説明

圧力センサ

【課題】常用領域の検出感度の低下を抑制しつつ、ダイアグ領域を設けることのできる圧力センサを提供する。
【解決手段】センシング部10から出力された電気的信号に対して所定の増幅ゲインを乗算すると共に所定のオフセット値を加算して出力する第1処理部22と、センシング部10から出力された電気的信号に対して、第1処理部22と異なる増幅ゲインを乗算すると共に第1処理部22と異なるオフセット値を加算して出力する第2処理部23と、を有する信号処理部20と、信号処理部20から出力された二つの電気的信号のうち出力電圧が大きい信号または出力電圧が小さい信号を選択して出力する選択部とを備える。そして、選択部30から出力される電気的信号の圧力と出力電圧との出力特性が二直線で示されるようにし、二直線のうち傾きが大きい直線の検出領域を常用領域とすると共に傾きが小さい直線の検出領域をダイアグ領域とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定媒体の圧力に応じて電気的信号を出力する圧力センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、測定媒体の圧力に応じて電気的信号を出力するセンシング部を有し、センシング部から出力された電気的信号を圧力および電圧で示される一次関数(直線)として出力する圧力センサが知られている。
【0003】
具体的には、例えば、特許文献1には、センシング部と、センシング部から出力された電気的信号に対して互いに異なる増加ゲインを乗算すると共に互いに異なるオフセット値を加算する第1、第2圧力検出手段と、第1、第2圧力検出手段から出力された信号のうち要求される理想直線に近い値を選択して出力する選択部と、を有する圧力センサが開示されている。
【0004】
このような圧力センサでは、選択部から出力される電気的信号が圧力および電圧で示される一次関数に近づくようにしているため、高精度の圧力検出を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−168616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような圧力センサでは、最近、通常の圧力を検出する常用領域に加えて、常用領域と異なる検出領域であるダイアグ領域を設け、ダイアグ領域の圧力を検出することにより、つまりダイアグ領域で異常圧力や圧力脈動を検出することにより、ロバスト性を向上させることができるようにすることが望まれている。
【0007】
しかしながら、上記圧力センサでは、通常、出力電圧の最大値が決められている。このため、単純に、ダイアグ領域を設けて検出領域を広くした場合には、選択部から出力される電気的信号の傾きが緩やかになり、常用領域の圧力の検出精度が低下してしまうという問題がある。特に、燃料ポンプから吐き出される燃料の圧力を測定する圧力センサでは、常用領域の圧力検出を高精度に行うことができ、検出領域の広いダイアグ領域を備えることが望まれている。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、常用領域の検出感度の低下を抑制しつつ、ダイアグ領域を設けることのできる圧力センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、測定媒体の圧力に応じた電気的信号を出力するセンシング部(10)と、センシング部(10)から出力された電気的信号に対して所定の増幅ゲインを乗算すると共に所定のオフセット値を加算して出力する第1処理部(22)と、センシング部(10)から出力された電気的信号に対して、第1処理部(22)と異なる増幅ゲインを乗算すると共に第1処理部(22)と異なるオフセット値を加算して出力する第2処理部(23)と、を有する信号処理部(20)と、信号処理部(20)から出力された二つの電気的信号のうち出力電圧が大きい信号または出力電圧が小さい信号を選択して出力する選択部(30)と、を有し、選択部(30)から出力される電気的信号の圧力と出力電圧との出力特性が二直線で示されるようにし、二直線のうち傾きが大きい直線の検出領域が常用領域とされていると共に傾きが小さい直線の検出領域がダイアグ領域とされていることを特徴としている。
【0010】
このような圧力センサでは、選択部(30)から出力される電気的信号の出力特性を二直線で示されるようにし、傾きが大きい直線の検出領域を常用領域とすると共に傾きが小さい直線の検出領域をダイアグ領域としている。
【0011】
このため、単純に検出領域を広くした圧力センサと比較して、常用領域の傾きがダイアグ領域の傾きより大きくされているため、常用領域の検出精度が低下することを抑制しつつ、ダイアグ領域を設けることができる。
【0012】
例えば、請求項2に記載の発明のように、二直線のうち、圧力が小さい側から順に、常用領域、ダイアグ領域とすることができる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明のように、センシング部(10)から出力された電気的信号に対して温特補正を行うこともできる。
【0014】
さらに、請求項4に記載の発明のように、センシング部(10)を、ダイヤフラム部に備えられた4個の歪み抵抗(10a〜10d)で構成されたホイートストンブリッジ回路を含む構成とし、測定媒体の圧力に応じて歪み抵抗(10a〜10d)の抵抗値が変化してブリッジ回路の中間電位の電位差を出力するものとすることができる。
【0015】
また、請求項5に記載の発明のように、センシング部(10)を、ダイヤフラム部に備えられた可動電極と、可動電極と対向すると共に可動電極との間に所定の間隔を有する固定電極により構成して、測定媒体の圧力に応じて変化する可動電極と固定電極との間の静電容量を出力するものとし、センシング部(10)と信号処理部(20)との間に容量電圧変換回路を備えることができる。
【0016】
さらに、請求項6に記載の発明のように、測定媒体を燃料ポンプから吐き出される燃料、連続可変トランスミッションフルード、またはエンジンオイルとすることができ、ダイアグ領域にて測定媒体の圧力脈動を検出するようにすることができる。
【0017】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態における圧力センサの回路構成を示す図である。
【図2】(a)は第1処理部から出力される電気的信号の圧力と電圧との出力特性を示す図、(b)は第2処理部から出力される電気的信号の圧力と電圧との出力特性を示す図である。
【図3】選択部から出力される電気的信号の圧力と電圧との出力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態における圧力センサの回路構成を示す図である。なお、本実施形態の圧力センサは、例えば、燃料ポンプから油圧式で吐き出される燃料の圧力測定について適用されると好適である。
【0020】
図1に示されるように、本実施形態の圧力センサ1は、センシング部10、信号処理部20、選択部30を有する構成とされており、これらセンシング部10、信号処理部20、選択部30は一つのチップ内にそれぞれ形成されている。
【0021】
センシング部10は、本実施形態では、半導体基板のダイヤフラム部に形成された4個の歪み抵抗10a〜10dで構成されるホイートストンブリッジ回路を含む構成とされている。そして、歪み抵抗10a、10dの共通接続部は電源40と接続されて電源40から所定電圧Vccが印加されるようになっており、歪み抵抗10b、10cの共通接続部は接地されている。
【0022】
このセンシング部10は、測定媒体の圧力が印加されると、印加された圧力の大きさに応じて歪み抵抗の抵抗値が変化してホイートストンブリッジ回路の2箇所の中間電位(図1中点A、点Bの電位)が変化する。そして、センシング部10は、中間電位(図1中点A、点Bの電位)の電位差を圧力に応じた検出信号として信号処理部20に出力する。
【0023】
信号処理部20は、電圧増幅部21と、第1、第2処理部23、23とを有する構成とされている。電圧増幅部21は、センシング部10から出力された電気的信号を所定倍に増幅して出力する。
【0024】
第1処理部22は、電圧増幅部21から出力された電気的信号に対して所定の増幅ゲインを乗算すると共に所定のオフセット値を加算して出力する。具体的には、本実施形態では、第1処理部22は、オペアンプやこのオペアンプに接続される抵抗等を有する構成とされており、例えば、抵抗をトリミング処理することで増幅ゲインやオフセット値が所定の値になるように調整されている。
【0025】
第2処理部23は、電圧増幅部21から出力された電気的信号に対して、第1処理部22と異なる増幅ゲインを乗算すると共に第1処理部22と異なるオフセット値を加算して出力する。この第2処理部23も、第1処理部22と同様に、オペアンプや当該オペアンプに接続される抵抗等を有する構成とされており、例えば、抵抗をトリミング処理することで増幅ゲインやオフセット値が所定の値、つまり第1処理部22の増幅ゲインやオフセット値と異なる値となるように調整されている。
【0026】
本実施形態では、第1処理部22の増幅ゲインが第2処理部23の増幅ゲインよりも大きくされており、第1処理部22のオフセット値が第2処理部23のオフセット値よりも小さくされている。
【0027】
図2(a)は、第1処理部22から出力される電気的信号の圧力と出力電圧との出力特性を示す図であり、図2(b)は第2処理部23から出力される電気的信号の圧力と出力電圧との出力特性を示す図である。図2に示されるように、第1、第2処理部23、23それぞれは、電圧増幅部21から出力された電気的信号に対して異なる増幅ゲインを乗算すると共に異なるオフセット値を加算するため、出力特性が異なっている。
【0028】
すなわち、センシング部10に印加された圧力をXとし、第1処理部22の増幅ゲインをA、第1処理部22のオフセット値をBとすると、第1処理部22から出力される電気的信号Y1はY1=AX+Bで示される。同様に、第2処理部23の増幅ゲインをC(<A)、第2処理部23のオフセット値をD(>B)とすると、第2処理部23から出力される電気的信号Y2はCX+Dで示される。
【0029】
また、図1に示されるように、選択部30は、コンパレータ等を有する構成とされており、第1、第2処理部23、23から出力された電気的信号Y1、Y2のうち出力電圧の小さい値を選択して出力する。すなわち、選択部30から出力される電気的信号の圧力と出力電圧との出力特性は二直線で示されることになる。上記のように、第1処理部22の増幅ゲインが第2処理部23の増幅ゲインよりも大きくされており、第1処理部22のオフセット値が第2処理部23のオフセット値よりも小さくされているため、任意の圧力Xaで第1処理部22から出力される電気的信号Y1と、第2処理部23から出力される電気的信号Y2とが交わるためである。
【0030】
そして、二直線のうち傾きが大きい直線の圧力の検出領域が常用領域とされていると共に傾きが小さい直線の圧力の検出領域がダイアグ領域とされている。図3は、選択部30から出力される電気的信号の圧力と出力電圧との出力特性を示す図である。
【0031】
図3に示されるように、選択部30から出力される電気的信号は、印加される圧力がXaより小さいきにはY1=AX+Bで示され、印加される圧力がXaより大きいときにはY1=CX+Dで示される。すなわち、本実施形態では、Xaより小さい検出領域の直線の傾きがXaより大きい検出領域の直線の傾きより大きくなるため、Xaより小さい圧力の検出領域が常用領域、Xaより大きい圧力の検出領域がダイアグ領域とされている。
【0032】
したがって、例えば、燃料ポンプから吐き出される燃料の圧力を測定する場合には、常用領域となる低圧側で精度の高い圧力検出を行うことができる。また、ダイアグ領域となる高圧側では、例えば、圧力脈動を検出することにより燃料ポンプの故障を検出することができる。すなわち、例えば、燃料ポンプの吐き出し口に煤等の異物が固着してしまったような場合には、通常状態より大きな圧力脈動が発生したり、また、圧力脈動が発生しなかったりするため、圧力脈動を検出することにより燃料ポンプの故障を検出することができる。
【0033】
なお、常用領域とダイアグ領域の境界であるXaは、AX+B=CX+Dを満たす圧力Xで示されることになるが、増幅ゲイン(傾き)A、Bおよびオフセット値(切片)C、Dを適宜選択することにより、常用領域およびダイアグ領域の検出領域は変更することができる。
【0034】
このような圧力センサ1では、第1、第2処理部22、23は、電圧増幅部21から出力された電気的信号に対して互いに異なる増幅ゲインを乗算すると共に互いに異なるオフセット値を加算した電気的信号を出力している。選択部30は、第1、第2処理部22、23から出力された電気的信号のうち出力電圧の小さい信号を選択して出力することにより出力特性を二直線で示されるようにしている。そして、傾きが大きい直線の検出領域を常用領域とすると共に傾きが小さい直線の検出領域をダイアグ領域としている。
【0035】
このため、単純に検出領域を広くした圧力センサと比較して、常用領域の傾きがダイアグ領域の傾きより大きくされているため、常用領域の検出精度が低下することを抑制しつつ、ダイアグ領域を設けることができる。
【0036】
なお、例えば、センシング部を二つ備え、各センシング部で検出領域を互いに異ならせて一方のセンシング部で常用領域の圧力検出を行うと共に他方のセンシング部でダイアグ領域の圧力検出を行わせることもできるが、このような圧力センサでは、センシング部を二つ備えるために大型化してしまうことになる。しかしながら、本実施形態の圧力センサ1では、センシング部は一つのみでよく、圧力センサ1が大型化することも抑制することができる。
【0037】
(他の実施形態)
上記第1実施形態では、測定媒体を燃料ポンプから吐き出される燃料とした例について説明したが、例えば、測定媒体は連続可変トランスミッションフルードであってもよいし、またはカム作動用のエンジンオイルであってもよい。
【0038】
また、上記第1実施形態では、センシング部10をホイートストンブリッジ回路で構成した例について説明したが、センシング部10を圧力に応じて静電容量が変化するものとすることもできる。すなわち、例えば、ダイヤフラム部に可動電極を備えると共に、可動電極と対向し、当該可動電極との間に所定の間隔を有する固定電極を備え、測定媒体の圧力に応じて変化する可動電極と固定電極との間の静電容量を出力する容量式のセンシング部10とすることもできる。この場合は、センシング部10と信号処理部20との間に、容量電圧変換回路を備え、センシング部10の静電容量を電圧に変換した後に、上記第1実施形態と同様の処理を行うようにすることが好ましい。
【0039】
さらに、上記第1実施形態では、センシング部10から出力された電気的信号を電圧増幅部21で増幅した後、第1、第2処理部22、23に入力する例について説明したが、例えば、センシング部10から出力された電気的信号をそのまま第1、第2処理部22、23に入力するようにしてもよい。
【0040】
そして、上記第1実施形態では、選択部30は、第1、第2処理部23、23から出力された電気的信号Y1、Y2のうち出力電圧の小さい値を選択して出力する例について説明したが、例えば、電気的信号Y1、Y2のうち出力電圧の大きい値を選択して出力するようにしてもよい。すなわち、上記のように、電気的信号Y1、Y2の交わる点をXaとすると、印加される圧力がXaより小さいときの直線の傾きがY2=CX+Dで示され、印加される圧力がXaより大きいときの直線の傾きがY1=AX+Bで示されるようにしてもよい。
【0041】
このような圧力センサでは、Xaより小さい検出領域の直線の傾きがXaより大きい検出領域の直線の傾きより小さくなるため、Xaより小さい圧力の検出領域がダイアグ領域、Xaより大きい圧力の検出領域が常用領域となる。すなわち、常用領域となる高圧側で精度の高い圧力検出を行うことができる。また、ダイアグ領域となる低圧側では、例えば、圧力脈動を検出することにより、燃料ポンプの故障を検出することができる。
【0042】
さらに、上記第1実施形態において、信号処理部20において、温特補正を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 圧力センサ
10 センシング部
20 信号処理部
21 電圧増幅部
22 第1処理部
23 第2処理部
30 選択部
40 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定媒体の圧力に応じた電気的信号を出力するセンシング部(10)と、
前記センシング部(10)から出力された電気的信号に対して所定の増幅ゲインを乗算すると共に所定のオフセット値を加算して出力する第1処理部(22)と、前記センシング部(10)から出力された電気的信号に対して、前記第1処理部(22)と異なる増幅ゲインを乗算すると共に前記第1処理部(22)と異なるオフセット値を加算して出力する第2処理部(23)と、を有する信号処理部(20)と、
前記信号処理部(20)から出力された二つの電気的信号のうち出力電圧が大きい信号または出力電圧が小さい信号を選択して出力する選択部(30)と、を有し、
前記選択部(30)から出力される電気的信号の前記圧力と前記出力電圧との出力特性は二直線で示され、二直線のうち傾きが大きい直線の検出領域が常用領域とされていると共に傾きが小さい直線の検出領域がダイアグ領域とされていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項2】
前記二直線のうち、前記圧力が小さい側から順に、常用領域、ダイアグ領域とされていることを特徴とする請求項1に記載の圧力センサ。
【請求項3】
前記センシング部(10)から出力された電気的信号に対して温特補正を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の圧力センサ。
【請求項4】
前記センシング部(10)は、ダイヤフラム部に備えられた4個の歪み抵抗(10a〜10d)で構成されたホイートストンブリッジ回路を含み、前記測定媒体の圧力に応じて歪み抵抗(10a〜10d)の抵抗値が変化してブリッジ回路の中間電位の電位差を出力することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の圧力センサ。
【請求項5】
前記センシング部(10)は、ダイヤフラム部に備えられた可動電極と、前記可動電極と対向すると共に前記可動電極との間に所定の間隔を有する固定電極により構成され、前記測定媒体の圧力に応じて変化する前記可動電極と前記固定電極との間の静電容量を出力し、
前記センシング部(10)と前記信号処理部(20)との間には、容量電圧変換回路が備えられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の圧力センサ。
【請求項6】
前記測定媒体は、燃料ポンプから吐き出される燃料、連続可変トランスミッションフルード、またはエンジンオイルとされ、
前記ダイアグ領域にて前記測定媒体の圧力脈動を検出することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の圧力センサ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−88195(P2012−88195A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235624(P2010−235624)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】