説明

多孔質体表面のめっき方法

【課題】多孔質体内部におけるめっき皮膜の形成を抑制しつつ、多孔質体の表面をめっきする。
【解決手段】板状多孔質体の表面にめっき被膜を形成する多孔質体のめっき方法は、板状多孔質体10が有する細孔により板状多孔質体10の表面に形成される開口部を塞ぐように、板状多孔質体10の一方の面上にマスク12を配置する第1の工程(B)と、一方の面にマスク12を配置した多孔質体10を、めっき浴に浸漬してめっき処理する第2の工程(C)と、めっき処理した多孔質体10から、マスク12を除去する第3の工程(D)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多孔質体表面のめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面にめっきを施した多孔質部材の一例として、燃料電池の内部において、電解質膜表面に形成された電極上に配置される金属多孔質体が知られている。電極上に配置されることによって、金属多孔質体は、燃料電池内部における集電性を確保すると共に、電極に対して給排されるガスの流路を形成する。このような金属多孔質体が、燃料電池内部の環境下において次第に酸化すると、隣り合う部材との間の接触抵抗が増大し、電池性能が低下する可能性があった。そのため、上記のような金属多孔質体においては、その表面にめっき処理を施して、酸化防止が図られていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−164947
【特許文献2】特開2001−131756
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属多孔質体をそのままめっき浴中に浸漬した場合には、めっきする必要のない多孔質体内部の細孔表面までがめっきされてしまう。そのため、多孔質体内部のめっきを抑制可能なめっき方法が望まれていた。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、多孔質体内部におけるめっき皮膜の形成を抑制しつつ、多孔質体の表面をめっきすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様としての多孔質体のめっき方法は、板状多孔質体の表面にめっき被膜を形成する多孔質体のめっき方法であって、
前記板状多孔質体が有する細孔により前記板状多孔質体の表面に形成される開口部を塞ぐように、前記板状多孔質体の一方の面上にマスクを配置する第1の工程と、
前記一方の面にマスクを配置した前記板状多孔質体を、めっき浴に浸漬してめっき処理する第2の工程と、
前記めっき処理した前記板状多孔質体から、前記マスクを除去する第3の工程と
を備える。
【0007】
以上のように構成された本発明の第1の態様としての多孔質体のめっき方法によれば、板状多孔質体の一方の面において、板状多孔質体の細孔の開口部を塞ぐようにマスクを配置することにより、板状多孔質体の他方の面から内部へのめっき液の浸入や、板状多孔質体内におけるめっき液の流通を抑制することができる。これにより、マスクの配置という簡便な方法により、板状多孔質体内部におけるめっき被膜の形成を抑制しつつ、板状多孔質体の他方の面側の外表面においてめっき被膜を形成させることができる。
【0008】
本発明の第2の態様としての多孔質体のめっき方法は、板状多孔質体の表面にめっき被膜を形成する多孔質体のめっき方法であって、
前記板状多孔質体が有する細孔により前記板状多孔質体の表面に形成される開口部の径よりも小さい径を有する複数の孔が形成されたマスクを、前記開口部を覆うように前記板状多孔質体の少なくとも一方の面上に配置する第1の工程と、
前記マスクを接着させた前記板状多孔質体を、めっき浴に浸漬してめっき処理する第2の工程と、
前記めっき処理した前記板状多孔質体から、前記マスクを除去する第3の工程と
を備える。
【0009】
以上のように構成された本発明の第2の態様としての多孔質体のめっき方法によれば、板状多孔質体の少なくとも一方の面において、板状多孔質体の細孔の開口部の径よりも小さい径を有する複数の孔が形成されたマスクを配置することにより、マスクを介した板状多孔質体内部へのめっき液の浸入や、板状多孔質体内におけるめっき液の流通を抑制することができる。また、マスクが配置された板状多孔質体の表面においては、マスクに形成された孔を介して、めっき浴中でめっき被膜を形成することができる。これにより、マスクを配置するという簡便な方法により、板状多孔質体内部におけるめっき被膜の形成を抑制しつつ、板状多孔質体の両面の外表面においてめっき被膜を形成させることができる。
【0010】
本発明の第1または第2の態様としての多孔質体のめっき方法において、前記細孔は、前記板状多孔質体内における前記一方の面から他方の面へと、3次元的に連続して形成されていることとしても良い。このような構成とすれば、板状多孔質体の表面にマスクを配置することで、3次元的に連続して形成される細孔内へのめっき液の流入および流通が抑制される。したがって、3次元的に連続して形成される細孔の内表面全体で、めっき被膜の形成が抑制される。
【0011】
また、本発明の第1または第2の態様としての多孔質体のめっき方法において、前記板状多孔質体は、金属材料によって構成され、前記めっき処理は、貴金属めっきを施す処理であることとしても良い。このような構成とすれば、金属製の板状多孔質体において、内部におけるめっき被膜の形成を抑制しつつ、外表面において、貴金属からなるめっき被膜を形成することができる。
【0012】
このような多孔質体のめっき方法において、前記板状多孔質体は、チタンによって構成され、前記めっき処理は、金めっきを施す処理であることとしても良い。このような構成とすれば、全体として高い耐食性を有すると共に、隣接する部材との間の接触抵抗を低く維持することが可能な多孔質体を得ることができる。
【0013】
本発明の第3の態様としての多孔質体のめっき方法は、多孔質体の表面にめっき被膜を形成する多孔質体のめっき方法であって、
前記多孔質体が有する細孔により前記多孔質体の表面に形成される開口部の径よりも小さい径を有する複数の孔が形成されたマスクを、前記開口部を覆うように前記多孔質体の外表面上に配置する第1の工程と、
前記マスクを接着させた前記多孔質体を、めっき浴に浸漬してめっき処理する第2の工程と、
前記めっき処理した前記多孔質体から、前記マスクを除去する第3の工程と
を備える。
【0014】
以上のように構成された本発明の第3の態様としての多孔質体のめっき方法によれば、多孔質体の外表面上において、多孔質体の細孔の開口部の径よりも小さい径を有する複数の孔が形成されたマスクを配置することにより、マスクを介した多孔質体内部へのめっき液の浸入や、多孔質体内におけるめっき液の流通を抑制することができる。また、マスクが配置された多孔質体の表面においては、マスクに形成された孔を介して、めっき浴中でめっき被膜を形成することができる。これにより、マスクを配置するという簡便な方法により、多孔質体内部におけるめっき被膜の形成を抑制しつつ、多孔質体の両面の表面においてめっき被膜を形成させることができる。
【0015】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、本発明の多孔質体のめっき方法によりめっき処理された多孔質体や、このような多孔質体を備える燃料電池などの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
A.第1実施例:
図1は、本実施例の多孔質体のめっき方法を表わす工程図である。また、図2は、本実施例の多孔質体のめっき方法における途中の工程の様子を表わす説明図である。本実施例では、めっきを施す基材として、板状多孔質体を用いている。多孔質体をめっきするには、まず、めっきすべき板状多孔質体を用意して、用意した板状多孔質体の一方の面をマスキングする(ステップS100)。図2(A)は、板状の多孔質体10を用意した様子を表わし、図2(B)は、多孔質体10の一方の面をマスク12でマスキングした様子を表わす。ここで、板状多孔質体としては、用途に応じて、金属などの導電性材料からなる多孔質体や、セラミックス製の多孔質体、あるいは、樹脂製の多孔質体など、種々のものを選択可能である。多孔質体のマスキングに用いるマスクとしては、多孔質体に対する接着性を充分に確保可能であり、後述するめっき浴中で安定であり、めっき処理の工程の後に多孔質体を損なうことなく多孔質体表面から除去することが可能であればよい。例えば、緻密な樹脂フィルムをマスクとして用いて、このようなマスクを多孔質体の一方の面に接着させればよい。あるいは、パターニングを行なわないDFR(ドライフィルムレジスト)を用いることとしても良い。ここで、板状多孔質体は、一方の面から他方の面へと3次元的に連続して形成されている細孔が内部に形成されており、一方の面をマスキングすることにより、一方の面において開口する上記細孔の開口部が、マスクによって塞がれる。
【0017】
次に、マスキングした多孔質体に対して、必要に応じて前処理を施す(ステップS110)。前処理は、めっき処理に先立って行なわれる処理であり、例えば、脱脂の工程および脱脂後に行なう水洗の工程、あるいは、多孔質体表面に形成された被膜の除去の工程を含むことができる。
【0018】
その後、マスキングした多孔質体をめっき浴に浸漬して、めっき処理を行なう(ステップS120)。めっき処理は、例えば無電解めっきとすることができる。また、めっきを施す多孔質体が、金属多孔質体などの導電性多孔質体である場合には、電解めっきを行なうことも可能である。ただし、多孔質体のように複雑な形状のものをめっきする場合に、めっき厚をより均一にするためには、無電解めっきを行なうことが望ましい。図2(C)は、多孔質体10上にめっき被膜14が形成された様子を表わす。一方の面をマスキングした多孔質体10をめっき浴に浸漬することにより、多孔質体10の他方の面にめっき被膜14が形成される。
【0019】
図3は、板状多孔質体をめっき浴に浸漬したときの様子を表わす説明図である。図3(A)は、本実施例のように、一方の面をマスキングした多孔質体をめっき浴に浸漬した様子を表わし、図3(B)は、マスキングしていない多孔質体をめっき浴に浸漬した様子を表わす。図中、めっき浴におけるめっき液の流れを、矢印で模式的に示している。マスキングを行なわない場合には、図3(B)に示すように、めっき液は多孔質体の表面および内部に形成された細孔内を流れるため、多孔質体の外表面および内部の細孔の表面にめっき被膜が形成される。これに対して、本実施例のように多孔質体の一方の面をマスキングする場合には、細孔内へのめっき液の浸入が抑制されて、多孔質体内部におけるめっき液の流通が抑制される。そのため、多孔質体内の細孔においては、めっき液が流通することによるめっき液の入れ替えが行なわれないため、めっき液がめっき被膜の形成のために用いられて濃度が低下した後には、細孔表面におけるめっき被膜の形成が抑制される。その結果、多孔質体においては、細孔表面におけるめっき被膜の形成が抑制されつつ、マスクで覆われていない多孔質体の外表面において、優先的にめっき被膜が形成される。なお、マスキングを行なった多孔質体をめっきする場合において、多孔質体の内部に、前処理において用いた液(例えば、水洗に用いた水)が残留している場合には、多孔質体内部へのめっき液の浸入がさらに抑えられて、内部におけるめっき被膜の形成を抑制する効果が高まる。
【0020】
めっき処理の後に、多孔質体からマスクを除去することにより(ステップS130)、上記他方の面がめっきされた多孔質体が完成する。図2(D)は、めっき被膜14が形成された後にマスク12が除去された多孔質体10の様子を表わす。マスクを除去する方法は、マスクの構成材料に応じて適宜選択可能であり、ウエット工程により行なっても良く、また、ドライ工程により行なっても良い。なお、ステップS130におけるマスクの除去の前、あるいは後に、必要に応じて適宜、洗浄や乾燥などの後処理を行なえば良い。
【0021】
以上のように構成された本実施例の多孔質体のめっき方法によれば、マスキングという簡便な方法により、容易に、多孔質体内部におけるめっき被膜の形成を抑制しつつ、多孔質体の外表面においてめっき被膜を形成させることができる。多孔質体内部におけるめっき被膜の形成を抑制しつつ、外表面にめっき皮膜を形成される方法としては、例えば、めっき処理に先立って、予め多孔質の細孔内に充填材を充填しておき、めっき処理後に充填材を除去する構成も考えられる。しかしながら、このような場合には、工程が複雑化してしまい、量産化の妨げとなる場合がある。これに対して本実施例では、多孔質体の表面をマスキングし、また、表面からマスクを除去するだけで良いため、製造工程を簡素化することができ、量産化も容易となる。
【0022】
なお、本実施例のように多孔質体の一方の表面をマスキングする場合には、多孔質体内部の細孔でめっき液の流通が抑制されるだけでなく、多孔質体のマスキングしていない側の表面上においても、めっき液の流通が抑えられて、めっき被膜形成のために濃度が低下しためっき液の置換が抑制された状態となる。その結果、めっき速度が比較的低下するため、より薄いめっき被膜を形成しようとする場合には、めっき被膜の膜厚を、より容易に精度良く調節可能になる。
【0023】
上記した実施例では、板状多孔質体の片面に対してめっき処理を行なったが、両面にめっき被膜を形成するために、本実施例の多孔質体のめっき方法を適用しても良い。この場合には、図1に示したマスキングを伴うめっきの工程を、それぞれの面について繰り返し行なえばよい。なお、めっき処理の対象となる多孔質体は、必ずしも表面が平坦面である板状多孔質体を用いる必要はなく、例えば、表面に凹凸形状が形成されていても良い。一方の側をマスキングした場合に他方の面から内部へのめっき液の浸入が抑えられるように、多孔質体内の細孔径および気孔率に応じて充分に薄く形成されていればよい。
【0024】
B.第2実施例:
第1実施例では、緻密なマスクを用いて多孔質体の一方の面をマスキングすることで、他方の面にめっき被膜を形成したが、多孔質体のマスキングを伴う一度のめっき工程により、多孔質体の両方の面にめっき被膜を形成することも可能である。このような構成を第2実施例として以下に説明する。図4は、第2実施例の多孔質体のめっき方法を表わす工程図である。第2実施例の多孔質体のめっき方法では、まず、第1実施例と同様に板状多孔質体を用意して、用意した板状多孔質体の両方の面をマスキングする(ステップS200)。ここで、ステップS200においてマスキングに用いるマスクは、第1実施例のように緻密なマスクではなく、複数の微細な細孔が形成されている。図5は、ステップS200で用いるマスクの一例として、一定の間隔で孔116が形成されたマスク112の構成を表わす平面図である。
【0025】
ここで、第2実施例で用いるマスクに設けられた孔は、その孔の径が、多孔質体に形成された細孔が多孔質体表面で開口する開口部の径よりも小さくなるように形成されている。このように、マスクの孔の径を、上記開口部の径よりも小さくするには、マスクの径を、多孔質体における平均細孔径よりも小さくすることが望ましく、例えば、多孔質体における平均細孔径に対して10分の1以下とすることがさらに望ましい。図6は、ステップS200において、細孔124が形成された多孔質体110の表面を、孔116を有するマスク112でマスキングしたときの、多孔質体110における一方の表面近傍の様子を表わす断面模式図である。既述したように、多孔質体110内に形成された細孔124の径よりもマスク112の孔116の径の方が小さいため、多孔質体110の表面における細孔の開口部122は、マスキングされた後も完全に塞がれているわけではなく、多孔質体内の細孔124は、マスク112の孔116を介して外部と連通した状態を保つ。また、多孔質体表面における上記開口部122以外の部分、すなわち、多孔質体110の外表面を形成する外表部120もまた、マスキングされた後も完全に覆われているわけではなく、マスク112の孔116に対応する領域は、外部に露出している。
【0026】
ステップS200で用意する板状多孔質体としては、第1実施例と同様に、種々のものを選択可能である。また、多孔質体のマスキングに用いるマスクは、第1実施例と同様に、多孔質体に対する接着性を充分に確保可能であり、後述するめっき浴中で安定であり、めっき処理の工程の後に多孔質体を損なうことなく多孔質体表面から除去することが可能であればよい。このような性質を有すると共に、既述した複数の微細な孔を設けることができるマスクとしては、例えば、DFR(ドライフィルムレジスト)を用いることができる。
【0027】
ステップS200で多孔質体の両面をマスキングした後は、第1実施例のステップS110〜S130と同様に、前処理(ステップS210)、およびめっき浴への浸漬(ステップS220)を行なう。ここで、ステップS220において、図6に示したマスキングした多孔質体110をめっき浴に浸漬すると、多孔質体内部の細孔124に対しては、マスク112の孔116を介してめっき液が浸入する。しかしながら、既述したようにマスク112の孔116の径は、多孔質体110の細孔124の径よりも小さいため、マスク112によって細孔内へのめっき液の浸入が阻害されて、多孔質体内におけるめっき液の流通が抑制される。そのため、多孔質体内部の細孔表面におけるめっき被膜の形成が抑制される。また、ステップS220において多孔質体110をめっき浴に浸漬したときには、多孔質体110の外表面を形成する外表部120においては、マスク112の孔116を介して外部に露出している領域のみに、めっき皮膜が形成される。
【0028】
ステップS220の後には、多孔質体からマスクの除去(ステップS230)を行なうことにより、被めっき多孔質体が完成する。マスクを除去する方法は、第1実施例と同様に、マスクの構成材料に応じて適宜選択可能である。例えば、マスクをDFRによって構成する場合には、用いたDFRに応じた剥離液を用いてマスクの除去を行なえばよい。また、ステップS230におけるマスクの除去の前、あるいは後に、必要に応じて適宜、洗浄や乾燥などの後処理を行なえば良い。
【0029】
以上のように構成された第2実施例の多孔質体のめっき方法によれば、多孔質体の表面をマスキングしてめっき処理を行なうことで、第1実施例と同様に、多孔質体内部へのめっき液の浸入を抑制して多孔質体内部におけるめっき被膜の形成を抑えつつ、多孔質体の外表面のめっきを行なうことができる。このとき、多孔質体が備える細孔の径よりも径の小さい複数の孔を有するマスクを用いて多孔質体の両面をマスキングするため、第1実施例のようにマスキングとめっきの工程を面ごとに繰り返すことなく、一度の工程で、多孔質体の両面にめっき被膜を形成することができる。したがって、多孔質体表面において多孔質体内部よりも優先的にめっき被膜を形成しようとする際に、必ずしも多孔質体の外表面全体を隙間無く覆うようにめっき被膜を形成する必要のない場合には、多孔質体の両面をめっきする際の製造工程を簡素化することができる。
【0030】
なお、板状多孔質体においては、その厚みをより薄くしようとする場合に、強度を確保するには、細孔径をより小さくする必要がある。そのため、多孔質体における細孔径および気孔率は、多孔質体の用途に応じて適宜選択すればよい。また、マスクの孔を小さくするほど、多孔質体の細孔内への液の浸入を抑制する働きが強まるため、多孔質体の細孔表面におけるめっき被膜形成を抑えることができる。さらに、多孔質体の外表面を形成する外表部においては、既述したように、マスクの孔に対応する領域にめっき被膜が形成されるため、マスクの孔の径、および孔と孔の間隔により定まるマスクの開口率によって、めっき被膜が形成される面積の比率が定まる。そのため、多孔質体表面におけるめっき被膜を形成したい形状に応じて、マスクの孔のパターンを適宜設定すればよい。
【0031】
第2実施例では、板状多孔質体の両面を、複数の孔を有するマスクでマスキングすることにより、一度のめっき工程で多孔質体の両面をめっきしたが、このようなマスキングは、多孔質体の一方の面のみに行なっても良い。すなわち、板状多孔質体の一方の面のみに、第2実施例と同様に複数の孔を有するマスクを用いてマスキングを行なっても良い。このような構成とすれば、多孔質体の細孔の開口部の径よりも径の小さい孔を有するマスクを一方の面上に配置することにより、他方の面からの多孔質体内へのめっき液の浸入が抑えられ、多孔質体内部におけるめっき被膜の形成を抑制することができる。また、上記一方の面の外表面では、マスクの孔に対応する位置にめっき被膜が形成されると共に、他方の面の外表面では、全体にめっき被膜が形成され、一度のめっき工程により板状多孔質体の両面にめっき被膜を形成することができる。
【0032】
また、第2実施例のように多孔質体の細孔の開口部の径よりも径の小さい孔を有するマスクを用いためっき処理は、板状以外の形状の多孔質体に対して行なうことも可能である。例えば、多孔質体の表面全体を、第2実施例のような複数の孔を有するマスクを用いてマスキングしてめっき処理するならば、どのような形状の多孔質体であっても、内部におけるめっき被膜の形成を抑制しつつ、多孔質体の外表面において、マスクの孔に対応する位置にめっき被膜を形成することができる。
【0033】
C.多孔質体の適用例:
第1あるいは第2実施例の多孔質体のめっき方法によりめっき被膜を形成した板状多孔質体を適用した一例として、燃料電池におけるガス流路形成部材として多孔質体を用いる構成を以下に説明する。図7は、このような燃料電池の一例としての固体高分子型燃料電池の概略構成を表わす断面模式図である。ここでは、燃料電池の構成単位である単セル200を示しており、燃料電池は、単セル200を複数積層したスタック構造を有している。単セル200は、電解質を含むMEA(膜−電極接合体、Membrane Electrode Assembly)232と、MEA232を両側から挟持してサンドイッチ構造を形成するガス拡散層236,237と、このサンドイッチ構造をさらに両側から挟持するガス流路形成部242,243と、各々のガス流路形成部242,243上に配置されるセパレータ244,245とを、順次積層することによって形成されている。
【0034】
MEA232は、電解質膜233と、電解質膜233を間に挟んでその表面に形成された電極であるアノード234およびカソード235を備えている。電解質膜233は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード234およびカソード235は、電気化学反応を促進する触媒、例えば、白金、あるいは白金と他の金属から成る合金を備えている。
【0035】
ガス拡散層236,237は、ガス透過性および導電性を有する部材、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパによって構成されている。ガス拡散層236,237を設けることによって、電極に対するガス供給効率を向上させると共に、セパレータ244,245と電極との間の集電性を高めることができ、さらに電解質膜233を保護することができる。
【0036】
ガス流路形成部242,243は、平板状の導電性多孔質体によって構成されており、このガス流路形成部242,243が備える細孔が形成する空間によって、ガス流路が形成されている。具体的には、ガス流路形成部242が備える細孔が形成する空間は、アノードに供給される水素を含有する燃料ガスが流れるセル内燃料ガス流路を形成し、ガス流路形成部243が備える細孔が形成する空間は、カソードに供給される酸素を含有する酸化ガスが流れるセル内酸化ガス流路を形成する。このようなガス流路形成部242,243として、第1あるいは第2実施例の多孔質体のめっき方法によりめっき処理が施された多孔質体が用いられる。
【0037】
ガス流路形成部242,243として用いられる多孔質体は、金属材料、例えば、チタン、ステンレス鋼(SUS)、あるいはニッケルによって形成することができる。このような多孔質体に施すめっき処理としては、例えば、金めっきなどの貴金属めっきとすることができる。ここで、ガス流路形成部242,243として用いられる多孔質体は、例えば、細孔径を50〜100μmとして、気孔率を80〜90%とすることができる。このような多孔質体を第2実施例の多孔質体のめっき方法によりめっき処理する場合には、用いるマスクに設けられる孔の径は50μm以下とすることが望ましく、10μm以下とすることがさらに望ましい。また、このとき、マスクに設けられる孔同士の間隔は、例えば、5〜10μm程度とすればよい。
【0038】
セパレータ244,245は、カーボンや金属などの導電性材料で形成されたガス不透過な薄板状部材であり、それぞれ、既述したセル内燃料ガス流路あるいはセル内酸化ガス流路の壁面の一部を構成する。
【0039】
このように、ガス流路形成部242,243を作製するために、第1あるいは第2実施例の多孔質体のめっき方法を用いるならば、ガス流路形成部として用いる多孔質体の表面を、貴金属により容易にめっきすることができる。これにより、ガス流路形成部242,243と、隣接する部材(電極あるいはセパレータ)との間の接触抵抗の増大を抑制することができる。また、このとき、めっき被膜の形成が不要なガス流路形成部242,243の内部については、めっき被膜の形成を容易に抑制することができる。
【0040】
ここで、ガス流路形成部242,243のような燃料電池の構成部材として、金属多孔質体を用いようとすると、燃料電池の内部環境下において多孔質体の腐食が進行する場合がある。既述したチタン、ステンレス鋼、ニッケル等の金属は、その表面に安定な酸化被膜が形成されるため、これらの金属からなる多孔質体は耐食性に優れているが、上記酸化被膜は一般に導電性が低く、また、燃料電池の内部環境下において酸化被膜はさらに厚くなるため、金属多孔質体と隣接部材との間の接触抵抗が増大してしまう。実施例のめっき方法を適用して、既述した金属製の多孔質体を貴金属によりめっきするならば、多孔質体内部の耐食性は、多孔質体表面に形成される酸化被膜により確保しつつ、多孔質体と隣接部材との間の接触抵抗は、貴金属めっきによって安定して抑制することができる。
【0041】
なお、第2実施例の多孔質体のめっき方法を用いる場合には、多孔質体において、隣接部材と接触する外表面の全体にめっき被膜が形成されるわけではなく、マスクに覆われていた部分にはめっき被膜が形成されない。しかしながら、マスクの孔を介して外部に露出していた領域にはめっき被膜が形成されるため、このようなめっき被膜が形成された領域では隣接部材との間の接触抵抗が抑えられ、めっき被膜が形成された領域によって導電性が確保される。
【0042】
図7に基づく上記説明では、実施例の多孔質体のめっき方法によりめっき処理した多孔質体は、ガス流路形成部242,243として用いることとしたが、異なる構成としても良い。例えば、ガス流路形成部とガス拡散層を一体化して、このように一体化した多孔質体の表面をめっきするために、実施例の多孔質体のめっき方法を用いても良い。
【0043】
D.めっき状態の確認:
第1実施例の多孔質体のめっき方法によりめっき処理を行なった結果を以下に示す。ここでは、チタンによって構成される多孔質体に対して金めっきを施しており、条件を変えてめっき処理を行なった実験例1,2および比較例1,2について結果を比較した。実験例1および比較例1では、平均細孔径50μm、気孔率74%、厚み200μmの多孔質体を用い、実験例2および比較例2では、平均細孔径50μm、気孔率78%、厚み300μmの多孔質体を用いた。また、実験例1,2は、多孔質体の一方の面を、パターニングを行なっていないDFRによってマスキングした上でめっき処理を行なった。これに対して比較例1,2は、マスキングを行なうことなく、多孔質体をそのままめっき浴中に浸漬してめっき処理を行なった。また、比較例1,2は、表面におけるめっき被膜が1μmとなるまでめっき処理を行なったものであり、実験例1,2は、比較例1,2と同じ処理時間でめっき処理を行なったものである。ここで、めっき被膜の膜厚は、蛍光X線の原子吸光により測定した。
【0044】
実験例1および比較例1に対して行なった処理についてのより詳しい条件を、表1に示す。表1中、工程1のマスキング、および、工程10のマスク除去は、実験例1のみで行なった工程である。また、工程3の脱脂は、比較例1のみで行なった工程であり、工程4の脱脂は、実験例1のみで行なった工程である。実験例2および比較例2に係る処理条件は、それぞれ、上記実験例1あるいは比較例1に係る処理条件と同様である。
【0045】
【表1】

【0046】
上記のようにめっき処理を行なった後に、各多孔質体の断面を、走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。実験例1および比較例1の多孔質体についてSEMで観察した像を、図8(A)に示す。また、めっき処理後の各多孔質体の断面について、特性X線を用いた元素分析により、各元素をマッピングした。実験例1および比較例1の多孔質体における図8(A)と同様の断面について、多孔質体を構成するチタン(Ti)のマッピングを行なった結果を図8(B)に示し、めっき皮膜を構成する金(Au)のマッピングを行なった結果を図8(C)に示す。
【0047】
図8(B)に示すように、多孔質体内部およびマスク面側においては、片面めっきを行なった実験例1では、両面めっきを行なった比較例1よりも、Tiの分布量が多かった。また、図8(C)に示すように、片面めっきを行なった実施例1の多孔質体内部では、めっき面側からマスク面側へとAuの分布量が減少しているのに対し、両面めっきを行なった比較例1の多孔質体では、表面から内部まで、ほぼ一様にAuが分布していた。以上の結果より、片面めっきを行なった実験例1では、多孔質体内部におけるめっき被膜の形成が抑えられていることが確認された。
【0048】
また、上記のようにめっき処理を行なった各多孔質体について、めっき被膜を溶解させて、溶解させためっき被膜の重量(Au析出重量)を、原子吸光分析装置により測定した。図9は、実施例1,2および比較例1,2の多孔質体について、見掛面積1cm2当たりの多孔質体全体における(多孔質体の内部も含めた)Au析出重量を示す説明図である。ここで、既述したように、比較例1および比較例2は、いずれも、膜厚が1μmとなるようにめっき被膜を形成させたものであり、実験例1および実験例2は、それぞれ、比較例1および比較例2と同じ時間めっき処理を行なったものである。
【0049】
なお、多孔質体の片面をマスキングした場合には、既述したように、多孔質体内部の細孔でめっき液の流通が抑制されるだけでなく、多孔質体のマスキングしていない側の表面上においても、めっき液の流通が抑えられて、めっき被膜形成のために濃度が低下しためっき液の置換が抑制された状態となる。その結果、マスキングを行なうとめっき速度が低下してしまうため、比較例1,2と同じ時間めっき処理を行なっても、実験例1,2では、比較例1,2のめっき被膜の膜厚(1μm)よりもめっき被膜の膜厚が薄くなる。そのため、図9では、実験例1,2について、Au析出重量の実測値と共に、めっき被膜の膜厚を比較例1,2と同じになるように補正した補正値も示している。具体的には、実験例1,2についてめっき被膜の膜厚を測定し、比較例1,2におけるめっき被膜の膜厚に対する比を求め、これを比較例1,2のAu析出重量の実測値に乗じて、膜厚補正分とした。すなわち、膜厚補正分は、比較例と同じ膜厚になるまでめっき処理を行なったときのAu析出重量の予想値であり、この膜厚補正分と、比較例1,2におけるAu析出重量との差分が、マスキングを行なうことにより減少した多孔質体内部でのAu析出重量と考えられる。
【0050】
図9に示すように、Au析出重量の測定の結果、多孔質体の膜厚が0.2mmであっても、0.3mmであっても、片面をマスキングしてめっき処理を行な場合には、マスキングを行なわずにめっき処理する場合に比べて、4割程度Au析出重量が減少した。以上の結果より、多孔質体表面をマスキングしてめっき処理を行なうことにより、多孔質体内部におけるめっき被膜の形成が抑えられることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】第1実施例の多孔質体のめっき方法を表わす工程図である。
【図2】多孔質体のめっき方法における途中の工程の様子を表わす説明図である。
【図3】板状多孔質体をめっきする様子を表わす説明図である。
【図4】第2実施例の多孔質体のめっき方法を表わす工程図である。
【図5】マスク112の構成を表わす平面図である。
【図6】マスキングした多孔質体110の表面近傍の様子を表わす断面模式図である。
【図7】固体高分子型燃料電池の概略構成を表わす断面模式図である。
【図8】めっき処理した多孔質体の断面を観察した様子を表わす説明図である。
【図9】多孔質体におけるAu析出重量を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
10,110…多孔質体
12,112…マスク
14…めっき被膜
116…孔
120…外表部
122…開口部
124…細孔
200…単セル
232…MEA
233…電解質膜
234…アノード
235…カソード
236,237…ガス拡散層
242,243…ガス流路形成部
244,245…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状多孔質体の表面にめっき被膜を形成する多孔質体のめっき方法であって、
前記板状多孔質体が有する細孔により前記板状多孔質体の表面に形成される開口部を塞ぐように、前記板状多孔質体の一方の面上にマスクを配置する第1の工程と、
前記一方の面にマスクを配置した前記板状多孔質体を、めっき浴に浸漬してめっき処理する第2の工程と、
前記めっき処理した前記板状多孔質体から、前記マスクを除去する第3の工程と
を備える多孔体質体のめっき方法。
【請求項2】
板状多孔質体の表面にめっき被膜を形成する多孔質体のめっき方法であって、
前記板状多孔質体が有する細孔により前記板状多孔質体の表面に形成される開口部の径よりも小さい径を有する複数の孔が形成されたマスクを、前記開口部を覆うように前記板状多孔質体の少なくとも一方の面上に配置する第1の工程と、
前記マスクを接着させた前記板状多孔質体を、めっき浴に浸漬してめっき処理する第2の工程と、
前記めっき処理した前記板状多孔質体から、前記マスクを除去する第3の工程と
を備える多孔体質体のめっき方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の多孔質体のめっき方法であって、
前記細孔は、前記板状多孔質体内における前記一方の面から他方の面へと、3次元的に連続して形成されている
多孔質体のめっき方法。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の多孔質体のめっき方法であって、
前記板状多孔質体は、金属材料によって構成され、
前記めっき処理は、貴金属めっきを施す処理である
多孔質体のめっき方法。
【請求項5】
請求項4記載の多孔質体のめっき方法であって、
前記板状多孔質体は、チタンによって構成され、
前記めっき処理は、金めっきを施す処理である
多孔質体のめっき方法。
【請求項6】
多孔質体の表面にめっき被膜を形成する多孔質体のめっき方法であって、
前記多孔質体が有する細孔により前記多孔質体の表面に形成される開口部の径よりも小さい径を有する複数の孔が形成されたマスクを、前記開口部を覆うように前記多孔質体の外表面上に配置する第1の工程と、
前記マスクを接着させた前記多孔質体を、めっき浴に浸漬してめっき処理する第2の工程と、
前記めっき処理した前記多孔質体から、前記マスクを除去する第3の工程と
を備える多孔体質体のめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−108366(P2009−108366A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281241(P2007−281241)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(594059293)下関鍍金株式会社 (5)
【出願人】(593174641)メルテックス株式会社 (28)
【Fターム(参考)】