説明

圧電素子、その製造方法、およびタッチパネル装置

【課題】電気機械変換効率の高い圧電素子、その製造方法、並びに、励振手段および受信手段としてそのような圧電素子を備えるSAW方式タッチパネル装置を、提供すること。
【解決手段】本発明の圧電素子Xは、非圧電材料よりなる基板11、圧電膜12、電極13,14を備える。電極13および/または電極14は、基板11および圧電膜12の間に介在し、且つ、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面弾性波を励振することのできる圧電素子、その製造方法、並びに、励振手段および受信手段として圧電素子を有するタッチパネル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FA機器、OA機器、および測定機器などにおけるコンピュータシステムへの入力手段としては、タッチパネル装置が採用される場合がある。タッチパネル装置は、機器のディスプレイに対して一体的に設けられ、ディスプレイ表面において指などが接触した位置を検出するためのものである。ディスプレイにて表示されている画像に関するデータ、および、タッチパネル装置により検出された接触位置に関するデータに基づき、機器のコンピュータシステムにおいて所定の処理が実行される。
【0003】
タッチパネル装置の技術分野では、近年、表面弾性波(SAW)を利用して接触位置を検出するSAW方式タッチパネル装置が注目を集めている。SAW方式タッチパネル装置は、例えば、検出領域および当該検出領域を囲む周縁領域を有する透明基板、並びに、当該基板の周縁領域に設けられている複数の励振手段および複数の受信手段を具備する。励振手段および受信手段は、各々、圧電素子よりなる。このようなSAW方式タッチパネル装置については、例えば下記の特許文献1,2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−149459号公報
【特許文献2】特開平10−55240号公報
【0005】
励振手段や受信手段を構成する圧電素子は、例えば、基板の周縁領域上に素子ごとにパターン形成されたインターデジタルトランスデューサ(IDT)と、当該IDTを覆うように周縁領域上に設けられた圧電膜とからなる。IDTは、一対の櫛歯電極からなり、各櫛歯電極は、相互に平行な複数の電極指を有する。一方の櫛歯電極の電極指と、他方の櫛歯電極の電極指とは、交互に配され且つ平行に配されている。圧電膜は、歪みが加えられることにより電界を生じる性質(圧電効果)、および、電界が加えられることにより歪みが生じる性質(逆圧電効果)を示す圧電材料からなる。
【0006】
励振手段としての圧電素子のIDTに交流電圧を印加すると、隣り合う電極指の間に交流電界が発生する。すると、逆圧電効果により、当該電極指間に対応する圧電膜に歪みが生じ、IDT全体により圧電膜にて所定の弾性波が励振される。このとき、電極指ピッチと等しい波長の弾性波が最も強く励振される。励振された弾性波は、基板表面を伝搬して、受信手段としての圧電素子に至る。当該素子においては、その圧電膜の圧電効果により、IDTの電極指間に交流電界が発生する。これに誘起されて、当該素子のIDTから交流電流が出力される。
【0007】
SAW方式タッチパネル装置の作動時には、励振手段としての各圧電素子から表面弾性波が発生され、この表面弾性波は、基板の検出領域を伝搬し、受信手段としての特定の圧電素子により受信される。検出領域に指などが接触している場合、当該接触位置を通過する表面弾性波の振幅は減衰する。この減衰が検知および解析されることにより、検出領域における接触位置が特定ないし検出される。
【0008】
このようなSAW方式タッチパネル装置において、励振用圧電素子では、その電気機械変換効率が高いほど、印加電圧に対して弾性波は効率よく励振される。一方、受信用圧電素子では、その電気機械変換効率が高いほど、受信される弾性波に基づいて交流電流は効率よく出力される。したがって、SAW方式タッチパネル装置では、各圧電素子の電気機械変換効率が高いほど、一対の圧電素子間の信号の送受信における挿入損失(dB)は小さくなり、その結果、装置の駆動電圧を低減することが可能となり、また、装置の検出精度は高くなる。
【0009】
しかしながら、従来のSAW方式タッチパネル装置によると、圧電素子において充分に高い電気機械変換効率が得られないために、駆動電圧を充分に低減できない場合があり、また、必要とされる検出精度が得られない場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、電気機械変換効率の高い圧電素子、その製造方法、並びに、励振手段および受信手段としてそのような圧電素子を備えるSAW方式タッチパネル装置を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の側面によると圧電素子が提供される。この圧電素子は、基板、圧電膜、第1電極、および第2電極を備える。第1電極および/または第2電極は、基板および圧電膜の間に介在し、且つ、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる。Al合金が、当該群から選択される複数の金属を含む場合、当該Al合金における各添加金属の含有率は0.1〜3wt%の範囲にある。
【0012】
従来より、所定の圧電素子における圧電膜は、スパッタリング法により圧電材料を成膜することにより形成され、当該成膜時には基板が加熱される。基板が加熱されると、基板上に既に形成されている電極(例えば、上述した従来の圧電素子のIDT)は基板とともに昇温し、基板および電極の熱膨張率の差に起因して、当該電極においてヒロック(基板表面からの電極の部分的な剥離)が生ずる。ヒロックが多いほど、或は、各ヒロックが大きいほど、当該圧電素子における電気機械変換効率は低いことが知られている。SAW方式タッチパネル装置における従来の圧電素子では、電極であるIDTを構成するための材料としてAlが採用される場合が多い。Alは、電気抵抗が小さく、安価であり、加工が容易だからである。しかしながら、当該Al電極においては、特に、ヒロックが発生および成長し易い。
【0013】
本発明の第1の側面に係る圧電素子の製造においては、基板上に第1電極および第2電極が所定のパターンで形成された後、これら電極を覆うように基板上に圧電膜が形成される。或は、基板上に第1電極が所定のパターンで形成された後、当該第1電極を覆うように基板上に圧電膜が形成され、更に、圧電膜上に第2電極が形成される。或は、基板上に第2電極が所定のパターンで形成された後、当該第2電極を覆うように基板上に圧電膜が形成され、更に、圧電膜上に第1電極が形成される。いずれの方法においても、圧電膜の形成時には、従来法と同様に基板は加熱され、従って基板上に既に形成されている電極は加熱される。
【0014】
しかしながら、第1の側面に係る圧電素子では、従来の圧電素子よりも高い電気機械変換効率が得られる。基板と圧電膜の間に介在している電極(第1電極および/または第2電極)が、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなり、純粋なAlからなる電極よりも熱膨張しにくいからである。圧電膜形成時に既に基板上に形成されており、且つ、製造される圧電素子において基板と圧電膜の間に介在することとなる電極が、上述のようなAl合金よりなる場合、圧電膜形成時において、当該電極にてヒロックが生じないか、或はヒロックが生じてもその数およびサイズは抑制され、その結果、圧電素子において高い電気機械変換効率を得ることができると考えられる。
【0015】
本発明の第1の側面において、好ましい実施の形態では、第1電極は、基板および圧電膜の間に介在し、第2電極は、圧電膜上に設けられている。本構成では、圧電膜への電圧の印加には、圧電膜を挟む第1および第2電極が利用される。この場合、好ましくは、第2電極は、基部、および、当該基部から延出し且つ相互に平行な複数の枝電極を有し、且つ、第1電極は、圧電膜を介して複数の枝電極にわたって対向する部位を有する。この場合、圧電膜の厚さをhとし、且つ、複数の枝電極の電極周期をλとすると、好ましくは、h/λの値は0.005〜0.1である。このようなh/λの範囲は、高い電気機械変換効率を得るうえで好適である。
【0016】
本発明の第1の側面において、他の好ましい実施の形態では、第1電極および第2電極は、基板および圧電膜の間に介在し、インターデジタルトランスデューサ(IDT)を構成する。本構成では、圧電膜への電圧の印加には、基板と圧電膜の間に介在するIDTが利用される。
【0017】
本発明の第2の側面によると圧電素子の製造方法が提供される。この製造方法は、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる第1電極を基板上に形成するための工程と、第1電極の表面の酸化膜を除去するための工程と、第1電極に重なる圧電膜を基板上に形成するための工程と、圧電膜上に第2電極を形成するための工程と、を含む。
【0018】
このような方法によると、本発明の第1の側面に係る圧電素子を適切に製造することができる。したがって、本発明の第2の側面によると、製造される圧電素子において高い電気機械変換効率を得ることができる。
【0019】
本発明の第3の側面によると圧電素子の他の製造方法が提供される。この製造方法は、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる第1電極を基板上に形成するための工程と、第1電極の表面をエッチング処理するための工程と、第1電極に重なる圧電膜を基板上に形成するための工程と、圧電膜上に第2電極を形成するための工程と、を含む。
【0020】
このような方法によると、本発明の第1の側面に係る圧電素子を適切に製造することができる。したがって、本発明の第3の側面によると、製造される圧電素子において高い電気機械変換効率を得ることができる。
【0021】
本発明の第3の側面において、好ましくは、第2電極は、基部、および、当該基部から延出し且つ相互に平行な複数の枝電極を有し、且つ、第1電極は、圧電膜を介して複数の枝電極にわたって対向する部位を有する。
【0022】
本発明の第4の側面によると圧電素子の他の製造方法が提供される。この製造方法は、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなるIDTを基板上に形成するための工程と、当該IDTの表面の酸化膜を除去するための工程と、当該IDTに重なる圧電膜を基板上に形成するための工程と、を含む。
【0023】
このような方法によると、本発明の第1の側面に係る圧電素子を適切に製造することができる。したがって、本発明の第4の側面においても、製造される圧電素子において高い電気機械変換効率を得ることができる。
【0024】
本発明の第5の側面によると圧電素子の他の製造方法が提供される。この製造方法は、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなるIDTを基板上に形成するための工程と、当該IDTの表面をエッチング処理するための工程と、当該IDTに重なる圧電膜を基板上に形成するための工程と、を含む。
【0025】
このような方法によると、本発明の第1の側面に係る圧電素子を適切に製造することができる。したがって、本発明の第5の側面においても、製造される圧電素子において高い電気機械変換効率を得ることができる。
【0026】
本発明の第6の側面によるとタッチパネル装置が提供される。このタッチパネル装置は、検出領域および当該検出領域を囲む周縁領域を含む基板と、周縁領域に設けられ、且つ、基板にて表面弾性波を励振するための励振手段と、周縁領域に設けられ、且つ、検出領域を伝搬した表面弾性波を受信するための受信手段と、を備える。励振手段および/または受信手段は、圧電膜、第1電極、および第2電極を含む。第1電極および/または第2電極は、基板および圧電膜の間に介在し、且つ、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる。
【0027】
このような構成のタッチパネル装置の励振手段および/または受信手段は、第1の側面に係る高電気機械変換効率の圧電素子により構成されている。したがって、本発明の第6の側面に係るタッチパネル装置は、駆動電圧の低減や検出精度の向上を図るうえで好適である。
【0028】
本発明の第6の側面において、好ましい実施の形態では、第1電極は、基板および圧電膜の間に介在し、第2電極は、圧電膜上に設けられている。この場合、好ましくは、第2電極は、基部、および、当該基部から延出し且つ相互に平行な複数の枝電極を有し、且つ、第1電極は、圧電膜を介して複数の枝電極にわたって対向する部位を有する。この場合、好ましくは、圧電膜の厚さをhとし、且つ、複数の枝電極の電極周期をλとすると、h/λの値は、0.005〜0.1である。
【0029】
本発明の第6の側面において、他の好ましい実施の形態では、第1電極および第2電極は、基板および圧電膜の間に介在し、IDTを構成する。
【0030】
本発明の第1から第6の側面において、好ましくは、圧電膜は、MnがドープされているZnOよりなる。基板と圧電膜の間に介在する電極の構成材料は、高温下において圧電膜に拡散する場合があり、電極構成材料の圧電膜への拡散は、圧電素子の電気機械変換効率を低下させてしまうことが多い。圧電材料であるZnOにMnがドープされていると、電極構成材料である例えばAlの圧電膜への拡散は抑制される。したがって、本構成は、圧電素子において高い電気機械変換効率を得るうえで好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1および図2は、本発明の第1の実施形態に係る圧電素子Xを表す。圧電素子Xは、基板11と、圧電膜12と、電極13,14とを備え、表面弾性波を励振および受信することができるように構成されている。
【0032】
基板11は、素子の剛性を確保する機能を有するとともに、表面弾性波が伝搬する媒体である。基板11は、例えば、透明なガラス基板などの非圧電基板である。
【0033】
圧電膜12は、歪みが加えられることにより電界を生じる性質(圧電効果)、および、電界が加えられることにより歪みが生じる性質(逆圧電効果)を示す圧電材料からなる。そのような圧電材料としては、例えば、MnがドープされたZnO、ZnO、またはAlNを採用することができる。圧電膜12の厚さhは、例えば1.0〜3.0μmである。
【0034】
電極13は、基板11および圧電膜12の間に介在し、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる。Al合金が、当該群から選択される複数の金属を含む場合、当該Al合金における各添加金属の含有率は0.1〜3wt%の範囲にある。電極13には、外部に露出する部位を有する端子15が連続している。電極13の厚さは、例えば300〜600nmである。
【0035】
電極14は、圧電膜12の上に設けられており、基部14aおよび複数の枝電極14bからなる櫛歯構造を有する。複数の枝電極14bは、基部14aから延出し、且つ、相互に平行である。相互に平行な複数の枝電極14bは、各々、図1に示すような直線状に代えて屈曲状または湾曲状であってもよい。また、枝電極14bは、圧電膜12を介して電極13に対向している。
【0036】
電極14の厚さは例えば300〜600nmであり、各枝電極14bの幅d1は例えば40〜60μmであり、枝電極14bの電極周期λ1は例えば100〜150μmである。上述の圧電膜12の厚さhと、枝電極14bの電極周期λ1とは、0.005≦h/λ1≦0.1という関係を有するのが好ましい。
【0037】
電極14は所定の導電材料よりなる。電極14の構成材料としては、電極13のそれと同一のものを採用してもよい。また、電極14には端子16が連続している。
【0038】
図3A〜図3Cは、圧電素子Xの製造方法を表す。圧電素子Xの製造においては、まず、基板11の上に、図3Aに示すように電極13を形成するとともに、端子15(図3A〜図3Cには図示せず)を形成する。
【0039】
これらの形成においては、まず、基板11の上にAl合金を成膜する。当該Al合金は、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有する。成膜手法としては、スパッタリング法や蒸着法を採用することができる。電極13および端子15の形成においては、次に、Al合金膜上にレジストパターンを形成する。このレジストパターンは、Al合金膜において電極13および端子15へと加工される箇所をマスクするためのものである。次に、当該レジストパターンをマスクとして、Al合金膜をエッチングする。これにより、基板11上において、電極13および端子15を形成することができる。
【0040】
電極13を形成した後、好ましくは、電極13の表面をエッチング処理する。表面処理手法としては、例えば、Arプラズマを利用した逆スパッタリング法を採用することができる。このような表面処理により、電極13の形成の後に当該電極13の表面が自然酸化して生ずる酸化膜が、除去されると考えられる。
【0041】
圧電素子Xの製造においては、次に、図3Bに示すように、基板11上に圧電膜12を積層形成する。具体的には、スパッタリング法により圧電材料を基板11上に成膜した後、所定のレジストパターンをマスクとして当該圧電材料膜をエッチングすることにより、所定の平面視形態を有する圧電膜12が形成される。スパッタリング法による圧電材料の成膜時には、基板11は、所定の温度に加熱される。これにより、電極13は基板11とともに昇温するが、当該電極13にはヒロックは生じないか、或は、ヒロックが生じてもその数およびサイズは抑制される。Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる電極13は、熱膨張しにくいからである。
【0042】
次に、図3Cに示すように圧電膜12上に電極14を形成するとともに、端子16(図3Cには図示せず)を形成する。これらの形成においては、まず、基板11の表面および圧電膜12の表面にわたって所定の導電材料を成膜する。成膜手法としては、スパッタリング法や蒸着法を採用することができる。次に、導電膜上にレジストパターンを形成する。このレジストパターンは、当該導電膜において電極14および端子16へと加工される箇所をマスクするためのものである。次に、当該レジストパターンをマスクとして、導電膜をエッチングする。これにより、電極14および端子16を形成することができる。
【0043】
電極14および端子16の形成においては、スパッタリング法を利用した上述のような手法に代えて、印刷法を利用してもよい。印刷法においては、まず、基板11の表面および圧電膜12の表面に対して所定のマスクを介して例えばAgペーストを印刷ないし塗布する。次に、マスクを除去した後、当該Agペーストを焼結ないしアニール処理してペースト中の溶剤を蒸散させる。このようにして、Agよりなる電極14および端子16を形成することができる。
【0044】
以上のようにして、高い電気機械変換効率を有する圧電素子Xを製造することができる。図3Bを参照して上述した圧電膜形成工程では、基板11上に既に形成されている電極13におけるヒロックの生成および成長を抑制しつつ、圧電膜12を形成するための圧電材料を成膜することができる。圧電素子Xにおいて高い電気機械変換効率が得られるのは、圧電膜形成時に電極13でのヒロックの生成および成長が抑制されるためと考えられる。また、電極13を形成した後に当該電極13の表面にエッチング処理を施す場合、当該表面処理は、圧電膜形成時におけるヒロックの生成および成長の抑制に資すると考えられる。
【0045】
図4および図5は、本発明の第2の実施形態に係る圧電素子X’を表す。圧電素子X’は、基板11と、圧電膜12と、電極23,24とを備え、表面弾性波を励振および受信することができるように構成されている。圧電素子X’は、電極13,14に代えて電極23,24を有する点において、圧電素子Xと異なる。基板11および圧電膜12については第1の実施形態に関して上述したのと同様である。
【0046】
電極23,24は、基板11および圧電膜12の間に介在するIDTを構成し、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる。Al合金が、当該群から選択される複数の金属を含む場合、当該Al合金における各添加金属の含有率は0.1〜3wt%の範囲にある。
【0047】
電極23は、基部23aおよび複数の枝電極23bからなる櫛歯構造を有する。複数の枝電極23bは、基部23aから延出し、且つ、相互に平行である。電極23には、外部に露出する部位を有する端子25が連続している。
【0048】
電極24は、基部24aおよび複数の枝電極24bからなる櫛歯構造を有する。複数の枝電極24bは、基部24aから延出し、且つ、相互に平行である。また、枝電極24bは、枝電極23bに対しても平行である。電極24には、外部に露出する部位を有する端子26が連続している。
【0049】
電極23,24の厚さは例えば300〜600nmであり、各枝電極23b,24bの幅d2,d3は例えば20〜30μmであり、枝電極23b,24bの電極周期λ2は例えば100〜150μmである。
【0050】
図6A〜図6Cは、圧電素子X’の製造方法を表す。圧電素子X’の製造においては、まず、図6Aに示すように、基板11の上にAl合金膜20’を形成する。当該Al合金は、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有する。成膜手法としては、スパッタリング法や蒸着法を採用することができる。
【0051】
次に、Al合金膜20’をパターニングすることにより、基板11上に、図6Bに示すように電極23,24を形成するとともに、端子25,26(図6Bおよび図6Cには図示せず)を形成する。具体的には、まず、Al合金膜20’上にレジストパターンを形成する。このレジストパターンは、Al合金膜20’において電極23,24および端子25,26へと加工される箇所をマスクするためのものである。次に、当該レジストパターンをマスクとして、Al合金膜20’をエッチングする。このようにして、基板11上において、電極23,24および端子25,26を形成することができる。
【0052】
電極23,24を形成した後、好ましくは、電極23,24の表面をエッチング処理する。表面処理手法としては、例えば、Arプラズマを利用した逆スパッタリング法を採用することができる。このような処理により、電極23,24の形成の後に当該電極23,24の表面が自然酸化して生ずる酸化膜が、除去されると考えられる。
【0053】
圧電素子X’の製造においては、次に、図6Cに示すように、基板11上に圧電膜12を積層形成する。具体的には、スパッタリング法により圧電材料を基板11上に成膜した後、所定のレジストパターンをマスクとして当該圧電材料膜をエッチングすることにより、所定の平面視形態を有する圧電膜12が形成される。スパッタリング法による圧電材料の成膜時には、基板11は、所定の温度に加熱される。これにより、電極23,24は基板11とともに昇温するが、当該電極23,24にはヒロックは生じないか、或は、ヒロックが生じてもその数およびサイズは抑制される。Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる電極23,24は、熱膨張しにくいからである。
【0054】
以上のようにして、高い電気機械変換効率を有する圧電素子X’を製造することができる。図6Cを参照して上述した圧電膜形成工程では、基板11上に既に形成されている電極23,24におけるヒロックの生成および成長を抑制しつつ、圧電膜12を形成するための圧電材料を成膜することができる。圧電素子X’において高い電気機械変換効率が得られるのは、圧電膜形成時に電極23,24でのヒロックの生成および成長が抑制されるためと考えられる。また、電極23,24を形成した後に当該電極23,24の表面にエッチング処理を施す場合、当該表面処理は、圧電膜形成時におけるヒロックの生成および成長の抑制に資すると考えられる。
【0055】
図7および図8は、本発明の第3の実施形態に係るタッチパネル装置Yを表す。タッチパネル装置Yは、基板31と、圧電膜32と、電極33A〜33D,34A〜34Dとを備え、SAW方式タッチパネル装置として構成されている。圧電膜32は、図の明確化の観点より仮想線で表す。
【0056】
基板31は、表面弾性波が伝搬する媒体であり、検出領域31aおよび周縁領域31bを有する透明基板である。検出領域31aおよび周縁領域31bの境界は、点線で表す。基板31は、例えば透明なガラス基板などの非圧電基板であり、例えば0.7〜1.1mmの厚さを有する。検出領域31aは、タッチパネル装置Yにおける検出対象領域であり、本実施形態では矩形である。周縁領域31bは、検出領域31aの周囲を囲み、タッチパネル装置Yの後述の励振手段および受信手段が設けられている領域である。
【0057】
圧電膜32は、基板31の周縁領域31bに設けられており、第1の実施形態における圧電膜12と同様に、圧電効果および逆圧電効果を示す圧電材料からなる。圧電膜32の厚さhは、例えば1.0〜3.0μmである。
【0058】
電極33A〜33Dは、基板31および圧電膜32の間に介在し、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる。電極33A〜33Dの厚さは、例えば300〜600nmである。電極33A〜33Dには、各々、対応する端子35A〜35Dが連続している。端子35A〜35Dは、各々、外部に露出する部位を有する。
【0059】
電極34A〜34Dは、圧電膜32の上に設けられており、各々、基部34aおよび複数の枝電極34bからなる櫛歯構造を有する。同一の電極に属する複数の枝電極34bは、同一の基部34aから延出し、且つ、相互に平行である。
【0060】
本実施形態では、相互に平行な複数の枝電極34bは、各々、相対的に検出領域31aに近い内側部34b’および相対的に検出領域31aから遠い外側部34b''を有し、これらは異なる所定の方向に延びている。すなわち、枝電極34bは、所定の角度で屈曲している。屈曲角度は、矩形状の検出領域31aを規定する隣接辺の比率に応じて決定されている。例えば、検出領域31aが正方形である場合、即ち隣接辺の比率が1:1である場合、屈曲角度は45°である。また、枝電極34bは、圧電膜32を介して電極33A〜33Dに対向している。
【0061】
電極34A〜34Dの厚さは例えば300〜600nmであり、各枝電極34bの幅d3(図8に示す)は例えば40〜60μmである。また、枝電極34bの内側部34b’の電極周期λ3(図8に示す)および外側部34b''の電極周期λ4(図8に示す)は、上述の電極周期λ1と同様に、例えば100〜150μmである。単一の電極において、電極周期λ3および電極周期λ4は、タッチパネル装置Yの駆動手法に応じて、同一に又は相違して設定されている。また、電極34A〜34Dの間で、電極周期λ3および/または電極周期λ4は、タッチパネル装置Yの駆動手法に応じて、同一に又は相違して設定されている。上述の圧電膜32の厚さhと電極周期λ3とは、0.005≦h/λ3≦0.1という関係を有するのが好ましい。同様に、圧電膜32の厚さhと電極周期λ4とは、0.005≦h/λ4≦0.1という関係を有するのが好ましい。
【0062】
電極34A〜34Dは所定の導電材料よりなる。電極34A〜34Dの構成材料としては、電極33A〜33Dのそれと同一のものを採用してもよい。また、電極34A〜34Dには、各々、対応する端子36A〜36Dが連続している。
【0063】
タッチパネル装置Yは、基板31の周縁領域31bにて、第1の実施形態に係る4つの圧電素子X(圧電素子XA〜XD)を具備する。具体的には、電極対33A,34A、電極対33B,34B、電極対33C,34C、および電極対33D,34Dは、各々、圧電素子Xの電極対13,14に相当し、各電極対間に挟まれる圧電膜32は、4つの圧電素子Xの4つの圧電膜12を包含し、これらを支持する基板31は、4つの圧電素子Xの4つの基板11を包含する。また、端子35A〜35Dおよび端子36A〜36Dは、各々、圧電素子Xの端子15および端子16に相当する。このような4つの圧電素子Xを含むタッチパネル装置Yは、図3A〜図3Cを参照して上述した圧電素子Xの製造方法を利用して製造することができる。
【0064】
タッチパネル装置Yの作動時には、例えば、相対向する2つの圧電素子XA,XCが異なるタイミングで間欠的に励振駆動される。
【0065】
圧電素子XAは、端子35A,36Aを介して電極33A,34Aの間に交流電圧が印加されることにより励振駆動される。励振駆動中、圧電素子XAにて所定周波数の2種類の表面弾性波(SAW)f1,f2が励振される。SAWf1は、圧電素子XAにおける枝電極34bの内側部34b’に直交する方向に伝搬するように励振される。SAWf2は、枝電極34bの外側部34b''に直交する方向に伝搬するように励振される。
【0066】
SAWf1は、基板31の検出領域31aを伝搬した後、圧電素子XDにおける複数の内側部34b’にて受信される。その結果、圧電素子XDからその端子35D,36Dを介して受信信号が出力される。この受信信号は、実質的に、圧電素子XDにおける図中上端の内側部34b’がSAWf1を受信してから、図中下端の内側部34b’がSAWf1を受信するまで、出力される。
【0067】
SAWf2は、基板31の検出領域31aを伝搬した後、圧電素子XBにおける複数の外側部34b''にて受信される。その結果、圧電素子XBからその端子35B,36Bを介して受信信号が出力される。この受信信号は、実質的に、圧電素子XBにおける図中上端の外側部34b''がSAWf2を受信してから、図中下端の外側部34b''がSAWf2を受信するまで、出力される。
【0068】
一方、圧電素子XCは、端子35C,36Cを介して電極33C,34Cの間に交流電圧が印加されることにより励振駆動される。励振駆動中、圧電素子XCにて所定周波数の2種類のSAWf3,f4が励振される。SAWf3は、圧電素子XCにおける枝電極34bの内側部34b’に直交する方向に伝搬するように励振される。SAWf4は、枝電極34bの外側部34b''に直交する方向に伝搬するように励振される。圧電素子XCのこのような励振駆動は、例えば、圧電素子XB,XDからの上述の受信信号出力が終了した直後に行われる。
【0069】
SAWf3は、基板31の検出領域31aを伝搬した後、圧電素子XBにおける複数の内側部34b’にて受信される。その結果、圧電素子XBからその端子35B,36Bを介して受信信号が出力される。この受信信号は、実質的に、圧電素子XBにおける図中下端の内側部34b’がSAWf3を受信してから、図中上端の内側部34b’がSAWf3を受信するまで、出力される。
【0070】
SAWf4は、基板31の検出領域31aを伝搬した後、圧電素子XDにおける複数の外側部34b''にて受信される。その結果、圧電素子XDからその端子35D,36Dを介して受信信号が出力される。この受信信号は、実質的に、圧電素子XDにおける図中下端の外側部34b''がSAWf4を受信してから、図中上端の外側部34b''がSAWf4を受信するまで、出力される。
【0071】
タッチパネル装置Yの作動時においては、圧電素子XAによるSAWf1,f2の励振から、SAWf3,f4の受信に基づく圧電素子XB,XDからの受信信号の出力までの、上述のような一連の動作が、繰り返される。
【0072】
タッチパネル装置Yの作動時において、基板31の検出領域31aのいずれかの位置に指などが接触していると、SAWf1〜f4の振幅は、当該位置を通過する場合に当該位置にて減衰する。振幅が減衰したSAWに基づいて圧電素子XB,XDから出力される受信信号の出力レベルは低下するので、当該受信信号において出力レベルが低下する時を検知および解析することにより、検出領域31aにおける接触位置が特定ないし検出される。
【0073】
タッチパネル装置Yを作動させるためには、励振手段として圧電素子XA,XCに代えて圧電素子XB,XDを利用し、受信手段として圧電素子XB,XDに代えて圧電素子XA,XCを利用することもできる。
【0074】
タッチパネル装置Yは、励振手段および受信手段として、高い電気機械変換効率を有する第1の実施形態の圧電素子X(圧電素子XA〜XD)を備える。このようなタッチパネル装置Yは、駆動電圧の低減や検出精度の向上を図るうえで好適である。
【0075】
図9および図10は、本発明の第4の実施形態に係るタッチパネル装置Y’を表す。タッチパネル装置Y’は、基板31と、圧電膜32と、電極43A〜43D,44A〜44Dとを備え、SAW方式タッチパネル装置として構成されている。タッチパネル装置Y’は、電極33A〜33D,34A〜34Dに代えて電極43A〜43D,44A〜44Dを有する点において、タッチパネル装置Yと異なる。基板31および圧電膜32については第3の実施形態に関して上述したのと同様である。
【0076】
電極対43A,44A、電極対43B,44B、電極対43C,44C、および電極対43D,44Dは、基板31および圧電膜32の間に介在するIDTを構成し、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる。
【0077】
電極43A〜43Dは、各々、基部43aおよび複数の枝電極43bからなる櫛歯構造を有する。同一の電極に属する複数の枝電極43bは、同一の基部43aから延出し、且つ、相互に平行である。本実施形態では、相互に平行な複数の枝電極43bは、各々、相対的に検出領域31aに近い内側部43b’および相対的に検出領域31aから遠い外側部43b''を有し、これらは異なる所定の方向に延びている。すなわち、枝電極43bは、所定の角度で屈曲している。また、電極43A〜43Dには、各々、対応する端子45A〜45Dが連続している。端子45A〜45Dは、各々、外部に露出する部位を有する。
【0078】
電極44A〜44Dは、各々、基部44aおよび複数の枝電極44bからなる櫛歯構造を有する。同一の電極に属する複数の枝電極44bは、同一の基部44aから延出し、且つ、相互に平行である。また、枝電極44bは、枝電極43bに対しても平行である。本実施形態では、相互に平行な複数の枝電極44bは、各々、内側部44b’および外側部44b''を有し、これらは異なる所定の方向に延びている。すなわち、枝電極44bは、所定の角度で屈曲している。枝電極43b,44bの屈曲角度は、矩形状の検出領域31aを規定する隣接辺の比率に応じて決定されている。また、電極44A〜44Dには、各々、対応する端子46A〜46Dが連続している。端子46A〜46Dは、各々、外部に露出する部位を有する。
【0079】
電極43A〜43D,44A〜44Dの厚さは例えば300〜600nmであり、各枝電極43b,44bの幅d4は例えば20〜30μmである。内側部43b’,44b’の電極周期λ5、および、外側部43b'',44b''の電極周期λ6は、上述の電極周期λ2と同様に、例えば100〜150μmである。
【0080】
タッチパネル装置Y’は、基板31の周縁領域31bにて、第2の実施形態に係る4つの圧電素子X’(圧電素子XA’〜XD’)を具備する。具体的には、電極対43A,44A、電極対43B,44B、電極対43C,44C、および電極対43D,44Dは、各々、圧電素子X’の電極対23,24に相当し、各電極対間に挟まれる圧電膜32は、4つの圧電素子X’の4つの圧電膜12を包含し、これらを支持する基板31は、4つの圧電素子X’の4つの基板11を包含する。また、端子45A〜45Dおよび端子46A〜46Dは、各々、圧電素子X’の端子25および端子26に相当する。このような4つの圧電素子X’を含むタッチパネル装置Y’は、図6A〜図6Cを参照して上述した圧電素子X’の製造方法を利用して製造することができる。
【0081】
タッチパネル装置Y’の作動時には、例えば、相対向する2つの圧電素子XA’,XC’が異なるタイミングで間欠的に励振駆動される。
【0082】
圧電素子XA’は、端子45A,46Aを介して電極43A,44Aの間に交流電圧が印加されることにより励振駆動される。励振駆動中、圧電素子XA’にて所定周波数の2種類の表面弾性波(SAW)f5,f6が励振される。SAWf5は、圧電素子XA’における内側部43b’,44b’に直交する方向に伝搬するように励振される。SAWf6は、圧電素子XA’における外側部43b'',44b''に直交する方向に伝搬するように励振される。
【0083】
SAWf5は、基板31の検出領域31aを伝搬した後、圧電素子XD’における複数の内側部43b’,44b’にて受信される。その結果、圧電素子XD’からその端子45D,46Dを介して受信信号が出力される。この受信信号は、実質的に、圧電素子XD’における図中上端の内側部43b’(44b’)がSAWf5を受信してから、図中下端の内側部43b’(44b’)がSAWf5を受信するまで、出力される。
【0084】
SAWf6は、基板31の検出領域31aを伝搬した後、圧電素子XB’における複数の外側部43b'',44b''にて受信される。その結果、圧電素子XB’からその端子45B,46Bを介して受信信号が出力される。この受信信号は、実質的に、圧電素子XB’における図中上端の外側部43b''(44b'')がSAWF6を受信してから、図中下端の外側部43b''(44b'')がSAWf6を受信するまで、出力される。
【0085】
一方、圧電素子XC’は、端子45C,46Cを介して電極43C,44Cの間に交流電圧が印加されることにより励振駆動される。励振駆動中、圧電素子XC’にて所定周波数の2種類のSAWf7,f8が励振される。SAWf7は、圧電素子XC’における内側部43b’,44b’に直交する方向に伝搬するように励振される。SAWf8は、圧電素子XC’における外側部43b'',44b''に直交する方向に伝搬するように励振される。圧電素子XC’のこのような励振駆動は、例えば、圧電素子XB’,XD’からの上述の受信信号出力が終了した直後に行われる。
【0086】
SAWf7は、基板31の検出領域31aを伝搬した後、圧電素子XB’における複数の内側部43b’,44b’にて受信される。その結果、圧電素子XB’からその端子45B,46Bを介して受信信号が出力される。この受信信号は、実質的に、圧電素子XB’における図中下端の内側部43b’(44b’)がSAWf7を受信してから、図中上端の内側部43b’(44b’)がSAWf7を受信するまで、出力される。
【0087】
SAWf8は、基板31の検出領域31aを伝搬した後、圧電素子XD’における複数の外側部43b'',44b''にて受信される。その結果、圧電素子XD’からその端子45D,46Dを介して受信信号が出力される。この受信信号は、実質的に、圧電素子XD’における図中下端の外側部43b''(44b'')がSAWf8を受信してから、図中上端の外側部43b''(44b'')がSAWf8を受信するまで、出力される。
【0088】
タッチパネル装置Y’の作動時においては、圧電素子XA’によるSAWf5,f6の励振から、SAWf7,f8の受信に基づく圧電素子XB’,XD’からの受信信号の出力までの、上述のような一連の動作が、繰り返される。
【0089】
タッチパネル装置Y’の作動時において、基板31の検出領域31aのいずれかの位置に指などが接触していると、SAWf5〜f8の振幅は、当該位置を通過する場合に当該位置にて減衰する。振幅が減衰したSAWに基づいて圧電素子XB’,XD’から出力される受信信号の出力レベルは低下するので、圧電素子XB’,XD’から出力される受信信号において出力レベルが低下する時を検知および解析することにより、検出領域31aにおける接触位置が特定ないし検出される。
【0090】
タッチパネル装置Y’の作動させるためには、励振手段として圧電素子XA’,XC’に代えて圧電素子XB’,XD’を利用し、受信手段として圧電素子XB’,XD’に代えて圧電素子XA’,XC’を利用することもできる。
【0091】
タッチパネル装置Y’は、励振手段および受信手段として、高い電気機械変換効率を有する第2の実施形態の圧電素子X’(圧電素子XA’〜XD’)を備える。このようなタッチパネル装置Y’は、駆動電圧の低減や検出精度の向上を図るうえで好適である。
【0092】
タッチパネル装置Y,Y’の作動手法としては、他の態様を採用することもできる。例えば、特開2002−222041号公報に記載されている第1〜第3の実施形態に係るタッチパネル装置を作動させるための、当該公報に記載されている手法を採用することができる。
【0093】
〔実施例1〕
図11に示すような、2つの圧電素子Xからなる正規対向型のフィルタを作製した。このフィルタを構成する本実施例の各圧電素子Xは、第1の実施形態に係るものである。フィルタの作製においては、まず、第1成膜工程において、スパッタリング法により、1.0wt%のCuを含有するAl合金をガラス基板11上に成膜することによって、厚さ300nmのAl合金膜を形成した。本スパッタリングでは、Cuを1.0wt%含有するAl合金ターゲットを用いた。
【0094】
次に、所定のレジストパターンをマスクとしてAl合金膜をエッチングすることにより、当該Al合金膜をパターニングした。このようにして、基板11上において、電極13および端子15を形成した。この後、Arプラズマを利用した逆スパッタリング法により、電極13の表面をエッチング処理した。
【0095】
次に、第2成膜工程において、スパッタリング法により、基板11上にZnOを成膜することによって、厚さ2μmの圧電材料膜を形成した。具体的には、ZnO焼結体ターゲットを用い、スパッタガスとしてArガスおよびO2ガスを使用して行う反応性スパッタリングにより、基板上にZnOを成膜した。本スパッタリングでは、ArガスおよびO2ガスの流量比を4:1とした。この後、所定のレジストパターンをマスクとして圧電材料膜をエッチングすることにより、当該圧電材料膜をパターニングした。このようにして、圧電膜12を形成した。
【0096】
次に、第3成膜工程において、スパッタリング法により、基板11の表面および圧電膜12の表面にわたってAl合金を成膜することによって、厚さ300nmのAl合金膜を形成した。本スパッタリングでは、上述の電極13の形成の際に用いたのと同一のCu含有Al合金ターゲットを用いた。次に、所定のレジストパターンをマスクとしてAl合金膜をエッチングすることにより、当該Al合金膜をパターニングした。このようにして、基部14aおよび複数の平行な枝電極14bを有する電極14ならびに端子16を形成した。本実施例における電極14では、枝電極14bの幅d1は44μmであり、枝電極14bの電極周期λ1は110μmである。
【0097】
以上の方法により、本実施例に係る複数のフィルタを作製した。全てのフィルタにおいて、圧電膜12の厚さhは2μmであり、この厚さhと枝電極14bの電極周期λ1とは、0.005≦h/λ1≦0.1という条件を満たす。
【0098】
〔実施例2〕
第1成膜工程において、1.0wt%のCuを含有するAl合金に代えて0.5wt%のCuを含有するAl合金を成膜した以外は、実施例1と同様の方法により、本実施例に係る複数のフィルタを作製した。本実施例のフィルタでは、電極13は、0.5wt%のCuを含有するAl合金よりなる。また、本実施例の全てのフィルタにおいて、圧電膜12の厚さhは2μmであり、この厚さhと枝電極14bの電極周期λ1とは、0.005≦h/λ1≦0.1という条件を満たす。
【0099】
〔実施例3〕
第1成膜工程において、1.0wt%のCuを含有するAl合金に代えて2.0wt%のCuを含有するAl合金を成膜した以外は、実施例1と同様の方法により、本実施例に係る複数のフィルタを作製した。本実施例のフィルタでは、電極13は、2.0wt%のCuを含有するAl合金よりなる。また、本実施例の全てのフィルタにおいて、圧電膜12の厚さhは2μmであり、この厚さhと枝電極14bの電極周期λ1とは、0.005≦h/λ1≦0.1という条件を満たす。
【0100】
〔比較例〕
第1成膜工程において、1.0wt%のCuを含有するAl合金に代えて純Alを成膜した以外は、実施例1と同様の方法により、本比較例に係る複数のフィルタを作製した。本比較例のフィルタでは、基板と圧電膜の間に介在する電極は純Alよりなる。
【0101】
〔実施例4〕
圧電膜12が、ZnOに代えて、MnがドープされたZnOにより構成されている以外は、実施例1と同様の構成を有するフィルタを作製した。このフィルタの作製における第2成膜工程のスパッタリングでは、所定濃度のMn23を含有するZnO焼結ターゲットを用いた。
【0102】
〔挿入損失の測定〕
実施例1〜3および比較例の各フィルタについて、入力信号と受信信号の間の挿入損失を測定した。その結果は図12のグラフに示す。図12のグラフでは、圧電膜を介して対向する電極対の間の抵抗(kΩ)を横軸にて表し、挿入損失(dB)を縦軸にて表す。
【0103】
図12のグラフからは、実施例1〜3のフィルタは、比較例のフィルタよりも挿入損失が小さいことが判る。これは、基板と圧電膜の間に介在する電極が所定濃度のCuを含有するAl合金よりなる場合には、当該電極が純Alよりなる場合よりも、圧電素子における電気機械変換効率が高いためと考えられる。また、図12のグラフに示すように、同一の実施例に係る複数のフィルタの間で電極間抵抗の値にバラツキがあるが、同一の実施例に係る複数のフィルタの間では、電極間抵抗が大きくなるほど挿入損失は小さい傾向にあることが判る。
【0104】
実施例1,4のフィルタについて、挿入損失のアニール時間依存性を調べた。具体的には、実施例1,4の各フィルタについて、アニール処理を施す前、250℃で1時間のアニール処理を施した後、および、更に250℃で1時間したがって合計2時間のアニール処理を施した後、それぞれ挿入損失を測定した。その結果は図13のグラフに示す。図13のグラフでは、アニール時間(h)を横軸にて表し、挿入損失(dB)を縦軸にて表す。また、実施例1のフィルムの測定結果を線E1で表し、実施例4のフィルムの測定結果を線E4で表す。
【0105】
図13のグラフからは、圧電素子が所定のアニール処理を経る場合には、MnがドープされているZnO圧電膜はドープされていなZnO圧電膜よりも挿入損失を低減するうえでは好適であることが判る。これは、圧電材料であるZnOにMnがドープされていると、電極構成材料であるAlの圧電膜への拡散が抑制されるためと考えられる。圧電膜上の電極を印刷法により形成する場合には、所定のパターン形状で印刷された導電ペーストを焼結するためのアニール処理が行われる。したがって、MnがドープされているZnOにより圧電膜が形成されているという構成は、圧電膜上の電極を印刷法により形成する場合に、特に実益がある。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る圧電素子の平面図である。
【図2】図2は、図1の線II−IIに沿った断面図である。
【図3】図3A〜図3Cは、図1に示す圧電素子の製造方法を表す。各図は部分断面図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態に係る圧電素子の平面図である。
【図5】図5は、図4の線V−Vに沿った断面図である。
【図6】図6A〜図6Cは、図4に示す圧電素子の製造方法を表す。各図は部分断面図である。
【図7】図7は、本発明の第3の実施形態に係るタッチパネル装置を表す。
【図8】図8は、図7に示すタッチパネル装置の部分拡大図である。
【図9】図9は、本発明の第4の実施形態に係るタッチパネル装置を表す。
【図10】図10は、図9のタッチパネル装置の部分拡大図である。
【図11】図11は、図1に示す圧電素子を有するフィルタを表す。
【図12】図12は、実施例1〜3および比較例における各フィルタについて、挿入損失測定の結果を表す。
【図13】図13は、実施例1,4における各フィルタについて、挿入損失のアニール時間依存性を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非圧電材料よりなる基板、圧電膜、第1電極、および第2電極を備え、
前記第1電極および/または前記第2電極は、前記基板および前記圧電膜の間に介在し、且つ、Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる、圧電素子。
【請求項2】
前記第1電極は、前記基板および前記圧電膜の間に介在し、前記第2電極は、前記圧電膜上に設けられている、請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記第2電極は、基部、および、当該基部から延出し且つ相互に平行な複数の枝電極を有し、且つ、前記第1電極は、前記圧電膜を介して前記複数の枝電極にわたって対向する部位を有する、請求項2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記圧電膜の厚さをhとし、且つ、前記複数の枝電極の電極周期をλとする場合、h/λの値は0.005〜0.1である、請求項3に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記第1電極および前記第2電極は、前記基板および前記圧電膜の間に介在し、インターデジタルトランスデューサを構成する、請求項1に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記圧電膜は、MnがドープされているZnOよりなる、請求項1に記載の圧電素子。
【請求項7】
Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる第1電極を、非圧電材料よりなる基板上に形成するための工程と、
前記第1電極の表面の酸化膜を除去するための工程と、
前記第1電極に重なる圧電膜を前記基板上に形成するための工程と、
前記圧電膜上に第2電極を形成するための工程と、を含む、圧電素子の製造方法。
【請求項8】
Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなる第1電極を、非圧電材料よりなる基板上に形成するための工程と、
前記第1電極の表面をエッチング処理するための工程と、
前記第1電極に重なる圧電膜を前記基板上に形成するための工程と、
前記圧電膜上に第2電極を形成するための工程と、を含む、圧電素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2電極は、基部、および、当該基部から延出し且つ相互に平行な複数の枝電極を有し、且つ、前記第1電極は、前記圧電膜を介して前記複数の枝電極にわたって対向する部位を有する、請求項8に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項10】
前記圧電膜は、MnがドープされているZnOよりなる、請求項8に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項11】
Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなるインターデジタルトランスデューサを、非圧電材料よりなる基板上に形成するための工程と、
前記インターデジタルトランスデューサの表面の酸化膜を除去するための工程と、
前記インターデジタルトランスデューサに重なる圧電膜を前記基板上に形成するための工程と、を含む、圧電素子の製造方法。
【請求項12】
Ti,Cr,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Hf,W,Pt,およびAuからなる群より選択される金属を0.1〜3wt%含有するAl合金よりなるインターデジタルトランスデューサを、非圧電材料よりなる基板上に形成するための工程と、
前記インターデジタルトランスデューサの表面をエッチング処理するための工程と、
前記インターデジタルトランスデューサに重なる圧電膜を前記基板上に形成するための工程と、を含む、圧電素子の製造方法。
【請求項13】
前記圧電膜は、MnがドープされているZnOよりなる、請求項12に記載の圧電素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−172807(P2008−172807A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17007(P2008−17007)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【分割の表示】特願2004−572114(P2004−572114)の分割
【原出願日】平成15年5月22日(2003.5.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】