説明

多孔質静圧気体軸受用の軸受素材及びこれを用いた多孔質静圧気体軸受

【課題】機械加工を施した後も良好に多孔質静圧気体軸受として使用することができる通気性を保持し得る軸受素材を提供すること。
【解決手段】軸受素材は、裏金1と、裏金1の面に焼成された多孔質焼結金属層2とを具備しており、多孔質焼結金属層2の粒界には無機物質粒子が含有されている。多孔質焼結金属層は、錫、ニッケル、燐及び銅を含んでおり、無機物質粒子は、黒鉛、窒化ホウ素、フッカ黒鉛、フッカカルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び炭化ケイ素のうちの少なくとも一つからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質焼結金属層を具備した軸受素材及びこの軸受素材を用いた多孔質静圧気体軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質静圧気体軸受は、すぐれた高速安定性と高い負荷容量をもつものとして、従来から注目されており、種々研究もなされているが実用化に際してはいくつかの克服すべき問題がある。
【0003】
多孔質静圧気体軸受には、圧縮気体の供給手段を施した裏金に多孔質焼結金属体を組み付けてなる軸受素材が多く用いられ、この軸受素材における多孔質焼結金属体の形成材料としては、青銅、アルミニウム合金、ステンレスを主体としたもの、特に、青銅を主体としたものが多く用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、多孔質静圧気体軸受に用いる軸受素材には、十分な通気性と10−3mmオーダの表面粗さとが要求されるが、上記の軸受素材を静圧気体軸受に用いる場合には、多孔質焼結金属体それ自体は一応好ましい通気性を有するが、多孔質焼結金属体の寸法精度や表面粗さが十分でないので、多くの場合には、その表面に機械加工が施される。
【0005】
この機械加工は、主として旋盤およびフライス加工や研削により行われるが、この旋盤およびフライス加工や研削により多孔質焼結金属体の表面に目詰りを惹起させ、その通気性(絞り特性)に大きく影響を与えることになる。特に、研削においては、多孔質焼結金属体の表面に塑性流動を惹起させ、カエリやバリを生じさせる。
【0006】
また、多孔質焼結金属体は、上記のように、圧縮気体の供給手段を施した裏金に組付けられ、例えば多孔質静圧ラジアル気体軸受の場合では、この組み付けに際しては、円筒状の裏金に円筒状の多孔質焼結金属体を圧入嵌着する手段がとられる。
【0007】
単なる滑り軸受の場合は、このような圧入嵌着手段を採ることでもそれ程問題を生じないが、多孔質静圧気体軸受においては、一見密に圧入嵌着されている両者の接触部に微細な隙間が存在するために、多孔質焼結金属体内の圧縮気体の本来の流通よりも、この隙間からの気体の漏洩が大きくなる場合がある。
【0008】
この隙間からの気体の漏洩は、当然、多孔質静圧気体軸受としての負荷容量の減少など性能の低下を来たすことになるので極力これを防止することが好ましいのである。
【0009】
これに対処するために、締め代を大きくして大きな圧入力で嵌着すれば、この部分の隙間はほぼ完全に無くすことができるが、逆に、裏金によってきわめて大きな絞りを受ける多孔質焼結金属体の外表面側で焼結金属の塑性流動が生ずる虞があり、したがって、裏金に嵌着後、圧縮気体の流通が多孔質焼結金属体の嵌着面側で大きく阻害されるという問題が新たに生じる。
【0010】
本発明者は、ある特定の製造条件で製造した多孔質焼結金属層を具備した軸受素材は、機械加工を施した後も多孔質静圧気体軸受として使用することができる通気性を保持し得ることを見出したのである。
【0011】
そこで、本発明の第一の主な目的は、機械加工を施した後も良好に多孔質静圧気体軸受として使用することができる通気性を保持し得る軸受素材を提供することにある。
【0012】
本発明の第二の主な目的は、供給圧縮気体の意図しない漏洩のない軸受素材を提供することにある。
【0013】
本発明の第三の主な目的は、上記の軸受素材を用いた多孔質静圧気体軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の多孔質静圧気体軸受用の軸受素材は、裏金と、この裏金の少なくとも一方の面に焼結された多孔質焼結金属層とを具備しており、多孔質焼結金属層の粒界には無機物質粒子が含有されている。
【0015】
本発明の軸受素材においては、多孔質焼結金属層は、その組成物質が裏金の少なくとも一方の面において当該裏金に一体に接合されている。
【0016】
好ましい例では、多孔質焼結金属層は、少なくとも錫、ニッケル、燐及び銅、更に、鉄又はマンガンを含んでおり、無機物質粒子は、黒鉛、窒化ホウ素、フッカ黒鉛、フッカカルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び炭化ケイ素のうちの少なくとも一つからなる。
【0017】
本発明の軸受素材の裏金は、好ましくは、鉄及び鉄合金並びに銅及び銅合金よりなる群から選ばれた金属からなる。裏金が円筒状に形成されて多孔質静圧気体ラジアル軸受を形成する場合には、多孔質焼結金属層は、裏金の円筒状内面に焼結され、裏金が平板状に形成されて多孔質静圧気体スラスト軸受を形成する場合には、多孔質焼結金属層は、裏金の平板状の一方の面に焼結される。なお、本発明の多孔質静圧気体軸受は、直動軸受、いわゆるスライダにも適用し得るのである。
【0018】
本発明の多孔質静圧気体軸受は、上記の軸受素材を用いたものであって、裏金には、圧縮気体を多孔質焼結金属層に供給する手段が設けられている。
【0019】
本発明の多孔質静圧気体軸受においては、多孔質焼結金属層の露出表面の粗さは、10−3mm以下である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の軸受素材は、多孔質焼結金属層の粒界には黒鉛等の無機物質粒子が含有されているので、機械加工を施してもその表面の目詰りが抑制されて理想的な絞り構造となる。また多孔質焼結金属層が裏金に接合によって一体化されているので、この接合部からの圧縮気体の漏洩もなく、給気圧による焼結層の変形を極めて小さくすることができる。
【0021】
なお、多孔質焼結金属層に、黒鉛、窒化ホウ素、フッカ黒鉛等の滑り軸受の固体潤滑剤として機能する成分が含まれている場合は、これらはすべり摩擦特性に優れるので、軸の静止時あるいは始動時における両者間の接触があっても部材の損耗が極めて少くて済む等の利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の無機物質粒子は、黒鉛、窒化ホウ素、フッカ黒鉛、フッカカルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び炭化ケイ素のうちの少なくとも一つからなる。これらは、多くの金属材料のように塑性変形をすることはなく、無機物質である。
【0023】
このような無機物質が多孔質焼結金属層の錫、ニッケル、燐及び銅、更には、鉄又はマンガン等の素地中に分散配合されていると、このもの自体が機械加工によって塑性変形することがなく、加えて、多孔質焼結金属層の素地の金属部分の塑性変形を分断し軽減する働きがあるため、機械加工における多孔質焼結金属層の目詰りを抑えることができる。
【0024】
多孔質焼結金属層は、例えば、重量比で錫4〜10%、ニッケル10〜40%、燐0.5〜4%、黒鉛3〜10%及び残部銅からなる混合粉末を加圧成形して円筒状又は平板状の圧粉体を製造し、この圧粉体を、鉄、鉄合金、銅又は銅合金などからなる円筒状又は平板状の裏金の内周面に挿入し又は平坦表面に載置し、これを還元性雰囲気もしくは真空中で800〜1150℃の温度で20〜60分間焼結して形成する。焼結中、圧粉体の内周面又は平坦表面を適宜の手段を用いて加圧して、圧粉体を裏金の内周面に又は平坦表面に押し付けるとよい。
【0025】
裏金には、予め圧縮気体の供給孔を、またその内周面又は平坦表面に供給溝を形成しておく。圧粉体の製造においての圧粉圧力としては、2〜7トン/cm程度が好ましい。
【0026】
こうして裏金の一方の面に焼結された多孔質焼結金属層を具備した軸受素材が得られる。得られた軸受素材の多孔質焼結金属層の露出面を、その粗さが10−3mm以下となるように、研削やラッピングにより機械加工して、所望の多孔質静圧気体軸受を得る。機械加工における加工代は、概ね10−1mmの範囲で行なうとよい。
【0027】
得られた多孔質静圧気体軸受では、多孔質焼結金属層に機械加工における目詰りが約50%に抑えられることが判明した。また、多孔質焼結金属層は、裏金との間に相互に金属成分の拡散を生じ強固に密着一体化していることが接合面の顕微鏡検査により確認され、その密着強度も1000kg/cm以上を示すことが確認された。そして、両者の間には隙間はなく、この部分からの圧縮気体の漏れは皆無であることも判明した。
【0028】
なお、多孔質焼結金属層ための上記形成成分の混合粉末に、更に重量比で鉄0〜50%、マンガン0〜25%及び残部銅からなる混合粉末を加え、これを有機質結合剤水溶液を添加し、均一に混合して原料粉末とし、該原料粉末を圧延ロールに供給して原料粉末からなる圧延シートを形成し、この圧延シートを所望の寸法に切断し、切断した圧延シートを裏金の内周面に円筒状にして挿入し又はそれ自体を裏金の平坦表面に載置し、これを還元性雰囲気もしくは真空中で870〜1150℃の温度で0.1〜5.0kgf/cmの圧力下で20〜120分間焼結して、圧延シートの焼結と裏金への拡散接合とを同時に行わせて、裏金の一方の面に焼結された多孔質焼結金属層を具備した軸受素材を形成し、こうして得られた軸受素材の多孔質焼結金属層の露出面を上記と同様にして機械加工して、所望の多孔質静圧気体軸受を得るようにしてもよい。
【0029】
この例示の圧延シートの圧粉密度は、5.48〜6.72g/cm、その厚さ1.38〜1.83mmであって、焼結時間及び温度の設定により、得られる多孔質焼結金属層の密度および多孔度は異なるが、概ね上述した条件で、焼結密度5.15〜6.19g/cm、多孔質度(含油率換算)21.1〜34.1容積%であり、このように製造された軸受素材でも、多孔質焼結金属層は、裏金に拡散接合して一体化しており、接合部からの圧縮気体の漏洩は皆無であり、多孔質静圧気体軸受として十分に満足して使用し得るものであることを確認した。
【0030】
以下本発明の好ましい一実施例を図面を参照して説明する。
【実施例】
【0031】
図1において、1は鉄、鉄合金、銅又は銅合金よりなる金属製の円筒状の裏金
、2は裏金1の一方の面である内周面に焼結された多孔質焼結金属層、3、4及び5は裏金1に設けられた圧縮気体の供給手段で、3は圧縮気体の供給孔、5は環状溝、4は環状溝5を相互に連通する導通溝であり、6は多孔質焼結金属層2と裏金1との接合部で、接合部6は完全に密着一体化している。多孔質焼結金属層2は、上述のように、円筒状の圧粉体又は圧延シートを裏金1に焼結して形成される。
【0032】
なお、円筒状の多孔質焼結金属層2の両環状端面7及び8から気体が逃げ、当該層2の内周面9からの気体の吐出圧力が低下するので、端面7及び8に接着剤等を塗り込んで封孔処理を行うとよい。
【0033】
図2において、11は平板状の裏金、12は裏金11の一方の面である一方の平坦表面に焼結された多孔質焼結金属層、13及び14は裏金11に設けられた圧縮気体の供給手段で、それぞれ圧縮気体の供給孔及び供給溝であり、16は多孔質焼結金属層12と裏金11との接合部で、この接合部は完全に密着一体化している。この多孔質焼結金属層2も、上述のように、平板状の圧粉体又は圧延シートを裏金1に焼成して形成される。本例においても、前記の封孔処理を行うと好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の好ましい一実施例の円筒状の多孔質静圧気体軸受の断面図である。
【図2】本発明の好ましい他の実施例の平板状の多孔質静圧気体軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 裏金
2 多孔質焼結金属層
3、4、5 供給する手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏金と、この裏金の少なくとも一方の面に焼結された多孔質焼結金属層とを具備しており、多孔質焼結金属層の粒界には無機物質粒子が含有されている多孔質静圧気体軸受用の軸受素材。
【請求項2】
多孔質焼結金属層は、裏金に一体に接合されている請求項1に記載の多孔質静圧気体軸受用の軸受素材。
【請求項3】
多孔質焼結金属層は、少なくとも錫、ニッケル、燐及び銅を含んでおり、無機物質粒子は、黒鉛、窒化ホウ素、フッカ黒鉛、フッカカルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び炭化ケイ素のうちの少なくとも一つからなる請求項1又は2に記載の多孔質静圧気体軸受用の軸受素材。
【請求項4】
多孔質焼結金属層は、更に、鉄又はマンガンを含んでいる請求項3に記載の多孔質静圧気体軸受用の軸受素材。
【請求項5】
裏金は、鉄及び鉄合金並びに銅及び銅合金よりなる群から選ばれた金属からなる請求項1から4のいずれか一項に記載の多孔質静圧気体軸受用の軸受素材。
【請求項6】
裏金は、円筒状に形成されており、多孔質焼結金属層は、裏金の円筒状内面に焼結されている請求項1から5のいずれか一項に記載の多孔質静圧気体軸受用の軸受素材。
【請求項7】
裏金は平板状に形成されており、多孔質焼結金属層は、裏金の平板状の一方の面に焼結されている請求項1から5のいずれか一項に記載の多孔質静圧気体軸受用の軸受素材。
【請求項8】
請求項1から7に記載の軸受素材を用いた多孔質静圧気体軸受であって、裏金には、圧縮気体を多孔質焼結金属層に供給する手段が設けられている多孔質静圧気体軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−231576(P2008−231576A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86036(P2008−86036)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【分割の表示】特願平9−342242の分割
【原出願日】平成9年11月26日(1997.11.26)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】