説明

圧電体膜、圧電素子および液体吐出装置

【課題】膜中の鉛量を低減することで、高湿中の駆動耐久性を得ることができる圧電体膜、圧電素子および液体吐出装置を提供する。
【解決手段】多数の柱状結晶からなる柱状結晶構造を有し、下記式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物を主成分とすることを特徴とする圧電体膜。
Pb[(ZrTi1−c1−d]O・・・(P)
(式中Pb、AはAサイト元素であり、Zr、TiおよびBはBサイト元素である。a:鉛量、b:Aサイトドープ量、c:Zr/Ti比、d:Bサイトドープ量、e:酸素量であり、a<1、a+b>1、0<d<bである。e=3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体膜、この圧電体膜を用いた圧電素子および液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電性を有する圧電体と、圧電体に対して電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、インクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電アクチュエータなどの用途に使用されている。圧電材料としては、ジルコンチタン酸鉛(PZT)などのペロブスカイト型酸化物が広く用いられている。かかる圧電材料は電界無印加時において自発分極性を有する強誘電体である。
【0003】
被置換イオンの価数よりも高い価数を有する各種ドナイオンを添加したPZTでは、真性PZTよりも強誘電性能等の特性が向上することが1960年代より知られている。AサイトのPb2+を置換するドナイオンとして、Bi3+、およびLa3+等の各種ランタノイドのカチオンが知られている。BサイトのZr4+および/またはTi4+を置換するドナイオンとして、V5+、Nb5+、Ta5+、Sb5+、Mo6+、およびW6+などが知られている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、Bサイトに10〜40モル%のドナイオンを添加したペロブスカイト型酸化物を用いた強誘電性能(圧電性能)に優れた強誘電体膜が記載されている。特許文献2には、Aサイトに5〜40モル%のドナイオンが添加されたペロブスカイト型酸化物を含む、強誘電性能(圧電性能)に優れた強誘電体膜が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、Aサイトに1〜40モル%、Bサイトに10〜40モル%の高濃度のドナイオンが添加されたペロブスカイト型酸化物を含む、強誘電性能(圧電性能)に優れた強誘電体膜が記載されている。特許文献4には、含有する鉛量および圧電定数の比、正電圧印加時の圧電定数を規定することで、正電圧印加でも高い圧電定数を持つ圧電膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−266772号公報
【特許文献2】特開2009−64859号公報
【特許文献3】特開2009−117592号公報
【特許文献4】特許第4452752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1から3は、元素をドーピングすることで、初期特性を制御することが記載されているが、Pb量については、ペロブスカイト構造を取り得る範囲で変動させてもよいとしており、Pb量に関する検討は行なわれていなかった。また、特許文献4ではNbをドープしたPZTにおいて、膜中のPb量を低減することで、高湿中の駆動耐久性が向上しているが、ABO構造において、Pb量が1以下の膜を作製するには、2段階で成膜条件を制御する必要があるなど、操作が煩雑であった。また、AサイトをPbのみに限定した場合、その鉛量は0.97が限界であり、0.97以下とした場合は、パイロクロア相が生じていた。このように、Pb量が少なく、圧電性能が得られるペロブスカイト単相膜である薄膜を得る事は、鉛量1未満の場合は作り方が煩雑であり、0.97未満の場合は困難であった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、膜中の鉛量を低減することで、高湿中の駆動耐久性を得ることができる圧電体膜、圧電素子および液体吐出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、多数の柱状結晶からなる柱状結晶構造を有し、下記式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物を主成分とすることを特徴とする圧電体膜を提供する。
Pb[(ZrTi1−c1−d]O・・・(P)
(式中Pb、AはAサイト元素であり、AはBi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。Zr、TiおよびBはBサイト元素であり、BはNb、TaおよびSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。a:鉛量、b:Aサイトドープ量、c:Zr/Ti比、d:Bサイトドープ量、e:酸素量であり、
a<1
a+b>1
0<d<b
である。e=3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
請求項1によれば、Aサイト元素の量を1より大きい値とし、Pb量(a)を1より低い値としているので、圧電特性のあるペロブスカイト単相の圧電体膜を得ることができ、かつ、鉛量も低いので駆動耐久性の高い圧電体膜を提供することができる。また、Aサイト元素を置換する元素AおよびBサイト元素を置換する元素Bの量を上記範囲としたので、圧電定数が低下することを防止することができる。
【0010】
請求項2は請求項1において、成膜条件を成膜時に変更しないで成膜することを特徴とする。
【0011】
請求項3は請求項2において、前記成膜条件が温度制御であることを特徴とする。
【0012】
請求項2または3によれば、成膜時に成膜条件、例えば温度などを変更せずに成膜を行なうことができるので、成膜途中で、成膜条件を変更するなどの煩雑な作業がなく、圧電体膜を容易に成膜することができる。なお、「成膜途中で、成膜条件を変更しない」とは、可変制御する意図をもって変更しないことを意味し、成膜装置自身の作動条件による変更は含まれない。
【0013】
請求項4は請求項1から3いずれか1項において、前記式(P)中のaが、a<0.97の範囲内にあることを特徴とする。
【0014】
請求項4によれば、Pb量を減らすことで、高湿中の駆動耐久性をさらに高めることができる。
【0015】
請求項5は請求項1から4いずれか1項において、前記式(P)中のcが、0.45<c<0.55の範囲内にあることを特徴とする。
【0016】
請求項5によれば、ZrとTiの比(c)を上記範囲とすることにより、正方晶相と菱面体相との相転移点であるMPB(モルフォトロピック相境界)組成の近傍とすることができるので、高い圧電性能を得ることができる。
【0017】
請求項6は請求項1から5いずれか1項において、前記式(P)中のdが、0.1<d<0.2の範囲内にあることを特徴とする。
【0018】
請求項6によれば、Bサイト元素Bの量を上記範囲とすることにより、高い圧電性能を得ることができる。dが0.1より小さいと圧電性能の向上が見られないが、dが0.2以上であると、Aサイト元素Aにより向上した特性が低下する場合がある。したがって、上記範囲とすることが好ましい。
【0019】
請求項7は請求項1から6いずれか1項において、前記式(P)中のAサイト元素AがBiであることを特徴とする。
【0020】
PZTのBサイトにのみドナイオンを添加したPZT膜では、バイポーラ分極−電界曲線(PE曲線)が正電界側に偏った非対象ヒステリシスを示す。請求項7によれば、AサイトにBiを添加しているので、Pb欠損が補完され、PE曲線のヒステリシスの非対称性が緩和されて対称ヒステリシスに近くすることができる。したがって、正電界印加、負電界印加の両方において圧電特性を向上させることができるので、駆動の観点から好ましい。
【0021】
請求項8は請求項1から7いずれか1項において、前記式(P)中のBサイト元素BがNbであることを特徴とする。
【0022】
請求項8によれば、Bサイト元素BをNbとすることで、圧電性能を向上させることができる。
【0023】
本発明の請求項9は前記目的を達成するために、請求項1から8いずれか1項に記載の圧電体膜と、前記圧電体膜に対して、電界を印加する電極とを備えたことを特徴とする圧電素子を提供する。
【0024】
本発明の請求項10は前記目的を達成するために、請求項9に記載の圧電体膜からなる圧電素子と、前記圧電素子に一体的にまたは別体として設けられた液体吐出部材を備え、前記液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、前記液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口と、を有することを特徴とする液体吐出装置を提供する。
【0025】
本発明の圧電体膜は、高湿中での駆動耐久性に優れ、また、圧電性能にも優れているので、圧電素子、液体吐出装置に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の圧電体膜によれば、Bサイトを置換するドナイオンを添加することで、圧電性能を向上させることができる。また、Aサイトを置換するドナイオンを添加することで、ペロブスカイト型酸化膜により膜を成膜することができるとともに、Aサイトを置換することで、Pb量を減らすことができるので、駆動耐久性も向上させることができる。また、Aサイト元素、Bサイト元素を置換するAサイト元素AとBサイト元素Bの量をBサイト元素Bの量を多くしたので、圧電性能が低下することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】スパッタリング装置の概略断面図である。
【図2】プラズマ電位Vsおよびフローティング電位Vfの測定方法を示す説明図である。
【図3】圧電素子およびインクジェット記録装置の構造を示す断面図である。
【図4】インクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【図5】実施例1のXRDパターンを示す図である。
【図6】実施例の結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面に従って、本発明に係る圧電体膜、圧電素子および液体吐出装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0029】
[圧電体膜]
本発明の圧電体膜は、下記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物を主成分とする圧電体膜である。
【0030】
Pb[(ZrTi1−c1−d]O・・・(P)
(a:鉛量、b:Aサイトドープ量、c:Zr/Ti比、d:Bサイトドープ量、e:酸素量)
ペロブスカイト型酸化物(P)のa、b、dは、a<1、a+b>1、0<d<bである。また、aの範囲はa<0.97の範囲とすることが好ましい。Pb量を少なくすることで駆動耐久性を向上させることができる。
【0031】
PZT系のペロブスカイト型酸化物においては、モルフォトロピック相境界(MPB)及びその近傍で高い圧電性能を示すと言われている。PZT系では、Zrリッチなときに菱面体晶系、Tiリッチなときに正方晶系となり、Zr/Tiモル比=55/45近傍が菱面体晶系と正方晶系との境界線、すなわちMPBとなっている。したがって、上記一般式(P)のcは、MPB組成又はそれに近いことが好ましい。具体的には、0.45<c<0.55であることが好ましい。
【0032】
Bサイトの1種または2種以上の置換元素であるBは、4価のZr、Tiよりも価数の大きい1種または2種以上のドナイオンであることが好ましい。このようなドナイオンとしては、Nb、Ta、およびSbが挙げられ、特に、Nbであることが好ましい。dの範囲は、0.1<d<0.2であることが好ましい。
【0033】
また、本発明においては、Aサイトを置換するドナイオンの量bとBサイトを置換するドナイオンの量dの関係を0<d<bとする。Aサイトを置換するドナイオンの量bを、Bサイトを置換するドナイオンの量dより多くすることで、Pb量を減らしても、Aサイト元素の量を1より大きくすることができるので、駆動耐久性を向上させることができる。
【0034】
また、Aサイト元素Aのイオン価数は、Pb欠損を補完する観点では、2価または3価であることが好ましく、更に、ドナイオン添加により圧電性能の向上効果が得られることから3価であることが好ましい。2価または3価のイオン価数を有するAサイト元素Aとしては、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素が挙げられ、Biであることが好ましい。一般式(P)のbの範囲(Aサイト元素Aの量)は、耐久性向上のために鉛量を減らす観点から、b≧0.05であることが好ましい。
【0035】
また、PZTのBサイトにドナイオンを添加したPZT膜では、PE曲線が正電界側に偏った非対称ヒステリシスを示すが、Aサイトにドナイオンを添加することで、PE曲線の非対称ヒステリシスが緩和されて、対称ヒステリシスに近くなる。対称ヒステリシスに近くなることで、正電界印加、負電界印加の両方で圧電特性を出しやすくすることができるので、駆動の観点から好ましい。特にAサイトのドナイオンをBiとすることで、PE曲線を対称ヒステリシスに近づけることができ、かつ、圧電性能に優れた圧電体膜を製造することができる。
【0036】
本発明によれば、Bサイトにドナイオンを添加することで、圧電特性を向上させることができる。また、Aサイトにドナイオンを添加することで、Bサイトにドナイオンを添加することにより生じる非対称菱テリシスを緩和することができる。また、Bサイトのドナイオンの量dよりAサイトのドナイオンの量bを多くすることにより、Pb量を減らすことができるので、駆動耐久性を向上させることができる。また、Aサイトの元素の量は1以上としているので、安定してペロブスカイト型構造膜を成膜することができる。
【0037】
本発明によれば、駆動耐久性に優れる圧電体膜を提供することができる。駆動耐久性は、下記に示す平均寿命の測定条件で測定することができる。なお、下記測定条件は非常に過酷な条件であり、本発明の圧電体膜では長寿命が得られており、実際の使用条件では、さらに長寿命が得られると考えられる。
【0038】
平均寿命の測定条件:
圧電体膜の基板側に下部電極が形成され、基板と反対側に多数の上部電極が形成された圧電素子の形態で、圧電体膜の圧電定数d31を測定する。上部電極は、圧電体膜側から20nm厚のTi膜と150nm厚のPt膜とが順次形成された積層構造とし、個々の上部電極の面積を0.6mmとする。
【0039】
offset10V、振幅±10V、1kHzの正弦波電圧下で測定される圧電定数d31をd31(+)と定義する。offset−10V、振幅±10V、1kHzの正弦波電圧下で測定される圧電定数d31をd31(−)と定義する。
【0040】
31(+)≧d31(−)の場合は、12.5V±12.5V、100kHzの台形波を印加する。d31(−)>d31(+)の場合は、−12.5V±12.5V、100kHzの台形波を印加する。いずれの場合においても、10億サイクルごとに(すなわち100kHz×10億サイクル=16.7分おきに)電圧印加を切って、LCRメータにて、1V、1kHzのtanδを計測し、tanδが0.1を超えた点を寿命として求める。圧電体膜上の多数の上部電極のうちランダムに選んだ20ヶ所の測定寿命の平均を平均寿命として求める。
【0041】
本発明によれば、圧電定数d31が200pm/V以上であるPZT系圧電体膜を提供することができる。なお、「圧電定数d31が200pm/V以上である」とは、上記で定義されるd31(+)とd31(−)とのうち少なくとも一方が200pm/V以上であることを意味するものとする。
【0042】
[圧電体膜の製造方法]
上記式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物を主成分とする圧電体膜は、非熱平衡プロセスにより成膜することができる。本発明の圧電体膜の好適な成膜方法としては、スパッタ法、プラズマCVD法、焼成急冷クエンチ法、アニールクエンチ法、及び、溶射急冷法などが挙げられる。中でも、スパッタ法が特に好ましい。
【0043】
ゾルゲル法等の熱平衡プロセスでは、本来価数が合わない添加物を高濃度ドープすることが難しく、焼結助剤あるいはアクセプタイオンを用いるなどの工夫が必要であるが、非熱平衡プロセスではかかる工夫なしに、ドナイオンを高濃度ドープすることができる。
【0044】
また、非熱平衡プロセスでは、SiとPbとが反応する温度以下の比較的低い成膜温度にて成膜することができるため、加工性の良好なSi基板上への成膜が可能であり、好ましい。
【0045】
スパッタ法において、成膜される膜の特性を左右するファクターとしては、成膜温度、基板の種類、基板に先に成膜された膜があれば下地の組成、基板の表面エネルギー、成膜圧力、雰囲気ガス中の酸素量、投入電力、基板−ターゲット間距離、プラズマ中の電子温度及び電子密度、プラズマ中の活性種密度及び活性種の寿命等が考えられる。
【0046】
例えば、成膜温度Tsと、Vs−Vf(Vsは成膜時のプラズマ中のプラズマ電位、Vfはフローティング電位)、Vs、及び基板−ターゲット間距離Dのいずれかを好適化することにより、良質な膜を成膜できる。すなわち、成膜温度Tsを横軸にし、Vs−Vf,Vs,及び基板−ターゲット間距離Dのいずれか縦軸にして、膜の特性をプロットすると、ある範囲内において良質な膜を成膜できる。
【0047】
図1を参照して、スパッタリング装置の構成例と成膜の様子について説明する。ここでは、RF電源を用いるRFスパッタリング装置を例として説明するが、DC電源を用いるDCスパッタリング装置を用いることもできる。図1は装置全体の概略断面図である。
【0048】
図1に示すように、スパッタリング装置1は、内部に、成膜基板Bを保持すると共に成膜基板Bを所定温度に加熱することができる静電チャック等の基板ホルダ11と、プラズマを発生させるプラズマ電極(カソード電極)12とが備えられた真空容器10から概略構成されている。
【0049】
基板ホルダ11とプラズマ電極12とは互いに対向するように離間配置され、プラズマ電極12上にターゲットTが装着されるようになっている。プラズマ電極12はRF電源13に接続されている。
【0050】
真空容器10には、真空容器10内に成膜に必要なガスGを導入するガス導入管14と、真空容器10内のガスの排気Vを行うガス排出管15とが取り付けられている。ガスGとしては、Ar、又はAr/O混合ガス等が使用される。
【0051】
本発明の圧電体膜をスパッタ法により成膜する場合、成膜温度Ts(℃)と、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)とが、下記式(1)及び(2)を充足する成膜条件で成膜を行うことが好ましく、下記式(1)〜(3)を充足する成膜条件で成膜を行うことが特に好ましい。
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)、
10≦Vs−Vf(V)≦35・・・(3)
プラズマ空間Pの電位はプラズマ電位Vs(V)となる。通常、基板Bは絶縁体であり、かつ、電気的にアースから絶縁されている。したがって、基板Bはフローティング状態にあり、その電位はフローティング電位Vf(V)となる。ターゲットTと基板Bとの間にあるターゲットの構成元素は、プラズマ空間Pの電位と基板Bの電位との電位差Vs−Vfの加速電圧分の運動エネルギーを持って、成膜中の基板Bに衝突すると考えられる。
【0052】
プラズマ電位Vs及びフローティング電位Vfは、ラングミュアプローブを用いて測定することができる。プラズマ空間P中にラングミュアプローブの先端を挿入し、プローブに印加する電圧を変化させると、例えば図2に示すような電流電圧特性が得られる(小沼光晴著、「プラズマと成膜の基礎」p.90、日刊工業新聞社発行)。この図では電流が0となるプローブ電位がフローティング電位Vfである。この状態は、プローブ表面へのイオン電流と電子電流の流入量が等しくなる点である。絶縁状態にある金属の表面や基板表面はこの電位になっている。プローブ電圧をフローティング電位Vfより高くしていくと、イオン電流は次第に減少し、プローブに到達するのは電子電流だけとなる。この境界の電圧がプラズマ電位Vsである。Vs−Vfは、基板とターゲットとの間にアースを設置するなどして、変えることができる。
【0053】
PZT系圧電体膜のスパッタ成膜において、高温成膜するとPb抜けが起こりやすくなることが知られている。Pb抜けは、成膜温度以外にVs−Vfにも依存する。PZTの構成元素であるPb,Zr,及びTiの中で、Pbが最もスパッタ率が大きく、スパッタされやすい。例えば、「真空ハンドブック」((株)アルバック編、オーム社発行)の表8.1.7には、Arイオン300evの条件におけるスパッタ率は、Pb=0.75、Zr=0.48,Ti=0.65であることが記載されている。スパッタされやすいということは、スパッタされた原子が基板面に付着した後に、再スパッタされやすいということである。プラズマ電位と基板の電位との差が大きい程、すなわち、Vs−Vfの差が大きい程、再スパッタの率が高くなり、Pb抜けが生じやすくなると考えられる。
【0054】
成膜温度TsとVs−Vfがいずれも過小の条件では、ペロブスカイト結晶を良好に成長させることができない傾向にある。また、成膜温度TsとVs−Vfのうち少なくとも一方が過大の条件では、Pb抜けが生じやすくなる傾向にある。すなわち、上記式(1)を充足するTs(℃)≧400の条件では、成膜温度Tsが相対的に低い条件のときには、ペロブスカイト結晶を良好に成長させるためにVs−Vfを相対的に高くする必要があり、成膜温度Tsが相対的に高い条件のときには、Pb抜けを抑制するためにVs−Vfを相対的に低くする必要がある。これを表したのが上記式(2)である。
【0055】
また、PZT系圧電体膜を成膜する場合、上記式(1)〜(3)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、圧電定数の高い圧電体膜が得られる。
【0056】
また、本発明の圧電体膜に含まれるペロブスカイト酸化膜は、Aサイトを置換する元素Aを添加し、Aサイト元素の量を1としているので、Pb量を減らしてもパイロクロア相が形成されず、ペロブスカイト型構造を形成することができる。
【0057】
従来は、例えば特開2010−103546号公報には、Pb量が多いペロブスカイト単相構造が安定的に得られる条件で成膜を行い、その後、パイロクロア相が生成しやすい条件で成膜を行なうことが記載されている。この製造方法では、ペロブスカイト構造を結晶核として成長させることで、その後のパイロクロア相が生成しやすい条件においてもペロブスカイト単相構造を成長させていた。
【0058】
本発明においては、上述したように、Aサイト元素の量を1としているので、従来のように2段階で成膜条件を変更することなく、同じ条件で成膜することで、ペロブスカイト単相構造を得ることができるので、容易に成膜を行なうことができる。
【0059】
このような方法により成膜される膜は多数の柱状結晶からなる柱状結晶膜構造を有する。基板面に対して非平行に延びる多数の柱状結晶からなる柱状結晶膜構造とすることで、結晶方位の揃った配向膜を得ることができる。このような膜構造とすることで、高い圧電性能を得ることができる。
【0060】
[圧電素子、インクジェット式記録ヘッド]
図3を参照して、本発明に係る実施形態の圧電素子、及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。図3はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0061】
本実施形態の圧電素子2は、基板20上に、下部電極30と圧電体膜40と上部電極50とが順次積層された素子であり、圧電体膜40に対して、下部電極30と上部電極50とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。圧電体膜40は上記式(P)で表される本発明のペロブスカイト型酸化物を含む本発明の圧電体膜である。
【0062】
下部電極30は基板20の略全面に形成されており、この上に図示手前側から奥側に延びるライン状の凸部41がストライプ状に配列したパターンの圧電体膜40が形成され、各凸部41の上に上部電極50が形成されている。
【0063】
圧電体膜40のパターンは図示するものに限定されず、適宜設計される。また、圧電体膜40は連続膜でも構わない。但し、圧電体膜40は、連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部41からなるパターンで形成することで、個々の凸部41の伸縮がスムーズに起こるので、より大きな変位量が得られ、好ましい。
【0064】
基板20としては特に制限なく、シリコン、ガラス、ステンレス(SUS)、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、アルミナ、サファイヤ、シリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板20としては、シリコン基板の表面にSiO酸化膜が形成されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
【0065】
下部電極30の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0066】
上部電極50の主成分としては特に制限なく、下部電極30で例示した材料、Al,Ta,Cr,及びCu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0067】
下部電極30と上部電極50の厚みは特に制限なく、例えば200nm程度である。圧電体膜40の膜厚は特に制限なく、通常1μm以上であり、例えば1〜5μmである。圧電体膜40の膜厚は3μm以上が好ましい。
【0068】
インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)3は、概略、上記構成の圧電素子2の基板20の下面に、振動板60を介して、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)71及びインク室71から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)72を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)70が取り付けられたものである。インク室71は、圧電体膜40の凸部41の数及びパターンに対応して、複数設けられている。
【0069】
インクジェット式記録ヘッド3では、圧電素子2の凸部41に印加する電界強度を凸部41ごとに増減させてこれを伸縮させ、これによってインク室71からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
【0070】
基板20とは独立した部材の振動板60及びインクノズル70を取り付ける代わりに、基板20の一部を振動板60及びインクノズル70に加工してもよい。例えば、基板20がSOI基板等の積層基板からなる場合には、基板20を裏面側からエッチングしてインク室71を形成し、基板自体の加工により振動板60及びインクノズル70とを形成することができる。
【0071】
本実施形態の圧電素子2及びインクジェット式記録ヘッド3は、以上のように構成されている。
【0072】
[インクジェット記録装置]
図4を参照してインクジェット式記録ヘッド3(172M、172K、172C、172Y)を備えたインクジェット記録装置の構成例について説明する。図4は、装置全体図である。
【0073】
インクジェット記録装置100は、描画部116の圧胴(描画ドラム170)に保持された記録媒体124(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体124上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体124上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0074】
図示のように、インクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排出部122を備えて構成される。
【0075】
(給紙部)
給紙部112は、記録媒体124を処理液付与部114に供給する機構であり、当該給紙部112には、枚葉紙である記録媒体124が積層されている。給紙部112には、給紙トレイ150が設けられ、この給紙トレイ150から記録媒体124が一枚ずつ処理液付与部114に給紙される。
【0076】
(処理液付与部)
処理液付与部114は、記録媒体124の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0077】
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体124は、処理液ドラム154から中間搬送部126を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
【0078】
(描画部)
描画部116は、描画ドラム(第2の搬送体)170、用紙抑えローラ174、及びインクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yを備えている。
【0079】
インクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yはそれぞれ、記録媒体124における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが好ましい。インク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yは、記録媒体124の搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0080】
描画ドラム170上に密着保持された記録媒体124の記録面に向かって各インクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部114で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体124上での色材流れなどが防止され、記録媒体124の記録面に画像が形成される。
【0081】
描画部116で画像が形成された記録媒体124は、描画ドラム170から中間搬送部128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
【0082】
(乾燥部)
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図4に示すように、乾燥ドラム(搬送体)176、及び溶媒乾燥装置178を備えている。
【0083】
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、IRヒータ182と、IRヒータ182の間に配置された温風噴出しノズル180とで構成される。
【0084】
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体124は、乾燥ドラム176から中間搬送部130を介して定着部120の定着ドラム184へ受け渡される。
【0085】
(定着部)
定着部120は、定着ドラム184、ハロゲンヒータ186、定着ローラ188、及びインラインセンサ190で構成される。定着ドラム184の回転により、記録媒体124は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ186による予備加熱と、定着ローラ188による定着処理と、インラインセンサ190による検査が行われる。
【0086】
定着ローラ188は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性熱可塑性樹脂微粒子を溶着し、インクを皮膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体124を加熱加圧するように構成される。
【0087】
上記の如く構成された定着部120によれば、乾燥部118で形成された薄層の画像層内の熱可塑性樹脂微粒子が定着ローラ188によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体124に固定定着させることができる。
【0088】
また、インク中にUV硬化性モノマーを含有させた場合は、乾燥部で水分を充分に揮発させた後に、UV照射ランプを備えた定着部で、画像にUVを照射することで、UV硬化性モノマーを硬化重合させ、画像強度を向上させることができる。
【0089】
(排出部)
定着部120に続いて排出部122が設けられている。排出部122は、排出トレイ192を備えており、この排出トレイ192と定着部120の定着ドラム184との間に、これらに対接するように渡し胴194、搬送ベルト196、張架ローラ198が設けられている。記録媒体124は、渡し胴194により搬送ベルト196に送られ、排出トレイ192に排出される。

なお、図4においてはドラム搬送方式のインクジェット記録装置について説明したが、本発明はこれに限定されず、ベルト搬送方式のインクジェット記録装置などにおいても用いることができる。
【実施例】
【0090】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0091】
≪試験例1≫
[実施例1]
Siウエハ上にスパッタ法により、下部電極として20nm厚のTi膜と150nm厚の(111)Ir膜とを順次成膜した。この下部電極上にBi、Nb−PZT圧電体膜を成膜した。Bi、Nb−PZT圧電体膜の成膜に際しては、基板温度450℃で成膜を行った。使用した装置では、設定温度を変更した後、実際に基板温度が設定温度に昇温するには10分程度に時間がかかる。Bi、Nb−PZT圧電体膜の総厚は4μmとした。
【0092】
その他の圧電体膜の成膜条件は以下の通りとした。
成膜装置:RFスパッタ装置(アルバック社製「強誘電体成膜スパッタ装置MPS型」)、
ターゲット:120mmφのPb1.0Bi0.15((Zr0.52Ti0.480.88Nb0.12)O焼結体、
成膜パワー:500W、
基板/ターゲット間距離:60mm、
成膜圧力:0.3Pa、
成膜ガス:Ar/O=97.5/2.5(モル比)。
【0093】
得られた圧電体膜について、リガク社製「薄膜評価用X線回折装置ULTIMA」を用いて、θ/2θ測定法によりXRD分析を実施した。XRDパターンを図5に示す。
【0094】
得られた圧電体膜は、ペロブスカイト構造を有する(100)配向膜であった。Lotgerling法により測定される配向度Fは99%であった。パイロクロア相のピークは観察されず、得られた圧電体膜はペロブスカイト単相構造の結晶性の良好な膜であった。「パイロクロア相のピーク」は、PbNbパイロクロアの(222)面である2θ=29.4°付近、及び(400)面である2θ=34.1°の±1°の範囲に現れる。
【0095】
パイロクロア量(%)として、ΣI(パイロクロア)/(ΣI(ペロブスカイト)+ΣI(パイロクロア))を算出した。ここで、ΣI(パイロクロア)はパイロクロア相からの反射強度の合計であり、ΣI(ペロブスカイト)はペロブスカイト相からの反射強度の合計である。本実施例では、パイロクロア相の回折ピークは観察されず、パイロクロア量(割合)は1.3%であった。
【0096】
得られた圧電体膜について、PANalytical社製「蛍光X線装置アクシオス」を用いて、蛍光X線(XRF)測定を行い、Aサイト元素aとBサイト元素bを測定したところ、a=0.87、b=0.13であった。
【0097】
最後に、PZT膜上にTi/Pt上部電極(Ti:20nm厚/Pt:150nm厚)を蒸着して(Tiは密着層として機能し、Ptが主に電極として機能する。)、本発明の圧電素子を得た。
【0098】
得られた圧電素子について、圧電定数d31(+),d31(−)の測定、及び平均寿命の測定を行った。使用ターゲット、成膜条件、結果を図6に示す。なお、図6中のd31は、圧電定数d31(+),d31(−)の両方の測定を行い、より変位が出た値を用いている。また、平均寿命を求めるための駆動もより変位は出た駆動方向で測定を行なった。
【0099】
[比較例1]
ターゲットをPb1.3Bi0.07((Zr0.52Ti0.480.88Nb0.12)O焼結体とし、下部電極上にBi、Nb−PZT圧電体膜を成膜した。成膜は基板温度510℃で成膜を行なった。他の条件は、実施例1と同様の条件で行なった。
【0100】
[比較例2]
ターゲットをPb1.3((Zr0.52Ti0.480.88Nb0.12)O焼結体とし、下部電極上にNb−PZT圧電体膜を成膜した以外は実施例1と同様の方法により成膜を行なった。
【0101】
[比較例3]
ターゲットをPb1.3((Zr0.52Ti0.480.88Nb0.12)O焼結体とし、下部電極上にNb−PZT圧電体膜を成膜した。成膜は、基板温度420℃で150nm厚の初期層を成膜した後、基板温度の設定温度を510℃に変更し、引き続き主層の成膜を行なった。他の条件は、実施例1と同様の条件で行なった。
【0102】
[比較例4]
成膜温度を基板温度420℃で150nm厚の所気層を成膜した後、基板温度の設定温度を540に変更し、主層の成膜を行なった。他の条件は比較例3と同様の条件で行った。
【0103】
[結果]
従来の成膜方法である、比較例2においては、1段階で成膜を行なっており、パイロクロア相となり、良質な膜を得ることができなかった。また、比較例3は成膜途中で温度の変更を行なっており、圧電定数、寿命(耐久性)は良好であるが、操作が煩雑であった。
【0104】
比較例1においては、Biを5%添加し、PbとBiを加えて1以上、BiとNbの量がNbの量が多くになるように成膜後の膜の組成を調整した場合、1段階の成膜で、Pb量1未満のペロブスカイト単相が成膜できた。また、寿命は2段階で成膜したものと同等の圧電体膜を得ることができた。
【0105】
また、比較例2、3はBiの添加を行なわず、2段階成膜により成膜を行なった。Pb量0.97(比較例3)の圧電体膜は良好なペロブスカイト薄膜を得ることができたが、Pb量0.88(比較例4)の圧電体膜は、パイロクロアの薄膜であった。
【0106】
実施例1は、PbとBiを加えて1以上になるように膜を調整した結果、Biの量を増やすことで、Pbの量を減らすことができるので、Pb量が少なく寿命が向上した膜を成膜することができた。
【0107】
≪試験例2≫
[比較例5]
ターゲットをPb1.3Bi0.15((Zr0.52Ti0.480.88Nb0.12)O焼結体とした以外は、比較例1と同様の方法により成膜を行なった。
【0108】
[結果]
比較例5は、実施例1に対し、Bi量を同じ、Pb量が多くなるように膜の調整を行なった。鉛量の多い比較例5では、寿命が短くなった。したがって、寿命が伸びる効果は、Biの添加による効果ではなく、Biを添加することにより、Pb量の少ない膜を成膜することができたので、寿命が伸びたと考えられる。また、Pbの量が多くなることで、圧電定数が低くなる傾向にあった。Pb量を1より低くすることで、圧電定数を維持できることが確認できた。
【符号の説明】
【0109】
1…スパッタリング装置、2…圧電素子、3、172…インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)、10…真空容器、11…基板ホルダ、12…プラズマ電極(カソード電極)、13…RF電源、14…ガス導入管、15…ガス排出管、20…基板、30…下部電極、40…圧電体膜、41…凸部、50…上部電極、60…振動板、70…インクノズル(液体貯留吐出部材)、71…インク室、72…インク吐出口(液体吐出口)、100…インクジェット記録装置、112・・・給紙部、114…処理液付与部、116・・・描画部、118…乾燥部、120…定着部、122…排出部、124…記録媒体、B…基板、G…ガス、T…ターゲット、V…排気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の柱状結晶からなる柱状結晶構造を有し、下記式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物を主成分とすることを特徴とする圧電体膜。
Pb[(ZrTi1−c1−d]O・・・(P)
(式中Pb、AはAサイト元素であり、AはBi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。Zr、TiおよびBはBサイト元素であり、BはNb、TaおよびSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。a:鉛量、b:Aサイトドープ量、c:Zr/Ti比、d:Bサイトドープ量、e:酸素量であり、
a<1
a+b>1
0<d<b
である。e=3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
【請求項2】
成膜条件を成膜時に変更しないで成膜することを特徴とする請求項1に記載の圧電体膜。
【請求項3】
前記成膜条件が温度制御であることを特徴とする請求項2に記載の圧電体膜。
【請求項4】
前記式(P)中のaが、a<0.97の範囲内にあることを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項5】
前記式(P)中のcが、0.45<c<0.55の範囲内にあることを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項6】
前記式(P)中のdが、0.1<d<0.2の範囲内にあることを特徴とする請求項1から5いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項7】
前記式(P)中のAサイト元素AがBiであることを特徴とする請求項1から6いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項8】
前記式(P)中のBサイト元素BがNbであることを特徴とする請求項1から7いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項9】
請求項1から8いずれか1項に記載の圧電体膜と、前記圧電体膜に対して、電界を印加する電極とを備えたことを特徴とする圧電素子。
【請求項10】
請求項9に記載の圧電体膜からなる圧電素子と、前記圧電素子に一体的にまたは別体として設けられた液体吐出部材を備え、
前記液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、前記液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口と、を有することを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−9678(P2012−9678A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145102(P2010−145102)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】