説明

塩基性金属シリコン粉体及びその製造方法並びに高熱伝導性樹脂組成物

【課題】粉体の輸送、分級などの粉体操作の操作性に優れた金属シリコン粉体である塩基性金属シリコン粉体を提供すること。
【解決手段】金属シリコン粉体と、表面積1m当たり0.1μmol以上10μmol以下の塩基当量となるように前記金属シリコン粉体の表面に接触させた塩基性物質とを有する塩基性金属シリコン粉体。金属シリコン粉体表面において僅かに酸化物(シリカ)層が存在することでそのシリカと塩基性物質とが相互作用して効果が得られるものと思われる。このことは純粋な金属シリコンを破砕して金属シリコン粉体を製造した直後に塩基性物質を接触させても粉体の操作性向上効果が低いことからも裏付けられる。つまり、金属シリコン粉体表面に存在する痕跡程度の酸化物層であっても塩基性物質と反応するには充分であると考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性金属シリコン粉体及びその製造方法並びに高熱伝導性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の封止、固定や、機械部品の固定などを行う際に、樹脂組成物を用いて行う場合がある。その場合に、高い熱伝導性を付与するために、金属微粉末を混合した樹脂組成物を採用することがある。この場合に混合する金属微粉末としては金属シリコンなどが例示でき、その粒径はμmオーダーである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−161900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように微細な金属シリコン粉体を樹脂中に混合する場合、その取り扱いが問題にとなる。金属シリコン粉体に限らず、微細な粉末は凝集等が進行することにより、何も対策を取らないとその取扱性は良いとは云えない。
【0005】
同様の問題はシリカ微粒子においても存在した。シリカ微粒子は樹脂中に混合して樹脂組成物とすることにより熱的安定性などの物理的特性の向上が期待できる。特許文献1には表面を塩基性物質にて処理したシリカ粉体が開示されている。
【0006】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、粉体の輸送、分級などの粉体操作の操作性に優れた金属シリコン粉体である塩基性金属シリコン粉体及びその製造方法並びに高熱伝導性樹脂組成物を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1に記載の方法ではシリカ微粒子の表面に存在する酸素原子(及びケイ素原子)と塩基性物質とが相互作用することで、その表面に塩基性物質を安定的に付着させることが可能になるものと考えられる。つまり、塩基性物質が安定的に存在することで静電反発などにより粉体同士が反発し合い、結果、粉体の凝集などが効果的に抑制されている。従って、表面に酸素原子が実質的に存在しないと見なすことができる金属シリコン粉体などにおいては特許文献1の方法を適用しても効果がないものと思われた。
【0008】
ところが、本発明者らは上記課題を解決する目的で鋭意検討を行った結果、特許文献1と同様の方法により金属シリコン粉体についても粉体操作の向上が認められるという予期せぬ効果を偶然に発見した。この理由について推察するに金属シリコン粉体表面において僅かに酸化物(シリカ)層が存在することで特許文献1と同様の効果が得られるものと思われる。このことは純粋な金属シリコンを破砕して金属シリコン粉体を製造した直後に塩基性物質を接触させても粉体の操作性向上効果が低いことからも裏付けられる。つまり、金属シリコン粉体表面に存在する痕跡程度の酸化物層であっても塩基性物質と反応するには充分であると考えられる。本発明はこれらの知見に基づき完成したものである。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する請求項1に係る塩基性金属シリコン粉体の特徴は、金属シリコン粉体と、
表面積1m当たり0.1μmol以上10μmol以下の塩基当量となるように前記金属シリコン粉体の表面に接触させた塩基性物質とを有することにある。
【0010】
上記課題を解決する請求項2に係る塩基性金属シリコン粉体の特徴は、請求項1において、前記塩基性物質が、アミノ基若しくはイミノ基をもつ化合物、又はアンモニアであることにある。
【0011】
上記課題を解決する請求項3に係る塩基性金属シリコン粉体の特徴は、請求項1又は2において、前記塩基性物質がシラザン類であることにある。
【0012】
上記課題を解決する請求項4に係る塩基性金属シリコン粉体の特徴は、請求項3において、前記塩基性物質がヘキサメチルジシラザンであることにある。
【0013】
上記課題を解決する請求項5に係る塩基性金属シリコン粉体の特徴は、請求項3又は4において、全体の質量を基準として10質量%の量を純水中に懸濁させ、10分間で撹拌した後に、固形物の質量を基準として90%以上が浮遊していることにある。ここで、撹拌は震とう機(Yamato製、型番:Shaker SA300)にて行う。
【0014】
上記課題を解決する請求項6に係る塩基性金属シリコン粉体の特徴は、請求項1〜5の何れか1項において、前記金属シリコン粉体は破砕により製造されたことにある。
【0015】
上記課題を解決する請求項7に係る塩基性金属シリコン粉体の特徴は、請求項1〜6の何れか1項において、前記金属シリコン粉体の体積平均粒径は1μm〜30μmであることにある。
【0016】
上記課題を解決する請求項8に係る塩基性金属シリコン粉体の特徴は、請求項1〜7の何れか1項において、粒径が45μm以上である粗粒を実質的に含まないことにある。
【0017】
上記課題を解決する請求項9に係る塩基性金属シリコン粉体の製造方法の特徴は、金属シリコン粉体に対し、表面積1m当たり0.1μmol以上10μmol以下の塩基当量となるように前記金属シリコン粉体の表面に塩基性物質を接触させる表面処理工程を有することにある。
【0018】
上記課題を解決する請求項10に係る高熱伝導性樹脂組成物の特徴は、請求項1〜8の何れか1項に記載の塩基性金属シリコン粉体と、
前記塩基性金属シリコン粉体を分散する有機樹脂と、を有することにある。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜8に係る塩基性金属シリコン粉体によれば、流動性に優れ、分級、運搬などの粉体操作性に優れており、且つ、バルク特性は金属シリコンそのものであるため、高い熱伝導性、高い電気伝導性などの金属シリコン粉体本来の性能が損なわれていないとの効果を生じる。特に請求項2〜4に係る塩基性金属シリコン粉体に用いた塩基性物質を採用することによりその効果は更に向上する。また、請求項5に係る塩基性金属シリコン粉体のような性状をもつことで更に高い性能が発揮できる。また、請求項8に係る塩基性金属シリコン粉体のように粗粒を実質的に含まないことで、浸透性などの性能を高く保持することができる。
【0020】
請求項9に係る塩基性金属シリコン粉体の製造方法によれば、請求項1〜8に記載の塩基性金属シリコン粉体を効果的に製造することが可能になる。
【0021】
請求項10に係る樹脂組成物は、上述した本発明の塩基性金属シリコン粉体を充填していることから高密度で塩基性金属シリコン粉体が充填されており、熱伝導性に優れた樹脂組成物を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例における目開き45μmの篩の透過率のHMDS接触量依存性について示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の塩基性金属シリコン粉体及びその製造方法について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態の塩基性金属シリコン粉体は金属シリコンからなる粉体の表面に塩基性物質が反応乃至付着しているものである。その大部分は金属シリコンであるため、用途としては純粋な金属シリコン粉体と概ね同様である。例えば、樹脂中に分散させることにより樹脂組成物としたり、燃焼によりシリカ微粒子を製造するための原料として用いることができる。本実施形態の塩基性金属シリコン粉体の粒径としては特に限定しないが、本実施形態の塩基性金属シリコン粉体は分級操作の操作性に優れるため、望みの粒度分布を容易に達成可能である。例えば、体積平均粒径が1μm〜30μmであることが望ましい。また、45μm以上の粗粒を実質的に含まないことが望ましい。
【0024】
金属シリコン粉体としては特に限定されない。例えば、形態を問わない金属シリコンを粉砕することで製造したり、熔融した金属シリコンからアトマイズ法にて製造したりできる。金属シリコン粉体の粒径は製造される塩基性金属シリコン粉体の粒径と高い相関をもつため、本実施形態の塩基性金属シリコン粉体に必要な粒径が得られるようにその粒度分布が調整される。粒度分布の調整は粉体の製造条件を変更するほか、得られた粉体を分級することにより行うことができる。また、金属シリコン粉体の段階では分級などにより粒度分布の調整を行わず、塩基性金属シリコン粉体とした後に分級操作を行うこともできる。また金属シリコン粉体の純度としては塩基性金属シリコン粉体が使用される目的に応じて決定できる。塩基性金属シリコン粉体における金属シリコンが高純度であることが要求される場合には金属シリコン粉体の純度も高純度の物を採用し、それ程の純度は必要ない場合には金属シリコン粉体の純度もその程度に応じて採用される。
【0025】
塩基性物質としては塩基性を示すものであれば特に限定しない。ここで、塩基性を示すとは金属シリコン粉体をシラザン類で処理した場合において、処理された金属シリコン粉体の抽出水のpH値が、用いられる純水または純水とエタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類との混合溶媒のpH と比べて少なくとも0 . 1 以上高いことが好ましい。これにより、金属シリコン粉体が適量に塩基性化されたことが確認できる。ここで、粉体抽出水のP H測定方法は次の通りである。粉体を3.5 g 秤量しプラスチック製容器に入れる。35 ml の脱イオン水を入れて、浸透機で30分間抽出させる。遠心分離機で固液分離させて、上澄みの水のpHを測定する。具体的な塩基性物質としてはアミノ基若しくはイミノ基をもつ化合物であるか、又はアンモニアである。例えば、シラザン類(ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ヘキサフェニルジシラザンなど)が挙げられる。
【0026】
塩基性物質を金属シリコン粉体の表面に接触させる量としては金属シリコン粉体の表面積1m当たり0.1μmol以上10μmol以下の塩基当量となるようにする。好ましくは金属シリコン粉体の表面積1mあたり、0.5μmol以上、0.5μmol超、1μmol以上とする。上限としては特に限定しないが、15μmol以下、15μmol未満、10μmol以下、10μmol未満、5μmol以下、5μmol未満が挙げられる。
【0027】
ここで、塩基当量とは処理量(質量%:金属シリコン粉体の質量を基準とする)/{処理剤の分子量(g/mol)×比表面積(m/g)}にて定義される値である。そして、金属シリコン粉体の表面積は窒素を用いたBET法にて測定した値である。
【0028】
処理剤を処理する方法としては、金属シリコン粉体の表面に接触させる方法としては塩基性物質をそのまま接触させる乾式処理法や、何らかの溶媒に塩基性物質を溶解させて溶液とした後、その溶液を接触させる湿式処理法、また、金属シリコン粉体からなる被処理粉体を処理容器に収容し、該被処理粉体を攪拌しながら気化させた処理剤と反応させる気相反応法を用いることも可能であり、塩基性物質としてHMDSを採用する場合には気相反応法を採用することができる。金属シリコン粉体表面に塩基性物質を接触させた後、余分な塩基性物質は除去することもできる。例えば、塩基性物質が溶解可能な溶媒(水など)中に浸漬し撹拌することで除去可能である。この場合、結合状態が弱い場合にその塩基性物質は除去されることも考えられる。
・次に本発明の樹脂組成物について以下詳細に説明を行う。本実施形態の樹脂組成物は上述の塩基性金属シリコン粉体とその塩基性金属シリコン粉体を分散する有機樹脂とを有する。塩基性金属シリコン粉体を含有させる割合としては特に限定しないが、樹脂組成物が硬化した状態で塩基性金属シリコン粉体間で接触(点接触)する量を添加することが望ましい。つまり、塩基性金属シリコン粉体間で接触することにより、熱伝導性が向上できる。
【0029】
有機樹脂としては特に限定されないが、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変成樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム・スチレン)樹脂等の、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、各種エンジニアリングプラスチックが例示される。有機樹脂としては特に化学反応などにより硬化する硬化性樹脂であること望ましい。
【0030】
エポキシ樹脂としては特に限定されず、1分子中にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、及びポリマー全般が用いられる。例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂等が例示される。これらは単独でも混合して用いてもよい。無機充填材はエポキシ樹脂組成物中に高充填されることが好ましいため、エポキシ樹脂組成物の流動性を良好に維持するには低粘度樹脂が好ましい。
【0031】
フェノール樹脂としては特に限定されず、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、及びポリマー全般を言う。例えば、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン型樹脂等が例示される。これらは単独でも混合して用いてもよい。無機充填材はエポキシ樹脂組成物中に高充填されるのが好ましいため、エポキシ樹脂組成物の流動性を良好に維持するには低粘度樹脂が好ましい。
【実施例】
【0032】
(試験1)
体積平均粒径21.5μm、比表面積0.91m/g(BET:N)の金属シリコン粉体を用意した。この粉末は金属シリコンを粉砕することにより用意した。粉砕後、1日間放置して用いた。
【0033】
この金属シリコン粉体を乾燥後、塩基性物質としてのHMDSを表1に示す量で接触させて試験例の塩基性金属シリコン粉体とした。その後、それぞれの試料について50g秤量し、目開き45μmの篩を通過させて篩を通過した粉体の質量割合を測定した。篩の通過は振動を与えながら試験試料を篩に供給した後、5分間保持することで行った。結果を図1及び表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
図1及び表1から明らかなように、何も処理していない金属シリコン粉体は全体の質量の25%しか篩を通過できなかったのに対し、HMDSを表面に接触させた試料ではそれよりも多い量が篩を通過することができた。これは金属シリコン粉体間の相互作用により粉体の凝集が抑制されて流動性が向上したものと考えられる。
【0036】
HMDSの添加は0.5μmol/mでも充分な効果を発揮するが、1.0μmol/m以上添加することで更なる効果の発現が認められた。なお、3μmol/mを超えてHMDSを添加すると徐々に効果が低下していくが、その理由はHMDSの量に応じて粒子間の静電反発が大きくなったためであると考えられる。しかしながら、今回実験を行った15μmol/mであっても何も処理していない場合よりも篩の透過性が向上することは明らかであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シリコン粉体と、
表面積1m当たり0.1μmol以上10μmol以下の塩基当量となるように前記金属シリコン粉体の表面に接触させた塩基性物質とを有することを特徴とする塩基性金属シリコン粉体。
【請求項2】
前記塩基性物質が、アミノ基若しくはイミノ基をもつ化合物、又はアンモニアである請求項1に記載の塩基性金属シリコン粉体。
【請求項3】
前記塩基性物質がシラザン類である請求項1又は2に記載の塩基性金属シリコン粉体。
【請求項4】
前記塩基性物質がヘキサメチルジシラザンである請求項3に記載の塩基性金属シリコン粉体。
【請求項5】
全体の質量を基準として10質量%の量を純水中に懸濁させ、10分間撹拌した後に、固形物の質量を基準として90%以上が浮遊している請求項3又は4に記載の塩基性金属シリコン粉体。
【請求項6】
前記金属シリコン粉体は破砕により製造された請求項1〜5に記載の塩基性金属シリコン粉体。
【請求項7】
前記金属シリコン粉体の体積平均粒径は1μm〜30μmである請求項1〜6の何れか1項に記載の塩基性金属シリコン粉体。
【請求項8】
粒径が45μm以上である粗粒を実質的に含まない請求項1〜7の何れか1項に記載の塩基性金属シリコン粉体。
【請求項9】
金属シリコン粉体に対し、表面積1m当たり0.1μmol以上10μmol以下の塩基当量となるように前記金属シリコン粉体の表面に塩基性物質を接触させる表面処理工程を有することを特徴とする塩基性金属シリコン粉体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8の何れか1項に記載の塩基性金属シリコン粉体と、
前記塩基性金属シリコン粉体を分散する有機樹脂と、を有することを特徴とする好熱伝導性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−254511(P2010−254511A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105556(P2009−105556)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(501402730)株式会社アドマテックス (82)
【Fターム(参考)】