説明

塩酸イコチニブ、合成物、結晶学的形態、併用薬及びその用途

本発明は、4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6-7-ベンゾ-12-クラウン-塩酸キナゾリンおよびこの新規な結晶体の、EGFRキナーゼ仲介病原体の治療のための使用、および他の治療薬と併用での治療上の使用に関する。また、本発明は、4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6-7-ベンゾ-12-クラウン-塩酸キナゾリン、この新結晶体、4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6-7-ベンゾ-12-クラウン-塩酸キナゾリン合成のための関連合成中間体の製造法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6-7-ベンゾ-12-クラウン-塩酸キナゾリンとこの新規な結晶形に関し、この化合物の合成法、化合物を含む医薬組成物、癌治療のための化合物の使用や関連中間体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チロシンキナーゼ受容体は、細胞外刺激に応じて細胞拡散、血管形成、アポトーシス、その他細胞の成長に重要な機能を制御するための情報伝達を行う膜貫通型タンパク質である。この受容体の一種である表皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼは、脳腫瘍、肺癌、肝臓癌、膀胱癌、乳房癌、頭頸部癌、食道癌、消化管癌、乳腺癌、卵巣癌、頸部癌、甲状腺を含むヒトの多くの癌において高発現している。
【0003】
EGFRは多くの癌細胞において発現し、EGF、TGFα(つまり形質転換成長因子-α)およびニューレグリンなどの同種のリガンドの細胞外変換は、家族間のホモ二量体またはヘテロ二量体形成の原因となり、各細胞質内のチロシンキナーゼはチロシン、セリン、スレオニン残基のトランスリン酸化を引き起こすこととなる。形成リン酸化チロシンは、様々なアダプター分子の接合部位として働き、続いてシグナル伝達活動(Ras/分裂促進活動、PI3K/Akt、Jak/STAT)を活性化する。
【0004】
様々な分子細胞生物学および臨床研究において、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が癌細胞増殖、転移、その他EGF関連シグナル伝達反応を阻害することが示され、臨床抗癌治療に効果を発揮することが実証されている。類似化学構造を有する2つの経口EGFRキナーゼ阻害剤は、2003年、進行性非小細胞肺癌について米国FDAによる認可を受けたゲフィニチブ(イレッサ、アストラゼネカ社)(後に回収)、および2004年、進行性非小細胞肺癌と膵臓癌治療について米国FDAによる認可を受けた塩酸エルロチニブ(タルセバ、ロッシュ社およびOSI社)である。
【0005】
中国特許権公開番号CN1305860C号では、29ページの例15、化合物23において、4-[(3-エチニル-フェニル)アミノ]-6-7-ベンゾ-12-クラウン-キノリン(遊離塩基)を発表している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の記述
本発明の目的は、下記に式Iで示すとおり、4-[(3-エチニル-フェニル)アミノ]-6,7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリンの塩酸塩を提供することである。

式I
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記式Iの化合物が1個以上の結晶体として存在が可能であることを期せずに発見した。これらの結晶体を結晶体I、II、III、IVと称する。式Iとその結晶体の化合物は、溶解性や化学安定性により優れており、臨床適用にふさわしいものである。議論に際し、化学式Iの化合物である「4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6,7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリン塩酸塩」を以下「塩酸イコチニブ」、その遊離塩基である「4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6,7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリン」を「イコチニブ」と称する。
【0008】
本発明は、一態様において塩酸イコチニブの結晶体Iを提供するものである。図1のように結晶体Iの粉末X線回折スペクトルは通常、次の回折ピーク度を示す(図1で「間隔」は「d値」として示される)。

【0009】
塩酸イコチニブの結晶体Iは、平均粒径(D90)約1-10μmの均等配分細粒子からなる安定結晶体で、臨床使用製剤としての製造が容易である。
【0010】
他の態様では、本発明は、塩酸イコチニブの結晶体IIに関する。図2のように結晶体IIの粉末X線回折スペクトルは通常、次の回折ピーク度を示す(図2で「間隔」は「d値」として示される)。

【0011】
もうひとつ態様では、本発明は、塩酸イコチニブの結晶体IIIに関する。図3のように結晶体IIIの粉末X線回折スペクトルは通常、次の回折ピーク度を示す(図3で「間隔」は「d値」として示される)。

【0012】
さらに他の態様では、本発明は、塩酸イコチニブの結晶体IVに関する。図4のように結晶体IVの粉末X線回折スペクトルは通常、次の回折ピーク度を示す(図4で「間隔」は「d値」として示される)。

【0013】
結晶体I、II、III、IVでは、主要ピークのみ(つまり、最も特性的で大幅かつ独特な、および/または再現可能なピーク)が概要されているが、この他のピークは従来の方法による回折スペクトルから得ることができる。上記の主要ピークは(最終小数位±2、または表示値±0.2の)誤差内で再現が可能である。
【0014】
本発明の別の目的は、式Iの化合物(塩酸イコチニブ)の製造方法を提供することである。
【0015】
方法1:
【化1】

【0016】
方法2:
【化2】

【0017】
方法3:
【化3】

BPI-02は再結晶化で得られる。
【0018】
本発明によって明らかにされた塩酸イコチニブの結晶体I、II、III、IVの製造方法:4-[(3-エチニル-フェニル)アミノ]-6,7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリン塩酸塩が完全に溶けるまで極性溶媒と還流させる。ろ過・冷却・結晶化・ろ過・乾燥の後、対応する様々な結晶体が得られる。具体的な結晶体形成過程は本発明の実施例において詳述する。
【0019】
上述の結晶化は単一の溶媒、あるいは混合溶媒、または水と有機溶媒の混合物において行うことができる。
【0020】
結晶化の適切な極性溶媒は、水、低級アルコール、ケトン、エーテル、エステル、ハロゲン化炭化水素、アルカン、ハロゲン化ベンゼン、脂肪族ニトリル、その他の芳香族溶剤から選択することができるが、これに限られるものではない。推奨される溶液には、例えばイソプロパノール、エチルアセテート、50%エタノール、水、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、アセトン、プロパノールが挙げられる。
【0021】
「低級アルコール」には、直鎖あるいは分岐鎖C2-C3アルコールのような直鎖または分岐鎖C1-C5アルコールが含まれる。具体例にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどが挙げられる。
【0022】
本発明の結晶体は、溶媒系で過飽和を達成するために、少なくともひとつの溶剤を含む適切な溶媒系において、蒸発や冷却、反溶剤(本発明で記述されたものほど塩酸イコチニブを可溶化することができない溶液)の追加によって結晶化が可能である。
【0023】
結晶化は、シード結晶の有無に関わらず起こり、それは本発明において記述されている。
【0024】
本発明によって提供される各結晶体は、結晶化過程の特定の熱力学および平衡特性に抑制される特定の条件の下、結晶化が進められる。このため、この分野のあらゆる技術専門家は、結晶化過程の動的および熱力学特性の結果、結晶体が形成されることを知るのである。例えば、本発明の化合物は、特定の溶解、温度、圧力、濃度などの条件の下では、ある結晶体は別の結晶体よりもより安定している(あるいは実際、他の結晶体よりも安定性がある)場合があるが、特定の結晶体の熱力学的安定性が比較的低い場合、動力学的には有利である場合がある。さらに時間、不純物分布、かくはん、シード結晶の有無などの動的な要因以外の追加要因が結晶体に影響を及ぼすこともある。
【0025】
別の態様として、本発明は、有効量の塩酸イコチニブや上記の結晶体I、II、III、IVならびに薬学的に容認できる担体をそれぞれひとつ、または複数含む医薬組成物を提供するものである。有効成分は、配合の1-99重量%とすることができ、70重量%までがより好ましく、10-30重量%が最も好ましいと言える。
【0026】
医薬組成物は、錠剤、カプセル、丸薬、粉末、持続放出製剤、液剤および/または懸濁液などの経口投与、減菌溶液、懸濁液や乳剤などの非腸内注入、ペースト、クリームまたは軟膏などの局部治療、座薬などの直腸投与で投薬することができる。医薬組成物は正確な投薬量に適切な単位用量の形とし、これは他の有効成分を含むことがある。
【0027】
適切な薬学的担体には水、様々な有機溶解物質や不活性希釈剤、充填剤が含まれる。必要に応じて、医薬組成物には香味料、粘着剤、賦形剤などの様々な添加物を入れることが許可される。経口投薬については、錠剤にクエン酸などの賦形剤や様々なケイ酸塩やでんぷんやアルギン酸、ケイ酸塩などの崩壊剤、ショ糖やゼラチン、アラビアガムなどの様々な粘着剤が含まれる。さらにステアリン酸マグネシウムやタルク充填剤を含む滑剤が錠剤製剤によく使用され、軟・硬ゼラチンカプセルにも同種の固形成分を使用することができる。経口投与に水性懸濁液が必要とされる場合、有効成分に様々な甘味料や着香料、色素、染料を混合することができる。必要であれば、様々な乳化剤の使用、懸濁液の生成、水やエタノール、プロピレン、グリセリン、その他合成物などの希釈剤を使用してもよい。
【0028】
上記の医薬組成物はなるべく経口投薬を行う。
上記の医薬組成物はなるべく錠剤やカプセルとする。
【0029】
別の態様では、本発明は、哺乳動物の非悪性過形成症の治療や予防用の薬剤製造に本発明の化合物(すなわち、塩酸イコチニブおよび上記の結晶体I、II、III、IV)の使用を提供するものである。非悪性過形成症は、良性皮膚過形成まはた良性前立腺過形成を引き起こすことがある。
【0030】
また別の態様では、本発明は、哺乳動物の膵炎、腎臓病、癌、血管新生やそれに関する疾患の治療あるいは予防用の薬剤製造に、その化合物(すなわち、塩酸イコチニブ、上記の結晶体I、II、III、IV)の使用を提供するものである。
【0031】
さらに他の態様では、本発明は、哺乳動物の胚芽細胞移植用の薬剤製造における本発明の化合物(すなわち、塩酸イコチニブ、上記の結晶体I、II、III、IV)の使用を提供するものである。
【0032】
塩酸イコチニブおよび本発明の結晶体I、II、III、IVは腫瘍の血管新生、リウマチ性関節炎、アテローム動脈硬化症のような慢性炎症性疾患、乾癬や硬皮症などの皮膚疾患、糖尿病に伴う皮膚病や網膜症、早期網膜症、年齢によるしみ、血管腫、神経膠腫、カポジ内腫、卵巣癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、リンパ腫、前立腺、結腸癌、皮膚癌、それらの合併症を含むがこれらに限らない疾患の治療や予防への使用が認められている。
【0033】
ここで言及する哺乳動物の中でも、ヒトが優先される。
【0034】
本発明の別の目的として、哺乳動物の悪性組織肥大治療の方法を提供することが挙げられる。この治療では、過形成症の哺乳動物の患者に対する有効量の塩酸イコチニブおよび/あるいはその結晶体および/あるいは上述の医薬組成物の投与が含まれる。治療に、MMP(マトリックメタロプロテイナーゼ)阻害剤、VEGFR(血管内皮増殖因子)キナーゼ阻害剤、HER2阻害剤、VEGFR抗薬医薬、エンドスタチン剤を使用する例のほか、これに細胞分裂抑制剤、アルキル化薬、代謝拮抗薬、抗腫瘍抗生物質、成長因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、酵素阻害剤、生物反応修飾物質、抗ホルモン剤などの抗癌剤をひとつまたは複数使用する例もある。この抗癌剤には、カルボプラチン、パクリタキセル、ゲムシタビン、メトトレキサート、5-FU、カンプトセシン、シクロホスファミド、BCNUなどが含まれる。
【0035】
この発明の別の態様として、チロシンキナーゼの機能不全による疾患の治療方法が挙げられる。この治療では、チロシンキナーゼの機能不全による疾患を伴った患者に対する、有効量の塩酸イコチニブ、および/あるいはその結晶体、および/あるいは本発明の医薬組成物の投薬が行われる。チロシンキナーゼ機能不全関連の疾患は、脳腫瘍、肺癌、肝臓癌、膀胱癌、乳房癌、頭頸部癌、食道癌、消化管癌、乳腺癌、卵巣癌、頸癌または甲状腺癌とその他合併症を含むがこれらに限られるものではない。
【0036】
この詳述された治療法の標的疾患には、脳腫瘍、肺癌(非小細胞肺癌(NSCLC))、腎臓癌、骨癌、肝臓癌、膀胱癌、胸癌、頸部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、乳腺癌、卵巣癌、黒色腫、皮膚癌、副腎癌、子宮頸癌、リンパ腫、甲状腺腫、これらの合併症が推奨として挙げられる。
【0037】
上記の方法は、化学療法、生物療法、放射線治療を組み合わせて行うことが可能である。
【0038】
上記の治療では、抗EGFR抗体、抗EGF抗体、またはこの両方を同じ治療に使用することができる。
【0039】
投与時の有効成分の投薬量は、治療を受ける患者のニーズ、投与ルート、病気、疾患の重症度、服薬スケジュール、主治医の評価や判断によって決定される。しかし、有効成分に基づく効果的な服用量とは、1日およそ0.01-120 mg/体重kgが適切で、一度に、または何度かに分けて1日に1-50 mg/体重kgを服用するのが望ましい。上記の服用量の最小値が適切である場合もあるが、服用量が多くとも副作用で悩まされることがない場合もある。
【0040】
本発明の別の態様として、4-[(3-エチニル-フェニル)アミノ]-6-7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリン塩酸塩を臨床応用に提供する。本発明は、特に、次の癌患者治療に伴う塩酸イコチニブを使用した臨床治療に関するものである。塩酸イコチニブ、および/または結晶体I、II、III、IVの1日あたりの投薬量は25-2100 mgで投与回数は1〜3回、より適切な1日あたりの投薬量は75-1200 mgで回数は1〜3回、なおより適切な1日あたりの投薬量は75-1200 mgで回数は2〜3回、さらに適切な1日あたりの投薬量は100-1200 mgで回数は2〜3回である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は塩酸イコチニブ結晶体I(イソプロパノールからの結晶体)のX線回折パターンを示す。
【図2】図1(続き)は塩酸イコチニブ結晶体I(イソプロパノールの結晶体)のX線回折パターンを示す。
【図3】図2は塩酸イコチニブ結晶体II(エタノール50%の結晶体)のX線回折パターンを示す。
【図4】図2(続き)は塩酸イコチニブ結晶体II(50%エタノールの結晶体)のX線回折パターンを示す。
【図5】図3は塩酸イコチニブ結晶体III(水性溶剤からの結晶体)のX線回折パターンを示す。
【図6】図3(続き)は塩酸イコチニブ結晶体III(水性溶剤からの結晶体)のX線回折パターンを示す。
【図7】図4は塩酸イコチニブ結晶体III(N,Nジメチルホルムアミドの結晶体)のX線回折パターンを示す。
【図8】図4(続き)は塩酸イコチニブ結晶体III(N,Nジメチルホルムアミドの結晶体)のX線回折パターンを示す。
【図9】図5は塩酸イコチニブの1H-NMRスペクトルである。
【図10】図6は塩酸イコチニブの13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
次の実施例と有効性試験は、さらに詳しく本発明を説明するものであるが、これは、本発明の範囲に制限または限定を与えるものではない。
【実施例1】
【0043】
手順1

調製:400 Lの反応容器で水酸化ナトリウム16 kg(400 mol)を80 Lの水に溶解させ、トリエチレングリコール 18.8 L(140 mol)とTHF32 Lを加える。5 ℃以下に冷却した後、塩化トシル47.84 kg(260 mol)とTHF50 Lの液剤を滴下する。続いて、その反応混合物をこの温度で2時間保管し、氷水240 Lに注ぐ。沈殿物が形成したら、ろ過し、少量の水で洗って乾燥する。白色粉末結晶のBPI-01、58.64 kgが、収率91.4%、mp: 77-80 ℃、HPLC: 97%、TLC(石油エーテル:エチルアセテート=1:1)Rf=0.87で生成された。
【0044】
NMRデータ: 1H-NMR(CDCl3):δ ppm:7.78(d, 4H, J=10.4 Hzスルホニル基のベンゼンプロトン)、7.34(メチル基のd, 4H, J=11.6 Hzベンゼンプロトン)、4.129(dd, 4H, J=5.6 Hzスルホニル基のエチレンプロトン)、3.64(ス dd, 4H, J=5.6 Hzルホニル基外のエチレンプロトン)、3.517(s, 4H、中間のエチレンプロトン)、2.438(s, 6H、ベンゼンのメチルプロトン)
【0045】
手順2

調製:3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチル3.64 kg(20 mol)、炭酸カリウム12.4 kg(89.6 mol)を含むN,N-ジメチルホルムアミド300 Lを撹拌し、およそ30分間85〜90℃に熱する。1時間半から2時間の間、40 LのN,N-ジメチルホルムアミドに9.17 kg(20 mol)のBPI-01溶液を滴下する。滴下の終了後、化学反応を30分間保持し、TLCによって反応完了を確認する(展開溶媒:石油エーテル:エチルアセテート=1:1、Rf=0.58)。反応容器から反応混合物を取り除き、ろ過し、ろ液を蒸発させてN、N-ジメチルホルムアミドを取り除き、残留物にエチルアセテート240 Lを加えて溶解させる。ろ過および真空蒸発の後、残った液剤が石油エーテル300 Lと共に抽出される。石油エーテルの蒸発後、1:2.5(W/V)の割合で残留した固体がイソプロパノールと共に再結晶化され、白色粉末のBPI-02(1.68 kg)が28%の収率、mp:73-76 ℃, HPLC:96.4%で得られた。
【0046】
NMRデータ: 1H-NMR(CDCl3):δ ppm:7.701(d, 1H, J=2.4 Hz, ポジション6のベンゼンプロトン); 7.68(s, 1H, ポジション2のベンゼンプロトン); 6.966(d, 1H, J=10.8 Hz, ポジション5のベンゼンプロトン); 4.374-3.81(q, 2H, J=9.6 Hz, エチルのメチレンプロトン); 3.78-4.23(dd, 12H, J=4.8 Hz, クラウンエーテルプロトン); 1.394(t, 3H, J=9.6 Hz, エチルのメチルプロトン).
MS:m/z 296.
【0047】
手順3

調製:5 Lの反応用フラスコ内でBPI-02液剤 592 g(2 mol)と酢酸600 mL を0℃に冷却し、濃硫酸 1640 mL(25.4 mol)を少しずつ加える。内部の温度は 10 ℃を超えないようにする。0℃以下に冷却する間、濃硫酸1 Lを滴下する。内部の温度は 5 ℃を超えないようにする。滴下後、0-5 ℃で反応を1〜2時間保持する。反応完了後、プラスチックのバケツの氷水15 L に反応液剤を注ぐ。混合、ろ過、エタノール内での再結晶化の後、薄い黄色〜黄色の結晶粉末のBPI-03(449 g)が65.7%の収率、mp:92-95 ℃、HPLC:98.2%、TLC(石油エタール:エチルアセテート=1:1)で得られた。
【0048】
NMRデータ: 1H-NMR(CDCl3):δ ppm:7.56(s、1H、ポジション5のベンゼンプロトン);7.20(s、1H、ポジション2のベンゼンプロトン);4.402(q、2H、J=9.2 Hz、エチルのメチレンプロトン);4.294(dd、12H、J=4.8 Hz、クラウンエーテルプロトン);1.368(t、3H、J=9.2 Hz、エチルのメチルプロトン)
【0049】
手順4

調製:3 Lの水素化反応器の中にメタノール2 LとBPI-03(195 g(0.57 mol))を加えた後、塩化アセチル63 mLを少しずつ加える。少し撹拌した後、40%の水分を含むPd/C33gを加える。水素吸蔵が止まるまで、4 ATM水素のもとで反応が起こり、1〜2時間続く。反応完了後、反応混合物を5 Lの反応容器に移す。ろ過、結晶化、ろ過の後、生成物が得られる。母液が真空下で濃縮され、さらに生成物が得られる。白色からピンク色の粉末結晶のBPI-04、168gが収率85%、mp:198-201 ℃、HPLC:99.1%、TLC(石油エーテル:エチルアセテート=1:1)Rf=0.33で生成された。
【0050】
NMRデータ: 1H-NMR(DMSO-d6):δ ppm:8-9(br.、3H、アミノ基のプロトン2および塩酸のプロトン);7.37(s、1H、ポジション5のベンゼンプロトン);6.55(s、1H、ポジション2のベンゼンプロトン);4.25(q、2H、J=7.06 Hz、エチルのメチレンプロトン);4.05(dd、12H、J=4.04 Hz、クラウンエーテルプロトン);1.31(t、3H、J=7.06 Hz、エチルのメチルプロトン)
【0051】
手順5

調製:BPI-04(1105 g(3.175 mol))、ホルムアミド(4810 g(106.9 mol))、ギ酸アンモニウム(540 g(8.55 mol))を10 Lの3ネックボトルに加える。反応混合物を還流下、4時間165℃に温める。室温に冷却し、水3 Lを加え、混合物を10分間撹拌する。ろ過、洗浄、乾燥した後、白色粉末結晶のBPI-05(742 g)が収率80%、mp:248-251 ℃、HPLC:99.78%、TLC(クロロホルム:メタノール=8:1)Rf=0.55で得られた。
【0052】
NMRデータ: 1H-NMR(DMSO-d6):δ ppm:12.06(s、1H、キナゾリンのNH);8.0(d、1H、J=3.28 Hz、ポジション3のキナゾリンのプロトン);7.62(s、1H、ポジション6のキナゾリンのプロトン);7.22(s、1H、ポジション9のキナゾリンのプロトン);4.25(dd、12H、J=4.08 Hz、クラウンエーテルプロトン)
【0053】
手順6

調製:BPI-05(337 g(1.13 mol))、クロロホルム7.1 L、POCl3(1.83 L(19.58mol))、132 mlのN,N-ジメチルホルムアミドを10 Lの3ネックボトルに加える。還流温度で反応混合物を撹拌する。溶解後、TLC(展開溶媒:クロロホルム:メタノール=15:1、Rf=0.56)によって反応が完了したことを確認する。完了するまで約8時間かかる。その後、反応液を冷却し、真空下で蒸発乾固させる。残渣をクロロホルム4 Lに溶解し、砕氷水4 kgに加え、30分間撹拌する。分離後、水相を2度クロロホルム2 Lで抽出する。有機相を混合し、氷水4 Lを加え、温度を30℃以下に保ちながら、6 NのNaOHでpHをpH 8-9に調整する。分離後、有機相を飽和塩化ナトリウムで洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶剤を真空蒸発で取り除く。残留固形物をアセトンで洗浄、ろ過する。白色粉末結晶のBPI-06(268 g)が収率77%、mp:164-167℃およびHPLC99%で得られた。
【0054】
NMRデータ: 1H-NMR(CDCl3):δ ppm:8.89(s、1H、ポジション2のキナゾリンのプロトン);7.68(s、1H、ポジション9のキナゾリンのプロトン);7.42(s、1H、ポジション6のキナゾリンのプロトン);4.38-3.81(dd、12H、J=3.88 Hz、クラウンエーテルプロトン)
【0055】
手順7

本発明の化合物の製造:エタノール500 mL中のBPI-06の20.8 gの懸濁液に、25 mLのN,N-ジメチルホルムアミドを加え、イソプロパノール200 mL中のナトリウムと8.98 gのm-アセチレン・アニリンの溶液を加える。反応混合物が完全に溶解するまで室温で5分間撹拌し、3時間還流で温める。濃縮、乾燥後、エチルアセテートに溶解し、水洗浄し、無水硫酸で乾燥させ、式Iの白色粉末結晶の化合物27.1 gが得られた。
NMRデータ:1H-NMR(Bruker APX-400、溶剤:DMSO-d6、内部基準TMS):δ ppm:3.58(dd、2H、ポジション12のクラウンのプロトン2個);3.60(dd、2H、ポジション13のクラウンのプロトン2個);3.73(dd、2H、ポジション10のクラウンのプロトン2個);3.80(dd、2H、ポジション15のクラウンのプロトン2個);4.30(s、1H、アルキニルのプロトン);4.34(dd、2H、ポジション16のクラウンのプロトン2個);4.40(dd、2H、ポジション9のクラウンのプロトン2個);7.39(d、1H、ポジション25のベンゼンプロトン);7.46(dd、1H、ポジション26のベンゼンプロトン);7.49(s、1H、ポジション6のキナゾリンプロトン);7.82(d、1H、ポジション27のベンゼンプロトン);7.94(t due dd、1H、ポジション19のキナゾリンプロトン);8.85(s、1H、ポジション23のベンゼンプロトン);8.87(s、1H、ポジション2のキナゾリンのプロトン);11.70(s、1H、塩としての芳香族アミンのプロトン);14-16(bs、1H、塩酸)、図5参照。
【0056】
NMRデータ:33 13C-NMR(DMSO-d6)図6参照。
質量分析(MS): 計器: ZAB-HS、試験条件:EI,200℃、700ev、MS測定分子重量:m/z 427
最終生成物の元素分析:
【0057】
(1)C、H、N測定
計器:エレメンタール社―バリオ EL
表1 元素分析結果と計算値の比較(%)


C、H、Nの測定結果と計算値の誤差は0.3%以下であり、最終生成物の仕様を満たす。
【0058】
(2)Cl測定
計器: カルロ社-Erba1112元素分析計、塩素定量:酸素フラスコ方式、硝酸水銀標準液剤:0.01079 mol/L
表2 塩素試験結果と計算値の比較(%)

【実施例2】
【0059】
塩酸イコチニブ結晶体Iの生成
250 mLの丸底フラスコで塩酸イコチニブ0.1 gをイソプロパノール200 mLに温めて溶解させる。ろ過後、結晶化するまで冷却する。結晶をろ過し、少量のアセトンで洗浄し、60 ℃以下の真空下で乾燥させる。mp 225-228℃で白色結晶粉末が得られた。
結晶体Iの構造を特性化するために粉末X線回折パターン方式を使用する。図1参照。(TGA計器:DSC204(NETZSCH 社))TGA結果では、塩酸イコチニブ結晶体Iに結晶溶剤は見られなかった。
【実施例3】
【0060】
塩酸イコチニブ結晶体IIの生成
25 mLの丸底フラスコで塩酸イコチニブ0.5gを50%エタノール15mlに温めて溶解させる。ろ過後、結晶化するまで冷却する。固形物をろ過し、アセトン5 mLで洗浄し、60 ℃以下の真空下で乾燥させる。mp 224-227℃の白色結晶粉末が得られた。
結晶体IIの構造を特性化するために粉末X線回折パターン方式を使用する。図2参照。(TGA計器:DSC204(NETZSCH 社))TGA結果では、塩酸イコチニブ結晶体IIの各分子には、結晶水分子2.11が含まれることがわかった。
【実施例4】
【0061】
塩酸イコチニブ結晶体IIIの生成
25 mLの丸底フラスコで塩酸イコチニブ0.5gを水15 mLに温めて溶解させる。ろ過後、結晶化するまで冷却、固形物をろ過し、アセトン5 mLで洗浄し、60 ℃以下の真空下で乾燥させる。mp 224-227℃の白色結晶粉末が得られた。
結晶体IIIの構造を特性化するために粉末X線回折パターン方式を使用する。図3参照。(TGA計器:DSC204(NETZSCH 社))TGA結果では、塩酸イコチニブ結晶体IIIの各分子には、結晶水分子が1.90含まれることがわかった。
【実施例5】
【0062】
塩酸イコチニブ結晶体IVの生成
25 mLの丸底フラスコで塩酸イコチニブ0.5gをN,N-ジメチルホルムアミド10 mL中に温めて溶解し、ろ過後、結晶化するまで冷却する。固形物をろ過し、アセトン5 mLで洗浄し、60 ℃以下の真空下で乾燥させる。mp 223-226℃の薄黄色の結晶粉末が得られる。
結晶体IVの構造を特性化するために粉末X線回折パターン方式を使用する。図4参照。(TGA計器:DSC204(NETZSCH 社))TGA結果では、塩酸イコチニブ結晶体IVの各分子には結晶N,N-ジメチルホルムアミド分子が0.158含まれることがわかった。
【0063】
有効性試験
試験1:ポリアクリアミドゲル電気泳動による塩酸イコチニブ結晶体IのEGFRチロシンキナーゼの抑制と選択性
【0064】
方法:タンパク質キナーゼが基質リン酸化を解媒する能力に基づき、タンパク性基質を32Pで放射活性物質で標識するために反応系で放射性元素32P標識ATP(32P-γ-ATP)を使用する。ポリアクリアミドゲル電気泳動法によるタンパク性基質の分離、単離の後、放射性32P標識タンパク性基質の強度が記録される。
【0065】
EGFRチロシンキナーゼ(2.4 μg/μl, 14.5 単位/μg, シグマ)および Crk(EGFR基質、32 ng/μl)をキナーゼ反応バッファー25 μlに混合する。キナーゼ反応バッファーは非同位元素標識ATPを1 μMを含む。上述の混合物には様々な濃度の塩酸イコチニブ結晶体I(0、0.5、2.5、12.5、62.5 nM)を含む。混合物を10分間氷で冷却し、32P-γ-ATP を1 μCi加える。20分間30℃で放置した後、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)サンプルバッファーを加え、その混合物を4分間100℃の水浴で沸騰させる。サンプルをSDS-PAGE10%によって分離させる。ポリアクリアミドゲルの真空乾燥後、放射能で標識されたタンパク質の強度を測り、ホスフォイメージャー(モレキュラー・ダイナミクス株式会社)を使用し、記録を取る。ImageQuantを使ってシグナルを定量的に分析する。Crk 基質リン酸化の度合いをキナーゼの活性を予測するのに使用する。
【0066】
抑制(%)=(1-試験グループのキナーゼ活性/制御グループのキナーゼ活性)×100%
【0067】
結果:
(1)塩酸イコチニブ結晶体Iは、用量反応に従属する関係でEGFRチロシンキナーゼ活性を抑制する。塩酸イコチニブ結晶体Iの濃度が0.5、2.5、12.5、62.5 nMのとき、EGFRキナーゼ活性の抑制率はそれぞれ20.5、36.6、63、87.6%であった。用量反応曲線から、EGFRキナーゼ活性を抑制する塩酸イコチニブ結晶体IのIC50(活性の50%が抑制されるときの阻害剤の濃度)は、海外製品と同様に5 nMである。
【0068】
(2)EGFRキナーゼ抑制に対する塩酸イコチニブ結晶体IIの選択性を研究するため、EGFRやArg(abl関連遺伝子)チロシンキナーゼ活性とCrk基質リン酸化を抑制する塩酸イコチニブ結晶体Iの能力を同様に平行利用して比較する。塩酸イコチニブ結晶体I62.5 nMの濃度はArgキナーゼを抑制しないが、EGFRキナーゼを抑制し、EGFRキナーゼに対して97%の塩酸イコチニブ結晶体Iの選択性が示された。
上述の結果、塩酸イコチニブ結晶体Iが敏感で選択的なEGFRキナーゼ阻害剤であることが示される。
【0069】
試験2:細胞レベルの塩酸イコチニブ結晶体IによるEGFR媒介タンパク質リン酸化の抑制
方法:試験には、高EGFR発現細胞株、A431(ヒトの扁平上皮癌)を使用する。対数増殖期のA431細胞を12ウェル細胞培養用プレート(5x105細胞/ウェル)に播種し、これを18時間CO25%に37℃でウシ胎仔血清(FCS)10%を含むDMEM細胞培養基(ギブコ社)で増殖させた。PBSバッファーでその細胞を2度洗浄した後、FCSを含まないDMEMを加え、18時間の培養後、ジメチルスルホキシド(DMSO)内の塩酸イコチニブ結晶体Iを最終濃度0、10、50、250、1000 nMで各ウェルに加えた。37℃で2時間半培養させた後、5分間その細胞に刺激を与えるためにEGF100 ng/mlを加え、細胞内の全タンパク質を収集するために、細胞をバナジン酸1 mM(脱リン酸化を抑制)内で抽出し、タンパク質をSDS- PAGE10%によって分解し、ニトロセルロースへ送られた。以下の抗ホスホチロシン抗体(PY99および 4G10、アップステートバイオテック社)とリン酸化タンパクの検出、およびわさびペルオキシダーゼ標識の二次抗体((トランスダクションラボラトリー株式会社)、ECL化学発光(アマシャム社)での視覚化の後、帯が濃度測定によって定量化された。内部制御として様々な濃度の塩酸イコチニブ結晶体Iに露出する細胞にあるEGFRを比較するため、組織膜を抗EGFR抗体で取り除き、培養した。
抑制(%)=(1-試験グループのキナーゼ活性/制御グループのキナーゼ活性)×100%
【0070】
結果:A431細胞中の塩酸イコチニブ結晶体Iは、10、50、250、1000 nMの濃度でそれぞれ5.4、52.9、61.9、63.7%、EGF誘導、EGFRチロシンキナーゼ仲介細胞内タンパク質チロシンリン酸化を抑制した。半有効濃度(EC50)は約50 nMであった。この結果では、EGFR発現が様々な濃度の塩酸イコチニブ結晶体Iに露出した細胞間においてそれほど違いがなく、薬剤がEGFR発現を変えはしないが、EGFRキナーゼ活性のみを抑制することが示された。
【0071】
試験3:塩酸イコチニブ結晶体Iによるヒトの癌化細胞株の試験管内における増殖抑制
癌細胞株: A431ヒト扁平上皮癌、A549ヒト非小細胞肺癌、BEL-7402ヒト肝臓癌、BGC-823ヒト胃腺癌、HCT8ヒト結腸癌、H460ヒト肺腺癌、KBヒト扁平上皮癌。
方法:96ウエルプレートのFBS10%を補ったRPMI1640細胞培養基 200 μLに細胞(~2 × 103)を播種した。37℃、CO25%で24時間置いた後、媒体を五重ウェル内にDMSOに溶解させた塩酸イコチニブ結晶体Iを含む媒体と置き換え、連続希釈し、最終イコチニブ濃度0.05-300 μMが得られた。DMSO濃度は最高薬物濃度で0.1%以下であった。細胞は媒体にてDMSO0.1%のみを負の制御として、培養され、96時間の培養後、マイクロプレートリーダー(参照波長450 nm、検出波長570 nm)を使ってMTT [3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-yl)-2,5-ジフェニルテトラゾリアム]比色分析を行った。抑制率における薬物濃度対数は線形であり、薬剤の半抑制濃度(IC50)が得られた。
【0072】
結果:表3に見られるように、高EGFR発現A431細胞を含むヒト癌化細胞株の塩酸イコチニブ結晶体Iによる試験管内の増殖抑制は、用量依存的であった。A431細胞線は、IC50が1 μmol/Lと非常に繊細で、続いて胃癌細胞BGC823、ヒト非小細胞肺癌細胞株A549、ヒト肺腺癌細胞株H460となり、IC50がそれぞれ4、12、16μmol/Lである。塩酸イコチニブ結晶体IのHCT8、BEL-7402、KB癌細胞に対する活性は低いものであった。
【0073】
表3 塩酸イコチニブ結晶体Iの癌細胞増殖抑制

【0074】
試験4:ヌードマウスへのヒト腫瘍異種移植片における塩酸イコチニブ結晶体Iによる腫瘍阻止
これは、ヒトA431(ヒト扁平上皮癌)異種移植腫瘍の抑制においてのエルロチニブ塩酸塩と塩酸イコチニブ結晶体Iを比較するための予備研究である。
方法:異種移植片の研究について、高EGFR発現ヒトA431(ヒト扁平上皮癌細胞株)細胞株を選択した。
【0075】
腫瘍移植方法:腫瘍小結節を作るために、BALB/Cヌードマウスの右脇の下にヒト扁平上皮癌細胞A431 を植え付けた。これらの小結節を摘出し、定期移植のため6 mm3のブロックに切り、研究のために各マウスに移植し、腫瘍が約20 mm3の大きさになったら(6〜7日)、無作為にマウスを6〜9匹のグループ4つに分け、体重を記録した。このグループは、制御グループ(薬剤治療なし)、エルロチニブ塩酸塩治療グループ(200 mg/kg)、塩酸イコチニブ結晶体I投薬治療の高投与量および低投与量グループ(200および50 mg/kg)がある。薬剤は、一日一回経口にて投与され、この頻度は腫瘍増殖についての個別ケースによるものであった。腫瘍容積[腫瘍容積(V)=腫瘍サイズ(L)× 腫瘍の短直径(S)2/2] を3日に一度測径器で測定した。最後の薬剤投薬と体重測定の24時間後に、マウスは屠殺し、正確に腫瘍のサイズを測るために、腫瘍を取り除き、重さを測った。全てのグループのデータを、t検定を使って分析する。p値が0.05以下の場合、それは統計的に有意であったと考えられる。
【0076】
有効性測定:腫瘍抑制率=[1-治療グループ平均腫瘍重量(T)/ 制御グループ平均腫瘍重量(C)] × 100%
【0077】
この結果、マウスモデルのA431異種移植片について、経口投与した塩酸イコチニブ結晶体Iには、重要な抗癌作用があり、用量反応関係があることが分かった。塩酸イコチニブ結晶体Iとエルロチニブの有効性測定結果は200 mg/kg で同程度であるが、このモデルにおいて塩酸イコチニブ結晶体I(64.6%)よりもエルロニチブがわずかに優れた癌抑制(77.6%)を示した。しかし、有毒性はエルロニチブがより大きく、200 mg/kg で8匹中3匹のマウスが5日後に死亡し、9日間の回復期後に100 mg/kgまで投薬量を減らすことが強いられた。一貫性と比較可能性を考慮し、この時点でイコチニブは100 mg/kgまで減量された。イコチニブグループにはいずれも投薬量でも有毒作用はみられなかった。実験終了時にエルロチニブグループのマウスは体重が減少し、活発でなくなったのに対し、イコチニブグループのマウスは体重が増加し、さらに9日間の投薬に耐えた。
【0078】
試験5:ヌードマウスへのヒト腫瘍異種移植モデルの抑制におけるイレッサTM錠と塩酸イコチニブ結晶体Iの比較
方法:試験4で詳述された方法を使用し、H460ヒト肺腺腫瘍異種移植片に対する塩酸イコチニブ結晶体IとイレッサTM錠剤の抗腫瘍活性を比較するこの研究を行った。
この結果、塩酸イコチニブ結晶体Iの粉末とイレッサTM錠が14日間毎日1回経口投与されたとき、塩酸イコチニブの投薬量の多い、ふつうの、少ないグループ(120、60、30 mg/kg)のH460腫瘍抑制率は、52.0、49.3 および 37.53%で、イレッサTMグループ(120 mg/kg)の腫瘍抑制率は38.29%であった。塩酸イコチニブ結晶体Iの30 mg/kgのグループでは、H460ヒト腫瘍異種移植片に対し、イレッサTMグループ120 mg/kgと同様の阻害活性を示し、一方ではより投与量の多い2つのグループが120 mg/kgのイレッサTM投薬レベルより優れた阻害活性を示した。塩酸イコチニブ結晶体IよりイレッサTMのほうが、有毒性が高く、マウスの体重が減少し、活発でなくなった。
【0079】
塩酸イコチニブ結晶体Iを使ったビーグル犬、マウス、ラットでの薬理学および毒物学実験も行われた。この結果、塩酸イコチニブ結晶体Iは経口有毒性が低く、骨髄毒性や可逆的な肝臓毒性がないことが分かった。安全性薬理試験では、塩酸イコチニブ結晶体Iは、呼吸、血圧、循環器機能、自律神経や中央神経の活動に全く影響を及ぼさないという結果が得られた。追加の毒性試験にて、催奇性、変異原性、生殖毒性がないことも示された。
【0080】
さらに、ビーグル犬やラットの塩酸イコチニブ結晶体Iの非臨床薬物動態研究が行われた。経口投与される塩酸イコチニブ結晶体Iは、ラットや犬における絶対的バイオアベイラビリティが27-62%と吸収率が高いことが示された。薬剤は約1時間でピーク血漿濃度(Tmax)に達し、主に糞便中排せつを通じて、少量が尿により排せつされる。塩酸イコチニブは、様々な組織へ広く行きわたるが、脳組織には広がらず、薬剤が簡単に血液脳関門を通らないことが示された。ラットの肝臓内のP450酵素への誘導作用は見られず、塩酸イコチニブ結晶体Iについて薬物代謝酵素への阻害活性も見られなかった。
【0081】
試験6:臨床試験
1)錠剤の製造に塩酸イコチニブ 結晶体 I を使用し、25、50、100、150、225、325、425、575、1025 mgの単回投与を行った76名の被験者について第1相臨床的安全性試験を行った結果、25-1025 mgの単回投与は安全であることが示された。
【0082】
2)少なくとも一度はプラチナ製剤を中心とした併用レジメンに失敗した進行性非小細胞肺癌(NSCLC)患者104名に、食事抜きで塩酸イコチニブ結晶体Iの経口投薬を行うPK、安全性、有効性の第2相臨床試験を行った。治療における有効性評価を表4に示す。使用される用語の定義:PR:部分寛解、CR:完了寛解、SD:安定、PD:病気の進行、ORR:客観的奏功率、DCR:病勢コントロール率。
【0083】
表4 様々な塩酸イコチニブ結晶体Iの投薬量での治療後の進行性NSCLC患者における有効性評価


上記のデータは、塩酸イコチニブ結晶体Iが非小細胞肺癌の治療に有効であることを示している。
【0084】
試験7:塩酸イコチニブの様々な結晶体およびイコチニブ遊離塩基形における薬物動態学的研究
薬剤および試薬:イコチニブ(遊離塩基)および塩酸イコチニブ結晶体I、II、III、IVを細粒子にした。物質含有量(純度)は少なくとも99.0%で、カルボキシルメチルセルロースナトリウムは医療用クラスであった。
実験動物:雄および雌の各150-220 gのウイスター系ラット
調剤調製:各薬剤の適正量の重量を測り、カルボキシルメチルセルロースナトリウムの0.5%まで加える。水の中で最終濃度3.5 mg/mLの懸濁液を準備した。
【0085】
投与およびサンプル採集:10 ml/kgの投薬量の塩酸イコチニブ35mg/kgに等しい投薬量にて、各懸濁液を絶食したウイスターラットに対し経口投与した。約0.5-1.0 mLの血液を薬剤投与後、1分、2分、3分、6分、10分、24分の間隔でヘパリン化チューブに集め、これを遠心分離、血漿を集め、-20℃で保管した。
【0086】
精製後、サンプルを高速液体クロマトグラフィーで分析した。クロマトグラフィー条件には、静止相としてC18シラン結合シリカを、移動相としてアセトニトリル内リン酸二水素ナトリウム0.02 mol/L(40:60、水酸化ナトリウムを使ってpHを5.0まで調節する)、検出波長334 nmを利用した。各化合物の濃度‐時間曲線下面積を、下の表に示す。
【0087】

【0088】
上記の試験では、塩酸イコチニブ結晶I、II、III、IVの濃度‐時間曲線下面積(0-t)と濃度‐時間曲線下面積(0-∞)が遊離塩基のものより約3倍大きいことを示している。つまり、塩酸イコチニブ結晶体I、II、III、IVの相対的バイオアベイラビリティは、イコチニブの遊離塩基よりも優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:

式I
で示される4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6,7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリンの硫酸塩である化合物。
【請求項2】
次の手順:
【化1】

から成る、請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
次の手順:
【化2】

から成る、請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項4】
次の手順:
【化3】

から成る、請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
以下の式:

で示される化合物。
【請求項6】
X線粉末回析パターンで以下の角度回析ピーク:

を特徴とする4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6,7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリン塩酸塩の結晶形I。
【請求項7】
X線粉末回析パターンで以下の角度回析ピーク:

を特徴とする4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6,7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリン塩酸塩の結晶体II。
【請求項8】
X線粉末回析パターンで以下の角度回析ピーク:

を特徴とする4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6,7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリン塩酸塩の結晶体III。
【請求項9】
X線粉末回析パターンで以下の角度回析ピーク:

を特徴とする4-[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6,7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリン塩酸塩の結晶体IV。
【請求項10】
溶剤または溶剤混合液への4 -[(3-エチニルフェニル)アミノ]-6,7-ベンゾ-12-クラウン-キナゾリンの硫酸塩の溶解、結晶体を得るための還流、ろ過、冷却、結晶化、ろ過、乾燥から行われる、請求項6〜9に記載の結晶体の製造方法。
【請求項11】
溶剤が、水、低級アルコール、ケトン、エーテル、エステール、ハロゲン化炭化水素、アルカン、ハロゲン化ベンゼン、脂肪ニトリル、芳香族溶媒である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
溶剤が、イソプロパノール、エチルアセテート、水性エタノール50%、水、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、アセトンまたはプロパノールである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
治療有効量の請求項1に記載の化合物、および/または請求項6〜9のいずれかに記載の結晶体、および製薬学的に許容された担体から成る医薬組成物。
【請求項14】
経口投与に適する請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
錠剤あるいはカプセルの形である請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
錠剤またはカプセルによる単回投薬量が25-1025 mgである求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の化合物あるいは請求項6〜9のいずれかに記載の結晶体の医薬組成物中の重量パーセントが、1〜99%、好ましくは1〜70%、さらに好ましくは10〜30%である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項18】
哺乳動物の過度の非悪性過形成症、膵臓炎、腎臓病、癌、血管新生または脈管形成関連疾患の治療または予防のための薬剤、あるいは哺乳動物の胚細胞移植のための薬剤の製造における、請求項1に記載の化合物または請求項6〜9のいずれかに記載の結晶体の使用。
【請求項19】
非悪性疾患が、良性皮膚過形成症または良性前立腺肥大症である請求項18に記載の使用。
【請求項20】
過度の非悪性増殖性疾患、膀胱炎、腎臓病、癌、血管新生、脳管形成関連疾患が、腫瘍の血管新生、リウマチ性関節炎、アテローム性動脈硬化症などの慢性炎症性疾患、乾癬、強皮症などの皮膚病、糖尿病誘発性の皮膚疾患、糖尿病性網膜症、早期網膜症、加齢によるシミ、血管腫、神経膠腫、カポジ内腫、卵巣癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、リンパ腫、前立腺、結腸、皮膚腫瘍、およびそれらの合併症である請求項18に記載の使用。
【請求項21】
治療有効量の請求項1に記載の化合物、および/または請求項6〜9のいずれかに記載の結晶体、および/または請求項13〜17のいずれかに記載の医薬組成物を、疾患を有する患者に投与することを含む、哺乳動物組織の過剰増殖を伴う疾患の治療方法。
【請求項22】
さらにマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、血管内皮成長因子受容体キナーゼ阻害剤、HER2阻害剤、血管内皮成長因子受容体抗体医薬、またはエンドスタチン剤を患者に投与することを含む、請求項21に記載の治療方法。
【請求項23】
さらに分裂抑制剤、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍抗生物質、成長因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、酵素阻害剤、生物反応修飾物質、抗ホルモン剤から選択される抗癌剤を患者に投与することを含む、請求項21に記載の治療方法。
【請求項24】
治療有効量の請求項1に記載の化合物、および/または請求項6〜9のいずれかに記載の結晶体、および/または請求項13〜17のいずれかに記載の医薬組成物を疾患患者に投与することを含む、チロシンキナーゼ機能不全関連疾患の治療方法。
【請求項25】
チロシンキナーゼ機能不全関連疾患が、脳、肺、肝臓、膀胱、乳房、頭頸部、食道、消化管、乳腺癌、卵巣、頸部、甲状腺の腫瘍、それらの合併症から選択される請求項24に記載の治療方法。
【請求項26】
疾患が、脳腫瘍、肺癌、腎臓癌、骨髄癌、肝臓癌、膀胱癌、乳房癌、頭頸部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、乳腺癌、卵巣癌、黒色腫、皮膚癌、副腎癌、子宮頸癌、リンパ腫、甲状腺癌、およびそれらの合併症から選択される請求項21〜25に記載の治療方法。
【請求項27】
請求項1に記載の化合物、および/または請求項6〜9のいずれかに記載の結晶体の投与量が50-2,100 mg/日であり、投与回数が1日に1〜3回である、請求項21〜26に記載の治療方法。
【請求項28】
投薬量が75-1,200 mg/日であり、投薬回数が1日に1〜3回である、請求項27に記載の治療方法。
【請求項29】
投薬量が75-1,200 mg/日であり、投薬回数が1日に2〜3回である請求項28に記載の治療方法。
【請求項30】
投薬量が、100-1,200 mg/日であり、投薬回数が1日に2〜3回である、請求項29に記載の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−527291(P2011−527291A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516948(P2011−516948)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【国際出願番号】PCT/CN2009/000773
【国際公開番号】WO2010/003313
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(511008001)ベータ・ファーマ・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】BETA PHARMA, INC.
【Fターム(参考)】