説明

塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物、この組成物を用いた塗布型無機シリカ系被膜、及び、この被膜を有する電子部品

【課題】 凹凸を有する基板での埋め込みに優れる、塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物、それより得られる塗布型無機シリカ系被膜、及びその塗布型無機シリカ系被膜を有する電子部品を提供する。
【解決手段】 テトラアルコキシシランを加水分解する際に用いる触媒がマレイン酸であり、得られるシロキサン樹脂の溶液中での重量平均分子量が500〜3000である塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物、この組成物を用いた塗布型無機シリカ系被膜、及び、この被膜を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスは、高性能化のために微細化が進行している。例えば、半導体デバイスのトランジスタ同士を分離する溝であるSTI(Shallow Trench Isolation)でも、その溝幅は狭くなってきており、最先端デバイスでの溝幅は、90nm以下となっている。
また、溝幅が狭くなるに従い、アスペクト比が高くなってきており、STIのアスペクト比は、10以上となってきている。
【0003】
従来、STI用絶縁膜としては、CVD法(Chemical Vapor Deposition)による無機シリカ被膜(Si原子に直接炭素成分が結合していないシリカ被膜)が用いられてきた。無機シリカ被膜を用いる主な理由としては、脱離性の炭素成分が、トランジスタ性能に悪影響を及ぼすからである。
また、CVD法による被膜は、緻密な膜が得られやすく、結果、絶縁性(比誘電率4程度)が確保され、高機械強度(ヤング率70GPa)であり、更にフッ酸等の薬液耐性が高く、STI用絶縁膜の要求特性を満足できるためである。
【0004】
しかし、上述したように、近年は溝幅が狭くなってきており、CVD法の被膜形成のメカニズム上、被膜を溝内部に埋め込むことが困難になってきている(特許文献1参照)。
【0005】
そこで、溝への埋め込みに有利な塗布法による、無機シリカ被膜が期待されている。
塗布法とは、被膜となる成分が溶媒に溶けている溶液を、基板上にスピン塗布やディップコートすることで、被膜を得る方法である。その後、形成した被膜に含まれる残存溶媒の除去と、被膜の緻密化を促進させるために、予備硬化及び本硬化を実施して、所望の被膜を得る。
塗布法による無機シリカ被膜の代表的な材料としては、ポリシラザン(SiN)やハイドロジェンシルセスキオキサン(HSQ)が、挙げられる。
【0006】
ポリシラザンは、微細溝への埋め込み性に優れ、凹凸の緩和にも優れている。また、ポリシラザン骨格は、酸化によってシロキサン骨格(Si−O−Si)へ転換することで緻密なシリカ骨格が形成できるため、機械強度や薬液耐性も比較的高い。
【0007】
ハイドロジェンシルセスキオキサンは、溝への埋め込み性に優れ、凹凸の緩和にも優れている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−363615号公報
【特許文献2】特開平11−45884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、材料としてポリシラザンを用いた場合は、シリカ骨格を得るために、ポリシラザンを酸化させる工程が必要であり、ポリシラザン合成時や、得られた塗布液は、安全性において懸念がある。
また、材料としてハイドロジェンシルセスキオキサンを用いた場合は、合成時や合成後の塗布液中から水素が発生する可能性があり、安全性が懸念される。
【0009】
ところで、テトラアルコキシシラン(Si−(OR))の加水分解・重縮合から得られる無機シロキサン樹脂組成物も、塗布法に分類される(アルコキシシランのゾルーゲル法と称される)。そして、この無機シロキサン樹脂組成物を使用した場合は、合成時や得られる塗布液の安全性、またコストといった点で、ポリシラザンやハイドロジェンシルセスキオキサンより優位である。
しかし、この方法で得られる無機シロキサン樹脂組成物を、溝を有する基板に塗布し、予備硬化及び本硬化を経ると、溝内部では、ボイドや溝内部の側壁から被膜が剥がるといった現象が、一般的に観察される。これは、ゾルーゲル法による無機シリカ被膜の収縮が大きいこと、更にハイドロジェンシルセスキオキサンに見られるような、リフロー性が発現しにくいことが、理由として考えられる。
【0010】
本発明は、例えば、アスペクト比10以上の溝を有する基板においても、本焼成後に、溝内部でボイドが発生せず、また溝内部壁面から剥がれが発生しない塗布型無機シリカ被膜、塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物、この組成物を用いた塗布型無機シリカ系被膜、及び、この被膜を有する電子部品を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のものに関する。
(1)テトラアルコキシシランを加水分解する際に用いる触媒がマレイン酸であり、得られるシロキサン樹脂の溶液中での重量平均分子量が、500〜3000である塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物。
(2)項(1)に記載の塗布型シリカ系被膜形成用組成物を、凹凸を有するパタン基板に塗布し、200℃乃至400℃の間の温度での予備焼成と、その後の本焼成を行った、塗布型無機シリカ系被膜。
(3)項(2)において、凹凸を有するパタン基板が、アスペクト比を10〜20とする溝を有する塗布型無機シリカ系被膜。
(4)項(2)又は(3)において、本焼成が、400℃乃至1000℃の間の温度で実施される塗布型無機シリカ系被膜。
(5)基板上に、項(2)乃至(4)の何れかに記載される塗布型無機シリカ系被膜が形成されてなる電子部品。
【0012】
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定され、且つ標準ポリスチレンの検量線を使用して換算されたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アスペクト比10以上の溝を有する基板においても、ボイドや溝内壁からの剥がれがない無機系シリカ被膜を得ることができる。
この現象の詳細は必ずしも明確ではないが、マレイン酸の使用によって、重量平均分子量の増大を抑制することで、シロキサン樹脂の立体サイズが小さく抑えられることが功を奏していると考えている。
そして、立体サイズが小さいシロキサンオリゴマー同士が結合して被膜を形成する場合、シロキサンオリゴマーの反応サイト(シラノール基やアルコキシ基等)は、オリゴマーのサイズが小さいが故に、効率的に反応できやすいため、溝内でボイドが発生しにくいと推定している。
逆に言えば、重量平均分子量が大きくなると、溝内部でボイドが発生する傾向となる。
重量平均分子量が大きくなると、予備硬化から本焼成時の膜収縮が大きくなる現象が観察される。分子量が大きくなるほど、本焼成時にようやくシロキサンオリゴマー同士の反応サイトが反応できるようになるために、収縮が大きくなると考えられる。
そして、収縮が大きいため、溝内部でボイドが発生しやすくなると推定される。
【0014】
また、本発明において、無機シリカ系被膜が溝内部の側壁から剥がれないようにするために、予備焼成温度としては、比較的高温の200℃乃至400℃とすることが好ましい。これは、予備焼成時に溝内部の側壁と無機シリカ系被膜との密着力を確保するのにそれなりに高温が必要であるからと考えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は、テトラアルコキシシラン、マレイン酸を必須成分として含むものである。
(テトラアルコキシシラン)
本発明では、テトラアルコキシシランを、シリカ源とすることを必須とする。テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、反応性や反応副生成物の点から、テトラエトキシシランを用いるのが好ましい。
【0016】
テトラアルコキシシランの加水分解・重縮合物であるシロキサン樹脂は、アスペクト比10以上の溝への埋め込み性、シリカ被膜形成性等の観点から、重量平均分子量(Mw)が、500〜3000であることが好ましく、500〜2000であるとより好ましい。この重量平均分子量が、500未満では、シリカ系被膜の成膜性が劣る傾向にあり、この重量平均分子量が、3000を超えると、アスペクト比10以上の溝に埋め込んだ際に、ボイドが発生するようになってくる。
尚、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と言う。)により測定され、且つ標準ポリスチレンの検量線を使用して換算されたものである。
【0017】
重量平均分子量は、例えば、以下の条件によるGPCにより測定することができる。
試料:シリカ系被膜形成用組成物10μL
標準ポリスチレン:東ソー株式会社製標準ポリスチレン(分子量;190000、17900、9100、2980、578、474、370、266)
検出器:株式会社日立製作所製RI−モニター、商品名「L−3000」
インテグレータ:株式会社日立製作所製GPCインテグレータ、商品名「D−2200」
ポンプ:株式会社日立製作所製、商品名「L−6000」
デガス装置:昭和電工株式会製、商品名「Shodex DEGAS」
カラム:日立化成工業株式会製、商品名「GL−R440」、「GL−R430」、「GL−R420」をこの順番で連結して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
測定温度:23℃
流速:1.75mL/分
測定時間:45分
【0018】
(マレイン酸)
本発明の塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を得るために使用する、加水分解触媒としては、マレイン酸を用いる。この加水分解触媒の添加モル比率は、テトラアルコキシシランへの反応性、合成後の組成物の安定性及び下地への塗布性の観点から、テトラアルコキシシランのモル比率をAとした時に、〔4A/3000〕〜〔4A/10〕の範囲が好ましく、〔4A/1000〕〜〔4A/100〕の範囲が更に好ましい。
また、塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を得るためには、加水分解水がある方がよい。この加水分解水の添加モル比率は、テトラアルコキシシランへの反応性、合成後の組成物の安定性及び下地への塗布性の観点から、テトラアルコキシシランのモル比率をAとした時に、〔4A/2〕〜〔4A×2〕の範囲が好ましく、〔4A/2〕〜〔4A×1〕の範囲が更に好ましい。
【0019】
(その他の成分)
本発明の塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を得るための合成中は、テトラアルコキシシラン、マレイン酸及び加水分解水を、均一に溶解可能な溶媒を用いて行うことが好ましい。なぜなら、溶媒を使用することは、反応の均一性や反応速度の制御に有効なためである。
また、そのような趣旨で用いる溶媒の中でも、プロトン性溶媒を用いることが好ましい。これは、テトラアルコキシシランの加水分解・重縮合反応を、非プロトン性溶媒中で行うと、シロキサン樹脂の分子量が増大しやすく、シリカ粒子の沈殿を生じさせてしまう傾向にあるからである。
一方、合成終了後は、得られたシロキサン樹脂が溶解できる溶媒であれば、特に限定はなく、所定の膜厚のシリカ系被膜を得るための希釈溶媒や、膜厚の面内均一性向上のための溶媒等、種々の溶媒を使用することが可能である。
【0020】
プロトン性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル等のエステル系溶媒等が挙げられる。
この溶媒の配合割合は、合成中においては、反応の均一性、得られるシロキサン樹脂の分子量増大の抑制の点から、得られるシロキサン樹脂の濃度が、3〜60質量%となるような量であることが好ましく、更に5〜30質量%であることがより好ましい。
また、合成後においては、得られるシロキサン樹脂の濃度が、1〜25質量%となるような量であることが好ましい。この溶媒の配合割合が、1質量%未満では成膜性等が劣る傾向があり、25質量%を超えると安定性に問題が生じる。
【0021】
(予備焼成)
本発明で塗布型無機シリカ系被膜を得る際には、予備焼成することを必須とする。予備焼成の温度は、200℃乃至400℃であることが好ましく、200℃乃至300℃であることがより好ましい。予備焼成は、上記以外の温度範囲で行うと、溝を有する凹凸パタン基板に、塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を塗布し、本焼成を経た後に、被膜が溝内部の側壁から剥がれてしまう傾向にある。
予備焼成時の雰囲気については、窒素中や大気中等、特に制限はなく、不活性雰囲気、活性雰囲気のどちらでもよい。予備焼成の時間は、特に制限はないが、プロセスのリードタイム増加を抑制する点において、30〜600秒が好ましく、30〜300秒であることがより好ましい。また、予備焼成は単段でも多段での処理であってもよい。
【0022】
(アスペクト比10〜20の基板)
本発明において、溝への埋め込み性の評価は、アスペクト比10以上の溝を有する基板を用いて行う。但し、溝の深さは、上限1000nmとする。これは、本発明の塗布型無機シリカ系被膜が、クラックを発生せずに成膜できる上限膜厚を、1000nm程度とすることに起因する。
尚、本発明の実施例、比較例においては、幅15nm、深さ300nmのアスペクト比20の溝を有する基板を使用した。また、これらの溝を有する基板は、塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を塗布する前に、基板表面をHF等の薬液や、オゾンプラズマ等で処理し、表面に吸着している有機物等の不純物質を予め取り除いてから使用することが好ましい。
【0023】
(本焼成、その他)
本発明において、所定の膜質(絶縁性・機械強度)を得るためには、本焼成の実施が不可欠である。本焼成の温度は、400乃至1000℃の範囲が好ましい(但し、凹凸への埋め込みが主な目的で、本発明の膜を使用する場合は、本焼成は必ずしも必要ではない)。本焼成の温度が、400℃未満では、所定の膜質を得ることが困難になる傾向にあり、また1000℃を超える高温は、例えば半導体デバイスのトランジスタに悪影響を及ぼす可能性が高くなる。
本焼成時の雰囲気については、窒素中や酸素中や水蒸気中等、特に制限はなく、不活性雰囲気、活性雰囲気のどちらでもよい。但し、活性雰囲気中での本焼成では、基板の酸化に注意する必要がある。例えば、半導体デバイスに用いるシリコンウェハ基板(Siウェハ基板)は、酸素等の活性雰囲気中においては、600℃以上で基板表面が酸化されだして、シリカ層が形成される。結果、半導体デバイスが、設計通りの構造から異なってしまう場合がある。つまり、基板が酸化するような場合は、別途酸化しないようなプロセスが必要となる。その場合は、不活性雰囲気での本焼成や、酸化を防止する層を基板表面に形成することで、基板の酸化を回避できる。例えば、Siウェハ基板では、チッ化珪素を、数nmコーティングすることで、酸化雰囲気中での酸化を抑制できる。
本焼成の時間は、特に制限はないが、プロセスのリードタイム増加を抑制する点や、熱入量の抑制の点から、30〜360分が好ましく、30〜60分であることが、より好ましい。また、本焼成は単段でも多段での処理であってもよい。
【0024】
本発明の塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を、電子部品に使用する場合は、アルカリ金属や、アルカリ土類金属を含有しないことが望ましく、含まれる場合でも、組成物中のそれらの金属イオン濃度が、100ppb以下であることが好ましく、20ppb以下であることがより好ましい。これらの金属イオン濃度が、100ppbを超えると、組成物から得られるシリカ系被膜を有する半導体素子等の電子部品に、金属イオンが流入し易くなって、デバイス性能そのものに悪影響を与えるおそれがある。従って、必要に応じて、例えば、イオン交換フィルター等を使用して、アルカリ金属やアルカリ土類金属を、組成物中から除去することが有効である。しかし、光導波路や他の用途等に用いる際は、その目的を損なわないのであれば、この限りではない。
【0025】
このような本発明の塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を用いて、基板上に塗布型無機シリカ系被膜を形成する方法について、一般に成膜性及び膜均一性に優れるスピンコート法を例にとって説明する。但し、塗布型無機シリカ系被膜形成方法は、スピンコート法に限定されるものではない。
【0026】
先ず、塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を、溝を有するシリコンウェハ基板上に、好ましくは500〜5000回転/分、より好ましくは500〜3000回転/分で、スピン塗布して被膜を形成する。この回転数が、500回転/分未満では膜均一性が悪化する傾向があり、5000回転/分を超えると成膜性が悪化するおそれがある。
本発明の塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物は、0.1〜1.0μmの膜厚に、好ましく用いることができ、0.2〜0.5μmの膜厚に、より好ましく用いることができる。
シリカ系被膜の膜厚を調整するためには、例えば、組成物中のシロキサン樹脂の濃度を、調整してもよい。また、スピン塗布法を用いる場合は、回転数の調整、塗布回数の増減により、膜厚を調整することができる。シロキサン樹脂の濃度を調整して膜厚を制御する場合は、例えば、膜厚を厚くする場合には、シロキサン樹脂の濃度を高くし、膜厚を薄くする場合には、シロキサン樹脂の濃度を低くすることにより、制御することができる。
また、スピン塗布法を用いて膜厚を調整する場合は、例えば、膜厚を厚くする場合には回転数を下げたり、塗布回数を増やしたりし、膜厚を薄くする場合には回転数を上げたり、塗布回数を減らしたりすることにより、調整することができる。
【0027】
次いで、200乃至400℃、より好ましくは200乃至300℃で、ホットプレート等にて塗布膜を予備焼成する。
【0028】
次いで、400乃至1000℃の加熱温度で本焼成を行う。加熱装置としては、石英チューブ炉、その他の炉、ホットプレート、ラピッドサーマルアニール(RTA)等の加熱処理装置を用いることが好ましい。
また、上記のようにして形成された塗布型無機シリカ系被膜を用いた、本発明による電子部品としては、半導体素子、多層配線板等のシリカ系被膜を有する電子デバイス、液晶用部品等が挙げられる。本発明の塗布型無機シリカ系被膜は、半導体素子においては、表面保護膜(パッシベーション膜)、バッファーコート膜、層間絶縁膜等として、使用することができる。
本発明の塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物は、アスペクト比10以上の溝を有する基板でも、埋め込み性に優れるため、パッケージプロセス等での歩留まり低下を防止することが可能となる。更に、本発明のシリカ系被膜形成用組成物は安全性や被膜形成が簡便であることも特徴である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明に係る具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
〔実施例1(加水分解触媒:マレイン酸、重量平均分子量:900)〕
テトラエトキシシラン:34.7gを、エタノール:54.4gに溶解させた溶液中に、マレイン酸:0.13gを溶解させたイオン交換水:10.8gを、攪拌下で5分間かけて滴下した。滴下終了後、室温(25℃)にて5時間反応させ、100gの塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を作製した。
【0030】
〔比較例1(加水分解触媒:マレイン酸、重量平均分子量:5000)〕
テトラエトキシシラン:34.7gを、エタノール:54.4gに溶解させた溶液中に、マレイン酸:0.13gを溶解させたイオン交換水:10.8gを、攪拌下で5分間かけて滴下した。滴下終了後、室温(25℃)にて30日反応させ、100gの塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を作製した。
【0031】
〔比較例2(加水分解触媒:硝酸、重量平均分子量:1400)〕
テトラエトキシシラン:34.7gを、エタノール:54.4gに溶解させた溶液中に、硝酸(60%):0.07gを溶解させたイオン交換水:10.8gを、攪拌下で5分間かけて滴下した。滴下終了後、室温(25℃)にて5時間反応させ、100gの塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を作製した。
【0032】
〔比較例3(加水分解触媒:硝酸、重量平均分子量:7500)〕
テトラエトキシシラン:34.7gを、エタノール:54.4gに溶解させた溶液中に、硝酸(60%):0.07gを溶解させたイオン交換水:10.8gを、攪拌下で5分間かけて滴下した。滴下終了後、室温(25℃)にて20日反応させ、100gの塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を作製した。
【0033】
〔凹凸埋め込み性評価用被膜作製〕
実施例1、並びに、比較例1〜3で作製した、塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を、幅15nm、深さ300nmの凹部を有するシリコンウェハ上に、本焼成後の膜厚が、300nmになるように、回転数:1000〜4000回転/分で、30秒間回転塗布した(即ち、平らなシリコンウェハ上に、塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を塗布して、本焼成した際の塗布型無機シリカ系被膜の膜厚が、300nmとなるような塗布回転数で塗布した)。塗布後、予備焼成を所定の温度で、3分間実施した(80℃、160℃、200℃、250℃を検討した)。その後、O濃度が、100ppm前後にコントロールされている石英チューブ炉で、950℃で60分間かけて被膜を本焼成した。
ここで、塗布型無機シリカ系被膜の膜厚は、ガートナージャパン株式会社製のエリプソメータL116B(商品名)で測定された膜厚であり、具体的には、被膜上にHe−Neレーザー照射し、照射により生じた位相差から求められる膜厚を用いた。
【0034】
〔埋め込み性評価〕
埋め込み性は、株式会社日立製作所製の走査型電子顕微鏡:S4800(商品名)を用いて、凹部の断面を観察することで評価した。即ち、幅15nm、深さ300nmの凹部を有するパターンウェハ上に、塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物を塗布し、予備焼成及び本焼成を実施した後、ウェハの所定位置を割ることで凹部断面をさらし、SEMによってその断面を観察することで、凹内部をシリカ系被膜が隙間なく埋め込んでいるかどうか評価した。
【0035】
〔評価結果〕
実施例1及び比較例1〜3の埋め込み性評価結果を、下記表1に示す。
表1に示されるように、実施例1に示される、触媒としてマレイン酸を用い、重量平均分子量(Mw)が、500〜3000の範囲にあるMw900で、予備焼成温度が、200℃及び250℃のものは、側壁からの剥がれも、ボイドの発生もなく、良好であるが、その他の物は、側壁からの剥がれ、又は、ボイドの発生があり、実用的ではない。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルコキシシランを加水分解する際に用いる触媒がマレイン酸であり、得られるシロキサン樹脂の溶液中での重量平均分子量が、500〜3000である塗布型無機シリカ系被膜形成用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布型シリカ系被膜形成用組成物を、凹凸を有するパタン基板に塗布し、200℃乃至400℃の間の温度での予備焼成と、その後の本焼成を行った、塗布型無機シリカ系被膜。
【請求項3】
請求項2において、凹凸を有するパタン基板が、アスペクト比を10〜20とする溝を有する塗布型無機シリカ系被膜。
【請求項4】
請求項2又は3において、本焼成が、400℃乃至1000℃の間の温度で実施される塗布型無機シリカ系被膜。
【請求項5】
基板上に、請求項2乃至4の何れかに記載される塗布型無機シリカ系被膜が形成されてなる電子部品。

【公開番号】特開2010−93111(P2010−93111A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262719(P2008−262719)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】