基準電位生成装置
【課題】 安定した基準電位を供給し得る基準電位生成装置を提案する。
【解決手段】 基準電位生成装置1は、基準とすべき位置の周りに回転対称に配されるm個(mは4以上の偶数)の電極21A〜21Dと、基準とすべき位置を含む近傍範囲での強度が所定値未満となる電荷を、m個の電極21A〜21Dに印加する印加手段と、当該範囲に配される複数の導体31A、31Bと、複数の導体31A、31Bから得られる信号の差分を増幅する増幅手段33とを備える。
【解決手段】 基準電位生成装置1は、基準とすべき位置の周りに回転対称に配されるm個(mは4以上の偶数)の電極21A〜21Dと、基準とすべき位置を含む近傍範囲での強度が所定値未満となる電荷を、m個の電極21A〜21Dに印加する印加手段と、当該範囲に配される複数の導体31A、31Bと、複数の導体31A、31Bから得られる信号の差分を増幅する増幅手段33とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基準電位生成装置に関し、接地がとれない機器において好適なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば通信端末機器等といった可搬型の機器では接地がとれないため、基準電位を得ることが困難となる。この問題を解決する技術として、本発明者によって提案されたものがある(特許文献1参照)。
【0003】
この技術は、検出電極のペアとされる基準電極の周りに回転対称に例えば4つの電極を配し、これら4つの電極のうち、隣り合う電極の一方に対して信号を印加するとともに他方に対して該信号の位相が180度ずれた信号を印加する。これにより4つの電極から生じる電界における基準電極での強度が「0」又はその近傍範囲に納まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−085230号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、外界ノイズ(外部の力の場の影響)や、電極の大きさ又は位置の誤差等の事項は完全に排除できないものであり、当該事項に起因して基準電極での強度が変動し、基準電位が不安定であった。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、安定した基準電位を提供し得る基準電位生成装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明は、基準電位生成装置であって、基準とすべき位置の周りに回転対称に配されるm個(mは4以上の偶数)の電極と、基準とすべき位置を含む近傍範囲での強度が所定値未満となる電荷を、m個の電極に印加する印加手段と、当該範囲に配される複数の導体と、複数の導体から得られる信号の差分を増幅する増幅手段とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、印加手段からm個の電極に対して電荷が印加され、該電極で形成される電界によって、基準とすべき位置を含む近傍範囲での強度が所定値未満とされる。この電界が、外界における力の場の影響を受けた場合、基準とすべき位置を含む近傍範囲では電位変動が生じる。
【0009】
しかしながら本発明では、基準とすべき位置を含む近傍範囲に配される導体から得られる信号の差分が増幅されるため、m個の電極で形成される電界に対する外界の力の影響は相殺される。
【0010】
また、基準とすべき位置を含む近傍範囲に配される複数の導体は、m個の電極で囲まれる範囲の内部であるため、電極に対して外部との直接的な結合が、該電極で形成される電界によって回避される。
【0011】
したがって本発明では、増幅手段での増幅結果を、基準電位とすべき信号として安定した状態で供給することが可能となる。なお、基準電位が安定化するということは、精密な値が要求されるセンシング分野等の分野では特に有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】距離に応じた各電界の相対的な強度変化(1[MHz])を示すグラフである。
【図2】距離に応じた各電界の相対的な強度変化(10[MHz])を示すグラフである。
【図3】基準電位生成装置の構成を概略的に示す図である。
【図4】電極位置と当該電極に与えられる電荷との関係を概略的に示す図である。
【図5】シミュレーションに基づく電界・電位分布(1)を示す図である。
【図6】シミュレーションに基づく電界・電位分布(2)を示す図である。
【図7】測定位置と測定位置での出力波形を示す図である。
【図8】測定実験における基準電位生成装置の構成を示す図である。
【図9】測定対象として良好となる領域の説明に供する図である。
【図10】他の実施の形態における電極位置と当該電極に与えられる電荷との関係(1)を概略的に示す図である。
【図11】各電極構造での基準電極の距離と電位との関係を示すグラフである。
【図12】他の実施の形態における電極位置と当該電極に与えられる電荷との関係(2)を概略的に示す図である。
【図13】他の実施の形態における基準電位出力部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)電界通信
本発明を実施するための形態を説明する前に、まずは、電界方式の通信について各種観点から説明する。
【0014】
[1−1.電界の分類]
電界発生源となる微小ダイポールからの距離をrとし、その距離rを隔てた位置をPとした場合、当該位置Pでの電界強度Eは、マックスウェル方程式より、次式
【数1】
のように曲座標(r,θ,δ)として表すことができる。
【0015】
ちなみに、(1)式における「Q」は、電荷(単位はクーロン)であり、「l」は、電荷間の距離(但し、微小ダイポールの定義より、「l」は「r」に比して小さい)であり、「π」は、円周率、「ε」は、微小ダイポールを含む空間の誘電率、「j」は、虚数単位、「k」は、波数である。
【0016】
かかる(1)式を展開すると、次式
【数2】
となる。
【0017】
この(2)式からも分かるように、電界Er及びEΘは、電界発生源からの距離に線形に反比例する放射電界(EΘの第3項)と、電界発生源からの距離の2乗に反比例する誘導電磁界(Er、EΘの第2項)と、電界発生源からの距離の3乗に反比例する準静電界(Er、EΘの第1項)との合成電界として発生する。
【0018】
このように電界は、距離との関係では、放射電界、誘導電磁界及び準静電界に分類することができる。
【0019】
[1−2.電界の分解能]
ここで、電界発生源からの距離によって電界強度が変化する割合を、放射電界、誘導電磁界、準静電界で比較する。
【0020】
(2)式における電界EΘのうち、放射電界に関する第3項を距離rで微分すると、次式
【数3】
のように表すことができる。
【0021】
また(2)式における電界EΘのうち、誘導電磁界に関する第2項を距離rで微分すると、次式
【数4】
のように表すことができる。
【0022】
さらに(2)式における電界EΘのうち、準静電界に関する第1項を距離rで微分すると、次式
【数5】
のように表すことができる。
【0023】
なお、(3)乃至(5)式の「T」は、単純化するために(2)式の一部分を次式
【数6】
のように置き換えている。
【0024】
これら(3)乃至(5)式からも明らかなように、距離によって電界強度が変化する割合は準静電界に関する成分が最も大きい。つまり、準静電界は距離に対して高い分解能があるといえる。
【0025】
[1−3.電界強度と周波数との関係]
ここで、これら放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度と、距離との関係を図1に示す。図1は、1[MHz]における各電界それぞれの相対的な強度と距離との関係を指数で示すものである。
【0026】
この図1からも明らかなように、放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度が等しくなる距離(以下、これを強度境界距離と呼ぶ)が存在する。この強度境界距離よりも遠方の空間では放射電界が優位(誘導電磁界や準静電界の強度よりも大きい状態)となる。これに対して強度境界距離よりも近方の空間では準静電界が優位(放射電界や誘導電磁界の強度よりも大きい状態)となる。
【0027】
この強度境界距離は、(2)式における電界EΘの各項(EΘ1、EΘ2、EΘ3)に対応する電界の各成分、すなわち次式
【数7】
が一致する(EΘ1=EΘ2=EΘ3)ということであるから、次式
【数8】
を充足する場合、つまり、次式
【数9】
として表すことができる。
【0028】
この(9)式における波数kは、光速をc(c=3 ×108[m/s] )とし、周波数をf[Hz]とすると次式
【数10】
として表すことができる。
【0029】
したがって強度境界距離は(9)式と(10)式を整理し、次式
【数11】
となる。
【0030】
この(11)式からも分かるように、放射電界及び誘導電磁界に比して強度の大きい状態にある準静電界の空間(以下、これを準静電界優位空間と呼ぶ)を広くする場合には周波数が密接に関係している。
【0031】
具体的には、低い周波数であるほど、準静電界優位空間が大きくなる(即ち、図1に示した強度境界距離は、周波数が低いほど長くなる(右に移ることになる))。これに対して高い周波数であるほど、準静電界優位空間が狭くなる(即ち、図1に示した強度境界距離は、周波数が高いほど短くなる(左に移ることになる))。
【0032】
例えば10[MHz]を選定した場合、上述の(11)式により、4.775[m]よりも近方では準静電界が優位な空間となる。かかる10[MHz]を選定した場合に放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度と、距離との関係をグラフ化すると図2に示す結果となる。
【0033】
この図2からも明らかなように、電界発生源から0.01[m]地点の準静電界の強度は、誘導電磁界に比しておよそ18.2[dB]大きくなる。従ってこの場合の準静電界は、誘導電磁界及び放射電界の影響がないものとみなすことができる。つまり、放射電界や誘導電磁界には磁界が発生するため、該放射電界や誘導電磁界では電流が分布するが、この分布に起因する副次的な電界との干渉の程度が小さい。
【0034】
このように準静電界は、低い周波数帯を選定するほど、電界発生源からより広い空間において、誘導電磁界及び放射電界に比して優位となる関係にあり、副次的な電界との干渉の程度が小さいものとなる。
【0035】
(2)本発明を実施するための形態
[2−1.基準電位生成装置の構成]
図3において、携帯電話機等の可搬型の電子機器あるいは車等の車両に代表されるように、明示的な基準電位を確保し難いとされる装置に搭載すべき基準電位生成装置1の構成を示す。この基準電位生成装置1は、回路電源部10、特異領域形成部20、基準電位出力部30及び遮蔽部40を含む構成とされる。
【0036】
回路電源部10は、基準電位生成装置1が搭載される装置のバッテリー等の電源を用いて基準電位生成装置1を駆動するための電源電圧を生成し、これを特異領域形成部20及び基準電位出力部30に与える。
【0037】
特異領域形成部20は、4つの電極21A〜21D、信号発振源22及び出力調整部23を有する。
【0038】
電極21A〜21Dは同形同大でなり、基準とすべき位置を重心とする正方形の各頂点となる位置に配される。信号発振源22は、回路電源部10から与えられる駆動電圧に基づいて正弦波信号を発振する。
【0039】
出力調整部23は、信号発振源22から発振される正弦波信号の周波数及び振幅を、操作部を介して入力された設定値に必要に応じて調整し、当該正弦波信号を、正方形の各頂点となる位置に配される電極21A〜21Dのうち、一方の対角線上に配される電極21A,21Cに出力する。
【0040】
また出力調整部23は、他方の対角線上に配される電極21B,21Dに対して、電極21A,21Cに出力される正弦波信号と同じ周波数及び振幅で位相が180°異なる信号(以下、これを逆波信号とも呼ぶ)を出力する。
【0041】
4つの電極21A〜21Dに印加される正弦波信号の振幅は同じ値とされ、該正弦波信号の周波数は、上述の(11)式に基づく「r<c/2πf」を充足する周波数とされる。具体的には、電極21A〜21Dの重心位置と、該電極21A〜21Dの配置位置との間の距離などを考慮して、ハムノイズの周波数帯域(50〜60[Hz]程度)等のノイズフロアとの差が明確となる周波数が選定される。
【0042】
したがって、電極21A〜21Dに対して出力調整部23から正弦波信号が印加された場合、該電極21A〜21Dから発生する放射電界、誘導電磁界及び準静電界の合成電界は、準静電界優位空間として形成される。ちなみに準静電界優位空間は、上述したように、放射電界及び誘導電磁界に比して強度が大きい状態にある準静電界の空間である。
【0043】
また電極21A〜21Dには、隣り合う電極での極性が反転する同レベルの電荷が与えられるため、当該電荷により生じる電界は相互に打ち消しあう。したがって、図4に示すように、電極21A〜21Dに形成される電界の強度はZ軸(破線で示す)では時間経過にかかわらず0[V/m]又はそれに近い値となる。以下、電界が打ち消しあってその強度が、0[V/m]とみなすものとして許容し得る値未満となる領域を特異領域と呼ぶこととする。
【0044】
ここで、図4に示す点電荷により生じる電界を重ねあわせたx−y平面での電界を計算してマッピングしたものを図5及び図6に示す。
【0045】
図5(A)は電界E[V/m]を対数尺度で示し、図5(B)は電界E[V/m]を線形尺度(リニアスケール)で示している。図5(C)は、図5(A)及び図5(B)の電界分布に対応する電位分布である。また図6(A),(B),(C)は、それぞれ、図5(A),(B),(C)における特異領域を拡大したものである。なお、図5及び図6では、電荷Qは1[C]とし、点電荷間の距離は0.01[m]とした。
【0046】
図5及び図6に示されるとおり、x−y平面に存在する電極21A〜21Dの重心位置及びその近傍は特異領域となっていることが分かる。
【0047】
また図5及び図6からも分かるように、電極21A〜21Dでの電界強度は急峻に減衰する。具体的には2の累乗数(電極個数)+1で減衰する。つまり、電極21A〜21Dから生じる電界の範囲はごく近傍に限局した状態にある。
【0048】
このことは、電極21A〜21Dに対する外部の結合範囲がごく近傍に限局されるということを意味する。したがって、この基準電位生成装置1を搭載すべき装置に含まれる他の部品と電極21A〜21Dとの結合が低減され、該電極21A〜21Dにおける重心(特異領域)での電位の変動は大幅に抑制されることとなる。また、この基準電位生成装置1を搭載すべき装置に対して、該基準電位生成装置1を配すべきスペースの制約が緩和されることにもなる。
【0049】
別の実験として、4つの電極21A〜21Dに囲まれる範囲での電位を測定した結果を図7に示す。図7(A)は測定位置を示すものであり、図7(B)は測定位置での測定結果を示すもので、縦軸は5[mv/div]であり横軸は500[ns/div]である。
【0050】
この図7に示す測定では、図8に示すように、5[mm]のアクリル板がスペーサとしてシールド板上に配置され、該アクリル板の一面に電極21A〜21Dが配置された。電極21A〜21Dに対して印加した正弦波信号又は逆波信号の周波数は1[MHz]とされ、振幅は1[V]とされた。なお、電界検出センサーは、図7(A)に示す各測定位置に配された。
【0051】
図7に示す測定結果から分かるように、電極21A,21B,21C又は21Dの重心(D点)から、該電極21A〜21Dの重心(A点)に近づくにしたがって検出レベルは小さくなり、直流成分に近くなっている。
【0052】
この結果から、図9に示すように、隣り合う電極21Aと21B、21Bと21C、21Cと21D、21Dと21Aの間の領域と、各電極21A〜21Dに囲まれる領域とが、特異領域として好ましい範囲となる。
【0053】
より好ましい範囲は、基準とすべき位置を重心として各頂点に配される電極21A〜21Dによって形成される正方形の対称軸のうち、長方形2つに分ける線分(図9におけるA点を基準とするX軸,Y軸)又はその近傍の範囲(太枠で囲まれる十字状の範囲)となる。
【0054】
このように特異領域形成部20は、正方形の各頂点となる位置に配される電極21A〜21Dの隣り合う位置で逆極性かつ同レベルとなる電荷を与えることによって、当該電極21A〜21Dの重心位置とその近傍をおおよそ0[V]の領域(特異領域)として形成する。
【0055】
基準電位出力部30は、特異領域での電位を検出するための導体(以下、これを検出電極とも呼ぶ)31A,31B、FET(Field Effect Transistor)32A,32B及び差動アンプ33を有する。
【0056】
検出電極31A,31Bは同形同大でなり、特異領域となる位置に配される。この実施の形態における検出電極31A,31Bの配置位置は、4つの電極21A〜21Dの重心を基準として点対称とされる。
【0057】
FET32A,32Bのゲートは検出電極31A,31Bに接続される。またFET32A,32Bのドレインは差動アンプ33に接続され、ソースはグランドとすべき部位に接続される。
【0058】
検出電極31A,31Bに電位変動が生じた場合、該電位変動は、FET32A,32Bにおけるドレイン−ソース間での電流変動としてそれぞれ検知され、これら検知結果の差分が差動アンプ33において増幅される。
【0059】
したがって、電極21A〜21Dで形成される電界に対する外界における力の場の影響は打ち消され、この結果、差動アンプ33の出力の変動は抑制され、直流状態又はそれに近い状態となる。
【0060】
このように基準電位出力部30は、特異領域に配される検出電極31A,31Bから得られる信号の差分を基準電位の信号として出力することによって、該信号を0[V/m]とみなすものとして許容し得る値以下に保持する。
【0061】
なお、基準電位出力部30を設けたことによって、特異領域で生じるドリフトをおおむね0[V/m]にできたことが本発明者らの実験により確認されている。
【0062】
遮蔽部40は、回路電源部10、特異領域形成部20及び基準電位出力部30を収める導電性の箱体でなり、各部10,20,30に対する外部における力の場の影響を遮蔽する。この遮蔽部40は、回路電源部10、特異領域形成部20及び基準電位出力部30に共通の接地対象とされる。
【0063】
この実施の形態の場合、遮蔽部40の内部では、該遮蔽部40によって囲まれる空間を2つの空間に仕切る導電性の板(以下、これを遮蔽板とも呼ぶ)41が設けられる。遮蔽板41を境界とする一方の空間には電極21A〜21D及び検出電極31A,31Bが設けられ、他方の空間には回路電源部10、信号発振源22、出力調整部23、FET32A,32B及び差動アンプ33が設けられる。
【0064】
したがってこの遮蔽部40では、特異領域に対して、基準電位生成装置1内の電子部品から生じる輻射ノイズ等の影響が遮蔽板41によって大幅に低減される。この結果、特異領域に配される検出電極31A,31Bから信号の差分として得られる電位の変動は、遮蔽板41を設けない場合に比べて大幅に抑制される。
【0065】
またこの遮蔽部40では、例えばアクリル板等の絶縁性のスペーサ(以下、これを絶縁スペーサとも呼ぶ)42を用いて、遮蔽部40の内壁から準静電界優位空間を形成すべき距離よりも大きい距離を隔てて電極21A〜21Dが配される。
【0066】
したがって、遮蔽部40の外部における他の部品と電極21A〜21Dとの結合が、絶縁スペーサ42を用いない場合に比べて大幅に低減され、特異領域に配される検出電極31A,31Bから信号の差分として得られる電位の変動は大幅に抑制される。
【0067】
(3)他の実施の形態
上述の実施の形態では、基準とすべき位置を重心とする正方形の各頂点の関係となる位置に配される電極21A〜21Dに対して、隣り合う極性が反転する関係となる同レベルの信号を与える電極構造(平面4極構造)が採用された。しかしながら電極構造はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0068】
例えば、基準とすべき位置を重心とする正2n(nは2以上の偶数)角形の各頂点の関係となる位置に配される電極に対して、隣り合う極性が反転する関係となる同レベルの信号を与える電極構造(すなわち平面2n極構造)が適用可能である。
【0069】
ここで、平面6極構造(n=3)及び平面8極構造(n=4)における電極位置と、当該電極に与えられる電荷との関係を図10に示す。また平面4極構造(n=2)、平面6極構造及び平面8極構造での特異領域(基準電極が配される正2n角形の重心)からの距離と、電位との関係を図11に示す。
【0070】
図11からも分かるように、平面2n極構造ではnが大きい電極構造となるほど、正2n角形の重心近傍での電位の減衰の程度が大きくなる。これは、正2n角形の重心から各頂点までの距離が一定であれば、nが大きくなるほど、隣り合う電荷間の距離(すなわち多角形の辺の長さ)が小さくなり、当該電極から生じる電界が打ち消しあう効率が向上することによる。したがって、平面2n極構造としてnが大きい電極構造が採用されるほど、特異領域における電位の変動を抑制する程度を大きくすることができる。
【0071】
また例えば、基準とすべき位置を重心とする正4面体以外の正多面体、もしくは、全ての面の形状が2n角形となる準正多面体の各頂点の関係となる位置に配される電極に対して、隣り合う極性が反転する関係となる同レベルの信号を与える電極構造(すなわち立体多極構造)が適用可能である。なお、立体8極構造(正6面体)、立体14極構造(切頂8面体)における電極位置と、当該電極に与えられる電荷との関係を図12に示す。
【0072】
なお、電極構造は上述した以外であってもよい。要するに、基準とすべき位置の周りに回転対称なm個(mは4以上の偶数)の電極に対して、隣り合う電極での極性が正対する関係となる同レベルの電荷が与えられる電極構造であればよい。なお、この多極構造自体の詳細等については本発明者が既に提案している特願2007−56954も参照されたい。
【0073】
上述の実施の形態では、電極21A〜21Dに対して交番信号が印加されたが、直流信号であってもよい。要するに、隣り合う電極に対して、該電極での極性が正対する同レベルの電荷が印加されればよい。
【0074】
上述の実施の形態では、検出電極31A,31Bの配置位置が、4つの電極21A〜21Dの重心を基準として点対称とされた。しかしながら、検出電極31A,31Bの配置位置は対称関係になくてもよい。要するに、特異領域に、検出電極31A,31Bが配置されていればよい。
【0075】
上述の実施の形態では、2つに検出電極31A,31Bが特異領域に配された。しかしながら特異領域に配すべき検出電極31A,31Bの数は2つに限るものではない。例えば、特異領域に対して4つの検出電極を配する形態が適用可能である。
【0076】
この形態では、図13に示すように、検出電極51A,51B、52A,52Bは同形同大とされ、該検出電極51A,51B、52A,52Bの配置位置は、4つの電極21A〜21Dの重心を基準として点対称とされる。また検出電極51A,51B、52A,52Bの配置位置は、検出電極51A,51Bの重心を結ぶ線分と、検出電極52A,52Bの重心を結ぶ線分とが直交する状態とされ、当該線分は同じ長さとされる。
【0077】
これら検出電極51A,51B、52A,52Bには、対応させるべきFET61〜64のゲートが接続される。FET61,62のドレインは差動アンプ71に接続され、FET63,64のドレインは差動アンプ72に接続される。差動アンプ71の出力端と、差動アンプ72の出力端とは、差動アンプ73の入力端に接続される。
【0078】
特異領域において電位変動が生じた場合、該電位変動は、直交状態に配される2組の検出電極51A,51B、52A,52Bで検知され、各組での検知結果の差分が、対応する1段目の差動アンプ71,72で増幅される。また差動アンプ71,72の増幅結果の差分が2段目の差動アンプ73でさらに増幅される。したがって、図3に示す実施の形態の場合に比べて、差動アンプ73からの出力変動はよりいっそう抑制される。
【0079】
なお、検出電極数は、特異領域に配することを条件に、2x(xは整数)となる数であればよい。ただし、均等なものとする観点では、検出電極の数を2の冪乗とし、これらを、基準とすべき位置を重心として対称性をもつ関係で配されることが好ましい。
【0080】
また差動アンプは、2x−1となる数を、トーナメント方式の接続パターンで複数段接続する。これら複数段の差動アンプのうち最終段の差動アンプから出力される信号は基準電位の信号となる。このようにすれば上述の実施の形態と同様の効果以上の効果を奏し得る。
【0081】
上述の実施の形態では、電極21A〜21Dと、検出電極31A,31B、51A,51B、52A,52Bとの形状が正方形とされた。しかしながらこれら電極の形状はこの実施の形態に限定されるものではなく、あらゆる形状を採用することが可能である。なお、電極21A〜21Dと、検出電極31A,31B、51A,51B、52A,52Bとの大きさは図示した大きさに限るものではない。
【0082】
また上述の実施の形態では、電極21A〜21Dと、検出電極31A,31B、51A,51B、52A,52Bとが同一平面に配されたが、必ず同一平面としなければならないものではない。
【0083】
上述の実施の形態では、回路電源部10、特異領域形成部20及び基準電位出力部30に共通の接地対象が遮蔽部40とされたが、該遮蔽部40に代えて、遮蔽板41としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、例えば農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業、電気業、情報通信業、運輸業又は医薬業において利用可能性があり、もちろんこれら以外のあらゆる産業において幅広く利用可能性がある。
【符号の説明】
【0085】
1・・・基準電位生成装置
10・・・回路電源部
20・・・特異領域形成部
21A〜21D・・・電極
22・・・信号発振源
23・・・出力調整部
30・・・基準電位出力部
31A,31B、51A,51B、52A,52B・・・検出電極
32A,32B・・・FET
33,71,72,73・・・差動アンプ
40・・・遮蔽部
41・・・遮蔽板
42・・・絶縁スペーサ
【技術分野】
【0001】
本発明は基準電位生成装置に関し、接地がとれない機器において好適なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば通信端末機器等といった可搬型の機器では接地がとれないため、基準電位を得ることが困難となる。この問題を解決する技術として、本発明者によって提案されたものがある(特許文献1参照)。
【0003】
この技術は、検出電極のペアとされる基準電極の周りに回転対称に例えば4つの電極を配し、これら4つの電極のうち、隣り合う電極の一方に対して信号を印加するとともに他方に対して該信号の位相が180度ずれた信号を印加する。これにより4つの電極から生じる電界における基準電極での強度が「0」又はその近傍範囲に納まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−085230号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、外界ノイズ(外部の力の場の影響)や、電極の大きさ又は位置の誤差等の事項は完全に排除できないものであり、当該事項に起因して基準電極での強度が変動し、基準電位が不安定であった。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、安定した基準電位を提供し得る基準電位生成装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明は、基準電位生成装置であって、基準とすべき位置の周りに回転対称に配されるm個(mは4以上の偶数)の電極と、基準とすべき位置を含む近傍範囲での強度が所定値未満となる電荷を、m個の電極に印加する印加手段と、当該範囲に配される複数の導体と、複数の導体から得られる信号の差分を増幅する増幅手段とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、印加手段からm個の電極に対して電荷が印加され、該電極で形成される電界によって、基準とすべき位置を含む近傍範囲での強度が所定値未満とされる。この電界が、外界における力の場の影響を受けた場合、基準とすべき位置を含む近傍範囲では電位変動が生じる。
【0009】
しかしながら本発明では、基準とすべき位置を含む近傍範囲に配される導体から得られる信号の差分が増幅されるため、m個の電極で形成される電界に対する外界の力の影響は相殺される。
【0010】
また、基準とすべき位置を含む近傍範囲に配される複数の導体は、m個の電極で囲まれる範囲の内部であるため、電極に対して外部との直接的な結合が、該電極で形成される電界によって回避される。
【0011】
したがって本発明では、増幅手段での増幅結果を、基準電位とすべき信号として安定した状態で供給することが可能となる。なお、基準電位が安定化するということは、精密な値が要求されるセンシング分野等の分野では特に有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】距離に応じた各電界の相対的な強度変化(1[MHz])を示すグラフである。
【図2】距離に応じた各電界の相対的な強度変化(10[MHz])を示すグラフである。
【図3】基準電位生成装置の構成を概略的に示す図である。
【図4】電極位置と当該電極に与えられる電荷との関係を概略的に示す図である。
【図5】シミュレーションに基づく電界・電位分布(1)を示す図である。
【図6】シミュレーションに基づく電界・電位分布(2)を示す図である。
【図7】測定位置と測定位置での出力波形を示す図である。
【図8】測定実験における基準電位生成装置の構成を示す図である。
【図9】測定対象として良好となる領域の説明に供する図である。
【図10】他の実施の形態における電極位置と当該電極に与えられる電荷との関係(1)を概略的に示す図である。
【図11】各電極構造での基準電極の距離と電位との関係を示すグラフである。
【図12】他の実施の形態における電極位置と当該電極に与えられる電荷との関係(2)を概略的に示す図である。
【図13】他の実施の形態における基準電位出力部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)電界通信
本発明を実施するための形態を説明する前に、まずは、電界方式の通信について各種観点から説明する。
【0014】
[1−1.電界の分類]
電界発生源となる微小ダイポールからの距離をrとし、その距離rを隔てた位置をPとした場合、当該位置Pでの電界強度Eは、マックスウェル方程式より、次式
【数1】
のように曲座標(r,θ,δ)として表すことができる。
【0015】
ちなみに、(1)式における「Q」は、電荷(単位はクーロン)であり、「l」は、電荷間の距離(但し、微小ダイポールの定義より、「l」は「r」に比して小さい)であり、「π」は、円周率、「ε」は、微小ダイポールを含む空間の誘電率、「j」は、虚数単位、「k」は、波数である。
【0016】
かかる(1)式を展開すると、次式
【数2】
となる。
【0017】
この(2)式からも分かるように、電界Er及びEΘは、電界発生源からの距離に線形に反比例する放射電界(EΘの第3項)と、電界発生源からの距離の2乗に反比例する誘導電磁界(Er、EΘの第2項)と、電界発生源からの距離の3乗に反比例する準静電界(Er、EΘの第1項)との合成電界として発生する。
【0018】
このように電界は、距離との関係では、放射電界、誘導電磁界及び準静電界に分類することができる。
【0019】
[1−2.電界の分解能]
ここで、電界発生源からの距離によって電界強度が変化する割合を、放射電界、誘導電磁界、準静電界で比較する。
【0020】
(2)式における電界EΘのうち、放射電界に関する第3項を距離rで微分すると、次式
【数3】
のように表すことができる。
【0021】
また(2)式における電界EΘのうち、誘導電磁界に関する第2項を距離rで微分すると、次式
【数4】
のように表すことができる。
【0022】
さらに(2)式における電界EΘのうち、準静電界に関する第1項を距離rで微分すると、次式
【数5】
のように表すことができる。
【0023】
なお、(3)乃至(5)式の「T」は、単純化するために(2)式の一部分を次式
【数6】
のように置き換えている。
【0024】
これら(3)乃至(5)式からも明らかなように、距離によって電界強度が変化する割合は準静電界に関する成分が最も大きい。つまり、準静電界は距離に対して高い分解能があるといえる。
【0025】
[1−3.電界強度と周波数との関係]
ここで、これら放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度と、距離との関係を図1に示す。図1は、1[MHz]における各電界それぞれの相対的な強度と距離との関係を指数で示すものである。
【0026】
この図1からも明らかなように、放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度が等しくなる距離(以下、これを強度境界距離と呼ぶ)が存在する。この強度境界距離よりも遠方の空間では放射電界が優位(誘導電磁界や準静電界の強度よりも大きい状態)となる。これに対して強度境界距離よりも近方の空間では準静電界が優位(放射電界や誘導電磁界の強度よりも大きい状態)となる。
【0027】
この強度境界距離は、(2)式における電界EΘの各項(EΘ1、EΘ2、EΘ3)に対応する電界の各成分、すなわち次式
【数7】
が一致する(EΘ1=EΘ2=EΘ3)ということであるから、次式
【数8】
を充足する場合、つまり、次式
【数9】
として表すことができる。
【0028】
この(9)式における波数kは、光速をc(c=3 ×108[m/s] )とし、周波数をf[Hz]とすると次式
【数10】
として表すことができる。
【0029】
したがって強度境界距離は(9)式と(10)式を整理し、次式
【数11】
となる。
【0030】
この(11)式からも分かるように、放射電界及び誘導電磁界に比して強度の大きい状態にある準静電界の空間(以下、これを準静電界優位空間と呼ぶ)を広くする場合には周波数が密接に関係している。
【0031】
具体的には、低い周波数であるほど、準静電界優位空間が大きくなる(即ち、図1に示した強度境界距離は、周波数が低いほど長くなる(右に移ることになる))。これに対して高い周波数であるほど、準静電界優位空間が狭くなる(即ち、図1に示した強度境界距離は、周波数が高いほど短くなる(左に移ることになる))。
【0032】
例えば10[MHz]を選定した場合、上述の(11)式により、4.775[m]よりも近方では準静電界が優位な空間となる。かかる10[MHz]を選定した場合に放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度と、距離との関係をグラフ化すると図2に示す結果となる。
【0033】
この図2からも明らかなように、電界発生源から0.01[m]地点の準静電界の強度は、誘導電磁界に比しておよそ18.2[dB]大きくなる。従ってこの場合の準静電界は、誘導電磁界及び放射電界の影響がないものとみなすことができる。つまり、放射電界や誘導電磁界には磁界が発生するため、該放射電界や誘導電磁界では電流が分布するが、この分布に起因する副次的な電界との干渉の程度が小さい。
【0034】
このように準静電界は、低い周波数帯を選定するほど、電界発生源からより広い空間において、誘導電磁界及び放射電界に比して優位となる関係にあり、副次的な電界との干渉の程度が小さいものとなる。
【0035】
(2)本発明を実施するための形態
[2−1.基準電位生成装置の構成]
図3において、携帯電話機等の可搬型の電子機器あるいは車等の車両に代表されるように、明示的な基準電位を確保し難いとされる装置に搭載すべき基準電位生成装置1の構成を示す。この基準電位生成装置1は、回路電源部10、特異領域形成部20、基準電位出力部30及び遮蔽部40を含む構成とされる。
【0036】
回路電源部10は、基準電位生成装置1が搭載される装置のバッテリー等の電源を用いて基準電位生成装置1を駆動するための電源電圧を生成し、これを特異領域形成部20及び基準電位出力部30に与える。
【0037】
特異領域形成部20は、4つの電極21A〜21D、信号発振源22及び出力調整部23を有する。
【0038】
電極21A〜21Dは同形同大でなり、基準とすべき位置を重心とする正方形の各頂点となる位置に配される。信号発振源22は、回路電源部10から与えられる駆動電圧に基づいて正弦波信号を発振する。
【0039】
出力調整部23は、信号発振源22から発振される正弦波信号の周波数及び振幅を、操作部を介して入力された設定値に必要に応じて調整し、当該正弦波信号を、正方形の各頂点となる位置に配される電極21A〜21Dのうち、一方の対角線上に配される電極21A,21Cに出力する。
【0040】
また出力調整部23は、他方の対角線上に配される電極21B,21Dに対して、電極21A,21Cに出力される正弦波信号と同じ周波数及び振幅で位相が180°異なる信号(以下、これを逆波信号とも呼ぶ)を出力する。
【0041】
4つの電極21A〜21Dに印加される正弦波信号の振幅は同じ値とされ、該正弦波信号の周波数は、上述の(11)式に基づく「r<c/2πf」を充足する周波数とされる。具体的には、電極21A〜21Dの重心位置と、該電極21A〜21Dの配置位置との間の距離などを考慮して、ハムノイズの周波数帯域(50〜60[Hz]程度)等のノイズフロアとの差が明確となる周波数が選定される。
【0042】
したがって、電極21A〜21Dに対して出力調整部23から正弦波信号が印加された場合、該電極21A〜21Dから発生する放射電界、誘導電磁界及び準静電界の合成電界は、準静電界優位空間として形成される。ちなみに準静電界優位空間は、上述したように、放射電界及び誘導電磁界に比して強度が大きい状態にある準静電界の空間である。
【0043】
また電極21A〜21Dには、隣り合う電極での極性が反転する同レベルの電荷が与えられるため、当該電荷により生じる電界は相互に打ち消しあう。したがって、図4に示すように、電極21A〜21Dに形成される電界の強度はZ軸(破線で示す)では時間経過にかかわらず0[V/m]又はそれに近い値となる。以下、電界が打ち消しあってその強度が、0[V/m]とみなすものとして許容し得る値未満となる領域を特異領域と呼ぶこととする。
【0044】
ここで、図4に示す点電荷により生じる電界を重ねあわせたx−y平面での電界を計算してマッピングしたものを図5及び図6に示す。
【0045】
図5(A)は電界E[V/m]を対数尺度で示し、図5(B)は電界E[V/m]を線形尺度(リニアスケール)で示している。図5(C)は、図5(A)及び図5(B)の電界分布に対応する電位分布である。また図6(A),(B),(C)は、それぞれ、図5(A),(B),(C)における特異領域を拡大したものである。なお、図5及び図6では、電荷Qは1[C]とし、点電荷間の距離は0.01[m]とした。
【0046】
図5及び図6に示されるとおり、x−y平面に存在する電極21A〜21Dの重心位置及びその近傍は特異領域となっていることが分かる。
【0047】
また図5及び図6からも分かるように、電極21A〜21Dでの電界強度は急峻に減衰する。具体的には2の累乗数(電極個数)+1で減衰する。つまり、電極21A〜21Dから生じる電界の範囲はごく近傍に限局した状態にある。
【0048】
このことは、電極21A〜21Dに対する外部の結合範囲がごく近傍に限局されるということを意味する。したがって、この基準電位生成装置1を搭載すべき装置に含まれる他の部品と電極21A〜21Dとの結合が低減され、該電極21A〜21Dにおける重心(特異領域)での電位の変動は大幅に抑制されることとなる。また、この基準電位生成装置1を搭載すべき装置に対して、該基準電位生成装置1を配すべきスペースの制約が緩和されることにもなる。
【0049】
別の実験として、4つの電極21A〜21Dに囲まれる範囲での電位を測定した結果を図7に示す。図7(A)は測定位置を示すものであり、図7(B)は測定位置での測定結果を示すもので、縦軸は5[mv/div]であり横軸は500[ns/div]である。
【0050】
この図7に示す測定では、図8に示すように、5[mm]のアクリル板がスペーサとしてシールド板上に配置され、該アクリル板の一面に電極21A〜21Dが配置された。電極21A〜21Dに対して印加した正弦波信号又は逆波信号の周波数は1[MHz]とされ、振幅は1[V]とされた。なお、電界検出センサーは、図7(A)に示す各測定位置に配された。
【0051】
図7に示す測定結果から分かるように、電極21A,21B,21C又は21Dの重心(D点)から、該電極21A〜21Dの重心(A点)に近づくにしたがって検出レベルは小さくなり、直流成分に近くなっている。
【0052】
この結果から、図9に示すように、隣り合う電極21Aと21B、21Bと21C、21Cと21D、21Dと21Aの間の領域と、各電極21A〜21Dに囲まれる領域とが、特異領域として好ましい範囲となる。
【0053】
より好ましい範囲は、基準とすべき位置を重心として各頂点に配される電極21A〜21Dによって形成される正方形の対称軸のうち、長方形2つに分ける線分(図9におけるA点を基準とするX軸,Y軸)又はその近傍の範囲(太枠で囲まれる十字状の範囲)となる。
【0054】
このように特異領域形成部20は、正方形の各頂点となる位置に配される電極21A〜21Dの隣り合う位置で逆極性かつ同レベルとなる電荷を与えることによって、当該電極21A〜21Dの重心位置とその近傍をおおよそ0[V]の領域(特異領域)として形成する。
【0055】
基準電位出力部30は、特異領域での電位を検出するための導体(以下、これを検出電極とも呼ぶ)31A,31B、FET(Field Effect Transistor)32A,32B及び差動アンプ33を有する。
【0056】
検出電極31A,31Bは同形同大でなり、特異領域となる位置に配される。この実施の形態における検出電極31A,31Bの配置位置は、4つの電極21A〜21Dの重心を基準として点対称とされる。
【0057】
FET32A,32Bのゲートは検出電極31A,31Bに接続される。またFET32A,32Bのドレインは差動アンプ33に接続され、ソースはグランドとすべき部位に接続される。
【0058】
検出電極31A,31Bに電位変動が生じた場合、該電位変動は、FET32A,32Bにおけるドレイン−ソース間での電流変動としてそれぞれ検知され、これら検知結果の差分が差動アンプ33において増幅される。
【0059】
したがって、電極21A〜21Dで形成される電界に対する外界における力の場の影響は打ち消され、この結果、差動アンプ33の出力の変動は抑制され、直流状態又はそれに近い状態となる。
【0060】
このように基準電位出力部30は、特異領域に配される検出電極31A,31Bから得られる信号の差分を基準電位の信号として出力することによって、該信号を0[V/m]とみなすものとして許容し得る値以下に保持する。
【0061】
なお、基準電位出力部30を設けたことによって、特異領域で生じるドリフトをおおむね0[V/m]にできたことが本発明者らの実験により確認されている。
【0062】
遮蔽部40は、回路電源部10、特異領域形成部20及び基準電位出力部30を収める導電性の箱体でなり、各部10,20,30に対する外部における力の場の影響を遮蔽する。この遮蔽部40は、回路電源部10、特異領域形成部20及び基準電位出力部30に共通の接地対象とされる。
【0063】
この実施の形態の場合、遮蔽部40の内部では、該遮蔽部40によって囲まれる空間を2つの空間に仕切る導電性の板(以下、これを遮蔽板とも呼ぶ)41が設けられる。遮蔽板41を境界とする一方の空間には電極21A〜21D及び検出電極31A,31Bが設けられ、他方の空間には回路電源部10、信号発振源22、出力調整部23、FET32A,32B及び差動アンプ33が設けられる。
【0064】
したがってこの遮蔽部40では、特異領域に対して、基準電位生成装置1内の電子部品から生じる輻射ノイズ等の影響が遮蔽板41によって大幅に低減される。この結果、特異領域に配される検出電極31A,31Bから信号の差分として得られる電位の変動は、遮蔽板41を設けない場合に比べて大幅に抑制される。
【0065】
またこの遮蔽部40では、例えばアクリル板等の絶縁性のスペーサ(以下、これを絶縁スペーサとも呼ぶ)42を用いて、遮蔽部40の内壁から準静電界優位空間を形成すべき距離よりも大きい距離を隔てて電極21A〜21Dが配される。
【0066】
したがって、遮蔽部40の外部における他の部品と電極21A〜21Dとの結合が、絶縁スペーサ42を用いない場合に比べて大幅に低減され、特異領域に配される検出電極31A,31Bから信号の差分として得られる電位の変動は大幅に抑制される。
【0067】
(3)他の実施の形態
上述の実施の形態では、基準とすべき位置を重心とする正方形の各頂点の関係となる位置に配される電極21A〜21Dに対して、隣り合う極性が反転する関係となる同レベルの信号を与える電極構造(平面4極構造)が採用された。しかしながら電極構造はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0068】
例えば、基準とすべき位置を重心とする正2n(nは2以上の偶数)角形の各頂点の関係となる位置に配される電極に対して、隣り合う極性が反転する関係となる同レベルの信号を与える電極構造(すなわち平面2n極構造)が適用可能である。
【0069】
ここで、平面6極構造(n=3)及び平面8極構造(n=4)における電極位置と、当該電極に与えられる電荷との関係を図10に示す。また平面4極構造(n=2)、平面6極構造及び平面8極構造での特異領域(基準電極が配される正2n角形の重心)からの距離と、電位との関係を図11に示す。
【0070】
図11からも分かるように、平面2n極構造ではnが大きい電極構造となるほど、正2n角形の重心近傍での電位の減衰の程度が大きくなる。これは、正2n角形の重心から各頂点までの距離が一定であれば、nが大きくなるほど、隣り合う電荷間の距離(すなわち多角形の辺の長さ)が小さくなり、当該電極から生じる電界が打ち消しあう効率が向上することによる。したがって、平面2n極構造としてnが大きい電極構造が採用されるほど、特異領域における電位の変動を抑制する程度を大きくすることができる。
【0071】
また例えば、基準とすべき位置を重心とする正4面体以外の正多面体、もしくは、全ての面の形状が2n角形となる準正多面体の各頂点の関係となる位置に配される電極に対して、隣り合う極性が反転する関係となる同レベルの信号を与える電極構造(すなわち立体多極構造)が適用可能である。なお、立体8極構造(正6面体)、立体14極構造(切頂8面体)における電極位置と、当該電極に与えられる電荷との関係を図12に示す。
【0072】
なお、電極構造は上述した以外であってもよい。要するに、基準とすべき位置の周りに回転対称なm個(mは4以上の偶数)の電極に対して、隣り合う電極での極性が正対する関係となる同レベルの電荷が与えられる電極構造であればよい。なお、この多極構造自体の詳細等については本発明者が既に提案している特願2007−56954も参照されたい。
【0073】
上述の実施の形態では、電極21A〜21Dに対して交番信号が印加されたが、直流信号であってもよい。要するに、隣り合う電極に対して、該電極での極性が正対する同レベルの電荷が印加されればよい。
【0074】
上述の実施の形態では、検出電極31A,31Bの配置位置が、4つの電極21A〜21Dの重心を基準として点対称とされた。しかしながら、検出電極31A,31Bの配置位置は対称関係になくてもよい。要するに、特異領域に、検出電極31A,31Bが配置されていればよい。
【0075】
上述の実施の形態では、2つに検出電極31A,31Bが特異領域に配された。しかしながら特異領域に配すべき検出電極31A,31Bの数は2つに限るものではない。例えば、特異領域に対して4つの検出電極を配する形態が適用可能である。
【0076】
この形態では、図13に示すように、検出電極51A,51B、52A,52Bは同形同大とされ、該検出電極51A,51B、52A,52Bの配置位置は、4つの電極21A〜21Dの重心を基準として点対称とされる。また検出電極51A,51B、52A,52Bの配置位置は、検出電極51A,51Bの重心を結ぶ線分と、検出電極52A,52Bの重心を結ぶ線分とが直交する状態とされ、当該線分は同じ長さとされる。
【0077】
これら検出電極51A,51B、52A,52Bには、対応させるべきFET61〜64のゲートが接続される。FET61,62のドレインは差動アンプ71に接続され、FET63,64のドレインは差動アンプ72に接続される。差動アンプ71の出力端と、差動アンプ72の出力端とは、差動アンプ73の入力端に接続される。
【0078】
特異領域において電位変動が生じた場合、該電位変動は、直交状態に配される2組の検出電極51A,51B、52A,52Bで検知され、各組での検知結果の差分が、対応する1段目の差動アンプ71,72で増幅される。また差動アンプ71,72の増幅結果の差分が2段目の差動アンプ73でさらに増幅される。したがって、図3に示す実施の形態の場合に比べて、差動アンプ73からの出力変動はよりいっそう抑制される。
【0079】
なお、検出電極数は、特異領域に配することを条件に、2x(xは整数)となる数であればよい。ただし、均等なものとする観点では、検出電極の数を2の冪乗とし、これらを、基準とすべき位置を重心として対称性をもつ関係で配されることが好ましい。
【0080】
また差動アンプは、2x−1となる数を、トーナメント方式の接続パターンで複数段接続する。これら複数段の差動アンプのうち最終段の差動アンプから出力される信号は基準電位の信号となる。このようにすれば上述の実施の形態と同様の効果以上の効果を奏し得る。
【0081】
上述の実施の形態では、電極21A〜21Dと、検出電極31A,31B、51A,51B、52A,52Bとの形状が正方形とされた。しかしながらこれら電極の形状はこの実施の形態に限定されるものではなく、あらゆる形状を採用することが可能である。なお、電極21A〜21Dと、検出電極31A,31B、51A,51B、52A,52Bとの大きさは図示した大きさに限るものではない。
【0082】
また上述の実施の形態では、電極21A〜21Dと、検出電極31A,31B、51A,51B、52A,52Bとが同一平面に配されたが、必ず同一平面としなければならないものではない。
【0083】
上述の実施の形態では、回路電源部10、特異領域形成部20及び基準電位出力部30に共通の接地対象が遮蔽部40とされたが、該遮蔽部40に代えて、遮蔽板41としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、例えば農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業、電気業、情報通信業、運輸業又は医薬業において利用可能性があり、もちろんこれら以外のあらゆる産業において幅広く利用可能性がある。
【符号の説明】
【0085】
1・・・基準電位生成装置
10・・・回路電源部
20・・・特異領域形成部
21A〜21D・・・電極
22・・・信号発振源
23・・・出力調整部
30・・・基準電位出力部
31A,31B、51A,51B、52A,52B・・・検出電極
32A,32B・・・FET
33,71,72,73・・・差動アンプ
40・・・遮蔽部
41・・・遮蔽板
42・・・絶縁スペーサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準とすべき位置の周りに回転対称に配されるm個(mは4以上の偶数)の電極と、
前記基準とすべき位置を含む近傍範囲での強度が所定値未満となる電荷を、前記m個の電極に印加する印加手段と、
前記範囲に配される複数の導体と、
前記複数の導体から得られる信号の差分を増幅する増幅手段と
を備えることを特徴とする基準電位生成装置。
【請求項2】
前記導体は、x個(xは整数)であり、
前記増幅手段は、トーナメント方式の接続パターンで複数段接続される2x−1の数の差動アンプを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の基準電位生成装置。
【請求項3】
前記導体は、2の冪乗の数であり、前記基準とすべき位置を重心として対称性をもつ関係で前記範囲に配される
ことを特徴とする請求項2に記載の基準電位生成装置。
【請求項4】
前記m個の電極、前記印加手段、前記複数の導体及び前記増幅手段を収納する導電性の箱体と、
前記箱体の空間を仕切る導電性の板と
を備え、
前記板によって仕切られる一方の空間には前記m個の電極及び前記複数の導体が配され、他方の空間には前記印加手段及び前記増幅手段が配される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の基準電位生成装置。
【請求項5】
前記箱体又は前記板は、前記印加手段及び前記増幅手段に共通の接地対象とされる
ことを特徴とする請求項4に記載の基準電位生成装置。
【請求項6】
前記m個の電極は、該電極から発生する放射電界、誘導電磁界及び準静電界のうち準静電界が他の電界よりも大きい強度となる空間として形成される距離よりも大きい距離を隔てて配される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の基準電位生成装置。
【請求項7】
前記m個の電極は、前記基準とすべき位置を重心として正2n角形(nは2以上の偶数)の各頂点となる位置に配される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれかに記載の基準電位生成装置。
【請求項8】
前記印加手段は、
前記m個の電極のうち、隣り合う電極の一方に対して信号を印加するとともに、前記隣り合う電極の他方に対して前記信号の位相が180度ずれた信号を印加する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれかに記載の基準電位生成装置。
【請求項1】
基準とすべき位置の周りに回転対称に配されるm個(mは4以上の偶数)の電極と、
前記基準とすべき位置を含む近傍範囲での強度が所定値未満となる電荷を、前記m個の電極に印加する印加手段と、
前記範囲に配される複数の導体と、
前記複数の導体から得られる信号の差分を増幅する増幅手段と
を備えることを特徴とする基準電位生成装置。
【請求項2】
前記導体は、x個(xは整数)であり、
前記増幅手段は、トーナメント方式の接続パターンで複数段接続される2x−1の数の差動アンプを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の基準電位生成装置。
【請求項3】
前記導体は、2の冪乗の数であり、前記基準とすべき位置を重心として対称性をもつ関係で前記範囲に配される
ことを特徴とする請求項2に記載の基準電位生成装置。
【請求項4】
前記m個の電極、前記印加手段、前記複数の導体及び前記増幅手段を収納する導電性の箱体と、
前記箱体の空間を仕切る導電性の板と
を備え、
前記板によって仕切られる一方の空間には前記m個の電極及び前記複数の導体が配され、他方の空間には前記印加手段及び前記増幅手段が配される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の基準電位生成装置。
【請求項5】
前記箱体又は前記板は、前記印加手段及び前記増幅手段に共通の接地対象とされる
ことを特徴とする請求項4に記載の基準電位生成装置。
【請求項6】
前記m個の電極は、該電極から発生する放射電界、誘導電磁界及び準静電界のうち準静電界が他の電界よりも大きい強度となる空間として形成される距離よりも大きい距離を隔てて配される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の基準電位生成装置。
【請求項7】
前記m個の電極は、前記基準とすべき位置を重心として正2n角形(nは2以上の偶数)の各頂点となる位置に配される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれかに記載の基準電位生成装置。
【請求項8】
前記印加手段は、
前記m個の電極のうち、隣り合う電極の一方に対して信号を印加するとともに、前記隣り合う電極の他方に対して前記信号の位相が180度ずれた信号を印加する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれかに記載の基準電位生成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図9】
【公開番号】特開2012−128535(P2012−128535A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277500(P2010−277500)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(308039735)Qファクター株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(308039735)Qファクター株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
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