説明

塗布フィルム

【課題】 塗布膜の透明性および光沢に優れ、水性である塗布膜からなる上塗り剤との接着性に優れ、耐固着性にも優れる新規な塗布層を有するポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 オキサゾリン当量が300g/当量未満であり、かつ水溶性であるオキサゾリン基含有ポリマー(A)を含有する塗布液をフィルムの表面に塗布した後、乾燥および延伸して設けられた塗布層を有し、当該塗布層上に水性塗液が塗布されてなる塗布フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、光沢に優れ、水性上塗り剤との接着性、耐固着性に優れた新規な塗布層を持つ延伸ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
延伸ポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平面性、平滑性、耐熱性、耐薬品性、透明性等において優れた特性を示すことから、磁気記録媒体のベースフィルム、製版用フィルム、磁気カード、合成紙をはじめとして幅広い用途に使用されている。ポリエステルフィルムは、このように優れた特性をもつ反面、プラスチックフィルム共通の問題として接着性に劣る。例えば、印刷インク(セロハン用印刷インク、塩素化PPインク、UV硬化インク、磁性インク等)、感熱転写インク、磁性塗料、接着剤(ラミネーション用接着剤、木材張合用接着剤等)、上塗り剤(離型剤、インク受像層、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、酢酸セルロース、酪酢酸セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、蒸着された金属・無機物(アルミニウム、銀、金、ITO、酸化珪素、酸化アルミニウム等)に対する接着性が劣る。近年は、環境汚染を少なくするために、特に水系の上塗り剤(インクを含む)が、注目されている。
【0003】
上記のような問題点を解決する方法の一つに、ポリエステルフィルムの表面に塗布層を設けることが知られている。特に、フィルム製造工程中で塗布する方法が経済的かつ特性上も興味深い。この手法はインラインコーティングとも言われている。典型的な例としては、縦延伸後横延伸前に塗布を行い、横延伸および熱固定する。フィルム製造工程外で行われる通常の塗布方法(以下、これをオフラインコーティングと称する)と比較して、薄塗りが可能であり、またフィルムの平面性を損なうことなく高温で乾燥熱処理できる。したがって、接着性、粘着性の強い塗料を塗布しても、フィルム同士が貼り付く現象(いわゆるブロッキング、または固着)が軽減される。
【0004】
塗布化合物としては、例えば、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、塩化ビニリデン、ポリオレフィン、シランカップリング剤等、各種の化合物が挙げられる。これらの化合物を塗布すると、多くの場合、何らかの接着性が向上する。しかしながら、特に水系の上塗り剤(インクを含む)に対して十分な接着性を示す塗布処方は少ない。また、そのような下引き塗膜は、吸湿して固着しやすい。
【0005】
上記の固着性低減のために、架橋剤の添加が考えられるが、一般に、架橋剤を添加すると塗膜が硬くなる。そこで、上記のような塗布後延伸する場合には、特に塗膜の延伸追随性が問題となる。すなわち、塗膜に十分な伸びがない場合、ポリエステルフィルムの延伸工程で均一延伸されずに細かく破断され、マイクロクラックを形成する場合が多い。塗膜の亀裂が生じるために、上塗り層等との接着性が低下したり、微細な凹凸により光散乱し塗膜が白濁したりするという欠点が生じる。基材のポリエステルフィルムが透明でない場合であっても、フィルム表面の光沢が低下するという問題を生じる。そして、このような、透明性と固着性低減という、相反する要求を満足する処方は見いだされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−60941号公報
【特許文献2】特開平10−109472号公報
【特許文献3】特開平8−11447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、塗膜の透明性、光沢に優れ、水系上塗り剤との接着性、耐固着性に優れたポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に関して鋭意検討した結果、特定のポリマーを用いれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、オキサゾリン当量が300g/当量未満であり、かつ水溶性であるオキサゾリン基含有ポリマー(A)を含有する塗布液をフィルムの表面に塗布した後、乾燥および延伸して設けられた塗布層を有し、当該塗布層上に水性塗液が塗布されてなる塗布フィルムに存する。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフィルムを構成するポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸またはそのエステルとグリコールとを主たる出発原料として得られるポリエステルであり、繰り返し構造単位の70%以上がエチレンテレフタレート単位またはエチレン−2,6−ナフタレート単位または1,4−シクロヘキサンテレフタレート単位またはエチレンイソフタレート単位を有するポリエステルを指す。そして、上記の範囲を逸脱しない条件下であれば、他の成分を含有していてもよい。
【0011】
芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸以外に、例えば、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシエトキシ安息香酸等)等の一種または二種以上を用いることができる。グリコール成分としては、エチレングリコール以外に、例えば、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等の一種または二種以上を用いることができる。
【0012】
かかるポリエステルの極限粘度は、通常0.45以上、好ましくは0.50〜1.0、さらに好ましくは0.52〜0.80の範囲である。極限粘度が0.45未満ではフィルム製造時の生産性が低下したり、フィルムの機械的強度が低下したりするという問題が生ずることがある。一方、ポリマーの溶融押出安定性の点から、極限粘度は1.0を超えないことが好ましい。
【0013】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムに滑り性を与えて取扱い性を向上させる目的で、ポリエステルに粒子を含有させ、フィルム表面に適度な突起を形成させてもよい。かかる粒子の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子、架橋高分子粒子、シュウ酸カルシウム等の有機粒子、およびポリエステル重合時に生成させる析出粒子を挙げることができる。
【0014】
本発明において、フィルム中に含有させる粒子の粒径と量は、その用途にもよるが、平均粒径は、好ましくは0.005〜5.0μm、さらに好ましくは0.01〜3.0μmの範囲である。平均粒径が5.0μmを超えるとフィルム表面が粗面化しすぎる傾向がある。また薄いフィルムでは、絶縁性が低下したりすることがある。さらに粒子がフィルム表面から脱落しやすくなり、フィルム使用時の、いわゆる粉落ちの原因となる恐れがある。平均粒径が0.005μm未満では、この粒子による突起形成が不十分なため、滑り性改良効果が弱くなる傾向がある。すなわち、粒子を大量に添加しないと滑り性改良効果が現れなくなることがあり、粒子を大量に添加すると、逆にフィルムの機械的特性が損なわれることになる。
【0015】
また、粒子含有量はポリエステルに対し、好ましくは0.0000〜30.0重量%であり、さらに好ましくは0.010〜20.0重量%である。粒子量が多くなるとフィルムの機械的特性が損なわれる。最低量はフィルムの使用用途により異なる。高透明フィルムでは少ないほど好ましく、適度な滑り性を与えるため含まれる粒子も少ないほど好ましい。磁気記録用途では滑り性は重要な特性であり、添加する粒子径にも依存するが、通常0.1重量%以上は必要である。また、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの白色顔料を添加して製造する白色フィルムでは、2重量%以上は必要である。ただし、これは遮光率の高いフィルムを製造する場合であり、半透明のフィルムではこの下限はより小さくてもよい。
【0016】
フィルム中にかかる粒子を2種類以上配合してもよく、同種の粒子で粒径の異なるものを配合してもよい。いずれにしても、フィルムに含有する粒子全体の平均粒径、および合計の含有量が上記した範囲を満足することが好ましい。粒子を含むポリエステルの製造に際して、粒子はポリエステルの合成反応中に添加してもポリエステルに直接添加してもよい。合成反応中に添加する場合は、粒子をエチレングリコール等に分散させたスラリーとして、ポリエステル合成の任意の段階で添加する方法が好ましい。一方、ポリエステルに直接添加する場合は、乾燥した粒子として、または、水あるいは沸点が200℃以下の有機溶媒中に分散したスラリーとして、2軸混練押出機を用いてポリエステルに添加混合する方法が好ましい。なお、添加する粒子は、必要に応じ、事前に解砕、分散、分級、濾過等の処理を施しておいてもよい。
【0017】
粒子の含有量を調節する方法としては、上記した方法で高濃度に粒子を含有するマスター原料を作っておき、それを製膜時に、実質的に粒子を含有しない原料で希釈して粒子含有量を調節する方法が有効である。また、上記の突起形成剤以外の添加剤として、必要に応じて、帯電防止剤、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、着色剤(染料、顔料)、光線遮断剤、紫外線吸収剤などを含有していてもよい。すなわち、本発明のポリエステルフィルムは、例えば、着色フィルムであっても差し支えないし、多数の微小気泡を含有している発泡フィルムであっても構わない。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムは、最終的に得られる特性が本発明の要件を満足する限り、多層構造となっていても構わない。例えば、共押出し積層フィルムであってもよい。この場合、ベースフィルムに関する上記の記述は、最表面層のポリエステルに適用される。それ以外の内層のフィルムは、いかなるポリエステル、プラスチック、紙、布でも差し支えない。例えば、多数の微小気泡を含有している発泡フィルム等が挙げられる。
【0019】
ポリエステルフィルムは、延伸されたポリエステルフィルムであれば、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルム、いずれでも差し支えない。しかし、工業的には、二軸延伸フィルムの方が広く使用されている。二軸延伸ポリエステルフィルムの製造は、同時二軸延伸、逐次二軸延伸のいずれかで実施されるが、特に逐次二軸延伸が多く行われている。すなわち、溶融押し出ししたポリエステルを冷却ドラムの上で冷却して未延伸フィルムを作成し、これを周速差のある一群のロールで延伸(縦延伸)し、この後、フィルムの長手方向と垂直な方向にクリップで保持しつつ延伸(横延伸)する。この変形として、縦延伸、横延伸を何回かに分割して実施してもよい。また分割しその一部ずつを交互に実施してもよい。例えば、高強度フィルムを再延伸法で製造する方法がこれに相当する。
【0020】
次に、本発明において塗布剤として用いるオキサゾリン基含有ポリマー(A)について説明する。本発明におけるポリマー(A)としては、その原料モノマーの少なくとも一つとしてオキサゾリン化合物を含むモノマーを使用して合成することができる。オキサゾリン化合物としては、2−オキサゾリン、3−オキサゾリン、4−オキサゾリン化合物がありいずれを用いてもよいが、特に2−オキサゾリン化合物が反応性に富みかつ工業的にも実用化されている。
【0021】
例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン(VOZO),5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン(MVOZO)、4,4−ジメチル−2−ビニル−2−オキサゾリン(DMVOZO)、4,4−ジメチル−2−ビニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,−オキサジン(DMVOZI)、4,4,6ートリメチル−2−ビニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン(TMVOZI)、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン(IPOZO),4,4−ジメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン(DMIPOZO),4−アクリロイル−オキシメチル−2,4−ジメチル−2−オキサゾリン(AOZO),4−メタクリロイル−オキシメチル−2,4−ジメチル−2−オキサゾリン(MAOZO)、4−メタクリロイル−オシメチル−2−フェニル−4−メチル−2−オキサゾリン(MAPOZO),2−(4−ビニルフェニル)−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン(VPMOZO),4−エチル−4−ヒドロキシメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン(EHMIPOZO)、4−エチル−4−カルボエトキシメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン(EEMIPOZO)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
ビニルオキサゾリン類は、AIBNやBPOにより容易にラジカル重合し、側鎖にオキサゾリン環を有するポリマーを生成する。ビニルオキサゾリン類は、n−ブチルリチウム等を触媒としたアニオン重合でも同様のポリ(ビニルオキサゾリン)類を生成する。なお、ポリ(ビニルオキサゾリン)類の合成にオキサゾリン環をもつモノマーによらない方法もある。例えば、ポリ(メタクリロイルアジリジン)の異性化反応による方法が挙げられる。
【0023】
本発明で用いるオキサゾリン基を含有するポリマー(A)は、他の共重合可能な任意のモノマーと共重合されていてよい。特に、(メタ)アクリロニトリル、スチレンと共重合されていることが好ましい。これら以外のモノマーが共重合されていてもよいが、いずれにしても、ポリマー(A)を構成するモノマーの主要な3成分として、オキサゾリン含有モノマー、(メタ)アクリロニトリル、スチレンが共重合されていることが好ましい。ここで言う「主要な3成分」という意味は、オキサゾリン含有共重合体を構成するモノマーのうち、「含有量の多い方から3成分」という意味であり、他の共重合モノマーの存在を否定はしない。さらに、オキサゾリン基の密度が高く、オキサゾリン当量が300g/当量未満である必要がある。
【0024】
ポリマー(A)に関する上記の「好ましい条件」は、ポリマー(A)の塗料としての溶解・分散安定性、塗膜の透明性・固着性・上塗り剤との接着性を一層改良するための条件である。また、ポリマー(A)は、水溶性である。水と混合可能な有機溶媒を併用して、水溶性を達成してもよい。上記のような場合、塗布延伸でも、透明性と耐固着性に優れた塗膜が形成される。
【0025】
本発明における塗布層には、上記オキサゾリン基含有ポリマー(A)以外の化合物を含有していてもよい。ポリマー(A)以外の成分として、例えば、樹脂、架橋剤、有機粒子、無機粒子、ワックス、界面活性剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、発泡剤、染料、顔料等を挙げることができる。
本発明における、塗布液中のポリマー(A)の量には、特に制限はないが、塗布液中で、塗布液乾燥固形分のうち0.1〜100重量%が好ましく、さらに1〜50重量%が好ましく、3〜30重量%が最も好ましい。量が少ないと、十分な接着性が発揮されない。また、併用される樹脂と比較してあまりに量が多くなると、固着性が大きくなる。これは、樹脂の官能基と反応しないで残ったオキサゾリン基が多くなるからと、推測される。
【0026】
樹脂としては、種々のポリマーが使用できるが、特に、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデンが接着性の観点等から好ましい。本発明における塗布層樹脂としてのポリエステルを構成する成分として下記のような多価カルボン酸および多価ヒドロキシ化合物を例示できる。すなわち、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2−カリウムスルホテレフタル酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩およびそれらのエステル形成性誘導体などを用いることができ、多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、p−キシリレングリコール、ビスフェノールA−エチレングリコール付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコ、ールポリテトラメチレンオキシドグリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウムなどを用いることができる。常法の重縮合反応によってポリエステルを合成することができる。
【0027】
なお、上記のほか、特開平1−165633号公報に記載されている、いわゆるアクリルグラフトポリエステルや、ポリエステルポリオールをイソシアネートで鎖延長したポリエステルポリウレタンなどのポリエステル成分を有する複合高分子も本発明で用いる塗布剤ポリエステルに含まれる。本発明におけるポリエステルは、水を媒体とする塗布剤になり、それは界面活性剤などによって強制分散化した塗布剤であってもよいが、好ましくはポリエ−テル類のような親水性のノニオン成分や、四級アンモニウム塩のようなカチオン性基を有する自己分散型塗布剤であり、さらに好ましくは、アニオン性基を有する水溶性または水分散性ポリエステル系樹脂塗布剤である。アニオン性基を有するポリエステルとは、アニオン性基を有する化合物を共重合やグラフトなどによりポリエステルに結合させたものであり、スルホン酸、カルボン酸、リン酸およびそれらのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等から、適宜選択される。
【0028】
ポリエステルのアニオン性基の量は、0.05〜8重量%の範囲が好ましい。アニオン性基量が0.05重量%未満では、ポリエステル系樹脂の水溶性あるいは水分散性が悪くなる傾向があり、アニオン性基量が8重量%を超えると、塗布層の耐水性が劣ったり、吸湿してフィルムが相互に固着したりすることがある。本発明における塗布層中のポリ(メタ)アクリレートとは、アクリル系、メタアクリル系のモノマーに代表されるような、炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーからなる重合体である。これらは、単独重合体あるいは共重合体いずれでも差し支えない。また、これらの重合体と他のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン等)との共重合体も含まれる。例えば、ブロック共重合体、グラフト共重合体である。あるいは、ポリエステル溶液、またはポリエステル分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にポリウレタン溶液、ポリウレタン分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にして他のポリマー溶液、または分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマー混合物)も含まれる。
【0029】
上記の炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーとしては、特に限定はしないが、特に代表的な化合物を例示すると以下のとおりである。アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸のような各種カルボキシル基含有モノマー類、およびそれらの塩;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキルフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネートのような各種の水酸基含有モノマー類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのような各種の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドまたは(メタ)アクリロニトリル等のような種々の窒素含有ビニル系モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンのような各種スチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのような各種のビニルエステル類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、チッソ(株)製「サイラプレーンFM−07」(メタクリロイロシリコンマクロマー)等のような種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロクロルエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンのような各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエンのような各種共役ジエン類;
上記アクリル系モノマーからのポリマーの製造には特に制限はなく、常法によって製造できる。例えば、有機溶剤と上記の各種モノマーおよび重合開始剤を混合して、加熱撹拌し重合できる。あるいは、有機溶媒を加熱撹拌しながら上記の各種モノマーおよび重合開始剤を滴下して重合を行ってもよい。さらには、有機溶剤、上記の各種モノマーおよび重合開始剤をオートクレーブ内で高圧で重合してもよい。また、上記有機溶剤の代わりに水を用い、必要に応じて界面活性剤を併用して、乳化重合や懸濁重合してもよい。
【0030】
本発明における塗布層中のポリウレタンとしては、例えば、特公昭42−24194号公報、特公昭46−7720号公報、特公昭46−10193号公報、特公昭49−37839号公報、特開昭50−123197号公報、特開昭53−126058号公報、特開昭54−138098号公報等に開示された公知のポリウレタンまたはそれらに準じたポリウレタンを使用することができる。
【0031】
例えば、ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を挙げることができる。
また、ポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール類、ポリエチレンアジペート、ポリエチレン−ブチレンアジペート、ポリカプロラクトン等のポリエステルポリオール類、アクリル系ポリオール、ひまし油等を挙げることができる。通常、分子量300〜2000のポリオールが使用される。特に、ポリエステルポリオールを使用すると、塗膜の透明性、上塗り剤との接着性が向上して好ましい。
【0032】
また、鎖長延長剤あるいは架橋剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒドラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、水等を挙げることができる。
【0033】
上記のポリウレタンは、水を主たる媒体とする溶媒への溶解性を良くする目的で、アニオン性の置換基、例えば、−SO基、−OSO基、−COOH基およびこれらのアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を有していることが好ましい。かかるポリウレタンの製造方法としては、例えば、次の(1)〜(3)の製法を挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
(1)ポリイソシアネート、ポリオール、鎖長延長剤などにアニオン性の置換基を有する化合物を用いる製法
例えば、アニオン性の置換基を有するポリイソシアネートは、芳香族イソシアネート化合物をスルホン化する方法で得ることができる。また、アミノアルコール類の硫酸エステル塩またはジアミノカルボン酸塩を有するイソシアネート化合物を用いることもできる。
【0035】
(2)アニオン性の置換基を有する化合物と生成したポリウレタンの未反応イソシアネート基とを反応させる製法
アニオン性の置換基を有する化合物としては、アニオン性の置換基として、例えば、重亜硫酸塩、アミノスルホン酸およびその塩類、アミノカルボン酸およびその塩類、アミノアルコール類の硫酸エステルおよびその塩類、ヒドロキシ酢酸およびその塩類などを有する化合物を用いることができる。
【0036】
(3)ポリウレタンの活性水素含有基(OH,COOH等)と特定の化合物とを反応させる製法
特定の化合物としては、例えば、ジカルボン酸無水物、テトラカルボン酸無水物、サルトン、ラクトン、エポキシカルボン酸、エポキシスルホン酸、2,4−ジオキソ−オキサゾリジン、イサト酸無水物、ホストン等を用いることができる。また、硫酸カルビルなどの塩型の基または開環後に塩を生成できる基を示す3員環から7員環の環式化合物を用いることもできる。
【0037】
本発明における塗布層中のポリ塩化ビニリデンとは、塩化ビニリデンを主成分とするモノマーの乳化重合による共重合体である。共重合するモノマーは、各種(メタ)アクリレートが上げられるが、これに限定されるものではない。また、塩化ビニリデンと共重合モノマーの比率は、塩化ビニリデンが50モル%以上のものが好ましい。本発明において、塩化ビニリデンを使用すると、水系上塗り剤との接着性は非常に優れる。塩化ビニリデンが50モル%未満の場合、この接着性が低下する。
【0038】
本発明における塗布層中の、ポリエステルとポリ(メタ)アクリレートの複合体とは、ポリエステルとポリ(メタ)アクリレートの種々の共重合体の総称である。例えば、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体である。また、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、上記の各種共重合体の中から任意に選ばれたポリマーの反応生成物も含まれる。製造方法の例としては、ポリエステル水溶液または水分散液の中で、(メタ)アクリレートをラジカル重合する例が挙げられる。この場合、ラジカルがポリエステルの水素原子を引き抜く場合があり、これによりポリエステルの側鎖にポリ(メタ)アクリレートがグラフト重合する。ただし、本手法では、常に100%のグラフト重合がなされる訳ではない。これに対して、不飽和ポリエステルと(メタ)アクリルモノマーを共重合すると、ポリ(メタ)アクリレートに高い確率でポリエステルがグラフト重合したポリマーが得られる。
【0039】
本発明における塗布層中の、ポリウレタンとポリ(メタ)アクリレートの複合体とは、ポリウレタンとポリ(メタ)アクリレートの種々の共重合体の総称である。例えば、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体である。また、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、上記の各種共重合体の中から任意に選ばれたポリマーの反応生成物も含まれる。製造方法の例としては、ポリウレタン水溶液または水分散液の中で、(メタ)アクリレートをラジカル重合する例が挙げられる。この場合、ラジカルがポリウレタンの水素原子を引き抜く場合があり、これによりポリウレタンの側鎖にポリ(メタ)アクリレートがグラフト重合する。ただし、本手法では、常に100%のグラフト重合がなされる訳ではない。これに対して、不飽和結合を持つポリウレタンと(メタ)アクリルモノマーを共重合すると、ポリ(メタ)アクリレートに高い確率でポリウレタンがグラフト重合したポリマーが得られる。イソシアネート結合を持つ(メタ)アクリレートを原料としてポリウレタンを合成し、これを(メタ)アクリレートと共重合すれば、ポリウレタンとポリ(メタ)アクリレートが複雑に架橋反応した共重合ポリマーが得られるが、これらも本発明の樹脂の例である。
【0040】
本発明における塗布層には、ポリマー(A)や上記記載の各種樹脂以外の化合物を含有していてもよい。例えば、その他の樹脂、架橋剤、有機粒子、無機粒子、ワックス、界面活性剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、発泡剤、染料、顔料、等である。塗布層中の、上記ポリマー(A)以外の化合物の量には、特に制限はないが、好ましくは0重量%以上99重量%以下、さらに好ましくは0重量%以上95重量%以下、最も好ましくは0重量%以上90重量%以下である。
【0041】
本発明における塗布剤は、安全衛生上、水を媒体とする塗布剤であることが望ましいが、本発明の要旨を超えない範囲で、かつ水に溶解する範囲で、有機溶剤を含有してもよい。本発明における塗布剤の固形分濃度には特に制限はないが、好ましくは0.4〜65重量%、さらに好ましくは1〜30重量%、最も好ましくは2〜20重量%以下である。
【0042】
上述の塗布液をポリエステルフィルムに塗布する方法としては、例えば、原崎勇次著、(株)総合技術センター、1990年発行、「コーティング装置と操作技術入門」に示されるような塗布装置を用いることができる。例えば、正回転ロールコータ、リバースロールコータ、グラビアコータ、ナイフコータ、ブレードコータ、ロッドコータ、エアドクタコータ、カーテンコータ、ファウンテンコータ、キスコータ、キスロールコータ、ビードコータ、浸漬コータ、スクリーンコーティング、キャストコーティング、スプレイコーティング、含浸機、LB法のようなコータまたはコーティング方式を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0043】
なお、塗布剤のフィルムへの塗布性、接着性を改良するため、塗布前のフィルムに化学処理や放電処理を施してもよい。また、本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層の接着性、塗布性などを改良するために、塗布層形成後に塗布層に放電処理を施してもよい。塗布層の厚さは、それぞれの層に関して最終製品における乾燥固形分として、好ましくは0.005〜10.0μmの範囲であり、さらに好ましくは0.01〜2.0μmの範囲であり、最も好ましくは0.015〜0.2μmの範囲である。塗布層の厚さは、薄くすることが好ましい。特に塗布層厚みが10.0μmを超えるとブロッキング等の問題が顕著になる。一方、塗布層の厚みが0.005μm未満の場合には、所望の性能が得られない恐れがあるし、塗布ムラや塗布ヌケが生じやすくなる傾向がある。
【0044】
塗布工程は、ポリエステルフィルム製造工程中の種々の場所で実施可能である。すなわち、未延伸フィルムに塗布した後、一軸または二軸延伸フィルムに加工してもよい。一軸延伸フィルムに塗布し、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムとしてもよい。そして、本発明の特徴が良く発揮されるのは、ポリエステルフィルム製造工程中で塗布し、その後延伸される場合であり、特に、テンター前で塗布すると、乾燥炉の増設を低減または削除できるので、非常に好ましい。すなわち、本発明の典型的な実施態様は、縦(長手)方向に延伸された一軸延伸フィルムに、上記水系塗布剤を塗布し、乾燥、横延伸、熱固定、巻き取りの工程に従う方法である。必要に応じて、再縦延伸、弛緩処理を実施してもよい。塗布剤の乾燥は、ポリエステルフィルムの横延伸前の予熱時または横延伸時に行うことが好ましい。
【0045】
本発明において塗布層は、単層であっても多層であってもよいし、多層中の単層または複層として設けられてもよい。また、フィルムの両面に塗布層を設けてもよく、表裏で異なる塗布層としてもよい。次に、本発明のフィルムの典型的な製造法を、より具体的に説明する。ポリエステル原料を、押出装置に供給し、ポリエステルの融点以上の温度で溶融押出してスリット状のダイから溶融シートとして押し出す。次に、溶融シートを、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0046】
このようにして得られた塗布処理未延伸シートをまず縦方向に延伸する。延伸温度範囲は70〜150℃、延伸倍率は2.5〜6倍の範囲とするのが好ましい。延伸は一段階または二段階以上で行うことができる。本発明においては、任意の段階で上述の塗布液を少なくとも一つの面に塗布後乾燥処理を施すことができるが、最も好ましい段階は、この縦延伸後横延伸前である。次に横方向、すなわち、縦方向と直交する方向に一軸配向フィルムを一旦ガラス転移点以下に冷却するか、または冷却することなく、例えば90〜150℃の温度範囲に予熱して、さらにほぼ同温度の下で2.5〜5倍、好ましくは3.0〜4.5倍に延伸を行い、二軸に配向したフィルムを得る。必要に応じて予熱を補強してもよい。
【0047】
かくして得られたフィルムを、30%以内の伸長、制限収縮、または定長下で1秒〜5分間熱処理する。この際、熱処理工程内または熱処理後に縦方向に10%以内、好ましくは5%以内の弛緩処理をする等の手法も、特に縦方向の熱収縮率を好適な範囲とするために採用することができる。熱処理温度は、延伸条件にもよるが、好ましくは180〜250℃、さらに好ましくは200〜230℃の範囲である。熱処理温度が250℃を超えるとフィルム密度が高くなりすぎる。また、塗布層の一部が熱分解を生ずる場合がある。一方、180℃未満ではフィルムの熱収縮率が大きくなって好ましくない。
【0048】
本発明の塗布フィルムを製造する際、ある程度の割合で不良品が発生する。そこで、これを再利用することが工業的に大きな価値が生ずる。再生原料を原料ポリエステル混入しなければ、製品価格が高くなり、不利になる。しかし、あまりに多量に混入すると、溶融押し出しの工程などで着色する。また、ポリエステルフィルムの力学的特性を損なう。混入量の割合は、ポリエステルフィルムの厚さ、塗膜の厚さ、加工歩留まりにも依存するが、ポリマー(A)またはポリマー(A)の反応物の含有量が10重量%を超えると上記のような光学的特性、力学的特性を損なう恐れがある。
【0049】
本発明の、上塗りに使用する水性塗液とは、主たる溶媒または分散媒が水である、塗液またはコロイダルディスパージョンまたはエマルジョンである。溶媒または分散媒の主成分が水であれば良く、副成分として水と相容する有機溶媒が含まれていてもよい。ここで言うエマルジョンとは、分散媒中に、その分散媒に不溶な有機・無機の高分子が分散されている分散体である。またここで言うコロイダルディスパージョンとは、ハイドロゾルとも言われるが、溶液とエマルジョンの中間である。すなわち、分散質の粒子径が非常に小さいか、または、半分溶液になっているエマルジョンである。これらの塗液には、バインダーとしての樹脂、架橋剤、有機粒子、無機粒子、ワックス、界面活性剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、発泡剤、染料、顔料等が分散している。
【0050】
中でもバインダーとしての樹脂は不可欠である。以下に例を挙げるが、これらに制限されるものではない。水溶性樹脂としては、デンブン、エーテルデンプン、エステルデンプン、デキストリン、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ゼラチン、セルロースエステル、硫酸セルロース、セルロースエーテル、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、アラビアガム、トラガカントガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、タマリンドガム、キサンタンガム、キトサン、カラギーナン、寒天、ペクチン、プルラン、カゼイン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等が挙げられる。コロイダルディスパージョンとして使用される、いわゆる水溶化樹脂としては、シェラック、スチレン化シェラック、スチレンマレイン酸樹脂、ロジンマレイン酸樹脂カゼイン(α−プロテイン)、(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸塩共重合体、アルキッド樹脂、アミノ樹脂等が挙げられる。エマルジョンに使用される水分散性樹脂としては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ酢酸ビニル、合成ゴム、ポリエステル、ポリウレタン、アイオノマー、塩化ビニル、塩化ビニリデン、これらの共重合体等が挙げられる。
【0051】
本発明の、上塗りに使用する水性塗料とは、透明な塗料にとどまらず有色の塗料、例えば水性インク等も含む。例えば、水性UV硬化型インク、水性グラビアインク、水性スクリーンインク等である。これらには、染料または顔料の他に、バインダーとして(メタ)アクリレート誘導体、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、等から選ばれた化合物が使用されている。さらに架橋剤として、アジリジン化合物、金属キレート化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等が併用される場合がある。
【0052】
本発明は、透明性、光沢に優れ、水性上塗り剤との接着性、耐固着性に優れた新規な塗布層を持つ延伸ポリエステルフィルムに関する。したがって、透明性を要求される用途には特に好適である。しかし、本塗膜は、半透明、不透明のフィルムに関しても価値が高い。半透明、不透明のフィルムには塗膜の透明性は不要と解釈される場合もあるが、必ずしもそうではない。塗膜の透明性は、塗膜の光沢と関連しており、白濁した塗膜は光沢を低下させる。すなわち、ベースフィルムの光沢を保持したまま接着性を付与できることは、全てのポリエステルフィルムにとって価値の高いことだからである。
【発明の効果】
【0053】
本発明のフィルムは、新規な塗布層をもち、塗膜の透明性、水性塗膜との接着性、耐固着性に優れたポリエステルフィルムであり、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中の評価方法は下記のとおりである。実施例および比較例中、「部」とあるのは「重量部」を示す。
【0055】
(1)ポリマーの極限粘度[η] (dl/g)
ポリマー1gをフェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlに溶解し、30℃で測定した。
【0056】
(2)塗料の配合安定性
塗料を配合し、ガラス瓶に入れ、そのまま一日放置した。その後、塗料中のゲル、異物の発生の程度を目視で判定した。判定基準は下記のとおりである。
○:優秀(異物がない)
○△:良(僅かに、異物がある)
△:やや良(やや、異物がある)
△×:悪い(かなり、異物がある、または、塗料の増粘が見られる)
×:非常に悪い(多量に異物がある、または、塗料が寒天状に固まる)
【0057】
(3)フィルムヘーズ
JIS−K6714に準じて、日本電色工業社製分球式濁度計NDH−20Dによりフィルムの濁度を測定した。透明性の目安として、塗膜によるヘーズの上昇は、0.3%以下が好ましい。
【0058】
(4)固着性
フィルムを重ね合わせてプレスする。条件は、40℃、80%RH、10kg/cm2 、20時間とした。プレスしたフィルムは多くの場合に固着しており、これを、ASTM−D−1893により剥離し、その時の剥離強度を測定した。剥離強度が大きい程固着性が大きく、このようなフィルムをロールに巻き上げるとブロッキングが発生しやすく、工業製品として不適当である。すなわち、固着性の数値は小さい程好ましい。たとえ厚手のフィルムでも、固着性が大きいと、フィルムを巻出す際にフィルムが破断する場合がある。
【0059】
(5)接着性
フィルム表面に下記水性塗液(I)または(II)を塗布し、乾燥・硬化し、塗膜とポリエステルフィルムの接着の程度を評価した。評価条件は以下のとおりである。
(I)水性樹脂:ソジウムカルボキシメチルセルロースであり、グルコース環1モル当たりのソジウムカルボキシメチル基の導入量は約1.2モル、重合度は約500のものを使用した。塗布量は、乾燥後で3μmとした。
(II)水性インク:帝国インキ製造(株)”アクアPAWインキ911墨”を使用した。塗布量は20μmとした。
乾燥・硬化:120℃で3分乾燥後、一日放置する。
【0060】
接着性評価:資料を手で揉んだ後、セロテープ(登録商標)による剥離を実施し、剥離の程度を下記基準で評価した。上記2種類の水性塗料を用いて総合評価した。両者で異なる結果の時には接着性の悪い方を判断基準とした。
【0061】
◎:優秀(全く剥離しない)
○:良好(僅かに(面積比率で10未満)剥離する)
△:良(多少(面積比率で10%以上50%未満)剥離する)
△×:やや良い(かなり(面積比率で50%以上100%未満)剥離する)
×:悪い(テープを貼り付けた部分が完全に剥離する)
【0062】
(6)オキサゾリン当量
オキサゾリンを含有するポリマー溶液を凍結乾燥し、これを 1H−NMRにて分析し、オキサゾリン基に由来する吸収ピーク強度、その他のモノマーに由来する吸収ピーク強度から、オキサゾリン当量を算出した。
【0063】
(塗布剤の調整)
下記表1〜4に示す塗布剤原液を準備した。これらを配合し、下記表5に示す組成の塗布液を調整した。
【0064】
比較例1
極限粘度0.65であり、粒子径1.5μmのSiO2 を0.005重量%含むポリエチレンテレフタレートを常法により乾燥して押出機に供給し、290℃で溶融してシート状に押出し、静電印加密着法を用いて冷却ロール上で急冷し、無定形シートとした。得られた未延伸シートをロール延伸法を用いて縦方向に85℃で2.5倍延伸した後、さらに95℃で1.3倍延伸した。次いで、得られた一軸延伸フィルムをテンターに導いて、横方向に120℃で4.0倍延伸し、235℃で熱処理を行い、基材ポリエステルフィルムの厚さ50μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムきわめて透明性に優れた平坦なフィルムであったものの、接着性に欠けるものであった。得られたフィルムの透明性、接着性を下記表6に示す。
【0065】
実施例1
比較例1と同様の方法にて一軸延伸フィルムを得た。このフィルムの片面に、表5の実施例1に示す組成の塗布剤を塗布した。なお、表5に使用した塗布剤原料は表1〜4示すとおりである。その後、比較例1と同様に本フィルムをテンターに導き、テンターにより乾燥、横延伸、熱処理を実施して二軸延伸フィルムを得た。塗膜も延伸されて最終的な乾燥塗布層厚さは0.05μmであった。このフィルムの各種特性を表6に示す。透明性、接着性に優れ、固着性も小さい。
【0066】
実施例2
実施例1と同様にして、実施例2の二軸延伸フィルムを得た。すなわち、実施例1と同様の方法にて一軸延伸フィルムを得、このフィルムの片面に、表5の実施例2に示す組成の塗布剤を塗布した。表5に使用した塗布剤原料は表1〜4に示すとおりであった。その後、実施例1と同様にこれらのフィルムをテンターに導き、テンターにより乾燥、横延伸、熱処理を実施して二軸延伸フィルムを得た。塗膜も延伸されて最終的な乾燥塗布層厚さはそれぞれ0.05μmであった。このフィルムの各種特性を表6に示す。接着性に優れ、固着性も比較的小さい。
比較例2
実施例1と同様にして、比較例2の二軸延伸フィルムを得た。すなわち、実施例1と同様の方法にて一軸延伸フィルムを得、このフィルムの片面に、表5の比較例2に示す組成の塗布剤を塗布した。表5に使用した塗布剤原料は表1〜4に示すとおりであった。その後、実施例1と同様にこれらのフィルムをテンターに導き、テンターにより乾燥、横延伸、熱処理を実施して二軸延伸フィルムを得た。塗膜も延伸されて最終的な乾燥塗布層厚さはそれぞれ0.05μmであった。このフィルムの各種特性を表6に示す。比較例2では、塗膜表面にマイクロクラックが発生し、ヘーズが大きくなっている。固着性が小さい理由は、このマイクロクラックによる表面の凹凸が原因と推測される。
【0067】
比較例3〜4
実施例2〜3と同様にして、比較例3〜4の二軸延伸フィルムを得た。すなわち、実施例1と同様の方法にて一軸延伸フィルムを得、このフィルムの片面に、表5の比較例2、3に示す組成の塗布剤をそれぞれ塗布した。表5に使用した塗布剤原料は表1〜4に示すとおりであった。その後、実施例1と同様にこれらのフィルムをテンターに導き、テンターにより乾燥、横延伸、熱処理を実施して二軸延伸フィルムを得た。塗膜も延伸されて最終的な乾燥塗布層厚さはそれぞれ0.05μmであった。
【0068】
各種特性を表6に示す。実施例1〜2、比較例2〜4を比較すると、オキサゾリン系塗布剤は、接着性に優れることが分かる。
【0069】
実施例3〜12
実施例1と同様にして、実施例3〜12の二軸延伸フィルムを得た。すなわち、実施例1と同様の方法にて一軸延伸フィルムを得、このフィルムの片面に、表5の実施例3〜12に示す組成の塗布剤をそれぞれ塗布した。表5に使用した塗布剤原料は表1〜4に示すとおりであった。その後、実施例1と同様にこれらのフィルムをテンターに導き、テンターにより乾燥、横延伸、熱処理を実施して二軸延伸フィルムを得た。塗膜も延伸されて最終的な乾燥塗布層厚さは、それぞれ0.05μmであった。得られたフィルムの各種特性を表6に示す。いずれのフィルムも、透明性、接着性に優れ、固着性の小さいフィルムである。中でも、実施例3〜12は良好な接着性を示す。ポリエステルとポリ(メタ)アクリレートの複合体、ポリウレタンとポリ(メタ)アクリレートの複合体を適用した実施例10および11では、実施例4および7と比較して、固着性が小さくなっている。
【0070】
比較例5
極限粘度0.68であり、粒子径1.5μmのSiOを0.005重量%含むポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)を常法により乾燥して押出機に供給し、300℃で溶融してシート状に押出し、静電印加密着法を用いて冷却ロール上で急冷し、無定形シートとした。得られた未延伸シートを、ロール延伸法を用いて縦方向に135℃で3.5倍延伸した。得られた一軸延伸フィルムを次いでテンターに導いて、横方向に135℃で4.0倍延伸し、235℃で熱処理を行い、基材ポリエステルフィルムの厚さ50μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは、極めて透明性に優れた平坦なフィルムであった。しかしながら、接着性に欠けている。フィルムの透明性、接着性を表6に示す。
【0071】
実施例13
実施例1と同様にして、表5に示す組成の塗布剤を比較例4のポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムに塗布し、実施例13のインラインコートフィルムを得た。なお、表5に使用した塗布剤原料は表1〜4に示すとおりであった。各種特性を表6に示す。透明性、接着性、耐固着性に優れたフィルムであった。
【0072】
実施例1’〜13’
実施例1〜13で得られたポリエステルフィルムをそれぞれ粉砕しペレットにした。得られたペレット(以下、「再生ポリエステル」と称する)を、それぞれの実施例のポリエチレンテレフタレートに20重量%添加した。すなわち、実施例1’については、実施例1の再生ポリエステルを20重量%添加、実施例2’については、実施例2の再生ポリエステルを20重量%添加、というようにする以外はそれぞれの実施例と同様にして、再生ポリエステルの入ったポリエステルフィルムにインラインコーティングして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。各種特性は、表6と変化がなかった。ただし、フィルムのヘーズに差はないものの、いずれの例もわずかに黄味を帯びる。この傾向は、ポリウレタン系ポリマーを塗布する場合、やや強い。そして、塩化ビニリデン系ポリマーを使用する場合(実施例9’)は顕著な着色と分解ガスの発生があった。すなわち、実施例9’は、再生ポリエステルの利用が難しい。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
【表5】

【0078】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の塗布フィルムは、磁気記録媒体のベースフィルム、製版用フィルム、磁気カード、合成紙をはじめとして幅広い用途に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキサゾリン当量が300g/当量未満であり、かつ水溶性であるオキサゾリン基含有ポリマー(A)を含有する塗布液をフィルムの表面に塗布した後、乾燥および延伸して設けられた塗布層を有し、当該塗布層上に水性塗液が塗布されてなる塗布フィルム。
【請求項2】
水性塗液が、水溶性樹脂を含むことを特徴とする請求項1記載の塗布フィルム。
【請求項3】
オキサゾリン基含有ポリマー(A)が(メタ)アクリロニトリルおよびスチレンを共重合成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載の塗布フィルム。
【請求項4】
オキサゾリン基含有ポリマー(A)を含有する塗布液が、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタンおよび塩化ビニリデンの中から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗布フィルム。
【請求項5】
樹脂がポリエステルポリウレタンであることを特徴とする請求項4記載の塗布フィルム。
【請求項6】
樹脂が、ポリエステルとポリ(メタ)アクリレートとの複合体またはポリウレタンとポリ(メタ)アクリレートとの複合体であることを特徴とする請求項4記載の塗布フィルム。
【請求項7】
ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の塗布フィルム。
【請求項8】
ポリエステルフィルム内部に、ポリマー(A)またはポリマー(A)の反応物を合計で10重量%以下含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の塗布フィルム。

【公開番号】特開2009−154543(P2009−154543A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91947(P2009−91947)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願平11−167934の分割
【原出願日】平成11年6月15日(1999.6.15)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】