説明

変速機付き圧縮機

【課題】製造コストの低廉化と低騒音とを実現可能な変速機付き圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機の変速機構30は、サンローラ14、駆動遊星ローラ32a、従動遊星ローラ32b、駆動キャリヤ90a、従動キャリヤ90b及びリングローラ33を有する遊星ローラ機構である。駆動キャリヤ90aは入力軸1と一体的に回転可能であり、従動キャリヤ90bは、入力軸1に対して回動可能であるとともに駆動キャリヤ90aとの角度を変更可能に構成されている。駆動キャリヤ90aには、伝達するトルクが増大する際にリングローラ33からの反力が最大に向かうように駆動キャリヤ90aと従動キャリヤ90bとがなす角度を規制する駆動ストッパ91が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変速機付き圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の変速機付き圧縮機が開示されている。この変速機付き圧縮機は、ハウジングと、ハウジング内に構成されて冷媒を圧縮可能な圧縮機構と、外部からハウジング内に延在し、軸芯回りに回転可能に支持された入力軸と、ハウジング内に延在し、軸芯回りに回転可能に支持されて圧縮機構を駆動可能な出力軸と、ハウジング内で入力軸と出力軸との間に設けられ、入力軸のトルクを出力軸に伝達しつつ入力軸の回転速度を増減して出力軸に伝達することにより圧縮機構を変速して駆動可能な変速機構と、変速機構を制御する制御機構とを備えている。
【0003】
変速機構は、軸芯方向の前方(入力軸側)に設けられた第1遊星歯車機構と、軸芯方向の後方(出力軸側)に設けられた第2遊星歯車機構とにより構成されている。第1、2遊星歯車機構はそれぞれ、サンギヤ、複数個の遊星ギヤ、各遊星ギヤを回転可能に保持するキャリヤ及び各遊星ギヤと噛合するリングギヤを有する。各リングギヤとハウジングとの間にはスラストベアリング及びラジアルベアリングが配設されており、各リングギヤは、ハウジングに対して固定と回動とが選択可能となっている。
【0004】
制御機構は、第1遊星歯車機構のリングギヤとハウジングとの間に設けられた第1ワンウェイクラッチと、第1遊星歯車機構のリングギヤとキャリヤとの間に設けられた第1クラッチと、第2遊星歯車機構のリングギヤとキャリヤとの間に設けられた第2ワンウェイクラッチと、第2遊星歯車機構のリングギヤとハウジングとの間に設けられた第2クラッチとを有している。第1、2クラッチは、それぞれ前方向又は後方向に変位することにより、各リングギヤをキャリヤ又はハウジングに対して固定するように構成されている。
【0005】
このような構成である従来の圧縮機では、第1、2クラッチが個別に又は同時に各リングギヤを上記固定状態にしたり、上記固定状態を解除したりする。そうすると、第1、2ワンウェイクラッチが各リングギヤと、ハウジング又はキャリヤとの間の相対回転を許容又は規制する。これにより、変速手段は、圧縮機構を段階的に変速して駆動可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−107412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来の変速機付き圧縮機は、構造が複雑であることから製造コストの高騰化を生じるとともに、振動による騒音が大きいという問題がある。
【0008】
本発明は、製造コストの低廉化と低騒音とを実現可能な変速機付き圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の変速機付き圧縮機は、ハウジングと、前記ハウジング内に構成されて冷媒を圧縮可能な圧縮機構と、外部から前記ハウジング内に延在し、軸芯回りに回転可能に支持された入力軸と、前記ハウジング内に延在し、前記軸芯回りに回転可能に支持されて前記圧縮機構を駆動可能な出力軸と、前記ハウジング内で前記入力軸と前記出力軸との間に設けられ、前記入力軸のトルクを前記出力軸に伝達しつつ前記入力軸の回転速度を等速のまま又は増速して前記出力軸に伝達することにより前記圧縮機構を2段階に変速して駆動可能な変速機構と、前記変速機構を制御する制御機構とを備え、
前記変速機構は、サンローラ、駆動遊星ローラ、従動遊星ローラ、駆動キャリヤ、従動キャリヤ及びリングローラを有する遊星ローラ機構であり、
前記駆動キャリヤは前記駆動遊星ローラを回転可能に保持し、
前記従動キャリヤは前記従動遊星ローラを回転可能に保持し、
前記サンローラは、前記駆動遊星ローラ及び前記従動遊星ローラと当接しつつ前記出力軸と一体回転可能であり、
前記リングローラは、前記駆動遊星ローラ及び前記従動遊星ローラと当接しつつ前記ハウジングに対して固定と回動とが選択可能に構成され、
前記制御機構は、前記駆動キャリヤ及び前記従動キャリヤの一方のキャリヤと前記リングローラとの間に設けられ、前記キャリヤと前記リングローラとの一方向の相対回転を許容しつつ他方向の相対回転を規制するワンウェイクラッチと、前記ハウジングと前記リングローラとの間に設けられ、係合によって前記リングローラの前記回動を規制するクラッチとを有し、
前記駆動キャリヤは前記入力軸と一体的に回転可能であり、
前記従動キャリヤは前記入力軸に対して回動可能であるとともに前記駆動キャリヤとの角度を変更可能であり、
前記駆動キャリヤには、伝達するトルクが増大する際に前記リングローラからの反力が最大に向かうように前記駆動キャリヤと前記従動キャリヤとがなす角度を規制する駆動ストッパが設けられていることを特徴とする(請求項1)。
【0010】
本発明の変速機付き圧縮機(以下、単に「圧縮機」という。)では、変速機構として、遊星ローラ機構を採用している。このため、変速機構として、各遊星ギヤの歯とサンギヤの歯とが衝突することによる振動と、各遊星ギヤの歯とリングギヤの歯とが衝突する遊星歯車機構を採用している場合と異なり、振動を生じ難い。このため、この圧縮機では、低騒音が実現される。
【0011】
また、この圧縮機においては、リングローラがハウジングに固定されれば、駆動キャリヤ及び従動キャリヤの一方のキャリヤとリングローラとは制御機構のワンウェイクラッチによって一方向の相対回転が許容され、出力軸は入力軸に対して回転速度が増速された増速回転状態となる。
【0012】
この増速時、トルクの伝達のためにサンローラと駆動遊星ローラとの間、サンローラと従動遊星ローラとの間、駆動遊星ローラとリングローラとの間及び従動遊星ローラとリングローラとの間に接触荷重が必要であり、そのためにこれらの部品間に締代を与える必要がある。一方、この圧縮機では、増速時に締代が小さ過ぎればトルクを好適に伝達できず、等速時に締代が大きすぎれば動力損失が大きくなって省動力化に反することになってしまう。
【0013】
この点、本発明の圧縮機では、駆動キャリヤが入力軸と一体的に回転可能であり、従動キャリヤは入力軸に対して回動可能である。そして、駆動キャリヤには駆動ストッパが設けられている。この駆動ストッパは、伝達するトルクが増大する際にリングローラからの反力が最大に向かうように駆動キャリヤと従動キャリヤとがなす角度を規制する。このため、増速時において、駆動キャリヤにトルクが与えられると、駆動キャリヤと従動キャリヤとは、そのトルクに応じてリングローラからの反力が最大に向かうように角度が変化する。このため、伝達するトルクが大きければ、締代が大きくなり、伝達するトルクが小さければ、締代が小さくなる。このため、伝達するトルクに応じて締代が変化し、動力損失も変化することから、省動力化を実現することができる。リングローラを吐出圧によって押す構成とすれば、増速時に高い吐出圧でリングローラを押すことができ、大きな締代でトルクを確実に伝達することが可能である。
【0014】
また、リングローラがハウジングに押される状態が解除されれば、リングローラがハウジングに対して回動する。この際、駆動キャリヤとリングローラとは制御機構のワンウェイクラッチによって他方向の相対回転が規制され、出力軸は入力軸に対して回転速度が等速のままの等速回転状態となる。
【0015】
このため、この圧縮機は、圧縮機構を2段階に変速可能でありながら、構造が簡素化されているため、製造コストの低廉化を実現可能である。
【0016】
したがって、本発明の変速機付き圧縮機は、製造コストの低廉化と低騒音とを実現可能である。
【0017】
なお、特開2007−321933号公報には、伝達するトルクに応じて締代を変化させることが可能な遊星ローラ装置が開示されている。しかし、この遊星ローラ装置は変速を制御する構成を有しておらず、このままでは圧縮機に採用し得ない。
【0018】
本発明の圧縮機において、駆動キャリヤは入力軸と一体的に回転可能であればよく、一体に構成されてもく、入力軸と駆動キャリヤとの間に付勢手段を設けてもよい。また、従動キャリヤと入力軸又は駆動キャリヤとの間に付勢手段を設けてもよい。
【0019】
従動キャリヤには、駆動キャリヤと従動キャリヤとの干渉又は駆動遊星ローラと従動遊星ローラとの干渉を防止する従動ストッパが設けられていることが好ましい(請求項2)。
【0020】
この場合、駆動キャリヤと従動キャリヤとの角度がリングローラからの反力が最小となるように変化したとしても、駆動キャリヤと従動キャリヤとの干渉又は駆動遊星ローラと従動遊星ローラとの干渉を防止することができる。
【0021】
駆動遊星ローラと従動遊星ローラとは同一形状であることが好ましい(請求項3)。この場合、部品の共通化によって製造コストの低廉化を実現できる。
【0022】
駆動キャリヤは両端に駆動遊星ローラを回転可能に保持する直線状のものであり、従動キャリヤは両端に従動遊星ローラを回転可能に保持する直線状のものであることが好ましい(請求項4)。
【0023】
この場合、1本の駆動キャリヤ、2個の駆動遊星ローラ、1本の従動キャリヤ及び2個の従動遊星ローラを採用することが可能である。そして、駆動キャリヤと従動キャリヤとを直交させることにより、リングローラからの反力、つまり締代を最大にすることができる。また、駆動キャリヤと従動キャリヤとを平行に近づけることにより、リングローラからの反力、つまり締代を最小にすることができる。
【0024】
駆動キャリヤが両駆動遊星ローラを保持する距離と、従動キャリヤが両従動遊星ローラを保持する距離とは異なることが好ましい(請求項5)。この場合、リングローラ、駆動遊星ローラ及びサンローラに作用する締代と、リングローラ、従動遊星ローラ及びサンローラに作用する締代とを異ならせることができる。なお、この場合、最大の締代を付与する状態のリングローラが楕円となる。
【0025】
駆動キャリヤが両駆動遊星ローラを保持する距離は、従動キャリヤが両従動遊星ローラを保持する距離より長いことが好ましい(請求項6)。この場合、駆動キャリヤ側の締代を大きくし、従動キャリヤ側の締代を小さくすることができ、トルクの伝達効率に優れる。
【0026】
クラッチは、ハウジングとリングローラとの間に設けられ、リングローラの移動によりハウジングに対してリングローラを固定する摩擦層と、リングローラに向かってハウジングに形成された制御室と、制御室内に移動可能に収納された制御ピストンと、制御ピストンとリングローラとの間に設けられたスラストベアリングと、制御室内に制御圧力を供給して制御ピストンを移動させる圧力調整手段とからなり得る(請求項7)。
【0027】
この場合、この圧縮機では、制御ピストンを前後させることによってリングローラの固定と回動とを選択することが可能である。また、制御室と制御ピストンとの間に生じる摺動抵抗や摩擦抵抗等によって制御ピストンの復帰が妨げられたとしても、制御ピストンとリングローラとの間に設けられたスラストベアリングは制御ピストンに対するリングローラの引き摺りを防止する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例の変速機付き圧縮機の縦断面図である。
【図2】実施例の変速機付き圧縮機の要部拡大横断面図である。
【図3】実施例の変速機付き圧縮機の要部拡大横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1に示すように、実施例の変速機付き圧縮機(以下、単に「圧縮機」という。)は、スクロール式の圧縮機構20に変速機構30及び制御機構40を一体に組み合わせたものであり、例えば車両に搭載されて空調装置を構成する。なお、各図において、入力軸1側(紙面左側)を前側と規定し、出力軸2側(紙面右側)を後側と規定して、前後方向を表示する。
【0031】
この圧縮機は、第1ハウジング部材3、第2ハウジング部材4、第3ハウジング部材5及び第4ハウジング部材6がこの順序で一体に締結されてなるハウジング10を備えている。第1ハウジング部材3の後端面と第2ハウジング部材4の前端面とが当接され、互いに締結されることによって変速室10aが形成されている。変速室10a内にはトラクションオイルが充填されている。第1ハウジング部材3には、変速室10a内に外周域に存在するトラクションオイルを内周域に導く流路3aが形成されている。
【0032】
第3ハウジング部材5は、後述する固定スクロール21を一体に有している。第2ハウジング部材4と第3ハウジング部材5との間には、後述する可動スクロール22等が収容されている。第3ハウジング部材5及び第4ハウジング部材6が互いに締結されることにより、内部に吸入室28及び吐出室29が形成されている。
【0033】
第1ハウジング部材3のボスには、入力軸1がシール部材7及び軸受装置8を介して軸芯O1回りに回転可能に支持されている。入力軸1の後端は、変速室10a内の後方に向かって突出しており、その途中には、第1ハウジング部材3と間隔を有して対面しつつ、径外方向に直線状(図2及び図3参照)に延びる駆動キャリヤ本体9aが一体に形成されている。また、入力軸1の後端には、第1ハウジング部材3と間隔を有して対面しつつ、径外方向に直線状に延びる2本の従動キャリヤ本体9bが設けられている。一方の従動キャリヤ本体9bと他方の従動キャリヤ本体9bとを連続してみれば、これらは駆動キャリヤ本体9aと交差している。従動キャリヤ本体9bは、入力軸1に対して回動可能であるとともに駆動キャリヤ本体9aとの角度を変更可能に構成されている。駆動キャリヤ本体9a及び従動キャリヤ本体9bは、後で詳述する変速機構30を構成するものである。
【0034】
図1に示すように、第2ハウジング部材4のボス内には、出力軸2がシール部材11及びラジアル軸受12を介して軸芯O1回りに回転可能に支持されている。出力軸2の前端は入力軸1内に位置し、入力軸1と出力軸2との間にもラジアル軸受13が設けられている。入力軸1には、第1ハウジング部材3に形成された流路3aと連通し、ラジアル軸受13まで延びる流路1aが形成されている。出力軸2には、駆動キャリヤ本体9a及び従動キャリヤ本体9bの後方に位置するサンローラ14が設けられている。出力軸2とサンローラ14との間には、サンローラ14を出力軸2と一体回転可能に構成しながら、出力軸2に対して軸芯O1と平行な方向に移動可能に構成するキー15が設けられている。サンローラ14も、後で詳述する変速機構30を構成するものである。出力軸2の後端は、可動スクロール22に向かうように後方に延びている。
【0035】
次に圧縮機構20について説明する。第2ハウジング部材4と第3ハウジング部材5との間には、バランサと一体の駆動ブッシュ23と可動スクロール22とが収容されている。
【0036】
駆動ブッシュ23は、出力軸2の後端に偏心された状態で固定され、出力軸2と一体回転可能とされている。駆動ブッシュ23の外周面にはラジアル軸受24が配設されている。
【0037】
可動スクロール22は、ラジアル軸受24を介して駆動ブッシュ23に回転可能に支持されるボス22aと、このボス22aと一体をなし、径方向に延びる円板状の可動側板22bと、この可動側板22bから後方に向けて軸芯O1と平行に突出する渦巻状の可動渦巻部22cとからなる。
【0038】
第2ハウジング部材4の後面には、3本以上の固定ピン25aが軸芯O1と平行に固定されている。また、可動スクロール22の可動側板22bには、固定ピン25aと同数の可動ピン25bが軸芯O1と平行に固定されている。さらに、第2ハウジング部材4と可動側板22bとの間には、固定ピン25a及び可動ピン25bと同数の可動リング25cが配設されている。可動リング25cには貫通孔25dが形成されており、その貫通孔25d内には、対をなす固定ピン25a及び可動ピン25bが各々の軸芯間を可動スクロール22の公転距離とした状態で収納されている。これら固定ピン25a、可動ピン25b及び可動リング25cにより、可動スクロール22の自転を防止する自転防止手段25が構成されている。
【0039】
第3ハウジング部材5は固定スクロール21を一体に有している。固定スクロール21は、径方向に延びる円板状の固定側板21bと、この固定側板21bから前方に向けて軸芯O1と平行に突出する渦巻状の固定渦巻部21cとからなる。
【0040】
固定スクロール21の固定渦巻部21c及び可動スクロール22の可動渦巻部22cは軸芯O1方向の突出長さが等しく設定されている。そして、固定スクロール21の固定渦巻部21cが可動スクロール22の可動側板22bと摺動し、可動スクロール22の可動渦巻部22cが固定スクロール21の固定側板21bと摺動するようになっている。
【0041】
固定側板21bの中心部分には、吐出室29と連通可能に吐出口29aが貫設されている。また、吐出室29内には、吐出口29aを塞ぐように吐出弁26及びリテーナ27が固定側板21bに固定されている。さらに、固定側板21bの外周部分には、吸入室28と連通する吸入口28aが貫設されている。
【0042】
以上の第2〜4ハウジング部材4、5、6、出力軸2、駆動ブッシュ23、可動スクロール22、自転防止手段25及び固定スクロール21等によってスクロール式の圧縮機構20が構成されている。
【0043】
吐出室29は配管41を介して凝縮器42に接続され、凝縮器42は配管43によって膨張弁44を介して蒸発器45に接続され、蒸発器45は配管46を介して吸入室28に接続されている。吐出室29には、後述する流路切替電磁弁61に対して、吐出室29内の吐出圧Pdを供給する吐出圧供給通路(図1に示す経路Pd−Pd)が設けられている。また、吸入室28には、流路切替電磁弁61に対して、吸入室28内の吸入圧Psを供給する吸入圧供給通路(図1に示す経路Ps−Ps)が設けられている。さらに、図示は省略するが、吸入室28と変速室10aとを連通させて、変速室10a内の圧力を吸入圧Psに保持する連通路が第2、3ハウジング部材4、5間に設けられている。
【0044】
次に変速機構30について説明する。図2及び図3にも示すように、駆動キャリヤ本体9aには、回転方向前方に向かって2本の駆動ストッパ91が突設されている。両駆動ストッパ91は軸芯O1を対称中心とした点対象になっている。従動キャリヤ本体9bには、回転方向前方に向かって2本の従動ストッパ92が突設されている。両従動ストッパ92も軸芯O1を対称中心とした点対象になっている。
【0045】
駆動ストッパ91は従動ストッパ92より長く突出している。駆動ストッパ91の長さは、図2に示すように、駆動ストッパ92の先端が従動キャリヤ本体9bに当接することにより、駆動キャリヤ本体9aと従動キャリヤ本体9bとが直交するように設定されている。また、従動ストッパ92の長さは、図3に示すように、従動ストッパ92の先端が駆動キャリヤ本体9aに当接することにより、駆動キャリヤ本体9aと従動キャリヤ本体9bとが干渉せず、かつ駆動遊星ローラ32aと従動遊星ローラ32bとが干渉しないように設定されている。
【0046】
変速室10a内において、駆動キャリヤ本体9aの両端の後面には、後方に向けて2本の駆動支持軸9cが突設されている。また、従動キャリヤ本体9bの両端の後面には、後方に向けて2本の従動支持軸9dが突設されている。両駆動支持軸9c及び両従動支持軸9dは円柱軸体である。各駆動支持軸9cには、ラジアル軸受31aを介して、駆動遊星ローラ32aが1個ずつ回転可能に支持されている。また、各従動支持軸9dには、ラジアル軸受31bを介して、従動遊星ローラ32bが1個ずつ回転可能に支持されている。駆動遊星ローラ32aと従動遊星ローラ32bとは同一形状である。駆動キャリヤ本体9aが両駆動遊星ローラ32aを保持する距離は、従動キャリヤ本体9bが両従動遊星ローラ32bを保持する距離より僅かに長くなっている。図1に示すように、2個の駆動遊星ローラ32a及び2個の従動遊星ローラ32bの外周面はそれぞれサンローラ14の外周面と締代を有して当接している。各駆動遊星ローラ32a及び各従動遊星ローラ32bの外周面及びサンローラ14の外周面には相対すべりを防止するためのコーティングも施されている。
【0047】
各駆動支持軸9cの後端には、後部駆動キャリヤ9eが固定されている。また、各従動支持軸9dの後端には、後部従動キャリヤ9fが固定されている。駆動キャリヤ本体9a、各駆動支持軸9c及び後部駆動キャリヤ9eにより、2個の駆動遊星ローラ32aを回転可能に保持する駆動キャリヤ90aが構成されている。また、各従動キャリヤ本体9b、各従動支持軸9d及び後部従動キャリヤ9fにより、2個の従動遊星ローラ32bを回転可能に保持する従動キャリヤ90bが構成されている。
【0048】
各駆動遊星ローラ32a及び各従動遊星ローラ32bと第1、2ハウジング部材3、4との間には、リングローラ33が配設されている。リングローラ33の前端側の内周面は各駆動遊星ローラ32a及び各従動遊星ローラ32bの外周面と締代を有して当接している。リングローラ33の前端側の内周面にも相対すべりを防止するためのコーティングも施されている。
【0049】
サンローラ14、各駆動遊星ローラ32a、各従動遊星ローラ32b、リングローラ33、駆動キャリヤ90a及び従動キャリヤ90bによって、遊星ローラ機構である変速機構30が構成されている。
【0050】
後部駆動キャリヤ9eの外面にはサークリップ34aによってワンウェイクラッチ34が固定されており、ワンウェイクラッチ34の外周面はリングローラ33の後端側の内周面と当接している。ワンウェイクラッチ34は、周知の汎用品であり、駆動キャリヤ90aに対するリングローラ33の一方向の相対回転を許容しつつ他方向の相対回転を規制するようになっている。本実施例では、入力軸1及び駆動キャリヤ90aが軸芯O1周りに回転する方向は、圧縮機を前方から見て、時計方向に設定されている。そして、ワンウェイクラッチ34は、駆動キャリヤ90aに対してリングローラ33が反時計方向に相対回転することを許容する一方、駆動キャリヤ90に対してリングローラ33が時計方向に相対回転することを規制するように配設されている。
【0051】
リングローラ33の前面には、第1ハウジング部材3の後面に向かって摩擦層35が設けられている。摩擦層35は摺動性の低い材料からなる円環状の平板である。後述するように、リングローラ33が前方向に移動すると、摩擦層35が第1ハウジング部材3の後面に当接する。
【0052】
第2ハウジング部材4には、リングローラ33の後面と対向する位置に制御室36が凹設されている。制御室36内には、円環状の制御ピストン37が前後方向(軸芯O1方向)に移動可能に収納されている。制御ピストン37の内周面と外周面とには、制御ピストン37と制御室36との間をシールするゴム製のOリング38a、38bが装着されている。
【0053】
制御室36には、流路36aを介して圧力調整手段としての流路切替電磁弁61が接続されている。流路切替電磁弁61は、制御室36を吐出圧供給通路(図1に示す経路Pd−Pd)又は吸入圧供給通路(図1に示す経路Ps−Ps)に切り替えて接続するようになっている。上述した通り、制御ピストン37が臨む変速室10a内の圧力は、吸入圧Psに保持されている。制御ピストン37の前部にはスラストベアリング39が収納されている。
【0054】
摩擦層35、制御室36、制御ピストン37、流路36a及び流路切替電磁弁61等により、第1ハウジング部材3に対してリングローラ33を固定又は回動させるクラッチ60が構成されている。クラッチ60、ワンウェイクラッチ34、流路切替電磁弁61及び流路36a等によって、制御機構40が構成されている。
【0055】
入力軸1の前端には電磁クラッチ50が連結されている。電磁クラッチ50は、入力軸1の前端に一体回転可能に固定された円盤状のハブ51と、ハブ51に板ばね52によって繋がれたアーマチュア53と、第1ハウジング部材3の前面に固定されたコイル54とを有している。第1ハウジング部材3のボスには、ラジアル軸受55を介してプーリ56が回転可能に支持されている。プーリ56には、外部駆動源としてのエンジン等と接続された図示しないベルトが巻き掛けられている。コイル54はプーリ56内に位置するように配設されている。
【0056】
以上のように構成された実施例の圧縮機においては、電磁クラッチ50のコイル54に通電が行われた場合、アーマチュア53が板ばね52の弾性力に抗してプーリ56に磁着され、入力軸1がプーリ56と一体回転し、入力軸1にトルクが付与される。入力軸1が軸芯O1回りに回転駆動されれば、入力軸1の回転が変速機構30により等速のまま又は増速されて出力軸2に伝達される。
【0057】
その一方、コイル54への通電が停止された場合、アーマチュア53が板ばね52の弾性力によってプーリ56から離れ、入力軸1へのトルクの付与が遮断される。こうして、入力軸1は、電磁クラッチ50によって外部からの駆動力が断接される。
【0058】
そして、圧縮機構20においては、出力軸2が回転駆動されることにより、駆動ブッシュ23が自己の軸芯に偏心して回転し、可動スクロール22が自転防止手段25によって自転が規制された状態で公転する。これにより、固定スクロール21と可動スクロール22との間に形成される圧縮室は、外周側から中心部分に向かって容積が縮小される。このため、吸入室28内の冷媒が圧縮室で圧縮され、吐出室29に吐出される。吐出室29内の冷媒は凝縮器42に供給され、蒸発器45によって車両の冷房が実現される。
【0059】
この間、制御室36内に吐出圧Pdが付加されると、制御室36内の圧力が変速室10a内の圧力より高くなり、制御ピストン37が前方向に移動する。そうすると、制御ピストン37がリングローラ33を前方向に移動させ、第1ハウジング部材3に対してリングローラ33を押し付ける。このため、摩擦層35と第1ハウジング部材3との間に摩擦力が作用するので、第1ハウジング部材3に対してリングローラ33が固定される。
【0060】
そうすると、ワンウェイクラッチ34は、駆動キャリヤ90aに対してリングローラ33が一方向に相対回転すること(圧縮機1を前方から見て、駆動キャリヤ90aに対してリングローラ33が反時計方向に相対回転すること)を許容する。このため、入力軸1、駆動キャリヤ90aの回転に伴って軸芯O1周りに時計方向に公転する各駆動遊星ローラ32aは、リングローラ33との締代により、各駆動支持軸9c周りに反時計方向に自転する。その結果、各駆動遊星ローラ32aと当接するサンローラ14及びサンローラ14と一体回転する出力軸2は、入力軸1の回転が増速されて伝達される増速回転状態となる。
【0061】
この際、この圧縮機では、駆動キャリヤ90aに大きなトルクが作用すれば、駆動キャリヤ90aは、そのトルクに応じて駆動ストッパ91が従動キャリヤ本体9bに当接するまで回転し、図3に示すように、従動キャリヤ90bと直交しようとする。このため、リングローラ33からの反力が大きくなる。
【0062】
また、駆動キャリヤ90aに小さなトルクが作用すれば、駆動キャリヤ90aは、そのトルクに応じてさほど回転せず、従動ストッパ92が駆動キャリヤ本体9aに当接する。このため、図2に示すように、駆動キャリヤ90aが従動キャリヤ90bと平行になろうとする。このため、リングローラ33からの反力が小さくなる。
【0063】
このように、この圧縮機では、伝達するトルクが大きければ、締代が大きくなり、伝達するトルクが小さければ、締代が小さくなる。このため、伝達するトルクに応じて締代が変化し、動力損失も変化することから、省動力化を実現することができる。
【0064】
一方、制御室36内に吸入圧Psが付加されると、制御室36内の圧力が変速室10a内の圧力と等しくなり、制御ピストン37が第1ハウジング部材3に対してリングローラ33を押し付けなくなる。そうすると、摩擦層35と第1ハウジング部材3とが離反して、双方の間に摩擦力が作用しなくなり、第1ハウジング部材3に対してリングローラ33が回動可能となる。この状態では、リングローラ33はスラストベアリング39で転動する。
【0065】
そして、この圧縮機では、リングローラ33が入力軸1の回転につられて軸芯O1周りに時計方向に回転しようとする。サンローラ14と当接する各駆動遊星ローラ32a及び各従動遊星ローラ32bが時計方向に自転することにより、リングローラ33が入力軸1を相対的に時計方向に追い越そうとする。そして、ワンウェイクラッチ34は、駆動キャリヤ90aに対してリングローラ33が他方向に相対回転すること(圧縮機を前方から見て、駆動キャリヤ90aに対してリングローラ33が時計方向に相対回転すること)を規制する。スラストベアリング39は制御ピストン37に対するリングローラ33の引き摺りを防止する。その結果、入力軸1、駆動キャリヤ90a、従動キャリヤ90b、各駆動遊星ローラ32a、各従動遊星ローラ32b、サンローラ14、リングローラ33及び出力軸2が一体回転することとなり、入力軸1の回転が出力軸2に等速のまま伝達される等速回転状態となる。
【0066】
こうして、この圧縮機では、遊星ローラ機構からなる変速機構30を採用しているため、振動を生じ難く、低騒音が実現される。また、この圧縮機は、圧縮機構20を2段階に変速可能でありながら、構造が簡素化されているため、製造コストの低廉化を実現可能である。
【0067】
したがって、この圧縮機は、製造コストの低廉化と低騒音とを実現可能である。
【0068】
また、この圧縮機では、従動キャリヤ本体9bに従動ストッパ92が設けられているため、図2に示すように、駆動キャリヤ90aと従動キャリヤ90bとの角度がリングローラ33からの反力が最小となるように変化したとしても、駆動キャリヤ90aと従動キャリヤ90bとの干渉及び駆動遊星ローラ32aと従動遊星ローラ32bとの干渉を防止することができる。
【0069】
さらに、この圧縮機では、駆動遊星ローラ32aと従動遊星ローラ32bとが同一形状であるため、部品の共通化によって製造コストの低廉化を実現している。
【0070】
また、この圧縮機では、駆動キャリヤ90aが両駆動遊星ローラ32aを保持する距離は、従動キャリヤ90bが両従動遊星ローラ32bを保持する距離より長いため、駆動キャリヤ90a側の締代が大きく、従動キャリヤ90b側の締代が小さくされ、トルクの伝達効率に優れている。
【0071】
さらに、この圧縮機では、リングローラ33を吐出圧Pdによって押していることから、増速時に高い吐出圧Pdでリングローラ33を押すことができ、大きな締代でトルクを確実に伝達することが可能である。
【0072】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0073】
圧縮機構はスクロール式に限定されず、一般的な圧縮機構を採用できる。また、クラッチは、例えば、複数の可動部材が組み合わされたリンク機構等を有し得る。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は車両用空調装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0075】
10…ハウジング
20…圧縮機構(スクロール式圧縮機構)
O1…軸芯
1…入力軸
2…出力軸
30…変速機構(遊星ローラ機構)
40…制御機構
14…サンローラ
32a…駆動遊星ローラ
32b…従動遊星ローラ
90a…駆動キャリヤ
90b…従動キャリヤ
33…リングローラ
34…ワンウェイクラッチ
60…クラッチ
91…駆動ストッパ
92…従動ストッパ
36…制御室
37…制御ピストン
39…スラストベアリング
61…圧力調整手段(流路切替電磁弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に構成されて冷媒を圧縮可能な圧縮機構と、外部から前記ハウジング内に延在し、軸芯回りに回転可能に支持された入力軸と、前記ハウジング内に延在し、前記軸芯回りに回転可能に支持されて前記圧縮機構を駆動可能な出力軸と、前記ハウジング内で前記入力軸と前記出力軸との間に設けられ、前記入力軸のトルクを前記出力軸に伝達しつつ前記入力軸の回転速度を等速のまま又は増速して前記出力軸に伝達することにより前記圧縮機構を2段階に変速して駆動可能な変速機構と、前記変速機構を制御する制御機構とを備え、
前記変速機構は、サンローラ、駆動遊星ローラ、従動遊星ローラ、駆動キャリヤ、従動キャリヤ及びリングローラを有する遊星ローラ機構であり、
前記駆動キャリヤは前記駆動遊星ローラを回転可能に保持し、
前記従動キャリヤは前記従動遊星ローラを回転可能に保持し、
前記サンローラは、前記駆動遊星ローラ及び前記従動遊星ローラと当接しつつ前記出力軸と一体回転可能であり、
前記リングローラは、前記駆動遊星ローラ及び前記従動遊星ローラと当接しつつ前記ハウジングに対して固定と回動とが選択可能に構成され、
前記制御機構は、前記駆動キャリヤ及び前記従動キャリヤの一方のキャリヤと前記リングローラとの間に設けられ、前記キャリヤと前記リングローラとの一方向の相対回転を許容しつつ他方向の相対回転を規制するワンウェイクラッチと、前記ハウジングと前記リングローラとの間に設けられ、係合によって前記リングローラの前記回動を規制するクラッチとを有し、
前記駆動キャリヤは前記入力軸と一体的に回転可能であり、
前記従動キャリヤは前記入力軸に対して回動可能であるとともに前記駆動キャリヤとの角度を変更可能であり、
前記駆動キャリヤには、伝達するトルクが増大する際に前記リングローラからの反力が最大に向かうように前記駆動キャリヤと前記従動キャリヤとがなす角度を規制する駆動ストッパが設けられていることを特徴とする変速機付き圧縮機。
【請求項2】
前記従動キャリヤには、前記駆動キャリヤと前記従動キャリヤとの干渉又は前記駆動遊星ローラと前記従動遊星ローラとの干渉を防止する従動ストッパが設けられている請求項1記載の変速機付き圧縮機。
【請求項3】
前記駆動遊星ローラと前記従動遊星ローラとは同一形状である請求項1又は2記載の変速機付き圧縮機。
【請求項4】
前記駆動キャリヤは両端に前記駆動遊星ローラを回転可能に保持する直線状のものであり、
前記従動キャリヤは両端に前記従動遊星ローラを回転可能に保持する直線状のものである請求項1乃至3のいずれか1項記載の変速機付き圧縮機。
【請求項5】
前記駆動キャリヤが前記駆動遊星ローラを保持する距離と、前記従動キャリヤが前記従動遊星ローラを保持する距離とは異なる請求項4記載の変速機付き圧縮機。
【請求項6】
前記駆動キャリヤが前記駆動遊星ローラを保持する距離は、前記従動キャリヤが前記従動遊星ローラを保持する距離より長い請求項5記載の変速機付き圧縮機。
【請求項7】
前記クラッチは、前記ハウジングと前記リングローラとの間に設けられ、前記リングローラの移動により前記ハウジングに対して前記リングローラを固定する摩擦層と、前記リングローラに向かって前記ハウジングに形成された制御室と、前記制御室内に移動可能に収納された制御ピストンと、前記制御ピストンと前記リングローラとの間に設けられた前記スラストベアリングと、前記制御室内に制御圧力を供給して前記制御ピストンを移動させる圧力調整手段とからなり得る請求項1乃至6のいずれか1項記載の変速機付き圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−214594(P2011−214594A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80505(P2010−80505)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】