説明

塗布装置及び塗布方法

【課題】本塗布前の予備試験で消費する塗布液の消費量を軽減し、予備試験にかかる時間を短縮することができる塗布装置及び塗布方法を提供する。
【解決手段】ステージに対して塗布ユニットを相対的に移動させて、走行速度計測部により計測された走行速度から実走行速度波形を形成し、塗布液ポンプに予め設定されたポンプ駆動指令を与えて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、圧力計測部により計測された吐出圧力から実吐出圧力波形を形成し、前記実吐出圧力波形からポンプ駆動指令と実吐出圧力との対応関係を示す応答特性を取得し、前記応答特性を用いて、前記実吐出圧力波形が前記実走行速度波形の形状に近似するようにポンプ駆動指令を調節し、近似後の実吐出圧力波形が所定の許容範囲内である場合には、その近似後の実吐出圧力波形に基づくポンプ駆動指令を本ポンプ駆動指令に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布液を吐出する塗布ユニットと基板とを相対的に移動させて、基板上に塗布膜を形成する塗布装置及び塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイには、ガラス等からなる基板上にレジスト液等の塗布液が塗布されたもの(塗布基板という)が使用されている。この塗布基板は、塗布液を均一に塗布する塗布装置によって形成されている。すなわち、塗布装置は、基板を載置するステージと、塗布液を吐出する塗布ユニットと、この塗布ユニットに塗布液を供給するポンプとを有しており、塗布ユニットの口金部のスリットノズルから塗布液を吐出させながら、基板と塗布ユニットとを相対的に移動させることにより、均一厚さの塗布膜が形成された基板が形成されるようになっている。
【0003】
このような塗布装置で均一厚さの塗布膜を形成するには、塗布ユニットの走行速度や吐出圧力等の条件の調節が必要になる。したがって、本番の塗布動作を行なう前に、均一厚さの塗布膜が形成される条件を設定する条件出し塗布動作(予備試験)が行われる。
【0004】
すなわち、特許文献1に記載されているように、塗布膜の膜厚は、塗布液を吐出する圧力波形に依存するため、この圧力波形の形状が所望の形状になるようにポンプの駆動波形(ポンプの駆動指令)を設定する。具体的には、本塗布と同じ条件で塗布動作を行うことにより圧力波形を取得する。そして、圧力波形の形状が所望の形状になるように、ポンプの吐出速度や吐出タイミングなどの条件を変更し、それに応じたポンプ駆動指令を作成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−28838
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の塗布装置では、上述のように予備試験による実際の塗布動作を繰り返し行うというトライアンドエラーによる塗布条件の調節が必要になるため、塗布液が無駄に消費されるという問題があった。すなわち、予備試験では、圧力波形形状が所望の形状になるまで複数回の塗布動作が必要になる。そして、一度予備試験を行った結果から塗布装置を適宜調節した後、再度塗布動作を行うが、その塗布動作で得られる圧力波形の結果から最適な条件設定を行うには熟練者による経験が大きく影響する。そのため、うまく調節できない場合には、塗布動作の回数が多数回に及び、その結果、塗布液を大量に消費してしまうという問題があった。
【0007】
また、実際に塗布液を吐出して塗布を行うには一定の時間を要するため、塗布動作の回数が増えると、塗布動作に要する時間が長くなるため、本番塗布前の条件出しを行う時間が長時間に及び、生産効率の低下を招く要因となっていた。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、予備試験で消費する塗布液の消費量を軽減し、予備試験にかかる時間を短縮することができる塗布装置及び塗布方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の塗布装置は、基板を載置するステージと、前記ステージに載置された基板に対し相対的に移動しつつ塗布液を吐出することにより前記基板上に塗布膜を形成する塗布ユニットと、前記塗布ユニットに塗布液を供給し、塗布ユニットから塗布液を吐出させる塗布液ポンプと、前記ステージに対する塗布ユニットの相対速度を計測する走行速度計測部と、前記塗布ユニットから吐出される塗布液の圧力を計測する圧力計測部と、これらを統括的に制御する制御装置とを備えており、前記制御装置は、ステージに対して塗布ユニットを相対的に移動させることにより、前記走行速度計測部により計測された走行速度から実走行速度波形を形成し、前記塗布液ポンプに予め設定されたポンプ駆動波形に基づく仮のポンプ駆動指令を与えて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、前記圧力計測部により計測された吐出圧力から実吐出圧力波形を形成し、前記ポンプ駆動波形と前記実吐出圧力波形とからポンプ駆動指令と実吐出圧力との対応関係を示す応答特性を取得し、前記応答特性を用いて、前記実吐出圧力波形が前記実走行速度波形の形状に近似するように前記ポンプ駆動指令を調節し、近似後の前記実吐出圧力波形が所定の許容範囲内である場合に、その近似後の実吐出圧力波形に基づくポンプ駆動指令を本ポンプ駆動指令に設定することを特徴としている。
【0010】
また、上記課題を解決するために本発明の塗布方法は、塗布液を供給する塗布液ポンプに連結された塗布ユニットをステージ上に載置された基板に対して相対的に移動させつつ、前記塗布液ポンプを駆動させて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、基板上に塗布膜を形成する塗布方法であって、ステージに対して塗布ユニットを相対的に移動させつつ、前記塗布ユニットの走行速度を計測してこの塗布ユニットの実走行速度波形を形成する実走行速度計測工程と、前記塗布液ポンプに予め設定されたポンプ駆動波形に基づく仮のポンプ駆動指令を与えて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、塗布ユニットから吐出される塗布液の吐出圧力を計測して実吐出圧力波形を形成する実吐出圧力計測工程と、前記ポンプ駆動波形と前記実吐出圧力波形とからポンプ駆動指令と実吐出圧力との対応関係を示す応答特性を取得する応答特性取得工程と、前記応答特性を用いて、前記実吐出圧力波形が前記実走行速度波形の形状に近似するように前記ポンプ駆動指令を調節するポンプ駆動指令調節工程と、近似後の前記実吐出圧力波形が所定の許容範囲内であるか否かを判断し、許容範囲内である場合に、その近似後の実吐出圧力波形に基づくポンプ駆動指令を本ポンプ駆動指令に設定する本ポンプ駆動指令設定工程と、を有することを特徴としている。
【0011】
上記塗布装置及び塗布方法によれば、塗布液ポンプにポンプ駆動指令を与えて塗布ユニットから実際に吐出される塗布液の実吐出圧力を計測し、計測した実吐出圧力と与えたポンプ駆動指令との対応関係を示す応答特性を取得することにより、ポンプ駆動指令に対する実吐出圧力を計算により求めることができる。そのため、実際に塗布液を吐出することなくポンプ駆動指令を所望の圧力波形になるように計算結果から設定することができるため、予備試験において必要以上に塗布液が消費されるのを抑えることができる。
【0012】
理論上、各時間において、吐出流量と塗布ユニットの走行速度との比が一定であれば、基板上の塗布膜の厚さは一定になるため、吐出流量波形と走行速度波形とが一致する形状であれば、基板上の塗布膜の厚さは一定になる。したがって、吐出流量と吐出圧力とは比例関係を有することから、吐出圧力波形が走行速度波形と一致すれば、基板上の塗布膜の厚さは一定になる。
【0013】
そこで、本発明では、仮のポンプ駆動指令を与えて塗布液を吐出させたときの実吐出圧力波形からポンプ駆動指令と実吐出圧力との関係を示す応答特性を取得しておき、この応答特性を用いて、ポンプ駆動指令を適宜調節することにより、実吐出圧力波形が実走行速度波形の形状に近似するように実吐出圧力波形を計算により変形させる。すなわち、ポンプ駆動指令を調節して実吐出圧力をシミュレーションすることにより、実吐出圧力波形が実走行速度波形と比較したときに許容される誤差範囲内(許容範囲内)になるように調節する。そして、近似させた実吐出圧力波形が許容範囲内である場合に、その実吐出圧力波形を形成するポンプ駆動指令を本番の塗布を行う本ポンプ駆動指令に設定する。これにより、実吐出圧力波形を取得するために予備試験において1度塗布動作を行うだけで本ポンプ駆動指令を設定することができるため、従来のトライアンドエラーを繰り返す場合に比べて、予備試験で消費する塗布液の消費量を軽減し、予備試験にかかる時間を短縮することができる。
【0014】
また、前記制御装置は、前記応答特性を用いて調節された本ポンプ駆動指令を塗布液ポンプに与えて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、前記圧力計測部により計測された吐出圧力から実吐出圧力波形を形成し、前記応答特性を用いて、前記実吐出圧力波形が前記実走行速度波形の形状に近似するように前記本ポンプ駆動指令を調節し、近似後の前記実吐出圧力波形が所定の許容範囲内である場合には、その近似後の実吐出圧力波形に基づく本ポンプ駆動指令を新たな本ポンプ駆動指令に設定する構成にしてもよい。言い換えれば、前記本ポンプ駆動指令設定工程後、設定された本ポンプ駆動指令を与えて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、塗布ユニットから吐出される塗布液の吐出圧力を計測して実吐出圧力波形を形成する第2の実吐出圧力計測工程と、前記応答特性を用いて、前記実吐出圧力波形が前記実走行速度波形の形状に近似するように前記本ポンプ駆動指令を調節する第2のポンプ駆動指令調節工程と、近似後の前記実吐出圧力波形が所定の許容範囲内であるか否かを判断し、許容範囲内である場合に、その近似後の実吐出圧力波形に基づく本ポンプ駆動指令を新たな本ポンプ駆動指令に設定する第2の本ポンプ駆動指令設定工程とをさらに有する構成にしてもよい。
【0015】
この構成によれば、設定された本ポンプ駆動指令により塗布動作を行って取得された実吐出圧力波形を、先に求めた応答特性を用いて実走行速度波形に再度近似させることにより、より一層、実走行速度波形に一致した実吐出圧力波形を形成する本ポンプ駆動指令を設定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の塗布装置及び塗布方法によれば、予備試験で消費する塗布液の消費量を軽減し、予備試験にかかる時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の塗布装置における塗布装置本体を概略的に示す側面図である。
【図2】塗布装置本体を示す斜視図である。
【図3】塗布ユニットの脚部付近を示す図である。
【図4】塗布装置の配管経路、信号経路の概略を示す構成図である。
【図5】塗布装置の制御系を示すブロック図である。
【図6】実吐出圧力波形Pd(t)と実走行速度波形W(t)の一例を示す図であり、(a)は実走行速度波形W(t)を示す図であり、(b)は実吐出圧力波形Pd(t)を示す図である。
【図7】実吐出圧力波形Pd(t)と実走行速度波形W(t)とを正規化して重ね合わせた図である。
【図8】塗布装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】予備試験における塗布装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】ポンプ駆動指令調節工程における塗布装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態における塗布装置における塗布装置本体の外観を概略的に示す斜視図であり、図2は、塗布装置を示す側面図であり、図3は、塗布ユニットの脚部付近を示す図である。また、図4は、塗布装置の配管経路、信号経路の概略を示す構成図である。
【0019】
図1〜図4に示すように、塗布装置は、塗布装置本体1と、塗布装置本体1に塗布液を供給する塗布液ポンプ8と、塗布液を貯留する塗布液タンクTと、これらを統括的に制御する制御装置90とを有しおり、これら塗布装置本体1と塗布液ポンプ8と塗布液タンクTとは配管87によって連結接続されている。そして、塗布液ポンプ8を駆動制御することにより、塗布液タンクTの塗布液が塗布装置本体1に供給されるようになっている。
【0020】
塗布装置本体1は、基板10上に薬液やレジスト液等の液状物(以下、塗布液と称す)の塗布膜を形成するものであり、基台2と、基板10を載置するためのステージ21と、このステージ21に対し特定方向に移動可能に構成される塗布ユニット30とを備えている。
【0021】
なお、以下の説明では、この塗布ユニット30が移動する方向をX軸方向、これと水平面上で直交する方向をY軸方向、X軸およびY軸方向の双方に直交する方向をZ軸方向として説明を進めることとする。
【0022】
前記基台2には、その中央部分にステージ21が配置されている。このステージ21は、搬入された基板10を載置するものである。このステージ21には、基板保持手段が設けられており、この基板保持手段により基板10が保持されるようになっている。具体的には、ステージ21の表面に形成された複数の吸引孔が形成されており、この吸引孔に吸引力を発生させることにより基板10をステージ21の表面に吸着させて保持できるようになっている。
【0023】
また、ステージ21には、基板10を昇降動作させる基板昇降機構が設けられている。具体的には、ステージ21の表面には複数のピン孔が形成されており、このピン孔にはZ軸方向に昇降動作可能なリフトピン(不図示)が埋設されている。すなわち、ステージ21の表面からリフトピンを突出させた状態で基板10が搬入されるとリフトピンの先端部分が基板10に当接して基板10を保持することができる。そして、その状態からリフトピンを下降させてピン孔に収容させることにより、基板10をステージ21の表面に載置することができるようになっている。
【0024】
また、塗布ユニット30は、基板10上に塗布液を吐出して塗布膜を形成するものである。この塗布ユニット30は、図1,図3に示すように、基台2と連結される脚部31とY軸方向に延びる口金部34とを有しており、基台2上をY軸方向に跨いだ状態でX軸方向に移動可能に取り付けられている。具体的には、基台2のY軸方向両端部分にはそれぞれX軸方向に延びるレール22が設置されており、脚部31がこのレール22にスライド自在に取り付けられている。そして、脚部31にはリニアモータ33が取り付けられており、このリニアモータ33を駆動制御することにより、塗布ユニット30がX軸方向に移動し、任意の位置で停止することができる。具体的には、脚部31には、エンコーダー38(図5参照)が取付けられており、このエンコーダー38(本発明の走行速度計測部)からの位置情報により、塗布ユニット30の位置を把握することができる。すなわち、エンコーダー38と後述の制御装置90とが接続されており、エンコーダー38からの出力信号を受信した制御装置90により、塗布ユニット30の位置、及び、塗布ユニット30の移動速度、すなわち、基板10に対する塗布ユニット30の相対速度が計測されるようになっている。なお、本実施形態では、走行速度計測部としてエンコーダー38を使用する例について説明するが、エンコーダー38に代えてリニアスケール等を用いてもよい。
【0025】
そして、本実施形態では、図2に示すように、基板10上に塗布を行う本塗布領域αと、本塗布を行う前に塗布動作の条件出しを行う予備試験領域βとに移動可能になっている。なお、図2における2点鎖線は、塗布ユニット30が本塗布領域αで本塗布を行っている状態を示している。この予備試験領域は、本塗布で形成される塗布膜の膜厚を均一にする塗布条件を設定するために、実際に塗布液を吐出して塗布動作を試験的に行う領域である。具体的には、図1、図2に示すように、ステージ21のX方向端部には、予備試験トレイ24が設けられており、この予備試験トレイ24上で塗布ユニット30による塗布動作が行われるようなっている。この予備試験トレイ24は、凹形状のケース部材であり、底面には排出口が設けられいる。そして、塗布ユニット30は、この予備試験トレイ24の位置にスリットノズル34a位置が一致した状態で停止できるように設定されており、塗布ユニット30が停止した状態でスリットノズル34aから予備試験トレイ24に向かって塗布液を吐出することにより予備試験が行われる。なお、予備試験トレイ24に排出された塗布液は、予備試験トレイ24の排出口を通じて、図示しない循環器を経て塗布液タンクTに戻るようになっている。
【0026】
また、塗布ユニット30の脚部31には、図3に示すように、塗布液を塗布する口金部34が取り付けられている。具体的には、この脚部31にはZ軸方向に延びるレール37と、このレール37に沿ってスライドするスライダ35が設けられており、これらのスライダ35と口金部34とが連結されている。そして、スライダ35にはサーボモータ36により駆動されるボールねじ機構が取り付けられており、このサーボモータ36を駆動制御することにより、スライダ35がZ軸方向に移動するとともに、任意の位置で停止できるようになっている。すなわち、口金部34が、ステージ21に保持された基板10に対して接離可能に支持されている。
【0027】
口金部34は、塗布液を吐出して基板10上に塗布膜を形成するものである。この口金部34は、一方向に延びる形状を有する柱状部材であり、塗布ユニット30の走行方向とほぼ直交するように設けられている。この口金部34には、長手方向に延びるスリットノズル34aが形成されており、口金部34に供給された塗布液がスリットノズル34aから長手方向に亘って一様に吐出されるようになっている。したがって、このスリットノズル34aから塗布液を吐出させた状態で塗布ユニット30をX軸方向に走行させることにより、スリットノズル34aの長手方向に亘って基板10上に一定厚さの塗布膜が形成されるようになっている。
【0028】
この口金部34の上流側には、塗布液を貯留する塗布液タンクTと塗布液ポンプ8とが備えられており、これら塗布液タンクT、塗布液ポンプ8及び口金部34は、それぞれ配管87で連結されている。そして、塗布液ポンプ8が、塗布液タンクTの塗布液を口金部34に圧送するとともに、塗布液に所定の圧力を付加することにより、口金部34内の塗布液がスリットを通じて吐出されるようになっている。
【0029】
前記塗布液ポンプ8は、本実施形態ではシリンジポンプが用いられており、図4に示すように、シリンダ81とプランジャ82とポンプ駆動部83とを有している。プランジャ82は、シリンダ81内に収容されるヘッド部82aと、ヘッド部82aと連結される軸部82bとを有しており、ヘッド部82aに設けられた膜状のシール部材82cが、その外周部分でシリンダ81に固定されている。すなわち、シリンダ81とシール部材82cとによって塗布液を収容する液室が形成されている。そして、ポンプ駆動部83によりプランジャ82を軸方向に駆動させることにより、塗布液の吸入及び排出ができるようになっている。すなわち、ポンプ駆動部83を駆動させてヘッド部82aを軸部82b側(図4において下側)に変位させると、液室が広がることにより、液室内に塗布液タンクTの塗布液が吸入され、ヘッド部82aを軸部82bの反対側(図4において上側)に変位させると、液室が狭められることにより、液室内の塗布液が口金部34に移送される。そして、さらにヘッド部82aを軸部82bの反対側(図4において上側)に変位させることにより、塗布液に所定の圧力が付加されて口金部34のスリットノズル34aから塗布液が吐出される。
【0030】
また、塗布液ポンプ8と口金部34との間には、圧力計85(本発明の圧力計測部)とフィルタ86とが設けられている。フィルタ86は塗布液に含まれる異物を除去するために設けられている。すなわち、長期に亘るメンテナンス不良、例えばシール部材82cの劣化による異物が混入された場合には、フィルタ86により有効に異物を除去することにより、口金部34から吐出される塗布液内に異物が混入するのを防止するができる。
【0031】
また、圧力計85は、配管87内の塗布液の圧力を計測するものであり、図4の例では、口金部34付近に取付けられている。この圧力計85の取付位置は、口金部34の近くに取付けられているため、この圧力計85の計測値は、口金部34の圧力値と見なすことができる。すなわち、圧力計85の取付位置が口金部34付近であるため、圧力計85の計測値は配管87等の圧力損失に影響されることなく計測することができる。したがって、この圧力計85により、口金部34のスリットノズル34aから吐出される塗布液の吐出圧力を計測することができる。本実施形態では、圧力計85と後述の制御装置90とが接続されており、圧力計85からの出力信号を受信した制御装置90により、圧力計85の計測値を吐出圧力として認識されるようになっている。
【0032】
次に、上記塗布装置の制御系の構成について図5に示すブロック図を用いて説明する。
【0033】
図5は、この実装装置に設けられた制御装置90の制御系を示すブロック図である。図5に示すように、この塗布装置には、上述した各種ユニットの駆動を制御する制御装置90が設けられている。この制御装置90は、制御本体部91、駆動制御部92、走行速度検知部93、吐出圧力制御部94、圧力検知部95、入出力装置制御部96とを有している。そして、制御本体部91は、主制御部91a、波形取得演算部91b、Vp−Pd演算部91c、判定部91d、記憶部91eとを有している。なお、本実施形態では、これらの構成が制御装置90に統合されている例について説明するが、これらの構成がメインコントローラ、サブコントローラに適宜分かれて構成されているものであってもよい。
【0034】
主制御部91aは、予め記憶されたプログラムに従って一連の塗布動作を実行すべく、駆動制御部92を介して各ユニットのサーボモータ36、リニアモータ33等の駆動装置を駆動制御するとともに予備試験及び本塗布における塗布動作に必要な各種演算を行うものである。具体的には、塗布液ポンプ8を駆動制御するポンプ駆動指令の作成及び修正を行うことができる。
【0035】
波形取得演算部91bは、基板10に対する塗布ユニット30の相対的な走行速度データから走行速度波形を形成したり、口金部34から吐出される塗布液の吐出圧力データから吐出圧力波形を形成し、また、これらの波形を変形させるのに必要な演算を行うものである。具体的には、エンコーダー38により検出された塗布ユニット30の走行速度データから走行速度波形を取得する。すなわち、記憶部91eには、本塗布動作の際に塗布ユニット30の走行を制御する走行駆動指令が記憶されており、この走行駆動指令を与えて塗布ユニット30を走行させ、実際に走行する塗布ユニット30の走行速度データをエンコーダー38から取得する。そして、取得された走行速度データから図6(a)に示す走行速度波形を形成する。本実施形態では、このように取得された実際の塗布ユニット30の走行速度波形を実走行速度波形W(t)と称す。なお、図6(a)は、塗布ユニット30の停止状態から定速走行に至るまでを表している。
【0036】
また、同様にして、記憶部91eには、口金部34から吐出させる塗布液の吐出圧力を制御するポンプ駆動指令(仮のポンプ駆動指令)が記憶されており、このポンプ駆動指令を与えて口金部34から塗布液を吐出させ、実際に吐出される塗布液の実吐出圧力を圧力計85から取得する。そして、取得された実吐出圧力データから図6(b)に示す吐出圧力波形を形成する。本実施形態では、このように取得された実際に吐出された塗布液の吐出圧力波形を実吐出圧力波形Pd(t)と称す。なお、図6(b)は、塗布液ポンプ8の停止状態から定圧状態になるまでを示している。また、圧力計85からの実吐出圧力データから吐出圧力波形を形成するだけでなく、後述のVp−Pd演算部91cから取得された吐出圧力データに基づいて、これを反映させた実吐出圧力波形Pd(t)を形成することができる。
【0037】
Vp−Pd演算部91cは、計測された実吐出圧力から、この塗布装置を構成する固有の系において、ポンプ駆動指令と実吐出圧力との対応関係を示す応答特性を取得するものである。そして、この応答特性からポンプ駆動指令に対する吐出圧力や、所定の吐出圧力を出力させるためのポンプ駆動指令を演算することができる。本実施形態では、ポンプ駆動指令と実吐出圧力の応答特性として、塗布液ポンプ8の吐出速度(プランジャ82の駆動速度)と吐出圧力との関係を示す伝達関数が求められ、この伝達関数によりポンプ駆動指令と吐出圧力とが関連付けられるようになっている。具体的には、予備試験の塗布動作による実吐出圧力を取得すると、その実吐出圧力を取得した系における伝達関数を構成する応答特性パラメータが演算により求められる。したがって、Vp−Pd演算部91cでは、この伝達関数により、実吐出圧力を取得した塗布装置を構成する固有の系において、所定のポンプ駆動指令が入力されたときの吐出圧力や、所定の吐出圧力が入力されたときに、その吐出圧力を出力させるためのポンプ駆動指令が演算により算出されるようになっている。
【0038】
判定部91dは、波形取得演算部91bで求められた波形同士が一致しているか否かを判定するものである。具体的には、それぞれ正規化された実吐出圧力波形Pd(t)と実走行速度波形W(t)とが一致しているか否かを判定する。すなわち、吐出流量波形と走行速度波形とが一致すれば、基板上の塗布膜の厚さは一定になることから、吐出流量波形と比例関係にある実吐出圧力波形Pd(t)と、実走行速度波形W(t)とが一致すれば、基板上の塗布膜の厚さが一定になる。
【0039】
本実施形態では、実走行速度波形W(t)に実吐出圧力波形Pd(t)が一致しているか否かの判断は、それぞれの波形の傾きを比較することによって行われる。すなわち、実吐出圧力波形Pd(t)の所定区間(所定の単位時間)における傾きが実走行速度波形W(t)の同区間における傾きと比較した場合に、許容される誤差範囲内(許容範囲内)であるか否かによって判定する。許容範囲内である場合には、所定区間における実吐出圧力波形Pd(t)が実走行速度波形W(t)に一致していると判定する。一方、許容範囲から外れる場合には、実吐出圧力波形Pd(t)が実走行速度波形W(t)に一致していないと判定する。
【0040】
ここで、所定区間内の実吐出圧力波形Pd(t)の傾きが、同区間内の実走行速度波形W(t)の傾きと一致していないと判定された場合、所定区間内の実吐出圧力波形Pd(t)の傾きが、同区間内の実走行速度波形W(t)の傾きに近似するように、ポンプ駆動指令が修正される。具体的には、所定区間内の実吐出圧力波形Pd(t)の傾きが、実走行速度波形W(t)よりも大きくなり、許容範囲から外れた場合、Vp−Pd演算部91cにおいて、その所定区間内における口金部34の吐出圧力が許容範囲内に入るように塗布液ポンプ8の吐出速度(プランジャ82の駆動速度)を算出する。すなわち、所定区間内の塗布液ポンプ8の吐出速度を小さくして所定区間の口金部34の吐出圧力を下げていき、算出された吐出圧力が許容範囲内に入るまで塗布液ポンプ8の吐出速度を変更して演算する。同様にして、所定区間内の実吐出圧力波形Pd(t)の傾きが、実走行速度波形W(t)よりも小さくなり、許容範囲から外れた場合、塗布液ポンプ8の吐出速度を大きくして所定区間の口金部34の吐出圧力を上げていき、Vp−Pd演算部91cによって算出された吐出圧力が許容範囲内に入るまで塗布液ポンプ8の吐出速度を変更して演算する。
【0041】
このようにして、所定区間において、Vp−Pd演算部91cにおいて塗布液ポンプ8の吐出速度が変更され、判定部91dで吐出圧力が許容範囲内であることが判定されると、他の所定区間においても同様に処理される。このような処理が全区間(本塗布動作時間)に亘って繰り返されることにより、判定部91dによって全区間における吐出圧力が許容範囲内であると判定される。そして、Vp−Pd演算部91cによって算出された吐出速度に応じたポンプ駆動指令が主制御部91aによって作成され、作成されたポンプ駆動指令を本塗布を行うための本ポンプ駆動指令として記憶部91eに記憶される。
【0042】
記憶部91eは、様々な各種データが格納されているとともに、演算結果等を一時的に格納するためのものである。具体的には、予備試験に口金部34から塗布液を吐出させるポンプ駆動指令、本塗布を行うための本ポンプ駆動指令や塗布ユニット30の走行駆動指令が記憶されており、また、実吐出圧力波形Pd(t)と実走行速度波形W(t)との傾きの許容範囲を設定する閾値が各区間(時間)毎に記憶されている。また、予備試験により取得されるデータとして、塗布ユニット30の実走行速度データ、実走行速度波形W(t)、口金部34における実吐出圧力データ、実吐出圧力波形Pd(t)、伝達関数等が一時的に記憶される。
【0043】
駆動制御部92は、制御本体部91からの制御信号に基づいて、リニアモータ33、サーボモータ36等を駆動制御するものである。具体的には、リニアモータ33及びサーボモータ36を制御することにより、塗布ユニット30の移動、口金部34の昇降動作等が駆動制御されるようになっている。
【0044】
走行速度検知部93は、エンコーダー38からの信号に基づいて塗布ユニット30の走行速度を検知するものである。すなわち、エンコーダー38によって塗布ユニット30の走行速度が計測され、得られた走行速度データ(実走行速度データ)は、制御本体部91に出力され記憶部91eに記憶される。
【0045】
吐出圧力制御部94は、塗布液ポンプ8の吐出速度を制御するものである。具体的には、制御本体部91からのポンプ駆動指令に基づいて、塗布液ポンプ8のプランジャ82の駆動速度を制御する。これにより、口金部34から吐出される塗布液の吐出圧力が制御される。
【0046】
圧力検知部95は、圧力計85からの信号に基づいて口金部34の吐出圧力を検知するものである。すなわち、圧力計85によって口金部34の吐出圧力が計測され、計測された吐出圧力データ(実吐出圧力データ)は、制御本体部91に出力され記憶部91eに記憶される。
【0047】
入出力装置制御部96は、キーボード98、タッチパネル99等の各入出力装置を制御するものである。具体的には、実吐出圧力波形Pd(t)や実走行速度波形W(t)をタッチパネル上に表示したり、実吐出圧力波形Pd(t)と実走行速度波形W(t)の傾きの許容範囲を設定する閾値等が、キーボード98、タッチパネル99から入出力装置制御部96を通じて変更できるようになっている。
【0048】
次に、この塗布装置における動作について、図8、図9、図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0049】
まず、ステップS1において、予備試験が行われる。すなわち、基板10上に均一の塗布膜を形成する本塗布を行う前に、塗布ユニット30の走行速度や吐出圧力等の条件出しが行われる。まず、図9に示すフローチャートにしたがって、ステップS11において、実走行速度波形取得工程が行われる。具体的には、塗布ユニット30から実際には塗布液を吐出させることなく、仮想的に本塗布と同じ条件でリニアモータ33を駆動させて塗布ユニット30を走行させる。そして、エンコーダー38からの位置情報に関する信号に基づいて実走行速度波形W(t)を取得する。すなわち、図6(a)に示す実走行速度波形W(t)が取得される。
【0050】
次に、ステップS12により、実吐出圧力波形取得工程が行われる。具体的には、塗布ユニット30を予備試験トレイ24に移動させ、予備試験トレイ24位置と塗布ユニット30のスリットノズル34a位置とが一致した状態で停止させる。そして、仮のポンプ駆動指令を与えて塗布液ポンプを作動させることにより、スリットノズル34aから予備試験トレイ24に向かって塗布液を吐出させ、このときの吐出圧力を圧力計85により計測する。そして、圧力計85からの圧力情報に関する信号に基づいて実吐出圧力波形Pd(t)を取得する。すなわち、図6(b)に示す実吐出圧力波形Pd(t)が取得される。
【0051】
次に、ステップS13により、応答特性取得工程が行われる。具体的には、塗布液ポンプ8から口金部34までの構成を1つの系とした伝達関数の応答特性パラメータが演算により算出される。これにより、実吐出圧力波形Pd(t)を取得した特定の系において、所定のポンプ駆動指令が入力されたときの吐出圧力や、所定の吐出圧力が入力されたときに、その吐出圧力を出力させるためのポンプ駆動指令を演算する伝達関数が取得される。
【0052】
次に、ステップS14により、ポンプ駆動指令調節工程が行われる。すなわち、基板10上に均一厚さの塗布膜を形成させるために、実走行速度波形W(t)の形状に、実吐出圧力波形Pd(t)の形状が一致するようにポンプ駆動指令を調整する。具体的には、図10のフローチャートにしたがって行われる。すなわち、本塗布に必要なトータル時間をn個の区間領域に分割し、その区間nにおける実吐出圧力波形Pd(t)の傾きが、実走行速度波形W(t)の傾きに比べて許容される誤差範囲内になるようにポンプ駆動指令を調節する。
【0053】
まず、ステップS141により、正規化された実走行速度波形W(t)と実吐出圧力波形Pd(t)とを重ね合わせ、時間軸に沿ってn個の区間(時間)に分割される。すなわち、記憶部91eにおいて予め設定された区間数(n=N個)に分割される。
【0054】
次に、ステップS142により、区間をカウントするカウンターnに1が代入された後、ステップS143により、第1番目の区間(n=1)から順にその区間(n)における実吐出圧力波形Pd(t)の傾きと、同区間における実走行速度波形W(t)の傾きとを算出し比較する。例えば、図7に示すように、区間nを形成する時間t=t1及びt2における傾きを算出する。すなわち、区間nにおける実吐出圧力波形Pd(t)の傾きQnは、Qn=(Pd(t2)−Pd(t1))/(t2−t1)により求められ、区間nにおける実走行速度波形W(t)の傾きVn=(W(t2)−W(t1))/(t2−t1)により求められる。
【0055】
次に、ステップS144により、求められた傾きが設定された許容範囲内か否かが判断される。具体的には、実走行速度波形W(t)の傾きVnに対する実吐出圧力波形Pd(t)の傾きQnが設定された誤差範囲にあるか否かが判断される。すなわち、誤差δ(Vn−Qn)/Vnを演算し、この誤差δが記憶部91eに記憶された区間nにおける誤差範囲内か否かによって判断される。
【0056】
ここで、演算された誤差δが許容範囲から外れると判断される場合には、ステップS144においてNOの方向に進み、ステップS145において、区間nにおける実吐出圧力波形Pd(t)の傾きQnを同区間内の実走行速度波形W(t)の傾きVnに近似させる。具体的には、ステップS13で求めた応答特性(伝達関数)を用いて、区間nにおける実吐出圧力波形Pd(t)の傾きQnが区間nにおける誤差範囲内に入るようにポンプ駆動指令を修正する。すなわち、仮に実吐出圧力波形Pd(t)の傾きQnが、実走行速度波形W(t)の傾きVnよりも大きい場合、塗布液ポンプ8の吐出速度を小さくするようにポンプ駆動指令を修正する。逆に、実吐出圧力波形Pd(t)の傾きQnが、実走行速度波形W(t)の傾きVnよりも小さい場合、塗布液ポンプ8の吐出速度を大きくするようにポンプ駆動指令を修正する。このように伝達関数によりポンプ駆動指令を修正すると、実吐出圧力波形Pd(t)の区間n以外の部分も影響を受け、僅かに変形する虞がある。したがって、ステップS145によりポンプ駆動指令を修正した後、カウンターnに強制的に1を代入して(ステップS142)、再度1番目の区間(n=1)からステップS143からステップS145の処理を繰り返し、ポンプ駆動指令を修正したことにより、他の区間においても実吐出圧力波形Pd(t)の傾きが許容範囲内であるかを確認する。
【0057】
また、演算された誤差δが許容範囲内であった場合には、ステップS144においてYESの方向に進み、カウンターnに+1を加算し(ステップS146)、全区間に亘って処理されたか否かが判断される(ステップS147)。すなわち、カウンターn=Nでない場合には、未処理区間において上述のステップS143からの処理が行われ、カウンターn=Nである場合には、全区間に亘って処理が終了したと判断され、ポンプ駆動指令調節工程(ステップS14)が終了する。
【0058】
次にステップS15において、本ポンプ駆動指令設定工程が行われる。具体的には、ポンプ駆動指令調節工程で修正されたポンプ駆動指令を本塗布時に用いられる本ポンプ駆動指令に設定する。
【0059】
このようにして、一度、実際に塗布液を吐出させる塗布動作を行うことにより、本塗布時に塗布液ポンプ8を駆動制御する本ポンプ駆動指令が自動的に求められる。ただし、この本ポンプ駆動指令は、あくまで計算で求められたものであり、実際には様々な外乱要素が存在する。したがって、本実施形態では、本ポンプ駆動指令設定工程の後、本ポンプ駆動指令に基づく実際の吐出波形が、実走行速度波形W(t)と一致しているか否かを確認する処理が行われる。
【0060】
すなわち、ステップS16における実吐出圧力計測確認工程が行われる。具体的には、ステップS12と同様にして、塗布ユニット30を予備試験トレイ24に移動させ、予備試験トレイ24位置と塗布ユニット30のスリットノズル34a位置とが一致した状態で停止させる。そして、本ポンプ駆動指令を与えて塗布液ポンプを作動させて塗布液を吐出させ、このときの吐出圧力を圧力計85により計測する。これにより、本ポンプ駆動指令に基づく実吐出圧力波形Pd(t)が取得される。
【0061】
次に、ステップS17において、上述と同様のポンプ駆動指令調節工程が行われることにより、実走行速度波形W(t)の形状に、本ポンプ駆動指令に基づく実吐出圧力波形Pd(t)の形状が一致するようにポンプ駆動指令を調整する。すなわち、ステップS14と同様にして、図10に示すフローチャートに基づいて、本塗布に必要なトータル時間をn個の区間領域に分割し、その区間nにおける実吐出圧力波形Pd(t)の傾きが、実走行速度波形W(t)の傾きに比べて許容される誤差範囲内になるようにポンプ駆動指令を調節する。このとき、応答特性は、ステップS13で求められた応答特性(伝達関数)が使用される。すなわち、塗布液ポンプ8から口金部34に至る系(応答特性を算出した系)に変更がないため、ステップS13で求められた応答特性がそのまま適用される。したがって、このステップS17のポンプ駆動指令調節工程においては、新たに応答特性を算出することはない。
【0062】
次に、ステップS18において、本ポンプ駆動指令設定工程が行われる。具体的には、ステップS17におけるポンプ駆動指令調節工程で修正されたポンプ駆動指令を本ポンプ駆動指令に設定する。これにより、基板10上に塗布するときの塗布液ポンプ8に与える本ポンプ駆動指令が決定される。これにより、ステップS1による予備試験が終了し、本塗布を行うための条件出しが完了する。
【0063】
次に、ステップS2において、基板10の搬入が行われる。具体的には、ステージ21の表面から複数のリフトピンが突出した状態で待機されており、これらのリフトピンの先端部分に搬送された基板10が載置される。そして、リフトピンを下降させて基板10をステージ21の表面に載置し、図示しない位置決め装置により、基板10が所定の位置に位置決めされる。そして、この状態で真空ポンプを作動させて吸引孔に吸引力を発生させることにより、基板10が精度よく位置決めされた状態でステージ21の表面上に吸着されて保持される。
【0064】
次に、ステップS3において、塗布工程が開始される。すなわち、塗布ユニット30の口金部34から塗布液を吐出させた状態で塗布ユニット30を走行させる。具体的には、塗布ユニット30のスリットノズル34aが塗布を開始する位置に位置する状態で、予備試験により修正された本ポンプ駆動指令により塗布液ポンプ8を駆動させ塗布液を吐出させる。そして、リニアモータ33を駆動させて塗布ユニット30を所定の速度まで加速させる。そして、塗布終了位置まで本ポンプ駆動指令により塗布液ポンプ8を駆動制御しつつ、塗布ユニット30を走行させる。これにより、基板10上に均一厚さの塗布膜が形成される。
【0065】
塗布工程が終了すると、ステージ21上の基板10が排出され(ステップS4)、均一厚さに形成された塗布膜を有する基板10が次工程に搬送される。
【0066】
以上、本実施形態における塗布装置及び塗布方法によれば、塗布液ポンプにポンプ駆動指令を与えて塗布ユニットから実際に吐出される塗布液の実吐出圧力を計測し、計測した実吐出圧力と与えたポンプ駆動指令との対応関係を示す応答特性を取得することにより、ポンプ駆動指令に対する実吐出圧力を計算により求めることができる。そのため、実際に塗布液を吐出することなく実吐出圧力が所望の圧力波形になるようにポンプ駆動指令を計算結果から設定することができる。すなわち、ポンプ駆動指令を調節してシミュレーションを行うことにより、実際に塗布液を吐出することなく、実吐出圧力波形が実走行速度波形の形状に一致させることができる。したがって、実吐出圧力波形が実走行速度波形の形状に一致させるために、その都度、実際に塗布液を吐出させていた従来の予備試験に比べて、予備試験において必要以上に塗布液が消費されるのを抑えることができる。
【0067】
上記実施形態では、1度目の本ポンプ駆動指令設定工程(ステップS15)後、再度ポンプ駆動指令調節工程(ステップS17)を経て2度目の本ポンプ駆動指令設定工程(ステップS18)を行っているが、1度目の本ポンプ駆動指令設定工程前のポンプ駆動指令調節工程で調節されたポンプ駆動指令の精度が高い場合には、1度目の本ポンプ駆動指令設定工程で予備試験を完了させてもよい。これにより、1度目の本ポンプ駆動指令設定工程後に本ポンプ駆動指令に基づいて実際に塗布動作を行う実吐出圧力計測確認工程(ステップS16)以降の処理を省くことができるため、予備試験に必要な塗布液の消費を抑えることができるとともに、処理に必要な時間を省くことができる。
【0068】
また、上記実施形態では、1度目の本ポンプ駆動指令設定工程(ステップS15)後、実吐出圧力計測確認工程(ステップS16)、ポンプ駆動指令調節工程(ステップS17)を行って、2度目の本ポンプ駆動指令設定工程(ステップS18)により本ポンプ駆動指令を決定しているが、その後さらに実吐出圧力計測確認工程、ポンプ駆動指令調節工程、本ポンプ駆動指令設定工程を複数回繰り返し、本ポンプ駆動指令による吐出精度を高めるようにしてもよい。この場合であっても、実吐出圧力波形が実走行速度波形の形状に一致させる際、応答特性(伝達関数)を用いて実際に塗布液を吐出することなくポンプ駆動指令を調節することができるため、実吐出圧力波形が実走行速度波形の形状に一致させる際に実際に塗布液を吐出する従来に比べて塗布液の消費を抑えることができる。
【0069】
また、上記実施形態では、予備試験を行うための予備試験トレイ24を別途設ける例について説明したが、塗布装置に設けられた既存のトレイを使用するものであってもよい。すなわち、口金部34のメンテナンス作業やエア抜き動作時に使用するトレイを本実施形態の予備試験トレイ24として、共用できる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 塗布装置本体
8 塗布液ポンプ
10 基板
21 ステージ
30 塗布ユニット
34 口金部
85 圧力計
90 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を載置するステージと、
前記ステージに載置された基板に対し相対的に移動しつつ塗布液を吐出することにより前記基板上に塗布膜を形成する塗布ユニットと、
前記塗布ユニットに塗布液を供給し、塗布ユニットから塗布液を吐出させる塗布液ポンプと、
前記ステージに対する塗布ユニットの相対速度を計測する走行速度計測部と、
前記塗布ユニットから吐出される塗布液の圧力を計測する圧力計測部と、
これらを統括的に制御する制御装置と、
を備えており、
前記制御装置は、ステージに対して塗布ユニットを相対的に移動させることにより、前記走行速度計測部により計測された走行速度から実走行速度波形を形成し、
前記塗布液ポンプに予め設定されたポンプ駆動指令を与えて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、前記圧力計測部により計測された吐出圧力から実吐出圧力波形を形成し、
前記実吐出圧力波形からポンプ駆動指令と実吐出圧力との対応関係を示す応答特性を取得し、
前記応答特性を用いて、前記実吐出圧力波形が前記実走行速度波形の形状に近似するように前記ポンプ駆動指令を調節し、
近似後の前記実吐出圧力波形が所定の許容範囲内である場合には、その近似後の実吐出圧力波形に基づくポンプ駆動指令を本ポンプ駆動指令に設定することを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記応答特性を用いて調節された前記本ポンプ駆動指令を塗布液ポンプに与えて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、前記圧力計測部により計測された吐出圧力から実吐出圧力波形を形成し、
前記応答特性を用いて、前記実吐出圧力波形が前記実走行速度波形の形状に近似するように前記本ポンプ駆動指令を調節し、
近似後の前記実吐出圧力波形が所定の許容範囲内である場合には、その近似後の実吐出圧力波形に基づく本ポンプ駆動指令を新たな本ポンプ駆動指令に設定することを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
塗布液を供給する塗布液ポンプに連結された塗布ユニットをステージ上に載置された基板に対して相対的に移動させつつ、前記塗布液ポンプを駆動させて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、基板上に塗布膜を形成する塗布方法であって、
ステージに対して塗布ユニットを相対的に移動させつつ、前記塗布ユニットの走行速度を計測してこの塗布ユニットの実走行速度波形を形成する実走行速度波形取得工程と、
前記塗布液ポンプに予め設定されたポンプ駆動指令を与えて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、塗布ユニットから吐出される塗布液の吐出圧力を計測して実吐出圧力波形を形成する実吐出圧力波形取得工程と、
前記実吐出圧力波形からポンプ駆動指令と実吐出圧力との対応関係を示す応答特性を取得する応答特性取得工程と、
前記応答特性を用いて、前記実吐出圧力波形が前記実走行速度波形の形状に近似するように前記ポンプ駆動指令を調節するポンプ駆動指令調節工程と、
近似後の前記実吐出圧力波形が所定の許容範囲内であるか否かを判断し、許容範囲内である場合に、その近似後の実吐出圧力波形に基づくポンプ駆動指令を本ポンプ駆動指令に設定する本ポンプ駆動指令設定工程と、
を有することを特徴とする塗布方法。
【請求項4】
前記本ポンプ駆動指令設定工程後、
設定された本ポンプ駆動指令を与えて塗布ユニットから塗布液を吐出させることにより、塗布ユニットから吐出される塗布液の吐出圧力を計測して実吐出圧力波形を形成する実吐出圧力計測確認工程と、
前記応答特性を用いて、前記実吐出圧力波形が前記実走行速度波形の形状に近似するように前記本ポンプ駆動指令を調節するポンプ駆動指令調節工程と、
近似後の前記実吐出圧力波形が所定の許容範囲内であるか否かを判断し、許容範囲内である場合に、その近似後の実吐出圧力波形に基づく本ポンプ駆動指令を新たな本ポンプ駆動指令に設定する本ポンプ駆動指令補正工程と、
をさらに有することを特徴とする塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−5465(P2011−5465A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154112(P2009−154112)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】