説明

塗膜形成方法、塗膜形成装置及び無端ベルトの製造方法

【課題】芯体外面の所望の箇所にだけ塗膜を形成することができる塗膜形成方法、該形成方法に用いる塗膜形成装置、及び該形成方法による無端ベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】底部に挿通穴を有する塗布槽と、前記挿通穴の内側に上下動させることが可能な筒状のシャッター部材と、を具備する塗膜形成装置、及び該塗膜形成装置を用い、前記シャッター部材の内側に芯体を通し、前記芯体を上昇させて前記塗布槽に貯留された塗液を芯体外面へ塗布すると共に、前記シャッター部材を上下動させることによって前記芯体外面への塗液の供給を制御する塗膜形成方法、並びに該塗膜形成方法を用いて皮膜形成樹脂溶液からなる塗膜を芯体外面に形成する無端ベルトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、底部に挿通穴を有する塗布槽を用いた芯体外面への塗膜形成方法、該塗膜形成方法に用いる塗膜形成装置、及び該塗膜形成方法を用い、特に複写機、プリンター等の電子写真方式を利用した画像形成装置に好ましく用いられる無端ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芯体の外面に皮膜形成樹脂溶液を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を加熱乾燥して樹脂皮膜を形成した後、該樹脂皮膜を芯体から抜き取る無端ベルトの製造方法としては、本発明者らが提案した、環状体を使用し高粘度の溶液の膜厚を制御する方法(例えば、特許文献1参照)などがある。
この方法では、芯体中央部分に形成された皮膜から無端ベルトを得るのであるが、塗膜は芯体の全面に形成されるので、無駄になる部分が生じていた。また、塗膜が芯体の全面に形成されると、皮膜を芯体から抜き取るにくくなる問題があるため、図1に示すように、塗膜を形成する前の芯体1A両端部の外周に粘着テープ11を貼り付け、加熱乾燥後に粘着テープと共に樹脂皮膜の端部を剥離して、樹脂皮膜の端部と芯体1Aとの間に隙間を設ける作業が行われる。皮膜を芯体1Aから抜き取る時には、必要に応じて隙間に加圧空気を吹き込んで、芯体1Aから樹脂皮膜を抜き取りやすくすることも行われる。この方法で樹脂皮膜は抜き取りやすくなるのであるが、粘着テープを貼り付けたり剥がすのに手間がかかるので、芯体の必要部分にだけ塗膜を形成し、かつ芯体に粘着テープを貼り付けないでもよい方法が望まれていた。
【0003】
一方、環状体を使用せずとも、垂直塗布方法においては、芯体端部に塗布をしないようにすることは従来からの課題であり、端部への塗布を止めるための手段として、塗液を排出する方式(例えば、特許文献2参照)、環状塗布機構の吐出口の径を拡大する方式(例えば、特許文献3参照)、環状スリットへの塗液の供給を制御する方式(例えば、特許文献4及び5参照)などが提案されているが、設備構成や機械的制御方式に一長一短があり、特に、液を出し入れする方式では、気泡が生じやすいとの欠点があって、槽内へ塗液を任意に出し入れするのが困難であり、他の確実な方式が望まれていた。
【0004】
一方、塗膜の表面性が重視されるものの塗布には、浸漬塗布法が主に採用されている。但し、浸漬塗布法では、塗布槽に溜める液量を多く必要とするので、液量を少なくしたい場合には、やはり環状塗布方法が適している。但し、基体の全面に塗膜が形成されるので、基体端部の塗膜は、何らかの拭き取り部材で除去する(例えば、特許文献6参照)のが一般的であった。しかしながら、作業工程が増加するので、端部に塗膜を形成しない塗布方法が望まれていた。
【特許文献1】特開2002−91027号公報
【特許文献2】特開平11−188296号公報
【特許文献3】特開2004−97896号公報
【特許文献4】特開2004−291367号公報
【特許文献5】特開2004−330089号公報
【特許文献6】特開2002−123008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来における欠点を解決することを目的とする。即ち、本発明の目的は、芯体外面の所望の箇所にだけ塗膜を形成することができる塗膜形成方法、該形成方法に用いる塗膜形成装置、及び該形成方法による無端ベルトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来における課題は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明の塗膜形成方法は、
<1> 塗布槽の底部に設けられた挿通穴の内側に、上下動させることが可能な筒状のシャッター部材を設け、前記シャッター部材の内側に芯体を通し、前記芯体を上昇させて前記塗布槽に貯留された塗液を芯体外面へ塗布すると共に、前記シャッター部材を上下動させることによって前記芯体外面への塗液の供給を制御することを特徴とする塗膜形成方法である。
【0007】
前記シャッター部材は、上昇させた状態では芯体を覆い隠すようにして芯体と塗液との間に介在し、芯体への塗液の塗布(供給)を遮断する。一方下降させた状態では芯体と塗液との間には介在しないため、芯体への塗液の塗布が行われる。従って、芯体を上昇させて塗布を行う際に、前記シャッター部材を任意のタイミングで上下動させることによって、所望の領域にのみ塗膜を形成することができる。
【0008】
<2> 前記塗液の粘度が1Pa・s以上100Pa・s以下であり、前記シャッター部材の厚みが、前記芯体外面に前記塗液が塗布されて形成された膜の濡れ膜厚よりも薄いことを特徴とする前記<1>に記載の塗膜形成方法である。
<3> 最小の内径が、前記シャッター部材の上端の外径よりも小さく且つ前記芯体の外径よりも大きい環状体を、前記塗液の液面よりも上の位置にて前記シャッター部材の上端と前記環状体内面とが接触可能なよう配置し、前記芯体外面への塗液の供給は、前記シャッター部材の上端と前記環状体内面とが離間し、該シャッター部材の上端が前記塗液の液面より下に下降して行われ、塗液の供給の遮断は、前記シャッター部材を上昇させ、前記シャッター部材の上端と前記環状体内面とが接触して行われることを特徴とする前記<1>又は<2>に記載の塗膜形成方法である。
【0009】
また、本発明の塗膜形成装置は、
<4> 底部に挿通穴を有する塗布槽と、前記挿通穴の内側に上下動させることが可能な筒状のシャッター部材と、を具備することを特徴とする塗膜形成装置である。
<5> 前記シャッター部材の内面に、前記芯体表面と接触し、超高分子量オレフィンを含んでなる接触部材を有することを特徴とする前記<4>に記載の塗膜形成装置である。
<6> 前記挿通穴の内側に、超高分子量オレフィンを含んでなる環状シール材を設けることを特徴とする前記<4>または<5>に記載の塗膜形成装置である。
<7> 前記シャッター部材の内面に、クッション層を有することを特徴とする前記<4>〜<6>の何れか1項に記載の塗膜形成装置である。
<8> 塗膜を形成する芯体の外径よりも大きな内径の円孔が設けられている環状体を
具備することを特徴とする前記<4>〜<7>の何れか1項に記載の塗膜形成装置である。
【0010】
更に、本発明の無端ベルトの製造方法は、
<9> 前記<1>に記載の塗膜形成方法を用いて皮膜形成樹脂溶液からなる塗膜を芯体外面に形成し、該塗膜を加熱乾燥して樹脂皮膜を形成した後、該樹脂皮膜を芯体から抜き取ることを特徴とする無端ベルトの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芯体上に必要な箇所にだけ塗膜を形成することができ、材料や工数に無駄がなくなり、特に無端ベルトの製造に用いた場合等に工程の効率化に貢献することができる。本発明の塗膜形成方法は、例えば無端ベルトの製造や、有機感光体ドラムの製造等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の塗膜形成方法は、塗布槽底部の挿通穴内側に設けられた筒状のシャッター部材を任意のタイミングで上下動させることにより、塗布槽に貯留された塗液の芯体外面への塗布(供給)を制御することを可能とするものである。前記本発明の塗膜形成方法は、例えば無端ベルトの製造や、有機感光体ドラムの製造等に好適に用いることができる。
上記塗膜形成方法に用いる塗膜形成装置は、底部に挿通穴を有する塗布槽と、前記挿通穴の内側に、上下動させることが可能な筒状のシャッター部材と、を具備することを特徴とし、また特に無端ベルトの製造等に用いる場合などにおいては、塗膜の膜厚を制御するため、塗膜を形成する芯体の外径よりも大きな内径の円孔が設けられている環状体を設けることができる。
【0013】
以下、本発明の塗膜形成装置及び塗膜形成方法を、図面を用いて一例を示しつつ詳細に説明する。
まず、本発明の塗膜形成装置に更に環状体を設けた環状塗布装置の断面図を、図2に示す。図2に示す環状塗布装置は、底部に挿通穴を有する環状塗布槽7にシャッター部材10を取り付け、溶液2を入れた状態である。シャッター部材10の内側には下方から芯体1を挿入して設置し、環状塗布槽7とシャッター部材10の接点(挿通穴の内側)には環状シール材8を設ける。
【0014】
上記環状シール材8は、環状塗布槽7の底部の挿通穴とシャッター部材10との間隙から溶液2が漏れることを防止する観点で設けられる部材であり、シャッター部材10を通す円孔を有する。環状シール材8の円孔の内径は、シャッター部材10の外径と同じかわずかに小さいことが好ましく、シャッター部材10外径に対する環状シール材8内径の比は90%以上100%以下が好ましい。該環状シール材8の材質は、溶剤に侵されることなく、低摩擦で磨耗しにくいものが好ましく、例えばポリエチレンやポリプロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等の単独重合体、共重合体またはこれらの混合物のポリオレフィンが挙げられるが、これらの中では、高強度の観点から超高分子量オレフィンが好ましく用いられる。
【0015】
ここで、前記超高分子量オレフィンとは、粘度平均分子量が100万以上のポリオレフィンをさす。上記粘度平均分子量は、ASTMD4020に規定の粘度法により測定することができ、本明細書中に記載の粘度平均分子量は当該方法によって測定された値である。上記超高分子量オレフィンは、JIS K7367−3(1999年)に規定される極限粘度数〔η〕が、25dl/g以上28dl/g以下であるものが好ましい。
前記超高分子量オレフィンは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等の単独重合体、共重合体またはこれらの混合物等が挙げられ、これらの中では、高強度の観点から超高分子量ポリエチレンが特に好ましく用いられる。
【0016】
超高分子量オレフィンは、その巨大な分子量に起因する物理的強度、化学的安定性の増大により、耐摩耗性・耐衝撃性・低摩擦係数・自己潤滑性・耐薬品性・低温特性などが非常に優れている。環状シール材8に超高分子量オレフィンを用いることで、シャッター部材10を繰り返し上下させて環状シール材8と接触させても、磨耗粉を生じることは全くない。また、超高分子量オレフィンに柔軟性を付与するために、多孔質のものを用いることも好ましい。尚、多孔質のものを用いる場合には、該多孔を通じて溶液2が漏れることを防止する観点から、多孔質でないシール材と張り合わせて用いることもできる。
【0017】
また、シャッター部材10としては、その上下への動作を制御する観点から、下端付近(常に環状塗布槽7より下方にある部分)にアーム(不図示)等を備えた態様(以下、シャッター部材と上下動させる機構とを備えた装置を「シャッター開閉器」と呼ぶ)が好ましい。
【0018】
溶液2上には、塗膜の膜厚を制御する環状体5を設置する。環状体5には、停止時の環状体5を支えるための腕6を必要により取り付ける。環状体5の内面は、溶液に浸る下部が広く、上部が狭い形状であれば、図2に示すような直線的傾斜面のほか、階段状や曲線的でもよい。また真円度を高く加工するために、中央の円孔内面の上部には、芯体と平行になる部分があってもよい。
【0019】
尚、図2に示す環状体5は、最も小さい内径を有する部分(円孔)が、前記シャッター部材10の上端の外径よりも小さく、且つ芯体1の外径よりも大きく設定されており、また、溶液2の液面よりも上の位置にて前記シャッター部材10の上端と環状体5の内面とが接触可能な態様で配置されている。
【0020】
次いで、図2に記載の環状塗布装置の動作について説明する。尚、本願において「芯体を上昇させ」とは塗布槽に対して相対的に上昇させることを意味し、芯体を固定して塗布槽を下降させる場合を含む。また、「シャッター部材を上下動させ」とは塗布槽及び/又は芯体に対して相対的に上下動させることを意味し、シャッター部材を固定して塗布槽及び/又は芯体を上下動させる場合を含む。
【0021】
塗布を開始する際は、図3に示すように、芯体1の下に他の芯体1D(これはベルトを作製しない中間体でもよい)をつないでシャッター部材10を下降させ、シャッター部材10の上端が溶液2の液面より下に位置する箇所にまで移動させる。これにより芯体1には上端部を除いて溶液2が供給され、芯体1表面に付着する。
【0022】
次いで図4に示すように、芯体1及び1Dを環状塗布槽7の下部から上部に押し上げる(あるいは環状塗布槽7を下降させる)。その際、溶液2は粘性によって芯体1と共に持ち上げられ、環状体5の内側を満たすと同時に、環状体5も溶液2の摩擦抵抗によって持ち上げられ、膜厚が環状体5の円孔と芯体1との隙間によって一定値に規制されながら、塗膜4が形成される。塗布時の芯体1の速度は、0.1m/min以上1.5m/min以下程度が好ましい。
【0023】
芯体1の塗布部分(塗膜を形成しようとする領域)の下端がシャッター部材10の上端まで進んだら、図5に示すように、芯体1の非塗布部分(塗膜を形成しない端部領域)を覆い隠す状態で、芯体1と共にシャッター部材10を上昇させる。その際、芯体1の上昇速度は徐々に遅くするのが好ましい。次いで芯体1及びシャッター部材10が所望の位置まで上昇したら停止させ、図6に示すように、溶液の液面を低下させると共に、環状体5も最初の位置に下降させる。この際、環状体5の下降に伴って環状体5の内面とシャッター部材10の上端とが接触することが好ましく、接触して隙間が閉じられることにより塗膜4の垂れを効果的に防止し、芯体1の非塗布部分への溶液2の付着を確実に防ぐことができる。
【0024】
最後に図7に示すように、芯体1を取り外す。芯体1の下端部は、シャッター部材10によって液面と遮断されているので、塗膜は形成されておらず、本発明の目的は達成される。塗膜を形成しない芯体の上下端部の長さは任意であるが、長すぎると余分に長い芯体を用意しなくてはならなくなるので、1cm以上5cm以下程度が好ましい。
【0025】
その後は、図2の状態に戻り、次の塗布が行われる。環状塗布槽7内に溶液を追加する場合、複数の送液チューブを通じて任意のポンプで供給するのが好ましい。
【0026】
(シャッター部材)
ここで、前記シャッター部材についてより詳細に説明する。
本発明におけるシャッター部材は、前述の通り、その上下への動作を制御する観点から、下端付近(常に環状塗布槽より下方にある部分)等にアーム等を備えたシャッター開閉器として用いることが好ましい。また、本発明に用いられるシャッター部材は、特に、図8(A)及び(B)に斜視図、断面図を示すような態様であることが好ましい。
図8に記載のシャッター部材100は、壁面をなすシャッター部材筒状部102の内側の上端部に、液もれ(溶液の内側への入り込み)を防ぐための、芯体表面との接触が容易な接触部材103が設けられている。接触部材103の材質は、溶剤に侵されることなく、低摩擦で磨耗しにくいものが好ましく、例えば前記環状シール材8に用いた材料と同じく、ポリエチレン、ポリプロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等の単独重合体、共重合体またはこれらの混合物等のポリオレフィンが挙げられるが、ポリオレフィンの中でも超高分子量オレフィンが好ましい。超高分子量オレフィンの中でも、高強度の観点から超高分子量ポリエチレンが特に好ましく用いられる。
接触部材103に超高分子量オレフィンを用いることで、シャッター部材100を繰り返し上下させて芯体外面と接触させても、磨耗粉を生じることはない。また、超高分子量オレフィンに柔軟性を付与するために、多孔質のものを用いることも好ましい。
【0027】
また、接触部材103の厚さは0.05mm以上1mm以下が好ましい。接触部材103の幅(図8上下方向の高さ)は、0.5mm以上10mm以下が好ましい。その幅が小さすぎると液漏れの虞があり、大きすぎると摩擦が大きくなるほか、上下動作に無効幅が多くなる。なお、液の粘度が1Pa・s以上の場合には、気泡を巻き込むことがあるので、液漏れが起こりにくくなることもあり、幅は小さい方が好ましく、1.0mm以上5mm以下がより好ましい。
【0028】
シャッター部材筒状部102の材質は、アルミニウムやステンレス等の金属、あるいはポリエチレンやポリオキシメチレン樹脂(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等、溶液に侵されにくいプラスチックが好ましい。
【0029】
シャッター部材筒状部102は、これを上下させる際に接触部(接触部材103と芯体1とが接触している部分の上端)で気泡を巻き込みやすい。また、上下させる際の体積の変化によって液面が変動し、液の粘度が高い場合には気泡を巻き込む等の問題を生じやすい。そこで、シャッター部材100の厚さは0.05以上2mm以下が好ましく、特に溶液2の粘度が1Pa・s以上100Pa・s以下の場合には、塗膜(芯体1外面に溶液2が塗布されて形成された液体の膜であり、図4〜7に示す塗膜4)の濡れ膜厚よりも薄いことが好ましい。シャッター部材100の厚さが塗膜の濡れ膜厚よりも薄ければ、シャッター部材100が上下しても、液面の変動は、溶液2が消費されて変動する分と大差なく小さくできるので、気泡の巻き込み効果的に抑制することができる。
尚、上記シャッター部材100の厚さとは、
{(シャッター部材100上端の外径)−(シャッター部材100上端の内径)}/2
で表される値であり、図8の構造の場合にはシャッター部材筒状部102の厚みに加え接触部材103の厚みも含まれる。
【0030】
尚、前記塗膜の濡れ膜厚(μm)は、乾燥後の皮膜の膜厚(μm)と、塗液の固形分濃度(質量%)から計算することができる。
濡れ膜厚=乾燥後の皮膜の膜厚÷(固形分濃度/100)
上記乾燥後の膜厚の測定は、渦電流式膜厚計(サンコー電子社製、渦電流式膜厚計CTR−1500E)を用い、同一試料について5回測定を行い、その平均値を膜厚とした。
【0031】
また、前記溶液2の粘度は、以下の方法によって測定された値である。
東機産業(株)製の回転粘度計RE80U(ローター:3°×R14を使用して、5rpmの条件下、25℃、55%RHの測定環境)を用いて測定することができる。
【0032】
シャッター部材筒状部102の内径は、芯体の外径より接触部材103の厚さ分だけ大きくし、シャッター部材筒状部102の高さは環状塗布槽と同程度にするのが好ましい。
【0033】
また、シャッター部材筒状部102の内面には、接触による芯体の傷付き等を防止する観点から、図8(B)に示すクッション層104を設けることも好ましく、例えばフッ素樹脂テープを内面に貼り付けたり、離型性樹脂を塗布する等の方法により設けることができる。該離型性樹脂としては、後述するフッ素樹脂等の離型性樹脂(無端状ベルトの表面に塗布される離型性樹脂)が好適なものとして挙げられる。また、クッション層104として、前述の超高分子量オレフィンをシートとして貼り付けてもよい。クッション層104の厚さは、前記接触部材103の厚さと同じかそれよりも薄いことが好ましく、0.025mm以上0.5mm以下が好ましい。また、クッション層104の幅(上下方向の高さ)は任意であるが、1mm以上20mm以下程度が好ましい。
【0034】
(芯体)
次いで、本発明に用いられる芯体について述べる。本発明の塗膜形成方法には、塗膜を形成できるものであればいかなる芯体を用いてもよく、その形状も筒状又は柱状のものであれば特に限定されるものではない。
しかし、特に本発明の無端ベルトの製造方法に用いる芯体としては、アルミニウムやステンレス等の金属製のものが好ましい。アルミニウムの場合は、表面にニッケルやクロム等の硬い金属をメッキするのが好ましい。芯体の長さは、目的とする無端ベルトの長さより、10%以上40%以下程度長いことが望ましい。芯体の外径は無端ベルトの直径に合わせ、芯体の肉厚は芯体としての強度が保てる厚さにする。芯体の両側には、芯体を保持する保持板を取り付けてもよい。保持板には、必要に応じて通風孔や、中央に心棒を通す穴、または軸があってもよい。また、吊り下げや設置のための部品を取り付けてもよい。
【0035】
皮膜形成樹脂の種類によっては、加熱時に溶剤の揮発物や、反応時に発生する気体のために、加熱後の樹脂皮膜には部分的に膨れを生じることがある。膨れを防止するには、特開2002−160239号公報開示の如く、芯体表面はブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法で、中心線平均粗さ(Ra)0.2μm以上2μm以下程度に粗面化するのが好ましい。これにより、加熱時に生じる気体は、芯体と樹脂皮膜の間に形成されるわずかな隙間を通って外部に出ることができ、膨れを生じない。また、樹脂皮膜が接着しないよう、芯体表面にはシリコーン系やフッ素系の離型剤を塗布するのが好ましい。
【0036】
さらに、皮膜の端部が芯体の外面に密着する事がなく、間隙に加圧空気を吹き込むことにより、容易に樹脂皮膜を芯体から抜き取ることができるようにするために、図9(A)に示すように、芯体1Bの上下端部に、離型性樹脂被膜14を形成するのも効果的である。これにより、芯体1B表面に図9(B)に示すように樹脂皮膜3を形成しても、芯体端部に離型性樹脂被膜14があるために皮膜3の端部が芯体1Bに密着せず、該皮膜3端部に加圧空気を吹き付けると芯体1Bとの間に容易に隙間15ができ、そこから更に加圧空気を吹き込むことが可能になり、皮膜3の抜き取りを容易にすることができる。この場合、皮膜形成樹脂溶液は、離型性樹脂被膜14の一部を覆うように塗布するのがよいが、その長さは2mm以上20mm以下程度、特に3mm以上15mm以下程度が好ましい。
【0037】
離型性樹脂被膜14の幅(芯体1Bの軸方向における長さ)は1cm以上10cm以下程度、特に2cm以上8cm以下程度が好ましい。また、その厚さは5μm以上60μm以下、特に10μm以上40μm以下程度が好ましい。芯体1Bに離型性樹脂被膜14を設ける部分は、前記厚さの分、外径を小さくして、離型性樹脂被膜14を設けて段差が生じないようにすることも有効である。
【0038】
ここで用いる離型性樹脂には、定着ベルトの表面層に用いられる従来公知の離型性樹脂を適用することができ、フッ素樹脂や、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が好ましく挙げられる。フッ素樹脂としてはポリテトラフロロエチレン(PTFE、融点327℃)、テトラフロロエチレン・パーフロロアルキルエーテル共重合体(PFA、融点310℃)、テトラフロロエチレン・ヘキサフロロプロピレン共重合体(FEP、融点275℃)、エチレン・テトラフロロエチレン共重合体(ETFE、融点270℃)、エチレン・モノクロロトリフロロエチレン共重合体(ECTFE、融点245℃)等があるが、皮膜形成樹脂がポリイミド(ポリイミド)樹脂の場合は加熱温度が300℃程度必要なので、これらの中ではPTFEやPFAが好ましい。フッ素樹脂はその粒子を水に分散して芯体端部に塗布し、融点以上の温度で焼き付け処理することにより、被膜を形成することができる。離型性樹脂の密着性を向上させるために、芯体上に適宜プライマーを塗布してもよい。
【0039】
なお、離型性樹脂の離型性が強すぎて、その上に塗布した皮膜形成樹脂溶液がはじかれてしまう場合には、皮膜形成樹脂溶液の親和性を良くするために、離型性樹脂の中に、例えば特開2000−338797号公報に記載されているような熱伝導性粉体や導電性粉体、あるいは特開2004−86202号公報に記載されているような無機充填材を含有させるのが好ましい。その中で特に好ましい材料として、カーボンブラック、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタンが挙げられる。これらは複数を入れてもよいが、合計の含有量は、離型性樹脂の0.5質量%以上15質量%以下程度が好ましい。
【0040】
さらに、離型性樹脂の離型性を確実にするために、図10に示すように、離型性樹脂被膜14の芯体軸方向中央側に、離型性樹脂被膜14よりも皮膜形成樹脂溶液との親和性を良くした(例えば、上記無機充填材の含有量を多くした)第二の離型性樹脂被膜16を設けた芯体も好ましく用いることができる。この場合、離型性樹脂被膜14の上では皮膜形成樹脂溶液がはじかれ、第二の離型性樹脂被膜16の上では皮膜形成樹脂溶液がはじかれないように、各離型性樹脂被膜の離型性を調整するのがよい。このようにすると、離型性樹脂被膜14の上ではじいた皮膜形成樹脂溶液が、第二の離型性樹脂被膜16の方に寄っていき、第二の離型性樹脂被膜16上の皮膜形成樹脂溶液が多くなり、結果的に第二の離型性樹脂被膜16上にでき上がる皮膜形成樹脂が厚くなるため、皮膜端部に加圧空気を吹き付ける際、破れにくくなるという効果もある。
【0041】
(塗膜形成溶液)
本発明に用いる塗膜形成溶液(塗液)としては、塗膜を形成できるものであればいかなる溶液を用いてもよく、特に限定されるものではない。
【0042】
(1)ポリイミド系樹脂
特に本発明の無端ベルトの製造方法に用いられる塗液(皮膜形成樹脂)の材料としては、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂が好ましい。ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂としては、種々の公知のものを用いることができる。ポリイミドの場合は、その前駆体を塗布することになる。それらの溶剤としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、等の非プロトン系極性溶剤が好ましい。溶液の濃度・粘度等は適宜選択されるが、本発明に好ましい溶液の固形分濃度は10質量%以上40質量%以下、粘度は1Pa・s以上100Pa・s以下である。
【0043】
なお、端部に離型性樹脂被膜を形成した前述の芯体を使用する場合、ポリイミド樹脂のイミド化に要する加熱温度は、前述した離型性樹脂の融点(300℃前後)より低い温度とすることが好ましい。そのような条件を満たす材料としては、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(置換基の位置はどこでも可)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリイミドや、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリイミドが好ましい。
【0044】
(2)離型性樹脂
また、上記ポリイミド系樹脂製の無端ベルトの表面や、その他の芯体表面に離型性樹脂層を形成する場合にも、本発明の塗膜形成方法を適用することができる。無端ベルト表面に塗布を行う場合には、無端ベルトを前述の芯体に嵌め込んだ基材を準備し、この基材表面に前述の塗膜形成方法によって塗布を行う。
塗布される離型性樹脂としては、例えばトナーに対して非粘着性の材料からなる樹脂が挙げられる。非粘着材料としては、前述の芯体表面に設けた離型性樹脂被膜14と同様、例えば、特開平9−22212号公報や特開平11−338283号公報に記載のフッ素ゴムを主体とした弾性体や、ポリテトラフロロエチレン(PTFE、融点327℃)、テトラフロロエチレン・パーフロロアルキルエーテル共重合体(PFA、融点310℃)、テトラフロロエチレン・ヘキサフロロプロピレン共重合体(FEP、融点275℃)、エチレン・テトラフロロエチレン共重合体(ETFE、融点270℃)、エチレン・モノクロロトリフロロエチレン共重合体(ECTFE、融点245℃)等のフッ素樹脂がある。また、弾性体とフッ素樹脂が積層されてもよい。これらの中で、製造時の加熱温度を300℃以下にするには、フッ素ゴムの場合には硬化温度が300℃以下のもの、フッ素樹脂の場合には融点が300℃以下の材料が好ましい。
【0045】
非粘着材料には、耐久性の向上やトナーの飛散防止、またはオイル親和性等のために、他の粒子が分散されていてもよい。他の粒子としては、例えば、カーボンブラック、カーボンブラックを造粒したカーボンビーズ、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系物質、銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金、酸化錫、酸化インジウム、等の導電性金属酸化物、チタン酸カリウム等のウィスカー、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、SiC、Al等の無機粒子が挙げられる。
【0046】
フッ素ゴム層を形成するには、その溶液を塗布して硬化させるが、フッ素樹脂層を形成するには、その粉体の水分散液を塗布して焼き付ける方法がある。フッ素ゴム溶液の粘度は、1Pa・s以上100Pa・s以下程度、フッ素樹脂の水分散液の粘度は200mPa・s以上2000mPa・s以下程度であり、いずれも本発明の塗膜形成方法で好ましく塗布することができる。塗布後、フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱焼成すると、溶融してフッ素樹脂層が形成される。加熱時間は、樹脂の種類や溶剤種によって適宜設定して行われるが、その際、基材として芯体にポリイミド系樹脂をはめ込んだ基材を用いた場合であれば、ポリイミド樹脂の残留溶剤も同時に乾燥される。
【0047】
(無端ベルトの製造方法における加熱工程)
本発明の無端ベルトの製造方法においては、芯体外面に塗膜を形成した後、芯体を加熱し溶剤の乾燥を行う。乾燥時に塗膜が垂れる場合には、芯体を水平にして、回転させながら乾燥すると良い。回転速度は1rpm以上60rpm以下程度が好ましい。加熱条件は、90℃以上170℃以下の温度で20分間以上60分間以下が好ましい。その際、温度が高いほど加熱時間は短くてよく、温度は、段階的、または一定速度で上昇させてもよい。
【0048】
溶液がポリアミドイミド樹脂溶液である場合には、溶剤の乾燥だけで皮膜を得ることができるが、ポリイミド前駆体溶液の場合、更に250℃以上450℃以下、好ましくは300℃以上350℃以下で、20分間以上60分間以下、ポリイミド前駆体皮膜を加熱して縮合反応させることで、ポリイミド樹脂が形成される。その際、温度を段階的に上昇させてもよい。この工程では、皮膜は固定されているので、芯体の向きはどちらでもよいし、加熱中の回転もしなくてよい。
【0049】
冷却後、形成された皮膜を芯体から剥離して無端ベルトを得る。無端ベルトには、さらに必要に応じて、穴あけ加工やリブ付け加工、等が施されてもよい。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
−ポリイミド前駆体塗膜形成工程−
(芯体)
外径366mm、肉厚10mm、長さ450mmのアルミニウム製円筒を用意し、球形アルミナ粒子によるブラスト処理により、表面(外面)をRa1.0μmに粗面化した。保持板として、厚さが15mm、外径が上記円筒に嵌まる径、100mm径の通風孔が4つ、中央に20mm径の穴を設けたものをアルミニウム材で作製し、上記円筒に嵌め、TIG溶接により溶接した。表面(外面)には無電解ニッケルメッキを施し、さらにシリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布して、150℃で1時間、焼き付け処理を施し、芯体とした。
【0051】
(塗布溶液)
また、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、をN−メチル−2−ピロリドン中で等モル反応させたポリイミド前駆体の溶液(固形分濃度20質量%、粘度20Pa・s)に、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製)を固形分質量比で30.5%混合し、次いで対向衝突型分散機であるジーナス製「Geanus PY」により分散した。これに界面活性剤(商品名:LS009、楠本化成製)を500ppm加え、塗布溶液とした。上記塗布溶液の粘度は42Pa・sであり、カーボンブラックを分散したことにより元のポリイミド前駆体の溶液の粘度より高くなっていた。
【0052】
(塗布装置及びそれを用いた塗布)
上記塗布溶液を用い、図2に示す塗布装置により塗布を行った。ここで、該塗布装置について説明すると、環状体5は、外径420mm、円孔の最小部の内径367.1mm、高さ50mmのアルミニウム製であり、内壁は直線傾斜状である。環状塗布槽7は内径450mm、高さ10cmであり、底面に、下記シャッター部材筒状部102の外径より0.2mm小さい内径の穴を有する環状シール材8を取り付けた。該環状シール材8は、0.5mm厚の超高分子量ポリエチレン多孔質シート(商品名:サンマップ、日東電工製、粘度平均分子量100万、極限粘度数25dl/g)と、前記塗布溶液の漏れ防止(塗布溶液が多孔を通じて漏れるのを防止する)のための0.3mm厚の軟質ポリエチレンシートと、を140℃で貼り合わせたもので、超高分子量ポリエチレン多孔質シートが芯体1に接するよう(芯体1が挿入されてくる方向、すなわち下側に)取り付けた。
【0053】
また、図8に示す、内径367mm、外径367.4mm、高さ10cm、厚さ0.2mmのステンレス製のシャッター部材筒状部102を用意し、その内側上端部に、0.5mm厚の超高分子量ポリエチレン多孔質シート(商品名:サンマップ、日東電工製、粘度平均分子量100万、極限粘度数25dl/g)からなる接触部材103を2mm幅で貼り付け、更にシャッター部材筒状部102の内側下端部に、50μm厚のフッ素樹脂テープ(商品名:ニトフロン、日東電工製)からなるクッション層104を12mm幅で貼り付けた。また、シャッター部材筒状部102の下端に上下への動作を制御するアーム(不図示)を接続してシャッター開閉器とした。これを図2のように環状塗布槽7に取り付け、シャッター部材10の上端を環状塗布槽7の底面から8cmの高さ(シャッター部材10の上端が環状体5の円孔を塞ぐ位置)に調整し、初期位置とした。次いで、芯体1を、その上端がシャッター部材10の上端と重なるようにして設置し、溶液2を環状塗布槽7の底面から6cmの高さまで入れた。
【0054】
塗布するに際し、図3に示すように、芯体1の下側に、もう1本の芯体1Dを取り付け、シャッター部材10を、その上端が環状塗布槽7の底面から2cmの高さになるよう下げた。
【0055】
次いで、両芯体を0.8m/分で上昇させて塗布を開始したところ、図4に示すように、環状体5は約2cm持ち上げられ、芯体1表面には、濡れ膜厚が500μmの塗膜4が形成された。芯体1の下端が環状塗布槽7の底面と同じ位置に達した時、芯体1の上昇速度を0.1m/分に減速すると共に、シャッター部材10を芯体1と同期させて、図5に示すように上昇させた。
【0056】
その後、図6に示すように、シャッター部材10の上端が環状塗布槽7の底面から8cmの高さの位置で、シャッター部材10と芯体1との動作を止めた。環状体5は徐々に低下し、環状体5の内面がシャッター部材10の上端に接することにより、芯体1表面への溶液の供給がさえぎられた。その後、芯体1をさらに上昇させ、図7に示すように取り出すと、下端から2cmには塗膜は形成されていなかった。
【0057】
−ポリイミド樹脂皮膜形成工程−
次いで、芯体の保持板の中央穴に、20mmφのステンレス製シャフトを通し、水平にして回転台に載せ、6rpmで回転させながら、80℃で20分間、130℃で30分間、加熱して塗膜を乾燥させた。これにより、厚さ約150μmのポリイミド前駆体皮膜を得た。その後、芯体を垂直に立てて、200℃で30分、300℃で30分加熱反応させ、ポリイミド樹脂皮膜を形成した。
【0058】
室温に冷えた後、皮膜端部に竹べらを差し込んで隙間を形成してから、エアガンで加圧空気(圧力:0.3MPa)を吹き込むと、皮膜は多少膨張して芯体との密着は容易に解除され、約30秒で芯体から抜き取ることができた。抜き取り後、両端の皮膜を切断し、長さ(幅)360mmの無端ベルトを得た。
【0059】
この無端ベルトは膜厚tが80μmであり、電圧Vとして100Vを印加し30秒後の電流値I(A)において体積抵抗率を算出すると、約1010Ωcmの半導電性を有しており、電子写真用転写ベルトとして使用可能であった。
このときの体積抵抗率は、三菱油化(株)製ハイレスターIPのHRプローブを用い、JIS−K6911に従って、22℃、55%RHにて上記の電圧印加条件にて電流値I(A)を測定し下記式により求めた値である。
式:体積抵抗率ρv(Ωcm)=19.6×(V/I)×t
【0060】
(比較例1)
実施例1において、シャッター開閉器を使用せずに塗布を行ったところ、芯体の全面に塗膜が形成された。更に、該塗膜を加熱した後においては、芯体端部にまでポリイミド皮膜があるため端部に隙間を形成する時間として3分ほど要し、また芯体端部には皮膜のかすが残って、それを除去する手間も余計にかかる難点があった。また、端部付近の皮膜はむら等のために有効には使えないため、端部を大幅に切断し無駄に捨てられる分が多い欠点もあった。
【0061】
(実施例2)
実施例1において、離型剤を塗布する前の芯体の端部3cmずつに、硫酸バリウム粉体を20質量%含むPFA分散液(商品名:ENA096、三井デュポンフロロケミカル社製、濃度55質量%、粘度400mPa・s)を浸漬塗布し、100℃で10分間乾燥後、380℃で30分間の熱処理を施した。これにより、図9(A)に示すように、芯体1Bの両端に30μm厚の離型性樹脂被膜14を形成した。芯体1Bの中央部分には、実施例1と同じ離型剤を塗布して、150℃で1時間、焼き付け処理を施した。
【0062】
この芯体を用いた以外は実施例1と同様にしてポリイミド皮膜を作製した。ポリイミド皮膜の端部は1cmずつ離型性樹脂被膜14の上を覆っており、エアガンで加圧空気(圧力:0.3MPa)を吹き付けると、図9(B)に示すように、皮膜3の端部は離型性樹脂被膜14には密着していないので、容易にめくれて隙間15ができ、続いて皮膜中央にも加圧空気が入り込んで、皮膜と芯体の密着は容易に解除され、約20秒で皮膜3を芯体1Bから抜き取ることができた。これにより、実施例1のように、皮膜端部に竹べらを差し込まなくても抜き取りをすることができた。
【0063】
(実施例3)
−離型性樹脂塗膜形成工程−
(無端ベルトを嵌め込んだ芯体)
外径68mm、厚さ75μm、長さ400mmのポリイミド樹脂無端ベルト17を用意し、図11に示す、外径67.8mm、長さ460mmのアルミニウム芯体1Eに嵌め、片端に粘着テープ11を貼ってずれないように固定した。なお、この粘着テープ11は、無端ベルト17を固定できればよいので、全周に巻き付ける必要はない。
【0064】
(塗布溶液(離型層用塗布溶液))
塗布溶液として、水、エタノール、t−ブタノールを含むPFA(テトラフロロエチレン・パーフロロアルキルエーテル共重合体)水性塗料(固形分濃度:60質量%、粘度:500mPa・s)を用意した。なお、この中には固形分として、平均粒径約17μmのPFA粉体(大粒子)が55質量%、平均粒径約1μmのPFA粉体(小粒子)が40質量%、平均粒径約0.1μmのカーボン粉体が5質量%分散されている。
【0065】
(塗布装置及びそれを用いた塗布)
上記塗布溶液を用い、前記芯体1Eに嵌め込んだ無端ベルト17表面に、図2に示す環状塗布装置(但し、環状体5を除いたもの)により塗布を行った。ここで、該塗布装置について説明すると、環状塗布槽7は内側の高さ7cm、内径14cmであり、底面に、下記シャッター部材筒状部102の外径より2mm小さい内径の孔を有する環状シール材8を取り付けた。該環状シール材8は、0.5mm厚の超高分子量ポリエチレン多孔質シート(商品名:サンマップ、日東電工製、粘度平均分子量100万、極限粘度数25dl/g)を用いた。なお、上記水性塗料(塗布溶液)の場合、実施例1のように軟質ポリエチレンシートを貼り合わせなくても、液が漏れることはない。
【0066】
また、図8に示す、内径68.5mm、高さ6cm、厚さ1mmのアルミニウム製のシャッター部材筒状部102を用意し、その内側上端部に、0.5mm厚の超高分子量ポリエチレン多孔質シート(商品名:サンマップ、日東電工製、粘度平均分子量100万、極限粘度数25dl/g)からなる接触部材103を3mm幅で貼り付け、更にシャッター部材筒状部102の内側下端部に、0.3mm厚の超高分子量ポリエチレン多孔質シート(商品名:サンマップ、日東電工製、粘度平均分子量100万、極限粘度数25dl/g)からなるクッション層104を2mm幅で貼り付けた。また、シャッター部材筒状部102の下端に上下への動作を制御するアーム(不図示)を接続してシャッター開閉器とした。これを図2のように環状塗布槽7に取り付け、シャッター部材10の上端を環状塗布槽7の底面から5cmの高さに調製し、初期位置とした。次いで、芯体1を、その上端がシャッター部材10の上端と重なるようにして設置し、溶液2を塗布槽7のシャッター部材10の上端から5mm下の位置まで入れた。なお、ここでは塗布溶液の粘度が1Pa・s未満と低いので、環状体は使用しないで塗布を行った。
【0067】
塗布するに際し、芯体1の下には外径68mm、高さ70mmの中間体(不図示)を嵌め、図3のように、シャッター部材10を液面から20mm下げた。次いで芯体1および上記中間体を200mm/分で上昇させ、シャッター部材10の上端に芯体1の下端から40mmの位置が達した時、芯体1の上昇速度を100mm/分に減速すると共に、シャッター部材10を芯体1と同期させて、図5に示すように上昇させた。これにより、ベルト片端(下端)から10mmの位置まで塗膜を形成することができた。
【0068】
その後、図6に示すように、シャッター部材10の上端が液面から5mmの高さで、シャッター部材10と芯体1との上昇を止めた。その後、芯体1をさらに上昇させ、図7に示すように取り出すと、下端から40mmには塗膜は形成されていなかった。塗布された箇所の塗膜の濡れ膜厚は75μmであった。
【0069】
−離型性樹脂皮膜形成工程−
次いで、離型性樹脂塗膜が形成された無端状ベルトを芯体に嵌め込んだままの状態で、80℃で10分間加熱して塗膜を乾燥させた。その後、更に200℃で30分、380℃で30分加熱させ、PFAを焼成して40μm厚の離型性樹脂皮膜を形成した。
【0070】
室温に冷えた後、芯体から無端ベルトを抜き取り、両端のベルトを離型性樹脂皮膜ごと切断し、長さ(幅)360mmの無端ベルトを得た。
【0071】
この無端ベルトはポリイミド基材ベルト上にPFA皮膜が形成されており、電子写真用定着ベルトとして好適に使用することができた。
【0072】
(比較例2)
実施例3において、シャッター開閉器を使用せずに塗布を行ったところ、芯体の全面に塗膜が形成された。芯体の両端部分に塗膜を形成しないためには、無端ベルトを芯体に嵌める際、芯体が露出しないようにし且つ塗布溶液が芯体と無端ベルトとの隙間に侵入しないようにするため、粘着テープを上端に簡単に貼るだけではなく上下端にしっかり巻き付ける必要があった。また、中間体の表面にも塗布溶液が付着するので、塗布溶液が無駄になるばかりでなく、塗布ごとに中間体を洗浄する必要があり、いずれも工数がかかる作業が増加し、コストが高くなる短所があった。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】両端に粘着テープを貼り付けた従来の芯体を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る環状塗布装置を示す概略断面図である。
【図3】図2の環状塗布装置における塗布開始時の概略断面図である。
【図4】図2の環状塗布装置における塗布過程を示す説明図である。
【図5】図2の環状塗布装置における塗布過程を示す説明図である。
【図6】図2の環状塗布装置における塗布終了時を示す説明図である。
【図7】図2の環状塗布装置における塗布終了後に芯体を取り出す状態を示す説明図である。
【図8】本発明におけるシャッター開閉器を示す説明図である。
【図9】(A)は本発明に好ましい芯体を示す斜視図、(B)は(A)の芯体表面に樹脂皮膜を形成した状態の側面図である。
【図10】本発明に好ましい芯体を示す斜視図である。
【図11】上端に粘着テープを貼り付けた芯体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0074】
1、1A、1B、1C、1D 芯体
2 溶液(塗液)
3 樹脂皮膜
4 塗膜
5 環状体
6 腕(アーム)
7 環状塗布槽
8 環状シール材
10、100 シャッター部材
11 粘着テープ
14 離型性樹脂被膜
15 隙間
16 第二の離型性樹脂被膜
17 無端状ベルト
102 シャッター部材筒状部
103 接触部材
104 クッション層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布槽の底部に設けられた挿通穴の内側に、上下動させることが可能な筒状のシャッター部材を設け、
前記シャッター部材の内側に芯体を通し、前記芯体を上昇させて前記塗布槽に貯留された塗液を芯体外面へ塗布すると共に、前記シャッター部材を上下動させることによって前記芯体外面への塗液の供給を制御することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項2】
前記塗液の粘度が1Pa・s以上100Pa・s以下であり、前記シャッター部材の厚みが、前記芯体外面に前記塗液が塗布されて形成された膜の濡れ膜厚よりも薄いことを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成方法。
【請求項3】
最小の内径が、前記シャッター部材の上端の外径よりも小さく且つ前記芯体の外径よりも大きい環状体を、前記塗液の液面よりも上の位置にて前記シャッター部材の上端と前記環状体内面とが接触可能なよう配置し、
前記芯体外面への塗液の供給は、前記シャッター部材の上端と前記環状体内面とが離間し、該シャッター部材の上端が前記塗液の液面より下に下降して行われ、塗液の供給の遮断は、前記シャッター部材を上昇させ、前記シャッター部材の上端と前記環状体内面とが接触して行われることを特徴とする請求項1または2に記載の塗膜形成方法。
【請求項4】
底部に挿通穴を有する塗布槽と、前記挿通穴の内側に上下動させることが可能な筒状の
シャッター部材と、を具備することを特徴とする塗膜形成装置。
【請求項5】
前記シャッター部材の内面に、前記芯体表面と接触し、超高分子量オレフィンを含んでなる接触部材を有することを特徴とする請求項4に記載の塗膜形成装置。
【請求項6】
前記挿通穴の内側に、超高分子量オレフィンを含んでなる環状シール材を設けることを特徴とする請求項4または5に記載の塗膜形成装置。
【請求項7】
前記シャッター部材の内面に、クッション層を有することを特徴とする請求項4〜6の何れか1項に記載の塗膜形成装置。
【請求項8】
請求項1に記載の塗膜形成方法を用いて皮膜形成樹脂溶液からなる塗膜を芯体外面に形成し、該塗膜を加熱乾燥して樹脂皮膜を形成した後、該樹脂皮膜を芯体から抜き取ることを特徴とする無端ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−167841(P2007−167841A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318993(P2006−318993)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】