説明

圧縮成形用ポリエステル樹脂、プリフォームの製造方法及びプリフォーム

【課題】 長期にわたって安定して圧縮成形装置に溶融樹脂塊を供給可能な圧縮成形用ポリエステル樹脂を提供することである。
【解決手段】 エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂であって、固有粘度が0.6乃至1.3dL/gの範囲にあると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%未満、モノヒドロキシエチルテレフタレート及びビスヒドロキシエチルテレフタレートの合計含有量が0.005重量%以下であることを特徴とする圧縮成形用ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮成形用ポリエステル樹脂に関し、より詳細には、圧縮成形機へ溶融樹脂塊を供給する搬送手段への樹脂の付着が有効に防止され、長期にわたって圧縮成形機へスムーズに供給することが可能な圧縮成形用ポリエステル樹脂及びこの樹脂からなるプリフォーム並びに生産性に優れたプリフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料等を充填するための容器としては、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂から成るものが広く使用されており、かかる容器は、合成樹脂の射出成形により、最終容器より寸法がかなり小さい有底プリフォームを予め形成し、このプリフォームをその延伸温度に予備加熱し、ブロー金型中で軸方向に引張り延伸すると共に、周方向にブロー延伸する方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
またこのようなプリフォームの製法として、成形機中での滞留時間が短く樹脂の劣化が少ないと共に、底部にゲート部が存在しないことから、樹脂の圧縮成形で製造することも既に知られている。例えば、熱可塑性樹脂溶融物を押出し且つほぼ定量の溶融塊に切断する工程と、雄型と雌型とを相対的に移動可能に配置し、溶融塊を型内に供給する工程と、型内の残留空気を排出しながら、有底胴部と口部とを備えた成形物に圧縮成形する工程と,圧縮成形物を冷却固化し、成形物を型外に排出する工程とから成るプリフォームの製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
このような圧縮成形によるプリフォームの成形においては、雄型手段と雌型手段とを閉状態にして両者間に成形型空間を規定する前に、雌型手段又は雄型手段に合成樹脂を供給することが必要であり、かかる合成樹脂の供給は、例えば、押出ノズルの押出開口から切り離された溶融状態の合成樹脂をそのまま保持して成形装置の所要部位まで搬送することを可能にする合成樹脂供給装置が提案されている(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開平4−154535号公報
【特許文献2】特開2000−25729号公報
【特許文献3】特開2000−280248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリエチレンテレフタレートのような通常のポリエステル樹脂を上記合成樹脂供給装置を用いて圧縮成形機への溶融樹脂塊の供給を行った場合に、運転時間がある程度の時間が経過すると溶融樹脂塊を確実に圧縮成形機に供給できない場合が生じた。
この原因について調査した結果、圧縮成形によるプリフォームの連続成形に際して成形機の運転開始時点からある程度の時間が経過すると、合成樹脂供給装置の溶融樹脂塊の保持手段(ホルダー)及び溶融樹脂塊を圧縮成形型に案内する案内手段(スロート)に特定の成分が付着してこれが蓄積し、この蓄積物が溶融樹脂塊の落下を妨げることに起因して、溶融樹脂塊の落下のタイミングが変化してしまうことがわかった。
【0007】
従って本発明の目的は、長期にわたって安定して圧縮成形装置に溶融樹脂塊を供給可能な圧縮成形用ポリエステル樹脂を提供することである。
本発明の他の目的は、長期にわたって安定して溶融樹脂塊を圧縮成形機に供給して、生産性よくプリフォームを成形可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂であって、固有粘度が0.6乃至1.3dL/gの範囲にあると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%未満、モノヒドロキシエチルテレフタレート及びビスヒドロキシエチルテレフタレートの合計含有量が0.005重量%以下であることを特徴とする圧縮成形用ポリエステル樹脂が提供される。
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂においては、温度265℃及び剪断速度2000sec−1のときの溶融粘度が100乃至500Pa・sの範囲であることが好適である。
【0009】
本発明によればまた、上記ポリエステル樹脂を用い、該ポリエステル樹脂から成る溶融樹脂塊を搬送手段により圧縮成形機に供給し、これを圧縮成形することを特徴とするプリフォームの製造方法、及びこの製造方法により得られるプリフォームが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂によれば、溶融樹脂塊の落下のタイミングが変化することがなく、安定して圧縮成形機への溶融樹脂塊の供給が可能となる。
また使用するポリエステル樹脂のジエチレングリコール含有量が2.3モル%未満、モノヒドロキシエチルテレフタレート及びビスヒドロキシエチルテレフタレート合計含有量が0.005重量%以下であることにより、溶融樹脂塊のスムーズな落下を妨げる直接的な原因となるオリゴマー成分、高分子量成分の含有量にかかわらず、搬送手段への樹脂の付着を抑制することができ、効率よく圧縮成形によりプリフォームを成形することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂は、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂であって、固有粘度が0.6乃至1.3dL/gの範囲にあると共に、ジエチレングリコール(以下、DEGという)含有量が2.3モル%未満、モノヒドロキシエチルテレフタレート(以下、MHETという)及びビスヒドロキシエチルテレフタレート(以下、BHETという)の合計含有量が0.005重量%以下であることが重要な特徴である。
【0012】
前述した通り、ポリエステル樹脂から成るプリフォームを圧縮成形により成形する場合、圧縮成形機へポリエステル樹脂の溶融樹脂塊(ドロップ)を供給するのに、供給装置が用いられており、この供給装置における溶融樹脂塊を保持する保持手段(ホルダー)及び保持手段から圧縮成形型への案内となる案内手段(スロート)に溶融樹脂塊との接触回数を重ねることにより付着物が蓄積し、成形機の運転開始からある程度の時間が経過すると、この蓄積物に溶融樹脂塊(ドロップ)が引っかかり、溶融樹脂塊の落下のタイミングが変化して、設定された圧縮成形機とのタイミングが合わなくなり、溶融樹脂塊が圧縮成形型に確実に供給できないという問題が生じていた。
【0013】
上記溶融樹脂塊の落下タイミングの変化においては、特にオリゴマー成分及び絡み合い点間重合度以下の高分子量成分がその直接的な原因であることが既に本発明者等により明らかであるが(特願2004-155734号)、本発明においては、ポリエステル樹脂中のDEG含有量が2.3モル%未満、特に1.0乃至2.2モル%の範囲にあることにより、溶融樹脂塊のスムーズな落下を妨げる直接的な原因となる上記オリゴマー成分及び絡み合い点間重合度以下の高分子量成分の含有量にかかわらず、搬送手段への樹脂の付着を抑制することができ、効率よく圧縮成形によりプリフォームを成形することが可能となるのである。
本発明においてDEG量がポリエステル樹脂の搬送手段への樹脂の付着を抑制する理由は、本発明者等の実験の結果見出されたものであり、その理由は明らかでないが、DEGは熱安定性に劣るため分子鎖が切れやすく、その結果、低分子量成分の含有量が多くなること、またDEG量が多くなるとポリエステル樹脂の融点が降下するため、溶融樹脂塊の押出温度での樹脂の粘着性が増加するためであると考えられる。
【0014】
本発明のこのような作用効果は後述する実施例の結果からも明らかである。すなわちDEG含有量が2.3モル%未満のポリエステル樹脂を用いた場合では、ホルダーに粘着することがなく、溶融樹脂塊が長期にわたって圧縮成形機に供給できるのに対して(実施例1〜5)、DEG量が2.3モル%以上のポリエステル樹脂を用いた場合には、運転開始からある程度の時間が経過すると、ホルダーに粘着を生じて溶融樹脂塊のスムーズな落下が妨げられ、落下のタイミングが変化して、圧縮成形機への安定供給が不可能になる(比較例3、4)。
【0015】
また、ホルダーにオリゴマー成分及び高分子量成分が付着するには、モノマー成分が介在するため、本発明においては、溶融樹脂塊の落下を妨げる直接的な原因であるオリゴマー成分及び高分子成分付着のバインダーとなるモノマー成分のうち、特に低融点で粘着の原因になると考えられるMHET及びBHETの合計量がペレット中に0.005重量%以下であることにより、上述したDEG含有量と相俟って、オリゴマー成分や高分子量成分の付着を有効に防止することが可能となり、ホルダー等の蓄積物を低減させて、溶融樹脂塊の落下のタイミングを長期にわたって安定化させることが可能となるのである。またMHET及びBHETの量が上記範囲よりも多いと、ホルダーへのMHET及びBHETの付着が多くなりオリゴマー成分及び高分子成分の付着を誘導し、結果として溶融樹脂塊の落下のタイミングの変化が促進される。
【0016】
本発明のこのような作用効果は後述する実施例の結果からも明らかであり、MHET及びBHETの合計量が0.005重量%よりも多いポリエステル樹脂においては、DEG含有量が本発明にある場合であっても、オリゴマー成分や高分子量成分の付着が見られると共に、圧縮成形性にも劣っている(比較例2)。
【0017】
(ポリエステル樹脂の合成)
本発明のポリエステル樹脂としては、固有粘度が0.6乃至1.3dL/gの範囲にあると共に、ジエチレングリコール(以下、DEGという)含有量が2.3モル%未満、モノヒドロキシエチルテレフタレート(以下、MHETという)及びビスヒドロキシエチルテレフタレート(以下、BHETという)の合計含有量が0.005重量%以下とする以外は、従来公知のポリエステル樹脂の合成法により調製することができ、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール又はそのエステル形成性誘導体とを主体とする原料を、触媒の存在下に液相重合及び固相重合させることにより得られる。
【0018】
ポリエステル樹脂の合成は一般に、高純度テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)とを直接反応させてポリエチレンテレフタレート(PET)を合成する方法により行われ、通常2つの工程に分けられており、(A)TPAとEGとを反応させて、ビス−β−ヒドロキエチルテレフタレート(BHET)又はその低重縮合体を合成する工程、(B)BHET又はその低重縮合体からエチレングリコールを留去して重縮合を行う工程から成っている。
【0019】
BHET又はその低重縮合体の合成はそれ自体公知の条件で行うことができ、例えばTPAに対するEGの量を1.1〜1.5モル倍として、EGの沸点以上、例えば220〜260℃の温度に加熱して、1〜5kg/cmの加圧下に、水を系外に留去しながら、エステル化を行う。この場合、TPA自体が触媒となるので、通常触媒は必要ないが、それ自体公知のエステル化触媒を用いることもできる。
【0020】
第二段階の重縮合工程では、第一段階で得られたBHET又はその低重縮合体にそれ自体公知の重縮合触媒を加えた後、反応系を260〜290℃に保ちながら徐々に圧力を低下させ、最終的に1〜3mmHgの減圧下に撹拌し、生成するEGを系外に留去しながら、反応を進行させる。反応系の粘度によって分子量を検出し、所定の値に達したら、系外に吐出させ、冷却後チップとする。重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アンチモン化合物等が使用されるが、二酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシドなどのゲルマニウム化合物を用いることが、結晶化温度域を前述した範囲に保つ上で好ましい。
【0021】
尚、ポリエステル樹脂中のDEG含有量を低減させるには、反応条件、添加剤等を適宜選択することによりコントロールすることができ、この場合の添加剤としては、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン等の第3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の第4級アンモニウム、及び炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等の塩基性化合物を挙げることができ、その添加量は、0.005乃至1重量%の範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂においては、エチレンテレフタレート単位を主体とする、すなわちエステル反復単位の50モル%以上がエチレンテレフタレート単位から成るポリエステル樹脂であるが、エステル反復単位の大部分、一般に70モル%以上、特に80モル%以上をエチレンテレフタレート単位を占めるものが特に好ましく、ガラス転移点(Tg)が50乃至90℃、特に55乃至80℃で、融点(Tm)が200乃至275℃、特に220乃至270℃にある熱可塑性ポリエステルが好適である。
【0023】
ホモポリエチレンテレフタレートが耐熱圧性の点で好適であるが、エチレンテレフタレート単位以外のエステル単位の少量を含む共重合ポリエステルも使用し得る。テレフタル酸以外の二塩基酸としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;の1種又は2種以上の組合せが挙げられ、エチレングリコール以外のジオール成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0024】
ポリエステル樹脂を結晶化するに伴い内部に含有される環状三量体等の低分子量成分は外部に析出し、低分子量成分の含有量は減少する。この結晶化温度は、低分子量成分の含有量の減少に関して最適範囲があり、一般にホモポリエチレンテレフタレートの場合で、100乃至140℃、特に115乃至125℃の範囲が適当であり、また処理時間は100乃至180分間、特に120乃至150分間が適当である。ポリエステル樹脂ペレットの結晶化のための熱処理は、例えば加熱窒素ガス等の加熱不活性ガスを用いて、流動床または固定床で行うことができ、また真空加熱炉内で行うこともできる。
【0025】
次いで、必要により、この結晶化されたポリエステル樹脂のペレットを固相重合させる。この固相重合に際しては、溶融重合の場合とは異なり、固有粘度の増大に伴って、搬送手段への付着の原因となる低分子量成分や絡み合い点間重合度以下の高分子量成分の低下を生じる。また、一般に固相重合温度の上昇に伴って低分子量成分及び絡み合い点間重合度以下の高分子量成分の含有量が低下し、重合時間の増大に伴って低分子量成分及び絡み合い点間重合度以下の高分子量成分の含有量が低下する。固相重合は、一般に160乃至260℃の温度、特に180乃至200℃の温度で2乃至10時間、特に4乃至6時間行うことが好ましい。固相重合時の加熱は、温度を変更する以外は結晶化の場合と同様であってよい。この固相重合時にもポリエステル樹脂の結晶化はある程度進行する。
【0026】
本発明の圧縮成形ポリエステル樹脂においては、固有粘度が0.60乃至1.3dL/gの範囲、特に0.65乃至0.90dL/g範囲にあることも重要であり、これにより溶融樹脂のドローダウン傾向を抑制すると共に、圧縮成形の際、樹脂の流動性が劣り、プリフォームにカッターマークに起因する傷の発生を防止することが可能となる。
また本発明においては温度265℃における剪断速度2000(1/sec)の溶融粘度が100乃至500Pa・sの範囲にあることが望ましい。これによりドローダウン傾向を抑制しながら、圧縮成形の際の溶融樹脂のスムーズな流動を可能にし、成形性を向上することが可能になる。尚、温度265℃における剪断速度2000(1/sec)の溶融粘度を基準にするのは、圧縮成形の際の雌型及び雄型表面により溶融樹脂に生じる流動歪を基準としているからであり、かかる流動歪が生じる際の溶融粘度を上記範囲に設定することにより、溶融押出し時のドローダウン傾向の抑制と圧縮成形の際の溶融樹脂の流動性という、相反する特性の両方を満足することが可能となる。
【0027】
(プリフォームの製造方法)
本発明のプリフォームの製造方法は、上述したポリエステル樹脂を用いる以外は、従来公知の圧縮成形法により成形することができる。
このように使用するポリエステル樹脂として、固有粘度が0.6乃至1.3dL/g、DEG含有量が2.3モル%未満であり、MHET及びBHETの合計量が0.005重量%以下のポリエステル樹脂を用いることにより、長時間連続運転を行っても、圧縮成形機への溶融樹脂塊の供給装置におけるホルダー及びスロート等の溶融樹脂塊の搬送手段に付着物の蓄積がなく、搬送手段の頻繁な清掃の必要がなく、生産効率よくプリフォームを製造することが可能となる。
【0028】
すなわち、押出機により本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂の溶融物を連続的に押し出すと共に、合成樹脂供給装置の切断手段(カッター)によりこれを切断して、溶融状態にあるプリフォーム用の前駆成形体である溶融樹脂塊(ドロップ)を製造し、この溶融樹脂塊を保持手段(ホルダー)で保持し、圧縮成形機のキャビティ型に案内手段(スロート)を介して投入した後、これをコア型で圧縮成形し、冷却固化することによりプリフォームを成形する。
【0029】
また本発明のプリフォームの製法においては、溶融ポリエステル樹脂の溶融押出温度が、ポリエステル樹脂の融点(Tm)を基準として、Tm+5℃乃至Tm+40℃、特にTm+10℃乃至Tm+30℃の範囲であることが、一様な溶融押出物を形成すると共に、樹脂の熱劣化やドローダウンを防止する上で好ましい。
また溶融樹脂の混練を押出機で行う際、ベントを引いて行うことが特に好ましく、これによりオリゴマー成分、絡み合い点間重合度以下の高分子量成分の溶出を抑制し、一層溶融押出物の粘着を抑制してホルダー及びスロートへの付着を防止することが可能となる。
【0030】
図1及び図2は、本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂を用いてプリフォームを成形する際に用いる成形装置を示す説明図であり、図1は成形システムの全体を示す図であり、図2は、図1のX部分における断面図であり、溶融樹脂塊を落下させるために切断・保持手段が溶融樹脂塊を挟持している状態を示す部分断面図である。
全体を1で示す圧縮成形装置は、矢印Aで示す方向に回転駆動する比較的大径の回転円盤38を含み、この回転円盤38の周縁には、周方向に等間隔をおいて複数個の成形型40が配設されている。成形型40の各々は、雌型48及び雄型50から成り、成形型40が溶融樹脂塊の供給位置に位置すると、雄型は開位置に上昇し、雌型48内に剛性樹脂供給装置20の切断・保持機構22から溶融樹脂塊34が供給される。成形型40が成形域に位置すると、雄型50が閉位置に下降し、雌型48と雄型50の協働により溶融樹脂塊34が所要形状のプリフォームに圧縮成形される。成形型40が搬出位置に至ると雄型50は開位置に上昇して、成形されたプリフォームが取り出される。
【0031】
更に詳細に説明すると、押出機から押出されたストランドを切断手段28で切断してなる溶融樹脂塊34をホルダー30及びプッシャー32から成る切断・保持手段で保持する。成形型40が供給位置に至ると、プッシャー32が移動して溶融樹脂塊34が下方に落下する。雌型48にはスロート56が設けられており、このスロート56を介して溶融樹脂塊34が雌型48内に安定して供給される。本発明においては特にホルダー及びスロートに溶融樹脂塊からのオリゴマー成分や高分子量成分の付着が抑制されているので、溶融樹脂塊の落下のタイミングが一定であり、安定して成形型に溶融樹脂塊を長期にわたって供給することが可能となるのである。
【0032】
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂を用いて成形されたプリフォームは、延伸ブロー成形されることにより、ボトル、広口カップ等の延伸成形容器に成形される。
延伸ブロー成形においては、本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂を用いて成形されたプリフォームを延伸温度に加熱し、このプリフォームを軸方向に延伸すると共に周方向に二軸延伸ブロー成形して二軸延伸容器を製造する。
尚、プリフォームの成形とその延伸ブロー成形とは、コールドパリソン方式の他、プリフォームを完全に冷却しないで延伸ブロー成形を行うホットパリソン方式にも適用できる。
延伸ブローに先立って、必要により、プリフォームを熱風、赤外線ヒーター、高周波誘導加熱等の手段で延伸適正温度まで予備加熱する。その温度範囲はポリエステルの場合85乃至120℃、特に95乃至110℃の範囲あるのがよい。
【0033】
このプリフォームをそれ自体公知の延伸ブロー成形機中に供給し、金型内にセットして、延伸棒の押し込みにより軸方向に引っ張り延伸すると共に、流体の吹込みにより周方向へ延伸成形する。金型温度は、一般に室温乃至230℃の範囲にあることが好ましいが、後述するようにワンモールド法で熱固定を行う場合は、金型温度を120乃至180℃に設定することが好ましい。
最終のポリエステル容器における延伸倍率は、面積倍率で1.5乃至25倍が適当であり、この中でも軸方向延伸倍率を1.2乃至6倍とし,周方向延伸倍率を1.2乃至4.5倍とするのが好ましい。
【0034】
本発明のポリエステル容器は、それ自体公知の手段で熱固定することもできる。熱固定は、ブロー成形金型中で行うワンモールド法で行うこともできるし、ブロー成形金型とは別個の熱固定用の金型中で行うツーモールド法で行うこともできる。熱固定の温度は120乃至230℃の範囲が適当である。
また他の延伸ブロー成形方法として、本出願人にかかる特許第2917851号公報に例示されるように、プリフォームを、1次ブロー金型を用いて最終成形品よりも大きい寸法の1次ブロー成形体とし、次いでこの1次ブロー成形体を加熱収縮させた後、2次ブロー金型を用いて延伸ブロー成形を行って最終成形品とする二段ブロー成形法を採用してもよい。
【実施例】
【0035】
1.PET樹脂ペレットの各種測定
(1)固有粘度(IV)
150℃4時間乾燥させたPET樹脂ペレットを0.20g計量し、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール(1/1)(重量比)の混合溶媒を20ml用いて120℃で20分間撹拌させて完全に溶解させる。溶解後、室温まで冷却し、グラスフィルターを通した溶液を30℃に温調されたウベローデ粘度計[(株)草野科学機械製作所社製]を用いて固有粘度を求めた。
【0036】
(2)DEG量
成形したプリフォームのネックリング下約5mm部分からサンプルを切り出し、重トリフルオロ酢酸/重クロロホルム(1/1)(重量比)の混合溶媒に溶解させ、NMR装置[EX270:日本電子データム(株)]にて1H-NMRスペクトルを測定した。得られたスペクトルのうち、DEG部位(4.27ppm)、テレフタル酸部位(8.22ppm)に由来するピークの積分値の比率からDEGの含有率を算出した。
【0037】
(3)MHETとBHETの含有率
PET樹脂ペレット0.5000gを正確に計量し、三角フラスコ内でヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム(1/1)10mlに完全に溶解させ、溶解後、クロロホルム20mlを加えた。この溶液にHPLC用テトラヒドロフラン(THF)を徐々に滴下して計200ml加えた後、4時間放置してPETポリマーを析出させる。この抽出液を5A濾紙で濾過し、濾液をナス型フラスコに取る。エバポレーターでこの液を乾固直前まで濃縮し、残渣をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、メスフラスコ内で10mlにメスアップする。この溶液を、HPLCを用いて分析・定量した。MHETおよびBHETは環状3量体の検量線を用いて定量化し、ペレット中の含有率を計算した。
【0038】
(4)溶融粘度の測定
150℃4時間乾燥させたPET樹脂ペレットを溶融粘度測定装置[CAPIROGRAPH 1B:(株)東洋精機製作所製]を用いて測定温度265℃、せん断速度2000sec−1における溶融粘度を求めた。このとき樹脂の溶融時間は5分、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1.0mmとした。
【0039】
2.圧縮成形時の溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性の評価
PET樹脂ペレットを150℃4時間乾燥させて270℃で押出し、切断手段で切断して溶融樹脂塊を連続成形した。この溶融樹脂塊を用いたプリフォームの圧縮成形開始2時間後、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウンの有無、及びプリフォームの賦形性を目視で評価した。
【0040】
(実施例1)
固有粘度0.65dL/g、DEG2.1mol%、MHETとBHETの合計の含有率が0.0029重量%、265℃の溶融粘度154Pa・sのPET樹脂を用いて圧縮成形を行い、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
【0041】
(実施例2)
固有粘度0.74dL/g、DEG1.9mol%、MHETとBHETの合計の含有率が0.0022重量%、265℃の溶融粘度186Pa・sのPET樹脂を用いて圧縮成形を行い、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
【0042】
(実施例3)
固有粘度0.75dL/g、DEG2.2mol%、MHETとBHETの合計の含有率が0.0022重量%、265℃の溶融粘度189Pa・sのPET樹脂を用いて圧縮成形を行い、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
【0043】
(実施例4)
固有粘度1.00dL/g、DEG2.2mol%、MHETとBHETの合計の含有率が0.0048重量%、265℃の溶融粘度274Pa・sのPET樹脂を用いて圧縮成形を行い、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
【0044】
(実施例5)
固有粘度1.27dL/g、DEG2.2mol%、MHETとBHETの合計の含有率が0.0000重量%、265℃の溶融粘度457Pa・sのPET樹脂を用いて圧縮成形を行い、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
【0045】
(比較例1)
固有粘度0.58dL/g、DEG2.2mol%、MHETとBHETの合計の含有率が0.0031重量%、265℃の溶融粘度98Pa・sのPET樹脂を用いて圧縮成形を行い、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
【0046】
(比較例2)
固有粘度0.74dL/g、DEG2.2mol%、MHETとBHETの合計の含有率が0.0053重量%、265℃の溶融粘度172Pa・sのPET樹脂を用いて圧縮成形を行い、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
【0047】
(比較例3)
固有粘度0.74dL/g、DEG2.7mol%、MHETとBHETの合計の含有率が0.0061重量%、265℃の溶融粘度180Pa・sのPET樹脂を用いて圧縮成形を行い、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
【0048】
(比較例4)
固有粘度0.76dL/g、DEG2.8mol%、MHETとBHETの合計の含有率が0.0038重量%、265℃の溶融粘度179Pa・sのPET樹脂を用いて圧縮成形を行い、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
【0049】
(比較例5)
固有粘度1.40dL/g、DEG2.1mol%、MHETとBHETの合計の含有率が0重量%、265℃の溶融粘度測定不能のPET樹脂を用いて圧縮成形を行い、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
【0050】
上述した実施例及び比較例の観察結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のプリフォームの製造方法に用いる成形装置を示す説明図であり、成形システムの全体を示す図である。
【図2】図1のX部分における断面図であり、溶融樹脂塊を落下させるために切断・保持手段が溶融樹脂塊を挟持している状態を示す部分断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂であって、固有粘度が0.6乃至1.3dL/gの範囲にあると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%未満、モノヒドロキシエチルテレフタレート及びビスヒドロキシエチルテレフタレートの合計含有量が0.005重量%以下であることを特徴とする圧縮成形用ポリエステル樹脂。
【請求項2】
温度265℃及び剪断速度2000sec−1のときの溶融粘度が100乃至500Pa・sの範囲にある請求項1記載の圧縮成形用ポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2記載の圧縮成形用ポリエステル樹脂を用い、該ポリエステル樹脂から成る溶融樹脂塊を搬送手段により圧縮成形機に供給し、これを圧縮成形することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の製造方法により得られるプリフォーム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52307(P2006−52307A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234546(P2004−234546)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】