説明

多孔質膜、電気化学素子用セパレータ、多孔質膜の製造方法、非水電解質電池および非水電解質電池の製造方法

【課題】 薄型で品質の均一性の高い電気化学素子用セパレータを構成するのに適する多孔質膜、この多孔質膜よりなる電気化学素子用セパレータ、上記多孔質膜の製造方法、上記多孔質膜をセパレータに用いた非水電解質電池および該非水電解質電池の製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも多孔質基体と無機微粒子と高分子バインダとから構成され、厚みが30μm以下で、長手方向における厚みの偏差が平均値±10%以内である多孔質膜であり、無機微粒子と高分子バインダとを含有する塗液を保持させた多孔質基体を走行させながら、多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転するロールに多孔質基体の片面のみを接触させるか、特定の位置関係で配置した複数のロールに多孔質基体の両面を接触させて、塗液により形成される塗膜の厚みを調整する方法によって上記多孔質膜を製造する。本発明の非水電解質電池は上記多孔質膜をセパレータとして用いたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚みの均一な、電気化学素子用セパレータなどに適する多孔質膜、特に長尺で厚みの均一な多孔質膜、該多孔質膜よりなる電気化学素子用セパレータ、上記多孔質膜の製造方法、上記多孔質膜を用いた非水電解質電池、および該非水電解質電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解質を有する電気化学素子の一種であるリチウムイオン電池は、エネルギー密度が高いという特徴から、携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器の電源として広く用いられている。携帯機器の高性能化に伴ってリチウムイオン電池の高容量化が更に進む傾向にあり、安全性の確保が重要となっている。
【0003】
現行のリチウムイオン電池では、正極と負極の間に介在させるセパレータとして、例えば厚みが20〜30μm程度のポリオレフィン系の多孔性フィルムが使用されている。また、セパレータの素材としては、電池の熱暴走温度以下でセパレータの構成樹脂を溶融させて空孔を閉塞させ、これにより電池の内部抵抗を上昇させて短絡の際などに電池の安全性を向上させる所謂シャットダウン効果を確保するため、融点の低いポリエチレンが適用されることがある。
【0004】
ところで、こうしたセパレータとしては、例えば、多孔化と強度向上のために一軸延伸あるいは二軸延伸したフィルムが用いられている。このようなセパレータは、単独で存在する膜として供給されるため、作業性などの点で一定の強度が要求され、これを上記延伸によって確保している。しかし、このような延伸フィルムでは結晶化度が増大しており、シャットダウン温度も、電池の熱暴走温度に近い温度にまで高まっているため、電池の安全性確保のためのマージンが十分とは言い難い。
【0005】
また、上記延伸によってフィルムにはひずみが生じており、これが高温に曝されると、残留応力によって収縮が起こるという問題がある。収縮温度は、融点、すなわちシャットダウン温度と非常に近いところに存在する。このため、ポリオレフィン系の多孔性フィルムセパレータを使用するときには、充電異常時などに電池の温度がシャットダウン温度に達すると、電流を直ちに減少させて電池の温度上昇を防止しなければならない。空孔が十分に閉塞せず電流を直ちに減少できなかった場合には、電池の温度は容易にセパレータの収縮温度にまで上昇するため、内部短絡による発火の危険性があるからである。
【0006】
このようなセパレータの熱収縮による短絡を防止し、電池の信頼性を高める技術として、例えば、耐熱性の良好な多孔質基体と、フィラー粒子と、シャットダウン機能を確保するための樹脂成分とを有するセパレータにより電気化学素子を構成することが提案されている(特許文献1)。特許文献1に開示の技術によれば、異常加熱した際にも熱暴走が生じ難い安全性に優れた電池を提供することができる。
【0007】
特許文献1に開示されているような、多孔質基体とフィラー粒子とを有するセパレータを製造するには、例えば、フィラー粒子を含有する塗液を調製し、これを長尺の多孔質基体の両面に塗布し、塗液中の分散媒(溶媒)を乾燥により除去して一旦長尺のセパレータを製造し、その後に必要とする長さに裁断する方法などが採用できる。このような方法によりセパレータを製造する場合には、裁断前の長尺のセパレータにおいて、その長手方向での厚みの均一性が要求される。それは、長手方向での厚みにバラツキがあるセパレータを裁断すると、裁断後のセパレータ個々の厚みにバラツキが生じるため、これらを用いて電池を構成した場合には、電池個々の特性にバラツキが生じる虞があるからである。
【0008】
フィルムや不織布などの基体の両面に塗液を塗布して塗膜を形成する方法については、種々の提案がある。例えば、特許文献2には、基体を塗液中に浸漬し、その後に引き上げることで基体に塗液を塗布するディップ法が記載されている。また、特許文献3には、過剰量の塗液を保持させた多孔質基体を、その走行方向と逆方向に回転する一対のロール間に通過させることで、過剰な塗液を掻き取りつつ塗膜表面を整える方法が記載されている。
【0009】
【特許文献1】国際公開2006/62153号公報
【特許文献2】特開平7−289964号公報
【特許文献3】特開2002−166218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に開示のディップ法では、基体に塗液を塗布した後に、その基体を固定バーやドクターブレード、ロールによりニップし、塗液を計量するが、特に固定バーやドクターブレードを用いる方法では、基体が薄い場合に、送り出し時に基体に負荷がかかり、基体にシワが入ったり、基体に破断が生じたりし易い。電池用セパレータでは、電池特性向上の観点から、薄い多孔質基体を適用することが要求されるため、上記のディップ法では、薄くかつ厚みの均一性の高い長尺のセパレータを連続的に製造することは困難である。
【0011】
また、特許文献3に開示の方法では、互いの回転軸を結ぶ直線が基体の走行方向と直交するよう配置された一対のロール間に基体を通過させ、基体に保持させた過剰な塗液を掻き取っているが、基体が薄いと、そのせん断力に耐え切れず、基体にシワが入って塗布斑が生じたり、基体に破断が生じたりするため、均質な塗膜が得られなくなる。すなわち、特許文献3に開示されたように、ロールの軸心同士を結ぶ直線が基体の走行方向と直交するよう配置された一対のロールを多孔質基体の両面から同時に接触させ、塗膜の厚みを制御する方法によっても、塗膜の厚みを例えば30μm以下に薄くしようとすると、厚みの均一性の高い長尺のセパレータを連続的に製造することは困難となる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、薄型で品質の均一性の高い電気化学素子用セパレータを構成するのに適する多孔質膜、この多孔質膜よりなる電気化学素子用セパレータ、上記多孔質膜の製造方法、上記多孔質膜をセパレータに用いた非水電解質電池および該非水電解質電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成し得た本発明の多孔質膜は、少なくとも多孔質基体と無機微粒子と高分子バインダとから構成されてなり、厚みが30μm以下であり、長手方向における厚みの偏差が、平均値±10%以内であることを特徴とするものである。また、上記多孔質膜により本発明の電気化学素子用セパレータが構成される。
【0014】
また、本発明の多孔質膜の製造方法は、無機微粒子および高分子バインダを含有する塗液を多孔質基体の孔中に含浸させ、上記基体中に、上記無機微粒子および高分子バインダを含有する塗膜を形成する多孔質膜の製造方法であって、上記塗液を保持させた多孔質基体を走行させながら、(1)該多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転するロールに、上記多孔質基体の片面のみを接触させるか、または(2)該多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転する複数のロールであって、該多孔質基体を挟んで対するロールの互いの回転軸を結ぶ直線が上記多孔質基体の走行方向と直交しないように配置されている複数のロールに、上記多孔質基体の両面を順次接触させることにより、上記塗膜の厚みを調整することを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の非水電解質電池は、少なくとも、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を有しており、本発明の多孔質膜を用いたことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の非水電解質電池の製造方法は、上記製造方法により製造される多孔質膜を裁断してセパレータに用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、薄くかつ品質の均一性の高い電気化学素子用セパレータを構成するのに適する多孔質膜と、この多孔質膜よりなる電気化学素子用セパレータ、特に、長尺の電気化学素子用セパレータを提供できる。そして、本発明の多孔質膜の製造方法によれば、品質の安定した電池用セパレータを量産することができるため、特性のバラツキの少ない非水電解質電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の多孔質膜は、多孔質基体と無機微粒子と高分子バインダとを有し、例えば、長さが20m以上の長尺の多孔質膜であって、長手方向における厚みの偏差が平均値±10%以内である。すなわち、本発明の多孔質膜は、その長手方向における厚みの均一性が高いため、この多孔質膜を裁断して多数の小片を得た場合に、それぞれの小片の厚みも、ほぼ同等になる。そのため、上記の小片を例えば電気化学素子用セパレータに用いて、非水電解質電池を量産する場合には、各非水電解液電池に収容されているセパレータの厚みが、ほぼ同等であるため、セパレータの厚みのバラツキに起因する電池間の特性のバラツキの発生を抑えることができる。長さの上限は特に規定されないが、500m程度までの長さであれば運搬などの取り扱いが容易であるので好ましい。多孔質膜の厚みの偏差は、平均値±7%以内にあることが、より好ましい。
【0019】
また、多孔質膜は、幅方向(長手方向に直交する方向)においても、厚みの偏差が、平均値±10%以内にあることが好ましく、平均値±7%以内にあることがより好ましい。
【0020】
多孔質膜の厚みを測定する方法としては、従来公知の方法を用いることができ、接触式膜厚計(ミツトヨ社製のシックネスゲージなど)による測定が好ましく用いられる。
【0021】
長手方向の厚みの偏差は、長尺の多孔質膜の場合は、例えば、上記の厚み計を用いて、多孔質膜の長手方向の1mにつき1点以上の測定点を設け、各測定点で測定された厚みの平均値を求め、各測定点での厚みが、上記平均値の±10%以内に収まっているか否かで判断する。なお、長手方向の厚みの偏差は、少なくとも10箇所の測定点で厚みを測定して平均値を求めるようにし、長手方向の長さが短い場合は、測定点の間隔を狭くして測定すればよいが、測定点の間隔が数cmかそれ以下になる場合は、測定点数を減らしてもよい。
【0022】
幅方向の厚みの偏差も、長手方向の厚みの偏差の場合と同様に、少なくとも10箇所の測定点で厚みを測定して平均値を求め、各測定点の厚みが、上記平均値の±10%以内に収まっているか否かで判断すればよいが、測定点の間隔が数cmかそれ以下なる場合は、測定点数を減らしてもよい。
【0023】
長手方向の厚みの偏差を求めるに当たり、その精度を高める観点から、厚みを測定するための各測定点の、多孔質膜の幅方向(長手方向に直交する方向)における位置は、ほぼ同じになるようにする。すなわち、最初の測定点を多孔質膜の幅方向のほぼ中央に設けた場合には、他の測定点も、多孔質膜の幅方向のほぼ中央に設ける。
【0024】
本発明の多孔質膜を構成する多孔質基体は、表面から裏面まで連通する孔を有するものであり、例えば、不織布、織物、紙様シート、または樹脂製の微多孔膜など、薄膜状のものが挙げられる。これらは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、不織布が好ましい。
【0025】
また、多孔質基体の構成材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、半芳香族または全芳香族ポリエステル[例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)など ]、ポリオレフィン[例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など]、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォンなどが挙げられる。
【0026】
多孔質基体の厚みは、多孔質膜としての強度を十分に確保する観点から、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましい。なお、多孔質基体が厚すぎると多孔質膜も厚くなり、例えば、この多孔質膜を非水電解質電池用のセパレータに用いた場合にインピーダンスが高くなることがあるため、多孔質基体の厚みは、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが最も好ましい。
【0027】
また、多孔質基体は、電気化学素子用セパレータとした場合のイオン透過性を十分に確保する観点から、多孔度や透気度がある程度制御されたものが好ましい。例えば、多孔質基体の多孔度は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上であって、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下である。多孔質基体の多孔度は、多孔質基体の質量と見かけの体積とを測定し、これらの測定値と多孔質基体を構成する材料の密度とを用いて算出することができる。
【0028】
更に、多孔質基体の透気度は、JIS P 8117に準拠した方法で測定され、0.879g/mmの圧力下で100mlの空気が膜を透過する秒数により表されるガーレー値は、10秒以下であることが好ましく、5秒以下であることがより好ましく、また、0.001秒以上であることがより好ましい。
【0029】
また、多孔質基体の引張強度は、3N/cm以上であることが好ましく、一方、柔軟性を確保するために20N/cm以下であることが好ましい。多孔質基体の引張強度は、引張圧縮試験機〔例えば、今田製作所製「SVF−500N−SH」〕により測定することができ、本明細書でいう多孔質基体の引張強度は、このような引張圧縮試験機を用いて、50mm×20mmに切り出した試験片を10mm/分の速度で引っ張って求めた値である。
【0030】
上記の各特性を満足し得る多孔質基体の具体例としては、例えば、PET、PE、PPなどで構成された不織布で、目付けが3〜30g/m、厚みが7〜20μmのものが挙げられる。
【0031】
多孔質膜を構成する無機微粒子は、例えば、150℃で実質的に変形せず、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に、多孔質膜製造時に使用する塗液に用いる溶媒に対して安定であり、また、電気化学素子用セパレータとして用いる場合には、電解質(電気化学素子に用いられる非水電解質、以下同じ)に安定なものであれば、特に制限はない。
【0032】
このような無機微粒子の具体例としては、以下の粒子が挙げられ、これらを1種単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。例えば、酸化鉄、SiO、Al、TiO、BaTiO、ZrOなどの酸化物微粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物微粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子;タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物;などが挙げられる。また、金属微粒子;SnO、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの酸化物微粒子;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質微粒子;などの導電性微粒子の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、上記の非電気伝導性の無機微粒子を構成する材料)でコーティングすることで、電気絶縁性を持たせた微粒子であってもよい。これらの無機微粒子の中でも、SiO、Al、アルミナ−シリカ複合酸化物、ベーマイトが好適である。
【0033】
また、無機微粒子の形状は、球状(真球状、略球状)、ラグビーボール状、板状などのいずれでもよい。
【0034】
無機微粒子の平均粒径は、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは15μm以下、より好ましくは3μm以下である。なお、上記の無機微粒子の平均粒径は、レーザー散乱粒度分布計(HORIBA社製「LA−920」)を用い、無機微粒子が膨潤しない媒体(例えば水)に分散させて測定した数平均粒子径である。
【0035】
多孔質膜に用いられる高分子バインダとしては、無機微粒子同士や無機微粒子と多孔質基体などとを良好に接着できるものであればよく、電気化学素子用セパレータとして用いる場合には、更に、電気化学的に安定でかつ電解質に対して安定であればよいが、例えば、EVA(酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体[スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など]、セルロース誘導体[カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど]、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、アクリル樹脂などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0036】
多孔質膜においては、多孔質基体の含有率が、多孔質膜の構成成分の全体積中、20〜40体積%であることが好ましい。また、多孔質膜における無機微粒子の含有率は、多孔質膜の構成成分の全体積中、20〜40体積%であることが好ましい。更に、多孔質膜における高分子バインダの含有率は、多孔質膜の構成成分の全体積中、1〜10体積%であることが好ましい。
【0037】
また、多孔質膜には、非水電解質電池に使用する場合にシャットダウン機能を付与するために、80〜130℃で溶融する熱溶融性微粒子や、非水電解液中で膨潤でき、かつ温度の上昇により膨潤度が増大する膨潤性微粒子を添加することが可能である。上記の熱溶融性微粒子や膨潤性微粒子を用いて構成した多孔質膜よりなる電気化学素子用セパレータでは、高温に曝されたときに、熱溶融性微粒子が溶融して電気化学素子用セパレータの孔を塞いだり、膨潤性微粒子が非水電解液を吸収したりするため、電気化学素子用セパレータ中のイオンの透過性が低下する所謂シャットダウン現象が発現する。
【0038】
80〜130℃で溶融する[すなわち、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が80〜130℃である]熱溶融性微粒子としては、例えば、PE、エチレン由来の構造単位が85モル%以上の共重合ポリオレフィン、PP、またはポリオレフィン誘導体(塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなど)、ポリオレフィンワックス、石油ワックス、カルナバワックスなどが挙げられる。
【0039】
非水電解液中で膨潤でき、かつ温度の上昇により膨潤度が増大する膨潤性微粒子としては、例えば、架橋ポリスチレン(PS)、架橋アクリル樹脂[例えば、架橋ポリメチルメタクリレート(PMMA)]、架橋フッ素樹脂[例えば、架橋ポリフッ化ビニリデン(PVDF)]などが挙げられる。
【0040】
多孔質膜の厚み(上記の厚みの平均値、以下同じ)は、セパレータとしての十分な強度を確保する観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、多孔質膜が厚すぎると電池特性が低下することがあるため、多孔質膜の厚みは、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが最も好ましい。本発明によれば、上記薄型の多孔質膜を製造する場合でも、厚みのばらつきの少ない均質な多孔質膜を得ることができる。
【0041】
また、多孔質膜の多孔度としては、例えば非水電解質電池用のセパレータに使用する場合では、乾燥した状態で15%以上、より好ましくは20%以上であって、70%以下、より好ましくは60%以下であることが望ましい。多孔質膜の多孔度が小さすぎると、イオン透過性が小さくなることがあり、また、多孔度が大きすぎると、多孔質膜の強度が不足することがある。なお、多孔質膜の多孔度:P(%)は、多孔質膜の厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、次式を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
P = Σaρ/(m/t)
ここで、上記式中、a:質量%で表した成分iの比率、ρ:成分iの密度(g/cm)、m:多孔質膜の単位面積あたりの質量(g/cm)、t:多孔質膜の厚み(cm)、である。
【0042】
本発明の多孔質膜は、無機微粒子および高分子バインダを含有する塗液を保持させた長尺の多孔質基体を走行させつつ、該多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転するロールに接触させ塗膜の厚みを調整する本発明法により製造される。
【0043】
無機微粒子および高分子バインダを含有する塗液としては、無機微粒子や高分子バインダを、分散媒に分散させた分散液を用いることが好ましい(なお、この場合、高分子バインダは分散媒中に溶解していてもよい)。塗液の分散媒は、水やN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶媒を用いることができるが、水が特に好ましい。なお、分散媒に水を使用する場合、例えば基体との濡れ性を高めるために、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)を適宜加えてもよい。
【0044】
また、塗液には、基体との濡れ性改善のために、界面活性剤などの第3成分を加えてもよい。なお、塗液と基体との濡れ性改善には、塗液にアルコール類や界面活性剤を用いる以外にも、多孔質基体に公知の親水化処理を施してもよい。
【0045】
塗液では、無機微粒子や高分子バインダなどを含む固形分含量を、例えば10〜80質量%とすることが好ましく、20〜70質量%とすることがより好ましい。
【0046】
また、塗液の粘度は、例えば、水を分散媒に用いる場合では、0.005〜1Pa・sに調整することが好ましい。塗液の粘度が低すぎると、多孔質基体に塗布した後の塗液の表面が悪くなりがちであり、高すぎると、塗液の流動性が悪化して、多孔質基体への塗布が困難となることがある。なお、塗液の粘度は、塗液中の固形分含量を変えたり、塗液に公知の増粘剤を加えたりすることで、調整できる。また、増粘剤の使用により、塗液の乾燥性も調整することができる。
【0047】
次に、多孔質膜の製造方法における、塗液の塗布から、塗液の保持量を調整して薄い塗膜を形成するまでの工程を、図面を用いつつ説明する。図1および図2は、上記工程の一例を示す概略図である。
【0048】
まず、例えば、多孔質基体を巻き取ったロールから、多孔質基体を引き出して走行させつつ、これに塗液を塗布する。多孔質基体に塗液を塗布する方法については特に制限はなく、例えば、図1に示すように、塗液5を入れた浸漬浴4中に、多孔質基体3を通過させることで多孔質基体3に塗液5を塗布する方法を採用してもよく、また、図2に示すように、対向する一対のダイ7、8から、多孔質基体3の両面に塗液を塗布する方法を採用してもよい。
【0049】
次に、両面に塗液を塗布し、該塗液を保持させた多孔質基体の表面を、ロールに接触させる。本発明法では、塗液を保持させた多孔質基体の表面をロールに接触させるに当たり、多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転するロールに、多孔質基体の片面のみを接触させるか、または、多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転する複数のロールであって、該基体を挟んで対するロールの互いの回転軸を結ぶ直線が上記多孔質基体の走行方向と直交しないように配置されている複数のロールに、多孔質基体の両面を順次接触させる。
【0050】
塗布液を保持させた多孔質基体の表面をロールに接触させることで、多孔質基体の孔中に塗布液を含浸させ、且つ多孔質基体表面に過剰に付着している塗布液を、ロールと塗液との表面張力で掻き取ると同時に塗膜表面を整える。このとき、例えば、多孔質基体の走行方向と同方向に回転するロールに多孔質基体を接触させたり、多孔質基体を挟んで軸心同士を結ぶ直線が多孔質基体の走行方向と直交するよう配置された一対のロールに多孔質基体の両面を同時に接触させたりすると、多孔質基体に過剰なせん断力が働いて、塗布斑や基体の破断が生じてしまう。
【0051】
これに対し、本発明法では、多孔質基体の表面をロールに接触させるに当たり、多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転するロールに、多孔質基体の片面のみを接触させるか、または、多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転する複数のロールであって、該基体を挟んで対するロールの互いの回転軸を結ぶ直線が上記多孔質基体の走行方向と直交しないように配置されている複数のロールに、多孔質基体の両面を順次接触させている。これにより、本発明法では、ロール表面への接触時に、多孔質基体に過剰なせん断力がかからないようになり、塗液の塗布斑や多孔質基材の破断を防止しつつ、塗液の塗布量を適切に制御して薄い塗膜を形成することが可能となり、厚みの均一性の高い多孔質膜の製造を可能としている。
【0052】
図1および図2では、多孔質基体の表面をロールに接触させるに当たり、多孔質基体を挟んで対向し多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転する一対のロールであって、一方のロールの回転軸と他方のロールの回転軸とを結ぶ直線が、多孔質基体の走行方向に直交しないように配置されている一対のロールに、多孔質基体の両面を順次接触させる方法の例を示している。すなわち、図1および図2では、一対のロール1、2が、多孔質基体3の走行方向とは逆方向に回転しており、ロール1の回転軸とロール2の回転軸のそれぞれと直交する平面、すなわち、ロール1およびロール2の横断面において、それぞれの回転軸を結ぶ直線Aが、多孔質基体3の走行方向に垂直に交わらないように、ロール1およびロール2が配置されている。
【0053】
なお、塗液を保持させた多孔質基体を一対のロール間に通過させる場合には、各ロールの配置については、一方のロールの回転軸と他方のロールの回転軸とを結ぶ直線が、多孔質基体の走行方向に直交しないように配置されてさえいれば、両ロールの位置関係については、特に制限はない。例えば、図1および図2に示すように、ロール1の横断面の中心を通り、多孔質基体3の走行方向に直交する直線と、上記横断面と同一平面にあるロール2の横断面の中心を通り、多孔質基体3の走行方向に直交する直線との間隔L(以下、「ロール1とロール2とのずれ幅L」という。なお、一方のロールの回転軸と他方のロールの回転軸とを結ぶ直線が、多孔質基体の走行方向に直交するように配置されている場合には、L=0となる。)も適宜調整可能であるが、Lが小さすぎる場合は、本発明の効果が発揮されにくくなると思われることから、Lは一定以上の値にすることが望ましいと思われ、例えば、5mm以上にするのが好適と考えられる。
【0054】
本発明法では、多孔質基体に接触させるロールの回転周速を調整したり、各ロールの配置や回転周速比を調整したりすることにより、ロールと塗液との表面張力のバランスを変化させて、多孔質基体の孔中への塗液の含浸度合いを制御したり、ロールによって掻き落とす過剰な塗液の量を変え、多孔質基体両面の塗膜の厚みを制御したりすることが可能である。
【0055】
また、図1および図2に示すロール1とロール2とは、両者が連動して駆動するものでもよく、それぞれが独立して駆動するものでもよい。ロールの回転周速は無段階で変化させ得ることが好ましい。また、回転周速は、ロールの回転数をエンコーダーやタコメータなどを用いてロールの回転数を測定し、これとロールの径とから演算することにより算出する。そして、ロール1とロール2との回転周速を変化させることで、多孔質基体表面の塗膜の厚みを、両面同時に正確に制御することができる。
【0056】
ロールの数は3本以上とすることも可能であり、例えば、多孔質基体の一方の側に2本のロールを、他方の側に1本のロールを設置し、前記2本のロールの回転軸と、もう1本のロールの回転軸とを結ぶ2本の直線がそれぞれ、多孔質基体の走行方向と直交しないようにそれぞれのロールを配置してもよい。
【0057】
また、多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転するロールに、多孔質基体の片面のみを接触させる方法を用いることもでき、この場合、接触させるロールは、1本のみであっても複数であってもよいが、前述した多孔質基体の両面をロールに順次接触させる方法を用いる方が、多孔質膜の厚み制御がより正確で容易になると思われる。
【0058】
塗液を保持させた多孔質基体と接触させるロールは、その円筒度や横断面の真円度が高いことが好ましいが、ロールの表面粗さ、円筒度および横断面の真円度は、形成される塗膜に要求される平滑度に応じて設定すればよい。また、ロール表面の材質としては特に制限はないが、使用する塗液の種類に応じて材質を選択することが好ましい。
【0059】
塗液を保持させた多孔質基体をロールに接触させる際の多孔質基体の走行方向については特に制限はなく、図1に示す上向きや、その逆の下向き、または図2に示す横向きなど、いずれでもよく、多孔質基体における塗液の保持性に応じて、または粘度や乾燥性など塗液の物性に応じて、多孔質膜製造工程の全体から適宜選択することができる。通常は、本発明法の目的や工程の効率性の観点から、上向きまたは横向きに多孔質基体を走行させることが好ましく、横向きに走行させることがより好ましい。
【0060】
また、例えば、塗液を保持させた多孔質基体から掻き取った過剰な塗液がロール面に付着した場合に、これを掻き取ってロール面を清浄に保ち、より連続的な多孔質膜の製造を可能とするために、図1に示すように、ロール1およびロール2には、接触式のブレードなどを用いた掻き取り手段(掻き取り装置)6を設置することが好ましい。また、図1に示すように、掻き取り手段6には、掻き取った塗液を浸漬浴4などに戻すための回収機構を設けておくことが好ましい。
【0061】
ロール表面に接触させ、孔中に塗液を含浸させ且つ両面に塗膜を形成した多孔質基体は、必要に応じて更に乾燥機中を通過させるなどして、塗液中の分散媒を除去して本発明の多孔質膜とする。このようにして製造された長尺の多孔質膜は、例えばロール状に巻き取るなどし、その後必要なサイズに裁断して、例えば、非水電解質電池やスーパーキャパシタなどの電気化学素子のセパレータとして使用することができる。また、気体や液体を通過させるフィルターなどに利用することも可能である。
【0062】
本発明の非水電解質電池は、上記本発明の多孔質膜を適当なサイズに裁断してセパレータとして用いていればよく、その他の構成・構造については特に制限はなく、従来公知の構成、構造が採用できる。なお、本発明の非水電解質電池には、一次電池と二次電池が含まれるが、以下には、特に主要な用途である二次電池の構成を例示する。
【0063】
非水電解質電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0064】
正極としては、従来公知の非水電解質電池に用いられている正極であれば特に制限はない。例えば、活物質として、Li1+xMOで(−0.1<x<0.1、M:Co、Ni、Mnなど)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物;LiMnなどのリチウムマンガン酸化物;LiMnのMnの一部を他元素で置換したLiMn(1−x);オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe);LiMn0.5Ni0.5;Li(1+a)MnNiCo(1−x−y)(−0.1<a<0.1、0<x<0.5、0<y<0.5);などを適用することが可能であり、これらの正極活物質に公知の導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどの結着剤などを適宜添加した正極合剤を、集電体を芯材として成形体に仕上げたものなどを用いることができる。
【0065】
正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0066】
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0067】
負極としては、従来公知の非水電解質電池に用いられている負極であれば特に制限はない。例えば、活物質として、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。また、Si、Sn、Ge、Bi、Sb、Inなどの元素およびその合金、リチウム含有窒化物、または酸化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物、もしくはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金も負極活物質として用いることができる。これらの負極活物質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどの結着剤などを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる他、上記の各種合金やリチウム金属の箔を単独、もしくは集電体上に形成したものを用いてもよい。
【0068】
負極に集電体を用いる場合には、集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、また、下限は5μmであることが望ましい。
【0069】
負極側のリード部も、正極側のリード部と同様に、通常、負極作製時に、集電体の一部に負極剤層(負極活物質を有する層)を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、この負極側のリード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体に銅製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0070】
電極は、上記の正極と上記の負極とを、本発明の多孔質膜を裁断して得られたセパレータを介して積層した積層体や、更にこれを巻回した巻回電極体の形態で用いることができる。
【0071】
非水電解質としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイト、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの1種のみからなる有機溶媒、あるいは2種以上の混合溶媒に、例えば、LiClO 、LiPF 、LiBF 、LiAsF 、LiSbF 、LiCFSO 、LiCFCO 、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などのリチウム塩から選ばれる少なくとも1種を溶解させることによって調製した電解液などが使用される。このリチウム塩の電解液中の濃度としては0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/lとすることがより好ましい。
【0072】
また、上記の有機溶媒の代わりに、エチル−メチルイミダゾリウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、へプチル−トリメチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、ピリジニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、グアジニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミドといった常温溶融塩を用いることもできる。
【0073】
更に、上記の非水電解液にPVDF、PVDF−HEP、PAN、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、主鎖あるいは側鎖にエチレンオキシド鎖を含む架橋ポリマー、架橋したポリ(メタ)アクリル酸エステルといった公知のゲル電解質形成可能なホストポリマーを用いてゲル化した電解質を用いることもできる。
【0074】
本発明の非水電解質電池は、従来公知の非水電解質電池が用いられている各種用途と同じ用途に適用することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0076】
なお、本実施例において用いた測定方法は、下記の通りである。
【0077】
(1)膜厚の測定方法
多孔質膜の幅方向の中央部に、長尺方向の1m毎に1箇所ずつの測定点(合計10点)を設け、これらの測定点の厚みを接触式マイクロメーターで測定した。また、上記幅方向の中央部を中心にして、幅方向に4cm毎に5点の測定点を設け、これらの測定点の厚みを同様にして測定した。
【0078】
(2)多孔質基体の多孔度
所定面積A(cm)の多孔質基体について、質量m(g)を測定し、これら面積Aおよび質量tと、上記(1)の方法により求めた膜厚の平均値t(cm)と、多孔質基体の構成材料の実密度ρ(cm)とから、下式に従って多孔度(%)を求めた。
多孔度 = 100×(m/(A×t))/ρ
【0079】
(3)多孔質基体の透気度
JIS P 8117の規定に準じて測定した。
【0080】
(4)塗液の粘度
B形粘度計を用いて測定した。
【0081】
<多孔質膜の製造>
実施例1−1
平均粒径が0.4μmのアルミナ粒子48質量%と、アクリル樹脂50質量%とを含有する水分散体(粘度0.07Pa・s)からなる塗液を調製した。
【0082】
膜厚15μm、多孔度50%、透気度0.5秒、幅200mm、長さ500mの長尺のPET不織布(引張強度7N/cm)を用意し、図1に示す構成の装置を用いて、多孔質膜を製造した。ロール1およびロール2の表面材質はステンレス鋼で、ロール1の径は7.6cm、ロール2の径は7.6cmであり、ロール1とロール2とのずれ幅Lは10mmとした。
【0083】
PET不織布3を1m/分の速度で走行させ、塗液5を入れた浸漬浴4にPET不織布3を浸漬して塗液を塗布した後、ロール1とロール2の間にPET不織布3を通過させ、乾燥して多孔質膜とした。なお、PET不織布の走行速度に対するロール1およびロール2の回転周速比は0.5として、目標厚みを20μmとなるように制御した。
【0084】
上記のようにして得られた多孔質膜は、多孔質基体であるPET不織布の孔中にアルミナ粒子が存在しており、且つ、PET不織布の両面に、アルミナ粒子を含有する層が、ほぼ均一の厚みで形成されていた。また、多孔質膜全体の厚みの平均値は20μmで、各測定点での厚みは、長手方向と幅方向のいずれも20μm±1μmの範囲内(すなわち、平均値±5%の範囲内)に収まっていた。
【0085】
実施例1−2〜1−5
PET不織布の走行速度に対するロール1およびロール2の回転周速比を、0.5(実施例1−2)、0.7(実施例1−3)、0.9(実施例1−4)および1.0(実施例1−5)の4段階で変化させた以外は、実施例1−1と同様にして多孔質膜の製造を行った。その結果を図3に示す。図3では、横軸にロール1およびロール2の回転周速比を、縦軸には得られた多孔質膜の平均厚みを示している。図3から、多孔質基体の走行速度に対するロールの回転周速比を大きくすると多孔質膜の厚み(すなわち、塗液により形成される塗膜の厚み)が薄くなり、ロールの回転周速の調節により多孔質膜の厚みを均一に制御できることが分かる。
【0086】
実施例1−6〜1−9
PET不織布の走行速度を、0.5m/分(実施例1−6)、1.0m/分(実施例1−7)、1.2m/分(実施例1−8)および1.5m/分(実施例1−9)に変化させた以外は、実施例1−1と同様にして多孔質膜の製造を行った。その結果を図4に示す。図4では、横軸にPET不織布の走行速度を、縦軸には得られた多孔質膜の平均厚みを示している。図4から、多孔質基体の走行速度を大きくすると多孔質膜の厚み(すなわち、塗液により形成される塗膜の厚み)が厚くなり、多孔質基体の走行速度の調節により多孔質膜の厚みを均一に制御できることが分かる。
【0087】
実施例2
平均粒径が0.4μmのアルミナ粒子40質量%と、ポリフッ化ビニリデン10質量%とを含有するNMP分散体(粘度0.20Pa・s、ただし、ポリフッ化ビニリデンは、NMP中に溶解している)からなる塗液を調製した。
【0088】
上記の塗液を用いた以外は、実施例1−1と同様にして多孔質膜を製造した。得られた多孔質膜は、多孔質基体であるPET不織布の孔中にアルミナ粒子が存在しており、且つ、PET不織布の両面に、アルミナ粒子を含有する層が、ほぼ均一の厚みで形成されていた。また、多孔質膜全体の厚みの平均値は20μmで、各測定点での厚みは、長手方向と幅方向のいずれも20μm±2μmの範囲内(すなわち、平均値±10%の範囲内)に収まっていた。
【0089】
実施例3
図2に示す構成の装置を用い、塗液をダイ7、8からPET不織布の表面に供給するようにし、PET不織布を横方向に走行させるようにした以外は、実施例1−1と同様にして多孔質膜を製造した。得られた多孔質膜は、多孔質基体であるPET不織布の孔中にアルミナ粒子が存在しており、且つ、PET不織布の両面に、アルミナ粒子を含有する層が、ほぼ均一の厚みで形成されていた。また、多孔質膜全体の厚みの平均値は20μmで、各測定点での厚みは、長手方向と幅方向のいずれも20μm±1μmの範囲内(すなわち、平均値±5%の範囲内)に収まっていた。
【0090】
比較例1
塗液を塗布したPET不織布をロールに接触させる際にニップ方式を採用した以外は、実施例1−1と同様にして多孔質膜を製造したが、筋状の欠陥やPET不織布の破断が多発し、均一な厚みの塗膜を形成することができず、PET不織布の破断が生じていない箇所では、多孔質膜全体の厚みの平均値(各測定点での厚みの平均値)は20μmであったが、各測定点は、平均値を中心として最大で5μmのばらつきを有しており(すなわち、多孔質膜の厚みは、平均値から最大で25%のばらつきを有する)、均一な厚みの多孔質膜が得られなかった。
【0091】
比較例2
塗液をPET不織布に塗布するに当たり、ダイによる転写方式を採用し、その後のロール表面への接触を行わなかった以外は、実施例1−1と同様にして多孔質膜を製造したが、塗液の塗布直後にPET不織布の孔中に塗液の染み込みが発生して、PET不織布の地合(風合い)が塗膜表面に浮き出てしまって厚み斑となり、多孔質膜全体の厚みの平均値(各測定点での厚みの平均値)は20μmであったが、各測定点は、平均値を中心として最大で5μmのばらつきを有しており(すなわち、多孔質膜の厚みは、平均値から最大で25%のばらつきを有する)、均一な厚みの多孔質膜が得られなかった。
【0092】
比較例3
図1に示す構成から、ロール1の回転軸とロール2の回転軸とを結ぶ直線と、PET不織布の走行方向とが直交するようにロール1およびロール2の配置を変更して装置を構成し、ロール1およびロール2の回転方向をPET不織布の走行方向と同方向とした以外は、実施例1−1と同様にして多孔質膜を製造したが、PET不織布のシワや破断が多発して、連続的な多孔質膜の製造が困難であった。
【0093】
<非水電解質電池の製造>
実施例4
(負極の作製)
負極活物質である黒鉛:95質量部と、バインダであるPVDF:5質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合して負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを、銅箔からなる厚さ10μmの集電体の両面に、活物質塗布長が表面320mm、裏面260mmになるように間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が142μmになるように負極合剤層の厚みを調整し、幅45mmになるように切断して、長さ330mm、幅45mmの負極を作製した。さらにこの負極の銅箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0094】
(正極の作製)
正極活物質であるLiCoO:85質量部、導電助剤であるアセチレンブラック:10質量部、およびバインダであるPVDF:5質量部を、NMPを溶剤として均一になるように混合して、正極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを、集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に、活物質塗布長が表面319〜320mm、裏面258〜260mmになるように間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って、全厚が150μmになるように正極合剤層の厚みを調整し、幅43mmになるように切断して、長さ330mm、幅43mmの正極を作製した。さらにこの正極のアルミニウム箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0095】
(電池の組み立て)
上記の正極と上記の負極とを、実施例1−1〜1−9、実施例2または実施例3の多孔質膜を裁断したものをセパレータとして介して重ね合わせ、これを渦巻状に巻回して巻回電極体を作製した。この巻回電極体を押しつぶして扁平状にして、ラミネートフィルム外装材内に装填し、非水電解液(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを1:2の体積比で混合した溶媒に、LiPFを1.2mol/lの濃度で溶解させた溶液)を注入し、真空封止を行って非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
【0096】
上記の各非水電解質電池について、以下の条件にて充電および放電を行い、電池として良好に動作することを確認した。充電は、0.2Cの電流値で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、次いで、4.2Vでの定電圧充電を行う定電流−定電圧充電とした。充電終了までの総充電時間は15時間とした。充電後の各電池は、0.2Cの放電電流で、電池電圧が3.0Vになるまで放電を行った結果、市販のポリエチレン製多孔性フィルム(厚み:20μm)と同等の容量が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の多孔質膜の製造方法の一例を説明するための概略図である。
【図2】本発明の多孔質膜の製造方法の他の例を説明するための概略図である。
【図3】実施例1−2〜実施例1−5における多孔質膜製造結果を示すグラフである。
【図4】実施例1−6〜実施例1−9における多孔質膜製造結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0098】
1、2 ロール
3 多孔質基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも多孔質基体と無機微粒子と高分子バインダとから構成されてなり、厚みが30μm以下であり、長手方向における厚みの偏差が、平均値±10%以内であることを特徴とする多孔質膜。
【請求項2】
幅方向における厚みの偏差が、平均値±10%以内である請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記多孔質基体が不織布である請求項1または2に記載の多孔質膜
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜よりなるものであることを特徴とする電気化学素子用セパレータ。
【請求項5】
無機微粒子および高分子バインダを含有する塗液を多孔質基体の孔中に含浸させ、上記基体中に、上記無機微粒子および高分子バインダを含有する塗膜を形成する多孔質膜の製造方法であって、
上記塗液を保持させた多孔質基体を走行させながら、該多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転するロールに上記基体の片面のみを接触させることにより、上記塗膜の厚みを調整することを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
前記塗膜の厚みの調整を、多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転する1本のロールのみで行う請求項5に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
無機微粒子および高分子バインダを含有する塗液を多孔質基体の孔中に含浸させ、上記基体中に、上記無機微粒子および高分子バインダを含有する塗膜を形成する多孔質膜の製造方法であって、
上記塗液を保持させた多孔質基体を走行させながら、該多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転する複数のロールであって、該多孔質基体を挟んで対するロールの互いの回転軸を結ぶ直線が上記多孔質基体の走行方向と直交しないように配置されている複数のロールに、上記多孔質基体の両面を順次接触させることにより、上記塗膜の厚みを調整することを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
前記塗膜の厚みの調整を、多孔質基体の走行方向とは逆方向に回転し、該多孔質基体を挟んで対する一対のロールにより行う請求項7に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項9】
塗液の供給をダイにより行う請求項5〜8のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項10】
多孔質基体は、厚みが5〜30μmで、多孔度が30〜70%である請求項5〜9のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項11】
多孔質基体は、引張強度が20N/cm以下である請求項5〜10のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項12】
多孔質基体は、JIS P 8117の規定に準じて測定されるガーレー値で表される透気度が10秒以下である請求項5〜11のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項13】
粘度が0.005〜1Pa・sの塗液を使用する請求項5〜12のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項14】
少なくとも、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を有し、上記セパレータとして、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜を用いたことを特徴とする非水電解質電池。
【請求項15】
請求項5〜13のいずれかに記載の製造方法により製造される多孔質膜を裁断してセパレータに用いることを特徴とする非水電解質電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−179903(P2008−179903A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12119(P2007−12119)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】