説明

変速機の軸受固定構造

【課題】部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、回転軸を支持している軸受のケーシングに対する固定を行う。
【解決手段】トルクコンバータ(TC)のステータ(43)を保持するステータシャフト部(53a)と、ステータシャフト部(53a)から径方向の外側に延びてケーシング(61)に固定されるフランジ部(53b)とが一体に形成されてなるステータシャフトフランジ(53)を備え、フランジ部(53b)は、その外径側の端部(54)に設けた押え部(55)が軸方向から見て軸受(70)の一部に重なって配置されており、軸受(70)は、軸方向の一方の端面(70a)がケーシング(61)の端面(61a)に当接しており、他方の端面(70b)がステータシャフトフランジ(53)の押え部(55)に当接していることで、ケーシング(61)に対する軸方向の固定がなされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の回転軸を支持している軸受をケーシングに対して固定するための変速機の軸受固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変速機の回転軸を支持している軸受(ベアリング)をケーシングに固定するための軸受固定構造として、例えば特許文献1に開示された固定構造がある。この特許文献1に記載されたものをはじめとする従来の固定構造では、サークリップやベアリングプレートなどの固定具を用いてケーシングに対する軸受の軸方向(スラスト方向)の固定がなされている。しかしながら、軸受を固定するための固定具としてサークリップなどの固定具を採用している構造では、当該サークリップなどの固定具が軸受とは別部品であるため、変速機の部品点数の増加、組立工数の増加などにつながってしまう。また、ケーシングと軸受の双方にサークリップ係合用の溝部を形成する必要がある。そのため、ケーシングに溝部を加工する工程を設けたり、溝部を有する軸受を用いたりすることによって、変速機のコスト増につながることが課題であった。また、軸受用の固定具としてベアリングプレートを採用した場合にも、サークリップの場合と同様に、部品点数の増加や組立工数の増加などの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−133376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、サークリップやベアリングプレートなどの別途の固定具を使用することなく、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、回転軸を支持している軸受のケーシングに対する固定を行うことができる変速機の軸受固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、ケーシング(61)と、ケーシング(61)内に設置されたトルクコンバータ(TC)及び変速機構部(4)と、トルクコンバータ(TC)から変速機構部(4)に回転を伝達する第1の回転軸(10)と、第1の回転軸(10)に対して所定間隔で平行に設置された第2の回転軸(5)と、第2の回転軸(5)の端部(5b)を支持する軸受(70)と、を備えた変速機(1)において、ケーシング(61)に対する軸受(70)の固定を行うための軸受固定構造であって、トルクコンバータ(TC)のステータ(43)を保持するステータシャフト部(53a)と、ステータシャフト部(53a)から径方向の外側に延びてケーシング(61)に固定されるフランジ部(53b)とが一体に形成されてなるステータシャフトフランジ(53)を備え、ケーシング(61)に固定されたステータシャフトフランジ(53)のフランジ部(53b)は、その外径側の端部(54)に設けた押え部(55)が第2の回転軸(5)の軸方向から見て軸受(70)の一部に重なって配置されており、軸受(70)は、軸方向の一方の端面(70a)がケーシング(61)の端面(61a)に当接しており、他方の端面(70b)がステータシャフトフランジ(53)の押え部(55)に当接していることで、ケーシング(61)に対する軸方向の固定がなされていることを特徴とする。
【0006】
また、本発明にかかる変速機の軸受固定構造は、ケーシング(61)と、ケーシング(61)内に設置されたトルクコンバータ(TC)及び変速機構部(4)と、トルクコンバータ(TC)から変速機構部(4)に回転を伝達する第1の回転軸(10)と、第1の回転軸(10)に対して所定間隔で平行に設置された第2の回転軸(5)と、第2の回転軸(5)の端部(5b)を支持する軸受(70)と、を備えた変速機(1)において、ケーシング(61)に対する軸受(70)の固定を行うための軸受固定構造であって、トルクコンバータ(TC)のステータ(43)を保持するステータシャフト(56)と、ステータシャフト(56)をケーシング(61)に固定するためのステータシャフトフランジ(53−2)と、を備え、ケーシング(61)に固定されたステータシャフトフランジ(53−2)のフランジ部(53−2b)は、その外径側の端部(54)に設けた押え部(55)が第2の回転軸(5)の軸方向から見て軸受(70)の一部に重なって配置されており、軸受(70)は、軸方向の一方の端面(70a)がケーシング(61)の端面(61a)に当接しており、他方の端面(70b)がステータシャフトフランジ(53−2)の押え部(55)に当接していることで、ケーシング(61)に対する軸方向の固定がなされていることを特徴とする。
【0007】
本発明にかかる変速機の軸受固定構造によれば、ステータシャフトフランジの押え部で第2の回転軸の端部を支持する軸受のケーシングに対する軸方向の固定がなされている。すなわち、ステータシャフトフランジで第2の回転軸を支持する軸受の軸方向への倒れや抜けを防止するように固定している。これにより、従来の軸受固定構造のようにサークリップやベアリングプレートなど別途の固定具を使用することなく軸受を固定できるので、変速機の部品点数、重量、組立工数、コストの削減が可能となる。具体的には、ステータシャフトフランジの端部に設けた押え部で軸受を固定するので、軸受固定構造の部品点数を少なく抑えることができる。また、ケーシングにサークリップ係合用の溝部を形成する必要がなく、また、ステータシャフトフランジのフランジ部をケーシングに固定することで、同時に軸受の軸方向の固定を行うことができるので、変速機の製造工程の簡素化を図ることができる。また、溝部を有する軸受を用いる必要がないので、部品コストを低く抑えることが可能となる。
【0008】
また、本発明にかかる上記の軸受固定構造では、第1の回転軸(10)を支持する他の軸受(40)を備え、他の軸受(40)は、ステータシャフトフランジ(53,53−2)の押え部(55)よりも第1の回転軸(10)の軸心に近い内径側で、かつ、軸方向においてステータシャフトフランジ(53,53−2)のフランジ部(53b,53−2b)に隣接する位置に設置されているとよい。この構成によれば、第1の回転軸を支持する他の軸受をステータシャフトフランジのフランジ部の外径端よりも内径側の位置に配置することができるので、変速機のケーシング内における当該他の軸受の設置スペースを効率的に配置でき、ケーシング内の他の構成部品を含めた配置レイアウトの自由度を高めることが可能となる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる変速機の軸受固定構造によれば、サークリップやベアリングプレートなどの別途の固定具を使用することなく、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、回転軸を支持している軸受のケーシングに対する固定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる変速機の軸受固定構造及びその周辺の詳細構成例を示す部分拡大断面図である。
【図2】ステータシャフトフランジ及び軸受を軸方向から見た斜視図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる軸受固定構造を適用可能な変速機の全体構成例を示すスケルトン図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる変速機の軸受固定構造及びその周辺の詳細構成例を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる変速機の軸受固定構造及びその周辺の詳細構成例を示す部分拡大断面図である。また、図2は、後述するステータシャフトフランジ53及び軸受70を軸方向から見た斜視図である。本実施形態の軸受固定構造を採用した変速機1は、トルクコンバータケース(ケーシング)61と、トルクコンバータケース61内に設置されたトルクコンバータTC及び変速機構部4と、トルクコンバータTCから変速機構部4に回転を伝達するメインシャフト(第1の回転軸)10と、メインシャフト10に対して所定間隔で平行に配置されたカウンターシャフト(第2の回転軸)5とを備えている。なお、変速機の全体構成例については、後述する。なお、以下の説明で軸方向というときは、上記メインシャフト10及びカウンターシャフト5の軸方向を指すものとする。
【0012】
トルクコンバータTCは、クランクシャフト3(図3参照)で駆動されるポンプインペラ41と、ポンプインペラ41に対向した状態でメインシャフト10に連結されたタービンランナ42と、ポンプインペラ41とタービンランナ42との間に設けたステータ43と、ステータ43とステータシャフトフランジ53との間に設けたワンウェイクラッチ44とを備えている。また、ポンプインペラ41の外側にはインペラシェル48が設置されており、インペラシェル48の内径端には、トルクコンバータスリーブ(以下、単に「スリーブ」という。)50が接続されている。
【0013】
タービンランナ42の外側は、タービンシェル49で覆われている。タービンシェル49は、その内周部が図示しないハブを介してメインシャフト10に固定されている。ステータ43を支持するワンウェイクラッチ44は、ステータシャフトフランジ53にスプライン嵌合している。ステータシャフトフランジ53は、その内部をメインシャフト10が貫通する中空筒状のステータシャフト部53aと、ステータシャフト部53aの変速機構部4側の端部から径方向の外側に延びる略平板状のフランジ部53bとを一体に備えている。
【0014】
また、メインシャフト10に対して径方向の外側に離間した位置には、図示しないギヤ式のオイルポンプが設置されている。このオイルポンプは、オイルポンプ駆動軸の回転で駆動される。該オイルポンプ駆動軸の端部には、オイルポンプ駆動用の従動ギヤが取り付けられている。一方、メインシャフト10周りのスリーブ50の外周側には、上記の従動ギヤに噛み合うオイルポンプ駆動用の駆動ギヤ51が嵌合している。当該駆動ギヤ51の回転が従動ギヤに伝達されることで、オイルポンプが稼動するようになっている。
【0015】
駆動ギヤ51の内側に設置されたスリーブ50は、トルクコンバータTCの中心から変速機構部4側に延びており、ステータシャフトフランジ53のステータシャフト部53aの外側を囲む略円筒型の部材である。このスリーブ50は、駆動ギヤ51の内周側に嵌合可能な径寸法を有している。
【0016】
駆動ギヤ51は、略円筒状の部材であり、その変速機構部4側の外周には、オイルポンプ側の従動ギヤに噛合するギヤ歯51aが形成されている。また、駆動ギヤ51のトルクコンバータTC側の外周には、トルクコンバータケース61の内径端との間に介在するボールベアリングからなる軸受(第2の軸受)40が嵌合している。また、駆動ギヤ51の変速機構部4側の内周は、スリーブ50の外周にスプライン嵌合している。
【0017】
駆動ギヤ51及びスリーブ50は、トルクコンバータケース61に対して軸受40で回転自在に支持されている。軸受40は、ステータシャフトフランジ53におけるフランジ部53bの外径端54よりもメインシャフト10の軸心に近い内径側で、かつ、軸方向においてフランジ部53bに対してトルクコンバータTC側に隣接する位置に設置されている。また、トルクコンバータケース61の内径端とスリーブ50の外周との間には、オイルシール(シール部材)59が圧入されている。オイルシール59は、軸受40に対してトルクコンバータTC側に隣接して配置されている。
【0018】
また、軸受40に対してトルクコンバータケース61のフランジ部61cを挟んで径方向で対向する位置には、カウンターシャフト5のトルクコンバータTC側の端部5aを支持する軸受(他の軸受)70が設置されている。軸受70は、トルクコンバータケース61に設けたフランジ部61cの内径側に嵌合する円形環状の外輪71と、外輪71の内径側にニードル72aを介して回転自在に取り付けた複数のコロ(転動体)72bとを備えたニードルベアリングである。コロ72bの内径側にカウンターシャフト5の端部5aが回転自在に支持されている。
【0019】
そして、図2に示すように、ステータシャフトフランジ53のフランジ部53bは、その外径側の端部54に設けた押え部55が軸受70の外輪71の外周縁71aに重なる位置まで張り出した状態で設置されている。したがって、押え部55が軸方向から見て軸受70の一部に重なって配置されている。これにより、図1に示すように、軸受70は、軸方向の一方の端面(トルクコンバータTC側の端面)70aがトルクコンバータケース61の端面61aに当接しており、他方の端面(トルクコンバータTCと反対側の端面)70bがステータシャフトフランジ53の押え部55に当接していることで、トルクコンバータケース61に対する軸方向の固定がなされている。
【0020】
このように、本実施形態の軸受固定構造は、カウンターシャフト5のトルクコンバータTC側の端部5aを支持するための軸受(第1の軸受)70をトルクコンバータケース61に対して固定する固定構造であって、ステータシャフトフランジ53のフランジ部53bの外径側の端部54に設けた押え部55でカウンターシャフト5を支持する軸受70の軸方向(スラスト方向)の端面70bを押えて固定している。
【0021】
以上説明したように、本実施形態の軸受固定構造によれば、ステータシャフトフランジ53の押え部55でカウンターシャフト5の端部5aを支持する軸受70のトルクコンバータケース61に対する軸方向の固定がなされている。すなわち、ステータシャフトフランジ53でカウンターシャフト5を支持する軸受70の軸方向への倒れや抜けを防止するように固定している。これにより、従来の軸受固定構造のようにサークリップやベアリングプレートなど別途の固定具を使用することなく軸受70を固定できるので、変速機1の部品点数、重量、組立工数、コストの削減が可能となる。具体的には、ステータシャフトフランジ53の端部54に設けた押え部55で軸受70を固定するので、軸受固定構造の部品点数を少なく抑えることができる。また、トルクコンバータケース61にサークリップ係合用の溝部を形成する必要がなく、また、ステータシャフトフランジ53のフランジ部53bをトルクコンバータケース61に固定することで、同時に軸受70の軸方向の固定を行うことができるので、変速機1の製造工程の簡素化を図ることができる。また、溝部を有する軸受を用いる必要がないので、部品コストを低く抑えることが可能となる。
【0022】
図3は、本発明の実施形態にかかる軸受固定構造を適用可能な変速機の全体構成例を示すスケルトン図である。以下、同図を用いて変速機の全体構成及び動作について説明する。図3に示す変速機1は、トルクコンバータTCから入力された回転を変速する変速機構部4として、2つのクラッチCL1,CL2と複数の同期装置(シンクロメッシュ機構)26〜29との組み合わせからなる2系統のトルク伝達系を備え、これらの切り換えによって複数段の自動変速を達成するいわゆるツインクラッチ式の変速機構を備えている。また、この変速機1は、所定間隔で平行に配置された第1入力軸11と第2入力軸31の二本の入力軸と、第1入力軸11及び第2入力軸31に対して平行に配置された一本の出力軸(カウンターシャフト)5とを備えた変速機である。なお、図1では、後進段を設定するためのリバースギヤ及びそれを支持するシャフトなどの機構は図示を省略している。そして、図3に示す変速機1における第1入力軸11の内径側に設置された第1主軸10は、図1及び図2に示すメインシャフト10であり、出力軸5は、図1及び図2に示すカウンターシャフト5である。
【0023】
第1入力軸11は、中空の筒状に形成されており、第1入力軸11の内周側には、トルクコンバータTCを介してエンジンEからの回転が伝達される第1主軸10が設置されている。そして、第1入力軸11と第1主軸10との係脱の切り換えを行う第1クラッチCL1が設けられている。第1クラッチCL1が係合すると、第1主軸10を介して第1入力軸11にエンジンEからの回転が伝達される。また、第2入力軸31も中空の筒状に形成されており、第2入力軸31の内周側には、トルクコンバータTCを介してエンジンEからの回転が伝達される第2主軸30が設置されている。第2主軸30は、その端部に固定されたギヤ30aと第1主軸10の端部に固定されたギヤ10aとが図示しない他シャフト上に設けたギヤを介して噛み合っており、これらギヤ30a,10aを通じて第1主軸10の回転が伝達されるようになっている。そして、第2入力軸31と第2主軸30との係脱の切り換えを行う第2クラッチCL2が設けられている。第2クラッチCL2が係合すると、第2主軸30を介して第2入力軸31にエンジンEからの回転が伝達される。つまり、第1、第2クラッチCL1,CL2の選択的な作動により、エンジンEからの回転が第1入力軸11と第2入力軸31のいずれか一方へ択一的に伝達されるようになっている。
【0024】
第1入力軸11の外周には、軸方向に沿ってトルクコンバータTC側から順に、奇数段の駆動ギヤである1速駆動ギヤ17、3速駆動ギヤ18、7速駆動ギヤ19、5速駆動ギヤ20が設けられている。これら各駆動ギヤ17〜20は、第1入力軸11に対して相対回転可能に設置されている。また、第2入力軸31の外周には、トルクコンバータTC側から順に、偶数段の駆動ギヤである2速駆動ギヤ12、4速駆動ギヤ13、8速駆動ギヤ14、6速駆動ギヤ15が設けられている。これら各駆動ギヤ12〜15は、第2入力軸31に対して相対回転可能に設置されている。
【0025】
一方、出力軸5の外周には、トルクコンバータTC側から順に、1速駆動ギヤ17及び2速駆動ギヤ12に噛合する1−2速従動ギヤ22、3速駆動ギヤ18及び4速駆動ギヤ13に噛合する3−4速従動ギヤ23、7速駆動ギヤ19及び8速駆動ギヤ14に噛合する7−8速従動ギヤ24、5速駆動ギヤ20及び6速駆動ギヤ15に噛合する5−6速従動ギヤ25が設けられている。また、出力軸5のトルクコンバータTC側の端部近傍には、ファイナルギヤ6が固定されている。ファイナルギヤ6は、図示しないディファレンシャル機構のリングギヤに噛合している。
【0026】
そして、第1入力軸11上の1速駆動ギヤ17と3速駆動ギヤ18との間には、第1入力軸11に対してこれらギヤ17,18のいずれかを選択的に同期させながら固定する1−3速用同期装置(シンクロメッシュ機構)26が設けられている。また、7速駆動ギヤ19と5速駆動ギヤ20との間には、第1入力軸11に対してこれらギヤ19,20のいずれかを選択的に同期させながら固定する5−7速用同期装置27が設けられている。
【0027】
また、第2入力軸31上の2速駆動ギヤ12と4速駆動ギヤ13との間には、第2入力軸31に対してこれらギヤ12,13のいずれかを選択的に同期させながら固定する2−4速用同期装置28が設けられている。また、8速駆動ギヤ14と6速駆動ギヤ15との間には、第2入力軸31に対してこれらギヤ14,15のいずれかを選択的に同期させながら固定する6−8速用同期装置29が設けられている。
【0028】
上記構成の変速機1では、第1、第2クラッチCL1,CL2の係合の切り換えと、第1、第2入力軸11,31上の同期装置26〜29による各駆動ギヤの固定とを組み合わせて行うことで、前進8速の変速段を設定することができる。すなわち、第1、第2クラッチCL1,CL2で、第1入力軸11上の駆動ギヤ17〜20への動力伝達と、第2入力軸31上の駆動ギヤ12〜15への動力伝達とを切り換える。この際、第1、第2クラッチCL1,CL2の係合の切り換えに先立ち、係合先の入力軸11,31上に設けた同期装置26〜29のいずれかで次の変速段用駆動ギヤの同期固定をあらかじめ準備しておく。これにより、第1、第2クラッチCL1,CL2の係合切り換えのタイミングで迅速な変速動作を行うことができる。
【0029】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。図4は、本発明の第2実施形態にかかる変速機の軸受固定構造及びその周辺の詳細構成例を示す部分拡大断面図である。第1実施形態の軸受固定構造では、軸受70を固定する押え部55を備えたステータシャフトフランジ53は、トルクコンバータTCのステータ43を保持するステータシャフト部53aと、ステータシャフト部53aから径方向の外側に延びてトルクコンバータケース61に固定されるフランジ部53bとが一体に形成されてなるステータシャフトフランジ53であったのに対して、本実施形態の軸受固定構造では、トルクコンバータTCのステータ43を保持するステータシャフト56と、該ステータシャフト56をトルクコンバータケース61に固定するためのステータシャフトフランジ53−2とを別部品として備えている。
【0030】
ステータシャフト56は、メインシャフト10と同軸上の外径側に設置された円筒状の部材で、そのトルクコンバータTC側の端部がステータ43を支持するワンウェイクラッチ44にスプライン嵌合している。また、ステータシャフトフランジ53−2は、ステータシャフト56におけるトルクコンバータTCと反対側の端部及びその近傍の外周を囲む筒状部53−2aと、該筒状部53−2aの変速機構部4側の端部から径方向の外側に延びる略平板状のフランジ部53−2bとを一体に備えている。
【0031】
本実施形態の軸受固定構造でも、ステータシャフトフランジ53−2のフランジ部53−2bに設けた押え部55で、カウンターシャフト5の端部5aを支持する軸受70のトルクコンバータケース61に対する軸方向の固定がなされている。すなわち、ステータシャフトフランジ53でカウンターシャフト5を支持する軸受70の軸方向への倒れや抜けを防止するように固定している。これにより、従来の軸受固定構造のようにサークリップやベアリングプレートなど別途の固定具を使用することなく軸受70を固定できるので、変速機1の部品点数、重量、組立工数、コストの削減が可能となる。
【0032】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、本発明にかかる軸受固定構造を適用する変速機が備える変速機構の具体的な構成としては、上記のようなツインクラッチ式の変速機構には限らず、それ以外にも、ベルト式無段変速機構などの無段式変速機構や、遊星歯車機構などの有段式変速機構を備えた構成であってもよい。すなわち、本発明にかかる軸受固定構造は、トルクコンバータから変速機構部に回転を伝達する第1の回転軸と、第1の回転軸に対して所定間隔で平行に設置された第2の回転軸と、第2の回転軸の端部を支持する軸受とを備えた変速機であれば、上記実施形態に示す構成の変速機には限らず、他の構成の変速機にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 変速機
4 変速機構部
5 カウンターシャフト(出力軸):第2の回転軸
5a 端部
10 メインシャフト(第1主軸):第1の回転軸
11 第1入力軸
30 第2主軸
31 第2入力軸
40 軸受:第2の軸受
43 ステータ
53 ステータシャフトフランジ
53a ステータシャフト部
53b フランジ部
53−2 ステータシャフトフランジ
53−2a 筒状部
53−2b フランジ部
54 端部
55 押え部
56 ステータシャフト
61 トルクコンバータケース(ケーシング)
70 軸受:第1の軸受
70a 端面
70b 端面
TC トルクコンバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシング内に設置されたトルクコンバータ及び変速機構部と、
前記トルクコンバータから前記変速機構部に回転を伝達する第1の回転軸と、
前記第1の回転軸に対して所定間隔で平行に設置された第2の回転軸と、
前記第2の回転軸の端部を支持する軸受と、を備えた変速機において、前記ケーシングに対する前記軸受の固定を行うための軸受固定構造であって、
前記トルクコンバータのステータを保持するステータシャフト部と、前記ステータシャフト部から径方向の外側に延びて前記ケーシングに固定されるフランジ部とが一体に形成されてなるステータシャフトフランジを備え、
前記ケーシングに固定された前記ステータシャフトフランジの前記フランジ部は、その外径側の端部に設けた押え部が前記第2の回転軸の軸方向から見て前記軸受の一部に重なって配置されており、
前記軸受は、前記軸方向の一方の端面が前記ケーシングの端面に当接しており、他方の端面が前記ステータシャフトフランジの前記押え部に当接していることで、前記ケーシングに対する前記軸方向の固定がなされている
ことを特徴とする変速機の軸受固定構造。
【請求項2】
ケーシングと、
前記ケーシング内に設置されたトルクコンバータ及び変速機構部と、
前記トルクコンバータから前記変速機構部に回転を伝達する第1の回転軸と、
前記第1の回転軸に対して所定間隔で平行に設置された第2の回転軸と、
前記第2の回転軸の端部を支持する軸受と、を備えた変速機において、前記ケーシングに対する前記軸受の固定を行うための軸受固定構造であって、
前記トルクコンバータのステータを保持するステータシャフトと、
前記ステータシャフトを前記ケーシングに固定するためのステータシャフトフランジと、を備え、
前記ケーシングに固定された前記ステータシャフトフランジのフランジ部は、その外径側の端部に設けた押え部が前記第2の回転軸の軸方向から見て前記軸受の一部に重なって配置されており、
前記軸受は、前記軸方向の一方の端面が前記ケーシングの端面に当接しており、他方の端面が前記ステータシャフトフランジの前記押え部に当接していることで、前記ケーシングに対する前記軸方向の固定がなされている
ことを特徴とする変速機の軸受固定構造。
【請求項3】
前記第1の回転軸を支持する他の軸受を備え、
前記他の軸受は、前記ステータシャフトフランジの前記押え部よりも前記第1の回転軸の軸心に近い内径側で、かつ、前記軸方向において前記ステータシャフトフランジの前記フランジ部に隣接する位置に設置されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の変速機の軸受固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−241849(P2012−241849A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114528(P2011−114528)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】