説明

圧電ファン装置

【課題】 本発明は、冷却性能を実質的に低下させずに、振動板のねじれ振動を抑制して騒音が小さい圧電ファン装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 所定周波数の交流電圧の印加に応じて伸縮する圧電素子と、前記圧電素子が接合されている振動板と、前記振動板の一端を固定する固定部材とを備え、前記振動板の前記固定部材によって固定された一端を固定端、他端を自由端とする圧電ファン装置において、前記振動板は、前記圧電素子の伸縮により、固定端を除き少なくともひとつの節を生じる3倍波以上の奇数倍波で屈曲振動を行い、前記振動の節に補強構造部が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等の冷却に用いられる圧電ファン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
AV機器やコンピュータなどの発熱する部品を内蔵した電子機器の冷却には、ファン装置が広く用いられている。近年では、実装形態に適した小型で静音性が高い圧電ファン装置が望まれている。このような圧電ファン装置は、例えば特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示された圧電ファン装置100は、図6に示すように、導電体からなる板状の振動板102を備えている。前記振動板102の一端側の両面には、それぞれ圧電素子101が貼付されている。前記圧電素子101の両面には電極(図示せず)が形成されている。前記振動板102の一端は、固定部材103によって固定されており、より具体的には、前記固定部材103は、前記振動板102に貼付された圧電素子101を両主面から挟んで固定されている。前記固定部材103によって固定されている端が固定端、他方の端が自由端となっている。
【0003】
前記圧電ファン装置100は、前記圧電素子101の外側の電極と前記振動板102との間に、所定周波数の正弦波交流電圧を交流電源105より印加することで、前記圧電素子101を主として長手方向に伸縮させる。これにより、前記振動板102が基本波により厚み方向に屈曲振動を行い、ファン装置として駆動するものである。
【0004】
また、周知の技術として、冷却性能を上げるためにこれらの圧電ファン装置を高次モードで振動させるという方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−110796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような圧電ファン装置では、圧電素子の長手方向の伸縮を利用して振動板を厚み方向に屈曲振動させている。しかし、圧電素子は短手方向にも伸縮するために、長手方向と短手方向の駆動周波数が近いと短手方向の伸縮の影響が大きくなり、振動板がねじれながら屈曲振動するという不具合が発生する。これらのねじれ振動が発生すると、騒音が大きくなるという問題がある。このような問題は、高次モードで駆動されるほど顕著に表れる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、冷却性能を実質的に低下させずに、振動板のねじれ振動を抑制して騒音が小さい圧電ファン装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記問題点を解決するために、本発明に係る圧電ファン装置は、所定周波数の交流電圧の印加に応じて伸縮する圧電素子と、前記圧電素子が接合されている振動板と、前記振動板の一端を固定する固定部材とを備え、前記振動板の前記固定部材によって固定された一端を固定端、他端を自由端とする圧電ファン装置において、前記振動板は、前記圧電素子の伸縮により、固定端を除き少なくともひとつの節を生じる3倍波以上の奇数倍波で屈曲振動を行い、前記振動の節に補強構造部が設けられている。
【0009】
この場合は、圧電素子の長手方向の伸縮による振動板の厚み方向の屈曲振動に影響を与えず、短手方向の伸縮により発生する振動板のねじれ振動を抑制するため、冷却性能を実質的に低下させずに、騒音を低減することができる。
【0010】
また本発明は、前記補強構造部は、振動板とは別の部材が貼付されていることが望ましい。この場合は、一体成型をするよりも圧電ファン装置の製造や管理が簡単になる。
【0011】
また本発明は、前記補強構造部は、振動板に折り曲げ加工を行い、曲げ部を設けたものであることが望ましい。この場合は、曲げ部を設けているので、短手方向の断面二次モーメントが大きくなり、振動板のねじれ振動を抑制することができる。
【0012】
また本発明は、前記補強構造部は、前記振動板の短手方向の両端に至るように設けられていることが望ましい。この場合は、振動板の短手方向全体が補強されるので、圧電素子の短手方向の伸縮により発生する振動板のねじれ振動の影響をより抑制することができる。
【0013】
また本発明は、前記圧電ファン装置は、前記圧電素子が前記振動板を両面から挟むように接合されているバイモルフ型であることが望ましい。この場合は、振動板の厚み方向の屈曲振動の振幅が大きくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、振動板を振動の節が生じる奇数倍波で屈曲振動させる。振動の節は振幅を生じない箇所であるので、振動板の厚み方向の屈曲振動に影響を与えない。これにより、圧電素子の長手方向の伸縮による振動板の厚み方向の屈曲振動に影響を与えず、短手方向の伸縮により発生する振動板のねじれ振動を抑制するため、冷却性能を実質的に低下させずに、騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態による圧電ファン装置の側面図と上面図である。
【図2】実験例に基づく圧電ファン装置の補強箇所と周波数の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施形態の変形例1による圧電ファン装置の側面図である。
【図4】本発明の実施形態の変形例2による圧電ファン装置の側面図である。
【図5】本発明の実施形態の変形例3による圧電ファン装置の側面図である。
【図6】先行技術を説明する圧電ファン装置の側面図と上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態に係る圧電ファン装置について説明する。
【0017】
図1(A)に本発明の実施形態に係る圧電ファン装置10の側面図を示す。また、図1(B)に圧電ファン装置10の上面図を示す。なお、本明細書において、側面図と上面図は理解しやすくするために概略的に示している。
【0018】
本実施形態の圧電ファン装置10は、図1(A)に示すように、圧電素子1、振動板2、固定部材3、及び補強構造部4から構成されている。
【0019】
圧電素子1は、圧電セラミクスの両面に電極(図示せず)が形成されており、例えば長さ33mm×幅16mm×厚み0.05mmの板状に形成されている。圧電素子1は厚み方向に分極されており、交流電源5からの正弦波交流電圧の印加に応じて主として長手方向に伸縮する振動子である。
【0020】
振動板2は、例えば長さ95mm×幅16mm×厚み0.08mmの板状からなり、例えばSUSから構成されている。振動板2の両主面には圧電素子1が例えば接着剤により接合されており、バイモルフ型振動子として構成されている。
【0021】
固定部材3は、例えば長さ16mm×幅6mm×厚み1.6mmの直方体からなり、例えばガラスエポキシ樹脂から構成されている。固定部材3は筺体と振動板2の一端を固定するために設けられている。振動板2の固定部材3によって固定された一端を固定端、他端を自由端と規定する。また、固定部材3によって振動板2が筺体(図示せず)と固定される。
【0022】
補強構造部4は、例えば長さ16mm×幅5mm×厚み1.6mmの直方体からなり、例えばガラスエポキシ樹脂から構成されている。補強構造部4は、振動板2が固定端を除きひとつの節を生じる3倍波により屈曲振動をする際に、振動の節に当たる箇所に設けられている。補強構造部4は、図1(B)に示すように、振動板2の短手方向の両端に至るように設けられている。
【0023】
なお、補強構造部4は、振動板2の長手方向に貼付される長さが短いほうが振動板の長手方向の屈曲振動を阻害しない。また、補強構造部4は、厚みが厚いほうが振動板のねじれ振動の抑制に効果的である。
【0024】
以下に、圧電ファン装置10の動作を示す。
【0025】
圧電ファン装置10は、2枚の圧電素子1の各電極と振動板2との間に、2枚の圧電素子1の分極方向に応じた正弦波交流電圧を印加する。このように印加することにより圧電素子1が主として振動板の長手方向に伸縮し、振動板2が厚み方向に屈曲振動するものである。
【0026】
圧電ファン装置10に印加される正弦波交流電圧の駆動周波数は、振動板の長手方向の長さ等の条件により決定される。本実施形態では、振動の節を生じさせるために、圧電ファン装置を3倍波で駆動させる。印加する正弦波交流電圧は、例えば電圧24Vpp、周波数63.7Hzとする。
【0027】
これにより、図1(A)に示す破線のように、振動板2が固定端を除きひとつの節を生じる3倍波により振動板の厚み方向に屈曲振動を行う。
【0028】
振動の節は振幅を生じない箇所であるので、振動板の厚み方向の屈曲振動に影響を与えない。具体的には、振動の節に補強構造部4を設けたとしても、振動板2の厚み方向の屈曲振動の振幅が変化しない。このため、圧電素子1の長手方向の伸縮による振動板2の厚み方向の屈曲振動に影響を与えず、短手方向の伸縮により発生する振動板2のねじれ振動を抑制できるので、冷却性能を実質的に低下させずに、騒音を低減することができる。
【0029】
本実施形態では、補強構造部4は、振動板2とは別の部材が貼付されて形成されている。このように構成しているので、一体成型をするよりも圧電ファン装置10の製造や管理が簡単になる。
【0030】
本実施形態では、補強構造部4は、振動板2の短手方向の両端に至るように設けられている。このように構成しているので、振動板2の短手方向全体が補強され、圧電素子1の短手方向の伸縮により発生する振動板2のねじれ振動の影響をより抑制することができる。
【0031】
本実施形態では、圧電ファン装置10は、圧電素子1が振動板2を両面から挟むように接合されているバイモルフ型である。このように構成しているので、振動板2の厚み方向の屈曲振動の振幅が大きくなる。
【0032】
本実施形態では、固定端を除きひとつの節を生じる3倍波で振動板2を屈曲振動させているが、これに限るものではない。3倍波以上の奇数倍波で振動板2を屈曲振動させても構わない。この場合は、固定端以外の少なくともひとつの節に補強構造部4が設けられていればよい。具体的には、節が複数設けられる場合には、補強構造部4も複数設けられていてもよい。
【0033】
本実施形態では、補強構造部4は、振動板2とは別の部材が貼付されているが、これに限るものではない。例えば、振動板2と補強構造部4を一体成型してもよい。
【0034】
本実施形態では、振動板2を両面から挟むように2枚の圧電素子1をそれぞれ貼付してバイモルフ型振動子を構成しているが、これに限るものではない。振動板2の一方の面に圧電素子1を接合したユニモルフ型振動子を構成してもよい。
【0035】
本実施形態では、振動板2はSUSから構成されているが、これに限るものではない。例えば、真鍮、インバー、リン青銅等のばね性の高い金属板等を用いてもよい。
【0036】
(実験例と従来例)
実験例として、図1に示す実施形態に係る圧電ファン装置10を用い、従来例として、図6に示す圧電ファン装置100を用いて実験を行う。実験例と従来例との構造の違いは、振動の節に補強構造部が設けられているかどうかである。
【0037】
本実験では、これら2つの圧電ファン装置を用いて、3倍波で駆動させた時の常温の騒音のレベルを測定して比較を行う。
【0038】
本実験では、各圧電ファン装置共に印加する電圧は電圧24Vpp、周波数63.7Hzの正弦波交流電圧、駆動は固定端を除きひとつの節を生じる3倍波で駆動することとする。常温は25℃とする。騒音のレベルは、圧電ファン装置から振動板の厚み方向に0.7m離れた箇所に測定器を設置して測定を行う。
【0039】
従来例の騒音のレベルは38.6dBAであった。実験例の騒音のレベルは27.7dBAであった。従来例に対して、実験例の騒音のレベルのほうが低いので、振動の節に補強構造部が設けられていると、騒音が低減するといえる。
【0040】
(実験例と比較例1〜4)
実験例として、図1に示す実施形態に係る圧電ファン装置10を用い、比較例1〜4として、表1に示す条件の圧電ファン装置を用いて実験を行う。
【0041】
比較例1〜4は、実験例と比較して補強構造部を設ける箇所が異なるサンプルである。補強構造部は、振動板の短手方向の両端に至るように設けられている。これらの各条件の駆動周波数をシミュレーションにより測定して比較を行う。
【0042】
【表1】

【0043】
図2に表1の条件下での実験結果を示す。実験例、及び比較例1〜4を比較すると、実験例では駆動周波数が63.7Hzであった。これに対して、比較例1〜4の駆動周波数は、実験例の駆動周波数より低くなっており、振動の節から距離が離れるにつれて駆動周波数が低下する傾向がある。駆動周波数が低下すると、圧電ファン装置の冷却性能も低下してしまうので、望ましい結果であるとはいえない。
【0044】
これより、振動の節に補強構造部を設けると、冷却性能を実質的に低下させずに、振動板の短手方向の補強を行うことができるので、より望ましいといえる。
【0045】
(実施形態の変形例1)
図3は実施形態の変形例1に係る圧電ファン装置20の側面図である。実施形態と同一の部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0046】
本変形例1の圧電ファン装置20は、図3に示すように、圧電素子1、振動板22、固定部材3、及び補強構造部24から構成されている。図3に示す破線は、補強構造部24が設けられていない場合の振動板22の屈曲振動の様子を示す。
【0047】
本変形例1における実施形態との異なる箇所は、振動板22の形状である。具体的には、振動板22の振動の節に当たる箇所(図3の破線の交点)に折り曲げ加工を行い、曲げ部を設けて補強構造部24としている。このように構成しているので、短手方向の断面二次モーメントが大きくなり、振動板22のねじれ振動を抑制することができる。
【0048】
(実施形態の変形例2)
図4は実施形態の変形例2に係る圧電ファン装置30の側面図である。実施形態と同一の部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0049】
本変形例2の圧電ファン装置30は、図4に示すように、圧電素子1、振動板32、固定部材3、及び補強構造部34から構成されている。図4に示す破線は、補強構造部34が設けられていない場合の振動板32の屈曲振動の様子を示す。
【0050】
具体的には、振動板32の振動の節に当たる箇所(図4の破線の交点)に折り曲げ加工を行い、曲げ部を2箇所に設けて補強構造部34としている。このように構成しているので、短手方向の断面二次モーメントが大きくなり、より振動板32のねじれ振動を抑制することができる。
【0051】
(実施形態の変形例3)
図5は実施形態の変形例3に係る圧電ファン装置40の側面図である。実施形態と同一の部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0052】
本変形例3の圧電ファン装置40は、図5に示すように、圧電素子1、振動板42、固定部材3、及び補強構造部44から構成されている。図5に示す破線は、補強構造部44が設けられていない場合の振動板42の屈曲振動の様子を示す。
【0053】
具体的には、振動板42の振動の節に当たる箇所(図5の破線の交点)にアール曲げ加工を行い、曲げ部を弓型形状に設けて補強構造部44としている。このように構成しているので、短手方向の断面二次モーメントが大きくなり、より振動板42のねじれ振動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0054】
10、20、30、100…圧電ファン装置
1…圧電素子
2、22、32、42…振動板
3…固定部材
4、24、34、44…補強構造部
5…交流電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数の交流電圧の印加に応じて伸縮する圧電素子と、前記圧電素子が接合されている振動板と、前記振動板の一端を固定する固定部材とを備え、前記振動板の前記固定部材によって固定された一端を固定端、他端を自由端とする圧電ファン装置において、
前記振動板は、前記圧電素子の伸縮により固定端を除き少なくともひとつの節を生じる3倍波以上の奇数倍波で屈曲振動を行い、前記振動の節に補強構造部が設けられていることを特徴とする圧電ファン装置。
【請求項2】
前記補強構造部は、前記振動板とは別の部材が貼付されていることを特徴とする請求項1に記載の圧電ファン装置。
【請求項3】
前記補強構造部は、前記振動板に折り曲げ加工を行い、曲げ部を設けたものであることを特徴とする請求項1に記載の圧電ファン装置。
【請求項4】
前記補強構造部は、前記振動板の短手方向の両端に至るように設けられていることを特徴とする請求項1〜3のうち、いずれか1項に記載の圧電ファン装置。
【請求項5】
前記圧電ファン装置は、前記圧電素子が前記振動板を両面から挟むように接合されているバイモルフ型であることを特徴とする請求項1〜4のうち、いずれか1項に記載の圧電ファン装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−77645(P2012−77645A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221933(P2010−221933)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】