部を構成している。このような形状の連結部33を備えることにより、連結部材3の先端部が貫通孔210に案内され易くなり、連結部材3を貫通孔210にスムーズに挿入することができる。
【0044】
図4に示すように、傾斜部332は、その幅(X軸方向の長さ)W5が螺合部331側から脚部31側に向けて漸増する略台形形状をなしている。さらに、傾斜部332の上端(脚部31側の端)の幅は、脚部31の幅よりも大きい。そして、傾斜部332は、上端の両縁部を除く中央部にて脚部31と連結している。なお、傾斜部333の形状は、傾斜部332の形状と同様であるため、その説明を省略する。
【0045】
図4に示すように、傾斜部332の上端部、すなわち連結部33の一端部には、一対のツメ部34、35が設けられている。一対のツメ部34、35は、XZ平面視にて、脚部31に対して互いに反対側に位置している。
【0046】
これらツメ部34、35は、それぞれ、連結部材3の外側へかつ固定部材2側に向けて突出している(すなわち、図2中左斜め上方向に向けて突出している)。また、本実施形態では、各ツメ部34、35は、傾斜部332と同一平面上に形成されている。また、図4に示すように、各ツメ部34、35は、その先端側へ向けて幅が漸減する略三角形をなしており、3つの角のうち、先端部を構成する角がY軸方向において最も外側に位置している。
【0047】
図4に示すように、ツメ部34、35の先端同士の離間距離D5は、固定部材2に形成された切り欠き22の幅W2よりも大きい。このように設計すれば、連結部材3を螺合部331が固定部材2に接近するように変位させると、その途中でツメ部34、35が固定部材2の下面に当接し、連結部材3のそれ以上の変位が阻止される。これにより、連結部材3の固定部材2側への過剰な変位を防止でき、固定具1の操作性が向上する。また、離間距離D5は、貫通孔210のX軸方向の長さと等しいか短いのが好ましい。これにより、連結部材3を貫通孔210にスムーズに挿入することができる。なお、傾斜部333の上端部、すなわち連結部33の他端部にも一対のツメ部36、37が設けられているが、一対のツメ部36、37は、一対のツメ部34、35と同様の構成であるため、その説明を省略する。
【0048】
図2に示すように、4つのツメ部34〜37のうち、Y軸方向に離間する一対のツメ部34、36の先端同士の離間距離D6は、貫通孔210のY軸方向の長さよりも僅かに大きく設定されている。一対のツメ部35、37の先端同士の離間距離についても、これと同様である。これにより、後述するように、連結部材3を貫通孔210内に挿入した状態で、連結部材3を固定部材2側に変位させたときに、4つのツメ部34〜37が部材200の下面に確実に当接する。特に、ツメ部34、36が部材200の下面の貫通孔210に対して互いに反対側に当接する(ツメ部35、37についても同様である)ため、より確実に、固定対象物300を部材200に固定できる。
【0049】
脚部31上端部(連結部33と反対側の端部)には、抜け落ち防止部38が設けられており、同様に、脚部32の上端部にも、抜け落ち防止部39が設けられている。これら抜け落ち防止部38、39は、ネジ穴331aとネジ4との螺合が誤って解除されたとき、もしくは固定具1の製造途中であってネジ4が取り付けられていない状態のときでも、固定部材2に連結部材3を係合させておく機能、すなわち、固定部材2からの連結部材3の脱落を防止する機能を有する。
【0050】
図1に示すように、抜け落ち防止部38、39は、それぞれ、薄い板状をなし、主面(厚さ方向に対向する一対の面)がXZ平面と平行に配置されている。また、図3に示すように、抜け落ち防止部38の幅(X軸方向の長さ)W6は、切り欠き22の幅W2よりも大きく設定されており、同様に、抜け落ち防止部39の幅(X軸方向の長さ)W7は、切り欠き23の幅W4よりも大きく設定されている。そのため、抜け落ち防止部38、39が固定部材2の上面と当接することにより、連結部材3の固定部材2からの抜け落ちが防止される。
【0051】
以上、連結部材3を構成する一対の脚部31、32、連結部33、ツメ部34〜37および一対の抜け落ち防止部38、39についてそれぞれ詳細に説明した。これら各構成要素は、例えば、1枚の薄い板部材を所望の外形形状に加工し、その後所定箇所で屈曲させることにより、一体的に形成することができる。これにより、連結部材3を簡単に製造することができる。連結部材3の構成材料は、特に限定されないが、比較的硬質な材料であるのが好ましく、例えば、アルミニウム、銅等の金属材料を用いることができる。
【0052】
ネジ4は、前述したように、固定部材2に形成された挿通孔21に螺合せずに回転自在に挿通されているとともに、連結部材3の螺合部331に形成されたネジ穴331aに螺合している。ネジ4の長さは、連結部材3の螺合部331を固定部材2から最も離間させた状態、すなわち、抜け落ち防止部38、39を固定部材2に当接させた状態で、ネジ穴331aとの螺合が解除されない長さに設定されている。
【0053】
ここで、ネジ4が固定部材2に形成された挿通孔21に螺合せずに回転自在に挿通されている状態では、ネジ4および連結部材3が一体的に、固定部材2に対してZ軸方向に自由に変位することができる。このような変位が生じると、連結部材3を貫通孔210に挿入しづらくなるおそれがあるため、本実施形態の固定具1では、前記変位を防止するために、ネジ4に変位防止部材5を取り付けている。
【0054】
図5に示すように、変位防止部材5は、例えば、Eリング等のネジ4の軸に固定可能な部材で構成されている。変位防止部材5は、ネジ4の軸の基端部に固定されており、変位防止部材5とネジ4の頭とで固定部材2を挟み込んでいる。これにより、ネジ4がZ軸方向に変位できなくなり、連結部材3のZ軸方向の自由な変位を規制することができる。すなわち、ネジ4の回転によらなければ、連結部材3を固定部材2に対してZ軸方向に変位させることができない構成となる。このような構成とすることにとり、連結部材3を容易に貫通孔210に挿入することができる。
【0055】
以上、固定具1の構成について詳細に説明した。
次いで、図6および図7に基づいて、固定具1の使用方法について説明する。
【0056】
まず、ネジ4を回転させ、図6(A)に示すように、連結部材3の螺合部331を固定部材2から最も離間させた状態、すなわち抜け落ち防止部38、39が固定部材2に当接する状態とする。次いで、連結部材3を部材200の貫通孔210に挿入し、図6(B)に示すように、ツメ部34〜37を部材200の下面側に位置させる。なお、連結部材3を貫通孔210に挿入する際、ツメ部34〜37は、貫通孔210の側面と当接することによって内側へ向けて撓み、貫通孔210を通過した後、速やかに元の状態(貫通孔210を通過する前の状態)に復帰する。
【0057】
次いで、ネジ4を前記と反対側に回転させ、連結部材3の螺合部331を固定部材2側に変位させる。すると、図7(A)に示すように、固定部材2と4つのツメ部34〜37の離間距離が縮まり、固定部材2の下面が部材200の上面に当接するとともに、4つのツメ部34〜37が部材200の下面と当接した状態となる。これにより、ツメ部34〜37によって固定部材2が部材200に連結され、固定対象物300が部材200に固定される。
【0058】
なお、固定部材2の下面が部材200の上面に当接するとともに、ツメ部34〜37が部材200の下面と当接した状態となってからも、さらにネジ4を回転させ、螺合部331を固定部材2に接近させてもよい。部材200と各ツメ部34〜37の硬さの関係等によっては、図7(B)に示すように、ツメ部34〜37が部材200に食い込んだり、図7(C)に示すように、ツメ部34〜37が変形したりし、より強固に固定対象物300を部材200に固定することができる。
以上、本実施形態について説明したが、以下、変形例を示す。
【0059】
図8に示すように、固定対象物300のベース320は、長尺状をなしており、その両端部が筐体310から突出している。そして、ベース320の一端部は、前述した固定具1の固定部材2を構成している。一方、ベース320の他端部は、ベース320の厚さ方向に湾曲または屈曲する変形部321を構成している。変形部321の先端部321aは、その主面がXY平面と平行となるように配置されている。この先端部321aの上面には、ゴム材料等で構成された弾性体322が設けられている。このような変形部321では、弾性体322の上面と、ベース320の中央部323とのZ軸方向の離間距離D8が、部材200の厚さよりも若干短く設定されている。
【0060】
部材200には、固定具1の連結部材3が挿入される貫通孔210の他に、変形部321が挿入される貫通孔220が形成されている。固定対象物300は、このような部材200に対して次のように固定される。
【0061】
図9(A)に示すように、まず、部材200に対して固定対象物300を傾けた状態で、貫通孔220に変形部321を挿通する。次いで、図9(B)に示すように、固定具1の連結部材3をもう一方の貫通孔210に挿通する。そして、前述したように、固定具1を締め付け固定対象物300を部材200に固定する。この状態では、変形部321に設けられた弾性体322が厚さ方向に収縮し、さらには変形部321が厚さ方向に撓んでいるため、これらが自然状態に復帰しようとする力(反発力)が発生し、当該反発力によって、固定対象物300が部材200に対してより強固に固定される。
【0062】
<第2実施形態>
次に、本発明の固定具の第2実施形態を説明する。
【0063】
図10は、本発明の第2実施形態にかかる固定具の断面図、図11は、図10に示す固定具によって固定対象物を部材に固定した状態を示す断面図である。
【0064】
以下、第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0065】
本実施形態の固定具1Aは、連結部材3Aが固定部材2に固定されていること、連結部材3Aが有する脚部31A、32Aが変形すること以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。
【0066】
図10に示すように、固定具1Aが有する連結部材3Aは、固定部材2に固定されている。固定方法としては特に限定されず、例えば、抜け落ち防止部38、39と固定部材2とを溶接してもよいし、接着剤を用いて接合してもよい。
【0067】
脚部31A、32Aは、それぞれ、内側に屈曲する略「く」字状をなしている。脚部31A、32Aの屈曲部は、他の部分よりも脆弱に形成されており、この屈曲部を中心に折れ曲がるように容易に変形する。
【0068】
図11に示すように、固定具1Aでは、連結部材3Aの螺合部331を固定部材2に接近させるためにネジ4を回転させると、各脚部31A、32Aのその屈曲部を中心とした屈曲変形を伴って、螺合部331が固定部材2に接近する。これにより、固定部材2の下面が部材200の上面に当接するとともに、4つのツメ部34〜37が部材200の下面と当接した状態となり、固定対象物300が部材200に固定される。
【0069】
以上、本発明の固定具について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明の固定具では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
【符号の説明】
【0070】
1、1A 固定具
2 固定部材
21 挿通孔
22、23 切り欠き
3、3A 連結部材
31、31A、32、32A 脚部
33 連結部
331 螺合部
331a ネジ穴
332、333 傾斜部
34〜37 ツメ部
38、39 抜け落ち防止部
4 ネジ
5 変位防止部材
200 部材
210、220 貫通孔
300 固定対象物
310 筐体
320 ベース
321 変形部
321a 先端部
322 弾性体
323 中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材に固定対象物を固定する固定具であって、
前記固定対象物に固定される固定部材と、
前記固定部材を前記部材に連結する連結部材と、
前記連結部材を前記固定部材に対して移動させるネジとを有し、
前記連結部材は、前記固定部材に係合する一対の脚部と、前記一対の脚部の一端部同士を連結する連結部と、前記連結部材の外側へかつ前記固定部材側へ向けて突出する少なくとも1つの突出部とを有し、
前記ネジは、前記固定部材に形成された挿通孔に回転自在に保持されるとともに、前記連結部と螺合し、
前記固定部材を前記部材の一方の面側に位置させるとともに、前記突出部を前記部材の他方の面側に位置させた状態で、前記ネジを回転させて前記挿通部材を前記支持部材側に変位させることにより、前記突起部を前記部材の他方の面に当接させ、前記支持部材と前記突出部とで前記部材を狭持することにより前記固定対象物を前記部材に固定することを特徴とする固定具。
【請求項2】
前記部材には前記連結部材が挿入される貫通孔が形成されており、
前記支持部材と前記突出部とで前記部材を狭持した状態では、前記突出部は、前記部材の前記他方の面の前記貫通孔の縁部に当接する請求項1に記載の固定具。
【請求項3】
前記突出部は、前記連結部の両端部にそれぞれ一対設けられている請求項1または2に記載の固定具。
【請求項4】
前記支持部材は、前記挿通孔を介して対向配置された一対の溝を有し、
前記一対の脚部は、前記一対の溝内にスライド可能に設けられている請求項1ないし3のいずれかに記載の固定具。
【請求項5】
前記連結部は、前記支持部材と離間する方向に先細りした部分を有する請求項1ないし4のいずれかに記載の固定具。
【請求項6】
前記連結部は、前記ネジと螺合するネジ穴を有する螺合部と、各前記脚部と前記螺合部とを連結する一対の傾斜部とを有し、前記一対の傾斜部の離間距離が前記支持部材から前記螺合部に向けて漸減している請求項5に記載の固定具。
【請求項7】
前記連結部材は、前記ネジと前記連結部の螺合が解除された状態で、前記一対の脚部の前記支持部材からの脱落を防止する脱落防止部を有している請求項1ないし6のいずれかに記載の固定具。
【請求項8】
前記連結部材は、1枚の板部材を屈曲または湾曲させることにより形成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の固定具。
【請求項9】
前記固定部材に対する前記ネジの該ネジの軸の延在方向への変位を防止する変位防止手段を有している請求項1ないし8のいずれかに記載の固定具。
【請求項10】
前記変位防止手段は、前記ネジの軸の外周に固定された固定具を有し、前記固定具と前記ネジの頭とで前記支持部材を挟み込むよう構成されている請求項9に記載の固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−247296(P2011−247296A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118354(P2010−118354)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】