説明

塗膜下鋼材腐食の検出方法、検出装置及び検出プログラム

【課題】塗膜下における鋼材の腐食部分の体積を非破壊で測定することができるようにする。
【解決手段】周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に塗膜層を介在させて電磁波測定を行って反射強度の2次元分布計測値を得て、当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界を用いて〔ア〕照射光電界反射係数lを算出して計測位置毎の侵入光電界反射係数kを求めるか若しくは〔イ〕電界減衰率mを算出して計測位置毎の侵入光電界反射係数kを求め(S5)、当該侵入光電界反射係数kを用いて計測位置毎に被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食層の厚さdRを求め(S6)、当該腐食層の厚さdRを用いて被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める(S7)ようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜下鋼材腐食の検出方法、検出装置及び検出プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、塗膜下における鋼材の腐食部分の体積測定を非破壊で行うことに用いて好適な塗膜下鋼材腐食の検出方法、検出装置及び検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
塗膜下における鋼材の腐食生成物の検出を非破壊で行う従来の方法としては、例えば、集光した単色X線を多段スリットによってノイズを減少させて表面に塗膜を有する金属材料の塗膜の上から塗膜下の微小領域に照射し、当該微小領域の腐食生成物のX線回折強度を信号対ノイズ比(S/N比)を高めて測定するものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−256800号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の腐食生成物検出方法では、塗膜下の鋼材に腐食生成物が存在するか否か、すなわち、鋼材が腐食しているか否かを判定することはできても、腐食している部分の体積を測定することはできない。このため、特許文献1の方法では、鋼材の腐食への対策として例えば腐食進行防止の方策や鋼材(部品)交換の要否を検討する際に必要とされる情報を十分に提供することができるとは言い難い。
【0005】
そこで、本発明は、塗膜下における鋼材の腐食部分の体積を非破壊で測定することができる塗膜下鋼材腐食の検出方法、検出装置及び検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、塗膜下における鋼材の腐食の検出に関する検討を行う中で、周波数が大凡100〔GHz〕〜10〔THz〕程度の範囲の高周波の電磁波を用いて電磁波測定を行うと、塗膜に対しては優れた透過性を示し塗膜による光吸収は非常に小さいので塗膜が在っても反射光の強度が殆ど変化しない一方で錆などによる光吸収によって錆などによる腐食部分では健全部分と比べて反射光の強度が有意に低下し、腐食層(発錆層)が厚いほど電磁波が強く吸収されることから、腐食層の厚さと電磁波反射光強度とが負の相関をしていることを知見し、そして、高周波の電磁波を用いた電磁波測定によって得られる反射パルスから腐食層の厚さを測定できることを知見するに至った。
【0007】
請求項1記載の塗膜下鋼材腐食の検出方法は、上記知見に基づくものであり、周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に塗膜層を介在させて電磁波測定を行って反射強度の2次元分布計測値を得て、〔ア〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式1
【数1】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求め、若しくは、〔イ〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式2
【数2】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求め、当該係数ki,jを用いて数式3
【数3】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数
によって計測位置(i,j)毎に被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食層の厚さdRi,jを求め、当該腐食層の厚さdRi,jを用いて数式4
【数4】

ここで、ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求めるようにしている。
【0008】
また、請求項2記載の塗膜下鋼材腐食の検出方法も、上記知見に基づくものであり、周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に塗膜層を介在させて電磁波測定を行って反射強度の2次元分布計測値を得て、〔ア〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式5
【数5】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求め、若しくは、〔イ〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式6
【数6】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求め、当該係数ki,jを用いて数式7
【数7】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数,
ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求めるようにしている。
【0009】
また、請求項3記載の塗膜下鋼材腐食の検出装置は、周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の2次元分布計測値データを読み込む手段と、〔ア〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式8
【数8】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段と、若しくは、〔イ〕2次元分布計測値データにおける計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式9
【数9】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段と、当該係数ki,jを用いて数式10
【数10】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数
によって計測位置(i,j)毎に被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食層の厚さdRi,jを求める手段と、当該腐食層の厚さdRi,jを用いて数式11
【数11】

ここで、ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める手段とを有するようにしている。
【0010】
また、請求項4記載の塗膜下鋼材腐食の検出装置は、周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の2次元分布計測値データを読み込む手段と、〔ア〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式12
【数12】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段と、若しくは、〔イ〕2次元分布計測値データにおける計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式13
【数13】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段と、当該係数ki,jを用いて数式14
【数14】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数,
ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める手段とを有するようにしている。
【0011】
また、請求項5記載の塗膜下鋼材腐食の検出プログラムは、周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の2次元分布計測値データを読み込む手段、〔ア〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式15
【数15】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段、
若しくは、〔イ〕2次元分布計測値データにおける計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式16
【数16】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段、当該係数ki,jを用いて数式17
【数17】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数
によって計測位置(i,j)毎に被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食層の厚さdRi,jを求める手段、当該腐食層の厚さdRi,jを用いて数式18
【数18】

ここで、ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0012】
また、請求項6記載の塗膜下鋼材腐食の検出プログラムは、周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の2次元分布計測値データを読み込む手段、〔ア〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式19
【数19】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段、若しくは、〔イ〕2次元分布計測値データにおける計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式20
【数20】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段、当該係数ki,jを用いて数式21
【数21】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数,
ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0013】
したがって、これらの塗膜下鋼材腐食の検出方法、検出装置及び検出プログラムによると、被検査物の塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の計測値データを用いて被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積を算出するようにしているので、塗膜下の鋼材の腐食部分の体積が非破壊で算出される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗膜下鋼材腐食の検出方法、検出装置及び検出プログラムによれば、被検査物の塗膜下における鋼材の腐食部分の体積を非破壊で算出することができるので、鋼材の腐食への対策として例えば腐食進行防止の方策や鋼材(部品)交換の要否を検討する際に必要とされる情報を十分に提供することが可能になり、鋼材の腐食検出の有用性及び汎用性の向上が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の塗膜下鋼材腐食の検出方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図2】本実施形態の塗膜下鋼材腐食の検出方法を塗膜下鋼材腐食の検出プログラムを用いて実施する場合の当該プログラムによって実現される塗膜下鋼材腐食の検出装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明における電磁波測定の例としての時間領域分光法を説明する装置構成図である。
【図4】本発明におけるTHz波計測を行って得られるTHz反射波時間波形(THz反射パルス波)の一例を示す図である。
【図5】被検査物の塗膜層と腐食層と鋼材との各間の界面における電磁波の反射の様相を説明する図である。(B)は(A)の矩形内の拡大図である。
【図6】鉄錆の種類毎の吸光度スペクトルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1から図6に、本発明の塗膜下鋼材腐食の検出方法、検出装置及び検出プログラムの実施形態の一例を示す。本発明の塗膜下鋼材腐食の検出方法は、周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に塗膜層を介在させて電磁波測定を行って反射強度の2次元分布計測値を得て、〔ア〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式22
【数22】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求め(S5)、若しくは、〔イ〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式23
【数23】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求め(S5)、当該係数ki,jを用いて数式24
【数24】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数
によって計測位置(i,j)毎に被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食層の厚さdRi,jを求め(S6)、当該腐食層の厚さdRi,jを用いて数式25
【数25】

ここで、ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める(S7)ようにしている。
【0018】
本発明では、被検査物の評価領域(即ち、腐食の検出・評価の対象とする部分)に対して高ギガヘルツからテラヘルツ帯の周波数の電磁波を用いた電磁波測定を行い、当該電磁波測定によって得られた反射強度の計測値を用いる。なお、本発明では、被検査物における腐食部分の2次元的な範囲(領域)を特定した上で当該腐食部分の体積を算出するので、電磁波測定は被検査物表面において2次元的に行い、それによって得られる反射強度の2次元分布計測値を用いる。また、本発明における電磁波測定は、被検査物の塗膜表面において、即ち塗膜層を介在させながら当該塗膜層下の鋼材若しくは鋼材の腐食をターゲットとして行う。
【0019】
高ギガヘルツからテラヘルツ帯の周波数の電磁波を用いた電磁波測定は、例えば時間領域分光法を用いて行う。この時間領域分光法自体は周知の技術であるのでここでは詳細については省略するが、概要を図3に示す(時間領域分光法については、例えば、J.A. Izatt,M.D. Kulkarni,H-W. Wang,K. Kobayashi,M.V. Sivak, Jr.,「Optical coherence tomography and microscopy in gastrointestinal tissues」,IEEE J. Sel. Top. Quantum Electron.,Vol. 2,No. 4,pp. 1017-1028,1996年 を参照)。
【0020】
図3に示す例では、まず、フェムト秒レーザ1から照射されたフェムト秒レーザパルスをビームスプリッタ2で二つの低温成長GaAs光伝導アンテナ3A,3Bに照射する。一方のアンテナ3Aはエミッタとして働いて照射パルスを高ギガヘルツ〜テラヘルツ(THz)波に変換する。このテラヘルツ波は被検査物4を透過し、放物面鏡5Aで集光されて受光器6に入る。また、前記フェムト秒レーザパルスはビームスプリッタ2と時間遅延ステージ7とを介してディテクタとなるもう一つのアンテナ3Bにも照射され、被検査物4を透過したテラヘルツ波の計測スイッチとなる(なお、図3中の符号8は適宜配置されるミラーである)。そして、テラヘルツ波の電界振幅と位相とが同時に得られ、例えば複素誘電率が直接計算される。さらに、この時間領域分光法をxyステージと連動させることによってテラヘルツ波2次元強度分布測定(イメージング測定とも呼ばれる)が行われる。なお、本発明における高ギガヘルツからテラヘルツ帯の周波数の電磁波を用いた電磁波測定の仕方・仕組みは、図3に示す構成に限られるものではなく、さらに言えば、時間領域分光法に限られるものでもない。
【0021】
ここで、以下の説明では、高ギガヘルツからテラヘルツ帯のことを、具体的には大凡100〔GHz〕〜10〔THz〕程度の範囲の周波数帯のことをテラヘルツ(THz)といい、このようなテラヘルツの電磁波を用いて行う電磁波測定をTHz波計測という。
【0022】
そして、例えば上述の時間領域分光法を用いてTHzパルス波によるTHz波計測を行うと、電磁気学における境界条件に従い、低誘電率媒質から高誘電率媒質に電磁波が入射する場合には反射波の位相が反転する。また、材質毎の誘電率(複素誘電率)は、透過測定などにより、例えば0.5〔THz〕において空気=1,エポキシ樹脂=6.5,錆=9.5などのように計測することができる。なお、地金(言い換えると、鋼材のうち腐食していない部分:健全鋼材)の誘電率(複素誘電率)は無限大であるとみなせる。
【0023】
これより、THz波計測を行って得られるTHz反射波時間波形(THz反射パルス波ともいう;図4に一例を示す)において、樹脂などの塗膜層と地金(健全鋼材)との界面や、鋼材の錆などによる腐食(錆)層と非腐食層との界面などの界面で合計何回反射された光が関与しているTHz波反射強度ピークであるかを判定することができる。このように、位相情報に基づいて、THz反射波時間波形の各ピークがいずれの界面に由来するものであるかを判定することができる。さらに、塗膜下の鋼材が発錆して腐食(錆)層が存在している場合には健全鋼材部分と比べて反射信号の数が増えるので、反射パルス数に着目すれば、鋼材の腐食層を非破壊で検出することができる。
【0024】
また、樹脂などの塗膜層が在っても、すなわち塗膜層を介在させての計測であっても、本発明者の検討に基づく知見より、鋼材の錆などによる腐食部分では健全部分と比べてTHz反射パルス波の反射光強度が低下するので、THz波反射強度の2次元分布計測値を用いることによって鋼材の腐食範囲を非破壊で検出することができる。
【0025】
ところで、上述の塗膜下鋼材腐食の検出方法は、本発明の塗膜下鋼材腐食の検出装置として実現される。本発明の塗膜下鋼材腐食の検出装置は、周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の2次元分布計測値データを読み込む手段と、〔ア〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式26
【数26】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段と、若しくは、〔イ〕2次元分布計測値データにおける計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式27
【数27】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段と、当該係数ki,jを用いて数式28
【数28】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数
によって計測位置(i,j)毎に被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食層の厚さdRi,jを求める手段と、当該腐食層の厚さdRi,jを用いて数式29
【数29】

ここで、ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める手段とを有するようにしている。
【0026】
また、上述の塗膜下鋼材腐食の検出方法及び塗膜下鋼材腐食の検出装置は、本発明の塗膜下鋼材腐食の検出プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、塗膜下鋼材腐食の検出プログラムをコンピュータ上で実行することによって塗膜下鋼材腐食の検出装置が実現されると共に塗膜下鋼材腐食の検出方法が実施される場合を例に挙げて説明する。
【0027】
塗膜下鋼材腐食の検出プログラム17を実行するためのコンピュータ10(本実施形態では、塗膜下鋼材腐食の検出装置10でもある)の全体構成を図2に示す。この塗膜下鋼材腐食の検出装置10は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え相互にバス等の信号回線によって接続されている。また、塗膜下鋼材腐食の検出装置10にはデータサーバ16がバス等の信号回線によって接続されており、その信号回線を介してデータや制御指令等の信号の送受信(即ち出入力)が相互に行われる。
【0028】
本実施形態では、上述のように被検査物の評価領域に対する2次元的なTHz波計測によって得られたTHz波反射強度の2次元分布計測値が反射強度データベース18としてデータサーバ16に蓄積される。なお、反射強度の計測値のデータは、具体的には、電磁波測定によって得られる反射波の電界のパルスデータである。そして、被検査物表面における2次元的な計測位置と対応づけられて反射強度データであるパルスデータが反射強度データベース18として蓄積される。
【0029】
なお、本発明において反射強度計測値データが蓄積されるデータベースやデータファイルが保存されるのは、データサーバ16に限られるものではなく、記憶部12に保存されるようにしても良いし、光記憶媒体等の各種記憶媒体や外部記憶装置に保存されるようにしても良い。
【0030】
制御部11は記憶部12に記憶されている塗膜下鋼材腐食の検出プログラム17によって塗膜下鋼材腐食の検出装置10全体の制御並びに鋼材腐食の検出処理に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
【0031】
記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
【0032】
メモリ15は制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0033】
入力部13は少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0034】
表示部14は制御部11の制御によって文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0035】
そして、記憶装置としてのデータサーバ16にアクセス可能なコンピュータである塗膜下鋼材腐食の検出装置10の制御部11には、塗膜下鋼材腐食の検出プログラム17を実行することにより、周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の2次元分布計測値データを読み込む手段としてのデータ読込部11a、〔ア〕当該2次元分布計測値における計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式30
【数30】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段としての係数k計算部11e、
若しくは、〔イ〕2次元分布計測値データにおける計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式31
【数31】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段としての健全部パルス探索部11b及び係数k計算部11e、当該係数ki,jを用いて数式32
【数32】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数
によって計測位置(i,j)毎に被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食層の厚さdRi,jを求める手段としての腐食層厚さ算出部11f、当該腐食層の厚さdRi,jを用いて数式33
【数33】

ここで、ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める手段としての腐食部分体積算出部11gが構成される。
【0036】
以下に、本発明の塗膜下鋼材腐食の検出方法による腐食部分の体積測定の処理内容を図1に従って説明する。
【0037】
本実施形態の塗膜下鋼材腐食の検出方法の実行にあたっては、まず、制御部11のデータ読込部11aは、被検査物の評価領域に対する2次元的なTHz波計測によって得られたTHz波反射強度の2次元分布計測値データの読み込みを行う(S1)。
【0038】
具体的には、制御部11のデータ読込部11aは、被検査物表面における2次元的な計測位置(ここでは、平面上の位置座標のように(i,j)と表記する)と対応づけられた反射強度2次元分布計測値データを反射強度データベース18から読み込み、当該反射強度データであるパルスデータを計測位置(i,j)毎にメモリ15に記憶させる。
【0039】
ここで、以下のS2からS6までの処理は、被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)毎に行われる。
【0040】
次に、制御部11の健全部パルス探索部11bは、S1の処理によって読み込まれた反射強度2次元分布計測値データの中から被検査物の健全鋼材部分からの反射光パルスの探索を行う(S2)。
【0041】
具体的には、制御部11の健全部パルス探索部11bは、S1の処理においてメモリ15に記憶されたパルスデータをメモリ15から読み込み、当該パルスデータのうち反射強度が最大であるパルスデータを探索する。
【0042】
ここで、本発明者の検討によって得られた知見により、テラヘルツの電磁波を用いた電磁波測定では錆などによる腐食部分において反射パルス波の反射強度が有意に低下するので、反射強度が最大であるパルスデータは健全鋼材部分からの反射光パルスであると考えられる。
【0043】
また、計測位置(i,j)毎のパルスデータにおいて反射強度に差違がない若しくは計測誤差の範囲内で実際には差違はないと考えられる場合には、当該計測位置(i,j)においては腐食層22は存在しないと考えられるので、当該計測位置(i,j)についてS2の処理を終了すると共にS3〜S7については処理を行わず、次の計測位置(i,j)についてのS2(以降)の処理に移る。
【0044】
そして、健全部パルス探索部11bは、反射強度が最大であるパルスデータを健全鋼材部分からの反射光電界EUとして計測位置(i,j)毎にメモリ15に記憶させる。
【0045】
次に、制御部11は、塗膜の複素屈折率が得られているか否かに基づいてS2の処理に続けて行う処理内容の選択を行う(S3)。
【0046】
具体的には、制御部11は、S3の処理の段階で、塗膜の複素屈折率(屈折率nF,吸収係数αF)が得られているか否かの指定を要求する内容のメッセージを表示部14に表示すると共に入力部13によって入力された作業者の指定内容の入力を受ける。そして、制御部11は、塗膜の複素屈折率が得られているとの指定内容の場合(S3:Yes)にはS4-Aの処理に進むようにし、複素屈折率が得られていないとの指定内容の場合(S3:No)にはS4-Bの処理に進むようにする。
【0047】
ここで、以降のS4からS7までの処理に係る、本発明者の検討によって得られた知見に基づく本発明における腐食部分の体積の算出原理を以下に説明する。
【0048】
図5に示すように、電磁波測定として照射されたテラヘルツ光の一部は被検査物の塗膜層21に侵入し、更にその一部は腐食層22に侵入する。そして、塗膜層21(厚さdF)に侵入した光は特に図5(A)に示すような複雑な反射を起こし、腐食層22(厚さdR)に侵入した光は特に図5(B)に示すような複雑な反射を起こす。なお、図5において、符号23は被検査物の鋼材である。また、図5(A)において、符号E0は照射光電界を表し、符号E1は被検査物表面(即ち、塗膜層21表面)での反射光電界を表し、符号E2,E3は被検査物の層間界面でそれぞれ図5に示す態様で反射した反射光の電界を表す。また、図5(B)において、符号F0は照射光が塗膜層21に侵入して腐食層22との界面近傍まで到達した際の電界を表し、符号F1は塗膜層21と腐食層22との界面での反射光電界を表し、符号F2,F3は腐食層22と鋼材23との界面でそれぞれ図5に示す態様で反射した反射光の電界を表す。
【0049】
まず、塗膜層21と腐食層22との界面近傍まで到達した光の電界F0は数式34と数式35とで表されるように反射する。
【数34】

【数35】

ここで、αR:腐食層の吸収係数,
R:腐食層の厚さ,
t:電界透過係数,
r:電界反射係数,
p:反射光の序列(1,2,3,…) をそれぞれ表す。
また、添字F:塗膜層に関する変数であること,
添字R:腐食層に関する変数であること をそれぞれ表す。
【0050】
また、数式34及び数式35において、添字F,Rの表記の順番はパルス波の侵入方向を表す。そして、電界透過係数t,電界反射係数rについて数式36及び数式37の関係が成り立つ。
【数36】

【数37】

ここで、nF:塗膜層の屈折率,
R:腐食層の屈折率 をそれぞれ表す。
【0051】
数式35は、腐食層22近傍に到達した光の電界F0が係数kで反射されるとみることができる。これより、照射光電界がE0のとき、観測される反射光電界Eqは数式38で表される。なお、電界透過係数t,電界反射係数rについては数式36及び数式37を参照のこと。また、空気層については、屈折率nA=1,吸収係数αA=0とする。
【数38】

ここで、αF:塗膜層の吸収係数,
F:塗膜層の厚さ,
q:観測される反射光の序列(1,2,3,…) をそれぞれ表す。
また、添字A:空気層に関する変数であること を表す。
【0052】
数式38の関係から、数式39が導かれる。
【数39】

【0053】
そして、数式39を変形して得られる数式40によって、腐食層22近傍に到達した光の電界の反射に関する係数k(以下、侵入光電界反射係数kという)が求められる。
【数40】

ここで、i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置 を表す。
【0054】
したがって、照射波強度(即ち照射光電界E0)が計測可能であって観測に基づいて照射光の電界の反射に関する係数l(以下、照射光電界反射係数lという)を特定することができれば、数式40によって計測位置(i,j)毎の侵入光電界反射係数ki,jが計算され、更に数式35によって腐食層22の厚さdRi,jが算出される。この場合には、数式40及び数式35を用いるために必要な屈折率nと吸収係数αとについては、被検査物と同一材質の試料を用いて実測したり、被検査物の物性値に基づいて求めたりした値を用いる。
【0055】
また、被検査物の塗膜層21を形成する材質の複素屈折率(屈折率nF,吸収係数αF)が不明である場合は、反射パルス解析から塗膜層21の複素屈折率(屈折率nF,吸収係数αF)と厚さdFとを同時に求めることもできる(例えば、M. Scheller,S. Wietzke,C. Jansen,M. Koch,「Modelling heterogeneous dielectric mixtures in the terahertz regime: a quasi-static effective medium theory」,J. Phys. D,Vol. 42,pp. 65415-65419,2009年 を参照)。
【0056】
また、塗膜層21を形成する材質によっては、既存資料やデータベースなどから複素屈折率(屈折率nF,吸収係数αF)の値を参照することもできる。
【0057】
一方、照射波強度(即ち照射光電界E0)が計測不可能である場合は、照射光電界反射係数lの代わりに、腐食部(即ち、腐食層22が存在している範囲(領域))からの反射光電界Eqを健全部(即ち、腐食層22が存在していない範囲(領域))からの反射光電界Eqで除して、具体的には2次元分布計測値における計測位置(i,j)毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して得られる計測位置毎の電界減衰率mを用いて、数式38を変形して得られる数式41によって計測位置(i,j)毎の侵入光電界反射係数ki,jが求められる。
【数41】

ここで、i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置 を表す。
【0058】
そして、計測位置(i,j)毎の腐食層22の厚さdRi,jが、数式35を変形した数式42によって求められる。
【数42】

【0059】
さらに、本発明における電磁波測定は2次元的に行われて反射強度の2次元分布計測値が得られる一定範囲のスキャン測定であるので、腐食部分の体積Vが数式43によって求められる。
【数43】

ここで、ΔS:面分析における1ピクセルの面積 を表す。
【0060】
また、数式42を数式43に代入することにより、腐食層22の厚さdRi,jを求めることなく腐食部分の体積Vを直接に求める式として数式44が導出される。
【数44】

【0061】
以上の腐食部分の体積の算出原理を踏まえ、塗膜の複素屈折率が得られている場合(S3:Yes)には、制御部11の塗膜層厚さ算出部11cは、S2の処理によって探索された健全鋼材部分における反射強度計測値データを用いて塗膜層の厚さの算出を行う(S4-A)。
【0062】
具体的には、塗膜層厚さ算出部11cは、塗膜の複素屈折率(屈折率nF,吸収係数αF)の値及び照射光電界E0の値の入力を要求する内容のメッセージを表示部14に表示すると共に入力部13によって入力された作業者による値の入力を受ける。そして、塗膜層厚さ算出部11cは、入力された塗膜の複素屈折率(屈折率nF,吸収係数αF)の値及び照射光電界E0の値をメモリ15に記憶させる。
【0063】
塗膜層厚さ算出部11cは、続いて、電界透過係数tFA,tAF及び電界反射係数rFA,rAFを数式36及び数式37を用いて算出する(なお、数式36,数式37におけるnRを空気の屈折率nAにして用いる)。
【0064】
数式36及び数式37を用いるために必要な塗膜の屈折率nFは先に作業者によって入力されてメモリ15に記憶された値を用い、空気の屈折率nAは1とする。なお、数式36及び数式37並びに空気の屈折率nAの値は、本実施形態では、塗膜下鋼材腐食の検出プログラム17に予め規定される。
【0065】
塗膜層厚さ算出部11cは、さらに、S2の処理においてメモリ15に記憶された健全鋼材部分からの反射光電界EUをメモリ15から読み込み、数式38の左辺をこの反射光電界EUにして塗膜層21の厚さdFを算出する。
【0066】
数式38を用いるために必要な塗膜層の吸収係数αF及び照射光電界E0は先に作業者によって入力されてメモリ15に記憶された値を用い、侵入光電界反射係数kはS4-Aの処理では−1とする。なお、数式38並びに侵入光電界反射係数kの値は、本実施形態では、塗膜下鋼材腐食の検出プログラム17に予め規定される。
【0067】
そして、塗膜層厚さ算出部11cは、算出した塗膜層21の厚さdFの値を計測位置(i,j)毎にメモリ15に記憶させる。
【0068】
一方、塗膜の複素屈折率が得られていない場合(S3:No)には、制御部11の反射パルス解析部11dは、S2の処理によって探索された健全鋼材部分における反射強度計測値データを用いて反射パルス解析を行って塗膜の複素屈折率及び厚さを算定する(S4-B)。
【0069】
具体的には、反射パルス解析部11dは、S2の処理においてメモリ15に記憶された健全鋼材部分からの反射光電界EUをメモリ15から読み込み、反射パルス解析を行って塗膜の複素屈折率(屈折率nF,吸収係数αF)及び塗膜層21の厚さdFを算定する。
【0070】
そして、反射パルス解析部11dは、算定した塗膜層21の厚さdFの値を計測位置(i,j)毎にメモリ15に記憶させる。
【0071】
S4-Aの処理若しくはS4-Bの処理(以下、これら二つをまとめてS4の処理と表記する)の次に、制御部11の係数k計算部11eは、S4の処理によって算出・算定された塗膜層の厚さを用い、数式35における侵入光電界反射係数kの計算を行う(S5)。
【0072】
本発明における侵入光電界反射係数kの計算の仕方には、〔ア〕照射波強度(即ち照射光電界E0)が計測可能である場合と、〔イ〕照射波強度(即ち照射光電界E0)が計測不可能である場合との二種類がある。
【0073】
〔ア〕照射波強度(即ち照射光電界E0)が計測可能である場合
この場合には、具体的には、係数k計算部11eは、まず、計測位置(i,j)毎に観測される反射光電界Eqの総計ΣEqを照射光電界E0で除して照射光電界反射係数lを算出する。反射光電界Eqの総計ΣEqの値は、観測される反射光電界Eqの値を計測位置毎に足し合わせた値を用いる。照射光電界E0の値は、例えば、S5の処理の段階で照射光電界E0の値の入力を要求する内容のメッセージを表示部14に表示すると共に入力部13を介して作業者によって入力された値を用いるようにしたり、データファイルとして記憶部12やデータサーバ16に予め記憶された値を用いるようにしたりする。
【0074】
また、係数k計算部11eは、S4の処理においてメモリ15に記憶された塗装膜21の厚さdFの値をメモリ15から読み込み、数式40を用いて計測位置(i,j)毎の侵入光電界反射係数ki,jの値を計算する。
【0075】
なお、数式40を用いるにあたっては、S4-Aの処理において入力された或いはS4-Bの処理において算定された塗膜の屈折率nFを用いて数式36,数式37によって算出された電界透過係数tFA,tAF及び電界反射係数rFA,rAFを用いると共に、S4-Aの処理において入力された或いはS4-Bの処理において算定された塗膜の吸収係数αFを用いる。
【0076】
また、数式40は、、本実施形態では、塗膜下鋼材腐食の検出プログラム17に予め規定される。
【0077】
そして、係数k計算部11eは、計算した侵入光電界反射係数ki,jの値を計測位置(i,j)毎にメモリ15に記憶させる。
【0078】
〔イ〕照射波強度(即ち照射光電界E0)が計測不可能である場合
この場合には、具体的には、係数k計算部11eは、まず、計測位置(i,j)毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して電界減衰率mを算出する。強度が最大であって健全部からのものである反射光電界はS2の処理においてメモリ15に記憶された健全鋼材部分からの反射光電界EUをメモリ15から読み込んで用いる。なお、照射波強度(即ち照射光電界E0)が計測可能である場合でも、以下の手順によって侵入光電界反射係数ki,jの値を計算するようにしても良い。
【0079】
また、係数k計算部11eは、S4の処理においてメモリ15に記憶された塗膜層21の厚さdFの値をメモリ15から読み込み、数式41を用いて計測位置(i,j)毎の侵入光電界反射係数ki,jの値を計算する。
【0080】
なお、数式41を用いるにあたっては、S4-Aの処理において入力された或いはS4-Bの処理において算定された塗膜の屈折率nFを用いて数式36,数式37によって算出された電界透過係数tFA,tAF及び電界反射係数rFA,rAFを用いると共に、S4-Aの処理において入力された或いはS4-Bの処理において算定された塗膜の吸収係数αFを用いる。
【0081】
また、数式41は、本実施形態では、塗膜下鋼材腐食の検出プログラム17に予め規定される。
【0082】
そして、係数k計算部11eは、計算した侵入光電界反射係数ki,jの値を計測位置(i,j)毎にメモリ15に記憶させる。
【0083】
次に、制御部11の腐食層厚さ算出部11fは、S5の処理によって計算された侵入光電界反射係数kの値を用いて腐食層の厚さの算出を行う(S6)。
【0084】
具体的には、腐食層厚さ算出部11fは、被検査物の鋼材の複素屈折率(屈折率nR,吸収係数αR)の値の入力を要求する内容のメッセージを表示部14に表示すると共に入力部13によって入力された作業者による値の入力を受ける。そして、腐食層厚さ算出部11fは、入力された被検査物の鋼材の複素屈折率(屈折率nR,吸収係数αR)の値をメモリ15に記憶させる。
【0085】
腐食層厚さ算出部11fは、続いて、電界透過係数tFR,tRF及び電界反射係数rFR,rRFを数式36及び数式37を用いて算出する。なお、塗膜の屈折率nFはS4-Aの処理において入力された或いはS4-Bの処理において算定された値を用いる。
【0086】
腐食層厚さ算出部11fは、さらに、S5の処理においてメモリ15に記憶された計測位置(i,j)毎の侵入光電界反射係数ki,jの値をメモリ15から読み込み、数式42によって計測位置(i,j)毎の腐食層22の厚さdRi,jを算出する。
【0087】
そして、腐食層厚さ算出部11fは、算出した腐食層22の厚さdRi,jの値を計測位置(i,j)毎にメモリ15に記憶させる。
【0088】
次に、制御部11の腐食部分体積算出部11gは、S6の処理によって算出された腐食層の厚さの値を用いて腐食部分の体積の算出を行う(S7)。
【0089】
具体的には、腐食部分体積算出部11gは、S6の処理においてメモリ15に記憶された計測位置(i,j)毎の腐食層22の厚さdRi,jの値をメモリ15から読み込み、数式43によって腐食部分の体積Vを算出する。
【0090】
なお、数式43及びピクセル面積ΔSの値は、本実施形態では、塗膜下鋼材腐食の検出プログラム17に予め規定される。
【0091】
そして、制御部11は、算出された腐食部分の体積Vの値を処理結果として記憶部12やデータサーバ16に格納される結果ファイルに追加記録したり、表示部14に表示したりし、腐食部分の体積の算出処理を終了する(END)。
【0092】
以上の構成を有する本発明の塗膜下鋼材腐食の検出方法、検出装置及び検出プログラムによれば、被検査物の塗膜層21下における鋼材23の腐食層22部分の体積を非破壊で算出することができるので、鋼材の腐食への対策として例えば腐食進行防止の方策や鋼材(部品)交換の要否を検討する際に必要とされる情報を十分に提供することが可能になり、鋼材の腐食検出の有用性及び汎用性の向上が可能になる。
【0093】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、S6の処理において数式42によって腐食層22の厚さdRi,jを算出してからS7の処理において数式43によって腐食部分の体積Vを算出するようにしているが、これに限られず、S5の処理において計算した侵入光電界反射係数ki,jを用いて数式44によって腐食部分の体積Vを算出するようにしても良い。この場合には、S5の処理までは上述の実施形態と同じであり、S6の処理として、制御部11の腐食部分体積算出部11gが、S5の処理においてメモリ15に記憶された計測位置(i,j)毎の侵入光電界反射係数ki,jの値をメモリ15から読み込み、数式44によって腐食部分の体積Vの算出を行うようにする。なお、この場合には、腐食層厚さ算出部11fは不要である。
【0094】
また、本発明者の知見に基づく本発明の要点は、
i−ア)テラヘルツの周波数の電磁波を用いた電磁波測定によって得られた反射光電界の総計を照射光電界で除して算出される照射光電界反射係数l(照射光の電界の反射に関する係数)を用いて数式40によって算出される侵入光電界反射係数k(腐食層近傍に到達した光の電界の反射に関する係数)を用いること
若しくは、
i−イ)テラヘルツの周波数の電磁波を用いた電磁波測定によって得られた反射光電界を強度最大の反射光電界で除して算出される電界減衰率mを用いて数式41によって算出される侵入光電界反射係数k(腐食層近傍に到達した光の電界の反射に関する係数)を用いること
並びに、
ii−a)上記侵入光電界反射係数kを用いて数式42によって腐食層の厚さdRを算出すると共に当該腐食層の厚さdRを用いて数式43によって腐食部分の体積Vを算出すること
若しくは、
ii−b)上記侵入光電界反射係数kを用いて数式44によって腐食部分の体積Vを算出すること
である。
【0095】
したがって、上記i),ii),iii-a)若しくはiii-b)以外の構成は適宜変更しても構わない。具体的には例えば、上述の実施形態のS4の処理については、数式41〜44を用いる際に必要とされる変数値が得られれば、上述の実施形態のS4の内容に限られるものではない。
【0096】
また、本発明者らは、塗膜下における鋼材の腐食の検出に関する検討を行う中で、周波数が大凡100〔GHz〕〜10〔THz〕程度の範囲の高周波の電磁波を用いて電磁波測定を行うと、錆などによる腐食部分では健全部分と比べて反射光の強度が有意に変化し、錆などによる腐食の種類と電磁波反射光強度との間には関係があることを知見し、そして、高周波の電磁波を用いた電磁波測定によって得られる反射吸光度スペクトルから錆などによる腐食の種類を同定できることを知見するに至った。なお、腐食の種類と電磁波反射光強度との間の関係は、例えば鉄錆には様々な結晶形態が存在するところ、テラヘルツ領域の分子振動は結晶構造に敏感であるのでこの結晶構造が異なると異なる吸収特性を示すことに基づくものであると考えられる。
【0097】
具体的には、落射型光源を用いて反射吸光度スペクトルを計測する。なお、落射型光源としては、例えばフーリエ変換赤外分光に用いられる光源が挙げられ、また、THz波用光源から同様の電磁波を放出することを実現するようにしても良い。
【0098】
そして、計測によって得られた反射吸光度スペクトルを腐食の種類毎のスペクトルとパターン照合することによって腐食の種類の同定が可能である。なお、腐食の種類毎のスペクトルの例としては、図6に示すような、鉄錆の種類毎の吸光度スペクトルを予め準備しておき、被検査物における腐食としての鉄錆の種類を同定することが考えられる。なお、予め準備しておく吸光度スペクトルは図6に示す例に限定されるものではなく、被検査物について想定される錆の種類毎の吸光度スペクトルを適宜準備しておくようにする。
【0099】
なお、図6に示す鉄錆の種類毎のスペクトルとパターン照合することによって鉄錆の種類を同定することを目的とする場合には、パターンの差違がより一層顕著に表れるようにするため、波長が300〔cm-1〕以下の落射型光源を用いることが好ましい。
【0100】
上述の塗膜下鋼材腐食の検出によれば、被検査物の塗膜下における鋼材の腐食の種類を非破壊で同定することができるので、鋼材の腐食への対策として例えば腐食進行防止の方策や鋼材(部品)交換の要否を検討する際に必要とされる情報を十分に提供することが可能になり、鋼材の腐食検出の有用性及び汎用性の向上が可能になる。
【符号の説明】
【0101】
10 塗膜下鋼材腐食の検出装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 表示部
15 メモリ
16 データサーバ
17 塗膜下鋼材腐食の検出プログラム
18 反射強度データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に前記塗膜層を介在させて電磁波測定を行って反射強度の2次元分布計測値を得て、
〔ア〕当該2次元分布計測値における前記計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して前記計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式1
【数1】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求め、
若しくは、
〔イ〕当該2次元分布計測値における前記計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して前記計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式2
【数2】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求め、
当該係数ki,jを用いて数式3
【数3】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数
によって前記計測位置(i,j)毎に前記被検査物の前記塗膜層下の鋼材の腐食層の厚さdRi,jを求め、当該腐食層の厚さdRi,jを用いて数式4
【数4】

ここで、ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって前記被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求めることを特徴とする塗膜下鋼材腐食の検出方法。
【請求項2】
周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に前記塗膜層を介在させて電磁波測定を行って反射強度の2次元分布計測値を得て、
〔ア〕当該2次元分布計測値における前記計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して前記計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式5
【数5】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求め、
若しくは、
〔イ〕当該2次元分布計測値における前記計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して前記計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式6
【数6】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求め、
当該係数ki,jを用いて数式7
【数7】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数,
ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって前記被検査物の前記塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求めることを特徴とする塗膜下鋼材腐食の検出方法。
【請求項3】
周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に前記塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の2次元分布計測値データを読み込む手段と、
〔ア〕当該2次元分布計測値における前記計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して前記計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式8
【数8】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段と、
若しくは、
〔イ〕前記2次元分布計測値データにおける前記計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して前記計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式9
【数9】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段と、
当該係数ki,jを用いて数式10
【数10】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数
によって前記計測位置(i,j)毎に前記被検査物の前記塗膜層下の鋼材の腐食層の厚さdRi,jを求める手段と、当該腐食層の厚さdRi,jを用いて数式11
【数11】

ここで、ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって前記被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める手段とを有することを特徴とする塗膜下鋼材腐食の検出装置。
【請求項4】
周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に前記塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の2次元分布計測値データを読み込む手段と、
〔ア〕当該2次元分布計測値における前記計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して前記計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式12
【数12】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段と、
若しくは、
〔イ〕前記2次元分布計測値データにおける前記計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して前記計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式13
【数13】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段と、
当該係数ki,jを用いて数式14
【数14】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数,
ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって前記被検査物の前記塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める手段とを有することを特徴とする塗膜下鋼材腐食の検出装置。
【請求項5】
周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に前記塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の2次元分布計測値データを読み込む手段、
〔ア〕当該2次元分布計測値における前記計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して前記計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式15
【数15】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段、
若しくは、
〔イ〕前記2次元分布計測値データにおける前記計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して前記計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式16
【数16】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段、
当該係数ki,jを用いて数式17
【数17】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数
によって前記計測位置(i,j)毎に前記被検査物の前記塗膜層下の鋼材の腐食層の厚さdRi,jを求める手段、当該腐食層の厚さdRi,jを用いて数式18
【数18】

ここで、ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって前記被検査物の塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める手段としてコンピュータを機能させるための塗膜下鋼材腐食の検出プログラム。
【請求項6】
周波数が100〔GHz〕〜10〔THz〕の範囲の電磁波を用いて被検査物の塗膜層表面の2次元的な計測位置毎に前記塗膜層を介在させて電磁波測定を行って得られた反射強度の2次元分布計測値データを読み込む手段、
〔ア〕当該2次元分布計測値における前記計測位置毎の反射光電界の総計を照射光電界で除して前記計測位置毎に照射光電界反射係数lを求めると共に当該照射光電界反射係数lを用いて数式19
【数19】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段、
若しくは、
〔イ〕前記2次元分布計測値データにおける前記計測位置毎の反射光電界を強度が最大の反射光電界で除して前記計測位置毎に電界減衰率mを求めると共に当該電界減衰率mを用いて数式20
【数20】

ここで、αF:被検査物の塗膜層の吸収係数,
F:被検査物の塗膜層の厚さ,
AF:空気層から塗膜層への電界透過係数,
FA:塗膜層から空気層への電界透過係数,
AF:空気層から塗膜層への電界反射係数,
FA:塗膜層から空気層への電界反射係数,
i,j:被検査物表面における2次元的な計測位置(i,j)を表す識別子
によって前記計測位置(i,j)毎に係数ki,jを求める手段、
当該係数ki,jを用いて数式21
【数21】

ここで、αR:被検査物の腐食層の吸収係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界透過係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界透過係数,
FR:塗膜層から腐食層への電界反射係数,
RF:腐食層から塗膜層への電界反射係数,
ΔS:面分析における1ピクセルの面積
によって前記被検査物の前記塗膜層下の鋼材の腐食部分の体積Vを求める手段としてコンピュータを機能させるための塗膜下鋼材腐食の検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53916(P2013−53916A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192043(P2011−192043)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】