説明

塗布方法及び流し掛け式塗布装置

本発明は、少なくとも2つの塗布媒体を走行中の帯材殊に紙ウエブ又は厚紙ウエブに、少なくとも2つのノズルから成るノズル装置を有する流し掛け式塗布装置によって同時に塗布するための方法であって、第1のノズルを介して第1の塗布媒体を供給し、かつ第2のノズルを介して第2の塗布媒体を供給し、この場合に両方の塗布媒体を通常運転中には重力に基づき1つの多層塗布流下膜の形で走行中の帯材上に供給し、かつ準備運転中には媒体流出装置によって帯材への塗布媒体の塗布を遮断する形式のものに関する。この場合に、準備運転時には、媒体流出装置又はノズル装置又は殊に旋回可能な案内プレートを第1の位置へ移し、該第1の位置では、第1の塗布媒体のみを、ノズル装置の第1のノズルから媒体流出装置に到達させ、次いで該媒体流出装置に受け取られている第1の塗布媒体を、殊に第1の閉じた回路及び該回路内に含まれる第1の作業容器を介して、第1のノズルに戻し、かつ第2の塗布媒体を、バイパスを介して第2のノズルから直接に導出し、若しくは第2の閉回路及び該閉回路内に含まれる第2の作業容器を介して第2のノズルに戻すようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの塗布媒体を走行中の帯材、つまり帯状材料又は材料ウエブ、殊に紙ウエブ又は厚紙ウエブに、少なくとも2つのノズルから成るノズル装置を有する流し掛け式塗布装置によって同時に塗布するための方法であって、前記第1のノズルを介して前記第1の塗布媒体を供給し、かつ前記第2のノズルを介して前記第2の塗布媒体を供給し、この場合に前記両方の塗布媒体、つまり前記すべての塗布媒体を通常運転時には重力に基づき1つの多層塗布流下膜として前記走行中の帯材上に供給し、かつ準備運転時には媒体流出装置によって前記帯材への前記塗布媒体の塗布を遮断又は中断する形式のものに関する。さらに本発明は、本発明に基づく塗布方法を実施するため、少なくとも2つの塗布媒体を走行中の帯材、殊に紙ウエブ又は厚紙ウエブに同時に塗布するための流し掛け式塗布装置であって、該流し掛け式塗布装置は、1つのノズル装置を備えており、該ノズル装置は、前記第1の塗布媒体の供給のための第1の少なくとも1つのノズル及び前記第2の塗布媒体の供給のための第2の少なくとも1つのノズルを含んでおり、前記両方又はすべての塗布媒体は、通常運転時に重力に基づき1つの多層塗布流下膜を成して前記走行中の帯材上に供給されるようになっており、前記流し掛け式塗布装置にはさらに、準備運転時に前記帯材上への前記塗布媒体の塗布の遮断又は中断のための媒体流出装置を備えてある形式にものに関する。
【0002】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19735980A1号明細書により、移動可能な1つの捕集シャーレを有する流し掛け式塗布装置が公知であり、この場合には捕集シャーレは、塗布の遮断又は中断のためにノズル装置と塗布すべき帯材との間で移動又は運動させられるようになっている。塗布は、唯一の塗布媒体を用いて行われ、このためにノズル装置は下側の1つのノズルを備えている。捕集シャーレは、塗布段階への移行に際して塗布媒体を捕集シャーレから帯材へ到達させないために、水平線に対して傾けられた1つの底部を有している。
【0003】
国際公開第2005/059250A1号パンフレットに開示の流し掛け式塗布装置においては、走行される帯材は、下側の2つのノズルを含む1つのノズル装置により、互いに異なる媒体から成る互いに分離された2つの塗布膜を用いて塗布されるようになっている。
【0004】
本発明の課題は、冒頭に述べた形式の塗布方法並びに流し掛け式塗布装置を改善して、塗布媒体の損失を最小限に減少することである。
【0005】
上記課題を解決するために本発明に基づく塗布方法によれば、準備運転時には、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートを第1の位置へ移し、該第1の位置では、専ら第1の塗布媒体のみを、ノズル装置の第1のノズルから媒体流出装置に到達させ、次いで該媒体流出装置に受け取られている第1の塗布媒体を、殊に第1の閉じた回路(閉回路)及び該回路内に含まれる第1の作業容器を介して、第1のノズルに戻し、かつ第2の塗布媒体を、直接に第2のノズルからバイパスを介して送り出し又は導き出し、つまり導出し、若しくは第2の閉じた回路(閉回路)及び該回路内に含まれる第2の作業容器を介して第2のノズルに戻すようになっている。
【0006】
上記構成により、準備運転時には、互いに異なる複数の塗布媒体の混合を避けることができ、その結果、該塗布媒体を再び塗布過程に用いることができ、このために各塗布媒体は、互いに分離された各回路(循環回路)を介して所定のノズルに戻されるようになっている。
【0007】
本発明の塗布方法の有利な実施態様によれば、少なくとも2つの槽(媒体受け)に区分けされた1つの媒体流出装置を用い、準備運転時には、帯材への塗布媒体の塗布の開始の直前に、バイパスを閉じ、かつ媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートを第1の位置から第2の位置へ移すように又は調節するようにし、この場合に、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートが第1の位置を占めている状態では、専ら第1の塗布媒体のみを、第1の槽に到達させ、かつ、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートが第2の位置を占めている状態、並びにバイパスが閉じられている状態では、すべての塗布媒体を、第1並びに第2のノズル(又はすべてのノズル)により供給されて形成された1つの多層塗布流下膜の形で第2の槽にのみ到達させるようになっている。
【0008】
有利な別の実施態様によれば、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートが第2の位置を占めている状態で、つまり、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートを第2の位置に移している状態で、媒体流出装置の第1の槽内に残留している第1の塗布媒体は、第1の閉じた回路を形成する第1の作業容器内に戻される。
【0009】
本発明の実施態様によれば、媒体流出装置又は前記ノズル装置又は前記案内プレートが第2の位置を占めている状態では、つまり、媒体流出装置又は前記ノズル装置又は前記案内プレートを第2の位置に移している状態では、媒体流出装置の第2の槽内に達している塗布媒体は導出又は排出され、殊に通路又は管路又は残留塗布媒体容器又は類似のものを用いて導出又は排出される。
【0010】
帯材への塗布媒体の塗布又は塗装又はコーティングの開始のために、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートは、多層塗布流下膜を走行中の帯材上に到達できるように、該媒体流出装置又は該ノズル装置又は該案内プレートにより帯材上への通路(塗布媒体供給経路又は多層塗布流下膜流路)を開放する運転位置へ移される。
【0011】
有利な別の実施態様によれば、ノズル装置として、水平線に対して下方へ傾斜された、つまり下り勾配の上側の面を有するノズル装置を用い、前記面に両方のノズル若しくはすべてのノズルを開口させてある。つまり、有利には上方に向かって開口するノズルを用い、このような構成により、各回路において永続的若しくは連続的な空気抜き作用(脱気作用)を生ぜしめるようになっている。
【0012】
さらに、上記課題を解決するために流し掛け式塗布装置の本発明に基づく構成によれば、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートは、準備運転時には、専ら第1の塗布媒体のみを、ノズル装置の第1のノズルから媒体流出装置に到達させるための第1の位置へ移されるようになっており、媒体流出装置内に受け取られる第1の塗布媒体(又は1つの塗布媒体)は、第1の閉じた回路(閉回路)及び該回路内に含まれる第1の作業容器を介して第1のノズルに戻されるようになっているのに対して、第2の塗布媒体(又は別の塗布媒体)は、バイパスを介して第2のノズルから直接に送り出され、又は導き出され、若しくはさらに第2の閉じた回路(閉回路)及び該回路内に含まれる第2の作業容器を介して、第2のノズルに戻されるようになっている。
【0013】
本発明の塗布装置の有利な実施態様によれば、媒体流出装置は、少なくとも2つの槽に区分けされ、つまり、少なくとも2つの槽に仕切られ又は分割されており、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートは、準備運転時には、第1の位置内へのほかに第2の位置へも移されるようになっており、この場合に、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートが第1の位置を占めている状態では、専ら第1の塗布媒体のみが、第1の槽に到達するようになっており、かつ媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートが第2の位置を占めている状態で、かつバイパスが閉じられている状態では、両方又はすべての塗布媒体は、第1並びに第2のノズルにより供給されて形成された1つの多層塗布流下膜を成して、第2の槽にのみ到達するようになっている。
【0014】
有利な別の実施態様によれば、流し掛け式塗布装置は、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートが第2の位置を占めている状態で、第1の槽内に残留している第1の塗布媒体を第1の作業容器内に戻すための手段を含んでいる。
【0015】
有利な別の実施態様によれば、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートが第2の位置を占めている状態で、第2の槽内に到達している塗布媒体を、殊に通路又は残留塗布媒体容器又は類似のものにより導出又は排出する手段も設けられている。
【0016】
通常運転のために、つまり、走行する帯材への塗布媒体の塗布のために、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートは、多層塗布流下膜を走行中の帯材上に到達させ得るように、すなわち媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートが帯材上への多層塗布流下膜の垂下を妨げない位置、つまり、帯材上への通路が媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートにより開放される運転位置へ移されるようになっている。
【0017】
本発明の実施態様によれば、ノズル装置は、水平線を基準として下方に傾斜された上側の面、つまり下り勾配の上側の面を有しており、該上側の面は、両方又はすべてのノズルの開口部を備えている。
【0018】
本発明に基づく上記構成により、塗布媒体の損失は最小限に減少される。準備運転時には、1つの塗布媒体、例えば第1の塗料又は顔料又はインキは、槽形(トレー形又はパン形)の媒体流出装置を介して完全に循環され、かつ別の塗布媒体、例えば第2の塗料又は顔料又はインキは第2の所定のノズル内で循環される。第2の塗布媒体は、有利には断面の大きなバイパスを用いて、系内でかつ殊にスリットを介して上方へ開口する第2のノズルにより循環されてよい。このような循環回路内では、永続的若しくは連続的な空気抜き作用が生じるようになっている。
【0019】
塗布段階の開始の直前、つまり帯材への塗布開始の直前に、バイパス弁(バイパス用の弁)は閉じられ、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートは、準備運転時の第1の位置から第2の位置へ移され又は移動される。バイパス弁を閉じた後に、残留空気並びにノズル部材又はノズル本体のスリット内にまだ存在する空気は上方に逃がされ、このために短い時間しか必要とされない。媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートが第2の位置を占めている状態では、所定の塗布媒体又は混合された塗布顔料(塗料)は、第2の槽内に受け取られ、次いで該第2の槽から、例えば通路又は残留塗布媒体容器又は類似のものを用いて導出されるようになっている。この間に、第1の槽内に残留する第1の塗布媒体は、第2の塗布媒体と混合させないため、若しくは第2の塗布媒体によって汚されないために、第1の作業容器内に戻されるようになっている。本来の塗布段階の開始、又は塗布媒体の本来の塗り作業の開始のために、媒体流出装置又はノズル装置又は案内プレートは、もとの位置に再び戻される。
【0020】
次に本発明を図示の実施例に基づき詳細に説明する
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】流し掛け式塗布装置の実施形態の部分的に破断して示す概略図である。
【図2】図1の流し掛け式塗布装置を、媒体流出装置が第1の位置を占めている準備運転状態で示す部分的に破断した概略図である。
【図3】図2の流し掛け式塗布装置のノズル装置のA−A線に沿った概略的な断面図である。
【図4】流し掛け式塗布装置の、媒体流出装置が第2の位置を占めている準備運転状態での部分断面図である。
【図5】流し掛け式塗布装置の不動の媒体流出装置及び移動可能なノズル装置を備える実施形態の部分的に破断して示す概略図である。
【図6】流し掛け式塗布装置の不動の媒体流出装置、不動のノズル装置及び旋回可能な案内プレートを備える実施形態の部分的に破断して示す概略図である。
【0022】
図1乃至図4には、図1に示す走行中の帯材16上に少なくとも2つの塗布媒体12,14を同時に塗布するための流し掛け式塗布装置10の1つの実施形態を概略的に示してあり、この場合に帯材(帯状材料又は帯状素材)は、殊に繊維製帯材(繊維製ウエブ又は帯状繊維製品)、例えば紙ウエブ(紙帯材)若しくは厚紙ウエブである。
【0023】
図1に示してあるように、帯材16は、帯材走行方向Lで2つの案内ローラ18,20を介して案内されて、実施形態では該両方の案内ローラ18,20間の領域で流し掛け式塗布装置10を用いて適切に塗布されるようになっている。流し掛け式塗布装置10はノズル装置22を含んでおり、該ノズル装置は少なくとも、第1の塗布媒体12の放出(放射又は噴射)のための第1のノズル24、及び第2の塗布媒体14の放出(放射又は噴射)のための第2のノズル26を備えている。
【0024】
図1に示してあるように、両方の塗布媒体12,14は、通常運転中には重力に基づき多層塗布流下膜28の形で走行中の材料16上に与えられるようになっている。
【0025】
流し掛け式塗布装置10はさらに、図2乃至図4に示してあるように、準備運転中(塗布開始前作動状態)又はスタンバイ状態(standby state)における帯材16上への塗布媒体の塗布を遮断又は中断するための槽状の移動可能な媒体流出装置30を有している。
【0026】
塗布媒体の塗布を遮断又は中断時に媒体を塗布媒体供給路から導出又は排出する媒体流出装置30は、図1では後退させられた運転位置を占めていて、帯材16上への通路(塗布媒体供給経路又は多層塗布流下膜流路)を開放しており、その結果、多層塗布流下膜28は、申し分なく、つまり媒体流出装置によって妨げられることなしに、走行中の帯材16上に到達できるようになっている。
【0027】
ノズル装置22は、水平線を基準として下り勾配の上側の面32を有しており、該面に両方のノズル24,26は開口している。この場合にノズル12,14は相互に所定の間隔を置いて配置されている。ノズル装置の傾斜された上側の面32の、帯材16に向けられた側の端部は、面取りされており、該端部から、形成すべき多層塗布流下膜28は重力に基づき垂直に下方へ流下するようになっている。
【0028】
準備運転に際して(図2乃至図4、参照)、媒体流出装置30は、図2に示す第1の位置へ移動させられ、該位置では第1の塗布媒体12のみが第1のノズル24からノズル装置22を介して媒体流出装置30内に達しており、媒体流出装置30内に受容(捕集)された第1の塗布媒体12は、有利な実施態様では、閉じた第1の回路36を形成する第1の作業装置(作業ステーション)の第1の作業容器34を介して第1のノズル24へ戻されるようになっているのに対して、第2の塗布媒体14は少なくとも1つのバイパス38,40を介して、第2のノズル26から直接に取り出されて、閉じた第2の回路44を形成する第2の作業装置(作業ステーション)の第2の作業容器42を介して第2のノズルへ戻されるようになっている(図2、参照)。
【0029】
図3は、流し掛け式塗布装置10のノズル装置22を、該ノズル装置に含まれるバイパス38,40と一緒に、図2の線A−Aに沿った断面で概略的に示している。図3に示してあるように、第2のノズル26は、両方の端部でそれぞれ1つのバイパス38,40に接続されており、該バイパスを介して第2の塗布媒体14が第2の作業容器42に送られ、該第2の作業容器から、閉じた第2の回路44を形成する殊に下側の少なくとも1つの供給部50を介して再び第2のノズル26に戻されるようになっている。バイパス38,40内にはそれぞれ1つのバイパス弁52,54を設けてあってよいものである。
【0030】
殊に図1、図2及び図4に示してあるように、媒体流出装置30は、殊にトレー形又はパン形の少なくとも2つの槽46,48に分割されていて、図2乃至図4に示す準備運転又はスタンバイ状態(待機状態)では、図2に示す第1の位置へのほかに、図4に示す第2の位置へも移動できるようになっている。この場合に、第1の位置(図2)を占める媒体流出装置30において、第1の塗布媒体12のみが第1の槽(流出部)46に達するのに対して、媒体流出装置30が第2の位置(図4)を占め、かつバイパス38,40が弁52,54を介して閉じられる場合には、塗布媒体は、第1及び第2のノズル24,26を介して供給される多層塗布流下膜28の形で第2の槽46内にのみに達するようになっている。
【0031】
図4に示してあるように、第2の位置を占める媒体流出装置30において、第1の槽46内に受容されている第1の塗布媒体12を第1の作業容器34内へ戻すための手段、つまり戻し手段56が設けられているとよい。さらに、第2の位置を占める媒体流出装置30において、第2の槽48内に到達している塗布媒体12,14を通路又は類似のものにより導出又は排出する手段、つまり導出手段58が設けられているとよい。
【0032】
さらに媒体流出装置30は、図1に示す運転位置(作動位置)へ移動して、塗布装置から帯材16への通路を開放するようになっており、これによって多層塗布流下膜28は、妨げられることなく帯材16上に達するようになっている。
【0033】
図1において媒体流出装置30は、後退させられた位置で示してあるのに対して、図2乃至図4では、流し掛け式塗布装置は準備運転状態又はスタンバイ状態で示してあり、該準備運転状態又はスタンバイ状態では媒体流出装置30は第1の位置(図2及び図3)若しくは第2の位置(図4)を占めている。
【0034】
図4に示してあるように、多層塗布流下膜28はノズル装置22から出発して、特別な案内なしに重力に基づき鉛直に下方へ流れて第2の槽48に達するようになっている。しかしながら原理的に、多層塗布流下膜が案内部材、例えば移動式又は旋回式の案内薄板又は反らせ板或いは類似のものを介して第2の槽48内に導かれるような実施形態も考えられ、案内部材は通常運転に際して、帯材16への通路を開放するために、該通路から離れる方向に移動させられ又は離反旋回させられるようになっている。このような実施形態では、媒体流出装置30は通常運転のために媒体流出装置の第2の位置からさらに後退させられなくてすみ、つまり、上記案内部材を後退移動又は離反旋回させるだけでよい。
【0035】
図1に示してあるように、両方のノズル24,26は上方に向かって開かれ、つまり開口している。したがって通常運転時には、複数の塗布媒体は、傾斜された上側の面32に沿って下方へ流れて、面32から剥離した後に、帯材16上へ垂れ流れる多層塗布流下膜28を形成するようになっている。両方の塗布媒体12,14は少なくともほぼ同一であり、或いは互いに異なっていてよいものである。塗布媒体若しくはノズルの数に応じて多層塗布流下膜28により、2つの層若しくはそれよりも多い数の層が帯材16上に形成される。
【0036】
帯材への塗布開始の直前に、バイパス用の弁52,54(図3)は閉じられ、媒体流出装置30は、準備運転時の第2図に示す第1の位置から第2の位置へ移動させられる。
【0037】
バイパス弁38,40を閉じた後には、残留空気並びにノズル部材の、上側の面32に開口するスリット内にまだ存在する空気は上方に逃がされる。このためにはわずかな時間しか必要とされないのに対して、混合された塗布媒体又は混合された塗布顔料は、第2の位置を占める媒体流出装置30の第2の槽48によって捕集され、つまり受け取られるようになっている。この間に、第1の槽46内に受容されてまだ残されている第1の塗布媒体12は、第1の作業容器34内に戻されるようになっている。第2の槽48内に達している混合された塗布媒体12,14は、通路若しくは類似のものにより排出され、このために、例えば1分よりも少ない短い時間しか必要とされない。次いで、帯材16上への本来の塗布開始のために、媒体流出装置30はさらに後退させられ、若しくは前に述べた案内部材は後退又は離反旋回させられる。
【0038】
流し掛け式塗布装置10は、殊に作動遮断時又は作動中断時には、つまり始動の前、帯材の裂断の後、若しくは加速等の際には、前述の準備運転状態で作動(運転)される。
【0039】
従来の流し掛け式塗布装置においては、混合される塗布媒体にとって長い時間、例えば部分的に5分乃至30分にわたって継続される循環運転を必要としているのに対して、混合される塗布媒体のためのこのような循環運転は本発明では不要になっている。従来技術とは異なり、各媒体のための、準備運転状態では互いに分離される循環回路を与えてあり、このような構成により、媒体は再び利用され、その結果、塗布媒体の損失は最小に減らされる。
【0040】
図5には、別の実施形態の流し掛け式塗布装置10を部分的に破断して概略的に示してあり、該流し掛け式塗布装置10は、不動(定置式)の媒体流出装置30及び移動可能なノズル装置22を備えている。図5に示してあるように、該実施形態においては、ノズル装置22若しくはノズルヘッドが適切に移動させられるようになっている。
【0041】
図6には、さらに別の実施形態の流し掛け式塗布装置10を部分的に破断して概略的に示してあり、該流し掛け式塗布装置10は、不動の媒体流出装置30、不動のノズル装置22、及び旋回可能な案内プレート60を備えており、該案内プレートは、図示の実施形態では薄板若しくは類似のものから形成されていて、案内薄板又は案内フラップとも称される。この場合には、媒体流出装置30若しくはノズル装置22の代わりに案内プレート60を適切に作動(調節)若しくは旋回させるようになっている。
【符号の説明】
【0042】
10 流し掛け式塗布装置、 12,14 塗布媒体、 16 帯材、 18,20 案内ローラ、 22 ノズル装置、 24,26 ノズル、 28 多層塗布流下膜、 30 媒体流出装置、 32 面、 34 作業容器、 36 回路、 38,40 バイパス、 42 作業容器、 44 回路、 46,48 槽、 50 供給部、 52,54 バイパス弁、 60 案内プレート、 L 帯材走行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの塗布媒体(12,14)を走行中の帯材(16)又は紙ウエブ又は厚紙ウエブに、少なくとも2つのノズル(24,26)から成るノズル装置(22)を有する流し掛け式塗布装置(10)によって同時に塗布するための方法であって、前記第1のノズル(24)を介して前記第1の塗布媒体(12)を供給し、かつ前記第2のノズル(26)を介して前記第2の塗布媒体(14)を供給するようになっており、前記両方の塗布媒体(12,14)を通常運転中には重力に基づき1つの多層塗布流下膜(28)の形で前記走行中の帯材(16)又は紙ウエブ又は厚紙ウエブ上に供給し、かつ準備運転中には媒体流出装置(30)によって前記帯材(16)への前記塗布媒体の塗布を遮断する形式のものにおいて、準備運転時には、前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は殊に旋回可能な案内プレート(60)を第1の位置へ移し、該第1の位置では、前記第1の塗布媒体(12)のみを、前記ノズル装置(22)の前記第1のノズル(24)から前記媒体流出装置(30)に到達させ、次いで該媒体流出装置(30)に受け取られている前記第1の塗布媒体(12)を、殊に第1の閉じた回路(30)及び該回路内に含まれる第1の作業容器(34)を介して、前記第1のノズル(24)に戻し、かつ前記第2の塗布媒体(14)を、直接に前記第2のノズル(26)から少なくとも1つのバイパス(38,40)を介して導出し、若しくは第2の閉じた回路(44)及び該回路内に含まれる第2の作業容器(42)を介して前記第2のノズル(26)に戻すことを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
少なくとも2つの槽(46,48)に区分けされた1つの前記媒体流出装置(30)を用い、準備運転時において、前記帯材(16)への前記塗布媒体の塗布の開始の直前に、前記バイパス(38,40)を閉じ、かつ前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)を前記第1の位置から第2の位置へ移すようにし、前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)が前記第1の位置を占めている状態では、前記第1の塗布媒体(12)のみを、前記第1の槽(46)に到達させ、かつ、前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)が前記第2の位置を占めている状態、並びに前記バイパス(38,40)が閉じられている状態では、前記塗布媒体を、前記第1並びに第2のノズル(24,26)により供給されて形成される1つの多層塗布流下膜(28)の形で前記第2の槽(48)にのみ到達させる請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)が前記第2の位置を占めている状態で、前記第1の槽(46)内に残留している前記第1の塗布媒体(12)を前記第1の作業容器(34)内に戻す請求項1又は2に記載の塗布方法。
【請求項4】
前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)が前記第2の位置を占めている状態で、前記第2の槽(48)内に達している前記塗布媒体(12,14)は、殊に通路又は残留塗布媒体容器又は類似のものを用いて導出される請求項1から3のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項5】
前記帯材(16)への前記塗布媒体の塗布のために、前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)を、前記帯材(16)上への通路が前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)により開放される運転位置へ移し、その結果、前記多層塗布流下膜(28)を前記走行中の帯材(16)上に到達させる請求項1から4のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項6】
前記ノズル装置として、水平線を基準として下方へ傾斜された上側の面(32)を有するノズル装置(22)を用い、前記面(32)に前記両方のノズル(24,26)を開口させてある請求項1から5のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項7】
少なくとも2つの塗布媒体(12,14)を走行中の帯材(16)又は紙ウエブ又は厚紙ウエブに、殊に請求項1から5のいずれか1項に記載の塗布方法により同時に塗布するための流し掛け式塗布装置(10)であって、該流し掛け式塗布装置(10)は、ノズル装置(22)を備えており、該ノズル装置は、前記第1の塗布媒体(12)の供給のための第1の少なくとも1つのノズル(24)及び前記第2の塗布媒体(14)の供給のための第2の少なくとも1つのノズル(26)を含んでおり、前記両方の塗布媒体(12,14)は、通常運転時に重力に基づき1つの多層塗布流下膜(28)の形で前記走行中の帯材(16)上に供給されるようになっており、さらに、準備運転時に前記帯材上への前記塗布媒体の塗布の遮断のための媒体流出装置(30)を備えている形式のものにおいて、
前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は殊に旋回可能な案内プレート(60)は、準備運転時には、前記第1の塗布媒体(12)のみを、前記ノズル装置(22)の前記第1のノズル(24)から前記媒体流出装置(30)に到達させるための第1の位置へ移されるようになっており、前記媒体流出装置(30)内に受け取られる前記第1の塗布媒体(12)は、第1の閉じた回路(36)及び該回路内に含まれる第1の作業容器(34)を介して前記第1のノズル(24)に戻されるようになっているのに対して、前記第2の塗布媒体(14)は、少なくとも1つのバイパス(38,40)を介して前記第2のノズル(26)から直接に送り出されるようになっており、又はさらに第2の閉じた回路(44)及び該回路内に含まれる第2の作業容器(42)を介して、前記第2のノズル(26)に戻されるようになっていることを特徴とする流し掛け式塗布装置。
【請求項8】
前記媒体流出装置(30)は、少なくとも2つの槽(46,48)に区分けされており、前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)は、準備運転時には、第1の位置内へのほかに第2の位置へも移されるようになっており、この場合に、前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)が前記第1の位置を占めている状態で、前記第1の塗布媒体(12)のみが、前記第1の槽(46)に到達するようになっており、かつ、前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)が前記第2の位置を占めている状態、並びに前記バイパス(38,40)が閉じられている状態で、前記塗布媒体は、前記第1並びに第2のノズル(24,26)により供給されて形成される1つの多層塗布流下膜(28)の形で前記第2の槽(48)にのみ到達するようになっている請求項7に記載の流し掛け式塗布装置。
【請求項9】
前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)が前記第2の位置を占めている状態で、前記第1の槽(46)内に残留している前記第1の塗布媒体(12)を前記第1の作業容器(34)内に戻すための手段(56)を含んでいる請求項7又は8に記載の流し掛け式塗布装置。
【請求項10】
前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)が前記第2の位置を占めている状態で、前記第2の槽(48)内に到達している前記塗布媒体(12,14)は、殊に通路又は残留塗布媒体容器又は類似のものを用いて導出されるようになっている請求項7から9のいずれか1項に記載の流し掛け式塗布装置。
【請求項11】
前記帯材(16)への前記塗布媒体の塗布のためには、前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)は、前記多層塗布流下膜(28)を走行中の帯材(16)上に到達させるために、該帯材(16)上への通路が前記媒体流出装置(30)又は前記ノズル装置(22)又は前記案内プレート(60)により開放される運転位置へ移されるようになっている請求項7から10のいずれか1項に記載の流し掛け式塗布装置。
【請求項12】
前記ノズル装置(22)は、水平線を基準として下方に傾斜されていて前記両方のノズル(24,26)が開口する上側の面(32)を有している請求項7から11のいずれか1項に記載の流し掛け式塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−531223(P2010−531223A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513852(P2010−513852)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057664
【国際公開番号】WO2009/000715
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(506408818)フォイト パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (52)
【氏名又は名称原語表記】VOITH PATENT GmbH
【住所又は居所原語表記】St. Poeltener Str. 43, D−89522 Heidenheim, Germany
【Fターム(参考)】