説明

基板収納容器及びその製造方法

【課題】 基板収納容器に基板を保管中にイオンや塩化メチレンのような発生ガスによって基板が汚染される恐れがない基板収納容器とその製造方法を提供する。
【解決手段】 基板収納容器の表面に、ドーパントを含む酸化重合剤溶液とモノマー溶液とを用いてドーパント存在下にモノマーを重合させた電子共役系ポリマー層が形成されており、前記基板収納容器の表面固有抵抗値が1×103〜9×108Ωの範囲であることを特徴とする。
また、前記基板収納容器を密封し、23℃×24時間放置したときに、基板収納容器の内部に発生する塩化メチレン量が、前記基板収納容器を放置した環境から発生する塩化メチレン量と同じかそれよりも少ないものであることが好ましい。
さらに、基板収納容器の全光線透過率を40〜80%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハやマスクガラス等の基板を収納する基板収納容器と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板を収納し、蓋体により密封される基板収納容器は、基板を工場間で輸送したり、基板に加工や処理を行う工程内で搬送したり、保管したりするために使用されている。こうした基板収納容器は、通常、熱可塑性樹脂から形成されているので、基板に半導体部品が形成されている場合には、静電気により、半導体部品が損傷を受けることがあった。基板収納容器を搬送するときに生じる静電気、基板に帯電した静電気や基板を出し入れするときに発生する静電気が、基板収納容器に蓄積されることになる。
【0003】
こうした静電気を消散させる対策のため、基板収納容器を導電カーボン等の導電性物質が添加された樹脂により形成することが行われていた。しかしこの場合、内部の視認性が悪くなるといった問題や、添加したカーボン等が脱離して、工程内や基板収納容器又は基板を汚染してしまうといった問題があった。
そこで、透明な基材の上に透明帯電防止材料から成る帯電防止層を形成したり(特許文献1参照)、持続的な静電防止性能を有する透明なポリカーボネート樹脂を利用する(特許文献2参照)ことが提案されていた。
【0004】
【特許文献1】特開2004−314994号公報
【特許文献2】特開2005−79184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした表面に透明帯電防止層を備えた基板収納容盟は、使用中に透明帯電防止層が剥れたり、保管中に基板収納容器基材や透明帯電防止層あるいは、透明帯電防止層を形成するための溶剤の残留物から、発生するイオンやアウトガス、特には塩化メチレンガスが基板を汚染する恐れがあり、その対策が必ずしも十分ではなかった。
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、基板収納容器に基板を保管中にイオンや塩化メチレンのような発生ガスによって基板が汚染される恐れがない基板収納容器とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一端に開口部を有し基板を収納する容器本体と開口部を閉鎖する蓋体とを有する基板収納容器であって、前記基板収納容器の表面に、ドーパントを含む酸化重合剤溶液とモノマー溶液とを用いてドーパント存在下にモノマーを重合させた電子共役系ポリマー層が形成されており、前記基板収納容器の表面固有抵抗値が1×103〜9×108Ωの範囲であることを特徴とする。
また、前記基板収納容器を密封し、23℃×24時間放置したときに、基板収納容器の内部に発生する塩化メチレン量が、前記基板収納容器を放置した環境から発生する塩化メチレン量と同じかそれよりも少ないものであることが好ましい。
さらに、基板収納容器の全光線透過率を40〜80%であることが好ましい。
【0007】
本発明の基板収納容器の製造方法としては、一端に開口部を有し基板を収納する容器本体と、開口部を閉鎖する蓋体とを有する基板収納容器の製造方法であって、前記した基板収納容器の製造方法が、前記容器本体と、前記蓋体とを成形する工程、前記容器本体および又は蓋体をドーパントを含む酸化重合剤溶液が供給された処理槽に浸漬する工程、前記処理槽にモノマー溶液を供給する工程、前記処理槽を攪拌しながら、容器本体と蓋体の表面にドーパント存在下にモノマーを重合させて電子共役系ポリマー層を形成する工程、とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、基板収納容器に電子共役系ポリマーによる透明導電層を設けているので、静電気を効果的に消散させて、静電気によるほこりの付着や、静電気による衝撃から基板を保護することができる。また、基板収納容器を使用中に発生してくる塩化メチレンガスの発生を防止しているので、基板表面の変質要因を除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明が対象とする基板収納容器は、内部を視認可能なものとするために、(少なくとも蓋体は)透明樹脂から形成することが好ましい。基板収納容器は、基盤を収納する支持部が容器本体に形成されて、開口部を蓋体で密封可能に閉鎖するものとすることができる。あるいは、上部や底部に開口を有し、基板を収納するカセットを収納して密封するタイプの基板収納容器であっても良い。
ここで、基板の収納方向は水平でも、垂直でも良く、収納枚数も1又は複数とすることができる。
【0010】
本発明の実施形態を図面を使用しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の基板収納容器の一実施形態を示す展開斜視図である。
基板収納容器は、図1に示すように、正面に開口を有し、内側壁に基板を垂直方向に一定間隔で水平に支持する支持部3が相対向するように配設された容器本体1と、容器本体の開口部1をシール可能に閉鎖する蓋体2とからなるものが標準形としてあげられる。容器本体の底部には、加工装置等との位置決めに使用されるV溝を有する、キネマティツクカップリングが、Y字形となるように3箇所に配置されている。また、容器本体の天面には、搬送用のロボティックフランジを設けることができる。
【0011】
蓋体の側面には、シール形成用のシールガスケット5が取り付けられている。また、蓋体の内面には、基板を個別に保持する保持部を弾性片上に備えたリテーナ(図示せず)が取り付けられている。蓋体には、筐体6と、筐体の開口を被覆するカバー7と、外部から操作可能なラッチ機構4とを有し、ラッチ機構は筐体および蓋体に収納・内蔵されている。ラッチ機構は、蓋体に軸支され、外部から操作可能な外部操作係合凹部10を蓋体表面に露呈する回転部材8と、一端が回転部材8と係止されて蓋体側壁の貫通穴から出没可能な連結部材9とを有し、連結部材9の他端が容器本体の連結部材係合凹部11に係合し、蓋体を容器本体1に係止する。
【0012】
本発明の実施形態の基板収納容器の表面には、さらに透明導電層が形成されていて、この透明導電層は、電子共役系ポリマーにより形成されている。電子共役系ポリマーは、アニリン、ピロール、チオフェンまたはこれらの誘導体から選ばれたモノマーを重合することで形成される(特許文献1参照)。
【0013】
次に、本発明の実施形態の基板収納容器の製造方法について説明する。ここでは、電子共役系ポリマーとしてピロールを用いる例を説明するが、本発明は、これに限られない。
容器本体と蓋体とは、視認性の良好なポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルイミド、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂から形成することが好ましい。支持部材、リテーナ、位置決め部材等は、上記の樹脂のほかに、ポリブチレンテレフクレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォンなどの合成樹脂や、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリスチレン系などの各種熱可塑性エラストマー樹脂を用いて形成される。
【0014】
容器本体や蓋体は、上記した樹脂を用いて、射出成形によって形成される。このように形成された容器本体や蓋体は、検査された後に、容器本体にはロボティックハンドルやマニュアルハンドルといった搬送部品や、識別用のボトムプレート、蓋体には、シールガスケットやリテーナ等の付属部品が取り付けられる。
【0015】
次に、容器本体と蓋体の表面に、透明導電層を形成する。
透明導電層は、容器本体や蓋体が1又は複数個収納できるような処理槽に、ドーパント作用を有する酸化重合剤またはドーパントを含む酸化重合剤溶液を注入し、この溶液中に容器本体と蓋体とを浸漬する。引き続いて、ピロール水溶液を処理槽に供給し、処理槽に備付けられた攪拌機を用いて処理溶液をゆっくりと攪拌しながら処理溶液中に容器本体と蓋体とを浸漬保持する。このとき、容器本体と蓋体の表面に上記した処理液が接触し、ドーパントの存在下にモノマーが重合されるので、ポリピロールが生成する。
【0016】
処理液へのモノマーおよび酸化重合剤の添加は、両者を一緒に添加することができるし、先にモノマーを添加しその後酸化重合剤を添加しても良い。また、酸化重合剤は、一括添加してもよく、あるいは数回に分けて添加しても、少量ずつ連続して添加してもよい。
触媒の酸化重合剤としては、ピロールモノマーの重合を促進する物質を使用することができ、例えば、過硫酸、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類、あるいは、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硫酸アンモニウム第二鉄、クエン酸第二鉄等の第二鉄塩、過マンガン酸塩、塩素、臭素等のハロゲン、過酸化水素、過酸化ベンゾイル等の過酸化物などを挙げることができる。
【0017】
ピロールモノマーを重合するにあたって、導電性を高めるために、ドーパントを併用することが好ましい。ドーパントとしては、例えば、p―トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、モノクロロベンゼンスルホン酸、ジクロロベンゼンスルホン酸、トリクロロベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸およびその他の芳香族スルホン酸、あるいは、過塩素酸、塩酸、硫酸、硝酸、トリフルオロスルホン酸などが挙げられる。
【0018】
このようにして容器本体と蓋体の表面に導電層が均一に付与される。導電層が付与された容器本体と蓋体表面の表面抵抗値は、処理層での反応時間および生成する導電層の厚みにより、JIS K−6911に準拠して測定したときに、1×103〜9×108Ωの範囲に入るように調整するのが好ましい。導電層の厚みは、20〜100nm、好ましくは40〜60nmとすることができる。20nm以上では、使用中の剥離がなく、表面抵抗値も9×108Ω以下とすることができる。また、l00nm以下だと、表面抵抗埴を103Ωと低くできるし、全光線透過率を40%以上とすることができる。導電層の厚みを40〜60nmとすれば、表面抵抗を103〜107Ωの範囲とでき、全光線透過率を65%以上とできるのでより好ましい。このように、容器本体及び又は蓋体の表面抵抗値と全光線透過率が調整される。
【0019】
容器本体と蓋体とは処理槽での一定時間の浸漬の後、取り出されて、純水にて洗浄されて、乾燥がなされる。このようにして得られる容器本体と蓋体とは、表面近傍に形成された電子共役系ポリマーにより導電性が付与されたものとなる。また、表面全域を、電子共役ポリマーで被覆しているので、容器本体や蓋体を形成する樹脂の揮発成分が、基板収納容器を常温で24時間放置したときに、容器内部に充満してくることを防止できる。特には、半導体部品の回路を腐触する恐れのある塩化メチレンの発生量をブランクとなる保管環境の空気の値以下、好ましくは3μg/m3以下とすることができる。
ここで、半導体部品の回路に与える影響を求める目安として、図1に示す容器に模擬的に市販のハンダボールを入れて蓋体を閉め、80℃で保管した際にハンダボールの外観・色調変化が発生するまでの時間を確認した。
常温で24時間放置した際の塩化メチレンの発生量が5μg/m3の場合、ハンダボール表面に変色が生ずるまでの時間は10日間、9μg/m3の場合6日間、一方、3μg/m3の場合は30日間であり、実用上の使用環境に十分耐えうる結果であった。
【0020】
基板収納容器の溶出イオンは、次のように測定することができる。
容器本体に純水を1リットル注ぎ、前後左右に3回づつ揺動させた後、容器本体をオーブンにて50℃×3時間保持する間に、純水中に抽出(溶出)された塩素イオン量と硫酸イオン量をイオンクロマトグラフにより分析する。
容器本体から抽出されるイオンの基板収納容器1個当たりの塩酸イオン量が600ng/Box以下、硫酸イオンが600ng/Box以下であることが実用上好ましい。
【実施例】
【0021】
図1の基板収納容器の表面に透明導電層を形成するにあたって、反応時間を変えて実施例1〜3及び比較例1、2のサンプルを作製し、表面抵抗値と全光線透過率の比較を行った。なお、表面抵抗値と全光線透過率とは、次のように測定した。
○全光線透過率
JIS K7105(1981)に準じて全光線透過率を測定した。
また、導電層を形成したサンプルを用いて基板収納容器の内部の視認性を確認した。
○表面抵抗値
三和MIテクノス社製抵抗測定器 モデル5501DM を用いて、温度24℃、湿度50%の環境にて、基板収納容器の表面抵抗値の測定を行った。
結果を表1に示す。
【表1】

実施例1〜3では、表面抵抗値、全光線透過率共に良好な範囲であった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の基板収納容器の一実施形態を示す展開斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
1 容器本体
2 蓋体
3 (基板)支持部
4 ラッチ機構
5 シールガスケット
6 筐体
7 カバー
8 回転部材
9 連結部材
10 外部操作係合凹材
11 連結部材係合凹材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口部を有し基板を収納する容器本体と開口部を閉鎖する蓋体とを有する基板収納容器であって、前記基板収納容器の表面に、ドーパントを含む酸化重合剤溶液とモノマー溶液とを用いてドーパント存在下にモノマーを重合させた電子共役系ポリマー層が形成されており、前記基板収納容器の表面固有抵抗値が1×103〜9×108Ωの範囲であることを特徴とする基板収納容器。
【請求項2】
前記基板収納容器を密封し、23℃×24時間放置したときに、基板収納容器の内部に発生してくる塩化メチレン量が、前記基板収納容器を放置した環境から発生する塩化メチレン量と同じかそれよりも少ない請求項1記載の基板収納容器。
【請求項3】
前記基板収納容器の、全光線透過率が、40〜80%である請求項1又は2のいずれかに記載の基板収納容器。
【請求項4】
一端に開口部を有し基板を収納する容器本体と、開口部を閉鎖する蓋体とを有する基板収納容器の製造方法であって、前記した基板収納容器の製造方法が、前記容器本体と、前記蓋体とを成形する工程、前記容器本体および又は蓋体をドーパントを含む酸化重合剤溶液が供給された処理槽に浸漬する工程、前記処理槽にモノマー溶液を供給する工程、前記処理槽を攪拌しながら、容器本体と蓋体の表面にドーパント存在下にモノマーを重合させて電子共役系ポリマー層を形成する工程、とからなることを特徴とする基板収納容器の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−111057(P2009−111057A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280296(P2007−280296)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】