説明

圧縮比可変V型内燃機関

【課題】二つの気筒群のシリンダブロックを一体化させてクランクケースに対して相対移動させる圧縮比可変V型内燃機関において、各相対移動位置での二つの気筒群の機械圧縮比が等しくなるようにする。
【解決手段】シリンダブロック10の第一気筒群側10aを相対移動させる第一相対移動機構30と、シリンダブロック10の第二気筒群側10bを相対移動させる第二相対移動機構40と、第一気筒群側の第一相対移動距離を検出する第一位置センサと、第二気筒群側の第二相対移動距離を検出する第二位置センサとを具備し、第一位置センサにより第一気筒群を所望の機械圧縮比とする第一相対移動距離が検出されるように第一相対移動機構を制御すると共に、第二位置センサにより第二気筒群を所望の機械圧縮比とする第二相対移動距離が検出されるように第二相対移動機構を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮比可変V型内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、機関負荷が低いほど熱効率が悪化するために、機関低負荷時の機械圧縮比((上死点シリンダ容積+行程容積)/上死点シリンダ容積)を高くして膨張比を高くすることにより熱効率を改善することが望ましい。そのために、シリンダブロックとクランクケースとを相対移動させてシリンダブロックとクランク軸との間の距離を変化させることにより機械圧縮比を可変とすることが公知である。
【0003】
V型内燃機関においては、二つの気筒群のそれぞれのシリンダブロック部分を別々に、各気筒群の気筒中心線に沿ってクランクケースに対して相対移動させることが提案されているが、各シリンダブロック部分を一つのリンク機構(又はカム機構)により相対移動させることは困難であり、シリンダブロック部分毎に一対のリンク機構(又はカム機構)が必要となるために全体として二対のリンク機構が必要となってしまう。
【0004】
リンク機構の数を低減するために、二つの気筒群のシリンダブロックを一体化し、こうして一体化させたシリンダブロックを一対のリンク機構によりクランクケースに対して相対移動させる圧縮比可変V型内燃機関が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−113743
【特許文献2】特開2009−174483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の圧縮比可変V型内燃機関において、シリンダブロックをクランクケースに対して相対移動させる際に、正面視において二つの気筒群の間のシリンダブロック中心線をクランク軸の中心を通る機関中心線に正確に一致させることができれば、一方の気筒群の機械圧縮比と他方の気筒群の機械圧縮比とを等しくすることができる。
【0007】
しかしながら、シリンダブロックをクランクケースに対して相対移動させる際に、正面視においてシリンダブロック中心線を機関中心線と一致させようとしても、カム機構又はリンク機構を可動にするための隙間等によって、シリンダブロック中心線が機関中心線と正確に一致しないことがある。
【0008】
こうして、シリンダブロックをクランクケースに対して相対移動させる際に、正面視においてシリンダブロック中心線が機関中心線と正確に一致しない場合には、各相対移動位置において、一方の気筒群の上死点シリンダ容積と他方の気筒群の上死点シリンダ容積とが異なって、一方の気筒群の機械圧縮比と他方の気筒群の機械圧縮比とが等しくならない。
【0009】
従って、本発明の目的は、二つの気筒群のシリンダブロックを一体化させてクランクケースに対して相対移動させる圧縮比可変V型内燃機関において、各相対移動位置での二つの気筒群の機械圧縮比が等しくなるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関は、二つの気筒群のシリンダブロックを一体化させてクランクケースに対して相対移動させる圧縮比可変V型内燃機関であって、前記シリンダブロックの第一気筒群側を相対移動させる第一相対移動機構と、前記シリンダブロックの第二気筒群側を相対移動させる第二相対移動機構と、前記シリンダブロックの前記第一気筒群側にもたらされるクランク軸中心を通る正面視の機関中心線方向の第一相対移動距離を検出する第一位置センサと、前記シリンダブロックの前記第二気筒群側にもたらされる前記機関中心線方向の第二相対移動距離を検出する第二位置センサとを具備し、前記第一相対移動機構と前記第二相対移動機構とは独立して制御可能とされ、所望の機械圧縮比を前記第一気筒群及び前記第二気筒群において等しく実現するために、前記第一位置センサにより前記第一気筒群を前記所望の機械圧縮比とする第一相対移動距離が検出されるように前記第一相対移動機構を制御すると共に、前記第二位置センサにより前記第二気筒群を前記所望の機械圧縮比とする第二相対移動距離が検出されるように前記第二相対移動機構を制御することを特徴とする。
【0011】
本発明による請求項2に記載の圧縮比可変V型内燃機関は、請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関において、前記第一位置センサは、前記第一気筒群の気筒数が奇数の場合には中央気筒の位置において、前記第一気筒群の気筒数が偶数の場合には二つの中央側気筒の間の位置において、前記第一相対移動距離を検出し、前記第二位置センサは、前記第二気筒群の気筒数が奇数の場合には中央気筒の位置において、前記第二気筒群の気筒数が偶数の場合には二つの中央側気筒の間の位置において、前記第二相対移動距離を検出することを特徴とする。
【0012】
本発明による請求項3に記載の圧縮比可変V型内燃機関は、請求項2に記載の圧縮比可変V型内燃機関において、前記第一位置センサと異なる位置において前記第一相対移動距離を検出する第三位置センサが設けられ、前記第三位置センサによって第一気筒群の両側気筒の一方の気筒又は他方の気筒の膨張行程時の前記第一相対移動距離を検出し、前記第三位置センサにより検出された前記第一相対移動距離と前記第一位置センサにより検出された前記第一相対移動距離との偏差に基づき、前記両側気筒の一方の気筒又は他方の気筒の膨張行程時のシリンダブロックの傾きを推定することを特徴とする。
【0013】
本発明による請求項4に記載の圧縮比可変V型内燃機関は、請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関において、前記第一相対移動機構は回転軸を有するアクチュエータを具備し、前記アクチュエータの回転軸の回転回数を検出する回転回数センサが設けられ、前記第一位置センサが故障した時には、前記回転回数センサにより前記第一気筒群を前記所望の機械圧縮比とする前記回転軸の回転回数が検出されるように前記第一相対移動機構を制御することを特徴とする。
【0014】
本発明による請求項5に記載の圧縮比可変V型内燃機関は、請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関において、前記第一相対移動機構により前記第一相対移動距離を変化させることができない時には、前記第一位置センサにより検出される現在の第一相対移動距離に対応する前記第一気筒群の現在の機械圧縮比を前記第二気筒群においても実現するために、前記第二位置センサにより前記第二気筒群を前記第一気筒群の前記現在の機械圧縮比とする第二相対移動距離が検出されるように前記第二相対移動機構を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明による請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関によれば、二つの気筒群のシリンダブロックを一体化させてクランクケースに対して相対移動させる圧縮比可変V型内燃機関であって、所望の機械圧縮比を第一気筒群及び第二気筒群において等しく実現するために、第一位置センサにより第一気筒群を所望の機械圧縮比とする第一相対移動距離が検出されるように第一相対移動機構を制御すると共に、第二位置センサにより第二気筒群を所望の機械圧縮比とする第二相対移動距離が検出されるように第二相対移動機構を制御するようになっている。それにより、各機械圧縮比を実現するための各相対移動位置において第一気筒群及び第二気筒群の機械圧縮比を等しくすることができる。
【0016】
本発明による請求項2に記載の圧縮比可変V型内燃機関によれば、請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関において、第一位置センサは、第一気筒群の気筒数が奇数の場合には中央気筒の位置において、第一気筒群の気筒数が偶数の場合には二つの中央側気筒の間の位置において、第一相対移動距離を検出し、第二位置センサは、第二気筒群の気筒数が奇数の場合には中央気筒の位置において、第二気筒群の気筒数が偶数の場合には二つの中央側気筒の間の位置において、第二相対移動距離を検出するようになっている。それにより、第一気筒群及び第二気筒群の各気筒の膨張行程においてシリンダブロックが傾斜するが、第一気筒群の各気筒の膨張行程においては第一位置センサの第一相対移動距離の検出位置を中心としてシリンダブロックが傾斜し、また、第二気筒群の各気筒の膨張行程においては第二位置センサの第二相対移動距離の検出位置を中心としてシリンダブロックが傾斜することとなり、第一位置センサにより検出される第一相対移動距離及び第二位置センサにより検出される第二相対移動距離は、このようなシリンダブロックの傾斜の影響を殆ど受けないようにされている。
【0017】
本発明による請求項3に記載の圧縮比可変V型内燃機関によれば、請求項2に記載の圧縮比可変V型内燃機関において、第一位置センサと異なる位置において第一相対移動距離を検出する第三位置センサが設けられている。第一気筒群の両側気筒の各膨張行程において、シリンダブロックは第一位置センサの第一相対移動距離の検出位置を中心として最も傾斜し、第三位置センサによって検出された両側気筒の一方の気筒又は他方の気筒の膨張行程時の第一相対移動距離と、第一位置センサにより検出されてシリンダブロックの傾斜の影響を殆ど受けない第一相対移動距離との偏差は、シリンダブロックの傾きの大きさに対応する値となるために、この偏差に基づき両側気筒の一方の気筒又は他方の気筒の膨張行程時のシリンダブロックの傾きを推定することができ、このシリンダブロックの傾きが許容範囲内であるか否かを判断することができる。
【0018】
本発明による請求項4に記載の圧縮比可変V型内燃機関によれば、請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関において、第一相対移動機構は回転軸を有するアクチュエータを具備し、アクチュエータの回転軸の回転回数を検出する回転回数センサが設けられ、第一位置センサが故障した時には、回転回数センサにより第一気筒群を所望の機械圧縮比とする回転軸の回転回数が検出されるように第一相対移動機構を制御するようになっており、第一位置センサが故障した時にも第一気筒群において所望の機械圧縮比を実現することができる。
【0019】
本発明による請求項5に記載の圧縮比可変V型内燃機関によれば、請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関において、第一相対移動機構により第一相対移動距離を変化させることはできない時には、第一位置センサにより検出される現在の第一相対移動距離に対応する第一気筒群の現在の機械圧縮比を第二気筒群においても実現するために、第二位置センサにより第二気筒群を第一気筒群の現在の機械圧縮比とする第二相対移動距離が検出されるように第二相対移動機構を制御するようになっており、第一相対移動機構により第一相対移動距離を変化させることができなくなって第一気筒群の機械圧縮比を変化させることはできなくなっても、第一気筒群及び第二気筒群の機械圧縮比を等しくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による圧縮比可変V型内燃機関の一部を示す正面図である。
【図2】第一相対移動機構及び第二相対移動機構の動作を説明する図である。
【図3】第一位置センサ、第二位置センサ、第三位置センサ、及び第四位置センサの測定位置を示す本発明による圧縮比可変V型内燃機関のシリンダブロックの平面図である。
【図4】本発明による圧縮比可変V型内燃機関の第一相対移動機構を制御するための第一フローチャートである。
【図5】本発明による圧縮比可変V型内燃機関の第二相対移動機構を制御するための第二フローチャートである。
【図6】第一気筒群の機械圧縮比と第二気筒群の機械圧縮比とを等しくするための第一相対移動距離と第二相対移動距離との関係を示すマップである。
【図7】第一アクチュエータの回転回数と第二アクチュエータの回転回数とシリンダブロックの移動距離との関係を示すマップである。
【図8】シリンダブロックの傾きを説明するための第一気筒群側の概略側面図であり、(A)は#1気筒の爆発行程時、(B)は#5気筒の爆発行程時を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明による圧縮比可変V型内燃機関の一部を示す正面図であり、同図において、10はシリンダブロック、20はクランクケース、30は第一気筒群側の第一相対移動機構、40は第二気筒群側の第二相対移動機構である。シリンダブロック10は、第一気筒群側部分10aと第二気筒群側部分10bとが一体的に形成されており、第一気筒群側のシリンダボア11内及び第二気筒群側のシリンダボア11内にはそれぞれピストン13が配置されている。各ピストン13はコンロッド14によりクランクシャフト15に連結されている。
【0022】
本V型内燃機関は、火花点火式であり、シリンダブロック10の第一気筒群側部分10a及び第二気筒群側部分10bにはそれぞれシリンダヘッド(図示せず)が取り付けられ、各シリンダヘッドには、シリンダボア毎に点火プラグが取り付けられる。各シリンダヘッドには、吸気ポート及び排気ポートが形成され、各吸気ポートは吸気弁を介して各シリンダボア11に連通し、各排気ポートは排気弁を介して各シリンダボア11に連通している。シリンダヘッド毎に、吸気マニホルド及び排気マニホルドが接続され、各吸気マニホルドは互いに独立して又は合流してエアクリーナを介して大気へ開放し、各排気マニホルドも互いに独立して又は合流して触媒装置を介して大気へ開放している。また、本V型内燃機関はディーゼルエンジンでも良い。
【0023】
一般的に、機関負荷が低いほど熱効率が悪化するために、機関低負荷時の機械圧縮比を高くして膨張比を高くすれば、膨張行程においてピストンの仕事期間が長くなるために熱効率を改善することができる。機械圧縮比は、上死点クランク角度におけるシリンダ容積V1に対する上死点クランク角度におけるシリンダ容積V1と行程容積V2との和(V1+V2)/V1であり、膨張行程の膨張比と等しい。それにより、本V型内燃機関は、第一相対移動機構30と第二相対移動機構40とによって、シリンダブロック10をクランクケース20に対して相対移動させ、シリンダブロック10とクランク軸15との間の距離を変化させ、すなわち、第一気筒群の上死点シリンダ容積及び第二気筒群の上死点シリンダ容積を変化させることにより、第一気筒群及び第二気筒群の機械圧縮比を可変とし、例えば、機関負荷が低いほど機械圧縮比を高めるように機械圧縮比が制御される。また、機械圧縮比を高めても吸気弁の閉弁時期を遅角又は進角させることにより吸気量を減少させて実圧縮比をそれほど高めないようにすることも可能である(アトキンソンサイクル又はミラーサイクル)。
【0024】
第一相対移動機構30は、シリンダブロック10の第一気筒群側部分10aの側面下部に固定された複数のシリンダブロック側サポート31と、クランクケース20の第一気筒群側の側面上部に固定された複数のクランクケース側サポート32とを有し、シリンダブロック側サポート31及びクランクケース側サポート32はクランク軸の延在方向において交互に位置している。クランクケース側サポート32は第一偏心軸33を支持し、図2に示す第一偏心軸33の偏心部33aがシリンダブロック側サポート31に支持される。こうして、第一相対移動機構30を介してシリンダブロック10の第一気筒群側部分10aとクランクケース20の第一気筒群側とが連結される。
【0025】
33cは第一偏心軸33と同心の扇形状ギヤである。扇形状ギヤ33cは小径ギヤ36と噛合し、小径ギヤ36と同心の大径ギヤ37は、第一モータ39のウォームギヤ38と噛合している。こうして、第一モータ39を作動させてウォームギヤ38を回転させることにより、大径ギヤ37、小径ギヤ36及び扇形状ギヤ33cを介して、第一偏心軸33を回動させることができる。第一モータ39の作動軸の回転回数(又は回転角度)、すなわち、ウォームギヤ38の回転回数(又は回転角度)を検出するための第一回転回数センサ(図示せず)が設けられている。ここで、第一回転回数センサにより検出される回転回数は、例えば、シリンダブロック10の最下位置をゼロとした時の回転回数(小数が含まれることもある)である。
【0026】
一方、第二相対移動機構40は、シリンダブロック10の第二気筒群側部分10bの側面下部に固定された複数のシリンダブロック側サポート41と、クランクケース20の第二気筒群側の側面上部に固定される複数のクランクケース側サポート42とを有している。クランクケース側サポート42は、第二偏心軸44を支持し、図2に示す第二偏心軸44の偏心部44aとシリンダブロック側サポート41により支持された軸45とがアーム43により連結されている。こうして、第二相対移動機構40を介してシリンダブロック10の第二気筒群側部分10bとクランクケース20の第二気筒群側とが連結される。
【0027】
44aは第二偏心軸44と同心の扇形状ギヤである。扇形状ギヤ44aは小径ギヤ46と噛合し、小径ギヤ46と同心の大径ギヤ47は、第二モータ49のウォームギヤ48と噛合している。こうして、第二モータ49を作動させてウォームギヤ48を回転させることにより、大径ギヤ47、小径ギヤ46及び扇形状ギヤ44aを介して、第二偏心軸44を回動させることができる。第二モータ49の作動軸の回転回数(又は回転角度)、すなわち、ウォームギヤ48の回転回数(又は回転角度)を検出するための第二回転回数センサ(図示せず)が設けられている。ここで、第二回転回数センサにより検出される回転回数は、例えば、シリンダブロック10の最下位置をゼロとした時の回転回数(小数が含まれることがある)である。
【0028】
図1において、CEは、正面視において、クランク軸15の中心を通る機関中心線であり、一般的にはクランク軸中心を通る垂直線である。本実施形態では、シリンダブロック10とクランクケース20とが当接する図1に示すシリンダブロック10の最下位置において、正面視において第一気筒群の気筒中心線と第二気筒群の気筒中心線との間のシリンダブロック中心線CBと、機関中心線CEとは一致し、また、正面視において第一気筒群の気筒中心線と第二気筒群の気筒中心線との交点である正面視交点と、クランク軸中心とが一致している。
【0029】
図2に示すように、本実施形態の圧縮比可変V型内燃機関では、機械圧縮比を変更するために、第一相対移動機構30の第一モータ39を作動させて、クランクケース側サポート32に支持された第一偏心軸33を回動させ、それにより、第一相対移動機構30は、一自由度のリンク機構として、第一偏心軸33の偏心部33aを介してシリンダブロック10の第一気筒群側をクランクケース20に対して機関中心線CE方向に第一相対移動距離L1だけ移動させる。それと同時に、第二相対移動機構40の第二モータ49を作動させて、クランクケース側サポート42に支持された第二偏心軸44を回動させ、それにより、第二相対移動機構40は、二自由度のリンク機構として、第二偏心軸44の偏心部44aを介してアーム43によりシリンダブロック10の第二気筒群側をクランクケース20に対して機関中心線CE方向に第一相対移動距離L1より小さな第二相対移動距離L2だけ移動させる。第一相対移動距離L1を検出するための第一位置センサ及び第二相対移動距離L2を検出するための第二位置センサが設けられている。第一位置センサ及び第二位置センサは、赤外線センサ又はダイヤルゲージのような一般的な移動距離を検出するためのセンサが利用可能である。
【0030】
こうして、図2に示すように、一点鎖線で示す最下位置のシリンダブロック10’は、実線で示すシリンダブロック10のように移動し、一点鎖線で示す最下位置の第一偏心軸33の偏心部分33a’、第二偏心軸44の偏心部44a’及び軸45’も、それぞれ実線で示す第一偏心軸33の偏心部33a、第二偏心軸44の偏心部44a及び軸45のように移動する。
【0031】
第一相対移動機構30が簡単な一自由度のリンク機構とされているために、シリンダブロック10はクランクケース20に対して上方(機関中心線CE方向)へ移動させられると同時に第二気筒群側へ移動させられ、それにより、シリンダブロック10が平行移動すると、第一気筒群の機械圧縮比及び第二気筒群の機械圧縮比を両方とも小さくすることはできるが、第二気筒群の上死点シリンダ容積は、第一気筒群の上死点シリンダ容積より大きくなり、第二気筒群の機械圧縮比は第二気筒群の機械圧縮比より小さくなってしまう。従って、第二相対移動機構40によって、シリンダブロック10は第一気筒群側に比較して第二気筒群側が上方へ小さく移動させられるようにし、正面視においてシリンダブロック中心線CBは機関中心線CEに対して傾けられる。それにより、シリンダブロック10が第二気筒群側へDだけ移動しても、第一気筒群の機械圧縮比と第二気筒群側の機械圧縮比とを等しく所望の機械圧縮比とすることができる。
【0032】
図4に示す第一フローチャートは、第一相対移動機構30の制御を示している。先ず、ステップ101において、機関運転状態(機関回転数及び機関負荷)の変化等により第一気筒群及び第二気筒群の機械圧縮比Eを変更することが要求されたか否かが判断される。この判断が否定される時にはそのまま終了するが、肯定される時には、ステップ102において、変更後の目標機械圧縮比Etが決定される。次いで、ステップ103において、第一気筒群において目標機械圧縮比Etを実現するための目標第一相対移動距離L1tが予め定められたマップ等を使用して決定される。ここで、目標第一相対移動距離L1tは、シリンダブロックの第一気筒群側の最下位置(=0)からの機関中心線CE方向の移動距離である。
【0033】
ステップ104においては、シリンダブロック10の第一気筒群側の現在の第一相対移動距離を目標第一相対移動距離L1tとするために、第一相対移動機構30の第一アクチュエータ(第一モータ39)の回転方向が決定され、第一アクチュエータを作動させる。次いで、ステップ105において、第一アクチュエータが故障したか否かが判断される。例えば、第一アクチュエータへ作動信号が入力されているにも係わらずに、第一回転回数センサにより検出される第一アクチュエータの回転軸の回転回数が変化せず、また、第一位置センサにより検出される第一相対移動距離L1も変化しない時には、第一アクチュエータが故障したと判断することができる。
【0034】
第一アクチュエータが故障していない時には、ステップ105の判断が否定されてステップ106へ進み、第一位置センサにより検出されるシリンダブロック10の第一気筒群側の現在の第一相対移動距離L1が目標第一相対移動距離L1tとなったか否かが判断される。
【0035】
この判断が否定される時には、ステップ107において、第一相対移動距離L1を検出するための第一位置センサが故障しているか否かが判断される。例えば、第一アクチュエータへの作動信号に対して第一回転回数センサにより検出される回転軸の回転回数は妥当であるが、第一アクチュエータへの作動信号に対して第一位置センサにより検出される第一相対移動距離が異常である時には、第一位置センサが故障していると判断することができる。
【0036】
第一位置センサが故障していない時には、ステップ104からステップ107の処理が繰り返される。第一位置センサにより検出される現在の第一相対移動距離L1が目標第一相対移動距離L1tとなった時には、第一気筒群において目標機械圧縮比Etが実現されたこととなり、ステップ106の判断が肯定され、ステップ108において、第一回転回数センサにより検出される現在の第一アクチュエータの作動軸の回転回数N1が第一気筒群において目標機械圧縮比Etを実現するための目標回転回数N1tとして学習され、目標機械圧縮比と目標回転回数との対応マップ又は目標第一相対移動距離と目標回転回数との対応マップが更新される。次いで、ステップ111において第一アクチュエータを停止させて終了する。
【0037】
一方、このような第一気筒群の機械圧縮比Eの変更途中において、第一位置センサが故障した時には、ステップ107の判断が肯定されてステップ109へ進み、第一気筒群において目標機械圧縮比Etを実現するための第一アクチュエータの作動軸の目標回転回数N1t、すなわち、目標第一相対移動距離L1tを実現するための第一アクチュエータの作動軸の目標回転回数N1tがマップ等を使用して決定される。次いで、ステップ110において、第一回転回数センサにより検出される第一アクチュエータの作動軸の回転回数N1が目標回転回数N1tとなったか否かが判断される。この判断が否定される時には、ステップ104からステップ110(ステップ108は除く)の処理が繰り返される。ステップ110の判断が肯定される時には、第一気筒群において目標機械圧縮比Etが実現されたこととなり、ステップ111において第一アクチュエータを停止させて終了する。こうして、第一位置センサが故障した時にも第一気筒群において所望の機械圧縮比Etを実現することができる。
【0038】
また、第一気筒群の機械圧縮比Eの変更途中において、第一アクチュエータが故障した時、すなわち、第一相対移動機構により第一相対移動距離を変化させることができなくなった時には、ステップ105の判断が肯定され、ステップ112において、第一位置センサにより検出される現在の第一相対移動距離に対応する第一気筒群の現在の機械圧縮比Et’が決定される。次いで、ステップ113において、第二気筒群を第一気筒群の現在の機械圧縮比Et’とするための目標第二相対移動距離L2t’がマップ等を使用して決定され、ステップ114において、第二相対移動機構の現在の目標第二相対移動距離L2tを新たな目標第二相対移動機構L2t’に変更する。こうして、第一相対移動機構の第一アクチュエータが故障した時には第一気筒群の機械圧縮比を変化させることはできなくなるが、第一気筒群及び第二気筒群の機械圧縮比を等しくすることができる。
【0039】
図5に示す第二フローチャートは、第二相対移動機構40の制御を示しており、第一相対移動機構30のための第一フローチャートと対応しているために主な説明を省略する。前述の第一フローチャートのステップ114の処理により、第二フローチャートのステップ203において決定された目標第二相対移動距離L2tは新たな目標第二相対移動距離L2t’に変更されることとなる。
【0040】
第二フローチャートによれば、第二位置センサにより目標第二相対移動距離L2tが検出された時には、第二気筒群においても目標機械圧縮比Etが実現され、第一気筒群及び第二気筒群の機械圧縮比を等しくすることができる。また、第二位置センサが故障した時にも第二回転回数センサを使用して第二気筒群において所望の機械圧縮比Etを実現することができる。また、第二相対移動機構の第二アクチュエータが故障した時には第二気筒群の機械圧縮比を変化させることはできなくなるが、第一気筒群及び第二気筒群の機械圧縮比を等しくすることができる。
【0041】
図6は、第一気筒群の機械圧縮比と第二気筒群の機械圧縮比とを等しくするための目標第一相対移動距離L1tと目標第二相対移動距離L2tとの関係を示すマップであり、第一気筒群の機械圧縮比と第二気筒群の機械圧縮比とを等しくするためには、目標第一相対移動距離L1tより目標第二相対移動距離L2tは小さくされる。図6のマップを使用して、図4の第一フローチャートのステップ103において決定された目標第一相対移動距離Lt1に基づき、図5の第二フローチャートのステップ203において、目標第二相対移動距離L2tを決定するようにしても良い。
【0042】
図7において、マップAは、シリンダブロックの相対移動距離L(第一相対移動距離L1)と、第一アクチュエータの作動軸の回転回数N(N1)との関係を示し、マップBは、シリンダブロックの相対移動距離L(第二相対移動距離L2)と、第二アクチュエータの作動軸の回転回数N(N2)との関係を示している。第一相対移動距離L1と第二相対移動距離L2とを同じにするには、第二アクチュエータの回転回数N2は第一アクチュエータの回転回数N1より小さくされる。図4の第一フローチャートにおいて、図7のマップAを使用して、ステップ103において決定された第一相対移動距離L1tに基づきステップ109において第一アクチュエータの目標回転回数N1tを決定しても良い。
【0043】
また、図5の第二フローチャートにおいて、図7のマップBを使用して、ステップ203において決定された第二相対移動距離L2tに基づきステップ209において第二アクチュエータの目標回転回数N2tを決定するようにしても良い。また、第一フローチャートのステップ108において学習された第一アクチュエータの目標回転回数N1tに基づき、図7のマップAを更新しても良く、また、第二フローチャートのステップ208において学習された第二アクチュエータの目標回転回数N2tに基づき、図7のマップBを更新しても良い。
【0044】
前述の第一位置センサは、図3の位置X1において第一相対移動距離L1を検出するように配置され、本実施形態のように第一気筒群(#1、#3、及び#5気筒)の気筒数が奇数(三気筒)の場合には中央気筒(#3)の位置に配置される。また、第一気筒群の気筒数が偶数(例えば四気筒)の場合には二つの中央側気筒の間の位置に配置される。
【0045】
第二位置センサは、図3の位置X2において第二相対移動距離L2を検出するように配置され、本実施形態のように第二気筒群(#2、#4、及び#6気筒)の気筒数が奇数(三気筒)の場合には中央気筒(#4)の位置に配置される。また、第二気筒群の気筒数が偶数(例えば四気筒)の場合には二つの中央側気筒の間の位置に配置される。
【0046】
第一気筒群の各気筒の膨張行程において、シリンダブロックは、各部材間の隙間によって、#1気筒側を上方に及び#5気筒側を下方にして傾斜し、又は、#1気筒側を下方に及び#5気筒側を上方にして傾斜する。また、第二気筒群の各気筒の膨張行程においても、シリンダブロックは、#2気筒側を上方に及び#6気筒側を下方にして傾斜し、又は、#2気筒側を下方に及び#6気筒側を上方にして傾斜する。それにより、任意の位置において第一相対移動距離L1及び第二相対移動距離L2を検出すると、このようなシリンダブロックの傾斜の影響を受けて正確な値を検出することが困難となる。
【0047】
しかしながら、本実施形態の第一位置センサ及び第二位置センサの配置によって、第一気筒群の各気筒の膨張行程においては第一位置センサの第一相対移動距離の検出位置を中心としてシリンダブロックが傾斜し、また、第二気筒群の各気筒の膨張行程においては第二位置センサの第二相対移動距離の検出位置を中心としてシリンダブロックが傾斜することとなり、第一位置センサにより検出される第一相対移動距離L1及び第二位置センサにより検出される第二相対移動距離L2は、このようなシリンダブロックの傾斜の影響を殆ど受けないようにされている。
【0048】
また、本実施形態において、第一位置センサと異なる位置X3において第一相対移動距離を検出する第三位置センサが設けられている。前述したように、第一気筒群の両側気筒(#1気筒及び#5気筒)の各膨張行程において、シリンダブロックは第一位置センサの第一相対移動距離の検出位置を中心として最も傾斜する。図8(A)は、#1気筒の膨張行程を示しており、この時において、第一位置センサにより検出される第一相対移動距離L1は、シリンダブロックの傾斜の影響を受けないが、傾斜の中心以外の例えば#5気筒の外側に配置された第三位置センサによって検出された#1気筒の膨張行程時の第一相対移動距離L3は、シリンダブロックの傾斜の影響を受けて小さくなる。また、図8(B)は、#5気筒の膨張行程を示しており、この時においても、第一位置センサにより検出される第一相対移動距離L1は、シリンダブロックの傾斜の影響を受けないが、傾斜の中心以外の例えば#5気筒の外側に配置された第三位置センサによって検出された#5気筒の膨張行程時の第一相対移動距離L3は、シリンダブロックの傾斜の影響を受けて大きくなる。
【0049】
それにより、第三位置センサによって検出された第一気筒群の両側気筒(#1気筒及び#5気筒)の一方の気筒又は他方の気筒の膨張行程時の第一相対移動距離L3と、第一位置センサにより検出されてシリンダブロックの傾斜の影響を殆ど受けない第一相対移動距離L1との偏差は、シリンダブロックの傾きの大きさに対応する値となるために、この偏差に基づき両側気筒の一方の気筒又は他方の気筒の膨張行程時のシリンダブロックの傾きを推定することができ、このシリンダブロックの傾きが許容範囲内であるか否か、すなわち、各部材間の隙間の大きさが適当であるか否かを判断することができる。
【0050】
また、本実施形態において、第二位置センサと異なる位置X4において第二相対移動距離を検出する第四位置センサが設けられており、同様に、第二気筒群の両側気筒(#2気筒及び#6気筒)の膨張行程時のシリンダブロックの傾斜を推定して、このシリンダブロックの傾きが許容範囲内であるか否かを判断することができる。
【0051】
図5の第二フローチャートでは、第一気筒群側と同様に第二気筒群側においても、第二アクチュエータの故障時には、第一相対移動機構の目標第一相対移動距離L1tを変更するようにし、また、第二位置センサの故障時には、第二回転回数センサにより第二相対移動機構を制御するようにし、また、第四位置センサを設けて第二気筒群の両側気筒の膨張行程時のシリンダブロックの傾斜を推定するようにしたが、これらは、第一気筒群及び第二気筒群のいずれか一方においてのみ実施するようにしても良い。この場合において、10aを第二気筒群とすると共に30を第二相対移動機構とし、10bを第一気筒群とすると共に40を第一相対移動機構としても良い。
【符号の説明】
【0052】
10 シリンダブロック
20 クランクケース
30 第一相対移動機構
40 第二相対移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの気筒群のシリンダブロックを一体化させてクランクケースに対して相対移動させる圧縮比可変V型内燃機関であって、前記シリンダブロックの第一気筒群側を相対移動させる第一相対移動機構と、前記シリンダブロックの第二気筒群側を相対移動させる第二相対移動機構と、前記シリンダブロックの前記第一気筒群側にもたらされるクランク軸中心を通る正面視の機関中心線方向の第一相対移動距離を検出する第一位置センサと、前記シリンダブロックの前記第二気筒群側にもたらされる前記機関中心線方向の第二相対移動距離を検出する第二位置センサとを具備し、前記第一相対移動機構と前記第二相対移動機構とは独立して制御可能とされ、所望の機械圧縮比を前記第一気筒群及び前記第二気筒群において等しく実現するために、前記第一位置センサにより前記第一気筒群を前記所望の機械圧縮比とする第一相対移動距離が検出されるように前記第一相対移動機構を制御すると共に、前記第二位置センサにより前記第二気筒群を前記所望の機械圧縮比とする第二相対移動距離が検出されるように前記第二相対移動機構を制御することを特徴とする圧縮比可変V型内燃機関。
【請求項2】
前記第一位置センサは、前記第一気筒群の気筒数が奇数の場合には中央気筒の位置において、前記第一気筒群の気筒数が偶数の場合には二つの中央側気筒の間の位置において、前記第一相対移動距離を検出し、前記第二位置センサは、前記第二気筒群の気筒数が奇数の場合には中央気筒の位置において、前記第二気筒群の気筒数が偶数の場合には二つの中央側気筒の間の位置において、前記第二相対移動距離を検出することを特徴とする請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関。
【請求項3】
前記第一位置センサと異なる位置において前記第一相対移動距離を検出する第三位置センサが設けられ、前記第三位置センサによって第一気筒群の両側気筒の一方の気筒又は他方の気筒の膨張行程時の前記第一相対移動距離を検出し、前記第三位置センサにより検出された前記第一相対移動距離と前記第一位置センサにより検出された前記第一相対移動距離との偏差に基づき、前記両側気筒の一方の気筒又は他方の気筒の膨張行程時のシリンダブロックの傾きを推定することを特徴とする請求項2に記載の圧縮比可変V型内燃機関。
【請求項4】
前記第一相対移動機構は回転軸を有するアクチュエータを具備し、前記アクチュエータの回転軸の回転回数を検出する回転回数センサが設けられ、前記第一位置センサが故障した時には、前記回転回数センサにより前記第一気筒群を前記所望の機械圧縮比とする前記回転軸の回転回数が検出されるように前記第一相対移動機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関。
【請求項5】
前記第一相対移動機構により前記第一相対移動距離を変化させることができない時には、前記第一位置センサにより検出される現在の第一相対移動距離に対応する前記第一気筒群の現在の機械圧縮比を前記第二気筒群においても実現するために、前記第二位置センサにより前記第二気筒群を前記第一気筒群の前記現在の機械圧縮比とする第二相対移動距離が検出されるように前記第二相対移動機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の圧縮比可変V型内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−196275(P2011−196275A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64864(P2010−64864)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】