説明

基板搬送用キャリア

【課題】本発明は、高温環境下での搬送される基板に対する電子部品の実装不良を低減させ、実装効率を向上させることができる基板搬送用キャリアを提供することを目的とする。
【解決手段】基板の搬送に用いられ、基板の下面と剥離可能に密着する粘着層と、粘着層を固定したアルミニウム基板とを備えた基板搬送用キャリアであって、アルミニウム基板中のマンガンの含有量が0.30質量%以上であり、アルミニウム基板中にマグネシウムおよびクロムを実質的に含まれない、基板搬送用キャリア。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および小型部品が実装されるプリント配線基板等の基板を搬送する、基板搬送用キャリアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子部品が実装されるプリント配線基板は、あらゆる電子機器に使用されている。一般に、このプリント配線基板は、表面に導体パターンを備えており、近年、電子機器の小型化、軽量化に対応すべく、さまざまなプリント配線基板が提供されている。
【0003】
このプリント配線基板の中には、フィルム状の絶縁基板表面に導体パターンを備え、基板自体の曲げを可能にしたフレキシブルプリント配線基板(以下、「FPC」と略す。)がある。
【0004】
このFPCは、薄いフィルム状の基板であるため、単体では、ねじれや反りが生じ易い。そこで、このFPCに電子部品実装や、薬品洗浄、プラズマ処理等をする場合、基板の搬送用キャリアという治具を用いる(特許文献1)。
特許文献1では、粘着層を介して、フレキシブルプリント配線板に代表される薄型基板を着脱自在に粘着保持するキャリア治具が具体的に開示されている。特に、実施例1においては、アルミニウム合金製〔商品名:A5052P〕のキャリア板上に粘着層を設ける態様が具体的に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−329182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電子機器の高機能化等の要求に伴い、電子部品の高密度集積化が進んでおり、より高い精度で電子部品をプリント配線基板上の所定の位置に実装することが求められている。
一方で、通常、プリント配線基板などの搬送キャリアは繰り返し使用されるため、高温環境下でのリフロー処理に複数回曝されることになる。
本発明者らは、特許文献1で具体的に開示されているアルミニウム合金製〔商品名:A5052P〕を使用した基板搬送用キャリアを用いて、リフロー処理時におけるプリント配線基板上への電子部品の実装性能について検討を行った。その結果、複数回のリフロー処理に曝された基板搬送用キャリアを用いると、電子部品の実装の位置ずれなどが頻繁に発生する場合があり、必ずしも昨今求められる要求レベルを満たしていないことを見出した。このような位置ずれが生じると、回路基板の歩留まりの低下を招き、生産性が低下する。
【0007】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みて、高温環境下での搬送される基板に対する電子部品の実装不良を低減させ、実装効率を向上させることができる基板搬送用キャリアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術の問題点について鋭意検討を行ったところ、実装不良が生じる原因として基板搬送用キャリアの反りが主な原因の一つである点を見出した。そこで、反りと関連性が高いと予想されるアルミニウム基板の態様について、さらに検討を行った結果、アルミニウム基板中のマンガン、マグネシウム、およびクロムの含有量を調整することによって、上記課題を解決できることを見出した。
つまり、本発明者らは、以下に示す手段により上記目的を達成しうることを見出した。
【0009】
(1) 基板の搬送に用いられ、基板の下面と剥離可能に密着する粘着層と、
粘着層を固定したアルミニウム基板とを備えた基板搬送用キャリアであって、
アルミニウム基板中のマンガンの含有量が0.30質量%以上であり、
アルミニウム基板中にマグネシウムおよびクロムを実質的に含まれない、基板搬送用キャリア。
【0010】
(2) アルミニウム基板の引っ張り強度が100〜220(N/mm2)である、(1)に記載の基板搬送用キャリア。
【0011】
(3) アルミニウム基板の熱伝導度が0.15〜0.24kW/m・℃(25℃)である、(1)または(2)に記載の基板搬送用キャリア。
【0012】
(4) 260℃で1時間加熱した際の反り量が0.50mm以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の基板搬送用キャリア。
【0013】
(5) 粘着層が、シリコーン樹脂を含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の基板搬送用キャリア。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温環境下での搬送される基板に対する電子部品の実装不良を低減させ、実装効率を向上させることができる基板搬送用キャリアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る基板用搬送用キャリアの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の基板搬送用キャリアの好適実施態様について詳述する。
まず、従来技術と比較した本発明の特徴点としては、所定量のマンガン(Mn)が含有され、マグネシウムおよびクロムを実質的に含まないアルミニウム基板を使用する点が挙げられる。該アルミニウム基板は、マグネシウムやクロムを含むアルミニウム基板(例えば、市販品5052P)と比較して、比較的やわらかく、伸びやすい。基板の反りを抑制する方法として硬いアルミニウム基板を使用することも想定されるが、むしろ本発明者は柔らかく伸びやすいアルミニウム基板を使用することにより、基板搬送用キャリア基板の反りが抑制できる点を見出している。これは、伸びやすいアルミニウム基板を使用することにより、粘着層との間の熱膨張差がより抑制され、結果として基板搬送用キャリアの反りを抑制できるためと考えられる。
さらに、該アルミニウム基板は、比較的、熱伝導性が優れている。このような性質のため、アルミニウム基板の表面と裏面との間に温度差ができにくく、結果として表面と裏面との膨張・収縮率の差が小さくなり、反りが少なくなったともためと考えられる。
【0017】
図1は、本発明の基板搬送用キャリアを示す斜視図である。
基板搬送用キャリア10は、被搬送物である基板の下面と剥離可能に密着する粘着層12と、該粘着層12を固定したアルミニウム基板14とを備える。基板搬送用キャリア10は、フレキシブル基板などのシート状の薄い基板を粘着層12表面に貼り合せて、リフロー処理が施される工程に基板を搬送できるキャリアである。
なお、基板とは、FPC等のプリント配線基板に限るものではなく、シート状のものであれば、特に制限されない。
以下に、各構成部材(粘着層、アルミニウム基板)について詳述する。
【0018】
<粘着層>
粘着層12は、その表面に配置される基板と剥離可能に密着することができる層(樹脂層)である。該粘着層12は、その表面上に密着された基板の位置を保持することができ、基板の反りやねじれを防止することができる。
通常、粘着層12と後述するアルミニウム基板14との間の密着力は、粘着層12とその表面に配置される基板(例えば、FPC)との間の密着力よりも高い。結果として、粘着層12の剥離を生じさせることなく、基板を粘着層12から容易に剥離することができる。
【0019】
粘着層12はその表面が基板の下面と剥離可能に密着することができる層(樹脂層)であれば特に制限されず、粘着層12に含まれる樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、またはシリコーン樹脂などが挙げられる。なかでも、耐熱性、耐薬品性、剥離性、および、電子部品の基板への実装性能の観点から、シリコーン樹脂が好ましい。つまり、粘着層12は、シリコーン樹脂層であることが好ましい。なお、シリコーン樹脂層とは、シリコーン樹脂で構成される層を意味する。
【0020】
粘着層12の厚みはその上に配置される基板の種類などに応じて適宜設定されるが、耐熱性、耐薬品性、剥離性、および、電子部品の基板への実装性能観点から、0.1〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましく、30〜400μmが特に好ましい。
【0021】
粘着層12を後述するアルミニウム基板14上に形成する手順は特に制限されず、フィルム状の粘着層12をアルミニウム基板14上に固定する方法や、粘着層12を構成する成分またはその前駆体を含む液状組成物をアルミニウム基板14上に塗布して、粘着層12を形成する方法などが挙げられる。粘着層12とアルミニウム基板14との密着性がより優れる点で、上記液状組成物をアルミニウム基板14上に塗布する方法が好ましい。
なお、組成物の塗布後には、溶媒の除去、前駆体の硬化などのために、必要に応じて加熱処理が行われる。加熱処理の条件は、使用される材料に応じて適宜設定されるが、粘着層の安定化などの観点から、50〜300℃で0.5〜12時間行うのが好ましい。
【0022】
粘着層12の好適態様としては、シリケート化合物と、末端をシリケート変性したオルガノポリシロキサンとを有する混合物を、加水分解反応および縮合反応することによって得られる組成物を用いて得られるシリコーン樹脂層が挙げられる。該シリコーン樹脂層であれば、耐熱性、耐薬品性に優れると共に、密着された基板の剥離性がより優れる。さらに、該シリコーン樹脂層であれば、該層上に配置される基板の位置ずれなどが起こりにくく、電子部品の基板への実装性能に優れる。なかでも、オルガノポリシロキサンとしては、本発明の効果がより優れる点で、ポリジメチルシロキサンを使用することが好ましい。
なお、以後、オルガノポリシロキサンがポリジメチルシロキサンの場合について、詳述する。ポリジメチルシロキサンを「PDMS」と略し、末端をシリケート変性されたポリジメチルシロキサンを「変性PDMS」と略す。
【0023】
(シリケート化合物)
本発明のシリケート化合物とは、シリコン(Si)でできた金属アルコキシド(アルコキシシラン化合物(特に、テトラアルコキシシラン化合物))またはそのオリゴマーである。オリゴマーとは、主鎖にシロキサン(−Si−O−Si−)骨格を持ち、側鎖にアルコキシ基(RO)を導入した化合物のことである。ここで、アルコキシ基(RO)のアルキル部分である(R)は、メチル基、エチル基、プロピル基等が例示される。このシリケート化合物は、水と容易に反応する特性を持っている。
なかでも、粘着層12の密着性がより向上する、および、低分子の遊離物が少なくなる点で、オリゴマーを使用することが好ましい。より具体的には、シリケート化合物は、4量体〜16量体(4量体以上16量体以下)であることが望ましい。これは、4量体未満ではシリケート化合物が持つ特性の効果が小さく、また16量体を超えるとシリケート化合物の粘度が高くなることから製造時に扱いにくい。
【0024】
また、使用するシリケート化合物の種類として、例えば、メチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート等、または、これらのオリゴマーが挙げられる。品質の安定性および安全性の点からエチルシリケート、またはそのオリゴマーが好ましい。
【0025】
シリケート化合物の好適態様としては、〔化学式1〕Sin(n-1)(RO)2(n+1)(R=アルキル基、n=4〜16)で表されるシリケート化合物が挙げられる。上記化合物を使用した場合、粘着層12のアルミニウム基板14への密着性がより向上する。特に、粘着層12がシリコーン樹脂層である場合(より好適には、粘着層12が末端シリケート変性のシリコーンを反応させてなる樹脂層である場合)、本発明の効果はより優れる。
【0026】
なお、化学式1で表されるシリケート化合物の好適態様としては、以下の式(X)で表される化合物が挙げられる。
【0027】
【化1】

【0028】
上記式中、Rは炭素数4以下のアルキル基、nは4〜16の整数である。
【0029】
上記シリケート化合物は公知の方法に従って合成してもよく、市販品(例えば、エチルシリケート45(多摩化学工業製))を使用してもよい。
【0030】
(変性PDMS)
変性PDMSとは、シリケート化合物にてPDMSの末端を変性処理したものであり、例えば、両末端にシラノール基を有するPDMSと、PDMSの主鎖の片末端または両末端に加水分解可能な官能基であるアルコキシ基を有するアルコキシシラン部分縮合物とを反応させて得られるものをいう。
この変性PDMSは、通常のPDMSと比べると、格段に高い官能基濃度を有している。また、変性PDMSは、シリケート化合物との縮合反応性が高いため、変性PDMSに含まれるアルコキシシラン部分縮合物は、円滑に縮合反応が行われ、硬化してポリマー化することができる。
【0031】
本発明で使用される変性PDMSは、質量平均分子量が5000以上で100000以下の範囲にあるものが使用されることが好ましい。
【0032】
変性PDMSの好適態様としては、〔化学式2〕Sin(n-1)(RO)2(n+1)(OSi(CH3)2)m(RO)2(n+1)Sin(n-1)(R=アルキル基、n=4〜16、m>50)で表される変性PDMSが挙げられる。上記変性PDMSを使用した場合、粘着層12のアルミニウム基板14への密着性がより向上し、低分子の遊離物が少なくなる。
【0033】
変性PDMSは、公知の合成方法(例えば、特許4255088号)などを参照して合成してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0034】
また、シリケート化合物(A)と、変性PDMS(B)との配合の割合は、A/Bのモル比にて、0.1以上10以下の範囲であることが好ましい。最適な配合の割合は、A/Bのモル比にて1前後である。
粘着層12に対して柔軟性を要求する場合は変性PDMSを増加し、反対に高硬度を要求する場合はシリケート化合物を増加させるのがよい。
【0035】
(組成物の生成)
上記シリケート化合物と、上記変性PDMSとを有する混合物を加水分解および縮合反応させることにより、組成物を製造する。
【0036】
シリケート化合物は、水の存在下にて容易に加水分解するため、シリケート化合物の分子内のアルコキシ基が、反応性の高いシラノール基(−OH基)となる。
一方、上記変性PDMSも同様に、加水分解をすることにより、水の存在によってシラノール基(「シラノール変性」とも呼ぶ。)となる。
【0037】
これら双方のシラノール基は、高い反応性を有していると同時に、似通った反応性を有しているため、シリケート化合物と変性PDMSとを有する混成物を加水分解することによって、シラノール化合物の凝集が加速されることなく、変性PDMSとの縮合反応が順調に進行する。これにより、変性PDMSに含まれる低分子のシロキサンも、反応生成物(組成物)中に取り込まれる。
【0038】
(粘着層の成形)
組成物は液状(「ゾル」とも呼ぶ。)であるので、該組成物を上述したようにアルミニウム基板14上に塗布して、必要に応じて加熱処理を施すことにより、所望の粘着層12をアルミニウム基板14上に形成することができる。塗布方法、加熱条件は、上記の通りである。
また、他の方法としては、組成物を金型等のトレイに塗布し、乾燥焼成処理によって、硬化させてシート状(板状)に成形し、該シート状に成形した粘着層12を、アルミニウム基板14の表面に、密着または接着させて固定(保持)する。
【0039】
<アルミニウム基板>
アルミニウム基板14は、上記粘着層12を支持し、金属または金属酸化物で構成される支持体である。また、該アルミニウム基板14中のマンガン(Mn)の含有量は、0.3質量%以上であり、該アルミニウム基板14にはマグネシウムおよびクロムが実質的に含まれない。該アルミニウム基板を使用することにより、リフロー処理時の基板の位置ずれなどが起こりにくく、電子部品の基板への実装性能がより向上する。
【0040】
アルミニウム基板14中のマンガン(Mn)の含有量は、0.30質量%以上であり、なかでも、電子部品の基板への実装性能がより優れる点で、0.35質量%以上が好ましく、0.40質量%以上がより好ましい。なお、上限については特に制限はないが、Mn添加量が過剰になると、時効硬化が大きくなりすぎるため、1.50質量%以下が好ましく、1.00質量%以下がより好ましい。
マンガンの含有量が0.30質量%未満の場合、基板搬送用キャリアの反りが生じやすく、結果として電子部品の基板への実装性能が劣る。
【0041】
マグネシウム(Mg)およびクロム(Cr)はアルミニウム基板14中に実質的に含まれない。ここで実質的にとは、マグネシウムまたはクロムの含有量が、0.01質量%以下であることを意味し、全く含まれない(0質量%)であることがより好ましい。
マグネシウムおよびクロムが含まれると、基板搬送用キャリアの反りが生じやすく、結果として電子部品の基板への実装性能が劣る。
【0042】
また、アルミニウム基板14中におけるケイ素(Si)の含有量は特に制限されないが、電子部品の基板への実装性能がより優れる点で、0.80質量%以下が好ましく、0.60質量%以下がより好ましい。なお、下限は特に制限されないが、0.01質量%以上が好ましい。
また、アルミニウム基板14中における鉄(Fe)の含有量は特に制限されないが、電子部品の基板への実装性能がより優れる点で、0.80質量%以下が好ましく、0.70質量%以下がより好ましい。なお、下限は特に制限されないが、0.01質量%以上が好ましい。
また、アルミニウム基板14中における銅(Cu)の含有量は特に制限されないが、電子部品の基板への実装性能がより優れる点で、0.30質量%以下が好ましく、0.20質量%以下がより好ましい。なお、下限は特に制限されないが、0.05質量%以上が好ましい。
さらに、アルミニウム基板14中における亜鉛(Zn)の含有量は特に制限されないが、電子部品の基板への実装性能がより優れる点で、0.20質量%以下が好ましく、0.10質量%以下がより好ましい。なお、下限は特に制限されないが、0.01質量%以上が好ましい。
【0043】
アルミニウム基板14中には上記成分以外の不可避的不純物(例えば、V,Beなど)が含まれていてもよい。
また、アルミニウム基板14中において上記成分以外は主にAlで構成される。
【0044】
アルミニウム基板14の長さ、および、幅は、被搬送物の大きさに応じて適宜調整できる。また、アルミニウム基板14の厚みも特に制限されないが、ハンドリング性、および、粘着層12上に配置される基板の反りやねじれなどを抑制する観点から、0.5〜100mm程度であることが好ましい。
【0045】
アルミニウム基板14の熱伝導度(kW/m・℃(25℃))は特に制限されないが、0.15〜0.24が好ましく、0.15〜0.21がより好ましく、0.15〜0.19がさらに好ましく、0.15〜0.16が最も好ましい。熱伝導度が上記範囲内であれば、基板搬送用キャリアの反りがより抑制され、電子部品の基板への実装性能がより優れる。なお、熱伝導度は、JIS R1611に準じて測定する。
【0046】
アルミニウム基板14の引張強さ(N/mm2)は特に制限されないが、100〜220が好ましく、130〜210がより好ましく、130〜160がさらに好ましい。引張強さが上記範囲内であれば、基板搬送用キャリアの反りがより抑制され、電子部品の基板への実装性能がより優れる。
なお、引張強さは、JIS Z2241に準じて測定する。
【0047】
アルミニウム基板14のブリネル硬さ(HBS 10/500)は特に制限されないが、60以下が好ましく、10〜40がより好ましい。ブリネル硬さが上記範囲内であれば、基板搬送用キャリアの反りがより抑制され、電子部品の基板への実装性能がより優れる。
なお、ブリネル硬さHBSは、JISに規定するZ2243のブリネル硬さ試験−試験方法により測定する。
【0048】
基板搬送用キャリア10の反り量は、特に制限されない。なかでも、基板搬送用キャリア10を260℃で1時間加熱した後の基板搬送用キャリアの反り量が、0.50mm以下であることが好ましい。上記範囲であれば、電子部品の基板への実装性能がより優れる。なかでも、該効果がより優れる点で、0.30mm以下であることが好ましく、0.20mm以下であることがより好ましい。下限は特に制限されず、0であることが好ましい。
なお、上記反り量の測定方法は、公知の加熱機器(例えば、オーブン)などを使用して、基板搬送用キャリアを260℃で1時間加熱し、加熱終了後、基板搬送用キャリアを定盤上にのせ、自重で安定した状態において定盤と基板搬送用キャリアの間に生じる隙間を隙間ゲージで測定した際の最大値を「反り量」とした。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0050】
(組成物の製造)
本実施例で使用する粘着層は、シリケート化合物と、末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサンとを有する混合物を、加水分解反応および縮合反応することによって得られた組成物を用いて形成された。この組成物の製造について以下に具体的に説明する。
【0051】
攪拌装置、温度計、滴下ラインを取り付けた反応容器に、エチルシリケート(多摩化学工業株式会社製、シリケート45(Sin(n-1)(RO)2(n+1):n=8〜10))1.0gと、エチルシリケートを両末端にアルコキシ変性したポリジメチルシロキサン(質量平均分子量;32,000相当)(荒川化学株式会社製HBSIL039)32.0gとを入れ、大気中(室温)にて約30分間、攪拌混合し、混成物である原料液Aを得た。
ここで、エチルシリケートと、エチルシリケートを両末端にアルコキシ変性したポリジメチルシロキサンで用いられたシリケートは、同じ種類および同じ特性を持つシリケートを使用した。
【0052】
そして、原料液Aを加水分解工程および縮合工程にて、水0.93gを約1時間かけて滴下して加え、攪拌混合した。
その後、攪拌しながら約30分かけて室温まで自然冷却し、組成物を得た。
【0053】
<実施例1>
上記で製造した組成物を、アルミニウム基板(日本軽金属製、商品名:A3003P−H24、長さ:180mm、幅:120mm、厚み:1.5mm)上にブレードコート法により、焼成乾燥後の膜厚が100μmとなるように塗布した。その後、オーブンにて200℃で1時間の乾燥焼成を実施し、アルミニウム基板上にシリコーン樹脂層である粘着層(長さ:170mm、幅:110mm、厚み:100μm)を形成し、基板搬送用キャリアを製造した。
なお、実施例1においては、10枚のアルミニウム基板を用意し、10個の基板搬送用キャリアを製造した。以下の表1では、使用された10枚のアルミニウム基板中の各元素成分の含有量の範囲を示す。なお、各アルミニウム基板の化学成分組成は、基板毎に異なるため、以下のような数値範囲として記載する。表1中の「−」はその成分が含まれていないことを示す。
【0054】
【表1】

【0055】
<実施例2>
アルミニウム基板(日本軽金属製、商品名:A3003P−H24、長さ:180mm、幅:120mm、厚み:1.5mm)の代わりに同サイズのアルミニウム基板(商品名:A3003P−H18)を使用した以外は、実施例1と同様の手順で基板搬送用キャリアを製造した。
なお、該アルミニウム基板(A3003P−H18)中のMnの含有量は、上記A3003P−H24と同様に、0.40〜1.0質量%であり、MgおよびCrは含まれていなかった。
【0056】
<実施例3>
アルミニウム基板(日本軽金属製、商品名:A3003P−H24、長さ:180mm、幅:120mm、厚み:1.5mm)の代わりに同サイズのアルミニウム基板(商品名:A3003P−H16)を使用した以外は、実施例1と同様の手順で基板搬送用キャリアを製造した。
なお、該アルミニウム基板(A3003P−H16)中のMnの含有量は、上記A3003P−H24と同様に、0.40〜1.0質量%であり、MgおよびCrは含まれていなかった。
【0057】
<比較例1>
アルミニウム基板(日本軽金属製、商品名:A3003P−H24、長さ:180mm、幅:120mm、厚み:1.5mm)の代わりに同サイズのアルミニウム基板(商品名:A5052P)を使用した以外は、実施例1と同様の手順で基板搬送用キャリアを製造した。
なお、使用されたアルミニウム基板の化学組成を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
<反り量測定>
実施例1〜3および比較例1で製造された基板搬送用キャリアに対して、260℃で1時間加熱処理を施した。
上記加熱処理後、基板搬送用キャリアを定盤上にのせ、自重で安定した状態において定盤と基板搬送用キャリアの間に生じる隙間を隙間ゲージで測定した際の最大値を「反り量」とした。結果を表3にまとめて示す。
なお、表3に記載の数値は、各実施例および比較例で製造した10個の基板搬送用キャリアを用いた測定結果の算術平均値を意味する。なお、実施例および比較例の10個の基板搬送用キャリアの反り量の測定値の中で最も低い値(下限値)は該平均値の0.99倍程度であり、最も高い値(上限値)は該平均値の1.01倍程度であった。
【0060】
なお、表3中、各アルミニウム基板の引張り強度および熱伝導度を記載する。
表3に記載の引張り強度および熱伝導度の数値は、使用した10枚のアルミニウム基板の各板の引張り強度および熱伝導度のそれぞれの算術平均値を意味する。なお、実施例および比較例の10枚のアルミニウム基板の引張り強度または熱伝導度の測定値の中で最も低い値(下限値)はそれぞれ該平均値の0.99倍程度であり、最も高い値(上限値)はそれぞれ該平均値の1.01倍程度であった。
【0061】
【表3】

【0062】
上記表3の結果から分かるように、実施例1〜3に示す所定の成分組成を満たすアルミニウム基板を使用した本発明の基板搬送用キャリアの反り量が小さかった。
一方、比較例1に示す所定の成分組成を満たさないアルミニウム基板を使用した場合は、反り量が大きかった。
このような反り量の違いは、上述したように、アルミニウム基板の成分組成に依存しており、特に、上記のように引張りおよび熱伝導度が好適範囲にある場合、反り量がより抑制される。
【0063】
<実装性能評価>
実施例1および比較例1で製造された基板搬送用キャリアに対して、260℃で1時間加熱処理を施した。
得られたそれぞれの基板搬送用キャリアの粘着層上に、フィルム上の絶縁基板の表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線基板(FPC)(長さ:40mm、幅:15mm)を密着させた。その後、基板搬送用キャリア上のFPCに対して、チップマウンターを使用して電子部品(サイズ:0.6mm×0.3mm)を実装処理した。具体的には、配線パターンの所定の位置にハンダを塗布し、ハンダを塗布した部分にチップマウンターを用いて電子部品を搭載し、リフロー炉(温度:260℃、時間:2分)を用いてハンダを溶融させ、電子部品と配線パターンを電気的に接続した。
実装処理終了後、基板搬送用キャリア上のFPCを剥がし、別のFPC基板を再度粘着層上に密着させ、上記と同様の実装処理(2回目に該当)を行った。
該処理を連続して10回行い、1回目〜10回目の実装処理で得られたFPCの実装不良について評価した。
【0064】
次に、得られた10枚の実装処理が施されたFPCに対して、以下の基準に従って実装性能を評価した。結果を表4にまとめて示す。なお、実用上「A」「B」であることが好ましい。
「A」:全てのFPCにおいて、電子部品の実装ずれが生じていない場合
「B」:1枚のFPCにおいて、電子部品の実装ずれが生じている場合
「C」:2〜4枚のFPCにおいて、電子部品の実装ずれが生じている場合
「D」:5枚以上のFPCにおいて、電子部品の実装ずれが生じている場合
【0065】
【表4】

【0066】
表4に示すように、所定の特性を満たすアルミニウム基板を使用した実施例1においては、優れた実装性能が得られることが確認された。
一方、所定の特性を満たさないアルミニウム基板を使用した比較例1においては、実装性能に劣っていた。
なお、上記実施例2および3で製造された基板搬送用キャリアを使用した場合も、実施例1と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0067】
10 基板搬送用キャリア
12 粘着層
14 アルミニウム基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の搬送に用いられ、前記基板の下面と剥離可能に密着する粘着層と、
前記粘着層を固定したアルミニウム基板とを備えた基板搬送用キャリアであって、
前記アルミニウム基板中のマンガンの含有量が0.30質量%以上であり、
前記アルミニウム基板中にマグネシウムおよびクロムを実質的に含まれない、基板搬送用キャリア。
【請求項2】
前記アルミニウム基板の引っ張り強度が100〜220(N/mm2)である、請求項1に記載の基板搬送用キャリア。
【請求項3】
前記アルミニウム基板の熱伝導度が0.15〜0.24kW/m・℃(25℃)である、請求項1または2に記載の基板搬送用キャリア。
【請求項4】
260℃で1時間加熱した際の反り量が0.50mm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の基板搬送用キャリア。
【請求項5】
前記粘着層が、シリコーン樹脂を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の基板搬送用キャリア。


【図1】
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【公開番号】特開2012−216789(P2012−216789A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−60583(P2012−60583)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】