説明

変位検出装置、変位検出方法及び変位検出プログラム

【課題】安価に光学系の歪みをキャンセルしてスケールの位置情報の検出精度を向上させる。
【解決手段】光電式エンコーダは、発光素子11と、スケール12と、レンズ13と、PDA14と、信号処理演算回路20とを備える。信号処理演算回路20は、歪みテーブル21と、歪み補償回路22と、信号解析回路23とを備える。歪みテーブル21は、例えば予めレンズ13等の光学系の設計値から歪みシミュレーションによって得られた歪み情報Δeに基づき算出されている。歪み補償回路22は、歪みテーブル21を参照すると共に、PDA14の各PD41の位置情報に基づいて、各PD41の位置xを仮想的にx−Δeの位置に配置変更して光学系の歪みを除去し、PDA14からの明暗信号を補正する。位置解析回路23は、この補正された明暗信号に基づいて、スケール12の位置を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、位置測定が可能なインクリメンタル型やアブソリュート型のリニアエンコーダやロータリエンコーダ等に応用される変位検出装置、変位検出方法及び変位検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スケール上のパターンを読み取って位置測定を行う光学式の変位検出装置として、光電式エンコーダ(例えば、下記特許文献1参照)が知られている。この光電式エンコーダは、光源より照射された入射光を3つの光学格子を介して受光素子に入射させ、その光学格子のうちの1つを、他の光学格子に対して相対移動可能に構成した3格子型の構造を備えている。
【0003】
そして、例えば3つの光学格子のうちの1つや、その代わりの受光素子アレイが、投影される干渉縞のピッチに合わせて、光源から近いほど小さく遠いほど大きくなるように、格子ピッチ或いは配列ピッチが相対移動方向に順次変化するように構成されている。これにより、スケールパターンの明暗信号がレンズなどの光学系の収差により歪んでしまうことを防止し、位置情報の劣化を抑制して、光源から遠い位置において形成される干渉縞も直流成分となることなく明暗信号として扱うことができ、信号検出効率が改善されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−347465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された構造では、レンズなどの光学系の歪み毎に受光素子アレイの配列ピッチなどを設計しなければならないため、スケールの位置情報の検出精度を向上させるためには、多大なコストがかかってしまうという問題がある。
【0006】
この発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、安価に光学系の歪みをキャンセルしてスケールの位置情報の検出精度を向上させることができる変位検出装置、変位検出方法及び変位検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る変位検出装置は、インクリメンタル成分を含んだスケールパターンを有するスケールと、前記スケールパターンを光により結像させる光学系と、前記結像されたスケールパターンを検出してこのスケールパターンにより得られる明暗信号を出力すると共に、前記スケールに対して相対移動可能に構成された複数の受光素子を有する受光素子アレイと、前記受光素子アレイの各受光素子の位置情報と、前記光学系の歪み情報から得られた歪みテーブルとに基づいて、各受光素子の位置を仮想的に配置変更して前記光学系の歪みを除去し、前記受光素子アレイからの明暗信号を補正する歪み補償回路と、前記補正された明暗信号に基づいて、前記スケールの位置を解析する演算回路とを備えたことを特徴とする。
【0008】
このような構成においては、受光素子アレイの各受光素子の位置を物理的に配置変更することなく、スケールパターンの明暗信号から光学系の歪みを除去して正確なスケールの位置情報を検出することができるので、安価にスケールの位置情報の検出精度を向上させることができる。
【0009】
本発明の1つの実施形態においては、前記歪みテーブルが、予め前記光学系の設計値から歪みシミュレーションによって得られた歪み情報に基づき算出されたものである。
【0010】
また、本発明の他の実施形態においては、前記各受光素子の位置情報と前記受光素子アレイからの明暗信号とに基づいて、各受光素子間の間隔と検出されたスケールパターンが示す各受光素子間の間隔とのずれ量Δpをそれぞれ検出し、検出したずれ量Δpを積算して得た歪み情報Δeに基づき前記歪みテーブルを作成する歪み検出回路を更に備える。
【0011】
本発明の更に他の実施形態においては、前記各受光素子の位置情報と前記受光素子アレイからの明暗信号とに基づいて、各受光素子毎の位置xを中心とした所定領域Rの明暗信号を抽出し、前記所定領域R内における前記受光素子原点OPDAを原点とした明暗信号の位相φをそれぞれ算出すると共に、算出した位相φと、歪みのない受光素子の位置を示す歪み基準位置xを中心とした所定領域R内の明暗信号の位相φとの差分をそれぞれ演算して得た歪み情報Δeに基づき、前記歪みテーブルを作成する歪み検出回路を更に備える。
【0012】
また、本発明の更に他の実施形態においては、前記スケールが、複数のトラックに設けられたスケールパターンを有し、前記光学系及び前記受光素子アレイが、前記複数のトラックに対応して設けられ、前記歪み補償回路が、一方のトラックにおける光学系の歪み情報を、他方のトラックにおける光学系の歪み情報に合わせた歪みテーブルに基づき、前記複数のトラック毎の前記明暗信号を補正する。
【0013】
本発明の更に他の実施形態においては、前記歪み補償回路が、前記一方のトラックにおける光学系の歪み情報と前記他方のトラックにおける光学系の歪み情報との差分に基づき作成された前記歪みテーブルを用いて、前記明暗信号を補正する。
【0014】
本発明の更に他の実施形態においては、前記歪みテーブルを格納する記憶手段を更に備える。
【0015】
本発明に係る変位検出方法は、インクリメンタル成分を含んだスケールパターンを有するスケールと、前記スケールパターンを光により結像させる光学系と、前記結像されたスケールパターンを検出してこのスケールパターンにより得られる明暗信号を出力すると共に、前記スケールに対して相対移動可能に構成された複数の受光素子を有する受光素子アレイと、前記受光素子アレイからの明暗信号を補正する歪み補償回路と、前記補正された明暗信号に基づいて、前記スケールの位置を解析する演算回路とを備えた変位検出装置における変位検出方法であって、前記スケールパターンを検出して前記明暗信号を取得するステップと、前記受光素子アレイの各受光素子の位置情報と、前記光学系の歪み情報から得られた歪みテーブルとに基づいて、各受光素子の位置を仮想的に配置変更して前記光学系の歪みを除去し、取得された明暗信号を補正するステップと、前記補正された明暗信号に基づいて、前記スケールの位置を解析するステップとを備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る変位検出プログラムは、インクリメンタル成分を含んだスケールパターンを有するスケールと、前記スケールパターンを光により結像させる光学系と、前記結像されたスケールパターンを検出してこのスケールパターンにより得られる明暗信号を出力すると共に、前記スケールに対して相対移動可能に構成された複数の受光素子を有する受光素子アレイと、前記受光素子アレイからの明暗信号を補正する歪み補償回路と、前記補正された明暗信号に基づいて、前記スケールの位置を解析する演算回路とを備えた変位検出装置における変位検出方法をコンピュータにより実行可能な変位検出プログラムであって、前記スケールパターンを検出して前記明暗信号を取得するステップと、前記受光素子アレイの各受光素子の位置情報と、前記光学系の歪み情報から得られた歪みテーブルとに基づいて、各受光素子の位置を仮想的に配置変更して前記光学系の歪みを除去し、取得された明暗信号を補正するステップと、前記補正された明暗信号に基づいて、前記スケールの位置を解析するステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、安価に光学系の歪みをキャンセルしてスケールの位置情報の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る変位検出装置である光電式エンコーダの全体構成を示す概略図である。
【図2】図1のスケールの構成を説明するための平面図である。
【図3】図1のフォトダイオードアレイの構成を説明するための平面図である。
【図4】図1のフォトダイオードアレイの構成を説明するための平面図である。
【図5】同光電式エンコーダにおけるスケールパターン像、フォトダイオードアレイの配置、出力明暗信号及び光学系の歪みの関係を説明するための図である。
【図6】同光電式エンコーダで用いられる歪みテーブルを説明するための図である。
【図7】同光電式エンコーダの歪み補償回路における歪み補正を説明するための図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る変位検出装置である光電式エンコーダの全体構成を示す概略図である。
【図9】同光電式エンコーダにおける歪み補正方式を説明するためのスケールパターンの配列ピッチのずれを示す模式図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る変位検出装置である光電式エンコーダにおける歪み補正方式を説明するためのスケールパターンの位相のずれを示す模式図である。
【図11】本発明の第4の実施形態に係る変位検出装置である光電式エンコーダのスケールとフォトダイオードアレイの構成を示す平面図である。
【図12】同光電式エンコーダの信号処理演算回路の内部構成を示すブロック図である。
【図13】同光電式エンコーダで用いられる歪みテーブル及び歪み補正方式を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して、この発明の実施の形態に係る変位検出装置、変位検出方法及び変位検出プログラムを詳細に説明する。
【0020】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る変位検出装置である光電式エンコーダの全体構成を示す概略図である。第1の実施形態に係る光電式エンコーダは、発光素子11と、スケール12と、レンズ13と、フォトダイオードアレイ(受光素子アレイ:以下、「PDA」と呼ぶ。)14と、信号処理演算回路20とを備えて構成されている。
【0021】
発光素子11は、例えばLEDからなる。スケール12は、図2に示すように、例えば透明ガラス基板上に、明暗の等間隔の配列ピッチp(例えば、40μm)で形成されたインクリメンタルパターン(以下、「INCパターン」と呼ぶ。)31からなるインクリメンタルトラック(以下、「INCトラック」と呼ぶ。)301を形成して構成されている。
【0022】
発光素子11は、このスケール12を照射し、スケール12を透過した照射光は、レンズ13を介してPDA14上に投影される。これにより、スケール12のINCトラック301におけるINCパターン31がPDA14上で結像されて検出され、このINCパターン31により明暗信号が得られる。
【0023】
図3に示すように、PDA14は、INCトラック301に対応して配置された複数のフォトダイオード(以下、「PD」と呼ぶ。)41を備える。PDA14は、例えば90°ずつ位相の異なる4組のPD41をそれぞれ備え、INCパターン31に基づく明暗信号を検出して位相差が90°である4相正弦波信号を出力する。
【0024】
このPDA14は、図4に示すように、測長方向ピッチPPDAで並設された複数個(n個:n=1,2,...,n)のPD41で構成される。ここで、PDA14の任意の位置をPD原点OPDAとした場合、PDA14のi番目のPD41の位置をxとし、このPDA14のi番目のPD41からの出力をyとする。
【0025】
信号処理演算回路20は、一例として図示しないノイズフィルタ、増幅回路、A/D変換器、相対位置検出回路等を備える。また、信号処理演算回路20は、これらと共に、ここでは、一例として予めレンズ13等の光学系の設計値から歪みシミュレーションによって得られた歪み情報Δeに基づき算出された歪みテーブル21を備える。歪みテーブル21は、信号処理演算回路20内の図示しない記憶部に格納され、必要に応じて後述する歪み補償回路22に読み出されて参照される。
【0026】
更に、信号処理演算回路20は、この歪みテーブル21と、PDA14の各PD41の位置情報とに基づいて、各PD41の位置を仮想的に配置変更して光学系の歪みを除去し、PDA14からの明暗信号を補正する歪み補償回路22と、この補正された明暗信号に基づいて、スケール12の位置を解析する位置解析回路23とを備える。
【0027】
なお、例えばノイズフィルタは、各PD41からのアナログ出力信号(90°位相差4相信号)のノイズを除去する。増幅回路は、ノイズ除去された信号を増幅出力する。A/D変換器は、増幅出力されたアナログ出力信号をデジタル信号に変換する。相対位置検出回路は、得られた90°位相差4相信号から90°位相差2相信号を生成してarctan演算などを行うことで、スケール12の相対的な移動量や移動方向を示す信号を出力する。
【0028】
ここで、このように構成された光電式エンコーダにおいて、図4に示したように構成されたPDA14から得られる明暗信号の出力(出力明暗信号)は、図5に示すように再現される。すなわち、スケール12における実際のINCパターン31のスケールパターン像に対して、光学系に歪みがある場合には、光学系により歪んだスケールパターン像となってしまい、その出力明暗信号は、PD41の位置xとそこからの出力yとの数値データとして表される。
【0029】
このときの出力明暗信号には上記のように光学系の歪みが伴っているので、これに基づいてスケール12の位置を検出すると、光電式エンコーダの検出精度が悪化することとなる。従って、光学系の歪みから、上記のようにPD41の位置をxとし、その位置における歪み情報をΔeとして、図6に示すような歪みテーブル21が作成される。
【0030】
この歪みテーブル21は、例えば任意に設定した歪み基準位置x及びレンズ13上の位置に対し、PDA14の各PD41の位置xがそれぞれどれくらい歪んでいる(ずれている)かを歪み情報Δeにより表したものである。なお、歪み基準位置xは、PDA14において検出されたスケールパターンの歪みが0である位置であってもよく、レンズ13の中心辺りに対応する位置であることが想定される。
【0031】
歪み補償回路22は、このような歪みテーブル21と、PDA14の各PD41の位置情報とを参照して、例えば図7に示すように、PDA14のPD41の位置を仮想的に配置変更して、明暗信号を補正する。すなわち、例えばPDA14のi番目のPD41の位置xを、歪みテーブル21に基づき歪み情報Δe分だけシフトした位置x−Δeに配置したと仮定する。
【0032】
そして、歪み補償回路22は、このPDA14の位置x−Δeに配置変更したi番目のPD41からの出力をyとして、明暗信号を補正した状態で出力する。なお、位置解析回路23は、歪み補償回路22によりこのように補正された出力明暗信号に基づいて、スケール12の位置情報を解析し、位置信号を出力する。
【0033】
以上のように、第1の実施形態に係る光電式エンコーダは、上記のように構成されることにより、光学系の既知の歪み情報Δeにより予め用意された歪みテーブル21を用いて、PDA14からの出力明暗信号から歪みを除去することができる。これにより、安価にスケールパターン像の歪みを除去し、出力される位置情報(位置信号)の精度を向上させることができる。
【0034】
[第2の実施形態]
図8は、本発明の第2の実施形態に係る変位検出装置である光電式エンコーダの全体構成を示す概略図である。図8に示すように、第2の実施形態に係る光電式エンコーダは、信号処理演算回路20Aの内部に歪み検出回路19を備え、この歪み検出回路19にて歪みテーブル21を作成する点が、第1の実施形態に係る光電式エンコーダと相違している。
【0035】
第1の実施形態においては、歪みテーブル21を予め光学系の設計値から得られた歪み情報Δeに基づき算出されたものとしたが、第2の実施形態に係る光電式エンコーダは、例えば測定動作時にこの歪み検出回路19にて歪みテーブル21を作成して歪み補正を行う構成とした。
【0036】
スケール12のINCパターン31は、上述したように、例えば設計スケールピッチである配列ピッチがpとなるように形成されている。図9に示すように、PDA14の各PD41の位置をx(N=1,2,...,N)とした場合、xとxの間の配列ピッチをp、xとxの間の配列ピッチをpのようにすると、xとxa+1との間の配列ピッチをp、xとxi+1との間の配列ピッチをp、及びxN−1とxとの間の配列ピッチをpN−1と表すことができ、この場合のINCパターン31の各配列ピッチはp,p,...,pN−1となる。
【0037】
PDA14の各PD41の位置情報は、設計値から予め分かっているため、歪み検出回路19は、PDA14により検出されたINCパターン31の出力明暗信号から、光学系の歪みに基づくINCパターン31の配列ピッチpのずれが示すPD41間のずれ量Δpをそれぞれ検出する。
【0038】
そして、歪み検出回路19は、このずれ量Δpを積算することで歪み情報Δeを得て、歪みテーブル21を作成する。例えば、PD41の位置xとその隣のPD41の位置xi+1との間の配列ピッチをpとし、PD41の位置xa+1を歪み基準位置とすると、次式(1)により歪み情報Δeを算出することができる。
【0039】
【数1】

【0040】
歪み補償回路22は、このように算出された歪み情報Δeに基づき歪み検出回路19で作成された歪みテーブル21を用い、PDA14の各PD41の位置を仮想的に配置変更し、PDA14の出力明暗信号から歪みを除去する。このため、第1の実施形態と同様の作用効果を奏すると共に、測定動作時などにスケールパターンを解析して明暗信号から歪みを除去し、高精度な位置信号を出力して測定にフィードバックすることができる。従って、異なる歪みを持つスケールパターン像に対しても、容易に明暗信号を補正して対応することが可能となる。
【0041】
[第3の実施形態]
図10は、本発明の第3の実施形態に係る変位検出装置である光電式エンコーダにおける歪み補正方式を説明するためのスケールパターンの位相のずれを示す模式図である。第3の実施形態に係る光電式エンコーダの構成は、図8に示す第2の実施形態に係る光電式エンコーダと同様である。
【0042】
第2の実施形態では、ピッチのずれ量Δpを積算して歪み情報Δeを求めるように構成したが、ここでは、スケールパターンの位相から歪み情報Δeを得るようにしている点が相違している。すなわち、歪み検出回路19は、図10に示すように、INCパターン31から得られた明暗信号から、PD41の位置xを中心とした所定領域Rを抽出する。
【0043】
次に、歪み検出回路19は、その所定領域RにおけるPD原点OPDAを原点として、INCパターン31の所定領域R内の位相φをそれぞれ算出する。そして、次式(2)で示すように、算出した位相φと歪み基準位置xにおける所定領域R内のINCパターン31の位相φとの差分を演算して歪み情報Δeを算出し、上記のような歪みテーブル21を作成する。
【0044】
【数2】

【0045】
この第3の実施形態に係る光電式エンコーダは、上記のように所定領域R内のINCパターン31の位相φに基づいて歪み情報Δeを算出し、これに基づき歪みテーブル21を作成して明暗信号を補正するため、第2の実施形態のものと比較してずれ量Δpに含まれる誤差が積算されてしまうことがない。これにより、より高精度に位置情報を検出することができる。
【0046】
[第4の実施形態]
図11は、本発明の第4の実施形態に係る変位検出装置である光電式エンコーダのスケールとフォトダイオードアレイの構成を示す平面図である。第4の実施形態に係る光電式エンコーダの構成は、図11に示すように、スケール12Aの構成が、複数トラック(Nトラック)構成となっている点が、先の実施形態に係る光電式エンコーダと相違している。
【0047】
スケール12Aは、例えばアブソリュートパターン(以下、「ABSパターン」と呼ぶ。)32からなるトラックAと、INCパターン31からなるトラックBとを備えている。光電式エンコーダは、それぞれのトラックA,Bに対応する光学系及びPDA14A,14Bを備えている。
【0048】
この場合、信号処理演算回路20Aは、図12に示すように、PDA14A及びPDA14Bからの明暗信号に基づいて歪み情報Δeを算出し、歪みの差分をとって歪みテーブル21を作成する歪み検出回路19と、例えばトラックA側の明暗信号の歪みを補正する歪み補償回路22と、トラックA及びB毎の位置解析回路23A,23Bとを備えて構成される。
【0049】
このように構成された光電式エンコーダでは、各トラックA,Bから得られる位置情報は同じ値であることが望まれる。しかし、各トラックA,Bのスケールパターンを検出する光学系がそれぞれ異なる歪みを持っていた場合、これらの歪みの相違により各トラックA,Bから出力される位置情報に相対的な誤差(トラック間誤差)が生じ、正確な位置検出ができなくなってしまうこととなる。
【0050】
そこで、歪み検出回路19は、図13(a)に示すように、各光学系の歪みから、PDA14A,14BにおけるPD41の位置をxとした場合の、この位置xにおける各トラックA,Bの歪み21a,21bを示す歪み情報Δeを算出する。ここでは、トラックBを基準トラックとして、トラックAの歪みをこのトラックAの歪みに合わせるように構成している。
【0051】
各トラックA,Bの歪み情報Δeiを算出したら、これらの差分を演算して、図13(b)に示すような歪みテーブル21を作成する。歪み補償回路22は、この歪みテーブル21を参照して、PDA14Aからの出力明暗信号を補正する。すなわち、PDA14Aのi番目のPD41の位置をxiからx−Δeに仮想的に配置変更し、この配置変更したPD41の出力yを補正された明暗信号とする。
【0052】
これにより、例えばトラックAの歪みがトラックBの歪みに合わせて校正されるので、各トラックA,Bから得られる位置情報に生じる光学系の歪みに起因するトラック間誤差を抑制することができ、複数トラックを有する光電式エンコーダにおいても高精度に位置情報を検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
11 発光素子
12 スケール
13 レンズ
14 フォトダイオードアレイ(PDA)
19 歪み検出回路
20 信号処理演算回路
21 歪みテーブル
22 歪み補償回路
23 位置解析回路
41 フォトダイオード(PD)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクリメンタル成分を含んだスケールパターンを有するスケールと、
前記スケールパターンを光により結像させる光学系と、
前記結像されたスケールパターンを検出してこのスケールパターンにより得られる明暗信号を出力すると共に、前記スケールに対して相対移動可能に構成された複数の受光素子を有する受光素子アレイと、
前記受光素子アレイの各受光素子の位置情報と、前記光学系の歪み情報から得られた歪みテーブルとに基づいて、各受光素子の位置を仮想的に配置変更して前記光学系の歪みを除去し、前記受光素子アレイからの明暗信号を補正する歪み補償回路と、
前記補正された明暗信号に基づいて、前記スケールの位置を解析する演算回路とを備えた
ことを特徴とする変位検出装置。
【請求項2】
前記歪みテーブルは、予め前記光学系の設計値から歪みシミュレーションによって得られた歪み情報に基づき算出されたものであることを特徴とする請求項1記載の変位検出装置。
【請求項3】
前記各受光素子の位置情報と前記受光素子アレイからの明暗信号とに基づいて、各受光素子間の間隔と検出されたスケールパターンが示す各受光素子間の間隔とのずれ量Δpをそれぞれ検出し、検出したずれ量Δpを積算して得た歪み情報Δeに基づき前記歪みテーブルを作成する歪み検出回路を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の変位検出装置。
【請求項4】
前記各受光素子の位置情報と前記受光素子アレイからの明暗信号とに基づいて、各受光素子毎の位置xを中心とした所定領域Rの明暗信号を抽出し、前記所定領域R内における前記受光素子原点OPDAを原点とした明暗信号の位相φをそれぞれ算出すると共に、算出した位相φと、歪みのない受光素子の位置を示す歪み基準位置xを中心とした所定領域R内の明暗信号の位相φとの差分をそれぞれ演算して得た歪み情報Δeに基づき、前記歪みテーブルを作成する歪み検出回路を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の変位検出装置。
【請求項5】
前記スケールは、複数のトラックに設けられたスケールパターンを有し、
前記光学系及び前記受光素子アレイは、前記複数のトラックに対応して設けられ、
前記歪み補償回路は、一方のトラックにおける光学系の歪み情報を、他方のトラックにおける光学系の歪み情報に合わせた歪みテーブルに基づき、前記複数のトラック毎の前記明暗信号を補正する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の変位検出装置。
【請求項6】
前記歪み補償回路は、前記一方のトラックにおける光学系の歪み情報と前記他方のトラックにおける光学系の歪み情報との差分に基づき作成された前記歪みテーブルを用いて、前記明暗信号を補正することを特徴とする請求項5記載の変位検出装置。
【請求項7】
前記歪みテーブルを格納する記憶手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の変位検出装置。
【請求項8】
インクリメンタル成分を含んだスケールパターンを有するスケールと、前記スケールパターンを光により結像させる光学系と、前記結像されたスケールパターンを検出してこのスケールパターンにより得られる明暗信号を出力すると共に、前記スケールに対して相対移動可能に構成された複数の受光素子を有する受光素子アレイと、前記受光素子アレイからの明暗信号を補正する歪み補償回路と、前記補正された明暗信号に基づいて、前記スケールの位置を解析する演算回路とを備えた変位検出装置における変位検出方法であって、
前記スケールパターンを検出して前記明暗信号を取得するステップと、
前記受光素子アレイの各受光素子の位置情報と、前記光学系の歪み情報から得られた歪みテーブルとに基づいて、各受光素子の位置を仮想的に配置変更して前記光学系の歪みを除去し、取得された明暗信号を補正するステップと、
前記補正された明暗信号に基づいて、前記スケールの位置を解析するステップとを備えた
ことを特徴とする変位検出方法。
【請求項9】
インクリメンタル成分を含んだスケールパターンを有するスケールと、前記スケールパターンを光により結像させる光学系と、前記結像されたスケールパターンを検出してこのスケールパターンにより得られる明暗信号を出力すると共に、前記スケールに対して相対移動可能に構成された複数の受光素子を有する受光素子アレイと、前記受光素子アレイからの明暗信号を補正する歪み補償回路と、前記補正された明暗信号に基づいて、前記スケールの位置を解析する演算回路とを備えた変位検出装置における変位検出方法をコンピュータにより実行可能な変位検出プログラムであって、
前記スケールパターンを検出して前記明暗信号を取得するステップと、
前記受光素子アレイの各受光素子の位置情報と、前記光学系の歪み情報から得られた歪みテーブルとに基づいて、各受光素子の位置を仮想的に配置変更して前記光学系の歪みを除去し、取得された明暗信号を補正するステップと、
前記補正された明暗信号に基づいて、前記スケールの位置を解析するステップとを備えた
ことを特徴とする変位検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−96757(P2013−96757A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237894(P2011−237894)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】