説明

変速機

【課題】クラッチの過熱を防止することができる変速機を提供すること。
【解決手段】いわゆるデュアルクラッチタイプの変速機において、制御手段は、変速基準に基づいて第1クラッチと第2クラッチとを切り替える切替手段と、第1温度検出手段及び第2温度検出手段の検出結果を受信し、第1クラッチ及び第2クラッチのうちの一方のクラッチの温度が予め設定された閾温度を超えた場合、高温信号を切替手段に出力し、その後一方のクラッチの温度が予め設定された所定温度以下となった場合、解除信号を切替手段に出力する出力手段と、を有し、切替手段は、高温信号を受信した場合、一方のクラッチから他方のクラッチに切り替えて又は変速基準に基づいて一方のクラッチから他方のクラッチに切り替えた後、解除信号を受信するまで他方のクラッチのみを用いた変速制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速制御方法に特徴を持つ変速機に関し、特に2つのクラッチを有するデュアルクラッチの変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の変速機の1つに、2つのクラッチを有するいわゆるデュアルクラッチを用いた変速機(DCT)がある。DCTは、変速段を切り替える際に、トルク伝達が切れることなく速やかに変速動作を行うことができる等の特徴を有している。
【0003】
DCTでは、2つのクラッチのクラッチトルクを制御して、動力源の回転軸に対するクラッチの切り替えを行っている。具体的には、動力源の回転軸と接続状態にある一方のクラッチのクラッチトルクを減少させるとともに、動力源の回転軸と切断状態にある他方のクラッチのクラッチトルクを増加させて、接続を一方のクラッチから他方のクラッチに切り替えていく。クラッチによって動力源の回転軸と当該クラッチに対応する入力軸とが接続され、動力源の動力が入力軸に伝達される。DCTは、例えば特開2008−291893号公報(特許文献1)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−291893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DCTにおいて、動力源の回転軸の回転数と接続対象のクラッチに対応する入力軸の回転数が異なる場合、クラッチが回転軸に対して滑っている状態であり、摩擦によりクラッチの温度が上昇する。ここで、クラッチ温度が高くなりすぎると、クラッチ焼損が発生するおそれがある。クラッチの材料によっては、表面形状が大きく変形する可能性もある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて完成したものであり、クラッチの過熱を防止することができる変速機を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する請求項1に記載の変速機の特徴は、 動力源の回転軸に接続される接続状態と前記動力源から切断される切断状態とを切り替え可能である第1クラッチ及び第2クラッチと、
前記第1クラッチにより前記動力源に断続可能に接続される第1入力軸と、
前記第2クラッチにより前記動力源に断続可能に接続される第2入力軸と、
出力軸と、
前記第1入力軸と前記出力軸との間に設けられた変速段の組み合わせである第1歯車機構と前記複数の変速段のうちの1つを選択する第1歯車機構選択手段とを有する第1変速機構と、
前記第2入力軸と前記出力軸との間に設けられた変速段の組み合わせである第2歯車機構と前記複数の変速段のうちの1つを選択する第2歯車機構選択手段とを有する第2変速機構と、
変速に関する変速基準に基づいて、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、第1歯車機構選択手段、及び第2歯車機構選択手段を制御する制御手段と、
を有する変速機であって、
前記第1クラッチの温度を検出する第1温度検出手段と、
前記第2クラッチの温度を検出する第2温度検出手段と、
をさらに備え、
前記制御手段は、
前記変速基準に基づいて、前記第1歯車機構選択手段及び前記第2歯車機構選択手段を制御するとともに、前記動力源に対する接続について前記第1クラッチと前記第2クラッチとを切り替える切替手段と、
前記第1温度検出手段及び前記第2温度検出手段の検出結果を受信し、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチのうちの一方のクラッチの温度が予め設定された閾温度を超えた場合、高温信号を前記切替手段に出力し、その後前記一方のクラッチの温度が予め設定された所定温度以下となった場合、解除信号を前記切替手段に出力する出力手段と、
を有し、
前記切替手段は、前記高温信号を受信した場合、前記一方のクラッチから他方のクラッチに切り替えて又は前記変速基準に基づいて前記一方のクラッチから前記他方のクラッチに切り替えた後、前記解除信号を受信するまで前記他方のクラッチのみを用いた変速制御を行うことである。
【0008】
ここで、解除信号は、例えば、高温信号とは別途出力される信号であっても良く、又は継続して出力される高温信号を停止することにより認識されるものであっても良い。また、変速基準は、例えば、シフトマップでも良く、又は諸条件から演算されるものでも良い。
【0009】
また請求項2に係る発明の特徴は、前記制御手段は、前記変速基準に基づいて、前記第1歯車機構選択手段及び前記第2歯車機構選択手段を制御するとともに、前記動力源に対する接続について前記第1クラッチと前記第2クラッチとを切り替える切替手段と、
前記動力源の回転軸との接続により生じる前記第1クラッチ及び前記第2クラッチの仕事量を推定する仕事量推定手段と、
前記第1温度検出手段及び前記第2温度検出手段の検出結果と前記仕事量推定手段からの推定結果を受信し、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチのうちの一方のクラッチの温度が予め設定された閾温度を超えた場合、高温信号を前記切替手段に出力し、その後前記一方のクラッチの温度及び前記仕事量推定手段が推定した前記一方のクラッチの仕事量に基づいて、解除信号を前記切替手段に出力する出力手段と、
を有し、
前記切替手段は、前記高温信号を受信した場合、前記一方のクラッチから他方のクラッチに切り替えて又は前記変速基準に基づいて前記一方のクラッチから前記他方のクラッチに切り替えた後、前記解除信号を受信するまで前記他方のクラッチのみを用いた変速制御を行うことである。
【0010】
また請求項3に係る発明の特徴は、請求項1又は2において、前記変速基準は、シフトマップであり、前記切替手段は、前記第1クラッチのみを用いる場合及び前記第2クラッチのみを用いる場合の変速に関する高温時シフトマップを記憶し、前記高温信号を受信した場合、前記解除信号を受信するまで、前記他方のクラッチのみを用いる場合の前記高温時シフトマップに従って変速制御することである。
【0011】
また請求項4に係る発明の特徴は、請求項1又は2において、前記変速基準は、シフトマップであり、前記切替手段は、前記高温信号を受信した場合、前記解除信号を受信するまで、前記シフトマップの変速タイミングに基づいて又は前記シフトマップの変速タイミングと前記動力源の回転軸の回転数に基づいて、前記一方のクラッチに対応する変速段をスキップして前記他方のクラッチに対応する変速段を変更することである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によると、2つのクラッチのうち一方のクラッチの温度が閾温度を超えた場合、当該一方のクラッチを使用せず、他方のクラッチのみを使用して変速制御される。つまり、この場合の変速は、解除信号が出力されるまで、他方のクラッチに対応する変速段のみを用いて行われる。これにより、高温となった一方のクラッチと動力源の回転軸との間で摩擦は生じず、一方のクラッチの過熱は防止される。
【0013】
請求項2に記載の発明によると、請求項1に記載の発明同様、2つのうち一方のクラッチの温度が閾温度を超えた場合、当該一方のクラッチを使用せず、他方のクラッチのみを使用するように制御される。そして、解除信号は、一方のクラッチの温度と仕事量に基づいて出力される。接続により生じるクラッチの仕事量が小さい場合、接続によるクラッチ温度の上昇は小さい又はクラッチ温度の変化はほとんど無い。従って、例えば仕事量が小さいと推定された場合、クラッチ温度が多少高い状態であっても、解除信号を出力し、通常の変速制御に復帰させても問題はない。解除信号を高精度に出力することで、より適切に通常の変速制御に復帰させ、片側クラッチ制御により乗員が感じる可能性がある違和感の発生を最小限に抑えることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によると、片方のクラッチのみを用いた場合の高温時シフトマップが予め用意されているため、切替手段は、高温信号を受信した場合、その高温時シフトマップに従って変速制御できる。予め高温時シフトマップを設定することで、より適切に変速制御することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によると、高温信号受信時においても、もともとの変速基準であるシフトマップを主にして変速制御を行う。これによれば、シフトマップにおける他方のクラッチから一方のクラッチに切り替えるタイミングで他方のクラッチに対応する変速段を変更する。又は、例えば、シフトマップにおける他方のクラッチから一方のクラッチに切り替えるタイミング以降(変速タイミングを超えたとき以降)であって且つ動力源の回転軸の回転数が所定回転数以上となった時に他方のクラッチに対応する変速段を変更する。これにより、切替手段は、別途シフトマップを作成することなく変速制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態の変速機の構成を示す説明図である。
【図2】第1実施形態の変速機の制御手段の構成を示す説明図である。
【図3】第1実施形態の変速機における閾温度及び所定温度を例示するための説明図である。
【図4】第1実施形態の変速機の制御手段のクラッチ高温時における制御フローチャートである。
【図5】第2実施形態の変速機の制御手段の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の変速機について代表的な実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態に係る変速機は、車両に搭載される。なお、説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。また、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。例えば、制御手段を除いた変速機の機械的な構成については、本明細書にて説明した以外のデュアルクラッチ機構をもつ変速機とすることができる。また、制御手段についても発明の思想が同様である限り、細かいロジックの相違は問題としない。
【0018】
<第1実施形態>
本発明の変速機1は、図1に示すように、第1クラッチC1と、第2クラッチC2と、第1入力軸21と、第2入力軸22と、出力軸23と、第1変速機構3と、第2変速機構4と、制御手段5と、第1温度検出手段8と、第2温度検出手段9と、を有する。
【0019】
第1クラッチC1は、動力源としての内燃機関(エンジン、図示略)と後述する第1入力軸21との間に位置し、内燃機関の出力トルクを第1入力軸21側に伝達するかしないかの断続を行う装置である。内燃機関からの出力トルクが第1入力軸21に伝達される場合が接続状態で、内燃機関からの出力トルクが第1入力軸21に伝達されない場合が切断状態である。第1クラッチC1により内燃機関の回転軸Eと第1入力軸21とが断続可能に接続される。
【0020】
第2クラッチC2は、内燃機関と後述する第2入力軸22との間に位置する。そして、内燃機関の出力トルクを第2入力軸22側に伝達するかしないかの断続を行う装置である。内燃機関からの出力トルクが第2入力軸22に伝達される場合が接続状態で、内燃機関からの出力トルクが第2入力軸22に伝達されない場合が切断状態である。第2クラッチC2により内燃機関の回転軸Eと第2入力軸22とが断続可能に接続される。
【0021】
第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、後述する制御手段5からの信号により制御されるが、動力源として電気式又は流体圧式のアクチュエータ7により駆動する。これらのクラッチC1及びC2はアクチュエータ7によりクラッチストロークを調整することでクラッチトルクが制御される。クラッチ接続を切り替える際には、一時、両クラッチC1、C2がいわゆる半クラッチ状態となり、クリープ状態では、一方のクラッチが半クラッチ状態となる。
【0022】
第1入力軸21は、第1クラッチC1に連結して回転トルクを伝達する棒状の部材である。第2入力軸22は、第2クラッチC2に連結して回転トルクを伝達し、第1入力軸21と同軸で、第1入力軸21の外周側に位置する円筒状の部材である。
【0023】
出力軸23は、第1及び第2入力軸21、22と平行に配置され、後述する第1及び第2変速機構3、4を経て伝達された出力トルクを車輪(図示略)側に出力する棒状の部材である。
【0024】
第1変速機構3は、第1歯車機構31と第1歯車機構選択手段32とを有する。第1歯車機構31は、第1入力軸21と出力軸23との間に設けられた変速段1速、3速、5速、7速の組み合わせである。そして、各変速段と後述するスリーブ321との間に同期装置(図示略)を有する。各変速段は第1入力軸21の外周側を相対回転可能に保持される変速ギヤ311〜314と、第1入力軸21及び第2入力軸22に平行に配置されるカウンタ軸61にカウンタ軸61と一体回転可能に固定され変速ギヤ311〜314に対応するカウンタギヤ62とからなる。変速段1速が変速ギヤ311、変速段3速が変速ギヤ312、変速段5速が変速ギヤ313、及び変速段7速が変速ギヤ314である。
【0025】
第1歯車機構選択手段32は、スリーブ321とフォーク322とフォークシャフト323とアクチュエータ324とを有する。スリーブ321は、円筒状の部材で第1入力軸21の外周側で第1入力軸21と一体回転可能に、2つの変速段の間に位置する。本実施形態では、1速と7速との間に1つと、3速と5速との間に1つの計2つのスリーブ321が配置されている。スリーブ321は、どちらの変速段にも係合しない中立位置と変速段と係合する係合位置とを有し、中立位置と係合位置とを軸方向に移動する。フォーク322は、スリーブ321の外周側に位置し、スリーブ321が2つの変速段の間(中立位置と係合位置との間)を回転しながら移動することができるようにスリーブ321と係合している。フォークシャフト323は、フォーク322と一体的に係合している棒状の部材である。そして、フォークシャフト323は、フォーク322がスリーブ321を移動させるのと同時に移動可能にアクチュエータ324によって移動する。
【0026】
第2変速機構4は、第2歯車機構41と第2歯車機構選択手段42とを有する。第2歯車機構41は、第2入力軸22と出力軸23との間に設けられた変速段2速、4速、6速、リバース(後退)の組み合わせである。そして、各変速段と後述するスリーブ421との間に同期装置(図示略)を有する。各変速段は第2入力軸22の外周側を相対回転可能に保持される変速ギヤ411〜414と、カウンタ軸61に一体回転可能に固定され変速ギヤ411〜414に対応するカウンタギヤ62とからなる。変速段2速が変速ギヤ411、変速段4速が変速ギヤ412、変速段6速が変速ギヤ413、及び変速段リバースが変速ギヤ414である。
【0027】
リバースは、変速ギヤ414とカウンタギヤ62との間にあるアイドラギヤ63とにより実現される。アイドラギヤ63は、第1入力軸21、第2入力軸22、及びカウンタ軸61と平行で回転不能に固設されているアイドラギヤ軸64に、回転可能且つ軸方向に移動可能に保持されている。リバースが変速段として選択された場合に、変速ギヤ414とカウンタギヤ62との間であってそれぞれに噛合するようにアイドラギヤ63が軸方向に移動させられる。そうすると、第2入力軸22の回転がリバースの変速ギヤ414に伝達され、アイドラギヤ63が回転し、そしてカウンタギヤ62が回転しカウンタ軸61が回転する。
【0028】
第2歯車機構選択手段42は、スリーブ421とフォーク422とフォークシャフト423とアクチュエータ424とを有する。スリーブ421は、円筒状の部材で第2入力軸22の外周側で第2入力軸22と一体回転可能に、2つの変速段の間に位置する。本実施形態では、2速と4速との間に1つと、6速とリバースとの間に1つの計2つのスリーブ421が配置されている。スリーブ421は、どちらの変速段にも係合しない中立位置と変速段と係合する係合位置とを有し、中立位置と係合位置とを軸方向に移動する。フォーク422は、スリーブ421の外周側に位置し、スリーブ421が2つの変速段の間(中立位置と係合位置との間)を回転しながら移動することができるようにスリーブ421と係合している。フォークシャフト423は、フォーク422と一体的に係合している棒状の部材である。そして、フォークシャフト423は、フォーク422がスリーブ421を移動させるのと同時に移動可能にアクチュエータ424によって移動する。
【0029】
第1歯車機構選択手段32及び第2歯車機構選択手段42は、後述する制御手段5からの信号により制御される。アクチュエータ324及び424は、動力源として一般的な電気式、流体圧式、液圧シリンダ又は空圧シリンダなどによって駆動する。
【0030】
制御手段5は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1歯車機構選択手段32、及び第2歯車機構選択手段42を制御する。制御手段5は、例えば電子制御ユニット(ECU)により構成される。制御手段5については、後述する。
【0031】
第1温度検出手段8は、第1クラッチC1の温度を検出する手段であって、温度センサーである。第1温度検出手段8は、第1クラッチC1の温度を検出し、検出結果を制御手段5に送信する。
【0032】
第2温度検出手段9は、第2クラッチC2の温度を検出する手段であって、温度センサーである。第2温度検出手段9は、第2クラッチC2の温度を検出し、検出結果を制御手段5に送信する。
【0033】
制御手段5は、図2に示すように、切替手段51と、出力手段52と、を有している。切替手段51は、変速について設定されたシフトマップに基づいて、第1歯車機構選択手段32及び第2歯車機構選択手段42を制御するとともに、内燃機関の回転軸Eに対する接続について第1クラッチC1と第2クラッチC2とを切り替える手段である。シフトマップは、公知のものであり、車両の諸条件(車速やアクセル開度等)に応じて適切な変速段を選択するために予め設定されている。
【0034】
切替手段51は、シフトマップに基づいて、アクチュエータ7、第1歯車機構選択手段32、及び第2歯車機構選択手段42に制御信号を送信する。このシフトマップを用いた通常の変速制御については、公知の技術を用いており、説明は省略する。後述する出力手段52からの高温信号を受信した場合の切替手段51の制御については、後述する。
【0035】
出力手段52は、第1温度検出手段8及び第2温度検出手段9の検出結果を受信し、第1クラッチC1及び第2クラッチC2のうちの一方のクラッチの温度が予め設定された閾温度を超えた場合、高温信号を切替手段51に出力し、その後一方のクラッチの温度が予め設定された所定温度以下となった場合、解除信号を切替手段51に出力する手段である。
【0036】
出力手段52は、例えば図3に示すように、クラッチの焼損を防止できる温度である閾温度と、復帰可能なクラッチ温度を定めた所定温度とを記憶している。所定温度は、閾温度未満に設定されている。出力手段52は、第1温度検出手段8及び第2温度検出手段9からの温度情報が閾温度を超えた場合に高温信号を出力する。出力手段52は、高温信号を出力した後、閾温度を超えた方のクラッチの温度が所定温度以下となった場合、高温信号とは別の信号である解除信号を切替手段51に出力する。ただし、出力手段52は、当該一方のクラッチの温度が所定温度以下になるまで高温信号を出力し続け、所定温度以下となったら高温信号の出力を止めるように設定されても良い。この場合、解除信号は、例えばハイ信号からロー信号に変わるときのロー信号のように、高温信号が停止することにより認識される信号となる。
【0037】
本実施形態において、切替手段51は、高温信号を受信した場合、温度が閾温度を超えた一方のクラッチ(以下、高温クラッチと略称する)から低温である他方のクラッチ(以下、低温クラッチと略称する)に切り替えて、解除信号を受信するまで低温クラッチのみを用いた変速制御を行う。例えば具体的に、第1温度検出手段8の検出結果から第1クラッチC1の温度が閾温度を超えた場合、切替手段51は、高温信号を受信し、内燃機関の回転軸Eとのトルク伝達が第2クラッチC2側となるように制御する(高温信号受信時にトルク伝達が第2クラッチC2側である場合、そのまま維持する)。この際の第2クラッチに対応する変速段は、高温となった際の第1クラッチC1に対応する変速段に直近の変速段が選択される。
【0038】
さらに具体的に、例えばクリープ時には、第1クラッチC1(変速ギヤ:1速)が半クラッチ状態であり、この状態で高温信号が出力された場合、切替手段51は、シフトマップに関わらず接続対象を第2クラッチC2(変速ギヤ:2速)に切り替えて、第2クラッチC2で半クラッチ状態を実現する。そして、切替手段51は、第2クラッチC2に切り替えた後は、解除信号を受信するまで第2クラッチC2のみを用いて変速制御する。すなわち、この場合、変速ギヤは、2速、4速、及び6速の中から選択される。
【0039】
なお、切替手段51は、高温信号を受信した場合、シフトマップに基づいて高温クラッチから低温クラッチに切り替えた後、解除信号を受信するまで他方のクラッチのみを用いた変速制御を行うように設定されても良い。この場合、高温信号が出力された場合でも、低温クラッチに切り替わるまではシフトマップに従って変速制御される。つまり、高温信号受信時に接続(半クラッチ状態を含む)が高温クラッチであれば、シフトマップの変速タイミングで高温クラッチから低温クラッチに切り替わり、高温信号受信時に接続が低温クラッチであれば、そのまま維持される。その後、低温クラッチのみを用いて変速制御がなされる。
【0040】
ここで、低温クラッチのみを用いた変速制御について説明する。本実施形態において、切替手段51は、シフトマップとは別に、高温時シフトマップを記憶している。高温時シフトマップは、第1クラッチC1のみを用いる場合及び第2クラッチC2のみを用いる場合の変速に関してそれぞれ設定されたシフトマップである。つまり、高温時シフトマップは、第1クラッチC1に対応する変速段1速、3速、5速、及び7速のみを用いて変速制御するシフトマップと、第2クラッチC2に対応する変速段2速、4速、及び6速のみを用いて変速制御するシフトマップである。
【0041】
切替手段51は、高温信号を受信すると、解除信号を受信するまでは、シフトマップではなく高温時シフトマップに基づいて変速制御する。高温時シフトマップによれば、アップ変速の場合、1速→3速→5速→7速、又は、2速→4速→6速となり、ダウン変速の場合、7速→5速→3速→1速、又は、6速→4速→2速となる。アップ変速及びダウン変速は、諸条件によって決定される。
【0042】
例えば、クリープ時に高温信号を受信した場合、切替手段51は、半クラッチ接続を第1クラッチC1から第2クラッチC2に切り替えて、以後は解除信号を受信するまで高温時シフトマップ(2速、4速、及び6速のみで設定)に基づいて変速制御を行う。また、第2クラッチC2接続時に高温信号を受信した場合、切替手段51は、接続を第2クラッチC2から第1クラッチC1に切り替えて、以後は解除信号を受信するまで高温時シフトマップ(1速、3速、5速、及び7速)に基づいて変速制御する。この場合、高温信号受信時、接続を第2クラッチC2から第1クラッチC1への切り替えるに伴って、選択される変速段は、諸条件に応じて切り替え直前の変速段に直近の変速段となる。
【0043】
本実施形態の変速機1におけるクラッチ高温時の制御について図4を参照して説明する。まず、第1温度検出手段8及び第2温度検出手段9がクラッチC1、C2の温度を検出し、出力手段52に検出結果(温度情報)を送信する(S1)。出力手段52は、クラッチ温度と閾温度とを比較して、クラッチ温度が閾温度を超えた場合(S2:Yes)、高温信号を切替手段51に出力する(S3)。クラッチ温度が閾温度を超えてない場合(S2:No)、引き続きクラッチ温度を監視する。
【0044】
切替手段51は、高温信号を受信するとクラッチを切り替えるとともに、変速基準をシフトマップから高温時シフトマップに切り替える(S4)。つまり、切替手段51は、高温時シフトマップに基づいて変速制御する。その後も引き続き、出力手段52は、両クラッチ温度を監視し(S5)、高温クラッチ側のクラッチ温度が所定温度以下となった場合(S6:Yes)、解除信号を切替手段51に送信する(S7)。切替手段51は、解除信号を受信すると、変速基準を高温時シフトマップからシフトマップに切り替える(S8)。
【0045】
本実施形態の変速機1によれば、高温となったクラッチを用いず、低温側のクラッチのみを用いて変速制御するため、クラッチの過熱を防止することができる。
【0046】
なお、高温信号受信後の変速制御は上記に限られない。例えば、切替手段51は、高温信号受信後、高温時シフトマップを用いず、もともとのシフトマップに基づいて変速制御しても良い。つまり、切替手段51は、シフトマップにおける変速タイミングで、高温クラッチにかかる変速段を飛ばして(スキップして)変速する。例えば、第2クラッチC2が高温の場合、1速から2速に変速するタイミングで1速から3速に変速する。
【0047】
あるいは、切替手段51は、高温信号受信後、もともとのシフトマップと、内燃機関の回転軸Eの回転数に基づいて変速制御しても良い。この場合、切替手段51は、例えばアップ変速において、シフトマップの変速タイミングを過ぎた以降で、且つ回転軸Eの回転数が所定回転数を超えた場合に、高温クラッチにかかる変速段を飛ばして変速する。例えば具体的に、第1クラッチC1が高温の場合、2速から3速に変速するタイミングが来ても回転軸Eの回転数が所定回転数以下であれば変速せず2速を継続し、回転軸Eの回転数が所定回転数を超えた時点(例えばオーバーレブ直前)で4速に変速する。このように、高温時シフトマップを用いず変速制御することも可能である。
【0048】
<第2実施形態>
第2実施形態の変速機は、制御手段の構成が第1実施形態と異なり、他の構成は第1実施形態と同様である。従って、第2実施形態の制御手段50について説明する。
【0049】
制御手段50は、図5に示すように、切替手段51と、出力手段520と、仕事量推定手段53と、を有している。切替手段51は、第1実施形態と同構成である。仕事量推定手段53は、内燃機関の回転軸Eとの接続により生じる第1クラッチC1及び第2クラッチC2の仕事量を推定する手段である。具体的に、仕事量推定手段53は、主に回転軸Eの回転数と入力軸21、22の回転数に基づいて、接続切替により生じる第1クラッチC1の仕事量及び第2クラッチの仕事量を演算により算出する。両回転数の差が大きいほど仕事量は大きくなる。仕事量推定手段53は、各回転数情報を各回転数センサ(図示せず)から受信する。
【0050】
本実施形態において、仕事量推定手段53は、出力手段520から高温信号を受信してから解除信号を受信するまでの間、上記仕事量を算出し、仕事量情報を出力手段520に送信する。
【0051】
出力手段520は、クラッチ温度が閾温度を超えた場合に高温信号を切替手段51及び仕事量推定手段53に出力する。そして、出力手段520は、第1実施形態と異なり、高温クラッチのクラッチ温度と、推定された高温クラッチの仕事量とに基づいて、解除信号を切替手段51及び仕事量推定手段53に出力する。
【0052】
具体的には、高温クラッチのクラッチ温度が低下してきた際、そのクラッチ温度が第1実施形態における所定温度以下となる前であっても、推定された高温クラッチの仕事量が予め設定された所定仕事量以下である場合、出力手段520は、解除信号を出力する。クラッチ接続切替により生じる仕事量が小さい場合、クラッチを低温クラッチからある程度温度が低下した高温クラッチに切り替えても、高温クラッチの温度はほぼ変化せず、あるいは回転数差がなくなることで温度が下がっていく可能性もある。
【0053】
第2実施形態において、出力手段520は、閾温度と第1実施形態における所定温度の間の温度である第2所定温度(所定温度以上閾値未満)を記憶している。出力手段520は、高温信号を出力した後、高温クラッチのクラッチ温度が第2所定温度以下となり且つ高温クラッチの仕事量が所定仕事量以下となった場合に、解除信号を出力する。第2所定温度は、閾温度未満に設定されれば良い。
【0054】
第2実施形態の変速機によれば、クラッチの仕事量に応じて、クラッチ温度が多少高い場合(所定温度以上閾値未満)でも解除信号を出力し、より適切に通常のシフトマップによる変速制御に切り替えることができる。つまり、解除信号がより高精度に出力される。これにより、高温時の変速制御からより適切に通常の変速制御に復帰させ、片側クラッチ制御により乗員が感じる可能性がある違和感の発生を最小限に抑えることができる。なお、高温信号受信時の切替手段51の変速制御は、第1実施形態同様、高温時シフトマップによっても良く、またはシフトマップによるもの(シフトマップ、またはシフトマップと回転軸Eの回転数に基づくもの)でも良い。
【0055】
また、第1実施形態及び第2実施形態において、高温信号が出力されると点灯するランプ(図示せず)を車室内に搭載しても良い。また、高温信号の出力は、クラッチ温度と仕事量に基づいて行うよう設定しても良い。例えば、クラッチ温度が閾温度を超えて且つ高温クラッチ側の仕事量が所定仕事量を超えた場合に、出力手段52が高温信号を出力するように設定しても良い。これによっても仕事量を考慮した高精度な高温信号出力が可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1:変速機、
21:第1入力軸、22:第2入力軸、23:出力軸、
3:第1変速機構、31:第1歯車機構、32:第1歯車機構選択手段、
311:1速(変速ギヤ)、312:3速(変速ギヤ)、
313:5速(変速ギヤ)、314:7速(変速ギヤ)、
321、421:スリーブ、322、422:フォーク、
323、423:フォークシャフト、324、424:アクチュエータ、
4:第2変速機構、41:第2歯車機構、42:第2歯車機構選択手段、
411:2速(変速ギヤ)、412:4速(変速ギヤ)、
413:6速(変速ギヤ)、414:リバース(変速ギヤ)、
5、50:制御手段、51:切替手段、52、520:出力手段、
53:仕事量推定手段、
61:カウンタシャフト、62:カウンタギヤ、
63:アイドラギヤ、64:アイドラギヤ軸、
7:油圧システム、8:第1温度検出手段、9:第2温度検出手段、
C1:第1クラッチ、C2:第2クラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源の回転軸に接続される接続状態と前記動力源から切断される切断状態とを切り替え可能である第1クラッチ及び第2クラッチと、
前記第1クラッチにより前記動力源に断続可能に接続される第1入力軸と、
前記第2クラッチにより前記動力源に断続可能に接続される第2入力軸と、
出力軸と、
前記第1入力軸と前記出力軸との間に設けられた変速段の組み合わせである第1歯車機構と前記複数の変速段のうちの1つを選択する第1歯車機構選択手段とを有する第1変速機構と、
前記第2入力軸と前記出力軸との間に設けられた変速段の組み合わせである第2歯車機構と前記複数の変速段のうちの1つを選択する第2歯車機構選択手段とを有する第2変速機構と、
変速に関する変速基準に基づいて、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、第1歯車機構選択手段、及び第2歯車機構選択手段を制御する制御手段と、
を有する変速機であって、
前記第1クラッチの温度を検出する第1温度検出手段と、
前記第2クラッチの温度を検出する第2温度検出手段と、
をさらに備え、
前記制御手段は、
前記変速基準に基づいて、前記第1歯車機構選択手段及び前記第2歯車機構選択手段を制御するとともに、前記動力源に対する接続について前記第1クラッチと前記第2クラッチとを切り替える切替手段と、
前記第1温度検出手段及び前記第2温度検出手段の検出結果を受信し、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチのうちの一方のクラッチの温度が予め設定された閾温度を超えた場合、高温信号を前記切替手段に出力し、その後前記一方のクラッチの温度が予め設定された所定温度以下となった場合、解除信号を前記切替手段に出力する出力手段と、
を有し、
前記切替手段は、前記高温信号を受信した場合、前記一方のクラッチから他方のクラッチに切り替えて又は前記変速基準に基づいて前記一方のクラッチから前記他方のクラッチに切り替えた後、前記解除信号を受信するまで前記他方のクラッチのみを用いた変速制御を行うことを特徴とする変速機。
【請求項2】
動力源の回転軸に接続される接続状態と前記動力源から切断される切断状態とを切り替え可能である第1クラッチ及び第2クラッチと、
前記第1クラッチにより前記動力源に断続可能に接続される第1入力軸と、
前記第2クラッチにより前記動力源に断続可能に接続される第2入力軸と、
出力軸と、
前記第1入力軸と前記出力軸との間に設けられた変速段の組み合わせである第1歯車機構と前記複数の変速段のうちの1つを選択する第1歯車機構選択手段とを有する第1変速機構と、
前記第2入力軸と前記出力軸との間に設けられた変速段の組み合わせである第2歯車機構と前記複数の変速段のうちの1つを選択する第2歯車機構選択手段とを有する第2変速機構と、
変速に関する変速基準に基づいて、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、第1歯車機構選択手段、及び第2歯車機構選択手段を制御する制御手段と、
を有する変速機であって、
前記第1クラッチの温度を検出する第1温度検出手段と、
前記第2クラッチの温度を検出する第2温度検出手段と、
をさらに備え、
前記制御手段は、
前記変速基準に基づいて、前記第1歯車機構選択手段及び前記第2歯車機構選択手段を制御するとともに、前記動力源に対する接続について前記第1クラッチと前記第2クラッチとを切り替える切替手段と、
前記動力源の回転軸との接続により生じる前記第1クラッチ及び前記第2クラッチの仕事量を推定する仕事量推定手段と、
前記第1温度検出手段及び前記第2温度検出手段の検出結果と前記仕事量推定手段からの推定結果を受信し、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチのうちの一方のクラッチの温度が予め設定された閾温度を超えた場合、高温信号を前記切替手段に出力し、その後前記一方のクラッチの温度及び前記仕事量推定手段が推定した前記一方のクラッチの仕事量に基づいて、解除信号を前記切替手段に出力する出力手段と、
を有し、
前記切替手段は、前記高温信号を受信した場合、前記一方のクラッチから他方のクラッチに切り替えて又は前記変速基準に基づいて前記一方のクラッチから前記他方のクラッチに切り替えた後、前記解除信号を受信するまで前記他方のクラッチのみを用いた変速制御を行うことを特徴とする変速機。
【請求項3】
前記変速基準は、シフトマップであり、
前記切替手段は、前記第1クラッチのみを用いる場合及び前記第2クラッチのみを用いる場合の変速に関する高温時シフトマップを記憶し、前記高温信号を受信した場合、前記解除信号を受信するまで、前記他方のクラッチのみを用いる場合の前記高温時シフトマップに従って変速制御する請求項1又は2に記載の変速機。
【請求項4】
前記変速基準は、シフトマップであり、
前記切替手段は、前記高温信号を受信した場合、前記解除信号を受信するまで、前記シフトマップの変速タイミングに基づいて又は前記シフトマップの変速タイミングと前記動力源の回転軸の回転数に基づいて、前記一方のクラッチに対応する変速段をスキップして前記他方のクラッチに対応する変速段を変更する請求項1又は2に記載の変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−50130(P2013−50130A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187170(P2011−187170)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】