説明

多層シート

【課題】本発明の目的は、透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れ、かつ表面硬度、耐溶剤性、耐候性等も良好であり、かつ熱曲げ加工性も良好な多層シートを提供することにある。
【解決手段】本発明は、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む層(A層)並びにアクリル系樹脂を含む層(B層)を有し、A層の少なくとも一方の面にB層が積層され、その総厚みが0.2mmを超え2mm以下の範囲にある多層シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱曲げ加工性に優れた多層シートに関する。また本発明は該多層シートが熱曲げ加工された成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れることから、ガラスに代わる透明材料として広く使われており、シート形状での活用例も多い。しかしポリカーボネート樹脂は耐候性に劣り、直射日光に晒される屋外の使用では黄変しやすいという短所がある。またポリカーボネート樹脂は耐溶剤性に劣り、表面硬度が低いという面もありその用途が制限されている。かかる問題点の改善を狙ったものとして、ポリカーボネート樹脂層にアクリル系樹脂層を積層して多層シートとする方法が提案されている(特許文献1〜4)。かかる多層シートとすることにより、ポリカーボネートシートの耐候性や表面硬度をある程度改善させることが可能となる。
一般に、プラスチックシートは溶融押出しにて製造され、多層シートの場合は共押出法により製造されることが多いが、実際の使用にあたっては、得られる平板形状のシートをそのまま用いることもあれば、その後なんらかの加工や表面処理をして用いられることもある。そのひとつにシートの熱曲げ加工がある。熱曲げ加工とは、シートを線状または全体に熱をかけてシートを曲げて目的とする3次元形状を作るものであり、プラスチックトレー、プラスチック容器、各種建材、電気・電子機器用部材、輸送機器用部材、農業用部材、窓ガラス代替透明部材等の成形に広く用いられている手法である。
【0003】
しかしながら上記のポリカーボネート樹脂層にアクリル系樹脂層を積層した多層シートは熱変形温度の異なる樹脂の積層体であり、かかる熱曲げ加工においては問題が生じることが多かった。例えば折り曲げ部分にシワやヒビが出来たり、透明性が低下する、あるいは角の形状が正確に形成されない、曲げ形状が安定したものにならず均質性に乏しい、等が挙げられる。このようにかかる多層シートはアクリル樹脂とポリカーボネート樹脂、両者の良好な特性を合わせもつ反面、熱曲げ加工性に問題があり、その解決策が望まれていた。
シート・フィルムの成形加工に関しては、これまで厚みの薄いフィルム用途では、例えば加飾成形フィルム用途にポリカーボネートフィルム単体での素材改質がいくつか検討されてきており、例えばポリカーボネート樹脂により熱変形温度の低いポリエステル系樹脂を加えた樹脂組成物からなるフィルムとすることが提案されている(特許文献5〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】第3457514号公報
【特許文献2】特開2005−225018号公報
【特許文献3】国際公開第2008/47940号パンフレット
【特許文献4】特開2010−44163号公報
【特許文献5】特開2004−26870号公報
【特許文献6】特開2005−97384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れ、かつ表面硬度、耐溶剤性、耐候性等も良好であり、かつ熱曲げ加工性も良好であり、広範な用途に適用可能なプラスチックシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポリカーボネートシートにアクリルシートを積層した多層シートについて、ポリカーボネート樹脂の素材面から鋭意検討した。その結果、ポリカーボネート樹脂にある特定の樹脂を加えることにより、該多層シートの熱曲げ性や透明性、さらには熱曲げ加工成形後の表面性や透明性等をも満足し、様々な要求特性を満たす広範囲に使用可能な基材が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は以下の通りのものである。
1. ポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む層(A層)並びにアクリル系樹脂を含む層(B層)を有し、A層の少なくとも一方の面にB層が積層され、その総厚みが0.2mmを超え2mm以下の範囲にある多層シート。
2. ポリエステル系熱可塑性エラストマーが、ポリブチレンテレフタレート単位からなるハードセグメントと、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸をジカルボン酸成分とし、炭素数5〜15のジオールをジオール成分とするポリエステル単位からなるソフトセグメントとから構成される前項1項に記載の多層シート。
3. A層の両面にB層が積層された前項1または2に記載の多層シート。
4. 前項1記載の多層シートが熱曲げ加工された成形体。
5. A層を構成するポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む成形材料Aと、B層を構成するアクリル系樹脂を含む成形材料Bとを共押出することからなる、A層の少なくとも一方の面にB層が積層された多層シートの製造方法。
6. 前項1記載の多層シートを熱曲げ加工することからなる成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多層シートは、靭性、耐熱性、透明性、表面硬度、耐候性、耐溶剤性等の諸特性に優れ、さらに熱曲げ加工性にも優れるものであり、3次元形状を有する様々なシート製品へ適用が可能であり、幅広い産業分野にて有用なシートを効率的に提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
【0010】
〔多層シート〕
本発明の多層シートは、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む層(A層)並びにアクリル系樹脂を含む層(B層)を有し、A層の少なくとも一方の面にB層が積層され、その総厚みが0.2mmを超え2mm以下の範囲にある多層シートである。
【0011】
〈ポリカーボネート樹脂〉
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物が炭酸エステル結合により結ばれたポリマーであり特に制限はないが、通常ジヒドロキシ成分とカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融重合法で反応させて得られるものである。ジヒドロキシ成分の代表的な例としては2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、イソソルビド、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。これらを単独で使用したホモポリマーでも、2種類以上共重合した共重合体であっても良い。かかる中でも物性面、コスト面からビスフェノールAが好ましい。本発明ではビスフェノール成分の50モル%以上がビスフェノールAであるポリカーボネートが好ましく、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0012】
具体的なポリカーボネートとして、ビスフェノールAのホモポリマー、ビスフェノールAと1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとの2元共重合体、ビスフェノールAと9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレンとの2元共重合体等を挙げることが出来、ビスフェノールAのホモポリマーが最も好ましい。
該ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、100〜200℃の範囲が好ましく、より好ましく120〜180℃の範囲である。ガラス転移温度が高すぎるとポリエステル系熱可塑性エラストマーとの樹脂組成物としてもその溶融粘度が高くなりすぎて溶融製膜が困難となるため好ましくなく、またガラス転移温度が低すぎると多層シートの耐熱性が不足するため本用途には相応しくない。
【0013】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
上記二価ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体を界面重合法または溶融重合法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0014】
本発明におけるポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で表して13,000〜40,000の範囲が好ましい。該分子量が13,000より低いと多層シートとして脆くなり、熱曲げ加工の際に割れやバリが生じやすくなるため好ましくなく、また40,000より高いとポリエステル系熱可塑性エラストマーとの樹脂組成物としてもその溶融粘度が高くなりすぎて溶融製膜が困難となるため好ましくない。より好ましくは15,000〜35,000であり、さらに好ましくは20,000〜32,000であり、特に好ましくは22,000〜28,000である。ポリカーボネート樹脂が2種以上の混合物の場合は混合物全体での分子量を表す。ここで粘度平均分子量とは、塩化メチレン100mLにポリカーボネート0.7gを溶解した溶液の20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記式から粘度平均分子量Mを算出したものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]
[η]=1.23×10−40.83
(但しc=0.7g/dL、[η]は極限粘度)
【0015】
〈ポリエステル系熱可塑性エラストマー〉
本発明で用いるポリエステル系熱可塑性エラストマーとは、結晶性の高融点ポリエステルブロックからなるハードセグメントと低融点のソフトセグメントとにより構成されるマルチブロック共重合体のことを示す。
【0016】
(ハードセグメント)
ハードセグメントは、該セグメントからなるポリマーの融点が150℃以上となるポリエステルセグメントである。かかるポリエステルとして、芳香族ジカルボン酸成分またはその誘導体とジオール成分またはその誘導体とを重合してなるポリエステル、これらの成分を2種以上重合してなるコポリエステル、オキシ酸またはその誘導体を重合してなるポリエステル、並びに芳香族エーテルジカルボン酸またはその誘導体とジオール成分またはその誘導体とを重合してなるポリエステル等を挙げることが出来る。
【0017】
芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ビス(4−カルボキシフェニル)メタン、ビス(4−カルボキシフェニル)スルホン等を挙げることが出来る。中でもテレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
またジオール成分としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,10−デカンジオール、p−キシリレングリコールおよびシクロヘキサンジオール等が挙げられる。中でも炭素数2〜4のジオール成分が好ましく、1,4−ブタンジオールがより好ましい。
【0018】
ハードセグメントは、主としてポリブチレンテレフタレートからなることが好ましい。ポリブチレンテレフタレートはポリカーボネート樹脂との相溶性に優れ、透明性や熱成形性の点から好ましく、また強度等の面でも良好な特性を有する。ポリブチレンテレフタレートは、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を共重合成分として含んでも良い。かかる共重合成分の割合は、ジカルボン酸成分およびジオール成分共にそれぞれの全成分100モル%中、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
【0019】
(ソフトセグメント)
ソフトセグメントとは、該セグメントから形成されたポリマーの融点が100℃以下、または100℃において液状で非晶性を示すセグメントのことを示す。
ソフトセグメントとして、ジカルボン酸成分とジオール成分とからなるポリエステルが挙げられる。
ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸、または芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ビス(4−カルボキシフェニル)メタン、ビス(4−カルボキシフェニル)スルホン等を挙げることが出来る。なかでもテレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸は2種以上の成分を使用することができる。
芳香族ジカルボン酸には、脂肪族ジカルボン酸や脂環族ジカルボン酸を共重合することができる。脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数4〜12の直鎖状ジカルボン酸が挙げられ、炭素数8〜12の直鎖状ジカルボン酸がより好ましく挙げられる。直鎖状ジカルボン酸の具体例としてはコハク酸、アジピン酸、およびセバチン酸が例示される。脂環族ジカルボン酸として、シクロヘキサンジカルボン酸が例示される。共重合成分の割合はジカルボン酸成分の合計100モル%中40モル%以下が適切であり、30モル%以下が好ましく、20モル%以下とすることがより好ましい。
【0020】
ジオール成分として、炭素数5〜15のジオールまたはポリ(アルキレンオキサイド)グリコールが好ましい。炭素数5〜15のジオールとして、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、3−メチルペンタンジオール、2−メチルオクタメチレンジオール等が好適に例示され、特にヘキサメチレングリコールが好ましい。ポリ(アルキレンオキサイド)グリコールとして、ポリ(エチレンオキサイド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコール等が挙げられる。アルキレンオキサイドの重合度は2〜5が好ましい。
ジオール成分には、エチレングリコール、テトラメチレングリコール等の炭素数2〜4の直鎖状脂肪族ジオールを共重合することができる。共重合成分の割合はジオール成分の合計100モル%中40モル%以下が適切であり、30モル%以下が好ましく、20モル%以下とすることがより好ましい。
【0021】
ソフトセグメントとして、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および炭素数5〜15のジオールから構成されるポリエステルが好ましい(以下“SS−1”と称する場合がある)。SS−1は極めて良好な透明性が得られる点から好適である。
ソフトセグメントSS−1は、より良好な透明性を得られる点からジカルボン酸成分の合計100モル%中、芳香族ジカルボン酸の含有量が60〜99モル%および脂肪族ジカルボン酸の含有量が1〜40モル%であることが好ましい。芳香族ジカルボン酸の含有量が70〜95モル%および脂肪族ジカルボン酸の含有量が5〜30モル%であることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸の含有量が85〜93モル%および脂肪族ジカルボン酸の含有量が7〜15モル%であることがさらに好ましい。芳香族ジカルボン酸の含有量が89〜92モル%および脂肪族ジカルボン酸の含有量が8〜11モル%であることが特に好ましい。
【0022】
SS−1の芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸およびイソフタル酸が好適であり、特に結晶性低下の点からイソフタル酸が好適である。SS−1の脂肪族ジカルボン酸として、コハク酸、アジピン酸、およびセバチン酸等の炭素数6〜12の直鎖状脂肪族ジカルボン酸が好適であり、特にセバシン酸が好適である。
SS−1の炭素数5〜15のジオール成分としては、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、3−メチルペンタンジオール、および2−メチルオクタメチレンジオール等の炭素数6〜12の直鎖状脂肪族ジオールが好ましい。特にヘキサメチレングリコールが好ましい。
SS−1は、ポリカーボネート樹脂との相溶性が高く従って多層シートにおいても透明性が高いものを得ることが出来、また熱成形後の表面性や透明性も良好であるという観点から特に好ましい。SS−1としてより具体的には、イソフタル酸およびセバシン酸成分とヘキサメチレングリコールからなるポリエステルが好ましい。
またソフトセグメントとして、芳香族ジカルボン酸およびポリ(アルキレンオキサイド)グリコールから構成されるポリエステルが挙げられる(以下“SS−2”と称する場合がある)。
【0023】
SS−2を構成する芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ビス(4−カルボキシフェニル)メタン、ビス(4−カルボキシフェニル)スルホン等を挙げることが出来る。中でもテレフタル酸およびイソフタル酸が好適であり、特にテレフタル酸が好適である。
SS−2を構成する好適なポリ(アルキレンオキサイド)グリコールは、分子式HO(CHCHO)H(i=2〜5)、または分子式HO(CHCHCHCHO)H(i=2〜3)で表わされるものであり、更に好適には分子式HO(CHCHO)H(i=2〜5)で表わされるものであり、特に好ましくはトリ(エチレンオキサイド)グリコールである。
【0024】
またソフトセグメントとして、炭素数2〜12の脂肪族ジカルボン酸と炭素数2〜10の脂肪族グリコールから製造されるポリエステルが挙げられる。かかるポリエステルとしては、例えばポリエチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリエチレンセバケート、ポリネオペンチルセバケート、ポリテトラメチレンドデカネート、ポリテトラメチレンアゼレートおよびポリヘキサメチレンアゼレート等が例示される。
またソフトセグメントとして、ポリ(アルキレンオキサイド)グリコールからなるセグメントが挙げられる。ポリ(アルキレンオキサイド)グリコールとして、ポリ(エチレンオキサイド)グリコール、ポリ(プロピレンオキサイド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコール等のポリアルキレンエーテルグリコール、並びにこれらのポリエーテルグリコール成分を共重合した共重合ポリエーテルグリコール等が例示される。かかるポリ(アルキレンオキサイド)グリコールの数平均分子量は400〜6,000の範囲が好ましく、500〜3,000がより好ましい。
またソフトセグメントとして、ラクトン類化合物を開環重合したポリラクトン類が挙げられ、具体的にはポリ−ε−カプロラクトンを好ましく挙げることが出来る。更に上記ポリエステルとポリエーテルを組み合わせたポリエステルポリエーテル共重合体等も挙げられる。
【0025】
(組成等)
また本発明ではポリエステル系熱可塑性エラストマーにおいてハードセグメントとソフトセグメントとの割合は、エラストマー100重量%中、ハードセグメントが20〜70重量%およびソフトセグメントが80〜30重量%であることが適切であり、ハードセグメントが20〜40重量%およびソフトセグメントが80〜60重量%であることが好ましい。ポリエステル系熱可塑性エラストマーの固有粘度(o−クロロフェノール中、35℃での測定された値)は0.6以上が好ましく、0.8〜1.5の範囲がより好ましく、0.8〜1.2の範囲が更に好ましい。固有粘度が上記範囲より低い場合には多層シートの強度が低下する恐れがあり好ましくない。
【0026】
本発明では、A層中のポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、3〜50重量部であることが好ましい。3重量%より少ないと、該エラストマー添加による熱成形性向上の効果が乏しくなるため好ましくなく、また50重量%より多くなると、樹脂組成物の熱変形温度が低くなりすぎるため多層シートの耐熱性が不足し好ましくない。より好ましくは5〜30重量部であり、さらに好ましくは8〜25重量部である。
本発明のA層には、それぞれの樹脂において一般的に用いられる各種の添加剤を含んでいてもよい。例えば熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料等が挙げられる。また本発明の効果を損なわない範囲で、ガラス繊維等の強化フィラーを含有していてもよい。
【0027】
(ポリエステル系熱可塑性エラストマーの製造)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、前述したハードセグメントとソフトセグメントを溶融混練することにより反応させてマルチブロック共重合体とすることにより得ることが出来る。
ハードセグメントとなるポリマーの固有粘度は、好ましくは0.2〜2.0、より好ましくは0.5〜1.5の範囲である。ソフトセグメントとなるポリマーの固有粘度は、好ましくは0.2〜2.0、より好ましくは0.5〜1.5の範囲である。
反応は、好ましくは200〜300℃、より好ましくは220〜260℃の範囲で、行なうことが好ましい。
かくしてマルチブロック化した上記ハードセグメントとソフトセグメントの数平均分子量は各々、500〜7,000の範囲が好ましく、800〜5,000の範囲がより好ましい。
【0028】
〈アクリル系樹脂〉
本発明においてB層用のアクリル系樹脂は、メタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルの重合体を主体とするものである。アクリル系樹脂として、メタクリル酸メチルのホモ重合体、あるいはメタクリル酸メチルを好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含む共重合体を挙げることが出来る。
他の共重合成分として、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0029】
また他の共重合成分として、他のエチレン性不飽和単量体が挙げられる。具体的にはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族化合物、1,3−ブタジエン、イソプレン等のジエン系化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアルケニルシアン化合物、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミド等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。共重合成分の含有量は、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜30重量%、さらに好ましくは0〜20重量%である。
アクリル樹脂の製造方法は一般に、乳化重合法、懸濁重合法、連続重合法に大別されるが、本発明に用いられるアクリル樹脂はいずれの重合方法により製造されたものであっても良い。
【0030】
本発明では発明の効果を損なわない範囲で、多層シートの熱成形時のバリ、割れの改善のためアクリル樹脂にゴム粒子を添加しても良い。アクリル樹脂にゴム粒子を加えることによる靭性改善は公知の技術であり広く用いられており、本発明でも用いることが出来る。一般にゴム粒子を加えると透明性が低下する傾向にあり、本発明では出来るだけ透明性の高いゴム粒子を用いることが好ましい。好ましいゴム粒子として、アクリル系の架橋弾性重合体からなるコア層をメタクリル酸エステル樹脂で包んだコアシェル構造としたもの、また中心部のメタクリル酸エステル樹脂をアクリル系の架橋弾性重合体で包み、さらにその外側をメタクリル酸エステル樹脂で被覆した3層構造としたもの等が挙げられる。かかる多層構造のゴム粒子はアクリル樹脂に対する分散性が良好であり、透明性の高い多層シートを得ることが可能である。本発明では加飾成形の際に基材シートに要求される靭性、透明性を総合的に勘案して、ゴム粒子の有無、およびゴム粒子を含有する場合はかかるゴム粒子の種類、量、サイズ等を決定すれば良い。
さらにかかるアクリル系樹脂層に、一般的な熱安定剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、着色剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、艶消し剤等の各種添加剤を加えても良い。
【0031】
(層構成)
本発明の多層シートは、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む層(A層)の少なくとも一方の面にアクリル系樹脂を含む層(B層)が積層された多層シートであるが、好ましくはアクリル系樹脂を含む層(B層)が両面に積層された多層シートである。一般にいわゆる2種2層の積層体は2種3層の積層体に比べて、共押出成形による製膜時に両樹脂の熱収縮率の違いによる反りを生じ易い。かかる点からも両面にアクリル系樹脂(B層)が積層されることが好ましく推奨される。
本発明の多層シートは、その総厚みが0.2mmを超え2mm以下の範囲であり、好ましくは0.3〜1.6mmである。総厚みが薄すぎると強度が低下しシート用途として相応しくなく、一方、総厚みが厚すぎるのも、熱曲げ加工時のシート加熱に時間がかかったり、熱曲げ性が低下したりすることがあるため好ましくない。
【0032】
また本発明で好ましい多層シートの厚み組成は、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む層(A層)の厚みが総厚みの30〜90%であり、かつアクリル系樹脂を含む層(B層)1層の厚みが10μm以上である。ここでB層1層の厚みとは、A層の一方の面に積層されたB層のみに着目した厚みのことを示し、従ってA層の両面にB層が積層された3層構造の場合は、それぞれのB層の厚みが10μm以上、従って両面のB層合わせて20μm以上であることが好ましい。B層1層の厚みが10μmより薄いと、表面硬度や耐溶剤性の特性が不十分となるため好ましくない。より好ましくはB層1層の厚みが15μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上である。B層1層の厚み上限は総厚みおよびA層の厚みにより決まってくるが、0.7mm以下が好ましく、より好ましくは0.5mm以下である。A層の厚みは、より好ましくは総厚みの40〜85%であり、さらに好ましくは50〜80%である。
本発明の多層シートとしては透明性の高いものが好ましい。そのヘイズが5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0033】
〈多層シートの製造〉
本発明の多層シートは、従来公知の方法により製造することが出来る。例えば各層を予め別々に製膜しておきラミネートする、あるいは熱圧着プレスする方法、それぞれの樹脂層を共押出法により積層製膜する方法等が挙げられる。中でも経済性、生産安定性等から共押出法による製造がもっとも好ましい。
即ち、本発明の多層シートは、A層用の成形材料Aと、B層用の成形材料Bとを共押出して製造することができる。
【0034】
成形材料Aは、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む。ポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーは前述の通りである。
成形材料Aは、各成分同士を混合し、その後、溶融混練してペレット化して調製することが出来る。混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等、公知の方法を用いることが出来る。該ペレットを用いて、シート製造装置に供給することにより本発明の多層シートを製造することが出来る。またかかるペレット化工程を経ることなく、共押出法による多層製膜の際に、押出機で直接溶融混練させてダイから押出すことによりシート化することも可能である。
成形材料Bは、アクリル系樹脂を含む。アクリル系樹脂は前述の通りである。
【0035】
かかる共押出法は、各樹脂を別々の押出機を用いて溶融押出しし、フィードブロックまたはマルチマニホールドダイを用いて積層することにより多層シートを得る方法であり、各押出機の押出量や製膜速度、ダイスリップ間隔等を調整することにより、得られる多層シートの総厚みおよび厚み組成をコントロールすることが可能である。
共押出法の場合、一般にダイスから出た溶融樹脂を表面が鏡面処理された冷却ロールに流入して、バンクを形成させることが好ましい。このシート状成形物は、冷却ロールを通過する間に表面仕上げと冷却が行われ、多層シートが形成される。
また本発明の多層シートの表面に、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、金属蒸着コート等、各種の表面処理を行っても良い。
【0036】
(熱曲げ加工)
本発明では、多層シートの熱曲げ加工は従来公知の方法で行ってよく特に制限はないが、代表的な方法として、パイプヒーター、非接触両面加熱サンドイッチヒーター、遠赤外線ヒーター等による部分加熱、あるいは電気炉による全体加熱により熱曲げ加工する方法が挙げられる。パイプヒーター、非接触両面加熱サンドイッチヒーターによる熱曲げ加工では、直線的な部分加熱をして加熱された部分を軟化させてL型に折り曲げたり、コの字形に曲げることが可能である。また、遠赤外線ヒーターによる加熱ではパイプヒーターよりも大きなR曲げが可能となる。電気炉による熱曲げでは、シート全体を加熱し型に押し当てて形状を作ることが出来る。
本発明によれば、かかる多層シートを用いて熱曲げ加工した成形体が提供される。かかる成形体の用途として例えば、プラスチックトレー、プラスチック容器、各種建材、電気・電子機器用部材、輸送機器用部材、農業用部材、窓ガラス代替透明部材等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお実施例、比較例で行った物性測定は以下の方法で行った。
【0038】
(1)ポリカーボネートの粘度平均分子量
ポリカーボネートの粘度平均分子量(M)は、濃度0.7g/dLの塩化メチレン溶液の20℃での粘度測定から極限粘度[η]を求め、下記式より算出した。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
(2)ガラス転移温度(Tg)
TA Instruments製 2920型DSCを使用し、昇温速度20℃/分で測定し、変曲点を求めた。
(3)多層シートの総厚み
アンリツ(株)製の電子マイクロ膜厚計で測定した。
(4)多層シートの厚み組成
(株)キーエンス製のレーザー顕微鏡VA−9710を用い、シート断面の観測により測定した。
(5)シートの光線透過率、ヘイズ
日本電色工業(株)製のヘーズメーターNDH−5000型を用いて測定した。
(6)シートの表面硬度
JIS K 5600に従って、鉛筆硬度を測定した。
【0039】
[調製例1]ポリエステル系熱可塑性エラストマーの製造
イソフタル酸ジメチル175重量部、セバシン酸ジメチル23重量部、ヘキサメチレングリコール140重量部をジブチル錫ジアセテート触媒でエステル交換反応後、減圧下に重縮合して、固有粘度が1.06であり、DSC法による測定で結晶の融解に起因する吸熱ピークを示さない非晶性のポリエステルを得た。このポリエステルに別途重縮合して得た固有粘度0.98のポリブチレンテレフタレートのペレットを乾燥して107部添加し、240℃で45分反応させたのち、フェニルホスホン酸を0.1部添加して反応を停止させた。得られたポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点は190℃、固有粘度は0.93であった。
【0040】
[実施例1]
(成形材料A)
ポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成(株)製パンライトL−1250、粘度平均分子量23,700)、および調製例1にて製造したポリエステル系熱可塑性エラストマーをそれぞれ事前に予備乾燥し、ポリカーボネート樹脂/ポリエステル系熱可塑性エラストマー=85/15(重量%)となるようにV型ブレンダーで混合した後、2軸押出機を用いてシリンダー温度260℃で押出してペレット化しA層用の成形材料Aとした。
【0041】
(成形材料B)
B層用の成形材料Bとして、アクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製アクリペットIRG304;耐衝撃性グレード)を用意した。
【0042】
(共押出)
成形材料Aおよび成形材料Bを、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度260℃(成形材料A)、250℃(成形材料B)の条件で、フィードブロック方式にてTダイから押出し、鏡面仕上げした3本のポリッシングロールに通し、1番ロール温度を120℃、2番ロール温度を130℃、3番ロール温度を150℃として1番ロールと2番ロール間でバンクを形成してバンク法により、外層がB層、内層がA層である2種3層構成の多層シートの平板を作成した。かかる多層シートの総厚みは1.2mm、厚み組成は、B層/A層/B層=0.2/0.8/0.2(mm)であった。全光線透過率91%、ヘイズ0.7%、表面硬度はFであった。
【0043】
(熱曲げ加工)
かくして得られた多層シートを、パイプヒーターを用いて熱曲げ加工を実施した。300mm×600mmサイズのシートの幅中央部分300mmの直線部分を金属パイプの内側にニクロム線を入れたヒーターで加熱して1分後、シートを直角に熱曲げ加工してL字型の成形体を得た。得られたL字成形体の角部分を外観観察し、また手接触により表面性をチェックしたところ、しわ、白化、ヒビは認められず、また均質な角形状を持つものであった。
【0044】
[実施例2]
総厚みおよび層構成を変えた他は実施例1と同様にして製膜し、多層シート平板を得た。かかる多層シートの総厚みは0.5mm、厚み組成は、B層/A層/B層=0.06/0.38/0.06(mm)であった。全光線透過率91%、ヘイズ0.6%、表面硬度はFであった。
かくして得られた多層シートを、実施例1と同様にして熱曲げ加工してL字型の成形体を得た。得られたL字成形体の角部分を外観観察し、また手接触により表面性をチェックしたところ、しわ、白化、ヒビは認められず、また均質な角形状を持つものであった。
【0045】
[比較例1]
成形材料Aとして、ポリカーボネート樹脂単体(帝人化成(株)パンライトL−1250)を用いた以外は実施例1と同様にして多層シートを得た。
かかる多層シートの総厚みは1.2mm、厚み組成は、B層/A層/B層=0.2/0.8/0.2(mm)であった。全光線透過率91%、ヘイズ0.5%、表面硬度はFであった。
かくして得られた多層シートを、実施例1と同様にして熱曲げ加工してL字型の成形体を得た。得られたL字成形体の角部分を外観観察し、また手接触により表面性をチェックしたところ、しわ、白化、ヒビは認められなかったものの、表面に凸凹が認められムラがあり、角形状の均質性に劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む層(A層)並びにアクリル系樹脂を含む層(B層)を有し、A層の少なくとも一方の面にB層が積層され、その総厚みが0.2mmを超え2mm以下の範囲にある多層シート。
【請求項2】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーが、ポリブチレンテレフタレート単位からなるハードセグメントと、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸をジカルボン酸成分とし、炭素数5〜15のジオールをジオール成分とするポリエステル単位からなるソフトセグメントとから構成される請求項1項に記載の多層シート。
【請求項3】
A層の両面にB層が積層された請求項1または2に記載の多層シート。
【請求項4】
請求項1記載の多層シートが熱曲げ加工された成形体。
【請求項5】
A層を構成するポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む成形材料Aと、B層を構成するアクリル系樹脂を含む成形材料Bとを共押出することからなる、A層の少なくとも一方の面にB層が積層された多層シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の多層シートを熱曲げ加工することからなる成形体の製造方法。


【公開番号】特開2012−76392(P2012−76392A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224649(P2010−224649)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】