説明

変速機の同期装置

【課題】ギヤ抜け力の発生を抑制できる変速機の同期装置を提供する。
【解決手段】同期装置1は、回転シャフト10に対し相対回転可能なギヤ11と、回転シャフト10と一体回転可能なクラッチハブ50と、クラッチハブ50の外周面に連結され軸方向に移動可能なスリーブ60と、ギヤ11に外嵌されギヤ11に対し相対移動可能なギヤピース31と、スリーブ60が軸方向に移動するときスリーブ60とギヤピース31とを連結するシンクロナイザリング41と、ギヤピース31のギヤ11に対する相対移動を弾性的に規制する規制手段71とを備える。ギヤピース31は、スリーブ60と係合する外周歯35を有する。ギヤピース31とギヤ11との間には、ギヤ11が回転シャフト10に対して傾斜するときにギヤピース31がギヤ11に対し相対的に傾斜するのを許容する隙間17が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の同期装置に関し、特に、手動変速機の同期装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手動変速機の同期装置に関する従来の技術は、たとえば、特開平8−4783号公報(特許文献1)、実開平5−58966号公報(特許文献2)および特開平5−164142号公報(特許文献3)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−4783号公報
【特許文献2】実開平5−58966号公報
【特許文献3】特開平5−164142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の同期装置は、ギヤピースとギヤとの回転方向の相対移動を許容しているが、軸心方向の相対的な傾きを許容していない。このような構成の場合、ギヤがハブに対して軸心方向に傾くと、ギヤ抜け力が発生しギヤ抜けし易くなるおそれがある。
【0005】
ギヤ抜け対策のためには、一般的にスリーブとギヤピースとの相対角度を低減する必要がある。従来、スリーブとハブとのスプラインガタ詰め、または、スプライン噛合長の増大により、スリーブとハブとのガタを低減しスリーブの傾きを抑える方法が提案されている。また、ギヤと回転シャフトとのガタ詰め、または、ギヤ巾の増大により、ギヤと回転シャフトとのガタを低減しギヤピースの傾きを抑える方法が提案されている。
【0006】
しかし、上記ガタ詰めには、加工精度上の限度がある。また、噛合長およびギヤ巾の増大は、同期装置の全長を増大させることに繋がり、採用は困難である。それゆえに、同期装置に係る従来の技術では、ギヤ抜け力の発生を十分抑制することが困難であった。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、ギヤ抜け力の発生を抑制できる変速機の同期装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る変速機の同期装置は、回転シャフトに対し相対回転可能に組み付けられたギヤと、回転シャフトに対し一体回転可能に組み付けられたクラッチハブとを備える。同期装置はまた、クラッチハブの外周面に連結され、回転シャフトに対し一体回転可能かつ軸方向に移動可能なスリーブを備える。同期装置はまた、ギヤに外嵌され、ギヤに対し一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能なギヤピースを備える。同期装置はまた、スリーブが軸方向に移動するときスリーブとギヤピースとを連結し一体回転させるシンクロナイザリングと、ギヤピースのギヤに対する軸方向への相対移動を弾性的に規制する規制手段とを備える。ギヤピースは、スリーブと係合する係合部を有する。ギヤピースとギヤとの間には、ギヤが回転シャフトの軸方向に対して傾斜するときにギヤピースがギヤに対し相対的に傾斜するのを許容する隙間が形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の変速機の同期装置によると、ギヤとクラッチハブとが相対的に傾いた場合のギヤ抜け力の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係る手動変速機の一部分の断面図である。
【図2】図1に示す同期装置付近を拡大して示す断面図である。
【図3】ギヤとクラッチハブとが相対的に傾いた状態の同期装置を示す断面図である。
【図4】比較例に係る同期装置の、ギヤとクラッチハブとが相対的に傾いた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0012】
なお、以下に説明する実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下の実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、上記個数などは例示であり、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態に係る手動変速機100の一部分の断面図である。図1に示すように、手動変速機100は、自動車の走行状態に応じてエンジンの回転数および回転トルクを変換して駆動輪に伝える、動力伝達装置である。
【0014】
手動変速機100は、車両の運転者が操作するシフトレバーと手動変速機100が離れており、その間をケーブルおよびリンクなどで連結する、いわゆるリモートコントロールタイプの手動変速機100でもよく、手動変速機100に直接シフトレバーを取付けた、いわゆるダイレクトコントロール方式の手動変速機であってもよい。また、リモートコントロール方式において、シフトレバーの位置は特に限定されず、ステアリングコラム部にシフトレバーが取付けられたコラムシフト式、シフトレバーがフロアに取付けられたフロアシフト式などを採用することも可能である。
【0015】
手動変速機100は、回転シャフト10を有する。回転シャフト10は回転軸13を中心として回転する。回転シャフト10は、図示しないエンジンのクランクシャフトにクラッチ機構を介在させて連結されており、このクラッチ機構の係合動作により、駆動力源としてのエンジンの回転駆動力が入力される、インプットシャフトである。
【0016】
回転シャフト10には、非動ギヤとしてのギヤ11,12が嵌め合わせられており、ギヤ11,12は回転シャフト10に対して相対回転可能に組み付けられている。すなわち、図1で示す状態では、回転シャフト10の回転力がギヤ11,12には伝達されず、ギヤ11,12は空転することが可能である。ギヤ11,12の内周面側が回転シャフト10と向かい合っている。回転シャフト10とギヤ11,12との間には、ベアリングが配置されて、ギヤ11,12の回転時の摩擦を低減している。
【0017】
手動変速機100は、回転シャフト20を有する。回転シャフト20は、回転シャフト10と平行に配置されている。回転シャフト20は回転軸23を中心として回転する。回転シャフト20には、ギヤ21,22が組み付けられている。ギヤ21,22は、回転シャフト20と一体として回転可能であるように、回転シャフト20に固定されている。回転シャフト10に組み付けられたギヤ11と、回転シャフト20に組み付けられたギヤ21とは、互いに噛み合っている。回転シャフト10に組み付けられたギヤ12と、回転シャフト20に組み付けられたギヤ22とは、互いに噛み合っている。
【0018】
回転シャフト20は、ギヤ11,21またはギヤ12,22を介在させて、回転シャフト10から動力伝達が行なわれる、アウトプットシャフトである。所定の変速比で変速されて回転シャフト20に伝達された回転駆動力は、回転シャフト20に固定された図示しない出力ギヤと、出力ギヤと噛合する図示しないリングギヤとの終減速比によって減速された後、図示しないディファレンシャル装置に伝達される。これにより、上記ディファレンシャル装置にドライブシャフトを介在させて取り付けられた左右の駆動輪が、前進方向または後進方向に回転駆動する。
【0019】
回転シャフト10,20内には潤滑油を供給するための潤滑油通路(図示せず)が設けられており、潤滑油通路から回転シャフト10,20の外周に向かって潤滑油(オイル)が供給される。
【0020】
図1では、回転軸13を中心とする線対称形状に、同期装置1を構成する各構成部材が配置されている。回転シャフト10の外周には、クラッチハブ50が取付けられている。クラッチハブ50は、回転シャフト10に対し一体回転可能に、回転シャフト10にスプライン嵌合により組み付けられている。なお、回転シャフト10に対するクラッチハブ50の固定方法は、スプライン嵌合に限られず、その他の方法を用いてもよい。
【0021】
ギヤ11,12は、相対的に大径に形成され最外周部にギヤ21,22と噛合する歯形が形成された大径部11A,12Aを有する。ギヤ11,12はまた、大径部11A,12Aに対しクラッチハブ50側において、相対的に小径に形成された小径部11B,12Bを有する。小径部11B,12Bの外周面には、ギヤピース31,32が組み付けられている。ギヤピース31,32は、それぞれギヤ11,12に外嵌され、たとえばスプライン嵌合などにより、ギヤ11,12に対し一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結されている。なお軸方向とは、回転シャフト10,20の回転軸13,23の延びる方向であって、図1中の両矢印DR1により示される方向である。
【0022】
ギヤピース31,32は同期装置1を構成する部材であり、ギヤ11,12とともに回転する。ギヤピース31,32は、図1で示す状態では、クラッチハブ50から力を受けていない。そのため、ギヤピース31,32は、クラッチハブ50に対して自由に回転することが可能である。
【0023】
ギヤピース31,32は、回転軸13に対して傾斜したテーパ面であるコーン部33,34を有する。コーン部33,34は、ギヤピース31,32の径方向外側に向いた面に形成され、クラッチハブ50に近接するほど小径に形成されている。コーン部33,34上にシンクロナイザリング41,42が嵌め合わせられる。
【0024】
シンクロナイザリング41,42は、ともにギヤピース31,32とクラッチハブ50との回転を同期させるための装置であり、回転軸13に対して傾斜したテーパ面であるコーン部43,44を有する。コーン部43,44は、シンクロナイザリング41,42の径方向内側に向いた面に形成され、クラッチハブ50に近接するほど小径に形成されている。シンクロナイザリング41,42のコーン部43,44は、ギヤピース31,32のコーン部33,34に面接触して摩擦摺動可能な摺接面として形成されている。
【0025】
クラッチハブ50の外周歯51にはスリーブ60が嵌合している。スリーブ60は、クラッチハブ50の外周面に連結されている。スリーブ60は回転軸13の延びる軸方向にスライド移動可能(摺動可能)である。スリーブ60の内周歯61はクラッチハブ50の外周歯51と噛み合っている。スリーブ60は、クラッチハブ50によって、回転シャフト10に対し一体回転可能に保持されている。
【0026】
スリーブ60は、外周側に環状のシフトフォーク溝62を有し、シフトフォーク溝62にはシフトフォーク131が嵌め合わせられる。シフトフォーク131の基端部分は、フォークシャフト130によって支持されている。フォークシャフト130には、二点鎖線で示す連結部132を介在させて、シフトフォーク131が設けられている。シフトフォーク131の先端部が、スリーブ60のシフトフォーク溝62に係合されている。
【0027】
シフトフォーク131がスリーブ60を軸方向へ摺動させることで、クラッチハブ50とギヤ11,12のいずれか一方とを連結する。スリーブ60がギヤ11側へ近づくように軸方向に移動すると、スリーブ60の内周歯61が、シンクロナイザリング41の外周歯45およびギヤピース31の外周歯35と噛み合う。これにより、クラッチハブ50の回転がスリーブ60を経由してギヤピース31およびギヤ11に伝わる。同期装置1は、変速動作時にギヤ11を回転シャフト10に一体回転するように連結させて、ギヤ11,21を介在させて回転シャフト10と回転シャフト20との間での動力伝達を可能としている。
【0028】
スリーブ60がギヤ12側へ近づくように軸方向に移動すると、スリーブ60の内周歯61が、シンクロナイザリング42の外周歯46およびギヤピース32の外周歯36と噛み合う。これにより、クラッチハブ50の回転がスリーブ60を経由してギヤピース32およびギヤ12に伝わる。同期装置1は、変速動作時にギヤ12を回転シャフト10に一体回転するように連結させて、ギヤ12,22を介在させて回転シャフト10と回転シャフト20との間での動力伝達を可能としている。
【0029】
クラッチハブ50の外径側には、周方向に等間隔をおいて複数の溝58が形成されている。この溝58に、複数のシンクロナイザキー52が嵌め合わせられる。シンクロナイザキー52は、クラッチハブ50の内部に配設されたキースプリング69によって、スリーブ60の内周面に押し付けられている。各シンクロナイザキー52の中央部において外周側に突起して形成された凸部53が、スリーブ60の内周面に形成された周方向の溝63と嵌り合っており、シンクロナイザキー52はスリーブ60とともに軸方向にスライドすることが可能である。
【0030】
シンクロナイザキー52が軸方向にスライド移動すると、シンクロナイザリング41,42に軸方向の力を加える。この力がコーン部33,43,34,44に伝わり、コーン部33,43,34,44で摩擦抵抗が発生して、シンクロナイザリング41,42とギヤピース31,32との間で同期動作が行なわれる。つまり、シンクロナイザリング41,42のコーン部43,44がギヤピース31,32のコーン部33,34に圧着して、摩擦力によりギヤ11,12の回転がスリーブ60の回転と同じになる。この状態でスリーブ60が軸方向に移動し、スリーブ60およびギヤピース31,32を介在させて、クラッチハブ50とギヤ11,12とが互いに一体回転可能に連結される。
【0031】
図2は、図1に示す同期装置1付近を拡大して示す断面図である。図2には、スリーブ60がギヤ11に近付くように軸方向に移動し、スリーブ60の内周歯61がシンクロナイザリング41の外周歯45およびギヤピース31の外周歯35と噛み合っている状態が示されている。スリーブ60とギヤピース31とが連結されているため、ギヤ11は、クラッチハブ50と一体回転可能に連結されている。ギヤピース31は、スリーブ60と係合する係合部としての外周歯35を有する。
【0032】
ギヤピース31の内周面と小径部11Bとの外周面とによって、嵌合部38が形成されている。ギヤピース31の内周面と小径部11Bとの外周面との一方に形成されたスプライン歯が、他方に形成されたスプライン溝の内部に嵌め入れられるようにして、ギヤ11とギヤピース31とはスプライン嵌合されている。そのため、ギヤ11とギヤピース31とを確実に一体として回転させることが可能とされている。また、ギヤ11に対し、ギヤピース31を軸方向に沿って相対的に移動させることにより、ギヤ11へのギヤピース31の組付けを容易に行なうことができる。
【0033】
ギヤピース31に対しクラッチハブ50側のギヤ11の外周面には、ギヤピース31のギヤ11に対する軸方向への相対移動を規制する規制手段71が設けられている。規制手段71は、ギヤ11に組み付けられ軸方向に移動不能な円環状のスナップリング72と、スナップリング72およびギヤピース31の間に介在するコーンスプリング73とを有する。コーンスプリング73は、弾性変形可能な弾性部材である。コーンスプリング73は、ギヤピース31がクラッチハブ50に近付く側へ移動しようとするとき、ギヤピース31に対して弾性力を作用する。規制手段71によって、ギヤピース31の移動は、弾性的に規制されている。
【0034】
ギヤ11の小径部11Bの外周面には、当該外周面の一部が窪んだ凹部16が形成されている。この凹部16によって、ギヤピース31の内周面とギヤ11の外周面との間に、隙間17が形成されている。
【0035】
図3は、ギヤ11とクラッチハブ50とが相対的に傾いた状態の同期装置1を示す断面図である。なお図3では、シンクロナイザリング41および規制手段71は図示を省略されている。図3では、たとえば悪路走行時に回転シャフト10およびギヤ11に発生する微小な振動などを原因として、ギヤ11が回転シャフト10の回転軸13に対して傾斜した状態が図示されている。ギヤ11は、クラッチハブ50に対向する側の軸方向端面が回転シャフト10から離れるように、回転軸13に対して図中反時計回り方向に傾斜している。
【0036】
このとき、ギヤピース31は、ギヤ11およびスリーブ60によって挟まれるように配置されている。ギヤ11の傾斜に伴って、ギヤ11からギヤピース31に対し径方向外側向きの力が作用すると、その力の反作用として、スリーブ60からもギヤピース31に対し径方向内側向きの力が作用する。スリーブ60からギヤピース31に力が作用することにより、ギヤピース31はギヤ11に対して相対的に傾斜して、ギヤピース31のクラッチハブ50側の端面は、回転シャフト10に形成された凹部16の内部に嵌まり込む。ギヤピース31がギヤ11に対し相対移動可能に形成されており、かつ、凹部16の内部に空間が設けられて隙間17が形成されていることにより、ギヤピース31の一部が隙間17へ移動して、凹部16へ嵌入できる構造とされている。
【0037】
図4は、比較例に係る同期装置の、ギヤ11とクラッチハブ50とが相対的に傾いた状態を示す断面図である。図4に示す同期装置では、ギヤピース31はギヤ11に対して相対移動不能に形成されている。たとえば、ギヤピース31がギヤ11に圧入されて固定されたり、ギヤピース31とギヤ11とが一体成形されていることにより、ギヤピース31はギヤ11と一体として移動する構造とされている。
【0038】
図4に示す同期装置では、ギヤ11が回転シャフト10の回転軸13に対して傾斜した場合、ギヤピース31もギヤ11とともに移動して回転軸13に対し傾斜する。ギヤピース31の外周歯35は、スリーブ60と係合している。ギヤピース31の傾斜によって、ギヤピース31はスリーブ60に対してスリーブ60を持ち上げるように、径方向外側向きの力を作用させる。ギヤピース31から力を受けたスリーブ60は、図4に示すように。クラッチハブ50に対して傾斜する。このときギヤピース31とスリーブ60との間には、相対角度θが発生している。
【0039】
このようにスリーブ60がクラッチハブ50に対して傾斜すると、図4中の矢印に示すように、スリーブ60に対し軸方向に沿ってクラッチハブ50側へスリーブ60を移動させる向きの力が発生する。この力(ギヤ抜け力)によってスリーブ60が移動すると、スリーブ60がギヤピース31から外れ、ギヤピース31がクラッチハブ50と一体回転しなくなり、回転シャフト10から回転シャフト20へ回転駆動力が伝達されないニュートラル状態になる現象(ギヤ抜け)が発生する。
【0040】
これに対し、図3に示す本実施の形態の同期装置1では、ギヤ11が回転シャフト10の軸方向に対して傾斜し、ギヤ11とクラッチハブ50とが相対的に傾いた場合に、隙間17によってギヤピース31がギヤ11に対し相対的に傾斜することが許容されている。このようにすれば、ギヤピース31のギヤ11に対する相対的な傾斜によって、図4に示したギヤピース31とスリーブ60との相対的な傾斜を一部吸収することができる。すなわち、ギヤピース31とスリーブ60との間の相対角度を小さくすることができる。したがって、上記相対角度から発生するギヤ抜け力の発生を抑制することができるので、手動変速機100の駆動時のギヤ抜けの発生を抑制することができる。
【0041】
凹部16は、ギヤ11の成形時にたとえば機械加工を施すことによって容易に形成することができるので、凹部16の形成のために必要な製造コストの追加は最小限に抑えられている。したがって、本実施の形態の同期装置1では、ギヤ抜け抑制のための部材を追加する必要もなく、製造工程の追加も最小に抑えた簡単な構造によって、経済的にギヤ抜けの抑制を達成することができる。
【0042】
なお、これまでの説明においては、ギヤ11の小径部11Bの外周面に凹部16が形成されていることにより隙間17が形成される例について説明したが、この構成に限られるものではない。たとえばギヤピース31のクラッチハブ50側の軸方向端面に切欠き加工を施してテーパ面を形成することによって、ギヤピース31がギヤ11に対して相対的に傾斜可能としてもよい。また、嵌合部38のクラッチハブ50から離れる側に凹部16を形成して、図3に示す向きと反対方向にギヤ11が傾斜した場合にもギヤピース31とスリーブ60との相対的な傾斜を一部吸収できる構成としてもよい。
【0043】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、たとえば車両に搭載される手動変速機の同期装置に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0045】
1 同期装置、10,20 回転シャフト、11,12,21,22 ギヤ、11A,12A 大径部、11B,12B 小径部、13,23 回転軸、16 凹部、17 隙間、31,32 ギヤピース、33,34,43,44 コーン部、35,36,45,46,51 外周歯、38 嵌合部、41,42 シンクロナイザリング、50 クラッチハブ、52 シンクロナイザキー、53 凸部、58,63 溝、60 スリーブ、61 内周歯、69 キースプリング、71 規制手段、72 スナップリング、73 コーンスプリング、100 手動変速機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転シャフトに対し相対回転可能に組み付けられたギヤと、
前記回転シャフトに対し一体回転可能に組み付けられたクラッチハブと、
前記クラッチハブの外周面に連結され、前記回転シャフトに対し一体回転可能かつ軸方向に移動可能なスリーブと、
前記ギヤに外嵌され、前記ギヤに対し一体回転可能かつ前記軸方向に相対移動可能なギヤピースと、
前記スリーブが前記軸方向に移動するとき前記スリーブと前記ギヤピースとを連結し一体回転させるシンクロナイザリングと、
前記ギヤピースの前記ギヤに対する前記軸方向への相対移動を弾性的に規制する規制手段とを備え、
前記ギヤピースは、前記スリーブと係合する係合部を有し、
前記ギヤピースと前記ギヤとの間には、前記ギヤが前記回転シャフトの前記軸方向に対して傾斜するときに前記ギヤピースが前記ギヤに対し相対的に傾斜するのを許容する隙間が形成されている、変速機の同期装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−236569(P2010−236569A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82412(P2009−82412)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】