説明

外部共振器型半導体レーザとそれを用いたラマン増幅器

【課題】安定した発振波長のレーザ光を出射するとともに、より安価でかつ簡単な構造を有する外部共振器型半導体レーザとそれを用いたラマン増幅器を提供する。
【解決手段】劈開によって形成された後方端面11aおよび出射端面11bと、後方端面11aから出射端面11bにかけて設けられ、駆動電流が供給されることによって光を発生させる活性層110とを有し、活性層110において発生した光を該出射端面から出射するゲインチップ11と、出射端面11bと光軸方向に所定間隔を設けて対向する端面1aを有してゲインチップ11と直接光結合された光ファイバ1と、を備え、後方端面11aと端面1aとの間に光共振器が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部共振器型半導体レーザとそれを用いたラマン増幅器に関し、特に、発振波長を安定化させる構造を有する外部共振器型半導体レーザとそれを用いたラマン増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット上で提供されるサービスの多様化に伴い、光ファイバ通信の通信容量の一層の拡大が必要となっている。
【0003】
光ファイバ通信の長距離化および大容量化に大きな役割を果たしているのが光ファイバ増幅器であり、エルビウム添加ファイバ増幅器(Erbium Doped Fiber Amplifier、以下、EDFAと記す)の実用化によって長距離光ファイバ通信技術が大きく前進した。
【0004】
さらに、EDFAの増幅帯域が1.55μm付近である程度の広がりを持っていたため、波長の異なる信号光を1本の光ファイバに同時に通すことで通信容量を飛躍的に拡大する波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing、以下、WDMと記す)通信技術が注目され、急激に発展した。
【0005】
しかしながら、EDFAの増幅帯域は光ファイバの低損失帯域よりも狭いため、最近では、EDFAの増幅帯域よりもさらに広い波長帯域の信号光を増幅できるラマン増幅器がEDFAとともに併用されている。
【0006】
ラマン増幅器は、励起光を出射する増幅用光源と、該増幅用光源から出射された励起光が入射される増幅用光ファイバと、を備えており、励起光の波長を変化させることによって任意の波長帯の信号光を増幅することが可能な光増幅器である。
【0007】
励起光が増幅用光ファイバに入射されると、増幅用光ファイバにおいて誘導ラマン散乱が生じ、励起光の中心波長(以下、励起光波長と記す)から100nm程度長波長側に利得が生じる。このとき、信号光が増幅用光ファイバに入射されると、上述の増幅用光ファイバ中に生じた利得によって励起光波長から100nm程度長い波長の信号光が増幅される。従って、ラマン増幅器は、励起光波長が変動すると、増幅用光ファイバにおいて増幅される信号光の利得も変動するため、増幅すべき波長を適切に増幅できなくなってしまう。
【0008】
従って、信号光の増幅率を安定させるためには、励起光波長が正確に制御される必要がある。このため、FBG(Fiber Bragg Grating)を用いた外部共振器型半導体レーザ(External Cavity Laser Diode、以下、ECLDと記す)が増幅用光源として実用化された。
【0009】
このようなECLDとして、従来、ゲインチップの前方端面から出射される光を、FBGが形成された光ファイバに入射させ、FBGにより反射された光をゲインチップに帰還させ、ゲインチップの後方端面によりこの光を反射させて再びFBGに入射させることを繰り返すことによって、特定波長でレーザ発振させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
この特許文献1に記載のECLDにおいては、FBGは、ゲルマニウムがドープされたコア部を有する光ファイバの一部に紫外レーザ光を照射させることにより、光ファイバの所定長さの範囲のコア部の屈折率を長手方向に周期的に変化させてなるものである。このFBGが形成された光ファイバに入射された光のうち、特定波長(λ=2nΛ)(nは光ファイバコアの実効屈折率、Λはグレーティング周期)の光のみがFBGで反射される。
【0011】
さらに、ラマン増幅器の利得特性の広帯域化および平坦化を実現するためには、増幅すべき波長帯域に応じた複数の中心波長を有する励起光が増幅用光ファイバに入射される必要がある。このため従来は、複数の励起光波長それぞれに対応するFBGが光ファイバに形成されていた(例えば、特許文献2参照)。
【0012】
図15は、特許文献2に開示されたような従来のラマン増幅器の構成の模式図である。従来のラマン増幅器は、例えば中心波長λ1、λ2の励起光を出射する半導体レーザ100A、100B、100C、100Dと、FBG101A、101B、101C、101Dと、偏波合成カプラ102、103と、WDMカプラ104、105と、増幅用光ファイバ106と、を備えている。
【0013】
半導体レーザ100A〜100Dで発生される励起光は、その中心波長λ1、λ2毎に偏波合成カプラ102、103で偏波合成され、各偏波合成カプラ102、103の出力光がWDMカプラ104で合波され、WDMカプラ105を介して増幅用光ファイバ106に入射される。半導体レーザ100A〜100Dから各偏波合成カプラ102、103の間は偏波保持ファイバ107で接続され、偏波面が異なる2つの励起光が各偏波合成カプラ102、103で合成されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第96/27929号パンフレット
【特許文献2】特開2000−98433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1、2に示されたFBGを用いたECLDにおいては、上述のように増幅すべき波長帯域に対応する複数のFBGが光ファイバに形成されなければならないため、作製に対する時間およびコストがかかるという問題があった。
【0016】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、安定した発振波長のレーザ光を出射するとともに、より安価でかつ簡単な構造を有する外部共振器型半導体レーザとそれを用いたラマン増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の外部共振器型半導体レーザは、劈開によって形成された後方端面および出射端面と、該後方端面から該出射端面にかけて設けられ、駆動電流が供給されることによって光を発生させる活性層とを有し、該活性層において発生した光を該出射端面から出射するゲインチップと、前記出射端面と光軸方向に所定間隔を設けて対向する端面を有して前記ゲインチップと直接光結合された光ファイバと、を備え、前記後方端面と前記端面との間に光共振器が形成されることを特徴とする。
【0018】
この構成により、本発明の外部共振器型半導体レーザは、安定した発振波長のレーザ光を出射できるとともに、より安価でかつ簡単に製造することができる。
【0019】
本発明の外部共振器型半導体レーザは、前記出射端面に低反射膜が形成されており、前記後方端面に高反射膜が形成されていることを特徴とする。
【0020】
この構成により、本発明の外部共振器型半導体レーザは、ゲインチップの出射端面と光ファイバの端面との間にエタロンが形成されるため、エタロンの間隔を調整することにより、所望の中心波長のレーザ光を出射することができる。
【0021】
本発明の外部共振器型半導体レーザは、前記光ファイバが、シングルモードファイバまたは偏波保持ファイバであってもよい。
【0022】
本発明の外部共振器型半導体レーザは、前記ゲインチップが、InPからなる半導体基板と、該半導体基板上に前記活性層を挟んで形成されるn型クラッド層およびInPからなるp型クラッド層と、をさらに有し、前記活性層が多重量子井戸構造を含み、前記n型クラッド層がInGaAsPで構成され、かつ前記活性層の幅が7〜14μmであり、横高次モードが発生することなく基本横モードのみで発振することを特徴とする。
【0023】
この構成により、本発明の外部共振器型半導体レーザは、レンズレスでも基本横モードを維持しながらシングルモードファイバと十分な結合効率を得ることができる。
【0024】
本発明の外部共振器型半導体レーザは、前記n型クラッド層を構成するInGaAsPの組成波長が0.98μm以下であることを特徴とする。
【0025】
この構成により、本発明の外部共振器型半導体レーザは、横高次モードを抑圧できる活性層幅を7〜14μm程度の幅に拡大することができる。
【0026】
本発明のラマン増幅器は、上記の外部共振器型半導体レーザと、前記光ファイバの前記ゲインチップと対向する端面と反対側の端面から出射されたレーザ光が励起光として入射され、誘導ラマン増幅を生じさせる光ファイバと、を備えたことを特徴とする。
【0027】
この構成により、本発明のラマン増幅器は、ラマン増幅の利得特性の安定化、広帯域化および平坦化を実現することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、ゲインチップの出射端面と光ファイバの端面との間にエタロンが形成されることにより、安定した発振波長のレーザ光を出射するとともに、より安価でかつ簡単な構造を有する外部共振器型半導体レーザとそれを用いたラマン増幅器を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る外部共振器型半導体レーザの上面図および断面図
【図2】ゲインチップと光ファイバとの光結合部分の拡大図
【図3】ゲインチップの全体の構成を示す斜視図
【図4】ゲインチップの一部拡大断面図
【図5】ゲインチップの各層の屈折率特性を示すグラフ
【図6】光スポットの偏平率をパラメータとした、出射光の水平方向スポット径と光ファイバへの光結合効率の関係図
【図7】水平方向スポット径およびゲインチップの活性層幅とレーザ出射光の遠視野像の広がり角度との関係図
【図8】同一活性層構造における、n型クラッド層に用いるInGaAsPの組成波長に対する、横高次モードを抑圧できる最大の活性層幅の関係図
【図9】ゲインチップの光の分布特性を示すグラフ
【図10】ゲインチップの出射端面の反射率とエタロンの反射率との関係を示すグラフ
【図11】エタロンの透過率が最小となる場合の中心波長λcと間隔Δとの関係を示すグラフ
【図12】外部共振器型半導体レーザまたはゲインチップ単体から出射された光の中心波長λcの駆動電流依存性を示すグラフ
【図13】本発明に係る外部共振器型半導体レーザを備えたラマン増幅器の構成を示すブロック図
【図14】励起光波長と利得との関係を模式的に示すグラフ
【図15】従来のラマン増幅器の構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態の外部共振器型半導体レーザについて、図面を用いて説明する。
【0031】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態の外部共振器型半導体レーザを図1乃至図13を用いて説明する。図1(a)は外部共振器型半導体レーザ10の上面図、図1(b)は図1(a)のA−A線断面図である。
【0032】
外部共振器型半導体レーザ10は、光ファイバ1と、光ファイバ1の一方の端部の端面1aに向かって光を出射するゲインチップ11と、周囲温度を検出するサーミスタ12と、サーミスタ12によって検出された周囲温度に基づいてゲインチップ11の温度制御を行うTEC(Thermo Electrical Cooler)13と、ゲインチップ11、サーミスタ12、TEC13を内部に格納する直方体状のパッケージ2と、を備える。
【0033】
パッケージ2は、本体部2aと、光ファイバ1が挿通される光ファイバ挿通パイプ2bと、蓋部材2c(図1(a)には図示せず)と、を備えている。光ファイバ1は、例えばフェルール、接着剤、金属封止剤、または樹脂封止剤等の固定部材14によって光ファイバ挿通パイプ2bに固定されている。
【0034】
光ファイバ1は、シングルモードファイバ(偏波を保持しないもの)またはパンダファイバ等の偏波保持ファイバからなっている。光ファイバ1はコア部1bおよびクラッド部1cを有しており、クラッド部1cの外周の少なくとも一部は被覆1dによって覆われていてもよい。なお、図1は被覆1dの一部を破断して示している。また、光ファイバ1の他方の端部には光出力用のコネクタ15が形成されている。
【0035】
さらに、外部共振器型半導体レーザ10は、パッケージ2の内部に、ゲインチップ11を載置するためのサブマウント16と、サーミスタ12およびサブマウント16を固定する基板17と、を備えている。基板17は、パッケージ2の内部の底面に固定された上述のTEC13上に固定されている。基板17は、例えば、銅タングステン(CuW)等の材料により形成されている。
【0036】
ゲインチップ11は、複数の半導体層が積層されることにより構成されており、これらの半導体層は、組成や、ドープされる不純物の種類、量が互いに異なっている。また、ゲインチップ11は、劈開によって形成された後方端面11aおよび出射端面11bと、後方端面11aから出射端面11bにかけて設けられ、駆動電流が供給されることによって光を発生させ、かつ導波させるストライプ状の活性層110とを有し、活性層110において発生した光を出射端面11bから出射する構成を有している。
【0037】
TEC13は、吸熱側基板13aと、放熱側基板13bと、これらの基板13a、13bに挟まれた半導体素子13cにより構成されており、基板17と吸熱側基板13aとが密着されることにより、ゲインチップ11から発生した熱を吸熱し、ゲインチップ11の温度を一定に保つようになっている。
【0038】
図2はゲインチップ11と光ファイバ1との光結合部分の拡大図である。光ファイバ1の端面1aとゲインチップ11の出射端面11bが、光軸方向に所定間隔Δ(以下、単に間隔Δと記す)を設けて対向することにより、エタロン3が構成される。端面1aおよび出射端面11bは光軸に対して垂直な平面である。
【0039】
一般にエタロンは、様々な波長を含む光のうちの特定波長の光のみを通過(透過)させるフィルタ(光周波数フィルタ)として用いられるが、エタロン3は光周波数フィルタとしてではなく、特定波長の光を反射する光反射器として機能する。
【0040】
図2に示すように、ゲインチップ11の出射端面11bから出射される光の中心軸と、光ファイバ1のコア部1bの中心軸とは近接して配置されている。ゲインチップ11の活性層110から出射された光は、光ファイバ1の端面1aを介してコア部1bに入射されるようになっている。
【0041】
光ファイバ1がシングルモードファイバである場合には、光ファイバ1とゲインチップ11とは、基本横モードを保ったまま高効率な結合効率で光結合されることが好ましい。このような条件を満たすゲインチップ11の詳細な構成について図3乃至図9を用いて説明する。図3はゲインチップ11の全体の構成を示す斜視図、図4はゲインチップ11の一部拡大断面図である。
【0042】
図3に示すように、ゲインチップ11は、n型InPからなる半導体基板111の上に、n型InGaAsPからなるn型クラッド層112、InGaAsPからなるSCH層113、InGaAsPからなる活性層110、InGaAsPからなるSCH層114が順番に積層されている。
【0043】
図3において、n型クラッド層112、SCH層113、活性層110、SCH層114はメサ型に形成されており、このメサ型の両側にp型InPからなる下部埋込層115およびn型InPからなる上部埋込層116が形成されている。
【0044】
また、SCH層114の上側および上部埋込層116の上面には、p型InPからなるp型クラッド層117が形成されている。p型クラッド層117の上面には、p型コンタクト層118が形成されている。さらに、p型コンタクト層118の上面には、p電極119が設けられている。また、半導体基板111の下面にはn電極120が設けられている。
【0045】
本実施形態において、活性層110としては、図4に示すように、4層の井戸層110aと、この各井戸層110aの両側に位置する5層の障壁層110bとを積層した4層のMQW(多重量子井戸)構造が採用されている。この4層のMQW構造を有した活性層110の下側に位置するSCH層113を複数の層113a、113b、113cからなる多層構造とし、同様に、活性層110の上側に位置するSCH層114を複数の層114a、114b、114cからなる多層構造としている。
【0046】
図4に示すように、活性層110における障壁層110bの屈折率をns、n型クラッド層112の屈折率をna、p型クラッド層117の屈折率をnbとする。また、SCH層113を構成する各層113a、113b、113cの屈折率および厚さをそれぞれn1、n2、n3、t1、t2、t3とし、同様に、SCH層114を構成する各層114a、114b、114cの屈折率および厚さをn1、n2、n3、t1、t2、t3とする。
【0047】
そして、各屈折率の大小関係は、次のように、活性層110から遠ざかる程小さくなるように設定され、かつ、InGaAsPからなるn型クラッド層112の屈折率naは、InPからなるp型クラッド層117の屈折率nbより高い。
【0048】
s>n1>n2>n3>na>nb
【0049】
さらに、このゲインチップ11においては、図5に示すように、各SCH層113、114を構成する隣接する層相互間の屈折率差が、活性層110からクラッド層112、117へ向かう程小さくなるように設定されている。
【0050】
即ち、
s−n1>n1−n2>n2−n3>n3−nb>n3−na
となるように設定されている。
【0051】
また、SCH層113、114を構成する各層113a、113b、113c、114a、114b、114cの厚みt1、t2、t3は等しく設定されている。
【0052】
このように構成されたゲインチップ11では、p電極119とn電極120との間に直流電圧を印加すると、活性層110で光Pが生起され、その光Pが図3に示したゲインチップ11の後方端面11a、出射端面11bから外部へ出射される。
【0053】
ここで、横高次モードの発生を抑制しつつ、光ファイバ1と十分な結合効率を得ることができる活性層幅について説明する。ここで、光ファイバ1のスポット径は10μm程度であるとする。
【0054】
ゲインチップ11においては前述の通り光が後方端面11aおよび出射端面11bから外部へ出射されるが、その際、所定の大きさのスポット径で光は外部へ出射される。このスポット径とは、活性層端から出射される光の、その端部での光強度分布において、最大光強度の1/e2(eは自然対数の底)となる部分の直径を意味するものとする。
【0055】
図6に、光スポットの偏平率をパラメータとした、出射光の水平方向スポット径と光ファイバ1への光結合効率の関係図を示す。光スポットの偏平率は、スポット径の水平方向:垂直方向の割合比であり、それぞれ(1:1.35)、(1:1.2)、(1:1)、(1:0.8)、(1:0.65)の割合比を示している。
【0056】
なお、ゲインチップ11は基本横モードで発振しており、既に述べたように、光ファイバ1はゲインチップ11に近接配置され、レンズレスで光結合している。図6からも分かるように、どの光スポットの偏平率においても約75%以上の高い光結合効率を得るためには、水平方向スポット径が7〜14μmであれば良いことが分かる。
【0057】
次に、図7(a)に、水平方向スポット径とレーザ出射光の遠視野像の広がり角度との関係図を示す。一方、図7(b)には、ゲインチップ11の活性層幅とレーザ出射光の遠視野像の広がり角度との関係図を示す。図7(a)、(b)を比較して分かるように、同一広がり角度が得られる際の、活性層幅と水平方向スポット径がほぼ同等となっている。従って、ゲインチップ11においては、活性層幅=スポット径と見なすことができる。従って、光ファイバ1との光結合において、約75%以上の高い光結合効率を得るためには、活性層幅が7〜14μmであれば良いこととなる。
【0058】
ところで、単純に活性層幅を拡大させただけでは、レーザの発振モードに横高次モードが存在する事となり、レーザ特性が悪化するばかりでなく、光ファイバ1への光結合効率が低下してしまうこととなる。そこで、ゲインチップ11では、前述したように、n型クラッド層112をInGaAsPで構成している。このような構成とすることにより、横高次モードの発生を抑えつつ広い活性層幅のゲインチップを実現することができる。
【0059】
図8に、同一活性層構造における、n型クラッド層112に用いるInGaAsPの組成波長に対する、横高次モードを抑圧できる最大の活性層幅(=カットオフ幅)の関係図の一例を示す。これによれば、通常のInPクラッド層を用いたゲインチップでは、カットオフ幅は約3.5μmである。それに対し、組成波長を0.96μmとするとカットオフ幅は約7μmとなり、さらに組成波長を0.98μmとすれば、カットオフ幅は約14μmまで拡大することができる。
【0060】
次に、図5に基づいて各層の屈折率について説明する。図5の屈折率特性に示すように、SCH層113、114を構成する隣接する層相互間の屈折率差が、活性層110から各クラッド層112、117へ向かう程小さくなるように設定されているので、SCH層113、114内における活性層110の近傍領域の屈折率の高い領域においては屈折率が急激に低下し、両クラッド層112、117の近傍領域の屈折率の低い領域においては、屈折率が緩慢に低下する。
【0061】
このため、活性層110およびSCH層113、114における光の集中度を緩和する、即ち、光閉じ込め係数を低くすることができ、内部損失が低下する。
【0062】
また、InGaAsPからなるn型クラッド層112の屈折率naは、InPからなるp型クラッド層117の屈折率nbより高いので、図9に示すように、光の分布が、両クラッド層112、117を同一屈折率にしたときの対称な特性A'に対して、特性Aのようにn型クラッド層112側に偏って分布する。
【0063】
このため、活性層110およびSCH層113、114における光閉じ込め係数を低くしたことによるp型クラッド層117における価電子帯間光吸収による光損失の増加を抑制することができ、高出力なレーザ光を得ることができる。
【0064】
また、n型クラッド層組成波長を0.96〜0.98μmの範囲で設定することにより、横高次モードを抑圧できる活性層幅を7〜14μm程度の幅に拡大できる。これにより、素子抵抗値の増加による光出力の低下も防止できるだけでなく、光スポットサイズを拡大する事ができるため、レンズレスでも光ファイバ1へ結合することが可能となる。
【0065】
また、p型クラッド層117の厚さを増加させる必要がなく、素子抵抗値の増加による光出力の低下を招く恐れもない。
【0066】
なお、InGaAsPの組成波長を0.96〜0.98μmの範囲で選択すれば、基本横モードを保ったままゲインチップ11からの高出力のレーザ光を光ファイバ1に入射することができる。この構成により、基本横モードを保ったまま活性層幅を広くしてゲインチップ11と光ファイバ1を高効率な結合効率で光結合することができる。
【0067】
次に、エタロン3の機能について説明する。既に述べたように、エタロン3は光周波数フィルタとしてではなく、特定波長の光を反射する光反射器として機能する。
【0068】
エタロン3に、中心波長λの光が光軸に対して角度θで入射したときの光の透過率T(λ)は近似的に次式によって表される。
【数1】

【0069】
[数1]において、A1、A2は2つの部分透過ミラーとしての出射端面11b、端面1aそれぞれの光吸収率を、R1、R2は出射端面11b、端面1aそれぞれの反射率を表す。さらに、[数1]におけるδは、次式によって表される。
【数2】

【0070】
[数2]において、nはエタロン3の間隔Δの間隙に含まれる媒質に基づく屈折率を表す。θは、上述のようにエタロン3への光の入射角度である。また、エタロン3の反射率R(λ)は、上述した透過率T(λ)を用いて次式のように表される。
【数3】

【0071】
[数2]における屈折率nはエタロン3の間隔Δの間隙がエアギャップであるとしてn=1とし、光の入射角度θは0度とする。このようにして、[数1]〜[数3]に基づいて、エタロン3の透過率T(λ)および反射率R(λ)はそれぞれ[数4]、[数5]のように表される。
【数4】

【数5】

【0072】
図10は、ゲインチップ11の出射端面11bの反射率と、光ファイバ1の端面1aの反射率が3%である場合のエタロン3の反射率との関係を示すグラフである。実線はエタロン3の最大反射率を、破線はエタロン3の最小反射率をそれぞれ示している。
【0073】
図10から分かるように、光ファイバ1の端面1aの反射率が一定の場合には、ゲインチップ11の出射端面11bの反射率を変化させることによりエタロン3の反射率を自由に選ぶことができる。
【0074】
さらに、[数5]から分かるように、間隔Δを変化させることによってエタロン3の反射特性は変化する。所望の中心波長λに対するエタロン3の反射率R(λ)を最大にするには(即ち、透過率T(λ)を最小にするには)、[数5]において(2πΔ/λ)を(π/2)の整数倍とすればよく、このときの中心波長λcと間隔Δの関係は次式で与えられる。
【数6】

【0075】
図11は、透過率T(λ)が最小となる場合の中心波長λcと間隔Δとの関係を示すグラフである。各実線は異なるmの値に対応している。このグラフから所望の中心波長λcを実現するための間隔Δを得ることができる。図中の破線は中心波長λcが1.46μmである場合を示すものであり、透過率T(λc)が最小となる間隔Δが離散的に複数点存在することが分かる。
【0076】
また、間隔Δを変化させることによって、エタロン3の反射特性のサイドモード間隔(FSR)および半値幅も変化する。間隔Δが広くなるとFSRおよび半値幅は狭くなる。
【0077】
しかしながら、FSRおよび半値幅が狭すぎると、ゲインチップ11の後方端面11aとエタロン3との間で光共振器が構成される本実施形態の外部共振器型半導体レーザ10において、複数の発振波長(中心波長)のレーザ発振が起こりやすくなる。即ち、単一の中心波長を持つレーザ光を得るための間隔Δの値には制限(上限)がある。
【0078】
従って、エタロン3において、[数6]から得られる所望の中心波長λcを実現する間隔Δのうち、上記の上限以下の間隔Δを採用することにより、単一の中心波長λcのレーザ光が選択的に反射されることとなる。
【0079】
図12は、外部共振器型半導体レーザ10またはゲインチップ11単体から出射された光の中心波長λcの駆動電流依存性を示すグラフである。図12中の白丸(○)は本実施形態の外部共振器型半導体レーザ10から出射された光の中心波長λcの駆動電流依存性を示している。さらに、比較例としてゲインチップ11単体から出射された光の中心波長λcの駆動電流依存性を黒丸(●)で示している。なお、図12においては、ゲインチップ11の出射端面11bの反射率が1.0%、光ファイバ1の端面1aの反射率が3.4%の場合のデータを示している。
【0080】
図12から分かるように、駆動電流Iopの増大に伴う中心波長λcの変動Δλcを駆動電流Iopの変化量ΔIopで規格化した値は、200mA≦Iop≦800mAの範囲において、本実施形態の外部共振器型半導体レーザ10(○)についてはΔλc/ΔIop=−0.009nm/mA、ゲインチップ11単体(●)についてはΔλc/ΔIop=0.021nm/mAとなった。
【0081】
即ち、本実施形態の外部共振器型半導体レーザ10は、光反射器として機能するエタロン3を有することにより、ゲインチップ11単体と比較して中心波長λcを安定化することができる。
【0082】
次に、以上のように構成された外部共振器型半導体レーザ10の動作を説明する。
ゲインチップ11に駆動電流が供給されると活性層110において光が発生する。活性層110において発生した光は、ゲインチップ11の出射端面11bから出射されて光ファイバ1の端面1aに入射される。
【0083】
光ファイバ1の端面1aに入射された光のうち、特定の中心波長λcの光がエタロン3の端面(出射端面11b、端面1a)で選択的に繰り返し反射された後に、再びゲインチップ11に戻り、ゲインチップ11の後方端面11aにおいて反射される。
【0084】
ゲインチップ11の後方端面11aと光ファイバ1との間で光反射が繰り返されると、特定の中心波長λcでレーザ発振が生じる。このようにして生じたレーザ光は光ファイバ1を介してコネクタ15に到達する。なお、この中心波長λcのレーザ光は、複数の縦モードの波長成分を含んでいる。
【0085】
既に述べたように、間隔Δを変化させることによってエタロン3の反射特性は変化するため、ゲインチップ11の後方端面11aと光ファイバ1の端面1aとの間で光反射が繰り返されることによって得られる、外部共振器型半導体レーザ10から出射されるレーザ光のスペクトル特性(発振波長)も間隔Δに応じて変化する。即ち、間隔Δを調整することによって、所望の発振波長のレーザ光を外部共振器型半導体レーザ10から出射させることができる。
【0086】
また、既に述べたように、間隔Δが広すぎる(FSRおよび半値幅が狭すぎる)と複数の中心波長でレーザ発振が起こりやすくなる。間隔Δが20〜30μm程度であると、ゲインチップ11の温度が例えば70℃程度の高温においてTEC13による制御なしでも単一の中心波長を持つレーザ光を得られるため好ましい。
【0087】
以上説明したように、本実施形態の外部共振器型半導体レーザは、ゲインチップの出射端面と光ファイバの端面との間にエタロンが形成されるため、間隔Δを調整することにより、所望の中心波長のレーザ光を出射することができる。
【0088】
また、本実施形態の外部共振器型半導体レーザは、ゲインチップの出射端面と光ファイバの端面との間にエタロンが形成されるため、ゲインチップに対する駆動電流の増大に伴う中心波長の変動を抑制することができる。
【0089】
また、本実施形態の外部共振器型半導体レーザは、ゲインチップと光ファイバとの間にレンズを必要としない簡単な構造を有しているため、安価でかつ簡易に製造することができる。
【0090】
(第2の実施形態)
次に、本発明に関する第2の実施形態のラマン増幅器について図13、図14を用いて説明する。図13は第1の実施形態の外部共振器型半導体レーザを励起光用光源として用いたラマン増幅器50のブロック図を示している。ここでは、励起光波長(励起光の中心波長)として2つの波長λ1、λ2を用いた例を説明する。
【0091】
ラマン増幅器50は、偏波面が互いに異なる波長λ1の励起光をそれぞれ出射する2つの外部共振器型半導体レーザ10A、10Bと、偏波面が互いに異なる波長λ2の励起光をそれぞれ出射する2つの外部共振器型半導体レーザ10C、10Dと、外部共振器型半導体レーザ10A〜10Dからの出射光が励起光として入射され、誘導ラマン増幅により信号光を増幅する増幅用光ファイバ51と、を備えている。
【0092】
さらに、ラマン増幅器50は、外部共振器型半導体レーザ10A、10Bからの出射光を偏波合成する偏波合成カプラ52と、外部共振器型半導体レーザ10C、10Dからの出射光を偏波合成する偏波合成カプラ53と、偏波合成カプラ52、53からの出力光を合波するWDMカプラ54と、増幅用光ファイバ51で増幅された信号光とWDMカプラ54からの出力光を合波するWDMカプラ55と、を備えている。
【0093】
外部共振器型半導体レーザ10A、10Bは、ゲインチップ11A、11Bおよび偏波保持ファイバである光ファイバ1A、1Bを有し、偏波面が互いに異なる中心波長λ1の励起光をコネクタ(図13においては図示せず)を介してそれぞれ出射する。
【0094】
また、外部共振器型半導体レーザ10C、10Dは、ゲインチップ11C、11Dおよび偏波保持ファイバである光ファイバ1C、1Dを有し、偏波面が互いに異なる中心波長λ2の励起光をコネクタ(図13においては図示せず)を介してそれぞれ出射する。
【0095】
外部共振器型半導体レーザ10A〜10Dで発生された励起光は、その中心波長λ1、λ2毎に偏波合成カプラ52、53で偏波合成され、各偏波合成カプラ52、53の出力光がWDMカプラ54で合波され、WDMカプラ54および増幅用光ファイバ51と結合されたWDMカプラ55を介して増幅用光ファイバ51に入射される。
【0096】
なお、これらの中心波長λ1、λ2の励起光は、第1の実施形態で述べたように複数の縦モードの波長成分を含んでいる。これにより、増幅用光ファイバ51における誘導ブリルアン散乱が抑制され、信号光を長距離にわたってファイバ伝送させることが可能となる。
【0097】
図14は、励起光波長λ1、λ2と利得との関係を模式的に示すグラフである。増幅用光ファイバ51に入射された励起光により、増幅用光ファイバ51において誘導ラマン散乱が生じ、図14に示すように、励起光波長λ1、λ2から100nm程度長波長側に利得gが生じる。この状態で増幅用光ファイバ51に信号光が入射されると、増幅用光ファイバ51中に生じた利得gによって信号光が増幅される。
【0098】
なお、本実施形態のように、複数の励起光波長λ1〜λn(λ1<...<λn)(n≧2)を用いる構成にあっては、最小の励起光波長λ1と最大の励起光波長λnとの波長差を100nm以内とすることが好ましい。これは、励起光と信号光とが重複することによる信号光の波形劣化を防止するためである。
【0099】
以上説明したように、本実施形態のラマン増幅器は、第1の実施形態の外部共振器型半導体レーザを備えるため、ラマン増幅の利得特性の安定化、広帯域化および平坦化を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のように、本発明に係る外部共振器型半導体レーザとそれを用いたラマン増幅器は、ゲインチップの出射端面と光ファイバの端面との間にエタロンが形成されるため、安定した発振波長のレーザ光を出射できるとともに、より安価でかつ簡単に製造することができるという効果を有し、WDM通信用の光増幅器として有用である。
【符号の説明】
【0101】
1、1A、1B、1C、1D 光ファイバ
1a 端面
3 エタロン
10、10A、10B、10C、10D 外部共振器型半導体レーザ
11、11A、11B、11C、11D ゲインチップ
11a 後方端面
11b 出射端面
15 コネクタ
50 ラマン増幅器
51 増幅用光ファイバ
110 活性層
110a 井戸層
110b 障壁層
111 半導体基板
112 n型クラッド層
117 p型クラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
劈開によって形成された後方端面(11a)および出射端面(11b)と、該後方端面から該出射端面にかけて設けられ、駆動電流が供給されることによって光を発生させる活性層(110)とを有し、該活性層において発生した光を該出射端面から出射するゲインチップ(11、11A、11B、11C、11D)と、
前記出射端面と光軸方向に所定間隔を設けて対向する端面(1a)を有して前記ゲインチップと直接光結合された光ファイバ(1、1A、1B、1C、1D)と、を備え、
前記後方端面と前記端面との間に光共振器が形成されることを特徴とする外部共振器型半導体レーザ。
【請求項2】
前記出射端面に低反射膜が形成されており、前記後方端面に高反射膜が形成されている請求項1に記載の外部共振器型半導体レーザ。
【請求項3】
前記光ファイバは、シングルモードファイバまたは偏波保持ファイバである請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の外部共振器型半導体レーザ。
【請求項4】
前記ゲインチップが、InPからなる半導体基板(111)と、該半導体基板上に前記活性層を挟んで形成されるn型クラッド層(112)およびInPからなるp型クラッド層(117)と、をさらに有し、
前記活性層が多重量子井戸構造を含み、
前記n型クラッド層がInGaAsPで構成され、かつ前記活性層の幅が7〜14μmであり、横高次モードが発生することなく基本横モードのみで発振する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の外部共振器型半導体レーザ。
【請求項5】
前記n型クラッド層を構成するInGaAsPの組成波長が0.98μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の外部共振器型半導体レーザ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の外部共振器型半導体レーザ(10、10A、10B、10C、10D)と、
前記光ファイバの前記ゲインチップと対向する端面と反対側の端面から出射されたレーザ光が励起光として入射され、誘導ラマン増幅を生じさせる増幅用光ファイバ(51)と、を備えたラマン増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−108682(P2011−108682A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258956(P2009−258956)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】