説明

地中連続壁の施工方法と施工装置

【課題】施工性の向上を図り、環境負荷を低減することが出来る地中連続壁の施工方法と施工装置を提供する。
【解決手段】チェーン式カッター32を地中に建て込んだ状態で、カッター32を回転させると共に、該カッター32を移動させることにより一定幅の溝Gを連続して掘削し、この溝G内にPC壁体を挿入して地中壁を形成する。掘削時に発生した泥水Wを回収し、この回収した泥水Wから土砂分Dを分離し、この分離された土砂分Dと土砂分Dを分離した分離液たる分級泥水W1とを再利用する。断面の大きなPC壁体を用いると、多量の廃棄物が発生するが、掘削により発生する泥水Wを回収し、分離液と土砂分Dとに分離するため、従来、廃棄又は処理を必要とした泥水Wを有効利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築工事において構築する地中連続壁の施工方法と施工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地中連続壁の施工性の向上を図ったものとして、掘削刃を備えたエンドレスチェーンがカッターポストに設けられた駆動輪と誘導輪との間に掛け渡されて成るチェーン式カッターをガイドに取付け、このチェーン式カッターを地中に挿入した状態で、同カッターを回転させながら上記ガイドにより水平に移動させて地中に連続壁を掘削し、この掘削された連続溝内に固化材を注入することによって地中に連続壁を造成する施工方法(例えば特許文献1)が知られている。
【0003】
上記の施工方法では、カッターにより掘削しながら、掘削孔内において掘削土砂と注入した掘削液と混合して先行掘削を行い、この後の固化段階で掘削孔内において掘削土砂と注入した固化材を混合して連続壁を構築するため、原則的には、注入した掘削液と固化材の分は泥水が発生する。このため、従来は、現場に貯泥ピットを設け、天日乾燥もしくはセメント固化処理を行って固化した後、搬出したり、所定の強度に達した後、現場で再利用したりしている。
【0004】
また、固化材入りスラリーが造成された掘削溝に壁形成用柱材を連続的に設置して先行壁を形成する地中連続壁の構築方法が知られており、先行壁の打ち継ぎ面に仮設用柱材を密着状に設置し、スラリーが固化してソイルセメントとなった後に、仮設用柱材を引き抜いて先行壁の打ち継ぎ面に連結用空隙部を形成すると共に、固化液入りスラリーを造成しながら連結用空隙部まで後戻り掘削して後行壁用の掘削溝を掘削した後、先行壁の打ち継ぎ面に後行壁用の壁形成用柱材を密着状に設置する(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開平7−180154号公報
【特許文献2】特開2006−70608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記地中連続壁の構築方法において、掘削溝に大きな断面の壁形成用柱材を設置する場合、地中壁の壁厚に対して、使用する壁形成用柱材の体積が大きくなるため、多量の泥土が排出され、この泥土は産業廃棄物として処分されるが、処分量が多いため、処理費用が膨大なものになるという問題がある。
【0006】
また、上記地中連続壁の構築方法では、先行壁と後行壁用の壁形成用柱材とを密着することができるが、先行壁に仮設用柱材を設置及び撤去する作業が必要となると共に、ソイルセメントとなった先行壁まで戻ってソイルセメント部分を再度掘削する必要があった。
【0007】
そこで、本発明は、地中連続壁を構築する際に発生する泥水を再利用することにより、廃棄物を無くし、施工性の向上を図り、環境負荷を低減することが出来る地中連続壁の施工方法と施工装置を提供することを目的とし、加えて、仮設用柱材の設置及び撤去が不要で、ソイルセメント部分の再掘削が不要で、施工性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、チェーン式カッターを地中に建て込んだ状態で、カッターを回転させると共に、該カッターを移動させることにより一定幅の溝を連続して掘削し、この溝内に壁形成用柱材を挿入して地中壁を形成する地中連続壁の施工方法において、前記壁形成用柱材がPC壁体であり、前記掘削時に発生した泥水を回収し、この回収した泥水から土砂分を分離し、この分離された土砂分と土砂分を分離した分離液とを再利用する施工方法である。
【0009】
請求項2の発明は、前記溝内に前記PC壁体を挿入した後、前記溝に固化材を充填する施工方法である。
【0010】
請求項3の発明は、前記カッターを移動させながら前記溝内の掘削土砂に固化材を注入し、この固化材を注入した溝内に前記PC壁体を挿入して地中壁を形成する施工方法である。
【0011】
請求項4の発明は、前記発生した泥水をスクイーズポンプにより吸引する施工方法である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1記載の地中連続壁の施工方法に用いる施工装置において、前記発生した泥水を回収するスクイーズポンプと、このスクイーズポンプにより回収した泥水を貯留する貯泥槽と、この貯泥槽の泥水から土砂分を分離する土砂分分離手段とを備える施工装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、断面の大きなPC壁体を用いると、多量の廃棄物が発生するが、掘削により発生する泥水を回収し、分離液と土砂分とに分離するため、従来、廃棄又は処理を必要とした泥水を有効利用することができ、例えば、分離液は掘削液の成分と、現場から発生するシルトや粘土分などの細粒分を含むから、分離液に再利用することができ、添加成分の使用量を削減することができ、また、土砂分は土木材料などに再利用できる。
【0014】
また、請求項2の構成によれば、PC壁体を挿入した後、固化材を充填するから、打ち注ぎ部分を施工した後、打ち継ぎ部分に固化材を充填することにより、施工性を向上することができる。すなわち、従来の仮設用柱材の設置及び撤去と、ソイルセメント部分の再掘削が不要となる。
【0015】
また、請求項3の構成によれば、固化材を含んだ泥水を回収し、分離液と土砂分とに分離し、土砂分又は分離水を再利用することができる。
【0016】
また、請求項4の構成によれば、泥水の発生量が多くなっても、泥水をスムーズに連続吸引することができる。
【0017】
また、請求項5の構成によれば、この装置を用いて地中壁を構築することにより、掘削時,PC壁体2の挿入時又は固化材の注入時に発生する泥水を回収し、従来、廃棄又は処理を必要とした泥水を有効利用することができる。また、PC壁体を挿入する際、泥水の発生量が多くなり、装置の処理能力を超えても、貯泥槽に一端ストックして処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる新規な地中連続壁の施工方法と施工装置を採用することにより、従来にない機能を付加した地中連続壁の施工方法と施工装置が得られ、その地中連続壁の施工方法と施工装置を夫々記述する。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。図1〜図5は、本発明の実施例1を示し、同図に示すように、地中連続壁1は、複数のPC壁体(プレキャストコンクリート壁体)2により構築され、このPC壁体2は、平断面が略正方形形状をなし、その中央に長さ方向に連結する略円形の中空部3が形成されて筒状をなし、隣合うPC壁体2,2が接する打ち継ぎ面4には、複数の打ち継ぎ溝5,5が形成されている。
【0020】
11は地盤、12は掘削装置10の自走車両、13はそのクローラ、14は旋回台、15は運転室、16は後部に設けた油圧ユニットである。本実施例においては、上部水平部材17と、下部水平部材18と、4本の垂直部材19を枠組みしてフレーム20を形成し、このフレーム20を車両12の一側に垂直に立てて固定する。すなわち21は一方のクローラ13の外側面に突設した2個のブラケットで、このブラケット21にフレーム20の下部水平部材18を固定すると共に、フレーム20の上部水平部材17の後面に突設したブラケット22に連結したステー23の後端部を、他のクローラ13の外側に突設したブラケット24に連結してフレーム20を固定する。
【0021】
また、掘削装置10は、フレーム20の上下の水平部材17,18をガイドとして垂直フレーム25を横方向に摺動自在に設ける。25aは上部水平部材17のガイド部と摺動自在に係合するブラケット部であり、25bは下部水平部材18のガイド部と摺動自在に係合するブラケット部である。また上部水平部材17に油圧シリンダー26の基部を枢支すると共に、このピストンロッド26aの先端部を連結部材27を介して垂直フレーム25の上部に連結し、下部水平部材18に油圧シリンダー28の基部を枢支すると共に、このピストンロッド28aの先端部を連結部材29を介して垂直フレーム25の下部に連結する。
【0022】
また、掘削装置10は、垂直フレーム25に対してカッター支持ポスト30を昇降自在に設ける。31(図4参照)はその昇降用油圧シリンダーである。そしてこのカッター支持ポスト30に対してエンドレスチエーン式カッター32を垂直に設ける。33はこのカッター32のカッターポストであって上下に長い箱形フレームからなり、34はカッターポスト33の上端部に設けたスプロケット、35はポスト33の下端部に設けたスプロケット、36はこれら上下のスプロケット34,35にかけ渡した掘削刃付きエンドレスチエーンである。また、37はこのカッター駆動用のモータであり、38はその伝動装置である。図中51は掘削した溝Gに掘削液Aとセメント液(セメントスラリー)やグラウト材などの固化材Kを注入する注入装置であり、この注入装置51は、掘削装置10に設けられ、前記カッター32の下端側から掘削液Aと、セメント液(セメントスラリー)グラウト材などの固化材Kとを溝Gに選択的に注入するものである。
【0023】
図4〜図6示すように、施工装置は、上述した自走車両12に設けられた掘削装置10と供に、現場から発生した泥水Wが送られてくる泥水槽71と、前記泥水Wから土砂分Dを分離する土砂分分離手段たる振動篩72と、この泥水Wから土砂分Dを分離した分級泥水W1が送られてくる泥水調整槽73と、この泥水調整槽73内に水を供給する清水槽74と、前記泥水調整槽73に送られた分級泥水W1と清水槽74の水とを混合した調整済泥水W2の濃度を検出する自動計測装置75と、前記汚水調整槽73内において調整された調整済汚水W2が送られる注入液供給装置76とを備える。
【0024】
まず、掘削時においては、図3(A)に示すように、地中壁施工位置の始端側の掘削孔61にカッター32を吊し下げて挿入すると共に、このカッター32を垂直フレーム25に取り付ける。つぎに、油圧シリンダー26,28を縮めた状態で、フレーム20の上下部の水平部材17,18によるガイド方向を構築しようとする地中連続壁1の方向と一致させ、必要があればクローラ13が移動しないように地盤11に対してアンカー等によって固定し、この状態でカッター32のチエーン36をモータ37によって駆動しながら、油圧シリンダー26,28に圧力油を供給して、各ピストンロッド16a,18aを押し出すことによって、垂直フレーム25を介してカッター32を図3(A)の矢印の方向へ地盤11をほぐすように掘削しながら移動させる。この際、進行方向又は掘削した溝Gに注入装置51から掘削液Aを注入し、掘削液Aと溝G内の土砂を撹拌する。その掘削液Aは、主としてベントナイトを水に混合したものであり、掘削液Aを用いることにより、溝G内の安定を図ると共に、カッター32の駆動が円滑になり、また、溝G内の土砂がほぐし易くなり、掘削が容易となる。
【0025】
そして、各油圧シリンダー26,28のピストンロッド26a,28aが伸びきったならば、そのピストンロッド26a,28aを後退させると共に、自走車両12を図3(B)に示すように、図中右方向(掘削方向)へ移動させて、再び前記した操作を繰り返し行って、所定の長さの地中壁用の溝Gをほぐすように掘削する。また、進行方向又は掘削した溝Gに注入装置51から掘削液Aを注入し、掘削液Aと溝G内の土砂の一部を撹拌する。この場合、カッター32を図中左側に戻して溝G内を撹拌することができる。
【0026】
続いて、図3(B)に示したように、掘削液Aと土砂との混合物が入った溝G内に、PC壁体2を連続的に挿入し、開始位置から所定長さLの地中連続壁1を形成する。前記所定長さLは、一日の工程で施工できる程度のものであるが、工程により適宜設定できる長さである。一方、PC壁体2を挿入した後、開始位置から所定長さLより短い固化範囲長さの溝G内に、固化材Kを充填し、反開始位置である施工完了位置の非充填範囲Lhには、固化材Kを充填しない。前記充填には、固化材充填装置62が用いられ、溝Gの内壁GNとPC壁体2との間、中空部3及び打ち継ぎ溝5,5間の前記混合物に、グラウト材などの固化材Kを充填する。非充填範囲Lhは1回の工程の途中施工完了位置を跨いでおり、非充填範囲Lhには固化材Kを充填しないから、この範囲の溝Gの混合物は固化することなく、所定長さLの施工が終了した後、例えば翌日又は次に工程で連続してPC壁体2を溝Gに挿入することもできる。尚、途中施工完了位置から先行する退避掘削部63に掘削装置10を退避させておくが、待避掘削部63を短くできる。また、次ぎの工程で、前記退避掘削部63から途中施工完了位置まで、掘削装置10を後戻り掘削して溝G内の土砂をほぐしてから、PC壁体2を溝Gに挿入するようにしてもよく、この場合も、従来に比べて、後戻り掘削は短く済む。
【0027】
翌日又は次の工程では、必要に応じて、掘削装置10を後戻りして、掘削液Aを注入しながら施工完了位置まで、後戻り掘削し、溝G内の土砂を攪拌し、掘削装置10を掘削方向に移動して、上述したように所定長さLの掘削を行い、PC壁体2を挿入後、途中施工完了位置の非充填範囲Lhを除いて、固化材Kを充填し、同様に、翌日又は次の工程に備える。
【0028】
尚、エンドレスチェーン式カッター32を備えた掘削装置10は、施工精度が高く、連続性が確保できるから、PC壁体2と溝Gの内壁GNとの間隔が片側数センチ(10cm以下)程度で済み、固化材Kの注入量を大幅に削減できる。
【0029】
上記のように掘削液Aを注入する掘削時及びにおいては、図1に示すように、施工時に現場から発生した泥水Wをスクイーズポンプ70により管路71Aを通して前記貯泥槽78に送り、この貯泥槽78に溜めた泥水Wを前記泥水槽71に送り、必要に応じて泥水槽71の泥水Wに水を加えて(加水)含水比を調整する。この場合、振動篩72における選別を容易にするため、泥水Wの含水比を75〜125%とする。尚、含水比は、水分に対する土粒子などの固形分の割合(含水比=水分重量/固形分重量×100)であり、固形分には土砂以外にも、掘削液Aに含まれるベントナイト、現場から発生するシルトや粘土分などを含む。泥水槽71で含水比を調整された泥水Wは、振動篩72において、土砂分Dと分級泥水W1とに篩い分けされる。例えば、その振動篩72の篩目は1mmメッシュ程度であり、この大きさの篩目を通過する土粒子分などは分級泥水W1に含まれ、例えば含水比が105〜155%の分級泥水W1が得られ、篩い分けされた土砂分Dは20〜40%の含水比となり、この土砂分Dは、土木材料として施工現場内又は施工現場外で利用する。一方、ベントナイト、現場から発生するシルトや粘土分などの細粒分を含む分級泥水W1は、管路73Aを通って泥水調整槽73に送られ、また、清水槽74の水が管路74Aを通って泥水調整槽73に送られ、その清水槽74から送られた水と分級泥水W1を混合した調整済泥水W2の濃度,比重や粘度などを自動計測装置75に測定し、調整済泥水W2は、管路76Aを通って注入液製造装置76に送られ、ベントナイトを追加混合して掘削液Aを製造し、この掘削液Aが管路76Bを通って前記注入装置51に送られる。尚、前記泥水調整槽73には、回転撹拌翼や噴流攪拌装置などの撹拌手段77が設けられ、この撹拌手段77により調整済泥水W2が均一に撹拌される。
【0030】
前記PC壁体2はH型鋼等に比べて大断面であるから、溝Gに挿入する時に多量の泥水Wが発生する。その泥水Wをスクイーズポンプ70により連続吸引することにより、多量の泥土Wを吸引できる。また、前記溝Gから吸引した泥土Wを、泥水槽71に送る前に、スクイーズポンプ70により回収した泥水Wを貯留する貯泥槽78を設け、この貯泥槽78は前記管路71Aの途中に設けられている。また、前記貯泥槽78には、泥土Wを攪拌する攪拌装置79が設けられている。
【0031】
したがって、処理装置の振動篩72などの処理能力を超える泥土Wが発生しても、貯泥槽78にストックすることにより、処理装置を大型化することなく、効率よく泥土Wを処理することができる。
【0032】
前記PC壁体2の挿入及び掘削により発生する泥水Wの水分量(含水比)を調整し、1ミリ以上の土砂分Dを篩分けし、分級泥水W1と分離し、その分離した土砂分Dを土木材料として際利用することができ、また、分級泥水W1はベントナイト、現場から発生するシルトや粘土分などの細粒分を含むから、分級泥水W1を掘削液Aに再利用することにより、添加するベントナイトの使用量を削減することができる。
【0033】
また、施工装置には、必要に応じて、前記分級泥水W1をプレスにより濾過脱水する脱水手段たるフィルタープレス81が設けられる。このフィルタープレス80は、図1の概略図に示すように、固定フレーム81と締込板82の間に、複数枚の濾布を張設した濾板83を複数枚配置すると共に、これら濾板83,83間に濾室を形成し、前記締板82を油圧シリンダ(図示せず)により移動し、泥水を濾室内に供給するポンプ圧力により、前記濾室内の分級泥水W1をプレスして濾過脱水するものなどであり、脱水土砂分Ddと濾過水とが得られ、その脱水土砂分Ddは土木材料として施工現場内又は施工現場外で利用され、その濾過水は管路80Bを通して前記清水槽74に送られ、さらに、清水槽74から泥水調整槽73に送られる。
【0034】
そして、現場などにおいて使用する土木材料としての土砂分Dの必要性が高い場合は、振動篩72とフィルタープレス81とを接続する管路80Aを通して、分級泥水W1をフィルタープレス81に送り、例えば含水比が20〜40%の脱水土砂分Ddを得ることができ、これを土木材料に再利用する。
【0035】
したがって、上記の方法では、複雑な選別装置などを用いず、従来から土木工事で用いられている施工機械を用いて、分級を行うことができ、分級泥水W1は、シルト、粘土分、ベントナイトの細粒分を含んでいるため、分級泥水W1を掘削液A中に混合することにより、ベントナイトの使用量を低減できる。また、プレス脱水手段により分級泥水Wを機械脱水することにより、分級土砂分Ddの供給量を調整できる。また、建設発生土の抑制により、産業廃棄物の発生をなくすことができる。
【0036】
特に、掘削現場の地山の細粒分が少ない(10%以下)場合に有効であり、礫、砂分の多きところでは、溝壁の安定を確保するためにベントナイトを多く必要とする。この際、細粒分を含む分級泥水W1を掘削液Aに混入することにより、ベントナイトの使用量を低減することができるので、経済的な施工となる。
【0037】
したがって、上記の方法では、複雑な選別装置などを用いず、従来から土木工事で用いられている施工機械を用いて、分級を行うことができ、固化段階の分級泥水W1を固化材Kに使用することにより、現場で発生した泥水Wに含まれるセメントにより、セメント使用量の低減を図ることができる。また、プレス脱水手段により分級泥水Wを機械脱水することにより、分級土砂分Ddの供給量を調整できる。また、建設発生土の抑制により、産業廃棄物の発生をなくすことができる。
【0038】
このように本実施例では、請求項1に対応して、チェーン式カッター32を地中に建て込んだ状態で、カッター32を回転させると共に、該カッター32を移動させることにより一定幅の溝Gを連続して掘削し、この溝G内に壁形成用柱材を挿入して地中壁1を形成する地中連続壁の施工方法において、壁形成用柱材がPC壁体2であり、掘削時に発生した泥水Wを回収し、この回収した泥水Wから土砂分Dを分離し、この分離された土砂分Dと土砂分Dを分離した分離液たる分級泥水W1とを再利用するから、断面の大きなPC壁体2を用いると、多量の廃棄物が発生するが、掘削により発生する泥水Wを回収し、分離液と土砂分Dとに分離するため、従来、廃棄又は処理を必要とした泥水Wを有効利用することができ、例えば、分離液は掘削液の成分と、現場から発生するシルトや粘土分などの細粒分を含むから、分離液に再利用することができ、添加成分の使用量を削減することができ、また、土砂分Dは土木材料などに再利用できる。
【0039】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、溝G内にPC壁体2を挿入した後、溝Gに固化材Kを充填するから、打ち注ぎ部分を施工した後、打ち継ぎ部分に固化材Kを充填することにより、施工性を向上することができる。すなわち、従来の仮設用柱材の設置及び撤去と、ソイルセメント部分の再掘削が不要となる。
【0040】
また、このように本実施例では、請求項4に対応して、前記発生した泥水Wをスクイーズポンプ70により吸引するから、泥水の発生量が多くなっても、泥水Wをスムーズに連続吸引することができる。
【0041】
また、このように本実施例では、請求項5に対応して、請求項1記載の地中連続壁の施工方法に用いる施工装置において、発生した泥水Wを回収するスクイーズポンプ70と、このスクイーズポンプ70により回収した泥水Wを貯留する貯泥槽71と、この貯泥槽71の泥水Wから土砂分Dを分離する土砂分分離手段たる振動篩72とを備えるから、この装置を用いて地中壁1を構築することにより掘削時,PC壁体2の挿入時又は固化材の注入時に発生する泥水Wを回収し、従来、廃棄又は処理を必要とした泥水Wを有効利用することができる。また、PC壁体2を挿入する際、泥水Wの発生量が多くなり、装置の処理能力を超えても、貯泥槽71に一端ストックして処理することができる。
【0042】
また、実施例上の効果として、土砂分分離手段が振動篩72であり、この振動篩により土砂分Dを分離した分離液たる分級泥水W1に残った土砂分Dをプレスにより脱水する脱水手段たるフィルタープレス81を備えるから、振動篩72により土砂分Dを分離し、さらに、専用の分離施設などを現場に設けることなくフィルタープレス81により土砂分Ddを分離して土木材料に再利用することができる。また、固化段階で発生した泥水Wを回収し、この回収した泥水Wから土砂分Dを分離し、この分離された土砂分Dと土砂分Dを分離した分離液たる分級泥水W1と土砂分Dとを再利用するから、従来、廃棄又は処理を必要とした泥水Wを有効利用することができ、例えば、分級泥水W1はセメント成分と掘削液Aの成分と、現場から発生するシルトや粘土分などの細粒分を含むから、セメント成分などを再利用することができ、セメントの使用量を削減することができる。また、フィルタープレス81は、分級泥水W1に残った土砂分Dをプレスにより脱水するプレス脱水手段であり、これを用いることにより効率よく脱水を行うことができる。
【0043】
また、実施例上の効果として、PC壁体2は、断面略正方形形状をなし、断面積が大きなものであるが、中空部3を有するから、土砂と掘削液Aとを混合した溝G内に挿入し易い。また、隣合うPC壁体2,2の間には、打ち継ぎ溝5が位置するから、この打ち継ぎ溝5内の土砂と掘削液Aとの混合物に固化材Kを注入することにより、隣合うPC壁体2,2を一体化することができる。
【実施例2】
【0044】
図7は本発明の実施例2を示し、上記実施例1と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述する。この例は、施工において、固化材Kを用いた固化段階の工程と、掘削液Aを用いた掘削の工程とを備える。
【0045】
まず、固化材Kを注入して地中連続壁1を築造する固化段階においては、同様に図7(A)に示すように、地中壁施工位置の始端側の掘削孔61にカッター32を吊し下げて挿入すると共に、このカッター32を垂直フレーム25に取り付ける。つぎに、油圧シリンダー26,28を縮めた状態で、フレーム20の上下部の水平部材17,18によるガイド方向を構築しようとする地中連続壁1の方向と一致させ、必要があればクローラ13が移動しないように地盤11に対してアンカー等によって固定し、この状態でカッター32のチエーン36をモータ37によって駆動しながら、油圧シリンダー26,28に圧力油を供給して、各ピストンロッド16a,18aを押し出すことによって、垂直フレーム25を介してカッター32を図7(A)の矢印の方向へ地盤1を掘削しながら移動させる。この際、進行方向又は掘削した溝Gに注入装置51から固化材Kを注入し、固化材Kと溝G内の土砂を撹拌する。その固化材Kとして、セメントスラリーを用いる。
【0046】
そして、各油圧シリンダー26,28のピストンロッド26a,28aが伸びきったならば、そのピストンロッド26a,28aを後退させると共に、自走車両12を図7(B)に示すように、図中右方向へ移動させて、再び上述した操作を繰り返し行って、所定の長さの地中壁用の溝Gを掘削する。また、進行方向又は掘削した溝Gに注入装置51から固化材Kを注入し、固化材Kと掘削孔61内の土砂の一部を撹拌する。この場合、カッター32を図中左側に戻して溝G内を撹拌することができる。
【0047】
次に、固化材Kと土砂との混合物が入った溝G内に、PC壁体2を連続的に挿入し、開始位置から所定長さLの地中連続壁1を形成する。前記所定長さLは、一日の工程で施工できる程度のものであるが、工程により適宜設定できる長さである。そして、連続地中壁1の途中施工完了位置の打ち継ぎ面4に仮設材(図示せず)を配置する。尚、途中施工完了位置から先行する退避掘削部63に掘削装置10を退避させておく。
【0048】
翌日又は次の工程では、仮設材を引き抜き、この引き抜いた位置まで、図7(B)の白抜き矢印に示すように、掘削液Aを注入しながら掘削装置10を後戻りして後戻り掘削し、溝G内の土砂を攪拌し、戻った後、固化材Kを充填しながら、図7(C)に示すように、掘削装置10を掘削方向に移動して、上述したように所定長さL以上の掘削を行い、所定長さL分だけPC壁体2を溝G内に挿入し、同様な工程を繰り返す。
【0049】
このように固化材Kを注入すると共にPC壁体2を挿入する固化段階の工程においては、上記図1で示した装置を用い、図1に示すように、施工時に現場から発生した泥水Wをスクイーズポンプ70により管路71Aを通して前記貯泥槽78に送り、この貯泥槽78に溜めた泥水Wを管路71Aを通して前記泥水槽71に送り、必要に応じて泥水槽71の泥水Wに水を加えて含水比を調整する。この場合、振動篩72における選別を容易にするため、泥水Wの含水比を75〜125%とする。尚、含水比は、水分に対する土粒子などの固形分の割合(含水比=水分重量/固形分重量×100)であり、固形分には土砂以外にも、固化材Kに含まれるセメント、掘削液Aに含まれるベントナイト、現場から発生するシルトや粘土分などを含む。泥水槽71で含水比を調整された泥水Wは、振動篩72において、土砂分Dと分級泥水W1とに篩い分けされる。例えば、その振動篩72の篩目は1mmメッシュ程度であり、この大きさの篩目を通過する土粒子分などは分級泥水W1に含まれ、例えば含水比が85〜135%の分級泥水W1が得られ、篩い分けされた土砂分Dは28〜48%の含水比となり、この土砂分Dは、土木材料として施工現場内又は施工現場外で利用する。一方、セメント、ベントナイト、現場から発生するシルトや粘土分などの細粒分を含む分級泥水W1は、管路73Aを通って泥水調整槽73に送られ、また、清水槽74の水が管路74Aを通って泥水調整槽73に送られ、その清水槽74から送られた水と分級泥水W1を混合した調整済泥水W2の濃度,比重や粘度などを自動計測装置75に測定し、調整済泥水W2は、管路76Aを通って注入液製造装置76に送られ、セメントを追加混合してセメントスラリーなどの固化材Kを製造し、この固化材Kが管路76Bを通って前記注入装置51に送られる。
【0050】
このように固化段階により発生する泥水Wの水分量(含水比)を調整し、1ミリ以上の土砂分Dを篩分けし、分級泥水W1と分離し、その分離した土砂分Dを土木材料として際利用することができ、また、分級泥水W1はセメント、ベントナイト、現場から発生するシルトや粘土分などの細粒分を含むから、分級泥水W1を固化材Kなどに再利用することにより、添加するセメントの使用量を削減することができる。
【0051】
また、施工装置には、必要に応じて、前記分級泥水W1をプレスにより濾過脱水する脱水手段たるフィルタープレス81が設けられ、フィルタープレス81により分級泥水W1をプレスして濾過脱水し、脱水土砂分Ddと濾過水とが得られ、その脱水土砂分Ddは土木材料として施工現場内又は施工現場外で利用され、その濾過水は管路80Bを通して前記清水槽74に送られ、さらに、清水槽74から泥水調整槽73に送られる。
【0052】
そして、現場などにおいて使用する土木材料としての土砂分Dの必要性が高い場合は、振動篩72とフィルタープレス81とを接続する管路80Aを通して、分級泥水W1をフィルタープレス81に送り、例えば含水比が30〜50%の脱水土砂分Ddを得る。
【0053】
また、前記後戻り掘削時には、進行方向又は掘削した溝Gに注入装置51から掘削液Aを注入し、掘削液Aと溝G内の土砂を撹拌する。その掘削液Aは、主としてベントナイトを水に混合したものであり、掘削液Aを用いることにより、溝G内の安定を図ると共に、カッター32の駆動が円滑になり、また、溝G内の土砂がほぐし易くなり、後戻り掘削が容易となる。
【0054】
このように、掘削液Aを注入する後戻り掘削時においても、図1に示すように、施工時に現場から発生した泥水Wをスクイーズポンプ70により管路71Aを通して前記泥水槽71に送り、必要に応じて泥水槽71の泥水Wに水を加えて(加水)含水比を調整し、前記固化段階と同様に泥土Wを処理し、分離した土砂分Dを土木材料として際利用することができ、また、分級泥水W1はベントナイト、現場から発生するシルトや粘土分などの細粒分を含むから、分級泥水W1を掘削液Aや固化材Kに再利用することにより、添加するベントナイトの使用量を削減することができる。
【0055】
このように本実施例では、請求項1に対応して、チェーン式カッター32を地中に建て込んだ状態で、カッター32を回転させると共に、該カッター32を移動させることにより一定幅の溝Gを連続して掘削し、この溝G内に壁形成用柱材を挿入して地中壁1を形成する地中連続壁の施工方法において、壁形成用柱材がPC壁体2であり、固化材Kを注入すると共にPC壁体2を挿入する際に掘削時に発生した泥水Wを回収し、この回収した泥水Wから土砂分Dを分離し、この分離された土砂分Dと土砂分Dを分離した分離液たる分級泥水W1とを再利用するから、断面の大きなPC壁体2を用いると、多量の廃棄物が発生するが、掘削により発生する泥水Wを回収し、分離液と土砂分Dとに分離するため、従来、廃棄又は処理を必要とした泥水Wを有効利用することができ、例えば、分離液は掘削液の成分と、現場から発生するシルトや粘土分などの細粒分を含むから、分離液に再利用することができ、添加成分の使用量を削減することができ、また、土砂分Dは土木材料などに再利用でき、また、請求項4及び5に対応して、上記実施例1と同様な作用・効果を奏する。
【0056】
また、このように本実施例では、請求項3に対応して、カッター32を移動させながら溝G内の掘削土砂に固化材Kを注入し、この固化材Kを注入した溝G内にPC壁体2を挿入して地中壁2を形成するから、固化材Kを含んだ泥水Wを回収し、分離液と土砂分Dとに分離し、土砂分D又は分離水を再利用することができる。
【0057】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、PC壁体は各種タイプのものを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例1を示す施工装置の説明図であり、施工状態を示す。
【図2】同上、施工状態における溝の平面図を示す。
【図3】同上、施工方法を説明する断面図であり、図3(A)はカッターを垂直フレームに取り付けて地中に建て込んだ状態を示す。
【図4】同上、施工装置を正面から見た施工時の断面図である。
【図5】同上、施工装置を側面から見た施工時の断面図である。
【図6】同上、施工装置の平面図である。
【図7】本発明の実施例1を示し、施工方法を説明する断面図であり、図7(A)はカッターを垂直フレームに取り付けて地中に建て込んだ状態を示し、図7(B)は、カッターによる掘削とPC壁体の挿入工程を示し、図3(C)は後戻り掘削後に掘削方向に掘削し、PC壁体を挿入する工程を示す。
【符号の説明】
【0059】
1 地中連続壁
2 PC壁体
3 中空部
4 打ち継ぎ面
5 打ち継ぎ溝
10 掘削装置
32 エンドレスチェーン式カッター(カッター)
A 安定液
K 固化材
G 溝
D 土砂分
W 泥水
70 スクイーズポンプ
78 貯泥槽
79 攪拌装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン式カッターを地中に建て込んだ状態で、カッターを回転させると共に、該カッターを移動させることにより一定幅の溝を連続して掘削し、この溝内に壁形成用柱材を挿入して地中壁を形成する地中連続壁の施工方法において、前記壁形成用柱材がPC壁体であり、前記掘削時に発生した泥水を回収し、この回収した泥水から土砂分を分離し、この分離された土砂分と土砂分を分離した分離液とを再利用することを特徴とする地中連続壁の施工方法。
【請求項2】
前記溝内に前記PC壁体を挿入した後、前記溝に固化材を充填することを特徴とする請求項1記載の地中連続壁の施工方法。
【請求項3】
前記カッターを移動させながら前記溝内の掘削土砂に固化材を注入し、この固化材を注入した溝内に前記PC壁体を挿入して地中壁を形成することを特徴とする請求項1記載の地中連続壁の施工方法。
【請求項4】
前記発生した泥水をスクイーズポンプにより吸引することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の地中連続壁の施工方法。
【請求項5】
請求項1記載の地中連続壁の施工方法に用いる施工装置において、前記発生した泥水を回収するスクイーズポンプと、このスクイーズポンプにより回収した泥水を貯留する貯泥槽と、この貯泥槽の泥水から土砂分を分離する土砂分分離手段とを備えることを特徴とする地中連続壁の施工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−101025(P2010−101025A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271386(P2008−271386)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000155034)株式会社本間組 (15)
【出願人】(503364146)本間技建株式会社 (6)
【Fターム(参考)】