説明

増幅器および通信装置。

【課題】高効率性を損なうことなく、従来のE級増幅器で用いられていたチョークコイルを用いないことで小型化することが可能な増幅器を提供すること。
【解決手段】電源からの供給電流に含まれる基本波成分および2次高調波成分を遮断するフィルタ回路と、フィルタ回路と接地電位との間に接続されるスイッチング素子と、スイッチング素子と並列に接続され、フィルタ回路と接地電位との間に接続されるキャパシタと、を備える、増幅器が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅器および通信装置に関し、より詳細には、E級増幅器およびE級増幅器を備えた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチング素子を用いた増幅器の一種であるE級増幅器が提案・開発されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。E級増幅器は、ZVS(Zero Voltage Sweitching;ゼロボルトスイッチング)と呼ばれる動作によって、理想的には100%の高効率が得られるものである。ZVSとは、オン状態のスイッチング素子に電流が流れていても、電圧がゼロであればそのスイッチング素子は電力を消費しないことである。
【0003】
E級増幅器は、非特許文献1、2に示すように、1970年代に開発された技術である。しかし、近年でも非特許文献3に示すように、F級および逆F級増幅器の特徴である高調波処理をE級増幅器にも追加したE/F級増幅器が開発されるなど、注目されている技術である。また最近では、無線によって電力を伝送するワイヤレス電力伝送の分野においてこのE級増幅器を用いることも提案されている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6784732号明細書
【非特許文献1】N. O. Sokal and A. D.Sokal, “Class-E, a new class of high efficiency tuned single ended switchingpower amplifiers,” IEEE J.Solid-State Circuits,vol. SC-10, NO. 3, pp. 168-176, June 1975.
【非特許文献2】F. H. Raab, “IdealizedOperation of the Class E Tuned Power Amplifier,” IEEE Trans. Circuits andSystems, vol. CAS-24, NO. 12, pp. 725-735, Dec. 1977.
【非特許文献3】Scott D. Kee, IchiroAoki, Ali Hajimiri, and David Rutledge, “The Class-E/F Family of ZVS SwitchingAmplifiers,” IEEE Trans. Microwave Theory and Techniques, vol. 51, NO.6,pp.1677-1690, June 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記非特許文献1〜3に記載されているように、従来のE級増幅器ではチョークコイルが使われている。チョークコイルを用いてしまうとインダクタが大型化してしまうという問題があった。この問題を解決するための技術として、チョークコイルをフィルタに置き換える技術が、例えば特許文献1で開示されている。しかし、特許文献1で開示された技術では、後述するように、E級増幅器としての高効率性が損なわれてしまうといった問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、E級増幅器としての高効率性を損なうことなく、チョークコイルを用いないようにすることでサイズを小型化することが可能な、新規かつ改良された増幅器および通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、電源からの供給電流に含まれる基本波成分および2次高調波成分を遮断するフィルタ回路と、フィルタ回路と接地電位との間に接続されるスイッチング素子と、スイッチング素子と並列に接続され、フィルタ回路と接地電位との間に接続されるキャパシタと、を備える、増幅器が提供される。
【0008】
かかる構成によれば、フィルタ回路は電源からの供給電流に含まれる基本波成分および2次高調波成分を遮断し、スイッチング素子はフィルタ回路と接地電位との間に接続され、キャパシタはスイッチング素子と並列に接続され、フィルタ回路と接地電位との間に接続される。その結果、フィルタ回路で基本波成分および2次高調波成分を遮断することで、高効率性を損なうことなく、サイズを小型化できる増幅器を提供することができる。
【0009】
上記フィルタ回路は、供給電流に含まれる基本波成分を遮断する基本波遮断回路と、供給電流に含まれる2次高調波成分を遮断する2次高調波遮断回路と、を含んでいてもよい。
【0010】
上記基本波遮断回路および上記2次高調波遮断回路は、それぞれLC並列共振回路であってもよい。
【0011】
上記フィルタ回路からの電流を消費する負荷抵抗をさらに備え、上記基本波遮断回路および上記2次高調波遮断回路に含まれるインダクタのインピーダンスは、負荷抵抗のインピーダンスの1倍以上10倍以下であってもよい。
【0012】
上記基本波遮断回路および上記2次高調波遮断回路は、上記キャパシタとは共振しないものであってもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記増幅器を備える、通信装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、高効率性を損なうことなく、チョークコイルを用いないことで小型化することが可能な、新規かつ改良された増幅器および通信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
また、以下の順序に従って本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
<1.従来のE級増幅器>
[1−1.従来のE級増幅器の構成]
[1−2.従来のE級増幅器の構成]
[1−3.従来のE級増幅器の問題点]
<2.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器>
[2−1.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器の構成]
[2−2.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器の動作]
<3.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器を備えた通信装置>
<4.まとめ>
【0017】
<1.従来のE級増幅器>
まず、本発明の好適な実施の形態について説明する前に、従来のE級増幅器の構成及び動作、並びに従来のE級増幅器が抱える問題点について説明する。
【0018】
[1−1.従来のE級増幅器の構成]
図3は、従来の一般的なE級増幅器10の回路構成について示す説明図である。図3に示したように、一般的には、E級増幅器10は、チョークコイル11と、スイッチング素子12と、キャパシタC1と、直列共振器13と、移相コイルLxと、負荷抵抗Rと、を含んで構成される。また直列共振器13は、キャパシタC2と、インダクタL2と、を含んで構成される。
【0019】
チョークコイル11は、一般的には所定の周波数を上回る高周波電流を阻止するために用いられる電子部品であり、電源VDDから直流電流I_DCを供給する働きを有する。スイッチング素子12は、バイポーラトランジスタや電界効果トランジスタその他のスイッチング素子を用いることができ、図4に示したデューティ比が50%の矩形波の信号に応じてオンとオフを繰り返す素子である。スイッチング素子12がオンの場合にはスイッチング素子電流I_TRが流れ、スイッチング素子12がオフの場合には電流が流れない。
【0020】
キャパシタC1には、スイッチング素子12がオフの場合に、チョークコイル11からの電流が流れ込む。そのときキャパシタC1に流れる電流をI_C1とする。なおキャパシタC1の容量をC1とする。キャパシタC2およびインダクタL2からなる直列共振器13は、キャパシタC2およびインダクタL2によって規定される動作周波数の出力電流I_OUTを通過させ、当該動作周波数以外の周波数ではオープンとなるバンドパスフィルタの働きを有する。
【0021】
移相コイルLxは、出力電流I_OUTに対して基本波の電圧と電流を移相するためのリアクタンスである。移相コイルLxは、E級増幅器に必要となる位相条件を満たすために設けられるものである。負荷抵抗Rは、移相コイルLxによって移相された電流を消費する。
【0022】
[1−2.従来のE級増幅器の構成]
図3に示したE級増幅器10におけるスイッチング素子電流I_TR、およびキャパシタC1に流れる電流I_C1を、直流電流I_DCで正規化したものを図5に示す。図5では、実線がスイッチング素子電流I_TRであり、点線がキャパシタC1に流れる電流I_C1であり、一点鎖線が直流電流I_DCである。
【0023】
図3に示した4つの電流(I_DC、I_TR、I_C1、I_OUT)は、図3中のノードAでのキルヒホッフの第一法則に従う。従って、直流電流I_DCから出力電流I_OUTを引いた残りが、スイッチング素子電流I_TR、およびキャパシタC1に流れる電流I_C1となる。
【0024】
図5に示したように、直流電流I_DCは、常に1.0[A]の電流が流れる。また、スイッチング素子電流I_TRは、時刻が0.0[s]から0.5[s]の間はスイッチング素子12がオフであるので、電流が流れず0.0[A]である。時刻が0.5[s]から1.0[s]の間はスイッチング素子12がオンになり、急峻にスイッチング素子電流I_TRが立ち上がる。およそ0.8[s]付近でスイッチング素子電流I_TRはピークとなり、徐々に低下した後に、時刻が1.0[s]になると再びスイッチング素子12がオフになり、スイッチング素子電流I_TRは0.0[A]となる。
【0025】
キャパシタC1に流れる電流I_C1は、時刻0.0[s]では約2.0[A]である。しかし、時刻が0.0[s]から0.5[s]の間にスイッチング素子12がオフになると、約−0.9[A]まで降下した後に0.0[A]に戻る。時刻が0.5[s]から1.0[s]の間はスイッチング素子12がオンになり、スイッチング素子12に電流が流れる一方で、キャパシタC1に流れる電流I_C1は0.0[A]となる。
【0026】
図5に示したスイッチング素子電流I_TR、およびキャパシタC1に流れる電流I_C1を併せると、中心が1.0[A]の正弦波となっている。この正弦波は、直流電流I_DCから、キャパシタC2およびインダクタL2からなる直列共振器13に流れる電流I_OUTを引いた残りを示している。また正弦波のオフセットの1.0[A]は、チョークコイル11に流れる直流電流I_DCと等しい値となっている。
【0027】
なお、キャパシタC1は直流電流を通さないので、キャパシタC1に流れる電流I_C1を時刻0.0[s]から0.5[s]の間で積分すると0.0[A]となる。電流I_C1によってキャパシタC1に蓄積された電荷量に比例して、ノードAには電圧が発生する。従って、ノードAの電圧は、時刻0.0[s]の時点でスイッチング素子12がオフになると、キャパシタC1への電荷の蓄積に伴って0.0[V]から急峻に上昇し、電流I_C1の波形が0になる時点でピークに達する。その後はノードAの電圧は下降し、時刻0.5[s]の時点で再び0.0[V]に戻る。このノードAの電圧は、オフ状態のスイッチング素子12に印加されるスイッチング素子電圧V_TRとなる。
【0028】
整理すると、スイッチング素子12には、オン状態の場合に電流が流れ、スイッチング素子12がオン状態の場合に印加される電圧は0.0[V]である。そして、スイッチング素子12がオフ状態の場合に電流は流れず、スイッチング素子12がオフ状態の場合に印加される電圧は時々刻々と変化する。これがZVSである。
【0029】
図6は、スイッチング素子12に印加されるスイッチング素子電圧V_TRと、スイッチング素子12に流れるスイッチング素子電流I_TRとを、それぞれ正規化したものをグラフで示す説明図である。図6に示したグラフでは、実線が電源電圧V_DDで正規化したスイッチング素子電圧V_TRであり、点線が直流電流I_DCで正規化したスイッチング素子電流I_TRである。そして、図6にはZVSの様子が現れている。
【0030】
このように、従来のE級増幅器ではチョークコイルが使われている。しかし、チョークコイルを用いるとインダクタが大型化してしまうという問題があった。この問題は、小型化や消費電力の低減を目指す機器にE級増幅器を用いる場合に、小型化や消費電力の低減の際の妨げとなってしまう。この問題を解決するための技術として、上述したように、チョークコイルをフィルタに置き換える技術が特許文献1で開示されている
【0031】
図7は、特許文献1で開示された、従来のチョークコイルを用いないE級増幅器20の構成について示す説明図である。図7に示したように、E級増幅器20は、フィルタ21と、スイッチング素子22と、キャパシタC1と、直列共振器23と、移相コイルLxと、負荷抵抗Rと、を含んで構成される。フィルタ21は、インダクタLF1、LF2と、キャパシタCF1と、を含んで構成され、また直列共振器23は、キャパシタC2と、インダクタL2と、を含んで構成される。
【0032】
特許文献1によれば、フィルタ21に含まれるインダクタLF1およびキャパシタCF1、並びにインダクタLF2とキャパシタC1とが、2周波共振フィルタとして動作する旨が記載されている。第2高調波ではフィルタ21のインピーダンスが−1/jωC1となる。一方キャパシタC1のインピーダンスは1/jωC1であるから、フィルタ21とキャパシタC1との並列合成インピーダンスは、第2高調波において無限大、つまりオープンになり、第3高調波ではフィルタ21がショートになる。
【0033】
ここで、下記の表1に、図5に示したスイッチング素子電流I_TRおよびキャパシタC1に流れる電流I_C1を、9次高調波までフーリエ変換して周波数成分を求めたものを示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、スイッチング素子電流I_TRには直流成分並びに基本波および高調波成分が含まれる。一方、キャパシタC1に流れる電流I_C1には直流成分が含まれない。これは、キャパシタC1は直流電流を流さないからである。また表1から、I_TRとI_C1の高調波成分は全て同じ大きさであり、位相が180度異なっている。その結果、I_TRとI_C1合計では、直流成分と基本波成分だけが残り、高調波成分はゼロになっていることが分かる。
【0036】
表1に示したような周波数成分が生じていることは、図3を用いて以下のように説明することが出来る。E級増幅器10では、キャパシタC2とインダクタL2からなる基本波直列共振フィルタによって、基本波電流I_OUTの連続的な流れが生じている。基本波電流I_OUTの経路にあるのがスイッチング素子12とキャパシタC1であり、スイッチング素子12が図4に示した矩形波によってオンとオフにスイッチングされる。従って、基本波電流I_OUTはスイッチング素子12とキャパシタC1に時間率で50%に時分割される。時間領域でのスイッチングは乗算であるから、矩形波の持つ高次高調波との周波数ミキシングによって、スイッチング素子電流I_TRとキャパシタC1に流れる電流I_C1は、表1に示したような高次高調波成分が生じる。
【0037】
図8は、表1に示したスイッチング素子電流I_TRおよびキャパシタC1に流れる電流I_C1の周波数成分の大きさをグラフで示す説明図である。図8に示したグラフは、横軸に次数、縦軸にパワー・スペクトル密度を示している。図8に示したように、I_TRとI_C1を合計した基本波成分の大きさに比べて、I_TRとI_C1に含まれる3次以上の高調波成分のパワー・スペクトル密度は約−20dBと小さいことが分かる。一方、基本波及び2次高調波成分のパワー・スペクトル密度は−2〜−11dB程度である。従って、3次以上の高調波成分を失っても僅かな損失で済むが、基本波及び2次高調波成分は無視できない大きさであるため、E級増幅器においてはこれらの成分を失うことはできない。
【0038】
しかし、図7に示したE級増幅器20では、スイッチング素子電流I_TRに含まれていた2次高調波成分が、フィルタ21とキャパシタC1との共振によって流れを阻止されてしまうので、図6に示したスイッチング素子電流I_TRの電流波形が大幅に変形してしまう。その結果として、図5に示したE級増幅器20では、E級増幅器の高効率性が損なわれる可能性がある。
【0039】
そこで、本発明においては、高効率性を損なうことなく、チョークコイルを無くすことで、E級増幅器の小型化を図ることを目的とする。
【0040】
<2.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器>
[2−1.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器の構成]
図1は、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の構成について示す説明図である。以下、図1を用いて本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の構成について説明する。
【0041】
図1に示したように、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100は、基本波阻止フィルタ101と、2倍高調波阻止フィルタ102と、スイッチング素子104と、キャパシタC1と、直列共振器106と、移相コイルLxと、負荷抵抗Rと、を含んで構成される。基本波阻止フィルタ101は、インダクタLF1と、キャパシタCF1と、を含んで構成され、2倍高調波阻止フィルタ102は、インダクタLF2と、キャパシタCF2と、を含んで構成される。また直列共振器106は、キャパシタC2と、インダクタL2と、を含んで構成される。
【0042】
本実施形態にかかる基本波阻止フィルタ101および2倍高調波阻止フィルタ102は、図1に示したように、LC並列共振回路を用いている。基本波阻止フィルタ101と2倍高調波阻止フィルタ102は、それぞれ電源VDDからの準直流電流I_DC’を供給し、電源VDDから供給される電流の内、基本波成分および2倍高調波成分を遮断する働きを有する。従って、基本波阻止フィルタ101および2倍高調波阻止フィルタ102は、スイッチング素子104およびキャパシタC1に流れる電流の両方に対し、基本波および2倍高調波を遮断する役割を有している。ここで「準直流」とは、完全な直流ではなく、僅かに交流成分を含んでいることをいう。なお、基本波阻止フィルタ101および2倍高調波阻止フィルタ102におけるキャパシタ及びインダクタは、基本波成分および2倍高調波成分を遮断することができるものであれば、任意のキャパシタンスやインダクタンスのものを用いてもよい。
【0043】
スイッチング素子104は、バイポーラトランジスタや電界効果トランジスタその他のスイッチング素子を用いることができる。スイッチング素子104は、図4に示したデューティ比が50%の矩形波に応じてオンとオフを繰り返す素子である。スイッチング素子104がオンの場合にはスイッチング素子電流I_TRが流れ、スイッチング素子104がオフの場合には電流が流れない。
【0044】
キャパシタC1には、スイッチング素子104がオフの場合に、基本波阻止フィルタ101および2倍高調波阻止フィルタ102からの電流が流れ込む。そのときキャパシタC1に流れる電流をI_C1とする。
【0045】
キャパシタC2およびインダクタL2からなる直列共振器106は、キャパシタC2およびインダクタL2によって規定される動作周波数の出力電流I_OUTを通過させ、当該動作周波数以外の周波数ではオープンとなるバンドパスフィルタの働きを有する。移相コイルLxは、出力電流I_OUTに対して基本波の電圧と電流を移相するためのリアクタンスである。移相コイルLxはE級増幅器に必要となる位相条件を満たすために設けられるものである。負荷抵抗Rは、移相コイルLxによって移相された電流を消費する。
【0046】
以上、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の構成について説明した。次に、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の動作について説明する。
【0047】
[2−2.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器の動作]
本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の動作を説明するにあたって、図1に示したE級増幅器100の各素子の定数を求める数式を以下に示す。電源電圧をVDD、出力電力をPo、角周波数をω、直列共振器106の負荷QをQL2とした。これらの数式は、非特許文献2によって導出された数式を適宜変形したものである。
【0048】
【数1】

・・・(数式1)

・・・(数式2)

・・・(数式3)

・・・(数式4)

・・・(数式5)
【0049】
図1に示したE級増幅器100が、図5に示したE級増幅器20と大きく異なるのは、基本波阻止フィルタ101および2倍高調波阻止フィルタ102が、キャパシタC1とは共振関係にないという点である。これはすなわち、キャパシタC1に流れる電流I_C1に含まれる基本波成分と2倍高調波成分が損なわれないことを意味する。従って、図1に示したE級増幅器100は、スイッチング素子電流I_TRおよびキャパシタC1に流れる電流I_C1に含まれる基本波成分と2倍高調波成分を損なわないので、図5に示したE級増幅器20と比べて効率が改善されるという効果がある。
【0050】
図1に示したE級増幅器100における、基本波阻止フィルタ101と2倍高調波阻止フィルタ102に用いられているインダクタのインピーダンスは、負荷抵抗Rのインピーダンスの数倍程度であってもよい。より具体的には、基本波阻止フィルタ101と2倍高調波阻止フィルタ102に用いられているインダクタのインピーダンスは、負荷抵抗Rのインピーダンスの1倍以上10倍以下のものを用いることができる。従来のE級増幅器では、一般に、チョークコイルは、負荷抵抗の20倍程度のインピーダンスを有するものが用いられている。これに比べて本実施形態にかかるE級増幅器100では、大幅にインダクタが小型化できるという効果もある。
【0051】
なお、図1では、基本波阻止フィルタ101、2倍高調波阻止フィルタ102の順にフィルタを設けたが、本発明においてはこれらのフィルタの順序は逆であっても良いことは言うまでも無い。また、本実施形態においては、基本波阻止フィルタ101および2倍高調波阻止フィルタ102にはLC並列共振回路を用いているが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。すなわち、電源VDDから供給される電流の内、基本波が含まれた電流と2倍高調波が含まれた電流を阻止する働きを有するものであれば、本発明の増幅器は図1に示した構成に限定されないことは言うまでもない。
【0052】
<3.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器を備えた通信装置>
次に、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を備えた通信装置について説明する。図2は、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を備えた通信装置200について示す説明図である。図2には、E級増幅器100を備えた送信側の通信装置200の他に、受信側の通信装置300を併せて示している。
【0053】
図2に示したように、通信装置200は、E級増幅器100と、E級増幅器100に電圧VDDを供給する電源220と、E級増幅器100のスイッチング素子104のスイッチングを制御する交流電源230と、を含んで構成される。通信装置200は、通信装置300に対して、無線による電力の伝送を行う装置である。通信装置200において、E級増幅器100で電力を増幅し、通信装置200に備えられるアンテナ210から、通信装置300に備えられるアンテナ310に対して電波を送信する。通信装置300では、アンテナ310で受信した電波を復調することで電力を受け取ることができる。
【0054】
このように、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を通信装置200に適用することで、無線による電力伝送の際の効率を向上させることができる。以上、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を備えた通信装置について説明した。なお、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を備える通信装置の構成は、図5に示したものに限られないことは言うまでもない。
【0055】
<4.まとめ>
以上説明したように、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100は、従来用いられたチョークコイルを、基本波阻止フィルタ101および2倍高調波阻止フィルタ102に置き換える。チョークコイルを基本波阻止フィルタ101および2倍高調波阻止フィルタ102に置き換えることで、従来のE級増幅器と比較してもE級増幅器としての効率を損なわず、また従来のE級増幅器と比較してインダクタを小型化することができる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、増幅器および通信装置に関し、特にE級増幅器およびE級増幅器を備えた通信装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の構成について示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を備えた通信装置200について示す説明図である。
【図3】従来の一般的なE級増幅器10の回路構成について示す説明図である。
【図4】スイッチング素子に印加する信号の波形について示す説明図である。
【図5】スイッチング素子電流およびキャパシタC1に流れる電流について示す説明図である。
【図6】スイッチング素子電圧およびスイッチング素子電流を、それぞれ正規化したものをグラフで示す説明図である。
【図7】従来のチョークコイルを用いないE級増幅器20の構成について示す説明図である。
【図8】スイッチング素子電流およびキャパシタC1に流れる電流の周波数成分の大きさをグラフで示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
10、20、100 E級増幅器
11 チョークコイル
12、22、104 スイッチング素子
101 基本波阻止フィルタ
102 2倍高調波阻止フィルタ
200、300 通信装置
C1、C2、CF1、CF2 キャパシタ
13、23、106 直列共振器
Lx 移相コイル
R 負荷抵抗
L2、LF1、LF2 インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からの供給電流に含まれる基本波成分および2次高調波成分を遮断するフィルタ回路と、
前記フィルタ回路と接地電位との間に接続されるスイッチング素子と、
前記スイッチング素子と並列に接続され、前記フィルタ回路と前記接地電位との間に接続されるキャパシタと、
を備える、増幅器。
【請求項2】
前記フィルタ回路は、
前記供給電流に含まれる基本波成分を遮断する基本波遮断回路と、
前記供給電流に含まれる2次高調波成分を遮断する2次高調波遮断回路と、
を含む、請求項1に記載の増幅器。
【請求項3】
前記基本波遮断回路および前記2次高調波遮断回路は、それぞれLC並列共振回路である、請求項2に記載の増幅器。
【請求項4】
前記フィルタ回路からの電流を消費する負荷抵抗をさらに備え、
前記基本波遮断回路および前記2次高調波遮断回路に含まれるインダクタのインピーダンスは、前記負荷抵抗のインピーダンスの1倍以上10倍以下である、請求項3に記載の増幅器。
【請求項5】
前記基本波遮断回路および前記2次高調波遮断回路は、前記キャパシタとは共振しない、請求項3に記載の増幅器。
【請求項6】
請求項1に記載の増幅器を備える、通信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−141522(P2010−141522A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314769(P2008−314769)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】