説明

圧縮機

【課題】油インジェクションを行う圧縮機において、余分な動力増加を防止するとともに、複雑な制御を行わなくても等温圧縮による効率のよい運転を行えるようにする。
【解決手段】吸入行程と圧縮行程と吐出行程とを1サイクルとする動作中に、圧縮室(70)内の冷媒の温度がインジェクションされる油の温度になる位置をインジェクション開始点θ1とし、圧縮室(70)内の冷媒の圧力が吐出圧力に達する位置をインジェクション終了点θ2として、インジェクション開始点θ1からインジェクション終了点θ2の範囲の少なくとも一部で油インジェクション動作を行うように、コントローラ(95)で油インジェクション機構(80)を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油インジェクション機構を備えた圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧縮機から吐出された冷媒に含まれる冷凍機油を冷媒から分離して冷却した後に圧縮機構へインジェクションして、冷媒ガスを冷却して圧縮するようにしたものがある(例えば、特許文献1,2参照)。このタイプの圧縮機では、冷媒の圧縮行程を等温変化に近い状態で行えるので、COP(成績係数)を高めることが可能であると考えられる。
【0003】
しかし、このタイプの圧縮機では、冷媒ガスから大量の熱量を奪うために大量の油をインジェクションする必要がある。そして、少しでも多くの油をインジェクションするためには、常に開口させた油インジェクションポートから連続的に油をインジェクションしなければならない。ここで、図13に示すように、ロータリー系の圧縮機(ローリングピストン型や揺動ピストン型の圧縮機)のように吸入行程で油インジェクションポート(24)と冷媒の吸入ポート(76)が連通してしまうものでは、高圧の冷凍機油が吸入ポート(76)に逆流して、圧縮室(70)への冷媒ガスの吸入が阻害されることになり、その結果、吸入損失が増加してしまうおそれがあった。
【0004】
一方、特許文献3には、図16に示すように、液冷媒を霧状にして圧縮室に噴射する液冷媒噴射装置(100)を備えた圧縮機が開示されている。この圧縮機では、必要なインジェクション量の冷媒を圧縮室(70)へ噴霧するために、液冷媒噴射装置(100)の噴射タイミングを制御してインジェクションを行うようにしている。この圧縮機構は、ピストン(73)とブレード(74)が別体になったローリングピストン型の圧縮機構である。
【0005】
特許文献3の圧縮機では、圧縮機回転速度、吸入圧力、吐出圧力、エンタルピ、冷媒循環量などの多くの値から必要な冷却量を計算して液冷媒噴射装置の開口時間やインジェクション量を算出したり、圧縮機入力を測定してそれが最小値になるようにするための計算ロジックをコントローラに実装する必要があった。
【0006】
油インジェクションを行う圧縮機の場合は、できるだけ多くの冷凍機油をインジェクションすることが要求されるため、その量を算出してインジェクションのタイミングを制御する必要があり、特許文献3の圧縮機と同様に制御が複雑になるおそれがあった。そのうえ、油インジェクションを行う圧縮機では、インジェクションされた油の昇圧に要した分だけ動力が増加するため、圧縮機への入力の最小値を推定してインジェクションのタイミングを制御することは困難であった。
【0007】
そこで、吸入行程が終了する位置をインジェクション開始点とし、吐出行程が終了する前の位置をインジェクション終了点として、インジェクション開始点からインジェクション終了点の範囲内で油インジェクション動作を行うように上記インジェクション機構を制御すると、油の逆流を抑えることができ、しかも複雑な制御をしなくても等温圧縮の効果が得られると考えられる。
【特許文献1】特開2003−322421号公報
【特許文献2】特開平4−116348号公報
【特許文献3】特開平2−140489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このようにしても、インジェクションする油の温度が圧縮室内の冷媒温度よりも高い領域では冷媒が過熱されてしまい、過熱圧縮によって余分な仕事量が発生する。そのため、等温圧縮による動力削減とその仕事量とが相殺し合い、油インジェクションの効果が弱まるか、逆に動力が増加してしまうおそれがある。また、吐出行程のようにインジェクションをする油の圧力がシリンダ内圧力と等しいかそれ以上の領域では、冷媒が圧縮されないため温度上昇がなくて油インジェクションによる冷媒冷却の必要がないにもかかわらず、インジェクションが行われてしまうため、余分な動力増加を招いてしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、油インジェクションを行う圧縮機において、余分な動力増加を防止するとともに、複雑な制御を行わなくても等温圧縮による効率のよい運転を行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、圧縮室(70)へ作動流体を吸入して圧縮する圧縮機構(20)と、該圧縮室(70)に冷凍機油を供給する油インジェクション機構(80)とを備えた圧縮機を前提としている。
【0011】
そして、この圧縮機は、上記油インジェクション機構(80)が開閉制御可能に構成され、吸入行程と圧縮行程と吐出行程とを1サイクルとする動作中に、上記圧縮室(70)内の作動流体の温度がインジェクションされる油の温度になる位置をインジェクション開始点とし、圧縮室(70)内の作動流体の圧力が吐出圧力に達する位置をインジェクション終了点として、インジェクション開始点からインジェクション終了点の範囲の少なくとも一部で油インジェクション動作を行うように上記油インジェクション機構(80)を制御する制御手段(95)を備えていることを特徴としている。
【0012】
吸入行程が終了する位置をインジェクション開始点とし、吐出行程が終了する前の位置をインジェクション終了点として、インジェクション開始点からインジェクション終了点の範囲内で油インジェクション動作を行うように上記インジェクション機構を制御すると、油の逆流を抑えることができ、しかも複雑な制御をしなくても等温圧縮の効果が得られるものの、図14に示すように、等温圧縮の効果が薄れてしまう。これに対して、上記第1の発明では、圧縮室(70)内の作動流体の温度がインジェクションされる油の温度になる位置をインジェクション開始点とし、圧縮室(70)内の作動流体の圧力が吐出圧力に達する位置をインジェクション終了点として、インジェクション開始点からインジェクション終了点の範囲の少なくとも一部で油インジェクション動作を行うようにしているので、図15に示すように無駄な動力消費がなく、等温圧縮により削減される仕事量が多くなる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、上記制御手段(95)が、上記インジェクション開始点からインジェクション終了点の範囲の全体で油インジェクション動作を行うように構成されていることを特徴としている。
【0014】
この第2の発明では、第1の発明に対して、より広範囲で油インジェクション動作を行うことが可能となる。
【0015】
第3の発明は、第1または第2の発明において、上記圧縮機構(20)が、圧縮室(70)を有するシリンダ(71)内でのピストン(72)の動作により作動流体を吸入して圧縮するように構成され、かつ、圧縮室(70)が断面円形に形成されるとともに、ピストン(72)が該圧縮室(70)内で偏心回転運動をするように構成されていることを特徴としている。
【0016】
この第3の発明では、ローリングピストン型または揺動ピストン型の圧縮機において、吸入行程中に吸入ポートと油インジェクションポートが連通するときには無駄な油インジェクションを防止でき、圧縮行程中には油インジェクション動作を行うことにより等温圧縮が可能になるのでCOPを高められる。
【0017】
第4の発明は、第1から第3の発明の何れか1つにおいて、作動流体が二酸化炭素であることを特徴としている。
【0018】
この第4の発明では、二酸化炭素を作動流体として用いており、二酸化炭素は高圧圧力が超臨界圧となる冷凍サイクルで使用され、凝縮領域を持たないため、等温圧縮による動力削減効果を特に大きくすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、吸入行程と圧縮行程と吐出行程とを1サイクルとする動作中に、上記圧縮室(70)内の作動流体の温度がインジェクションされる油の温度になる位置をインジェクション開始点とし、圧縮室(70)内の作動流体の圧力が吐出圧力に達する位置をインジェクション終了点として、インジェクション開始点からインジェクション終了点の範囲の少なくとも一部で油インジェクション動作を行うようにしているので、図15に示すように無駄な仕事が発生しないから等温圧縮により削減される仕事量が多くなり、より効率のよい運転を行うことが可能となる。
【0020】
上記第2の発明によれば、より広範囲で油インジェクション動作を行うことが可能となるので、等温圧縮の効果をさらに高めることができる。
【0021】
上記第3の発明によれば、ローリングピストン型または揺動ピストン型の圧縮機において、複雑な制御を行わなくても、吸入行程中に吸入ポートと油インジェクションポートが連通するときには無駄な油インジェクションを防止でき、圧縮行程中には油インジェクション動作を行うことにより等温圧縮が可能になるのでCOPを高められる。
【0022】
上記第4の発明によれば、二酸化炭素を作動流体として用いており、二酸化炭素は高圧圧力が超臨界圧となる冷凍サイクルで使用され、凝縮領域を持たないため、等温圧縮による動力削減効果を特に大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
本発明の実施形態に係る冷凍装置は、室内の空調を行う空気調和装置(10)を構成している。空気調和装置(10)は、冷房運転と暖房運転とを切り換えて行うように構成されている。
【0025】
〈空気調和装置の全体構成〉
図1に示すように、空気調和装置(10)は、冷媒回路(11)を備えている。冷媒回路(11)では、冷媒が循環することで冷凍サイクルが行われる。冷媒回路(11)には、冷媒として二酸化炭素(CO)が充填されている。そして、冷媒回路(11)では、冷媒が臨界圧力以上まで圧縮される冷凍サイクル(いわゆる超臨界サイクル)が行われる。更に、冷媒回路(11)には、ポリアルキレングリコール(PAG)から成る油(冷凍機油)が混在している。
【0026】
冷媒回路(11)には、本発明の圧縮機を構成する油動力回収型圧縮ユニット(C/O)と、膨張ユニット(E)と、室外熱交換器(12)と、室内熱交換器(13)と、第1四方切換弁(14)と、第2四方切換弁(15)とが設けられている。また、冷媒回路(11)には、油分離器(60)と油導入路(64)と油クーラ(67)とが設けられている。
【0027】
油動力回収型圧縮ユニット(C/O)は、圧縮機構(20)と油動力回収機構(40)と電動機(25)とがケーシング(図示省略)の内部に収容されて構成されている。圧縮機構(20)は、ロータリ式の容積型圧縮機を構成している。圧縮機構(20)では、その圧縮室において冷媒が臨界圧力以上まで圧縮される。油動力回収機構(40)は、本体部(41)と出力軸(42)とを有している。油動力回収機構(40)の本体部(41)は、ロータリ式の容積型の流体機械を構成している。出力軸(42)は、圧縮機構(20)と上記本体部(41)とを連結している。電動機(25)は、出力軸(42)を回転駆動させるモータを構成し、出力周波数(即ち、出力軸の回転速度)を可変とするインバータ式に構成されている。
【0028】
油動力回収型圧縮ユニット(C/O)には、圧縮機構(20)へ冷媒を吸入させるための吸入管(22)と、圧縮機構(20)で圧縮された冷媒を吐出させるための吐出管(23)とが設けられている。また、油動力回収型圧縮ユニット(C/O)には、油動力回収機構(40)の本体部(41)へ油(冷凍機油)を流入させるための油流入管(43)と、この本体部(41)の油を流出させるための油流出管(44)とが設けられている。
【0029】
膨張ユニット(E)は、膨張機構(30)と膨張側出力軸(31)と膨張側発電機(35)とがケーシング(図示省略)の内部に収容されて構成されている。膨張機構(30)は、ロータリ式の容積型膨張機構を構成している。膨張機構(30)では、その膨張室において冷媒が膨張して減圧される。膨張機構(30)では、膨張室で膨張した冷媒の動力によって可動部としてのピストン(図示省略)が回転駆動され、ピストンと連結する膨張側出力軸(31)が更に回転駆動される。これにより、膨張側発電機(35)が駆動されて発電が行われる。つまり、膨張側発電機(35)は、膨張機構(30)の膨張側出力軸(31)と連結して駆動される駆動対象を構成している。膨張ユニット(E)で発電された電力は、油動力回収型圧縮ユニット(C/O)や他の要素機械の動力として利用される。また、膨張ユニット(E)には、膨張機構(30)へ冷媒を流入させるための流入管(33)と、膨張機構(30)から冷媒を流出させるための流出管(34)とが設けられている。
【0030】
室外熱交換器(12)は、冷媒を室外空気と熱交換させるための空気熱交換器である。また、室内熱交換器(13)は、冷媒を室内空気と熱交換させるための空気熱交換器である。
【0031】
第1四方切換弁(14)及び第2四方切換弁(15)は、それぞれ第1から第4までのポートを有している。第1四方切換弁(14)では、第1のポートが吐出ライン(18)を介して上記吐出管(23)と接続し、第2のポートが吸入ライン(17)を介して上記吸入管(22)と接続している。また、第1四方切換弁(14)では、第3のポートが室外熱交換器(12)の一端と接続し、第4のポートが室内熱交換器(13)の一端と接続している。
【0032】
第2四方切換弁(15)では、第1のポートが上記流入管(33)と接続し、第2のポートが上記流出管(34)と接続している。また、第2四方切換弁(15)では、第3のポートが室外熱交換器(12)の他端と接続し、第4のポートが室内熱交換器(13)の他端と接続している。
【0033】
第1四方切換弁(14)と第2四方切換弁(15)とは、それぞれ、第1のポートと第3のポートとが連通し且つ第2のポートと第4のポートとが連通する第1状態(図1の実線で示す状態)と、第1のポートと第4のポートが連通し且つ第2のポートと第3のポートが連通する第2状態(図1の破線で示す状態)とに切り換わるように構成されている。
【0034】
油分離器(60)は、上記吐出ライン(18)の途中に設けられている。油分離器(60)は、縦長の略円筒形状の密閉容器から成り、高圧冷媒中から油を分離する油分離手段を構成している。油分離器(60)には、その胴部に冷媒/油流入管(61)が接続され、その頂部に冷媒排出管(62)が接続され、その底部に油排出管(63)が接続されている。油分離器(60)では、冷媒/油流入管(61)から流入した冷媒中から油が分離される。なお、油分離器(60)での油の分離方法としては、旋回流を利用して油を遠心分離する方法や、冷媒である二酸化炭素と油であるPAGとの比重差を利用して油を沈降分離する方法等が挙げられる。そして、油分離器(60)では、油が分離された後の冷媒が冷媒排出管(62)を流出し、分離後の油が油排出管(63)を流出する。
【0035】
油導入路(64)は、油分離器(60)で分離した油を圧縮機構(20)へ供給する流路を構成している。油導入路(64)は、第1導油管(65)と第2導油管(66)とを含んで構成されている。
【0036】
第1導油管(65)は、その始端が油分離器(60)の油排出管(63)と接続し、その終端が油流入管(43)と接続している。第1導油管(65)には、上記油クーラ(67)が設けられている。油クーラ(67)は、油分離器(60)で分離した油を冷却する冷却手段であり、例えば空冷式の熱交換器で構成されている。
【0037】
第2導油管(66)は、その始端が油流出管(44)と接続し、その終端が圧縮機構(20)の中間ポート(油インジェクションポート)(24)と接続している。圧縮機構(20)の中間ポート(24)は、その圧縮室での圧縮行程の途中箇所に開口している。つまり、本実施形態の油導入路(64)は、油分離器(60)で分離した油を圧縮機構(20)の圧縮行程の途中へ供給するように、圧縮機構(20)に接続されている。
【0038】
〈油動力回収機構の構成〉
上記油動力回収機構(40)の構成について図2及び図3を参照しながら更に説明する。
【0039】
油動力回収機構(40)は、油の動力(運動エネルギー)を回収するものである。油動力回収機構(40)の本体部(41)は、いわゆる揺動ピストン型のロータリ式流体機械で構成されている。また、出力軸(42)は、その一端が本体部(41)と連結し、その他端部が圧縮機構(20)の可動部(ピストン)と連結している。つまり、圧縮機構(20)は、油動力回収機構(40)の出力軸(42)と連結して駆動される駆動対象を構成している。また、出力軸(42)には、主軸部(42a)と偏心部(42b)とが形成されている。偏心部(42b)は、主軸部(42a)から偏心し、且つ主軸部(42a)よりも大径に構成されている。
【0040】
油動力回収機構の本体部(41)には、その下部から上部(電動機(25)に近い方から遠い方)へ向かって順に、フロントヘッド(46)、シリンダ(47)、及びリアヘッド(48)が設けられている。シリンダ(47)は、上下に出力軸(42)が貫通する筒状に形成されている。シリンダ(47)は、その下端がフロントヘッド(46)に閉塞され、その上端がリアヘッド(48)に閉塞されている。
【0041】
図3にも示すように、シリンダ(47)の内部(シリンダ室)には、可動部としてのピストン(50)が収容されている。ピストン(50)は、円環状あるいは円筒状に形成されている。ピストン(50)の内部には、出力軸(42)の偏心部(42b)が係合して連結している。ピストン(50)は、その外周面がシリンダ(47)の内周面に、一方の端面がフロントヘッド(46)に、他方の端面がリアヘッド(48)にそれぞれ摺接している。シリンダ(47)内には、その内周面とピストン(50)の外周面との間に油室(49)が形成される。油室(49)は、上記油流入管(43)及び油流出管(44)が連通している。
【0042】
ピストン(50)には、ブレード(51)が一体に設けられている。ブレード(51)は、ピストン(50)の半径方向へ延びる板状に形成されており、ピストン(50)の外周面から外側へ突出している。このブレード(51)はシリンダ(47)のブレード溝(52)に挿入されている。シリンダ(47)のブレード溝(52)は、シリンダ(47)を厚み方向へ貫通すると共に、シリンダ(47)の内周面に開口している。
【0043】
シリンダ(47)には、一対のブッシュ(53)が設けられている。各ブッシュ(53)は、内側面が平面となって外側面が円弧面となるように形成された小片である。シリンダ(47)において、一対のブッシュ(53)は、ブッシュ孔(54)に挿入されてブレード(51)を挟み込んだ状態となる。ブッシュ(53)は、その内側面がブレード(51)と摺接し、その外側面がシリンダ(47)と摺動する。そして、ピストン(50)と一体のブレード(51)は、ブッシュ(53)を介してシリンダ(47)に支持され、シリンダ(47)に対して回動自在で且つ進退自在となっている。
【0044】
シリンダ(47)内の油室(49)は、ピストン(50)及びブレード(51)によって仕切られている。そして、図3におけるブレード(51)の左側の部屋が油流入管(43)と連通し、右側の部屋が油流出管(44)と連通している。
【0045】
以上、油動力回収機構(40)と油分離器(60)と油導入路(64)と油クーラ(67)により、油インジェクション機構(80)が形成されている。
【0046】
〈圧縮機と油インジェクション機構の構成〉
次に、圧縮機構(20)の概略構成と油インジェクション機構(80)の概要について説明する。
【0047】
図4及び図5に示すように、この圧縮機構(20)は、油動力回収機構(40)と同様に、揺動ピストン型のロータリ式流体機械で構成されている。圧縮機構(20)は、圧縮室(70)を有し、この圧縮室(70)へ作動流体である冷媒として二酸化炭素を吸入して、圧縮するように構成されている。また、油インジェクション機構(80)は、油インジェクションポート(24)を開閉可能に構成され、所定のタイミングで上記圧縮室(70)へ冷凍機油を供給するように構成されている。この圧縮機構(20)は、上述したように油動力回収型圧縮ユニット(C/O)のケーシング内に収納されている。
【0048】
この圧縮機構(20)は、圧縮室(70)を有するシリンダ(71)内でのピストン(72)の動作により冷媒を吸入して圧縮するように構成されている。また、この圧縮機構(20)は、圧縮室(70)が断面円形に形成されるとともに、ピストン(72)が該圧縮室(70)内で偏心回転運動をするように構成されている。
【0049】
上記ピストン(72)は、出力軸であるクランク軸(42)のクランクピン(42c)に嵌合して偏心回転運動をする環状部(73)と、この環状部(73)と一体に形成されたブレード(74)とを有している。ブレード(74)は、プレート状であって、環状部(73)の径方向外側へ延在している。シリンダ(71)は、ブレード(74)を摺動可能に保持する揺動ブッシュ(75)を有している。揺動ブッシュ(75)は、それぞれほぼ半円形の吸入側ブッシュ(75a)と吐出側ブッシュ(75b)とから構成されている。吸入側ブッシュ(75a)と吐出側ブッシュ(75b)は、一部で連結して一体にしてもよい。
【0050】
シリンダ(71)には、圧縮室(70)へ冷媒を吸入するように一端が圧縮室(70)に開口した吸入ポート(76)が形成されている。この吸入ポート(76)の他端は、上記吸入ライン(17)の配管が接続される吸入管(図示せず)と連通している。また、シリンダ(71)は、油動力回収機構(40)と同様に、軸方向の両端面を塞ぐ2枚の端板(77)(電動機側の端板(77)をフロントヘッド(77a)といい、電動機と反対側の端板(77)をリヤヘッド(77b)という)を有している。フロントヘッド(77a)とリヤヘッド(77b)の一方には、圧縮室(70)で圧縮された冷媒を油動力回収型圧縮ユニット(C/O)のケーシング内の空間へ吐出するための吐出ポート(78)が形成されている。この吐出ポート(78)には吐出弁としてリード弁(図示せず)が設けられていて、圧縮室(70)内の圧力と上記油動力回収型圧縮ユニット(C/O)のケーシング内の圧力との圧力差が所定値に達すると吐出ポート(78)が開くようになっている。この油動力回収型圧縮ユニット(C/O)のケーシングには吐出管(図示せず)が設けられており、冷媒がこの吐出管を経て冷媒回路(11)の吐出ライン(18)へ吐出される。
【0051】
上記吸入ポート(76)は、図4において縦軸の上方向を0°の位置とすると、そこから横軸の右方向へθsだけ角度をとった位置に設けられている。また、上記油インジェクション機構(80)は、シリンダ(71)に設けられた噴射ノズル部(81)を有し、この噴射ノズル部(81)は角度がθiの位置に設けられていて、油インジェクションポート(24)を介して圧縮室(70)に連通している。なお、以上の構成により、上記吸入ポート(76)と油インジェクションポート(24)は、図6に示す吸入行程中には圧縮室(70)を介して互いに連通する位置に配置されていることになる。
【0052】
上記油インジェクション機構(80)の噴射ノズル部(81)は、円筒状のインジェクションケース(82)と、このインジェクションケース(82)の軸方向へスライド可能なスプール(83)と、このスプール(83)を駆動する駆動機構(84)とを有している。インジェクションケース(82)の一端には、上記油インジェクションポート(24)と連通する油噴射口(85)が形成されている。また、インジェクションケース(82)の他端には、油導入路64)の第2導油部(66)とつながった油供給管(86)が接続されている。
【0053】
上記スプール(83)は、油噴射口(85)側の端部がテーパ状の弁部(87)として形成されている。油噴射口(85)は、インジェクションケース(82)の内面側が、スプール(83)の弁部(87)と同じ角度のテーパ面により形成された弁座(88)になっている。この構成において、スプール(83)が後退して弁部(87)の外周面がインジェクションケース(82)の弁座(88)の内周面から離れると(図4の状態)、油供給管(86)から供給されてきた冷凍機油が弁部(87)と弁座(88)の間の隙間を通って油インジェクションポート(24)から圧縮室(70)内へ噴射される。一方、スプール(83)が前進して弁部(87)の外周面がインジェクションケース(82)の弁座(88)の内周面に圧接すると(図5,6の状態)、油供給管(86)から供給されてきた冷凍機油は、インジェクションケース(82)内が密閉空間になるために、圧縮室(70)へは噴射されなくなる。
【0054】
スプール(83)を軸方向へ進退させる駆動機構(84)としては、ソレノイド機構(89)が用いられている。ソレノイド機構(89)は、スプール(83)に固定された鉄心(90)と、インジェクションケース(82)に固定されたコイル(91)とを有している。インジェクションケース(82)内には、スプール(83)を後退させる方向へバネ力を加えるコイルバネ(92)が設けられ、スプール(83)には、コイルバネ(92)の一端を受けるバネ受け(93)が固定されている。コイルバネ(92)の他端は、インジェクションケース(82)の油噴射口(85)側の端面に接している。
【0055】
上記ソレノイド機構(89)のコイル(91)に電流を流さない状態では、スプール(83)が可動範囲の後端まで後退する。このとき、鉄心(90)はコイル(91)の中心から外れており、スプール(83)の弁部(87)と油噴射口(85)の弁座(88)との間には隙間が形成されている(図4)。一方、ソレノイド機構(89)のコイル(91)に電流を流した状態では、コイルバネ(92)のバネ力に抗して鉄心(90)がスプール(83)の前方へに引っ張られ、スプール(83)の弁部(87)と油噴射口(85)の弁座(88)とが圧接する(図5,6)。このとき、上記の隙間がなくなり、インジェクションケース(82)の内部が密閉空間となる。
【0056】
〈コントローラの構成〉
上記圧縮機構(20)を制御するコントローラ(制御手段)(95)は、図7のブロック図に示すように構成されている。コントローラ(95)は、入力値(諸元)読込部(96)と、測定値(または設定値)読込部(97)と、計算値決定部(98)とを有している。入力値読込部(96)と測定値読込部(97)は、計算値決定部(98)へ信号を送るため、この計算値決定部(98)と接続されている。計算値決定部(98)では、シリンダ容積Vcと、吸入ポート位置θsと、油インジェクション位置θi(以上、入力値読込部(96)のデータ)と、クランク軸(42)の回転速度ωと、クランク軸(42)の回転角度の現在値θcと、吸入ガス温度Tsと、冷媒回路の低圧圧力Lpと、冷媒回路の高圧圧力Hpと、インジェクション油温度Toと、インジェクション油圧力Po(以上、測定値読込部(97)のデータ)とに基づいて、油インジェクション動作のタイミングが求められる。つまり、圧縮途中の冷媒ガス温度をTrとしたときに、Tr=Toとなるインジェクション開始位置θ1と、圧縮途中の冷媒ガス圧力をPrとしたときにPr=Poとなるインジェクション終了位置θ2と、θ1からθ2に達するまでのインジェクション時間Δtとが求められて、これらの値を表す制御信号がコントローラ(95)から油インジェクション機構(80)へ送られる。そして、この制御信号に基づいてソレノイド機構(89)のオンとオフが制御され、油の
噴射タイミングがコントロールされる。なお,圧縮途中の冷媒ガス温度Trと圧縮途中の冷媒ガス圧力Prは,シリンダ容積Vcや吸入ポート位置θsなどの圧縮機諸元と、吸入ガス温度Tsや冷媒回路の低圧圧力Lp、冷媒回路の高圧圧力Hpなどの測定値と、予めコントローラに記録された冷媒物性データとから算出する。図7中のインジェクション開始位置θ1とインジェクション終了点θ2の計算には、圧縮途中の冷媒ガス温度Trと圧縮途中の冷媒ガス圧力Prの算出過程(冷媒温度検出手段と冷媒圧力検出手段)も含まれている。
【0057】
具体的には、吸入行程と圧縮行程と吐出行程とを1サイクルとする動作中に、上記圧縮室(70)内の冷媒の温度Trがインジェクションされる油の温度Toになる位置をインジェクション開始点θ1とし、圧縮室(70)内の冷媒の圧力Trが吐出圧力Hpに達する位置をインジェクション終了点θ2として、コントローラ(95)が、インジェクション開始点θ1からインジェクション終了点θ2の範囲の少なくとも一部で油インジェクション動作を行うように上記油インジェクション機構(80)を制御する。特に、コントローラ(95)を、インジェクション開始点θ1からインジェクション終了点θ2の範囲の全体で油インジェクション動作を行うように構成することが、その範囲の全域にわたって等温圧縮を行えるようにするために好ましい。
【0058】
−運転動作−
実施形態に係る空気調和装置(10)の運転動作について説明する。空気調和装置(10)は、第1四方切換弁(14)及び第2四方切換弁(15)の設定に応じて、冷房運転と暖房運転とが可能となっている。まず、空気調和装置(10)の冷房運転時の基本的な動作について説明する。
【0059】
冷房運転時には、第1四方切換弁(14)及び第2四方切換弁(15)が第1状態(図1に実線で示す状態)に設定され、冷媒回路(11)で冷媒が循環して蒸気圧縮冷凍サイクルが行われる。その結果、冷房運転時には、室外熱交換器(12)が放熱器(凝縮器)となり、室内熱交換器(13)が蒸発器となる冷凍サイクルが行われる。また、冷媒回路(11)では、その高圧圧力が、冷媒である二酸化炭素の臨界圧力よりも高い値に設定され、いわゆる超臨界サイクルが行われる。
【0060】
油動力回収型圧縮ユニット(C/O)では、電動機(25)によって圧縮機構(20)が回転駆動される。圧縮機構(20)では、吸入管(22)から圧縮室へ吸入された冷媒が圧縮され、圧縮された冷媒が吐出管(23)より吐出される。圧縮機構(20)から吐出された冷媒は、吐出ライン(18)を流れ、冷媒/油流入管(61)を通じて油分離器(60)内へ流入する。
【0061】
油分離器(60)の内部では、冷媒中から油が分離され、油と冷媒の比重差により、油が分離された後の冷媒が上部に溜まり、分離後の油が底部に溜まり込む。分離後の冷媒は、冷媒排出管(62)を流出し、室外熱交換器(12)を流れる。室外熱交換器(12)では、高圧冷媒が室外空気へ放熱する。室外熱交換器(12)を流出した冷媒は、流入管(33)を通じて膨張ユニット(E)の膨張機構(30)へ流入する。
【0062】
膨張機構(30)では、膨張室で高圧冷媒が膨張し、これによって膨張側出力軸(31)が回転駆動される。その結果、膨張側発電機(35)が駆動されて、膨張側発電機(35)から電力が発生する。この電力は、圧縮機構(20)や他の要素機械へ供給される。膨張機構(30)で膨張した冷媒は、流出管(34)を通じて膨張ユニット(E)から送り出される。
【0063】
膨張ユニット(E)を流出した冷媒は、室内熱交換器(13)を流れる。室内熱交換器(13)では、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発する。その結果、室内空気が冷やされて冷房が行われる。室内熱交換器(13)を流出した冷媒は、吸入管(22)を通じて圧縮機構(20)へ吸入されて再び圧縮される。
【0064】
このような冷房運転時には、空気調和装置(10)の成績係数(COP)を改善するために、油インジェクション動作が行われる。油インジェクション機構(80)の噴射ノズル部(81)の開閉動作のタイミングについては後述する。この油インジェクション動作の際、油分離器(60)で分離した油は、油排出管(63)を通じて第1導油管(65)を流れる。この冷媒は、油クーラ(67)で所定温度まで冷却される。冷却後の冷媒は、油流入管(43)を通じて油動力回収型圧縮ユニット(C/O)の油動力回収機構(40)の本体部(41)へ流入する。
【0065】
油動力回収機構(40)の本体部(41)では、油室(49)を流れる油の動力(運動エネルギー)によってピストン(50)が回転駆動され、ピストン(50)がシリンダ(47)内を、図3の(A)→(B)→(C)→(D)→(A)→…という順に偏心回転する。このピストン(50)の偏心回転に伴い、偏心部(42b)、更には主軸部(42a)が回転駆動される。その結果、この回転動力は、圧縮機構(20)を駆動するための駆動動力として利用される。以上のように、油動力回収型圧縮ユニット(C/O)では、油動力回収機構(40)によって回収された油の動力が、圧縮機構(20)の駆動動力として回収され、圧縮機構(20)の動力が軽減される。
【0066】
油室(49)で動力が回収された油は、所定圧力まで減圧された後、油流出管(44)を通じて油動力回収機構(40)の本体部(41)から流出する。流出後の油は、第2導油管(66)を介して圧縮機構(20)の中間ポート(24)へ流入する。その結果、圧縮機構(20)では、圧縮室での圧縮行程の途中へ低温の油が供給され、上記油インジェクション動作が行われる。
【0067】
この油インジェクション動作により、冷房運転時の圧縮機構(20)では、冷媒がP−h線図上の等温線に近づくように圧縮され、いわゆる等温圧縮が行われる。この点について、図8(A)及び(B)を参照しながら説明する。ここで、図8(A)は、理想的な等温圧縮での冷凍サイクルを示すP−h線図であり、図8(B)は、図8(A)の冷凍サイクルに対応するP−V線図である。
【0068】
冷房運転時の冷媒回路(11)では、圧縮機構(20)の吸入側の冷媒が所定温度だけ過熱されるようなスーパーヒート制御が行われる。この吸入冷媒は、図8のA点より圧縮機構(20)で圧縮され、所定量だけ昇圧/昇温されてからB点で油と混合する。圧縮機構(20)で冷媒と油とが混合されると、上記油クーラ(67)で冷却されて低温となった油により、冷媒が冷却される。つまり、圧縮行程では、B点以降において冷媒が油によって冷やされながら、更に圧縮される。その結果、冷媒は、図8(A)に示す等温線(例えば約40℃)に沿うように圧縮されて、目標の高圧圧力(C点)に至る。このように、A点→B点→C点のような挙動で冷媒を圧縮させることで、圧縮機構(20)で冷媒を圧縮するのに要する動力が効果的に低減される。
【0069】
即ち、例えば圧縮行程で一般的な断熱圧縮が行われると、冷媒は図8に示すA→B→C’のような挙動で圧縮される。その結果、この冷凍サイクルでは、冷媒の圧縮動力が大きくなってしまう。これに対し、本実施形態のように、油インジェクション動作により圧縮行程中に冷媒を冷却すると、一般的な断熱圧縮と比して、図8(B)のB−C−C’で囲まれる面積ΔS分だけ圧縮機構(20)の動力を削減できる。
【0070】
また、本実施形態のように、冷媒として二酸化炭素を用いて超臨界サイクルを行うもので、上記の油インジェクション動作を行うと、圧縮機構(20)での冷媒の圧縮動力の削減効果が向上する。この点について以下に説明する。
【0071】
まず、本実施形態の冷媒回路(11)では、上述のように、二酸化炭素を臨界圧力(図8(A)のcP点に示す圧力)を越える圧力となるように、圧縮行程で冷媒を圧縮している。このため、圧縮行程ではB点→C点で冷媒を冷却しながら圧縮する際、冷媒が気液二相領域(凝縮領域)に至ることを回避できる。つまり、超臨界サイクルでは、油の冷熱が冷媒の凝縮に利用されることを回避できるので、冷媒を効果的に低温化することができ、冷媒の挙動を等温線に近づけることができる。
【0072】
これに対し、例えば図9に示す、通常の蒸気圧縮式冷凍サイクル(ここでは、冷媒をR410Aとした場合)の圧縮行程では、冷媒が臨界圧力よりも小さい範囲で圧縮される。このため、この冷凍サイクルに上記油インジェクション動作を適用した場合、A1点で冷媒が圧縮されてB1点から冷媒が油で冷却される際に、冷媒が気液二相領域(凝縮領域)に至ってしまう。その結果、この冷凍サイクルでは、B1点→C1点の範囲でしか等温圧縮を行うことができない。
【0073】
以上のような理由により、図9の冷凍サイクルに油インジェクション動作を適用した場合には、圧縮機構の圧縮動力の削減量が図9(B)のB1−C1−C1’で囲まれるΔS’となってしまう。これに対し、本実施形態の超臨界サイクルに油インジェクション動作を適用した場合には、圧縮機構(20)の圧縮動力の削減量がΔSとなり、圧縮動力の削減効果が高いものとなる。
【0074】
更に、本実施形態では、上述のように、油動力回収機構(40)によって油の動力を回収している。これにより、油インジェクション動作による冷媒の圧縮動力の低減効果を図りつつ、更に油の昇圧に必要な圧縮動力も低減される。この点について図10を参照しながら説明する。
【0075】
上記油インジェクション動作を行うと、圧縮機構(20)では、冷媒の圧縮動力(図10のWr)に加えて、油の昇圧に要する動力(図10のWo)を費やすことになる。ここで、冷媒の圧縮動力Wrは、上述のように、油インジェクション動作による等温圧縮の効果により小さくなる。従って、冷媒の圧縮動力Wrは、圧縮機構(20)へ供給される低温の油の量(油インジェクション量Goil)が多ければ多いほど、小さくなっていく。一方、このように油インジェクション量Goilが多くなると、圧縮機構(20)では、油の昇圧に要する圧縮動力Woが増大していく。従って、圧縮機構(20)では、その全体としての動力Wt(即ち、Wr+Wo)と、油インジェクション量Goilとの関係が、図10で示すような関係となり、油インジェクション量Goilが所定値(Gb)よりも大きくなると、かえって圧縮機構(20)の全体の動力Wtが増大してしまう虞がある。
【0076】
そこで、本実施形態では、油の昇圧に要する圧縮動力Woを回収するべく、油動力回収機構(40)を用いるようにしている。具体的に、例えば油インジェクション量Goilを所定値より大きいGbとして油インジェクション動作を行った場合、油の昇圧に要する圧縮動力Woも増大するが、油動力回収型圧縮ユニット(C/O)では、昇圧後の油の動力(運動エネルギー)が、圧縮機構(20)の駆動動力として回収される。その結果、本実施形態では、油インジェクション量Goilを多量としても、この空気調和装置(10)で比較的高いCOPの改善率(等温圧縮による効果)を得ることができる。
【0077】
即ち、例えば図11に示すように、油動力回収機構(40)で油の動力を回収しないもの(図11の破線L-0)では、油インジェクション量が所定値Gbよりも多くなると、等温圧縮の効果に起因する冷媒の圧縮動力Wrの削減量よりも油の昇圧に要する動力Woの方が大きくなってしまい、COP改善率がかえって低くなってしまう。しかしながら、油動力回収機構(40)で油の動力を回収するようにすると、油の昇圧に要する動力Woの増大に伴い、圧縮機構(20)へ回収される油の動力が大きくなる。その結果、例えば油動力回収機構(40)の動力回収率が50%のもの(図11の実線L-50)では、油インジェクション量を多くしても、高いCOP改善率を得ることができる。そして、このCOP改善率は、油動力回収機構(40)の動力回収率が高ければ高いほど(例えば図11の実線L-80(油動力回収率80%)や実線L-100(油動力回収率100%)を参照)、特に油インジェクション量Goilが多い条件下で増大することになる。
【0078】
〈油インジェクション動作中の噴射ノズル部(81)の開閉タイミング〉
次に、油インジェクション動作中の噴射ノズル部(81)の開閉タイミングについて説明する。
【0079】
まず、コントローラ(95)には、入力値読込部(96)に、シリンダ容積Vcと、吸入ポート位置θsと、油インジェクション位置θiとが、予め設定された位置として入力されている。このコントローラ(95)では、クランク軸(42)の回転速度ωと、クランク軸(42)の回転角度の現在値θcと、吸入ガス温度Tsと、冷媒回路の低圧圧力Lpと、冷媒回路の高圧圧力Hpと、インジェクション油温度Toと、インジェクション油圧力Poとが、測定値読込部(97)で測定される。そして、計算値決定部(98)において、これらの値に基づいて、インジェクションタイミングが求められる。具体的には、圧縮途中の冷媒ガス温度をTrとしたときにTr=Toとなるインジェクション開始位置θ1と、圧縮途中の冷媒ガス圧力をPrとしたときにPr=Hpとなるインジェクション終了位置θ2と、θ1からθ2に達するまでのインジェクション時間Δtとが求められて、これらの値を表す制御信号がコントローラ(95)から油インジェクション機構(80)へ送られる。そして、この制御信号に基づいてソレノイド機構(89)のオンとオフが制御され、油の噴射タイミングがコントロールされる。
【0080】
このインジェクションタイミングは、吸入行程と圧縮行程と吐出行程とを1サイクルとする動作中に、上記圧縮室(70)内の冷媒の温度Trがインジェクションされる油の温度Toになる位置をインジェクション開始点θ1とし、圧縮室(70)内の冷媒の圧力Prが吐出圧力Hpに達する位置をインジェクション終了点θ2として、コントローラ(95)が、インジェクション開始点θ1からインジェクション終了点θ2の範囲の少なくとも一部か、またはその範囲の全部で油インジェクション動作を行うように定められる。この範囲の全部で油インジェクション動作を行う場合は、図4においてθ1のポイントからθ2のポイントまでの範囲の全体で行われ、そのときに油インジェクション機構(80)のスプール(83)を後退させて油噴射口(85)を開口させる。また、図5に示すようにピストン(72)がθ2からθ1の範囲に位置しているときには、油インジェクション機構(80)のスプール(83)を前進させて油噴射口(85)を閉塞することになる。
【0081】
そして、コントローラ(95)は、計算値決定部(98)で求めたインジェクションタイミングに基づいて油インジェクション機構(80)の油噴射口(85)を開閉し、圧縮機構(20)への油インジェクション動作を制御する。
【0082】
ここで、従来の油インジェクション機構(80)では、油噴射口(85)が常に開口していたので、図12に示すようにピストン(72)がθsからθiの範囲に位置するときは、吸入ポート(76)と油インジェクションポート(24)が連通せずに油インジェクション動作が行われていたのに対して、図13に示すようにピストン(72)がθiからθsの範囲に位置するときは、吸入ポート(76)と油インジェクションポート(24)が圧縮室(70)を介して連通してしまい、油インジェクションポート(24)から圧縮室(70)に入った油が吸入ポート(76)へ逆流してしまうことがあった。また、図12においてθsからθiの範囲内でのみ油インジェクションを行うようにした場合でも、冷凍機油の温度Toが冷媒の温度Trよりも高いときは冷媒が過熱されてしまい、過熱圧縮による動力損失が生じてしまうことになる。
【0083】
これに対して、本実施形態では、図4に示すように、ピストン(72)がθ1からθ2の範囲に位置しているときは油インジェクション機構(80)のスプール(83)を後退させて油噴射口(85)を開口させるようにしているので、その範囲では冷媒の温度Trが冷凍機油の温度Toよりも高い領域がなく、等温圧縮により仕事量を十分に削減できる。また、図5に示すように、ピストン(72)がθ2を過ぎてθ1に至るまでの範囲では、油インジェクション機構(80)のスプール(83)を前進させて油噴射口(85)を閉塞するようにしているので、その範囲では、無駄な油インジェクション動作が行われず、過熱圧縮による動力損失は生じない。
【0084】
−実施形態1の効果−
本実施形態によれば、吸入行程と圧縮行程と吐出行程とを1サイクルとするピストン(72)の動作中に、上記圧縮室(70)内の冷媒の温度Trがインジェクションされる油の温度Toになる位置をインジェクション開始点θ1とし、圧縮室(70)内の冷媒の圧力が吐出圧力に達する位置をインジェクション終了点θ2として、インジェクション開始点θ1からインジェクション終了点θ2の範囲の少なくとも一部か、またはその範囲の全部で油インジェクション動作を行うようにしている。θsからθiの範囲の全体でインジェクションを行う場合は、図14に示すように等温圧縮により削減される仕事量を相殺するように作用する仕事量が過熱圧縮により発生していたのに対して、本実施形態によれば、θ1からθ2の範囲内でだけ油インジェクション動作を行うようにしたことにより、図15に示すように過熱圧縮による仕事量が発生しないようにしているので、等温圧縮による効果を高めることが可能となる。
【0085】
また、油インジェクションポート(24)は、ピストン(72)の動作中に吸入ポート(76)と油インジェクションポート(24)が連通する間は閉じられるようになっているので、その間は油が圧縮室(70)に流入するのを防止できる。ピストン(72)の動作中に吸入ポート(76)と油インジェクションポート(24)が連通する間に油インジェクションポート(24)が開いていると、油インジェクションポート(24)から圧縮室(70)に流入した冷凍機油が吸入ポート(76)へ逆流して冷媒の吸入が妨げられるおそれがあるが、本実施形態では冷凍機油が吸入ポート(76)へ逆流することはない。したがって、吸入損失が発生してしまうのも防止できる。
【0086】
以上のことから、本実施形態によれば、油インジェクションによる等温圧縮において、吸入損失を増加させることなく、冷却に必要な大量の油をインジェクションすることができるし、過熱圧縮による動力損失も生じないので、効果的な等温圧縮の実現が可能となり、大幅なシステム性能の向上が可能となる。
【0087】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0088】
上記実施形態では、圧縮機構(20)として揺動ピストン型の圧縮機構(20)を説明したが、圧縮機構(20)は図16に示すようなローリングピストン型の圧縮機構(20)であってもよい。本発明は、吸入行程中に吸入ポート(76)と油インジェクションポート(24)が圧縮室(70)を介して連通するタイプの圧縮機であれば適用可能であり、等温圧縮を効果的に実現することができる。また、上記実施形態では油インジェクションポート(24)を1箇所にのみ設けているが、場合によっては複数箇所に設けてもよい。
【0089】
また、上述した各実施形態において、冷媒回路(11)に充填される冷媒として、他の冷媒を用いるようにしても良い。また、冷媒回路(11)の冷媒中に混在する油(冷凍機油)として他の油を用いるようにしても良い。
【0090】
また、上述した各実施形態では、室内の空調を行う空気調和装置(10)について本発明を適用しているが、例えば冷蔵庫や冷凍庫内を冷却する冷凍装置や、他の冷凍装置に本発明を適用しても良い。
【0091】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明は、油インジェクション機構(80)を備えた圧縮機について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、本発明に係る圧縮機を備えた空気調和装置の実施形態を示す冷媒回路図である。
【図2】図2は、油動力回収機構の縦断面図である。
【図3】図3は、油動力回収機構の動作を示す横断面図である。
【図4】図4は、圧縮機構の動作中の第1の状態を示す横断面図である。
【図5】図5は、圧縮機構の動作中の第2の状態を示す横断面図である。
【図6】図6は、圧縮機構の動作中の第3の状態を示す横断面図である。
【図7】図7は、コントローラの構成を示すブロック図である。
【図8】図87(A)は、超臨界冷凍サイクルでの等温圧縮を示すP−h線図であり、図8(B)は、図8(A)の冷凍サイクルに対応するP−V線図である。
【図9】図9(A)は、通常の冷凍サイクルでの等温圧縮を示すP−h線図であり、図9(B)は、図9(A)の冷凍サイクルに対応するP−V線図である。
【図10】図10は、油インジェクション量と圧縮動力との関係を示すグラフである。
【図11】図11は、油インジェクション量とCOP改善率との関係を示すグラフである。
【図12】図12は、従来の圧縮機構の動作中の第1の状態を示す横断面図である。
【図13】図13は、従来の圧縮機構の動作中の第2の状態を示す横断面図である。
【図14】図14は、比較例の圧縮機での等温圧縮による動力削減効果を示すグラフである。
【図15】図15は、実施形態の圧縮機での等温圧縮による動力削減効果を示すグラフである。
【図16】図16は、他の従来例に係る圧縮機構の横断面図である。
【符号の説明】
【0094】
20 圧縮機構
70 圧縮室
71 シリンダ
72 ピストン
80 油インジェクション機構
95 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮室(70)へ作動流体を吸入して圧縮する圧縮機構(20)と、該圧縮室(70)に冷凍機油を供給する油インジェクション機構(80)とを備えた圧縮機であって、
上記油インジェクション機構(80)が開閉制御可能に構成され、
吸入行程と圧縮行程と吐出行程とを1サイクルとする動作中に、上記圧縮室(70)内の作動流体の温度がインジェクションされる油の温度になる位置をインジェクション開始点とし、圧縮室(70)内の作動流体の圧力が吐出圧力に達する位置をインジェクション終了点として、インジェクション開始点からインジェクション終了点の範囲の少なくとも一部で油インジェクション動作を行うように上記油インジェクション機構(80)を制御する制御手段(95)を備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記制御手段(95)は、上記インジェクション開始点からインジェクション終了点の範囲の全体で油インジェクション動作を行うように構成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2において、
上記圧縮機構(20)は、圧縮室(70)を有するシリンダ(71)内でのピストン(72)の動作により作動流体を吸入して圧縮するように構成され、かつ、圧縮室(70)が断面円形に形成されるとともに、ピストン(72)が該圧縮室(70)内で偏心回転運動をするように構成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1つにおいて、
作動流体が二酸化炭素であることを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−185681(P2009−185681A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26082(P2008−26082)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】