説明

塗布装置及び塗布方法

【課題】 液溜まりを被塗工材で覆うとともに超音波振動を与えることにより被塗工材に対する塗布液の塗布が均一に安定して行える塗布装置及び塗布方法を得る。
【解決手段】
被塗工材5を塗布ロール1と堰2に接し走行するように配置して液溜まり3を覆い、また、塗布装置を構成するいずれかの個体部分に、液溜まり3を構成する個体部分と塗工液4の界面に振動運動を発現させる超音波振動子を連結し、液溜まり3を構成する個体部分に超音波振動を与えて前記個体部分を超音波振動させることにより、前記個体部分と塗工液4の界面に微細振動を与えつつ塗工液4を被塗工材5に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布装置に係り、回転する塗布ロールで各種の塗布液をプラスチックフィルム、金属薄板、紙、繊維、ゴム等の帯状で走行する被塗工材に塗布する塗布装置および塗布方法に関する。
【0002】
特に感光材料や液晶材料などの光学系材料の製造、磁気テープ、感圧記録材料や熱転写材料などの記録材料の製造、太陽電池や燃料電池などの電池材料、インクジェットプリンターや電子機器部材などに使用される複合材料の製造等々に係わる塗布装置および塗布方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、連続走行している各種の被塗工材に塗布液を塗布する装置として、様々な方式が開発されている。これらの塗布装置の中で塗布ロールを使用した塗布装置、特にバーコーターやワイヤーバーコーターなどと呼称される比較的直径の小さな各種のロールを使用した塗布装置が開発され使用されている。
【0004】
また、上述の塗布装置を使用した塗布方法としては、例えばワイヤーバーと被塗工材の接触直前に液溜まりを形成し塗布液をオーバーフローさせながら塗布する方法(例えば、特許文献1参照。)、ワイヤーバーと被塗工材の接触直前の液溜まり内に整流板を配設したバー塗布方法(例えば、特許文献2参照。)、ワイヤーバーとプレンバーの間に液溜まりを作り被塗工材を塗布するワイヤーバー塗工装置(例えば、特許文献3参照。)、バーと被塗工材のラップ角度やバーの受け台の角度を工夫した塗布方法(例えば、特許文献4参照。)や液溜めの堰の高さで塗布液のオーバーフロー量を最少にしたワイヤーバーコーターによる光学補償シートの製造方法(例えば、特許文献5参照。)などが良く知られている。
【特許文献1】特公昭58−4589号公報
【特許文献2】特公昭59−123568号公報
【特許文献3】特開平8−84953号公報
【特許文献4】特開平9−201563号公報
【特許文献5】特開2003−33702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の塗布装置および塗布方法は、ワイヤーバーの塗布直前で液溜まりを形成して送液量を低減しながら、液溜まりを安定化させるものであるが、送液量が少なくなると液溜まりへ供給する塗布液の循環が低下して滞留が起こり、塗布液組成物の分離や析出、凝集や濃度むらなどが発生し、被塗工材の塗布層に厚みむらやスジなどを発生させる原因となるといった問題がある。
【0006】
また、バーコーターなどの塗布ロールによる塗布装置では、被塗工材に塗布液のメニスカス部を作用させることを特徴としているが、走行する被塗工材に同伴する空気の流入などによりメニスカス部が不安定となって液溜まりに渦流や環流が起こり、塗布故障が生じることがあるため、これを防止するために堰を配置して恒常的な液溜まりを維持する工夫がなされている。しかし、満足できるものではなく、塗布条件の要求が高度化するにつれて、液溜まりの更なる安定性が要求されている。
【0007】
更には近来、産業上の発展により、各種の高度な製品が開発されるに至り、塗布液組成や支持体に要求される塗布品質が一段と厳しくなり、相応して高度な塗布技術が要求されている。特に、塗布液の組成は複雑で高価となり、益々のロス減が要求され、塗布装置での塗布液の循環量の最少化、異物の発生や混入の抑制等が強く期待されている。
【0008】
本発明者等は、上記の問題を解決するべく試験研究を重ねた結果、塗布ロールによる塗布装置の特徴を生かし、液溜まりを被塗工材で覆い、超音波振動させることに着目し本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の目的は、液溜まりを被塗工材で覆うとともに超音波振動を与えることにより被塗工材に対する塗布液の塗布が均一に安定して行える塗布装置及び塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明は、塗布ロールと堰で挟むにようにして液溜まりが構成され、前記塗布ロールを回転させて液溜まりに供給された塗布液を被塗工材に塗布する塗布装置において、被塗工材を前記塗布ロールと前記堰に接し走行するように配置して前記液溜まりを覆い、また、塗布装置を構成するいずれかの個体部分に、前記液溜まりを構成する個体部分と前記塗工液の界面に振動運動を発現させる超音波振動子を連結したことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、前記超音波振動子は前記塗布ロールに連結されており、前記塗布ロールの軸方向に超音波振動を与える構造となっていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、堰と向かい合って液溜まりを構成する塗布ロールを回転させて被塗工材を前記塗布ロールと前記堰に接し走行させ、前記液溜まりに供給された塗布液を前記被塗工材に塗布する塗布方法であって、前記液溜まりを構成する個体部分に超音波振動を与えて前記個体部分を超音波振動させることにより、前記個体部分と前記塗工液の界面に微細振動を与えつつ前記塗工液を前記被塗工材に塗布することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の、前記超音波振動は前記塗布ロールに与えるものであり、前記超音波振動を与える方向は前記塗布ロールの軸方向であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の塗布装置によれば、被塗工材を塗布ロールと堰に接し走行するように配置して前記被塗工材で液溜まりを覆うので、被塗工材への塗布液のメニスカス部が無くなり、また、走行する被塗工材による空気の同伴を阻止できるので、従来のメニスカス部の不安定による渦流や環流の発生といった現象が無くなることから、被塗工材に対する塗布液の塗布を均一に安定して行うことができる。
【0015】
また、被塗工材が塗布ロールと堰に接して塗布ロールと堰に挟まれて形成する液溜まりを覆うので、液溜まりからのオーバーフローがなくなり、塗布液の循環量を最少化することができる。この結果、塗布液収容タンクや定量ポンプ等の送液装置を小型化することができ、全体として塗布装置の小型化が可能となる。
【0016】
さらに、前記のように液溜まりを被塗工材で覆うので、塗布液の溶媒の蒸散を防ぎ濃度変化を最少にすることができ、被塗工材の塗布層に厚みむらやスジなどの発生を防止することができる。
【0017】
さらに、塗布液に接する塗布装置のいずれかの個体部分に、前記個体部分と前記塗布液の界面に振動運動を発現させる超音波振動子を連結するので、この振動運動により前記個体部分との界面で塗布液に微細な乱流運動が起こり、塗布液が前記個体部分の壁面へ付着することや滞留することが防止され、塗布液の円滑な流動を得ることができる。また、前記個体部分と前記塗布液の界面に発現した振動運動は、液溜まりの塗布液に伝播して液溜まりの塗布液の流動を促すので、被塗工材の塗布層の厚みムラやスジなどの発生の原因となっていた液溜まりにおける塗布液の滞留が防止され、被塗工材に対する塗布液の塗布を均一に安定して行うことができる。
【0018】
さらに、塗布ロールと堰で挟むように形成された液溜まりの塗布液は超音波振動による塗布液の微細な振動運動によって堰と被塗工材との間に浸透し、堰と被塗工材との間の液体シールとなる。この液体シールにより、被塗工材で覆われた液溜まりへの空気や異物の進入を防ぐことができ、また、液体シールが潤滑効果を果たし、堰に接して走行する前記被塗工材の擦り傷発生を防止することができる。
【0019】
請求項2に記載の塗布装置によれば、請求項1に記載の、超音波振動子は塗布ロールに連結されており、前記塗布ロールの軸方向に超音波振動を与える構造となっているので、少なくとも前記塗布ロールに接する部分の塗布液の表面が一様に撹拌状態になって滞留しなくなり、前記塗布液の塗布を一様な厚みで均一に行うことができる。
【0020】
また、超音波振動は前記塗布ロールにだけ与えるから、塗布装置全体に超音波振動を与えるものに比べ超音波振動を確実に発生することができ、過大の気泡の発生や発熱といった事態は生じない。また、前記塗布ロールの支持構造は、前記塗布ロールの振動に影響を与える構造となっていないので、前記塗布ロールに安定した超音波振動の発現を得ることができる。
【0021】
請求項3に記載の塗布方法によれば、堰と向かい合って液溜まりを構成する塗布ロールを回転させて被塗工材を前記塗布ロールと前記堰に接し走行させるので、被塗工材への塗布液のメニスカス部が無くなり、また、走行する被塗工材による空気の同伴を阻止できるので、従来のメニスカス部の不安定による渦流や環流の発生といった現象が無くなることから、被塗工材に対する塗布液の塗布を均一に安定して行うことができる。
【0022】
また、塗布ロールと堰に接して塗布ロールと堰に挟まれて形成する液溜まりに接して走行する被塗工材が前記液溜まりを覆うことになるので、液溜まりからのオーバーフローがなくなり、塗布液の循環量を最少化することができ、また、塗布液の溶媒の蒸散を防ぎ濃度変化を最小にすることができ、被塗工材の塗布層に厚みむらやスジなどの発生を防止することができる。
【0023】
そして、前記液溜まりを構成する個体部分に超音波振動を与えて前記個体部分を超音波振動させることにより、前記個体部分と前記塗工液の界面に微細振動を与えつつ前記塗工液を前記被塗工材に塗布するので、この微細振動により前記個体部分との界面で塗布液に微細な乱流運動が起こり、塗布液が前記個体部分の壁面へ付着することや滞留することが防止され、塗布液の円滑な流動を得ることができる。また、前記個体部分と前記塗布液の界面に発現した微細振動は、液溜まりの塗布液に伝播して液溜まりの塗布液の流動を促すので、被塗工材の塗布層の厚みムラやスジなどの発生の原因となっていた液溜まりにおける塗布液の滞留が防止され、被塗工材に対する塗布液の塗布を均一に安定して行うことができる。
【0024】
さらに、塗布ロールと堰で挟むように形成された液溜まりの塗布液は超音波振動による塗布液の微細な振動運動によって堰と被塗工材との間に浸透し、堰と被塗工材との間の液体シールとなる。この液体シールにより、被塗工材で覆われた液溜まりへの空気や異物の進入を防ぐことができ、また、液体シールが潤滑効果を果たし、堰に接して走行する前記被塗工材の擦り傷発生を防止することができる。
【0025】
請求項4に記載の塗布方法によれば、請求項3に記載の、超音波振動は塗布ロールに与えるものであり、前記超音波振動を与える方向は前記塗布ロールの軸方向であるので、少なくとも前記塗布ロールに接する部分の塗布液の表面が一様に撹拌状態になって滞留しなくなり、前記塗布液の塗布を一様な厚みで均一に行うことができる。
【0026】
また、超音波振動は前記塗布ロールにだけ与えるから、塗布装置全体に超音波振動を与えるものに比べ超音波振動を確実に発生することができ、過大の気泡の発生や発熱といった事態は生じない。また、前記塗布ロールの支持構造は、前記塗布ロールの振動に影響を与える構造となっていないので、前記塗布ロールに安定した超音波振動の発現を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る塗布装置および塗布方法を実施するための最良の形態を、図面に示す実施例により詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明に係る塗布装置の実施の形態の第1例を示したもので、本例の塗布装置の要部概略縦断側面図である。
【0029】
本実施例の塗布装置は、塗布ロール1と堰2が対向して配置され、塗布ロール1と堰2で挟むようにして液溜まり3が形成されており、塗布ロール1により液溜まり3に供給された塗布液4を被塗工材5に塗布するようになっている。
【0030】
被塗工材5は、入口パスロール6と出口パスロール7にガイドされて、塗布ロール1と堰2に接し、堰2側から塗布ロール1側へ走行するように配置され、液溜まり3の上面開口部を覆うようになっている。被塗工材5としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートのようなプラスチックフィルム、各種の強化フィルム、蒸着フィルム、ステンレスやアルミのような金属箔、紙類、さらには繊維、合成皮革などの可撓性支持体のものがある。
【0031】
塗布ロール1は、支持部8により回転可能に支持されており、塗布ロール1は、その中心に渡された回転軸9に連結される回転駆動手段(図示省略)により、矢印方向に走行する被塗工材5と反対方向に回転するようになっている。また、塗布ロール1は走行する被塗工材5と同じ方向に回転することも可能で、塗布条件により選択できる。また、本例の塗布ロール1は、小径ロールにワイヤーを巻装したワイヤーバーが用いられているが、塗布条件に応じてフラットロール、刻印ロール、溝付きバーなど適宜選択可能となっている。
【0032】
塗布ロール1を支持する支持部8は、その上部に塗布ロール1を受ける受け溝10が形成されており、受け溝10に塗布ロール1の下側が嵌合した状態で受けられている。この支持部8の下端は基台11に固定され、そして、この基台11には、前記した堰2が対向するように固定されており、基台11に固定された堰2と支持部8との間には、前記した塗布ロール1と堰2で挟むようにして形成される液溜まり3に連通するスリット12が形成されている。
【0033】
スリット12を形成する堰2の壁面には、スリット12に供給される塗布液4の流速分布を均一化するマニホールド13が形成されている。また堰2の下部にはスリット12に連通する塗布液4の供給口14が接続されている。
【0034】
塗布液4は、塗布液収容タンク15に収容されており、定量ポンプ16により逐次一定量が配管17を経て供給口14に入り、マニホールド13で幅方向の流速分布が均一化され、スリット12を通り液溜まり3に送液されるようになっている。
【0035】
前記の塗布ロール1と共に液溜まり3を形成する堰2にあっては、被塗工材5が接する堰の上端面2aが扇状の凸曲面に形成されている。
【0036】
また、入口パスロール6と出口パスロール7にガイドされて、塗布ロール1と堰2に接し走行するように配置される被塗工材5にあっては、被塗工材5が塗布ロール1と堰2の上端面2aに接して走行する走行線Aを基準として、入口パスロール6にガイドされて堰2の上端面2aと接する被塗工材5のなす角度θは、0度から15度の範囲とすることが好ましい。この角度θを調節することにより、塗布液4が堰2からオーバーフローすることなく、かつ被塗工材5の表面に傷をつけるとこなく被塗工材5による液溜まり3の形成を強固に維持することができる。
【0037】
角度θは、塗布液の条件、塗布速度、被塗工材5の種類や厚さなどによって決定される。また、角度θが0度を下回ると、被塗工材5と堰2との間に空隙が生じてしまい、そこにメニスカス部が発生し、塗布故障の原因となるおそれがあり、また、角度θが15度を超えると、被塗工材5と堰2の前端面2aとの接触圧が高くなり、被塗工材5に擦り傷が発生するおそれがある。
【0038】
さらに、本例では、塗布装置を構成するいずれかの個体部分に、液溜まり3を構成する個体部分と塗工液4の界面に振動運動を発現させる超音波振動子18を連結している。
【0039】
本例では、支持部8に超音波振動を与えるホーン形の超音波振動子18が連結されている。超音波振動子18は超音波発信器19と電気ケーブル20で電気的に接続されている。
【0040】
本例では、マニホールド13が形成されていないより簡単な構造体である支持部8に超音波振動子18が連結されているが、超音波振動子18を連結する箇所はこれに限定されず、塗布液4に接する塗工装置の個体部分、塗布ロール1、堰2、支持部8、基台11のいずれであってもよく、塗布装置のうち構造が単純で、超音波が偏在せず効果的に伝播する個体部分が好ましい。
【0041】
次に、このような塗布装置による被塗工材5に対する塗布液4の塗布方法について説明する。塗布液収容タンク15に収容された塗布液4は、定量ポンプ16で一定量を逐次配管17を経て供給口14からスリット12を通り、液溜まり3に送液され、液溜まり3を覆っている被塗工材5に接するように密に満たされる。
【0042】
入口パスロール6と出口パスロール7にガイドされて、塗布ロール1と堰2に接し走行する被塗工材5は液溜まり3で塗布液4が塗布され、被塗工材5に塗布された塗布液4は塗布ロール1で所望の膜厚に計量されることにより被塗工材5に塗布層21が形成され、塗膜層21が形成された被塗工材5は、出口パスロール7に案内されて塗布装置を離れ次の工程に進む。
【0043】
このとき、被塗工材5は塗布ロール1と堰2に接し液溜まり3を覆いながら走行するので、被塗工材5への塗布液4のメニスカス部が無くなり、また、走行する被塗工材5による液溜まり3への空気の同伴を阻止できるので、従来のメニスカス部の不安定による渦流や環流の発生といった現象が無くなることから、被塗工材5に対する塗布液4の塗布を均一に安定して行う。
【0044】
また、被塗工材5が塗布ロール1と堰2に接して液溜まり3を覆うので、液溜まり3からのオーバーフローがなくなり、塗布液4の循環量を最少化する。
【0045】
さらに、液溜まり3を被塗工材5で覆うので、塗布液4の溶媒の蒸散を防ぎ濃度変化を最小にすることができ、被塗工材5の塗布層21に厚みむらやスジなどの発生を防止する。
【0046】
また、上記の動作は、塗布装置を構成するいずれかの個体部分、本例では支持部8に連結した超音波振動子18により、液溜まり3を構成する個体部分と塗工液4の界面に微細振動を与えながら行うので、塗布液4が個体部分の壁面へ付着することや滞留することが防止され、塗布液4の円滑な流動を得ることができ、また液溜まり3の塗布液4の流動を促すので、被塗工材5の塗布層21の厚みムラやスジなどの発生の原因となっていた液溜まり3における塗布液4の滞留が防止され、被塗工材5に対する塗布液4の塗布を均一に安定して行う。
【0047】
さらに、液溜まり3の塗布液4は超音波振動による塗布液4の微細な振動運動によって堰2と被塗工材5との間に浸透し、堰2と被塗工材5との間の液体シールとなり、この液体シールにより、被塗工材5で覆われた液溜まり3への空気や異物の進入を防ぐことができ、また、液体シールが潤滑効果を果たし、堰2に接して走行する被塗工材5の擦り傷発生を防止する。
【0048】
図2,図3は本発明に係る塗布装置の実施の形態の第2例を示したもので、図2は本例の塗布装置の要部概略縦断側面図、図3は要部概略一部切断正面図である。なお、第1例と同一の部分には同一符号を付している。
【0049】
本例は、前記の超音波振動子18は塗布ロール1に連結されており、塗布ロール1の軸方向に超音波振動を与える構造となっている。その他の構成は前記第1例と同様なので、第1例の説明を援用し、その説明を省略する。
【0050】
本例では、塗布ロール1は、その中心の回転軸9の両端が軸受22,23で回転自在に支持されている。塗布ロール1の回転軸9はモータ24の出力軸25の回転力が与えられて回転駆動されるようになっている。モータ24の出力軸25は軸受26で回転自在に支持されている。
【0051】
塗布ロール1の回転軸9の一端には、該塗布ロール1に超音波振動を与えるホーン形の超音波振動子18が接続されている。このため超音波振動子18は、塗布ロール1の回転軸9と一緒に回転するようになっている。本例の超音波振動子18は、塗布ロール1の回転中、連続して該塗布ロール1の軸方向に超音波振動を与える構造になっている。塗布ロール1の回転軸9と一緒に回転する超音波振動子18は、回転軸9に支持されたスリップリング27を介して固定側の超音波発信器19に電気ケーブル20で電気的に接続されている。
【0052】
塗布ロール1の回転軸9の他端には、超音波振動を遮断または減衰させる連結機構としてのカップリング28を介してモータ24の出力軸25が接続されている。カップリング28は、ポリエチレン等の非金属を介して接続される構造である。ポリエチレンをカップリング28の材料として用いる場合は、例えば厚さ5mmにして回転軸9とモータ24の出力軸25の間に挟んで固定することにより形成されている。カップリング28の材料は、この他に、例えば、テトラフルオロエチレン、ナイロン、塩化ビニール、ポリプロピレン等のプラスチック材料や、紙、木材、竹、布、皮革、合成繊維、合成皮革等の材料も使用することができる。
【0053】
また、塗布ロール1を支持する支持部8は、ステンレスや燐青銅などの金属で構成されても良いが、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂や超高分子ポリエチレンなど機械的構造材料に使用されるエンジニアリングプラスチックを使用するのがより好ましい。さらには、支持部8にプラスチック材料を使用することにより、塗布ロール1で発現した超音波振動は、支持部8から伝播しにくく減衰せず、塗布ロール1の超音波振動が高位に得られ、塗布ロール1と塗布液4との界面で微細な乱流が高まり、さらには、塗布ロール1と支持部8との間に塗布液4が入りやすく潤滑作用がより効果的となる。
【0054】
本例では、塗布ロール1の回転中、塗布ロール1に超音波振動子18により塗布ロール1の軸方向に,換言すれば塗布ロール1の長手方向に連続して超音波振動を与えるので、塗布ロール1の軸方向に一様な超音波振動を与えることができる。この結果、塗布ロール1の超音波振動により被塗工材5がその幅方向全体に一様に振動運動し、少なくとも被塗工材5に接する部分の塗布液4の表面が一様に攪拌状態になり、滞留しなくなるので、塗布液4の塗布を一様な厚みで均一に行うことができる。
【0055】
さらには、塗布ロール1の表面で直接超音波振動が起こるので、塗布ロール1が表面に凹凸のある溝付ロールや彫刻ロールなどである場合には、塗布ロール1の表面の凹部に微細な乱流が起こり塗布液4の滞留や固着がない。さらには、塗布ロール1と支持部8との間に形成された界面に超音波振動が伝播するので、塗布液4の潤滑も良くなり磨耗することが少なくなる。
【0056】
塗布ロール1の回転軸9と一緒に回転する超音波振動子18は、回転軸9に支持されたスリップリング27を介して超音波発信器19に電気的に接続されているので、塗布ロール1の回転軸9と一緒に回転する超音波振動子18に電気信号を支障なく与えることができる。
【0057】
塗布ロール1の回転軸9の他端には、超音波振動を遮断または減衰させるカップリング28を介してモータ24の出力軸25が接続されているので、塗布ロール1の超音波振動がモータ24の出力軸25から散逸することが防止され、塗布ロール1に安定した超音波振動の発現を得ることができる。また、超音波振動は塗布ロール1にだけ与えるから、超音波振動子18として従来に比べて小型のものを使用することができる。また、モータ24の出力軸25を塗布ロール1の回転軸9から切り離すカップリング28は、非金属を介して接続される構造であるので、カップリング28の機械的連結と超音波振動の遮断または減衰を良好に行うことができる。
【0058】
図4は本発明に係る塗布装置の実施の形態の第3例を示したもので、本例の塗布装置の要部概略縦断側面図である。なお、第1例と同一の部分には同一符号を付している。
【0059】
本例は、被塗工材5が、入口パスロール6と出口パスロール7にガイドされて、塗布ロール1と堰2に接し、塗布ロール1側から堰2側へ走行するように配置され、そして、堰2とともにスリット12を形成する支持部8の壁面に、スリット12に供給される塗布液4の流速分布を均一化するマニホールド13が形成され、また堰2の支持部8の下部にはスリット12に連通する塗布液4の供給口14が接続されている以外の構成は、前記第1例と同様であり、また、作用も第1例と同様なので、第1例の説明を援用し、その説明を省略する。
【実施例】
【0060】
[実施例1]
本発明に基づき図1において、塗布ロール1として直径8mmのSUS306ステンレスバーに0.1mm径のSUS細線を巻きつけた有効長300mmのワイヤーバーを使用した。支持部8は燐青銅で製作しワイヤーバーの両側をベアリングで位置決めし、ワイヤーバーの回転軸9にモータ24を連結して回転させた。堰2はSUS306を使用し、堰2の上端面2aを半径5mmの曲面に加工し、スリット12を1.0mmとし、被塗工材5が塗布ロール1と堰2の上端面2aに接して走行する走行線Aを基準として、入口パスロール6にガイドされて堰2の上端面2aと接する被塗工材5のなす角度θを0度に設定した。
【0061】
超音波振動子18を支持部8にネジ穴を開け連結し、別置の超音波発振器19(多賀電気製PS−250型出力28KHZ)から電気信号を送り支持部8を超音波振動させ、200mmのピンセットを支持部8の上に配設したワイヤーバーにあて、共振音の発生でワイヤーバーに現出した超音波振動を確認した。
【0062】
さらにオムロン製拡大顕微鏡倍率4900倍を使用し、ワイヤーバーの表面が超音波発生器の出力レベル大、中および小に対応して、0.3μm〜0.05μm、0.15μm〜0.01μm、0.5μm以下の数値を得た。
【0063】
透明な東レ製PETフイルム25μmを被塗工材5に使用し、塗布液4として市販のアサヒペン製シリコンアクリル樹脂黒色塗料を水で2倍希釈し塗布液収容タンク15に入れ、定量ポンプ16で送液し液溜まり3を満たし、堰2から塗布液4がオーバーフローしないように調節して塗布速度1m毎分で塗布した。ワイヤーバーを逆転方向に速度0.1m毎分で運転し超音波発信器19の出力を「大」に設定し、透明なPETフイルムを透して液溜まり3の様子を詳しく観察した。
【0064】
堰2とワイヤーバーが挟む液溜まり3を透明なPETフイルムを透して観察した結果、超音波発信器19の出力電源を入りおよび切りして支持部8に超音波振動を発現させた状態で液溜まり3の状態が異なることを見出した。超音波発信器19の電源を入れた状態では、電源を切った状態に比べ被塗工材5の堰2への接点が、被塗工材5の進行方向上流側に位置し、堰2の上端面2aが塗布液4の液膜で覆われている様子が確認された。
【0065】
また、電源を切りの状態で被塗工材5と堰2の接点は絶えず変化し、一方電源入りの状態での接点は、一直線に略安定している様子が確認された。さらには、液溜まり3の下流側に位置する被塗工材5とワイヤーバーとの接点でも同様に、電源入りでは直線的に安定した様子が確認された。電源を入りの状態で、塗布液4中に含まれる空気が、小さな気泡となって液溜まり3の上面に集合し、ワイヤーバーに絡むことなく堰2の両側にスムーズに流れる様子が確認された。一方、電源切りでは、気泡が液溜まり3に集まり両端への流れが悪くワイヤーバーに絡みつき滞留した。
【0066】
また、電源切りの状態では、塗布液4中の黒色の染料が液溜まり3に凝集し停滞する様子が見られ、流れも弱くワイヤーバーの直前で滞留が見られた。PETフイルムの塗布層に縦筋上の塗布ムラを認めた。一方、電源入りの状態では、染料の停滞も少なく染料槐が素早く動き回る様子が観察され両側にスムーズに排出されて、塗布層にも縦筋や尾引スジなどの塗布ムラは明らかに減少した。
【0067】
[実施例2]
本発明に基づき、他の実施例として図2、図3に示す塗布装置を使用した。小径塗布ロール1に溝付バーを用い、回転する溝付バーに超音波振動子18を連結して超音波振動を与える方法を適用した。
【0068】
溝付バーとして、深さ25μm、ピッチ0.1mm溝を刻印した有効長300mmの直径8mmのSUS306ステンレスバーを使用した。支持部8は超高分子ポリエチレンとし、溝付バーの両軸をボールベアリングで位置を決めた。溝付バーの回転軸9に鍋屋バイテック会社製カップリング(商品名:カプリコンリXGS、ガラス入りポリブチレンテレフタレート使用)を介してモーター24の出力軸25を連結し回転させた。堰2としてステンレスSUS306を使用し堰2の上端面2aを半径10mmの曲面に加工し、スリット12の幅を1.0mmに設定した。
【0069】
被塗工材5が塗布ロール1と堰2の上端面2aに接して走行する走行線Aを基準として、入口パスロール6にガイドされて堰2の上端面2aと接する被塗工材5のなす角度θを10度に設定した。
【0070】
別置の超音波発振器19(多賀電気製PS−250型出力28KHZ)から電気ケーブル20とスリップリング27を介して電気信号を送り、溝付バーの回転軸9に直結した超音波振動子18を励振し溝付バーに超音波振動を発現させた。溝付バーの表面に200mmのピンセットをあて、共振音の発生で溝付バーに現出した超音波振動を確認した。
【0071】
さらにオムロン製拡大顕微鏡倍率4900倍を使用し、溝付バーの表面が超音波発生器19の出力レベル大、中および小に対応し振動していることを振動変位測定で確認し、それぞれ、3μm〜0.8μm、1.5μm〜0.5μm、0.7μm〜0.1μmの数値を得た。
【0072】
実施例1に比べ、同じ出力電源レベルで本実施例の場合溝付バーに現出する超音波振動は大きく、高い振動変位を得た。
【0073】
透明な東レ製PETフイルム厚さ25μm幅300mmを使用し、塗布液4として市販のアサヒペン製シリコンアクリル樹脂黒色塗料を水で2倍希釈し、塗布液収容タンク15に入れて定量ポンプ16で送液し、液溜まり3が充満しかつ堰2から漏れ出さないよう調節して走行速度を1m毎分で塗布した。溝付バーを逆転および順転方向に速度0.1m毎分で運転し、透明なウエッブの上から溝付きバーと堰2に挟まれる液溜まり3の様子を実施例1と同様に詳しく観察した。
【0074】
超音波発信器19の出力電源を小のレベルに設定し、電源を切った時の状態と比較し詳しく視覚で観察した。被塗工材5の堰2への接点は、堰2の上端面2aから塗布液4が滲み出すことなく液膜で覆われ、被塗工材5の同伴空気の流入も安定した液体シールを形成している様子が確認された。また、電源切りの状態では、堰2の上端面2aでの被塗工材5の接点は移動し、一方、電源入りの状態での接点はほとんど動かず一直線に安定している様子が確認された。
【0075】
さらには、液溜まり3の下流側に位置する溝付きバーとの接点においても、電源切りで変化していた接点が、電源入りではほとんど動かず直線的に安定した様子が確認された。
【0076】
さらには、電源を入りの状態で塗布液4に含まれる空気が小さな気泡となって液溜まり3上面に集合する様子を液溜まり3を覆う透明なPETフイルムを透して観察した結果、中央付近から液溜まり3の両端へ滞留することなく流動する様子が確認された。一方、電源の切りでは、気泡の上面への流出が少なく、また気泡が液溜まり3で停滞や回流する様子が認められた。
【0077】
また、塗布液4中の黒色の染料が、電源切りの状態で液溜まり3に凝集し停滞する様子が見られ、流れが弱くワイヤーバーの直前で停滞する部分が見られ、フイルムの塗布層に縦筋上の塗布ムラが認められた。一方、電源入りの状態では、染料の停滞も少なく染料槐が素早く動き回る様子が観察されて、塗布層の縦筋や尾引スジなどの塗布ムラが減少し良好な面質が得られた。さらに、ワイヤーバーを逆転および順転0.1m毎分に設定し塗布速度を1m毎分から段階的に20m毎分まで増速し、並行して液溜まり3が維持されるよう定量ポンプ16の送液量を適宜増やし塗布状況を観察した。その結果、塗布速度の変化に容易に追従し、安定した液溜まり3の状態が得られ、微細な塗布液4の流動が全体にわたり良好な塗布面を得た。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る塗布装置の実施の形態の第1例を示す要部概略縦断側面図である。
【図2】本発明に係る塗布装置の実施の形態の第2例を示す要部概略縦断側面図である。
【図3】本発明に係る塗布装置の実施の形態の第2例を示す要部概略一部切断正面図である。
【図4】本発明に係る塗布装置の実施の形態の第3例を示す要部概略縦断側面図である。
【符号の説明】
【0079】
1 塗布ロール
2 堰
2a 堰の上端面
3 液溜まり
4 塗布液
5 被塗工材
6 入口パスロール
7 出口パスロール
8 支持部
9 回転軸
10 受け溝
11 基台
12 スリット
13 マニホールド
14 供給口
15 塗布液収容タンク
16 定量ポンプ
17 配管
18 超音波振動子
19 超音波発信器
20 電気ケーブル
21 塗布層
22,23 軸受
24 モータ
25 出力軸
26 軸受
27 スリップリング
28 カップリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布ロールと堰で挟むにようにして液溜まりが構成され、前記塗布ロールを回転させて液溜まりに供給された塗布液を被塗工材に塗布する塗布装置において、被塗工材を前記塗布ロールと前記堰に接し走行するように配置して前記液溜まりを覆い、また、塗布装置を構成するいずれかの個体部分に、前記液溜まりを構成する個体部分と前記塗工液の界面に振動運動を発現させる超音波振動子を連結したことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記超音波振動子は前記塗布ロールに連結されており、前記塗布ロールの軸方向に超音波振動を与える構造となっていることを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
堰と向かい合って液溜まりを構成する塗布ロールを回転させて被塗工材を前記塗布ロールと前記堰に接し走行させ、前記液溜まりに供給された塗布液を前記被塗工材に塗布する塗布方法であって、前記液溜まりを構成する個体部分に超音波振動を与えて前記個体部分を超音波振動させることにより、前記個体部分と前記塗工液の界面に微細振動を与えつつ前記塗工液を前記被塗工材に塗布することを特徴とする塗布方法。
【請求項4】
前記超音波振動は前記塗布ロールに与えるものであり、前記超音波振動を与える方向は前記塗布ロールの軸方向であることを特徴とする請求項3に記載の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−291726(P2009−291726A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148727(P2008−148727)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(390039608)株式会社川上鉄工所 (7)
【Fターム(参考)】