説明

型、それを用いたインプリント装置、インプリント方法および物品の製造方法

【課題】基板上の樹脂に生成されるパターンの欠陥の発生を抑えるのに有利な型を提供する。
【解決手段】この型7は、被処理体9に対して成形すべきパターンが形成されたパターン部7aを有する。型7は、被処理体9に向かう側とは反対の側に位置し、被処理体9に向かう面の中央部にて突出したパターン部7aを有する第1平板20と、被処理体9に向かう側に位置し、第1平板20に形成されたパターン部7aが被処理体9と対向するように貫通する開口部7cを有する第2平板22とを含む。ここで、第1平板20と第2平板22とは、内部空間である第1空間21を介して重なり合い、第1平板20は、パターン部7aを被処理体9に押し付ける方向に変形可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型、それを用いたインプリント装置、インプリント方法および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィー技術に加え、基板上の未硬化樹脂を型(モールド)で成形し、樹脂のパターンを基板上に形成する微細加工技術が注目を集めている。この技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。例えば、インプリント技術の1つとして、光硬化法がある。この光硬化法を採用したインプリント装置では、まず、基板(ウエハ)上のインプリント領域であるショットに紫外線硬化樹脂(インプリント材、光硬化性樹脂)を塗布する。次に、この樹脂(未硬化樹脂)を型により成形する。そして、紫外線を照射して樹脂を硬化させたうえで引き離すことにより、樹脂のパターンが基板上に形成される。
【0003】
このインプリント装置では、型と基板上に塗布した樹脂とを押し付ける際に、樹脂の内部に気泡が混入する場合がある。この気泡が混入した状態にて樹脂を硬化させると、気泡のある部分では、樹脂のパターンが正常に形成されない。そこで、気泡の混入を低減させる技術として、特許文献1は、型(印刷版)の中央を基板上の樹脂に押し付けた状態で型を基板に向かって凸形に撓ませ、順次パターン全面を樹脂に押し付けることで型と樹脂との間の気体を外部に押し出す転写印刷機を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4441675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示すように、型の中央を凸形に撓ませた状態で基板上の樹脂に型を押し付けた場合、基板からの反力により、型が凹型に変形する可能性がある。図5は、従来のインプリント装置による型40と基板41上の樹脂42との押し付け動作時の凹型に変形した状態の型40を示す図である。この型40の変形は、特に型40をより容易に(例えば、より小さな差圧力Pで)変形させるために、型40の変形方向の厚み、すなわち型40のパターン形成部40aの厚みを薄くした場合に生じやすい。このように型40が凹型に変形すると、パターン形成部40aへの樹脂の未充填によるパターン欠陥が発生しやすくなる。
【0006】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、基板上の樹脂に生成されるパターンの欠陥の発生を抑えるのに有利な型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、被処理体に対して成形すべきパターンが形成されたパターン部を有する型であって、被処理体に向かう側とは反対の側に位置し、被処理体に向かう面の中央部にて突出したパターン部を有する第1平板と、被処理体に向かう側に位置し、第1平板に形成されたパターン部が被処理体と対向するように貫通する開口部を有する第2平板と、を含み、第1平板と第2平板とは、内部空間である第1空間を介して重なり合い、第1平板は、パターン部を被処理体に押し付ける方向に変形可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基板上の樹脂に生成されるパターンの欠陥の発生を抑えるのに有利な型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインプリント装置の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係るモールド保持装置の構成を示す図である。
【図3】押し付け動作前と押し付け動作開始時のモールドの形状を示す図である。
【図4】第2実施形態に係るモールド保持装置の構成を示す図である。
【図5】従来のインプリント装置による押し付け動作時のモールドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係るインプリント装置について説明する。図1は、本実施形態に係るインプリント装置1の構成を示す図である。本実施形態におけるインプリント装置1は、半導体デバイスなどの物品の製造に使用され、被処理体であるウエハ上(基板上)の未硬化樹脂をモールド(型)で成形し、ウエハ上に樹脂のパターンを形成する装置である。なお、ここでは光硬化法を採用したインプリント装置とする。また、以下の図において、ウエハ上の樹脂に対して紫外線を照射する照明系の光軸に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取っている。インプリント装置1は、光照射部2と、モールド保持装置3と、ウエハステージ4と、塗布部5と、制御部6とを備える。
【0012】
光照射部2は、インプリント処理の際に、モールド7に対して紫外線8を照射する。この光照射部2は、不図示であるが、光源と、該光源から出射された紫外線8をインプリントに適切な光に調整するための光学素子とから構成される。また、モールド7は、ウエハ9に対向するように凸形に突出し、3次元状に形成されたパターン部(例えば、回路パターンなどの微細な凹凸パターン)7aを含む。このモールド7の外形は、例えば150mm四方、厚さ6mm程度であり、また、その材質は、石英などの紫外線8を透過させることが可能な材料である。なお、このモールド7の形状については、以下で詳説する。
【0013】
モールド保持装置(型保持部)3は、真空吸着力や静電力によりモールド7を引きつけて保持するモールドチャック10と、インプリント動作に際して予めパターン部7aの形状を補正する倍率補正機構11と、不図示のモールド駆動機構とを含む。このモールド保持装置3(モールドチャック10)は、光照射部2の光源から出射された紫外線8がウエハ9に向けて照射されるように、内側の中心部に開口領域12を有する。また、モールドチャック10は、不図示であるが、開口領域12の外周に位置するモールド7の外縁(外周部表面)を引きつける吸着部を含む。この場合、吸着部は、例えば、外部に設置された不図示の真空排気装置に接続されており、この真空排気装置により吸着圧が調整され、吸着のON/OFFが切り替えられる。倍率補正機構11は、例えば、モールド7の側面に付加する圧力を調整することでパターン部7aの形状を変形させ、補正する。モールド駆動機構は、具体的には、モールド7とウエハ9上の樹脂との押し付けまたは引き離しを選択的に行うようにモールド7をZ軸方向に移動させる。このモールド駆動機構に採用するアクチュエータとしては、例えば、リニアモータやエアシリンダなどが採用可能である。なお、インプリント装置1における押し付けおよび引き離し動作は、上述のようにモールド7をZ軸方向に移動させることで実現してもよいが、ウエハステージ4をZ軸方向に移動させることで実現してもよく、または、その双方を相対的に移動させてもよい。
【0014】
ここで、本実施形態のモールド7の形状、およびモールド保持装置3におけるモールド7を保持する機構について説明する。図2は、モールドチャック10に保持されたモールド7を示す概略図である。特に、図2(a)は、変形前のモールド7の形状を示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)中のA−A´断面を示す、パターン形成面側から見た平面図である。モールド7は、図2(a)に示すように、紫外線8が透過する透過方向に対して、変形可能な第1平板20と、この第1平板20に第1空間21を介して重なり合う第2平板22とを有する。
【0015】
まず、第1平板20は、モールド7の吸着保持面側の中央部に掘り込まれた第2空間23により形成される変形領域である。この第2空間23の掘り込み深さは、後述するが、第1平板20が圧力の付加により好適に変形可能となる程度の深さであり、その掘り込み面積は、モールドチャック10(およびモールド保持装置3)の中心部にある開口領域12の開口面積と略同一である。ここで、吸着保持側の面のうち第2空間23が形成されていない外周面7bは、モールドチャック10により吸着され、モールド7が保持される。また、第1平板20は、第2空間23とは反対側の面の中央部に、パターン部7aを有する。このパターン部7aの平面形状は、図2(b)に示すように矩形であり、その平面寸法は、例えば33×26mmである。なお、モールド7の厚さが非常に薄い場合には、上記の第2空間23のような掘り込みを形成しなくてもよい。
【0016】
一方、第2平板22は、インプリント動作時にウエハ9に対峙する側にあり、その中央部には、第1平板20に形成されているパターン部7aが外部に向けて、すなわちウエハ9に向けて貫通するように、開口部7cを有する。この開口部7cの開口形状は、第1空間21の内部圧力の調整に好適とするため、パターン部7aの矩形形状に沿った形とし、開口部7cの側面とパターン部7aの側面との隙間(スリット)は、0.5mm以下とすることが望ましい。
【0017】
また、第1空間21は、第2空間23よりも大きい直径の円の形状を有する内部空間である。この第1空間21は、開口部7cのパターン部7aとの隙間を介し、モールド7とウエハ9との空間(第3空間)24に連通している。また、モールド7は、第1空間21内に連通し、第1空間21の外周付近に位置する吸気孔25を複数有する。この吸気孔25は、例えば、図2(b)に示すように、第1空間21の中心点からXYの2軸に沿って計4つ設置され、その直径は、それぞれ数mmである。また、吸気孔25は、それぞれ外周面7bを通過し、その設置位置に対応したモールドチャック10の内部を貫通する流路26に連接され、後述する圧力調整装置17に接続される。なお、吸気孔25は、この圧力調整装置17に対して、モールドチャック10の内部を通じて接続されなくても、第3空間24に接する面以外であれば、どの位置から接続されてもよい。
【0018】
なお、第1平板20の剛性は、第2平板22の剛性よりも低くすることが望ましい。特に本実施形態では、第1平板20の厚さは、第2平板22の厚さよりも薄い。これは、後述するが、圧力調整装置17により第1空間21の内部を減圧させた際に、第1平板20のみをウエハ9に向けて凸形に変形させ(撓ませ)、一方の第2平板22を、モールド7の内側に向けて変形させないためである。また、第1平板20の剛性を第2平板22の剛性よりも低くする他の構成としては、例えば、第1空間21の内部を減圧させる際に、第3空間24の押し付け方向の距離を10分の数mm以下と設定する方法もある。このように距離を小さくすることで、第1空間21と第3空間24との圧力差が小さくなる。したがって、第1平板20と第2平板22との剛性がほぼ同一、または第2平板22の剛性が第1平板20の剛性よりも小さくても、第2平板22の変形を抑制しつつ、第1平板20のみを変形させることができる。さらに、他の構成として、例えば、第1平板20と第2平板22との材質をそれぞれ異なるものとし、第2平板22を、第1平板20よりもヤング率が小さい材質で形成する方法もあり得る。
【0019】
さらに、モールド保持装置3は、一方の流路(第1流路)26を介してモールド7の吸気孔25に接続され、他方の流路(第2流路)27(図1参照)を介して開口領域12(第2空間23)に接続される圧力調整装置(圧力調整部)17を含む。この圧力調整装置17は、不図示であるが、真空ポンプなどの真空排気装置や、圧力センサなどにより構成され、第1空間21の圧力P1(または第3空間の圧力P3)と、第2空間23の圧力P2とを個別に変化させて調整可能である。ここで、第2空間23(開口領域12)の圧力を好適に調整するために、この空間を密閉することが望ましい。そこで、モールド保持装置3は、第2空間23のみを、もしくは第2空間23と開口領域12の一部とを密閉空間とするための密閉用ガラスプレートを開口領域12に設置してもよい。または、モールド保持装置3と、その上部に位置する光照射部2との接続にて密閉としてもよい。
【0020】
ウエハ9は、例えば単結晶シリコンからなる被処理体(被処理基板)であり、この被処理面には、モールド7に形成されたパターン部7aにより成形される紫外線硬化樹脂(以下「樹脂」という)が塗布される。また、ウエハステージ(基板保持部)4は、ウエハ9を例えば真空吸着により保持し、かつ、X、Y、Z、ωZの各軸方向で移動可能とする。ウエハステージ4を駆動するためのアクチュエータとしては、例えばリニアモータが採用可能である。また、塗布部(ディスペンサ)5は、ウエハ9上に樹脂13(未硬化樹脂)を塗布する。ここで、樹脂13は、紫外線8を受光することにより硬化する性質を有する光硬化性樹脂(インプリント材)であり、半導体デバイス製造工程などの各種条件により適宜選択される。
【0021】
制御部6は、インプリント装置1の各構成要素の動作および調整などを制御し得る。制御部6は、例えば、コンピュータなどで構成され、インプリント装置1の各構成要素に回線を介して接続され、プログラムなどにしたがって各構成要素の制御を実行し得る。本実施形態では、制御部6は、少なくとも、圧力調整装置17を含むモールド保持装置3の動作を制御する。なお、制御部6は、インプリント装置1の他の部分と一体で構成してもよいし、インプリント装置1の他の部分とは別の場所に設置してもよい。
【0022】
さらに、インプリント装置1は、床面に設置される定盤14と、該定盤14に除振機構15を介して支持されるフレーム16とを備える。定盤14は、インプリント装置1全体の構成要素を支持し、ウエハステージ4の駆動のための基準平面を形成する。フレーム16は、モールド保持装置3や塗布部5などを支持し、除振機構15は、空気ばねなどで構成され、床面からの振動の伝達を抑制する。
【0023】
次に、インプリント装置1によるインプリント処理について説明する。まず、制御部6は、不図示の基板搬送装置によりウエハステージ4にウエハ9を載置および固定させ、ウエハステージ4を塗布部5の塗布位置へ移動させる。その後、塗布部5は、塗布工程としてウエハ9の所定のショット(被処理領域)に樹脂13を塗布する。次に、制御部6は、ウエハ9上の当該ショットがモールド7の直下に位置するように、ウエハステージ4を移動させる。次に、制御部6は、モールド7とウエハ9上の当該ショットとの位置合わせ、および倍率補正機構11によるモールド7の倍率補正などを実施した後、モールド駆動機構を駆動させ、ウエハ9上の樹脂13にモールド7を押し付ける(押型工程)。この押し付けにより、樹脂13は、モールド7に形成されたパターン部7aの凹凸部に充填される。この状態で、光照射部2は、硬化工程としてモールド7の背面(上面)から紫外線8を照射し、モールド7を透過した紫外線8により樹脂13を硬化させる。そして、樹脂13が硬化した後、制御部6は、モールド駆動機構を再駆動させ、モールド7をウエハ9から引き離す(離型工程)。これにより、ウエハ9上のショットの表面には、パターン部7aの凹凸部に倣った3次元形状の樹脂13のパターン(層)が形成される。このような一連のインプリント動作をウエハステージ4の駆動によりショットを変更しつつ複数回実施することで、1枚のウエハ9上に複数の樹脂13のパターンを形成することができる。
【0024】
ここで、従来のインプリント装置では、モールド7とウエハ9上の樹脂13とを押し付ける際に、樹脂13の内部に気泡が混入する場合がある。そこで、この気泡の混入を低減させるために、モールド7を、ウエハ9上の樹脂13に押し付けた状態でウエハ9に向かって凸形に撓ませ、順次パターン部7a全面を樹脂13に押し付けることでパターン部7aと樹脂13との間の気体を外部に押し出す。このとき、本実施形態のインプリント装置1では、樹脂13の塗布後、圧力調整装置17により第1空間21の圧力P1を第2空間23の圧力P2よりも小さくし、この圧力差により生じる差圧力を利用して、パターン部7aをウエハ9に向かって凸形に変形させる。以下、この圧力調整装置17による圧力制御について詳説する。
【0025】
図3は、図2(a)に対応した、押し付け動作前と押し付け動作開始時のモールド7の形状を示す断面図であり、特に、図3(a)は、押し付け動作前のモールド7の形状を示す。このとき、第3空間24におけるモールド7(第2平板22)とウエハ9との距離H1は、数mm程度である。ここで、制御部6は、圧力調整装置17により第1空間21(開口部7cを介した第3空間24も含む)を真空排気させることで、第1空間21の圧力P1が第2空間23の圧力P2よりも低くなるように制御する。この第1空間21と第2空間23との圧力差に起因して差圧力ΔP1が発生し、この差圧力ΔP1により、第1平板22(パターン部7a)は、ウエハ9に向かって中心部でδ1の量だけ撓む。
【0026】
従来のインプリント装置では、モールドチャックの吸着圧力によるモールドの保持力以上に、本実施形態でいう開口領域12(第2空間23)の圧力を上げることはできない。これに対して、本実施形態のモールド7は、上記のように第1空間21を介した第1平板20と第2平板22との2層構造を有するので、差圧力ΔP1を高めてもモールドチャック10からモールド7が外れることがない。具体的には、従来のインプリント装置では、例えば、開口領域12の圧力を60kPa程度まで加圧すると、モールドチャックからモールド7が外れる可能性が高くなる。これに対して、本実施形態のインプリント装置1では、例えば、第1空間21の圧力P1を1kPaまで真空排気し、第2空間23の圧力P2を大気圧とすると、100kPa(約1気圧)の差圧力を発生させることができる。その上で、制御部6は、圧力調整装置17により第2空間23の圧力P2をモールド7がモールドチャック10から外れない程度にまで加圧させれば、押し付け動作前の撓み量δ1を、従来のモールドを使用した場合よりも大きくすることができる。
【0027】
一方、図3(b)は、押し付け動作開始時のモールド7の形状を示す。このとき、第3空間24におけるモールド7(第2平板22)とウエハ9との距離H2は、数μm程度である。この距離H1から距離H2までの減少により、開口部7cを介して第3空間24と連通する第1空間21の圧力P1も減少するため、第1空間21と第2空間23との圧力差が増加し、差圧力もΔP1からΔP2へと増加する。同時に、第3空間24の圧力P3は、第1空間P1の圧力P1と同程度となるため、パターン部7aを介した第1平板20の反対面にも差圧力が発生するので、第1平板20の撓み量δ2は、上記撓み量δ1よりも大きくなる。
【0028】
このように、インプリント装置1は、モールド7が上記のような構成を有し、差圧力ΔP2を大きくすることができることから、図3(b)に示すような押し付け時にウエハ9側から受ける反力Rの影響を抑えることができる。したがって、この押し付け時にモールド7が凹型に変形する可能性を抑えることができる。また、押し付け時の第1空間21の減圧により、開口部7cを介して第3空間24を減圧させることができることから、気泡の発生原因となる気体を減少させることができる。これらのことから、結果的にウエハ9上の樹脂13に生成されるパターンの欠陥の発生を抑えることができる。また、インプリント装置1によれば、樹脂13内に混入する気泡の発生を抑えることから、従来のインプリント装置に比べ、押し付け時間を短縮させることができる。さらに、従来であれば、モールドを凸形に撓ませる際に、モールドの撓み量が大きくなるように上面および下面の気体の圧力差を大きくすると、モールドを保持する力が低下する場合があったが、本実施形態のモールド7の構成によれば、上記保持力は低下しない。
【0029】
なお、押し付けが完了した後に開口部7cからの吸引(排気)を停止しないと、第3空間24の圧力P3がさらに減圧され、ウエハステージ4をモールド7側に引き上げる力がかかり、ウエハステージ4の位置決め精度に影響が出る可能性がある。そこで、この場合には、制御部6は、圧力調整装置17により第1空間21の排気を停止させ、パターン部7a周辺の圧力を大気圧に戻すことで、ウエハステージ4への負荷を減らし、ウエハステージ4の位置決め精度への影響を抑えることができる。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、ウエハ9上の樹脂13に生成されるパターンの欠陥の発生を抑えるのに有利なモールド7、およびそれを用いたインプリント装置1を提供することができる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るインプリント装置について説明する。図4は、モールドチャック31に保持された本実施形態に係るモールド30を示す概略図である。ここで、図4(a)は、第1実施形態に係る図2(a)に対応し、図4(b)は、図2(b)に対応した図4(a)中のB−B´断面を示す概略平面図である。また、図3において、第1実施形態に係る図2と同一構成または同一空間には同一の符号を付し、説明を省略する。まず、本実施形態のインプリント装置の第1の特徴は、モールド30における開口部30cの側面とパターン部30aの側面との隙間を0.1mm以下と第1実施形態よりも狭くする点にある。このように隙間を狭くすることで、開口部30cにおいて第1空間21と第3空間24とが連通する領域の面積が小さくなる。したがって、圧力調整装置は、第1実施形態に比べて第1空間21の圧力P1を容易に小さくすることができるので、第1空間21と第2空間23との圧力差を第1実施形態よりも大きくすることができる。結果的に、圧力調整装置17は、第1実施形態に係る図3(a)および図3(b)に示すような撓み量δ1(δ2)を、より大きく調整することが可能となる。または、圧力調整装置17は、これとは別に、第1実施形態と同じ撓み量δ1(δ2)を少ない排気流量で達成させることもできる。
【0032】
次に、本実施形態のインプリント装置の第2の特徴は、第1実施形態の構成に加え、モールド30が、その内部を通過して圧力調整装置17側から第3空間24へ貫通する複数の貫通孔32を有する点にある。この場合、モールドチャック31(モールド保持装置)は、その内部を通過し、圧力調整装置17に連通された第3流路33を有し、複数の貫通孔32は、それぞれ第3流路33に接続される。これらの貫通孔32は、例えば、図4(b)に示すように、第1空間21の外周に沿った領域にて等間隔で計8つ設置される。ここで、本実施形態では、圧力調整装置17は、第1空間21の圧力P1とは独立して、貫通孔32を介して第3空間24の圧力P3を調整可能となる。したがって、制御部6は、押し付け動作開始時において、第3空間24の圧力P3が第2空間23の圧力P2よりも小さくなるように制御することができる。このように、本実施形態によれば、第1空間21と第2空間23との圧力差を第1実施形態よりも大きくすることができると共に、第3空間24の圧力P3をさらに容易に減圧させることができる。なお、本実施形態の上記第1および第2の特徴は、それぞれ組み合わせて採用してもよいし単独で採用してもよい。
【0033】
(物品の製造方法)
物品としてのデバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)の製造方法は、上述したインプリント装置を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板)にパターンを形成する工程を含む。さらに、該製造方法は、パターンを形成された基板をエッチングする工程を含み得る。なお、パターンドメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、該製造方法は、エッチングの代わりにパターンを形成された基板を加工する他の処理を含み得る。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 インプリント装置
3 モールド保持装置
7 モールド
7a パターン部
7c 開口部
9 ウエハ
17 圧力調整装置
20 第1平板
21 第1空間
22 第2平板
23 第2空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体に対して成形すべきパターンが形成されたパターン部を有する型であって、
前記被処理体に向かう側とは反対の側に位置し、前記被処理体に向かう面の中央部にて突出した前記パターン部を有する第1平板と、
前記被処理体に向かう側に位置し、前記第1平板に形成された前記パターン部が前記被処理体と対向するように貫通する開口部を有する第2平板と、を含み、
前記第1平板と前記第2平板とは、内部空間である第1空間を介して重なり合い、
前記第1平板は、前記パターン部を前記被処理体に押し付ける方向に変形可能であることを特徴とする型。
【請求項2】
前記第1平板は、前記第1空間の圧力と、前記第1平板の前記被処理体に向かう側とは反対側の面に接する領域の圧力とが変化することで変形することを特徴とする請求項1に記載の型。
【請求項3】
前記開口部の平面形状は、前記パターン部の平面形状に沿った形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の型。
【請求項4】
前記第1平板の剛性は、前記第2平板の剛性よりも低いことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の型。
【請求項5】
前記第1平板の剛性は、前記第1平板の厚さを前記第2平板の厚さよりも薄くすることで、前記第2平板の剛性よりも低くすることを特徴とする請求項4に記載の型。
【請求項6】
前記第1平板の剛性は、前記第1平板の材質と前記第2平板の材質とを異ならせることで、前記第2平板の剛性よりも低くすることを特徴とする請求項4に記載の型。
【請求項7】
前記第1空間および前記領域の平面形状は、それぞれ円であり、かつ、前記第1空間の直径は、前記領域の直径よりも大きく、
前記第1空間の真空排気を可能とする吸気孔を、前記第1空間の外周に複数有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の型。
【請求項8】
基板上の未硬化樹脂を型により成形して硬化させて、前記基板上に硬化した樹脂のパターンを形成するインプリント装置であって、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の型を保持する型保持部と、
前記第1空間の圧力と、前記型保持部の内側の領域にあり、かつ前記第1平板に接する前記領域を含む第2空間の圧力とを個別に調整する圧力調整部と、
を備えることを特徴とするインプリント装置。
【請求項9】
前記圧力調整部は、前記型と前記樹脂との押し付けの際に、前記第1空間の圧力が前記第2空間の圧力よりも小さくなるように調整し、圧力差により生じる差圧力を利用して前記パターン部を前記基板に向かい凸形に変形させることを特徴とする請求項8に記載のインプリント装置。
【請求項10】
前記圧力調整部は、前記第1空間の圧力を調整することにより、前記開口部を介して連通した前記第2平板と前記基板との間の第3空間の圧力を調整することを特徴とする請求項8または9に記載のインプリント装置。
【請求項11】
前記型は、前記型保持部により、前記第2空間に対応しない外周面にて吸着保持され、
前記吸気孔は、前記外周面から前記圧力調整部に連通することを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項12】
前記型は、前記第2平板と前記基板との間の第3空間の真空排気を可能とする貫通孔を複数有し、
前記貫通孔は、前記第1空間と交わることなく、前記第2平板の前記第3空間に向かう面に貫通することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項13】
前記型は、前記型保持部により、前記第2空間に対応しない外周面にて吸着保持され、
前記貫通孔は、前記外周面から前記圧力調整部に連通することを特徴とする請求項12に記載のインプリント装置。
【請求項14】
基板上の未硬化樹脂を型により成形して硬化させて、前記基板上に硬化した樹脂のパターンを形成するインプリント方法であって、
前記樹脂に対する押し付け方向にて、前記型を構成する第1平板と第2平板との間の内部空間である第1空間の圧力と、前記型を保持する型保持部の内側の領域にあり、かつ前記第1平板に接する第2空間の圧力との圧力差により生じる差圧力を利用して、前記第2平板に形成された開口部を通じて、前記第1平板に形成されたパターン部を前記基板に向かい凸形に変形させる工程を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項15】
前記工程では、前記第2空間を加圧することを特徴とする請求項14に記載のインプリント方法。
【請求項16】
前記工程では、前記第1空間を減圧することで、前記開口部を介して連通する前記第2平板と前記基板との間の第3空間を減圧することを特徴とする請求項14に記載のインプリント方法。
【請求項17】
前記工程では、前記第1空間と交わらず、前記第2平板の、該第2平板と前記基板との間の第3空間に向かう面に貫通する貫通孔を介して、前記第3空間を減圧することを特徴とする請求項14に記載のインプリント方法。
【請求項18】
請求項8ないし13のいずれか1項に記載のインプリント装置、または、請求項14ないし17のいずれか1項に記載のインプリント方法を用いて基板上に樹脂のパターンを形成する工程と、
前記工程で前記パターンを形成された基板を加工する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−30639(P2013−30639A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166177(P2011−166177)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】