説明

圧縮機の潤滑剤供給構造

【課題】部品点数の増加を招くことなくシール部を効果的に潤滑すると共に簡易な構成でシール部の潤滑剤がシール部から圧縮機の機内に過剰に還流するのを抑制する。
【解決手段】圧縮機1のハウジング8の内壁面、シール部36、軸受部37及び駆動軸33の側面で軸シール室60を画成し、軸シール室60とクランク室32とを連通路61を介して連通して、潤滑剤がクランク室32から軸シール室60まで移動した後、軸シール室60から軸受部37を介してクランク室32に戻る潤滑剤循環経路を構成し、連通路61の軸シール室60側の開口を、クランク室32からシール部36の摺動面57に沿うと共に駆動軸33の外側に向けて延びる直線状の基準線Xを採った場合にこの基準線Xよりも駆動軸33の先端側に位置するようにする。そして、シール部36の回転部材52とハウジング8の内壁との隙間を相対的に狭める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両用空調装置等に用いられる圧縮機の構造に関し、特に、圧縮機の駆動軸のシール部に対して潤滑剤を効果的に供給するための構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧縮機の軸封部に対する潤滑剤の供給構造としては、例えば特許文献1に示されるように、クランク室から軸シール部材に延びる油通路を設け、この油通路を介して潤滑油をクランク室から軸シール部材とラジアルベアリングとに導く構造が既に公知となっている。
【0003】
また、圧縮機の軸封部に対する潤滑剤の供給構造としては、例えば特許文献2に示されるように、オイル分離器で分離された潤滑油を、潤滑油戻し通路からラジアル軸受及びメカニカルシールを収納した空間に供給することにより、この空間内のラジアル軸受及びメカニカルシールが潤滑油によって潤滑される構造についても既に公知となっている。
【0004】
更に、圧縮機の軸封部に対する潤滑剤の供給構造としては、例えば特許文献3に示されるように、オイル分離器で分離されたオイル含有量の多い冷媒とオイル含有量の少ない冷媒のうちオイル含有量の多い冷媒とについて、2つの連続する通路を介して圧縮機のメカニカルシールを構成する固定リングと回転リングとの摺動面に供給する構造についても既に公知となっている。
【0005】
更にまた、圧縮機の軸封部に対する潤滑剤の供給構造としては、例えば特許文献4に示されるように、クランク室から油通路を介して軸シール室に潤滑油が供給される構造としつつ、軸貫通孔のうち軸シール部材と対向する壁面に窪み部を形成すると共にこの窪み部の内壁面に突起を設けることにより、相対的に多くの潤滑油を軸シール部材に保持することで、軸シール部材に対する潤滑効果を向上する構造について既に公知となっている。
【0006】
その一方で、圧縮機の駆動軸の軸封構造として、例えば特許文献5に示されるように、静止側のメイティングリング(本願実施例1の固定部材と同義。)と回転側のシールリング(本願実施例1の回転部材と同義。)とからなるメカニカルシールが採用され、このメイティングリングの摺動端面とシールリングの摺動端面とが密接してシールを行う高圧ガス圧縮機用軸シール装置も既に公知となっている。
【0007】
そして、この特許文献5に示される高圧ガス圧縮機用軸シール装置では、リップシールがシールリングに定着され、メイティングリングの摺動端面に弾性的に摺接される摺動リップの先端に、シールリングと共にリップシールが回転したときにその内周の主シール部側に向けて流体力学的ポンプ作用を生ずるスパイラル溝が設けられている。これにより、圧縮機の駆動時において、リップシールの摺動リップと相手側摺動面との間にスパイラル溝によって漏れ方向の流体力学的ポンプ作用を生ずると共にスパイラル溝による流体力学的な動圧によってリップシールの摺動面が押し広げられるので、メイティングリングとシールリングとで形成される主シール部にその外周側から圧縮機の機内の潤滑油が供給されるとしている。
【特許文献1】特開平10−227281号公報
【特許文献2】特開平10−253177号公報
【特許文献3】特開2000−283040号公報
【特許文献4】特開2004−176543号公報
【特許文献5】特開2000−136881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1から特許文献3に記載の圧縮機の潤滑剤供給構造では、潤滑油が軸シール部材の周辺領域に滞留せず素通りしてしまうことから、軸シール部材が相対的に多くの潤滑油を保持することができず、軸シール部材における潤滑油の不足を招く事態が推察される。
【0009】
これに対し、特許文献4に記載の圧縮機の潤滑剤供給構造によれば、上述したように、軸貫通孔のうち軸シール部材と対向する壁面に窪み部を形成すると共にこの窪み部の内壁面に突起を設けたことにより、軸シール部材は相対的に多くの潤滑剤を保持することが可能となるところ、軸貫通孔に窪み部を形成し、更にはこの窪み部に突起を形成するので、これらの加工が困難であり、工数が増加して圧縮機全体の製造コストが高くなるとの不具合を有する。
【0010】
また、特許文献4に記載の圧縮機の潤滑剤供給構造によれば、油通路の軸シール室側開口部が軸シール部材の摺動面よりも圧縮機の機内側(クランク室側)にずれて位置しているので、軸シール室に導入された潤滑剤が軸シール部材の摺動面に到達するまでにラジアルニードルベアリングを介して圧縮機の機内(クランク室内等)に還流してしまうという不都合もあった。
【0011】
その一方で、特許文献5に記載の高圧ガス圧縮機用軸シール装置の構造では、圧縮機の駆動時に、メイティングリングとシールリングとで形成される主シール部に圧縮機の機内の潤滑油を供給するにあたり、潤滑油はリップシールでむしろ遮られるので、その供給量が最小限となり、メカニカルシールに導入される潤滑油の経路はメカニカルシールの外径側部を通過するので、前記主シール部に対し潤滑油を効果的に供給することができず、更に、駆動軸の回転による遠心力によりメカニカルシールの外径側部から積極的に流出してしまうことから、潤滑油の流動による冷却効果も期待することができなくなり、リップシールの摺動による発熱増加を招くという不具合を有する。しかも、スパイラル溝の形成されたリップシール等が追加部品として必要であるので、部品点数が増加し、圧縮機全体の製造コストも高くなるとの不都合も有する。
【0012】
そこで、本発明は、追加部品を不要としつつ、シール部の摺動面を効果的に潤滑させ、簡易な構成でシール部の摺動面周辺領域の潤滑剤が当該摺動面周辺領域から圧縮機の機内側に不必要に還流するのを抑制した圧縮機の潤滑剤供給構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る圧縮機の潤滑剤供給構造は、内部にクランク室が画成されたハウジングと、このハウジングに対し前記クランク室を貫通するように配置された駆動軸と、この駆動軸を前記ハウジングに回転自在に支持する軸受部と、前記駆動軸の回転を冷媒の圧縮作用に変換する圧縮手段と、前記駆動軸の側面に配置されて冷媒が前記ハウジングから外部に漏洩することを防止するシール部とを備えた圧縮機において、このシール部は、前記駆動軸の回転に同期して回転する回転部材と、この回転部材に対し前記駆動軸の軸方向に沿った側のうち前記圧縮機の機内側にて前記ハウジングに保持されることで非回転の固定部材とを有して構成されており、これらの回転部材と固定部材とは、この回転部材と固定部材のうちいずれか一方から突出した摺動突部とこの摺動突部を有しない回転部材又は固定部材のうち前記摺動突部と対向する側端面とが密着して形成された摺動面を有すると共に、少なくとも前記ハウジングの内壁、前記シール部、及び前記軸受部で軸シール室が画成されており、この軸シール室と前記クランク室とが前記ハウジングに設けられた連通路により連通して、潤滑剤が、前記クランク室から前記軸シール室まで移動した後、軸シール室から前記軸受部を介して前記クランク室に戻る潤滑剤循環経路が構成され、前記ハウジングの軸シール室を画成する内壁のうち前記連通路の軸シール室側開口近傍部位は、前記連通路から軸シール室側に出た潤滑剤を前記シール部の摺動面に案内することが可能な面の形状をしていることを特徴としている(請求項1)。
【0014】
これにより、クランク室から連通路を介して軸シール室に供給されてきた潤滑剤は、ハウジングの軸シール室を画成する内壁のうち連通路の軸シール室側開口近傍部位の案内用面に吹き付けられた後、このハウジングの案内用面に導かれてシール部の摺動面まで確実に送られるので、潤滑剤は必要十分な量がシール部の摺動面に供給される。
【0015】
また、この発明に係る圧縮機の潤滑剤供給構造は、内部にクランク室が画成されたハウジングと、このハウジングに対し前記クランク室を貫通するように配置された駆動軸と、この駆動軸を前記ハウジングに回転自在に支持する軸受部と、前記駆動軸の回転を冷媒の圧縮作用に変換する圧縮手段と、前記駆動軸の側面に配置されて冷媒が前記ハウジングから外部に漏洩することを防止するシール部とを備えた圧縮機において、このシール部は、前記駆動軸の回転に同期して回転する回転部材と、この回転部材に対し前記駆動軸の軸方向に沿った側のうち前記圧縮機の機内側にて前記ハウジングに保持されることで非回転の固定部材とを有して構成されており、これらの回転部材と固定部材とは、この回転部材と固定部材のうちいずれか一方から突出した摺動突部とこの摺動突部を有しない回転部材又は固定部材のうち前記摺動突部と対向する側端面とが密着して形成された摺動面を有すると共に、少なくとも前記ハウジングの内壁、前記シール部、及び前記軸受部で軸シール室が画成されており、この軸シール室と前記クランク室とが前記ハウジングに設けられた連通路により連通して、潤滑剤が、前記クランク室から前記軸シール室まで移動した後、軸シール室から前記軸受部を介して前記クランク室に戻る潤滑剤循環経路が構成され、前記連通路の軸シール室側の開口は、前記シール部の摺動面に沿うと共に前記駆動軸の外側に向けて延びる直線状の基準線を採った場合に、この基準線よりも前記駆動軸の先端側に位置していることを特徴としている(請求項2)。
【0016】
これにより、クランク室から連通路を介して軸シール室に供給されてきた潤滑剤は、シール部を構成する回転部材に直接に吹き付けられないため、回転部材の回転にて生ずる遠心力により潤滑剤が周囲に飛散することが抑制されて、潤滑剤は必要十分な量がシール部の摺動面に供給される。
【0017】
そして、この発明に係る圧縮機の潤滑剤供給構造は、前記連通路の断面積の数値をA、前記回転部材のうち最もフロントヘッド側となる部位と前記フロントヘッドの軸シール室を画成する内壁面とで形成される略円環状の隙間の面積の数値をBと採った場合に、前記数値Bは、前記数値Aの2倍より大きく、前記数値Aの20倍よりも小さな数値に設定されることを特徴としている(請求項3)。
【0018】
これにより、回転部材のうち最もフロントヘッド側となる部位とフロントヘッドの軸シール室を画成する内壁の面とで形成される隙間を小さくしすぎることにより、摺動面への潤滑油の供給が過剰になると共に潤滑油循環経路を循環する潤滑油の総量が減少して、摺動発熱の冷却効果が悪化するという事態が防止される。また、回転部材のうち最もフロントヘッド側となる部位とフロントヘッドの軸シール室を画成する内壁の面とで形成される隙間を大きくしすぎることにより、摺動面の周辺領域に滞留する潤滑油の量が減少してしまい、潤滑油不足を招くという事態も防止される。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、請求項1に記載の発明によれば、クランク室から連通路を介して軸シール室に供給されてきた潤滑剤が、ハウジングの軸シール室を画成する内壁のうち連通路の軸シール室側開口近傍部位の案内用面に吹き付けられた後、このハウジングの案内用面に導かれてシール部の摺動面まで確実に送られるので、追加部品を必要とすることなく、必要十分な量の潤滑剤をシール部の摺動面に積極的に供給することが可能となる。このため、圧縮機の駆動軸のシール部の気密不良及び発熱による焼き付けを防止することができる。
【0020】
また、請求項2に記載の発明によれば、クランク室から連通路を介して軸シール室に供給されてきた潤滑剤が、シール部を構成する回転部材に直接に吹き付けられるのを防止しているため、回転部材の回転にて生ずる遠心力により潤滑剤が周囲に飛散することが抑制されるので、追加部品を必要とすることなく、必要十分な量の潤滑剤をシール部の摺動面に積極的に供給することが可能となる。このため、圧縮機の駆動軸のシール部の気密不良及び発熱による焼き付けを防止することができる。
【0021】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、回転部材のうち最もフロントヘッド側となる部位とフロントヘッドの軸シール室を画成する内壁の面とで形成される隙間を小さくしすぎることにより、摺動面への潤滑油の供給が過剰になると共に潤滑油循環経路を循環する潤滑油の総量が減少して、摺動発熱の冷却効果が悪化するという事態が防止される。また、回転部材のうち最もフロントヘッド側となる部位とフロントヘッドの軸シール室を画成する内壁の面とで形成される隙間を大きくしすぎることにより、摺動面の周辺領域に滞留する潤滑油の量が減少してしまい、潤滑油不足を招くという事態も防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1において、例えばCO2を冷媒とする冷凍サイクルに用いられるピストン往復動式の容量可変型の斜板式圧縮機1が示されている。この圧縮機1は、シリンダブロック2と、このシリンダブロック2のリア側(図中、右側)にバルブプレート3を介して組み付けられたリアヘッド4と、シリンダブロック2のフロント側(図中、左側)を閉塞するように組付けられたフロントヘッド5とを有して構成されている。これらのフロントヘッド5、シリンダブロック2、バルブプレート3及びリアヘッド4は、締結ボルト7により軸方向に締結されて、圧縮機全体のハウジング8を構成している。
【0024】
このうち、フロントヘッド5は、フロント側には後述する駆動軸33が内装される軸孔5aを有し、リア側には軸孔5よりかなり大きく開口した開口部5bを有する形態となっており、シリンダブロック2はフロントヘッド5の開口部5bの内径寸法と略同じ外径寸法を有する小径部2aと、フロントヘッド5のうち開口部5bの外周部の大外径寸法と略同じ外径寸法を有する大径部2bとを有して構成され、シリンダブロック2の小径部2aがフロントヘッド5内にリア側の開口部から挿嵌されることで、フロントヘッド5とシリンダブロック2とが連結される。
【0025】
シリンダブロック2は、小径部2aにおいては、その径方向の中心部を軸方向に沿って窪ませることにより凹部9が形成されていると共に、この凹部9を中心とする円周上に等間隔に複数のシリンダボア10が形成され、これらのシリンダボア10は、シリンダブロック2をその軸方向に沿って貫通していると共に片頭ピストン11が往復動自在に収納されている。この片頭ピストン11は、シリンダボア10の内径寸法と略同じ外径寸法の頭部11aと後述するクランク室32内に突出した尾部11bとで構成されている。
【0026】
バルブプレート3は、シリンダブロック2の大径部2bとリアヘッド4とに挟まれた状態で配置されているもので、シリンダボア10と下記する吸入室18とを有する吸入孔15が形成されていると共にシリンダボア10と下記する吐出室19とを連通する吐出孔16が形成されている。そして、吸入孔15は図示しない吸入弁を有すると共に、吐出孔16は図示しない吐出弁を有することにより、吸入孔15、吐出孔16は、それぞれ弁体を基点としてそのフロント側とリア側とにおける圧力差に応じて、かかる弁体により開閉されるようになっている。
【0027】
リアヘッド4は、その径方向に沿った内部の中央部に潤滑油(冷凍機油)を回収する潤滑油回収室17が形成されていると共に、この回収室17の外周側には吸入室18が形成され、さらに、この吸入室18に対しリアヘッド4の外周側には吐出室19が形成されている。
【0028】
このうち、吸入室18は、吸入通路20を介して外部に開口した吸入口部21に連通しており、これにより圧縮機1と冷凍サイクルを構成する外部機器から冷媒が流入されるようになっている。そして、この吸入口部21内には異物分離器22が収納されており、この異物分離器22は冷凍サイクルを構成する外部機器から流入する冷媒に含まれる異物を冷媒から分離、回収して、吸入室18に異物が浸入することを防止している。
【0029】
これに対し、吐出室19は、通路23を介して潤滑油分離装置24と接続されている。この潤滑油分離装置24は、円筒空間状の分離室25と、この分離室25内に当該分離室25の軸方向に沿って延びるように収納され、且つその中心点が分離室25の中心点と略同一である導出管26とを有して構成されている。また、潤滑油分離装置24は、逆止め弁27を介して吐出口部28とも接続している。
【0030】
これにより、吐出室19から通路23を介して移動した冷媒ガスは、潤滑油分離装置24の分離室25に送られて導出管26の周囲を旋回することで潤滑油を分離する。そして、潤滑油が分離された冷媒ガスは、導出管26の開口部から導出管26の内部に入り、さらに逆止め弁27から吐出口部28を経由して冷凍サイクルを構成する外部機器に送られる。また、冷媒ガスから分離された潤滑油は、下方に滴下して分離室25の下部と接続する連通路29を介して潤滑油回収室17に導かれる。
【0031】
尚、図1で示される符号30は、圧力制御弁を指しているもので、この圧力制御弁30は、リアヘッド4に設けられており、この圧力制御弁30により吐出室19から下記するクランク室32に送られる冷媒流量を調整することでクランク室32内の圧力を制御することが可能となっている。
【0032】
クランク室32は、フロントヘッド5とシリンダブロック2とによって画成されるもので、このクランク室32には、一端がフロントヘッド5から突出する駆動軸33が当該クランク室32を貫通するかたちで収納されている。この駆動軸33のフロントヘッド5から突出した部分には、所定の駆動源(例えば、車両のエンジン)にベルトを介して連結されるプーリ34が固定されている。また、この駆動軸33の一端側はシール部36を介してフロントヘッド5との間が気密性良く封じられて、駆動軸33に沿って冷媒が圧縮機1の外部に漏洩するのを防止している。このシール部36の詳細な構造については後述する。
【0033】
駆動軸33のフロント側はフロントヘッド5のシール部36よりもクランク室32側に収納されたラジアル軸受部37により支持され、駆動軸33のリア側は、シリンダブロック2に形成された凹部9に配されたラジアル軸受部38と駆動軸33の軸方向にバネ荷重が付勢されたスラスト軸受部39とにより支持されていると共に、駆動軸33のラジアル軸受部37とラジアル軸受部38との間となる中程側は、ラジアル軸受部37よりも圧縮機1の内部側に設けられたアキシャル軸受部40によって支持されている。
【0034】
斜板42は、所定の厚みを有する円板状に形成されているもので、駆動軸33に対し、当該駆動軸33の軸方向に形成された長孔43に挿入された支軸44を中心として傾動可能に取り付けられていると共に、駆動軸33から突出したピン45が斜板42の縦方向溝46に係合することで、駆動軸33の回転と同期して回転するようになっている。この斜板42の周縁部分には、一対のシュー48を介して片頭ピストン11の尾部11bが係留されている。
【0035】
これにより、駆動軸33が回転すると、これに同期して斜板42が一体に回転し、この回転運動がシュー48を介して片頭ピストン11の往復直線運動に変換され、この片頭ピストン11の往復直線運動によりシリンダボア10内において片頭ピストン11とバルブプレート3との間に形成された圧縮室49の容積が変更されるようになっている。
【実施例1】
【0036】
そして、実施例1に係る圧縮機1では、シール部36は、図2に示されるように、環状の固定部材51と、この固定部材51に対し駆動軸33の軸方向に沿った側のうち圧縮機の機内側に位置する環状の回転部材52と、回転部材52よりも圧縮機1の機内側に位置するバネ機構53とより構成されるもので、メカニカルシールとも称されるものである。
【0037】
このうち、固定部材51は、Oリング54を介してフロントヘッド5のうち軸孔5a内に形成された段部50に固定されているもので、この実施例1では、回転部材52側の側端面から摺動突部55が回転部材52に向けて突出形成されており、この摺動突部55の回転部材52側の端面は、駆動軸33の半径方向に沿って延びる平面となっている。回転部材52は、駆動軸33にOリング56を介して駆動軸33に対し軸方向に移動可能に固定されており、この実施例では固定部材51側の端面が駆動軸33の半径方向に沿って延びる平面となっている。これにより、固定部材51のうち摺動突部55の回転部材52側の側端面と回転部材52の固定部材51側の側端面とが密着して摺動面57が形成されている。尚、摺動突部55の構成態様は上記したものに限定されず、駆動軸33の軸方向に沿って伸縮し又は拡縮する弾性体により形成されて、回転部材52と弾性接触することによりシールするものも含まれる。
【0038】
バネ機構53は、駆動軸33の軸方向に沿って付勢する作用を有するバネ本体58と、固定部材51側に開口した空間部を内蔵し、この空間部にバネ本体58を収納したケース59とを有して構成されたものとなっている。これにより、バネ機構53はバネ本体58が回転部材52を固定部材51側に押圧して、固定部材51のうち摺動突部55の回転部材52側の側端面と回転部材52の固定部材51側の側端面とを密着させている。
【0039】
また、フロントヘッド5の軸孔5a内において、固定部材51及びその摺動突部55の外面、回転部材52の外面、バネ機構53のケース59の外面、ラジアル軸受部37の外面及びフロントヘッド5の軸孔5aの内側面たる内壁面とで、軸シール室60が画成されており、この軸シール室60は、クランク室32と連通路61を介して連通していると共に、ラジアル軸受部37、通路62、アキシャル軸受部40を介してもクランク室32と連通している。尚、連通路61のクランク室32側の開口部は、圧縮機1が車両に搭載された際に、駆動軸33の軸心よりも車両の上下方向のうち上側になるように位置している。これにより、クランク室32から連通路61を介して軸シール室60側に流出した潤滑油がラジアル軸受部37、通路62、及びアキシャル軸受部40を経てクランク室32に戻るという潤滑油の循環経路が形成されている。
【0040】
そして、この実施例1に係る圧縮機1においては、連通路61の内径寸法は、クランク室32側の開口部から軸シール室60側の開口部まで一様に同じものであっても、クランク室32側の開口部から軸シール室60側の開口部まで一様に同じではなく、例えば、クランク室32側部位の方が軸シール室60側部位よりも通路内面積が拡がっているものであっても良い。その場合に、連通路61の内径寸法は、通路内面積が最も小さい箇所で数値d1となっており、これに伴い連通路61の内径寸法d1に対しその径方向に切断した断面積の数値がAとなっている。また、この連通路61のクランク室32側の開口部は、この実施例1では回転部材52と固定部材51との擦動面57の近傍に位置している。尚、連通路61の数は1つに限定されず、複数あっても良い。
【0041】
軸シール室60を画成するフロントヘッド5の内壁面のうち連通路61のクランク室32側の開口部の周縁に連なる部分は、駆動軸33の軸方向に沿って圧縮機1のフロント側に進むに従い駆動軸33側に近接するように略凹部状に湾曲した面63に形成されている。但し、この面63は、直線的な傾斜面若しくは湾曲した面と直線的な面との組み合わせであっても良い。いずれの形状であっても、かかる面63の、駆動軸33の軸方向のフロント側の終端は、固定部材51のうち摺動突部55の基端から固定部材51の摺動突部55近傍部位までの範囲の面と接する位置まで延出している。また、面63が湾曲面である場合にその曲率は、例えば潤滑油がこの湾曲した面63を伝わって固定部材51側まで移動することが可能な数値に設定されている。
【0042】
これにより、クランク室32から連通路61を介して軸シール室60まで送られた潤滑油は、フロントヘッド5の軸シール室60を画成する内壁面のうち湾曲面63がガイドの役割を果たすことにより、固定部材51又は摺動突部55に導かれた後、摺動突部55と回転部材52とで形成される摺動面57に送られるので、回転部材52上に潤滑油が直接に導かれることにより潤滑油が飛散するのを防止することができる。
【0043】
更に、この実施例1に係る圧縮機1においては、バネ機構53のケース59の開口端から駆動軸33の軸方向に沿って複数(この実施例では4つ)の係合突出片64が形成されていると共に、回転部材52のうち駆動軸33の軸方向に沿った外周面に、係合突出片64の数に応じて凹部65が形成されて、この凹部65に係合突出片64が係合されたものとなっている。これにより、この係合突出片64は、駆動軸33の回転を伝達する伝達部として機能する。そして、回転部材52の凹部65に対し円周方向の両側となる部位66は、固定部材51側から駆動軸33の軸方向に沿って進むに従い軸シール室60を構成するフロントヘッド5の内壁面(軸孔5aの内周面)に向かって傾斜した傾斜面67を有している。
【0044】
上記の構成において、回転部材52のうち傾斜面67のうち最もフロントヘッド5側となる部位とフロントヘッド5の軸シール室60を画成する内壁面とで形成される略円環状の隙間の面積の数値をBと採り、前述の連通路61の断面積の数値(複数の連通路61がある場合には全ての連通路61の断面積の総和の数値)をAと採ると、この回転部材52とフロントヘッド5の内壁面との隙間の面積の数値Bは、数値Aの2倍より大きく、数値Aの20倍よりも小さな数値に設定される。
【0045】
このような設定をすることによって、回転部材52のうち傾斜面67のうち最もフロントヘッド5側となる部位とフロントヘッド5の軸シール室60を画成する内壁面とで形成される隙間を小さくしすぎることにより、摺動面57への潤滑油の供給が過剰になると共に潤滑油循環経路を循環する潤滑油の総量が減少して、摺動発熱の冷却効果が悪化するという事態が防止される。また、回転部材52のうち傾斜面67のうち最もフロントヘッド5側となる部位とフロントヘッド5の軸シール室60を画成する内壁面とで形成される隙間を大きくしすぎることにより、摺動面57の周辺領域に滞留する潤滑油の量が減少してしまい、潤滑油不足を招くという事態も防止される。
【0046】
また、実施例1に係る圧縮機1では、図2に示されるように、摺動面57から連通路61の軸シール室60の開口部中心までの寸法をL1と採り、摺動面57から回転部材52の傾斜面67の最もフロントヘッド5の内壁面と接近する部位までの寸法をL2と採った場合に、L2の数値はL1の数値よりも常に大きくなるように設定されている。
【0047】
更に、実施例1に係る圧縮機1では、図3に示されるように、1つの係合突出片64の駆動軸33の径方向外側面から、この係合突出片64に対し駆動軸33の中心を基準点として対称の位置にある係合突出片64の駆動軸33の径方向外側面までの寸法の値をD1と採り、摺動面57の駆動軸33に沿った側の外縁からこの外縁に対し駆動軸33を軸線としてその反対側となる外縁までの寸法をD2と採った場合に、D1の数値はD2の数値よりも常に大きくなるように設定されている。
【0048】
このような設定を行うことにより、更に、圧縮機1のシール部36に対し積極的に且つ過不足なく潤滑油を供給することができる。
【実施例2】
【0049】
実施例2に係る圧縮機1では、シール部36は、図4に示されるように、環状の固定部材51と、この固定部材51に対し駆動軸33の軸方向に沿った側のうち圧縮機1の機内側に位置する環状の回転部材52と、固定部材51よりもプーリ34側に位置するバネ機構53とより構成されている。尚、圧縮機1の全体構成については実施例1と同様であるので、圧縮機1の図示及び構成の説明を省略した。
【0050】
シール部36のうち、固定部材51は、フロントヘッド5のうち軸孔5a内において駆動軸33の軸方向に沿って延出した突起部68にOリング54を介して突起部68に対し軸方向に移動可能に固定されていると共に、この実施例では回転部材52側の端面が駆動軸33の半径方向に沿って延びる平面となっている。回転部材52は、駆動軸33にOリング56を介して固定されていると共に、この実施例2では、固定部材51側の側端面から摺動突部55が固定部材51に向けて突出形成されており、この摺動突部55の固定部材51側の端面は、駆動軸33の半径方向に沿って延びる平面となっている。もっとも、摺動突部55の構成態様はこれに限定されず、駆動軸33の軸方向に沿って伸縮し又は拡縮する弾性体により形成されて、固定部材51と弾性接触することによりシールするものも含まれる。
【0051】
バネ機構53は、駆動軸33の軸方向に沿って付勢する作用を有するバネ本体58と、回転部材52側に開口した空間部を内蔵し、この空間部にバネ本体58を収納したケース59とを有して構成されたものとなっている。これにより、バネ機構53は、実施例1とは逆に、バネ本体58が固定部材51を回転部材52側に押圧して、回転部材52のうち摺動突部55の固定部材51側の側端面と固定部材51の回転部材52側の側端面とを密着させている。
【0052】
また、バネ機構53のケース59の開口端から駆動軸33の軸方向に沿って複数の係合突出片64が形成されていると共に、固定部材51のうち駆動軸33の軸方向に沿った外周面に、係合突出片64の数に応じて凹部65が形成されて、この凹部65に係合突出片64が係合されたものとなる。そして、回転部材52は、外側周面において、固定部材51側から駆動軸33の軸方向に沿って進むに従い軸シール室60を構成するフロントヘッド5の内壁面(軸孔5aの内周面)に向かって傾斜した傾斜面67を有したものとなる。
【0053】
よって、回転部材52の傾斜面67のうち最もフロントヘッド5側となる部位とフロントヘッド5の軸シール室60を画成する内壁面とで形成される略円環状の隙間の面積の数値をBと採り、前述の連通路61の断面積の数値(複数の連通路61がある場合には全ての連通路61の断面積の総和の数値)をAと採ると、この回転部材52とフロントヘッド5の内壁面との隙間の面積の数値Bは、数値Aの2倍より大きく、数値Aの20倍よりも小さな数値に設定されることとなる。
【0054】
この実施例2に係る圧縮機1でも、フロントヘッド5の軸孔5a内において、バネ機構53のケース59の外面、固定部材51、回転部材52の外面及びその摺動突部55の外面、ラジアル軸受部37の外面及びフロントヘッド5の軸孔5aの内側面たる内壁面とで、軸シール室60が画成されている。この軸シール室60も、先の実施例1と同様に、クランク室32と連通路61を介して連通していると共に、ラジアル軸受部37、通路62、アキシャル軸受部40を介してもクランク室32と連通していることから、同じく、クランク室32から連通路61を介して軸シール室60側に流出した潤滑油がラジアル軸受部37、通路62、及びアキシャル軸受部40を経てクランク室32に戻るという潤滑油の循環経路が形成されている。
【0055】
そして、連通路61の軸シール室60側の開口は、シール部36の摺動面57に沿うと共に駆動軸33の外側に向けて延びる直線状の基準線Xを採った場合にこの基準線Xよりも駆動軸33の軸方向のフロント側(プーリ34側)に位置している。
【0056】
これにより、クランク室32から連通路61を介して軸シール室60まで送られた潤滑油は、固定部材51側に滴下した後、摺動面57側に移動するので、回転部材52側に滴下したために潤滑油が回転部材52の回転による遠心力で飛散することが防止されている。
【0057】
最後に、実施例2に示されるシール部36の構成、バネ機構53の配置、摺動突起55が固定部材51、回転部材52のいずれが有するかについては、図4に示されるものに限定されない。これは、実施例1についても同様である。これに伴い、実施例2では、連通路61の開口位置は図4と同様としつつ、シール部36については図2及び図3に示すものとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、この発明に係る圧縮機の全体構造を示す断面図である。
【図2】図2は、同上の圧縮機のうち実施例1について、その要部となるシール部及びその周辺部分を示した下記する図3のI−I線断面図である。
【図3】図3は、同上の圧縮機のうち実施例1について、シール部を駆動軸の軸方向から見た状態を示す断面図である。
【図4】図4は、同上の圧縮機のうち実施例2について、その要部となるシール部及びその周辺部分を示した断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 圧縮機
8 ハウジング
32 クランク室
33 駆動軸
36 シール部
37 軸受部
51 固定部材
52 回転部材
55 摺動突部
57 摺動面
60 軸シール室
61 連通路
63 湾曲面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にクランク室が画成されたハウジングと、このハウジングに対し前記クランク室を貫通するように配置された駆動軸と、この駆動軸を前記ハウジングに回転自在に支持する軸受部と、前記駆動軸の回転を冷媒の圧縮作用に変換する圧縮手段と、前記駆動軸の側面に配置されて冷媒が前記ハウジングから外部に漏洩することを防止するシール部とを備えた圧縮機において、
このシール部は、前記駆動軸の回転に同期して回転する回転部材と、この回転部材に対し前記駆動軸の軸方向に沿った側のうち前記圧縮機の機内側にて前記ハウジングに保持されることで非回転の固定部材とを有して構成されており、これらの回転部材と固定部材とは、この回転部材と固定部材のうちいずれか一方から突出した摺動突部とこの摺動突部を有しない回転部材又は固定部材のうち前記摺動突部と対向する側端面とが密着して形成された摺動面を有すると共に、
少なくとも前記ハウジングの内壁、前記シール部、及び前記軸受部で軸シール室が画成されており、この軸シール室と前記クランク室とが前記ハウジングに設けられた連通路により連通して、潤滑剤が、前記クランク室から前記軸シール室まで移動した後、軸シール室から前記軸受部を介して前記クランク室に戻る潤滑剤循環経路が構成され、
前記ハウジングの軸シール室を画成する内壁のうち前記連通路の軸シール室側開口近傍部位は、前記連通路から軸シール室側に出た潤滑剤を前記シール部の摺動面に案内することが可能な面の形状をしていることを特徴とする圧縮機の潤滑剤供給構造。
【請求項2】
内部にクランク室が画成されたハウジングと、このハウジングに対し前記クランク室を貫通するように配置された駆動軸と、この駆動軸を前記ハウジングに回転自在に支持する軸受部と、前記駆動軸の回転を冷媒の圧縮作用に変換する圧縮手段と、前記駆動軸の側面に配置されて冷媒が前記ハウジングから外部に漏洩することを防止するシール部とを備えた圧縮機において、
このシール部は、前記駆動軸の回転に同期して回転する回転部材と、この回転部材に対し前記駆動軸の軸方向に沿った側のうち前記圧縮機の機内側にて前記ハウジングに保持されることで非回転の固定部材とを有して構成されており、これらの回転部材と固定部材とは、この回転部材と固定部材のうちいずれか一方から突出した摺動突部とこの摺動突部を有しない回転部材又は固定部材のうち前記摺動突部と対向する側端面とが密着して形成された摺動面を有すると共に、
少なくとも前記ハウジングの内壁、前記シール部、及び前記軸受部で軸シール室が画成されており、この軸シール室と前記クランク室とが前記ハウジングに設けられた連通路により連通して、潤滑剤が、前記クランク室から前記軸シール室まで移動した後、軸シール室から前記軸受部を介して前記クランク室に戻る潤滑剤循環経路が構成され、
前記連通路の軸シール室側の開口は、前記シール部の摺動面に沿うと共に前記駆動軸の外側に向けて延びる直線状の基準線を採った場合に、この基準線よりも前記駆動軸の先端側に位置していることを特徴とする圧縮機の潤滑剤供給構造。
【請求項3】
前記連通路の断面積の数値をA、前記回転部材のうち最もフロントヘッド側となる部位と前記フロントヘッドの軸シール室を画成する内壁面とで形成される略円環状の隙間の面積の数値をBと採った場合に、前記数値Bは、前記数値Aの2倍より大きく、前記数値Aの20倍よりも小さな数値に設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧縮機の潤滑剤供給構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−257131(P2009−257131A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105030(P2008−105030)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(500309126)株式会社ヴァレオサーマルシステムズ (282)
【Fターム(参考)】