説明

圧電素子及びそれを用いる液滴吐出ヘッド並びに圧電素子の製造方法

【課題】圧電特性が高く、かつ耐久性の高い圧電素子を提供すること。
【解決手段】印加される電圧の変化により伸縮する圧電体膜と、圧電体膜の一方の面に配置された第1の電極と、圧電体膜の第1の電極が配置された面とは反対側の面に配置された第2の電極とを有し、圧電体膜は、気相成長法によって第2の電極上に形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分のx/yを0.8以上1.6以下であり、Bが、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni及びランタニド元素の少なくとも1つで構成されており、かつ、0<x≦1、0<y≦1、2.5<z≦3とすることで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子及びそれを用いる液滴吐出ヘッド並びに圧電素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、アクチュエータとして、電圧を印加することによって変位する圧電効果を有する圧電体膜とこの圧電体膜に電圧を印加する電極とを組み合わせた圧電素子が知られている。このような圧電素子としては、引用文献1〜3に示すような圧電体膜としてチタン酸ジルコン酸鉛(「PZT」ともいう。)等の酸化鉛を用いた圧電素子がある。
【0003】
特許文献1には、PZTにニオブ(Nb)加えた圧電体膜で構成した圧電素子が記載されている。このようにニオブを添加することで、PbOの欠損を押さえ、圧電体膜の電極との界面付近における位相の発生を抑制し、圧電素子としての効率を向上させることが記載されている。また、引用文献1には、PbのAサイト中欠損量を20%以下とすることが好ましいことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、PZT前駆体を下部電極側でPbの濃度を低濃度に上部電極側で高濃度に形成し、その後、アニールすることで、強誘電相(本発明の圧電体膜に相当)を形成することで、Pb組成比の上下方向のずれを極力無くした強誘電体特性の良好な強誘電相を有する圧電素子が記載されている。また、特許文献2には、Pbの濃度分布を有するPZT前駆体をスパッタ法、ゾルゲル法で作製することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、PZTを積層した圧電体膜を用いた圧電素子と、その圧電素子を用いるインクジェットヘッドが記載されている。また、PZTとして、組成比Pb/(Zr+Ti)を、1.05より大きく1.3以下とすることで、圧電定数を高くすることができると記載されている。さらに、PZTをスパッタ法により作製することも記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−101512号公報
【特許文献2】特開平5−235268号公報
【特許文献3】特開2000−299510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、引用文献1及び2に示すように、鉛濃度の異なる複数層の層を形成する方法や、ニオブを含有させることで、圧電体膜を作製する方法は、欠落に応じた調整を行い、または、アニール時のPbの欠落を防止し、圧電体膜の鉛濃度を均一にすることで、圧電特性の高い圧電素子とすることができるが、アニール処理(焼きなまし)を行うため、表面側(上部電極側)の鉛濃度が安定せず、さらに圧電特性及び耐久性を高くすることができないという問題がある。また、プロセス数が多くなるため、再現性も高くすることができないという問題がある。
【0008】
また、引用文献3には、スパッタによりPZTを作製することが記載されている。
ここで、圧電体膜をスパッタ法等の気相成長法で製造すると、パイロクロア層ができやすいという問題がある。パイロクロア層が多い圧電体膜は、圧電特性及び耐久性が低くなるため、圧電素子としての性能が低くなる。また、パイロクロア層とペロブスカイトが混在すると、パイロクロア層が形成される位置、分散等により圧電特性が変化する。そのため、スパッタ法で圧電膜を作製する圧電素子は性能にバラツキが発生し、再現性が低いという問題もある。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術に基づく問題点を解消し、圧電特性及び耐久性の高い圧電素子を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、圧電特性及び耐久性が高い圧電素子を用いた液滴の吐出性能が高く、高画質な画像を記録することができる液滴吐出ヘッドを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、気相成長法を用いて、圧電特性、耐久性の高い圧電素子を、再現性を高く製造することができる圧電阻止の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様の第1の形態は、印加される電圧の変化により伸縮する圧電体膜と、前記圧電体膜の一方の面に配置された第1の電極と、前記圧電体膜の前記第1の電極が配置された面とは反対側の面に配置された第2の電極とを有し、前記圧電体膜は、気相成長法によって前記第2の電極上に形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分のx/yが0.8以上1.6以下であり、前記Bが、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni及びランタニド元素の少なくとも1つで構成されており、かつ、0<x≦1、0<y≦1、2.5<z≦3であることを特徴とする圧電素子を提供する。
【0011】
ここで、第1の形態において、前記圧電体膜は、気相成長法によって形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分のx/yが、中心部分のx/yの0.7倍以上1.5倍以下であることが好ましい。
また、前記圧電体膜は、気相成長法によって形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分をXRD測定によって測定した場合のペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが0.2以上であることが好ましい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様の第2の形態は、印加される電圧の変化により伸縮する圧電体膜と、前記圧電体膜の一方の面に配置された第1の電極と、前記圧電体膜の前記第1の電極が配置された面とは反対側の面に配置された第2の電極とを有し、前記圧電体膜は、気相成長法によって形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分のx/yが、中心部分のx/yの0.7倍以上1.5倍以下であり、前記Bが、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni及びランタニド元素の少なくとも1つで構成されており、かつ、0<x≦1、0<y≦1、2.5<z≦3であることを特徴とする圧電素子を提供する。
ここで、第2の形態において、前記圧電体膜は、気相成長法によって形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分をXRD測定によって測定した場合のペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが0.2以上であることが好ましい。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様の第3の形態は、前記圧電体膜の一方の面に配置された第1の電極と、前記圧電体膜の前記第1の電極が配置された面とは反対側の面に配置された第2の電極とを有し、前記圧電体膜は、気相成長法によって形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分をXRD測定によって測定した場合のペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが0.2以上であり、前記Bが、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni及びランタニド元素の少なくとも1つで構成されており、0<x≦1、0<y≦1、2.5<z≦3であることを特徴とする圧電素子を提供する。
【0014】
ここで、上記第1〜第3の形態において、前記Pbを構成する前記Bは、少なくともZr及びTiを含むことがさらに好ましい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の第2の態様は、上記のいずれかに記載の圧電素子と、前記圧電素子を支持する基板とを有し、前記基板は、前記圧電素子と接する部分に前記圧電素子が変形することで容積が変化し、かつ、液滴を吐出する吐出口が開口された液室を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッドを提供する。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の第3の態様は、第1の電極と圧電体膜と第2の電極が積層された圧電素子の製造方法であって、前記第2の電極の表面に気相成長法でPbOを成膜し、前記PbOを成膜した表面上に気相成長法でPbを成膜して、圧電体膜を形成し、前記Pbは、Bが、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni及びランタニド元素の少なくとも1つで構成されており、また、0<x≦1、0<y≦1、2.5<z≦3であることを特徴とする圧電素子の製造方法を提供する。
ここで、第3の態様において、前記第2の電極の表面に成膜するPbOは、厚さが1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の態様の第1の形態によれば、第2の電極の界面付近でのPbの欠損を防止でき、パイロクロア層の少ない圧電体膜とすることができ、圧電特性および耐久性を高くすることができる。
本発明の第1の態様の第2の形態によれば、第2の電極側の界面付近も同様の組成とすることで、界面付近でのPbの欠損を防止でき、界面付近もパイロクロア層が少ない圧電体膜とすることができ、圧電特性および耐久性を高くすることができる。
本発明の第1の態様の第3の形態によれば、界面付近でもっとも発生しやすいパイロクロア層の割合を一定以下とすることで、パイロクロア層の少ない圧電体膜とすることができる。また、界面付近のパイロクロア層を少なくすることで、圧電体膜と第2の電極との間でのリーク電流を少なくすることができる。これにより、圧電特性および耐久性を高くすることができる。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、圧電素子の圧電特性を高くかつ耐久性も高くすることができるため、液滴をより確実に吐出させることができ、耐久性の高い液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0019】
本発明の第3の態様によれば、気相成長法による成長初期段階に寄与するPbの量を多くすることができ、Pbの欠損が生じることを防止でき、さらにパイロクロア層が形成されることも防止、または少なくすることができる。これにより、特に界面付近のパイロクロア層が少ない圧電素子を製造すること可能となり、圧電特性が高く、耐久性も高い圧電素子を再現性よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係るに圧電素子、圧電素子を用いるインクジェットヘッド及び圧電素子の製造方法について、添付の図面に示す実施形態を基に詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1の態様の圧電素子を用いる本発明の第2の態様のインクジェットヘッドの概略構成を示す断面図である。
図1に示すインクジェットヘッド10は、圧電素子12と、圧電素子12を支持する基板14とを有する。
ここで、図1に示すように、インクジェットヘッド10は、複数の圧電素子12が一定間隔で基板14上に配置されており、1つの圧電素子12とその圧電素子12に対応する基板14部分が1つの吐出部を構成している。この各吐出部は同様の構成であるので、以下では、代表して1つの吐出部を構成する1つの圧電素子12とその圧電素子12に対応する基板14の各部について説明する。
【0022】
まず、圧電素子12は、上部電極16と、圧電体膜18と、下部電極20とを有し、基板14上に下部電極20、圧電体膜18、上部電極16の順に積層されている。
【0023】
上部電極16は、板状の電極であり、圧電体膜18の一方の面に配置されている。上部電極16は、図示しない電源に接続されている。この上部電極16は、種々の材料で作製することができ、例えば、Au,Pt及びIr等の金属、IrO,RuO,LaNiO及びSrRuO等の金属酸化物、Al,Ta,Cr及びCu等の一般的に半導体プロセスで用いられる電極材料及びこれらの組み合わせで作製することができる。
【0024】
下部電極20は、圧電体膜18の上部電極16が配置されている面とは反対側の面に配置されている。つまり、上部電極16と下部電極20は、圧電体膜18を挟むように配置されている。下部電極20は、複数の圧電体膜18に共通の板状の電極である。この下部電極20は、図示しない電源、もしくは接地端子に接続されている。
ここで、下部電極20は、種々の材料で作製することができ、例えば、Au,Pt及びIr等の金属、IrO,RuO,LaNiO及びSrRuO等の金属酸化物及びこれらの組み合わせで作製することができる。
【0025】
圧電体膜18は、上部電極16から下部電極20に向かう方向(図1中上下方向)に一定の厚みのある部材であり、印加される電圧が変化することにより伸縮する。圧電体膜18は、Pbを主成分とし、気相成長法によって下部電極20上に形成されている。ここで、x、y、zは、それぞれ0<x≦1、0<y≦1、2.5<z≦3を満たし、Bは、Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni及びランタニド元素の少なくとも1つで構成されている。ここで、PbはAサイト元素であり、Bは、Bサイト元素である。
【0026】
ここで、圧電体膜18としては、Bサイトの元素としてZr及びTiを有するPZTを主成分とすることが好ましい。主成分をPZTとすることで、圧電特性を高くすることができ、比較的安価にすることができる。
【0027】
ここで、上述したように、気相成長法によりPbを主成分とした圧電体膜を作製した場合、圧電特性及び耐久性が低い圧電体膜となるという問題がある。
この点について、本発明者らが鋭意検討した結果、下部電極側の界面付近の配向、組成により圧電特性及び耐久性が変化することを知見した。
より具体的には、界面付近でPbが欠損し、または、パイロクロア層が多いと圧電定数が低く、また耐久性も低くなることを知見した。
【0028】
ここで、本発明の圧電体膜18は、下部電極20との接触面(つまり、界面)から上部電極16側に100nm離れた部分のPbのx/yが、0.8以上1.6以下であること、下部電極20との接触面から上部電極16側に100nm離れた部分のPbのx/yが、中心部分のPbのx/yの0.7倍以上1.5倍以下であること、または、下部電極20との接触面から上部電極16側に100nm離れた部分をXRD測定(つまり、X線回析)によって測定した場合にペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが0.2以上であることの少なくとも1つを満たすものである。
ここで、ペロブスカイトピークは、XRD測定によって検出されたペロブスカイトに起因する全てのピークを足し合わせたものであり、パイロクロアピークは、XRD測定によって検出されたパイロクロア層に起因する全てのピークを足し合わせたものである。
また、中心部分とは、下部電極と圧電体膜の接触面から圧電体膜側(つまり上部電極側)に圧電体膜の厚みの1/2離れた地点である。
【0029】
圧電体膜18は、上記のいずれかを満たすことで、圧電定数等の圧電特性を高くすることができ、耐久性も高くすることができる。
具体的には、圧電体膜18の下部電極20との接触面(つまり、界面)から上部電極16側に100nm離れた部分のPbのx/yを、0.8以上とすることで、界面付近でのPbの欠損により、圧電定数が低くなることを防止でき、圧電定数を一定以上とすることができる。また、x/yを、1.6以下とすることで、界面付近のPbが過剰となり界面でPbがメタル状態となり、下部電極との間でリーク電流が増大することを防止できる。これにより、圧電定数を高くすることができる。また、界面でのリーク電流の増大が防止できることで、部分的に過剰な負荷が生じることも防止できるため、圧電素子としての耐久性も高くすることができる。
また、界面付近でのx/yを0.8以上1.6以下とし、PbとBサイトの元素との量を一定割合とすることで、パイロクロア層を少なく、かつ、ペロブスカイト構造の結晶を多くすることができる。
【0030】
また、圧電体膜18を、下部電極20との接触面から上部電極16側に100nm離れた部分のPbのx/yを、中心部分のPbのx/yの0.7倍以上とすることでも、界面付近におけるPbの欠損を防ぎ、圧電定数を一定以上とすることができる。また、下部電極20との接触面から上部電極16側に100nm離れた部分のPbのx/yを、中心部分のPbのx/yの1.5倍以下とすることで、界面付近のPbが過剰となり界面でPbがメタル状態となることを防止できる。
以上より、上記範囲内とすることで、圧電定数を高くすることができ、耐久性も高くすることができる。
【0031】
さらに、下部電極20との接触面から上部電極16側に100nm離れた部分をXRD測定(つまり、X線回析)によって測定した場合にペロブスカイトピーク/パイロクロアピークを0.2以上とし、パイロクロア層が形成されやすい界面付近のパイロクロア層を少なくすることで、圧電体膜のパイロクロア層を少なくすることができ、圧電定数を高くすることができる。また、界面付近でのペロブスカイトを一定以上の割合とし、微細なクラックを多く含むパイロクロア層の量を少なくすることで、耐久性も高くすることができる。また、ペロブスカイトを多くすることで下部電極との密着性も高くすることができる。
【0032】
ここで、圧電体膜18は、上記の少なくとも1つを満たせば良いが、上記の3つの条件のうち2つを満たすことがより好ましく、3つ全てを満たすことがさらに好ましい。
また、圧電体膜18は、下部電極20との接触面(つまり、界面)から上部電極16側に100nm離れた部分のPbのx/yが、1.0以上1.4以下であることがより好ましい。
【0033】
また、圧電体膜18は、気相成長法により作製されているため、中心部付近から上部電極側界面では、Pbのx/yが±2%以内の変動で均一な組成分布を有する。
【0034】
圧電素子12は、以上のような構成である。
この圧電素子12は、圧電体膜18を挟んでいる上部電極16と下部電極20とで、圧電体膜18に電圧を印加する。圧電体膜18は、上部電極16及び下部電極20から電圧が印加されることで伸縮する。
【0035】
次に、基板14について説明する。
基板14は、圧電素子12を支持する支持板22と、圧電素子12の振動を伝達する振動板24と、インクを貯留し、振動板24の振動により、インク液滴を吐出するインクノズル26とを有する。基板14は、圧電素子12側から支持板22、振動板24、インクノズル26の順で積層されている。
【0036】
支持板22は、複数の圧電素子12に共通の板状部材であり、複数の圧電素子12をそれぞれ下部電極20側から支持している。
この支持板22には、シリコン、ガラス、ステンレス、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、アルミナ、サファイア、シリコンカーバイト等の種々の材料で作製した板状部材を用いることができる。また、支持板22として、シリコン基板上にSiO2膜とSi活性層とを順次積層させたSIO基板等の積層基板を用いてもよい。
【0037】
振動板24は、支持板2の圧電素子12が配置されている面とは反対側に配置されている。振動板24は、対向する位置に配置されている圧電素子12が伸縮することにより振動する。
【0038】
インクノズル26は、振動板24の支持板22とは反対側の面に配置されており、インクを貯留するインク室28と、インク液滴が吐出されるインク吐出口30とが形成されている。
インク室28は、所定量のインクが貯留された空間であり、圧電素子12に対向する位置に配置されている。このインク室28の圧電素子12とは反対側の面には、1つのインク吐出口30が形成されている。
インク室28は、圧電素子12側の面が振動板24で形成されており、振動板24が振動すると容積が変化する。これにより、圧電素子12に電圧が印加されることで振動板24が振動し、インク室28の容積が小さくなると、インク吐出口からインク液滴が吐出される。
なお、インク室28には、図示しないインク供給手段と接続されており、インク吐出口30からインク液滴が吐出されると、インク室28にインクが補充される。このようにして、インク室28は、一定量のインクが貯留されている。
インクジェットヘッド10は、基本的に以上の構成である。
【0039】
次に、インクジェットヘッド10のインク吐出動作について説明する。
まず、インクジェットヘッド10の下部電極20は、複数の圧電素子に共通であり、一定の電圧が印加、若しくは接地されている。
この状態で、画像信号に応じて、上部電極16に電圧が印加されると、圧電体膜18に印加される電圧が変化するため、圧電体膜18が変形する。
【0040】
圧電体膜18が変形すると、その圧電体膜18に対応するインク室28の一面の振動板24が振動し、インク室28の容積が小さくなる。
インク室28の容積が小さくなると、インク室28内部に貯留されているインクの圧が高くなり、インク吐出口30からインク液滴が吐出される。
【0041】
このように、画像信号に応じてインク液滴を吐出することで、画像を形成、若しくは、目標物にインク液滴を吐出することができる。
【0042】
ここで、本実施形態では、支持板22と振動板24とインクノズル26とをそれぞれ別部材としたが、一枚の板状部材にインク室及びインクノズルを形成し、さらに振動板を設けた一体構造としてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、インク液滴を吐出させるインクジェットヘッドとして説明したが、本発明はこれに限定されず、液滴を吐出する種々の液滴吐出ヘッドとして用いることができる。一例としては、化学反応を起こさせるための反応開始剤を、対象に液滴として吐出させる液滴吐出ヘッドや、液体を一定量混合させるために、溶媒中に他の液体を液滴として吐出する液滴吐出ヘッド等にも用いることができる。
【0044】
次に、本発明の圧電素子の製造方法について説明する。
まず、本発明の圧電素子の製造に用いる装置の一例について説明する。
図2は、本発明の圧電素子の製造方法に用いるスパッタリング装置の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
【0045】
スパッタリンク装置50は、気相成長法の1つであるプラズマを用いたスパッタリング法で、下部電極20上に圧電体膜18を成膜する装置であり、真空容器52と、支持部54と、プラズマ電極56と、ガス導入管58と、ガス排出管60と、高周波電源62とを有する。
真空容器52は、鉄、ステンレス、アルミニウム等で形成される気密性の高い容器である。真空容器52としては、スパッタリンク装置で利用される種々の真空容器(真空チャンバ、ベルジャー、真空槽)を用いることができる。
【0046】
支持部54は、真空容器52の内部の上面側に配置されている。ヒータ54は、その下面に下部電極が形成された基礎部Bを支持する支持機構、および、支持している基礎部Bを所定温度に加熱機構で構成されている。
ここで、基礎部Bは、下部電極20が形成されていれば、特に限定はなく、例えば、下部電極20を形成した支持板22でもよく、支持板22、振動板24及びインクノズル26が形成された基板14でもよく、下部電極20のみでもよく、下部電極20を一時的に板部材に保持させた構成の部材でもよい。
【0047】
プラズマ電極56は、真空容器52の内部の下面側に配置されている。つまり、プラズマ電極56は、支持部54に対向して配置されている。プラズマ電極56は、支持部54側の面にターゲットTを装着する装着部を有し、また、電圧を印加する高周波電源62が接続されている。ここで、ターゲットTとは、基礎部Bの下部電極20上に成膜する膜の組成に応じた材料である。
【0048】
ガス導入管58は、真空容器52内にガスを導入するためのパイプであり、図示しないガスタンク、コンプレッサー等と接続されている。また、ガス排出管60は、真空容器52内の空気を排気するためのパイプであり、図示しないコンプレッサー等と接続されている。ここで、ガス導入管58から真空容器52内に導入するガスとしては、アルゴン(Ar)、または、アルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガス等を用いることができる。
【0049】
次に、スパッタリンク装置50による成膜方法について説明する。
まず、支持部54に基礎部Bを装着し、プラズマ電極56の装着部にターゲットTを装着する。その後、ガス排出管60から真空容器52内の空気を排出しつつ、ガス導入管58から真空容器52内にガスを導入し、真空容器52内にガスを充満させた状態にする。
その後、高周波電源62からプラズマ電極56に電圧を印加し、プラズマ電極56から放電を発生させる。プラズマ電極56で放電を発生させると、真空容器内のガスがプラズマ化され、ガスのプラスイオンが生成される。生成されたプラスイオンは、ターゲットTをスパッタする。スパッタされたターゲットTの構成元素は、ターゲットから放出され、中性あるいはイオン化された状態で基礎部Bに蒸着される。
スパッタリング装置50は、このようにして基礎部Bに膜を形成する。
【0050】
以下、図3とともに本発明の圧電素子の製造方法についてより詳細に説明する。なお、本実施形態では、支持板22上に圧電素子12を作製する場合として説明する。
図3は、圧電素子の製造工程を示すフロー図である。
【0051】
まず、支持板22に下部電極20を形成する(S10)。下部電極20の作製方法は、スパッタリング、蒸着、また、機械的に貼り付ける等種々の方法を用いることができる。
【0052】
次に、下部電極20上に、気相成長法により、PbO膜を成膜する(S12)。
具体的には、スパッタリンク装置50を用いて、基礎部Bとして、下部電極20が形成された支持板22を配置し、ターゲットとしてPbO焼成体を配置する。そして、上述したように、真空容器52内に所定のガスを充満させ、プラズマ放電を発生させることにより、基礎部Bの下部電極20上にPbO膜を形成する。
【0053】
次に、PbO膜を形成した下部電極20上に、気相成長法により、PZTを成膜する(S14)。
具体的には、スパッタリンク装置50を用いて、基礎部Bとして、下部電極20上にPbO膜が形成された支持板22を配置し、ターゲットとしてPZT焼成体を配置する。そして、上述したように、真空容器52内に所定のガスを充満させ、プラズマ放電を発生させることにより、基礎部Bの下部電極20上にPZTを成膜する。
ここで、PbO膜は、微小な厚みであるため、PZTの成膜時に、成膜されるPZTに吸収される。つまり、PZTの成膜後は、下部電極上にPZTのみが形成された状態となる。このようにして下部電極20上に形成されたPZTが、圧電体膜18となる。
【0054】
次に、圧電体膜18上に上部電極16を形成する(S16)上部電極16の作製方法は、マスク等を用い、スパッタリング、蒸着により形成する方法、また、機械的に貼り付ける等種々の方法を用いることができる。
以上のようにして圧電素子を製造する。
【0055】
このように、酸化鉛(PbO)の薄膜を形成した後、PZTの膜を形成することで、成膜初期において寄与するPb量を多くすることができ、成膜時に、下部電極側の界面付近でPbが欠損することを防止できる。また、圧電体膜の下部電極側の界面付近と、中心部とのPbの割合を所定範囲にすることができる。さらに、圧電体膜の下部電極側の界面付近におけるペロブスカイトとパイロクロア層の比を一定以上にすることができる、つまりパイロクロア層の少ない圧電体膜を作製することができる。
以上より、上述した圧電特性が高く、耐久性が高い圧電素子を作製することができる。また、圧電体膜の下部電極側の界面付近のパイロクロア層の量が少なくでき、また、Pbの欠損を少なくすることができるため、圧電特性が高く、耐久性が高い圧電素子を再現性を高く製造することができる。
【0056】
ここで、下部電極上に形成するPbO膜の厚みは、1nm以上10nm以下とすることが好ましく、2nm以上5nm以下とすることがさらに好ましい。PbO膜の厚みを、1nm以上とすることで、圧電体膜の下部電極側界面付近でのPbの割合を一定以上とすることができ、さらにパイロクロア層が形成されることを好適に防止できる。また、PbO膜の厚みを、10nm以下とすることで、下部電極側の界面付近でPbが過剰となり、圧電体膜の下部電極側界面付近で、Pbがメタル状になることを防止でき、さらに、圧電体幕と下部電極との密着性を高くすることができ、圧電体膜と下部電極とが剥離することを防止できる。
また、PbO膜の厚みを2nm以上5nm以下とすることで上記効果をより好適に得ることができる。
【0057】
なお、本実施形態では、支持板22上に圧電素子を形成したが、これに限定されず、S10を省略し、支持板上に圧電素子を形成しなくてもよい。また、基礎部で述べたように、支持板とは違う板部材上に下部電極を形成してもよく、支持板、振動板、インクノズルで構成された基板上に下部電極を作製してもよい。
【0058】
また、本実施形態では、プラズマを用いた気相成長法により圧電体膜を作製する場合について説明したが、これに限定されず、光、熱等を用いた気相成長法にも用いることができ、スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD等、種々の気相成長法で圧電体膜を作製する場合も同様に、PbO膜を成膜した後、PZTを成膜することで、圧電特性が高く、耐久性の高い上述の圧電素子を製造することができる。
【0059】
また、本実施形態では、下部電極上にPbO膜を形成したが、酸化された鉛であれば、二酸化鉛でも三酸化鉛でもよい、つまり、PbO(aは、任意の実数)を用いることができる。
また、本実施形態では、圧電体膜として、圧電特性が高く、比較的安価であり、作製がよういであるため、Bサイトの元素としてZr及びTiを有するPZTの圧電体膜を形成する場合として説明したが、これに限定されず、上述したPbを主成分とする圧電体膜を作製する場合も同様に、PbOの膜を形成した後にPbを気相成長法により作製することで、上記効果を得ることができる。
【0060】
以下、具体的実施例を用いて本発明の圧電素子及び圧電素子の製造方法についてより詳細に説明する。
【0061】
まず、実施例1に用いた圧電素子は、以下の方法で作製した。
支持体としてSOI基板を用い、スパッタ法によりSOI基板上に下部電極を作製した。具体的には、SOI基板を350℃に加熱した状態で、SIO基板上に、Tiを10nm蒸着し、さらにIrを300nm蒸着することで、下部電極を作製した。
次に、上述したスパッタリンク装置50内に、下部電極を作製したSOI基板を載置し、ターゲットとしてPbO焼成体を載置する。その後、真空容器内に、空気を排気しつつ、ガスとしてArを導入し、全圧0.3PaのAr雰囲気とし、さらに、SOI基板を450℃に加熱する。上記条件で、スパッタ法により、下部電極上に10nmのPbOを成膜した。
次に、ターゲットをPb1.3((Zr0.52Ti0.480.9Nb0.10)Oに変更し、さらに、ガスをAr+1%Oの混合ガス(つまり、Arが100に対してOが1の割合で混合されたガス)に変更し、真空容器内を混合ガス雰囲気とした。さらに、プラズマ電位の差を30eV、rfパワーを500Wとした。上記条件でスパッタ法により、下部電極上に4μmのPZTを成膜、圧電体膜を作製した。
【0062】
このようにして、作製した圧電体膜を用いて1.1mm開口のオープンプール構造を作製し、圧電定数d31を測定した。測定した結果、圧電定数d31は、250pm/Vであった。
【0063】
次に、この圧電体膜を研磨し、種々の膜厚(本発明では、下部電極からの距離)で、XRD測定(つまり、X線回析測定)及びXRF測定(つまり、蛍光X線分析測定)を行った。このXRD測定から圧電体膜(つまり、PZT)の配向を検出し、XRF測定から圧電体膜の組成を検出することで、圧電体膜の各膜厚での配向及び組成分布を算出した。
【0064】
算出した結果、膜厚4μm地点、つまり、圧電体膜の表面では、完全にペロブスカイト(100)配向であった。
次に、膜厚100nm地点におけるXRDの測定した結果を図4に示す。ここで、図4は、膜厚100nm地点におけるXRDの測定した結果を示すグラフであり、縦軸を強度[cps]とし、横軸を2Θ[°]とした。
図4に示すように、膜厚100nm地点の圧電体膜は、ペロブスカイト(100)配向、ペロブスカイト(111)配向、ペロブスカイト(200)配向とパイロクロア層とが混在していることがわかる。なお、図4に示すように、膜厚100nm地点におけるXRD測定の測定結果では、下部電極のIrが検出されているが、下部電極のIrを検出しているものであり、圧電体膜の配向ではないので無視することができる。
さらに、図4に示す測定結果から算出したペロブスカイトピーク/パイロクロアピークは、6.3であった。
【0065】
次に、XRF測定の測定結果から算出した組成分布からPb量/(Zr+Ti+Nb)量を算出した。算出した結果、膜厚4μm地点のPb量/(Zr+Ti+Nb)量は1.15であり、膜厚100nm地点のPb量/(Zr+Ti+Nb)量は1.20であった。また、膜厚2μm〜4μmの間の各膜厚でのPb量/(Zr+Ti+Nb)量は、2%以内の変動で略一定であった。
算出結果を図5に示す。図5は、膜厚とPb量/(Zr+Ti+Nb)量との関係を示すグラフであり、縦軸をPb量/(Zr+Ti+Nb)量とし、横軸を膜厚[nm]とした。
図5に示すように、下部電極側の界面付近においてもPbの比率が高いことが分かる。
また、膜厚100nm地点(以下「A点」ともいう。)のPb量/(Zr+Ti+Nb)量)と、圧電体膜の中心部つまり膜厚2μm地点(以下「B点」ともいう。)のPb量/(Zr+Ti+Nb)量)との比、つまり、(A点におけるPb量/(Zr+Ti+Nb)量)/(B点(膜厚2000nm地点)におけるPb量/(Zr+Ti+Nb)量)(以下、単に「A点/B点」とする。)は、1.1であった。
【0066】
次に、実施例2〜5として、成膜条件を変更し、膜厚100nm地点におけるPb量/(Zr+Ti+Nb)量を0.8(実施例2),1.0(実施例3),1.4(実施例4),1.6(実施例5)の圧電素子を作製し、それぞれの圧電素子について同様の測定及び算出を行った。
測定及び算出した結果、実施例2は、圧電定数d31が、240pm/Vであり、膜厚100nmにおけるペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが、0.2であり、A点/B点が、0.7であった。
次に、実施例3は、圧電定数d31が、250pm/Vであり、膜厚100nmにおけるペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが、0.1であり、A点/B点が、0.9であった。
次に、実施例4は、圧電定数d31が、250pm/Vであり、膜厚100nmにおけるペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが、8.2であり、A点/B点が、1.3であった。
次に、実施例5は、圧電定数d31が、240pm/Vであり、膜厚100nmにおけるペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが、5.2であり、A点/B点が、1.5であった。
【0067】
次に、比較例1について説明する。
比較例1では、以下の方法で圧電素子を作製した。
支持体としてSOI基板を用い、スパッタ法によりSOI基板上に下部電極を作製した。具体的には、SOI基板を350℃に加熱した状態で、SIO基板上に、Tiを10nm蒸着し、さらにIrを300nm蒸着することで、下部電極を作製した。
次に、上述したスパッタリンク装置50内に、下部電極を作製したSOI基板を載置し、ターゲットとしてPb1.3((Zr0.52Ti0.480.9Nb0.10)Oを載置する。その後、真空容器内に、空気を排気しつつ、ガスとしてAr+1%Oの混合ガスを導入し、全圧0.3Paの混合ガス雰囲気とし、さらに、SOI基板を450℃に加熱する。さらに、プラズマ電位の差を30eV、rfパワーを500Wとした。上記条件で、スパッタ法により、下部電極上に4μmのPZTを成膜、圧電体膜を作製した。
【0068】
以上のようにして作製した圧電体膜を用いて、実施例と同様に、1.1mm開口のオープンプール構造を作製し、圧電定数d31を測定した。測定した結果、圧電定数d31は、100pm/Vであった。
【0069】
次に、この圧電体膜について、実施例と同様に圧電体膜の各膜厚でXRD測定及びXRF測定をし、各膜厚での配向及び組成分布を算出した。
算出した結果、本比較例も、膜厚4μm地点、つまり、圧電体膜の表面では、完全にペロブスカイト(100)配向であった。
次に、膜厚100nm地点におけるXRDの測定した結果を図6に示す。ここで、図6は、膜厚100nm地点におけるXRDの測定した結果を示すグラフであり、縦軸を強度[cps]とし、横軸を2Θ[°]とした。
図6に示すように、膜厚100nm地点の圧電体膜は、パイロクロア層が多く、ペロブスカイトが少ないことが分かる。なお、本比較例も、下部電極のIrが検出されているが、圧電体膜の配向ではないので無視することができる。
図6示す測定結果から算出したペロブスカイトピーク/パイロクロアピークは、0.2であった。
【0070】
さらに、組成分布の測定結果から各膜厚のPb量/(Zr+Ti+Nb)量を算出した。算出した結果、膜厚4μm地点のPb量/(Zr+Ti+Nb)量は1.1であり、膜厚100nm地点のPb量/(Zr+Ti+Nb)量は0.6であった。なお、本比較例の場合も、膜厚2μm〜4μmの間の各膜厚でのPb量/(Zr+Ti+Nb)量は、2%以内の変動で略一定であった。
算出結果を図7に示す。図7は、膜厚とPb量/(Zr+Ti+Nb)量との関係を示すグラフであり、縦軸をPb量/(Zr+Ti+Nb)量とし、横軸を膜厚[nm]とした。
図7に示すように、比較例では、下部電極側の下面でPbの欠損が発生し、Pbの量が少なくなっていることがわかる。
さらに、A点/B点は、0.5であった。
【0071】
次に、比較例2について説明する。
比較例2では、以下の方法で圧電素子を作製した。
支持体としてSOI基板を用い、スパッタ法によりSOI基板上に下部電極を作製した。具体的には、SOI基板を350℃に加熱した状態で、SIO基板上に、Tiを10nm蒸着し、さらにIrを300nm蒸着することで、下部電極を作製した。
次に、上述した実施例1と同様の条件でスパッタ法により、下部電極上に15nmのPbOを成膜した。
次に、上述したスパッタリンク装置50内に、下部電極を作製したSOI基板を載置し、ターゲットとしてPb1.3((Zr0.52Ti0.480.9Nb0.10)Oを載置する。その後、真空容器内に、空気を排気しつつ、ガスとしてAr+1%Oの混合ガスを導入し、全圧0.3Paの混合ガス雰囲気とし、さらに、SOI基板を450℃に加熱する。さらに、プラズマ電位の差を30eV、rfパワーを500Wとした。上記条件で、スパッタ法により、PbO層を成膜した下部電極上に4μmのPZTを成膜、圧電体膜を作製した。
【0072】
以上のようにして作製した圧電体膜を用いて、実施例と同様に、1.1mm開口のオープンプール構造を作製し、圧電定数d31を測定した。測定した結果、圧電定数d31は、130pm/Vであった。また、圧電体膜は、密着性が低く、一部が剥離していた。
【0073】
また、この圧電体膜についても、実施例1〜5、比較例1と同様に、圧電体膜の各膜厚でXRD測定及びXRF測定をし、各膜厚での配向及び組成分布を算出した。
算出した結果、膜厚4μm地点におけるPb量/(Zr+Ti+Nb)量は、1.1であり、膜厚100nm地点におけるPb量/(Zr+Ti+Nb)量は、2.0であった。このように本比較例の場合は、下部電極側の界面付近でPbが過剰に存在していることが分かる。
さらに、膜厚100nmにおけるペロブスカイトピーク/パイロクロアピークは、0.1であり、A点/B点は、1.8であった。
【0074】
以上の実施例及び比較例の測定結果を表1にまとめて示す。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例1〜5及び比較例1、2に示すように、Pb量/(Zr+Ti+Nb)量、つまり、Pbのx/yを0.8以上1.6以下にすることにより、圧電定数を高くすることができることがわかる。
また、A点/B点を0.7以上1.5以下とすることでも、圧電定数を高くすることができることがわかる。
さらに、ペロブスカイトピーク/パイロクロアピークを0.2以上とすることでも、圧電定数を高くすることができることがわかる。
【0077】
また、実施例1〜5に示すように、PbO層を形成してからPZTを形成して圧電体膜を作製することにより、比較例1に示すように、直接PZTを形成して圧電体膜を作製した場合よりも圧電定数を高くできることがわかる。
また、実施例1〜5及び比較例2に示すようにPbO層を1nm以上10nm以下とすることで、圧電定数の高い圧電体膜を形成でき、かつ圧電体膜と下部電極との密着性を高くできることがわかる。
また、PbO層を形成してからPZTを形成して圧電体膜を作製することにより、気相成長法で圧電体膜を製造する場合でも、下部電極側の界面付近で、Pbが欠損することを防止でき、界面付近でも一定割合のPbを保持できることがわかる。
また、膜厚100nm地点つまり界面付近でのパイロクロア層を少なく、さらに、界面付近と中心部でのPbの量との割合が一定範囲の圧電体膜を作製できることもわかる。
以上より本発明の効果は明らかである。
【0078】
以上、本発明に係る圧電素子、圧電素子を用いる液滴吐出ヘッド及び圧電素子の製造方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよい。
【0079】
一例としては、上記の実施形態では、本発明の圧電素子を本発明のインクジェットヘッドに用いた場合として説明したが、本発明はこれに限定されず、メモリ、圧力センサ等種々の用途に用いる圧電素子として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の圧電素子を用いる本発明のインクジェットヘッドの一実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の圧電素子の製造方法に用いる圧電素子の製造装置の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明の圧電素子の製造方法の一実施形態の工程を示すフロー図である。
【図4】本発明の圧電素子を構成する圧電体膜の配向の測定結果を示すグラフである。
【図5】本発明の圧電素子を構成する圧電体膜の各膜厚における組成分布の算出結果を示すグラフである。
【図6】比較例の圧電体膜の配向の測定結果を示すグラフである。
【図7】比較例の圧電体膜の各膜厚における組成分布の算出結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
10 インクジェットヘッド
12 圧電素子
14 基板
16 上部電極
18 圧電体膜
20 下部電極
22 支持板
24 振動板
26 インクノズル
28 インク室
30 インク吐出口
50 スパッタリング装置
52 真空容器
54 支持部
56 プラズマ電極
58 ガス導入管
60 ガス排出管
62 高周波電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加される電圧の変化により伸縮する圧電体膜と、
前記圧電体膜の一方の面に配置された第1の電極と、
前記圧電体膜の前記第1の電極が配置された面とは反対側の面に配置された第2の電極とを有し、
前記圧電体膜は、気相成長法によって前記第2の電極上に形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分のx/yが0.8以上1.6以下であり、前記Bが、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni及びランタニド元素の少なくとも1つで構成されており、かつ、0<x≦1、0<y≦1、2.5<z≦3であることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記圧電体膜は、気相成長法によって形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分のx/yが、中心部分のx/yの0.7倍以上1.5倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記圧電体膜は、気相成長法によって形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分をXRD測定によって測定した場合のペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが0.2以上である請求項1または2に記載の圧電素子。
【請求項4】
印加される電圧の変化により伸縮する圧電体膜と、
前記圧電体膜の一方の面に配置された第1の電極と、
前記圧電体膜の前記第1の電極が配置された面とは反対側の面に配置された第2の電極とを有し、
前記圧電体膜は、気相成長法によって形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分のx/yが、中心部分のx/yの0.7倍以上1.5倍以下であり、前記Bが、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni及びランタニド元素の少なくとも1つで構成されており、かつ、0<x≦1、0<y≦1、2.5<z≦3であることを特徴とする圧電素子。
【請求項5】
前記圧電体膜は、気相成長法によって形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分をXRD測定によって測定した場合のペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが0.2以上であることを特徴とする請求項4に記載の圧電素子。
【請求項6】
印加される電圧の変化により伸縮する圧電体膜と、
前記圧電体膜の一方の面に配置された第1の電極と、
前記圧電体膜の前記第1の電極が配置された面とは反対側の面に配置された第2の電極とを有し、
前記圧電体膜は、気相成長法によって形成されたPbを主成分とし、前記第2の電極との接触面から、前記第1の電極の方向に100nm離れた部分をXRD測定によって測定した場合のペロブスカイトピーク/パイロクロアピークが0.2以上であり、前記Bが、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni及びランタニド元素の少なくとも1つで構成されており、0<x≦1、0<y≦1、2.5<z≦3であることを特徴とする圧電素子。
【請求項7】
前記Pbを構成するBは、少なくともZr及びTiを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の圧電素子と、
前記圧電素子を支持する基板とを有し、
前記基板は、前記圧電素子と接する部分に前記圧電素子が変形することで容積が変化し、かつ、液滴を吐出する吐出口が開口された液室を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
第1の電極と圧電体膜と第2の電極が積層された圧電素子の製造方法であって、
前記第2の電極の表面に気相成長法でPbOを成膜し、
前記PbOを成膜した表面上に気相成長法でPbを成膜して、圧電体膜を形成し、
前記Pbは、Bが、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni及びランタニド元素の少なくとも1つで構成されており、また、0<x≦1、0<y≦1、2.5<z≦3であり、
前記第2の電極の表面に成膜するPbOは、厚さが1nm以上10nm以下であるとを特徴とする圧電素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−65049(P2009−65049A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233017(P2007−233017)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】