説明

増粘剤

【課題】本発明の目的は、塩水溶液中においても粘度を低下させることの少なく、かつ使用感に優れた増粘剤、及び当該増粘剤を含有する化粧料を提供することにある。
【解決手段】ポリ−γ−L−グルタミン酸、ポリ−γ−L−グルタミン酸の塩、ポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体およびポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の塩の中から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする増粘剤、及び当該増粘剤を含むことを特徴とする化粧料を提供する。本発明により、塩水溶液中においても粘度を低下させることの少ない増粘剤、及び当該増粘剤を含有する化粧料を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘剤に関する。さらに詳しくは、塩水溶液中においても粘度を低下させることの少なく、かつ使用感に優れたポリ−γ−L−グルタミン酸、ポリ−γ−L−グルタミン酸の塩、ポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体およびポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の塩の中から選ばれる1種または2種以上を含み、増粘剤、化粧料として好適な増粘剤に関する。
【0002】
また、本発明は、上記ポリ−γ−L−グルタミン酸、ポリ−γ−L−グルタミン酸の塩、ポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体およびポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の塩の中から選ばれる1種または2種以上を含む増粘剤を配合した化粧料に関するものであり、例えば、皮膚や毛髪を含む広汎な化粧料に利用できる。
【背景技術】
【0003】
医薬品および化粧料を含む広汎な分野で使用できる増粘剤としては、種々の多糖類、ゼラチンなどの天然高分子、ポリオキシエチレン、架橋ポリ(メタ)アクリル酸などの合成高分子、モンモリロナイト、シリカなどの無機鉱物などが挙げられる。特に、これらの中でも架橋ポリ(メタ)アクリル酸は安価で増粘効果が高く、少量でゲル化するため、医薬品および化粧品業界において高頻度に用いられている。
また、特に化粧料においては、増粘剤あるいは安定化剤として上記の水溶性増粘剤を配合している。
【0004】
しかしながら、架橋ポリ(メタ)アクリル酸はpH5以下の酸性下や塩の存在する水溶液中では、カルボキシル基の解離が抑えられ、粘度が極端に低下しゲル化しなくなる。このため、酸性条件や塩共存系が要求される処方では使えない。特に、使用性が重要なポイントを占める化粧料のゲル化剤としては、この特徴が致命的な欠点となることもある。例えば、pH5以下の酸性条件下では、増粘剤として用いられる架橋ポリ(メタ)アクリル酸は急激に粘度低下を起こすため、十分な粘度を保持するためにはその配合量を大幅に増やさなければならず、その結果、使用性が悪くなる。また、架橋ポリ(メタ)アクリル酸で増粘 ゲル化させた化粧料を肌に塗布しようとすると、肌表面に存在する塩 で水分を離してしまい、上滑り感のある使用性となってしまう。発汗直後の使用に際しては、特にこの上滑り感が顕著に現われる。
【0005】
一方で、微生物が生産するバイオポリマーが有望視されている。バイオポリマーの中でも、アミノ酸が縮重合して構成されるポリアミノ酸と呼ばれる一群のバイオポリマーには様々な機能が見出されており、その潜在能力に注目が集まっている。これまでに、ポリアミノ酸として、ポリ−γ−グルタミン酸(以下、「PGA」と表記することもある)、ポリ−ε−リジンおよびシアノファイシンの3種類が同定されている。
【0006】
PGAは、グルタミン酸のα−アミノ基とγ−カルボキシル基とがアミド結合したポリアミノ酸であり、古くから日本人に親しまれている納豆の糸引きの主体物質として知られる吸水性のポリアミノ酸である。このPGAがこのように親しまれてきた背景として、その魅力的な機能によるところが大きい。即ち、PGAの魅力的な機能としては、生分解性及び高吸水性を兼ね備えている点が知られている。これらの機能を利用して、上述した化粧料をはじめ、医療品、食品等、種々の分野、用途への使用が期待されている。
【0007】
PGAは、L−グルタミン酸及びD−グルタミン酸の両光学異性体が不規則に結合してなるPGAが一般的であるが、L−グルタミン酸のみが結合してなるPGA(特許文献1、非特許文献1〜3)や、D−グルタミン酸のみが結合してなるPGA(非特許文献4)も報告されている。
【0008】
このPGAは従来から化粧料業界で使用されてきており、増粘作用に加え、優れた保湿性(特許文献5)、整髪効果(特許文献6)や皮膚刺激緩和作用(特許文献7)、炎症抑制効果及び紫外線吸収効果(特許文献8)、抗酸化性(特許文献9)、ピロリドンカルボン酸生成促進作用(特許文献10)、多価アルコールに起因する不快感抑制効果(特許文献11)等多岐に渡る有効性が確認されている。また、特開2004−210699号公報(特許文献5)では高分子量(200万〜300万)のポリ−γ−グルタミン酸による増粘効果及び保湿効果を有する化粧料組成物が示されている。
【0009】
また、特許文献2では、PGAの架橋体を吸水性樹脂として用いている。即ち、ポリ−γ−グルタミン酸架橋体は、ポリ−γ−グルタミン酸の一部が架橋した構造を有するものであり、水を吸収して膨潤し、一旦吸収した水は荷重をかけても放出しにくいという性質を持っている。さらに、ポリ−γグルタミン酸架橋体は高い保水性を有するとともに、生分解性があることでも知られている。
【0010】
ポリ−γ−グルタミン酸架橋体(以下、PGA架橋体と表記することもある)の化粧料への応用として、例えば特開2001−72764号公報(特許文献3)ではPGA架橋体の化粧料素材としての使用性や生分解性が示され、また特開2003−12442号公報(特許文献4)では、使用時にべたつかないとともに、肌や毛髪へのなじみがよく、保湿効果に優れたPGA架橋体を配合した化粧料が示されている。
【0011】
しかしながら、従来のPGAびPGA架橋体を単純に化粧料組成物中に配合したのでは、塩存在下において粘度低下がしばしば問題となることがあった。
【0012】
なお、本明細書では、説明の便宜のため、D−グルタミン酸及びL−グルタミン酸が結合してなるPGAを「DL−PGA」と表記する。また、D−グルタミン酸のみからなるPGAを「D−PGA」と表記し、L−グルタミン酸のみからなるPGAを「ポリ−γ−L−グルタミン酸」又は「L−PGA」と表記することもある。
【特許文献1】特表2002−517204号公報(2002年6月18日公表)
【特許文献2】特開平10−251402号公報(1998年9月22日公開)
【特許文献3】特開2001−72764号公報
【特許文献4】特開2003−12442号公報
【特許文献5】特公平04−50286号公報
【特許文献6】特開昭47−46910号公報
【特許文献7】特開昭63−35698号公報
【特許文献8】特開平01−146815号公報
【特許文献9】特開平01−146986号公報
【特許文献10】特開平06−329529号公報
【特許文献11】特開2002−145723号公報
【非特許文献1】Aono, R., M. Ito, and T. Machida, Contribution of the Cell Wall Component Teichuronopeptide to pH Homeostasis and Alkaliphily in the AlkaliphileBacillus lentus C-125, Journal of Bacteriology, 1999, Vol. 181, 6600-6606.
【非特許文献2】Weber, J., Poly(gamma-glutamic acid)s are the major constituents of nematocysts in Hydra (Hydrozoa, Cnidaria), Journal of Biological Chemistry, 1990, Vol. 265, 9664-9669.
【非特許文献3】Hezayen, F. F., B. H. A. Rehm, B. J. Tindalland A. Steinbuchel, Transfer of Natrialbaasiatica B1T to Natrialba taiwanensis sp. nov. and description of Natrialba aegyptiacasp. nov., a novel extremely halophilic, aerobic, non-pigmented member of the Archaea from Egypt that produces extracellular poly(glutamic acid), International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 2001, 51, 1133-1142.
【非特許文献4】Makino, S., I. Uchida, N. Terakado, C. Sasakawa, and M. Yoshikawa, Molecular characterization and protein analysis of the cap region, which is essential for encapsulation in Bacillus anthracis, Journal of Bacteriology, 1989, 171, 722-730.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述した、従来のPGAを含有する増粘剤では、所望の品質を有する増粘剤を安定して製造することが困難であるという問題や、塩水溶液中における粘度が低下するという問題点を有する。
【0014】
前述のように、現在、製品化されているDL−PGAは、化学的にヘテロなポリマーである。具体的には、PGAは、納豆菌やその類縁菌から生産されているが、D−グルタミン酸及びL−グルタミン酸が不規則に結合しており、その含有比率や、配列は生産菌の培養毎に変動する。一般に、ポリアミノ酸の構造的特徴(構成するアミノ酸の光学活性や種類、分子サイズ、結合様式など)は、その機能に強く影響を与える。上記DL−PGAは、分子毎に構造が異なるため、その性質も分子毎に異なる。これでは、所望の品質を有するDL−PGAを安定して製造することが困難である。
【0015】
また、DL−PGAの粘度は不十分であるため、増粘剤としての実用化には大きな課題が残る。
【0016】
ところで、従来、L−PGAを含む増粘剤を製造したという報告はない。これには次の理由が考えられる。
【0017】
一般に、PGAを用いて増粘剤を製造する場合、粘性が要求されるため、高分子量のPGAが不可欠である。一方で、従来、液体培養では、平均分子量が大きいL−PGAは得られていない。これでは、L−PGAを含有する増粘剤を製造することを着想することすら困難である。
【0018】
また、工業的な用途のPGAは、液体培養によって製造可能であることが要求される。平板培養では一度に大量の微生物を培養することが難しく、平板培地上からL−PGAを回収すると効率が悪いからである。
【0019】
具体的には、L−PGAを合成する生物として、非特許文献1では好アルカリ性細菌Bacillus haloduransが開示され、非特許文献2ではヒドラが開示されている。しかし、これらの生物により合成されるL−PGAの分子量は10万程度であり、極めて小さい。
【0020】
また、特許文献1及び非特許文献3では、好塩性古細菌であるNatrialba aegyptiacaは、平板培地で培養すれば、分子量10万〜100万程度のL−PGAを生産することが報告されている。しかし、当該Natrialba aegyptiacaが液体培養条件下で合成するL−PGAは、分子量10万程度であり、かつ、その合成効率は極めて低い。
【0021】
一方、これまで得られているD−PGAは、産業上の利用に適していない。
【0022】
何故なら、非特許文献4で開示されているD−PGAを合成する菌は、強い病原性を有する炭疸菌Bacillus anthracisだからである。産業上利用するPGAの製造に、炭疸菌を使用することは極めて不適切である。
【0023】
ところで、特許文献2にはDL−PGAの架橋体が吸水性樹脂として用いられているが、DL−PGAの架橋体を増粘剤として用いることは困難である。
【0024】
特許文献2に開示されているDL−PGA架橋体の原料であるDL−PGAは、バチルス・ズブチルス等の納豆菌やその類縁菌によって合成されている。これでは原料となるDL−PGAの品質が一定しないため、安定して架橋体を得ることが困難である。本発明者らの検討においてもDL−PGAの架橋体は得られなかった。これは、上述のようにDL−PGAは、分子毎にその構造が異なるためであると考えられる。つまり、PGAの架橋体を作製する際の架橋効率は分子の構造に依存しており、分子毎の構造が不規則に異なる場合は、架橋効率が著しく低下する。よって、分子毎に構造が異なるDL−PGAを架橋させることは困難であり、架橋体の収率も極めて低いものとなる。
【0025】
従って、DL−PGAの架橋体を用いても、所望の品質の増粘剤を安定して製造することは困難である。
【0026】
一方で、従来、L−PGAの架橋体を増粘剤として得たという報告はない
【0027】
これは、上述のように、液体培養ではL−PGAを製造できない。つまり、原料であるL−PGAを確保できないので、架橋体L−PGAを得ることは困難である。そのため、架橋体L−PGAを増粘剤としての用途を発想することはできない。また、D−PGAの架橋体は、仮に得ることができたとしても、上述のようにD−PGAの生産菌は、現在炭疸菌のみであるため、産業上の利用に適していない。
【0028】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、塩水溶液中においても粘度を低下させることの少ないL−PGA、L−PGAの塩、L−PGA架橋体およびL−PGA架橋体の塩の中から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする増粘剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明者らは上記課題の解決のため、高い粘度を有し、所望の品質を安定して製造することができる、天然物由来の生分解性素材を得るべく鋭意検討を行った。その結果、高分子量を有するL−PGAを独自に開発し、当該L−PGAは、L−グルタミン酸のみが結合してなるため、光学活性が均一であり、かつ、分子量が高いことから優れた粘度を有し、かつ塩水溶液中においても粘度が低下し難い増粘剤であることを見出した。例えば医薬品や化粧品を含む広汎な分野に利用できる。
【0030】
以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
1.ポリ−γ−L−グルタミン酸、ポリ−γ−L−グルタミン酸の塩、ポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体およびポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の塩の中から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする増粘剤。
2.1の増粘剤を含むことを特徴とする化粧料。
3.1の増粘剤を添加することを特徴とする化粧料の製造方法。
4.1の増粘剤を添加することを特徴とする化粧料の粘度を増加する方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る増粘剤は、以上のように、L−PGA、L−PGAの塩、L−PGA架橋体およびL−PGA架橋体の塩の中から選ばれる1種または2種以上を含む。そのため、優れた粘度を有し、かつ塩水溶液中においても粘度を低下させることの少ない増粘剤を安定に提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の実施の一形態に説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適時変更して実施することができる。
【0033】
本明細の「L−PGA」とは、L−グルタミン酸のみからなるホモポリマ−である。その構造は式(I)にて示される構造である。式(I)において、nはL−PGAの重合数を示す。n>78
【0034】
【化1】

【0035】
本明細の「分子量」とはプルラン標準物質の分子量換算にて算出した数平均分子量(Mn)のことを指す。好ましくは10000以上〜1000万以下、より好ましくは10万以上〜500万以下、さらに好ましくは50万以上〜400万以下である。特に好ましくは100万以上〜400万以下である。
【0036】
本発明で使用されるL−PGAは、微生物由来のL−PGAであってもよい。
【0037】
本明細の「微生物」は高分子量のL−PGAを生産する微生物であれば特に限定されない。野生型の微生物やこれらの変異株及び遺伝子組換え技術により造成された微生物を用いることができる。好ましくは好塩菌又はその変異処理株である。好塩菌としての性質を有しておれば、好熱菌、高度好熱菌、好冷菌、好酸菌、好圧菌および低温生育菌などであっても良い。本発明の好塩菌は至適増殖に0.2M以上のNaCl濃度を要求する原核生物である。好塩菌は、低度好塩菌(0.2−0.5MのNaCl濃度で生育)、中度好塩菌(0.5−2.5MのNaCl濃度で生育)、高度好塩菌(2.5−5.2MのNaCl濃度で生育)であればよい。好ましくは、高度好塩菌がよい。
【0038】
本明細の「好塩菌」は、「古細菌」であってもよい。「古細菌」には、高度好塩古細菌(好塩古細菌と称することもある)、好熱古細菌、メタン菌(メタン生成古細菌)などがあるが、L−PGAを生産できる古細菌であれば特に限定はされない。好ましくは、高度好塩古細菌がよい。なお高度好塩菌の大半が高度好塩性古細菌によって占められている。高度好塩古細菌は、例えば、Halobacterium属、Haloarcula属、Haloferax属、Halococcus属、Halorubrum属、Halobaculum属、Natrialba属、Natronomonas属、Natronobacterium属、Natronococcus属等が挙げられるが、Natrialba属が好ましく、さらに好ましくはナトリアルバ エジプチアキア(Natrialbaaegyptiaca)がよい。
【0039】
本発明で使用されるL−PGAを生産する微生物は、ムコイド状を呈する微生物であっても良い。
【0040】
「ムコイド状」とは、コロニーが粘性状態のことを指し、ポリペプチド鎖の主柱に共有結合した単糖や多糖鎖側鎖を含む高分子のことを指す。本願発明の「ムコイド状」とはL−PGAと多糖が結合した粘性状態のコロニーのことを指す。
【0041】
本発明者らは、L−PGAを顕著に生産する微生物を取得した。微生物は、変異処理してもしなくても良い。より好ましくは、変異処理するのがよい。
【0042】
本発明で使用されるL−PGAを生産する微生物は、変異処理を行い、L−PGAを顕著に生産する株をスクリーニングして入手しても良い。以下にL−PGAを生産する微生物の作出方法、並びにL−PGA及びL−PGAの架橋体の製造法を参考までに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
L−PGAを顕著に生産する微生物の取得方法またはスクリ−ニング方法において、塩感受性の高まったL−PGA生産微生物を選抜することにある。その選抜方法は、通常、L−PGA生産微生物がL−PGAを生産しにくい塩濃度下で培養し、ムコイド状を示すコロニーを目安に選抜を実施すればよい。なお、この選抜工程の前や選抜工程において、変異処理を施しても良い。
【0044】
ここでいう「塩感受性」とは、微生物がL−PGAの生産を開始する塩濃度に対する感受性のことを指す。塩感受性が高まった微生物又はその変異株とは、例えば、5%〜20%(W/V) NaClにおいてもL−PGAを生産する変異株のことを指し、好ましくは7%〜15%(W/V) NaCl濃度においてもL−PGAを生産する変異株のことを言う。
【0045】
塩とは、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、カルシウム、亜鉛及び鉄等一般的なものあれば限定する必要はない。そのなかでも好ましくはナトリウムである。
【0046】
また、変異処理方法としては公知の方法、例えば遺伝子組換えによる方法、細胞または胞子に変異原性のある薬剤を接触させる方法、またX線やγ線のような放射線、紫外線などを照射する方法などを挙げることができる。前記の薬剤を接触させる方法に用いられる薬剤としては、例えばN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)等のアルキル化剤を挙げることができる。これら変異処理を施す場合には、変異処理後の微生物の生存率が1%以下となる程度の強度であることが好ましいが、特に限定はされない。
【0047】
選抜し得られた微生物又はその変異株は、ついで液体培養でL−PGAを生産できる株をさらに選抜しても良い。
【0048】
本発明者らの方法のさらに有利な点は、液体培養において、L−PGAを生産できる微生物又はその変異株を容易に取得したことにある。上記選抜方法を実施せずに、液体培養による選抜を実施し、L−PGAを液体培養で生産できる微生物又はその変異株を入手することは当業者にとって容易でない。なぜならば、固体培養で得られるコロニー毎に液体培養し、そのL−PGAの生産量を確認しなければならないからである。この作業は天文学的数字になるため、事実上不可能であることは当業者であれば容易に理解できる。本発明者らは鋭意努力し、L−PGAを液体培養で生産できる微生物又はその変異株を容易に入手せしめる方法を見出している。
【0049】
本発明者らにより得られた微生物又はその変異株を液体培養することで、高分子量のL−PGAを工業的なスケ−ルで製造することができる。
【0050】
液体培養方法は、選抜した微生物又はその変異株が生育でき、高分子量のL−PGAを生産できる条件下で培養すればよく、特に限定はされない。たとえば、選抜した微生物又はその変異株を培養するには、培地を通常の方法、例えば、110〜140℃、8〜20分で殺菌した後、培地に変異株を添加する。ただし、高度好塩菌の場合は他の微生物が生育不可能な条件である飽和NaCl濃度条件においても生育できるために殺菌工程を省略することもできる。
【0051】
液体培養する場合には、振とう培養、通気攪拌培養などで行えばよい。その際の培養温度は、25〜50℃、好ましくは30〜45℃が適当である。また、培地のpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、塩酸、硫酸またそれらの水溶液などによって調整できるが、pH調整できれば限定されない。培養pHはpH5.0−9.0、好ましくはpH6.0−8.5で培養すればよい。また、培養期間は、通常2〜4日間程度でよいが、L−PGAを生産できればなんら限定されない。また、微生物又はその変異株の生育特性に応じて培養時に塩を添加しても良い。培養時の塩濃度は10〜30%、好ましくは15〜25%で培養すればよい。
【0052】
このようにして培養すると、L−PGAは、主として菌体外に蓄積される。
【0053】
この培養物からL−PGAを分離、採取するには、公知の方法、(1)固体培養物から20%以下の食塩水により抽出分離する方法(特開平3−30648号公報)、(2)硫酸銅による沈殿法((Throne.B.C., C.C.Gomez,N.E.Nou
es and R.D.Housevright:J.Bacteriol.,68巻、
307頁、1954年)、(3)アルコ−ル沈殿法(R.M.Vard,R.F.Anderson and F.K.Dean:Biotechnology and Bioengineering,5巻、41頁、1963年、(4)架橋化キトサン成形物を吸着剤とするクロマトグラフィ−法(特開平3−244392号公報など)、(5)分子限外濾過膜を使用する分子限外濾過法、(6)前記(1)〜(5)を適宜組合せた方法などが採用できる。このようにして分離、採取したものをL−PGAの含有液としてもよい。必要により公知の方法でスプレ−ドライ、凍結乾燥などの操作を施して粉末としてもよい。
【0054】
以下に、微生物、特にナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)の例を挙げて詳細に記述するが、これによりL−PGA産生法が限定されるものではない。
【0055】
以下に、好塩菌、特にナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)を変異処理し、液体培養条件下で高分子量のL−PGAを顕著に生産する微生物またはその変異株を得る方法と、その微生物またはその変異株を用いたL−PGAの製造方法および高分子量のL−PGAの取得方法を説明する。
【0056】
ナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)は分子量10〜100万程度のL−PGAのみを固体培養で生産することが報告されている。一方、ナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)は、液体培養条件下では、少量のL−PGAしか生産せず大量生産が容易ではないとともに、得られるL−PGAの分子量も10万と小さい(特表2002−517204号公報及びF.F.Hezayen, B.H.A.Rehm, B.J.Tindall andA.Steinbuchel, Int. J. Syst. E., 51, 1133(2001) )。
【0057】
液体培養条件下でL−PGAを生産出来る菌株をスクリ−ニングするにしても、ナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)は、固体培地表面でムコイド状 のコロニーを形成するため、コロニーとコロニーが融合してしまい、シングルコロニーの分離が難しかった。たとえ、シングルコロニーの分離をしたとしても、一株ずつ液体培養し、L−PGAの有無を確認しなくてはならず、膨大な時間と労力が必要であり、本発明者の方法がなければ不可能であった。
【0058】
ナトリアルバ エジプチアキア (Natrialba aegyptiaca)は、10%(w/v)以上の塩を含む培地で生育可能であるが、L−PGAを生産するのは20%(w/v)%以上の塩を添加した場合に限られる。また、NaCl濃度が10%(w/v)の固体培養条件下でムコイド状を呈しない。さらに、液体培養よりも固体培養の方が菌体当たりのL−PGA生産量は10倍以上高くなる。つまり、本古細菌は、高塩環境下で発生する脱水現象から巧みに身を守るためにL−PGAを生産していると考えられている(Appl. Microbiol.Biotechnol., 54,319(2000))。
【0059】
本発明者らは、改良したナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)は親株がL−PGAを殆ど生産しない条件、すなわちNaCl濃度が10%(w/v)の固体培養条件下でムコイド状を呈し、液体培養条件下で親株と比較しL−PGAを顕著に生産することを見出し、更に、該変異株が液体培養条件下においても高分子量のL−PGAを著量生産することを見出している。
【0060】
本発明者らは、ナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)に限定されるものではない。すなわち、本願発明は、L−PGAを生産する好塩菌全般において上記と同様の選抜方法をとれば、液体培養条件下で親株と比較しL−PGAを顕著に生産する変異株を取得できることを開示している。本発明者らの方法により、従来、得られなかった変異株を入手することができる。また、好塩菌は高塩条件下において生育が可能であることから、無菌操作無しで培養することができる。
【0061】
これらの微生物を親株として、L−PGA生産量が高まった微生物とするには、通常に行われる変異処理方法が採用される。その変異処理方法としては公知の方法、例えば遺伝子組換えによる方法、細胞または胞子に変異原性のある薬剤を接触させる方法、またX線やγ線のような放射線、紫外線などを照射する方法などを挙げることができる。前記の薬剤を接触させる方法に用いられる薬剤としては、例えばN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)等のアルキル化剤を挙げることができる。これら変異処理を施す場合には、変異処理後の微生物の生存率が1%以下となる程度の強度であることが好ましいが、特に限定はされない。
【0062】
具体的には、N.aegyptiaca(JCM11194)のシングルコロニーを白金耳で1白金耳掻き取り、3mlのPGA生産液体培地−1(22.5% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid)/18ml容試験管に植菌し、37℃ 300rpmで3日間培養した。得られた培養液0.5mlを50mlのPGA生産液体培地−1/500ml容坂口フラスコに植菌し、37℃ 180rpmで5日間培養した。得られた培養液を3000rpmで5分間遠心し、菌体を回収した。回収した菌体に100mM クエン酸緩衝液(pH6.0)を加え再懸濁する。この操作を3度繰り返す。懸濁した溶液の1/10量の飽和NTG溶液(東京化成株式会社)、それを滅菌水で70%、50%、20%、10%としたものをそれぞれ加え、42℃ 150rpmで1時間インキュベ−トした。処理後、PGA生産寒天培地−1(10% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid、2% Agar)に播種し37℃で5日間培養した。生存率が1%以下となる条件を設定した。
【0063】
L−PGA高生産株取得方法としては、前記変異処理をして得られたコロニーを、通常の公知の栄養培地、例えば肉汁、ペプトン、大豆粉、Yeast Extract、Casamino acid、アミノ酸類またはそれらの混合物などを含有する培地、または必要な栄養素類を含有する無機合成培地などの寒天平板培地、好ましくはPGA生産寒天培地−1で2〜4日間培養した。その後、PGA生産寒天培地−1に出現するコロニーを一つ一つPGA生産寒天培地−1及びPGA生産寒天培地−2(22.5% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid、2% Agar)の寒天平板培地それぞれにとって4日間静置培養した。
【0064】
PGA生産寒天培地−1においてもムコイド状コロニーを形成する変異株を選択し、さらにPGA生産液体培地−1(22.5% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid)に植菌し、37℃ 1180rpm で4日間培養し、培地中のL−PGAを定量し、野生株と比較してL−PGAの生産性が高まる変異株を取得する方法を選択した。
【0065】
このようにして得られた菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センタ−に、ナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)0830−82株(受領機関名:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センタ−、 受領日:平成18年4月4日、受領番号:FERM BP-10747)、ナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)0830−243株(受領機関名:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センタ−、 受領日:平成18年4月4日、受領番号:FERM BP-10748)、またはナトリアルバ エジプチアキア(Natrialbaaegyptiaca)0831−264株(受領機関名:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センタ−、 受領日:平成18年4月4日、受領番号:FERM BP-10749)として寄託されている。
上記3種の菌株を、前記の方法で培養し、L−PGAを精製することにより、数平均分子量=1,300,000以上である高分子量のL−PGAが得られる。得られたL−PGAは、均一な光学純度でかつ高分子量のL−PGAである。
【0066】
L−PGAの精製については、例えば、上記にて得られた受領番号:FERM BP-10749のシングルコロニーを白金耳で 1白金耳掻き取り、3mlのPGA生産液体培地−1(22.5% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid)/18ml容試験管×5本に植菌し、37℃ 300rpmで3日間培養する。得られた培養液0.5mlを 50mL−PGA生産液体培地−1/500ml容坂口フラスコ×10本に植菌し、37℃で5日間培養した。得られた培養液を遠心し、菌体を取り除いた。続いて、得られた上清液に3倍量の水を加え希釈した後、pHを3.0に調整した。pH調整後、5時間 室温で攪拌した。その後、3倍量のエタノ−ルを加え遠心分離を行い、L−PGAを沈殿物として回収した。沈殿物を0.1mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解させ、低分子物質を除去するために透析した。透析後、得られた液を核酸除去のため、1mM MgCl2、10U/ml DNaseI(TAKARA社製)、20μg/ml RNaseI(NIPPONGENE社製)となるように加え37℃で2時間インキュベ−トした。次いでタンパク質除去のために、3U/ml Proteinase K(TAKARA社製)処理を37℃ 5時間インキュベ−トした。Proteinase K処理後、MilliQ水で透析し、低分子物質を除去した。透析後、L−PGAを陰イオン交換樹脂、Q sepharose Fast Flow(AmershamBiosciences社製)に吸着させ、洗浄後1M NaClで溶出した。得られた溶液をMilliQ水で透析し、透析後の溶液を凍結乾燥することにより、L−PGA・Na塩を得た。
【0067】
得られたL−PGA・Na塩の平均分子量をGPC分析にて測定した。GPC分析の結果、Mw=7,522,000、Mn=3,704,000、Mw/Mn=2.031、であることが確認された(プルラン換算)。
【0068】
上述のL−PGA精製工程において、陰イオン交換樹脂、Q sepharose Fast Flow(AmershamBiosciences社製)に吸着させ、洗浄後1M NaClで溶出後、L−PGA含有液のpHを1NHClによりpH2.0に調整した。その後、MilliQ水で透析し、さらに凍結乾燥することでL−PGA・フリ−体を得た。得られたL−PGAのフリ−体の平均分子量をGPC分析にて測定した。GPC分析の結果、Mw=2,888,000、Mn=1,327,000、Mw/Mn=2.176、であることが確認された(プルラン換算)。
【0069】
さらに、本発明者らは、このL−PGAをその濃度が1〜10重量%、好ましくは2〜8重量%、さらに好ましくは2〜7重量%になるように水等の溶媒に溶解し、次いでこの溶液に放射線を照射したのち、生成した架橋体を分離精製等をすることによりL−PGA架橋体を得ている。
【0070】
本発明において、L−PGAを溶解させるのは、L−PGAを溶解させることができれば特に限定されず、例えば、水、アルコ−ル、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル等が用いられるが、特に水、メチルアルコ−ルおよびエチルアルコ−ルが好ましく、特に水が好ましい。
【0071】
L−PGA溶液は、水、アルコ−ル、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル等の適切な溶媒中に溶解され、水溶液のpHはpH5.0〜9.0、好ましくはpH6.0〜8.0である。
【0072】
L−PGAを溶解した溶液は、放射線透過性容器、例えばガラス製バイアル瓶等、ガラス製容器等を用いることができる
【0073】
ガラス製バイアルに移したL−PGA溶液をそのまま放射線照射してもよいが、好ましくは窒素バブリングした後に放射線照射することが好ましい。
【0074】
この後、余分な水分を除去し、凍結乾燥することでL−PGA架橋体粉末を得ることができる。
【0075】
照射線量はL−PGAが架橋される条件であればなんら限定されないが、0.5〜20kGyが好ましい。さらに好ましくは、照射線量2〜10kGyである。特に好ましくは、照射線量2〜8kGyである。照射線量2〜8kGyであれば、吸水倍率が 500倍〜7000倍の架橋体を得ることができる。
【0076】
本明細書のハイドロゲルとは溶媒とポリマーを主な主成分とするポリマーの溶媒膨潤体である。つまり、ハイドロゲルは多量の水を含んでおり、水溶液と固体の中間の状態にある。水溶液と違うのは流動性がないことで、押しても溶媒が滲み出ない溶媒膨潤体である。本発明のハイドロゲルとはL−PGA架橋体と溶媒を主成分とする溶媒膨潤体のことを指す。
【0077】
L−PGA架橋体粉末に水を加えることでハイドロゲルを得ることができる。このハイドロゲルは、無色透明であり、吸水性に優れ、生分解性も有している。
【0078】
以上の方法により得られるハイドロゲルは、所定形状に造粒されていてもよく、また、不定形破砕状、球状等であってもよい。このハイドロゲルは、衛生分野のみならず、多種多様な分野において利用可能である。例えば、保湿剤としての化粧品、紙オムツ等のトイレタリ−品、体液吸収体等の医療品等、土壌改良剤として利用することもできる。
【0079】
L−PGA架橋体のハイドロゲルを凍結乾燥後、すり鉢等で粉砕することでL−PGA架橋体粉末を得てもよい。
【0080】
〔本発明に係る増粘剤〕
本発明に係る増粘剤はL−PGA、L−PGAの塩、L−PGA架橋体およびL−PGA架橋体の塩の中から選ばれる1種または2種以上を含めばよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0081】
L−PGAは、L−グルタミン酸が結合してなるため、光学活性が均一であり、分子毎の性質も均一である。よって、L−PGAから得られるL−PGA架橋体も、所望の品質で安定に製造することができる。そのため、L−PGA、L−PGAの塩、L−PGA架橋体およびL−PGA架橋体の塩の中から選ばれる1種または2種以上を用いることで、所望の品質を有する増粘剤を安定して提供することができる。
【0082】
さらに、L−PGA、L−PGAの塩、L−PGA架橋体及び/又はL−PGA架橋体は、粘性に優れているため、本発明に係る増粘剤は、増粘剤及び/または化粧料として好適に用いることができる。
【0083】
本発明に係る増粘剤を化粧料として用いる場合、具体的には、乳液、美容液、クリーム、ローション、洗顔料、メイク落とし等のフェイスケア製品、ハンドケア製品の他、ボディケア製品、フットケア製品、ヘッドケア製品、及びヘアケア製品、ネイルケア製品、又はマウスケア製品等が挙げられる。
【0084】
本発明における増粘剤の皮膚外用剤への配合量は、その効果や添加した際の臭い、色調の点から考え、好ましくは0.00001〜50重量%(以下、単に「%」と記す)、より好ましくは0.005〜30%、より好ましくは、0.001%以上10%以下、更に好ましくは0.01〜10%の濃度範囲とすることがよい。L−PGA及び/又はL−PGAの塩の場合は0.001%以上5%以下がよく、L−PGA架橋体及び/又はL−PGA架橋体の場合は0.001%以上3%以下がよい。
【0085】
L−PGA架橋体のハイドロゲルを増粘剤として用いる場合は、L−PGA架橋体粉末を、水または水性成分に溶解させることでゲルを形成する。上記化合物の水または水性成分への溶解は、混合、加熱等によって行うことができる。
【0086】
ゲル化(固化)は、溶解撹拌後、放置(静置)することにより行う。
【0087】
水性成分としては、化粧料、医薬品分野において用いられ得る水性成分であれば特に限定されるものでなく、例えば1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類や、エタノール、プロパノール等の低級アルコールのほか、一般に化粧料の水相成分として配合される成分を含有することができる。具体的には、メタリン酸塩、エデト酸塩等のキレート剤や、pH調整剤、防腐剤等が例示されるが、これら例示に限定されるものでない。
【0088】
上記ハイドロゲルをミクロゲルとして用いてもよい。ミクロゲルを作製する場合、ゲルのゲル強度は、ゲル自体がその形状を維持でき、また次工程のミクロゲルを得ることができる程度のものであれば特に限定されるものでない。本発明では、ゲル強度がかなり高いものでも使用することができ、例えばゼリー強度が1,000g/cm2(日寒水式測定)若しくはそれ以下程度の高ゼリー強度のものでも用いることができる一方、ゼリー強度30g/cm2程度のかなり弱いゲル強度でもミクロゲルを得ることができる。使用性向上の点からはゼリー強度100g/cm2前後のものが好ましい。
【0089】
次いで、上記形成されたゲルをホモジナイザー、ディスパー、メカニカルスターラー等により破砕し、望みのミクロゲルを得る。本発明においてミクロゲルの平均粒径は0.1〜1,000μmであり、好ましくは1〜300μm程度、より好ましくは10〜200μm程度である。ミクロゲルの平均粒径が1,000μm超では、指どれが悪くなるなど使用性上問題となる場合があり、一方、0.1μm未満ではゲル製剤としての粘性が保てなくなる場合もある。破砕の度合いは、得られるミクロゲルの平均粒径が上記本発明での範囲を逸脱しない程度において、目的に応じて調節可能であり、より滑らかな使用性が必要とされる場合には高速攪拌により十分に破砕し、細かな粒径のミクロゲルとし、一方、ミクロゲル自体の触感を必要とする場合には軽い攪拌により破砕の度合いを弱めてやや大き目の粒径のミクロゲルとする。
【0090】
このようにして得られるミクロゲルの粘度は、増粘剤として配合される皮膚外用剤の剤型等によって異なり、一概にいえないが、例えば寒天を用いた場合、寒天濃度0.5〜2%程度で、B型粘度計(回転数0.6rpm、25℃)による測定で2,000〜1,000,000mPa・s程度のものが好ましい。
【0091】
本発明により得られるミクロゲルを増粘剤として皮膚外用剤に用いることにより、使用感の向上(べたつき感のなさ)を図ることができる。
【0092】
本発明の増粘剤は、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧料、医薬部外品、医薬品等の増粘剤に一般的に用いられる成分、例えば、炭化水素類、油脂類等の油性成分、ロウ類、シリコーン類、アルコール類、脂肪酸、酸化防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、薬剤、精製水等の水性成分、植物抽出物、中和剤、L−PGA、L−PGAの塩、L−PGA架橋体又はL−PGA架橋体以外の増粘剤、保湿剤、防腐剤、界面活性剤、香料、着色剤、各種皮膚栄養剤等の添加物を添加してもよい。
【0093】
いかに、これらの添加物の具体例を挙げるが、これに限定されるものではない。また、これらの添加物は、単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0094】
上記炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス、セレシンワックス、パラフィンワックス、ワセリン等が挙げられる。
【0095】
上記油脂類としては、例えば、アボガド油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ラノリン、ヒマシ油、オリーブ油、グレープシード油、カカオ油、ヤシ油、木ロウ、ホホバ油等の植物油脂類等が挙げられる。
【0096】
上記ロウ類としては、例えば、ホホバ油、カルナバロウ、キャンデリラロウ、ミツロウ、鯨ロウ等が挙げられる。
【0097】
上記シリコーン類としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチフェニルシロキサン等が挙げられる。
【0098】
上記アルコール類としては、例えば、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、コレステロール、フィトステロール、セタノール、ステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール等の高級アルコール類、エタノールなどの低級アルコール類が挙げられる。
【0099】
上記脂肪酸としては、例えば、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸、ラウリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の高級脂肪酸等が挙げられる。
【0100】
上記酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、フィチン等が挙げられる。
【0101】
上記抗菌剤としては、例えば、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸アルキルエステル、ヘキサクロロフェン等が挙げられる。
【0102】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、パラアミノ安息香酸系紫外線吸収剤、アントラニル酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ケイ皮酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、糖系紫外線吸収剤、3−(4’−メチルベンジリデン)−d−カンファー、3−ベンジリデン−d、1−カンファー、ウロカニン酸、ウロカニン酸エチルエステル、2−フェニル−5−メチルベンゾキサゾール、2、2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニルベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニルベンゾトリアゾール、ジベンザラジン、ジアニソイルメタン、4−メトキシ−4’−t−ブチルジベンゾイルメタン、5−(3,3−ジメチル−2−ノルボルニリデン)−3−ペンタン−2−オン等が挙げられる。
【0103】
上記薬剤としては、例えばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン、タウリン、アルギニン、ヒスチジン等のアミノ酸およびこれらのアルカリ金属塩と塩酸塩;アシルサルコシン酸(例えばラウロイルサルコシンナトリウム)、グルタチオン、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等の有機酸;ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジル、γ−オリザノール、アラントイン、グリチルリチン酸(塩)、グリチルレチン酸およびその誘導体、ヒノキチオール、ビサボロール、ユーカルプトーン、チモール、イノシトール、サイコサポニン、ニンジンサポニン、ヘチマサポニン、ムクロジサポニン等のサポニン類、パントテニルエチルエーテル、エチニルエストラジオール、トラネキサム酸、アルブチン、セファランチン、プラセンタエキス等が挙げられる。
【0104】
上記各種皮膚栄養剤としては、ビタミンAおよびその誘導体、ビタミンB6塩酸塩、ビタミンB6トリパルミテート、ビタミンB6ジオクタノエート、ビタミンB2およびその誘導体、ビタミンB12、ビタミンB15およびその誘導体等のビタミンB類、アスコルビン酸、アスコルビン酸硫酸エステル(塩)、アスコルビン酸リン酸エステル(塩)、アスコルビン酸ジパルミテート等のビタミンC類、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、ビタミンEアセテート等のビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン等のビタミン類などが挙げられる。
【0105】
上記中和剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム、2−アミノ−2−めちる−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3プロパンジオール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0106】
上記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセスキオレート、ソルビタンモノライレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、1−ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシチエレンヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン等のノニオン界面活性剤や、グリシン型、アルキルアミノベタイン、イミダゾリン型、L−アルギニン型、L−リジン型等の両性界面活性剤が挙げられる。
【0107】
次に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0108】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0109】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、以下の実施例に示す「%」は全て「重量%」である。
【0110】
(実施例1)L−PGAの製造(製造例1〜3)
〔製造例1;L−PGAの製造〕
Natrialba aegyptica(受託番号:FERM BP−10749)のL乾燥アンプルに、0.4mlのPGA生産用液体培地(22.5% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid)を加えて懸濁液を得た。0.2mlの当該懸濁液を、PGA寒天培地(10% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid、2% Agar)に接種し、37℃で3日間培養して、シングルコロニーを得た。
【0111】
次に、5本の18ml容試験管に、それぞれ、3mlのPGA生産液体培地(22.5% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid、pH7.2)を入れ、さらに、上記シングルコロニーを白金耳で1白金耳掻き取り植菌した。植菌後の試験管を、37℃、300rpmで3日間培養して、さらに、得られた培養液0.5mlを、50mL−PGA生産液体培地を入れた500ml容坂口フラスコ10本にそれぞれ植菌し、37℃で5日間培養した。培養後、得られた培養液を遠心し、菌体を取り除いて上清を回収した。
【0112】
次に、回収した上清に3倍量の水を加え希釈した後、1N硫酸でpHを3.0に調整した。pHを調整した後、室温で5時間攪拌した。その後、3倍量のエタノールを加えて遠心分離を行い、沈殿物を回収した。この沈殿物がL−PGAである。
【0113】
回収したL−PGAを0.1mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解して、これを、低分子物質等の不純物を除去するために透析した。次に、透析後の液体に含まれる核酸を除去するために、当該液体に、MgCl2が1mM、DNaseI(TAKARA社製)が10U/ml、RNaseI(NIPPON GENE社製)が20μg/mlとなるように加えて、37℃で2時間インキュベートした。次いでタンパク質を除去するために、核酸を除去した後の液体にProteinase K(TAKARA社製)を3U/mlとなるように添加して、37℃で5時間インキュベートしてProteinase K処理を行なった。
【0114】
Proteinase K処理の後、超純水で透析し、低分子物質を除去した。次に、L−PGAを陰イオン交換樹脂(Q sepharose Fast Flow、GE ヘルスケア バイオサイエンス社製)に吸着させ、0.5MのNaCl水溶液で洗浄した後、1MのNaCl水溶液で溶出した。得られた溶液を、さらに超純水で透析し、透析後の溶液を凍結乾燥することにより、L−PGAのナトリウム塩(以下、「L−PGA・Na塩」と表記する)を得た。なお、超純水は、MilliQ(Millipore社製の純水製造装置)で作製した。
【0115】
〔製造例2;L−PGAの分子量分析−1〕
製造例1で得たL−PGA・Na塩の平均分子量を、GPC分析にて測定した。その結果、Mw=7,522,000、Mn=3,704,000、Mw/Mn=2.031であることが確認された(プルラン換算)。
【0116】
なお、GPC分析は、以下の条件で行なった。装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)、カラム:TSKgel α−M(東ソー社製)、流速:0.6ml/min、溶出液:0.15M NaCl水溶液、カラム温度:40℃、注入量:10μl、検出器:示差屈折計。
【0117】
〔製造例3;L−PGAの分子量分析−2〕
製造例1において、1.0MのNaCl水溶液溶出した後、さらに、1N HClを用いて、pHを2.0に調製した以外は、製造例1と同様の操作を行なって得たL−PGA・Na塩の平均分子量をGPC分析により測定した。その結果、Mw=2,888,000、Mn=1,327,000、Mw/Mn=2.176、であることが確認された(プルラン換算)。なお、本製造例におけるGPC分析は、製造例2と同様の操作で行なった。
【0118】
(実施例2)L−PGA架橋体作製
実施例1で精製したL−PGAを2重量%濃度あるいは5重量%濃度になるように水に溶解させ、窒素によりバブリングした後、蓋付き10mlサンプル瓶にそれぞれ2ml入れ、蓋を閉めた。このサンプル瓶に、線源としてコバルト60を用いるγ線照射装置により、γ線を照射線量1kGy、3kGy、5kGy、7kGy、10kGy、20kGyとなるように照射した。得られた処理物を蓋付き10mlサンプル瓶から取り出し、未架橋L−PGAを取り除く目的で、大過剰量の水に入れ1週間静置させた。1週間放置後、80メッシュの金網で水切りをすることでL−PGA架橋体ハイドロゲルを得た。
【0119】
L−PGA架橋体ハイドロゲルを凍結乾燥後、すり鉢等で粉砕することでL−PGA架橋体粉末を得た。
【0120】
(実施例3)粘度測定方法
粘度測定は、R115型粘度計(東機産業株式社製)を用いて粘度(25℃)を測定した。L−PGAは実施例1より得たものを用いた。DL−PGAは市販品(Wako社製 平均分子量400万〜600万)を用いた。MilliQ水及び種々のNaCl濃度の塩水に溶かした後、R115型粘度計で測定した。結果は、図1及び2に示した。
【0121】
図1から明らかなように、従来から保湿剤として使用されている市販のDL−PGAでは、3%水溶液の粘度は71.1mPa・sであったのに対し、L−PGAでは、同じ3%水溶液の粘度は2890mPa・sであり、高い粘度を有することが示された。
【0122】
図2から、塩濃度による粘度の低下の影響を測定したところ、5% DL−PGA(Wako社製 平均分子量400万〜600万)では5M NaClにより粘度がMilliQ水における時の粘度と比較しておおよそ70%減少したのに対し、5% L−PGAではおおよそ30%程度の低下で留まることが分かった。これらのことより、L−PGAはDL−PGAと比較しても塩の影響を受けにくい増粘剤であることが分かる。具体的な測定値を表1に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
表1から明らかなように、L−PGAは、市販のDL−PGAと比較して、塩水溶液中においても粘度の低下が少ないことが分かる。
【0125】
(実施例4)増粘速度の測定
100mlビーカーに50mlの0.9%NaClを注ぎ、600rpmでスターラーを回転させる。そこに2.0gの被検物質を添加すると同時にストップウォッチを押し、液表面がフラットになる(=スターラーが回らなくなる)時点をストップとし、粘度を生じるまでの速度を測定した。L−PGA架橋体とポリアクリル酸(SIGMA社製)を用いて行った。結果は表2に示した。
【0126】
【表2】

【0127】
表2から明らかなように、L−PGA架橋体は、ポリアクリル酸(SIGMA社製)と比較して、増粘効果を速やかに発揮できることがわかる。
【0128】

(実施例5〜10)ポリ-γ-L-グルタミン酸を含むローションの製造
以下に示す組成のローションを常法により製造した。ポリ-γ-L-グルタミン酸は実施例1に記載されているポリ-γ-L-グルタミン酸・Na塩を用いた。ポリ-γ-L-グルタミン酸・Na濃度Xは0.001、0.01、0.1、1、3、5%にてそれぞれ配合した。また、コントロールとして、ポリ-γ-L-グルタミン酸を含まないローション(比較例1)及びポリ-γ-L-グルタミン酸をポリ-γ-DL-グルタミン酸に代替したローション(比較例2-7)も常法により製造した。
(組成) (重量%)
油相成分:ステアリン酸 3.0
スクワラン 5.0
オリーブ油 5.0
ポリ-γ-L-グルタミン酸・Na X
乳化剤:POEソルビタンモノラウレート 5.0
ソルビタンモノステアレート 5.0
アルカリ:トリエタノールアミン 1.0
水相成分:プロピレングリコール 5.0
精製水 全体で100となる量
【0129】
(実施例11〜16)ポリ-γ-L-グルタミン酸架橋体を含むローションの製造
以下に示す組成のローションを常法により製造した。ポリ-γ-L-グルタミン酸は実施例2に記載されているポリ-γ-L-グルタミン酸架橋体を用いた。ポリ-γ-L-グルタミン酸架橋体濃度Yは0.001、0.005、0.01、0.1、1、3%にてそれぞれ配合した。コントロールとして、ポリ-γ-L-グルタミン酸架橋体を含まないローション(比較例8)及びポリ-γ-L-グルタミン酸架橋体をポリ-γ-DL-グルタミン酸架橋体に代替したローション(比較例9-14)も常法により製造した。
(組成) (重量%)
油相成分:ステアリン酸 3.0
スクワラン 5.0
オリーブ油 5.0
ポリ-γ-L-グルタミン酸架橋体・Na Y
乳化剤:POEソルビタンモノラウレート 5.0
ソルビタンモノステアレート 5.0
アルカリ:トリエタノールアミン 1.0
水相成分:プロピレングリコール 5.0
精製水 全体で100となる量
【0130】
ローションの官能評価
実施例5〜16を用いて官能評価を行った。なお、ポリ-γ-L-グルタミン酸を含まないローション及びポリ-γ-DL-グルタミン酸を含むローションの比較例も同時に評価した。LPGAの増粘剤としての効果を目安として皮膚感触状態(のびのよさ、べたつきのなさ、使用後のさらさら感、みずみずしさ)についてアンケート調査をして行った。判定基準:
◎:20名中18名以上が良好と評価した。
○:20名中15名が良好と評価した。
△:20名中10名が良好と評価した。
×:20名中2名以下が良好と評価した。
【0131】
【表3】

【0132】
【表4】

【0133】
いずれの場合も、ポリ-γ-L-グルタミン酸(表3参照)及びポリ-γ-L-グルタミン酸架橋体(表4参照)により、増粘剤の効果を目安として評価したのびのよさ、べたつきのなさ、使用後のさらさら感、みずみずしさが改善され、使用感を向上させることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明により、塩水溶液中においても粘度の低下が少ない増粘剤であり、生分解性を有した安全性の高い吸水性素材として産業界に大きく寄与することが期待される。また、製品に対し優れた粘度や展延性、良好な伸び等の優れた使用感を付与すると同時に、皮膚の水分含有量の低下を抑制し、皮膚のカサツキや肌荒れ等を抑制又は改善するものである。そして、本発明のL−PGAは人体に対しても非常に安全性の高いものであり、医薬品、医薬部外品、化粧品の分野において広い範囲での使用を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】3% DL−PGA及び3% L−PGAの粘度を示す図である。
【図2】5% DL−PGA及び5% L−PGAをMilliQ水、0.01M、0.05M、0.5M、5M NaCl水溶液に溶解した時の粘度(回転数100rpmの時)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−γ−L−グルタミン酸、ポリ−γ−L−グルタミン酸の塩、ポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体およびポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の塩の中から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする増粘剤。
【請求項2】
請求項1に記載の増粘剤を含むことを特徴とする化粧料。
【請求項3】
請求項1に記載の増粘剤を添加することを特徴とする化粧料の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の増粘剤を添加することを特徴とする化粧料の粘度を増加する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−120585(P2009−120585A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261590(P2008−261590)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】